-1-主文原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,主任弁護人吉田康紀作成の控訴趣意書及び控訴趣意書(3)並びに弁護人中山博之作成の控訴趣意書(2)に,これに対する答弁は,検察官藏重有紀作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 第1控訴趣意に対する判断 弁護人の控訴趣意は,①理由不備,理由齟齬,②訴訟手続の法令違反,③事実誤認,④量刑不当の主張であって,論理的に先行している①及び②の主張から判断すべきところではあるが,原審においては,公判前整理手続を経て「本件交差点(原判示の交差点をいう。以下同じ)に進入したときの被告。 人車両(被告人が運転する原判示の普通乗用自動車をいう。以下同じ)側の信号の表示が赤であったか否か」が本件の争点。 とされ,この点を中心に審理がなされて原判決の判断に至っており,本件控訴趣意においてもこの点が中心となるものと理解されるから,控訴趣意の①及び②の論旨に先立ち,まず③の事実誤認の論旨について検討を加える。 事実誤認の論旨は,原判決が唯一の証拠としたAの原審公判廷における供述(以下「A公判供述」という)には全く。 信用性がないから,A公判供述を根拠として被告人の赤信号看過を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,原判決の「事-2-実認定の補足説明」の項の第2の2のA公判供述の信用性,同3のBの原審公判廷における供述(以下「B供述」という)。 の信用性及び同7の結論における説示は是認することができず,原判示の被告人の過失を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。以下説明する。 原判決は,A公判供述について,そ 性及び同7の結論における説示は是認することができず,原判示の被告人の過失を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。以下説明する。 原判決は,A公判供述について,その内容をおおむね「(ア)Aは,本件交差点に差しかかったところ,東西方向の歩行者用信号が赤になったので,南東角の歩道上に信号待ちのため立ち止まった。(イ)そうしたところ,まず,市道ab丁目線の北側から被告人車両のヘッドライトが見えた。最初にそのライトが見えたときは事故が起こるとは感じなかった。その後,信号が変わるころ,たぶん赤から青に変わる少し前だったと思うが,歩行者が横断歩道を渡ろうとしたと思うが,その中の誰かが「危ない,危ない」と言うのが聞こえ,そちらの方を見たところ,歩行者は止まった。歩行者の誰かが危ないと言った後に,B車両(Bが運転する原判示の普通乗用自動車をいう。以下同じ)が発進し,それと同時だと思うが,信号が青に変わ。 った。(ウ)このとき,B車両の対面信号か,歩行者用信号か,両方が視野に入っていたと思う。B車両は,普通の車の出足よりはちょっと早く,ぐんと加速するような感じで,結構スピードが出ていた。信号が青に変わってからB車両が被告人車両と衝突するまで3秒くらいであった。B車両発進時の被告人車両の位置は,ヘッドライトしか見えなかったため,よくわからない。(エ)被告人車両のライトは上向きになっていると感じられる程ではなかったが,通常よりまぶしかった」と要約した上,A公判供述の信用性について,①Aには,ことさら虚偽の供述-3-をする動機が見当たらないこと,②Aは,本件事故発生現場の近くの,事故の状況を見ることができる位置にいたことが認められること,③Aの目撃状況についての供述は,実際に見聞きした体験をそのまま述べている する動機が見当たらないこと,②Aは,本件事故発生現場の近くの,事故の状況を見ることができる位置にいたことが認められること,③Aの目撃状況についての供述は,実際に見聞きした体験をそのまま述べているとしか考えられないような具体性,迫真性を帯びているし,自分が見ていないことについてはその旨正直に述べていて,その供述態度はしんしなものであること,④A公判供述は,鑑定書(原審甲26号証)のような客観的な証拠の内容と符合しているだけでなく,特徴的な事実についてもその理由を無理なく説明し得るなど,自然で合理的な内容といえることを指摘して,基本的にA公判供述は信用することができるものであり,少なくともB車両が被告人車両に衝突したときにB車両の対面信号が青であったという点については疑いを抱かせるような事情はないとし,ただし,B車両の発進時点に関する部分については,B車両が対面信号が青に変わる直前かそれと同時に発進した可能性を含むという限度で信用することができるとし,Aの供述の変遷につきA公判供述の信用性を減殺するような事情にはならず,弁護人の原審における主張につきA公判供述の信用性を左右するに足りる事情はないとして,これらを考慮しても上記結論は変わらないと説示する。 そして,原判決は,上記に続けて,B供述は,信号が青に変わってから発進したとか,発進後の加速状況等のA公判供述に反する部分は信用することができないが,少なくとも青信号に変わった後で衝突したという限度ではA公判供述とも符合する内容となっていて,信用することができるとし,Cの原審公判廷における供述(以下「C供述」という)及びDの原審公判。 廷における供述(以下「D供述」という)は,事故当時の記。 -4-憶に基づくかどうかについて疑いを差し挟む余地がある以上,事実認定の基礎に用い 供述(以下「C供述」という)及びDの原審公判。 廷における供述(以下「D供述」という)は,事故当時の記。 -4-憶に基づくかどうかについて疑いを差し挟む余地がある以上,事実認定の基礎に用いることができないとし,Eの原審公判廷における供述(以下「E供述」という)は,単なる推測に基。 づく供述であって,B車両の発進時や衝突事故発生時の信号の色などを認定するための証拠とはなり得ないとし,また,被告人の原審公判廷における供述は不自然であって信用できないとし,結論として,信用性の高いA公判供述及びそれに符合する限度でのB供述によれば,B車両が対面信号が青に変わるのと同時かその直前に発進し,被告人車両と衝突した時点において,B車両の対面信号が青であったことについては合理的な疑いを差し挟む余地はなく,そうすると,被告人車両が本件交差点北側停止線の少なくとも10数メートル手前にいたときに,被告人車両の対面信号機が黄色表示から赤色表示になったことについては合理的な疑いを差し挟む余地はないと認められるなどとして,被告人は漫然時速約50キロメートルで対面信号機の赤色表示を看過して本件交差点に進入したものと認められると説示する。 以上の原判決の説示にかんがみると,原判示事実を認定するに当たって,その帰趨を決するものは,A公判供述の信用性であるから,以下A公判供述の信用性を検討することとするが,本件は,公判前整理手続による争点及び証拠の整理がなされた結果,本件の争点は「本件交差点に進入したときの被告人車両側の信号の表示が赤であったか否かである」と確認され,本件の争点に関する検察官の主張は「被告人車両が進行中,停止,線手前約73.2メートルの地点において,被告人側の対面信号は赤色表示を開始するものであり,被告人が本件交差点に進-5-入 され,本件の争点に関する検察官の主張は「被告人車両が進行中,停止,線手前約73.2メートルの地点において,被告人側の対面信号は赤色表示を開始するものであり,被告人が本件交差点に進-5-入したときの被告人車両側の信号の表示は赤であった」というものであり,この主張を根拠づける事実として,主張対照表及びこれの参照部分である検察官作成の「被告人が対面信号機の赤色表示を看過したことを認める事実」と題する書面によれば,「被告人が対面信号機の赤色表示を看過したことを認める事実」として「現場交差点で,信号待ちのため停止し,進路前方の車両用信号機が青色表示となったので,直進するため発進し,その後,右方から進行してきた被告人車両と衝突した」旨のBの供述,B車両の進行した距離,時間等のほか,被告人側の走行距離,信号表示等をあげ,この事実を裏付ける事実としてA,C,D,Eの各目撃内容をあげており,Aの目撃内容は「本,件交差点を歩行して東方から西方へ横断しようとしたが,歩行者用信号機が赤色表示であったので立ち止まり,その後,青色表示となったので,横断しようとした。しかし,右方から被告人車両が接近しているのに気付き,そのまま立ち止まり,その後,交差点内で本件事故を目撃した」というものであった。 以上の審理経過等に照らすと,Aの目撃内容は,Cら他の目撃者の目撃内容とともに,Bの供述の裏付けとして位置づけられていたことは明らかであるところ,原判決は,上記のとおり,A公判供述の信用性を中心に検討を加えて判断しており,検察官も,論告において,A公判供述を決定的に重要な証言と位置づけて主張するに至っているのであり,しかも,A公判供述は,当初検察官が立証を予定していた目撃内容と異なるものであるから,その信用性を判断するに当たっては,その供述内容を慎重 的に重要な証言と位置づけて主張するに至っているのであり,しかも,A公判供述は,当初検察官が立証を予定していた目撃内容と異なるものであるから,その信用性を判断するに当たっては,その供述内容を慎重に吟味して検討すべきである。 そこで,以下,原判決が基本的に信用することができる-6-と判断したA公判供述の信用性について検討を加える。 ( 1 )原判決が指摘するAの立場(上記3の①)及び目撃状況(上記3の②)が,A公判供述の信用性を担保する事情であることは明らかであるが,Aは,A公判供述での内容をこれまで一貫して供述していたものではなく,変遷させていることがうかがわれる。すなわち,Aは,捜査段階においては,A公判供述と大きく異なり,歩行者用の信号表示が赤から青に変わってから被告人車両のライトに気付いた旨の供述をしていたことがうかがわれ,また,本件事故から2か月足らずである平成21年4月7日の原審弁護人による事情聴取の際に述べた内容は,A公判供述とおおむね同趣旨であるが,A公判供述では,B車両が発進したとき,B車両の対面信号か,歩行者用信号か,両方が視野に入っていたと思う旨の供述が加わっているなど,Aの目撃供述に変遷がみられるのであって,変遷のあるA公判供述を信用することができるのかについては,原判決が指摘する供述の評価(上記3の③)を含めて,目撃状況についての供述内容を更に検討する必要がある。 ( 2 )原判決は「少なくともB車両が被告人車両に衝突し,たときにB車両の対面信号が青であったという点については疑いを抱かせるような事情はない」と説示するが,A公判供述をみても,Aは,衝突時について「事故を目撃して突然のこと,でびっくりしてその場に立ちすくんでしまい,まず110番通報した」旨供述するにすぎず,全体として衝突時 はない」と説示するが,A公判供述をみても,Aは,衝突時について「事故を目撃して突然のこと,でびっくりしてその場に立ちすくんでしまい,まず110番通報した」旨供述するにすぎず,全体として衝突時にB車両の対面信号表示が青であったことを前提に供述していることはうかがわれるものの,衝突時にB車両の対面信号表示が青であったことを確認した旨の供述はしていない。そして,原判決が要約-7-したAの「B車両が発進し,それと同時だと思うが,信号が青に変わった。このとき,B車両の対面信号か,歩行者用信号か,両方が視野に入っていたと思う」との供述があり,これを前提にすれば,衝突時のB車両の対面信号が青であったといえるのであるから,Aのこの供述について検討する。 原判決は,上記のとおり,A公判供述のうち,B車両発進時の信号表示が青であったことを裏付けるものとして「B車両,の対面信号か,歩行者用信号か,両方が視野に入っていたと思う」とその供述を要約するが,この部分は,Aが,捜査段階及び上記原審弁護人による事情聴取を含め,A公判供述において初めて現れたものであることがうかがわれるものである上,A公判供述においても,検察官の主尋問に対しては「歩行者用,の信号か車両用の信号かははっきりしないが,一緒の視野に入ったと思う。ほとんど同時くらいにB車両が発進した」旨供述し,原審弁護人の反対尋問に対してもほぼ同様に供述していたが,裁判所による補充尋問において,B車両が発進したとき確実に信号を見ていたのかという質問に対しては沈黙し,どういうことで青と言うのかという質問に対して「右側の車両が発,進したときは,恐らく,信号を見てたんだと思う」と供述し,どの信号を見ていたのかという質問に対して「その辺がはっ,きりしない」旨供述し,そのどちらかであるこ う質問に対して「右側の車両が発,進したときは,恐らく,信号を見てたんだと思う」と供述し,どの信号を見ていたのかという質問に対して「その辺がはっ,きりしない」旨供述し,そのどちらかであることは間違いないのかという質問に対して「はい」と答え,さらに,信号のあ,る西側の方向を見ていたというのであれば,右側にいたB車両がいつ発進したのか見えたのかという質問に対しては沈黙し,少しのやり取りの後「ab丁目線から来る車の方も見ていた,ので,そのときにB車両が発進するときの状態が視界に入って-8-いたのではないかと思う」旨供述し,ab丁目線の方に顔を向けていたこともあって,信号の方も見ながら,視界の中にはab丁目線から来る車もB車両も目の中に入っていたということかという質問に対して「そう思う」と答え,B車両が発進し,たときに同時に信号も見えていたという記憶なのかという質問に対して「はい」と答えているのであって,このような供述,経過をみると,原判決がA公判供述を要約した上記内容に誤りがあるとはいえないが,原判決も説示するとおり,どこを見ていたかの供述にぶれがあり,あいまいなものである上,答えに詰まって沈黙したり明確でない供述部分に対して,誘導的な質問をすると,Aが安易に迎合して供述する傾向もみられるのであって,この部分の信用性には疑問がある。なお,この点に関して,原判決は,上記供述のぶれと,Aがいろいろな方向に視線を向けながら周囲の状況を見ていたことがうかがわれることに照らすと,Aが,B車両の発進とその対面信号又は歩行者用信号が青に変わるところが同時に見えていたという可能性はあるにしても,他方で,Aが,視線を動かしていく中で,B車両の発進に気付き,その直後に信号が青に変わったことに気付いたが,その状況を信号が変わ 信号が青に変わるところが同時に見えていたという可能性はあるにしても,他方で,Aが,視線を動かしていく中で,B車両の発進に気付き,その直後に信号が青に変わったことに気付いたが,その状況を信号が変わるのとほとんど同時と思うと供述している可能性があることもまた否定できない旨説示するが,同時に視界に入る可能性があるからといって,相当程度離れた複数の物体の動きや色の変化を同時に認識できるかどうかは別問題であって,ほんの直前まで予期していなかった交通事故という事態を目の前にして,事故直前の一方当事者の車両の動きと信号の色の変化を同時に正確に認識するのは相当な困難を伴うものとみるべきであるし,Aが,原審弁護人の信号が青にな-9-って渡り始めていないのはなぜかという質問に対し「分から,ない」とか「言われても答えようがない」と供述していることにも照らすと,B車両発進時の信号表示が青であった旨のA公判供述部分について,合理的な疑いを差し挟む余地がないほどの信用性があるというには疑問がある。 また,A公判供述は,対面の歩行者用信号が赤の段階で被告人車両のヘッドライトに気付いていたというのであるが,これは,歩行者用信号が青に変わったのを見てから被告人車両のライトに気付いたとする所論指摘の捜査段階のAの供述とは明らかに異なっているのであって,この点は,本件交差点の各信号表示が連動して変化する関係にある以上,相当程度大きな変遷というべきであるのに,こうした変遷が生じた理由については何ら説明されていない。 以上によれば,原判決が指摘する上記3の③の事情については,具体的で迫真性のあるものではあるが,信号表示との関係や事実の流れも含めると,上記のような疑問が指摘できるのであり,原判決の指摘する事情はA公判供述の信用性を担保するものではない。 ( ては,具体的で迫真性のあるものではあるが,信号表示との関係や事実の流れも含めると,上記のような疑問が指摘できるのであり,原判決の指摘する事情はA公判供述の信用性を担保するものではない。 ( 3 )また,原判決は,上記3の④に関して,Aは「B車,両は,普通の車の出足より早く,ぐんと加速するような感じで,結構スピードが出ていた,衝突まで3秒くらいだったと思う」旨供述しており,B車両が通常の加速で発進した場合には衝突までに約4.1秒かかるとの鑑定結果(原審甲26号証)に符合すると説示する。しかしながら,A公判供述は,B車両がゆっくり進入してきた旨のE供述,B車両がするするとゆっくり出てきた旨のC供述と整合しない上,ごく感覚的な速度や時間-10-についての供述には自ずからその正確性に限界があることからすると,B車両が発進した時点の対面信号表示に関するA公判供述の信用性に疑問が認められる以上,鑑定結果がこれに符合するかのようにみえることだけでは,A公判供述を信用することができるとはいえない。 ( 4 )そうすると,基本的にA公判供述は信用することができるとの原判決の説示は是認することができない。 上記の検討に加え,原判決が適切に説示するとおり,本件事故の当事者として刑事責任を問われかねない立場にあるBの供述の信用性については慎重に検討しなければならないところ,上記のとおり,B供述を裏付ける証拠と位置づけられていたA公判供述の信用性が認められない以上,これと符合する,少なくとも青信号に変わった後で衝突したという限度ではB供述が信用できる旨の原判決の説示を是認することはできず,その余の証人の供述については,C供述及びD供述はいずれも事実認定の基礎に用いることができないものであり,E供述はB車両の発進時や衝突事故発生時の信号 できる旨の原判決の説示を是認することはできず,その余の証人の供述については,C供述及びD供述はいずれも事実認定の基礎に用いることができないものであり,E供述はB車両の発進時や衝突事故発生時の信号の色などを認定するための証拠とはなりえないとの原判決の説示は結論において正当であって,関係証拠を検討しても,被告人が「信号機の信号表示が赤色であるのを看過したまま同交差点に進入し」たとの事実を認定するに足りるものは見当たらない。 以上のとおりであって,原判決が「事実認定の補足説明」の項の第2の2,同3及び同7において説示するところは是認することができず「犯罪事実」の項に記載された被告人,の過失行為を認定するに足りる証拠がなく,それを認定することができないことに帰するから,原判決には判決に影響を及ぼ-11-すことが明らかな事実の誤認があるといえるのであって,他の控訴趣意について検討するまでもなく,破棄を免れない。 論旨は理由がある。 よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決することとする。 第2自判本件公訴事実(変更後の訴因)は「被告人は,平成21年,2月13日午前3時20分ころ,普通乗用自動車を運転し,札幌市c区de条ab丁目f番地先の信号機により交通整理の行われている交差点をg方面からh方面に向かい直進するに当たり,同所は最高速度が40キロメートル毎時と指定された道路であったから,これを遵守すべきはもとより,対面信号機の信号表示に留意し,その表示に従って進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,対面信号機の信号表示に留意せず,漫然時速約50キロメートルで進行した過失により,同信号機の信号表示が赤色であるのを看過したまま同交差点に進入 行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,対面信号機の信号表示に留意せず,漫然時速約50キロメートルで進行した過失により,同信号機の信号表示が赤色であるのを看過したまま同交差点に進入し,折から左方道路から進行してきたB(当時24歳)運転の普通乗用自動車前部に自車左側面部を衝突させ,その衝撃により,自車を回転させながら右斜め前方に逸走させて,同交差点南西角歩道付近で信号待ちのため佇立していたF(当時21歳,同C(当時22歳)及び同D(当時21歳)に自車右後)部付近をそれぞれ衝突させ,前記C,同D及び同Fの3名を付近路上及び歩道上に転倒させた上,同Fを自車底部に巻き込み,よって,即時同所において,同Fを高位頚髄損傷の傷害により死亡するに至らしめたほか,上記C外4名に,別紙受傷状況一-12-覧表記載のとおりの傷害をそれぞれ負わせたものである」というものである。 上記の被告人が「信号機の信号表示が赤色であるのを看過したまま同交差点に進入し」たとの事実を認定するに足りる証拠がないことは,前記第1で説示したとおりであり,本件自動車運転過失致死傷の公訴事実については犯罪の証明がないから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。 平成22年7月8日札幌高等裁判所刑事部裁判長裁判官小川育央裁判官水野将徳裁判官樋上慎二(別紙省略)
▼ クリックして全文を表示