主文 本件訴えをいずれも却下する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 電波法100条1項1号及び電波法施行規則44条2項2号に規定する屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する電力線搬送通信設備について,同規則46条の2第1項の規定により総務大臣が平成18年11月21日に総務省告示第617号をもって行った別紙型式指定目録記載の型式指定を取り消す。 総務大臣は,電波法100条1項1号及び電波法施行規則44条2項2号に規定する屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する電力線搬送通信設備について,同規則44条1項1号(1)及び46条の2の型式指定をしてはならない。 総務大臣は,無線設備規則59条1項1号に規定する電力線搬送通信設備のうち,屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数を使用するものについて,電波法100条1項1号の許可をしてはならない。 第2事案の概要本件は,アマチュア無線局の免許を有する者等である原告らが,電波法施行規則等の改正により平成18年10月4日に導入が認められた屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する広帯域電力線搬送通信設備について,当該通信設備から漏えいする 電波によりアマチュア無線通信が妨げられるなどと主張して,当該通信設備につき総務大臣が同規則44条1項1号(1)及び46条の2第1項に基づき行った別紙型式指定目録記載の型式指定(以下「本件型式指定処分」という。)の取消しを求める(以下,この請求に係る訴えを「本件取消訴訟」という。)とともに,総務大臣がする同規則44条1項1号(1)及び った別紙型式指定目録記載の型式指定(以下「本件型式指定処分」という。)の取消しを求める(以下,この請求に係る訴えを「本件取消訴訟」という。)とともに,総務大臣がする同規則44条1項1号(1)及び46条の2の型式指定並びに電波法100条1項1号の許可(以下,これらを併せて「本件許可処分等」という。)の差止めを求める(以下,この請求に係る訴えを「本件差止めの訴え」という。)事案である。 前提事実本件の前提となる事実は,以下のとおりである。いずれも当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨等により容易に認めることのできる事実であるが,括弧内に認定根拠を付記している。 (1)アマチュア無線についてアアマチュア無線局とは,個人的な興味によって無線通信を行うために開設する無線局をいう(電波法5条2項2号括弧書き)。 無線局を開設しようとする者は,電波法4条各号に掲げる無線局を除き,総務大臣の免許を受けなければならず(同条本文),アマチュア無線局についても,総務大臣の免許を受けなければ,開設することができない。 総務大臣は,免許を与えたときは,免許状を交付することとされ(電波法14条1項),免許状には,無線局の種別,呼出符号(いわゆるコールサイン)その他の識別信号,電波の型式及び周波数その他の事項を記載しなければならないこととされている(同条2項)。 イアマチュア無線局の無線設備の操作は,電波法39条の13ただし書に定める場合を除き,無線従事者でなければ行ってはならないとされ(同条本文),アマチュア無線局に係る無線従事者の資格は,第1級アマチュア無線技士から第4級アマチュア無線技士までに区分されている(同法40条1項5号)。無線従事者になろうとする者は,総務大臣の免許を受けなければならず(同法41条1項),無線従事者の免許は, アマチュア無線技士から第4級アマチュア無線技士までに区分されている(同法40条1項5号)。無線従事者になろうとする者は,総務大臣の免許を受けなければならず(同法41条1項),無線従事者の免許は,無線従事者国家試験に合格した者その他一定の要件に該当する者でなければ,受けることができない(同条2項)。無線従事者国家試験は,無線設備の操作に必要な知識及び技能について,総務大臣が行うこととされている(同法44条,45条)。 ウ電波法において,「電波」とは,300万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう(同法2条1号)ところ,アマチュア無線局に使用が許されている周波数帯域のうち,主として遠距離通信に用いられている周波数帯域は,3メガヘルツから30メガヘルツまでの短波と呼ばれる帯域である。 短波帯の電波は,電離層で反射されて地球の裏側までも伝播するという性質を有しており,アマチュア無線局においては,このような短波の性質を生かして,遠距離通信が行なわれている。(弁論の全趣旨)(2)高周波利用設備についてア高周波利用設備とは,通信,医療,工業等の目的のために高周波電流を利用する設備である。高周波利用設備は,本来,電波を空間に発射することを目的とするものではないが,高周波電流を利用するために,ともすると漏えいする電波が空間に発射され,その漏えい電波が混信又は雑音とし て他の無線通信を妨害するおそれがある。このため,電波法では,無線通信に妨害を与えるおそれのある一定の周波数又は電力を利用する高周波利用設備について,事前の設置許可又は型式指定を必要とする制度を導入している。 すなわち,電波法100条1項1号は,電線路に10キロヘルツ以上の高周波電流を通ずる電信,電話その他の通信設備(ケーブル搬送設備,平衡2線式裸線搬送設備その他総務省令で定める 制度を導入している。 すなわち,電波法100条1項1号は,電線路に10キロヘルツ以上の高周波電流を通ずる電信,電話その他の通信設備(ケーブル搬送設備,平衡2線式裸線搬送設備その他総務省令で定める通信設備を除く。)を設置しようとする者は,総務大臣の許可を受けなければならない旨を定め,また,同項2号は,無線設備及び前号の設備以外の設備であって10キロヘルツ以上の高周波電流を利用するもののうち,総務省令で定めるものを設置しようとする者は,総務大臣の許可を受けなければならない旨を定めている。 これを受けて,電波法施行規則44条1項1号(1)は,定格電圧100ボルト又は200ボルト及び定格周波数50ヘルツ又は60ヘルツの単相交流を通ずる電力線を使用する電力線搬送通信設備(電力線に10キロヘルツ以上の高周波電流を重畳して通信を行う設備をいう。)であって,その型式について総務大臣の指定を受けたものについては,電波法100条1項1号の規定による総務大臣の許可を要しない旨を定めている。 また,平成18年総務省令第118号による改正前の無線設備規則(以下「旧無線設備規則」という。)59条1号は,電力線搬送通信設備にあっては,10キロヘルツから450キロヘルツまでの周波数を使用するものでなければならない旨を定めていた。(甲27,弁論の全趣旨) イ電力線搬送通信設備(PowerLineCommunications:PLC)の1つである広帯域電力線搬送通信設備(以下「本件PLC」という。)とは,屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する電力線搬送通信設備である(概要については,別紙図1-1及び図1-2参照)。本件PLCには,屋内に設置された電力線コンセントにPLCモデムを接続するのみで既存の電力線 より信号を送信し,及び受信する電力線搬送通信設備である(概要については,別紙図1-1及び図1-2参照)。本件PLCには,屋内に設置された電力線コンセントにPLCモデムを接続するのみで既存の電力線を通じて容易にインターネット接続をすることが可能となり,また,使用される搬送波の帯域が2メガヘルツから30メガヘルツまでと広帯域であるため,伝送される情報量が多く,高速度の通信が可能であるという利点がある。他方で,本件PLCを使用すると,電力線から漏えいする電波による混信又は雑音のため無線通信が妨害を受けるおそれがあり,アマチュア無線局等において使用されている3メガヘルツから30メガヘルツまでの短波帯の無線通信に対する影響が指摘されている。(甲3,乙2,弁論の全趣旨)(3)本件PLCの導入に伴う総務省令の改正についてア前記のとおり,旧無線設備規則59条1号においては,電力線搬送通信設備にあっては,10キロヘルツから450キロヘルツまでの周波数を使用するものでなければならないとされていたが,平成18年総務省令第118号により旧無線設備規則59条1号が改正され,電波法100条1項1号の許可を要する電力線搬送通信設備にあっては,10キロヘルツから450キロヘルツまで又は屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数を使用するものでなければならないとされた。 また,平成18年総務省令第119号により電波法施行規則44条2項 が改正され,前項1号に規定する型式の指定は,10キロヘルツから450キロヘルツまでの周波数を使用する電力線搬送通信設備と屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する電力線搬送通信設備の2つの区分ごとに行うものとされた。(乙1)イ上記の2つの省令改正により,屋内 屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する電力線搬送通信設備の2つの区分ごとに行うものとされた。(乙1)イ上記の2つの省令改正により,屋内において2メガヘルツから30メガヘルツまでの周波数の搬送波により信号を送信し,及び受信する本件PLCが解禁され,所定の要件を満たした本件PLC機器であって,電波法施行規則44条1項1号(1)に基づきその型式につき総務大臣の指定を受けたものについては,電波法100条1項1号に基づく総務大臣の許可を受けることなく,使用することができることとなった。なお,上記2つの省令改正は,いずれも改正省令の公布の日である平成18年10月4日から施行された。(乙1)ウ総務大臣は,平成18年11月21日付けで,電波法施行規則44条1項1号(1)及び46条の2に基づき,本件PLC機器(モデム)である別紙型式指定目録記載の機器について,本件型式指定処分を行った。(甲2) 争点 (1)本件取消訴訟の適法性,具体的には,総務大臣が行った本件型式指定処分について,異議申立てに対する決定を経ることなく,処分の取消しの訴えを提起することが適法であるか。 (2)本件差止めの訴えの適法性,具体的には,総務大臣が電波法等に基づき行う処分についての救済手段としては,電波監理審議会の審理を経た後の取消 訴訟のみが許されているのではなく,電波監理審議会の審理を経ることなく直ちに差止めの訴えを提起することも許されているということができるか。 (3)本件差止めの訴えの適法性,具体的には,本件差止めの訴えの対象である本件許可処分等がされることにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるということができるか。 当事者の主張の要旨(被告の主張)(1)本件取消訴訟の対象である本 件差止めの訴えの対象である本件許可処分等がされることにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるということができるか。 当事者の主張の要旨(被告の主張)(1)本件取消訴訟の対象である本件型式指定処分は,電波法100条1項1号及び電波法施行規則44条1項1号(1),同条2項2号及び46条の2に基づく総務大臣の処分であるところ,同法96条の2によれば,同法又は同規則に基づく総務大臣の処分については,当該処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ,取消訴訟を提起することができるとされている(裁決主義)。ところが,原告らは異議申立てに対する決定を経ることなく,原処分に対する取消しの訴えである本件取消訴訟を提起しているから,本件取消訴訟が不適法であることは明らかである。 (2)ア本件差止めの訴えの対象である本件許可処分等は,電波法及び電波法施行規則の前記規定に基づいて行われる総務大臣の処分であって,これらの処分がされた場合には,前記のとおり,裁決主義が採られているから,これに対する異議申立てに対する決定に対してのみ取消訴訟を提起することができる。しかも,異議申立てに対する決定は,電波監理審議会へ付議され(同法85条),準司法的手続による審理(同法86条以下)を経て,電波監理審議会が行った議決(同法93条の4)により行うこととされて いる(同法94条)。このように,異議申立てに対する決定は,電波監理審議会による準司法的手続を経ているため,上記決定に対する取消訴訟においては,「電波監理審議会が適法に認定した事実は,これを立証する実質的な証拠があるときは,裁判所を拘束する。」とされ(同法99条1項),実質的証拠法則が採用されている。また,上記決定に対する取消訴訟は,東京高等裁判所の専属管轄とされている(同法97条)。 イ本件 的な証拠があるときは,裁判所を拘束する。」とされ(同法99条1項),実質的証拠法則が採用されている。また,上記決定に対する取消訴訟は,東京高等裁判所の専属管轄とされている(同法97条)。 イ本件差止めの訴えも取消訴訟と同じく抗告訴訟であるところ,仮に本件差止めの訴えが適法であるとすると,行政事件訴訟法37条の4第5項に基づき,総務大臣が本件許可処分等をすることがその裁量の範囲を超え又はその濫用となるか否かが,電波監理審議会の審理を経ることなく,地方裁判所において直接審理されることになるが,そうなると,電波監理審議会という専門的な機関の審理を経た決定に対してのみ取消訴訟が提起でき,その取消訴訟においては電波監理審議会の審理を尊重して実質的証拠法則が採用され,かつ,東京高等裁判所の専属管轄とされている趣旨が失われることになる。 ウそうすると,電波法は,総務大臣がする同法及び電波法施行規則に基づく処分については,電波監理審議会の審理を経た後の取消訴訟を救済手段として予定しており,本件のような差止めの訴えは予定していないというべきであるから,行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書の「他に適当な方法があるとき」に該当するというべきである。したがって,本件差止めの訴えは不適法である。 (3)ア仮に,本件のような差止めの訴えが電波法上予定されていないとまでは いうことができないとしても,前記のとおり,同法は,同法及び電波法施行規則に基づく総務大臣の処分については,それに対する異議申立てにより電波監理審議会の審理を経た決定による救済の可能性を認め,さらに,その決定に対する取消訴訟という救済の方法を予定しているのである。そうすると,このような救済方法によることなく,事前の差止めの方法による救済が必要となるほどの「重大な損害」(行政事件訴訟法3 らに,その決定に対する取消訴訟という救済の方法を予定しているのである。そうすると,このような救済方法によることなく,事前の差止めの方法による救済が必要となるほどの「重大な損害」(行政事件訴訟法37条の4第1項)とは,電波法が予定している上記のような手厚い救済方法によってもなお救済し得ないほど重大な損害でなければならないから,極めて限定的にしか認められないものであると解される。本件では,そのような重大な損害が生ずるおそれは認められないから,本件差止めの訴えは不適法である。 イすなわち,本件PLCは,屋内に敷設された電力線を利用して,高速の情報伝送を可能にするもので,導入の期待が高かったものである。本件PLCは,2メガヘルツから30メガヘルツという高周波電流を使用するため,電波法100条1項1号の許可が必要であるが,電波法施行規則44条1項1号(1)により型式の指定を受けたものについては,この許可が不要となる。そのため,総務省においては,総務大臣が高速電力線搬送通信に関する研究会を開催し,そこで取りまとめられた報告書を踏まえた上で,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会により示された本件PLC機器の型式指定に係る技術的条件を制度化するため,電波法施行規則の一部を改正する省令案を策定し,これについて意見招請を行うとともに電波監理審議会に諮問し,同改正案を適当とする旨の答申を踏まえて省令の改正を 行った。 ウこのように,総務大臣は,電波法施行規則の一部を改正する省令(平成18年総務省令第119号)等により,本件PLCの実験目的以外での一般的な導入を可能にしたものであり,本件PLCの通信状態における伝導妨害波の許容値は,漏えいする電波の強度が離隔距離において周囲雑音レベル程度以下となるように設定されたもので,原告らに重大な損害が生 般的な導入を可能にしたものであり,本件PLCの通信状態における伝導妨害波の許容値は,漏えいする電波の強度が離隔距離において周囲雑音レベル程度以下となるように設定されたもので,原告らに重大な損害が生ずるおそれはないというべきである。 (原告らの主張)(1)ア行政事件訴訟法8条2項によれば,「法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがある」場合でも,「処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」には,裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができると定められている。 以下のとおり,本件取消訴訟においては,異議申立て及びこれに対する裁決を経ることを強制することは相当ではなく,「処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当するから,異議申立て及びこれに対する裁決を経ることなく,直ちに第1審裁判所に取消訴訟を提起することが認められるべきである。 イ電波監理審議会において異議申立聴聞がされた件数は,電波監理審議会が設置されてから40年間でわずか21件にとどまる。また,ホームペー ジ上で公開されている電波監理審議会の議事録によると,平成8年から同18年までの11年間において,電波監理審議会が不服申立てに対して審理を行ったのはわずか6件にとどまっている。 紛争処理に要した期間としては,初回の聴聞開始日から審理官の意見書が提出されるまでの期間は,設置以来の40年間の21件中,意見書が提出された17件の平均は6.6年であり,24年間を経てもまだ審理中の案件も存在する。近年の2件 ,初回の聴聞開始日から審理官の意見書が提出されるまでの期間は,設置以来の40年間の21件中,意見書が提出された17件の平均は6.6年であり,24年間を経てもまだ審理中の案件も存在する。近年の2件については,それぞれ2年,1年で終結している。また,電波監理審議会が行う審理等に関する規則等の審理手続では,時期に遅れた攻撃防御方法の却下等の迅速な手続に対する配慮はされていない。 また,これらの不服申立てがされた紛争の類型は,そのほぼすべてが放送施設設置申請に対する不許可処分等であって,総務省の放送行政における放送,無線等の不許可処分が争われている。異議申立ての主体も,異議申立てがされた処分の客体も,そのほとんどが放送局又は標準放送局である。さらに,結果としては,ほぼすべての事例で異議申立ての棄却又は取下げがされており,権利救済機関としての機能にも疑問がある。 このような過去の経緯に照らせば,電波監理審議会の設置された趣旨は,免許行政判断における公平な判断に限定されるのであって,電波監理審議会による審理は,遅延のおそれが顕著であり,また,公平な判断を得られないおそれがある。 ウこれまで,裁判所は,少なくとも審査請求又は異議申立ての前置に関する限り,この手続を経ない取消訴訟の提起についても,相当柔軟に実体判 断を加えてきた。そこでの重要な判断要素は,いうまでもなく,判断が迅速かつ緊急に必要であることと異議申立て等の手続によって救済判断が得られる実効性がないことの両側面から実質的な判断を加えてきたものである。 本件においては,総務大臣による型式指定又は許可がされて,本件PLC機器がいったん販売されてしまうと,アマチュア無線電波への被害が継続的に発生するが,個別の購入者を相手として回収や使用の禁止をするのは事実上不可能であり,原告らの救済 定又は許可がされて,本件PLC機器がいったん販売されてしまうと,アマチュア無線電波への被害が継続的に発生するが,個別の購入者を相手として回収や使用の禁止をするのは事実上不可能であり,原告らの救済は不可能となってしまう。本件PLC機器は既に販売が開始されており,原告らの迅速な救済が必要であるが,電波監理審議会の議決を経るのでは平均審理期間も長期にわたり,迅速な救済を図ることは不可能である。 また,本件事案の紛争類型は,電波監理審議会がこれまで処理してきた紛争の類型とは全く異質なものであり,適切な時期の妥当な判断を期待することができず,電波法の仕組み上予定されている紛争ではない。本件訴訟では,本件許可処分等がされることの適法性が争われており,この判断を行政側の視点による狭い電波法上の要件該当性の判断だけでなく,裁判所による公平な視野からの損害発生の有無や救済の緊急性の判断が必要な事案ということができる。 エ電波監理審議会自体が,本件PLCの導入に係る告示の制定に既に決定的な方法で関与しており,したがって,この案件について電波監理審議会の判断を求めてみても,その判断主体が同一であり,第三者性は全く存在しない。電波監理審議会は客観的で公平な判断をすることができず,した がって,電波監理審議会の審理を準司法手続として位置付ける実体的な根拠がない。すなわち,本件型式指定処分は,総務省令第118号及び第119号並びに告示に基づく処分であるが,かかる省令による電波法施行規則等の改正に際して,電波監理審議会による答申が出され,これを踏まえて改正がされたものであるから,本件PLCの妥当性の判断については,電波監理審議会はこれを認め,推進する立場に立っているのであり,第三者的な立場にない。この点からも,本件について電波監理審議会における異議申立 たものであるから,本件PLCの妥当性の判断については,電波監理審議会はこれを認め,推進する立場に立っているのであり,第三者的な立場にない。この点からも,本件について電波監理審議会における異議申立ての審理を強制することは相当でなく,そのような強制をするとすれば,それは権利救済手段の実質的な否定であるといわざるを得ない。 (2)平成16年の行政事件訴訟法の改正により,差止めの訴えが法定された。 このような制度が法定されたのは,事後的な取消訴訟のみでは,国民の権利利益が実効的に救済されない場合があることが認識されたからである。同改正の趣旨は,行政訴訟を利用しやすくし,行政訴訟の原告の権利救済の範囲を拡張し,権利救済が図られないような場面をなくしていくことにあった。 差止めの訴えの創設は,このような改正法の趣旨の表れにほかならない。 被告の主張は,電波法等に基づく総務大臣の処分については,差止めの訴えを許さないとするものであるが,その根拠として主張するところは,同法上このような類型の訴訟は予定されていないとするにすぎず,実質的な理由は示されていない。同法等に基づく総務大臣の処分に対する救済手段としては,電波監理審議会の議決を経た後の取消訴訟のみが想定されているというが,同法は行政事件訴訟法の上記改正のはるか前に制定された法律であり,いかなる意味においても差止めの訴えを排除する規定は存在しない。 さらに,行政事件訴訟法37条の4の明文においても,また,その立法の経緯においても,後続する取消訴訟について異議申立ての前置や裁決主義が採用されている場合に,差止めの訴えが不可能あるいは不適法となるなどの議論は全くされたことがない。 被告の主張は,何ら法的な根拠のないものであって,明らかに失当である。 (3)行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「重大な 差止めの訴えが不可能あるいは不適法となるなどの議論は全くされたことがない。 被告の主張は,何ら法的な根拠のないものであって,明らかに失当である。 (3)行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」は,基本的には,本案の問題であると考えるべきである。 差止めの訴えにおいて,「重大な損害を生ずるおそれ」が必要とされている趣旨は,差止めの要件として,国民の権利利益の実効的な救済の観点を考慮するとともに,司法と行政の役割分担の在り方を適切なものとする必要があり,この観点からは,差止めの訴えが認められる場合は,裁判所が行政の違法性の判断を事前にしなければならないだけの必要性がある場合,すなわち事前救済を求めるにふさわしい救済の必要性がある場合に限ることが適当であるとされていることによる。 これを本件についてみるに,原告らに重大な損害が生ずるおそれがあるかどうかという点は,本件PLCの影響によって原告らがどの程度アマチュア無線をすることができなくなるおそれがあるのかという観点で判断されるべきであるところ,本件PLCが使用する周波数帯は,原告らが使用を許されたアマチュア無線帯と完全に周波数が重なっており,本件PLCの導入により原告らはアマチュア無線を全くすることができなくなるおそれがあるのであるから,その損害は極めて重大であり,かつ,個別の本件許可処分等を争う方法では,到底回復することができない程の重大な損害を被るおそれが極 めて高いというべきである。 第3争点に対する判断 本件取消訴訟の適法性について(1)電波法83条から94条までの規定によれば,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,これを電波監理審議会の議に付し,電波監理審議会は審理の手続を経た上,審 94条までの規定によれば,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,これを電波監理審議会の議に付し,電波監理審議会は審理の手続を経た上,審理官の作成した調書及び意見書に基づいて決定案を議決し,総務大臣はこの議決により決定を行うこととされている。 すなわち,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,その異議申立てを却下する場合を除き,遅滞なく,これを電波監理審議会の議に付さなければならず(同法83条1項,85条),電波監理審議会は,前条の規定により議に付された事案につき,異議申立てが受理された日から30日以内に審理を開始しなければならない(同法86条)。審理は,原則として,電波監理審議会が事案を指定して指名する審理官が主宰し(同法87条),異議申立人等は,審理の期日に出頭し,意見を述べ,証拠書類又は証拠物を提出することができ(同法91条,92条),異議申立人等の申立て又は職権で,参考人の陳述及び鑑定,物件の提出要求,検証,異議申立人等の審問等が行われる(同法92条の2から92条の5まで)。このような審理を経た上で,審理官は,調書及び意見書を作成して電波監理審議会に提出し(同法93条),電波監理審議会は,その調書及び意見書に基づき,事案についての決定案を議決しなければならない(同法93条の4)。総務大臣は,その議決により異議申 立てについての決定を行い,その決定書には,審理を経て電波監理審議会が認定した事実を示さなければならない(同法94条)。 そして,このような準司法的手続が採用されていることから,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分に不服がある者は,当該処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ (同法94条)。 そして,このような準司法的手続が採用されていることから,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分に不服がある者は,当該処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ,取消訴訟を提起することができるという裁決主義が採用されている(同法96条の2)。さらに,その訴えについても,異議申立てを却下する決定に対する訴えを除き,第1審が省略されて,東京高等裁判所の専属管轄とされ(同法97条),電波監理審議会が適法に認定した事実は,これを立証する実質的な証拠があるときは,裁判所を拘束するという実質的証拠法則が規定されている(同法99条1項)。 (2)原告らは,本件取消訴訟においては,異議申立て及びこれに対する裁決を経ることを強制することは相当ではなく,「処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当するから,異議申立て及びこれに対する裁決を経ることなく,直ちに第1審裁判所に取消訴訟を提起することが認められるべきである旨主張し,本件取消訴訟について行政事件訴訟法8条2項の規定が適用されるべきであることを主張する。 しかしながら,行政事件訴訟法8条は,ある処分に対して審査請求をすることができる場合には,審査請求をすることも,直ちに取消訴訟を提起することもできることを原則とし(自由選択主義。同条1項本文),例外的に,審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起するこ とができない旨の定めがある場合には,この限りでないとし(審査請求前置主義。同項ただし書),更にその例外として,審査請求に対する裁決を経ないで,処分の取消しの訴えを提起することができることを定めている(同条2項)。 そうすると,裁決主義が採 でないとし(審査請求前置主義。同項ただし書),更にその例外として,審査請求に対する裁決を経ないで,処分の取消しの訴えを提起することができることを定めている(同条2項)。 そうすると,裁決主義が採用され,裁決に対する取消しの訴えのみが認められ,原処分の取消しの訴えが認められていない場合には,そもそも,自由選択主義を規定している行政事件訴訟法8条1項本文の適用がないから,同項ただし書の更に例外を定めた同条2項の適用の余地もないことが明らかである。 以上のとおり,行政事件訴訟法8条は裁決主義が採用されている場合には適用の余地がないところ,本件型式指定処分は,前記前提事実のとおり,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分であって,同法96条の2により裁決主義が採用されているものであるから,原告らが本件に適用されると主張する行政事件訴訟法8条2項は,本件型式指定処分には適用の余地がない。原告らの主張は,裁決主義と審査請求前置主義を混同するものであって,失当といわざるを得ない。 (3)原告らは,電波監理審議会における審理は長期間を要し,迅速な救済を図ることは不可能である旨主張する。 しかしながら,証拠(乙8)によると,電波監理審議会の審理における平均審理期間は2年弱であることが認められ,審理の対象が電波や放送といった専門的技術的分野における紛争であること,裁決に対する取消訴訟については第1審が省略されることなどを考慮すれば,平均審理期間が2年弱であ ることは,必ずしも迅速性に欠けることにはならないというべきである。さらに,電波監理審議会が行う審理及び意見の聴取に関する規則(平成6年郵政省令第68号)によれば,電波監理審議会は,電波法85条の規定により議に付された事案について同法86条の規定により審理を行う場合においては,主任 会が行う審理及び意見の聴取に関する規則(平成6年郵政省令第68号)によれば,電波監理審議会は,電波法85条の規定により議に付された事案について同法86条の規定により審理を行う場合においては,主任となって審理を主宰する審理官を指名しなければならず(同規則2条),当該審理官には審理が迅速に進行するよう種々の権限が与えられており(同規則22条1項,25条2項,3項,27条,35条),審理の迅速な進行に対する配慮がされている。 したがって,電波監理審議会における審理は長期間を要し,迅速な救済を図ることは不可能である旨の原告らの主張は採用することができない。 (4)また,原告らは,不服申立てがされた紛争の類型は,そのほぼすべてが放送施設設置申請に対する不許可処分等であって,異議申立ての主体も,異議申立てがされた処分の客体も,そのほとんどが放送局又は標準放送局であり,さらに,結果としては,ほぼすべての事例で異議申立ての棄却又は取下げがされており,権利救済機関としての機能にも疑問があるなどと主張する。 しかしながら,前記のとおり,電波法83条1項及び85条は,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,その異議申立てを却下する場合を除き,遅滞なく,これを電波監理審議会の議に付さなければらならない旨を定めており,電波監理審議会への付議の対象とされる同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分には,何らの限定も付されていないのであって,原告らの主張するように異議申立ての主体及び客体が放送施設設置申請に対する不許可 処分等に限定されているものではない。 そして,審理の結果,ほぼすべての事例において,異議申立てが棄却され,又はその取下げがされているからといって,当該案件の内容を考慮することな 対する不許可 処分等に限定されているものではない。 そして,審理の結果,ほぼすべての事例において,異議申立てが棄却され,又はその取下げがされているからといって,当該案件の内容を考慮することなく,その救済機能に疑問があるということはできない。 したがって,原告らの上記主張は,いずれも失当であり採用することができない。 (5)さらに,原告らは,本件PLC機器がいったん販売されてしまうと,アマチュア無線電波への被害が継続的に発生するが,個別の購入者を相手として回収や使用の禁止をするのは事実上不可能であり,原告らの救済は不可能となってしまう旨主張する。 しかしながら,仮に,型式指定を受けた本件PLC機器が無線設備の機能に継続的かつ重大な障害を与えるときには,電波法101条において準用する同法82条1項に基づき,総務大臣は,その設備の所有者又は占有者に対し,その障害を除去するために必要な措置をとるべきことを命ずることができるのであって,事後的な救済についても手当がされているということができるから,原告らの上記主張は採用することができない。 (6)原告らは,電波監理審議会自体が,本件PLCの導入に係る告示の制定に既に決定的な方法で関与しており,したがって,この案件について電波監理審議会の判断を求めてみても,その判断主体が同一であり,第三者性は全く存在しないから,電波監理審議会は客観的で公平な判断をすることができず,電波監理審議会の審理を準司法手続として位置付ける実体的な根拠がない旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,電波法83条1項及び85条は,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,その異議申立てを却下する場合を除き,遅滞なく,これを電波監理審議会の議に付さなければらな 5条は,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,その異議申立てを却下する場合を除き,遅滞なく,これを電波監理審議会の議に付さなければらならない旨を定めており,他方で,同法99条の11第1項1号は,同号に掲げられた規定による総務省令を制定し,変更し,又は廃止しようとするときには,総務大臣は電波監理審議会に諮問しなければならない旨を規定している。 そうすると,電波監理審議会が,同号に掲げられた規定による総務省令の制定等について諮問を受けて答申するとともに,その総務省令に関連する異議申立てについて付議を受けることは,現行法上予定されているというべきであり,かかる場合について特段の規定が設けられていないことにかんがみると,そのような場合においても,総務大臣の上記処分に不服のある者は,電波監理審議会の議決による総務大臣の決定を経た上で,当該決定に対する取消訴訟を提起すべきものとするのが電波法の趣旨であると解されるから,原告らの上記主張は採用することができない。 (7)以上によれば,本件取消訴訟の対象である本件型式指定処分は,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分であるから,同法96条の2により裁決主義が採用されており,処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ取消訴訟を提起することができるところ,原告らは,異議申立てに対する決定を経ることなく,原処分である本件型式指定処分に対する取消しの訴えを提起しているものであるから,本件取消訴訟は不適法というべきである。 本件差止めの訴えの適法性について(1)前記のとおり,電波法83条から94条までの規定によれば,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,こ 件差止めの訴えの適法性について(1)前記のとおり,電波法83条から94条までの規定によれば,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分についての異議申立てがあったときは,総務大臣は,これを電波監理審議会の議に付し,電波監理審議会は審理の手続を経た上,審理官の作成した調書及び意見書に基づいて決定案を議決し,総務大臣はこの議決により決定を行うこととされている。 電波監理審議会とは,電波,放送及び電気通信役務利用放送の規律に関する事務の公平かつ能率的な運営を図る目的をもって,総務省に置かれた機関であって(電波法99条の2),総務大臣の諮問について答申し(同法99条の11第1項等),当該諮問に関する事項について総務大臣に勧告をし(同法99条の13等),また,同法等に基づく総務大臣の処分に対する不服申立てについて審査及び議決する(同法85条等)任務と権限を有している。電波監理審議会は,5人の委員をもって組織され,委員の互選により会長が置かれる(同法99条の2の2)。委員は,公共の福祉に関し公正な判断をすることができ,広い経験と知識を有する者のうちから,両議院の同意を得て,総務大臣が任命することとされ,法定の欠格事項が定められており(同法99条の3),その多くは,電波等に関する専門的知識を有する者の中から任命されている(乙8及び弁論の全趣旨により認められる。)。 そして,電波監理審議会の審理手続については,前記のとおり,準司法的手続が採用されており,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分に不服がある者は,当該処分についての異議申立てに対する決定に対してのみ,取消訴訟を提起することができるという裁決主義が採用され,か つ,その取消訴訟においては,第1審が省略されて東京高等裁判所の専属管轄とされ,実質的証拠法則が定められ てに対する決定に対してのみ,取消訴訟を提起することができるという裁決主義が採用され,か つ,その取消訴訟においては,第1審が省略されて東京高等裁判所の専属管轄とされ,実質的証拠法則が定められている。 (2)電波法が上記のとおり異議申立てに対する決定に対する取消訴訟について実質的証拠法則を採用している趣旨は,裁判所の審査を受ける関係においては,裁判所の審査の範囲を法律的なものにとどめ,専門的,技術的な電波監理審議会の知識経験に基づく事実認定と判断を尊重しようとすることにあると解され,裁判所は専門家によって構成されている電波監理審議会の事実認定を尊重しなければならず,当該事実認定については実質的証拠の有無のみを判断し得るにとどまり,自ら証拠調べをして自由に事実の確定をすることはできないのである。 また,裁判所が自ら自由に事実を確定し,これに基づいて,専門的機関である電波監理審議会の判断の適否を判断し得るものと解することは,専門的な知識経験については必ずしも十分ではない裁判所が,専門家のした事実認定とそれに対する判断を具体的に知ることなくして,自由に事実を認定し,同時に,その当否の判断をすることになる結果を是認することとなり,事実については専門的な知識経験を有する行政機関の認定を尊重し,裁判所はこれを立証する実質的な証拠の有無についてのみ審査し得るにとどめようとする規定の趣旨を没却することになるものと解される(最高裁昭和40年(行ツ)第73号同43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3254頁参照)。 このように,電波法が,同法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分に対する取消訴訟について,裁決主義及び実質的証拠法則を採用し, 東京高等裁判所の専属管轄を定めた趣旨は,電波法等に基づく処分の適否という専門的技術 は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分に対する取消訴訟について,裁決主義及び実質的証拠法則を採用し, 東京高等裁判所の専属管轄を定めた趣旨は,電波法等に基づく処分の適否という専門的技術的事項については,電波監理審議会の専門的知識経験に基づく事実認定を尊重し,裁判所が証拠に基づく事実認定を行うことを留保するのを適当としたものと考えられる。 (3)平成16年法律第84号により行政事件訴訟法が改正され,差止めの訴えが創設された際には,行政不服審査法において事前差止めを求める異議申立ての制度は創設されておらず,また,裁決主義を定めた電波法96条の2の規定についても特段の手当てはされていない。そして,上記改正後の行政事件訴訟法の文言やその立法の経緯においても,取消訴訟について異議申立ての前置や裁決主義が採用されている場合には,差止めの訴えが不可能あるいは不適法となることなどが検討された形跡は認められない。 しかしながら,差止めの訴えも取消訴訟と同じく抗告訴訟であるところ,仮に総務大臣の上記処分に対する差止めの訴えが適法であるとすると,行政事件訴訟法37条の4第5項に基づき,総務大臣が上記処分をすることがその裁量の範囲を超え,又はその濫用となるか否かが,電波監理審議会の審理を経ることなく,地方裁判所において直ちに審理されることになる。そうなると,専門的な知識経験については必ずしも十分ではない裁判所が,専門家のした事実認定とそれに対する判断を具体的に知ることなくして,自由に事実を認定し,同時に,その当否の判断をすることになる結果を是認することとなり,事実については専門的な知識経験を有する行政機関の認定を尊重し,裁判所はこれを立証する実質的な証拠の有無についてのみ審査し得るにとどめようとする規定の趣旨を没却することになるというべきである となり,事実については専門的な知識経験を有する行政機関の認定を尊重し,裁判所はこれを立証する実質的な証拠の有無についてのみ審査し得るにとどめようとする規定の趣旨を没却することになるというべきである。 このような点を考慮すると,行政事件訴訟法の上記改正に際して裁決主義を定めた電波法96条の2について特段の手当てがされなかったことからすれば,同法は,行政事件訴訟法の上記改正後においても,電波法又は同法に基づく命令の規定による総務大臣の処分については,電波監理審議会の審理を経た後の決定に対する取消訴訟のみを救済手段として予定していると解するのが相当であり,本件のような処分の差止めの訴えは予定していないと解されるから,本件差止めの訴えは不適法というべきである。 第4 結論 よって,その余の争点について判断するまでもなく,本件訴えはいずれも不適法であるから却下することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部杉原則彦裁判長裁判官市原義孝裁判官島村典男裁判官
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