○ 主文一原告らの請求をいずれも棄却する。 二訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実及び理由第一原告らの請求被告が、原告らの昭和六三年一一月七日相続開始に係る相続税について、いずれも平成四年二月一三日付けでした、別紙一「本件課税処分等の経緯」(8)欄記載の各更正(以下「本件各更正」という。)のうち、課税価格及び相続税額について同表(2)欄記載の各更正の請求の金額を超える部分及び同表(8)欄記載の各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」といい、本件各更正と合わせて「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。 第二事案の概要本件は、父の死亡により信託受益権などの財産等を相続した原告らが、右信託受益権の価額の計算に当たり、信託目的である土地が貸家建付地として評価されるべきであり、かつ、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を定める租税特別措置法六九条の三第一項(平成四年法律第一四号による改正前のもの、以下「本件特例」という。)が適用されるべきであるとし、また、信託目的である建物が貸家として評価されるべきであるとして、相続税の申告及び更正の請求をしたところ、被告から本件各処分をされたため、被告に対し、本件各処分の取消しを求めている事案である。 一本件各処分の経緯等(当事者間に争いのない事実) 1 Aは、別紙二物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の建物を所有し、その妻であるB及び子である原告Cとともに、右建物に居住していた。 2 Aは、三菱信託銀行株式会社(以下「三菱信託」という。)との間で、昭和六二年七月一三日、本件土地上の建物を取り壊して賃貸事業用建物を新築し、本件土地及び右新築建物の管理運用を委託する旨の契約(以下「本件信託契約」という。)を締結した。 三菱信託は、本件土地上に 和六二年七月一三日、本件土地上の建物を取り壊して賃貸事業用建物を新築し、本件土地及び右新築建物の管理運用を委託する旨の契約(以下「本件信託契約」という。)を締結した。 三菱信託は、本件土地上に建物を新築すべく、東急建設株式会社に建築工事を施工させ、昭和六三年五月三〇日、前記目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)が完成した。 A、B及び原告Cは、同月末ころ、本件建物の三階部分に居住した。 3 三菱信託は、昭和六二年八月二七日、信託を原因として、本件土地の所有権移転登記を経由し、昭和六三年八月五日、同社名義で本件建物の保存登記をした。 4 Aは、昭和六三年一一月七日に死亡し、B及びAの子である原告らがAを相続(以下「本件相続」という。)した。 B及び原告らの遺産分割協議により、本件土地のうち二〇〇平方メートルをBが取得し、残りの一六六・五二平方メートルを原告Cが取得した。また、本件建物のうち、一階及び三階部分はBが取得し、二階部分は原告Cが取得した。 5 三菱信託は、D株式会社との間で、昭和六三年一二月七日、本件建物の一階及び二階部分(以下「本件建物一、二階部分」という。)を賃料月額二四五万九四〇〇円、敷金一四七五万六四〇〇円で賃貸する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。 Dは、三菱信託に対し、同月二〇日、本件賃貸借契約に基づき、右敷金を支払った。 6 原告らの本件相続に係る相続税の申告及び更正の請求とこれに対する課税処分等の経緯は、別紙一「本件課税処分等の経緯」記載のとおりである。 二本件相続に係る相続税の課税価格の内訳等 1 被告は、本件相続により原告らが取得した財産、債務等の内容、取得割合及び価額は別紙三別表1「課税価格等の計算明細表」記載のとおりであり、これを基にして計算した原告らの相続税の課税価格及び相続税 1 被告は、本件相続により原告らが取得した財産、債務等の内容、取得割合及び価額は別紙三別表1「課税価格等の計算明細表」記載のとおりであり、これを基にして計算した原告らの相続税の課税価格及び相続税額は、同表の各記載のとおりになるところ、本件各更正に係る原告らの納付すべき相続税額は右金額と同額であるから、本件各更正はいずれも適法であると主張する。 また、被告は、原告Cに係る過少申告加算税の額は、国税通則法六五条一項及び同条二項に基づき、原告Eに係る同税の額は、同法六五条一項に基づき、それぞれ本件各更正により新たに納付すべきこととなった税額(同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額、以下同じ)を基にして算出されたものであるから、本件各賦課決定は、いずれも適法であると主張する。 2 右の取得財産等の内容、取得割合、価額、相続税額等については、相続財産を構成する信託受益権(以下「本件信託受益権」という。)の価額に関する部分を除いては、いずれも当事者間に争いがない。すなわち、前記別表1の(8)欄を除く各相続財産の価額については、その総額及び各原告ごとの額についていずれも当事者間に争いがなく、また、別紙三別表2「相続税額の計算明細表」の計算方法については、当事者間に争いがない。 3 本件信託受益権の価額について(一) 相続税法二二条は、相続税の課税価格となる相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるものとしており、右の時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価格をいうものと解されている。しかし、右価格の算定は必ずしも容易でないところ、納税者の公平、課税事務の迅速化等の見地から、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準として相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)が定められ、それによ 定は必ずしも容易でないところ、納税者の公平、課税事務の迅速化等の見地から、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準として相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)が定められ、それによる画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。 評価通達によれば、土地及び建物の評価方法は、次のとおりとされており、また、本件特例による課税価格は、次のとおりである。 (1) 宅地の価額は、利用の単位となっている一画地の宅地ごとに、路線価方式又は倍率方式により評価する(評価通達一〇ないし一三)が、貸家の目的に供されている宅地(以下「貸家建付地」という。)の価額は、その宅地の自用地としての価額から、右価額にその宅地に係る借地権割合とその貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価する(同通達二六)。 また、被相続人の相続の開始の直前において、被相続人等の事業(なお、昭和六三年法律第一〇九号附則七二条一項により、本件相続に係る相続税については、事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。以下、これを前提とする。)の用又は居住の用に供されていた宅地(以下「事業用宅地」又は「居住用宅地」という。)については、本件特例が適用され、そのうちの二〇〇平方メートルまでの部分の課税価格は、右評価額に一定の割合を乗じて計算した金額とされる。 (2) 家屋の価額は、固定資産税評価額に評価通達別表一に定める倍率(一・〇倍)を乗じて評価する(評価通達八九)が、借家権の目的となっている家屋(以下「貸家」という。)の価額は、右家屋に係る借家権の価額を控除した金額によって評価する(同通達九三)。 (二) ところで、「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和六一年七月九日付け直審五-六、三-七四、 借家権の価額を控除した金額によって評価する(同通達九三)。 (二) ところで、「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和六一年七月九日付け直審五-六、三-七四、四-三九、直所三-九、直法二-六、直資一-一〇、徴管二-四〇国税庁長官通達、以下「土地信託通達」という。)は、同通達一-一(1)所定の要件のすべてを満たす土地信託の課税上の取扱いについて定めているところ、同通達四-一は、個人が相続により信託受益権を取得した場合には、当該個人が当該信託受益権を取得した時において、当該信託受益権の目的となっている信託財産の各構成物を取得したものとして相続税の課税価格等の計算をする旨を定め、同通達四-六は、当該信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等が、本件特例に規定する事業用宅地又は居住用宅地に該当するときは、本件特例を適用する旨を定めている。 そして、本件信託契約は、同通達を適用するための各要件を満たしていることについては、当事者間に争いがないから、本件信託受益権の価額は、前記(一)に基づいて計算した本件土地及び本件建物の評価額の合計額がいくらであるかに帰着することとなる。 (三) 本件信託受益権の価額についての被告の主張本件信託受益権の価額は、次の(1)及び(2)の価額の合計額である六億七一七六万四三七六円(原告Cが取得した部分の価額は、二億六九六二万二三四三円)となる。 (1) 本件土地の価額五億九八五八万二四七六円(原告Cが取得した部分の価額は、二億三九六一万七七六四円)右価額は、次のウ及びエの金額の合計額であり、その計算方法の詳細は、別紙四「本件土地の評価明細表」記載のとおりである。 ア本件土地の自用地としての価額 九六一万七七六四円)右価額は、次のウ及びエの金額の合計額であり、その計算方法の詳細は、別紙四「本件土地の評価明細表」記載のとおりである。 ア本件土地の自用地としての価額六億八四〇七万二九二八円右価額は、本件土地の一平方メートル当たりの自用地としての価額、すなわち、本件土地の正面の路線価額(一七六万円)に奥行価額逓減率(一・〇倍)を乗じた価額と、本件土地の側方の路線価額(一五二万円)に奥行価額逓減率(一・〇倍)及び側方路線影響加算率(〇・〇七)を乗じて計算した価額(一〇万六四〇〇円)の合計額(一八六万六四〇〇円)に、本件土地の面積を乗じた価額である(同表(1)欄記載のとおり)。右価額については、当事者間に争いがない。 イ本件土地のうち本件特例の対象となる面積本件建物の三階部分は、本件相続の開始の直前において、A等の居住の用に供されていたから、本件土地のうち右部分の敷地部分には、居住用宅地として本件特例が適用される。 右敷地部分の面積は、本件土地の面積に、本件建物の合計面積に占める本件建物の三階部分の面積の割合を乗じた面積(九一・六一平方メートル)となる(同表(2)欄記載のとおり)。 そのうち、原告Cが取得した部分の面積は、右面積に、同人が本件特例を受けることとして選択した本件土地の面積(一六六・五二平方メートル)の割合を乗じた七六・二七平方メートルとなる(同表(9)欄記載のとおり)。 ウ本件土地のうち居住用宅地とされる部分の価額八五四九万四五二円右価額は、本件土地の自用地としての価額のうち、前記イの面積に対応する部分の金額に、本件特例一項三号に定める割合(五〇パーセント)を乗じた価額である。 そのうち、原告Cが取得した部分の価額は、七一一七万五一六四円となる(同表(1 ての価額のうち、前記イの面積に対応する部分の金額に、本件特例一項三号に定める割合(五〇パーセント)を乗じた価額である。 そのうち、原告Cが取得した部分の価額は、七一一七万五一六四円となる(同表(10)欄記載のとおり)。 エ本件土地のうち居住用宅地以外の価額五億一三〇九万二〇二四円右価額は、本件土地のうち居住用宅地とされる部分を除いた部分の価額である。 そのうち、原告Cが取得した部分の価額は、一億六八四四万二六〇〇円となる(同表(11)欄記載のとおり)。 (2) 本件建物の価額七三一八万一九〇〇円(原告Cが取得した建物の価額は、三〇〇〇万四五七九円)右価額は、本件建物の固定資産税評価額に一・〇倍を乗じて計算した価額である。 なお、本件建物の自用家屋としての価額については、当事者間に争いがない。 (四) 本件信託受益権の価額についての原告らの主張本件信託受益権の価額は、次の(1)及び(2)の価額の合計額である四億六七六四万四八九九円となる。 (1) 本件土地の価額四億一〇九二万八九二八円右価額は、本件土地の自用地としての価額から、貸家建付地としての評価を減額し、さらに、Bが取得した本件土地の部分のうち三三・四八平方メートル及び原告Cが取得した本件土地の部分一六六・五二平方メートルについて、事業用宅地又は居住用宅地として、本件特例を適用したものである。 (2) 本件建物の価額五六七一万五九七一円右価額は、被告の主張額から、本件建物一、二階部分の貸家としての評価を減額したものである。 三争点本件の争点及び当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。 五六七一万五九七一円右価額は、被告の主張額から、本件建物一、二階部分の貸家としての評価を減額したものである。 三争点本件の争点及び当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。 1 本件建物一、二階部分及びその敷地部分(以下「本件敷地部分」という。)は、貸家及び貸家建付地に該当するか否か。 (一) 被告の主張貸家及び貸家建付地とは、相続開始時において、借家権の目的となっている家屋及びその敷地をいい、評価通達は、これに該当するものに限り所要の減額を行うこととしているものである。 しかるに、三菱信託とDが本件賃貸借契約を締結し、Dが三菱信託に対して右契約に基づき敷金を支払ったのは、本件相続の開始後である。 したがって、本件建物一、二階部分及び本件敷地部分は、本件相続の開始時において、貸家及び貸家建付地に該当していないことになる。 (二) 原告らの主張本件建物一、二階部分は、三菱信託が、本件信託契約に基づき、賃貸事業を目的として管理運用し、Dとの間で本件賃貸借契約の契約内容に関する覚書を作成するなどしていたのであるから、本件相続の開始時において、たとえ賃借人が占有していないとしても、実質的には貸家に該当するというべきであり、本件敷地部分も貸家建付地に該当するというべきである。 2 本件敷地部分は、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否か。 (一) 被告の主張信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地について本件特例が適用されるか否かについては、当該土地の実際の利用状況に応じて判断されるものであり、当該土地が事業用宅地に該当するとされるには、その相続の開始の直前において、現実に被相続人等の事業の用に供されていなければならない。 しかるに、本件建物一、二階部分については、本件相続の開始の直前において、本件賃貸借契約が成立してい れるには、その相続の開始の直前において、現実に被相続人等の事業の用に供されていなければならない。 しかるに、本件建物一、二階部分については、本件相続の開始の直前において、本件賃貸借契約が成立していないから、賃貸事業用としては未使用の状況にあり、本件敷地部分が被相続人等の事業の用に供されていたとは認められない。 したがって、本件敷地部分は、本件特例にいう事業用宅地には該当しない。 (二) 原告らの主張土地信託通達は、所定の要件を満たす土地信託に対して税制上の優遇措置を適用する取扱いをすることにより、土地信託を奨励し、個人所有の土地の供給を促すことを目的としたものであり、信託契約締結後、土地等の管理運用権限が受託者にゆだねられることからすると、同通達は、委託者が受託者との間で不動産を一定の事業目的に供するために信託契約を締結したときに、当該不動産が事業の用に供されたとみることとしたものである。 そうすると、本件土地については、Aと三菱信託との間で、賃貸事業用建物である本件建物一、二階部分の敷地に供する目的で管理運営する旨の本件信託契約が締結されていたのであるから、本件敷地部分は、本件相続の開始の直前において、本件特例にいう事業用宅地に該当するというべきである。 仮に、本件信託契約の締結をもって、事業が開始されたとはいえないとしても、三菱信託は、本件相続の開始前に、本件建物の賃借人の募集を広告し、管理会社に管理料を支払い、Dとの間で覚書を作成するなど、賃貸事業の準備行為をしていたから、本件敷地部分は、本件相続の開始の直前において、事業用宅地に該当するというべきである。 第三争点に対する判断一末尾に掲記した各書証及び弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約の経緯等について、次の事実を認めることができる。 1 三菱信託は、昭和六三年五月から、新聞広 うべきである。 第三争点に対する判断一末尾に掲記した各書証及び弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約の経緯等について、次の事実を認めることができる。 1 三菱信託は、昭和六三年五月から、新聞広告により、本件建物一、二階部分の賃借人を募集するとともに、同年六月、日本管財株式会社との間で、管理業務委託契約を締結し、管理料の支払を開始した。(甲一七号証の一、二) 2 昭和六三年九月末ころ、本件建物に漏水箇所があることが発見されたため、補修工事が施行され、右工事は同年一一月四日に完了した。(甲一四号証の二、二五号証) 3 三菱信託とDは、昭和六三年一〇月三日、本件建物一、二階部分の賃貸借について、詳細を協議の上、速やかに別途賃貸借契約を締結するものとし、右賃貸借の基本事項として、賃貸借期間を二年間、月額賃料を坪当たり二万円、敷金を賃料の六か月分相当額とするとの合意をし、その旨を記載した覚書を作成した。右合意は、原則として解除できないとされた。(甲一四号証の一) 4 本件賃貸借契約においては、賃貸借期間は昭和六三年一二月一日から二年間で、Dは、本件建物一、二階部分を他に転貸できるものとされた。 Dは、デイー・エス・シー・ジャパン株式会社との間で、本件建物の二階部分について、期間を昭和六四年一月一日から二年間とする賃貸借契約を締結した。また、Dは、日本モトローラ株式会社との間で、本件建物の一階部分について、期間を平成元年八月五日から二年間とする賃貸借契約を締結した。(乙二四号証の四)以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。 そこで、右認定事実及び前記第二、一の当事者間に争いのない事実に基づき、本件各争点について検討する。 二争点1について(本件建物一、二階部分及び本件敷地部分は、貸家及び貸家建付地に該当するか否か。) 1 評価通達九三 び前記第二、一の当事者間に争いのない事実に基づき、本件各争点について検討する。 二争点1について(本件建物一、二階部分及び本件敷地部分は、貸家及び貸家建付地に該当するか否か。) 1 評価通達九三及び二六が、貸家及び貸家建付地の評価額について所要の減額を認めた趣旨は、土地上の建物が借家権の目的となっている場合、賃貸人は、自己使用の必要性などの正当事由がある場合を除き、賃貸借契約の更新を拒んだり解約の申し入れをすることができない(借家法一条の二)から、借家権を消滅させるためには立退料の支払を要することになること、借家人は、建物の引渡しを受けた後には第三者に対する対抗要件を有する(借家法一条一項)から、建物に借家権を付着させたままで建物及びその敷地を譲渡する場合には、その譲受人は、建物及びその敷地の利用について制約を受けることになることなどから、右の建物及び敷地の経済的価値が、借家権の目的となっていない建物や土地に比べて低くなることを考慮したことにあると解される。 このような評価通達の趣旨に照らすと、建物及び土地について、貸家及び貸家建付地として評価額を減額するには、右のように経済的価値が低くなるような事情がある場合に限られるというべきである。 そうすると、右評価通達にいう貸家及び貸家建付地とは、現に借家権の目的となっている家屋及びその敷地の用に供されている土地をいうと解するのが相当である。 そして、相続税法二二条が、相続により取得した財産の価額をその取得の時における時価によるものとしていることからすると、貸家及び貸家建付地に当たるか否かは、相続開始時を基準として判断されるべきである。 これを本件についてみると、三菱信託とDが本件建物一、二階部分について本件賃貸借契約を締結したのは、本件相続の開始後である昭和六三年一二月七日であることについて 時を基準として判断されるべきである。 これを本件についてみると、三菱信託とDが本件建物一、二階部分について本件賃貸借契約を締結したのは、本件相続の開始後である昭和六三年一二月七日であることについては当事者間に争いがないから、本件相続の開始時において、本件建物一、二階部分及び本件敷地部分は、貸家及び貸家建付地に該当していたとはいえないことは明らかである。 2 これに対し、原告らは、本件建物一、二階部分は、三菱信託が本件信託契約に基づき、賃貸事業を目的として管理運用し、Dとの間で覚書を作成するなどしていたのであるから、たとえ賃借人が占有していないとしても、貸家として評価すべきであり、本件敷地部分も貸家建付地として評価すべきであると主張する。 なるほど、前記認定のとおり、三菱信託は、本件信託契約の締結後、本件建物一、二階部分に係る管理料の負担、賃貸人の募集等をしていたものであるが、その実質は、三菱信託が、賃貸事業を開始するための準備行為をしたにすぎないというべきである。また、三菱信託がDとの間で作成した覚書をみても、詳細は協議の上、別途賃貸借を締結する旨の記載があるように、その合意自体はいわば本件賃貸借契約の予約と解すべきものであり、これをもって賃貸借契約の締結と同視することはできない。 そうすると、本件建物一、二階部分は、本件相続の開始時において、未だ借家権の目的とはなっておらず、右部分及び本件敷地部分について、前記のような土地の経済的価値を低下させる事情が発生したものとは認められないから、これらを貸家及び貸家建付地として評価することはできないというべきである。 したがって、原告らの右主張は失当である。 三争点2について(本件敷地部分は、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否か。) 1 (一)本件特例は、相続の開始の直前において、被相続人等の べきである。 したがって、原告らの右主張は失当である。 三争点2について(本件敷地部分は、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否か。) 1 (一)本件特例は、相続の開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地は、相続人等の生活基盤の維持のために不可欠のものであること、特に事業用宅地については、雇人、取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高いことなどから、その処分について相当の制約を受けるであろうことにかんがみ、必要最小限度の部分について、相続税の課税価格の計算上減額を認めたものであると解される。 右のような本件特例の趣旨及び文言に照らすと、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否かは、相続の開始の直前において、当該宅地が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべきである。 (二) ところで、信託は、委託者が、受託者に対し、財産の移転その他の処分をし、一定の目的のためにその管理又は処分を委託する制度であり(信託法一条)、受託者は、信託財産に係る権利の移転を受け、法律上の名義人としてその管理、運用、処分等をする一方、委託者は、信託受益権を得て、信託財産から生ずる利益を享受するというしくみをとるものである。右のような信託の性質に照らすと、信託財産の所有権は、形式的には受託者に移転しているとしても、経済的実質においては、受益者である委託者が有していることと変わらないというべきである。 土地信託通達は、このような見地から、所定の要件を満たす信託契約において、信託受益権はその目的となっている信託財産に帰属している財産債務そのものを直接有する権利であるとして取り扱う(同通達一-二)こととし、相続により信託受益権を取得した場合には、当該個人が当該信託受益権の取得をした時において なっている信託財産に帰属している財産債務そのものを直接有する権利であるとして取り扱う(同通達一-二)こととし、相続により信託受益権を取得した場合には、当該個人が当該信託受益権の取得をした時において、当該信託受益権の目的となっている信託財産の各構成物を取得したものとして取り扱う(同通達四-一)こととしているのであって、右通達内容は合理的なものであるということができる。 そうすると、信託財産が本件特例にいう事業用資産に該当するか否かについても、受益者が自ら財産を所有して管理運用する場合と同様に取り扱うのが相当であり、この点については、信託財産の各構成物の実際の利用状況に照らし、相続の開始の直前において、現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべきである。 (三) そこで検討すると、本件建物一、二階部分について、三菱信託がDとの間で本件賃貸借契約を締結したのは、本件相続の開始後であり、覚書が作成されたといっても、前記のとおり、その合意内容は本件賃貸借契約の予約にすぎないものであるから、本件敷地部分は、本件相続の開始の直前において、現実に賃貸事業の用に供されていたということはできない。 したがって、本件敷地部分は、本件特例にいう事業用宅地に該当しないというべきである。 2 これに対し、原告らは、土地信託通達は、受託者と委託者との間で土地信託契約が締結されたときには、事業の用に供されたとみることとしたものであり、本件相続の開始の直前において、本件土地は賃貸事業用建物である本件建物一、二階部分の敷地に供する旨の本件信託契約が締結されていたのであるから、本件敷地部分は、事業用宅地に該当すると主張する。 しかしながら、前記のような信託の性質に照らすと、信託契約は、委託者が受託者に対し、財産の管理運用を委託し、信託の目的となった事業を行 のであるから、本件敷地部分は、事業用宅地に該当すると主張する。 しかしながら、前記のような信託の性質に照らすと、信託契約は、委託者が受託者に対し、財産の管理運用を委託し、信託の目的となった事業を行う権限を与えるものにすぎないから、受託者により当該事業が開始されて初めて当該財産が事業に供されたというべきであって、右契約の締結をもって、直ちに、本件特例に定める事業が開始されたものということはできないというべきである。 また、同通達四-六は、信託財産に属する土地等が、本件特例に規定する事業用宅地又は居住用宅地に該当する場合に、本件特例が適用される旨を規定しているにすぎないものであり、同通達の他の規定をみても、信託契約の締結をもって、それ自体を本件特例に定める事業とみるとか、信託契約の締結によって、直ちに右事業が開始されたとみる旨を定めるものは見当たらない。 したがって、原告らの右主張は、独自の見解によるもので、これを採用することはできない。 3 (一)さらに、原告らは、仮に、本件信託契約の締結をもって事業が開始されたとはいえないとしても、三菱信託は、本件相続の開始前に、賃借人の募集を広告し、管理会社に管理料を支払い、Dとの間で覚書を作成するなど、賃貸事業の準備行為をしたから、本件敷地部分は事業用宅地に該当する旨主張する。 しかしながら、本件特例は、前記のとおり、生活基盤の維持、個人事業者の事業の承継等を図るために、対象となる宅地を、相続の開始の直前に、事業の用に供されていたもの等に限って、特に相続税の課税価格計算上の優遇措置を認めたものであって、仮に本件特例が事業の開始前の準備行為にも適用されるとすると、準備行為の内容いかんによっては、それが相当の対価を得て継続的に行われるものであるかどうかを判断することが困難となり、適用範囲が不明確になる上、 件特例が事業の開始前の準備行為にも適用されるとすると、準備行為の内容いかんによっては、それが相当の対価を得て継続的に行われるものであるかどうかを判断することが困難となり、適用範囲が不明確になる上、本件特例が濫用されるおそれも生じかねないから、右の適用範囲を安易に拡大することは許されないというべきである。 したがって、事業に供されたか否かについては、課税の公平、迅速の観点から、一義的、明確な基準をもって判断されるべきであり、本件のような賃貸事業にあっては、賃貸借契約の締結をもって、事業に供されたものとするのが相当というべきである。 (二) もっとも、右のように解するとしても、たとえば、相続の開始前に賃貸されていた建物について、たまたま相続の開始の直前に借家人が退去したため空室になったような場合には、事業が一時的に中断されたにすぎないものであり、被相続人等によって営まれた事業が継続しているとみることができるから、本件特例が適用されるというべきである。また、租税特別措置法通達六九条の三-八が規定するように、事業場の移転又は建て替えのため被相続人等の事業の用に供していた建物を取り壊すなどし、これに代わるべき建物の建築中等に相続が開始した場合にも、すでに開始されていた事業がたまたま中断されたにすぎないものであるから、実質的には事業が継続しているとして、本件特例が適用されるというべきである。 これに対し、本件のように、相続の開始の直前において、およそ被相続人等による事業が開始されていない場合においては、相続人に承継されるべき生活基盤及び社会的基盤が未だ形成されていないというべきであるから、右のような場合と同視することはできないといわざるを得ない。 なお、同通達六九条の三-七は、被相続人等の居住の用に供されると認められる建物の建築中に相続が開始した場 されていないというべきであるから、右のような場合と同視することはできないといわざるを得ない。 なお、同通達六九条の三-七は、被相続人等の居住の用に供されると認められる建物の建築中に相続が開始した場合において、当該建物を相続により取得した者が、相続税の申告書の提出期限までに現に居住の用に供しているときは、当該建物の敷地の用に供されている宅地について本件特例が適用される旨を規定しているが、右通達は、居住用宅地の場合には、それがすべての者に共通して必要とされる生活基盤であって、建築中の建物の敷地の用に供されている宅地の場合でも、居住の継続性を確保するという点では、現に居住している建物の敷地の用に供されている場合と同様の必要性が認められることなどから、特に本件特例の適用を認めたものと解されるから、この場合と事業用宅地の場合とを同一に論じることは相当ではないというべきである。 (三) 以上によれば、賃貸事業の準備行為がなされたことをもって事業に供したといえる旨の原告らの主張は、失当であるというべきである。 四以上を前提として、本件相続に係る原告らの相続税を計算する。 1 本件土地の自用地としての価額が六億八四〇七万二九二八円であること及び本件建物の自用家屋としての価額が七三一八万一九〇〇円であることについては、当事者間に争いがない。 そして、本件建物の三階部分は、昭和六三年五月末から、A等の居住の用に供されたことについては当事者間に争いがないから、本件土地のうち右部分の敷地部分は居住用宅地に該当し、その価額は、本件特例に定める減額を行った後の価額となる。 そうすると、本件信託受益権の価額は、被告の主張額と同じ六億七一七六万四三七六円(うち原告Cの取得した部分の価額は、二億六九六二万二三四三円)となる。 2 以上によれば、原告らの課税価格等の明細は、 そうすると、本件信託受益権の価額は、被告の主張額と同じ六億七一七六万四三七六円(うち原告Cの取得した部分の価額は、二億六九六二万二三四三円)となる。 2 以上によれば、原告らの課税価格等の明細は、別紙三別表1「課税価格等の計算明細表」記載のとおりとなり、それぞれの課税価格は、同表(14)欄記載のとおりとなる。そして、原告らが納付すべき税額は、別紙三別表2の計算により、前記別表1(16)欄記載のとおりとなる。 右金額は、いずれも本件各更正と同額であるから、本件各更正は適法であり、これに伴う本件各賦課決定も適法である。 五よって、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。 (裁判官秋山壽延竹田光広森田浩美)別紙二(省略)
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