平成14年7月11日宣告平成13年(わ)第544号,同第667号詐欺,殺人被告事件判決 主文 被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は,A,B及びCと共謀の上,被告人が自動車事故に遭ったことを奇貨として,D保険株式会社から保険金名下に金員の交付を受けようと企て,真実は,事故当時,被告人は無職であって休業損害を被った事実がないのに,Cが経営するE工業有限会社の従業員として継続的に稼働して給料の支払を受けており,前記事故により,平成12年10月27日から同年11月25日まで欠勤し続け,欠勤期間中の給与は全額支給していない旨の内容虚偽の休業損害証明書等を作成した上,同年11月28日ころ,福岡市a区bc丁目d番e号のD保険株式会社F支店において,同支店福岡サービスセンター課専門副長Gに対し,同休業損害証明書等を提出するなどして自動車損害賠償責任保険契約に基づく休業損害補償金の支払方を請求し,同人らをしてその旨誤信させ,よって,同人らをして,同年12月4日,福岡市f区gh丁目i番j号株式会社H銀行I支店の被告人名義の普通預金口座に21万円を,同月14日,同口座に14万円を,それぞれ休業損害補償金名下に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。 第2 被告人は,被告人が運転手や使い走りをするなどして仕えていたAからAが借金をしていたJ(当時57歳)を殺害するよう依頼されたことから,Jを殺害することを決意し,平成12年12月4日午前0時34分ころ,福岡市k区lm丁目n番o号付近路上において,Jに対し,殺意をもって,その背部及び胸部等を所携の包丁様のもので多数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,Jを左右肺刺創に 0時34分ころ,福岡市k区lm丁目n番o号付近路上において,Jに対し,殺意をもって,その背部及び胸部等を所携の包丁様のもので多数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,Jを左右肺刺創に伴う失血により死亡させて殺害した。 (証拠の標目)<略>(事実認定の補足説明)第1 争点判示第2の殺人について,被告人は,公判において,当初は公訴事実を認めていたものの,その後,Kとの共犯で実行したものである旨供述を変え,さらには,被告人らがJを刺した後に,LがJを刺した可能性がある旨供述するに至っているが,当裁判所は,判示第2の殺人は被告人が単独で実行したものと認定したので,補足して説明する。 第2 証拠上認められる動かし難い事実関係各証拠によれば,以下の各事実が認められ,これらの事実については,その証拠の性質等からして動かし難いものとみられ,また,当事者間に概ね争いがない。 1 平成12年12月3日午後9時ころ,Mは,Nとともに,J方を訪れ,酒を飲みながらJと雑談しているうちに,懐具合の話になり,Jは「今日の12時ころに金を持ってくるやつがいる。それが入ったら,貸してやる。」などと述べた。Jの携帯電話には,Mと雑談している間にも,何回か電話が入っており,また,Jからも電話をしていたが,同月4日午前0時過ぎころ,Jは,どこかに電話した後,「Oに行こう。12時半ころ,香椎のOで人と会う。」などと述べて,M,Nとともに,O香椎店へ赴いた。 2 同日午前0時18分ころ,Jらは,同店に入店したが,Jは,同日午前0時23分ころ,Lに架電した後,Mに対し,「Lが5万円持ってくるから,5万円やっとく。」などと述べた。そして,その後,Jは,どこからか架かってきた電話を受け,話をした後,「Oが分からんと言いよる。そこのPで待ち合わせした。何でも好きな ,「Lが5万円持ってくるから,5万円やっとく。」などと述べた。そして,その後,Jは,どこからか架かってきた電話を受け,話をした後,「Oが分からんと言いよる。そこのPで待ち合わせした。何でも好きなものを注文しとって。」などと述べて,同店を出ていった。 3 同日午前0時30分ころ,同店前を自動車を運転して通り掛かったQは,同店前の歩道上で,白っぽい服を着た男が黒っぽい服を着た男を追い掛けていくのを目撃し,車両の速度を落としたところ,さらに,黒っぽい服を着た男が倒れては起き上がって逃げ,白っぽい服を着た男がこれを追い掛けては組み付き,黒っぽい服を着た男は少し先の路地に逃げ込み,白っぽい服を着た男がこれを追っていくのを目撃した。Qは,先に進み,いったん路地を通り越したが,車両をバックさせ,路地が見える位置まで戻って見ると,黒っぽい服を着た男が手前に足を向けて路上に倒れており,そのそばに白っぽい服を着た男が立っており,その手には細長い刃物が握られていた。 4 同日午前1時ころ,Lが,同店でJの帰りを待つMらのところにやってきて,「Jさんと一緒ですか。」などと尋ねた。Lは,Jが一人で出ていったことを聞くと,「それは,まずかろ。」などと言って,店の外に出て,同店の駐車場などを探したが,Jを見つけることはできなかったので,店の外に出てきていたMに対し,1万円札5枚を渡し,Jに渡してくれるよう頼んだ。 5 同日午前7時15分ころ,出勤途中の会社員により,同店東側数十メートルの袋小路の路上でJの死体が発見された。 6 同日午後1時ころから,Jの死体を解剖した結果,Jの死因は左右肺刺創に伴う失血と認められた。死因に係る左右肺刺創は,①前胸部右側から入り,創洞が後ろやや右微か上に向かい,胸壁を貫通して右肺上葉を貫通後,右壁側胸膜後面に血腫を形成して終わる 果,Jの死因は左右肺刺創に伴う失血と認められた。死因に係る左右肺刺創は,①前胸部右側から入り,創洞が後ろやや右微か上に向かい,胸壁を貫通して右肺上葉を貫通後,右壁側胸膜後面に血腫を形成して終わる,創口からの深さが約14センチメートルのものと,②左側胸部から入り,創洞が右やや上に向かい,胸壁を貫通し,左肺下葉内に血腫を形成して終わる,創口からの深さが約16~17センチメートルのものであったが,これらは鋭利な刃器によるものと認められた。そのほかにも,Jには,頭部の1か所,頸部の2か所,背部の3か所に,さらに,左右上肢及び左大腿前面の数か所にそれぞれ創傷が存し,これらの創傷はいずれも上記の刃器による刺創,刺切創又は切創と考えて矛盾のないものであった。 第3 被告人の供述の変遷本件殺人被告事件についての手続経過及び被告人の供述内容は以下のとおりである。 1 平成13年5月9日,被告人は,本件殺人を被疑事実として通常逮捕されたが,その際の弁解録取において,被告人は,「Jさんはよく知っていますが,死んだことも知りませんでした。勿論私が殺したなんてことはありません。」と述べた。 2 同月12日,被告人は,本件殺人を被疑事実として勾留されたが,同月18日に,検察官が「まだ否認しているのか。」と尋ねたのに対し,「黙秘します。」「私は,殺していません。」と答えるなど,否認を続けた。 3 同月20日,前記勾留の期間は同月31日まで延長されたが,被告人は,同月21日付けの警察官調書において,本件殺人を認めるに至り,その後,警察官調書及び検察官調書において,要旨以下のとおり述べた。 平成12年10月初めころ,被告人は,福岡に戻ったが,A以外に頼るところがなかったことから,Aの運転手やAの妻R及び同女が経営するスナックのホステスの送り迎えなどをしていた。 以下のとおり述べた。 平成12年10月初めころ,被告人は,福岡に戻ったが,A以外に頼るところがなかったことから,Aの運転手やAの妻R及び同女が経営するスナックのホステスの送り迎えなどをしていた。Aは,Jに対し,バクチの負けで200万から300万の借金があるようで,Jから取立てを受けていたが,同年11月中旬過ぎになると,取立てが厳しくなったのか,「Jの奴は殺らないかん。」と露骨に口にするようになった。同年12月1日夕方頃,Aから呼び出されて同人方へ行くと,Aは,「トミお前が殺れ。殺るとはお前しかおらん。だいたいなら俺が殺るとばってんが,俺は,明日からZ組の当番たいのー。」などと言って,被告人にJを殺すよう命じてきた。被告人は,冗談じゃないと思ったが,Aの態度や被告人の立場上,これを拒むことができず,仕方なく「自分が殺ります。」と答えた。被告人は,その後,前記スナックのホステスらを誘って近所の飲食店に行った際,Aの命令であるため従わざるを得ないJ殺害に対する緊張感や恐怖感と,このようなことを自分に命じたAに対する不満から,我慢できずに,ホステスらに対し,ついAの悪口を言い,愚痴をこぼした。すると,このことをホステスから聞いたRが,同月2日,前記スナックにおいて,被告人に対し,「あんたも,Aの名前語って生きとろうが。うちんとがこんこと知ったら,あんた,殺されるばい。あんたは,やる,やる言うけど,口ばっかりやろ。」「あごばかりたたかんで,自分でしてごらん。」などと怒鳴り散らした。被告人は,同月3日午前2時ころ,Rを自宅まで送る自動車の中で,Rから,再び「あんた,昨日,うちんとにJば殺るって言いよったばってん,本当に殺りきるとね。 どうせ口ばっかしやろ。あんたJ殺らんやったら,逆にAから殺られるばい。覚悟しとかんね。」などと言われ,Jを から,再び「あんた,昨日,うちんとにJば殺るって言いよったばってん,本当に殺りきるとね。 どうせ口ばっかしやろ。あんたJ殺らんやったら,逆にAから殺られるばい。覚悟しとかんね。」などと言われ,Jを殺さなければ自分が殺されてしまうし,たとえ逃げ出してもAはどこまでも追って来るだろうと考え,Jを殺すことを決意した。そして,Rを自宅に送り届け,Rとともに自宅内へ入ると,奥の畳の部屋の机の上に,Aが護身用として置いていたネクタイケース入りの柳刃包丁を手に取り,「これで殺ります。」とRに言い,自動車の運転席シートの下に隠した。 同日午前10時過ぎころ,Aから「トミ,今日Jに金ば持って行くって電話しとけ。後は,全てお前に任せとくけん。」などと電話で言われ,実際に金などないのに,このように言うのは今日中に殺せということだと理解し,午後3時ころ,Jに,「今日,親父から残りの金全部を持って行くように言われています。今は,遠方にいますので後で持って行きます。」などと架電した。その後,Jと電話をやりとりして,O香椎店で会う約束となった。同所付近に着くと,ケースに入れたままの柳刃包丁をズボンの後ろ側の腰のところに差して隠し,自動車から降りて,Jに対して,「今,近くまで金を持って来ています。 Pのところにいます。Oがよく分かりません。」などと架電した。すると,Jが店外に一人で出てきたので,「ちょっとこっちに。」などとOから離れる方向へ歩いていきながら,柳刃包丁を取り出し,右手に持って,Jの上半身を刺そうとしたところ,Jが走って逃げようとしたので,無我夢中で,その背中に向けて何度か突き刺し,小さな路地に逃げ込んだJの下腹付近を力一杯刺した。Jも,持っていた小さなバッグで殴り掛かってくるなど,必死で抵抗するので,必死で包丁を振り回し続け,Jの上半身に向かって, に向けて何度か突き刺し,小さな路地に逃げ込んだJの下腹付近を力一杯刺した。Jも,持っていた小さなバッグで殴り掛かってくるなど,必死で抵抗するので,必死で包丁を振り回し続け,Jの上半身に向かって,何度か包丁で刺した。被告人とJはともに倒れ込んだことがあったが,このときもJはまた立ち上がったので,今度は両手でJの胸を力一杯刺した。すると,Jはその場に倒れながら「A,貴様。」などと声を出していた。とにかく無我夢中で,自分が殺らなければ逆にJから殺られてしまうという心境だった。Jが死んだことまでは確認せず,とにかく直ぐ停めていた自動車に乗り込むと,急いで現場から逃げた。犯行に使用した包丁は,ネクタイケースに入れたまま,コンビニのビニール袋に入れてその口を結び,福岡市f区g付近の橋の上から那珂川の中へ投げ捨てている。 4 平成13年5月31日,被告人は,判示第2の事実と同旨の本件殺人の公訴事実で起訴され,その後,同年7月30日に開かれた第1回公判期日における罪状認否において,被告人は,「公訴事実のとおり刺したことは間違いありませんが,私がやらなければ自分の方がやられるという気持ちで刺しました」旨述べた。 5 同年9月27日,第2回公判期日が開かれ,被告人は,被告人質問において,「AやRからJを殺すようやかましくいわれて,Jを殺さなければ自分が殺されると思った。一応話しに行くつもりだった。ファミリーレストランの場所が分からないから,近くのPまで来てくれんですかという感じでJを呼び出して,話しながら歩いて行く途中でJにバッグでポコンと叩かれたので,かーっとなって刺した。そして,包丁を見せたらまたバッグで仕掛かってくるので,逃げるときに刺した。前にJがピストルを持っているのを見たことがあったので,殺されるんじゃないかと無我夢中で刺した。何回刺 ーっとなって刺した。そして,包丁を見せたらまたバッグで仕掛かってくるので,逃げるときに刺した。前にJがピストルを持っているのを見たことがあったので,殺されるんじゃないかと無我夢中で刺した。何回刺したかは覚えていない。包丁は警察官を案内したgの川で捨てたことに間違いない。Jの死体の傷については,警察で聞いたが,こんなに刺したかなと自分では思う。ただ,順番は分からないにしても,全部自分が傷つけたものであることは間違いない。」旨述べた。 そして,同期日において,論告,弁論,結審予定の期日として,第3回公判期日が同年11月1日午前11時に指定された。 6 ところが,被告人は,同年11月1日の第3回公判期日に先立って,弁第10号証の「前回の裁判の時,検事さんが違う事をゆうので」で始まる書面を作成し,第3回公判期日において,同書面の取調べとともに,被告人質問がなされ,被告人は従前の供述を一部翻す旨述べたが,同書面及び同期日における被告人質問の内容は,概ね以下のとおりである。 Aらに言われてJを一人で殺したと言っていたが撤回する。平成12年12月3日午後12時ころ,gに行って,K某にちょっともめるかもしれないから一緒に来てくれるよう言って,Kを乗せて,Oまで行き,Kを先に自動車から降ろし,Jが出てきてから,自分は自動車から降りた。Jから「頼まれた金は。」と聞かれて,「5万しかない。」と答えると,Jが怒ってバッグで殴ってきたので,Kに持たせていた包丁を取り,バッグを落としたとき,背中と腹を刺した。背中を1回と腹を2回ぐらい刺しただけである。抵抗されて包丁を落としたとき,自分の手が切れたため,路地の奥の方に逃げた。洋服で血を拭くなどしながら,後ろを振り向くと,KがJを刺していたので,それを止めさせ,Kを先に自動車に乗せて,あとから自動車に乗った。 を落としたとき,自分の手が切れたため,路地の奥の方に逃げた。洋服で血を拭くなどしながら,後ろを振り向くと,KがJを刺していたので,それを止めさせ,Kを先に自動車に乗せて,あとから自動車に乗った。 PにJを呼んだと言っているが,近くや周りにはPは全くない。包丁は,Kをgで降ろしたときに橋の上から処分するように指示した。KやSをかばってやっても,自分のことしか考えてなく,毎日独房で悲しい思いをしているのに連絡も面会もないし,思いやりもないので本当のことを言うことにした。まさかJが死ぬなんて思ってもいなかった。Jを二人で刺し殺したことは間違いない。Kがこの事件にかかわっていることはAには話していない。捜査段階で,自分がJを殺さなければ自分が組長から殺されるんだと話したのは,警察のいうとおりにした。 7 そこで,補充捜査のため,第4回公判期日は一旦追って指定とされた後,平成14年1月21日に開かれ,被告人の主張するK某がKであることが明らかになった。そして,同期日において,捜査段階において被告人を取り調べたTの証人尋問が行われた後に,被告人質問が行われ,その中で,被告人は,さらに供述を変遷させたが,その新たな供述内容は概ね以下のとおりである。 KがJを刺した場面は見ていない。KがJを刺したと言ったのは,刺したんじゃないかと思ったからである。Kが帰るときにネクタイケースを持っていたので,包丁が入っていると思って,Kに処分しておくように言った。包丁が入っているか入っていないか知らないが,路地に忘れてきたんじゃないかと思った。警察の取調べでは,Aがこげん言いよるぞなどといろいろ言うので,勝手にしろと思って,警察がこうやろうああやろうというままに認めた。警察がPやろうと言うから,ああそうですよと言ったが,自分はPは知らない。二人で刺したという ん言いよるぞなどといろいろ言うので,勝手にしろと思って,警察がこうやろうああやろうというままに認めた。警察がPやろうと言うから,ああそうですよと言ったが,自分はPは知らない。二人で刺したということはAに言っている。Kと刺したと言ったが,Aには「嘘言うな。」と言われた。Kが刺していないのであれば,Jを第三者が刺したことになる。Lが1週間前に拳銃を持って,Jを殺すと言って探していたらしく,Lが刺した可能性がある。 第4 検討 1 そこで,検討するに,前記第3の3に要約した被告人の検察官調書及び警察官調書は,その内容自体具体的かつ迫真的である上,被告人にしか知り得ない突然AからJの殺害を命じられた被告人の心理的葛藤がよく録取されており,前記第2記載のJの言動,Qによる目撃状況やJの死体の受傷状況などの客観的事実ともよく符合している。また,前記のとおり,被告人は,当初否認していたものであるが,自白に転じた経緯については,被告人自ら第2回公判において,周りに迷惑がかかるから当初否認していたものの,「やっぱり自分がやったんやから,Jさんに成仏してもらわな,Jさんが浮かばれんということで,本当のことを言う気になりました。」(第2回公判調書中の被告人供述調書156項)と述べているほか,証人Tの公判供述によれば,「平成13年5月18日の午後6時過ぎに被告人を留置場から出すと,ちょっと顔つきが変わっていて,被告人が,ちょっと前かがみみたいになって,涙ながらに,すみません,実は自分やったんだと言った。否認から自白に転じた理由を尋ねると,Jの冥福を祈るということと,AのためにしたのにAは弁護士もつけてくれないし,差入れもしてくれないということを言った。 ただ,被告人が自分もやくざの飯も食うてきとる男だし,二勾留の5月21日から調書にして下さいという強 ことと,AのためにしたのにAは弁護士もつけてくれないし,差入れもしてくれないということを言った。 ただ,被告人が自分もやくざの飯も食うてきとる男だし,二勾留の5月21日から調書にして下さいという強い希望があったので,調書作成はその希望に従った。」ということであり,自白に転じた経緯についても合理的なものであると認められる。さらに,第2回公判における被告人質問において供述するところも概ね同旨である上,U及びVが,被告人,A,SとともにAA屋という食堂に行った際に,被告人からJの首を切ったとか胸を刺したと聞いたと一致して供述し,Vが,さらに,胸は2,3回刺した,十数回は身体を刺したりしてますよと被告人から聞いた旨供述していることともよく符合している。そうすると,これらの検察官調書及び警察官調書は,十分信用することができると認められる。 これに対して,被告人は,これらの調書は,取調べにあたった警察官から厳しく取り調べられるなどしたことから,その誘導にあわせたものであり,その一例としてPがその付近にあることなど知らなかったと主張するが,証人Tの公判供述からはそのような状況は全く窺われないのみならず,そもそも被告人がそのような主張を始めたのは第3回公判以降であり,第2回公判における被告人質問においては,何らそのような主張をしていなかったばかりか,検察官や警察官に対してはJの供養のためにも本当のことを正直に話した旨供述し(同420ないし422項),また,Pに呼び出したことを自ら供述している(同120項,264項)のであるから,これらの検察官調書及び警察官調書が誘導により作成されたもので信用性がないということはできない。 2 他方,被告人が,第3回公判以降主張するに至ったKとの共犯で敢行したものであるとの供述は,深夜,事前に何の相談もなく び警察官調書が誘導により作成されたもので信用性がないということはできない。 2 他方,被告人が,第3回公判以降主張するに至ったKとの共犯で敢行したものであるとの供述は,深夜,事前に何の相談もなく,突然,Kの自宅を訪れ,自動販売機での買物から戻ってきた同人に詳しい説明もすることなく,同人をO香椎店まで同行した上,Jとは何の接点もないKが包丁を持ってJと揉めていたというものであり,Kには本件以前に粗暴犯の前科前歴はない上,同人は平成10年8月27日以降,糖尿病により稼働不可と判断されて生活保護を受給し,現に本件当時もW病院で糖尿病と不眠症で治療を続行していたことをも併せ考えると,その内容自体不自然・不合理なものといわざるを得ない。また,被告人は,第3回公判に至って,供述を変遷させた理由として,Kをかばっているのに,同人から面会や差入れなどが全くないからかばうのをやめたというのであるが,被告人の理由とする事情は第2回公判においても既に存在していたものであり,それからわずか1か月余り後の第3回公判において,第2回公判までは全く主張していなかった新たな供述を始めるに至ったことを十分に説明できているとは到底言えず,供述の変遷に合理的理由があるとも認められない(なお,Kは,被告人がKとの共犯により実行したものとの供述を始めるのに先立つ平成13年8月2日,Xにより殺害されているところ,同人は同月23日付けで起訴されていることが認められ,起訴後相当期間内に福岡拘置所に移監されるのが通例であることからすると,同年7月5日に福岡拘置所に移監されている被告人が,XによるK殺害の話を聞き及んでいた可能性も否定できない。)。 加えて,被告人は,第3回公判においては,Kと犯行を実行したことはAには話していない旨供述していたのに,第4回公判においては,Aには が,XによるK殺害の話を聞き及んでいた可能性も否定できない。)。 加えて,被告人は,第3回公判においては,Kと犯行を実行したことはAには話していない旨供述していたのに,第4回公判においては,Aには話していた旨供述を変えているが,J殺害を命じたAに対して共犯者の存在を告げたかどうかというのは重要な点であるのに,それについての供述が理由もなく変わっていることが指摘され,この点も甚だ不自然である。更に,関係各証拠によれば,被告人は第2の犯行後すぐに,Aの手配により,Uらの助力を得て唐津に逃走し,同人らの関係者方に匿われたり,唐津にやってきたAと会食したり,同人から現金や着替えを渡されるなどの面倒をみてもらい,その後東京に逃げてのちもAと連絡をとったり,同人から送金を受けるなどしたことが認められるところ,本件証拠上,被告人以外にAからJ殺害の実行犯として遇された人物の存在は全く窺われないところである。 これに対して,弁護人は,目撃者であるYがKの姿を目撃している旨指摘するが,Yが目撃したのは年齢30代の男であり,当時56歳であったKの年齢とは全く符合しない上,取調中の被告人を見せられたものであるとはいえ,Yは目撃した男は被告人である旨供述しているのであるから,Yが目撃したのは被告人であると認めることができるし,被告人の第3回公判以降の供述内容どおりであるとすれば,目撃者であるQはKをも目撃するはずであるのに,Qは前記第2の3記載のとおり,O香椎店前の歩道上から路地までの間,攻撃していた人物として1人しか目撃していない。 そうすると,Kとの共犯で実行した旨の被告人の供述は到底信用しがたいというべきであり,採用できない。 3 さらに,LがJを刺した可能性があるとの被告人の供述は,その供述に至る経緯が不自然・不合理であることは,Kとの共犯で実行し した旨の被告人の供述は到底信用しがたいというべきであり,採用できない。 3 さらに,LがJを刺した可能性があるとの被告人の供述は,その供述に至る経緯が不自然・不合理であることは,Kとの共犯で実行した旨の被告人の供述の際に述べたところと同様であり,また,その供述自体根拠が薄弱である上,前記第2の4記載のLの行動に照らし,到底信用できない。 4 以上の次第であって,被告人の検察官調書及び警察官調書等関係各証拠によれば,判示第2のとおりの事実を認めるに十分であり,この認定に合理的疑いを差し挟む余地はないものと判断した。 (累犯前科) 1 事実平成6年7月26日福岡地方裁判所宣告恐喝未遂罪により懲役2年平成8年7月25日刑の執行終了 2 証拠前科調書(乙23)(法令の適用)罰条第1の行為刑法60条,246条1項第2の行為刑法199条刑種の選択第2の罪有期懲役刑を選択累犯加重刑法56条1項,57条(第1及び第2の各罪の刑に再犯の加重,ただし第2の罪の刑については刑法14条の制限に従う。)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い第2の罪の刑に刑法14条の制限内で法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 本件は,判示のとおりの詐欺(第1)及び殺人(第2)の事案である。 2 まず,殺人についてみると,被告人は,世話になっていた暴力団組長Aから同人に対して債務の返済を求めてきていたJを殺害するように執拗に命じられたことから,包丁様のものを携行してJと面会したところ,Jからバッグで叩かれて激昂したことも手伝って,前記包丁様のものを使用し ら同人に対して債務の返済を求めてきていたJを殺害するように執拗に命じられたことから,包丁様のものを携行してJと面会したところ,Jからバッグで叩かれて激昂したことも手伝って,前記包丁様のものを使用してJを殺害したものであるが,その殺意の形成過程はあまりにも短絡的で,至高の法益である人命を尊重しなければならないという配慮を欠いたものというほかなく,その動機に酌量の余地はない。また,犯行態様は,殺傷能力の高い包丁様のものを用いて,無防備なJの背後からその背部を突き刺すなどして,身体の枢要部を執拗に刺突したもので,極めて凶暴かつ卑劣なものである。そして,何よりも被告人のこのような行為によりJのかけがえのない生命が奪われており,結果はあまりにも重大である。Jに被告人から殺されなければならないような落ち度はなく,死を迎えるまでの肉体的苦痛,精神的苦痛や,突然にして最期を迎えることを余儀なくされた無念さは察するに余りあり,遺族らが厳罰を求めるのも無理からぬところである。加えて,被告人は,遺族に対して仏壇代として10万円を支払い,また,Jを刺したこと自体は認め,Jの冥福を祈る旨述べるなど反省の情を示してはいるものの,他方で,前示のように不自然・不合理に供述を変遷させており,自己の犯行を直視し,真摯な反省に基づいてその犯行の全容を明らかにしているとは到底認め難い。 3 次に,詐欺についてみると,被告人らは,被告人が自動車事故に遭ったことを奇貨として,就業の実態がないのに休業損害金名下に保険金を騙取しようと企て,犯行に及んだものであり,その動機に酌むべき点はなく,保険金制度を悪用し,35万円もの金員を騙取したというその結果も軽視することはできない。 4 以上に照らせば,被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。 5 他方,いずれの犯行についても,被 く,保険金制度を悪用し,35万円もの金員を騙取したというその結果も軽視することはできない。 4 以上に照らせば,被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。 5 他方,いずれの犯行についても,被告人が発案したものではなく,Aが自らにおいて利益を受けることを企図し,そのAに命じられて被告人が敢行したものであり,その意味で被告人の犯行はAに追随したものであるといえること,被告人は,詐欺の事実を認めているほか,前記のとおり,殺人のJの遺族に対して10万円を支払うなど,被告人なりの反省の情を示していること,詐欺の被害については共犯者の出捐により被害弁償がなされていること,情状証人として被告人の兄が出廷し,社会復帰後の被告人の更生につき協力する意向を表明していることなど,被告人のために酌むことのできる事情も認められる。 6 しかしながら,これら被告人のために有利に酌むべき事情を十分合わせ考慮しても,被告人の犯行とりわけ殺人の結果があまりにも重大であることなどに照らせば,主文の量刑はやむを得ないものと判断した。 7 よって,主文のとおり判決する。 (検察官長田守弘,私選弁護人大神朋子各出席)(求刑-懲役13年)平成14年7月11日福岡地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官谷敏行裁判官武田瑞佳裁判官古庄研
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