令和2(行ウ)11 遺族補償給付等不支給決定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月5日 福岡地方裁判所
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判決文本文36,606 文字)

主 文 1 熊本労働基準監督署長が原告に対して平成29年12月22日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文と同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、亡Aの遺族である原告が、亡Aが業務上の事由により精神障害を発病し、それに起因して自死したとして、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが、熊本労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)から、これらをいずれも不支給とする旨の各処分(以下「本件各処分」という。)を受けたため、被告を相手に、 その取消しを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者等ア亡Aは、平成▲年▲月▲日生まれの男性であり、平成27年3月に大学 を卒業し、同年4月に住友林業株式会社(以下「本件会社」という。)に正社員として入社したが、平成▲年▲月▲日、24歳で自死した。 イ原告は、亡Aの父親である。 ウ本件会社は、戸建て住宅等の建築請負・販売等を業とする株式会社である。 ⑵ 本件会社における亡Aの就労状況等 ア亡Aは本件会社に入社後、同社住宅事業本部熊本支店(以下「本件事業場」という。)に配属され、本件事業場の東熊本店営業職として住宅販売業務に従事していた。 イ亡Aの在籍当時、本件会社の住宅事業本部店舗の営業グループ所属職員の所定休日は毎週火・水曜日、勤務時間は午前10時から午後7時15分 場の東熊本店営業職として住宅販売業務に従事していた。 イ亡Aの在籍当時、本件会社の住宅事業本部店舗の営業グループ所属職員の所定休日は毎週火・水曜日、勤務時間は午前10時から午後7時15分 まで、休憩時間は①正午から午後1時までの1時間(昼休憩)及び②職員の裁量により勤務時間中に適宜取得できる1時間(裁量休憩)の合計2時間とされていた(ただし、②については職員の裁量により取得せず終業を午後6時15分に繰り上げることもできるとされていた。)(甲6、甲49の18頁)。なお、平成29年4月以降、②の裁量休憩は廃止された(甲5 0の17頁)。 ウ本件事業場の営業職は、事務所2階での電話営業や顧客向け資料の作成等の内勤、顧客宅の訪問や敷地調査等の外勤、事務所とは別の場所にある外部展示場(東熊本・西熊本・北熊本の3箇所)での設営や来場者の接客等に従事していた(甲3の1及び2、乙23、39)。 エ亡Aの在籍当時、本件事業場の営業職は、担当する外部展示場ごとに東熊本店、西熊本店及び北熊本店に分けられていたが、内勤の事務所は同一であり、亡Aの直接の指導担当となった東熊本店のB主任の隣に亡Aの机が置かれていた。内勤の事務所には休憩室があり、屋外に喫煙コーナーが設けられていた。また、東熊本の外部展示場には事務所兼休憩室があり、 屋外に喫煙所が設けられていた。(甲9、乙23、24)オ本件事業場では出退勤時にタイムカードを打刻することとなっており、残業をする場合には勤怠管理システムに具体的な理由を入力して上司の承認を得ることとされていた(甲7、乙29~32)。 ⑶ 亡Aの自死 亡Aは、平成▲年▲月▲日、祖父母宅の車庫内に駐車してあった乗用車内 で練炭を燃焼させ一酸化炭素中毒により死亡している こととされていた(甲7、乙29~32)。 ⑶ 亡Aの自死 亡Aは、平成▲年▲月▲日、祖父母宅の車庫内に駐車してあった乗用車内 で練炭を燃焼させ一酸化炭素中毒により死亡しているところを発見された。 ⑷ 本件訴訟に至る経緯ア原告は、処分行政庁に対し、平成29年2月23日に遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが、処分行政庁は、同年12月22日付けでこれらをいずれも不支給とする旨の各処分(本件各処分)をした。 イ原告は、本件各処分を不服として、平成30年3月16日に熊本労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが、同審査官は、同年11月2日付けで、同審査請求を棄却する旨の決定をした。 ウ原告は、前記イの審査請求棄却決定を不服として、平成30年12月12日に労働保険審査会に対して再審査請求をしたが、同審査会は、令和元 年8月14日付けで、同再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 エ原告は、令和2年2月10日、本件各処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 ⑸ 厚生労働省策定の業務起因性判断に関する認定基準厚生労働省は、心理的負荷による精神障害の業務起因性の有無(労働基準 法施行規則別表第1の2第9号「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」該当性)の判断に関して、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を設置し、同検討会が取りまとめた「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和5年7月)」(乙46。以下「令和 5年7月報告書」という。)を踏まえ、令和5年9月1日付け基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(乙47。以下「認定基準」という。)を策 月)」(乙46。以下「令和 5年7月報告書」という。)を踏まえ、令和5年9月1日付け基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(乙47。以下「認定基準」という。)を策定した(これにより、平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」〔乙7〕は廃止された。)。認定基準の概要は、次のとおりである。 ア認定要件 次の、及びのいずれの要件も満たす疾病は、業務上の疾病として取り扱う。 対象疾病(「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」第10回改訂版(ICD-10)第Ⅴ章に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く。)を発病していること(以下「認定 要件1」という。)対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること(以下「認定要件2」という。)業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと(以下「認定要件3」という。) イ対象疾病の有無、疾患名及び発病時期等の判断(認定要件1関係)対象疾病の発病の有無、疾患名及び発病時期は、「ICD-10 精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン」(以下「ICD-10診断ガイドライン」という。)に基づき医学的に判断し、発病時期の特定が難しい場合にも、心理的負荷となる出来事との関係や、自死事案については自 死日との関係等を踏まえ、できる限り時期の範囲を絞り込んだ医学的意見を求めて判断する。精神障害の治療歴のない自死事案について発病時期を判断する際、精神障害は発病していたと考えられるものの、ICD-10診断ガイドラインに示す診断基準を満たした時期の特定が困難な場合には、遅く 断する。精神障害の治療歴のない自死事案について発病時期を判断する際、精神障害は発病していたと考えられるものの、ICD-10診断ガイドラインに示す診断基準を満たした時期の特定が困難な場合には、遅くとも自死日までには発病していたものと判断する。 ウ業務による強い心理的負荷の有無の判断(認定要件2関係)業務による心理的負荷の判断に当たっては、まず、発病前おおむね6か月の間における対象疾病の発病に関与したと考えられる出来事(なお、ハラスメントやいじめのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価することとなるので、発病 の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前おおむね6 か月の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為が評価の対象となる。)の内容及びその後の状況を具体的に把握した上で、当該各出来事の心理的負荷の強度について、次の及びのとおり、認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)を指標として、「強」(業務による強い心理的負荷が認められるもの)、「中」 (経験の頻度は様々であって「弱」よりは心理的負荷があるものの強い心理的負荷とは認められないもの)、「弱」(日常的に経験するものであって一般的に弱い心理的負荷しか認められないもの)の三段階に区分する。 発病前おおむね6か月の間に、別表1の「特別な出来事」(心理的負荷が極度のもの又は極度の長時間労働)に該当する業務による出来事が認 められた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」と判断する。「特別な出来事」以外の出来事については、当該出来事を同表の「具体的出来事」のいずれに該当するかを判断し、合致しない場合にも近い「具体的出来事」に当てはめ、総合評価を行 総合評価を「強」と判断する。「特別な出来事」以外の出来事については、当該出来事を同表の「具体的出来事」のいずれに該当するかを判断し、合致しない場合にも近い「具体的出来事」に当てはめ、総合評価を行う。その際、当該出来事やその後の状況についての事実関係が「具体的出来事」ごとに示された「心理的負荷の 強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」の内容に合致する場合には、その強度で判断し、上記「具体例」に合致しない場合には、「具体的出来事」ごとに明示された「心理的負荷の総合評価の視点」及び「総合評価の留意事項」(出来事それ自体と、当該出来事の継続性や事後対応の状況、職場環境の変化などの出来事後の状況の双方を十分に検討し、例示され ているもの以外であっても出来事に伴って発生したと認められる状況や、当該出来事が生じるに至った経緯等も含めて総合的に考慮する。その際、職場の支援・協力が欠如した状況であること(問題への対処、業務の見直し、応援体制の確立、責任の分散その他の支援・協力がなされていない等)は、総合評価を強める要素となる。)に基づき、上記「具体 例」も参考としつつ個々の事案ごとに評価する。 別表1の「具体的出来事」のうち、①「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」(項目12)については、上記「具体例」として、「発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上」や「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上」の時間外労働を行った場合が「強」と判断する例、「1か月におおむね8 0時間以上」の時間外労働を行った場合が「中」と判断する例、「1か月におおむね80時間未満」の時間外労働を行った場合が「弱」と判断する例とされ(ただし、これらの例は、労働密度が特に低い場合を除く 0時間以上」の時間外労働を行った場合が「中」と判断する例、「1か月におおむね80時間未満」の時間外労働を行った場合が「弱」と判断する例とされ(ただし、これらの例は、労働密度が特に低い場合を除くものであって、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものである場合を想定したものである。)、上記「総合評価の視点」として、業務 の密度、業務内容、責任、長時間労働の継続期間、労働時間数、勤務間インターバルの状況等が掲げられている上、恒常的な長時間労働の下で発生した出来事の心理的負荷は平均より強く評価される必要があると考えられ、そのような出来事と発病との近接性や、その出来事に関する対応の困難性等を踏まえて、出来事に係る心理的負荷の総合評価を行う必 要があるとされている。②「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」(項目11)については、「取引量の急増、担当者の減少等により、仕事量の大きな変化(時間外労働時間数としてはおおむね20時間以上増加し1月当たりおおむね45時間以上となるなど)」が生じた場合が「中」と判断する例、「中」に至らない程度の仕事量(時間 外労働時間数等)の変化があった場合が「弱」と判断する例とされ、③「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」(項目13)については、「平日の時間外労働だけではこなせない業務量がある、休日に対応しなければならない業務が生じた等の事情により、2週間以上にわたって連続勤務を行った」が「中」と判断する例、「休日出勤により連続勤 務となったが、休日の労働時間が特に短いものであった」が「弱」と判 断する例とされている。 ④「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(項目22)については、上記「具体例」として、 が特に短いものであった」が「弱」と判 断する例とされている。 ④「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(項目22)については、上記「具体例」として、上司等から「人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃」、「必要以上に長時間にわたる叱責、他の労 働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」、「無視等の人間関係からの切り離し」、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求」等を反復・継続するなどして執拗に受けた場合が「強」と判断する例、これらの行為が反復・継続していない場合が「中」と判断 する例、「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合が「弱」と判断する例とされ(なお、ハラスメントについては繰り返される出来事を一体のものとして評価し、それが継続する状況は、心理的負荷が強まるものと評価される。)、上記「総合評価の視点」として、指導・叱責等の言動に至る経緯や状況、身体的攻撃・精神的攻撃等の内容・ 程度、上司(経営者を含む)等との職務上の関係、反復・継続など執拗性の状況、就業環境を害する程度、会社の対応の有無・内容及び改善の状況等が掲げられている。なお、上記「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(項目22)としての評価対象とならない対人関係のトラブルについては、その類型に応じた個別の「具 体的出来事」として評価することとされており、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」(項目23)については、「同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない」が「中 て評価することとされており、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」(項目23)については、「同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない」が「中」、「同僚等から「中」に至らない程度の言動を受けた」が「弱」と判断する例とされ、「上司とのトラブルがあった」(項目24) については、「上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受け た」が「中」、「上司から、業務指導の範囲内である指導・叱責を受けた」が「弱」と判断する例とされている。 ⑤「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」(項目7)については、上記「具体例」として、「達成は容易ではないものの、客観的にみて、努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成 に向けた業務を行った」場合や「達成が容易ではないノルマが課され、この達成に向け一定の労力を費やした」場合が「中」と判断する例、「ノルマではない業績目標が示された(当該目標が、達成を強く求められるものではなかった)」場合や「業績目標が達成できなかったものの、当該目標の達成は、強く求められていたものではなかった」場合が「弱」と 判断する例とされ、上記「総合評価の視点」として、ノルマ(達成が強く求められる業績目標等を含む。)の内容、困難性、強制の程度、達成できなかった場合の影響、ペナルティの有無及び内容等が掲げられている。 その上で、複数ある出来事のうち、いずれかの出来事が「強」の評価となる場合、業務による心理的負荷を「強」と判断し、いずれの出来事 でも単独では「強」の評価とならない場合には、①出来事が関連して生じているときには、その全体を一つの出来事として評価することとし、原則として最初の出来事を「具体的出来事」として別 れの出来事 でも単独では「強」の評価とならない場合には、①出来事が関連して生じているときには、その全体を一つの出来事として評価することとし、原則として最初の出来事を「具体的出来事」として別表1に当てはめ、関連して生じた各出来事は出来事後の状況とみなす方法により、その全体評価を行い、②ある出来事に関連せずに他の出来事が生じている場合 であって、単独の出来事の評価が「中」と判断する出来事が複数生じているときには、それらの出来事が生じた時期の近接の程度、各出来事と発病との時間的な近接の程度、各出来事の継続期間、各出来事の内容、出来事の数等によって、総合的な評価が「強」となる場合もあり得ることを踏まえつつ、事案に応じて心理的負荷の全体を評価する。当該評価 に当たり、それぞれの出来事が時間的に近接・重複して生じている場合 には、「強」の水準に至るか否かは事案によるとしても、全体の総合的な評価はそれぞれの出来事の評価よりも強くなると考えられる。 以上により、発病前おおむね6か月の間における対象疾病の発病に関与したと考えられる出来事の心理的負荷の全体を総合的に評価して「強」と判断される場合には、認定要件2を満たすものとする。 エ業務以外の心理的負荷及び個体側要因の評価(認定要件3関係)業務以外の心理的負荷については、認定基準別表2「業務以外の心理的負荷評価表」を指標として、心理的負荷の強度を「Ⅲ」、「Ⅱ」又は「Ⅰ」に区分し、心理的負荷の強度が「Ⅱ」又は「Ⅰ」の出来事しか認められない場合は、原則として「業務以外の心理的負荷は認められるものの、 業務以外の心理的負荷によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合」に該当するものと取り扱う。同表では「失恋、異性関係のもつれがあった」 以外の心理的負荷は認められるものの、 業務以外の心理的負荷によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合」に該当するものと取り扱う。同表では「失恋、異性関係のもつれがあった」の心理的負荷の強度は「Ⅱ」とされている。 個体側要因(個人に内在している脆弱性・反応性)については、既往の精神障害や現在治療中の精神障害、アルコール依存状況等の存在が明 らかな場合にその内容等を調査する。 以上により、「業務以外の心理的負荷及び個体側要因が確認できない場合」又は「業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの、業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合」に該当するときには、認定要件3を 満たすものとする。 オ精神障害の悪化ないし症状安定後の新たな発病の業務起因性について精神障害の悪化の前に業務による強い心理的負荷が認められる場合には、当該業務による強い心理的負荷、本人の個体側要因(悪化前の精神障害の状況)と業務以外の心理的負荷、悪化の態様やこれに至る経緯(悪化 後の症状やその程度、出来事と悪化との近接性、発病から悪化までの期間 など)等を十分に検討し、業務による強い心理的負荷によって精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと精神医学的に判断されるときには、別表1の「特別な出来事」がなくとも、悪化した部分について業務起因性を認める。なお、既存の精神障害が悪化したといえるか否かについては、個別事案ごとに医学専門家による判断が必要である。 また、既存の精神障害について、一定期間、通院・服薬を継続しているものの、症状がなく、又は安定していた状態で、通常の勤務を行っている状況にあって、その後、症状の変化が生じたものについて る。 また、既存の精神障害について、一定期間、通院・服薬を継続しているものの、症状がなく、又は安定していた状態で、通常の勤務を行っている状況にあって、その後、症状の変化が生じたものについては、精神障害の発病後の悪化としてではなく、症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病として取り扱うべきものがある。 カ自死について業務によりICD-10のF0からF4に分類される対象疾病を発病したと認められる者が自死を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自死行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し、業務起因 性を認める。 ⑹ ICD-10診断ガイドライン〔新訂版〕におけるうつ病エピソード(F32)の診断基準(乙34)ア通常、うつ病にとって最も典型的な症状(基本症状)は、抑うつ気分、興味と喜びの喪失及び易疲労性の三つとみなされており、他の一般的な症 状(一般症状)には、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下、罪責感と無価値観、将来に対する希望のない悲観的な見方、自傷あるいは自死の観念や行為、睡眠障害、食欲不振がある。 イこれらの症状のうち基本症状の少なくとも二つ及び一般症状の少なくとも二つが約2週間以上持続して存在すれば「軽症うつ病エピソード」(F3 2.0)の診断を確定することができ、同じく基本症状の少なくとも二つ 及び他の一般症状の少なくとも三つ(四つが望ましい。)が約2週間以上持続して存在すれば「中等症うつ病エピソード」(F32.1)、基本症状の三つ全て及び一般症状の少なくとも四つ(そのうちのいくつかが重症でなければならない。)が原則として約2週間以上(ただし、極めて重症で して存在すれば「中等症うつ病エピソード」(F32.1)、基本症状の三つ全て及び一般症状の少なくとも四つ(そのうちのいくつかが重症でなければならない。)が原則として約2週間以上(ただし、極めて重症で急激な発病であれば、より短い期間であってもかまわない。)継続して存在すれ ば「精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード」(F32.2)、それらの症状に加えて妄想、幻覚あるいはうつ病性昏迷が存在すれば「精神病症状を伴う重症うつ病エピソード」(F32.3)の診断をそれぞれ確定することができる。 ウ一方、これらの典型的な「うつ病エピソード」の記述に適合しないが、 全般的な診断的印象からその本質において抑うつ的と示唆されるエピソードは「他のうつ病エピソード」(F32.8)に含めるべきである。 3 争点本件においては、亡Aの精神障害の発病及び自死に係る業務起因性の有無が争われているが、その判断過程の順に、①亡Aの精神障害の疾患名、発病時期 等(争点⑴)、②亡Aの時間外労働時間数(争点⑵)、③亡Aの長時間労働以外の心理的負担(争点⑶)、④亡Aの業務以外の心理的負荷及び個体側要因(争点⑷)、⑤(①から④を前提とした)業務起因性の総合評価(争点⑸)が争点として挙げられる。 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴(亡Aの精神障害の疾患名、発病時期等)について(原告の主張)ア亡Aは、平成27年12月28日頃、認定基準の対象疾病であるICD-10のF32うつ病エピソードに分類されるF32.1中等症うつ病エピソード(以下「中等症うつ病エピソード」という。)を発病した。したが って、同日頃からおおむね6か月前までの期間を対象として業務による強 い心理的負荷(認定要件2)が認められるか否かを評価すべき 等症うつ病エピソード」という。)を発病した。したが って、同日頃からおおむね6か月前までの期間を対象として業務による強 い心理的負荷(認定要件2)が認められるか否かを評価すべきである。 イ仮に被告の主張するように、亡Aが平成27年11月17日頃に精神障害を発病していたとしても、同年12月28日頃までの業務による強い心理的負荷によって精神障害が自然経過を超えて著しく悪化した結果、自死に至ったというべきであるから、心理的負荷の評価期間は上記アと同様と すべきである。 (被告の主張)亡Aは、平成27年11月17日頃、認定基準の対象疾病であるICD-10のF32うつ病エピソードに分類されるF32.8他のうつ病エピソード(以下「他のうつ病エピソード」という。)を発病した。その後の亡 Aの症状は、他のうつ病エピソード由来の症状の動揺の範囲内にとどまり、精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと精神医学的に判断されないから、同日頃からおおむね6か月前までの期間を対象として業務による強い心理的負荷(認定要件2)が認められるか否かを評価すべきである。 ⑵ 争点⑵(亡Aの時間外労働時間数)について (原告の主張)ア平成27年12月28日頃からおおむね6か月前までの期間中の亡Aの時間外労働時間数は、発病前1か月が117時間07分、発病前2か月が126時間25分、発病前3か月が73時間23分、発病前4か月が103時間41分、発病前5か月が96時間17分、発病前6か月が80時間 08分である。 イ本件会社では所定休憩時間が原則2時間と定められていたが、実際には、亡Aはせいぜい30分程度しか労働からの解放が保障されていなかったから、上記労働時間の認定に当たり控除した休憩時間は原 ある。 イ本件会社では所定休憩時間が原則2時間と定められていたが、実際には、亡Aはせいぜい30分程度しか労働からの解放が保障されていなかったから、上記労働時間の認定に当たり控除した休憩時間は原則1日30分である。 ウ上記アの亡Aの時間外労働時間数は、認定基準別表1において心理的負 荷を「強」と判断する具体例である「発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上」かつ「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上」にいずれも該当する。 エ仮に労働時間から控除すべき休憩時間を1日2時間としても、上記期間中の亡Aの時間外労働時間数は、発病直前の連続した2か月間に1月当た り80時間を超えており、医学的知見等に照らし業務の過重性を十分肯定し得る水準に達している。 オ加えて、亡Aの業務については、①早出出勤や深夜残業が多く、発病前2か月平均の拘束時間が約298時間、同6か月平均の拘束時間が約276時間と長く、勤務間インターバルが11時間未満となるときが上記期間 中に75回もあったこと、②平成27年10月29日から同年11月10日までの13日間、同月12日から同年12月1日までの20日間、同月3日から同月27日までの25日間それぞれ休日のない連続勤務があったこと、③発病前3か月から同2か月にかけて時間外労働時間数を大きく増加させるほどの仕事量の変化があったことからも過重性が認められる。 (被告の主張)ア平成27年11月17日頃からおおむね6か月前までの期間中の亡Aの時間外労働時間数は、発病前1か月が83時間02分、発病前2か月が70時間01分、発病前3か月が51時間48分、発病前4か月が55時間19分、発病前5か月が46時間36分、発病前6か月が42 亡Aの時間外労働時間数は、発病前1か月が83時間02分、発病前2か月が70時間01分、発病前3か月が51時間48分、発病前4か月が55時間19分、発病前5か月が46時間36分、発病前6か月が42時間51分 である。 イ本件会社では所定休憩時間が合計2時間(昼休憩1時間及び裁量休憩1時間)と定められており、実際にも亡Aは1日2時間の休憩を取れていたことから、上記労働時間の認定に当たり控除した休憩時間は原則1日2時間(例外として、拘束時間が5時間未満の場合は0分、9時間15分未満 の場合は1時間)である。 ウ上記アの亡Aの時間外労働時間数は、発病前1か月の83時間02分に限ってみれば認定基準別表1の「具体的出来事」である「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当し得るものの、心理的負荷を「強」と判断する具体例(恒常的長時間労働)である「発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上」や「発病直前の連続した3 か月間に、1月当たりおおむね100時間以上」には到底及ばない。 エ原告の主張する①勤務間インターバルの短さについては、認定基準別表1において「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当する出来事による心理的負荷の強度を判断する際の相対的な考慮要素の一つとされているにすぎず、同インターバルが11時間未満となる頻度が高いから といって直ちに心理的負荷を「強」ないし限りなく「強」に近い「中」と評価すべきものではなく、拘束時間の長さについても同様である。また、②「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」については、仮に本件疾病の発病時期を原告主張の平成27年12月28日頃と措定しても、発病前おおむね6か月の間に当該出来事に該当する連続勤務の事実が 以上にわたって休日のない連続勤務を行った」については、仮に本件疾病の発病時期を原告主張の平成27年12月28日頃と措定しても、発病前おおむね6か月の間に当該出来事に該当する連続勤務の事実が 認められないか又はそれによる心理的負荷を「強」と評価すべき労働時間・密度であったとは認められない。さらに、③「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」については、当該出来事に該当する事実が認められない。 ⑶ 争点⑶(亡Aの長時間労働以外の心理的負担)について (原告の主張)ア指導担当からのパワーハラスメント亡Aは、本件事業場配属後、指導担当であるB主任から、次の~のパワーハラスメントを反復・継続して受けていた。このようなパワーハラスメントは、新卒1年目の新入社員として社会経験に乏しく弱い立場にあ った亡Aにとって極めて強い心理的負荷をもたらす出来事であった。これ らの心理的負荷は、認定基準の「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」として「強」に該当する。 不適切な態様での指示、叱責亡Aは、B主任から日常的に、「A」や「お前」などと呼ばれ、命令口調で指示を受けており、同僚らの面前で叱責されることもあった。また、 上司や他部署の職員も閲読する営業活動日報に「他にする事なかったか?」、「全てにおいて、やっつけ仕事をするな!」などと必要以上に否定的な表現でのコメントを付されていた。さらに、精神障害の発病直前である平成27年12月27日には、本件事業場のC統括から事前に許可を受けていた遅参について、事実関係を確認することもなく一方的に 不当な遅刻であると決めつけられ、理不尽に叱責された。 指導放棄亡Aは、B主 件事業場のC統括から事前に許可を受けていた遅参について、事実関係を確認することもなく一方的に 不当な遅刻であると決めつけられ、理不尽に叱責された。 指導放棄亡Aは、B主任に業務上必要な指導を依頼しても「教えてほしければ朝一番に来てトイレ掃除をしろ」などと返答され、指導を放棄されていた。 人格否定、嫌がらせ亡Aは、B主任から、日常的に「暗い」、「ノリが悪い」、「真面目じゃ駄目だ」、「気合が足りない」などと真面目な性格を否定する趣旨の発言を受けていたほか、痩せていることを理由に大量の飲食を強要されることもあった。また、平成27年9月22日頃、同僚らとの飲み会で、本 件事業場のD主任により亡Aの特徴がアスペルガー症候群に当たる旨の発言がされた後、B主任から「自閉症でないか」などと発達障害に擬えて揶揄するような発言も受けていた。 業務上不必要又は過大な要求亡Aは、同年7月25日に実施された炎天下での敷地調査においてB 主任から数時間立ったまま放置され、同年9月27日には、暴力団員の ような風貌の顧客に対応させられた上、同顧客の対応に亡Aが全責任を負う旨の念書への署名を求められるなど、業務上不必要又は過大な要求を受けた。 イ職場の支援・協力の欠如前記アのとおり、亡Aは、B主任からのパワーハラスメントにより極め て強い心理的負荷を受けており、そのことを本件事業場の上司・同僚らにおいて容易に認識できたにもかかわらず、本件事業場においてはB主任の指導担当としての適格性が問題視されず、何らの措置も講じられなかった。 このような職場の支援・協力の欠如により、亡Aは、逃げ場を失い、その心理的負荷は一層強まっていった。これらは、認定基準 はB主任の指導担当としての適格性が問題視されず、何らの措置も講じられなかった。 このような職場の支援・協力の欠如により、亡Aは、逃げ場を失い、その心理的負荷は一層強まっていった。これらは、認定基準の「総合評価の留 意事項」として考慮すべき要素である。 ウ受注の未達成による重圧、焦り等亡Aは、本件事業場在籍中、1件も住宅の受注を成約させていなかった。 本件会社では受注ができていない営業職員は「現状0(ゼロ)社員」と呼称されて周知され、無償での持ち帰り作業を課されるなど、大きな重圧に 曝されていた上、本件事業場内で亡Aの唯一の同期職員であるEが先に受注の成約を達成していたことから、亡Aは、強い焦りを感じざるを得ない状況に追い込まれていた。これらの心理的負荷は、認定基準の「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」として「中」に該当する。 (被告の主張)ア指導担当からのパワーハラスメントについてB主任の亡Aに対する言動は、業務上の指示・指導の範囲を逸脱するものではなく、認定基準別表第1の「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」に該当しない。仮に該当するとしても、 その心理的負荷は「強」でなく「弱」にとどまるし、「上司とのトラブルが あった」に当てはめて評価するとしても「中」にとどまる。 不適切な態様での指示、叱責についてB主任が亡Aを「お前」と呼んだり、命令口調で指示をすることはあったが、それは日常的なものではなく、同僚が同席している職場内での亡Aに対する叱責も、同僚らの面前での叱責を殊更に意図したものでは なかった。亡Aの営業活動日報に付した否定的なコメントも、誤字脱字の指摘等、業務上必要な指導としてさ 僚が同席している職場内での亡Aに対する叱責も、同僚らの面前での叱責を殊更に意図したものでは なかった。亡Aの営業活動日報に付した否定的なコメントも、誤字脱字の指摘等、業務上必要な指導としてされたものであり、全体としてみれば穏当な表現を用いたものが多かった。 指導放棄について亡Aにおいて、同期職員であるEが順調に実績を挙げていたことに対 する焦り等から、B主任の指導を不十分と感じていた可能性があるとしても、B主任は、亡Aの性格、特性に応じた適切な指導を行うよう努めており、必要な指導を放棄していたとは認められない。 人格否定、嫌がらせについて亡Aが同僚らとの飲み会でインターネット上の簡易性格診断に興じて いた際に、D主任が亡Aの診断結果がアスペルガー症候群に該当する旨指摘したことはあったが、亡Aは笑いながら「自分でも分かる」、「思い当たる節がある」などと述べ、冗談として受け止めている様子であった。 また、同僚らとの外食時に、亡Aを含む同席者がその場の成り行きで競い合ってラーメンやコーラを飲食することもあったが、それをB主任が 強要したことはない。 業務上不必要又は過大な要求について平成27年7月25日の敷地調査は、同調査が営業職である亡Aにとって基本的な業務であり、実地研修としての必要性もあったことから実施されたものであり、亡Aの意思に反して強要したものではない。また、 同年9月27日のタトゥのある顧客への対応及び念書の作成について は、亡Aが同顧客をその風貌から安易に暴力団関係者であると誤認して対応を拒否したため、多種多様な顧客に向き合うべき営業職としての心構えを正す目的で念書の作成を求める趣旨の発言をしたにすぎない。 イ職場の 同顧客をその風貌から安易に暴力団関係者であると誤認して対応を拒否したため、多種多様な顧客に向き合うべき営業職としての心構えを正す目的で念書の作成を求める趣旨の発言をしたにすぎない。 イ職場の支援・協力の欠如について前記アのとおり、B主任が亡Aに対しパワーハラスメントに及んでいた とは認められないから、本件事業場においてパワーハラスメントへの対策が講じられなかったことをもって亡Aの心理的負荷が強まったと評価することもできない。 ウ受注の未達成による重圧、焦り等について亡Aは、本件事業場在籍中、先に住宅の受注を達成していたEと自身の 実績を比較して焦りを感じていたとはうかがわれるものの、亡Aは育成期間中の新入社員であり、賃金・賞与等に連動するノルマを課されていたものではなかった上、平成27年12月には顧客から立て続けに3件も受注に向けた申込みを獲得し、これにより上司や同僚からも一目置かれるようになり、努力が結実したことを実感できる状況にあったから、それまでの 受注の未達成による重圧や焦りに係る原告の主張を最大限考慮した上で認定基準別表第1の「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」に当てはめて評価しても、その心理的負荷は「弱」にとどまる。 ⑷ 争点⑷(亡Aの業務以外の心理的負荷及び個体側要因)について(原告の主張) 亡Aが平成27年秋頃に交際女性と別れたことによる心理的負荷は強いものではなく、亡Aの個体側要因が顕著であったとも認められないから、認定要件3を満たす。社会通念上、客観的にみても、亡Aの本件事業場での業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害が発病したとは認め難い。 (被告の主張) 業務以外の心理的負荷として、亡Aの平成27年秋頃の交際 通念上、客観的にみても、亡Aの本件事業場での業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害が発病したとは認め難い。 (被告の主張) 業務以外の心理的負荷として、亡Aの平成27年秋頃の交際女性との別離 の影響は軽視することができず、特に、亡Aの自死の時期(平成▲年▲月▲日)が同女性と毎年行っていた初詣の時期と符合することに着目すれば、亡Aの失恋による心理的負荷は相応に強かったことがうかがわれる。また、亡Aは中学生の頃に自律神経失調症、適応障害等の診断を受けており、それ以降の不登校や、薬剤の過剰摂取による急性中毒等に照らして発達障害を有し ていたとも考えられることは、亡Aの個体側の脆弱性の兆表として適切に評価されるべきである。 ⑸ 争点⑸(業務起因性の総合評価)について(原告の主張)ア本件会社の業務による亡Aの心理的負荷について、平成27年12月2 8日頃からおおむね6か月前までを評価期間とした上で、認定基準別表1の「具体的出来事」に当てはめて評価すると、①「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」として「強」ないし「中」、②「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」として「中」、③「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」として「中」、④「上司等から、 身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」として「強」、⑤「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」として「中」に該当し、それぞれの「具体的出来事」が相互に関連せずに生じている。その上で、「総合評価の留意事項」として職場の支援・協力の欠如も併せ考慮すると、全体評価は「強」となるから、認定要件2を満たす。 イまた、亡Aの業務以外の心理的負荷は強いものではなく、個体側 の上で、「総合評価の留意事項」として職場の支援・協力の欠如も併せ考慮すると、全体評価は「強」となるから、認定要件2を満たす。 イまた、亡Aの業務以外の心理的負荷は強いものではなく、個体側要因が顕著であったとも認められないから、認定要件3も満たす。 ウしたがって、亡Aの精神障害の発病及び自死は、同人の本件事業場における業務と相当因果関係を有するというべきであり、業務起因性が認められる。 (被告の主張) ア本件会社の業務による亡Aの心理的負荷については、平成27年11月17日頃からおおむね6か月前までを評価期間とすべきであり、原告の主張を最大限考慮した上で認定基準別表1の「具体的出来事」に当てはめて検討しても、単独で「強」と評価すべき「具体的出来事」はなく、①「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」として「中」、②「2週間以上 にわたって休日のない連続勤務を行った」として「中」、③「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」として「弱」(又は「上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」として「中」)、④「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」として「弱」とそれぞれの心理的負荷を評価し得る「具体的出来事」 が生じているにすぎず、これらの全体評価もせいぜい「中」にとどまるから、認定要件2を満たさない。 イまた、亡Aの業務以外の心理的負荷である交際女性との別離や、亡Aの個体側の脆弱性についても適切に考慮されるべきである。 ウしたがって、亡Aの精神障害の発病は、亡Aの本件事業場での業務に内 在する危険が現実化したものと評価することはできず、それに起因する自死についても業務起因性が認められない。 第3 当裁判所の判断 がって、亡Aの精神障害の発病は、亡Aの本件事業場での業務に内 在する危険が現実化したものと評価することはできず、それに起因する自死についても業務起因性が認められない。 第3 当裁判所の判断 1 判断の枠組み⑴ 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の疾病、死亡等に関して 行われる(同法7条1項1号)ところ、労働者の疾病等が業務上のものと認められるためには、業務と疾病等との間に条件関係があることを前提として、両者の間に法的にみて労働者災害補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められることが必要と解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和51年11月12日判決・集民119号189頁参照)。そして、労働 者災害補償制度が、業務に内在する危険の現実化として労働者に疾病等の結 果がもたらされた場合には、使用者に過失がなくとも、その危険を負担して損失の填補の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づく制度であることからすれば、業務と疾病等との間の相当因果関係の有無については、医学的経験則に照らし、当該疾病等が業務に内在する危険の現実化として発病したと評価し得るか否かによって決せられるべきである(最高裁判所 第三小法廷平成8年1月23日判決・集民178号83頁、同法廷平成8年3月5日判決・集民178号621頁参照)。 ⑵ その上で、認定基準は、行政機関の内部基準であり、裁判所の判断を拘束するものではないが、その内容は、最新の医学的・専門的知見を集積した令和5年7月報告書の内容を踏まえて策定されたものであり、医学的経験則に 照らして相応の合理性を有しており、心理的負荷による精神障害の発生機序や業務との関連性に関する標準的な医学的知見が反映されているものと解されるから、業務 策定されたものであり、医学的経験則に 照らして相応の合理性を有しており、心理的負荷による精神障害の発生機序や業務との関連性に関する標準的な医学的知見が反映されているものと解されるから、業務起因性の法的判断においても、まずは認定基準の内容を参考としつつ(なお、認定基準の上記性質、訴訟上の位置付け等に照らすと、処分がされた時期にかかわらず、現在の最新の知見である令和5年7月報告書 の内容が反映された認定基準を参考とするのが相当である。)、当該労働者が疾病を発病し死亡に至るまでの個別具体的な事情を総合的に考慮して業務起因性を判断するのが相当であると解される(これと異なる限度で、原告の主張する法的判断の枠組みは採用することができない。)。 2 争点⑴(亡Aの精神障害の疾患名、発病時期等)について ⑴ 認定基準において、精神障害の疾患名、発病時期等はICD-10診断ガイドラインに基づき医学的に判断すべきものとされている(前記第2の2⑸イ)。 ⑵ そこで、医学的な見地から亡Aの精神障害の疾患名、発病時期等を検討するに、特定医療法人富尾会理事長のF医師は、平成29年11月28日付け で処分行政庁に提出した意見書(乙1の139~147頁)において、亡A が、平成27年11月17日午前1時頃に母親に架電し「俺死ぬけん。死んだら皆に連絡して。」と告げたこと、同月22日に母親が来訪して食事をした際には「心療内科で抗うつ剤をもらってでも、もっと頑張りたい。」、「胃腸の調子が悪く最近痩せた。食欲が落ちた。」などと愚痴を述べていたこと、同月24日に予定されていた業務を休みたいと本件事業場に連絡したこと等の事 実経過から、この頃、亡Aにはうつ病の三つの基本症状(前記第2の2⑹ア)である抑うつ気分、興味と喜びの喪失 ていたこと、同月24日に予定されていた業務を休みたいと本件事業場に連絡したこと等の事 実経過から、この頃、亡Aにはうつ病の三つの基本症状(前記第2の2⑹ア)である抑うつ気分、興味と喜びの喪失及び易疲労性がそれぞれ発現したと推測し得るものの、上記食事の際の母親の観察以外には日常生活における他者からの観察がなく、症状の持続も認められないため、中等症うつ病エピソードの診断基準を満たさない一方、同じ頃、亡Aにはうつ病の一般症状である 将来に対する希望のない悲観的な見方、自死の観念(希死念慮)及び食欲不振等が発現しており、全般的な診断的印象からその本質において抑うつ的と示唆されることから、亡Aは最初に希死念慮が発現したと認められる同年11月17日の時点で他のうつ病エピソードを発病したと診断すべきである旨の意見を述べている。 ⑶ また、F医師は、同人作成の令和4年10月5日付け医学意見書(乙33)及び同年12月16日付け医学意見書(追加意見)(乙35)において、亡Aが、平成27年12月21日に産業医との面談を受けた際には上記基本症状を呈しておらず、「大丈夫と言わないとやばい」と自ら判断した上で、その旨の回答をしたこと、同月26日にはC統括、Eら職場の上司・同僚と深夜ま でテレビゲームに興じたこと、同月28日には学生時代の友人らと深夜まで飲み会に参加して愚痴を述べ合うなどした後、友人宅に宿泊したこと等の事実経過に照らせば、亡Aは同日頃の時点でも自ら利害得失を判断して受け答えをする精神的余裕があり、興味や喜びの感情に加え相応の活動性も保持していたと考えられるから、上記基本症状の発現・持続は認め難く、中等症う つ病エピソードの診断基準を満たさない旨の意見を述べている。 ⑷ さらに、八代更生病院理事長の 性も保持していたと考えられるから、上記基本症状の発現・持続は認め難く、中等症う つ病エピソードの診断基準を満たさない旨の意見を述べている。 ⑷ さらに、八代更生病院理事長のG医師は、令和5年10月24日付けで作成した意見書(乙43)において、米国精神医学会策定の「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版(DSM-5)の診断基準を用いて診断しても同様の結論になるとして、F医師の上記意見を支持している。 ⑸ 上記⑵ないし⑷の精神科の医師らによる意見は、臨床上広く承認されたI CD-10診断ガイドラインの解釈(乙36)を前提として、処分行政庁が収集した資料、関係者の供述等から認められる客観的・具体的事実関係に基づき示されたものであり、相応の信頼性、合理性を有していると考えられるから、亡Aは平成27年11月17日頃に他のうつ病エピソードを発病していたものと認めることが相当である。 ⑹ 他方、宇部協立病院精神科のH医師は、令和4年6月23日付けで作成した意見書(甲64)において、亡Aは平成27年12月28日頃に極めて重い中等症うつ病エピソードを急激に発病した旨の意見を述べている。その内容は、亡Aの発病した精神障害の疾患名、発病時期の点ではF医師らの意見と相違し採用できないものの、時間外労働が月100時間以上であれば精神 障害を発病するほど過重で、それを下回ると過重でないという形式的な線引きが適切でないことについては首肯し得るし、交際女性との別離や中学生時代の既往症が亡Aの自死の主因とは解されないとの判断は処分行政庁の判断とも矛盾せず、一定の信頼性、合理性を有する。また、仮に亡Aが平成27年12月28日頃に精神障害を発病していたとしても、同日の▲日後の平成 ▲年▲月▲日に自死したことから、同日まで 政庁の判断とも矛盾せず、一定の信頼性、合理性を有する。また、仮に亡Aが平成27年12月28日頃に精神障害を発病していたとしても、同日の▲日後の平成 ▲年▲月▲日に自死したことから、同日までに中等症うつ病エピソードの診断に求められる持続期間(2週間)を満たしていないのはやむを得ないというべきであり、それを前提として平成27年12月28日頃の亡Aの症状を検討した上で精神障害の発病(ないし急激な悪化)を認めている点ではF医師の意見書よりも合理性があると考えられる(なお、原告は適応障害の発病 も主張するが、上記H医師の意見書でも触れられていないことから採用でき ない。)。 ⑺ その上で、精神障害の悪化には、自然経過による悪化過程においてたまたま業務による心理的負荷が重なったにすぎない場合もあるから直ちに当該心理的負荷を精神障害の悪化の原因とは判断できない旨の医学的知見があること(令和5年7月報告書19頁参照)を踏まえても、被災者に発病した精神 障害が自然経過を超えて著しく悪化したような場合には発病後の業務による心理的負荷を考慮することが可能であるものと解される。 そして、亡Aは、平成27年11月17日頃に他のうつ病エピソードを発病した後も精神科への通院治療や服薬をすることなく通常の勤務を継続することができており、同年12月21日の産業医との面談でも特に異常は見ら れず(甲14)、同月26日にC統括やEら上司、同僚と夜中テレビゲームで遊んだ際も盛り上がり楽しそうにしていたこと(乙39、41、証人C96~99項、証人E75~82項)、ところが、年内の労働が終了した翌日である同月28日の同窓会の二次会及び同月29日の実家への帰省以降、亡Aは憔悴して旧友のIや母親から見ても言動に明らかな異変を生じ(甲86 項、証人E75~82項)、ところが、年内の労働が終了した翌日である同月28日の同窓会の二次会及び同月29日の実家への帰省以降、亡Aは憔悴して旧友のIや母親から見ても言動に明らかな異変を生じ(甲86、証 人J71~76項、証人I61~69項、143~146項)、その異変が初めて見られた上記同窓会の二次会からわずか▲日後の平成▲年▲月▲日に自死に至ったものであることに照らすと、亡Aの精神障害は平成27年11月17日頃に他のうつ病エピソードとして発病して以降、平成▲年▲月▲日の自死までの間に自然経過を超えて著しく悪化したものであるといえるから、 亡Aの他のうつ病エピソードの著しい悪化及びそれに起因する自死については、平成27年11月17日頃から同年12月28日頃までの本件会社の業務による心理的負荷も含めて業務起因性を判断すべきであると考えられる(なお、自死の原因についてその直前の自死者の就労状況、生活状況等を考察するのはむしろ自然かつ適切であるといえる。)。 ⑻ したがって、本件会社の業務による亡Aの心理的負荷の評価期間について は、亡Aが自死した平成▲年▲月▲日の▲日前である平成27年12月28日頃からおおむね6か月前(亡Aが他のうつ病エピソードを発病した平成27年11月17日頃のおおむね5か月前を含む。)とすることが相当である。 ⑼ 被告の主張についてア被告は、平成27年12月28日頃以降亡Aに中等症うつ病エピソード の診断に求められる症状の2週間以上の持続が認められないことから、他のうつ病エピソードの発病時である同年11月17日頃からおおむね6か月の間を亡Aの業務による心理的負荷の評価期間とすべきである(それ以降の期間を含むべきではない)旨主張する。 イしかし、前記2⑹のとおり亡Aが ドの発病時である同年11月17日頃からおおむね6か月の間を亡Aの業務による心理的負荷の評価期間とすべきである(それ以降の期間を含むべきではない)旨主張する。 イしかし、前記2⑹のとおり亡Aが平成▲年▲月▲日に自死したことから すれば、仮に平成27年12月28日頃に亡Aに中等症うつ病エピソードを発病していたとしても、診断に求められる症状の2週間以上の持続の要件を満たすことはあり得ないのであるから、同要件を満たさないからといって直ちに、その時期に亡Aが何らの精神障害も発病・悪化しておらず、他のうつ病エピソード由来の症状の動揺の範囲にとどまっていたというこ とにはならない。その上で、亡Aの労働時間が平成27年11月17日頃から増大しており、11日の連続勤務も生じていること(後記3)や、先輩職員による指導に不適切な面が見られたこと(同4)に照らすと、平成▲年▲月▲日の亡Aの自死については、その1か月半前である平成27年11月17日頃に発病した他のうつ病エピソードが本件会社での時間外労 働等の業務に起因する心理的負荷により自然経過を超えて著しく悪化したことによる可能性が高いと考えられるのであって、他のうつ病エピソードの症状初発時から自死までの期間を業務による心理的負担の評価対象としないことが適切であるとは考え難い。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 3 争点⑵(亡Aの時間外労働時間数)について ⑴ 処分行政庁による時間外労働時間数の算定処分行政庁が、亡Aの使用していた業務用端末が連続30分以上操作されている場合に限り(ただし、ログイン状態のまま操作がされずみなしログアウトになった場合は除く。)同操作時間を持ち帰り残業による労働時間とするなどした上で、亡Aの平成27年5月 連続30分以上操作されている場合に限り(ただし、ログイン状態のまま操作がされずみなしログアウトになった場合は除く。)同操作時間を持ち帰り残業による労働時間とするなどした上で、亡Aの平成27年5月1日から同年12月27日までの始 終業時刻を推計した数値は、処分行政庁が作成した推計表(乙1の121~126頁。以下「被告推計表」という。)のとおりである。 その上で、処分行政庁は、亡Aの休憩時間を原則として1日2時間として、同年5月22日から同年11月17日までの労働時間を算定した(乙1の127~132頁)。 ⑵ 亡Aの休憩時間アしかし、本件事業場では、午後9時には事務所内のパソコンが強制的にシャットダウンされ、職員は原則として午後10時までに退勤することとされ、それ以降残業する場合には、勤怠管理システム上で上司に申請し、上司の承認を受けることとされていたが、日によって異なる休憩時間を勤 怠管理システムに入力することは基本的に想定されておらず、所定休憩時間に従って実労働時間が算定される仕組みとなっていた(証人C150~153項、199~201項、証人D189~195項、証人K53~55項)。 イまた、本件事業場の営業職は、その仕事の性質上、顧客等の都合により 流動的に休憩を取らざるを得ない場合も少なくなく、平成29年4月以降追加裁量休憩が廃止されたことすら明確に認識していなかったこと(証人B181~183項、証人D137~144項、証人E143~144項)からすれば、亡Aの在籍当時、本件事業場内の営業職に1日1時間の裁量休憩を確実に取得しなければならないという意識は希薄であったことが推 認される。 ウさらに、亡AがB主任ら先輩職員から指導を受ける研修中の新入社員という立場に 1時間の裁量休憩を確実に取得しなければならないという意識は希薄であったことが推 認される。 ウさらに、亡AがB主任ら先輩職員から指導を受ける研修中の新入社員という立場にあり、先輩職員との外勤中や、先輩職員らの目の届く座席での内勤中に、自らの裁量で休憩を取ることには心理的な抵抗感があったと考えられることからすれば、亡Aが1日1時間の裁量休憩を十分とれる状況にあったとは考え難い。 エ他方、1日1時間の昼休憩については、内勤中であれば先輩職員らとともに外食に出掛けることで最低でも1時間の休憩が確保され、それを超える休憩を取ることもあったこと(乙17~19、証人C68~71項、証人D43~48項)に照らすと、亡Aが昼休憩の時間帯にも業務用端末の操作や業務用携帯電話での通話を行うことがあったこと(甲5、27~3 0)を踏まえても、亡Aは、本件事業場在籍中に平均して1日当たり1時間の昼休憩を確保できていたものと認められる。 ⑶ 休憩時間を修正した上での労働時間数の算定アそこで、当裁判所は、前記⑴の被告推計表の数値が相応の正確性、信頼性を有していることを前提としつつ、前記⑵のとおり亡Aの1日当たりの 休憩時間を1時間(例外として、拘束時間が5時間未満の場合は0分)として、亡Aの平成27年7月1日から亡Aが年内の労働を終了した同年12月27日までの労働時間数を算定した。 イそれによる亡Aの労働時間は別紙裁判所労働時間集計表のとおりであり、同期間中における亡Aの時間外労働時間数の推移は平成27年12月27 日~11月28日が91時間55分、同年11月27日~10月29日が104時間38分、同年10月28日~9月29日が69時間39分、同年9月28日~8月30日が93時間54分、同年8月2 日~11月28日が91時間55分、同年11月27日~10月29日が104時間38分、同年10月28日~9月29日が69時間39分、同年9月28日~8月30日が93時間54分、同年8月29日~7月31日が85時間17分、同年7月30日~7月1日が70時間38分となる。 ⑷ 前記⑶の亡Aの時間外労働時間数は、平成27年12月28日頃の精神障 害の著しい悪化前1か月(91時間55分)、2か月(104時間38分)及 び4か月(93時間54分)について認定基準別表1の「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当することから、その心理的負荷がいずれも「中」と判断されることは明らかであるし、同日頃前の直近3か月ではないが、直近2か月のうち1か月は100時間を5時間弱超えており、もう1か月も約92時間という水準に達し、直近4か月も約94時間という水準に 達していることから、認定基準別表1の「連続した3か月間に、1か月当たりおおむね100時間以上」に準ずるものとして「強」と評価する余地もあるといえる。 ⑸ 仕事内容・仕事量の変化について別紙裁判所労働時間集計表によれば、亡Aの研修期間の終了前後である平 成27年10月から11月頃にかけて労働時間は大きく増加していることが認められるが、前記⑴のとおり亡Aが従事していた営業職の新入社員としての業務の一連の流れ自体は、研修期間の終了前後で大きく変化しておらず、最終的な受注には上司や先輩職員らの助力が必要であることも従前と同様であったことに照らすと、仕事内容・仕事量の変化は、時間外労働に関連する 一事情として把握すれば足りるというべきである。 ⑹ 原告の主張についてア原告は、亡Aが業務用端末の操作や業務用携帯電話での通話などの業務に要してい 事量の変化は、時間外労働に関連する 一事情として把握すれば足りるというべきである。 ⑹ 原告の主張についてア原告は、亡Aが業務用端末の操作や業務用携帯電話での通話などの業務に要していた時間は時間外労働ないし休日勤務とした上で、原告の休憩時間は30分とすべきである旨主張する。 しかし、一般的に、自宅等における持ち帰り残業は私的な生活の場等で行われ、合間に休憩を挟んだり同時に私用を行ったりすることも容易であることからその労働密度は必ずしも高くないといえることに加え、亡Aが使用していた業務用端末(iPad)はウェブサイトの閲覧その他の業務外の目的で使用することも可能であったこと(乙1の1015頁)からす れば、前記⑴のとおり業務用端末の操作等が30分以上継続する場合に限 りその時間を労働時間と扱うことには相応の合理性があるといえる。また、亡Aが本件事業場における各勤務日に30分しか休憩できなかったことを認めるに足りる客観的な証拠はない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 イ原告は、平成27年11月5日の始業時刻について、亡Aは通常おおむ ね午前8時30分には本件事業場に出勤しており、同年8月20日に福岡市で開催された研修の前に本件事業場に出勤してから同研修に参加していたことからすると、同年11月5日も午前8時30分に本件事業場に出勤してから福岡市で開催された研修に参加していたと認めるべきである旨主張する。 しかし、原告の上記主張は推測に基づくものにすぎず、亡Aが同日の研修参加前に本件事業場に出勤したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、同年8月20日の研修時には本件事業場出勤時にICカード型タイムカードの打刻がされている一方、同年11月5日には同打刻がさ 研修参加前に本件事業場に出勤したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、同年8月20日の研修時には本件事業場出勤時にICカード型タイムカードの打刻がされている一方、同年11月5日には同打刻がされていない(甲7の4枚目、7枚目参照)ことからすれば、原告が後者の日には 本件事業場に出勤していないことが認められる。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 ウ原告は、平成27年11月6日の始業時刻について、本件会社の研修連絡(乙22)に亡Aが参加した同日の研修開始時刻が午前9時30分と記載されていることから、同日の始業時刻を同時刻とすべきである旨主張す る。 しかし、上記研修は全国を複数のエリアに分けて行われたものであり、エリアごとの修正はあり得るし、処分行政庁が上記研修連絡(乙22)の存在を把握した上でなお、調査の結果、被告推計表において同月5日及び同月6日の亡Aが参加した福岡会場での研修開始時刻を午前10時とし、 両日の研修終了時刻を午後6時15分として、上記研修連絡の記載とは異 なる修正後の時刻を認定したものと考えられることに照らすと、同月6日の研修は午前10時から午後6時15分まで行われたとみるのが自然である。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 エ原告は、平成27年11月6日の終業時刻について、亡Aが福岡市内での研修が午後6時15分に終了した後、そのまま熊本市内の自宅に帰宅せ ず午後8時34分に本件事業場に立ち寄って勤務を開始するまでの移動時間にも新幹線車内で業務用端末を操作したり業務用携帯電話で通話するなどして業務に従事していたことから、その移動時間(2時間19分)も労働時間として認定すべきである旨主張する。 しかし、福岡から熊本までの移動時間は、仮に 末を操作したり業務用携帯電話で通話するなどして業務に従事していたことから、その移動時間(2時間19分)も労働時間として認定すべきである旨主張する。 しかし、福岡から熊本までの移動時間は、仮に亡Aが本件事業場に立ち 寄らずに熊本市内の自宅に直帰した場合にも必要となる移動時間であり、一般的に労働時間とはみなされない通常勤務時の通勤時間と同質性を有する上、亡Aが同移動時間中に業務用端末の操作や業務用携帯電話での通話を行っていた時間は合計数分程度にとどまること(乙1の481~482、494頁)に鑑みると、福岡市内の研修会場から本件事業場までの移動時 間を労働時間と評価することは困難である。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 オ原告は、亡Aが平成27年10月29日から同年11月10日までの13日間、同月12日から同年12月1日までの20日間、同月3日から同月27日までの25日間にそれぞれ休日のない連続勤務を行ったことから すれば、本件会社での業務による心理的負荷は「中」と評価すべきである旨主張する。 しかし、前記アのとおり亡Aの持ち帰り残業については業務用端末の操作等が30分以上継続した時間を労働時間として扱うべきところ、それを前提とした場合には、亡Aの休日のない連続勤務は同年12月17日から 同月27日までの11日間が最長となり、これを認定基準別表1の「2週 間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」に当てはめて評価するとしても、その心理的負荷は「弱」にとどまる(なお、同年9月1日から同年12月31日までの期間中、亡Aの勤務時間インターバルが9時間に満たない日は3日しかない。乙37参照)。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 ⑺ 被告の主張について から同年12月31日までの期間中、亡Aの勤務時間インターバルが9時間に満たない日は3日しかない。乙37参照)。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 ⑺ 被告の主張について被告は、亡Aの休憩時間について、①本件事業場の上司・同僚であるC統括、B主任、D主任及びEがいずれも追加裁量休憩を含め十分な休憩を取ることができていた旨一致して陳述(乙39~42)・供述(証人C、証人B、証人D、証人E)していること、②内勤時や外部展示場勤務時には容易に利 用可能な場所に休憩室や喫煙所があった上、勤怠管理が緩やかな外勤時にも適宜の場所で休憩を取ることが可能であり、特に外部展示場勤務は、平日であれば来場者が少なく、休日であれば複数の営業職が配置されていたため、先輩職員らの商談の仕方を学ぶことが役割とされていたにすぎない亡Aは比較的自由に休憩を取ることができたと考えられること、③亡AがEやD主任 らと外食や飲み会のために頻繁に退勤時刻を示し合わせる余裕があったことから、亡Aが1日2時間の休憩を日常的に取ることができていたと認められる旨主張する。 しかし、①については、本件会社の新入社員という亡Aと同じ立場で同社の福岡支店に勤務していた証人Kが反対趣旨の供述(証人K46~55項) をしているし、亡Aが先輩職員から指導を受ける営業職の新入社員であり、B主任から繰り返し指導を受けながら業績目標も未達成であったこと(後記4)からすれば、亡Aに自らの裁量で十分な休憩を取れるような時間的・精神的余裕があったとは考え難い。 また、②については、亡Aの営業活動日報や業務用手帳の記載等(甲32 ~36)によれば、亡Aが比較的休憩が取りやすかったと考えられる外部展 示場に勤務する頻度は1週間に1~ また、②については、亡Aの営業活動日報や業務用手帳の記載等(甲32 ~36)によれば、亡Aが比較的休憩が取りやすかったと考えられる外部展 示場に勤務する頻度は1週間に1~2回程度に限られ(平成27年12月中に亡Aが外部展示場勤務を割り当てられた合計8日〔甲12の114枚目〕のうち、亡Aが外部展示場で終日勤務していたのは2日のみである。)、外部展示場勤務時であっても時間帯にかかわらず業務用端末を操作したり業務用携帯電話で顧客と通話したりするなどしていたことが認められるから、内勤 等も含めた本件事業場における勤務全体を通じて見れば、亡Aの労働密度が低かったとはいえない。 さらに、③については、亡A、D主任及びEらの退勤時刻は午後10時前後であることも多く、そのような遅い時間帯から飲み会や外食を頻繁にしていたとは考え難い上、亡Aと他の職員らの終業時刻が近接していたこと(乙 28~32)をもって直ちに亡Aらが残業の有無と無関係に事務所内で待機し、退勤時刻を示し合わせていたことが推認されるわけでもない。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 4 争点⑶(亡Aの長時間労働以外の心理的負担の有無)について⑴ 認定事実 前記第2の2の前提事実並びに各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア亡Aは、平成27年4月に本件事業場に配属された後、事務所併設の展示場での来場者の接客や、午後8時30分頃まで許容されていた顧客への電話営業(いわゆるTEL打ち)に従事していたほか、B主任が策定した 研修計画に従って各種研修や勉強会に参加したり、実地研修の一環として住宅展示場での商談や外勤に同行したりしていた(甲10、12、乙1、17、19、21、証人B22~ たほか、B主任が策定した 研修計画に従って各種研修や勉強会に参加したり、実地研修の一環として住宅展示場での商談や外勤に同行したりしていた(甲10、12、乙1、17、19、21、証人B22~27項)。 イ B主任は、亡Aの指導担当として同人の営業活動日報にコメントを記入する業務を行っていたが、顧客への電話営業に関し、平成27年5月1日 の日報に「1日最低10件以上」、同月9日の日報に「AP(アポイントメ ント)がとれる動きをお願いします」、同月11日の日報に「1日60件以上を目指し」、同月21日の日報に「日々TEL打ちのくせを身に付け、APの習慣をあたりまえにする事」、同月31日及び同年6月5日の日報に亡Aの営業件数について「少ない」と記入した(甲12)。 ウ亡Aは、平成27年7月25日、B主任の敷地調査(調査の時間は約2 時間)に同行した。同日の天候が晴れで、最高気温は35℃、湿度がおおむね50~60%あり、B主任は亡Aに飲料代を渡して水分補給を勧めた。(甲76~77、乙1、42、証人B86~88項)エ亡Aは、平成27年9月の研修期間終了に伴い毎月の受注及び申込みに関する業績目標を設定されるようになってから、午前8時30分頃に出勤 してタイムカードの打刻前に業務を開始したり、午後10時過ぎに退勤したりするようになった(甲7、乙1、21)。 オ亡Aは、平成27年9月頃の飲み会でD主任からインターネット上の簡易性格診断でアスペルガー症候群であったと指摘されたことを母親に電話で報告し、母親は「でもムカつくね!」、「何も教えんで、障害者に仕立 てられたって労基署行くから。」とメールで返信した(甲13、証人D49~61項、177~181項)。 カ B主任は、平成27年9月27日頃、亡Aに カつくね!」、「何も教えんで、障害者に仕立 てられたって労基署行くから。」とメールで返信した(甲13、証人D49~61項、177~181項)。 カ B主任は、平成27年9月27日頃、亡Aに対し、同人が暴力団関係者ではないかと考えたタトゥのある住宅展示場来場者への対応に責任を負う旨の念書に署名することを求めたが、亡Aから拒否された(甲13、7 8、乙1、証人B89~114項、208~216項)。 キ B主任は、亡Aが営業活動日報の記載に誤字脱字を繰り返すなどして順調な成長が感じられず、受注の成約や申込みもとれていなかったことから、平成27年10月の亡Aの営業活動日報の「月間目標・実績」欄に「11月は必ず申込契約を取得する事を1番に考えた行動をする事。必ず受注 する」と記入し、同年10月18日の日報に「漢字のまちがいや言葉・文 字は誰が見ても理解できる様にして下さい。この冊子は誰の為にしているのか?誰が確認をしているのかを考えると、文字の指摘はないかと思います。真剣にしないと打合せ記録もお客様に出せないですよ。」、同月25日の日報に「漢字の間違いを訂正願います。人財開発の方々から学んだと思いますが3秒、3分、30分の法則を見直してみては?」、同年11月1日 の日報に「もう少し考えた行動をする様に!!」と記入した(甲12)。 ク B主任は、亡Aを「お前」や「A」と呼び捨てにしており、亡Aに対し、「もっとノリ良くしよう」、「真面目なだけじゃ駄目だ」、「もっと明るくなれよ」といった趣旨の発言や、「気合が足りない」といった趣旨の発言をしていた(乙1、証人D156~160項、証人E104~107項、証人 B226~233項)。 ケ亡Aは、平成27年11月8日頃以降、毎日提出すべき営業活動日報の提 といった趣旨の発言をしていた(乙1、証人D156~160項、証人E104~107項、証人 B226~233項)。 ケ亡Aは、平成27年11月8日頃以降、毎日提出すべき営業活動日報の提出を半月近く遅滞することもあった(乙1の730頁 )上、同年12月の営業活動日報には反省の言葉が多くなる一方、B主任からのコメントは誤字脱字を指摘するものばかりが見られ、同月12日の日報には亡Aの「T EL打ち3週間オーバーをなくしました」との実績報告に対し、「根本的に3週間オーバーをなくすことが仕事ではありません」と否定的なコメントが記入された。亡Aは、同月24日に体調不良で欠勤した際、B主任に「忙しい時期に休んでしまう事になり、またご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ございません。自宅にて、出来る仕事は全てしておきます。」とのメー ルを送信した(甲12、乙1)。 コ亡Aは、平成27年12月27日、前日夜に一緒にテレビゲームで遊んでいたC統括から許可を受けて始業時刻よりも遅く出勤した。B主任は、当該許可を知らなかったことから遅刻であると誤解し、出勤前の亡Aに電話を架け叱責した。亡Aは、その際弁明をすることなく、B主任に対し「気 合いが足りてないと何時も言われており、色々な事を指導して頂いても素 直に認められずにいたと思います。大変、申し訳ございません。確かにB主任のおっしゃる通り、情報や指導をもらってばかりで、何も返せておらず、謙虚な気持ちが足りていませんでした。」とのメールを送信した(乙1)。 サ亡Aは、平成27年12月30日の夜に自死行為に用いる練炭を準備していたことを母親に見つかり諫められたが、その▲日後の平成▲年▲月▲ 日に遺書等も残さず実家を出ていき、自動車内で練炭を燃焼させて自死した(乙 7年12月30日の夜に自死行為に用いる練炭を準備していたことを母親に見つかり諫められたが、その▲日後の平成▲年▲月▲ 日に遺書等も残さず実家を出ていき、自動車内で練炭を燃焼させて自死した(乙1、証人J172~181項、207~211項)。 ⑵ 指導担当からのパワーハラスメントについてア不適切な態様での指示、叱責について 前記⑴のとおり、B主任は、平成27年4月に入社したばかりの亡A の指導担当として、毎日亡Aと直接顔を合わせ指導する中で、C統括ら上司が閲読する亡Aの営業活動日報に、研修期間中の新入社員でありながら営業活動の量を増やすことや、相応の結果を出すことを求めるプレッシャーを与えるようなコメントを付していた(前記⑴ア、イ)ほか、同年9月以降時間外労働が増えていた亡Aの状況(同エ)に十分留意し ないまま、同年10月以降は営業活動日報において誤字脱字の指摘や否定的なコメントばかり記入するようになっていき、同年11月以降亡Aが毎日の営業活動日報の提出すらままならなくなっていたことを把握した後も同様であったこと(同キ、ケ)、亡Aを「お前」や「A」と呼び捨てにし、同僚等の面前で叱責したり、気合いが足りないなどと前時代的 な体育会系の指導をすることもあったこと(同ク)に照らすと、特に亡Aが本件事業場に配属された初期の時期における営業活動日報のコメントにはB主任が亡Aの成長のために緻密な指導をしようと努力していた姿勢が見受けられる記載があり(甲12)、同年10月以降も一応、丁寧な言葉遣いで指導の理由や狙いを亡Aに理解させようと意識していたよ うに見受けられる記載もあること(同キ)、顧客との信頼関係の醸成が重 要である住宅販売の営業職にとって誤字脱字による業務への支障は軽視できな 亡Aに理解させようと意識していたよ うに見受けられる記載もあること(同キ)、顧客との信頼関係の醸成が重 要である住宅販売の営業職にとって誤字脱字による業務への支障は軽視できない場合もあること等を踏まえても、その指導は新人の営業職であった亡Aを萎縮させていき、自尊心を損なわせて無抵抗な状態に追い込み(前記⑴ケ、コ)、自死という最悪の結果(同サ)につながりかねない、不相当かつ適切性を欠くものであったといわざるを得ない。 また、B主任が、平成27年9月27日頃、亡Aに対し、同人が暴力団関係者ではないかと考えた顧客の対応について一切の責任を負わせる旨の念書に署名するよう指示したこと(前記⑴カ)は、仮にB主任が多種多様な顧客に向き合う営業職としての心構えを示す目的で指示したものであるとしても、不適切な面があったというべきである。 さらに、亡Aの死亡▲日前である平成27年12月27日にも亡AがC統括の許可を得て遅く出勤したのにB主任がそれを把握しないまま一方的な叱責を行ったこと(同コ)についても、職場における力関係の差に加え、その頃は既に亡Aが他のうつ病エピソードを発病するほど追い込まれた状況にあったことからすれば、理不尽であり、不適切な指導で あったといえる。 イ指導放棄について前記アのとおり、B主任には亡Aの成長のために緻密な指導をしようと努力していた姿勢が見受けられるのであり、業務上必要な指導を放棄していたとまでは認められない。 ウ人格否定、嫌がらせについてD主任が飲み会の場で一度アスペルガー症候群との簡易性格診断の結果を指摘したこと(前記⑴オ)をもって直ちに亡Aに対する人格否定や嫌がらせがされたとまではいえないし、B主任が亡Aに対し、その人格を否定 主任が飲み会の場で一度アスペルガー症候群との簡易性格診断の結果を指摘したこと(前記⑴オ)をもって直ちに亡Aに対する人格否定や嫌がらせがされたとまではいえないし、B主任が亡Aに対し、その人格を否定したり、嫌がらせをしたりしていたことを認めるに足りる客観的な証拠 はない。 エ業務上不必要又は過大な要求について平成27年7月25日にB主任が亡Aを敷地調査に同行させたことは、新入社員に対する実地研修の一環として正当な業務指示であり、当日の天候が晴れで、気温・湿度が高かったこと(前記⑴ウ)を踏まえても、社会通念上、業務上不必要又はその目的を逸脱する過大な要求がされたとは認 められない。 オ小括以上によれば、指導担当のB主任から亡Aが受けた心理的負荷は「中」と評価すべきである(原告は「強」と評価すべきであると主張するが、採用できない。)。 カ原告の主張について 原告は、亡Aが上記アスペルガー症候群に係る指摘以降も「自閉症でないか」などと発達障害に擬えて揶揄されていた旨主張し、母親の陳述(甲11)・供述(証人J26~28項)及びIの陳述(甲75)・供述(証人I74項)にはこれに沿う部分がある。 しかし、上記各陳述・供述は、いずれも亡Aからの事後的な伝聞であって、発言者や発言時期等が具体性を欠いていることからも、直ちに採用することはできず、その他に原告主張の発言があったことを認めるに足りる証拠はない。 原告は、亡Aが同僚らと外食した際にラーメンやコーラを競い合って 飲食することをB主任が強要した旨主張し、Iの陳述(甲75)・供述(証人I71~73項)にはこれに沿う部分がある。 しかし、Iの陳述・供述は亡Aからの事後的な伝聞であるから疑いを差し挟む 飲食することをB主任が強要した旨主張し、Iの陳述(甲75)・供述(証人I71~73項)にはこれに沿う部分がある。 しかし、Iの陳述・供述は亡Aからの事後的な伝聞であるから疑いを差し挟む余地があるし、ラーメンを「その場のノリ」で競い合って食べたことはあるが特定の誰かから強要されたことはない旨のEの供述(乙 1の741頁)は比較的若年の男性営業職が集まる飲食の場での行動と して特段不自然・不合理とはいえないから、亡Aが競い合いの飲食に一定程度の同調圧力を感じた可能性は否定できないとしても、B主任が飲食を亡Aに強要したとまでは認められない。 ⑶ 受注の未達成による重圧、焦り等について証拠(乙26)によれば、亡Aは、平成27年12月上旬から中旬にかけ て顧客から3件の受注に向けた申込みを獲得したことが認められ、それまで受注を獲得できていなかったことによる重圧や焦りは一定程度緩和されていたと考えられるから、その心理的負荷は「弱」と評価すべきである(原告は「中」と評価すべきであると主張するが、採用できない。)。 5 争点⑷(亡Aの業務以外の心理的負荷及び個体側要因)について ⑴ 交際女性との別離について証拠(乙1)によれば、亡Aは、平成27年9月ないし10月頃、学生時代からの交際女性と別れ、そのことを仲の良い友人や同僚らに相談したり愚痴を述べたりしていたことが認められ、交際女性との別れが他のうつ病エピソードの発病や自死と関係している可能性は否定できないが、そのことが亡 Aの自死の主たる原因であるとまでは認められない。 ⑵ 既往症について証拠(乙1)によれば、亡Aは、平成16年4月に中学進学後、不登校となり、同年6月に自律神経失調症、平成17年1月に適応障害、同年 主たる原因であるとまでは認められない。 ⑵ 既往症について証拠(乙1)によれば、亡Aは、平成16年4月に中学進学後、不登校となり、同年6月に自律神経失調症、平成17年1月に適応障害、同年2月に抑うつ神経症での病院を受診したものの、中学3年時以降は特段の問題なく 学校生活を送っていたこと、平成20年6月には、父親である原告の降圧剤等を発作的に過剰摂取して急性薬物中毒を発病し入院したが、平成27年4月の本件会社入社時には継続的な診療を要する状態にはなく、上記薬剤の過剰摂取も繰り返されていなかったことが認められる。そうすると、上記自律神経失調等は、いずれも思春期特有の自律神経の乱れや未成熟な思考等に起 因する一時的な事象と評価し得るものであって、成人となった亡Aが他のう つ病エピソードの発病以前から個体側脆弱性を有していたとまでは認められない。 ⑶ 被告の主張についてア被告は、亡Aが毎年一緒に初詣に出かけていた交際女性との別れが典型的な失恋と同程度又はそれ以上の強度の心理的負荷に該当するほか、亡A が発達障害(自閉症スペクトラム障害ないし注意欠陥多動性障害)に罹患していた旨主張し、F医師の意見書(乙33)にはこれに沿う部分がある。 イしかし、F医師は亡Aを直接診察しておらず、その前提とする事実関係は、亡Aの生活史の一側面に限られたものであるし、亡Aが生前医療機関において発達障害の診断を受けていなかったことからすれば、F医師の意 見には疑問を差し挟む余地がある。かえって、亡Aは本件会社で新入社員という同じ立場にあったKに対し平成27年11月5日の福岡市内での研修の際には落ち込んだ様子で交際女性と別れたことを伝えていたが同年12月下旬にKと電話で話した際には交際女性との別れでは で新入社員という同じ立場にあったKに対し平成27年11月5日の福岡市内での研修の際には落ち込んだ様子で交際女性と別れたことを伝えていたが同年12月下旬にKと電話で話した際には交際女性との別れではなく主にパワハラによる悩みを相談していたこと(証人K96項、162~164項)、同 月28日のIら親しい友人と集まった二次会で交際女性の話は出なかったこと(証人I82項)からすれば、交際女性との別離は認定基準別表2の⑥他人との人間関係「失恋、異性関係のもつれがあった」(平均的な心理的負荷の強度はⅡ)に該当するにすぎないというべきである。また、亡Aが発達障害に罹患していたことを認めるに足りる証拠はないし、仮に発達障 害の存在を前提としても、同障害が他のうつ病エピソードの発病及びそれに起因する自死に関与した機序は不分明であるというほかない。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 6 争点⑸(業務起因性の総合評価)について⑴ 認定要件1について 前記2⑸のとおり、亡Aは平成27年11月17日頃に対象疾病である精 神障害(他のうつ病エピソード)を発病していたものである(認定要件1該当)。 ⑵ 認定要件2についてア本件会社の業務による亡Aの心理的負荷の評価期間については、亡Aが自死した平成▲年▲月▲日の▲日前で、他のうつ病エピソードの著しい悪 化があったと考えられる平成27年12月28日頃からおおむね6か月前(亡Aが他のうつ病エピソードを発病した同年11月17日頃のおおむね5か月前を含む。)とすることが相当である(前記2⑺)。 イそして、亡Aの時間外労働時間数は、平成27年12月28日頃の精神障害の著しい悪化前1か月(91時間55分)、2か月(104時間38分) む。)とすることが相当である(前記2⑺)。 イそして、亡Aの時間外労働時間数は、平成27年12月28日頃の精神障害の著しい悪化前1か月(91時間55分)、2か月(104時間38分) 及び4か月(93時間54分)について認定基準別表1の「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当することから、その心理的負荷がいずれも「中」と判断されることは明らかであるし、同日頃前の直近3か月ではないが、直近2か月のうち1か月は100時間を5時間弱超えており、もう1か月も約92時間という水準に達し、直近4か月も約94時間 という水準に達していることから、認定基準別表1の「連続した3か月間に、1か月当たりおおむね100時間以上」に準ずるものとして「強」と評価する余地もあるといえる(前記3⑷。なお、本件事業場における11日間の連続勤務等により受けた心理的負荷は「弱」にとどまる〔同⑹オ〕。)ウまた、亡Aが他のうつ病エピソードを発病してから自死するまでの約1 か月半の期間のうちに本件事業場における指導担当の不相当な言動により受けた心理的負荷は「中」に該当し(前記4⑵)、受注の未達成による重圧、焦り等による心理的負荷は「弱」に該当する(同⑶)。 エ前記イの長時間労働及びウの長時間労働以外の出来事について、亡Aの他のうつ病エピソードの発病ないし増悪と時間的に近接し、相互に関連す る一つの出来事として評価した場合には、亡Aの心理的負荷は「強」に該 当するものと評価される(認定要件2該当)。 ⑶ 認定要件3について亡Aの自死に係る業務以外の心理的負荷及び個体側要因の影響の程度は高くない(前記5。認定要件3該当)。 ⑷ 総合評価 したがって、亡Aの精神障害(他のうつ病エピソード)の ついて亡Aの自死に係る業務以外の心理的負荷及び個体側要因の影響の程度は高くない(前記5。認定要件3該当)。 ⑷ 総合評価 したがって、亡Aの精神障害(他のうつ病エピソード)の発病及び著ししい悪化は認定基準上の要件に全て該当するというべきであり、亡Aは、平成27年11月17日頃に他のうつ病エピソードを発病した後、一旦安定していた症状が業務上の心理的負荷により急激に悪化したことによって正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され(自死行為を思いとどまる精神的抑制力 が著しく阻害され)、その結果、自死に至ったものとして、自死についても業務起因性が認められる。 ⑸ まとめ以上の次第で、亡Aの精神障害の発病及び自死の業務起因性を否定し遺族補償給付及び葬祭料を不支給とした本件各処分は、取消しを免れない。 第4 結論よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官中 辻󠄀 雄一朗 裁判官友部一慶 裁判官三浦裕輔は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官中 辻󠄀 雄一朗別紙「裁判所労働時間集計表」は掲載省略

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