- 1 - 主文 原判決を破棄する。 被告人Aを懲役6月に処する。 被告人Aに対し、原審における未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 被告人Aに対し、この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 被告人Bは無罪。 理由 本件各控訴の趣意は、被告人Aについて弁護人森博行作成の控訴趣意書の、被告人Bについて弁護人久堀文作成の控訴趣意書の各記載のとおりであり、これらに対する答弁は、検察官玉井秀範作成の答弁補充書記載のとおりである。また、当審(差戻し後)における各当事者の意見は、弁護人両名及び被告人B弁護人片田真志共同作成の「控訴趣意の補充書」及び「検察官意見に対する反論意見書」の各記載と、検察官髙浪昇及び同國井弘樹共同作成の意見書及び同⑵の各記載のとおりである。 第1 事案概要及び審理経過 1 原判決が認定した犯行経緯等及び罪となるべき事実の概要は、次のとおりである(呼称等は、特に記載したもの以外、原判決の表記による。)。 ⑴ 犯行に至る経緯等ア C労働組合D支部は、関西地区の生コンミキサー車運転手らから成る産業別労働組合であり、被告人Aは同支部Eブロック担当執行委員、F(原審分離前の相被告人)は同支部Gブロック担当執行委員、被告人Bは同支部組合員であった。 D支部は、同支部に批判的であった株式会社Hに対し、平成28年8月頃、約1か月間にわたり、同社が生コンを供給していた奈良県内及び京都府内の現場に組合員を派遣するなどの組合活動を行い、これによって同年9月の同社の売上げが激減し、I(同社代表取締役)はJ生コン協同組合理事を辞任した。 イ平成29年(⑵まで同年)6月下旬から7月頃、H社の日雇運転手であったKがD- 2 -支部に加入し、10月16日、被告人両名を含むD支部組合員十数名 締役)はJ生コン協同組合理事を辞任した。 イ平成29年(⑵まで同年)6月下旬から7月頃、H社の日雇運転手であったKがD- 2 -支部に加入し、10月16日、被告人両名を含むD支部組合員十数名が京都府木津川市a町所在のH社事務所(以下「本件事務所」という。)を訪問して、Kの加入及び同支部H分会の結成を伝え、同人の処遇等につき団体交渉開催を要求した。 その後も、被告人らは数度にわたり本件事務所を訪れ、L(同社取締役。Iの妻)やM(同社取締役。IとLの長男)に団体交渉開催やKの就労機会増加等を要求した。また、被告人Bは、Kから就労証明書の作成を断られたことを聞き、11月22日の訪問時、MにKの就労証明書の作成等を求めた。 ウ 11月27日(この項は同日)、被告人らは、午前9時28分頃から数度にわたって本件事務所を訪問し、MにKの就労証明書等について述べ、午後3時5分頃、被告人両名を含むD支部組合員が本件事務所を訪問し、Lに対して、被告人両名が就労証明書の作成・交付(以下、併せて「作成等」という。)を執ように要求した。 Lは、就労証明書がないと保育所に行けなくなるようなことはないと木津川市役所担当者から聞いた旨を述べると、被告人Bがその場で担当課に電話し、年内閉鎖の可能性のある企業でも現状その会社で働いている場合は、就労証明書に押印してもらうよう担当者から聞いた旨を述べ、Lにも電話による確認を求めた。そこで、Lは、電話で担当者と就労証明書について話していたが、午後3時30分頃、高血圧緊急症を発症して救急車を呼ぶように依頼した上で電話を切り、ぐったりとして、ほとんど声を発さなくなるような状態になった。 ⑵ 罪となるべき事実被告人両名は、L(当時58 歳)を脅迫し、H社が日雇運転手のKを雇用している旨の就労証明書の作成等をさせようなどと りとして、ほとんど声を発さなくなるような状態になった。 ⑵ 罪となるべき事実被告人両名は、L(当時58 歳)を脅迫し、H社が日雇運転手のKを雇用している旨の就労証明書の作成等をさせようなどと考え、共謀の上、11月27日午後3時30分頃、本件事務所において、Lが高血圧緊急症により体調不良を呈した後もなお、その状態の同人に対し、前記就労証明書の作成等を執ように求め、さらに、Fと共謀の上、同月29日から12月1日までの間、合計4回にわたり同事務所に押し掛け、Lに対し、前記就労証明書の作成等を執ように求めた上、翌2日以降、同事務所周辺にD支部組合員をたむろさせて同社従業員らの動静を監視させ、同月4日午後3時47分頃から午後4時38分頃までの間、同事務所に押し掛けて、Lに対し、被告人Aが、「何が弁護士や、関係あらへんがな、書いてもらわなあかん」、- 3 -「お前も何や、何ケチつけとんねん、うちの行動に。こらぁ。おいっ」、「ほな解決せんかい」などと怒号しながら、Lに示していた就労証明書を机にたたき付け、Fが、「何をぬかしとんねん、われえ、おい、こらぁ、ほんま。労働者の雇用責任もまともにやらんとやな。団体交渉も持たんと、法律違反ばっかりやりやがって。 こら。こんなもんで何ぬかしとんねん、こら、われ、ほんま」などと怒号して前記就労証明書の作成等を要求し、これに応じなければL及びその親族の身体、自由、財産等に危害を加えかねない気勢を示して怖がらせ、義務のないことを行わせようとしたが、同人がこれに応じず、その目的を遂げなかった。 2 原審の公判前整理手続では、被告人両名のD支部の地位や、被告人両名が行った行為におおむね争いはなく、強要未遂罪の構成要件該当性(被告人両名の行為が同罪の脅迫といえるか、それによりLが義務のないことを強いられたか)と違法 では、被告人両名のD支部の地位や、被告人両名が行った行為におおむね争いはなく、強要未遂罪の構成要件該当性(被告人両名の行為が同罪の脅迫といえるか、それによりLが義務のないことを強いられたか)と違法性(正当行為性)が争点と整理された。 原判決は、原判示の限度で被告人両名の共謀による強要未遂罪の成立を認め、被告人Aを懲役1年(3 年間刑執行猶予)に、被告人Bを懲役8月(3 年間刑執行猶予)にそれぞれ処した。 3 被告人両名は、控訴を申し立て、事実誤認及び法令適用の誤りを主張した。 控訴審(大阪高等裁判所第6 刑事部)は、H社には、平成29年11月28日より後の期間を含め、Kの就労証明書を作成等すべき、少なくとも社会生活上の義務があるとし、同月27日Lが体調不良を呈した以降の被告人両名の訪問・要求行為等につき、一部を除いて強要未遂罪の構成要件に該当するとした原判決の認定・判断は、同罪の解釈適用を誤り、事実を誤認したものと認め、被告人両名について原判決を破棄した上、同年12月4日にFがLに怒号したことに関し、被告人Aに脅迫罪の共同正犯を認定して、被告人Aを罰金30万円に処し、被告人Bを無罪とする判決を言い渡した(令和3 年12 月13 日宣告)。 これに対し、被告人A及び検察官がそれぞれ上告を申し立てた。 上告審(最高裁判所第一小法廷)は、H社は、日雇運転手として雇用していたKに対し、労働契約に付随する義務として、その子の保育所の継続利用のためにKが木津川市に提出する就労証明書を作成等すべき信義則上の義務を負っていたと認め- 4 -られ、同人作成の申立書が担当課に受け付けられた平成29年11月28日以降も、同社が引き続き前記義務を負っていたことに変わりはないとし、前記控訴審判決の説示が、その義務はないと認定した第1審判決が事実を誤認し 作成の申立書が担当課に受け付けられた平成29年11月28日以降も、同社が引き続き前記義務を負っていたことに変わりはないとし、前記控訴審判決の説示が、その義務はないと認定した第1審判決が事実を誤認した旨をいうものと解すれば、同義務に関する同判決の事実認定の不合理性を指摘したものとして、その限度では是認することができるとした。 そして、上告審は、人に義務の履行を求める場合であっても、その手段として脅迫が用いられ、その脅迫が社会通念上受忍すべき限度を超える場合には、強要罪が成立し得るというべきであるから、前記控訴審判決が就労証明書を作成等すべきH社の義務の有無について、第1審判決が事実を誤認したことを指摘しただけで、同判決が前提とするその余の事実関係の認定が不合理であるかどうかを検討しないまま、同判決に、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとした前記控訴審判決は、第1審判決の事実認定が論理則経験則等に照らして不合理であると十分に示したものと評価することができないとして、これを破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡した(令和5 年9 月11 日宣告)。 4 当審は、前記上告審判決による差戻し後の控訴審である。 第2 原判決の判断概要 1 原判決は、「犯行に至る経緯等」として認定した事実に補足した上、脅迫行為の存否、被告人らによる義務なきことの要求の有無、共謀の有無及び正当行為性について順次判断した。その概要は次のとおりである。 2 前提事実について⑴ D支部は、関西一円で活動する産業別労働組合であるが、平成28年8月頃、同支部に批判的で、京都府内のみならず奈良県内でも生コンを販売していたH社に対し、約1か月間にわたって、いわゆるコンプラ活動(軽微な法令違反を殊更に指摘するなどして対象者の作業妨害をする組合活動 、同支部に批判的で、京都府内のみならず奈良県内でも生コンを販売していたH社に対し、約1か月間にわたって、いわゆるコンプラ活動(軽微な法令違反を殊更に指摘するなどして対象者の作業妨害をする組合活動)を行った。 ⑵ 平成29年(以下、特に記載しない場合は同年)6月下旬から7月頃、H社の日雇運転手であったKがD支部に加入して、同社に同支部H分会が結成された。10月16日、被告人両名を含む組合員十数名が本件事務所を訪れて、Kの加入及び分会結成を伝え、同人の処遇等について団体交渉の開催を要求し、同人の雇用等を内容- 5 -とする要求書をIに手渡したが、同人はこれに回答せず、相談した顧問弁護士から団体交渉に応じる必要はないとの見解が示された。また、H社は、11月6日、D支部の行動を証拠として残すため本件事務所に防犯カメラを設置し、同月7日以降、体調不良のIに代わり、LらがD支部組合員と対応することになった。 ⑶ 被告人両名は、共に又は単独で、あるいはD支部組合員らと、11月7日、同月14日、同月17日及び同月20日、それぞれ本件事務所を訪問し、団体交渉の開催等を要求するなどした。また、被告人BとFは、11月22日、本件事務所を訪問して、MやLに就労証明書が必要である旨を述べるなどした。 ⑷ 11月27日(この項は同日)午前9時28分頃から午後2時56分頃までの間、数回にわたり、被告人Bや被告人Aが、共に又は単独で、あるいはFを伴って本件事務所を訪問し、Mに対し、Kに仕事が入っていないこと、就労証明書が必要であること、Lに連絡してほしいこと等を述べた。 そして、午後3時5分頃、被告人両名を含むD支部組合員が本件事務所を訪問し、被告人両名とも、Lに就労証明書の作成等を要求した。これに対し、Lは、就労証明書がなくとも保育所に行けなくなるようなこ 。 そして、午後3時5分頃、被告人両名を含むD支部組合員が本件事務所を訪問し、被告人両名とも、Lに就労証明書の作成等を要求した。これに対し、Lは、就労証明書がなくとも保育所に行けなくなるようなことはないと木津川市役所担当者が述べた旨を告げると、被告人Bは、その場で同市役所担当課に電話し、Lにも同課に電話して確認するよう求めた。そこで、Lは、担当課に電話し、担当者と就労証明書について話していたが、午後3時30分頃、高血圧緊急症を発症して、救急車を呼ぶように依頼した上で電話を切り、ぐったりとして、ほとんど声を発さなくなるなど体調不良を呈した。 被告人両名は、Lが前記状態になった後も約10分間にわたり、同人や周囲の者に対して、うそだなどと繰り返し述べ、何度もMが外に出るよう求めてもこれを無視し、救急車到着後も同様の発言を続けた。Lは、その後、高血圧緊急症により7日間の休業を要する旨診断された。 ⑸ 11月28日、被告人B、Kを含むD支部組合員が本件事務所を訪問し、Mに就労証明書を要求した。また、被告人B及びK夫婦は、木津川市役所こども宝課を訪ね、担当職員から、K作成の申立書でも保育の必要性を証する書類として扱える旨の教示を受けると、Kがその場で申立書を作成、提出し、これを添付する形で手続が進- 6 -められることになった。 ⑹ 被告人B及びFを含むD支部組合員は、11月29日に1回、翌30日に複数回、本件事務所を訪問して、Lらに就労証明書の作成等を要求するなどしたが、被告人らは、K本人作成の申立書が保育の必要性を証する書類として受け付けられたことをLらに告げなかった。 ⑺ 被告人両名及びFは、12月1日、本件事務所を訪問し、Lに団体交渉や就労証明書の作成等を要求し、同月4日に後者について回答するよう求めた。 被告人Bは、12月2 たことをLらに告げなかった。 ⑺ 被告人両名及びFは、12月1日、本件事務所を訪問し、Lに団体交渉や就労証明書の作成等を要求し、同月4日に後者について回答するよう求めた。 被告人Bは、12月2日以降、多数のD支部組合員と共に本件事務所周辺にたむろしてH社従業員の動静を監視した。そして、被告人A及びFは、12月4日午後3時47分頃から午後4時38分頃までの間、本件事務所において、Lに原判示の発言をし、就労証明書の作成等を要求した。 3 脅迫行為の存否について⑴ 10月16日から11月7日までの訪問・要求行為は、特段問題のある行為が行われたとは認められず、単に団体交渉申入れの初期段階にあったにすぎないか、H社が団体交渉を開催しない状況下にあって、その要求の必要性があり、態様も比較的穏当であったことから、脅迫に当たらない。11月14日から同月22日までの訪問・要求行為も、団体交渉の要求を越えて脅迫に至っているとまではいえない。 ⑵ 11月27日の訪問・要求行為のうち、午前9時28分頃以降の5回については、団体交渉の要求等が一定の必要性のある内容であることは否定できず、Lが不在でやむを得ない点もあり、短時間で要求行為の態様も比較的穏やかであったから、脅迫に及んだとは評価できない。 しかし、6回目の訪問の際は、Lらが就労証明書の作成等をするつもりがないと示していたのに、執ようにその作成等を求め、ついに被告人両名の面前でLが体調不良となって、救急車を依頼する事態に至った。被告人両名は、そうしたLの体調不良を認識していたはずであるが、救急車を待っている間や救急活動が開始されてからも、継続して就労証明書の作成等を執ように要求するなどしたことは、同人に対し、満足のいく回答がなければ、その身体自由等に害悪が及ぶような状況においてもなお要求を継続 いる間や救急活動が開始されてからも、継続して就労証明書の作成等を執ように要求するなどしたことは、同人に対し、満足のいく回答がなければ、その身体自由等に害悪が及ぶような状況においてもなお要求を継続する旨告知することにほかならないのであり、社会的に相当な- 7 -態様とはいえず、害悪の告知に当たる。 したがって、少なくともLが体調不良になった時点より後の要求行為は、強要未遂罪の実行行為である脅迫に該当すると認められる。 ⑶ 被告人らの訪問・要求行為は、11月27日より後も12月4日まで続き、この間、H社側の都合を配慮した形跡はなく、ほぼ連日にわたり訪問が繰り返され、本件事務所に約1時間滞在したものもあって、執ようというほかない。H社側に就労証明書の作成等の義務がなく、Kの保育所問題は11月28日に本人作成の申立書が受け付けられて一応の解決をみながら、これを告げずに、同証明書について回答が得られなければ、毎日寄せてもらう、毎日来られるのが嫌であれば、考えを出すよう求める旨の発言をしており、D支部側が満足する回答をしない限り、同様の訪問・要求行為が続くことが発言や態度で示されたものといえる。12月2日以降の監視行為も、不必要に大人数で、本件事務所付近にたむろして社員等の行動を見張るというもので、H社社員らに多大な不安感や恐怖感を抱かせ、行動の自由を不当に制約するものといえる。 また、H社が社員10名、日雇運転手十数名程度の事業所であったのに対し、D支部は、同社の業務エリアだけでも100名を超える組合員が在籍しており、人的規模が大きく組織力も高かった。 Lが体調不良で救急搬送されるまでの経緯に加え、その後の被告人らの訪問・要求行為の態様、H社とD支部の人的規模及び組織力の較差といった事情にも鑑みると、11月27日より後の本件事務所への かった。 Lが体調不良で救急搬送されるまでの経緯に加え、その後の被告人らの訪問・要求行為の態様、H社とD支部の人的規模及び組織力の較差といった事情にも鑑みると、11月27日より後の本件事務所への訪問・要求行為、監視行為は、その発言内容や態様等に特に問題がない同月28日及び30日の1回目の各訪問を除き、団体交渉等の要求としても社会的相当性を逸脱したものと認められ、身体等に対する直接的な加害を告知したわけではないことを考慮しても、Lに対し、継続的な訪問・要求行為、監視行為をやめてほしければ就労証明書の作成等をするよう、黙示的に身体等に対する危害を加えかねない気勢を示して害悪を告知したといえ、強要未遂罪の実行行為である脅迫に該当すると認められる。 4 義務なきことの要求の有無について⑴ 被告人らが、Lに対し、Kの就労証明書の作成等を要求していたことは明らかであ- 8 -るが、同人の正社員化や一時金の支払等を要求したとはいえない。 被告人らは、11月27日以降、Lらに就労証明書の作成等を執ように要求するようになり、回答期限とされた12月4日の二日前になって監視行為が開始されたこと、D支部組合員は10名に上り、H社の偽装閉鎖確認のためには人数が多過ぎることや、一定時間本件事務所付近にとどまっていたと考えられることからすれば、監視行為は、同証明書を含む同社との間で問題となっていた事項について自己の要求を通すため、圧力を掛ける目的で行われたと認めるのが相当である。 ⑵ 子ども・子育て支援法4条は、事業主一般に対して具体的な義務を定めた規定ではないと解するのが相当であり、同法及び同法施行規則は、保育の必要性について特定の書類を要求しておらず、就労証明書以外の方法による客観的証明は可能であるから、事業主に同証明書を作成・提出する義務がないとし と解するのが相当であり、同法及び同法施行規則は、保育の必要性について特定の書類を要求しておらず、就労証明書以外の方法による客観的証明は可能であるから、事業主に同証明書を作成・提出する義務がないとしても、同法の趣旨に反しない。また、労働組合法7条1号から直ちに就労証明書を作成等すべき義務が導かれるものでもない。 H社は、近く廃業を見込んでおり、木津川市ではK作成の申立書を受け付けたことから、本件における就労証明書の必要性が高かったとはいえない。H社が平成25年から平成28年まで就労証明書に相当する書面の提出等をしていたことを踏まえても、平成29年分の同証明書の作成等が当然に期待されるものではなく、本件事案の下では、同社に労働契約法3条4項を根拠とする信義則上の義務があったとはいえない。 ⑶ H社及びその役員に就労証明書の作成等をすべき法令上、信義則上の義務があったとはいえない。 5 共謀関係について被告人両名は、LがD支部組合員らの面前で体調不良に陥った11月27日に本件事務所を訪問し、救急車を依頼した同人にこもごも脅迫行為に及んだ犯行態様から、同人に対する強要について共謀が成立していたことは明らかであり、この共謀関係は同月29日から12月4日までの訪問の際の行為や監視行為も含めて継続していたと認められる。 11月27日の強要について、Fと被告人両名の間に共謀があったとは認められ- 9 -ないが、同月29日以降の強要において、Fは、H社を訪問して被告人両名と行動を共にし、Lに対する具体的な脅迫行為にも及んだから、この範囲でFと被告人両名の共謀が認められる。 12月4日の被告人A及びFの訪問及び要求行為について、それ以前の訪問等の延長線上にあったといえること、H社側はD支部にとって誠実な対応をしてきたとはいえない状況にあり 両名の共謀が認められる。 12月4日の被告人A及びFの訪問及び要求行為について、それ以前の訪問等の延長線上にあったといえること、H社側はD支部にとって誠実な対応をしてきたとはいえない状況にあり、同日も同様の対応をされるとは、本件事務所外にいた被告人Bにも十分予測できることから、同日の強要行為についても、被告人Bに被告人A及びFとの共謀が認められる。 6 正当行為性について就労証明書はKの就労に関連するものであるから、被告人らを含むD支部組合員がした要求行為の目的自体は一応正当といえる。 しかし、就労証明書は、Kの子の保育の必要性に関する書面であり、D支部にとっても、H社にKの同証明書を作成等させる必要性があるといえるが、同人作成の申立書が受け付けられたことから、それ以降は同証明書の必要性の程度は低かったと認められる。本件の態様は、Lの心身に大きな負担を与え、健康を害し得ることは明らかであり、同人の心身に関する利益を軽視するものといえるが、D支部がKの就労証明書を取得する必要性は低く、被告人両名が行った一連の訪問・要求行為等は均衡を欠くものといえ、Lが体調不良を呈した後については社会的相当性を欠くものといわざるを得ない。 したがって、被告人両名らによる本件犯行が、正当行為として違法性が阻却される余地はない(公訴事実では、N(D支部執行委員長)及びO(同副執行委員長)も共同正犯とされ、また、Kを正社員としてH社に雇用させようとしたこと、10 月 16 日から12 月1 日までの間、本件事務所に多数回にわたって押し掛け、Lらに対し、Kの正社員としての雇用及び就労証明書の作成等を執ように求めたことが強要未遂の目的及び実行行為として記載されていたが、原判決は、証拠上、N及びOとの共謀があったとは認められないとし、その余の部分は原判示の限 員としての雇用及び就労証明書の作成等を執ように求めたことが強要未遂の目的及び実行行為として記載されていたが、原判決は、証拠上、N及びOとの共謀があったとは認められないとし、その余の部分は原判示の限度で認定した。なお、原判決は、公訴事実のとおり12 月4 日の被告人A及びFの各言動を認定した。)。 - 10 -第3 控訴趣意論旨は事実誤認及び法令適用の誤りの主張であり、その概要は次のとおりである。 1 「犯行に至る経緯」として、H社に対するコンプラ活動の影響により同社の売上げが激減したなどと認定した原判決には、同活動の解釈、売上げ減少の原因とした点及び正当行為を否定する事情とした点において事実誤認がある。 2 11月27日の訪問・要求行為につき、Lの体調不良は被告人らの行為が原因ではなく、被告人らには、Lが体調不良になった認識がなかったし、その行為は脅迫に該当しないのに、同人が体調不良になった時点以降の行為を強要未遂の実行行為である脅迫に当たるとし、その故意を認めた原判決には事実誤認がある。 3 11月27日以降の被告人らの訪問・要求行為は、いずれも正当な目的によるものであり、社会的相当性を逸脱した態様ではなく、12月2日以降の監視行為もH社の偽装閉鎖の確認が目的であり、いずれも他人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知はなかったし、H社の人的規模や組織力がD支部に劣ることもなかったのに、被告人らによる11月27日以降の訪問等の行為が脅迫に当たると認めた原判決には事実誤認がある。 4 被告人Aの11月27日の行為と12月4日の被告人A及びFの行為がいずれも脅迫に該当するとしても、被告人Bは、前者につき共同実行の意思がなく、後者ではその場にいなかったこと等からすれば、各行為に被告人Bの共謀を認めた原判決には事実誤認がある(被告人Bの の行為がいずれも脅迫に該当するとしても、被告人Bは、前者につき共同実行の意思がなく、後者ではその場にいなかったこと等からすれば、各行為に被告人Bの共謀を認めた原判決には事実誤認がある(被告人Bのみの主張)。 5 H社には就労証明書の作成等をすべき法令上ないし信義則上の義務があり、また、同社に対する被告人らの訪問・要求行為は労働組合の活動として正当なものであったのに、同社及びその役員には同証明書の作成等の義務があったとはいえないとして、被告人らの要求行為の社会的相当性を否定し、正当行為として違法性が阻却される余地はないとした原判決の判断には、強要罪に関する刑法及び関係する法令の解釈・適用を誤った違法がある。 第4 当裁判所の判断原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せ検討すると、H社には就労証明書の作成等の義務があり、また、12月4日に被告人AとFがLに対して- 11 -行った脅迫行為に限り、強要未遂罪の成立を肯定すべきであるのに、原判示のとおり被告人両名に同罪の成立を認めた原判決は、論理則経験則等に反する不合理な認定をし、法令の解釈・適用を誤ったものといえ、是認することができない。そして、原判決は、被告人Aにつき、脅迫行為を広く認めた認定事実を基に量刑を定め、また、被告人Bにつき、被告人A及びFとの共謀を認めて有罪としたのであり、全部破棄を免れない。その理由は次のとおりである。 (犯行に至る経緯に関する事実誤認の主張について)所論は、①原判決は、D支部が行ったコンプラ活動を「軽微な法令違反を殊更に指摘するなどして対象者の作業妨害をする組合活動」と認めたが、その根拠はなく、先入観に基づいている、②H社の売上げ減少がD支部のコンプラ活動によると認めるべき証拠はない、③本件は、D支部のコンプラ活動終了から1年以上経過 の作業妨害をする組合活動」と認めたが、その根拠はなく、先入観に基づいている、②H社の売上げ減少がD支部のコンプラ活動によると認めるべき証拠はない、③本件は、D支部のコンプラ活動終了から1年以上経過した後の、全く趣旨・目的が異なる労働組合活動に関する事案であり、両者には関連性がないとし、犯行に至る経緯の中で原判決が認定したコンプラ活動に関する部分には重大な事実誤認がある旨主張する。 関係証拠によれば、D支部は、コンプライアンス啓もう活動(コンプラ活動)として、組合員が生コン業者の出入りする建設現場等に赴き、車両の点検整備の不備、現場の安全確認不足等の業者全般のささいな法令違反でも指摘し、糾弾するなどの行為を行っていたこと、生コンは、プラントにおける精製・積込みから建設現場での打設まで短時間で完了しなければならないが、コンプラ活動を受けると、現場ではその対応に追われて作業が中断するなどの事態が生じ、結果として生コン業者は大きな影響を被るため、同活動は、事実上、生コン業者に対する圧力として機能していたこと、D支部側もコンプラ活動の実効性を認識し、組合活動の一環として行っていたことが認められ、H社が約1か月にわたり、D支部によるコンプラ活動の対象となっていたことは、原判決認定のとおりである。原判決は、記録に表れた前記事実や関係証拠から、コンプラ活動の内容やH社の売上げの減少について認めたものと解され、不合理な点はない。 また、H社がD支部のコンプラ活動の対象となったことと本件事案は、その時期、活動等の趣旨・目的が異なり、Lの原審証言にも同活動に関するものは表れておら- 12 -ず、被告人らの強要未遂罪の成否との関連性は低い。もっとも、本件に至る背景事情には当たるから、関連性が全く否定されるわけではなく、原判決が、これを本件の正当行為性の るものは表れておら- 12 -ず、被告人らの強要未遂罪の成否との関連性は低い。もっとも、本件に至る背景事情には当たるから、関連性が全く否定されるわけではなく、原判決が、これを本件の正当行為性の判断の中で示したことに誤りがあるとは認められない。 所論はいずれも採用することができない。 (罪となるべき事実に関する事実誤認及び法令適用の誤りの主張について) 1 就労証明書作成等の義務の点について本件の判断の前提として、H社に就労証明書作成等の義務があったかどうかを検討する。 関係証拠によれば、Kは、遅くとも平成24年1月頃からH社の日雇運転手として、主にミキサー車の運転業務に従事し、同月頃から平成29年11月までの間は同社以外の就労がなかったこと、Kは、平成25年6月に生まれた子を、保護者の就労を理由として木津川市の保育園に預けており、同年以降平成28年まで、毎年10月ないし11月頃、保育園の継続利用申請のため、保育の必要性の事由を証明する書類として、H社が作成等をした就労証明書を同市に提出していたことが認められる。また、Kが、11月28日、木津川市こども宝課(正式名称は「木津川市健康福祉部こども宝課」。以下、単に「担当課」という。)に、前記事由の証明書類として自ら作成した申立書を提出し、同課がこれを受け付けたことは、原判決認定のとおりである。 前記事実によれば、H社は、日雇運転手として雇用していたKに対し、労働契約に付随する義務として、その子の保育園の継続利用のため、同人が令和元年法律第7号による改正前の子ども・子育て支援法22条に基づいて木津川市に提出する就労証明書を作成等すべき信義則上の義務を負っていたと認められ、同人が作成した申立書が担当課に受け付けられた11月28日以降も、同社が引き続き就労証明書を作成等すべき義務を負 いて木津川市に提出する就労証明書を作成等すべき信義則上の義務を負っていたと認められ、同人が作成した申立書が担当課に受け付けられた11月28日以降も、同社が引き続き就労証明書を作成等すべき義務を負っていたことに変わりはないというべきである。 そうすると、H社及びその役員に就労証明書の作成等をすべき法令上、信義則上の義務があったとはいえないとした原判決の認定・判断は、記録に表れた前記事実を誤認した不合理なものというべきであり、所論について検討するまでもなく、是認することができない(なお、検察官は、当審において、H社に就労証明書の作成- 13 -等の義務がないとする主張を撤回した。)。 2 11月27日の訪問・要求行為に関する主張について⑴ 所論は、次の点を挙げ、11月27日(⑶イまで、時刻のみの記載は同日)の訪問・要求行為のうち、Lが体調不良になった時点より後の要求行為を強要未遂罪の実行行為である脅迫に該当すると認めた原判決の事実誤認を主張する。 ① Lは、電話をかけた木津川市役所担当者から就労証明書の発行が必要と言われて対応に窮したため、救急車を呼ぶよう言ったことが容易に推認され、その後の同人の様子からは体調不良に陥っていたか明らかといえない状態にあったのに、突発的に体調不良に陥ったことが明らかな容態とした原判決の認定は誤っている。 ② 午後3時5分頃の訪問は、H社がKの就労証明書の作成等を拒否した後、被告人両名がLに面談した最初の機会であり、同証明書の提出期限が迫っていて、その作成等を受ける必要性が高かったし、被告人両名の行為によってLの身体、自由等に害悪が及ぶ状況にはなく、その言動も同人を畏怖させる程度に至らなかったから、被告人両名がLに同証明書の作成等を要求した行為は脅迫には当たらない。 ③ 被告人両名の行為が客観的には の身体、自由等に害悪が及ぶ状況にはなく、その言動も同人を畏怖させる程度に至らなかったから、被告人両名がLに同証明書の作成等を要求した行為は脅迫には当たらない。 ③ 被告人両名の行為が客観的には強要未遂罪の実行行為に当たるとしても、被告人両名は、体調不良ではないのにLが救急車を呼ぶよう依頼したと認識していたから、故意がない。 ⑵ 所論①③について所論①③を併せて検討する。 11月27日の被告人らの訪問・要求行為等の状況は、原判決認定のとおりである。そして、Lが電話中に体調不良を呈した以降、Mが救急車の派遣を要請し、臨場した救急隊員によりLが搬送されるまでの出来事は、おおむね被告人両名の面前で生じたものであったから、その事実認識に欠ける点はなく、Lの状態を演技と思った旨の被告人Aの原審供述を踏まえても、Lの体調不良の認識が直ちに排斥されるわけではない。 Lが後に高血圧緊急症と診断されたことも併せれば、被告人両名は、Lの体調不良を外形的に認識したはずであり、救急車を依頼した際の同人が、少なくとも突発- 14 -的に体調不良に陥っていることが明らかな容態であったとした原判決の判断に不合理な点はない。所論①③は採用することができない。 ⑶ 所論②についてア原判決は、6回目の訪問・要求行為に関し、Lらは就労証明書の作成等をするつもりがないと示しているのに、被告人らが、同証明書に押印しなければ退去しない旨の発言等の行為に及ぶなど執ようにその作成等を求め、ついにLが体調不良となる事態に至ったとした一方、同人が体調不良となるまでの被告人らの言動には、相当性を欠く部分も多いが、脅迫行為とは認められないとした。この説示からすると、原判決は、Lが突発的な体調不良に陥り、それ以前と異なる状況になった点を重視し、就労証明書の作成等を要求し続け 動には、相当性を欠く部分も多いが、脅迫行為とは認められないとした。この説示からすると、原判決は、Lが突発的な体調不良に陥り、それ以前と異なる状況になった点を重視し、就労証明書の作成等を要求し続けた被告人らの言動(要求行為)が社会的相当性を欠き、Lの身体等に対する害悪の告知と同視されるに至ったと判断したものと解される。 イそこで、被告人両名の6回目の訪問の際の言動等を改めて検討する。 Lが体調不良を呈した時点より前の状況(㋐)は、原判決認定のとおりである。 それ以降の状況(㋑)を関係証拠により補足すると、午後3時30分頃、Lが電話を切った後、Mと主に被告人Aの間でやり取りがあり、午後3時31分頃、Mが救急車要請の電話をかけたこと(原判決が認定した被告人両名の発言はこの電話の前後のもので、救急隊員到着までにMと主に被告人Aの間で交わされたやり取りの一部である。)、午後3時36分頃、被告人Aは、本件事務所をごく短時間で出入りした後、外に出たが、午後3時39分頃に到着した救急隊員に続いて同所内に入ったこと、被告人Aが外に出ていた間(約3 分)は、被告人BがMとやり取りしていたこと(被告人Bは、「誰か一人病院行ったらなあかんで、弟は」、「ほな、息子さん代わりに話聞いてや」などと言い、Mが「無理ですわ、今、母親こんな状況で」、「この状況分かってください」と言うと、被告人Bは「いや、こっちもあかんてそんなん、ずっと待ってんねもん」、「分かります、分かります。ほな、こちらの状況分かってませんの」と言ったが、それ以上の要求はしなかった。)、救急隊員がLやMに状態等を確認するなどしていた間、被告人Aは、「嘘や嘘」、「書いてもらうまで帰られへん、今日は」などと言い、Mから、一回出てほしい、今返事はで- 15 -きない、状況を見てほしい旨を言われると、 に状態等を確認するなどしていた間、被告人Aは、「嘘や嘘」、「書いてもらうまで帰られへん、今日は」などと言い、Mから、一回出てほしい、今返事はで- 15 -きない、状況を見てほしい旨を言われると、「だから書いてくれたら出る」、「書いてもうたら出るて」などと言いつつ、午後3時41分頃、被告人Bと共に本件事務所を出て、午後3時42分頃、救急隊員がLを同所から運び出したことが認められる。 ウ前記の㋐㋑の各状況を対比すると、㋐では、被告人BやLが木津川市役所担当者と電話で話していた部分を含むが、被告人両名とLが20分以上にわたって就労証明書の作成等を巡るやり取りを続けていたのに対し、㋑では、被告人AがLの様子を偽りのものと決め付け、被告人両名とも就労証明書の作成等を求め続けていて、執ようとみることはできるが、大声を上げたり威圧的な態度を取ったりした様子は見受けられず、㋐と比較しても、その言動に特段の変化が生じたとはいえない。また、㋑における被告人両名の言動に、Mによる救急車の要請や臨場した救急隊員の活動を妨げたようなものはなく、就労証明書の作成等を要求した言動も、実質的には数分間程度にとどまり、その大半はLの代わりに応対したMに向けられていて、最後は被告人両名とも本件事務所を退出している。 そうすると、被告人両名の言動は、個々の表現や態度等に違いはあっても、Lらに就労証明書の作成等を要求していた点で連続しており、同人が体調不良を呈した時を境としても質的に変化したとみ得る事情はなく、㋑における被告人両名の言動は、Lや同人の体調を心配するMへの配慮を欠いた面があったとはいえ、Lの身体等に対する害悪の告知と同視されるものとも認められない。 しかるに、原判決は、6回目の訪問・要求行為のうち、20分以上にわたる被告人両名の言動が脅迫行為に当たらな 欠いた面があったとはいえ、Lの身体等に対する害悪の告知と同視されるものとも認められない。 しかるに、原判決は、6回目の訪問・要求行為のうち、20分以上にわたる被告人両名の言動が脅迫行為に当たらないとする一方、Lが体調不良を呈した時以降の被告人両名の言動につき、前記㋐と記録に表れていた㋑の各状況等を併せてみることなく分断し、㋑に表れた言動に限り社会的に相当な態様とはいえないとして、相手方を畏怖させるに足りる害悪の告知に当たると認めたのであり、事実関係を適切に評価しなかった結果、不合理な認定に至ったというべきである。 エなお、原判決は、11月27日の当初5回の訪問・要求行為に関し、Kの就労証明書を求めた点を含む被告人らの要求行為の内容に一定の必要性があることは否定できないとしたが、H社が同証明書を作成等すべき義務の有無に直接言及せず、被告- 16 -人両名の6回目の要求行為の一部を脅迫に当たると認めた説示では、その必要性について触れていない。 他方、原判決は、正当行為性に関する説示において、K本人作成の申立書が木津川市役所に受け付けられた11月28日以降は、就労証明書の作成等の必要性の程度は低かったと認めた上、被告人らを含むD支部組合員がした訪問・要求行為等の態様は、Lの心身に関する利益を軽視するものであるのに対し、同支部がKの同証明書を取得する必要性は低いとし、これと比較すると、被告人両名が行った一連の訪問・要求行為等は均衡を欠き、特にLが体調不良を呈した後の不均衡は著しく、Kの施設利用申請の受理前日の時点であることを踏まえても、ここでの要求行為の態様は社会的相当性を欠くといわざるを得ないとした。この説示からすれば、原判決は、H社に就労証明書の作成等の義務がないとした判断を前提に、同証明書取得の必要性を更に低くみた上で、D支部側 要求行為の態様は社会的相当性を欠くといわざるを得ないとした。この説示からすれば、原判決は、H社に就労証明書の作成等の義務がないとした判断を前提に、同証明書取得の必要性を更に低くみた上で、D支部側が同社に同証明書の作成等を要求した行為(これにより同証明書を得る利益)と、体調不良を呈した以降のLの心身に関する利益を比較し、両者の不均衡が著しいとして被告人両名の言動(要求行為の態様)は社会的相当性を欠くと判断したものと解される。 しかし、H社に就労証明書の作成等をすべき信義則上の義務があり、K作成の申立書が担当課に受け付けられた11月28日以降も同社がその義務を負っていたことは、前記1のとおりである。また、関係証拠によれば、Kの書類提出期限は11月29日であったと認められるから、同月27日の時点において就労証明書を取得する必要性は相応に高かったといえる。そうすると、この点に関する原判決の事実誤認は、D支部側による就労証明書取得の必要性の程度の判断に影響し、ひいては、被告人両名の言動が社会的相当性を欠くとして、強要未遂罪の実行行為である脅迫に該当するとした認定・判断にも及んでいたと考えられる。 オ以上のとおり、Lが体調不良になった時点以降の被告人両名の要求行為につき、強要未遂罪の実行行為である脅迫に当たるとした原判決は、H社に就労証明書の作成等の義務がないと事実を誤認した上で、その必要性の評価を誤り、前記時点の前後を通じて行われた被告人両名の言動を十分検討しないまま、一部に限り社会的相当性を欠くとした不合理な認定・判断をしたものといえ、是認することができない。 - 17 -所論②はこの趣旨をいうものとして理由がある。 3 11月28日以降の訪問・要求行為等に関する主張について⑴ 所論は、被告人らが11月28日以降も本件事務所の訪問を余 とができない。 - 17 -所論②はこの趣旨をいうものとして理由がある。 3 11月28日以降の訪問・要求行為等に関する主張について⑴ 所論は、被告人らが11月28日以降も本件事務所の訪問を余儀なくされたのは、日々勃発する様々な問題への対応の必要からで、執ようとの評価は当たらず、訪問目的は正当であり、要求行為の態様は社会的相当性を逸脱しないとして、次の諸点を挙げ、原判決の認定・判断を論難する。 ① 11月29日の訪問は、その前日に被告人BがMにした約束に基づき、就労証明書を受け取るためのものであり、Lの体調を確認し、約15分間、同証明書の作成意思の有無を確かめた程度にすぎなかった。 ② 11月30日の訪問のうち、1回目は、Kの仕事の確認のためのもので正当な理由があり、2回目は、当日夕方までKをH社で待機させる話がまとまった後、同社にパトカーが来たため、何があったか確認するためのもので、何かを要求したわけではなかった。そして、3回目は、H社に就労証明書の作成意思があるか再度確認するための訪問であり、約1時間に及んだのは、D支部が発送した団体交渉を求める内容証明郵便をH社が受領しなかったことによるもので、同社側に原因があったし、その際、Mが同支部組合員らのため一時外出し、飲物を持って戻り交付するなどした点からみても、社会的相当性に欠ける点はなかった。 ③ 12月1日は、11月末日の廃業を宣言したH社の現況を尋ね、長らく開催されていなかった団体交渉を求めるための訪問であり、執ようなものではなかった。 ④ 12月2日以降の監視行為は、被告人両名の脅迫に当たらない。 すなわち、㋐D支部組合員の監視行為は10月16日から行われており、H社が就労証明書作成等の回答期限とした12月4日の2日前から始まったと認めた原判決は誤っているし、㋑平成3 の脅迫に当たらない。 すなわち、㋐D支部組合員の監視行為は10月16日から行われており、H社が就労証明書作成等の回答期限とした12月4日の2日前から始まったと認めた原判決は誤っているし、㋑平成30年5月頃まで監視行為が続けられたのは、H社の閉鎖が偽装か否かを確認するためであり、就労証明書の発行を受けるなどの要求を通す圧力を掛ける目的であれば、12月5日以降も続ける必要はなかった。 ㋒12月2日に大勢が集まったのも、D支部組合員には、手が空いていれば組合活動に参加する慣習・慣行があったこと、同日は土曜日で、仕事休みの組合員が多かったことによるものであり、被告人両名の指示ではなかった。 - 18 -⑤ 12月4日の訪問は、Lが就労証明書と団体交渉の二つの問題の返事をすると合意した上で設定されたものであるし、被告人A及びFの同日の発言は、Lが、弁護士に依頼としたと言いながら一向にその名を明らかにしなかったこと、H社従業員がD支部組合員の様子を盗撮しようとしたのに謝罪せず、同社工場長が組合側もビデオを持っていたと指摘したこと、約束どおりの時間に来たのに警察を呼ばれたことから、憤りを感じたために発せられたものであり、一連の会話の流れをみても就労証明書の発行に向けた発言ではなかった。 そして、ほぼ連日の訪問となったのは、就労証明書に対する態度を明らかにしなかったことや、D支部からの内容証明郵便を受領せず、団体交渉を一向に開催しなかったというH社側の不誠実な対応及び不当労働行為に起因しているのに、各日の訪問の目的や内容を一切考慮せず、単に訪問の頻度を捉えて執ようとした原判決の評価は誤っている。 ⑥ 労働組合である以上、ある程度の人的規模があり組織力が高いことは当然といえ、労働組合活動であったことは脅迫行為を否定する方向で考慮すべき事情である。 て執ようとした原判決の評価は誤っている。 ⑥ 労働組合である以上、ある程度の人的規模があり組織力が高いことは当然といえ、労働組合活動であったことは脅迫行為を否定する方向で考慮すべき事情である。また、D支部側で本件事務所に出入りして交渉した者は、被告人両名とFの3名のみであり、人的規模はH社と対等か、むしろ同支部側の方が少ない状態であったし、同社は、同支部に対抗するため、顧問弁護士や社会保険労務士等と連携、相談してアドバイスを受けていた。 したがって、D支部とH社の人的規模・組織力の較差をもって、被告人両名の行為が社会的相当性を逸脱したとする一事情とした原判決の判断は誤っている。 ⑵ 所論を検討する前提として、11月28日以降の事実関係を確認する。 11月28日から12月3日までの訪問・要求行為等の概況について、関係証拠により原判決の認定を補足すると、㋐ 11月28日午後3時4分頃、被告人BとKほか1名が本件事務所を訪れ、不在であったLに代わり応対したMに、就労証明書の作成等やKへの仕事の提供等を要求し、翌日書類をもらいに来るなどと告げて、午後3時51分頃退出したこと、㋑ 11月29日午後1時53分頃、被告人BとFほか1名が本件事務所を訪れ、- 19 -接客等をしていたLに代わり、当初はMが主に対応したこと、被告人BらはLにKの就労を求め、午後2時20分頃、被告人Bが、仕事の件は翌日午前中に聞きに来る旨を告げた後、就労証明書の作成等を求め、Lが市役所職員から聞いた内容を話すと、不誠実な対応だと非難したこと(「そういう不誠実な対応されるの、会社は」、「そういうことですやんか。昨日お兄さん(Mの意味)にもこの話したんやけど。だから毎日毎日寄せてもらわなだめなんです。同んなじことの繰り返しですやん。答え出ないんですよ、明日来ても るの、会社は」、「そういうことですやんか。昨日お兄さん(Mの意味)にもこの話したんやけど。だから毎日毎日寄せてもらわなだめなんです。同んなじことの繰り返しですやん。答え出ないんですよ、明日来ても、明後日来ても。お兄さん俺も昨日言うたよな.この紙切れ1 枚で、なんでこんだけ毎日毎日来て、お母さん倒れるまで話せなあかんのやって。こっちの気持ちもくんでくださいな」などと告げた。)、その後も就労証明書の作成等を求める被告人B及びFと、明確な回答を示さないLの間で応酬が続き、最後は、被告人Bが明日2時に来る旨を言って、午後2時36分頃、本件事務所を出たこと、㋒ 11月30日(木曜日)の3回の訪問・要求行為のうち、1回目(午前7 時50分頃から午前8 時10 分頃まで)は、Kの仕事に関する要求等が大半を占め、Fが就労証明書について述べた部分は短時間にとどまり(「それ(在籍証明)はもう一回言うといてくださいよ」、「押さへんっていうこと自体が僕らからしたら、もう、不当労働行為やいう部分で、組合否認することになるから」と述べたほか、「そこに対しては、だから今現状、まあ、勤めてるんやからそれはもう押すようにしてください。僕らも感情的になりますよ、そこは、組織としてね」と告げた。)、2回目(午前9 時37 分頃から午前10 時5 分頃まで)は、仕事の有無や日当の支払等に関するやり取りに終始し、就労証明書については途中でFが一言告げた程度であり(「だから、今日はもう帰って下さい。とりあえず私もね昨日(L)」、「僕らももう引き上げます。だから在籍証明の件はきちん(F)」、「もう一旦連れて帰ってとりあえず出ていってくださいよ(L)」の部分のみ)、制服警察官2名が本件事務所内に入った後(午前10 時頃)は、賃金の支払等の若干のやり取りで終わったこと(被告人B F)」、「もう一旦連れて帰ってとりあえず出ていってくださいよ(L)」の部分のみ)、制服警察官2名が本件事務所内に入った後(午前10 時頃)は、賃金の支払等の若干のやり取りで終わったこと(被告人Bが同所を出たのは午前10 時5 分頃)、他方、3回目(午後1 時30 分頃から午後2 時30 分頃まで)では、Fが「在籍証明の話や。これはもう、何が何でも書いてもらいたい」などと言い、D支部がH社に- 20 -送った内容証明郵便の授受に関する十数分のやり取りがあった以降は、ほぼ就労証明書の作成等を巡るものとなり(Fは「毎日来られるのが嫌やったら、ちゃんと考え出してくださいよ」、「連絡はしてくれはったらええんやけども、出す前提やないと、僕らは引けません」などと、Lは「市役所に言うたら、いや、いいですよって言ったはりましたよ」、「予定もないのに書いたら、うちが不正ですやんか、今後、仕事、会社ないのに」などとそれぞれ告げた。)、途中、Lが週明けに返事をする旨を述べて(「だから、ちょっと、週末に連絡しますって」、「来週、週明けには、そのことについて考えて、相談して返事しますって言うてるんやから」等)、同証明書の作成等を確約する趣旨かどうかなどの応酬が続いたが、同人は明確な答えを示さなかったこと、㋓ 12月1日(金曜日)の訪問(午後2 時7 分頃から48 分頃まで)において、被告人らは、主に団体交渉の開催やH社の現状の説明を求めると、Lは明確な答えをせず、月曜日(12 月4 日)に返事をする旨を言い、その後のやり取りの中で、Fが回答いかんでは重大な決意をもって臨む旨を言ったが(Fが、人から聞いた話は変わることがあるなどと言った最後に「せやけどこれ月曜日の回答如何では、ほんまにうちも重大な決意持って臨みますよ。これだけもう1 回言うときまっせ」と言 って臨む旨を言ったが(Fが、人から聞いた話は変わることがあるなどと言った最後に「せやけどこれ月曜日の回答如何では、ほんまにうちも重大な決意持って臨みますよ。これだけもう1 回言うときまっせ」と言うと、Lが「もういわんとくわ。もういいわ」などと言い、「それは思うておいて下さいよ(F)」、「私も言いたいことあるけど(L)」、「だから、交渉の場か懇談の場もってもらったらそこでゆうておくでいいやないですか。そこは対等な場やねんから(F)」と続いた。)、就労証明書の件に関する直接的なやり取りはなく、月曜日に回答するよう求めた程度であったこと(Fは「月曜日に在籍証明の件と、話し合いはもてんのか。どうなんか。これをちゃんと回答して下さいよ」などと言い、被告人Aは「ほなな、この2 点は言うたからね。債権あるから。わけのわからん整理は止めてくれ。聞くだけ聞いて下さい。ほんで、あの保育所の件。月曜日来るから。勝手になんしかやらんといて。もう話しせんでもいいわ。最低限それは言う」などと言った。)、㋔ 12月2日(土曜日)、被告人Bを含むD支部組合員8名程度が、H社出入口前の道路向い側に座るなどして車両の出入り等を監視し、翌3日も同様の監視が- 21 -行われたこと、以上の事実が認められる。 また、12月4日(月曜日)の状況について、原判決はごく簡単な認定にとどまるが(前記第2 の2⑺の程度)、関係証拠によれば、概要次のとおり認められる。 ㋕午後3時47分頃、被告人A及びFが本件事務所に入ると、Lは、カウンター越しに出入口の方を向いて同人らに応対し、弁護士に全て任せた旨を言い、被告人Aらは、書類(就労証明書)の件である旨を告げた(Lが「ほんで、結果的には、うちは弁護士の先生にお任せしたので」と言うと、被告人Aが「いや、書類だけや」と、Fが「おう 士に全て任せた旨を言い、被告人Aらは、書類(就労証明書)の件である旨を告げた(Lが「ほんで、結果的には、うちは弁護士の先生にお任せしたので」と言うと、被告人Aが「いや、書類だけや」と、Fが「おう」と言い、その後、「今日はこの件やろ(被告人A)」、「今日は、この件や(F)」などと言った。)。その際、Fが、本件事務所内にいた従業員にスマートフォンを消すよう大声で言い(「そのスマホちょ消してえな、お兄さん」、「おい、おいっ。聞いてんのか、坊主、おい、それ消せって、消せ、おいっ。確認すんぞほれやったら」)、奥に入ろうとしたが、Lがその前で制止した。そして、Lは、弁護士に全て話しているので、弁護士から連絡を入れてもらう旨を言うと、被告人AとFは、従業員が盗撮したとして謝罪するよう言い、また、被告人Aが、懲戒請求するとして、弁護士の氏名を尋ねたり、弁護士に電話するよう求めたりし、Fも、弁護士は関係ないとして、自分が話すから弁護士に電話をするようになどと言ったが、Lは、弁護士から連絡があるなどと言うにとどまった。 ㋖午後3時52分頃、Lが弁護士に任せている旨を繰り返し言うと、被告人Aは、カウンター上の就労証明書用紙を指でたたきながら不満を述べ(「これこれ、これがいるから。待ったれへんから。それやったらな、いつ、弁護士の先生と話ししてんのか知らんけど、月曜日まで日のべせんといてほしいやわ」)、次いで、特に声を荒げるまではなく、「何が弁護士の先生や。これ書いてもらわなあかんて」と言い(下線部を「Ⓐ」という。)、Fが「関係あらへんがな、そんなん」と言った。また、それ以降、本件事務所出入口前に複数の組合員が集まった様子が曇りガラス越しに写るようになった。 ㋗その後も、弁護士に任せている旨を言うLと、被告人A及びFの間で応酬が続- 22 -いたが また、それ以降、本件事務所出入口前に複数の組合員が集まった様子が曇りガラス越しに写るようになった。 ㋗その後も、弁護士に任せている旨を言うLと、被告人A及びFの間で応酬が続- 22 -いたが、途中、盗撮行為に対する謝罪を求めたり、警察に言う旨のLの発言(「いや、ほなやったら警察に、そんな言われたら私」)に対し、Fが声を荒げたりする場面があった(Fが声を荒げながら「呼べや、ほんなんやったらお前、こっちはやっとんねんこっちは」と言うと、被告人Aが「呼べ呼べ、はよ呼べ」と言い、続けてFが「呼んだらええやん、それやったら」と言って、「労使関係あんねん」と怒鳴った。)。Lは、電話をかけ、どこにかけたかを言わずに電話を切ると、従業員が盗撮していると強く非難する被告人AやFに、撮っていないと言うなどし、スマートフォンを見せようとする従業員を制して、誰の指示で盗撮しているのかなどと言う被告人Aに対し、「調べてもろうたら、ええやん、警察にほんなら」と言った。 これに続き、被告人Aは、午後4時2分頃、撮影しているなどと従業員に向けて騒ぎ(「やかましいわ。お前ものぉ、お前も何や、何ケチつけとんねん、うちの行動に。こらぁ、おいっ。撮っとるがなお前」)、従業員がけちを付けていないと言うと、「ほな解決せんかい、これ」と怒号して(各下線部を併せて「Ⓑ」という。)、Lに示した就労証明書用紙を持ち上げてカウンター上に強く置き、更に同人に対して弁護士の連絡先が分かったどうかを聞くと、連絡を待っていると言うLに、信用できないなどと告げた。 ㋘弁護士に任せている、連絡を取ってもらっているなどと繰り返すLと、弁護士名を明らかにするよう求め、引き延しに対する不満を述べたり、就労証明書がなく困っていると言ったりするなどした被告人A及びFの間で、なおも応酬が続いたが、午 ってもらっているなどと繰り返すLと、弁護士名を明らかにするよう求め、引き延しに対する不満を述べたり、就労証明書がなく困っていると言ったりするなどした被告人A及びFの間で、なおも応酬が続いたが、午後4時12分頃、本件事務所を出ていた被告人Aが戻ると、警備(警察)が来ていると言い、無断で立ち入っているとされているなどとLを非難して(「無断で立ち入っているってさ、俺らが、無断で。無断でな。あんた、卑怯やで」、「15 時半以降来い言うて来て、無断で立ち入ったって、どういう扱いしてんねん、労働組合を」と言った。)、Fも同様に非難した。 ㋙午後4時30分頃、Lが、弁護士が近日中に必ず連絡するので、今日は帰ってほしい旨を言い、弁護士の所属事務所名を告げた。その後、Fや被告人Aは、警察を呼び、盗撮をしたことについて謝罪を要求したが、Lはこれを拒否した。 - 23 -午後4時32分頃、被告人Aが本件事務所を退出し、FとLの間でやり取りが続くうち、Fが激高し、従業員がLの前に来て仲裁する中、午後4時33分頃、カウンター越しにLに向かい、極めて激しく巻き舌口調で「関係あるかい、そんなもん、何をぬかしとんねん、われぇ、おい、こらぁ、ほんま。労働者の雇用責任もまともにやらんとやな。団体交渉も持たんと、えっ、法律違反ばっかやりやがって。こら。こんなもんで何ぬかしとんねん、こら、われ、ほんま。謝れ言うとんねん、こっちは.謝罪せえ」などと怒号し(下線部を「Ⓒ」という。)、同人はなおも謝罪を拒否したが、従業員がその場にしゃがみ込むなどの状態になった。 ㋚午後4時34分頃、被告人Aが本件事務所に戻り、しゃがみ込んでいた従業員に声を掛けると(「おっちゃんはもう向こういっとき関係ないから」)、同人がその場を離れた。その後も、Lは、弁護士に任せてあるなどと言い、被告 分頃、被告人Aが本件事務所に戻り、しゃがみ込んでいた従業員に声を掛けると(「おっちゃんはもう向こういっとき関係ないから」)、同人がその場を離れた。その後も、Lは、弁護士に任せてあるなどと言い、被告人Aらに帰るよう求め、書類(就労証明書)も持って帰るよう言ったが、被告人Aはこれを押し戻した。そして、午後4時38分頃、被告人AとFは、本件事務所を出て、出入口付近で待機していた組合員らと共に同所を離れた。 ⑶ まず、11月28日から12月3日までの訪問・要求行為等に関する所論について検討する。 ア原判決は、11月28日以降の訪問・要求行為等について、その態様(ほぼ連日繰り返された執ようなものであったこと、H社に就労証明書の作成等の義務がなく、Kの保育所問題は一応解決したのにこれを告げず、同証明書に関する回答を求める発言をし、同様の訪問・要求行為が続く旨を発言や態度で示したこと、監視行為は不必要に大人数で、本件事務所付近にたむろし、社員等の行動を見張るものであったこと)及びH社とD支部の人的規模等の較差の点に、11月27日の6回目の訪問時の態様も併せた上で、社会的相当性を逸脱し、直接的な加害を告知したわけではなくとも、Lの身体等に対する黙示的な害悪の告知に当たると判断した。 イ既述のとおり、H社に就労証明書の作成等をすべき信義則上の義務があり、K作成の申立書が担当課に受け付けられた以降も同様であったから、原判決の前記判断は、この点の事実誤認が基礎とされている。 - 24 -また、Kの保育所問題については、同人作成の申立書が受け付けられ、一応の解決をみたが、被告人らがその事実をH社側に伝えなかったことは、原判決説示のとおりである。 しかし、関係証拠によれば、担当課では、就労状況の確認ができる書類が整えば、保育を必要とする事由に変動が 解決をみたが、被告人らがその事実をH社側に伝えなかったことは、原判決説示のとおりである。 しかし、関係証拠によれば、担当課では、就労状況の確認ができる書類が整えば、保育を必要とする事由に変動があった場合として変更申請書を受け付け、その内容につき、必要に応じて認定事由の確認を行った上、施設の利用認定書を発行する手続が予定されていたことが認められるから、KにとってH社から就労証明書を得る必要性があった点に変わりはなく、前記事実を伝えなかったことが直ちに被告人らの行為の社会的相当性の欠如をもたらすともいえない(なお、Kは11 月末でH社を辞め、12 月1 日以降、日雇運転手として別会社で働くようになったことが認められるが、同人作成の申立書にはH社に平成24 年1 月より勤務している旨が記載されていたから、同社の就労証明書は変更申請の際の資料としてなお必要であったと考えられる。)。 原判決は、H社に就労証明書作成等の義務がなく、K作成の申立書が受け付けられた事実をH社側に伝えなかったことを併せて基礎とし、被告人らの訪問・要求行為が社会的相当性を逸脱したと認めたものと解される。前記の事実誤認の影響は、社会的相当性に関する判断にも及んだとみるべきである。 ウ次に、原判決は、被告人らの発言内容や態様等に特段の問題がないとし、11月28日と同月30日の1回目の各訪問等を除いたから、その際の行為には社会的相当性を逸脱した点がなかったとする判断を示したことになる。 他方、11月29日の訪問・要求行為の経過は前記⑵㋑のとおり認められ、原判決が指摘した被告人Bの言動はあったが、Lに就労証明書の作成等を求めたやり取りは、同日の滞在のうち後半15分程度にとどまり、その際の被告人B及びFの言動が執ようとの評価はあり得ても、特に穏当さを欠いたものとまでは認め Bの言動はあったが、Lに就労証明書の作成等を求めたやり取りは、同日の滞在のうち後半15分程度にとどまり、その際の被告人B及びFの言動が執ようとの評価はあり得ても、特に穏当さを欠いたものとまでは認められない。 また、11月30日の訪問・要求行為をみると、1回目で、FはMを相手に就労証明書の作成等を求めたのに対し、2回目(前記⑵㋒)では、Lを相手としたが、同証明書に関するやり取りはほとんどなく、それ以外の要求に関する被告人Bらの言動が特に穏当さを欠いていたとは認められない。H社社員らにとって、落ち着いて- 25 -仕事ができず迷惑に感じたことは否定し難いが、11月28日と30日の1回目の各訪問等と、同月29日と翌日2回目の各訪問等を比べてみても、両者に明確な差異があったとは認め難く、Lが特に体調不良を呈したわけでもなかった。 結局、原判決は、被告人らの発言内容及び態様等を挙げながら、記録から認められる各訪問等の状況を十分検討せず、実質的には被告人らの相手がLか否かにより社会的相当性の逸脱の程度を分けたとみざるを得ず、合理的な判断とはいえない。 また、11月27日の訪問等のうち、Lが体調不良になった時点以降の被告人両名の要求行為に関する原判決の判断は是認し難いことは、前記2⑶のとおりであるから、Lが救急搬送されるまでの経緯を併せて考慮した点も不合理というべきである。 エ 11月30日の3回目の訪問・要求行為の状況は、原判決の認定及び前記⑵㋒のとおりであり、就労証明書の作成等を求めた被告人らと、そのつもりがない旨を示したLの応酬が大半を占めている。内容証明郵便の授受に関するやり取りが一定程度あったことを踏まえても、3回目の要求行為を執ようとした原判決の評価が不合理とはいえない。 もっとも、原判決は、11月29日の訪問・要求行為と同様、H社に就 証明郵便の授受に関するやり取りが一定程度あったことを踏まえても、3回目の要求行為を執ようとした原判決の評価が不合理とはいえない。 もっとも、原判決は、11月29日の訪問・要求行為と同様、H社に就労証明書作成等の義務がなく、K作成の申立書が担当課に受け付けられたことを告げなかったとして、同月30日の3回目の要求行為の中でFがした発言を指摘し、就労証明書に関する満足な回答がない限り、訪問等が続くと発言や態度で示したとしたが、前記イの誤認を基礎とした判断であるし、同日3回目の要求行為を通してみても、被告人BやFの言動が特に威圧的であった様子は見受けられない(本件事務所内にいたMが途中で被告人らに飲物を渡したことは、これと整合的である。)。11月30日の3回目の要求行為等は、執ようではあっても社会的相当性を逸脱していたとは認め難く、この点に関する原判決の判断は、前記イの誤認も相まった結果として不合理なものに至ったといえる。 また、12月1日の訪問・要求行為に関する特段の説示はないが、原判決は、連日にわたり繰り返された訪問の一環として、同日の行為態様を執ようとみたものと解される。しかし、前記⑵㋓のとおり、12月1日の要求行為等の大半は団体交渉の開催やH社の現状の説明を求めたもので、就労証明書の作成等を巡る直接的なや- 26 -り取りはなく、被告人らの言動が特に威圧的であったとも認められないから、その態様が執ようといえても、被告人らの要求行為等が直ちに社会的相当性を欠くことにはならない。 原判決は、記録から認められる11月30日の3回目と翌月1日の各訪問・要求行為の状況について、執ようさ以外の観点からの十分な検討をせず、前記イの誤認も相まって不合理な認定・判断に至ったと認められる。 オ原判決は、12月2日以降の監視行為につき、その開始時 各訪問・要求行為の状況について、執ようさ以外の観点からの十分な検討をせず、前記イの誤認も相まって不合理な認定・判断に至ったと認められる。 オ原判決は、12月2日以降の監視行為につき、その開始時期や人数等の態様から、H社の偽装閉鎖確認の目的よりも、就労証明書を含む同社との間で問題となっている事項につきD支部側の要求を通すための圧力を掛ける目的で行われたと認め、同社社員らに多大な不安感等を抱かせ、その行動の自由を不当に制約するものとした。 Lが、11月14日、被告人Aに同月末でH社を廃業する予定である旨を告げたことは、原判決認定のとおりであり、12月1日の訪問の際に被告人らが同社の現状の説明を求めたことや、偽装閉鎖を疑い、その確認目的で同月2日以降同社を監視していた旨の被告人Aの原審供述も併せれば、監視行為の目的に関する原判決の前記認定が不合理とはいえず、同社社員らに不安感等を抱かせたと認めた点についても、関係証拠に照らし相当である(なお、D支部組合員による監視行為は12 月5日以降も長期間継続されたが、これは本件の公訴事実と直接関係しない。)。 もっとも、その態様は、D支部組合員がH社出入口前の道路の向い側歩道上に座るなどし、同社への車両の出入り等を監視したというもので、記録上、同組合員が直接的に同社社員らに接触したり、同社の業務を妨害したりしたとは認められない。 また、監視行為の様子を見るなどしたH社社員らが、不安や恐怖等を感じたとして不自然とはいえないが、これを超えて、同人らの行動の自由を不当に制約し、その身体等に対する害悪の告知と同視し得る程度の外形的な事実があったとは見受けられないし、原判決が認定した同社とD支部の人的規模等の違いの点も、これらの較差を事情の一つに加えただけで、被告人らによる11月28日以降の訪問・要求行為等 得る程度の外形的な事実があったとは見受けられないし、原判決が認定した同社とD支部の人的規模等の違いの点も、これらの較差を事情の一つに加えただけで、被告人らによる11月28日以降の訪問・要求行為等の評価とどのように関わるかについて合理的な説明をしていない(12 月5 日以降の監視行為との関係でみると、D支部側には、H社に対する継続的な圧力を加え得る程度に人的規模等の優位性があったとみることができるが、前述したように本- 27 -件の公訴事実と関わらない。)。 そうすると、12月2 日以降の監視行為についても、社会的相当性を逸脱したと認め、これがLに対する黙示的な害悪の告知に当たるとした原判決の認定・判断は、記録に表れた事実関係を適切に検討したものといえず、不合理というべきである。 カ小括原判決は、H社に就労証明書作成等の義務がないとする誤った判断を前提に、K作成の申立書が担当課に受け付けられた事実を同社側に伝えなかったことを併せ、11月27日の6回目の訪問時における被告人両名の一部の言動が社会的相当性を逸脱したと誤認した点(前記2⑶)も含め考慮しており、そもそも認定・判断の基礎に不合理さを内包している。 そして、原判決は、11月28日以降の被告人らの訪問・要求行為等につき、記録に表れた諸事情(訪問の目的、滞在時間の程度、就労証明書の作成等を求めた際の状況、被告人らとLらの応対状況等)を十分検討せず、その執ようさや被告人らの言動の一部を指摘した程度で、就労証明書につきD支部が満足する回答をしない限り、同様の訪問・要求行為が続くと発言や態度で示されたとし、監視行為もH社社員らの行動の自由を不当に制約するものとして、訪問等の態様、同社と同支部の人的規模等の較差の事情から、一部の行為を除いて社会的相当性を逸脱したとする結論のみを示し 度で示されたとし、監視行為もH社社員らの行動の自由を不当に制約するものとして、訪問等の態様、同社と同支部の人的規模等の較差の事情から、一部の行為を除いて社会的相当性を逸脱したとする結論のみを示し、Lに対する黙示的な害悪の告知をしたと説示したのであり、基礎となる事実の誤認に加え、記録を十分検討しなかった結果、論理則経験則等に反する不合理な認定・判断に至ったものといわざるを得ない。 したがって、原判決が「罪となるべき事実」において、Lが体調不良を呈した時点以降の被告人らの訪問・要求行為及び12月2日以降本件事務所周辺にD支部組合員をたむろさせてH社従業員らの動静を監視させた行為を、Lらに対する脅迫行為の一部と認めた部分は、是認することができない。所論は、この限度で理由がある(原判決は、12月4日の訪問・要求行為時の被告人らの言動が脅迫に当たると明示的に説示していないが、後記のとおり、被告人らの言動はLに対する直接的な脅迫と認められ、その内容に特段の争いがなかったことから、「罪となるべき事実」における認定で足りるとしたものと解される。)。 - 28 -⑷ 次に、12月4日の訪問・要求行為に関する所論を検討する。 ア 12月4日の約1時間に及ぶ訪問等は、就労証明書の作成等を求める被告人A及びFと、全て弁護士に任せている旨を述べて明確な態度を示さなかったLの間の応酬が大半を占め、また、その当初からH社従業員による盗撮があったとするやり取りが伴ったことは、前記⑵(㋕ないし㋚)のとおりである。 原判決が認定した被告人A及びFの各言動をみると、被告人Aの発言(Ⓐ)は、特に声を荒げたわけではないが、前記⑵㋕の経過を経た後に就労証明書用紙を示した上でのものであり、次の発言(Ⓑ)は、本件事務所内の従業員に向けられていたが、被告人Aの前でLが応対してい 発言(Ⓐ)は、特に声を荒げたわけではないが、前記⑵㋕の経過を経た後に就労証明書用紙を示した上でのものであり、次の発言(Ⓑ)は、本件事務所内の従業員に向けられていたが、被告人Aの前でLが応対していた際のものであって、怒声を伴い、持ち上げた同用紙をカウンター上に強く置いてもいる(原判決は、被告人Aのこの動作を「机にたたきつけ」たと認めたが、その認定が不合理とはいえない。)。被告人Aのこれらの言動は、本件事務所を退出するまでの経過も併せれば、H社側に就労証明書の作成等を強く要求したものと認めることができる。また、Ⓒの発言を含むFの言動は、Lに向けられた強力な言辞であり、その際のFの態度、口調、Lとの位置関係等に鑑みれば、それ自体が脅迫に当たることは明らかといえるし、12月4日の訪問等の経過をみても、Fの一連の言動はH社側に就労証明書の作成等を強く要求したものと認められる。 そして、被告人らは、11月22日以降一貫して、Lらに団体交渉の開催等とともに就労証明書の作成等を要求し続けながら、同月を過ぎてもH社側から回答を得られなかったこと、12月4日は就労証明書の作成等に関する回答期限とされていたことを併せれば、同日の訪問等の中で盗撮等に対する謝罪を要求するなどの場面があったとはいえ、被告人A及びFの前記発言が、就労証明書の作成等の要求と離れ、一時的な激情に駆られたものとみることはできない。所論は、被告人A及びFの前記発言が就労証明書の作成等に向けたものではなかった旨主張するが、採用することはできない。 イそこで、被告人A及びFの前記発言が強要罪の実行行為としての脅迫に当たるかについてみると、人に義務の履行を求める場合であっても、その手段として脅迫が用いられ、これが社会通念上受忍すべき限度を超える場合には、同罪が成立し得ると- 29 - 実行行為としての脅迫に当たるかについてみると、人に義務の履行を求める場合であっても、その手段として脅迫が用いられ、これが社会通念上受忍すべき限度を超える場合には、同罪が成立し得ると- 29 -いうべきである。 12月4日の訪問等における被告人A及びFの言動は、前記のとおりである。そして、被告人A及びFとも一貫してLに就労証明書の作成等を強く要求していたこと、両名の各発言内容、その前後を含む両名の言動やLとの位置関係、本件事務所の出入口付近にはD支部組合員数名が集まっており、Lの位置からその様子が見通せたこと等に鑑みれば、同日までのLらH社側の対応に不誠実な面があったことを考慮しても、被告人A及びFの各発言(ⒶないしⒸ)は、その際の言動も併せ一連のものとして、当時同社において唯一就労証明書を作成等することができたLに対し、同証明書の作成等をするよう、その身体等に対する危害を加えかねない気勢を示した害悪の告知に当たり、その態様は社会通念上受忍すべき限度を超えていたと認めるのが相当である。原判決の認定・判断は、この限りにおいて正当として是認することができる。 ウ所論は、Fの発言Ⓒは、被告人Aが本件事務所の外で通話していた際のものであり、被告人AはFの発言内容を知り得なかったから、同人との共謀は認められない旨主張する。 Fの発言Ⓒの際、被告人Aが本件事務所を退出し、Fの同発言後に戻ったことは、所論指摘のとおりである(前記⑵㋙)。しかし、12月4日の訪問等の目的、当初からの経過や、その中で被告人A及びFは、共にLの対応や従業員の態度を非難し、大声を出すなどしていたことからすれば、被告人Aにおいて、Fが就労証明書の作成等を含むLの対応につき、怒りに任せた言動を取り得ることは想定し得たといえるし、被告人Aは、Fの発言Ⓒの際、本件事務所の出 大声を出すなどしていたことからすれば、被告人Aにおいて、Fが就労証明書の作成等を含むLの対応につき、怒りに任せた言動を取り得ることは想定し得たといえるし、被告人Aは、Fの発言Ⓒの際、本件事務所の出入口付近にいたことや、同発言が怒号によるものであったことも踏まえれば、この発言も、それまでに被告人AとFの間で成立していた共謀(少なくとも、同事務所内における現場共謀)の範囲に含まれるものと認められる。所論は採用することができない。 また、所論は、原判決が認定した被告人Aの発言の一部(「何が弁護士や、関係あらへんがな、書いてもらわなあかん」の下線部)はFの発言であり、原判決には事実誤認がある旨主張する。関係証拠によれば、一部(「関係あらへんがな、そんなん」)はFの発言と認められるが、いずれも両名が並んだ状態でカウンター越し- 30 -のLにしたものであり、この発言部分も含めて被告人AとFの共謀が成立することは明らかであるから、前記の誤認は判決に影響しない。 4 なお、検察官の当審における主張について付言する。 検察官は、㋐被告人らによる11月29日以降の訪問・要求行為は、H社側が就労証明書を作成等するまで訪問等を継続し、その作成等をしないのであれば、D支部として感情的な対応を取らざるを得ないことを伝えたものであるから、暗に「コンプラ活動」を想起させ、優にLらを畏怖させるに足りる十分な実質を伴うと評価することができる、㋑被告人らによる11月29日以降の一連の行為は、Lが就労証明書を作成等しない限り、本件事務所を何度でも訪れ続け、退去を求められようとも居座って要求行為を続ける旨を明確に伝えるものであり、H社とD支部との人的規模・組織力の較差や、過去にコンプラ活動によって実際に経済的損失を与えたことを背景に、12月4日までに同証明書を作成等する も居座って要求行為を続ける旨を明確に伝えるものであり、H社とD支部との人的規模・組織力の較差や、過去にコンプラ活動によって実際に経済的損失を与えたことを背景に、12月4日までに同証明書を作成等するよう具体的期限を切って追い込んだといえるとし、被告人らの行為は、H社に就労証明書を作成等すべき義務があることを踏まえても、Lらに対し、継続的な訪問・要求行為をやめてほしければ同証明書を作成等するよう黙示的に身体等に対する危害を加えかねない気勢を示して害悪を告知した脅迫に当たり、かつ、社会通念上受忍すべき限度を超えているから、強要未遂罪が成立すると主張する。 しかし、11月27日以降の被告人らの言動に、D支部がH社に対して行った過去のコンプラ活動を想起させるものは見当たらないこと、Lの原審証言に同活動を念頭に恐怖を覚えた旨を述べた部分はなく、本件事案との関連性が低いことは、既述したとおりである。また、11月30日の訪問・要求行為(1 回目)の中でFがした発言(「僕らも感情的になりますよ、そこは、組織としてね」)も、その前後の文脈に照らせば、話合いによる解決によらずにLらの身体等に危害を及ぼす行為を想定したものとはいい難く、原判決も同日の1回目の訪問・要求行為が社会的相当性を逸脱したとは判断していない。H社とD支部に人的規模等の較差があるとしても、11月28日から12月1日までの訪問・要求行為が、同支部の規模等を背景に殊更多人数で行われたこと等を認め得る事情はない。検察官の主張は採用することができない。 - 31 - 5 被告人Bの共謀の有無に関する主張について前記2⑶のとおり、Lが体調不良になった時点以降の要求行為が強要未遂罪の実行行為である脅迫に当たるとした原判決の認定・判断は是認し難いから、被告人Bの所論のうち11月27日の訪問・要求 張について前記2⑶のとおり、Lが体調不良になった時点以降の要求行為が強要未遂罪の実行行為である脅迫に当たるとした原判決の認定・判断は是認し難いから、被告人Bの所論のうち11月27日の訪問・要求行為に関する部分は、更に検討する必要がない。 次に、所論は、12月4日の訪問・要求行為について、被告人Aらの言動があった際、被告人Bは、本件事務所の外にいて一切知らなかったし、被告人Aらが突発的に行った、予測不可能な事態であったから、事前共謀は成立しない旨主張する。 被告人Bが、被告人AやFと共に本件事務所に赴いて、自らLらと対応したり、被告人AやFがLらとやり取りした様子を見聞きしたりしていたことは、記録上明らかであり、就労証明書の作成等に関するH社側の態度から、12月4日の訪問・要求行為が同証明書の作成等を巡るものになることも、被告人Bは十分認識していたものと認められる。 しかし、被告人両名及びFを含むD支部側が、12月4日の訪問・要求行為において、脅迫に至る程度の強力な言動も辞さず、H社側に就労証明書の作成等を行わせる旨の共謀が事前にあったと認め得る証拠はない。また、被告人AとFは、本件事務所内でLらとやり取りした過程で受忍限度を超えた脅迫に当たる言動に及んだが、その間、被告人Bは、同事務所内におらず、被告人Aらの行為の経緯を知り得た状況にあったと認め得る証拠も見当たらない(被告人Bは、原審において、被告人Aらが事務所の中で話をしている間、「敷地の中にいたり、敷地から出て車の方に行ったり、うろうろしていた。事務所の中の話は聞こえていない」旨を述べた。)。 原判決は、12月4日の訪問・要求行為がそれ以前の訪問等の延長にあり、同日のH社側の対応も十分予測できたとし、被告人AとFの同日の言動も、それまでにあった共謀に基づくものとして被告 述べた。)。 原判決は、12月4日の訪問・要求行為がそれ以前の訪問等の延長にあり、同日のH社側の対応も十分予測できたとし、被告人AとFの同日の言動も、それまでにあった共謀に基づくものとして被告人Bとの共謀を認めたが、同社側の対応を予測し得たことが、被告人A及びFが脅迫行為に及ぶ可能性の予測に結び付く必然性はなく、これを認め又は推認するに足りる事情も見当たらない。原判決の認定・判断は経験則等に反する不合理なものとして是認することができず、所論は、これと同- 32 -旨をいうものとして、理由がある。 6 正当行為性に関する主張について所論は、被告人らには、H社に就労証明書の作成等を求める必要があったから、その行為の目的は正当であり、暴力を伴う態様ではなく、12月4日の訪問・要求行為では、Lが非常識で誠意を欠く対応をしたため、被告人Aらが不満を抱き、多少感情的になって粗野な言動をしたというやむを得ない事情があり、その態様も社会的相当性を逸脱するものではなかったとし、正当行為として被告人らの行為の違法性阻却を認めなかった原判決には、労働組合法1条2項及び刑法35条の解釈適用を誤った違法がある旨主張する。 H社にKが必要とする就労証明書の作成等の信義則上の義務があったことは、前記のとおりであり、被告人らを含むD支部側が組合員であるKのために同証明書の作成等を同社に求めた訪問・要求行為には、正当な目的があったといえる。しかし、12月4日の訪問等の際に被告人A及びFがした発言等の行為がLに対する脅迫に当たり、社会通念上受忍すべき限度を超えたものと認められることは、既述したとおりであるから、暴力の行使として許されず、正当行為とみることはできない。 12月4日の訪問等の際に被告人A及びFが行った行為が正当行為に当たらず、違法性が阻却されない 認められることは、既述したとおりであるから、暴力の行使として許されず、正当行為とみることはできない。 12月4日の訪問等の際に被告人A及びFが行った行為が正当行為に当たらず、違法性が阻却されないとした原判決の結論は正当である。所論は採用することができず、この点の法令適用の誤りに関する論旨は理由がない。 7 結論以上のとおり、原判決には、H社に就労証明書の作成等の義務がなかったとした点、11月27日にLが体調不良を呈した時以降の被告人両名の要求行為が脅迫に当たるとし、また、同月29日以降の被告人らの訪問・要求行為等が黙示的な害悪の告知に当たり、社会的相当性を逸脱したものと認めた点、12月4日に被告人A及びFがした脅迫につき、被告人Bの共謀を認めた点につき、それぞれ事実を誤認して、論理則経験則等に反する不合理な認定をし、その結果、子ども・子育て支援法(令和元年法律第7 号による改正前のもの)の解釈及び強要罪に係る刑法の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 そして、原判決は、被告人Aについて、Fとの共謀による脅迫行為と認められる- 33 -部分に限らず、それ以前の行為も脅迫行為と認めた認定事実を基に刑を量定し、被告人Bについて、被告人A及びFとの共謀を認めて有罪としたのであり、結局、全部破棄を免れない。論旨は、この限度で理由がある。 第5 自判刑訴法397条1項、380条、382条により原判決を破棄し、同法400条ただし書により、更に次のとおり判決する。 1 被告人A関係(罪となるべき事実)被告人Aは、C労働組合D支部Eブロック担当執行委員として、同支部Gブロック担当執行委員・Fを含む同組合員と共に、平成29年(以下同年)10月、株式会社Hに対し、同社の日雇運転手であるKのD支部加入及 告人Aは、C労働組合D支部Eブロック担当執行委員として、同支部Gブロック担当執行委員・Fを含む同組合員と共に、平成29年(以下同年)10月、株式会社Hに対し、同社の日雇運転手であるKのD支部加入及び同支部H分会の結成を伝え、同人の処遇等に関する団体交渉の申入れをし、11月以降、同社が同人を雇用している旨の就労証明書の作成・交付(以下「作成等」という。)を求めるなどしていたが、L(同社取締役。当時58 歳)を脅迫して前記就労証明書を同社に作成等させようなどと考え、Fと共謀の上、12月4日午後3時52分頃から午後4時33分頃までの間、京都府木津川市a町bc番地所在の同社事務所において、Lに対し、被告人Aが「何が弁護士の先生や。これ書いてもらわなあかんて」と、Fが「関係あらへんがな」とそれぞれ告げ、さらに、被告人Aが「お前も何や、何ケチつけとんねん、うちの行動に。こらぁ、おいっ」、「ほな解決せんかい」などと怒号しながら、Lに示した就労証明書用紙をカウンター上に強く置き、Fが「何をぬかしとんねん、われぇ、おい、こらぁ、ほんま。労働者の雇用責任もまともにやらんとな。団体交渉も持たんと、えっ、法律違反ばっかやりやがって。こら。こんなもんで何ぬかしとんねん、こら、われ、ほんま」などと怒号して、Kを雇用している旨の就労証明書の作成等を要求し、これに応じなければ、L及びその親族の身体、自由、財産等に危害を加えかねない気勢を示して怖がらせ、Lに就労証明書の作成等を行わせようとしたが、同人がその要求に応じず、その目的を遂げなかった。 (法令の適用)罰条刑法60条、223条3項・1項・2項- 34 -宣告刑懲役6月(原審における求刑・懲役2 年)未決勾留日数の算入刑法21条執行猶予刑法25条1項訴訟費用の不負担(原審) 刑法60条、223条3項・1項・2項- 34 -宣告刑懲役6月(原審における求刑・懲役2 年)未決勾留日数の算入刑法21条執行猶予刑法25条1項訴訟費用の不負担(原審) 刑訴法181条1項ただし書 2 被告人B関係被告人Bに関する公訴事実の要旨(N及びOに係る記載を除く。)は「被告人Bは、Lらを脅迫して、Kを正社員としてH社に雇用させ、更に同社が同人を雇用している旨の就労証明書を作成等させようなどと考え、被告人A及びFと共謀の上、平成29年10月16日から12月1日までの間、同社事務所に多数回にわたって押し掛け、Lらに対して、同社がKを正社員として雇用すること及び同人を雇用している旨の就労証明書を作成等すること等を執ように求め、更に同月2日以降、同社周辺にD支部組合員をたむろさせ同社従業員らの動静を監視させるなどした上、同月4日午後3時47分頃から午後4時38分頃までの間、同事務所に押し掛けた上、Lらに対し、被告人Aが『何が弁護士や、関係あらへんがな、書いてもらわなあかん』、『お前も何や、何ケチつけとんねん、うちの行動に。こらぁ。おいっ』、『ほな解決せんかい』などと怒号しながら、Lに示していた就労証明書を机にたたき付け、Fが『何をぬかしとんねん、われぇ、おい、こらぁ、ほんま。労働者の雇用責任もまともにやらんとやな。団体交渉も持たんと、法律違反ばっかりやりやがって。こら。こんなもんで何ぬかしとんねん、こら、われ、ほんま』などと怒号して、Kを同社の正社員として雇用すること等を要求し、もしこの要求に応じなければL及びその親族の身体、自由、財産等に危害を加えかねない気勢を示して怖がらせ、同人をして義務なきことを行わせようとしたが、同人がその要求に応じなかったため、その目的を遂げなかった」というものである。 びその親族の身体、自由、財産等に危害を加えかねない気勢を示して怖がらせ、同人をして義務なきことを行わせようとしたが、同人がその要求に応じなかったため、その目的を遂げなかった」というものである。 しかし、被告人A及びFの脅迫行為は、12月4日の訪問等における言動等に限り認められるが、被告人Bには、被告人Aらとの共謀が認められないことは、前記第4の5のとおりである。被告人Bには被告事件について犯罪の証明がないことに帰するから、刑訴法336条により、無罪の言渡しをする。 3 よって、主文のとおり判決する。 - 35 -令和7年4月17日大阪高等裁判所第3刑事部裁判長裁判官石川恭司裁判官中川綾子裁判官國分進
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