-1-主文 原判決を次のとおり変更する。 (1)被控訴人らは控訴人に対し連帯して700万円及びこれに対す,,,る被控訴人b1及び同b3については平成16年3月28日から,被控訴人b2については同月27日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を被控訴人らの負担とし,その余を控訴人の負担とする。 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,3506万1830円及びこれに対する被控訴人b1及び同b3については平成16年3月28日から,被控訴人b2については同月27日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,xの屋号により建設工事請負業を営む控訴人において,その被用者(「」。),,であったc以下cというが集金した工事代金等を着服横領したためcの母や兄姉である被控訴人らをして,将来,再びcが同様の行為をしたりした場合等には,cと連帯して既発生の損害金3506万1830円の支払いをすることを約束させていたところ連帯保証契約cがその後再び工事代金(),,を着服,横領したと主張して,被控訴人らに対し,上記連帯保証契約に基づいて,上記損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払いを求めた事案である。これに対し,被控訴人らは,cの横領の事実及び上記-2-連帯保証契約の成立を否認し,さらに,同契約の無効(心裡留保,通謀虚偽表示,錯誤,公序良俗違反)及び取消し(詐欺)その他を主張して争った。 原審は,cの横領を認定 らは,cの横領の事実及び上記-2-連帯保証契約の成立を否認し,さらに,同契約の無効(心裡留保,通謀虚偽表示,錯誤,公序良俗違反)及び取消し(詐欺)その他を主張して争った。 原審は,cの横領を認定した上,被控訴人らは有効に上記連帯保証の合意をしたとしつつ,その合意は公序良俗に反するから無効であるとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。 前提事実(1)当事者等ア控訴人は,xの屋号により建設工事請負業(建設工事現場における足場の設置及び撤去等の請負業)を営む者である。 イcは,平成2,3年ころから控訴人の下でアルバイトとして働くようになった者であるが,そのうち正規の従業員となり,その後「専務」の肩書を与えられて,取引先との交渉を担当するようになり,ときには取引先から工事代金等の集金業務を担当することもあった(原審での控訴人)。 ウ被控訴人b2はcの母,同b1は兄,同b3は姉であり,dはcの父である(以下においては,これらの者は名のみで表示する)。 。 (2)cは平成15年2月ころから同年3月中旬ころまでの間行方不明になっ,ていた。 ,,,(3)控訴人はその間の取引先等に対する調査により別紙1の表のとおりcが合計3911万1830円を着服横領した(ただし,有限会社e関係の405万円は,その後弁償されたので,残額は3506万1830円)と判断するに至ったが,cが再び控訴人の下で働くことを希望したため,cの身内に保証をしてもらうことを考え,控訴人代理人弁護士に依頼して,別紙2の証及び別紙3のc氏の横領の件についてと題する説明文以下本「」「」(「件説明書という並びにcに作成させる予定の別紙4の念書の各文案」。)「」を作成してもらった(甲1ないし4,16,原 の横領の件についてと題する説明文以下本「」「」(「件説明書という並びにcに作成させる予定の別紙4の念書の各文案」。)「」を作成してもらった(甲1ないし4,16,原審での控訴人)。 ,「」(「」(4)控訴人は上記証に別紙1の表を添付したもの以下本件確約書-3-という及び本件説明書を被控訴人b2に直接交付しまた同被控訴人を介。),,。 して被控訴人b3にも交付し被控訴人b1にはこれらを郵送して交付したこれに対し,被控訴人b2及び同b3は,平成15年5月11日ころ,本件確約書に署名押印して,被控訴人b2は直接,同b3は同b2を介して,これを控訴人に提出した。また,cは,同年6月25日ころ,念書に署名押印した。 他方,被控訴人b1は,本件確約書を控訴人に提出してもらいたい旨のcからの電話での要請を断ったりしていたが,結局,同年8月20日ころ,控訴人に本件確約書を郵送した。なお,同被控訴人は,本件確約書の下部余白部分に「このたびは,私くしの弟であるcが控訴人様の信頼その他多くのものを損失されたことを心より申し分けなくお詫び申し上げます。このような弟であるcに対し御寛大な配慮誠にありがとうございます。このような金額は私くしには支払える能力などありませんが,家族一丸となりcを控訴人様のもと罪を償い再びcが控訴人様の信頼を得るものと信じ署名させていただきます(後略」などと付記して,署名した。 。 )(5)cは控訴人の下で旧来の職務に復していたが平成16年2月23日,,,付けの下記の置き手紙(甲15)を残して失踪し,現在に至るも行方が分からない。 記「控訴人様へ今回2度にわたる横領は,あれだけのお金が最後までどこに消えたか言,,()えませんでしたが最後に本 の下記の置き手紙(甲15)を残して失踪し,現在に至るも行方が分からない。 記「控訴人様へ今回2度にわたる横領は,あれだけのお金が最後までどこに消えたか言,,()えませんでしたが最後に本当のことを言うと第3者がいました中略借金については,影ながら借す(返す」の意と解される)気持ちです,「。 まんがいち警察ざたになると,後処理が出来ていないことで,自分もこの世にはいないでしょう,数々の裏切りをどうかお許し下さい」。 争点及びこれを巡る当事者双方の主張-4-(1)原審におけるそれは原判決2頁22行目から同11頁16行目までのと,おりであるから,これを引用する。 (2)当審における控訴人の追加主張原判決は,本件確約書に有効期限の定めがないことを問題にするが,例えば,身元保証ニ関スル法律を類推適用して,それを解釈上,3年又は5年に限定することは可能である。また,同条項の中にcに3日間以上の無断欠勤があった場合も被控訴人らに保証債務を請求できると定めた部分はあるが,現実にそのような理由に基づいて請求するのであれば公序良俗違反といわれても仕方があるまいが,本件はそのような事件ではない。控訴人は,cが再度横領をしないように,cが不正行為を働いた取引先には連絡し,直接取り立てないようにして再発防止を図っていたが,今回は,それ以外の取引先であったため,cの横領行為を防げなかった。 第3当裁判所の判断 争点1(cの横領行為の有無)について(1)上記第2の1の前提事実特にc自身が横領の事実を認めて念書に,,「」署名押印していることに照らして,cが控訴人主張のとおりの横領をしたことは優に認められる。ただし,甲6及び弁論の全趣旨によれば,f株式会社関係のうち,190万0778円の請求書に関する分については,5 名押印していることに照らして,cが控訴人主張のとおりの横領をしたことは優に認められる。ただし,甲6及び弁論の全趣旨によれば,f株式会社関係のうち,190万0778円の請求書に関する分については,50万円の入金があったことが認められるから,結局,控訴人の損害合計は3456万1830円となる。 (2)dの陳述書等乙1 中にはcが横領の事実を否定していたとする(,),部分があるが,到底上記認定を左右するに足るものではない。 争点2(本件連帯保証契約の成否及びその効力)について(1)本件連帯保証契約の成立について被控訴人らは控訴人に対し本件確約書を差し入れているのであるから,本件連帯保証契約が成立したことは明らかである。 -5-この点につき,被控訴人b2及び同b3は,連帯保証債務を負担することはないと考えて署名押印したと主張するが,本件確約書の内容及び本件説明書の文面によれば,cの行状次第では,同被控訴人らも債務を負担することになることは明白であって,上記主張は採用できない。また,被控訴人b1は,上記付記部分の末尾には署名したが,本文下の住所,氏名欄には記載していない旨主張するが,到底採用することができない。もっとも,同被控訴人が付記した部分特にこのような金額は私くしには支払える能力などあ,,「りませんが」とある部分のニュアンスは若干微妙ではあるが,本件確約書に署名はしても,それは連帯保証債務を負担するものではないとの意思表示を明確にしたものとまで解することはできない。 (2)本件連帯保証契約の効力についてア被控訴人らは,本件連帯保証契約は,①心裡留保,通謀虚偽表示,錯誤により無効である,②詐欺により取り消す,③公序良俗違反により無効である,④条件が成就していないから効力が発生しないなどと主張す 訴人らは,本件連帯保証契約は,①心裡留保,通謀虚偽表示,錯誤により無効である,②詐欺により取り消す,③公序良俗違反により無効である,④条件が成就していないから効力が発生しないなどと主張する。 イしかし,被控訴人らが,cのその後の行状次第では,同人の横領行為による控訴人の損害額をcと連帯して支払わなければならないことを理解した上で,本件確約書に署名等したものであることは明らかであるから,上記①及び②の主張はいずれも採用することができない。 ウ上記④についても,cの置き手紙の内容からして,cが再び横領をしたことは明白である。また,控訴人が主張するところではないが,cが無断欠勤を3日間以上継続したことも,同人が所在不明となり,連絡が取れなくなったことも明らかである。 この点につき,被控訴人らは,控訴人において,cが再び横領したものと根拠もなく決め付けて追及したために,cが出て行ったのであり,これは控訴人が故意に条件を成就させたことになるから条件不成就とみなされ-6-る旨主張するが,同主張は,cが再び横領していないことを前提とする点において失当というべきである。 エ公序良俗違反の主張について(ア)cは控訴人の信頼を裏切って横領行為を繰り返し控訴人に多額の損,害を被らせたものであるから,cとしては,懲戒解雇され,損害賠償請求はもちろん,場合によっては刑事告訴されても致し方のないところである。 然るに,控訴人は,刑事告訴を見合わせ,cの希望を入れて引き続き雇用しようというのであるから,控訴人がその見返りにcの身内からある種の保証を得たいと考えたとしても無理からぬものがある。 (イ)本件確約書は以上のような趣旨に出たものと解されるところそれ,,によれば,被控訴人らはcが控訴人に与えた損害を賠償する責に任ずるが,現実に支 たいと考えたとしても無理からぬものがある。 (イ)本件確約書は以上のような趣旨に出たものと解されるところそれ,,によれば,被控訴人らはcが控訴人に与えた損害を賠償する責に任ずるが,現実に支払義務を負うのは,cが再び不始末をしでかした場合に限られ,同人が控訴人の下で真面目に職務に励みさえすれば,被控訴人らは何らの責任を負うこともないというのである。 そうであれば,控訴人のこの提案は,cにとってはこれ以上ない程の有難い内容であるし,被控訴人らにとっても,cの行状次第では多額の,,債務を負担しなければならない危険性を伴うものではあるがその反面被控訴人らにそのような現実の負担をさせてはならないという思いがcに対する何よりもの戒めになることを期待することもできるものである。同じことは控訴人にとってもいえることであり,cが控訴人の下で真面目に働いてくれることは控訴人としても大いに歓迎すべきことである。このように,本件確約書は,全ての関係者にとって十分合理的で魅力のある内容であったものということができる。 (ウ)そして被控訴人らとしてはcの再起を期待しかつその可能性,,,,が十分あると考えたからこそ,本件確約書に署名等したものと推認され-7-るのである。被控訴人らは,本件確約書に署名等して本件連帯保証契約を締結する以外に選択の余地がなかったというわけではなく,およそcの再起が期待できないのであれば,本件確約書に署名等する必要もないのである。 そうであれば,本件連帯保証契約が直ちに公序良俗違反により無効であるなどとはいえない。原判決のこの点についての判断は相当でない。 (エ)なお,被控訴人らは,本件確約書において「無断欠勤を継続して3,日間以上した」場合にも債務履行の条件が成就することとされている点について,特に過 原判決のこの点についての判断は相当でない。 (エ)なお,被控訴人らは,本件確約書において「無断欠勤を継続して3,日間以上した」場合にも債務履行の条件が成就することとされている点について,特に過酷な条件であるとして非難するが,cがかつて横領をして控訴人に多額の被害を与えた上で出奔したことがあることに思いを致せば,無断欠勤が3日間以上も続くということは,とりも直さず同人が再び不祥事を引き起こしたのではないかと考える何よりもの徴表であるものということができるから,被控訴人らの上記非難は当たらない。 (オ)もっとも本件連帯保証は一種の身元保証でありその変型である,,,,,ともみなされるところいかにcが引き起こした不始末であるとはいえ3500万円余の連帯保証債務を被控訴人らに負わせるというのは酷に過ぎ,相当でないものといわなければならない。 そこで,身元保証に関する法律第5条の趣旨に従い,また,cが給料から毎月6万円を損害賠償充当分として控訴人に支払っていたこと(乙1,将来の退職金も放棄することを約していたこと(念書,控訴人の))事務所及び寮として使用するための建物を購入し,その資金繰りのためにg株式会社から1000万円を借り入れていたこと(乙2の4の1・),,, 被控訴人b2及び同b3は主婦であって格別の収入もないこと,,,同b1も会社員であって年収が380万円程度にすぎないこと他方控訴人においては,cが上記多額の横領金の使途などを明らかにしないにもかかわらず,同人をそのまま旧来の職務に復帰させたことなど,諸-8-般の事情を考慮し,被控訴人らが責任を負うべき上限を700万円とするのが相当である。 以上の判断は,本件連帯保証契約のうち,上記700万円を超える部分については公序良俗違反により無効とするも -8-般の事情を考慮し,被控訴人らが責任を負うべき上限を700万円とするのが相当である。 以上の判断は,本件連帯保証契約のうち,上記700万円を超える部分については公序良俗違反により無効とするものにほかならない。 争点3(過失相殺の可否)について控訴人の請求は,本件連帯保証契約の履行請求権であって,そもそも過失相殺(民法418条,又は722条)の対象となるか自体疑問があるし,その保証債務のもとになった主債務はcの故意による損害賠償債務であるから,過失相殺はできないと解すべきであり,いずれにしても被控訴人らの主張は理由がない。なお,実質的には,この点も上記2(2)エ(オ)において考慮済みである。 結論 そうであれば,これと一部異なる原判決は不当であるから,これを変更し,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第3民事部裁判長裁判官西理裁判官有吉一郎裁判官吉岡茂之別紙1ないし4添付省略
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