平成27年10月2日判決言渡平成25年(行ウ)第256号遺族厚生年金不支給処分取消等請求事件主文 1 厚生労働大臣が平成24年7月19日付けで原告に対してした遺族厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。 2 厚生労働大臣が平成24年9月5日付けで原告に対してした未支給の老齢厚生年金及び老齢基礎年金を支給しない旨の決定を取り消す。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,厚生年金保険の被保険者であった者であり,老齢厚生年金及び老齢基礎年金の受給権者であったAの生前,同人と内縁関係にあったと主張する原告が,遺族厚生年金の裁定並びにAに対して支給すべきであった老齢厚生年金及び老齢基礎年金の支給を請求したところ,厚生労働大臣が,Aと戸籍上の妻との婚姻関係が形骸化しているとは認められないことを理由に,いずれについても支給しない旨の決定をしたため,原告が,被告に対し,当該各決定の取消しを求める事案である。 2 関係法令等の定め(1) 平成24年法律第62号による改正前の厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)及び厚生年金保険法施行令(以下「厚年法施行令」という。)の定めア(ア) 保険給付を受ける権利は,その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基づいて,厚生労働大臣が裁定する(厚年法33条)。 (イ) 遺族厚生年金は,被保険者又は被保険者であった者(以下「被保 険者等」という。)が死亡した場合等に,その者の遺族に支給する(厚年法58条1項)。 (ウ) 遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保険者等の配偶者等であって,被保険者等の死亡の当時,その者によって生計を維持したものとし(厚年法59条1項),生計を維持して 年法58条1項)。 (ウ) 遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保険者等の配偶者等であって,被保険者等の死亡の当時,その者によって生計を維持したものとし(厚年法59条1項),生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は,政令で定める(同条4項)。 (エ) 上記(ウ)に規定する被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた配偶者等は,当該被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする(厚年法施行令3条の10)。 イ(ア) 保険給付の受給権者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,その者の配偶者,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹であって,その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは,自己の名で,その未支給の保険給付の支給を請求することができる(厚年法37条1項)。 (イ) 未支給の保険給付を受けるべき者の順位は,上記(ア)に規定する順序による(同条4項)。 ウ厚年法において,配偶者には,婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者(以下「事実婚関係にある者」という。)を含むものとする(厚年法3条2項)。 (2) 平成24年法律第62号による改正前の国民年金法(以下「国年法」という。)の定めア(ア) 給付を受ける権利は,受給権者の請求に基づいて,厚生労働大臣が裁定する(国年法16条)。 (イ) 年金給付の受給権者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,その者の配偶者,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹であっ (イ) 年金給付の受給権者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,その者の配偶者,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹であって,その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは,自己の名で,その未支給の年金の支給を請求することができる(国年法19条1項)。 (ウ) 未支給の年金を受けるべき者の順位は,上記(イ)に規定する順序による(同条4項)。 イ国年法において,配偶者には,事実婚関係にある者を含むものとする(国年法5条8項)。 (3) 平成23年3月23日年発0323第1号厚生労働省年金局長発日本年金機構理事長宛「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(以下「認定基準」という。)の定め(乙7)ア重婚的内縁関係の取扱いについて,届出による婚姻関係にある者が重ねて他の者と内縁関係にある場合の取扱いについては,婚姻の成立が届出により法律上の効力を生ずることとされていることからして,届出による婚姻関係を優先すべきことは当然であり,従って,届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときに限り,内縁関係にある者を事実婚関係にある者として認定するものとする。 (ア) 「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているとき」には,次のいずれかに該当する場合等が該当するものとして取り扱うこととする。 a 当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないときb 一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって,その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し,当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められる とき(イ) 「夫婦とし よって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって,その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し,当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められる とき(イ) 「夫婦としての共同生活の状態にない」といい得るためには,次に掲げる全ての要件に該当することを要するものとする。 a 当事者が住居を異にすることb 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないことc 当事者間の意思の疎通を表す音信又は訪問等の事実が反復して存在しないことイ厚年法59条1項,4項及び厚年法施行令3条の10の規定にいう,被保険者等の死亡の当時,「その者によって生計を維持していた配偶者」とは,死亡した者と生計を同じくしていた配偶者であって,年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものをいう。 3 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 (1) A(昭和19年 ▲ 月 ▲日生)は,昭和47年 ▲ 月 ▲日,B(昭和20年▲月▲日生。)と婚姻をし,同人との間には,昭和48年▲月▲日,長女であるCが,また,昭和56年▲月▲日,長男であるDがそれぞれ出生した。(乙8)(2) Aは,平成23年 ▲ 月 ▲ 日,死亡した。Aは,死亡の当時,厚生年金の被保険者であった者で,厚年法に基づく老齢厚生年金及び国年法に基づく老齢基礎年金の受給権者であった。(乙8,14)(3) 原告(昭和27年▲月▲日生)は,Aの死亡の当時,同人と同居をしていた。(乙13の1・2)(4)ア原告は,平成24年1月17日,原告がAと事実婚関係にある者であって,Aの死亡の当時,同人によって生計を維持したものに当たると して,厚生労働大臣に対し,遺族厚 (乙13の1・2)(4)ア原告は,平成24年1月17日,原告がAと事実婚関係にある者であって,Aの死亡の当時,同人によって生計を維持したものに当たると して,厚生労働大臣に対し,遺族厚生年金の裁定を請求した(以下「本件裁定請求」という。)。(乙1)イ原告は,同日,原告がAと事実婚関係にある者であって,Aの死亡の当時,同人と生計を同じくしていたものに当たるとして,厚生労働大臣に対し,Aに支給すべき老齢厚生年金及び老齢基礎年金で,まだAに支給しなかったもの(以下「本件未支給年金」という。)の支給を請求した(以下「本件支給請求」という。)。(乙2)ウ Bは,同年4月13日,BがAの配偶者であって,Aの死亡の当時,同人によって生計を維持したものに当たるとして,厚生労働大臣に対し,遺族厚生年金の裁定を請求した(以下「別件裁定請求」という。)。(甲1)(5)ア厚生労働大臣は,平成24年7月19日付けで,本件裁定請求に対し,Aの死亡の当時において,同人とBとの婚姻関係が形骸化しているとは認められないことを理由に,遺族厚生年金を支給しない旨の決定をした(以下「本件遺族年金不支給決定」という。)。原告は,これを不服として,同年9月5日,近畿厚生局社会保険審査官に審査請求をした。(甲19,乙3)イ厚生労働大臣は,平成24年9月5日付けで,本件支給請求に対し,Aの死亡の当時において,同人とBとの婚姻関係が形骸化しているとは認められないことを理由に,本件未支給年金を支給しない旨の決定をした(以下「本件未支給年金不支給決定」という。)。原告は,これを不服として,同月26日,近畿厚生局社会保険審査官に審査請求をした。 (甲21,乙4)ウ厚生労働大臣は,同年7月19日付けで,別件裁定請求に対し,Aの死亡の当時において,BがAに 原告は,これを不服として,同月26日,近畿厚生局社会保険審査官に審査請求をした。 (甲21,乙4)ウ厚生労働大臣は,同年7月19日付けで,別件裁定請求に対し,Aの死亡の当時において,BがAによって生計を維持していたものとは認められないことを理由に,遺族厚生年金を支給しない旨の決定をした。Bは,これを不服として,近畿厚生局社会保険審査官に審査請求をした。(甲1)(6)ア近畿厚生局社会保険審査官は,同年11月27日付けで,原告がし た上記⑸ア及びイの各審査請求に対し,各請求を棄却する決定をした。原告は,これらをいずれも不服として,同年12月28日,社会保険審査会に対し,それぞれ再審査請求をした。(甲20,22,乙5,6)イ近畿厚生局社会保険審査官は,同年11月28日頃,Bがした上記⑸ウの審査請求に対し,同請求を棄却する決定をした。Bは,これを不服として,平成25年1月24日,社会保険審査会に対し,再審査請求をした。 (甲1,23)(7) 社会保険審査会は,原告及びBがした上記⑹の各再審査請求を併合して審理した上で,同年7月31日,各請求をいずれも棄却する決定をした。 (甲1)。 (8) 原告は,同年12月19日,本件遺族年金不支給決定及び本件未支給年金不支給決定の取消しを求め,本件訴訟を提起した。(顕著な事実) 4 争点及び当事者の主張原告が,遺族厚生年金及び本件未支給年金の支給を受けるためには,厚年法59条1項,37条1項及び国年法19条1項所定の「配偶者」に該当することが必要であるから,本件の争点は,原告がAの「配偶者」に該当するかである。 (原告の主張)(1) 判断枠組みいわゆる重婚的内縁関係にある者が「配偶者」に該当するためには,法律上の婚姻関係が実体を失って形骸化していることが必要である。そし 者」に該当するかである。 (原告の主張)(1) 判断枠組みいわゆる重婚的内縁関係にある者が「配偶者」に該当するためには,法律上の婚姻関係が実体を失って形骸化していることが必要である。そして,法律上の婚姻関係が実体を失ったということができるかについては,別居の経緯,別居期間,婚姻関係を維持する意思ないし婚姻関係を修復するための努力の有無,相互間の経済的依存の状況,別居後の音信・訪問等の状況,重婚的内縁関係の固定性等を総合的に考慮して判断すべきである。 なお,被告は,法律上の婚姻関係が実体を失って形骸化していると認めら れるためには,別居期間がおおむね10年程度以上継続している必要があると主張する。しかしながら,別居期間は婚姻関係の形骸化を判断する一つの要素にすぎないのであって,これを上記判断の絶対的要素と解することは相当ではない。 (2) 本件の具体的事情等ア AとBが別居に至った経緯AとBは,遅くとも平成2年7月頃から,いわゆる家庭内別居の状態にあった。原告は,平成13年11月頃,Aと知り合ったが,AとBの婚姻関係はその時点で既に破綻しており,Aは,Bと顔を合わせたくないために,毎晩深夜まで飲み歩くような状態であった。Aは,平成17年2月,Bと同居していた大阪府▲市α所在の居宅(以下「αの家」という。)から同市β所在の賃貸マンション(以下「βのマンション」という。)に転居し,Bと別居するに至ったが,AとBとの夫婦関係が破綻したのは,そのはるか以前であった。 なお,被告は,AとBの別居時期について同年10月であると主張するが,別居時期が同年2月であることは,Aがβのマンションを同月から賃借していることから明らかである。 イ AとBの別居後の関係(ア) 婚姻関係を修復するための努力の有無,別居後の音信・訪 張するが,別居時期が同年2月であることは,Aがβのマンションを同月から賃借していることから明らかである。 イ AとBの別居後の関係(ア) 婚姻関係を修復するための努力の有無,別居後の音信・訪問等Aは,Bと別居以降,αの家から必要な荷物を順次持ち出していった。 これに対し,Bは,Aに帰宅を促すことはなく,平成17年2月頃にはαの家の玄関の鍵を交換するなどして,Aの帰宅を拒むようになった。 以降,両人の間の交渉,交流はほとんど途絶し,婚姻関係を修復するための努力が尽くされることはなかった。 (イ) 離婚の意思Aと原告は,平成17年5月から,βのマンションで同居するように なった。Aは,原告と同居した当初から,原告に対してBと必ず離婚する旨繰り返し述べ,また,実弟であるEに対しても,Bとの離婚について相談をしていた。一方,Bも,Aと別居して以降,同人に対して繰り返し離婚を申し入れていた。このように,AとBは,合意こそしていないものの,いずれも離婚の意思を有していた。AがBとの離婚に踏み切らなかったのは,Bから金銭的請求を受けることや,その結果同人との紛争が長期化することを危惧しているうちに,病に伏し離婚への行動をとることができなくなってしまったからである。 (ウ) 相互間の経済的依存の状況Aは,別居以降,Bに対して生活費を一切交付せず,αの家の固定資産税についてもBに納付させていた。生活費の交付がなかった事実は,B自身も認めるところである。 なお,被告は,AがBに対してテレビの購入代金を援助した旨主張しているが,当該テレビを購入したのは長女のCであるから,仮にAが購入代金の一部を負担したのであっても,それはBではなくCへの援助とみるべきである。 また,被告は,Aが自己の所有する自動車の売却代金の一部である80万円 購入したのは長女のCであるから,仮にAが購入代金の一部を負担したのであっても,それはBではなくCへの援助とみるべきである。 また,被告は,Aが自己の所有する自動車の売却代金の一部である80万円をBに渡した旨主張しているが,このような事実は存在しない。 被告は,Bの預金口座に60万円の入金がされていること(乙19)を上記事実の根拠として摘示するが,入金日が自動車の売却から約2年後であることや,入金額に差異があることからすれば,当該入金が上記事実の根拠足り得ないことは明白である。仮に上記事実があったとしても,これは事実上の財産分与の趣旨でされたものであって,生活費の援助の趣旨でされたものではない。 (エ) 別居期間Aは,平成23年2月,肺がんの治療のため入院し,同年 ▲ 月 ▲ 日に死亡したが,Bはその間一度も見舞いに訪れることがなかった。AとBの別居期間は7年弱であるが,Aが死亡する直前も両人の音信・訪問等が途絶したままであったことを踏まえれば,Aが死亡しなければ,両人の別居期間は更に継続したものと考えられる。 ウ Aと原告との内縁関係(ア) Aと原告は,平成16年頃に夫婦のような関係になった。そして,平成17年5月から,βのマンションで同居を始め,平成18年1月には,大阪府▲市γ所在の借家(以下「γの家」という。)に転居し,平成21年12月にはAがγの家及びその敷地を買い取っている。両人は,Aが死亡するまで,γの家で同居生活を送っており,その間の生活費は,主にAの年金収入によって賄われていた。 (イ) 原告は,対外的にもAの妻と認識され,Aの親戚からは親族の一員としての扱いを受けていた。 (ウ) 原告は,Aが入院して以降も,同人の生活を支え続けた。Aの死が近づいた平成23年 ▲ 月 ▲ 日には,ホスピスにおいてA の妻と認識され,Aの親戚からは親族の一員としての扱いを受けていた。 (ウ) 原告は,Aが入院して以降も,同人の生活を支え続けた。Aの死が近づいた平成23年 ▲ 月 ▲ 日には,ホスピスにおいてAと原告の結婚式が執り行われた。 Aの葬儀では,Aの兄であるFが喪主を務め,必要な費用は原告が全て支出した。Bは,Aの親族から拒絶されたこともあり,同人の葬儀には出席しなかった。 (エ) なお,Aが作成した遺言公正証書(以下「本件遺言書」という。)には,Bとの婚姻関係が破綻している旨や,γの家及びその敷地を内縁の妻である原告に遺贈する旨が記載されている。 (オ) このように,Aと原告との内縁関係は,法律上の婚姻関係と同程度に安定かつ固定していた。 エ小括以上のように,AとBの婚姻関係は,別居のはるか以前から破綻してお り,別居以降は,両人の間に音信,訪問,経済的依存関係はなく,婚姻関係を修復するための努力が尽くされないばかりか,両人ともに離婚の意思を有していた。他方,Aと原告との関係は,法律上の婚姻関係と同程度に安定かつ固定していたのだから,AとBの婚姻関係が実体を失って形骸化していたことは明らかである。したがって,原告は,厚年法59条1項,37条1項及び国年法19条1項所定の「配偶者」に該当する。 (被告の主張)(1) 判断枠組みいわゆる重婚的内縁関係が存在する場合の「配偶者」該当性については,認定基準に従って判断すべきである。すなわち,原則として届出による婚姻関係を優先すべきであり,届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときに限り,内縁関係にある者を「配偶者」と認定すべきである。ここで,届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときとは,1当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての たものとなっているときに限り,内縁関係にある者を「配偶者」と認定すべきである。ここで,届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときとは,1当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき,又は2一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって,その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し,当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められる場合等をいう。 また,共同生活の状態にないといい得るためには,ア当事者が住居を異にすること,イ当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと,ウ当事者間の意思の疎通を表す音信又は訪問等の事実が反復して存在しないことの3要件を全て満たす必要がある。 (2) 本件の具体的事情等ア AとBが別居に至った経緯AとBが別居するに至ったのは,Aが,原告と同居をするために,Bの了承を得ずにαの家を出たためであった。両人の間に別居の合意があった わけではない。原告は,AとBが平成2年7月頃から家庭内別居の状態にあったと主張するが,両人はそれ以降も同居を継続していたのだから,両人の関係が深刻な破綻状態にあったとは考えられない。 なお,原告は,AとBの別居時期について平成17年2月であると主張するが,信用できるBの証言によれば,別居時期は同年10月である。原告は,Aがβのマンションを同年2月に賃借したことを上記主張の根拠としているが,AがBとの同居を継続する一方で,交際している原告との時間を過ごすためにβのマンションを賃借していた可能性も考えられるのだから,上記事情は別居時期を判断する根拠とはならない。 イ AとBの別居後の関係(ア) 婚姻関係を修復するための努力の有無,別居後の音 ごすためにβのマンションを賃借していた可能性も考えられるのだから,上記事情は別居時期を判断する根拠とはならない。 イ AとBの別居後の関係(ア) 婚姻関係を修復するための努力の有無,別居後の音信・訪問等Aは,Bと別居後も,平成20年12月αの家に新たな門扉が取り付けられるまでは,週に1回程度,αの家に帰宅していた。上記門扉が取り付けられてからは,Aが帰宅することはなくなったが,これはAが上記門扉の鍵を求めなかったからであって,BがAの帰宅を拒んだからではない。現に,平成21年以降も,AがBに電話連絡をするなど,両人の間の音信は継続していた。 なお,原告は,Bが別居後間もなく,αの家の玄関の鍵を交換するなどして,Aの帰宅を拒むようになったと主張する。確かに,Bは,別居後半年から1年の間に,αの家の玄関の鍵を二重鍵に交換しているが,新しい鍵をAにも渡しているのだから,BがAの帰宅を拒んだ事実は存在せず,鍵の交換により同人が帰宅できなくなったものでもない。 (イ) 離婚の意思AとBは離婚の合意をしていなかった。BからAに対し,離婚して欲しい旨申し述べたことはあったものの,Aがこれに応じることはなかった。また,Bも,離婚に向けて具体的な手続をとることはなく,Aが肺 がんにり患していることを知った際は,Eに対し,「家族にAを返してほしい」と伝えるなど,Aとの婚姻関係を維持する意向を示していた。 こうした経緯を踏まえれば,A及びBは,離婚の意思を有しておらず,仮に有していたとしても,その意思は希薄なものであったというべきである。 (ウ) 経済的依存の状況AとBとの間に,継続的な生活費の授受がなかったのは,Bが当時年金を受給していたことに加え,パートタイムで働いて収入を得ていたからである。 もっとも,AからBに対し,経 (ウ) 経済的依存の状況AとBとの間に,継続的な生活費の授受がなかったのは,Bが当時年金を受給していたことに加え,パートタイムで働いて収入を得ていたからである。 もっとも,AからBに対し,経済的な援助は行われていた。すなわち,Aは,平成19年3月,Bがテレビを購入する際,その代金の一部である10万円を援助している。また,平成21年8月,Aの所有する自動車の売却代金のうち80万円を「墓地購入や生活費の足しにしてくれ」といって渡している。さらに,平成22年,Bの実家近くに購入していた別荘地の管理費用を支払っている。 このように,AとBの間には,継続的な生活費の授受はなかったものの,経済的な援助は行われていた。 (エ) 別居期間前記アのとおり,AとBが別居を開始したのは平成17年10月であり,両人の別居期間は,Aが死亡した平成23年 ▲ 月 ▲ 日までの約6年2か月にとどまるものである。すなわち,両人の別居期間は,両人の同居期間(約33年間)に比してかなり短く,また,認定基準が定めるおおむね10年程度以上という期間に満たないものであるから,両人の別居状態が固定していたということはできない。 ウ小括以上のように,AとBが別居に至ったのは,両人の間に別居の合意があっ たからではなく,Aが共同生活を一方的に解消したためであった。別居後も,離婚に向けた手続が進行することはなく,婚姻関係の実態を基礎付ける訪問及び音信も継続し,また,継続的な生活費の授受こそなかったものの,AからBに対する経済的援助は行われるなど,夫婦としての共同生活の状態が失われたということはできない状況にあった。AとBの別居期間は約6年2か月にすぎないから,両人の別居状態が固定していたということもできない。 そうすると,AとBとの婚姻関係がその実体を全く 活の状態が失われたということはできない状況にあった。AとBの別居期間は約6年2か月にすぎないから,両人の別居状態が固定していたということもできない。 そうすると,AとBとの婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているということはできないから,原告は,厚年法59条1項,37条1項及び国年法19条1項所定の「配偶者」に該当しない。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組み(1) 厚年法は,労働者の遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという同法の目的(同法1条参照)や厚生年金の社会保障的性格に鑑み,同法上の「配偶者」には,戸籍上の配偶者のみならず,事実婚関係にある者も含まれるものとしている(同法3条2項)。このような厚年法の趣旨に照らすと,戸籍上の配偶者を有する被保険者等が重ねて他の者と内縁関係にあるという,いわゆる重婚的内縁関係にある場合においては,我が国が婚姻について法律婚主義を採用していることなどに照らし,原則として,戸籍上の配偶者が「配偶者」に当たるというべきであるが,被保険者等が戸籍上の配偶者を有する場合であっても,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,戸籍上の配偶者はもはや「配偶者」に該当せず,重婚的内縁関係にある者が「配偶者」に当たるというべきである。 また,国年法が被保険者等の死亡によって遺族の生活が損なわれることを防止することを同法の目的としていることからすれば(同法1条,2条,37条以下参照),上記理は,国年法上の「配偶者」の解釈についても妥当する というべきである。 そして,上記のような厚年法及び国年法の趣旨からすれば,被保険者等と戸籍上の配偶者との婚姻関係が上記のような事実上の離婚状態にあるか否か 者」の解釈についても妥当する というべきである。 そして,上記のような厚年法及び国年法の趣旨からすれば,被保険者等と戸籍上の配偶者との婚姻関係が上記のような事実上の離婚状態にあるか否かについては,別居の経緯,別居期間,婚姻関係を維持ないし修復するための努力の有無,別居後における経済的依存の状況,別居後における婚姻当事者間の音信及び訪問の状況,重婚的内縁関係の固定性等を総合的に考慮すべきである。 (2) なお,認定基準は,重婚的内縁関係にある場合において,届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているか否かに関し,夫婦としての共同生活の状態にないといい得るためには,前記第2の2(3)ア(イ)a~cの3要件に該当することを必要不可欠とするが,上記(1)のとおり,事実上の離婚状態にあるか否かの判断は,婚姻関係が実体を失って形骸化し,その状態が固定化して近い将来解消される見込みがないかを婚姻当事者の生活実態に即して,様々な要素を総合的に考慮して判断すべきであることからすれば,前記第2の2(3)ア(イ)a~cを,重要性を有する考慮要素の一つとする限りでは合理性が認められるものの,それを超えてこれら3要素を絶対的要件とすることは妥当でない。そもそも認定通知は行政機関内部において行政がよるべき一つの解釈を明らかにしたものにすぎず,厚年法上及び国年法上の「配偶者」に関する裁判所による法の解釈を何ら拘束するものではない。 2 認定事実前記前提となる事実,証拠(後掲のほか,甲27,乙17,原告本人,証人B)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) AとBが別居に至った経緯等ア AとBは,昭和47年▲月▲日,婚姻し,両人の間には,長女C及び長男Dが出生した。AとBは,C及びDとともに,αの家で同居 すれば,以下の事実が認められる。 (1) AとBが別居に至った経緯等ア AとBは,昭和47年▲月▲日,婚姻し,両人の間には,長女C及び長男Dが出生した。AとBは,C及びDとともに,αの家で同居 をしていた。 イ Aは,G株式会社(以下「G」という。)に▲として勤務をし,Bは,H株式会社(以下「H」という。)に勤務をしていた。AとBは,勤務時間が合わないことから,異なる寝室を使用し,また,食事も別々にとる生活を送っていた。 ウ Bは,平成16年4月,Hを退職した。また,Aも,同年10月,Gを定年退職した。しかし,両人は,退職以降も,寝室を異にし,食事を別々にとる生活を送り続けていた。 エ Aは,Gを退職後,老齢厚生年金及び老齢基礎年金を受給するようになった。Aは,受給した年金のうち毎月10万円を,Bに対し,生活費として渡していた。 オ Aは,平成17年2月,Bの了解を得ることなく,βのマンションへ転居し,Bと別居を始めた。(甲4,5,24)(2) AとBの別居後の関係ア Aは,βのマンションに転居して以降も,所持していた鍵を用いてαの家に出入りし,テレビ等の家財道具を持ち出すなどしていた。しかし,平成17年3月頃,Bがαの家の玄関の鍵を交換し,新しい鍵をAに渡さなかったことから,Aはαの家に自由に立ち入ることができなくなった。 イ Aは,別居後,それまでBに渡していた月10万円の生活費を渡さなくなった。そのため,Bは,Aに対し,生活費を支払うよう求め,Aも一旦はこれに応じ,月に3万円を支払う旨約束したが,実際には1万円を1回支払っただけであった。なお,αの家に係る固定資産税は,別居以降,Bが支払っていた。(甲8,9)ウ Bは,別居後,Aに対し,たびたび離婚をするよう申し入れたが,Aがこれに応じることはな 万円を1回支払っただけであった。なお,αの家に係る固定資産税は,別居以降,Bが支払っていた。(甲8,9)ウ Bは,別居後,Aに対し,たびたび離婚をするよう申し入れたが,Aがこれに応じることはなかった。なお,BがAに対して別居を解消 するよう求めたことはなかった。 エ Bは,平成19年3月頃,αの家のテレビが故障したため,Aに対し,同人が別居の際に持ち出したテレビを返却するよう求めた。Aは,持ち出したテレビを返却する代わりに,新しいテレビの購入代金を半額負担する旨Bに伝え,同人もこれを了承した。そこで,AとBは,同月26日,長女であるCとともに家電量販店を訪れ,Aが10万円,Bが残額の8万3835円を負担して新しいテレビを購入した。なお,購入代金の支払は,C名義のクレジットカードで行った。(乙18)オ Aは,平成19年11月頃,自己名義の自動車(以下「本件自動車」という。)を売却するため,Bに対し,αの家に置いたままにしていた自己の実印(以下「本件実印」という。)を使用させるよう求めた。 これに対し,Bは,本件自動車が元々同人の退職金で購入したものだったことから,Aに対し,本件実印を使わせる代わりに,本件自動車の売却代金を自己に渡すよう求めた。AとBは,その後話合いを行い,本件自動車の売却代金のうち100万円をBが受け取ることで合意し,Aは,αの家を訪れて,Bから本件実印を借り受け,それを用いて本件自動車を180万円で売却した。しかし,上記約束にもかかわらず,Aは,100万円は高すぎるなどとして,Bに対して80万円しか渡さなかった。(乙3,5,6,19)カ平成19年頃,αの家が窃盗犯人によりガラス窓を割って侵入されるという空き巣被害に遭った。Bは,Aを犯人と疑い,電話をかけて同人を問い詰めた。疑われたAは憤慨し, った。(乙3,5,6,19)カ平成19年頃,αの家が窃盗犯人によりガラス窓を割って侵入されるという空き巣被害に遭った。Bは,Aを犯人と疑い,電話をかけて同人を問い詰めた。疑われたAは憤慨し,原告の運転する自動車でαの家に出向き,犯人ではない旨苦情を述べた。 Bは,平成20年12月頃,αの家の防犯を強化するため,鉄製の門扉(以下「本件門扉」という。)を設置した。なお,Bは,本件門扉の鍵についても,Aに渡さなかった。(乙20) キ Aは,平成21年末頃,γの家を購入するため,Bに対して本件実印を使わせるよう求めたが,Bはこれに応じなかった。そこで,Aは,本件実印に係る印鑑登録を廃止し,新たに印鑑登録を行った印鑑を用いてγの家を購入した。 ク Aは,αの家の玄関の鍵が交換されて以降も,上記オやカの際に,αの家を訪ねることがあったが,Bが,別居後,Aの居宅を訪ねることはなかった。 ケ Aは,平成23年2月,肺がんの治療のためI病院に入院し,同年▲月▲日,死亡した。 Aは,入院後,Fの代書にて意向表明書を作成し,親戚や医療関係者に対し,Bとの面会を希望しない旨を明らかにした。また,Bも,入院しているAとの面会を強く希望することはなかった。(甲13)。 Bは,Aの通夜及び告別式に出席しようとしたが,喪主を務めたFに拒絶され,出席することができなかった。(乙3)⑶ Aと原告との内縁関係ア原告は, ▲ 市内で, ▲ や ▲ 等の仕事で収入を得て生活をしていた。 イ原告は,平成13年11月頃, ▲ に向かう際,知人の居酒屋の店主に頼まれて泥酔したAをαの家に送り届けたことがきっかけで,同人と知り合い,以降,次第に同人と親しくなっていった。 ウ Aと原告は,平成15年頃から,交際するように に向かう際,知人の居酒屋の店主に頼まれて泥酔したAをαの家に送り届けたことがきっかけで,同人と知り合い,以降,次第に同人と親しくなっていった。 ウ Aと原告は,平成15年頃から,交際するようになった。Aは,この頃から,原告に対し,定年後は原告と暮らしたい,Bとは必ず離婚する旨述べるようになった。 エ Aは,平成17年2月18日,原告と同居するためβのマンションを賃借し,その頃同所に転居した。(甲4,5,24)一方,原告も,同年4月頃までに, ▲ 以外の仕事を退職し,同 年5月頃,βのマンションへ転居し,Aと同居するようになった。 オ Aは,同年12月15日,γの家を賃借し,平成18年1月頃,原告とともにγの家に転居をした。(甲6,乙13の1)γの家の賃料は原告が支払っていたが,同居に要するその他の費用は専らAが自己の年金から支出していた。 Aと原告は,γの家の近隣住民からは夫婦だと認識されていた。また,両人の関係は,Aの兄弟等の親族からも好意的に受け止められていた。(乙3)カ Aは,平成21年12月頃,自己の預貯金を原資として,γの家及びその敷地を購入した。γの家購入後,水道費等家計の一部は原告が負担していたが,同居に要するその他の費用は専らAが自己の年金から支出していた。(甲7の1・2)キ Aは,平成23年2月,肺がんの治療のためI病院に入院した。入院中のAの世話は,全て原告が行った。 ク Aは,同年7月,I病院内において,本件遺言書を作成した。本件遺言書には,原告が「内縁の妻」,Bが「婚姻上の妻」である旨が記載され,更に「平成17年2月6日より,私とJは▲市δで同居し,その当時既に婚姻上の妻と私との関係は破綻しており,現在に至るまで生計維持関係は全く無い。」との付言事項が記載された。(甲 である旨が記載され,更に「平成17年2月6日より,私とJは▲市δで同居し,その当時既に婚姻上の妻と私との関係は破綻しており,現在に至るまで生計維持関係は全く無い。」との付言事項が記載された。(甲2)ケ Aは,平成23年9月に一度退院したものの,同年10月19日にI病院に再入院した。死期が近いことを悟ったAは,同年 ▲ 月 ▲日,同病院のホスピス内で,原告と結婚式を挙げた。(甲10~12)。 コ Aは,同年 ▲ 月 ▲ 日,死亡した。同人の通夜及び告別式は,それぞれ同月 ▲ 日と翌 ▲ 日,Aの兄であるFが喪主を務めて執り行われた。原告は,Aの通夜及び告別式に親族として参列するとともに,これらに要した費用を全て負担した。(甲14,15の1・2,16, 乙3)サ原告は,Aが死亡した後も,本件遺言書によって遺贈されたγの家に居住しており,また,Aの兄弟等の親族との交際も継続している。 (甲25,26) 3 事実認定の補足説明⑴ AとBの別居時期について被告は,Aがβのマンションに転居してBと別居した時期について,平成17年10月であると主張し,Bもこれに沿う証言をする。しかしながら,Aが同年2月にβのマンション及び付属の駐車場を賃借していること(甲4,5,24)からすれば,同人がβのマンションに転居した時期,すなわち同人とBの別居時期は,同月であると考えるのが合理的であって,これに反するBの証言は信用することができないというべきである。 なお,被告は,AがBとの同居を継続する一方で,交際相手である原告との時間を過ごすためにβのマンションを賃借したことも十分考えられるから,βのマンションを賃借した時期と,Aが同マンションに転居した時期がずれていても何ら不自然ではないと主張する。しかしながら,被告の主張を裏付ける めにβのマンションを賃借したことも十分考えられるから,βのマンションを賃借した時期と,Aが同マンションに転居した時期がずれていても何ら不自然ではないと主張する。しかしながら,被告の主張を裏付ける証拠は存在せず,また,賃貸借契約書(甲5)の入居者名欄にAに加えて原告の氏名が記載されていること,Aは平成16年に退職しBと寝食を共にすることに支障がなくなったにもかかわらず,寝室を異にし,食事を別々にとる生活を続け,原告に対して同人と共に暮らしたいと述べていたのであって,そのような中,マンションを賃借したことからすれば,Aは当初からBと別居し原告と同居をする目的でβのマンションを賃借したとみるのが合理的であるし,仮に,AがBとの同居を継続するつもりでβのマンションを賃借したのであれば,その後にBとの同居を解消するきっかけとなる出来事があってしかるべ きであるが,かかる事情も認められない。したがって,被告の主張を採用することはできない。 以上によれば,AとBの別居時期は,上記のとおり平成17年2月であると認定することが相当である。 ⑵ Aがαの家に出入りできなくなった時期について被告は,Aがαの家に自由に出入りできなくなったのは,本件門扉が設置された平成20年12月頃以降であるなどと主張し,Bもこれに沿う証言をする。 しかしながら,Aが,平成19年11月頃,本件自動車を売却する際,Bに無断で本件実印を使用せず,Bに求めて本件実印を使用していること(前記認定事実(2)オ)からすると,Aが平成20年12月に先立つ平成19年11月頃の時点で,既にαの家に自由に立ち入れなかった可能性が高いと考えられる。また,同年にαの家が窃盗犯人にガラス窓を割って侵入されるという空き巣被害に遭った際,Bは,Aを犯人と疑ったのであり(前記認定事実( で,既にαの家に自由に立ち入れなかった可能性が高いと考えられる。また,同年にαの家が窃盗犯人にガラス窓を割って侵入されるという空き巣被害に遭った際,Bは,Aを犯人と疑ったのであり(前記認定事実(2)カ),当時,Aが自由にαの家に出入りすることができる状況にあったのであれば,Bが上記のような疑いを抱くことは考え難い。これらの事情は,Bの上記証言とは整合しない。 加えて,Bは,Aは,平成20年12月頃に本件門扉が設置されてαの家に自由に出入りできなくなるまで,1週間から10日に1度程度Bに無断でαの家に立ち入り,Bと会うと必ず喧嘩をして帰っていき,Bが不在の場合には,家財道具等を無断で持ち帰るという身勝手な行動を3年以上も繰り返していた旨証言し,Bの同証言によれば,Bは,Aの上記行動を事実上黙認していたことになるが,かかる態度は,Aとの離婚を希望する者のそれとしては多分に不自然である。この点について,Bは,Aと話し合いをして,離婚手続を早く進めればよいと考え,Aをαの家に出入りさせていたと説明するが,Bが離婚に関する具体的な手 続を一切行っていないこと等の事情に照らせば,にわかには信用し難い。 そうすると,Aがαの家に出入りできなくなった時期に係るBの証言は,証拠から認定できる事実と齟齬するものであるし,その内容自体も不自然であるから,容易に信用することができないというべきであり,他に被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。 他方,原告は,Aがαの家に自由に出入りできなくなった時期について,平成17年3月頃であると供述する。すなわち,Bは別居開始後間もなく玄関の鍵を交換し,新しい鍵をAに渡さなかったことになるが,AがBの了承を得ずに別居し,しかもαの家からテレビ等の家財道具の持ち出しを繰り返していたこと等の事実に照らせば ち,Bは別居開始後間もなく玄関の鍵を交換し,新しい鍵をAに渡さなかったことになるが,AがBの了承を得ずに別居し,しかもαの家からテレビ等の家財道具の持ち出しを繰り返していたこと等の事実に照らせば,Bが,Aにおいて自由にαの家に立ち入ることができないよう,別居開始後間もなくして玄関の鍵を交換することも自然かつ合理的なものとみることができる。 そうすると,Aがαの家に出入りできなくなった時期に係る原告の供述は,証拠から認定できる事実に整合し,その内容も自然かつ合理的なものであるから,信用することができるというべきであり,同供述によれば,Aがαの家に出入りできなくなった時期は,上記のとおり平成17年3月頃であると認定することが相当である。 4 検討以上の事実を前提に,AとBの婚姻関係が事実上の離婚状態にあったか否かを検討する。 (1) 別居の経緯及び別居期間AとBは,αの家で同居している頃から,異なる寝室を使用し,食事を別々にとるなどしており(前記認定事実(1)イ,ウ),夫婦関係は別居前から芳しくなかったものと認められる。両人は,平成17年2月,AがBの了承を得ずにβのマンションに転居したことにより別居生活に至り(前記認定事実(1)オ),Aが死亡する平成23年 ▲ 月 ▲ 日までの約6年10か月 の間,別居が解消されることは一度もなかった。かかる別居期間は,両人の同居期間が約33年間に及ぶことを考慮しても,比較的長期間であると評価するのが相当である。 (2) 婚姻関係の維持ないし修復するための努力の有無ア Aは,βのマンションへ転居した後,原告との同居生活を開始し,さらに,原告と共にγの家に転居し,最終的にはγの家を購入するなど,別居生活の拠点を着々と築いている(前記認定事実(3)エ~カ)。そして,肺がんの治療のた ンへ転居した後,原告との同居生活を開始し,さらに,原告と共にγの家に転居し,最終的にはγの家を購入するなど,別居生活の拠点を着々と築いている(前記認定事実(3)エ~カ)。そして,肺がんの治療のため入院した後は,Bとの面会を希望しない意向を書面で明らかにし,さらに,本件遺言書にBとの婚姻関係が破綻していることを明記するなど,Bとの婚姻関係を修復する意思を有していない意向を鮮明にしている(前記認定事実(2)ケ,(3)ク)。他方,Aが,別居期間中,Bとの婚姻関係の修復に向けて何らかの努力を講じた様子は認められない。以上の事情からすれば,Aは,別居後,一貫してBとの婚姻関係を維持ないし修復する意思を有していなかったというべきである。 なお,Aは,Bからの度重なる離婚の申入れには応じていないが(前記認定事実(2)ウ),これは,AがBとの離婚がC及びDの将来の婚姻に悪影響を及ぼすことを懸念し(乙3,原告本人,証人B),形式的に戸籍上の記載のみを維持しようとしたためであると考えられるから,上記認定を左右するものではない。 イ Bは,別居後,Aに別居の解消を求めたことはなく,αの家の玄関の鍵を交換してAの立ち入りを拒んだ上,同人に度々離婚を申し入れ,Aが肺がんの治療のため入院した後も,同人との面会を強く希望することはなかった(前記認定事実(2)ア,ウ,ケ)。以上の事情からすれば,Bについても,別居後,一貫してAとの婚姻関係を維持ないし修復する意思を有していなかったというべきである。 この点,被告は,Bについて,Aの肺がんり患を知った後,Eに対して 「家族にAを返してほしい」と伝えるなど,婚姻関係を維持する意向を示していた事情が認められる旨主張し,Bも当該主張に沿う証言をする。しかしながら,上記のとおり,Bが別居後Aに対して度々離婚を申 「家族にAを返してほしい」と伝えるなど,婚姻関係を維持する意向を示していた事情が認められる旨主張し,Bも当該主張に沿う証言をする。しかしながら,上記のとおり,Bが別居後Aに対して度々離婚を申し入れ,Aの入院後も同人との面会を強く希望することがないなど,Aとの婚姻関係の維持に消極的な姿勢を示していたことに照らすと,上記証言は直ちに信用することができず,他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。 (3) 別居後の経済的依存の状況Aは,別居前までは,Bに生活費として月10万円を渡していたが,別居後は生活費として1万円を1回支払っただけであった(前記認定事実⑵イ)。 他方,BがAに生活費を支払った事情は認められない。 この点,Aは,平成19年3月頃,テレビの購入代金として10万円をBに渡しており,また,同年11月頃には,自己名義の自動車の売却代金のうち80万円を同人に渡している(前記認定事実(2)エ,オ)。もっとも,これらの金銭はAが積極的に支出したものではなく,テレビ購入代金については,Aがαの家から持ち出したテレビを返還するよう求められたことから,やむを得ず支出したものと認められ,また,自動車の売却代金については,自動車を売却する上でαの家に置いたままであった本件実印の使用をBに求める必要があったこと,また,当該自動車がBの退職金で購入されたものであり,その売却代金を全額取得することに負い目があったことから,こちらもやむを得ず支出したものと認められる。そうすると,上記各金銭の交付は,婚姻中に形成された財産関係の清算としての性質を有するものとみるのが相当であって,婚姻関係を背景とした経済的な援助とみることはできない。 なお,被告は,Aが平成22年,Bの実家近くに購入していた別荘地の管理費用を支払っている旨主張しているが,かかる事 のとみるのが相当であって,婚姻関係を背景とした経済的な援助とみることはできない。 なお,被告は,Aが平成22年,Bの実家近くに購入していた別荘地の管理費用を支払っている旨主張しているが,かかる事実を認めるに足りる証拠はないし,仮にかかる事実が認められたとしても,管理費用が支払われた経緯等は明らかではなく,これをもって婚姻関係を背景とした経済的な援助が あったものと直ちに認めることはできない。 以上によれば,AとBとの間に,別居後の経済的依存の状況は存在しなかったというべきである。 (4) 音信及び訪問の状況AとBとの間には,Aがαの家に出入りできなくなった平成17年3月頃以降も,①テレビを購入するため両人が連れ立って家電量販店に出向いたり,②実印を利用するためAがαの家を訪れたり,③空き巣と疑われたAが弁明のためαの家に出向いたりするなど,一定の訪問が存したと認められる(前記認定事実(2)エ,オ,カ)。しかしながら,上記1,2については,上記(3)で判示したとおり,婚姻中に形成された財産関係を清算するための訪問であり,上記3については,両人の不和により生じた訪問にすぎなかった。また,上記各訪問はいずれも平成19年頃の出来事であり,平成20年以降に,AとBとの間に積極的な訪問が存したことをうかがわせる証拠はない。そして,Aが肺がんの治療のため入院した後は,AがBとの面会を希望しない意向を明確にしたこともあり,両者の間には一切訪問が存しなかった(前記認定事実(2)ケ)。なお,Bは,Aが平成20年12月頃まで1週間から10日に1度程度αの家に立ち寄っていた旨証言するが,当該証言が信用できないことは,上記3(2)で判示したとおりである。 その他に,固定資産税に関する書類に「切れる TEL 応対なし」との記載があり(甲9), 程度αの家に立ち寄っていた旨証言するが,当該証言が信用できないことは,上記3(2)で判示したとおりである。 その他に,固定資産税に関する書類に「切れる TEL 応対なし」との記載があり(甲9),この記載はAのものと推察され,その記載内容等に照らすと,AはBに対し,αの家に係る固定資産税の支払を求めるため,その都度電話等をしていたことが窺われるが,かかる音信も,婚姻中に形成された財産関係を清算するためのものにすぎない。しかも,上の記載からは,平成22年末の時点において,BがAからの電話に出ようとしない態度を示していたことが窺われ,また,AがI病院入院中に作成したと思しきメモ書きにも「TEL出ず」との記載があり(甲8,原告),このような記載からも, Bが同様の態度を示していたことが窺われる。 そうすると,AとBとの間の別居後の音信及び訪問は,一定程度認められるものの,財産関係の清算を目的とするものがほとんどであり,平成20年以降は相当程度希薄化が進行し,Aの死亡当時はほぼ断絶状態にあったというべきである。 (5) 重婚的内縁関係の固定性Aと原告は,平成15年頃から交際を開始し,平成17年5月頃からAが死亡する平成23年 ▲ 月 ▲ 日まで約6年7か月の間,Aの入院中を除き,同居を継続していた(前記認定事実(3)ウ~カ)。また,両人は,当初は賃貸物件に,その後はAが同居のために購入した物件に居住し,Aの年金を主な生活の糧として,相連れ添って生活をしていた(前記認定事実(3)エ~カ)。 両人は,γの家の近隣住民からは夫婦と認識されていた(前記認定事実⑶オ)。また,その関係はAの兄弟等からも好意的に受け止められており(前記認定事実(3)オ),最終的にはAの兄弟等からも夫婦として遇されるに至ったものと認められる。 そして,A いた(前記認定事実⑶オ)。また,その関係はAの兄弟等からも好意的に受け止められており(前記認定事実(3)オ),最終的にはAの兄弟等からも夫婦として遇されるに至ったものと認められる。 そして,Aが肺がん治療のため入院した後は,原告がAの看病を行い,入院中に結婚式を挙げ,Aの死後は,原告が親族として同人の通夜及び告別式に参列するとともに,これらに要した費用を全て支出している。他方,Aも,本件遺言書において原告を「内縁の妻」と表現し,同人との生活の本拠であったγの家を同人に遺贈している(前記認定事実⑶キ~サ)。 以上のように,Aと原告は,約6年7か月という比較的長期にわたり,新たな生活の拠点を築き,生計を同じくして同居を継続していたのであって,近隣住民のみならず,Aの兄弟等からも夫婦として認められていたのだから,両人は,事実上夫婦としての共同生活を送っていたと認めるのが相当であり,かつ,その関係は,相当程度安定かつ固定していたというべきである。 (6) 小括以上検討したとおり,AとBとの夫婦関係は,別居前から芳しくなく,Aが一方的にαの家を出て別居を開始して以降,同人が死亡するまで別居は一度も解消されず,その期間は最終的に約6年10か月という比較的長期間に及んでおり(上記(1)),その間,両人は,婚姻関係の維持ないし修復するための努力を一切行なわず,Bに至っては別居当初から離婚を望んでいた(上記(2))。また,AとBとの間に,別居後,経済的依存関係は認められず(上記(3)),音信及び訪問は一定程度存在したものの,財産関係の清算を目的とするものがほとんどであり,Aの死亡当時にはほぼ断絶状態にあった(上記(4))。他方,Aと原告は,AがBと別居した直後から約6年7か月にわたって,事実上夫婦としての共同生活を送っており,また, 目的とするものがほとんどであり,Aの死亡当時にはほぼ断絶状態にあった(上記(4))。他方,Aと原告は,AがBと別居した直後から約6年7か月にわたって,事実上夫婦としての共同生活を送っており,また,その関係も相当程度安定かつ固定していたと認められる(上記(5))。これらの事情を総合すれば,Aが死亡した時点で,AとBとの婚姻関係は,実体を失って形骸化し,その状態が固定して近い将来解消される見込みのない事実上の離婚状態にあったと認めるのが相当である。 5 以上のとおり,AとBとの間の婚姻関係は事実上の離婚状態にあったものであり,他方,前記4(5)で判示したとおり,Aと原告との間の内縁関係は,Aの死亡当時,相当程度安定かつ固定化していたのであるから,原告は,厚年法3条2項及び国年法5条8項所定の「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」,すなわち厚年法59条1項,37条1項及び国年法19条1項所定の「配偶者」に当たると認めるのが相当である。そして,Aの死亡の当時,原告とAが同居をしていたこと,また,本件裁定請求時,原告の年収が850万円未満であったこと(乙1)からすれば,原告は,Aと「生計を同じくしていたもの」(厚年法37条1項,国年法19条1項)に当たり,また,Aよって「生計を維持したもの」(厚年法59条1項)に当たると認められる。そうすると,原告は,遺族厚生年金及び本件未支給年金の受給権を有 するものと認められるから,本件裁定請求を棄却した本件遺族年金不支給決定及び本件支給請求を棄却した本件未支給年金不支給決定は,いずれも違法である。 6 結論よって,原告の各請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 主文 よって,原告の各請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文のとおり判決する。 理由 事実 争点 判断 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官角谷昌毅 裁判官松原平学
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