-1-平成25年5月30日判決言渡平成24年(行コ)第184号公金違法支出損害賠償請求控訴事件 主文 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用(補助参加費用を含む。)は,第1審,差戻し前の控訴審,上告審及び差戻し後の控訴審を通じ,すべてを被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,栃木県の旧α町(以下「α町」という。)が浄水場用地として土地を購入したことについて,同土地を取得する必要性はなくその代金額も適正価格よりも著しく高額であるのに,控訴人補助参加人A(以下「A」という。)との間で同土地の売買契約(以下「本件売買」ともいう。)を締結したことが違法であるとして,α町と旧β町(以下「β町」という。)との合併により設置されたさくら市の住民である被控訴人が,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市の執行機関である控訴人に,上記売買契約の締結当時のα町の町長であった控訴人補助参加人B(以下「B」という。)に対して,不法行為に基づく損害金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するように求める住民訴訟である。 2 原審においては,上記請求とともに,被控訴人が,控訴人に,上記土地の売主であるAに対し,不当利得に基づく利得金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を請求するように求める請求が併合されていたが,原審は,被控訴人-2-の請求のうち,上記1の請求を認容し,Aに対する不当 る平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を請求するように求める請求が併合されていたが,原審は,被控訴人-2-の請求のうち,上記1の請求を認容し,Aに対する不当利得返還請求の義務付けを求める部分を棄却した(原判決)。 そこで,控訴人は,その敗訴部分を不服として控訴したが,差戻し前の控訴審は,その控訴を棄却し,控訴人が上告したところ,上告審は,上記控訴審判決を破棄し,本件を当庁に差し戻す判決をした。 3 本件における前提事実は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2,1に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,上記引用部分中,「原告」とあるのを「被控訴人」と,「被告」とあるのを「控訴人」と,「別紙」とあるのを「原判決別紙」と読み替える。以下の引用部分において同じ。)。 (1) 2頁25行目の「町長として,」から26行目末尾までを「町長であった。同町には,水道事業について管理者が置かれておらず,管理者の権限は町長が行うものとされていた(地方公営企業法7条ただし書,8条2項)。」に改める。 (2) 4頁15行目の次に,次のとおり加える。 (8) α町は,平成17年3月28日にβ町と合併し,さくら市が設置されてα町の権利義務を承継した。α町長であったBは,市長選挙を経てさくら市長となり,平成21年4月ころまでその任期を務めた。 (3) 4頁16行目の「(8)」を「(9)」に改め,4頁21行目の次に,次のとおり加える。 (10) 平成21年9月1日に開催されたさくら市議会において,本件請求に係るさくら市のBに対する損害賠償請求権について,その権利を放棄する旨の議案(以下「本件議案」という。)が議員から提案され,審議の結果,16対5の多数決で同議案が決議された 議会において,本件請求に係るさくら市のBに対する損害賠償請求権について,その権利を放棄する旨の議案(以下「本件議案」という。)が議員から提案され,審議の結果,16対5の多数決で同議案が決議された(以下これを「本件議決」という。)。控訴人は,本件議決を受けて,Bに対し,本件議決の事実と権利放棄の事実を記載した文書を送付し,この文書は,-3-Bに到達した(乙25ないし27)。 4 本件における争点は,次のとおりである。 (1) Bは,α町あるいは同町を承継したさくら市に対し,本件売買による不法行為に基づく損害賠償責任を負うか。 (2) さくら市議会による本件議決により,さくら市のBに対する損害賠償請求権が消滅したか。 5 本件の争点(1)についての当事者の主張は,当審における当事者の主張を後記6(1)アのとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2,2のうち原判決4頁25行目から13頁13行目までの記載のとおりであるから,これを引用する。本件の争点(2)についての当事者の主張は,後記6(1)イ及び(2)のとおりである。 6 当審における当事者の主張(1) 控訴人の主張ア Bに対する損害賠償請求の義務付け請求について(ア) 本件土地の適正価格について被控訴人が援用するC鑑定は,①取引事例の1ないし3がいずれも農地であって,宅地ないし雑種地である本件土地との比較に用いるのは適切でないこと,②基準価格の算定に用いた「γ-1」が「田」として利用されている土地であるから,宅地ないし雑種地である本件土地の基準地とするのは適切でないこと,③宅地造成工事費用総額として約1億円の費用がかかるとされ,この費用は,「田んぼの状態あるいは山林の状態から,各区画に分けた宅地に分譲するまでの造成費用である」と説明 地とするのは適切でないこと,③宅地造成工事費用総額として約1億円の費用がかかるとされ,この費用は,「田んぼの状態あるいは山林の状態から,各区画に分けた宅地に分譲するまでの造成費用である」と説明するが,α町とAとの間では,本件土地を更地として引き渡すことを条件としていたのであるから,1億円という多額の造成費用を要しないこと,④本件土地の適正価格を7590万円であるとするが,この鑑定結果によると1㎡の単価は9230円となり,本件土地に隣接する路線価-4-が2万3700円あるいは2万8200円であるから(乙19),上記鑑定結果は信用できないこと,⑤Aが,本件土地に隣接する土地を,もと所有者であるDに対し,1㎡当たり1万2081円で売却したのは,DとAの父が友人であったこと,Dが事業に失敗し自宅を失うことになったなどの背景事情があり,Aは,本件土地を前所有者であるDからスムーズに引渡しを受け,円満にプラントを撤去し,整地作業を実施する必要があったために,破格に低額で売却したものであるから,上記売却価格はC鑑定が適正であることの根拠とならないこと,以上から,C鑑定に依拠して本件土地の適正価格を認定するのは不当である。 (イ) Bが裁量を逸脱,濫用したとする根拠が不当であることついてaAが本件土地を競売により所有権を取得した際の価格は,本件土地の適正価格を考える上で参考にならない。本件土地に関するα町とAとの取引は,本件土地上にある建物,プラント工場を撤去し,更地の状態に戻すことが条件になっていたことからすると,上記価格は,適正価格を検討する上で考慮すべき事情とはならないから,本件競売物件の競売による売却価額が約4500万円であったことをBが把握していたこととしても,これによりBが裁量を逸脱,濫用したとする 価格は,適正価格を検討する上で考慮すべき事情とはならないから,本件競売物件の競売による売却価額が約4500万円であったことをBが把握していたこととしても,これによりBが裁量を逸脱,濫用したとする根拠とはならない。 bBは,Aから本件土地を7000万円で売却する旨の打診を受けてはいないから,Aから上記のような打診を受けていたことを鑑定を見直すべき根拠とするのは不当である。 c 平成16年8月31日の町議会の全員協議会で多くの議員から鑑定価格の妥当性や価格の高さについて疑問が出されていたとしても,Aから2億5000万円という売買代金が提示された後の平成16年9月6日の全員協議会においては,根本的な見直しを求めるような状況ではなかったのであるから,Bにおいて鑑定を見直すべき事情があ-5-ったとはいえない。 d 不動産鑑定士のEは,E鑑定が適正であると認識しているのであるから,Bが自らEに鑑定内容についての説明を求めていないことが不適切であったとはいえない。 e 以上によれば,Bは,専門的知識がないことから専門性の高い職業人に鑑定を求めたものであるのに対し,不動産鑑定理論に対する専門的な知見を水道事業の管理者であるBに求める被控訴人の主張は不当である。 イさくら市議会の議決(本件議決)による損害賠償請求権の消滅について(ア) 地方自治法96条1項10号は,議会の議決事項として,「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」と定め,地方公共団体の権利放棄については,執行機関たる地方公共団体の長でなく,議会の議決によるべきものとしているところ,法令及び条例には,本件損害賠償請求権の放棄について特別な定めはないので,本件損害賠償請求権の放棄の可否は については,執行機関たる地方公共団体の長でなく,議会の議決によるべきものとしているところ,法令及び条例には,本件損害賠償請求権の放棄について特別な定めはないので,本件損害賠償請求権の放棄の可否は,住民の代表である議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄することの影響,効果等を考慮して行う合理的な判断に委ねられている。 (イ) 地方自治法96条1項10号が,権利放棄を議会の議決事項としたのは,住民の意思をその代表者を通じて直接反映させようとしたものであり,執行機関の専断を排除しようとする趣旨をも含むもので,権利放棄の議決について長の執行行為は必要がない。 したがって,本件訴訟の対象になっている損害賠償請求権は,地方自治法149条6号によりさくら市の執行機関が管理すべき債権であり,その債務免除は,同法240条3項により,執行機関の債務者に対する意思表示によってなされるべきであり,議会の議決のみによって効力が-6-生じるとはいえないとの考え方は不当である。 (ウ) 本件におけるBの帰責性についてa 本件土地は,浄水場用地としての条件に適合しており,地権者も1名で交渉が容易であったことなどから,α町においてこれを浄水場用地として取得する必要性が認められる。その売買代金が高額に過ぎたとしても,当時,第2次拡張計画に基づく用地取得の予定時期を数年過ぎても他に適当な候補地が見当たらない中で,水道事業の管理者としてのB町長は,用地取得の早急な実現に向けて努力すべき立場にあったものであり,仮に,代金額に係る交渉を不調として本件土地の取得を断念するならば,用地取得の予定時期を既に数年過ぎて遅れていた浄水施設の設置など第2次拡張計画の実現が更に遅れることになり,α町及びその住民全体 ,仮に,代金額に係る交渉を不調として本件土地の取得を断念するならば,用地取得の予定時期を既に数年過ぎて遅れていた浄水施設の設置など第2次拡張計画の実現が更に遅れることになり,α町及びその住民全体の利益に反する結果となる状況にあったものであり,また,Aが最終的に本件売買で合意された代金額を要求することになった根拠はE鑑定であったところ,一般に不動産鑑定の適否の判定は中立的な専門家の関与なしには困難であることに照らせば,仮に他の不動産鑑定士によってより安価な鑑定評価額が出されたとしても,限られた期間内の当事者同士の交渉によって売主から代金額の大幅な引下げという譲歩を確実に引き出すことができたとは言い難い。そして,本件売買に関し,Bにおいて適正価格との差額から不法な利益を得て私利を図る目的は全くなかった。 b 本件売買の代金額は,α町議会の議決を得た3億円という用地購入費の予算の枠を5000万円下回るものであったのであり,本件売買により浄水場用地が確保され,浄水施設の設置など水道事業を拡充する第2次拡張計画の早期の実現が図られることによって,α町ないしさくら市及びその住民全体に相応の利益が及んでいるということができ,他方,Bが本件売買によって不法な利益を得たなどの事情はな-7-い。 c 本件の鑑定依頼は,Aとの交渉において,本件土地の取得価格は不動産鑑定を行って決める旨を説明して,これを実施することになったものであり,不動産鑑定士による鑑定評価額等の客観的な資料により,過大補償だけでなく過小補償もないよう正当,公平に地方公共団体の用地取得事務を行うべきことはα町においても同様であって,専らα町が内部的な参考資料とする目的で行われたものではない。そのため,Bは,Aとの売買交渉の過程で本件土地の取得価格は不動産鑑定を行っ の用地取得事務を行うべきことはα町においても同様であって,専らα町が内部的な参考資料とする目的で行われたものではない。そのため,Bは,Aとの売買交渉の過程で本件土地の取得価格は不動産鑑定を行って決める旨を説明していたのであるから,鑑定結果が出れば,これをAに示すのは当然のことである。なお,本件においては,Aが本件土地の売却価格を7000万円程度と考えていると述べたことが問題となっているが,Bは,このことを聞いていないし,仮に聞いていたとしても,Bの上記対応が適切さを欠くことにはならない。 さらに,Bが株式会社Fの会長であるGに不動産鑑定について相談したのは,用地取得の時機を失することを危惧したためであるし,株式会社Fは,α町が公共事業の施行に伴う公共用地等の情報提供等について協定していたα町宅地建物取引業者連絡協議会の加入会社であり,Bは不適切な者にその相談をしたのではない。またEは,過去にα町から鑑定依頼をされた実績もある者であって,不適切な不動産鑑定士を選任したものではない。 d 以上のとおり,本件においてBの帰責性は大きいなどと評価されるべき事情はない。 (エ) 本件議決は,本件議案の提出理由書に記載のとおり,当時の町長であったBにとって本件土地の取得は緊急を要していて,水道事業計画の推進のために水道事業の管理者として本件売買が必然的な選択であったこと等が放棄の理由とされており,同議案に賛成した議員らの発言の-8-中でも,同様の必要性や地元住民の要望も強かったことが重視され,Bが不法な利益を得たわけではないことなどの指摘がされていることからして,本件議決が本件訴訟の第1審判決(原判決)の法的判断を否定するなど不当な趣旨のものとすることはできない。 (オ) 浄水場用地の取得は,α町の水道事業に係る公益的な政策目的 がされていることからして,本件議決が本件訴訟の第1審判決(原判決)の法的判断を否定するなど不当な趣旨のものとすることはできない。 (オ) 浄水場用地の取得は,α町の水道事業に係る公益的な政策目的に沿ってα町の執行機関である町長が行うべき本来の責務であるといえるものであり,また,本件売買の代金額は町議会の議決を得た用地購入費の予算の枠を下回っている。このような職務の遂行の過程における行為に関し,1億数千万円の賠償責任の徴求がされた場合,執行機関の個人責任として著しく重い責任を負うことになり,以後,執行機関において,職務の遂行に伴い個人の資力を超える高額の賠償の負担を負う危険を踏まえ,長期的な観点からは一定の政策目的に沿ったこのような職務の遂行に萎縮的な影響を及ぼすなどの状況が生ずるおそれがある。 一方,Bの賠償責任には,上記(ウ)a,bのような酌むべき事情が存しており,何よりも本件売買の代金額が適正価格を上回った原因は,主として専門家であるE不動産鑑定士の鑑定結果によるものであり,Aとの交渉が折衝としての実体を有しない態様のものであったことはないし,Bの対応にまずさがあったともいえない。 したがって,本件議決によりBの賠償責任を免除することは,前述した職務の遂行に萎縮的な影響を及ぼす状況の回避に資することになる。 (2) 被控訴人の主張ア議会の権利放棄の議決だけでは効力を生じないことBに対する本件損害賠償請求権は,地方自治法149条6号によりさくら市の執行機関が管理すべき債権であり,その債務の免除は,同法240条3項により,執行機関の債務者に対する意思表示によってはじめて生じるものである。地方自治法96条1項10号は,執行機関の専断をチェッ-9-クするためのものであり,議会の債務免除の議決が,執 条3項により,執行機関の債務者に対する意思表示によってはじめて生じるものである。地方自治法96条1項10号は,執行機関の専断をチェッ-9-クするためのものであり,議会の債務免除の議決が,執行機関の執行行為に代わって債務免除の効力を生じさせるものではない。 イ本件議決は,実体的にも違法無効であり,その効力はないこと(ア) 地方自治法96条1項10号,同法240条,同法施行令171条ないし171条の7の各規定を整合的に解釈すると,地方自治法96条1項10号の権利放棄について,野放図な自由裁量を認めず,議会の議決が公益に資するという要件を備えることを要すると考えるべきである。 地方公共団体の議員は,住民の代表であり,議会は,その合議体であって,行政に対する監視権限をもっており,地方公共団体の議員,議会も地方公共団体が有する債権を含む財産の維持について善管注意義務を負っているところ,本件議決は,公益性がなく,さくら市に損害を与えるだけで,B前市長の救済を図るためのものであるから,無効である。 (イ) 本件議案の提案理由には,本件住民訴訟の公益性を超える公益性の存在は認められないし,むしろ提案書の記載によれば,「元町長の裁量に不法な逸脱,濫用がみられない」,「当該用地の取得は,水道事業管理者の裁量として必然的な選択であった」,「元町長の判断に著しい錯誤がみられない」など,控訴人の主張を鵜呑みにして原審の判断を真っ向から否定していることや,差戻し前の控訴審判決の言渡し期日直前に「さくら市の損害賠償請求権に関するすべての権利を放棄するため」に本件議決の提案がされたものであることが認められるのであって,本件議決は,B個人の利益を図り,公の利益のための本件住民訴訟を無に帰せしめ,且つ,裁判妨害を意図したもの すべての権利を放棄するため」に本件議決の提案がされたものであることが認められるのであって,本件議決は,B個人の利益を図り,公の利益のための本件住民訴訟を無に帰せしめ,且つ,裁判妨害を意図したものであるから,地方自治の趣旨に反し違法,無効である。 (ウ) 本件議決は,市長の命を受けたさくら市建設部H部長の指導と教示によってされたものであり,違法かつ無効である。 -10-ウ Bの帰責性について(ア) Bが,平成16年3月のα町議会で浄水場用地取得に関して本件土地をその対象地としているかのような答弁をしていることや,その後の本件売買に至る経緯に鑑みれば,Bは,上記答弁をした時点で,既に関係者との間で,本件競売物件が競落された後に売買交渉を行う密約を交わしていた可能性が高い。そして,3億円という用地取得費の予算が非常に高額なものであることや,BがAから売買代金として当初7000万円の提示を受けながら,しかも,同年6月に開催された土地問題対策会議においても本件土地について不動産鑑定をするというような話はなかったのに,Bが個人的にGを介してEに不動産鑑定を依頼し,Eが本件土地について不当な鑑定評価をしていることに鑑みると,この不動産鑑定は本件土地の価格吊り上げのための工作であったと考えざるを得ない。 (イ) Bは,Eへの鑑定依頼やAに鑑定評価額を伝えることに直接的に関わっており,上記のとおり平成16年5月にAからの本件土地売却の申入れがある以前から,競売で競落される本件土地を買い受ける密約を,関係者との間で交わしていた可能性が高く,Bの行為は,もはや過失の段階を超え,意識的にα町に損害を与えようとしていたと言っても過言ではない。 このようにBの帰責性は際立っており,本件議決は,普通地方公共団 ていた可能性が高く,Bの行為は,もはや過失の段階を超え,意識的にα町に損害を与えようとしていたと言っても過言ではない。 このようにBの帰責性は際立っており,本件議決は,普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らし不合理であって,議会の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たる。 エ議会運営委員会の瑕疵(ア) さくら市議会は,平成17年4月8日,さくら市議会会議規則を制定し,また,平成24年法律第72号による改正前の地方自治法109-11-条の2第1項の普通地方公共団体の議会は条例で議会運営委員会を置くことができるとの規定を受け,さくら市議会委員会条例(平成17年条例175号)を制定しているところ,本件議案は,その取扱いについて,議会運営委員会に付託され,その後,議会で議決された。 (イ) 本件議案については,平成21年8月28日に議会運営委員会に付託するとの議長の決裁を受け,議会運営委員会委員長が,同日,各委員に同月31日午前9時に委員会を開催する招集の通知をし,同日午前9時にさくら市役所3階委員会室で議会運営委員会を開催した。同委員会には,I議長が出席し,議長として,又は委員として発言している。しかし,前記改正前の地方自治法109条の2第4項3号によると,議会運営委員会は議長の諮問した事項を審査するとなっていることから,諮問する側の議長は委員会の委員になることはできないし,議長が同委員会に出席し発言することはできるものの(同法105条),議長が委員会に出席するには,さくら市議会会議規則108条により,委員会が委員でない議員(議長を含む。)の出席を求めるか,委員でない議員が発言の申し出があった場合に委員会が許諾した場合に限られているのであって,I議長の出席について, 議会会議規則108条により,委員会が委員でない議員(議長を含む。)の出席を求めるか,委員でない議員が発言の申し出があった場合に委員会が許諾した場合に限られているのであって,I議長の出席について,委員会が出席を求めた事実も,また,I議長が発言を求め,委員会がこれを許諾した事実もない。 したがって,I議長の議会運営委員会への出席は,さくら市議会会議規則に違反している。 (ウ) 本件議案が付託された平成21年8月31日の議会運営委員会は,同日午前10時8分から午前10時35分まで休憩しているが,その際,I議長らとJ市長(控訴人)とが話し合った結果,本件議案の議会への提出や採決の時期について,①議会の初日,②議会の最終日,③高裁判決後の臨時議会のいずれにするかを委員会で採決することとし,休憩後の再開委員会では,上記3案のうち本会議の初日に提出し採決すること-12-を決めたものである。しかし,仮に休憩時間中であったとしても市長が議長や議案提案者と本件議案の取扱いについて話し合うことはあってはならないことである。本件議会運営委員会はもともと議員でないのに出席したI議長とJ市長が主導して,定例議会の初日に本件議案を提出し即決で議決することを決めたものと解され,議会での十分な審議を故意に避けたものであって議会の審議機能を拒絶したものであり極めて失当な措置である。 議会運営委員会における以上の処置はBを救済することなどを意図したI議長とJ市長の談合による暴挙である。 オ本件議決の瑕疵本件議決は,①平成21年9月1日の市議会の初日に午後の1番目の議題とされ,僅か30分ほどで議決されていること,②議会運営委員会委員長が同年8月31日の委員会終了後,I議長に対して本件議案に関する報告書を提出していないのは市議会会議規則101条に違 の1番目の議題とされ,僅か30分ほどで議決されていること,②議会運営委員会委員長が同年8月31日の委員会終了後,I議長に対して本件議案に関する報告書を提出していないのは市議会会議規則101条に違反すること,③I議長が,市議会会議規則38条1項に規定する議会運営委員会委員長の報告や少数意見者の報告をさせていないこと,④同議会では,開議の2週間前に議員に議案を配布しているのに,本件議案に限り9月1日の開議の直前に配布し,議会の初日に議決されていることなどから,これらは議会の裁量権を逸脱しており,議決は権利の濫用である。 第3 当裁判所の判断 1 本件の事実経過について前記前提事実(上記補正後のもの),証拠(後掲各証拠のほか,乙14,丁12,証人K,証人E,証人L,証人A,証人B(当審),控訴人本人(原審)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 平成9年度における栃木県内市町村における水道普及率の平均は91%であったが,α町の水道普及率は74%と低く,一方,同町の同年度におけ-13-る水道施設の利用率は98%であって,同施設の利用率は限界に近い状態にあった(乙35,36)。このためα町では,平成10年,町の全域が給水区域となる第2次水道事業拡張計画を立て,同年3月31日,栃木県知事から水道事業経営変更の認可を受けた(乙7)。また,α町では,同計画を,地方自治法2条4項の規定に基づき策定されるα町第二次総合計画(α町全計画の基本となる計画)の基本計画として位置づけていた。なお,第2次拡張計画策定までの町議会においては,Bが町長に就任する以前から,α町長に対し,複数名の議員から,町内の未給水区域の解消という要請がされていて,Bがα町助役を務めていた時期においても,議員らから,水圧の低下により給水区域内の町 ては,Bが町長に就任する以前から,α町長に対し,複数名の議員から,町内の未給水区域の解消という要請がされていて,Bがα町助役を務めていた時期においても,議員らから,水圧の低下により給水区域内の町民の水道利用に不便をきたしているが早急に対応できないか等の質問がされ,当時の町長や水道課長からは,その原因が,使用水量が増大により施設の稼働能力が限界状態にあるためであることや,その改善策としての取水井整備や第2次水道事業拡張計画を進める旨の答弁がされていた(乙37の1ないし8,38)。 第2次拡張計画では,事業計画完成の目標年次が平成25年度とされ,平成12年までに浄水場用地を確保し,平成16年度には,配水池,配水塔を含む浄水施設を設置する予定となっていた(乙7,9)。 (2) α町では,当初,新たな浄水場の用地としては,既存のδ浄水場や既設の7か所の取水井と近接していること等の条件を満たす浄水場候補地として,建替計画があったε町営団地の敷地があがったが,平成12年度までに同建替計画自体が頓挫し,同敷地は候補地から除外された。また,平成13年度ころからは,α町εの民間企業の独身寮跡地がその候補地としてあがり,所有者との交渉が行われたが,建築基準法上の規制により同土地には浄水場を建築することができないことが判明し,同土地も候補地から除外された。 以上のとおり,第2次拡張計画に係る用地の確保は当初の予定から大幅に遅れていたところ,α町では,平成15年6月17日,総合計画を担当する-14-企画課が所管課となり,水道課の主管する水道事業に関し,他の関係各課を交えて検討するための会議である水道事業調整会議を開催し,浄水場用地取得問題を検討した結果,β町との合併前に何としてでも浄水施設設置を着手する必要があるとして,今後,水道 事業に関し,他の関係各課を交えて検討するための会議である水道事業調整会議を開催し,浄水場用地取得問題を検討した結果,β町との合併前に何としてでも浄水施設設置を着手する必要があるとして,今後,水道課で多くの候補地を選んだ上,水道事業調整会議や町長,収入役,教育長,総務課長及び企画課長により組織される庁議等で候補地の絞り込みを行っていくこととなった(乙9)。そして,同年10月30日に開催された水道事業調整会議において,水道課から,浄水場用地として5つの候補地が提案され,水道課は,それぞれの候補地について工事費とその利点や問題点を付した資料を提出した上,出席者による意見交換がされた結果,水道課でさらに条件を検討し,優先順位を付けて地権者の状況等を当たってみた後で再度会議を開くこととなった。なお,上記5つの候補地のうちの第5案は,本件土地の隣接地であった(甲2,乙10)。 (3) 水道課は,平成15年11月ころ,上記候補地の一つ(第5案)に隣接する本件土地を含む本件競売物件が競売手続に付されているとの情報を得た。 そこで,水道課は,平成16年2月,競売事件の申立人であるM銀行を介して,本件競売物件の任意売却をする意向があるか所有者に打診したところ,同銀行から所有者には任意売却の意思はないとの連絡があった。α町では,本件競売物件については,その権利関係が明確ではなく,競落したとしても引渡しが円滑に進むか不安があるとの判断から,本件競売物件の競売には参加することはしなかった。 (4) 当時のα町長であったBは,平成16年3月2日,α町議会に対し,浄水場用地の購入費として3億円を計上した平成16年度水道事業会計予算案を提出し,町議会はこれを議決した。この浄水池用地の購入費3億円は,上記(2)の水道事業調整会議において候補地としてあがった5箇 水場用地の購入費として3億円を計上した平成16年度水道事業会計予算案を提出し,町議会はこれを議決した。この浄水池用地の購入費3億円は,上記(2)の水道事業調整会議において候補地としてあがった5箇所の土地近辺の時価額等を勘案し,概ね1㎡当たり3万円を基に算出した金額であった(乙2,10)。 -15-Bは,α町議会における同月3日のN議員からの浄水場用地取得に関する質問に対して,設置の場所について,「一番我々が考えて可能かなと思われるところと交渉しているところですが,これは場所については,この場では差し控えさせていただきます。」,「更地なのか,あるいは何か建物が建っているのかということでありますが,仮に建物,建造物があったとしても,購入する場合にはそういうものについては撤去してもらって,更地の状態でないと買うことはてきません。」との答弁し,取得費については,「3億円を計上した,我々の方はできるだけ安く買いたい,できるだけ議員の言われるとおり,これは最少の経費で最大の効果,これは当然のことでありまして,3億円あるから3億円使わなければならないことではありませんから。」との答弁をした(甲32)。 (5) 平成16年当時,Aは,個人で不動産業を営んでおり,当初,本件競売物件を取得して,建設業者と共同で宅地分譲をすることを計画していた。Aは,本件競売物件に係る競売の売却手続に入札して最高価買受申出人となり,売却許可決定の後,平成16年7月5日に代金を納付して,原判決別紙第1物件目録記載1ないし11の土地(評価額2119万円)につき2165万円,同目録記載12の土地及び同目録記載13の建物(評価額2404万円)につき2300万円の売却価額によりその所有権を取得した(甲2,3,4の1,2)。 Aは,上記競売の過程で,本件競 万円,同目録記載12の土地及び同目録記載13の建物(評価額2404万円)につき2300万円の売却価額によりその所有権を取得した(甲2,3,4の1,2)。 Aは,上記競売の過程で,本件競売物件の当時の所有者から,α町が本件競売物件を水道施設用地として取得しようとしていて,銀行を通じて何度か買い受けの申出をしていたことを聞いた。そこで,Aは,開札期日の翌日である同年5月19日,α町役場を訪れ,水道課長に対し,本件競売物件をα町に売却してもよい旨を申し入れた。水道課長は,突然,Aから上記のような申入れであったことから,その時点ではその申入れを聞くにとどめ,同日,町長であるBに上記申入れについて報告した。Bは,この報告を受けて,直-16-ちに総務課長及び同課長補佐を同道して本件競売物件の現地を訪れ,同土地上に砂利プラント等が存在していることや周囲の状況等を確認し,同土地が現在の水源地に近いことなど,幾つもの好条件が揃った土地であるとの認識を持った。Bは,水道課に対し,本件競売物件が浄水場用地として利用できるか検討するように指示した。α町では,第2次拡張計画が大幅に遅れていたことや,給水区域の拡張工事が進む中,新たな浄水場が稼働しないために現在のδ浄水場から離れた水道の末端区域において水道の水圧が下がるといった支障も生じていることから,一日でも早く第2次拡張計画が完成する必要があったところ,その時点では他の候補地の取得交渉もなかったこともあり,本件競売物件の取得を当面の検討事項とした。 (6) Aは,平成16年5月24日,再度α町役場を訪れ,町長室において,町長であるB,収入役,総務課長,企画課長及び水道課長と面談し,改めて,本件競売物件をα町に売却してもよい旨を申し入れ,その際,本件競売物件を約4500万円で取得したこと 場を訪れ,町長室において,町長であるB,収入役,総務課長,企画課長及び水道課長と面談し,改めて,本件競売物件をα町に売却してもよい旨を申し入れ,その際,本件競売物件を約4500万円で取得したこと,更地の売却価格として7000万円程度を考えていること,本件競売物件の一部を前所有者に坪5万円で売るつもりであることなどを述べた。Bは,事前に本件競売物件の現地を確認していたことなどから,本件競売物件が浄水場用地としては諸条件を備えてはいるものの,砂利プラント等や周囲に複数の地権者が存在しており,砂利プラント等の撤去や隣地地権者との境界問題など,その利用に当たりいくつかの支障があると考えていたことから,Aに対し,本件競売物件を浄水場用地として取得するのであれば,砂利プラント等を撤去し,周囲の地権者と境界の確定がされるなど土地の権利関係が明確にされることが前提条件になることを説明し,α町が本件競売物件を取得する場合の金額については,これまでα町が土地を取得する場合には,不動産鑑定を行って取得価格を決めているため,本件競売物件を取得する場合も不動産鑑定を行う旨をAに伝えた。なお,α町を含む栃木県内の普通地方公共団体は,買収を予定している土地の所有-17-者との用地交渉の際は,当該土地の代金やその算定根拠を交渉相手に説明することとしていた。 (7) 本件競売物件が浄水場用地として相応しいか否かを検討していたα町の水道課は,Aからの上記(6)の申入れを受けて,平成16年6月1日,これまでの関係各課に都市整備課を加えて,その検討をした結果,原判決別紙第1物件目録記載1ないし11の土地に同目録記載12の土地の一部を加えた本件土地が上記(2)の条件を満たしていること,地権者が1名であることから効率的に取得交渉を進めることができることなどを考慮し,本件 物件目録記載1ないし11の土地に同目録記載12の土地の一部を加えた本件土地が上記(2)の条件を満たしていること,地権者が1名であることから効率的に取得交渉を進めることができることなどを考慮し,本件土地を取得する方針で対応することを決め,翌2日,その取得の方向で更に検討していく旨をAに伝えた。 (8) α町では,公共用地の取得等については,関係各局課の局課長によって構成される土地問題対策会議においてその是非を検討することとされており,平成16年6月3日に開催された同会議においては,本件土地を浄水場用地として取得するか否かが付議された。同会議の席上,O企画課長から,本件競売物件を不動産業者のAが取得して,その後α町に浄水場用地として売却してもよい旨の申入れがAからあったこと,浄水場用地は,前年度から候補地をあげて検討を進めてきたが,決定には至っていないこと,Aは,更地としてα町に売るとして,その価格は7000万円程度であり,隣接する土地を坪5万円で前所有者に売るつもりであると述べていることなどの説明があり,意見交換や質疑等が行われた後,本件土地が浄水場用地として適していることが確認され,価格の調整や地質の調査等は必要であるものの,本件土地の取得に向けて水道課において検討を進めることとし,価格等が判明したら同会議を開いて再度検討することとなった(甲9)。 (9) 上記の土地問題対策会議における検討を踏まえ,α町では,本件土地の適正価格を判断するための資料とするため,不動産鑑定士に鑑定を依頼することとした。しかし,本件土地の取得を担当する水道課職員は,それまで用-18-地取得を担当したこと自体がなく,不動産鑑定評価を鑑定士に依頼した経験もなかったため,その実施に手間取っていた。 一方,α町は,β町との合併に向けた合併協定書の調印を 員は,それまで用-18-地取得を担当したこと自体がなく,不動産鑑定評価を鑑定士に依頼した経験もなかったため,その実施に手間取っていた。 一方,α町は,β町との合併に向けた合併協定書の調印を平成16年7月25日に控えていたところ,当初の第2次拡張計画によれば,平成16年度には配水池,配水塔を含む浄水施設が設置されている予定であったのに,未だ浄水場用地の確保すらできていないことや,β町との合併前に浄水場の建設が決定していないと,合併後に改めて浄水場の建設について審議し直さなければならなくなるといった懸念があったことから,β町との合併前に,少なくとも浄水池用地を確保し,浄水場施設建設の足掛かりを付けておく必要があった(乙9,13)。なお,当時のα町の水道普及率は,β町を含めた隣接市町の水道普及率が90%を超える中,78%と低く,一方,水道施設の利用率は最大で120%を超え,断水の危険等もあった(乙25,39,40)。 ところが,上記のとおり,本件土地の取得価格を判断するための資料である不動産鑑定士による鑑定の実施が手間取っていたことから,Bは,平成16年7月ころ,独自の判断で,単身,友人であるGが会長を務める株式会社Fの事務所に出向き,Gに対し,本件土地の不動産鑑定を実施したいと考えている旨を伝え,Gから,その不動産鑑定士としてEを推薦された。なお,α町では,平成11年度からα町宅地建物取引業者連合協議会と公共事業の施行に伴う公共用地等の情報提供及び媒介に関する協定を締結しており(乙32),この協定は,α町が事業を行うにあたって用地の取得が必要となる場合,α町に所在する不動産業者から広く情報の提供を受け,適切な用地の確保ができるように締結されたもので,株式会社Fも同協議会に加入する宅地建物取引業者として,α町に同協議会を通 の取得が必要となる場合,α町に所在する不動産業者から広く情報の提供を受け,適切な用地の確保ができるように締結されたもので,株式会社Fも同協議会に加入する宅地建物取引業者として,α町に同協議会を通じ公共用地の情報提供や媒介を行っていて,α町で実施した区画整理事業において,難航していた用地交渉においてGから援助を受けたこともあった。 -19-Bは,α町の水道課職員に対し,Gを通じてEに本件土地の不動産鑑定を引き受けてもらえるか打診している旨を伝え,その後の選任の事務手続を迅速に進めるよう指示し,その後,Eから不動産鑑定を引き受ける旨の回答を得たことから,α町は,平成16年7月6日,Eに対し,本件土地の不動産鑑定を依頼した。 (10) Eは,同年8月10日,本件土地の価格を2億7390万円(1㎡当たり3万3300円,地積8225.12㎡として算定したもの)とする不動産鑑定評価書(乙11)をα町に提出した。このE鑑定は,約195㎡ないし272㎡のほぼ整形の住宅地を取引事例比較法の対象とし,347㎡のほぼ正方形の住宅地に係る公示価格を参考として標準価格を設定したものである(E鑑定の内容の詳細は,原判決「事実及び理由」欄の第3,1(11)イに記載のとおりであるから,これを引用する。)。 (11) Bは,E鑑定に係る鑑定書を確認したが,Aの取得価額が競売手続による価額であることや,本件土地をα町が取得するに当たっては,Aにおいて,本件土地に存していた砂利プラント等を撤去して更地の状態に造成し,周囲の地権者との境界問題を解決するなど作業をする必要があることや,本件土地付近の土地の固定資産税路線価との比較などから,Aが競売により本件土地を取得した約4500万円の金額とE鑑定における評価額に大きな開きがあることについて格別疑問を持たず,E鑑定に ることや,本件土地付近の土地の固定資産税路線価との比較などから,Aが競売により本件土地を取得した約4500万円の金額とE鑑定における評価額に大きな開きがあることについて格別疑問を持たず,E鑑定における鑑定評価額を本件土地の適正価格であると考えた。そこで,Bは,平成16年8月11日,α町役場の町長室において,関係部署の職員とともにAと面談し,同人に対し,本件土地の鑑定評価額が2億7390万円であったことを伝えるとともに,α町としては,適正な値段で本件土地を取得しなければならないと考える一方,できるだけ低額で取得したいとの希望もある旨を伝えた。 Aは,翌12日,E鑑定を踏まえて,α町に対し,本件土地の代金として2億6500万円を提示した。 -20-(12) α町は,平成16年8月18日,土地問題対策会議を開催し,本件土地を浄水場用地として取得する件について審議した。その席上,K水道課長がE鑑定の鑑定評価額及びAから提示された代金額等を報告したところ,以前に報告された7000万円程度という価格と異なる理由についての質問や,交渉でもう少し下がるのではないかという意見もあったが,最終的に,同会議では本件土地を取得する方向で進めることで異議がないという結論が出された(乙10)。 また,α町は,同日,庁議を開催し,Aが提示した2億6500万円で本件土地を取得するという方針を決め,併せて,本件土地取得に関して,町議会の全員協議会に報告することも決定した。 (13) その後,Aによる本件土地の測量の結果,実測面積(8091.57㎡)が公簿面積(8659.09㎡)よりも567.52㎡少ないことが判明したことなどから,α町は,Aとの間で,本件土地の価格を2億6000万円程度とするよう交渉を進めた。 (14) Bは,平成16年8月31日,全員 659.09㎡)よりも567.52㎡少ないことが判明したことなどから,α町は,Aとの間で,本件土地の価格を2億6000万円程度とするよう交渉を進めた。 (14) Bは,平成16年8月31日,全員協議会において,本件土地について,E鑑定の鑑定評価額,Aから提示された代金額,Aが競落した価格等を報告したところ,出席議員からは,鑑定評価額に妥当性はあるのか,近傍に比較すると高すぎるのではないか,このような金額では町民は理解できないのではないか,不動産鑑定は一人によるものか,金額等について再度検討願いたい,今回の経緯をふまえてAと協議してはどうか,だめなら断るしかないなどの意見や質問が出された。これに対し,Bは,回答が遅れれば売買自体の成立が難しくなるなどと回答したが,これらの質疑応答の結果,Bが再度交渉して,その結果を全員協議会に報告することとなった(甲7)。 (15) Bは,平成16年9月1日,再度,Aと本件土地の価格交渉を行ったところ,Aから2億5000万円の提示を受けた。 Bは,同月6日に開催された全員協議会において,本件土地を代金2億5-21-000万円で取得する方針であることを報告したところ,議員からは,坪当たり10万円の価格は住民に受け入れられるのかとの意見が出される一方で,不動産鑑定士が鑑定した価格であればやむを得ないのではないか等の意見も出され,Bは,時期的な問題もあるのでこの価格で契約させてもらいたいと述べた。その後,議員の一人が,Aと別途自ら交渉したい旨の申入れがあったことから,Bはこれを了承したが,後日,同議員から代金額を下げることはできなかった旨の報告があった(甲8)。 (16) Bは,平成16年9月21日,α町を代表して,Aとの間で,本件土地を代金2億5000万円で購入する旨の売買契約(本件売買)を締結 金額を下げることはできなかった旨の報告があった(甲8)。 (16) Bは,平成16年9月21日,α町を代表して,Aとの間で,本件土地を代金2億5000万円で購入する旨の売買契約(本件売買)を締結した(乙1。この契約を締結した行為を以下「本件契約締結行為」という。)。 (17) E鑑定については,その後,被控訴人からのE鑑定は不当である旨の申出を受けた社団法人P協会が,平成20年3月18日,E鑑定は,対象土地についての確認調査を怠ったうえ,条件設定の妥当性を無視した評価で,価格形成要因の分析における必要な減価修正についても十分な検討が行われたものとは言い難い極めて杜撰なものであり,不動産鑑定評価基準を違反し,専門職業家としての倫理規定遵守義務に違反した不当鑑定であるとの理由で,Eに対し,6か月間の会員権停止処分をした(甲16,17)。 (18) さくら市議会においては,平成21年9月1日,本件議案を賛成16,反対5の賛成多数で本件議決をした。 本件議案の提案理由書には,Bには裁量の逸脱,濫用がみられず,さくら市のBに対する損害賠償請求に係る全ての権利を放棄するため議案を提出するものであり,原審における認定の基礎とされたC鑑定の内容は,固定資産評価額等と著しくかけ離れている一方,本件売買の代金額は,固定資産評価額とも著しい差はなく,結果として取引において成立すると認められる正常価格に近いものとなっていること,水道普及率が近隣の市町村は90%を超える中でα町は70%台と低く,水道施設の利用率も120%を超えて断-22-水の危険等もあり,住民からも第2次拡張計画の推進を求める要望が出るなど浄水場の建設は緊急を要するという状況の下で,浄水場用地としての本件土地の取得は水道事業の管理者として必然的な選択であったこと等に鑑みれば,Bの 住民からも第2次拡張計画の推進を求める要望が出るなど浄水場の建設は緊急を要するという状況の下で,浄水場用地としての本件土地の取得は水道事業の管理者として必然的な選択であったこと等に鑑みれば,Bの判断に著しい錯誤はみられず,水道の事業計画の推進に必然的な土地の取得であったことを考慮して,Bに対する上記の権利を放棄することは当然の帰結である旨の提案者の意見が記載されていた(乙25)。 また,市議会での上記討論において本件議案に賛成した議員らは,その理由につき,本件土地の適正価格の点以外にも,浄水場の建設は緊急を要しており浄水場用地として本件土地を取得する必要性は高く,地元住民の要望も強かったことを重視するとともに,その方針に関しては全員協議会での議論を経ていたこと,Bが不法な利益を得たわけではないこと,本件土地上に浄水場を建設することは工事費が他の土地上の建設よりも安くなる可能性があることなどを考慮すべきである旨を述べていた(乙27)。 なお,本件議決に至るまでの経緯は以下のとおりである。すなわち,ア被控訴人代理人らは,平成21年7月28日,さくら市長,さくら市議会議長及びさくら市議会各議員宛に,「B前市長,J現市長に繋がる一部の市民が,さくら市のB前市長に対する本件損害賠償請求権を放棄する議決を求める「嘆願書」の署名を集め,同書をさくら市議会に提出し,市議会をして請求権の放棄をさせようとしているが,行政の非違の最終的判断は,司法の専権事項であって,議会や行政の長が,現に司法の判断の手続に入った案件について,判決を回避し,それを妨害するため,請求権の放棄を議決することは越権であり,かつ違法である。上記嘆願書が議会に提出されても,請求権の放棄という違法な暴挙をしないことを強く要請する。」という趣旨の要請書(乙22)を提出 妨害するため,請求権の放棄を議決することは越権であり,かつ違法である。上記嘆願書が議会に提出されても,請求権の放棄という違法な暴挙をしないことを強く要請する。」という趣旨の要請書(乙22)を提出し,同書は,同年8月11日のさくら市議会の全員協議会で報告された。 イ一方,Qは,同年8月18日,さくら市議会議長宛に,「本件は,市の-23-損害と認めるべき証拠や根拠があるとは言い難く,土地購入も適正な時価で行われており,裁量権の逸脱,濫用したものではなく,α町長当時の判断に間違いはみられないばかりか,水道事業計画推進に必要であったことに鑑みれば,権利放棄こそ,前市長の重荷を解放する手段であり,地方自治法96条1項10号の規定により議会の権利の放棄を求めて,署名活動を行ったものである。」との嘆願書(乙23)を1658名の署名を添えて提出し,同書面は,同月21日のさくら市議会の全員協議会で報告された。 ウ被控訴人代理人は,同年8月26日,さくら市議会議長宛に,「最近になって,一部の住民からさくら市に対し,宇都宮地裁がB旧α町長に1億2000万円の支払を命じた判決に関して,請求権の放棄を求める嘆願書が提出され,現在,その是非について市議会の審議が予定されているが,議会は,市民のために厳しくチェックする機関であるにもかかわらず,このような不当な放棄をすれば,住民の声が反映されないばかりか,住民訴訟そのものを否定してしまうことになるので,上記請求権の放棄を求める嘆願書を議会に取り上げないことを強く要望する。」との陳情書(乙24)を提出し,同書は,同月31日のさくら市議会の全員協議会で報告された。 エさくら市議会議員Rほかは,同年8月28日,さくら市議会議長に対し,同年9月1日から開催される市議会(平成21年第3回定例議会)において, ,同月31日のさくら市議会の全員協議会で報告された。 エさくら市議会議員Rほかは,同年8月28日,さくら市議会議長に対し,同年9月1日から開催される市議会(平成21年第3回定例議会)において,本件訴訟の対象となっている損害賠償請求権の放棄の議案を,議案内容を示し提出したい旨を通知し,同年8月31日の議会運営委員会において,議案を同年9月1日の本会議において審議することを決定した(甲38の1ないし3)。 オ上記経緯を経て,さくら市議会は,同年9月1日,本件議決をした。 (19) 本件訴訟における差戻し前の控訴審は,本件における口頭弁論を平成21年7月14日に終結し,判決言渡日を同年9月29日と指定したが,同年-24-9月1日,控訴人から口頭弁論の再開の申立てがされたことから,同月15日,口頭弁論を再開する決定をし,同年10月29日の口頭弁論期日において,控訴人から本件議決によって本件に係る損害賠償請求権が消滅した旨の主張がされ,再度口頭弁論を終結した。 2 Bの損害賠償責任について(1) α町あるいはこれを承継したさくら市に対する損害賠償責任がBに生じていた点についての判断は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第3,2に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア 25頁22行目の「平成16年当時,」の次に「β町との合併が平成17年3月28日に控えていたこともあり,」を加え,25行目の「前記1(8)」を「前記1(7)」に改める。 イ 29頁19行目から21行目までを次のとおり改める。 ウしかも,本件競売事件における本件競売物件の評価額は,本件競売物件1ないし11の土地が2119万円,本件競売物件12の土地及び本件競売建物が2404万円の合計4523万円であり,建物そのものの評価額及び本件土地 売事件における本件競売物件の評価額は,本件競売物件1ないし11の土地が2119万円,本件競売物件12の土地及び本件競売建物が2404万円の合計4523万円であり,建物そのものの評価額及び本件土地に含まれない12の土地の一部を除いて,本件土地に対応する評価額を計算すると3889万円となる(甲3)ところ,この評価額は,競売という特殊な市場での評価を得るための競売市場減価がされているので,減価される前の評価額を評価書にしたがって求めると7189万円となり,また,上記(15)のとおり,Aは,本件土地に含まれない本件競売物件12の土地の一部及びその上の本件競売建物を,他に売却しているが,その際の売買価格は,建物は0円,土地は500万円であり,土地1㎡当たりの価格は1万2081円である。 そうすると,E鑑定の評価額は,これら競売における評価額や競落後実際に売買された額とかけ離れた額であり,その鑑定の内容に-25-ついても上記ア(原判決引用部分)に指摘したように多くの問題的がある上,基本的な調査が不十分であり,現に,財団法人P協会は,E鑑定について,対象土地についての確認調査を怠ったうえ,条件設定の妥当性を無視した評価で,価格形成要因の分析における必要な減価修正についても十分な検討が行われたものとは言い難い極めて杜撰なものであり,不動産鑑定評価基準を違反し,専門職業家としての倫理規定遵守義務に違反した不当鑑定であるとの理由で,Eに対し6か月間の会員権停止処分をしていることからしても,E鑑定の結果をもって本件土地の適正価格と認めることはできない。 ウ 33頁7行目の「そのような事実を裏付ける的確な証拠はない。」を「本件土地の種別は宅地見込地であるから,宅地見込地としての評価の参考にするとの観点からすると,取引事例とする土地が農地である 。 ウ 33頁7行目の「そのような事実を裏付ける的確な証拠はない。」を「本件土地の種別は宅地見込地であるから,宅地見込地としての評価の参考にするとの観点からすると,取引事例とする土地が農地であるか否かは重要ではなく,宅地にするのにどの程度の難易度があるのかが問題であって,C鑑定士は,証人尋問において,田だから畑だから山だからということではなく,出来上がりの宅地とどのくらいの開差があるかという観点で見る旨述べていて評価の方法として妥当なものと認められるから,農地を取引事例とすることが不適切であるとの控訴人の主張は採用できない。」に改める。 エ 33頁9行目の「当該基準」から11行目末尾までを「C鑑定においては,本件土地が宅地見込地であるため,宅地見込地である「γ-1」の土地を基準値として用いたものであり(証人C),これを適切ではないとする控訴人の主張は採用できない。」に改める。 オ 33頁15行目の「しかし,」から18行目末尾までを「しかし,C鑑定における開発法の試算は,1区画平均230㎡の戸建専用住宅敷地を26区画分譲する場合の開発を想定して,宅地造成工事費1億0281万4000円(1㎡当たり1万2500円)を計上しているものであり,その-26-単価は類似の造成工事費を参考として査定されており(甲6の別表4),これを過大であるとする事情はうかがわれないから,上記控訴人の主張は採用できない。 さらに,控訴人は,C鑑定の結果が近隣土地の路線価と乖離していて信用できない旨主張するが,路線価は,国税庁によって市街地的形態を形成する地域にある宅地を路線価方式で評価するものであり,宅地見込地の評価ではないから,宅地見込地として評価しているC鑑定による鑑定評価額が近隣土地の路線価と乖離しているからといって,その鑑定が不適切であると にある宅地を路線価方式で評価するものであり,宅地見込地の評価ではないから,宅地見込地として評価しているC鑑定による鑑定評価額が近隣土地の路線価と乖離しているからといって,その鑑定が不適切であるということにはならず,控訴人の上記主張は採用できない。」に改める。 カ 34頁1行目の次に,次のとおり加える。 なお,控訴人は,この点について,AとDとは特別の事情があったために,破格に低額の1㎡当たり1万2081円で土地の売却がされたものであり,この売買代金を根拠にC鑑定の評価額が適正であるとすることはできない旨主張するが,AのDへの売却価額が破格に低額であることを認めるに足りる的確な証拠は存在しないから,控訴人の上記主張は採用できない。 キ 34頁17行目の「前記1(8)」を「前記1(6)」に,26行目の「前記1(15),甲7」を「前記1(14)」に改める。 ク 36頁8行目の「これに対し,」の次に「控訴人は,競売における売却価額は適正価格を考える上で参考にならないから,Bが本件競売物件が約4500万円で売却されたことを把握していても,そのことはBが裁量を逸脱,濫用したことの根拠とならない旨主張する。しかし,競売による売却価額は,競売という特殊な市場で形成される価格であるから,その価格をもって,直ちに通常の市場で形成される適正価格と扱うことができないとはいえるものの,競売にあたって売却基準価額を定めるための評価額を求める場合,一般に,通常の市場において形成さ-27-れる額を求めた上で,競売市場減価をして評価額を求めていることからも明らかなように,売却価額は,競売における評価額に基づき定められた売却基準価額を前提とした競争入札の過程を経て形成されるのであり,通常の市場で形成される適正価格と相応に関連して 求めていることからも明らかなように,売却価額は,競売における評価額に基づき定められた売却基準価額を前提とした競争入札の過程を経て形成されるのであり,通常の市場で形成される適正価格と相応に関連しているということができるから,売却価額が適正価格を考える上で参考にならないとする控訴人の主張は採用の限りでない。そして,約4500万円で売却された物件について,競落後1か月もたたない時点で,2億7390万円の鑑定評価がされたのであるから,競売による売却価額を把握している者としては,鑑定評価額について疑問を抱いてしかるべきである。 また,」を加える。 ケ 37頁10行目の次に,次のとおり加える。 さらに,控訴人は,平成16年8月31日の全員協議会で価格について多くの議員から疑問が出されたが,その後の同年9月6日の全員協議会では根本的な見直しを求めるような状況ではなかったから,鑑定を見直すべき事情があったとはいえない旨主張する。 しかし,同年8月31日の全員協議会の状況は上記1(14)のとおりであり,出席議員からは,鑑定評価額に妥当性はあるのか,近傍に比較すると高すぎるのではないか,このような金額では町民は理解できないのではないか,不動産鑑定は一人によるものか,金額等について再度検討願いたい,今回の経緯を踏まえてAと協議してはどうか,だめなら断るしかないなどの意見や質問が出されたのであり,これらの意見や質問を踏まえれば,Bにおいても,当然,鑑定について再検討すべきであって,その後の全員協議会において根本的な見直しが求められなかったからといって,再検討しなかったことが正当化されるものではなく,控訴人の上記主張は採用できない。 さらに,控訴人は,不動産鑑定士であるEは,その鑑定結果が適-28 しが求められなかったからといって,再検討しなかったことが正当化されるものではなく,控訴人の上記主張は採用できない。 さらに,控訴人は,不動産鑑定士であるEは,その鑑定結果が適-28-正であると認識しているのであるから,Bが直接Eに説明を求めていないことは不適切であったとはいえない旨主張するが,E鑑定の鑑定評価額が,競売による売却価額の約6.1倍,当初Aが提示した代金額の約3.9倍もの高額になっていることから,Bとしては,その理由について,E鑑定においてその理由が合理的に説明されているかを検討するに当たり,Eに直接説明を求める必要があったといえるのであり,上記の事情によれば,Bに不動産鑑定に関する専門的な知見がないとしても,E鑑定の鑑定評価額に疑問を抱いてしかるべきであり,最終的にその適否を判断するに当たっては,他の鑑定士に鑑定を依頼するなど,専門知識を有する者を活用することは十分に可能であったといえる。控訴人の主張は,採用することができない。 (2) 以上のとおり,本件においては,α町が本件土地を取得する必要性は認められるものの,本件売買の代金額は高額に過ぎるため,違法な財務会計行為である本件契約締結行為により適正価格との差額相当額の損害がα町に生じており,そのことについてBには過失があるというべきであるから,Bはα町に対し,その損害賠償責任を負うことになる。 3 本件議決の効力について(1) 地方自治法96条1項10号は,普通地方公共団体の議会の議決事項として,「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」を定めているが,この「特別の定め」の例としては,普通地方公共団体の長はその債権に係る債務者が無資力又はこれに近い状態等にあるときで一定の要件を満た の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」を定めているが,この「特別の定め」の例としては,普通地方公共団体の長はその債権に係る債務者が無資力又はこれに近い状態等にあるときで一定の要件を満たす場合にはその議会の議決を経ることなくその債権の放棄としての債務の免除をすることができる旨の同法240条3項,地方自治法施行令171条の7の規定等がある。他方,普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄をする場合に-29-おけるその放棄の実体的要件については,同法その他の法令においてこれを制限する規定は存しない。 したがって,地方自治法においては,普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって,その議会の議決及び長の執行行為(条例による場合は,その公布)という手続的要件を満たしている限り,その適否の実体的判断については,住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられているというべきである。もっとも,同法において,普通地方公共団体の執行機関又は職員による公金の支出等の財務会計行為又は怠る事実に係る違法事由の有無及びその是正の要否等につき住民の関与する裁判手続による審査等を目的として住民訴訟制度が設けられているところ,住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議決がされた場合についてみると,このような請求権が認められる場合は様々であり,個々の事案ごとに,当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質,内容,原因,経緯及び影響,当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,住民訴訟の係属の有無及び経緯,事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して,これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な び影響,当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,住民訴訟の係属の有無及び経緯,事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して,これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする同法の趣旨等に照らして不合理であって上記の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは,その議決は違法となり,当該放棄は無効となるものと解するのが相当である。そして,当該公金の支出等の財務会計行為等の性質,内容等については,その違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等が考慮の対象とされるべきものと解される。 (2) そこで,これを本件議決についてみると,以下のとおりいうことができる。 アまず,本件土地は,上記2(補正後の原判決引用部分)のとおり,浄水-30-場用地としての条件に適合しており,地権者も1名で交渉が容易であったことなどから,α町においてこれを浄水場用地として取得する必要性が認められるものであって,本件契約締結行為の違法事由は専らその売買代金が高額に過ぎた点にあるものである。そして,その当時のα町においては,第2次拡張計画に基づく用地取得の予定時期を大幅に遅れている状況にあったところ,水道事業の管理者であったBは,用地取得の早急な実現に向けて努力すべき立場にあったものであり,他に適当な候補地が見当たらない中で,本件土地の所有者がα町に対し売却の意向を示していたのであるから,仮に,代金額に係る交渉を不調として本件土地の取得を断念するならば,用地取得の予定時期を既に数年過ぎて遅れていた浄水施設の設置など第2次拡張計画の実現が更に遅れることになり,α町及びその住民全体の利益に反する結果となる状況にあったものといえる。また,本件土地の売主であるAが最終的に本件売買で合意さ れていた浄水施設の設置など第2次拡張計画の実現が更に遅れることになり,α町及びその住民全体の利益に反する結果となる状況にあったものといえる。また,本件土地の売主であるAが最終的に本件売買で合意された代金額を要求することになった根拠は,α町が依頼した不動産鑑定士による鑑定結果(E鑑定)であったところ,一般に不動産鑑定の適否の判定は中立的な専門家の関与なしには困難であることに照らせば,仮にα町が依頼した他の不動産鑑定士によってより安価な鑑定評価額が出されたとしても,限られた期間内の当事者同士の交渉によって売主から代金額の大幅な引下げという譲歩を確実に引き出すことができたとは言い難い。そして,BによるAとの本件土地取得のための交渉は,E鑑定の内容をAに開示した結果,その鑑定評価額を前提として,そこからどの程度減額した金額を代金額とするかという交渉となったのであり,前記1(5)から(16)まで認定の経緯に照らしても,それが折衝としての実体を有しない態様のものであったとはいえない。 また,本件売買に関し,Bにおいて適正価格との差額から不法な利益を得て私利を図る目的があったなどの事情については,本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。 -31-イ本件売買における代金額は,α町議会の議決を得た3億円という用地購入費の予算の枠を5000万円下回るものであったのであり,本件売買により浄水場用地が確保され,浄水施設の設置など水道事業を拡充する第2次拡張計画の早期の実現が図られることによって,α町ないしさくら市及びその住民全体に相応の利益が及んでいるということもできる一方,Bが本件売買によって不法な利益を得たなどの事情は,本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。 ウところで,土地収用法その他の法律により土地等を収用し,又は使用す るということもできる一方,Bが本件売買によって不法な利益を得たなどの事情は,本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。 ウところで,土地収用法その他の法律により土地等を収用し,又は使用することができる事業に必要な土地等の取得又は土地等の使用に伴う損失補償の基準として制定された「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月29日閣議決定)」(甲11。以下「損失補償基準要綱」という。)は,公共事業等の起業者がその事業に必要な土地等を私法上の契約によって取得するいわゆる任意取得の場合であっても,起業者においていたずらに,資金面の制約,工期の切迫,交渉上の駆引きその他の理由から,収用の場合における補償額に比して過大あるいは過小の価額を提示するのは相当ではなく,収用の場合における補償額と同様,常に正当,公正なものであるべきであるとの考えに基づいて制定されていることからすると,国や地方公共団体は,公共事業の用地取得事務の遂行に当たっては,このような視点に基づき,損失補償基準要綱に沿って正当な補償額を算定し,これを相手方に提示して任意交渉を進めていくべきといえる。そして,損失補償基準要綱は,土地の補償額について,「正常な取引価格」をもって補償するものと定めているところ,栃木県地方用地対策連絡協議会においては,この「正常な取引価格」を「周辺土地の取引事例価格,地価公示価格,地価調査価格,不動産鑑定士による土地鑑定評価額等」を参考に算定するとともに,用地交渉においては,その算定根拠を権利者に説明すべきものとしている。α町を含む栃木県内の普通地方公共団体が用地-32-交渉にあたり以上のような姿勢をとっていたことは前記認定のとおりである。 そして,Bは,前記認定のとおり,本件土地取得に係るAとの交渉において,本件土地の 通地方公共団体が用地-32-交渉にあたり以上のような姿勢をとっていたことは前記認定のとおりである。 そして,Bは,前記認定のとおり,本件土地取得に係るAとの交渉において,本件土地の取得価格は不動産鑑定を行って決める旨を説明し,α町においては本件の鑑定依頼をしたものであることからすると,本件の鑑定依頼は,鑑定結果を専ら内部的な参考資料とする目的で行われたのではなく,α町がAと用地交渉をするに当たり,本件土地の適正価格を把握し,交渉の場面でAにもその根拠等を説明するための資料とするために行われたと認められる。 被控訴人は,平成16年3月のα町議会で浄水場用地取得に関して本件土地をその対象地としているかのような答弁をしていることなどから,上記答弁をした時点で,既に関係者との間で,本件競売物件が競落された後に売買交渉を行う密約が交わされていた可能性が高い旨主張するが,この時点では未だ誰が本件競売物件の競落人になるかは不明な状態であることからすれば,被控訴人主張のような密約が交わされたと解することはできない。被控訴人の主張は憶測の域を出るものではなく,そのような密約の存在を推認させるような事実ないし事情は,本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。また,被控訴人は,本件の鑑定依頼について,本件土地の価格吊り上げのための工作であったと考えざるを得ない旨主張するが,本件の鑑定依頼がされた経緯は前示のとおりであり,Bが本件売買によって不法な利益を得ることを意図したり,利益を得たとは認められないことなどからして,Bに本件土地の価格を吊り上げるための工作をする理由はなく,結局のところ,被控訴人の主張は,これを証拠上認めることができない。 確かに,本件の鑑定依頼に関し,町長であるBが関係部署の職員を同道しないでG を吊り上げるための工作をする理由はなく,結局のところ,被控訴人の主張は,これを証拠上認めることができない。 確かに,本件の鑑定依頼に関し,町長であるBが関係部署の職員を同道しないでGが経営する会社事務所に出向き,Gと個人的に不動産鑑定士の-33-推薦等の相談をしたという点は不可解な行動といわざる得ないが,平成16年6月3日開催の土地問題対策会議において,本件土地の取得に向けて水道課において検討を進めることとし,価格等が判明したら同会議を開いて再度検討するという結論に至りながら,その後,水道課において,その検討を進めていたことをうかがわせるような事実ないし事情を認めるに足りる証拠はなく,しかも,同会議の時点では既にAから7000万円の代金が提示されていた状況において,「価格等」が判明したら再度検討するとされていたことからすると,この「価格等」とは本件土地の適正と考えられるような価格を意味するものと解せられる。そうすると,同会議の会議録(甲9)には記載がないものの,同会議において本件土地について不動産鑑定を行うことなど,本件土地の適正な価格を把握するための手段等が話題となっていたとしても不自然ではなく,浄水場用地の取得が当時のα町における緊急の課題であったことからすると,水道事業の管理者であったBが,自ら伝手を頼って本件の鑑定依頼に方向性をつける行動をとったことには相応の合理的な理由があったというべきである。しかも,Gが会長を務める株式会社Fは,α町が公共事業の施行に伴う公共用地等の情報提供等について協定を締結していたα町宅地建物取引業者連絡協議会の加入会社であることからすれば,その時点においては,Bは本件の鑑定依頼について不適切な者に相談したものとまではいえないし,Eが本件土地について不当鑑定をする可能性があると判断 物取引業者連絡協議会の加入会社であることからすれば,その時点においては,Bは本件の鑑定依頼について不適切な者に相談したものとまではいえないし,Eが本件土地について不当鑑定をする可能性があると判断できるような資料がBにもたらされていたといった事情があったともいえない。 さらに,Aが本件土地の代金として新たに2億6500万円を提示してきたのは,Aとの交渉の過程でBがE鑑定における鑑定評価をAに開示したことによるものといえるが,その開示は,Bとしては,E鑑定における鑑定評価を本件土地の適正な価格であると認識していたことを前提としていて軽率のそしりを免れないものの,前示の地方公共団体における公共-34-用地取得の手続に則ったものといえる。 以上を総合すると,本件売買における代金額が高額に過ぎる結果に至った経緯について,Bの帰責性の程度は,小さいとはいえないとしても,Bにとって酌むべき相応の事情も認められるから,大きいとまではいえず,相応の程度にとどまっていると評価すべきある。 (3) そして,以上を前提として,本件議決の趣旨及び経緯について検討すると,本件議案の提案理由書には,本件訴訟の第1審判決(原判決)における本件土地の適正価格の認定の基礎とされたC鑑定書の内容を論難する記載がある一方で,当時のα町長であったBにとって本件土地の取得は緊急を要していて,水道の事業計画の推進のために水道事業の管理者として必然的な選択であったこと等が放棄の理由として記載されており,同議案に賛成した議員らの発言の中でも,浄水場の建設は緊急を要していて浄水場用地として本件土地を取得する必要性は高く地元住民の要望も強かったことを重視し,Bが不法な利益を得たわけではないなどが指摘されている。そして,このような市議会における審議を経た議決の経緯等 て浄水場用地として本件土地を取得する必要性は高く地元住民の要望も強かったことを重視し,Bが不法な利益を得たわけではないなどが指摘されている。そして,このような市議会における審議を経た議決の経緯等に照らすと,本件議決について,上記提案理由書の一部に第1審判決が採用したC鑑定を論難するような記載があるものの,提案理由書全体をみれば,その記載は,放棄議決の提案理由を強調し訴える政治的な表現とみる余地が十分あり,提案理由書の内容の一部であるその記載を直ちに議決の趣旨と同視することも適当ではないといえるのであって,提案理由書の一部に上記のような記載があるからといって,これを本件訴訟の第1審判決の法的判断を否定する趣旨のものとは解することはできない。また,さくら市のBに対する損害賠償請求権の放棄又は行使の影響についてみると,浄水場用地の取得は,α町の水道事業に係る公益的な政策目的に沿って同町の執行機関である町長が行うべき本来の責務として行う職務の遂行であるといえるし,本件売買の代金額は町議会の議決を得た用地購入費の予算の枠を下回るものであったところ,このような職務の-35-遂行の過程における行為に関し,損害賠償請求権が行使されることにより直ちに1億数千万円の損害賠償責任の徴求がされ,執行機関が著しく重い個人責任の負担を負うことになった場合には,以後,執行機関においては,職務の遂行に伴い個人の資力を超える高額の賠償の負担を負う危険を避けようとして,長期的な観点から一定の政策目的に沿ったそのような危険を伴う職務の遂行に萎縮的な影響が及ぶなどの状況が生ずるおそれもあり,上記の賠償責任につき一定の酌むべき事情が存するのであれば,その限りにおいて議会の議決を経て全部又は一部の免責がされることは,そのような状況を回避することに資する面もあるということ るおそれもあり,上記の賠償責任につき一定の酌むべき事情が存するのであれば,その限りにおいて議会の議決を経て全部又は一部の免責がされることは,そのような状況を回避することに資する面もあるということもできる。以上を総合すると,本件議決は,本件鑑定評価額に基づき高額に過ぎる代金額で売買契約を締結するに至ったことにつき,Bが,α町に多額の損害を与えた一方で,水道事業の管理者として地元住民の要望も強く緊急に必要とされた浄水場用地を取得し,自らが不法な利益を得たわけではない等の指摘がされる中でされたものであり,Bの賠償責任を何ら合理的な理由もなく免れさせたことを企図したものでないということができる。 なお,本件議決は,控訴人の第1審(原審)での敗訴を経て,差戻し前の控訴審の判決言渡期日の直前にされたものであるが,本件議決の適法性に関しては,住民訴訟の経緯や当該議決の趣旨及び経緯を含めた諸般の事情を総合考慮して裁判所がその審査及び判断を行うのであるから,第1審判決が請求を認容した後の上記請求権の放棄を内容とする本件議決によって,裁判所における審理及び判断が妨げられるといった事情は存在していないし,また,市議会の判断を裁判所の判断に優先させるということにもならないのであって,さらに,本件議決が主として住民訴訟制度における地方公共団体の財務会計行為の適否等の審査を回避し,制度の機能を否定する目的でされたことを基礎づけるような事情については,本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。本件議決がB個人の利益を図り,公の利益のための本件の住民訴-36-訟を無に帰せしめ,かつ,裁判妨害を意図したものであるから,地方自治の趣旨に反し違法,無効であるとする被控訴人の主張は採用できない。 (4) 以上の検討によれば,本件議決は,普通地方公共団体の 訟を無に帰せしめ,かつ,裁判妨害を意図したものであるから,地方自治の趣旨に反し違法,無効であるとする被控訴人の主張は採用できない。 (4) 以上の検討によれば,本件議決は,普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であって議会の裁量権の逸脱又はその濫用に当たるものとは認められないというべきである。 (5) 被控訴人は,Bに対する本件損害賠償請求権は,本件議決だけでは効力を生じない旨主張するが,前記前提事実(10)のとおり,本件議決の後,さくら市長は,これを受けて,Bに対し,本件議決の事実と権利放棄の事実を記載した文書を送付し,この文書はBに到達しているのであるから,Bに対する権利放棄の効力は生じているというべきである。 また,被控訴人は,本件議決に関し,議会運営委員会における審査手続や市議会における手続等に上記第2,6(2)エ及びオのとおり瑕疵があった旨主張するところ,確かに,証拠(甲31,38の1ないし3,39)によれば,本件議決に係る議会運営委員会及び市議会における手続等に被控訴人主張のような事実関係があったことは認められるものの,これらの事実関係は本件議決の効力に影響を及ぼすものとはならない。 (6) 以上の次第であるから,本件議決は有効であり,これに基づく控訴人の執行手続を経たことにより,さくら市のBに対する本件損害賠償請求権は消滅したというべきである。 4 したがって,控訴人に対しBに対する損害賠償請求の義務付けを求める被控訴人の請求は理由がない。 よって,上記請求を認容した部分の原判決は,その後にされた本件議決により不当となったから,原判決のうち控訴人敗訴部分を取り消し,この取消部分に係る被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとお よって,上記請求を認容した部分の原判決は,その後にされた本件議決により不当となったから,原判決のうち控訴人敗訴部分を取り消し,この取消部分に係る被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第24民事部-37- 裁判長裁判官三輪和雄 裁判官松村徹 裁判官小池喜彦は,差支えのため,署名押印することができない。 裁判長裁判官三輪和雄
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