【DRY-RUN】主 文 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告代理人河和松雄、同大河内躬恒、同平野耕司の上告
主文原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由上告代理人河和松雄、同大河内躬恒、同平野耕司の上告理由第一点、第二点、第五点及び第六点について論旨は、要するに、被上告人の外務員Dと顧客たる上告人との間には一般取引関係からする信用をこえる特別の個人的信頼関係が存し、Dが上告人の代理人としてE名義による商品先物取引(原判決添付の取引明細表(二)記載の昭和四〇年四月一日から同年六月末日までの取引・以下「本件取引」という。)の委託をしたとする原審の認定判断の違法をいうものである。 原審は、(1)Dは、昭和三八年一月株式会社Fに、次いで同年八月頃G商事株式会社に、さらに同三九年一月頃から被上告人会社に商品先物取引の外務員として勤務したが、右Fに勤務していた昭和三八年春頃上告人を知り、その頃から商品先物取引の委託を受け、以後上告人は、Dの勤務先が変るごとに同人の勧誘により上告人名義で商品先物取引の委託をしていたこと、(2)上告人は、Dの手腕を高く評価し、同人を信用していたこと、(3)上告人が被上告人に委託した上告人名義によるH生糸の取引では、昭和四〇年三月一一日から同年六月五日までの間に損金・手数料が合計四二五万二〇〇〇円に達したこと、(4)上告人は、昭和四〇年三月頃Dから新たに証拠金を差し入れて大口の商品先物取引をするよう言葉巧みに勧誘されてこれに応じ、委託証拠金五〇〇万円を出すことにしたが、ただ、同人は学校(予備校)経営者たる立場にあることその他の事情から他人名義の取引を希望し、Dの進言に従い、同人の知人である実在のE名義で取引することを承諾したこと、(5)上告人は、妻I名義で右証拠金五〇〇万円をDに交付し、これによる取引は清算時に- 1 情から他人名義の取引を希望し、Dの進言に従い、同人の知人である実在のE名義で取引することを承諾したこと、(5)上告人は、妻I名義で右証拠金五〇〇万円をDに交付し、これによる取引は清算時に- 1 -おいて損金が右証拠金額の範囲内にとどまるよう制限をつけたこと、(6)Dは、昭和四〇年四月一日頃被上告人に右証拠金をE名義の口座の証拠金として納入し、本件取引が開始されるに至つたが、被上告人から発送される買付報告書等はE宛に送付されるので、時折DがE方を訪ねてこれを持ち去り、当初は上告人に対し三日に一度の割合で取引内容等の報告をし、同人の意見を徴したものの、間もなく取引の成績が悪化するに伴い、右報告等を怠るようになつたこと、(7)しかし、上告人は格別これを意に介することもなく、Dの才覚を信用し、同人のやり方に不満を示したり、細部の指示を与えたこともなく、ほとんどDの判断に委せたこと、(8)上告人は、自己が真実の取引委託者であることを第三者に絶対にかくすよう求め、Dもこれを守つたので、被上告人も昭和四〇年八月Dがその旨の告白をするまで、上告人がE名義による取引の委託者本人である事実を知らなかつたこと、以上の事実を認定したうえ、本件取引の委託につき上告人がDに対し代理権を授与したものと判示し、上告人の請求(第一審昭和四〇年(ワ)第七七八四号事件)を一部棄却した。 おもうに、商品取引業者と顧客との取引につき、外務員が介在する場合において、商品取引業者の外務員と顧客との間に一般的取引関係からする信用をこえる特別の個人的信頼関係が存在し、顧客が外務員に対し商品取引業者の使用人たる地位を去つて自己のために行為することを求め、外務員がこれに応じたものと認められるだけの特別事情が存しないかぎり、外務員は一般に商品取引業者を代理するものと解すべきことは、原判 取引業者の使用人たる地位を去つて自己のために行為することを求め、外務員がこれに応じたものと認められるだけの特別事情が存しないかぎり、外務員は一般に商品取引業者を代理するものと解すべきことは、原判決引用の判例の趣旨からも明らかである。 これを本件についてみれば、上告人は、ほとんど本件取引の委託をDに委せ、他人のE名義で取引し、上告人がその委託者本人であることを秘匿していたことは、原審の確定するところであるが、外務員は件来商品取引業者の使用人として、その補助者たる地位にあるから、顧客が商品取引業者の営業所に出向いたことがなく、特定の外務員を通じてのみ取引の委託をし、また、顧客が他人名義ないしは架空名- 2 -義で取引を委託し、外務員も当該顧客の氏名を商品取引業者に通告しなかつたという事実があつたとしても、そのことのみでは、いまだ右にいう特別事情にあたらないというべきである。 そして、原判決の確定した事実に原判決挙示の証拠関係を総合すると、Dは、勤務先を転々したが、昭和三九年一月被上告人会社に就職して以来昭和四〇年当時に至つても顧客は上告人ただ一人であり、上告人がDを通じて行つた取引では概ね損金勘定に終つていること(原審証人Dの証言)、他方、被上告人会社におけるE名義の取引口座は、上告人が本件委託証拠金五〇〇万円を差し入れた昭和四〇年四月一日以前の同年一月一九日に既に開設されており、Dは同口座を利用していわゆる手張り行為をしていたこと(原判決添付の取引明細表(二)No.1の番号1ないし8及び23がそれに当る。)、E名義の約諾書・同意書・差入善(乙第一二号証)が実際に作成されたのは、同年三月末頃であるにもかかわらず、同年一月一四日付となつていることの不合理性は、I宛の証拠金五〇〇万円の預り証(甲第一号証の一、二)の日付が同年四月一日付と 乙第一二号証)が実際に作成されたのは、同年三月末頃であるにもかかわらず、同年一月一四日付となつていることの不合理性は、I宛の証拠金五〇〇万円の預り証(甲第一号証の一、二)の日付が同年四月一日付となつていることとの対比からも、容易にこれを看取しうるところであり、これが自己の右手張行為を糊塗しようとするDの策謀であることを窺知できること、上告人が右証拠金を妻I名義で差し入れることに固執し、清算時における損金が同証拠金額の範囲内にとどまるよう取引を制限したこと、Dは上告人不在のときに同人の経営する学校を訪ね、嘘をいつて前記証拠金五〇〇万円の預り証を出させ、これを掴んで逃走を企て、学校の事務員らに取り押えられた事実があること(第一審証人Jの証言)などが認められ、右各事実を総合すると、はたしてDが外務員として上告人の信用に値する人物であるか疑わしく、上告人もDを通じて新規に本件取引を開始することにかなり警戒心を抱いていたことが窺われるのである。したがつて、他に合理的な事由を判示することなく、Dが外務員として才覚があり、上告人がDの手腕を高く評価し、信用していたとする原審の認定- 3 -は、相当ではないものといわなければならない。してみると、原判示の事実のみでは、本件取引において、顧客たる上告人と外務員Dとの関係が、一般的取引関係からする信用をこえてDが被上告人の使用人たる地位を去り、上告人の代理人として行動したものと認めうる特別事情が存したものとはいえず、この点に関する原審の判断は、民法九九条の解釈、適用を誤り、原判決引用の判例に牴触する違法をおかしたか、理由不備の違法があるものといわざるをえず、その違法は結論に影響することが明らかであるから、論旨は理由がある。 同第三点について論旨は、本件取引のうち昭和四〇年四月一日から同年六月一日ま したか、理由不備の違法があるものといわざるをえず、その違法は結論に影響することが明らかであるから、論旨は理由がある。 同第三点について論旨は、本件取引のうち昭和四〇年四月一日から同年六月一日までの取引の委託に関し、委託証拠金五〇〇万円を超える部分につき原審が民法一一〇条の表見代理の成立を認め、右取引の効果が上告人に及ぶとした点の違法をいうものである。 原判決は、所論の点に関し、上告人が本件取引の真実の委託当事者であることを秘匿し、実在のE名義を用いて取引の委託をしたため、被上告人としては、上告人が右取引委託の本人であることを知るに由なく、Dに対する代理権授与の範囲を調査確認する方法がなかつたとして、被上告人がDに代理権があると信ずべき正当理由の存在を肯定したうえ、表見代理の成立を認め、右取引部分につき被上告人の請求(第一審昭和四三年(ワ)第二一〇〇号事件)を認容している。 しかしながら、Dが本件取引につき上告人の代理人として行動したものと認められないことは前記説示のとおりであるから、Dは終始被上告人の使用人としてその補助者の関係にあつたものといわざるをえず、Dにおいて上告人が本件取引の本人であることを知つていた以上、被上告人もこれを知つていたものと認めるのが相当である。そして、原判決添付の取引明細表(二)に徴しても、本件取引の回数、数量は異常な程大量であること、上告人は本件取引のほかに当時上告人名義による取引委託もしていたことなどを考えると、被上告人としては、本件取引の委託に関しD- 4 -の代理権に疑念をもち、少なくとも念のため本人たる上告人に右代理権の有無、範囲等を調査確認する措置に出るべきであり、かつ、そのことは極めて容易にできることであつたと認められる。したがつて、被上告人がなんらこのような行為に出ることなく、漫然Dに る上告人に右代理権の有無、範囲等を調査確認する措置に出るべきであり、かつ、そのことは極めて容易にできることであつたと認められる。したがつて、被上告人がなんらこのような行為に出ることなく、漫然Dに代理権があると信じたことは、その点に過失があるものというべきであるから、原審が民法一一〇条の表見代理の成立を認めたのは違法であり、その違法は結論に影響することが明らかであるから、論旨は理由がある。 叙上の次第で、その余の上告理由にふれるまでもなく原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れないところ、前記特別事情の有無等につきなお審理する必要があるから右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官岡原昌男裁判官大塚喜一郎裁判官吉田豊裁判官本林讓- 5 -
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