- 1 - 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 その刑の一部である懲役4月の執行を3年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は、昭和60年頃から平成27年頃までAと不倫関係にあり、Aの生活費を援助するなどしてきた。そして、自身が離婚した令和2年9月ないし10月頃からAとの交際を再開させ、Aに好意を寄せていたが、身体表現性障害により自身の体調に異変を覚える中、うまく言葉が発せられないことをAに嘲笑されたと感じたり、Aから性交渉を拒否されたりしたため、Aを叩いたり車を傷つけたりするなどの嫌がらせをするようになった。 (罪となるべき事実)第1 被告人は、令和4年2月24日、北海道警察本部長からストーカー行為等の規制等に関する法律5条1項の規定により、A(当時59歳)に対し、更に反復してつきまとい等をしてはならない旨の禁止命令を受けていたものであるが、身体表現性障害が悪化したのはAのせいであるとか、本当はAも被告人のことを愛しているのに警察官に対しては嘘を言っているなどと考え、Aに対する好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、 1 同年6月21日午後11時25分頃、北海道苫小牧市a町b丁目c番d号A方敷地内に立ち入って押し掛け、 2 同月22日午前0時3分頃から同日午前0時5分頃までの間に、A方風除室内に立ち入ってA方に押し掛けた上、A方西側ベランダ窓ガラスを数回叩いて、在宅していたAに対し、著しく粗野又は乱暴な言動をし、さらに、A方の住宅ローンを支払ったのが被告人であるにもかかわらず、Aが - 2 -のうのうと生活してい 西側ベランダ窓ガラスを数回叩いて、在宅していたAに対し、著しく粗野又は乱暴な言動をし、さらに、A方の住宅ローンを支払ったのが被告人であるにもかかわらず、Aが - 2 -のうのうと生活していることが許せなくなり、前記同様の目的で、 3 同月29日午前8時53分頃及び同日午前8時55分頃、2回にわたり、A方風除室内に立ち入ってA方に押し掛け、もって前記禁止命令に違反して、Aの身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により、つきまとい等を反復して行い、ストーカー行為をした。 第2 被告人は、前記第1のとおり、自身が住宅ローンを支払った家でAがのうのうと生活していることが許せなくなり、せめて家だけでも燃やしてやろうと思い立ち、Aら2名が現に住居に使用し、かつ、Bが現にいる前記A方(木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建、床面積合計96.88平方メートル)に放火しようと考え、同日午前8時55分頃、A方風除室において、玄関扉東側壁面に灯油をまいた上、その付近にあった傘立ての傘を同壁面に立て掛けて、同傘に持っていたライターで点火して火を放ち、A方を焼損しようとしたが、その頃、A方の前を通り掛かった近隣住民が火災に気付いて消火したため、同壁面等を焦がしたほか、同風除室東側のはめ殺し窓ガラスを破損したにとどまり、その目的を遂げなかった。 (証拠の標目)省略(法令の適用)罰条判示第1の所為ストーカー行為等の規制等に関する法律19条1項、5条1項1号、2条4項、1項1号、4号判示第2の所為刑法112条、108条刑種の選択判示第1の罪につき懲役刑、判示第2の罪につき有期懲役刑を選択する。 法律上の減軽判示第2の罪につき刑法43条本文、 判示第2の所為刑法112条、108条刑種の選択判示第1の罪につき懲役刑、判示第2の罪につき有期懲役刑を選択する。 法律上の減軽判示第2の罪につき刑法43条本文、68条3号併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第2の - 3 -罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重をする。)未決勾留日数算入刑法21条刑の一部執行猶予刑法27条の2第1項保護観察刑法27条の3第1項訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)放火未遂の点は、たまたま通り掛かった近隣住民が直ちに消火活動を行ったため大事には至らなかったが、住宅密集地であり、火の付近には可燃物である発泡スチロールが置かれていたことや既に窓ガラスが割れて火に外気が入る状態になっていたことからすると、本件放火行為は、家屋内に燃え広がったり隣家等に延焼したりする危険な犯行である。被告人は、二度にわたって灯油を購入し、一度はA方の外壁に灯油をまいて放火を試み、失敗してもなお本件放火行為に及び、放火してA方を離れた後も火がついているか確認しに戻ってくるなど、いわば燃やす気満々であり、その強固な犯意に対する非難は強い。本件の経緯は前記のとおりであるが、自己の好意が満たされなかったことに端を発して相手方の家屋に火をつけるというのはあまりに身勝手で悪質にすぎるから、本件放火行為との関係では同情できない。 弁護人は、被告人が身体表現性障害に罹患していたことや認知機能が低下していたことを酌むべきである旨主張する。しかし、鑑定結果によれば、これらの事情は本件に直接影響しないとされている。そもそも被告人のAに対する感情は誰もが持ちうる感情であって、特に障害や認知機能の低下が影響し とを酌むべきである旨主張する。しかし、鑑定結果によれば、これらの事情は本件に直接影響しないとされている。そもそも被告人のAに対する感情は誰もが持ちうる感情であって、特に障害や認知機能の低下が影響したとは認められないし、犯行当時の被告人は自分の考えに従ってきちんと動けていた。したがって、被告人の身体表現性障害や認知機能の低下が酌むべき事情とは認められない。 検察官は、本件が重い部類に属すると主張して懲役7年の刑を求めているが、被告人とAとの間には30年近くにわたりお互いにとって都合の良い関係を続けてきた経緯があり、交際再開後のAにも思わせぶりな言動があったことを考慮すると、 - 4 -ストーカー行為の関係では被告人ばかりを非難することはできない。そして、本件放火が未遂であることを前提とした同種事案の量刑傾向をも踏まえると、本件が重い部類に属するとまではいいきれず、検察官の求刑は重すぎるといわざるを得ない。 以上から、本件は、同種事案の量刑傾向の中で比較的重い部類に位置づけられる。 そして、被告人には、認知機能が低下して思い込みが修正されにくく、相反する考えや感情に折り合いをつけることが不得手で柔軟性の乏しいパーソナリティ傾向が認められる上、この裁判でも、被告人は、Aの証言に納得できない部分があるなどと述べ、Aが自分のことを愛しているなどと言っておきながら、裁判では自分に好意がないと述べたことに疑問を感じている。このような事情に照らすと、今後も身寄りのない被告人が再びAを頼って接触しないか強く懸念されるので、被告人には、罪の重さと均衡を失しない限度で、できるだけ長くAと接触できない期間を設ける必要があり、かつ、服役が終わった後も保護観察による監督を受けさせる必要があると考える。そこで、被告人に対しては、懲役刑の全部の執行を猶予するこ ない限度で、できるだけ長くAと接触できない期間を設ける必要があり、かつ、服役が終わった後も保護観察による監督を受けさせる必要があると考える。そこで、被告人に対しては、懲役刑の全部の執行を猶予することはせず、一部短期間の執行を猶予した上で保護観察に付することとした。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑-懲役7年、弁護人の科刑意見-執行猶予付き判決)令和5年5月30日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一 裁判官新宅孝昭 裁判官滝嶌秀輝
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