平成24年10月10日判決言渡平成23年(行ケ)第10396号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年9月24日判決 原告ゼネラル・エレクトリック・カンパニー 訴訟代理人弁護士城山康文 岩瀬吉和 山内真之弁理士重森一輝 大谷寛 荒川聡志 小倉博 黒川俊久 田中拓人 被告特許庁長官指定代理人中村達之 柳田利夫 安井寿儀 石川好文 田村正明 主文 特許庁が不服2010-16557号事件について平成23年7月19日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告が求めた判決主文同旨 第2 事案の概要本件訴訟は,特許出願の拒絶審決の取消訴訟である。争点は進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年10月30日,パリ条約による優先日を平成14年(2002年)10月31日,優先権主張国をアメリカ合衆国として,名称を「タービンの構成をシールしかつ流線形にする流路」とする発明につき特許出願したが(特願2003-369786号),平成22年3月16日に拒絶査定を受けたので,同年7月23日,特許庁に対し不服審判請求をするとともに(不服2010-16557号),特許請求の範囲の記載の一部を改める手続補正をした(本件補正)。特許庁は,平成23年7月19日,本件補正を却下する決定 23日,特許庁に対し不服審判請求をするとともに(不服2010-16557号),特許請求の範囲の記載の一部を改める手続補正をした(本件補正)。 特許庁は,平成23年7月19日,本件補正を却下する決定とともに「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年8月2日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨本件の発明は,タービンの構造に関する発明で,本件補正前後の請求項1の特許請求の範囲は以下のとおりである。 【本件補正後の請求項1(補正発明,下線を付した部分が補正された部分)】「複数の周方向に間隔を置いて配置されたバケット(18)を支持する,それに沿って軸方向に間隔を置いた位置にホイール(16)を有し,かつ軸線の周りで回転可能なロータ(14)と, - 3 -周方向に間隔を置いて配置された翼形部(26)と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンド(28,29)とを有する,軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル(24)列と,を含み,前記軸方向に間隔を置いて配置されたバケットと前記ノズル列とが,少なくとも1対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し,前記バケットが,該バケットを前記ロータホイールに固定するためのダブテール(20)と該バケットの半径方向内端部に沿ったプラットフォーム(40)とを有し,前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記バケットとが,タービンを通る流体流れ用の流路(10)の一部を形成し,前記ホイールの1つの上にある前記バケットダブテールが,前記プラットフォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かってほぼ軸方向に延びる突出部(42,44)を支持し,また前記1つのノズル列のノズルが,ラビリンス歯(46,50)を支持し,前記ラビリン ォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かってほぼ軸方向に延びる突出部(42,44)を支持し,また前記1つのノズル列のノズルが,ラビリンス歯(46,50)を支持し,前記ラビリンス歯が,前記突出部と共に前記1つのホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成しており,前記プラットフォーム(40)の前縁(70)は,上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて,上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置することを特徴とするタービン。」【本件補正前の請求項1(補正前発明)】「複数の周方向に間隔を置いて配置されたバケット(18)を支持する,それに沿って軸方向に間隔を置いた位置にホイール(16)を有し,かつ軸線の周りで回転可能なロータ(14)と,周方向に間隔を置いて配置された翼形部(26)と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンド(28,29)とを有する,軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル(24)列と,を含み, - 4 -前記軸方向に間隔を置いて配置されたバケットと前記ノズル列とが,少なくとも1対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し,前記バケットが,該バケットを前記ロータホイールに固定するためのダブテール(20)と該バケットの半径方向内端部に沿ったプラットフォーム(40)とを有し,前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記バケットとが,タービンを通る流体流れ用の流路(10)の一部を形成し,前記ホイールの1つの上にある前記バケットダブテールが,前記プラットフォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かってほぼ軸方向に延びる突出部 流れ用の流路(10)の一部を形成し,前記ホイールの1つの上にある前記バケットダブテールが,前記プラットフォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かってほぼ軸方向に延びる突出部(42,44)を支持し,また前記1つのノズル列のノズルが,ラビリンス歯(46,50)を支持し,前記ラビリンス歯が,前記突出部と共に前記1つのホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成しており,前記プラットフォーム(40)の前縁(70)は,上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置することを特徴とするタービン。」 3 審決の理由の要点原告は補正前発明の進歩性なしとの判断の誤りを取消事由としていないので,補正発明の進歩性判断について以下摘示する。 【引用文献1】米国特許第6131910号明細書(甲1)【引用文献1記載発明】複数の周方向に間隔を置いて配置されたベーンを支持する,ロータに沿って軸方向に間隔を置いた位置にロータホイールを有し,かつ軸線の周りで回転可能なロータと,周方向に間隔を置いて配置された翼形部と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンドとを有する,軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル列と,を含み, - 5 -前記軸方向に間隔を置いて配置されたベーンと前記ノズル列とが,複数対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し,前記ベーンが,該ベーンの半径方向内端部に沿ったプラットフォームを有し,前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記ベーンとが,ガスタービンを通るガス用の流路の一部を形成し,ロータホイールの1つの上にある部材が,前記プラットフォームから半径方向内 前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記ベーンとが,ガスタービンを通るガス用の流路の一部を形成し,ロータホイールの1つの上にある部材が,前記プラットフォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かって軸方向に延びる突出部Aを支持し,また前記1つのノズル列のノズルが,突出部Bを支持し,前記突出部Bが,前記突出部Aと共に前記1つのロータホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している,ガスタービン。 【引用文献1記載発明と補正発明との一致点】複数の周方向に間隔を置いて配置されたバケットを支持する,それに沿って軸方向に間隔を置いた位置にホイールを有し,かつ軸線の周りで回転可能なロータと,周方向に間隔を置いて配置された翼形部と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンドとを有する,軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル列と,を含み,前記軸方向に間隔を置いて配置されたバケットと前記ノズル列とが,少なくとも1対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し,前記バケットが,該バケットの半径方向内端部に沿ったプラットフォームを有し,前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記バケットとが,タービンを通る流体流れ用の流路の一部を形成し,前記ホイールの1つの上にある部材が,前記プラットフォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かってほぼ軸方向に延びる突出部を支持し,また前記1つのノズル列のノズルが,シール形成部材を支持し,前記シール形成部 - 6 -材が,前記突出部と共に前記1つのホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路 前記1つのノズル列のノズルが,シール形成部材を支持し,前記シール形成部 - 6 -材が,前記突出部と共に前記1つのホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している,タービンである点【引用文献1記載発明と補正発明との相違点】・相違点1補正発明においては,バケットが「該バケットを前記ロータホイールに固定するためのダブテール(20)と該バケットの半径方向内端部に沿ったプラットフォーム(40)」を有し,ホイールの1つの上にあるバケットダブテールが突出部を支持するのに対し,引用文献1記載発明においては,ベーンが該ベーンをロータホイールに固定するためのダブテールを備えるかどうかが明らかではなく,ロータホイールの1つの上にあり,「突出部」に相当する「突出部A」を支持する部材が,ダブテールかどうかが明らかではない点・相違点2ノズルが支持しシールを形成するシール形成部材が,補正発明においては「ラビリンス歯(46,50)」であるのに対し,引用文献1記載発明においては「突出部B」である点・相違点3補正発明においては,「前記プラットフォーム(40)の前縁(70)は,上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて,上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置する」のに対し,引用文献1記載発明においては,このように構成されているかどうかが明らかではない点【相違点に係る構成の容易想到性判断(10~13頁)】「(1)相違点1について検討する。 バケットをロータホイールに固定するために,バケットにダブテールを設けることは周知技 - 7 -術(以下,『周知技術1』という。必要ならば,引用文献1の図14,引用文献2( 1について検討する。 バケットをロータホイールに固定するために,バケットにダブテールを設けることは周知技 - 7 -術(以下,『周知技術1』という。必要ならば,引用文献1の図14,引用文献2(判決注:実願平2-17344号(実開平3-108801号)のマイクロフィルム,甲2)の第1図,特開昭56-69402号公報(甲4)の『ダブテイル2』を参照。)である。 引用文献1記載の発明において,該周知技術1を適用し,ベーンにダブテールを設けるとともに,ロータホイールの上に位置する突出部Aを該ダブテールに設けることによって,相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。 (2)相違点2について検討する。 ・・・引用文献1記載発明における『突出部B』は,水平方向に延びた後に,突出部Aに向かって垂直方向に延びている。引用文献1の10欄39ないし40行及び図14にはラビリンス歯を有するシール22lが示されているところ,上記『突出部B』はシール22lと同等の形状をしているから,『突出部B』もラビリンス歯を有するシールであると認められるため,相違点2は実質的な相違点ではない。 また,ホイールスペース内に流入する漏洩流をシールするためのシール形成部材の一方を『ラビリンス歯』とすることは周知技術(以下,『周知技術2』という。必要ならば,引用文献1の10欄39ないし40行及び図14のほか,引用文献3(判決注:特開平10-259703号公報,甲3)の『シールフィン4a,3b』を参照。)なので,引用文献1記載の発明において『突出部B』を『ラビリンス歯』とすることによって,相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことであるということもできる。 ( の発明において『突出部B』を『ラビリンス歯』とすることによって,相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことであるということもできる。 (3)相違点3について検討する。 下流側のロータホイールのバケットにおけるプラットフォームと,上流側のノズルにおける内側バンドとについて,『プラットフォームの前縁は,上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて,上流側のノズルの内側バンドの後縁の半径方向内側に位置する』ように構成することは周知技術(以下,『周知技術3』という。例えば,引用文献2についての上記3-1-2(判決注:引用文献2記載の技術的事項の認定),引用文献3についての上記3-1-3(判決注:引用文献3記載の技術的事項の認定)の記載を参照。上記3-1-2及び3-1-3において,『上流方向において半径方向内向きに張り出して』いることは,『上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて』いることにほかならない。また,上記3-1-3における『上流側の静翼11の内側シュラウド12の端部12b』は補正発明における『上流側のノズルの内側バンドの後縁』に相当する。)である。 引用文献1記載発明において,該周知技術3を適用し,相違点3に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。 (4)なお,相違点3に関して,・・・原告は,引用文献2は『アキシャルフィン15は共に同じ半径方向位置で終端』するものであり,引用文献3は『プラットフォーム2が,プラット - 8 -フォーム前端部2aに向けて半径方向外側に一旦隆起して元の半径方向位置に戻る構成』であり,引用文献2及び3のいずれにも『プラットフォーム(40)の前縁(70)を上流方向において半径方向内 - 8 -フォーム前端部2aに向けて半径方向外側に一旦隆起して元の半径方向位置に戻る構成』であり,引用文献2及び3のいずれにも『プラットフォーム(40)の前縁(70)を上流方向において半径方向内向きにフレア状にさせて上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置させ,これによりバケットを上流側ノズル列のノズル出口根元直径よりも小さいバケット入口根元直径を持つようにする構成』について開示も示唆もされていない旨を主張する。 しかしながら,引用文献2において,ノズル10側のアキシャルフィン15はノズル10の内側バンドとは異なるので,アキシャルフィン15についての主張は請求項1の記載に基づいた主張ではない。また,引用文献3について,『プラットフォーム2が,プラットフォーム前端部2aに向けて半径方向外側に一旦隆起して元の半径方向位置に戻る構成』であることは,プラットフォーム2の端部2aと内側シュラウド12の端部12bとの位置関係には何の関係もなく,請求項1の記載に基づいた主張ではない。さらに,補正発明は『上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁』について特定されているものの,『上流側ノズル列のノズル出口根元直径』について特定されていないため,『バケットを上流側ノズル列のノズル出口根元直径よりも小さいバケット入口根元直径を持つようにする構成』が引用文献2及び3に開示も示唆もされていない旨の主張は,請求項1の記載に基づいた主張ではない。 また,本願の段落【0015】によると,相違点3に係る補正発明の発明特定事項である『前記プラットフォーム(40)の前縁(70)は,上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて,上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置する』によって,『バケット入口側根元軸方 ットフォーム(40)の前縁(70)は,上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて,上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置する』によって,『バケット入口側根元軸方向シールフィン70は,漏洩流を更に減少させる付加的な流量係数の減少をもたらす。フィン70は更に,ノズルとバケットとの間の軸方向距離を減少させ,流路10内における流体の流線型特性の向上をもたらす。入口側半径フィン74は,定常状態の運転条件において流路10に沿った流体流れにおける前向きに面した突出物の影響が生じる可能性を最小にする。』という効果を奏すると考えられるが,この効果は,引用文献2の『主流から仕切板とロータとの間への流れに対して,入口部損失係数をほぼゼロとする…(中略)…主流の乱れによるタービン効率の低下が抑制される』(明細書第6ページ第5ないし11行),引用文献3の『もれ空気60のもれは燃焼ガス50と順方向に流出するので燃焼ガスの流れを阻害せず,そのために空力的な損失を低減することができる』(段落【0024】)と同様の効果であり,相違点3に係る補正発明の発明特定事項の技術的意義は上記周知技術3と共通している。 (5)そして,補正発明を全体としてみても,補正発明の奏する効果は,引用文献1記載発明及び周知技術1ないし3から当業者が予測できた範囲内のものであり,格別に顕著な効果ではない。 (6)よって,補正発明は,引用文献1記載発明及び周知技術1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条第2項の規定により特許出 - 9 -願の際に独立して特許を受けることができないものである。」「以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特 出 - 9 -願の際に独立して特許を受けることができないものである。」「以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。」 第3 原告主張の審決取消事由 1 引用文献1記載発明の認定の誤り,引用文献1記載発明と補正発明との一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)(1) 引用文献1の図3には,ステータの一部を構成するハニカム構造体とロータホイールの一部を構成するラビリンスシールの構成が図示されているにすぎず,これら以外の構成部分は記載されていない。 【図3】 また,引用文献1は,ブラシシールとラビリンスシールを組み合わせて用いる発明に関するもので,しかも図3は従来技術に関する図面にすぎないから,図3からラビリンスシール以外の特定のガスタービンのひとまとまりの構成を認定すること - 10 -はできない。 にもかかわらず,審決は,何ら具体的な根拠を示さずに,図3からベーン,内側・外側バンド,ノズル列の構成を認定しており,引用文献1記載発明の認定に誤りがある。 審決の認定に係るベーン等の基本的構成が本件優先日当時の当業者の技術常識であったとしても,大幅に文献外の技術常識で補う審決の引用文献1記載発明の認定は,引用文献1が主引用例として不適切であることを示すものである。また,被告が技術常識を示すものとして本件訴訟で提出する乙第1ないし3号証(三輪光砂著「ガスタービンの基礎と実際三訂版」113,114頁,特開平10-252412号公報,特開昭53-76207号公報)でも,後記被告主 を示すものとして本件訴訟で提出する乙第1ないし3号証(三輪光砂著「ガスタービンの基礎と実際三訂版」113,114頁,特開平10-252412号公報,特開昭53-76207号公報)でも,後記被告主張に係るタービンの基本構成は共通の構成として開示されていない。 そして,同じく被告が技術常識を示すものとして提出する乙第2,5,6号証(特開平10-252412号公報,特公平5-7544号公報,特許第2640783号公報)でシール構成がほぼ同様であるにもかかわらず,その作用効果が全く異なっていることから明らかなように,他の部分の構成との関連性を考慮せずにシール部分の構成のみをもって,流路からの漏洩流を減少させる機能があると短絡的に判断することはできない。部分的な構成しか記載されていない引用文献1の図3から,当業者がかかる漏洩流減少機能を当然に認識するということはできない。したがって,審決の引用文献1記載発明の認定のうち「前記突出部Bが,前記突出部Aと共に前記1つのロータホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している」との部分は誤りである。 (2) 上記のとおり,審決がした引用文献1記載発明の認定には誤りがあるから,これを前提とする補正発明と引用文献1記載発明との一致点・相違点の認定にも誤りがある。 2 相違点に係る構成の容易想到性判断の誤り(取消事由2) - 11 -(1) 補正発明のタービンにおいて,バケット(動翼)のプラットフォームの前縁をフレア状構造にしたのは,次の図のとおり,上流側のノズルと下流側のバケットの間に存在する軸方向の空隙(段差)の上を主流流れが通過する際の抵抗を小さくし,流路(10)からホイールスペース(48)に向かう半径方向にガス たのは,次の図のとおり,上流側のノズルと下流側のバケットの間に存在する軸方向の空隙(段差)の上を主流流れが通過する際の抵抗を小さくし,流路(10)からホイールスペース(48)に向かう半径方向にガスが流れ込みにくくすることによって,主流の流量の損失を小さくし(漏洩流の減少,流量係数の減少),軸方向下流へのスムーズな主流流れを確保するためである。 他方,引用文献2(実願平2-17344号(実開平3-108801号)のマイクロフィルム,甲2)の蒸気タービンのアキシャルフィン(15)は,次の図のとおり,流路(主流)からホイールスペースへの半径方向の漏洩流を意図的に増大させることによって,ノズルベースの境界層を除去し,タービンの効率を向上させる(入口部損失係数を小さくし,流量係数を大きくする。主流の流量減少を補うだけの効率の向上が得られる。)ためのものであって,補正発明のフレア状構造とは技術的意義が異なる。 漏洩流漏洩流漏洩流漏洩流主流流主流流主流流主流流れ前縁前縁前縁前縁70 - 12 - また,引用文献3(特開平10-259703号公報,甲3)のガスタービンのプラットフォーム(2)の端部(2a)も,次の図のとおり,半径方向内向きに張り出すことで,ホイールスペースから流路(主流)に流れ込む漏れ空気の流出角度を主流の流れに沿った方向に向け,燃料ガス(50)の流れを阻害しないようにし,燃料ガスの空力的な損失を低減するという技術的意義を有するもので,流路からホイールスペース(翼内)に流れ出る漏洩流が生じないことを前提としており,上記端部は漏洩流を減少させるという技術的意義を有するものではない。 漏洩流漏洩流漏洩流漏洩流主流流主流流主流流主流流れ主流主流主 れ出る漏洩流が生じないことを前提としており,上記端部は漏洩流を減少させるという技術的意義を有するものではない。 漏洩流漏洩流漏洩流漏洩流主流流主流流主流流主流流れ主流主流主流主流からのからのからのからの漏洩流漏洩流漏洩流漏洩流を促進促進促進促進 - 13 - また,被告が技術常識を示すものとして提出する乙第7号証(特開2002-201915号公報)の多段式タービンにおいても,シールリップ102は環状シールリップを形成するための部材であって,突出部分のみから成り,補正発明にいう突出部42から成るシール部材に相当するにすぎず,補正発明にいうプラットフォーム前縁のフレア状構造と同視することはできない。そして,乙第7号証には,シールリップ102が漏洩流を減少させて主流の流量の損失を抑え,軸方向下流へのスムーズな流れを確保するという作用効果を奏することは記載も示唆もされていないのであって,かかる作用効果を有する構成が周知技術であるとの根拠となるものではない。 そうすると,補正発明のプラットフォームのフレア状構造と引用文献2のアキシャルフィン(15),引用文献3のプラットフォームの端部(2a)とはその技術的意義が異なるのであって,審決の「相違点3に係る補正発明の発明特定事項の技術的意義は上記周知技術と共通している。」との判断(12頁)は誤りである。 (2) 一般に,引用例記載の発明に周知技術を適用して問題となる発明に係る構主流流主流流主流流主流流れ主流主流主流主流と同じ方向方向方向方向へ流出流出流出流出 - 14 -成に想到することが容易であるというためには,当該周知技術を適用することが適切であり,当該周知技術を適用して問題となる発明に係る構成に想到する 方向方向へ流出流出流出流出 - 14 -成に想到することが容易であるというためには,当該周知技術を適用することが適切であり,当該周知技術を適用して問題となる発明に係る構成に想到することが,技術的合理性の見地から見て可能かつ相当でなければならず,単に技術分野を異にしないだけでなく,技術思想的に近接するものであったり,共通の要素を持つものであったりしなければならない。 しかるに,引用文献1記載発明はブラシシールとラビリンスシールの組合せに特徴があるものであって,バケット(動翼)の根元のプラットフォーム部分に関する技術的課題については引用文献1に記載も示唆もないし,引用文献1記載発明と引用文献2,3に記載された周知技術との間では,技術的課題も,作用効果の点でも共通しない。 のみならず,補正発明のプラットフォームのフレア状構造(相違点3)と引用文献3のプラットフォームの端部とは技術的意義が異なるから,引用文献1記載発明に引用文献3の上記端部の構成を適用し,流路(主流)からホイールスペースへの漏洩流を減少させる動機付けが存しない。 ところで,本件優先日当時,タービン効率等の観点から,むしろ流路(主流)からホイールスペースへ一定量の漏洩流を生じさせることは当業者の技術常識であった。すなわち,動翼と静翼の根元の部分には,流体(ガス,蒸気)が有する粘性によって,圧力損失が大きく,低エネルギーの境界層が生じることが知られているが,この境界層が生じると,速度の遅い流れが壁面近傍に溜まり,主流の流れが乱され,タービン効率が低下することになる(谷田好通ほか著「ガスタービンエンジン」15,16頁,甲10)。そこで,主流の一部をホイールスペースに漏洩させて,翼の壁面境界層を取り除き,主流の損失を抑制しようとするのである(特開平10-2 田好通ほか著「ガスタービンエンジン」15,16頁,甲10)。そこで,主流の一部をホイールスペースに漏洩させて,翼の壁面境界層を取り除き,主流の損失を抑制しようとするのである(特開平10-212902号公報,甲11)。 そうすると,一般に,流路からホイールスペースへ漏れ込む流れを抑える点が周知の当業者の技術的課題であるとしても,これはタービン効率に影響を与える種々の要因の一側面に着目しているにすぎず,上記技術常識は,引用文献1記載発明に - 15 -引用文献2,3の周知技術を適用し,流路からホイールスペースへの漏洩流を減少させることとする上で阻害事由となるものである。 以上の諸点にかんがみれば,本件優先日当時,引用文献1記載発明に引用文献2,3の周知技術を適用して,相違点3に係る構成に想到することが当業者において容易であったとはいえない。 3 顕著な作用効果の看過(取消事由3)補正発明は,プラットフォームの前縁を上流方向において半径方向内向きにフレア状の構造にし,隣接する上流側のノズルの半径方向内側に位置させることにより,「定常状態の条件において流路内の流体流れを遮るおそれのある軸方向に面した段差の影響が生じる可能性を最小にする」(段落【0006】),「漏洩流を更に減少させる付加的な流量係数の減少をもたらす」(段落【0015】),及び「流路10内における流体の流線型特性の向上をもたらす。」(段落【0015】)という作用効果,すなわち,主流流れが上流側のノズルとその下流のバケットとの間に存在する軸方向の空隙(段差)の上を通過する際の抵抗を減少させ(流線形特性の向上),流路10からホイールスペース48に向けた半径方向へガスが流れ込み難くする(流量係数を減少させる)ことによって,主流の流量損失を抑え,軸方向下流へのスムーズな主流流 を減少させ(流線形特性の向上),流路10からホイールスペース48に向けた半径方向へガスが流れ込み難くする(流量係数を減少させる)ことによって,主流の流量損失を抑え,軸方向下流へのスムーズな主流流れを確保するという作用効果を奏するものである。さらに,翼根元付近の境界層における損失が大きく,低エネルギーの流れが,ノズルとバケットの間の空隙を通過することによってさらに損失が大きくなるのを,プラットフォーム前縁のフレア状構造によって流れの特性を改善し(流速の増大),下流側のバケットへスムーズな流れとして導くという作用効果を奏するともいうことができる。 かかる作用効果は,本件優先日当時における当業者の技術常識に反する異質なものであり,引用文献1記載発明及び引用文献2,3の周知技術からは当業者が予測することができない顕著なものである。 審決は,補正発明のかかる顕著な作用効果を看過して補正発明の進歩性を否定しており,審決の進歩性判断には誤りがある。 - 16 -第4 取消事由に対する被告の反論 1 取消事由1に対し乙第1ないし3号証(三輪光砂著「ガスタービンの基礎と実際三訂版」113,114頁,特開平10-252412号公報,特開昭53-76207号公報)に記載されているとおり,「ガスタービンにおいて,軸線の周りで回転可能なロータが軸方向に間隔を置いて複数のロータホイールを備え,複数のロータホイールは複数の周方向に間隔を置いて配置されたベーンを支持し,ベーンがベーンの半径方向内端部に沿ったプラットフォームを有し,ステータが軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル列を支持し,ノズル列は周方向に間隔を置いて配置された翼形部と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンドとを有し,軸方向に間隔を置いて配置されたベーンとノズル列と 配置された周方向のノズル列を支持し,ノズル列は周方向に間隔を置いて配置された翼形部と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンドとを有し,軸方向に間隔を置いて配置されたベーンとノズル列とは,複数対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し,プラットフォームと翼形部と内側及び外側バンドとベーンとがガスタービンを通るガス用の流路の一部を形成し,ホイールとノズル列との間にホイールスペースがあること」は,本件優先日当時におけるタービンの基本構成である。しかるに,引用文献1の1欄20ないし26行の記載に照らせば,図3のガスタービンが上記基本構成を備えていることは当業者にとって自明である。 また,確かに図3は従来技術におけるラビリンスシールの構成を例示することを目的とするものであるが,ラビリンスシール以外の構成も記載されているし,タービンの流路(主流)からホイールスペースへの漏洩流を減少させるためにシールを設けることは,乙第5,6号証(特公平5-7544号公報,特許第2640783号公報)に記載されているように,当業者の技術常識にすぎない。 したがって,当業者であれば,引用文献1の図3から,ステータの上流側,下流側のそれぞれに上下2個の突出部を設け,このうち下方の突出部とロータホイール上の部材の突出部とでシールを形成する構成を当然に認識することができる。 そうすると,バケット等の部材の構成が引用文献1に記載されているに等しい事項であるとして,審決がした引用文献1記載発明の認定,引用文献1記載発明と補 - 17 -正発明の一致点,相違点の認定に誤りはない。 2 取消事由2に対し補正発明のプラットフォーム前縁のフレア状構造の主な作用効果は,主流に対する抵抗を小さくすることであるが,これはかかる構造によって当然に奏されるもの 点の認定に誤りはない。 2 取消事由2に対し補正発明のプラットフォーム前縁のフレア状構造の主な作用効果は,主流に対する抵抗を小さくすることであるが,これはかかる構造によって当然に奏されるものにすぎない。そしてこのフレア状構造による主流からの漏洩流の減少効果は,パケットダブテールが支持する突出部とノズルが支持するラビリンス歯とが成すラビリンスシール構造の漏洩流減少効果に対し付加的に働くものにすぎない。 他方,引用文献2,3のタービンにおけるフレア状構造も,上流側のノズル,静翼と下流側の動翼との間にある軸方向の空隙(段差)の上を主流が通過する際の抵抗を小さくし,流量損失を抑え,軸方向下流への主流のスムーズな流れを確保できることは明らかであって,タービンの技術分野において,かような作用効果を奏するためにプラットフォームにフレア状構造を設けることは,当業者の周知技術にすぎない。原告の出願に係る乙第7号証(特開2002-201915号公報)のシールリップ102も,上流側のノズルと下流側のブレードの間にある軸方向の空隙の上を主流が通過する際の抵抗を減少させ,流路からホイールスペースへの漏洩流の流込みを減少させることで,主流の流量の損失を抑え,軸方向下流へのスムーズな流れを確保するという作用効果を奏することは明らかである。 なお,タービンでは,流路からホイールスペースへの漏洩流の発生は不可避であるが,タービン全体の効率のためにはあくまで主流の流れを確保すること,漏洩流を減少させることが基本であって,漏洩流の流路にラビリンスシールを設けるのも,漏洩流を減少させるためである。漏洩流を意図的に生じさせるとしても,その量は主流の流量などの他の多くの要因との兼ね合いで決めるべきものである。甲第7号証にも,特定の条件下で漏洩流が発生するときにタービンの効 減少させるためである。漏洩流を意図的に生じさせるとしても,その量は主流の流量などの他の多くの要因との兼ね合いで決めるべきものである。甲第7号証にも,特定の条件下で漏洩流が発生するときにタービンの効率が向上する旨の記載があるにすぎないし,甲第8,9号証(平山直道ほか著「部分送入タービンの損失に関する研究」日本機械学会論文集(第2部)250頁,特開平9-242502号公報)には一定量の漏洩流が好ましい旨の記載は存しない。これらのとおり, - 18 -本件優先日当時,タービンの分野において,一定量の漏洩流がかえって好ましいことが当業者の技術常識であったとはいえず,むしろ,タービンの効率を高めるために,主流の流量を確保することが当業者の一般的な技術的課題ないし技術常識であったというべきである。 しかるに,引用文献1記載発明のガスタービンでは突出部A,Bで流路からの漏洩流を減少させるシールを形成しているが,かかる構成は引用文献3のフレア状構造と,主流の流量を確保し効率を高めるという一般的な技術課題を解決するためのものである点において共通する。 そうすると,本件優先日当時,当業者において,引用文献1記載発明に引用文献3記載の周知技術を適用して,プラットフォーム前縁をフレア状構造とする動機付けがあり,また容易にかような構成に想到できたものであるから,この旨の審決の判断に誤りはないし,上記のとおり,一定量の漏洩流がかえって好ましいことが当業者の技術常識であったとはいえないから,かかる技術的事項が阻害要因となるものでもない。よって,審決がした補正発明の容易想到性判断に誤りはない。 3 取消事由3に対し前記のとおり,一定量の漏洩流がかえって好ましいことが本件優先日当時の当業者の技術常識であったとはいえないから,補正発明に,かかる技術常識に反する 易想到性判断に誤りはない。 3 取消事由3に対し前記のとおり,一定量の漏洩流がかえって好ましいことが本件優先日当時の当業者の技術常識であったとはいえないから,補正発明に,かかる技術常識に反する顕著な作用効果があるとはいえない。また,プラットフォームに周知のフレア状構造を採用すれば,主流の乱れが抑制される結果,上流側のノズル内側バンド後縁からプラットフォーム前縁に至る軸方向の主流の抵抗を減少させ,主流からホイールスペースへの漏洩流を減少させることも当業者には十分予測できるものであって,補正発明には格別顕著な作用効果はないというべきである。 したがって,審決に補正発明の格別顕著な作用効果の看過は存しない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(引用文献1記載発明の認定の誤り,引用文献1記載発明と補正 - 19 -発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について原告は,審決は引用文献1(米国特許第6131910号明細書,甲1)の図3から図示されていないベーン等を認定しており,引用文献1記載発明の認定に誤りがある旨主張する。確かに,図3は,ホイールとタービンの固定部材との間に設けられたラビリンスシールの従来例を示すためのものであって,ラビリンスシール付近の構造しか図示されていないから,例えば静翼のノズルの半径方向外側に位置する外側バンドが図3に図示されていないことは明らかである。 しかしながら,乙第1号証(三輪光砂著「ガスタービンの基礎と実際三訂版」,株式会社成山堂書店平成8年9月発行),乙第2号証(特開平10-252412号公報),乙第3号証(昭53-76207号公報,原告が出願人)にも照らせば,「複数の周方向に間隔を置いて配置されたベーンを支持する,ロータに沿って軸方向に間隔を置いた位置にロータホイールを有し,かつ軸線の周 乙第3号証(昭53-76207号公報,原告が出願人)にも照らせば,「複数の周方向に間隔を置いて配置されたベーンを支持する,ロータに沿って軸方向に間隔を置いた位置にロータホイールを有し,かつ軸線の周りで回転可能なロータと,周方向に間隔を置いて配置された翼形部と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンドとを有する,軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル列と,を含み,前記軸方向に間隔を置いて配置されたベーンと前記ノズル列とが,複数対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し,前記ベーンが,該ベーンの半径方向内端部に沿ったプラットフォームを有し,前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記ベーンとが,ガスタービンを通るガス用の流路の一部を形成」する程度の構成は軸流タービンの基本的な構成であり,かつ本件優先日当時の当業者の技術常識にすぎないものと認められる。そうすると,本件優先日当時の当業者の技術常識も踏まえて考えれば,上記基本的構成は引用文献1に記載されているに等しい技術的事項であるといえるから,審決がした引用文献1記載発明の認定のうち上記基本的構成を認定した部分に誤りがあるとはいえない。 ところで,乙第2号証の図1,2,4には静翼の内側シュラウド(12)の半径方向内側にハニカムシール(16,17)を設け,これと対向する動翼の端部にシ - 20 -ールフィン(22,32)を設けてシール構造を成す構成が図示されているが,これは静翼と動翼やディスク(5)とが成す空間(18,19)から流路に向かって同空間内の冷却用空気が流れ出すのを防止するためのものであり(段落【0001】),他方,乙第6号証(特許第2640783号公報)の第1図にも同様に静翼の端部に摩減性表面(55)を設け,これと対向する動翼の端部 冷却用空気が流れ出すのを防止するためのものであり(段落【0001】),他方,乙第6号証(特許第2640783号公報)の第1図にも同様に静翼の端部に摩減性表面(55)を設け,これと対向する動翼の端部に刃形シール(24,32)を設けてシール構造を成す構成が図示されているが,これは上記と反対に作動流体(ガス)が流路(13)からシール空洞(64,66)に漏れ出すのを防止するためのものである(6頁12欄32~37行)。これらのとおり,軸流タービンの動翼プラットフォーム付近(静翼内側バンド周辺)に設けられたシール構造には,物理的にはほぼ同様の構成であるにもかかわらず,流出を阻害すべき流れの方向が正反対で,機能が大きく異なるものが存在するから,シール構造(装置)の構成のみから直ちにその機能を認識することは当業者にとっても必ずしも容易でないというべきである。しかるに,引用文献1の図3には,静翼の内側バンドよりさらに半径方向内側に,上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設け,これと対向する動翼(ベーン,バケット)に上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設けてシール構造を成す構成が図示されているが,かかるシール構造が,流路からホイール(33)と静翼が成す空間へ主流が漏洩する流れを減少させるために設けられたとは図面からは必ずしも断定できず,他の目的(機能)を果たすために設けられた可能性を排斥できない。 そうすると,当業者の技術常識を踏まえて考えたとしても,審決がした引用文献1記載発明の認定のうち,「前記突出部Bが,前記突出部Aと共に前記1つのロータホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している」との点は,引用文献1の記載に基づくものではなく,誤りがあるといわざるを得ない 前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している」との点は,引用文献1の記載に基づくものではなく,誤りがあるといわざるを得ない。したがって,上記認定を受けた,補正発明と引用文献1記載発明の一致点及び相違点に係る審決の認定にも誤りがある。 - 21 - 2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について前記1のとおり,審決の引用文献1記載発明の認定等には誤りがあるが,さらに進んで,審決の引用文献1記載発明の認定,補正発明と引用文献1記載発明の一致点及び相違点の認定を前提とする上記相違点に係る構成の容易想到性判断の当否についても以下判断する。 (1) 本願明細書(甲5)には,動翼(バケット)の根元付近の,流路に面するプラットフォーム(40)の上流方向前縁に設けられたフレア状構造(70,後記図2参照)の技術的意義ないし作用効果に関し,次のとおりの記載がある。 【図2】 ・段落【0001】「本発明は,流路に沿った流線型流れ特性を促進しかつシールを行うタービンの流路構成に関し,具体的には,蒸気通路の根元領域における漏洩流及び2次空力損失を最小にするための蒸気タービンの流路構成に関する。」・段落【0002】「根元半径に沿ったタービンを通る流路の一部は,ノズルの内側バンド又はリングとロータ上のバケットの根元におけるプラットフォームに沿った流れ表面により形成される。根元半径に沿った流路から流出するあらゆる流体流れの漏洩は,バケットをバイパスし直接的にタービン段の出力を低下させる。例えば蒸気タービンの低圧セクションのような典型的なノズル及びバケット設計では,ノズル根元直径が - 22 -バケット根元直径と等しく,その結果,定常状態の流れ条件では流路におけ 力を低下させる。例えば蒸気タービンの低圧セクションのような典型的なノズル及びバケット設計では,ノズル根元直径が - 22 -バケット根元直径と等しく,その結果,定常状態の流れ条件では流路における流体流れの流線型特性を妨害する上流に面した段差の影響が生じる可能性が大きくなる。 大型のホイールスペースもまた,漏洩流のロータポンピング作用を増大させ,その結果,更なる空力損失を引き起こす半径方向の貫入流を増加させる。より具体的には,ロータポンピング作用によって引き起こされる半径方向の再流入流れは,流路に沿った流体流れのはく離を引き起こし,その結果,空力効率の損失を発生させる。」・段落【0003】「従って,流体流路の根元領域における漏洩流と2次空力損失を最小にすることにより,流路における流体流れの流線を実質的に流路の悪化に無関係なものとすることを保証するような,タービンの根元半径流路構成に対する必要性が増大してきている。」・段落【0004】「本発明の好ましい実施形態においては,流路内の流体流れの乱れを実質的に最小にし,漏洩流を最小にし,かつ流路内の流線型流れを促進する,流路の根元領域が提供される。具体的には,流路の根元領域は,ノズルの内側バンドとバケットの根元におけるプラットフォームの表面とを含む。バケットプラットフォームは,バケットダブテールの一部を形成している。各バケットダブテールは,プラットフォームの半径方向内側に位置し,かつ隣接するノズル上の出口及び入口ラビリンスシールの半径方向下側に位置する入口及び出口根元側半径方向シールを含む。これらのシールは,ロータホイールと隣接するノズルとの間にあるホイールスペース内に流入しまた該ホイールスペースから流出する漏洩流を減少させる。一方のダブテール及びロータホイールと他方のノズルとの 。これらのシールは,ロータホイールと隣接するノズルとの間にあるホイールスペース内に流入しまた該ホイールスペースから流出する漏洩流を減少させる。一方のダブテール及びロータホイールと他方のノズルとの間にあるホイールスペースが縮小されて,ロータポンピング作用を減少させ,それによって流路へ環流する貫入流を減少させる。」・段落【0006】「また,各バケットは,上流側ノズルの内側バンドの後縁から流出する流体の通 - 23 -路内におけるあらゆる流路入口の突出物を最小にするか又は排除するように,軸方向上流方向かつ半径方向内向きに延びた入口根元半径を有する。このことは,定常状態の条件において流路内の流体流れを遮るおそれのある軸方向前方に面した段差の影響が生じる可能性を最小にする。・・・」・段落【0007】「更に,バケットのプラットフォームの前縁上に,付加的に流量係数を減少させ,更に漏洩流を減少させる入口根元軸方向シールフィンが設けられている。軸方向シールフィンもまた,ノズルとバケットとの間の軸方向距離を減少させて,流路内の流体通路の流線型特性を向上させる。」 そうすると,補正発明の動翼プラットフォーム前縁(70)のフレア状構造の技術的意義は,流路内の主流の流れの乱れを小さくし,またより半径方向内側に設けられたシール構造(シール突出部(42)及びラビリンス歯(46))と相まって漏洩流を小さくし,かつ主流の流線型流れを促進する点にあるということができる。 なお,上記フレア状構造自体の漏洩流減少効果が,シール突出部及びラビリンス歯によるシール構造による漏洩流減少効果よりも相当程度小さいことが予想されるが,上記フレア状構造の技術的意義は漏洩流減少効果に尽きるものではないし,また上記シール構造と相まってその機能を果たすものである。そうする 構造による漏洩流減少効果よりも相当程度小さいことが予想されるが,上記フレア状構造の技術的意義は漏洩流減少効果に尽きるものではないし,また上記シール構造と相まってその機能を果たすものである。そうすると,容易想到性判断において,漏洩流減少効果の大小のみをもって上記フレア状構造の技術的意義を無視することはできない。 (2) 他方,審決が周知技術の根拠として引用する引用文献2(実願平2-17344号(実開平3-108801号)のマイクロフィルム,甲2)の下記第1図(第2図にも同様の記載がある。)には,動翼(11)の根元付近にある動翼翼根(13)の上流側端部に半径方向内側に湾曲するアキシャルフィン(15)を設けるとともに,静翼のノズル(10)の内側に位置し,下流側端部であるコーナー(16)にも同様に半径方向内側に湾曲するアキシャルフィン(15)を設ける構成が図示 - 24 -されているが,引用文献2には,これら2つのアキシャルフィンの技術的意義ないし作用効果に関し,次のとおりの記載がある。 【第1図】 ・2頁4ないし11行「このような蒸気タービンにおいては,蒸気タービンの内部の流れとしてのノズル1と動翼2とを流れる主流を,ノズル1と動翼2との間から仕切板4とロータ5との間へある程度漏洩させることが望ましいとされている。すなわち,前記漏洩によって,ノズルベースの境界層が取り除かれることになり,タービン効率の向上が図られることが判明している。」・4頁5ないし17行「上記の手段によれば,主流から仕切板とロータとの間への流れに対して,入口損失が小さくなり,同時に,その逆の流れに対しては,アキシャルフィンが流れ方向に対向する突起物となるために,損失係数が大きくなる。 従って,主流から仕切板とロータとの間への流れに対しては,流量係 口損失が小さくなり,同時に,その逆の流れに対しては,アキシャルフィンが流れ方向に対向する突起物となるために,損失係数が大きくなる。 従って,主流から仕切板とロータとの間への流れに対しては,流量係数が大きくなる。そのため,漏洩蒸気が適量に確保され,ノズルベースの境界層が取り除かれることになり,もってタービン効率の向上が図られる。 一方,仕切板とロータとの間から主流への漏洩蒸気に対しては,流量係数が小さくなり,その漏洩量は,最小に制限される。」・6頁4ないし14行「本考案によると,蒸気タービンにおいて,主流から仕切板とロータとの間への - 25 -流れに対して,入口部損失係数をほぼゼロとすることができるとともに,仕切板とロータとの間から主流への流れに対しては,入口部損失係数を最大にすることができる。 そのために,主流の乱れによるタービン効率の低下が抑制されるとともに,主流からの良好な漏洩が得られ,ノズルベースの境界層が取り除かれることになり,もって,タービン効率の向上が図られる等の効果が奏される。」 そうすると,蒸気タービンにおいては,静翼のノズルの半径方向内側壁面付近すなわちノズルの根元付近(ノズルベース)で主流を乱す境界層が発生し,主流の流れを阻害して,タービン効率を低下させることが知られているところ,引用文献2のアキシャルフィン(本件で問題となるのは,動翼側の方)は,流路からロータ(5)と仕切板(4)との間の空間(ホイールスペース)に主流を一定程度意図的に漏洩させて,ノズルの根元付近の境界層を取り除き,タービン効率を向上させるとともに,上記空間から流路に逆流するのを防止する(逆流した場合には,流路の主流を乱してタービン効率が低下する)という技術的意義を有するということができる。 したがって,流路からの漏洩流を一定 せるとともに,上記空間から流路に逆流するのを防止する(逆流した場合には,流路の主流を乱してタービン効率が低下する)という技術的意義を有するということができる。 したがって,流路からの漏洩流を一定量確保するか,それともシール構造と相まって漏洩流を可及的に減少させるかという点において,引用文献2のアキシャルフィンと補正発明のフレア状構造とはその技術的意義が大きく異なる。 (3) また,審決が周知技術の根拠として引用する引用文献3(特開平10-259703号公報,甲3)の下記図2には,動翼(1)の根元のプラットフォーム(2)の上流側端部(2a)の半径方向外側面をなだらかな曲面に形成し,静翼(11)の内側シュラウド(12)の下流側端部(12b)を下流側に突出させて,上記上流側端部(2a)と上記下流側端部(12b)とが流路に向かってなだらかに傾斜する空間を形成するとともに,動翼のさらに半径方向内側にはシールフィン(4a)を備えた突起部(4)を設け,静翼内側シュラウド(12)のさらに半径方向内側にはこれと対向するハニカムシール(14)を設けてシール構造を成し,上記 - 26 -の上流側端部(2a),上記下流側端部(12b)と相まって断面S字状の空間(8)を成す構成が図示されているが,引用文献3には,かかる構成,とりわけ動翼プラットフォーム上流側端部(2a)の技術的意義ないし作用効果に関し,次のとおりの記載がある。 【図2】 ・段落【0006】「従来のガスタービンにおいては,静翼のシュラウドと隣接する動翼のプラットフォームとの間からそれぞれシール用空気40が燃焼ガス50の流れに対してほぼ直交するように吹出し,燃焼ガス50の流れ抵抗を増大させ,それだけ損失をもたらすことになり,タービン性能を低下させる原因となっている。」・段落 ぞれシール用空気40が燃焼ガス50の流れに対してほぼ直交するように吹出し,燃焼ガス50の流れ抵抗を増大させ,それだけ損失をもたらすことになり,タービン性能を低下させる原因となっている。」・段落【0007】「そこで本発明は,静翼のシュラウドと隣接する動翼のプラットフォームとの間から吹出すシール用空気の流路に工夫をし,シール用空気が流出しにくい流路とすると共に,吹出方向も変えて燃焼ガスの流れ方向の妨げとならないようにして性能面での向上を計ることを目的としたガスタービンのシュラウド及びプラットフォームシールシステムを提供することを課題としている。」・段落【0010】 - 27 -「本発明においてはプラットフォームとシュラウド間からもれるシール用空気は,空間下部から軸方向に流れてシール装置の先端から流入し,シール装置を流出すると上向きとなり,更に横方向を向くように蛇行して形成された流路を通って燃焼ガス通路へ向う。燃焼ガス通路へ向うもれ空気は,プラットフォーム前方においては,プラットフォームの表面に沿って流れ,プラットフォーム後方においては,隣接するシュラウドの表面に沿ってそれぞれ流れ,燃焼ガスの流れ方向とは順方向に流出する。」・段落【0011】「そのために,もれ空気が燃焼ガスの流れを阻害することがなく,燃焼ガスと同じ方向に流出するのでガスタービンの空力的な損失を低減することができる。」・段落【0013】「更に,もれ空気は蛇行しながらねじ曲げられて流出するので流れ抵抗が増大し,空気がもれにくくなり,もれ空気量も低減し,上記の効果と相伴ってガスタービンの性能が向上する。」 そうすると,引用文献3の動翼プラットフォーム上流側端部(2a)は,より半径方向内側のシール構造及び断面S字状の空間と相まって,半径方向内側のキ 効果と相伴ってガスタービンの性能が向上する。」 そうすると,引用文献3の動翼プラットフォーム上流側端部(2a)は,より半径方向内側のシール構造及び断面S字状の空間と相まって,半径方向内側のキャビティ内のシール用空気が流路(燃焼ガス通路)内に可及的に漏れ出ないようにするとともに,シール用空気が流路内に漏れ出た場合でも,主流(燃焼ガス)の流れ方向に沿った方向(順方向)に吹き出して,主流の流れを乱さないようにするという技術的意義を有するということができる。 したがって,抑制すべき漏れ出る流れが,引用文献3ではホイールスペースから流路に流れ込む高圧のシール用空気である一方,補正発明では流路からホイールスペースに流れ込む主流の一部である点において両者は異なり,また,補正発明では主流と順方向に漏洩流を吹き出すという点が考慮されていないから,引用文献3に記載された周知技術ないし技術的事項と補正発明とはその技術的意義が大きく異な - 28 -る。 (4) 前記のとおり,引用文献1の図3のシール構造が具体的にいかなる機能を果たすものであるか直ちに断定できず,したがって流路内の主流の流れの乱れを小さくし,漏洩流を小さくし,かつ主流の流線型流れを促進するという補正発明の動翼プラットフォーム前縁(70)のフレア状構造を採用する動機付けが引用文献1に記載ないし示唆されているとはいい難いところ,引用文献2,3の周知技術ないし技術的事項は補正発明のフレア状構造とは技術的意義が大きく異なるし,また本件優先日当時,当業者の間では,蒸気タービン等の軸流タービンにおいて,静翼のノズルの根元付近で主流を乱す境界層が発生し,主流の流れを阻害して,タービン効率を低下させることが知られており,引用文献2のように,あえて主流の一部をホイールスペースに漏洩させて,上記境 て,静翼のノズルの根元付近で主流を乱す境界層が発生し,主流の流れを阻害して,タービン効率を低下させることが知られており,引用文献2のように,あえて主流の一部をホイールスペースに漏洩させて,上記境界層を除去することが試みられていたものである(甲7~11を参照)。そうすると,仮に引用文献1記載発明に上記周知技術ないし技術的事項を適用したとしても,当業者において補正発明との相違点3に係る構成に容易に想到することはできない。 なお,被告は,タービン全体の効率のためにはあくまで主流の流れを確保することが基本であるなどと主張するが,これは流路を流れる主流が小さくなると出力に寄与する部分が小さくなるというごく一般的な見地から考察するものにすぎないというべきである。被告が本件訴訟で提出する乙第5ないし第7号証(特公平5-7544号公報,特許第2640783号公報,特開2002-201915号公報)にも専ら流路とホイールスペースとの間のシール(密封)について着目した記載があるのみで,補正発明のフレア状構造のように主流の乱れの防止や流線型流れの向上の点にも着目した構成が記載ないし示唆されているわけではないから,相違点3に係る構成の容易想到性についての前記結論を左右するものではない。当業者は,タービン効率を向上させるために,主流の流れをスムーズにするべく,少量の漏洩流を意図的に生じさせて犠牲にしたり,又は他の方法で主流の乱れを抑え,漏洩流を小さくしたり,あるいは異なる冷却等の見地から他の技術的事項を導入するので - 29 -あって,他の多くの要因との兼ね合いで構成を検討するものである。したがって,主流の流量を確保することが重要であるからといって,かかる一般的な要請のみで補正発明の具体的なフレア状構造の構成(相違点3)に容易に想到できるものではない。 で構成を検討するものである。したがって,主流の流量を確保することが重要であるからといって,かかる一般的な要請のみで補正発明の具体的なフレア状構造の構成(相違点3)に容易に想到できるものではない。 (5) 以上のとおり,その余の相違点に係る構成の容易想到性について判断するまでもなく,当業者において相違点3に係る構成に想到することは容易ではないから,補正発明の容易想到性を否定し,本件補正を却下する等した審決の判断には誤りがある。 (6) 結局,原告が主張する取消事由1,2は理由があり,審決は取消しを免れない。 補正発明の作用効果,とりわけフレア状構造による作用効果については,本願明細書(甲5)には前記(1)の程度の記載しか存せず,タービン効率等について数値的な評価が記載されているわけではないので,これが当業者にとって格別顕著とまでいい得るかは不明であるが,構成の容易想到性が認められない以上,少なくとも引用文献1ないし3から当業者が予測し得る程度に止まるとは考えられないので,作用効果の点から補正発明の進歩性を否定するのも困難である。 第6 結論以上によれば,少なくとも原告が主張する取消事由1,2は理由があるから,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 - 30 - 裁判官真辺朋子 裁判官田邉 実 真辺朋子 裁判官田邉 実
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