令和4年3月31日判決言渡同日原本受領裁判所書記官令和3年(ワ)第8236号商標使用料請求事件口頭弁論終結日令和4年2月15日判決 原告株式会社A.C.I. 同代表者代表取締役同訴訟代理人弁護士政野 猛 被告株式会社チャンス破産管財人坂下泰啓主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 被告は、原告に対し、3300万円及びこれに対する令和2年10月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、破産手続開始決定がなされた株式会社チャンス(以下「チャンス社」という。)との間で商標使用権許諾契約(以下「本件契約」という。)を締結していた原告が、チャンス社の破産手続開始後の商標使用料請求権は財団債権に該当すると主張し、チャンス社の破産管財人である被告に対し、本件契約に基づき、未払の商標使用料3300万円及びこれに対する催告期間経過後とされる令和2年10月 21日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。 1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)(1) 当事者等ア原告は、スニーカー等の履物の製造、販売等を目的とする株式会社であり、 HO&OH、TOP-7、DB、FS、FO、HM、ZIRA 等を登録商標とする商標権を有している(甲1)。 イチャンス社は、スポーツシ カー等の履物の製造、販売等を目的とする株式会社であり、 HO&OH、TOP-7、DB、FS、FO、HM、ZIRA 等を登録商標とする商標権を有している(甲1)。 イチャンス社は、スポーツシューズ等の履物商品の企画、製造、卸、販売等を目的とする株式会社である(甲2)。 (2) 事業譲渡等 ア原告は、平成26年5月15日、チャンス社との間で、年間4000万円(消費税別)でHO&OH 等の商標使用を許諾する旨の合意をした(乙1)。 イ原告は、平成26年5月21日、チャンス社との間で、原告の事業をチャンス社に譲渡する旨の合意をした(乙2)。 (3) 本件契約の締結 原告は、令和元年5月21日、チャンス社との間で、次の内容で原告の登録商標の使用を許諾する旨の合意(本件契約)をした(甲6)。 ア対象商標 HO&OH、TOP-7、DB(以下「本件商標」という。)イ使用許諾の内容原告がチャンス社に対し本件商標を付した商品を企画、製造、販売することを許諾する。 ウ商標使用料各年10月、12月及び3月の各末日限り、各1000万円(年3000万円、消費税別)を支払う。 エ期間令和元年5月21日から令和4年5月20日まで(4) チャンス社の民事再生手続の開始等アチャンス社は、令和2年5月25日、大阪地方裁判所に対し、再生手続開始 の申立てを行い、同裁判所は、同年6月5日、チャンス社に対し、再生手続の開始 決定をし、同月24日、坂下泰啓弁護士(本件で破産管財人として被告となっている。)を管財人に選任して管理命令を発令した(甲2~4)。 同裁判所は、同年10月30日、再生手続廃止決定をするとともに、同弁護士を保全管理人に選任して管理命令を発令した(乙14、15)。同廃止決定は、 )を管財人に選任して管理命令を発令した(甲2~4)。 同裁判所は、同年10月30日、再生手続廃止決定をするとともに、同弁護士を保全管理人に選任して管理命令を発令した(乙14、15)。同廃止決定は、同年11月26日の経過により確定した(乙14、16、弁論の全趣旨)。 イ大阪地方裁判所は、令和2年11月27日、チャンス社について破産手続開始決定をするとともに、被告を破産管財人に選任した。 (5) 本件契約に基づく商標使用料の未払等ア原告は、チャンス社に対し、令和2年9月29日付けの請求書によって、同年10月20日までに、本件契約に基づく商標使用料3300万円(消費税込)を 支払うよう求めた(甲7)。 イ被告は、原告に対し、令和2年10月末日以降に期限が到来する本件契約に基づく商標使用料を支払っていない。 (6) 破産管財人による解除被告は、令和3年5月14日、原告に対し、破産法53条1項に基づき、本件契 約を解除する旨の意思表示をし、同意思表示は、同月15日、原告に到達した。 2 争点(1) 本件契約に基づく商標使用料請求権の存否及び同請求権が財団債権に当たるか(争点1)(2) 原告が商標使用料を求めることが権利濫用に当たるか(争点2) 第3 争点についての当事者の主張 1 本件契約に基づく商標使用料請求権の存否及び同請求権が財団債権に当たるか(争点1)(原告の主張)(1) 本件契約は、原告がチャンス社に対し商標の独占的使用を認めたものでは ないから、商標使用権の設定自体には全く価値はなく、チャンス社が実際に商標を 使用して商品の製造、販売等を行って初めて価値が生じるものである。また、被告は、在庫商品等の処分が終わった令和3年5月15日に至って本件契約を解 全く価値はなく、チャンス社が実際に商標を 使用して商品の製造、販売等を行って初めて価値が生じるものである。また、被告は、在庫商品等の処分が終わった令和3年5月15日に至って本件契約を解除したが、これは、被告自身が、在庫商品等の販売をするに当たり、本件契約を必要としていたことの現れであり、また、本件契約において、日々の商標使用を許諾されていたことを認識していたことの現れである。このような本件契約の性質や契約当事 者の認識に照らすと、本件契約に基づく商標使用料請求権は、日々の商標使用の対価であるといえる。 これを前提とすると、破産手続開始後の商標使用料請求権は、破産手続開始後に生じた請求権として、破産法148条1項8号により財団債権となり、再生手続開始後、かつ、破産手続開始前の商標使用料請求権は、再生手続開始後の再生債務者 の業務、財産の管理及び処分に関する費用の請求権として、民事再生法119条2号により共益債権となり、その後、破産手続開始に至るまでは、同法252条6項により財団債権となる。 また、破産手続開始後の商標使用料請求権は、破産法148条1項7号の適用又は類推適用により財団債権となる。すなわち、ライセンス品を処分する場合、破産 管財人はライセンス契約の履行を選択する必要があるところ、被告は、令和3年5月14日まで本件契約の解除をせず、その間、破産手続において、本件商標が付された商品を販売、換価し、その結果、破産財団を合計1億3750万円以上増殖させていることから、被告は、本件契約を解除するまでの間、双方未履行の双務契約である本件契約について、履行の選択をしていたものと同視することができる。 仮に、これらの主張が認められないとしても、本件契約の解除に伴う反対給付の返還としての商標使用料相 履行の双務契約である本件契約について、履行の選択をしていたものと同視することができる。 仮に、これらの主張が認められないとしても、本件契約の解除に伴う反対給付の返還としての商標使用料相当額について、破産法54条2項により財団債権となる。 (2) 被告は、被告が本件契約を解除したことから、破産法53条1項により、本件契約が遡及的に消滅し、被告は本件契約に基づく商標使用料の支払義務を免れる旨を主張する。 しかし、破産法148条1項8号は、破産手続開始後その契約の終了に至るまで の間に生じた請求権について規定していることから、破産法53条1項に基づく解除がなされた場合、双方未履行の双務契約が遡及的に無効になったとしても、解除に至るまでに発生していた債権が消滅することはない。 (被告の主張)(1) 本件契約はいわゆるライセンス契約であり、一般に双方未履行の双務契約 とされていることから、破産法53条による規律を受ける。契約の解除が選択された場合、ライセンス契約は消滅し、ライセンシーはライセンス契約の目的たる権利等の利用又は実施をすることができなくなるが、他面で、ロイヤルティーの支払義務を免れる。本件契約に基づく商標使用料請求権は、被告が本件契約を解除したことから消滅し、被告は商標使用料の支払義務を免れている。 (2) 原告は、本件契約に基づく商標使用料請求権が、日々の商標使用の対価であるとして、破産手続開始の前後をとおして、同請求権は財団債権となる旨を主張する。 しかし、本件契約は、破産法53条1項による解除によって遡及的に消滅したのであるから、本件契約に基づく商標使用料請求権も契約解除に伴って遡及的に消滅 するだけで新たに発生することはない。また、本件契約は、契約期間が3年 53条1項による解除によって遡及的に消滅したのであるから、本件契約に基づく商標使用料請求権も契約解除に伴って遡及的に消滅 するだけで新たに発生することはない。また、本件契約は、契約期間が3年間であり、信用不安、事業譲渡、契約違反のほかは中途解約が認められておらず、原告は契約後に一切の負担を負わず、解除時にも契約期間に応じて使用料を精算する規定はないことから、はじめに3年間の使用許諾が与えられ、同時に3年分の商標使用料請求権が発生すると考えられる。使用料の対価が年間3000万円とされている のは、支払期限を示しているにすぎず、本件契約に基づく商標使用料が日々の商標使用の対価として発生すると理解すべき理由はない。 また、原告は、破産法148条1項7号の適用又は類推適用を主張する。しかし、被告が、本件契約の履行を選択したことも、裁判所に履行選択の許可申請をしたことも、原告に「履行を選択する」などと発言したこともない。一般に破産管財人に よる破産法53条の解除権行使に時的限界はないとされており、被告は、諸般の事 情を見計らって、最適なタイミングを選んで解除権を行使したにすぎないのであって、原告としては、被告に対し、履行選択をするかどうか催告することもできたのに(破産法53条2項)、催告しなかったものである。被告が、破産管財人に通常期待される在庫商品の処分を行ったことによって、履行選択が擬制されることはない。 さらに、原告は、本件契約の解除に伴う反対給付の返還としての商標使用料相当額について、破産法54条2項により財団債権となる旨を主張するが、本件契約の目的物は商標を使用することの許諾という権利であり、原告が被告に給付した物はないから、破産法54条2項の適用はない。 2 原告が商標使用料を求めることが権利 財団債権となる旨を主張するが、本件契約の目的物は商標を使用することの許諾という権利であり、原告が被告に給付した物はないから、破産法54条2項の適用はない。 2 原告が商標使用料を求めることが権利濫用に当たるか(争点2) (被告の主張)チャンス社は、原告のスニーカー事業を承継すべく平成26年に設立された株式会社である。原告からチャンス社への事業譲渡がされて以降は、専らチャンス社が商品企画、広告、宣伝を行って商品を販売し、多数の直営店を展開してきた。「ドラゴンベアード」、「トップセブン」といった商標は、専らチャンス社の活動を通 じてその価値が維持されてきたが、原告が商標等の価値を維持するために費用を負担したことはない。そうであるにもかかわらず、チャンス社は、商標使用料として、設立後倒産まで、原告に対し、毎年4000万円又は3000万円(消費税別)もの商標使用料を支払っており、チャンス社は、税込み総額で2億円近い資金を原告に上納した。破産債権者から見れば、原告とチャンス社は、原告及び株式会社ステ ップ(以下「ステップ社」という。)を設立したP1氏がステップ社を中核として一体経営していたグループ会社であり、本件契約は、原告が、チャンス社から、何もせずに資金を吸い上げるために仕組んだ「上納金徴収システム」にすぎない。 原告及びステップ社は、莫大な資産を保有していながら、民事再生を申し立てたチャンス社を救済しなかった結果、チャンス社は倒産した。チャンス社の倒産に道 義的責任のある原告が、内部的な上納金徴収システムにすぎない本件契約を盾にと り、破産管財人が換価をするために事業を継続し、残された商品を販売したことを理由に、換価後の破産財団に対して3300万円もの商標使用料を請求することは、破産債権者 ない本件契約を盾にと り、破産管財人が換価をするために事業を継続し、残された商品を販売したことを理由に、換価後の破産財団に対して3300万円もの商標使用料を請求することは、破産債権者との関係で「権利の濫用」というほかなく、許されるものではない。 (原告の主張)P1氏は、平成22年から平成26年までの間、原告から多い時で1億1800 万円もの役員報酬を得ていたのであり、自己の利益を追求するのであれば、原告のスニーカー事業をチャンス社に譲渡しない方がよかった。しかし、P1氏は、ステップ社の代表取締役を10年間務めたP2氏に対し、その労い及びステップ社の代表取締役退任後の生活の糧として、原告のスニーカー事業をチャンス社に譲渡した。 また、チャンス社へのスニーカー事業の譲渡後、P1氏ら当時の役員は退任し、年 間約9400万円から約1億6000万円の役員報酬の支払を免れることから、商標使用料4000万円ないし3000万円の支払をしてもなお利益が出た。 したがって、本件契約は上納金徴収システムではなく、権利濫用とされる理由はない。 第4 当裁判所の判断 1 本件契約に基づく商標使用料請求権の存否及び同請求権が財団債権に当たるか(争点1)について(1) 本件契約はライセンス契約であるところ、破産手続開始決定時において、ライセンサーのライセンシーに対する商標使用受忍義務と、ライセンシーのライセンサーに対する商標使用料支払義務は、その将来の期間分の義務については双方未履 行の双務契約となる。前提事実(6)記載のとおり、被告は、令和3年5月15日、原告に対し、破産法53条1項に基づき、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことから、本件契約は遡及的に消滅し、被告は本件契約に基づく商標使用料の支払義務を 載のとおり、被告は、令和3年5月15日、原告に対し、破産法53条1項に基づき、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことから、本件契約は遡及的に消滅し、被告は本件契約に基づく商標使用料の支払義務を免れることになる。 (2) 原告は、本件契約に基づく商標使用料請求権は、日々の商標使用の対価であ ることを指摘して、破産手続開始の前後をとおして、本件契約に基づく商標使用料 請求権は財団債権となる旨を主張する。しかし、前提事実(3)記載のとおり、本件契約は、期間を3年として、原告が本件商標の使用を許諾し、チャンス社が各年10月、12月及び3月の各末日限り、各1000万円(年3000万円、消費税別)を支払う内容であることに加え、契約書(甲6)によれば、信用不安、事業譲渡、契約違反のほかは中途解約が認められておらず、解除時に契約期間に応じて使用料 を精算する規定、その他一定期間の本件商標使用の対価として使用料を支払うことをうかがわせる規定は存在しないことが認められる。これらの事情に照らすと、本件契約は、令和元年5月21日の契約締結時において、原告が、チャンス社に対し、契約期間である3年間の本件商標の使用許諾を与え、他方で、被告が、これに対応する契約期間3年間の商標使用料の分割支払義務を負ったと解するのが相当である。 また、原告は、被告が本件商標を使用した在庫商品の処分等を行った後に本件契約を解除したのであるから被告が本件契約の履行の選択をしたものと同視することができるとして、破産手続開始決定後の本件契約に基づく商標使用料請求権は、破産法148条1項7号の適用又は類推適用により財団債権となる旨を主張する。しかし、破産管財人が破産法53条1項に基づき履行を選択したことやこれに対し裁 判所が許可をしたこと(破産法 求権は、破産法148条1項7号の適用又は類推適用により財団債権となる旨を主張する。しかし、破産管財人が破産法53条1項に基づき履行を選択したことやこれに対し裁 判所が許可をしたこと(破産法78条2項9号)を認めるに足りる証拠はない上、破産法53条1項に基づく破産管財人の解除権行使の時期に特段の定めはないところ、原告が本件商標を付した在庫商品の処分等に疑義があるならば、同条2項に基づく催告を行うことができるが、原告がかかる催告等を行った形跡はない。その他、本件に破産法148条1項7号を類推適用すべき事情はうかがわれない。そうする と、破産手続開始後、本件契約解除の意思表示前に期限の到来した商標使用料の分割金支払債権につき、破産債権として行使される可能性はあったとしても、本件契約に基づく商標使用料請求権が財団債権となる旨の原告の主張は理由がないことが明らかである。 さらに、原告は、予備的に、本件契約の解除に伴う反対給付の返還としての商標 使用料相当額について、破産法54条2項により財団債権となる旨を主張する。し かし、同条項は、破産管財人が破産法53条1項及び2項に基づき解除をした場合において、相手方がその義務の一部を履行済みであった場合、解除によって相手方の義務が消滅したにもかかわらず、相手方のした給付を破産財団にとどめるのは公平に反することから、反対給付が現存するときは取戻権を認め、現存しないときはその価額について財団債権者としての地位を認めるものである。そうすると、同条 項は、相手方が破産財団に何らかの給付をしたことを前提としていると解されるところ、本件において、原告は、チャンス社に対し、本件契約に基づき、本件商標の使用許諾という権利を付与し、その使用を受忍したものの、何ら給付はしていないから 給付をしたことを前提としていると解されるところ、本件において、原告は、チャンス社に対し、本件契約に基づき、本件商標の使用許諾という権利を付与し、その使用を受忍したものの、何ら給付はしていないから、本件に同条項は適用されないと解するのが相当である。 したがって、原告の主張はいずれも採用できない。 (3) 以上から、原告の被告に対する本件契約に基づく商標使用料請求権は、被告による解除を原因として消滅したといえる。 2 結論よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官武宮英子 裁判官杉浦一輝 裁判官峯健一郎
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