主文 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文と同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,中古自動車販売業者である被控訴人から自動車修理業者である控訴人に普通乗用自動車1台(本件車両)の修理を依頼し,控訴人が本件車両を保管中盗まれた事故(本件盗難事故)について,被控訴人が債務不履行による損害賠償として81万6290円及び遅延損害金の支払を求めた事案であり,これに対し,控訴人は,本件盗難事故は被控訴人代表者が関わっているから控訴人に帰責事由は存在しない等と主張して争った事案である。 原審は,被控訴人代表者が本件盗難事故に関わっているとまで認めることはできないとし,被控訴人に本件車両のキーの管理が極めて杜撰であった過失を認め5割の過失相殺をし,38万3145円及び遅延損害金の限度で被控訴人の請求を認容し,その余の請求を棄却したところ,控訴人が控訴したものである。 2 当事者の主張は,以下に当審主張を付加するほか,原判決の事実欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 控訴人の当審主張(1) 被控訴人代表者が自ら本件車両の窃取に関与していたか本件事実関係のもとでは,当然被控訴人代表者が本件車両の窃取に関与していたことは優に認定できる。 ア原判決の推論過程に見られる構造的な問題点原判決は,控訴人が主張した事情を,抗弁(1)に摘示された①ないし④の4点に整理(4頁)する一方で,理由(6頁以下)において,① は優に認定できる。 ア原判決の推論過程に見られる構造的な問題点原判決は,控訴人が主張した事情を,抗弁(1)に摘示された①ないし④の4点に整理(4頁)する一方で,理由(6頁以下)において,①ないし④の事情を相互に切り離し,各々単独で逐次検討し,各々単独では「それだけで被控訴人代表者が本件盗難事故を自ら偽装しているとまで認めるには足りない。」などと判示して,控訴人の主張を一つずつ排斥した。 しかしながら,本件盗難事故の偽装性の根拠を,上記①ないし④として,単純に分節・整理することが妥当でないことは,措くとしても,上記①ないし④の事情は,いずれもが相互に相まって本件盗難事故の偽装性を根拠づける事実である。すなわち,規範的な評価を含む主要事実に対する,その規範的評価に関する間接事実に当たるものであって,これらの間接事実はその相互の補強作用によって,被控訴人代表者が自ら本件車両の窃取に関与していたことを推認するものである。 従って,原判決が独自に整理した上記①ないし④の事情はもとより,原審で控訴人が主張した間接事実は全て総合的に考慮し,全体として被控訴人代表者が自ら本件車両の窃取に関与していたか否かが検討されなければならない。 しかるに,原判決は,上記①ないし④の間接事実のみを選択し,それを総合考慮することなく,その各々を単独で証明力・信憑力を検討し,他の事情と切り離して,一つ一つ証明力を否定し,順次考慮外に放擲していっているのであるから,事実認定の構造・推論過程自体が不当かつ不合理であり,誤っている。 イ原審証拠関係のもとで認められる事実認定上の問題点(ア) まず,原判決は,本件車両のキーの使用状況等について認定しているが,最も重要な間接事実が欠落している。 すなわち,本件車両を窃取するために利用された純正 もとで認められる事実認定上の問題点(ア) まず,原判決は,本件車両のキーの使用状況等について認定しているが,最も重要な間接事実が欠落している。 すなわち,本件車両を窃取するために利用された純正スペアキーは,本件盗難事故以前の平成12年12月末ころには紛失していた事実である。 このこと,犯行供与物件たるスペアキーが本件盗難事故の2か月以上も前に被控訴人の従業員の手元から離れていたことは,元従業員Aの供述書(乙5の1)に述べられており,被控訴人代表者も,「もうカギはないことにして」(原審の同本人調書6頁)などと口裏合わせを申し出ていること,スペアキーの紛失時期について,Aの上記供述を否認していない(甲16の4項)ことなどから,明らかである。 上記「スペアキーの紛失時期と,車両の盗難時期が異なる」事実に加え,当初紛失したスペアキーが,本件車両窃取に利用された事実を総合考慮するならば,「スペアキーの窃取と,車両の窃取は同一人物が関与した計画的犯行である」ことが明らかとなる。 そして,「スペアキーの窃取と,車両の窃取は同一人物が関与した計画的犯行である」ならば,その犯人は,Ⅰ 被控訴人事務所内にある被控訴人従業員Bの机の引き出しに他の車両のキーと一緒に雑然と保管されていた当該スペアキー(原判決6頁)が,本件車両のキーであることを知っていたこと,かつ,Ⅱ 平成13年2月8日,被控訴人事務所から遠く離れた控訴人修理工場横の駐車場に,上記盗取キーに対応する本件車両が存在することを知っていた,ということになる。本件窃盗犯人は,上記Ⅰ,Ⅱ二つの条件を兼ね備えた人物に特定されることとなる。 上記Ⅰ,Ⅱの各条件は,単独の条件としてみても,内部事情を知る被控訴人関係者しか満たし得ない条件であり,Ⅰ,Ⅱ二つの条件を満たす人物=犯人は の条件を兼ね備えた人物に特定されることとなる。 上記Ⅰ,Ⅱの各条件は,単独の条件としてみても,内部事情を知る被控訴人関係者しか満たし得ない条件であり,Ⅰ,Ⅱ二つの条件を満たす人物=犯人は,被控訴人代表者本人に限られる(CはⅠ,Ⅱともに条件を欠き,AはⅡの条件を欠く。)。第三者では絶対にありえない。すなわち,本件車両窃取の犯人は,被控訴人代表者本人とその従業員に限られることは,社会通念上断定して何ら差し支えない事実である。 (イ) さらに加えるに,特に本件車両は,ボルボ型式E-8B5234Wであって,イモビライザーというコンピュータによる制御装置が装着されており,被控訴人代表者又はその従業員でないと作動しないシステムとなっているのである。 (ウ) 従業員A及び同Cの供述内容の詳細は,録音テープの反訳書(乙10,13)のとおりである。両名の供述は,具体的かつ詳細であり,何ら不自然・不合理なところは認められず,極めて信用性の高いものである。 (エ) 本件車両の修理完了の事実の告知を受けたのは,被控訴人代表者本人に限られるのであるから,被控訴人から反証なき限り,当該事実を知っていたのは被控訴人代表者に限られると推認すべきである。 本件盗難事故発生当時,本件車両のキーを扱えた者は,被控訴人代表者と従業員のAに限られたところ,Aは,平成13年2月8日(控訴人代表者が被控訴人代表者に本件車両の修理完了を告げた日)から,本件盗難事故発生後の同月10日までの間,本件車両が修理されていた事実を知らなかったからである(乙14)。 従って,本件盗難事故を実行しうる立場にあった者は,被控訴人代表者に限られることは明らかである。 (オ) 被控訴人代表者は,本件の他にも多数の不審な保険事故に遭遇したとして複数の保険会社に保険請求をしていること を実行しうる立場にあった者は,被控訴人代表者に限られることは明らかである。 (オ) 被控訴人代表者は,本件の他にも多数の不審な保険事故に遭遇したとして複数の保険会社に保険請求をしていること本件盗難事故と直接利害関係のない,その意味で第三者的立場にある,複数の保険会社が,被控訴人代表者がらみの保険事故を複数報告していること(乙1,2)は,極めて異例のことであり,本件盗難事故に係る,被控訴人代表者の犯人性を基礎づけ,本件盗難事故の偶然性を否定する他の間接事実の充分な補強証拠となるものである。 (カ) 本件盗難事故後,被控訴人代表者が従業員に「キーは1本しかなかったと話を合わせてくれ。」と口裏合わせを頼んだ事実について原判決は,「保険会社に疑われると保険金が下りなくなるので,なるべく疑わしきは隠したかったという被控訴人代表者の説明も,被控訴人会社が関係する保険会社に対する他の保険金請求の一部が保留されているという状況下においては,あながち不自然な弁解とも言い切れず」と判示している。 しかし,「保険会社に疑われると保険金が下りなくなる」という趣旨・理由は全く理解できない。そもそも,「疑わしきは隠したかった」というが,キーがもともと2本あった事実を述べることで,何が疑われるのか,全く理解できない。 仮に,被控訴人代表者が,スペアキーを使った自作自演の偽装事故を疑われることを隠したかった,というのであれば,正に代表者自ら偽装事故と疑われることを恐れる客観的な状況下にあり,かつ,後ろめたく,やましい心理状況にあったことを自認するに等しく,かかる被控訴人代表者の不審行動自体が不正疑惑を著しく強めるものというべきである。 被控訴人代表者にしてみれば,スペアキーの紛失に気付いたのは本件盗難後のことだというのであるから(原審の同本人 ,かかる被控訴人代表者の不審行動自体が不正疑惑を著しく強めるものというべきである。 被控訴人代表者にしてみれば,スペアキーの紛失に気付いたのは本件盗難後のことだというのであるから(原審の同本人調書5頁),そのスペアキーの盗難と同時に,そのキーを使って盗まれたのだと思う旨報告すれば,一応辻褄は合うのである。これに対し,もともとキーは1本しかなかったという形で事実関係を歪曲しようとすれば,かえって疑われることになることは必定である。何故なら,本件車両はイモビライザーという特殊な盗難防止装置のついたキーでないと作動しないのであるから,仮に窃盗犯人が,窃取のためレッカーで本件車両を場所的に移動させたとしても,本件車両に乗車しようにも動かしようがないのであって,キーが控訴人に預けた1本だけということはありえないのではないか,という形でかえって疑われることになるうえ,そもそもキーの本数を偽ってみても,調査員が販売元で調査すれば容易に当該虚偽申告は発覚するからである。 すなわち,被控訴人代表者の口裏合わせに関する上記弁明は,不合理かつ不可解なものであって,何ら措信するに足りるものではない。 (キ) 原判決は,交通事故で摘発されたDに関する刑事記録を検討しても,「被控訴人代表者とDあるいはDが本件車両の入手先と供述しているEとの間に何らかの結びつきがあることを肯定するに足りる資料はない。」(原判決7頁)として,被控訴人代表者の犯人性を否定する一つの根拠としている。 しかし,かかる人的関係が明らかとされていないのは,警察の捜査能力の限界若しくはその怠慢に起因するもので,言うまでもなく,Dと被控訴人代表者との間接的なつながりを否定する理由にはならない。Dとして,被控訴人代表者の関与なしには,本件車両とイモビライザーの装着されたスペアキーを自 怠慢に起因するもので,言うまでもなく,Dと被控訴人代表者との間接的なつながりを否定する理由にはならない。Dとして,被控訴人代表者の関与なしには,本件車両とイモビライザーの装着されたスペアキーを自己の占有下におくことが不可能であることが推認できれば,被控訴人代表者の関与を認めるに充分である。 ウ控訴審において補充する事情(ア) 被控訴人代表者の欺瞞性・詐欺性に関すること本件車両の走行距離が約8万キロであったことは,被控訴人代表者自身も認める事実であるが(原審の同本人調書18頁),元従業員Aの供述によれば,被控訴人が本件車両を広告宣伝するために掲載していた雑誌には,走行距離1万キロで掲載されていたというのである。 かかるエピソードは,いうまでもなく,被控訴人代表者の詐欺性・欺瞞性を如実に示すものというべきであろう。 (イ) 従業員Aの犯人性を否定する事情従業員Aの供述によれば,本件盗難事故に遭う直前の平成12年12月,Fから本件車両購入につき打診があり,Aは,販売手続を進めようとして,被控訴人代表者に申し向けたところ,いつの間にか,ボンネットが凹損しており,被控訴人代表者は,その破損を修繕した上で,当該顧客に見せる旨発言したというのである。 すなわち,従業員の立場としては,せっかく顧客との交渉が始まり,売上収益をあげる見込みがついた状況のもとで,殊更当該車両を奪うことは通常考えがたいことである。 また,もしAが犯人であるとすれば,本件車両が修理に出されることになったという偶発的な思いがけない出来事がおきた平成13年2月6日からわずか2日後までの間に,盗品引渡条件の交渉,車両隠匿の方法・場所の設定等,盗難のための一切の準備行為を完了させたということになるが,かかる事態は我々の健全な社会常識に照らし,あり得るこ 月6日からわずか2日後までの間に,盗品引渡条件の交渉,車両隠匿の方法・場所の設定等,盗難のための一切の準備行為を完了させたということになるが,かかる事態は我々の健全な社会常識に照らし,あり得ることであろうか。 仮に,百歩譲って,従業員Aに疑惑が多少ともあると仮定しても,その可能性のレベル,疑惑のレベルは,①真っ先に,控訴人から本件車両の所在を確認し,②本件の他にも多数の疑惑を伴う保険事故を頻発させ,かつ,③本件においても不可解な口裏合わせを求めるといった,不審行動を取った,被控訴人代表者の疑惑と比べるならば,雲泥の差であり,全く考慮に値しない程度のものである。 (2) 控訴人に本件車両について管理上の過失があったかア原判決は,控訴人に本件車両について管理上の過失があったと認定し,その具体的内容として,「本件車両を修理工場から露天の駐車場に移動して,キーをロックしただけで特段の盗難防止装置も採らずに,夜間そのままの状態で上記駐車場での保管を継続しておくことは,修理済み自動車の盗難防止の観点からは安易・軽率に過ぎるとの非難を免れない。」と判示する。 イしかし,上記判示は不当である。 日本の駐車場の絶対多数は,露天の駐車場であって,窃盗犯人が車両窃盗を企図すれば,容易に出入り可能な駐車場である。かかる駐車場においても,キーをロックして,それを安全な建物内に保管すれば,通常は盗難対策として必要かつ十分な措置というべきであって,現に,絶対多数の自動車保有者はそのようにして,自動車を管理していることは社会常識に属する事柄である。 実際,下級審の一般的傾向は,ドアを施錠したうえで当該車両を駐車場に駐車させ,かつ,閉鎖された建物内にキーを保管すれば,保管者として「保管上の注意義務を尽くしている」と認定されるのであり(広島地裁平成 際,下級審の一般的傾向は,ドアを施錠したうえで当該車両を駐車場に駐車させ,かつ,閉鎖された建物内にキーを保管すれば,保管者として「保管上の注意義務を尽くしている」と認定されるのであり(広島地裁平成元年6月30日判決・判例時報1346号118頁以下参照),「客観的にみて第三者が自由に立ち入ることができる駐車場」に車両を駐車させた者の管理責任が問われるのは,エンジンキーを差し込んだままの状態でドアに施錠もせずに置いたような,例外的な場合に限られているのである(大阪地裁昭和61年3月27日判決・交民19巻2号426頁。なお,東京高裁昭和62年3月31日判決・判例タイムス645号226頁以下参照)。 ウまして,本件車両(ボルボ型式E-8B5234W)は,メーカーの盗難対策として,イモビライザーが装着され,コンピュータ制御で使用者が所持しているキーでないと作動しないように制御されているのである。 エよって,控訴人は,自動車修理業者として,本件車両の管理上必要な注意義務を尽くしていたというべきであり,控訴人に管理上の過失を認定した原判決の判断は誤っている。 (3) 損害(本件車両の修理代金)と本件盗難事故との因果関係について仮に控訴人に賠償責任が発生すると仮定しても,本件車両の修理代金40万9290円は,本件盗難事故との間の相当因果関係を欠くものである。 ア本件車両盗難後,窃盗犯人関係者から本件車両を処分目的で預かった第三者Dが惹起した交通事故(以下「本件交通事故」という。)の結果,「フロントガラスと車幅灯が割れ,ボンネットと前部バンパーが凹損」した事実は一応証拠上認定できるが(甲7の5丁),盗難車両が,盗難後に交通事故による損傷を受けることは極めて異例のことである。何故なら,財産犯においては,犯人は,利欲犯の性格上,犯行後も客体たる財物 た事実は一応証拠上認定できるが(甲7の5丁),盗難車両が,盗難後に交通事故による損傷を受けることは極めて異例のことである。何故なら,財産犯においては,犯人は,利欲犯の性格上,犯行後も客体たる財物の価値を維持しようと配慮するのが通常であり,特に,自動車窃盗においては,交通事故を起こせば直ちに犯行発覚に直結するため,犯人及びその車両保管者は,交通事故を起こさないように配慮するのが当然だからである。 従って,車両盗難後の交通事故による車両損傷は,当事者に予見できない「特別の事情」(民法416条2項)に当たるというべきである。 イ加えるに,本件交通事故は単なる自転車との衝突事故であり,運転者は,そのまま本件車両に乗って現場を逃亡し,しばらく走行した後にゴルフ場の駐車場内に本件車両を放置したものであって,本件交通事故によってブレーキが損傷した訳ではない。しかるに,修理費の請求書(甲14)の内訳を見るに,「ブレーキパット」の脱着・交換,「ブレーキクリーナー及びグリス」及び「ブレーキエアー抜き工賃」等ブレーキの老朽化に伴う修理も含まれているのである。かかるブレーキ関連費用は,本件盗難事故及び本件交通事故とは何ら関連性のない損害であることは明白である。 (4) 使用者責任等ア原判決は,被控訴人の事務所内での自動車の鍵の管理が極めて杜撰であったことを根拠に,5割の過失相殺を認めている。 イしかしながら,仮に,被控訴人代表者の犯人性が否定されたと仮定しても,本件事実関係のもとでは,被控訴人代表者が犯人でないとすれば,必然的に従業員Aが犯人とならざるを得ないという関係にあることは,前記のとおりである。 したがって,被控訴人としては,いずれにしても使用者責任を負うべき立場にあることになる。 そうであるならば,賠償責任者が,賠償請求をす を得ないという関係にあることは,前記のとおりである。 したがって,被控訴人としては,いずれにしても使用者責任を負うべき立場にあることになる。 そうであるならば,賠償責任者が,賠償請求をするなど自己矛盾に他ならず,主張自体失当というべきである。 ウ仮に,被控訴人代表者が使用者責任を負わないことが観念上ありうるとしても,被控訴人代表者は,事前にキーが紛失していたことを熟知していたもので,本件車両の盗取を計画的に狙っている者(自己の従業員に限られる)の所在を当然に予見できる状況のもとで,かかるキー喪失の事実を放置し,その事実を控訴人に告げることもせず,同人に修理目的で預け,かつ,本件車両の盗取を計画的に狙っていると疑われる従業員にわざわざ車両の所在と盗難容易な状況にあることを告げたということになるのであるから,本件盗難事故は起こるべくして起こったか,あるいは自ら招致したに等しいというべきである。 従って,被控訴人の過失割合は5割程度にとどまる,ということはありえず,最低限9割を下らないものというべきである。 4 被控訴人の当審主張(1) 控訴人は,原判決抗弁事実①ないし④を切り離して単独で逐次検討し,被控訴人代表者が本件車両の窃取に関与したことを否定したことについて,論難する。 しかし,これは事実の認定と推論という評価過程とを混同する誤った主張である。すなわち原判決は,①について,Cについては本件車両のキーを選別することができなかったと認めるのは疑問が残ると認定しているのであり,②については被控訴人会社の従業員にも修理が完了したことを伝えたことは十分にあり得ると認定しているのであり,③についても控訴人が「不審」と主張する保険金請求が客観的に不審であるか否かの証明がないと認定しているのであり,④についても,口裏合わせを たことを伝えたことは十分にあり得ると認定しているのであり,③についても控訴人が「不審」と主張する保険金請求が客観的に不審であるか否かの証明がないと認定しているのであり,④についても,口裏合わせを画策したとしても無理からぬ面があると認定しているのである。 控訴人の主張は,①ないし④の事実を総合考慮する必要があると述べながら,その論理構造を全く提示していない。 (2) 控訴人は,Aの陳述書(乙5の1)の記載を正しいものとし,平成12年12月末頃にはスペアキーが紛失していたとの事実を前提として論理を展開する。 しかし,Aが平成12年12月末ころにスペアキーがなくなっていた事実に気づいていたのであれば,被控訴人代表者に対し,その事実を報告してしかるべきである。また,従前からキーがなくなっていた事実に気づいていたのであれば,被控訴人代表者から口裏合わせを頼まれたときに,実際の平成12年12月末頃になくなっていた事実を伝えてしかるべきである。控訴人の上記主張は,この点について全く言及しないまま,独自に論理を展開するものであり,前提を欠く議論といわなければならない。 (3) 控訴人は,本件自動車の修理が完了していたことを被控訴人代表者以外の者が知り得た事実を,被控訴人において主張立証すべきであるのに,それがないと述べる。 しかし,被控訴人は,原審においてその事実を主張している。また,その立証については,電話が事務所に入った可能性などを指摘しており,原判決の認定に,立証責任の分配に関する公平の原則・理念には反する部分はない。 (4) 控訴人は,被控訴人代表者がらみの保険事故が複数報告されていることを極めて異例なことであると主張する。しかしながら,被控訴人が原審においてした反論については全く言及していない。 (5) 控訴人は,本件車両は,イ 控訴人代表者がらみの保険事故が複数報告されていることを極めて異例なことであると主張する。しかしながら,被控訴人が原審においてした反論については全く言及していない。 (5) 控訴人は,本件車両は,イモビライザーという特殊な盗難防止装置のついたキーでないと作動しないとして,被控訴人代表者が,そのような装置の付いた車両であると知っていたことを前提として立論する。 しかし,被控訴人代表者は,そのような装置があることを知らなかったのであり,控訴人の立論はその前提を欠くものである。 (6) 使用者責任と過失相殺について控訴人の主張は,賠償責任者が,賠償請求するのは自己矛盾であるというものである。しかし,仮に本件犯行に被控訴人の従業員が関与していたとしても,それは被控訴人の業務の執行ではなく,従業員の行為について被控訴人が責任を負う理由はない。従って,控訴人の主張は誤りであり,被控訴人は,キーの管理の杜撰さの範囲において責任を負うに過ぎない。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因(1)(当事者),(2)(本件車両の修理依頼と引渡し),及び(3)(本件盗難事故の発生)の各事実は,当事者間に争いがない。 2 そこで,抗弁(1)(被控訴人代表者が自ら本件車両の窃取に関与していたか)について,判断する。 前記当事者間に争いのない事実に,証拠(甲16,乙3,4,5の1・2,8,10,11,13の1,14,原審における控訴人代表者,同被控訴人代表者,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件車両は,被控訴人が平成12年3月ころ購入し,商品として自動車情報誌等に掲載する一方で,被控訴人代表者が自家用車代わりに日常使用することとした。 (2) 本件車両には,純正キーとして,メインキーとスペアキーの2本しかなく,被控訴人 ろ購入し,商品として自動車情報誌等に掲載する一方で,被控訴人代表者が自家用車代わりに日常使用することとした。 (2) 本件車両には,純正キーとして,メインキーとスペアキーの2本しかなく,被控訴人代表者が本件車両を使用する際にはメインキーを使用し,純正スペアキーは被控訴人の事務所内にある従業員Bの机の引き出しに他の車両のキーと一緒に雑然と保管されていた。 なお,本件車両には,盗難対策としてイモビライザーが設置されており,キーと車両のIDコードが一致しない限り始動しないようになっていた。 (3) 本件車両のスペアキーは被控訴人事務所の上記机の引き出しに保管されていたが,上記スペアキーは,同年12月ころ上記保管場所からなくなっていた。 (4) 平成13年2月6日,被控訴人代表者は控訴人に本件車両の修理を依頼し,本件車両を引き渡したが,その際,被控訴人代表者はメインキーを控訴人代表者に預けた。 (5) 同月8日,控訴人は本件車両の修理を完成させ,控訴人代表者は同日午後3時ころ被控訴人代表者の携帯電話に連絡してその旨を伝えた後,本件車両を控訴人修理工場内から同工場横の駐車場に移動し,ドアをロックして同所に置いておいた。なお,本件車両のメインキーは修理工場内に保管した。 (6) 同日の夜間に,上記駐車場から本件車両が何者かに盗まれた。 (7) 本件盗難事故を受けて,保険会社の調査員が被控訴人事務所へ盗難事故の調査に出向くことになった際,被控訴人代表者は,従業員であったAやCに対し,「変に疑われても嫌だから,キーは(当初から)1本しかなかったと話を合わせてくれ。」と言って,調査員に対する口裏合せを頼んだ。 (8) 同年3月24日,岐阜市内で本件交通事故が発生し,その事故車両が本件車両であることが判明した。 本件交通事故の際に本件車両を運転してい くれ。」と言って,調査員に対する口裏合せを頼んだ。 (8) 同年3月24日,岐阜市内で本件交通事故が発生し,その事故車両が本件車両であることが判明した。 本件交通事故の際に本件車両を運転していたDが所持していたキーは本件車両の純正のスペアキーであり,また本件車両のキーシリンダーには何らの損傷もなく純正スペアキー以外のキーが使用された形跡はなかった。 3 前項認定の事実によれば,本件車両にはイモビライザーが装備されており,盗難後発見された本件車両には純正スペアキー以外のキーが使用された形跡はなかったのであるから,本件車両窃取のために,約2か月前に被控訴人事務所からなくなった純正スペアキーが使用されたものと認められる。 この点につき,被控訴人は,被控訴人代表者は本件車両にイモビライザーが装備されていたことを知らなかったのであるから,控訴人の主張は前提を欠く旨主張する。 しかしながら,弁論の全趣旨によれば,盗難防止装置としてのイモビライザーは,複製キーによったり,車両の電気配線を直結したりしても車両を始動することができず,車両の使用には純正キーを必要とすることが認められ,仮に被控訴人代表者が本件車両にイモビライザーが装備されていたことを知らないとしても,本件車両窃取の約2か月前に被控訴人事務所からなくなった純正スペアキーが使用されたとの上記認定を左右するものではない。被控訴人の同主張は採用できない。 そして,本件車両は被控訴人代表者が使用していた間,あるいは被控訴人事務所周辺にあった間ではなく,たまたま修理のため控訴人の修理工場横の駐車場に置いてあったときに盗難に遭ったことに鑑みれば,第三者が被控訴人事務所から本件車両の純正スペアキーを盗み出し約2か月経過後本件車両を窃取したとは考えられず,本件車両盗難には被控訴人の代表者ないし に置いてあったときに盗難に遭ったことに鑑みれば,第三者が被控訴人事務所から本件車両の純正スペアキーを盗み出し約2か月経過後本件車両を窃取したとは考えられず,本件車両盗難には被控訴人の代表者ないし従業員が関与していたと推認することができ,同推認を覆すに足りる証拠はない。 しかも,控訴人代表者から修理が完成し修理工場横の駐車場に置いておく旨の連絡を受けたのは,被控訴人代表者であり,被控訴人代表者が他の被控訴人従業員にこれを伝えたことを窺わせる証拠は何もない(被控訴人は,その可能性を主張するが,控訴審の段階に至ってもその点の立証は何ら存在しない。)ことを考慮すると,本件車両盗難に関与したのは被控訴人代表者である可能性が高いとみるべきである。 4 そして,上記2認定の事実によれば,本件盗難事故後保険会社の調査員が被控訴人事務所に調査に来る前に,被控訴人代表者は,従業員であったAやCに対し,「変に疑われても嫌だから,キーは(当初から)1本しかなかったと話を合わせてくれ。」と言って,調査員に対する口裏合せを頼んだことを認めることができ,同口裏合わせの依頼は,事務所に従前存在した本件車両の純正スペアキーを使用して本件車両盗難が行われたことを隠しておきたかったからとみるのが自然であって,本件車両窃取に被控訴人代表者が関与したと認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人代表者は,原審における本人尋問において,「保険会社に疑われると保険金が下りにくくなるので」と,その動機を説明する。確かに,乙1・2の各1・2によれば,被控訴人に関して車両の保険事故が多発し保険会社から疑義を持たれている状況にあったことが認められ,余分な疑いは避けたかったとする被控訴人代表者の説明も,当時の状況には合致していると言えなくはない。 しかし,疑いを招くような状況 し保険会社から疑義を持たれている状況にあったことが認められ,余分な疑いは避けたかったとする被控訴人代表者の説明も,当時の状況には合致していると言えなくはない。 しかし,疑いを招くような状況にある際に,その疑いを免れようとして事実を隠蔽したり偽りを述べたりすると,一般に保険会社の調査は表面的なものにとどまらず他の客観的な状況と対比するので,かえって上記隠蔽行為などの不審性が明らかとなり疑惑を著しく強めることになる。そして,そのことは,上記多発する事故により保険会社と折衝等をしていたとみられる被控訴人代表者にとっては自明のことであると考えられるから,被控訴人代表者の口裏合わせに関する上記説明は,不合理かつ不可解なものであるというべきである。 5 したがって,抗弁(1)は理由があり,その余の点につき判断するまでもなく,被控訴人の本件請求は理由がなく,棄却すべきである。 よって,これと一部異なる原判決のうち控訴人敗訴部分を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫 裁判官藤田敏裁判官倉田慎也 田慎也
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