令和7年10月20日判決言渡 令和7年(ネ)第10032号特許権侵害行為差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70380号) 口頭弁論終結日令和7年8月27日判決 控訴人株式会社ルイファン・ジャパン 同訴訟代理人弁護士溝田宗司 同補佐人弁理士白坂一同鬼頭優希 被控訴人株式会社ルミカ 同訴訟代理人弁護士弓削田博 同小林幸夫 同木村剛大 同平塚健士朗 同補佐人弁理士南瀬透 同遠坂啓太 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録記載1及び2の各製品の生産、譲渡、貸渡し、輸出、輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 3 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録記載1及び2の各製品及びその半製品を廃棄せよ。 4 被控訴人は、控訴人に対し、1億1000万円及びこれに対する令和5年7月13日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称等は、原判決に倣う。) 1 本件(原審)は、発明の名称を「棒状ライト」とする特許第7169001号の特許(本件特許) 3日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称等は、原判決に倣う。) 1 本件(原審)は、発明の名称を「棒状ライト」とする特許第7169001号の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、原判決別紙 被告製品目録記載の各製品(被告各製品。被告製品1~4)は本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものであり、被控訴人による被告各製品の製造及び販売等が本件特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、被告各製品の生産等の差止め並びに被告各製品及びその半製品の廃棄を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償金1億1000万円及びこれに 対する遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、被告各製品が本件発明の技術的範囲に属さず、また、本件発明はサポート要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が被告製品1及び2による本件特許権侵害による差止請求及び損害賠償請求について不服として控訴し た(控訴人は、当審において、被告製品3及び4による本件特許権侵害の主張は撤回した。)。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記3の当審における控訴人の補充主張及び追加主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の1、2及び第3(2頁15行目~23頁19行目)に記載のとおりであるから、 これを引用する(ただし、被告製品1及び2に関するものに限る。)。 3 当審における控訴人の補充主張及び追加主張(1) 構成要件J3及びJ4の充足性について(争点1-3の補充主張)原判決は、構成要件J2の「第1所定入力」は、「第2ボタン」が検出する「短 3 当審における控訴人の補充主張及び追加主張(1) 構成要件J3及びJ4の充足性について(争点1-3の補充主張)原判決は、構成要件J2の「第1所定入力」は、「第2ボタン」が検出する「短押し」又は「長押し」のいずれか一方の入力方法を指し、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、このように「第1所定入力」として特定された「短押し」又 は「長押し」のいずれか一方の入力方法を指し、同一の入力方法を意味すると解釈した。しかし、①本件発明における特許請求の範囲の文言の語義、②本件明細書の記載及び③出願人の客観的意思からすると、上記解釈は誤った解釈である。正しくは、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、構成要件J2の「第1所定入力」である「前記短押しまたは前記長押し」を意味し、構成要件J3の「前記第 1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とは異なるものであると解すべきである。そして、この解釈によれば、被告製品1及び2は構成要件J3及びJ4を含む全ての構成要件を充足する。 すなわち、本件発明における特許請求の範囲の文言からは、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、構成要件J2の「第1所定入力」、すなわち「前記短 押しまたは前記長押し」を意味し、構成要件J3の「前記第1所定入力」と構成要件J4の「前記第1所定入力」について、前者が短押しであるならば後者も短押し、前者が長押しであるならば後者も長押しに限定されるかについては記載がないから、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」の入力方法のパターンは、4つのパターンが存在する。しかるところ、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入 力」の入力方法を同一のものと解した場合、発光部が発光しているときに第2ボタンの「第1所定 力方法のパターンは、4つのパターンが存在する。しかるところ、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入 力」の入力方法を同一のものと解した場合、発光部が発光しているときに第2ボタンの「第1所定入力」を行ったときに、推薦色による記憶(構成要件J3)が行われるのか、推薦色による発光(構成要件J4)が行われるのかが定かではないから、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」の入力方法とは異なるものであると解すべきである。 そして、この解釈は、本件明細書に、構成要件J3の処理を行うためには第2ボ タンを長押しすること、構成要件J4の処理を行うためには第2ボタンを短押しすることが記載されており(【図5】、【0052】、【0055】)、短押しと長押しを入れ替えてもよいことが記載されていること(【0074】)からも明らかである。 また、本件発明の実施品(乙10発明)が、長押しによって推薦色を記憶し、短押しによって記憶した推薦色を発光するという構成を有していることは被控訴人も 自認しているところ、本件発明の実施品がこのような動作をすることからすると、本件特許の出願人の客観的意思が、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、乙10発明と同様に異なる入力であると解していることは明らかである。 (2) サポート要件違反について(争点2-2の補充主張)上記のとおり、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4 の「前記第1所定入力」の入力方法とは異なるものであると解すべきである。このように解すると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件違反は存しない。 (3) 訂正の再抗弁(サ 書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件違反は存しない。 (3) 訂正の再抗弁(サポート要件違反の無効の抗弁に対する追加主張) ア控訴人は、被控訴人を請求人とする本件特許の特許無効審判(無効2024-800006号事件)において、令和7年3月27日付けで審決の予告を受けたため、同年5月15日付けで本件発明の特許請求の範囲について訂正請求をし、当審において同内容の訂正の再抗弁の主張を追加した(以下「本件訂正」という。)。 イ本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりであ る(以下「本件訂正発明」という。特許請求の範囲の請求項を分説して記号を付しており、下線部は、本件訂正による訂正箇所である。)。 【本件訂正発明】A 発光部と、B 前記発光部を発光させる複数の色のデフォルトの発光順序を定めるデフォ ルトパターンを記憶する記憶部と、 C 前記複数の色の中から1つの色を推薦色として設定する設定部と、D 前記発光部を発光させる複数の色を、前記デフォルトパターンで示される発光順序で切り替える第1ボタンと、E 前記推薦色で前記発光部を発光させるための入力を受け付ける第2ボタンと、 F 前記発光部を発光させる複数の色を、前記デフォルトパターンで示される発光順序とは逆順に切り替える第3ボタンと、G 前記第1ボタン、前記第2ボタン、および前記第3ボタンが設けられ、内部に電源を有する把持部と、H 前記デフォルトパターンで示される発光順序を選択する選択部を備え、 I 前記第1ボタンに対するユーザからの第1所定入力に応じて、前記選択部において選択されている前記デフ する把持部と、H 前記デフォルトパターンで示される発光順序を選択する選択部を備え、 I 前記第1ボタンに対するユーザからの第1所定入力に応じて、前記選択部において選択されている前記デフォルトパターンで示される発光順序に従い、前記複数の色のうちいずれか1つの色で前記発光部を発光させる発光制御部と、を備え、J1 前記第1ボタンは、所定時間以上継続しない押下である短押しと、前記短押しよりも長い所定時間以上継続した押下である長押しを検出可能なボタンであ り、第1所定入力は前記短押しまたは前記長押しであり、J2 前記第2ボタンは、所定時間以上継続しない押下である短押しと、前記短押しよりも長い所定時間以上継続した押下である長押しを検出可能なボタンであり、第1所定入力は前記短押しまたは前記長押しであり、J3’前記設定部は、前記発光部が発光しているときに、前記第2ボタンの前 記第1所定入力としての前記長押しを検出した場合、そのとき前記発光部が発光している発光色を前記推薦色として、前記記憶部に記憶し、J4’前記発光制御部は、前記第2ボタンの前記第1所定入力としての前記短押しを検出した場合、前記設定部により前記記憶部に記憶された前記推薦色で前記発光部を発光させる K ことを特徴とする棒状ライト。 ウ本件訂正により、被控訴人主張のサポート要件違反に係る無効理由(争点2-2)は解消され、かつ、被告製品1及び2は、本件訂正発明の技術的範囲に属する。したがって、本件特許の無効理由について訂正の再抗弁が成立するから、被控訴人主張の無効の抗弁は理由がない。 4 当審における控訴人の追加主張等に対する被控訴人の反論 (1) 構成要件J3及びJ4の充足性について構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」と 訴人主張の無効の抗弁は理由がない。 4 当審における控訴人の追加主張等に対する被控訴人の反論 (1) 構成要件J3及びJ4の充足性について構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」とは、「第1所定入力」として特定された「短押し」又は「長押し」のいずれか一方の入力方法を指し、構成要件J3と構成要件J4における「前記第1所定入力」は同一の入力方法を意味する。 このような解釈は、本件明細書の【図5】、【0052】及び【0055】の記載 とも矛盾しない。 したがって、推し色チェンジボタン又はバックボタンの「長押し」により登録色の記憶を行い、同ボタンの「短押し」により登録色での発光を行う被告製品1及び2は、少なくとも構成要件J4を充足しない。 (2) サポート要件違反について 「前記第1所定入力」(構成要件J3及びJ4)の原判決の解釈には誤りがなく、本件明細書の発明の詳細な説明には、推薦色の記憶と推薦色での発光について同じ入力方法による構成によって課題を解決することについては、記載も示唆もない。 本件発明は、サポート要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。 (3) 訂正の再抗弁について本件訂正後の請求項1は、構成要件J3及びJ4の入力方法を異なる入力方法に訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮ではなく、特許請求の範囲を変更するものである。また、訂正請求が認められるその他の目的(特許法134条の2第1項2号~4号)にも該当しない。 本件訂正は、訂正要件を充足しないから、訂正の再抗弁は認められない。本件特 許は、少なくともサポート要件違反により無効にされるべきものであるから、控訴人は、被控訴人に対し、本件特許権の権利を行使することができない。 第3 当 から、訂正の再抗弁は認められない。本件特 許は、少なくともサポート要件違反により無効にされるべきものであるから、控訴人は、被控訴人に対し、本件特許権の権利を行使することができない。 第3 当裁判所の判断 1 当審も、原審と同様の理由により、被告製品1及び2が本件発明の技術的範囲に属せず、控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、後記2のとおり 当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第4の1及び2(1)(23頁21行目~31頁22行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断(1) 控訴人は、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は「前記短押しま たは前記長押し」と解し、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とは異なるものと解すべきであると主張する。 そこで検討するに、特許請求の範囲に記載された用語の解釈に当たっては、用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じ て統一して使用すること(特許法施行規則24条、様式第29備考8)に照らして解釈すべきである。「または」は、二つ以上の事柄のどれかが選ばれる関係にあることを表す語であるから、構成要件J2の「第1所定入力」は、「第1所定入力」として特定された「短押し」か「長押し」のいずれか一方の入力方法を指すものであり、そして、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、構成要件J2の「第1 所定入力」と同一の入力方法を意味するものと解される。そうすると、本件発明における特許請求の範囲の文言の語義として、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所 所定入力」と同一の入力方法を意味するものと解される。そうすると、本件発明における特許請求の範囲の文言の語義として、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とが異なるものと解する余地はなく、このような解釈によって、控訴人が主張するように、発光部が発光しているときに第2ボタンの「第1所定入力」を行ったときに、推薦色による記 憶(構成要件J3)が行われるのか、推薦色による発光(構成要件J4)が行われ るのかが定かではないことになったとしても、それは、本件特許の出願人による特許請求の範囲の記載の結果というほかない。 控訴人は、上記主張の根拠として、本件明細書の【図5】、【0052】、【0055】の記載を指摘する。しかし、これらの記載は、発光制御処理の詳細を示すサブフローチャートとして、第2ボタンが長押し又は短押しされた場合の処理を記載し ているにとどまり(【0050】~【0057】)、そこには推薦色を記憶させる際の「第1所定入力」を長押し、推薦色で発光させる際の「第1所定入力」を短押しとする旨の記載はなく、「第1所定入力」が異なる入力方法を示すことを意味する記載もない。むしろ、【0074】には、「第1所定入力を短押し、第2所定入力を長押しとしてもよいし、第1所定入力を長押し、第2所定入力を短押しとしてもよい」 と記載されており、「第1所定入力」と「第2所定入力」とが入力方法に応じて使い分けられている。そうすると、控訴人が指摘する本件明細書の記載が、「第1所定入力」という同じ用語であるのに、それらがそれぞれ異なる入力方法であるとの主張の根拠になるとはいえない。 また、控訴人は、本件発明の実施品(乙10発明)の構成から、本件特許の出願 人の客観的意思が、構成要 じ用語であるのに、それらがそれぞれ異なる入力方法であるとの主張の根拠になるとはいえない。 また、控訴人は、本件発明の実施品(乙10発明)の構成から、本件特許の出願 人の客観的意思が、構成要件J3及びJ4の「第1所定入力」は、乙10発明のように異なる入力であると解していると主張する。しかし、乙10発明が本件発明の実施品であるか否か自体が、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成を備えているか否かによって定まるのであるから、乙10発明が本件発明の実施品であることを前提として、この構成が本件特許の出願人の客観的意思であるということも、 同発明の有する構成に整合するように本件発明の構成要件J3及びJ4を解釈すべきということもできない。 したがって、控訴人の主張はいずれも採用することはできない。 (2) そして、これまで説示したところからすると、被告製品1及び2は、本件発明の構成要件J4を充足しないから、控訴人のその余の主張については判断の必要 がない。 3 結論以上によると、控訴人のその余の主張を判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官本多知成 裁判官 伊藤清隆 裁判官天野研司 伊藤清隆 裁判官天野研司
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