- 1 - 主文 1 原決定中、別紙目録記載の部分に関する部分を破棄し、同部分につき相手方の抗告を棄却する。 2 原々決定主文第1項及び1頁25行目に「A´」とあるのをいずれも「A」と更正する。 3 抗告手続の総費用は相手方の負担とする。 理由 抗告代理人中村和洋、同渡邉春菜の抗告理由について 1 抗告人は、複数の者が共同して実行したとされる学校法人明浄学院を被害者とする大阪地方検察庁の捜査に係る業務上横領事件(刑訴法301条の2第1項3号に掲げる事件。以下「本件横領事件」という。)の被疑者の1人として逮捕、勾留され、本件横領事件について起訴されたが、無罪判決(以下「本件無罪判決」という。)を受け、これが確定した者である。本件の本案訴訟(大阪地方裁判所令和4年(ワ)第2537号損害賠償請求事件。以下「本件本案訴訟」という。)は、抗告人が、上記の逮捕、勾留及び起訴が違法であるなどと主張して、相手方に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるものである。 本件は、抗告人が、検察官がAを本件横領事件の被疑者の1人として取り調べる際にAの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(以下「本件記録媒体」という。)等について、民訴法220条3号所定の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき」(以下、同号のこの部分を「民訴法220条3号後段」といい、この場合に係る文書を「法律関係文書」という。)に該当するなどと主張して、文書提出命令の申立て(以下「本件申令和6年(許)第5号文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件令和6年10月16日第二小法廷決定- 2 -立て」という。)をした して、文書提出命令の申立て(以下「本件申令和6年(許)第5号文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件令和6年10月16日第二小法廷決定- 2 -立て」という。)をした事案である。本件では、本件記録媒体であって相手方が所持するもののうち、抗告人に係る本件横領事件の公判(以下「本件刑事公判」という。)において取り調べられなかった別紙目録記載の部分(以下、この部分を「本件公判不提出部分」、本件刑事公判において取り調べられた部分を「本件公判提出部分」といい、両者を併せて「本件対象部分」という。)について、相手方が同号に基づく提出義務を負うか否かなどが争われている。 2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。 ⑴ 本件横領事件は、概要、明浄学院の理事長であったB、不動産の売買等を事業内容とする会社の代表取締役を務めていた抗告人及びAほか数名が、共謀の上、明浄学院を売主とする土地の売買契約の手付金として支払われた21億円をBが明浄学院のために業務上預かり保管中、これを同人らの用途に充てる目的で横領したというものであった。Bは、抗告人から第三者を通じて貸金18億円を受領し、これによって明浄学院の経営権を取得した後、上記手付金をもって上記貸金を返済したとされており、本件横領事件では、抗告人とB及びAらとの共謀の有無に関連して、抗告人が貸付先をB個人又は明浄学院のいずれと認識していたのかという点が問題となった。 Aは、本件横領事件の被疑者として、令和元年12月5日に逮捕され、同月6日に勾留されたところ、逮捕された後の当初の取調べでは、抗告人に対して上記貸金の貸付先がB個人であるとの説明はしておらず、その使途は明浄学院の再建費用であると説明した旨の供述をしていたが、同月9日以降の取調べでは、抗告人に対して貸付先がB 取調べでは、抗告人に対して上記貸金の貸付先がB個人であるとの説明はしておらず、その使途は明浄学院の再建費用であると説明した旨の供述をしていたが、同月9日以降の取調べでは、抗告人に対して貸付先がB個人であることを説明した旨の供述(以下「本件供述」という。)をするようになった。 抗告人は、本件横領事件の被疑者として、同月16日に逮捕され、同月17日に勾留された後、同月25日に本件横領事件について起訴された。本件刑事公判において、Aは、抗告人に対して貸付先がB個人であることを説明した旨の証言をしたが、その証言内容の信用性が争われ、本件記録媒体のうち同月9日の取調べに係る- 3 -約50分間の部分(本件公判提出部分)が取り調べられた。令和3年10月28日に本件無罪判決が言い渡され、その理由中において、上記証言内容は信用することができない旨の判断が示された。 ⑵ア抗告人は、令和4年3月、本件本案訴訟に係る訴えを提起した。 抗告人は、本件本案訴訟において、C検事が取調べ中にAを脅迫するなどの言動をしたため、AはC検事に迎合して虚偽の本件供述をするに至ったものであって、本件供述には信用性がなく、抗告人にはその逮捕当初から本件横領事件の嫌疑が認められない旨を主張し、C検事の上記言動のうち、非言語的要素(人の言動のうち、口調、声の大きさ、表情、身振り等の非言語的なものをいう。以下同じ。)として、大きな音が響き渡る強さで机を叩いたこと、Aを大声で怒鳴りつけたこと等を指摘し、相手方に本件記録媒体及びその反訳書面を証拠として提出することを求めた。これに対し、相手方は、逮捕当初は抗告人をかばう供述をしていたAが、C検事の説得によって真実である本件供述をするに至ったと評価することが十分可能であるなどと主張し、本件記録媒体の一部分の反訳書面(以下「本件反訳 相手方は、逮捕当初は抗告人をかばう供述をしていたAが、C検事の説得によって真実である本件供述をするに至ったと評価することが十分可能であるなどと主張し、本件記録媒体の一部分の反訳書面(以下「本件反訳書面」という。)を証拠として提出したが、本件記録媒体は提出しないとの意向を示した。 なお、本件反訳書面には、C検事の言動のうち非言語的要素についても、その一部を言語的に表現したものが記載されている。 抗告人は、同年12月、本件申立てをした。抗告人は、本件対象部分により証明すべき事実について、C検事のAに対する取調べの具体的状況及び内容(以下「本件要証事実」という。)であるとしている。 イ抗告人は、本件申立てに先立ち、Aが本件供述をしたこと等により抗告人をえん罪に陥れたなどと主張して、Aに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。令和5年3月、上記訴えに係る訴訟において、抗告人とAとの間で、Aが、本件本案訴訟において本件記録媒体が証拠採用されることを前向きに検討し、反対しないことを確認し、抗告人が、本件記録媒体中のAの顔にモザイクをかけ、声を加工し、プライバシー情報を出さず、報道機関に実名報道を避ける旨を- 4 -申し入れるなど、Aのプライバシーの保護に最大限配慮することを確認すること等を内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。 ⑶ 原々審は、令和5年9月、相手方に本件対象部分の提出を命じ、その余の本件申立てを却下する決定(原々決定)をした。原々審は、本件公判不提出部分の取調べの必要性について、本件供述の信用性の判断においては、C検事の言動のうち非言語的要素も重要であり、これが客観的に記録されている本件公判不提出部分は、本件要証事実との関係で最も適切な証拠であって、本件反訳書面や人証によって代替することは 断においては、C検事の言動のうち非言語的要素も重要であり、これが客観的に記録されている本件公判不提出部分は、本件要証事実との関係で最も適切な証拠であって、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるから、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いとした。 相手方は、原々決定に対し、即時抗告をした。 3 原審は、相手方に本件公判提出部分の提出を命ずべきものとする一方、要旨次のとおり判断し、本件申立てのうち本件公判不提出部分に係る部分を却下した。 抗告人は、本件刑事公判において本件記録媒体の複製物の提供を受け、これによりAの取調べにおけるC検事の言動を把握した上で、本件本案訴訟において上記言動について具体的な主張立証を行っているところ、抗告人の主張するC検事の言動について、相手方はおおむね争わないとしており、当事者間に争いがあるのは、重要とはいい難いものを除けば、C検事がAを恫喝したかどうかといった発言内容が重視されるものに限られる上、これについても本件公判提出部分や本件反訳書面を取り調べることによって推認することができるから、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いものではない。また、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出された場合には、これが抗告人側から報道機関等を通じて広く公開される可能性があるところ、Aが本件和解によって本件記録媒体に含まれる自己の名誉やプライバシーといった権利利益の全部を真意に基づいて放棄したなどとみることはできず、本件公判不提出部分が提出されることによってAの名誉、プライバシーが侵害されるおそれがないとはいえない。以上に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用し- 5 -たものとまではいえない。 4 しかしながら、原審 おそれがないとはいえない。以上に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用し- 5 -たものとまではいえない。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 本件の経緯に照らせば、本件供述は、抗告人が本件横領事件について逮捕、勾留及び起訴されるに当たり、その主要な証拠と位置付けられていたということができるところ、本件公判不提出部分は、検察官のAに対する取調べの過程を客観的に記録したものであること等からすると、抗告人と相手方との間において、法律関係文書に該当するということができる。 刑訴法47条は、その本文において、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」と規定し、そのただし書において、「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」と規定しているところ、本件公判不提出部分は、同条により原則的に公開が禁止される「訴訟に関する書類」に当たることが明らかである。 ところで、同条ただし書の規定によって「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は、当該「訴訟に関する書類」が原則として公開禁止とされていることを前提として、これを公にする目的、必要性の有無、程度、公にすることによる被告人、被疑者及び関係者の名誉、プライバシーの侵害、捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり、当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。そして、民事訴訟の当事者が、民訴法220条3号後段の規定に基づき、上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合におい 」を保管する者の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。そして、民事訴訟の当事者が、民訴法220条3号後段の規定に基づき、上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても、当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが、当該文書が法律関係文書に該当する場合であって、その保管者が提出を拒否したことが、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであると- 6 -認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である(最高裁平成15年(許)第40号同16年5月25日第三小法廷決定・民集58巻5号1135頁等参照)。このことは、当事者が提出を求めるものが、検察官の取調べにおける被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体であったとしても異なるものではない。 アこれを本件についてみると、本件本案訴訟においては、抗告人が、AはC検事がAを脅迫するなどの言動をしたためにC検事に迎合して虚偽の本件供述をした旨を主張するのに対し、相手方が、AはC検事の説得により真実である本件供述をしたと評価し得る旨を主張して、Aが本件供述をするに至ったことに対するC検事の言動の影響の有無、程度、内容等が深刻に争われている。しかるところ、本件公判不提出部分には、C検事の言動がその非言語的要素も含めて機械的かつ正確に記録されているのであるから、本件本案訴訟の審理を担当する原々審が、本件公判不提出部分は本件要証事実を立証するのに最も適切な証拠であり、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして、本件公判不提出部分 のであるから、本件本案訴訟の審理を担当する原々審が、本件公判不提出部分は本件要証事実を立証するのに最も適切な証拠であり、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いと判断したことには、一応の合理性が認められ、このような原々審の判断には相応の配慮を払うことが求められるというべきである。 原審は、抗告人が主張するC検事の言動のうち当事者間に争いがあるものは、発言内容が重視されるものに限られる上、当該言動についても本件公判提出部分や本件反訳書面の取調べにより推認することができるとして、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いものではないと判断している。しかしながら、Aが本件供述をするに至ったことに対するC検事の言動の影響の有無、程度、内容等を受訴裁判所が判断するに当たって検討の対象となるのは、抗告人の主張において言語的に表現されたC検事の個々の言動に限られるものではなく、証拠に現れるC検事の言動の全てが上記の検討の対象となるものである。そして、C検事の言動がその非言語的要素も含めて機械的かつ正確に記録された本件公判不提出部分は、C検事の言動について、本件反訳書面や人証と比較して、格段に多くの情報を含んでお- 7 -り、また、より正確性が担保されていることが明らかであるし、本件公判提出部分を取り調べることによって、本件公判不提出部分に係るC検事の言動のうち本件反訳書面に現れていないものを検討する必要がなくなると解すべき事情もうかがわれない。そうすると、この点について、原審の上記判断は合理的なものとはいえない。 そして、上記のとおり、原々審の上記判断には相応の配慮を払うことが求められることも踏まえると、原々審の上記判断のとおり、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度 断は合理的なものとはいえない。 そして、上記のとおり、原々審の上記判断には相応の配慮を払うことが求められることも踏まえると、原々審の上記判断のとおり、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いとみるのが相当である。 イまた、抗告人とAとの間に本件和解が成立し、本件和解において、Aが本件記録媒体の証拠採用に反対せず、抗告人もAのプライバシーの保護に最大限配慮することを明確に合意しているなどの本件の事実関係の下では、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されること自体によって、Aの名誉、プライバシーが侵害されることによる弊害が発生するおそれがあると認めることはできない。これに加えて、本件横領事件に関与したとされる者のうち、抗告人については無罪判決が確定し、抗告人以外の者について捜査や公判が続けられていることもうかがわれないことからすれば、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されることによって、本件横領事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼすおそれがあるとはいえないし、将来の捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害が発生することを具体的に想定することもできない。 ウ以上の諸事情に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものというべきである。 5 以上と異なる原審の前記3の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定のうち本件公判不提出部分に係る本件申立てを却下した部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、相手方に本件公判不提出部分の提出を命じた原々決定は正当であるから、上記部分につき相手方の抗告を棄却することとする。 - 8 -なお、原々決定には明白な誤りがあるから、職権により主文第2項のとおり更 手方に本件公判不提出部分の提出を命じた原々決定は正当であるから、上記部分につき相手方の抗告を棄却することとする。 - 8 -なお、原々決定には明白な誤りがあるから、職権により主文第2項のとおり更正する。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官三浦守、同草野耕一の各補足意見がある。 裁判官三浦守の補足意見は、次のとおりである。 1 刑事手続においては、被告人又は弁護人等が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠(以下「開示証拠」という。)に係る複製等を、当該被告事件の審理の手続等に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は掲示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならないものとされ、その違反行為に対する刑事罰が設けられるなど、開示証拠の複製等の適正管理等を確保するための規律が定められている(刑訴法281条の3~281条の5)。これは、開示証拠の複製等が管理の適正を欠き第三者に流出したり、本来の目的以外の目的で使用されたりすると、罪証隠滅や証人威迫、関係者の名誉やプライバシーの侵害、捜査又は裁判に対する不当な影響等の弊害が生ずるおそれがあることによるものと解される。開示証拠が公判廷で取り調べられた場合でも、その複製等がインターネット等を通じて広く公開されるなどすれば同様の問題が生ずるおそれがあり、同じ規律が適用される。開示証拠の複製等を民事訴訟において使用することも、目的外使用に当たるため、これを民事訴訟で利用するためには、文書提出命令、文書送付嘱託等の手続によることになる。 民事訴訟の当事者が、民訴法220条3号後段の規定に基づき、開示証拠に係る文書の提出を求める場合も、これを保管する者の裁量的判断において、当該文書の提出による弊害に関し、それがインターネ なる。 民事訴訟の当事者が、民訴法220条3号後段の規定に基づき、開示証拠に係る文書の提出を求める場合も、これを保管する者の裁量的判断において、当該文書の提出による弊害に関し、それがインターネット等を通じて広く公開される可能性等を考慮することは、刑事手続における上記規律の趣旨に沿うものである。この場合、個人の名誉やプライバシーに関する弊害については、民事訴訟における当該文書の取扱いに関する当該個人の意向等の事情も考慮されることになろう。 2 本件公判不提出部分の提出についてみると、本件記録媒体に係る供述人と抗- 9 -告人との間の本件和解において、本件記録媒体が証拠採用されることに関する合意があり、その内容を踏まえると、本件公判不提出部分が証拠として提出されること自体によって、当該供述人の名誉やプライバシーに関する弊害のおそれがあるとは認められず、その取扱いは、関係者において適切になされるべき問題と考えられる。他に、本件公判不提出部分の提出による弊害のおそれがあると認められる具体的な事情があるともいい難い。 裁判官草野耕一の補足意見は、次のとおりである。 私は法廷意見の結論及び理由の全てに賛成するものであるが、法廷意見が、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されること自体によってAの名誉やプライバシーが侵害されることによる弊害が発生するおそれがあると認めることはできないとした点について補足して意見を述べておきたい。 1 上記の点に関する原審の立論は現代契約社会を規律している諸法理とは相容れないものである。そう考える理由を、以下2点に分けて敷衍する。 第一に、原審は、Aが本件和解によって自己の名誉やプライバシーを「真意に基づいて」放棄したとみることはできないと述べている。しかしながら、Aは同人の代理人である弁 を、以下2点に分けて敷衍する。 第一に、原審は、Aが本件和解によって自己の名誉やプライバシーを「真意に基づいて」放棄したとみることはできないと述べている。しかしながら、Aは同人の代理人である弁護士も関与している訴訟手続の中で本件和解に同意しており、本件和解の規定も、抗告人に対して、単にプライバシーの保護に最大限配慮することを求めるだけでなく、「①顔のモザイク、②声の加工、③プライバシー情報を出さないこと、④報道機関に実名報道を避ける旨を申し入れること等」の具体的措置を執ることを求めるなど十分に詳細なものとなっている(なお、本件和解上抗告人が負っている債務を総称して、以下「本件諸債務」という。)。原審は、本件和解に先立って抗告人がAに対して「1億1000万円もの損害賠償を請求」していたことをもってAの真意を疑うことの根拠の一つとしているようであるが、抗告人が、多額となり得たかもしれない損害賠償請求権のほとんど全てを放棄するという代償を支払ってAと本件和解を締結するに至ったことは本件和解がAの真意に基づくものであることを補強する事実でこそあれ、それを否定する根拠とはなり得ないという- 10 -べきである(Aにとって本件和解に応じることは「不本意」であったかもしれないが、不本意であることと真意でないことは別論である。)。 第二に、原審は、Aが、本件和解によって自己の名誉やプライバシーに関する権利利益を「全て放棄した」とみることはできないとも述べている。確かに、本件和解の中に名誉やプライバシーを放棄するという文言がないことは事実である。しかしながら、Aは本件和解において、(本件公判不提出部分を含めて)本件記録媒体が本件本案訴訟において証拠採用されることについて明示的に同意しており(「反対しない」という文言は本件和解の文脈においては「同 ながら、Aは本件和解において、(本件公判不提出部分を含めて)本件記録媒体が本件本案訴訟において証拠採用されることについて明示的に同意しており(「反対しない」という文言は本件和解の文脈においては「同意する」ということと同義であるとしか解し得ない。)、一方、本件記録媒体が証拠採用されれば、(たとえ抗告人が本件諸債務を遵守したとしても)一定の限度でAの名誉やプライバシーが脅かされることは必然の結果といえる。これを要するに、本件記録媒体を証拠採用することにAが同意したということは、それによって必然的にもたらされる同人の名誉やプライバシーへの侵害を同人は(「放棄した」という表現が適切であるか否かは別論として)容認したことを意味するものと解すべきである。 2 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」の提出を受けた民事訴訟の当事者がこれを報道機関に提供することを禁じる規定は民訴法上存在しない。その結果、本件においても、抗告人が本件公判不提出部分を報道機関に提供するようなことになれば、それによってAの名誉やプライバシーが新たに侵害されるおそれがないとはいえない。法廷意見がこの問題を取り上げていないのは、この点が本件の結論に影響を及ぼすものではないという点において裁判官全員の意見の一致をみたからであるが、本補足意見においては、この点に関する私の意見を詳らかにしておきたい。 思うに、刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」を公にすることの相当性を考えるに当たっては、それが法廷において用いられることによって生じる当事者や関係者の名誉やプライバシーの侵害のおそれのみならず、それが法廷外において公開されてしまうことによって生じる当事者や関係者の名誉やプライバシーの侵害のお- 11 -それについても斟酌することが必要な場合もあるであろう。しかしながら、本件事 みならず、それが法廷外において公開されてしまうことによって生じる当事者や関係者の名誉やプライバシーの侵害のお- 11 -それについても斟酌することが必要な場合もあるであろう。しかしながら、本件事案は、この問題を、抗告人とAの間の民事上の権利関係の問題として処理することが可能かつ適切な事案であると思料する。そう考える理由を、以下2点に分けて敷衍する。 第一に、本件和解の内容やそれが締結されるに至った経緯あるいは本件をめぐる報道機関の関心の高さから考えて、Aは証拠調べを終えた本件公判不提出部分が報道機関に提供される場合があり得ることを認識していたことがうかがえる。そうである以上、Aは、抗告人が本件諸債務を遵守するという条件の下で、法廷での証拠調べを終えた本件公判不提出部分を報道機関に提供することをも容認していたと解する余地があり、一方、仮に本件和解上本件公判不提出部分を報道機関に提供することが容認されていないと解し得るとすれば、それにもかかわらず抗告人が報道機関に本件公判不提出部分を提供した場合、Aは本件和解についての契約違反を理由として民事上の救済措置を求めることができる(なお、Aは証拠調べを終えた本件公判不提出部分を報道機関への提供以外の方法を用いて公開することについても容認していたと解する根拠は見出し難い。)。 第二に、本件和解が証拠調べを終えた本件公判不提出部分の報道機関への提供を容認したと解し得るとしても、その結果派生的に起こり得る様々な事態に関して抗告人とAが本件和解上いかなる権利・義務を負うかはいささか不分明であるといわざるを得ない。しかしながら、この問題についても、本件和解の解釈問題として当事者間の民事上の権利義務関係を確定することによって解決が可能である。もとより、名誉やプライバシーは人権又はこれに準じる利益と るを得ない。しかしながら、この問題についても、本件和解の解釈問題として当事者間の民事上の権利義務関係を確定することによって解決が可能である。もとより、名誉やプライバシーは人権又はこれに準じる利益として最大限尊重されるべきものであるから、状況如何によっては契約違反に対する民事上の救済があるだけでAの名誉やプライバシーの保護を全うできない事態の発生が考えられなくもないが、本件和解を訴訟上の和解として成立させた代理人弁護士がそのような事態が起こることがないようにしかるべき配慮を尽くすことを期待する次第である。 (裁判長裁判官草野耕一裁判官三浦守裁判官岡村和美裁判官- 12 -尾島明) (別紙)目録検察官のAに対する取調べにおいてAの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体のうち、次の⑴から⑸までの日時の部分⑴ 令和元年12月6日午後7時17分から午後11時2分まで⑵ 令和元年12月7日午後5時20分から午後9時25分まで⑶ 令和元年12月8日午後5時20分から午後8時24分まで⑷ 令和元年12月9日午後5時17分から午後8時21分まで(ただし、午後5時39分47秒から午後6時27分58秒までを除く。)⑸ 令和元年12月12日午後6時4分から午後9時52分まで
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