平成21(行ウ)3 教員採用決定取消処分取消請求事件・国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年2月23日 大分地方裁判所 その他
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判決文本文44,826 文字)

平成27年2月23日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(行ウ)第3号教員採用決定取消処分取消請求事件,平成23年(行ウ)第5号国家賠償請求事件口頭弁論終結日平成26年11月17日判決 主文 1 大分県教育委員会が,平成21年(行ウ)第3号事件原告(同23年(行ウ)第5号事件原告)に対して,平成20年9月8日付けでした,「大分県大分市公立学校教員に任命する,大分県大分市立A中学校教諭に補する,教育職(二)2級45号給を給する,ただし,教育公務員特例法第12条第1項により1年間条件附採用とする,との発令を取り消す」との処分を取り消す。 2 平成23年(行ウ)第5号事件被告(同21年(行ウ)第3号事件被告)は,同23年(行ウ)第5号事件原告(同21年(行ウ)第3号事件原告)に対し,33万円及びこれに対する平成20年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 平成23年(行ウ)第5号事件原告(同21年(行ウ)第3号事件原告)のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを4分し,その1を平成21年(行ウ)第3号事件被告兼同23年(行ウ)第5号事件被告の負担とし,その余を平成21年(行ウ)第3号事件原告兼同23年(行ウ)第5号事件原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 平成21年(行ウ)第3号事件主文1項と同旨 2 平成23年(行ウ)第5号事件平成23年(行ウ)第5号事件被告(同21年(行ウ)第3号事件被告)(以下「被告」という。)は,同23年(行ウ)第5号事件原告(同21年(行ウ)第3号事件原告)(以下「原告」という。)に対し,600万円 23年(行ウ)第5号事件被告(同21年(行ウ)第3号事件被告)(以下「被告」という。)は,同23年(行ウ)第5号事件原告(同21年(行ウ)第3号事件原告)(以下「原告」という。)に対し,600万円及びこれに対する平成20年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の大要本件は,原告が,平成20年9月8日付けで,大分県教育委員会(以下「県教委」という。)がした,平成20年4月1日付けの,原告を大分県大分市公立学校教員に任命することなどを内容とする決定(以下「本件採用決定」という。)を取り消すとの処分(以下「本件取消処分」という。)が違法であるとして,本件取消処分の取消しを求める(平成21年(行ウ)第3号事件)とともに,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,本件取消処分をされたことなどによる精神的損害に対する慰謝料500万円及び弁護士費用相当損害額100万円の合計600万円並びにこれに対する本件取消処分がされた日である平成20年9月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(平成23年(行ウ)第5号事件)事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告は,昭和5●年生まれの男性であり,平成13年3月,B体育大学体育学部体育学科を卒業して,中学校及び高等学校の教諭1種免許(保健体育)を取得した。(乙4)(2) 原告は,平成13年4月1日から平成20年3月30日まで,次のとおり,大分県内の公立学校で,臨時講師,臨時事務員又は非常勤講師として勤務した。(乙4)ア平成13年4月1日から平成14年3月31日まで 大分県立C高等学校非常勤講師及び大分県立D高等学校非常勤講師 立学校で,臨時講師,臨時事務員又は非常勤講師として勤務した。(乙4)ア平成13年4月1日から平成14年3月31日まで 大分県立C高等学校非常勤講師及び大分県立D高等学校非常勤講師イ平成14年4月4日から平成15年3月31日まで大分県別府市立E小学校臨時講師ウ平成15年7月10日から平成16年3月30日まで大分県大分市立F中学校臨時講師エ平成16年4月1日から平成18年3月30日まで(ただし,平成17年3月31日を除く。)大分県大分市立G中学校臨時事務員オ平成18年4月1日から平成19年3月30日まで大分県大分市立G中学校臨時講師カ平成19年4月1日から平成20年3月30日まで大分県杵築市立H中学校臨時講師(3) 原告は,平成19年7月から9月にかけて実施された平成20年度大分県公立学校教員採用選考試験(以下「平成20年度試験」といい,各年度において,翌年度の採用予定者を決定するための大分県公立学校教員採用選考試験を,同様に略称する。)の中学校保健体育を受験し,合格とされた。(争いのない事実)(4) 県教委は,平成20年4月1日,原告に対し,「大分県大分市公立学校教員に任命する,大分県大分市立A中学校教諭に補する,教育職(二)2級45号給を給する,ただし,教育公務員特例法第12条第1項により1年間条件附採用とする」との辞令(本件採用決定)を発令し,原告は,同日から大分市立A中学校で勤務を開始した。(乙3)(5) 平成20年6月14日,県教委義務教育課参事甲(平成19年7月当時の役職は課長補佐。以下「甲」という。)ら県教委関係者や現職の教員が逮捕されたことをきっかけに,県教委は,教員採用試験において,不正な加点が行われた事実の有無や,経緯等について,調査を開始した。 時の役職は課長補佐。以下「甲」という。)ら県教委関係者や現職の教員が逮捕されたことをきっかけに,県教委は,教員採用試験において,不正な加点が行われた事実の有無や,経緯等について,調査を開始した。(乙8の1,弁 論の全趣旨)(6) 県教委は,平成20年度試験において,原告の合否の判定に用いられた得点が,不正な点数操作により加点されたものであると判断し,平成20年8月30日,原告に対し,採用を取り消す方針であることなどを説明した(争いのない事実)。 (7) 県教委は,平成20年9月8日,原告に対し,「大分県大分市公立学校教員に任命する,大分県大分市立A中学校教諭に補する,教育職(二)2級45号給を給する,ただし,教育公務員特例法第12条第1項により1年間条件附採用とする,との発令を取り消す」との辞令を発令し,本件採用決定を取り消した(本件取消処分。)。(争いのない事実)(8) 県教委は,公立学校の教員の任免に関する事項を,教育長に専決させるものとしている(大分県教育委員会の権限に属する事務の一部を教育長に専決させる規則1条)。(乙42,78) 3 関係法令の定め(1) 地方公務員法ア 15条職員の任用は,この法律の定めるところにより,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない。 イ 17条1項職員の職に欠員を生じた場合においては,任命権者は,採用,昇任,降任又は転任のいずれか一の方法により,職員を任命することができる。 2項省略3項人事委員会を置く地方公共団体においては,職員の採用及び昇任は,競争試験によるものとする。但し,人事委員会の定める職について人事委員会の承認があった場合は,選考によることを妨げない。 4項~5項省略ウ 21条1項人事委員会を置く地 及び昇任は,競争試験によるものとする。但し,人事委員会の定める職について人事委員会の承認があった場合は,選考によることを妨げない。 4項~5項省略ウ 21条1項人事委員会を置く地方公共団体における競争試験による職員の任用については,人事委員会は,試験ごとに任用候補者名簿(採用候補者名簿又は昇任候補者名簿)を作成するものとする。 2項採用候補者名簿又は昇任候補者名簿には,採用試験又は昇任試験において合格点以上を得た者の氏名及び得点をその得点順に記載するものとする。 3項採用候補者名簿又は昇任候補者名簿による職員の採用又は昇任は,当該名簿に記載された者について,採用し,又は昇任すべき者一人につき人事委員会の提示する採用試験又は昇任試験における高点順の志望者五人のうちから行うものとする。 4項~5項省略エ 61条左の各号の一に該当する者は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。 1号省略2号 15条の規定に違反して任用した者3号~5号省略(2) 教育公務員特例法ア 2条1項この法律で「教育公務員」とは,地方公務員のうち,学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に定める学校であって同法第2条に定める公立学校(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第68条第1項に規定する公立大学法人が設置する大学及び高等専門学校を除く。以下同じ。)の学長,校長(園長を含む。以下同じ。),教員及 び部局長並びに教育委員会の教育長及び専門的教育職員をいう。 2項この法律で「教員」とは,前項の学校の教授,准教授,助教,副校長(副園長を含む。以下同じ。),教頭,主幹教諭,指導教諭,教諭,助教諭,養護教諭,養護助教諭,栄養教諭及び講師(常時勤務の者及び地方公務員法(昭和25年法律第2 項の学校の教授,准教授,助教,副校長(副園長を含む。以下同じ。),教頭,主幹教諭,指導教諭,教諭,助教諭,養護教諭,養護助教諭,栄養教諭及び講師(常時勤務の者及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。第23条第2項を除き,以下同じ。)をいう。 3項~5項省略イ 11条公立学校の校長の採用並びに教員の採用及び昇任は,選考によるものとし,その選考は,大学附置の学校にあっては当該大学の学長,大学附置の学校以外の公立学校にあってはその校長及び教員の任命権者である教育委員会の教育長が行う。 4 争点(1) 本件採用決定は適法かア原告の主張(ア) 原告が取得した平成20年度試験の得点に平成20年度試験の結果に基づかない加点がされ,平成20年度試験の合否が加点後の得点に基づいてされた事実はない。 被告は,平成20年度試験の結果の集計業務に当たっていた県教委職員のパソコンのデータを解析し,これを根拠に,原告の得点が試験の結果に基づかず加点されたと主張するが,被告の解析の方法は不適切であって,信用できない。 仮に,原告の得点が加点されていたとしても,原告及びその親族等の関係者は,原告の平成20年度試験について,県教委幹部に,加点を依頼するなどといった関与を行っていない。県教委は,平成13年度試験 以前は,大分県公立学校教員の採用においては,教員採用試験の得点順位を厳守して採用することなく,教員採用試験の結果に諸般の事情を加味して教員を採用しており,平成14年度試験以降の教員採用試験に基づく教員の採用においても同様であった。そして,原告が,平成20年度試験に合格する以前から,非常勤講師又は臨時講師等として,県内の公立学校に勤務し,保護者から高い評価を 度試験以降の教員採用試験に基づく教員の採用においても同様であった。そして,原告が,平成20年度試験に合格する以前から,非常勤講師又は臨時講師等として,県内の公立学校に勤務し,保護者から高い評価を得ていたことに照らせば,原告の平成20年度試験の得点が,平成20年度試験の結果に基づかずに加点されていたとしても,それは,原告の臨時講師等としての勤務実績が評価されたからである。したがって,原告の平成20年度試験の結果に対してされた加点は,被告が主張するような根拠のない加点ではない。 (イ) 大分県公立学校教員の採用は,教育公務員特例法11条の規定により,選考によって行われる。これは,地方公務員法15条が成績主義・能力実証主義を採用しており,同法17条3項が人事委員会が置かれている地方公共団体における職員の採用は原則として競争試験により,一定の場合に選考によることとしていることの例外規定である。 選考は,特定の資格保持者を対象に,当該職に就く適格性の有無を確認するものであって,競争試験のように能力の順位を正確に判定することを目的とせず,かつ,人物評価を重視するものである。 教員の選考においては,教員としての適格性があるとの判断がされて採用されれば,違法な選考がされたとはいえないところ,教員としての適格性があるか否かという判断は,採用権者の裁量事項であるから,採用権者の判断が,その裁量の範囲外のものである場合には,違法な選考がされたことになるが,単に上記の基準に反して選考がされたというだけでは,その選考は違法とはならないと解すべきである。 原告の平成20年度試験における加点操作前の点数に基づいて判定しても,原告が5位又は7位であったことや,原告が,平成13年4月から 平成20年3月までの7年間,非常勤講師や臨時講師として大分県内の公立 平成20年度試験における加点操作前の点数に基づいて判定しても,原告が5位又は7位であったことや,原告が,平成13年4月から 平成20年3月までの7年間,非常勤講師や臨時講師として大分県内の公立学校で勤務していた際の実践的指導力が,生徒や保護者から高く評価されていたことからすると,原告に教員としての適格性があるとの採用権者である県教委の判断は,その裁量の範囲外のものとはいえない。現に,平成13年度以前の教員採用試験においては,原告と同程度の成績の者であっても採用されていた。 また,選考よりも厳格に受験者同士の職務遂行能力を判定し,これを相対的に順位付けする競争試験においてすら,採用候補者名簿方式によることで,採用を予定している人数よりも多くの者を採用候補者名簿に登載し,その名簿に登載されている者であれば,競争試験の成績が下位であっても,採用することが許容されているのであるから,選考において,競争試験類似の方法が採られた場合でも,成績上位者から順に採用するよりも多くの人数から,広く採用することが許されるべきである。この観点からも,原告に大分県公立学校教員としての適格性があるとの採用権者の判断は,その裁量の範囲外のものとはいえない。 なお,原告の平成20年度試験第1次試験における本来の得点では,第1次試験に合格していなかったとしても,選考において,第1次試験と第2次試験に分けて実施し,第2次試験は第1次試験の合格者のみが受験することができるという制度を採用することは,法令の要求するものではないから,この事情をもって,原告が大分県公立学校教員としての適格性に欠けるということはできない。 (ウ)a 被告は,大分県公立学校教員の選考に当たっては,教員採用試験を実施してその結果をすべて点数として評価した上で,得点の高い者から順に合否を決 としての適格性に欠けるということはできない。 (ウ)a 被告は,大分県公立学校教員の選考に当たっては,教員採用試験を実施してその結果をすべて点数として評価した上で,得点の高い者から順に合否を決するという基準に従っており,この基準に反してされた本件採用決定は違法であると主張する。 しかし,被告が主張するような基準を定めた文書は存在しないことか らすると,大分県公立学校教員の選考を行う際に合否を決する基準は,そもそも存在しないか,仮にこれが存在するとしても,被告内部における単なる申合せ程度のものというべきである。そうすると,存在しないか,あるいは単なる申合せ程度のものにすぎない大分県公立学校教員の選考を行う際に合否を決する基準に反してされた選考に基づき採用が行われたというだけでは,その採用は違法とはならない。 b また,被告は,得点の高い者から順に合否を決するという基準を定めた以上,採用権者は合理的な理由なくこの基準に反する選考に基づく採用を行うことはできないところ,原告をこの基準に反して行った選考に基づき採用することはできないから,本件採用決定は違法であると主張する。 しかし,大分県公立学校教員に採用する処分が,上記の基準に反してされたというだけでは,直ちに法令に違反したことにはならず,違法と評価されない。 行政庁がその裁量に基づく行政行為を行う場合に,行政庁が,裁量権を行使する基準を定めたときには,処分の相手方は,合理的な理由なくその基準に反した処分がされたとして,当該処分の違法性を主張することができるが,行政庁自身が,その基準に反したことを理由に当該処分の違法性を主張することは許されない。すなわち,行政庁がその裁量に基づく行政行為を行う場合に,行政庁が定めた基準に合理的な理由なく従わないでした行政行為が違法となり得 準に反したことを理由に当該処分の違法性を主張することは許されない。すなわち,行政庁がその裁量に基づく行政行為を行う場合に,行政庁が定めた基準に合理的な理由なく従わないでした行政行為が違法となり得るのは,要件裁量がある場合の司法審査を容易ならしめるとともに,処分の相手方において行政庁がその定めた基準に従った判断をするであろうという期待を保護し,他の処分の相手方との間の平等な取扱いを実現するためである。このように,行政庁が自ら定めた基準に従った判断をすることが求められるのは,処分の相手方の利益のためであることからすると,行政庁が,その基準に 従わずにされた行政処分を,処分の相手方に不利益に違法性を主張することは許されないというべきである。 また,行政庁が一定の基準を定めた場合であっても,当該基準に基づき多数の処分がされたとか,その基準が公開されているといった,行政庁がその基準に基づき処分を行うことに対する市民の信頼が形成されていないときには,行政庁は,当該基準に拘束されない。 (エ) 仮に,教員採用試験においても,能力実証主義が適用されるとしても,能力実証主義は,成績順に上位者から採用することを法的に要請するものではなく,原告の能力は,法が要請する程度以上の能力があるという意味で実証されているから,本件採用決定は成績主義・能力実証主義に適う適法なものである。すなわち,地方公務員法21条3項又は職員の任用に関する規則所定の競争試験及び採用候補者名簿の方式によれば,採用予定者数が3人であった中学校教諭(保健体育)の採用候補者名簿に登載される人数は,7人又は15人であったところ,加点操作前の原告の第1次試験及び第2次試験の合計得点によれば,最終順位は7位であったから,仮に上記競争試験及び採用候補者名簿の方式が採用されていれば,原告 る人数は,7人又は15人であったところ,加点操作前の原告の第1次試験及び第2次試験の合計得点によれば,最終順位は7位であったから,仮に上記競争試験及び採用候補者名簿の方式が採用されていれば,原告は,平成20年度採用試験における中学校教諭(保健体育)の採用候補者名簿に登載されていたはずである。また,原告は,平成13年4月から平成20年3月までの7年間,非常勤講師や臨時講師として大分県内の公立中学校に勤務し,その際の実践的指導力は生徒や保護者から高く評価されていた。このように,原告の能力は,実証されているのであるから,原告を採用した本件採用決定には,成績主義・能力実証主義に違反する違法はない。 イ被告の主張(ア) 平成20年度試験の原告の合否の判定に用いられた点数は,平成20年度試験の結果に基づかずに加点されていた。 原告は,試験の結果によれば,本来,平成20年度試験の第1次試験 では,第1次試験の合格圏内である11位に達しておらず不合格であったが,第1次試験の結果に基づかず,25点の加点操作がなされたことにより,8位となり,第1次試験に合格した。そして,第2次試験では,上記点数操作後の第1次試験の得点に,第2次試験の得点を合計した成績では7位で,3位以内に入っておらず,本来不合格であったが,第2次試験の結果に基づかず,49点の加点操作がされたことにより,2位となり,第2次試験に合格した。 このように,平成20年度試験における原告の合否は,平成20年度試験に基づかずに加点された得点を用いて決定されたものである。 そして,平成20年度における大分県公立学校教員の選考においては,平成20年度試験の得点のみによって採否を決しており,原告の勤務実績等試験外の事情を考慮したことはないから,平成20年度試験の原告の得点に対する加 0年度における大分県公立学校教員の選考においては,平成20年度試験の得点のみによって採否を決しており,原告の勤務実績等試験外の事情を考慮したことはないから,平成20年度試験の原告の得点に対する加点は,根拠のない不正なものである。 (イ) (ア)項のとおり,平成20年度試験における原告の得点は,平成20年度試験の結果に基づかない加点がされていた。原告は,平成20年度試験において,合格するために必要な得点を得ていなかったのであるから,本件採用決定には,地方公務員法15条所定の成績主義・能力実証主義に違反する重大な違法がある。 大分県公立学校教員の採用は,選考によって行われるところ,選考は,広く国民が受験資格を持つものではなく,受験資格を有する者が特定の候補に限定されている点で,競争試験とは異なる。地方公務員法17条3項は,人事委員会を置く地方公共団体において,職員の採用は原則として競争試験によるものとしつつ,人事委員会の定める職について人事委員会の承認があった場合は選考によることを妨げないと定めているが,教員採用試験の受験者は,教育職員免許法所定の免許状を有する者に限られていることから,教育公務員特例法11条は,地方公務員法17条3項の例外を 定め,採用の方法を選考によるものとしており,その具体的方法については,選考権者の合理的な裁量に委ねている。そして,その裁量権の行使にあっては,成績主義・能力実証主義が除外されるものではない。 なお,教育職員免許法所定の免許状は,大学卒業による学士や短大卒業による短期大学士の学位を有し,大学等において教員に係る単位を取得することによって得られるものにすぎないから,教育職員免許法所定の免許状を有していることをもって,教員としての公務遂行能力を有することが実証されているとはいえず,また,公立 いて教員に係る単位を取得することによって得られるものにすぎないから,教育職員免許法所定の免許状を有していることをもって,教員としての公務遂行能力を有することが実証されているとはいえず,また,公立学校の教員たり得る資格を有するものとはいえないというべきである。 (ウ) 大分県公立学校教員採用試験では,小学校や中学校の各教科といった志望種ごとに教養,専門等の筆記試験や,実技,面接,模擬授業等の各試験を実施しており,これらの試験結果をすべて数値化して点数として評価し,集計した点数のみに基づいて合否を決定している。また,教員としての資質や適性等の人格的評価についても,実技,面接,模擬授業等の試験として行い,点数として評価し,その結果,得点の高い者から順に合否を決定している。このような教員採用試験に基づき行われる大分県公立学校教員の選考の方法は,原告が主張するように単なる被告の内部運用ではなく,教育公務員特例法11条及び成績主義・能力実証主義を規定した地方公務員法15条をはじめとする法律を具体化した裁量基準に基づくものである。このように,行政庁が裁量基準を作成した場合には,行政庁は原則としてこれに拘束され,合理的な理由がなく裁量基準と異なった行政庁の判断がされた場合には,その判断は違法となる。 原告は,行政庁が合理的な理由がなく裁量基準と異なった判断をした場合に,それが違法になるのは,裁量基準に基づいた事例の集積や裁量基準の公表がされていたときに限られると主張する。しかし,平成14年度試験から平成19年度試験までの教員採用試験では,上記裁量基準に従った 選考を行っており,裁量基準に基づいた事例の集積がされている。また,行政庁が裁量基準に拘束される根拠は,それを行政庁自身が定めていることや,裁量取扱いの一貫性の要請にもあることからす 従った 選考を行っており,裁量基準に基づいた事例の集積がされている。また,行政庁が裁量基準に拘束される根拠は,それを行政庁自身が定めていることや,裁量取扱いの一貫性の要請にもあることからすると,必ずしも裁量基準の公表がされていなくても,行政庁が合理的な理由なくした裁量基準と異なる判断は違法になり得る。 (イ)項のとおり,選考においても,地方公務員法15条所定の能力実証主義が適用されるから,平成20年度試験の結果に基づかず加点された得点に基づいて原告を採用した本件採用決定は,合理的な理由なくなされた裁量基準と異なる判断であるから,違法である。原告及びその親族等の関係者が,この加点に関与していないとしても,結論は左右されない。 (2) 本件採用決定を取り消したことが違法かア原告の主張(ア) 仮に,本件採用決定が違法であったとしても,本件採用決定は原告に対し利益を与える授益的行政行為であるから,これを取り消すことが許容されるためには,本件採用決定を取り消す公益上の必要性が,本件採用決定が取り消されることにより原告に与える不利益を受忍させなければならない程度に重大なものである必要がある。しかし,本件では,本件採用決定を取り消す重大な公益上の必要性が認められない。 すなわち,被告は,教員採用試験を実施して,その結果をすべて点数として評価した上で,得点の高い者から順に合否を決するという基準に従っており,同基準に反してされた本件採用決定は違法であると主張するが,仮に同基準に反してされた本件採用決定が違法であったとしても,同基準は,被告が定めた行政庁の内部的な基準に過ぎず,法令で定められたものではない。そして,被告自身,平成13年度までは,教員採用試験の結果以外の諸要素を考慮した大分県公立学校教員の採用を行っていた上,平成 が定めた行政庁の内部的な基準に過ぎず,法令で定められたものではない。そして,被告自身,平成13年度までは,教員採用試験の結果以外の諸要素を考慮した大分県公立学校教員の採用を行っていた上,平成19年度試験に合格し,大分県公立学校教員に採用された者の中には,平 成19年度試験における成績が上位ではなかったにもかかわらず採用された者も相当数存在した。そうすると,教員採用試験を実施してその結果をすべて点数として評価した上で,得点の高い者から順に合否を決するという基準に反した採用がされたとしても,違法性の程度は大きいとはいえない。 また,原告は,非常勤講師や臨時講師等としての実績について,生徒や保護者から高い評価を受けており,本件取消処分の後も正規教員と変わらない職務内容である臨時講師として勤務を続けている。そして,本来であれば,採用候補者名簿の上位に登載されており,成績主義・能力実証主義により採用が許容されるレベルに達していた。 以上によれば,本件採用決定を取り消さないことによって公益が害される程度は極めて低い。 他方,原告や原告の親族等の関係者は,平成20年度試験における原告の得点が平成20年度試験の結果に基づかずに加点された経緯に全く関与しておらず,原告の帰責性はない。 そして,原告は,本件採用決定により,大分県公立学校教員として採用されたことからすれば,本件採用決定は,原告と被告との間で労働契約を締結するという性質を有するものであるから,本件採用決定は,原告の生活の基盤となるものであり,かつ,人格的利益と密接不可分である。そして,本件取消処分の代替措置としてされた臨時講師としての採用は,継続的勤務が保障されていない不安定な勤務形態であること,正規の大分県公立学校教員との間には極めて大きな生涯賃金の差があることに照らせば, ,本件取消処分の代替措置としてされた臨時講師としての採用は,継続的勤務が保障されていない不安定な勤務形態であること,正規の大分県公立学校教員との間には極めて大きな生涯賃金の差があることに照らせば,代替措置として不十分なものといわざるを得ない。また,再試験も行われていない。 このように,本件採用決定を取り消すことによる原告の不利益は大きく,これを原告に受忍させなければならない程度に,本件採用決定を取り 消すべき重大な公益上の必要性は存在しない。したがって,本件採用決定を取り消すことは,違法である。 被告は,本件取消処分がされたのは,条件附採用の期間中であるから,不利益の程度は小さいと主張する。しかし,条件附採用の期間中に免職となるのは,原告の能力不足や非行が理由となる場合に限られ,原告にこのような事由は存在しない。また,原告は正規の大分県公立学校教員として採用されたのであるから,本件取消処分が条件附採用期間中にされたとしても,原告の不利益は重大である。 以上によれば,本件取消処分は違法である。 (イ) 仮に,本件採用決定が違法であったとしても,本件取消処分は,県教委幹部による組織的構造的な不正によって,原告及び原告の親族等関係者が全く関与していないにもかかわらず,平成20年度試験における原告の得点に加点がされたことを理由にされたものであるところ,県教委幹部は,この加点に関する責任を一切取っていない。本件採用決定の瑕疵の原因は,専ら県教委にあり,原告には何らの帰責事由もないから,このような場合には,本件採用決定を取り消すことはできないというべきである。 したがって,本件取消処分は違法である。 (ウ) 被告は,平成20年度試験の原告の得点が,平成20年度試験の結果に基づかずに加点された経緯を明らかにしていない上,平成20年度試 いというべきである。 したがって,本件取消処分は違法である。 (ウ) 被告は,平成20年度試験の原告の得点が,平成20年度試験の結果に基づかずに加点された経緯を明らかにしていない上,平成20年度試験における解答用紙を,保存期間が経過する前に廃棄して,平成20年度試験の原告の得点が,平成20年度試験の結果に基づかずに加点された経緯の検証を不可能にした。本件取消処分は,被告が,点数操作の経緯を検証不能にしておきながら,点数操作の経緯が不明であることによって生じる不利益を,原告に一方的に負担させるものであり,取消権の逸脱・濫用に当たる。したがって,本件取消処分は違法である。 (エ) 平成20年度試験においては,中学校保健体育の教員としての採用を 希望した者のうち,試験の成績上位3名までしか合格できなかったはずである。しかし,本来の順位が4位であった者も,平成20年度試験中学校保健体育に合格し,大分県公立学校教員として採用されている。教員採用試験を実施してその結果をすべて点数として評価した上で,得点の高い者から順に合否を決するという被告の基準に照らせば,4位の者は不合格となるはずであり,原告の本件採用決定を取り消すのであれば,本来の順位が4位であった者の採用も取り消すべきである。そうであるにもかかわらず,県教委が原告の採用のみを取り消し,本来の順位が4位であった者の採用を取り消さないのは,合理的な理由なく原告を不利益に扱うものであって,平等原則(憲法14条)に違反する違法なものである。 また,平成19年度試験においても,本来の得点に平成19年度試験の結果に基づかず加点された結果,大分県公立学校教員に採用された者が存在し,県教委はこの者を特定しているにもかかわらず,この者を大分県公立学校教員に採用した決定を取り消していない。この点で 年度試験の結果に基づかず加点された結果,大分県公立学校教員に採用された者が存在し,県教委はこの者を特定しているにもかかわらず,この者を大分県公立学校教員に採用した決定を取り消していない。この点でも,本件採用決定を取り消したことは,合理的な理由なく原告を不利益に取り扱うものであるから,平等原則に違反する違法なものである。したがって,本件取消処分は違法である。 被告は,本件取消処分を,平等原則違反を理由に取り消すことは,違法の平等を許容することになるから許されないと主張するが,原告は,平成20年度試験の加点操作に一切関与していないのであるから,原告の本件取消処分を平等原則違反を理由に取り消したとしても,違法の平等を実現することにはならない。 イ被告の主張(ア)a 授益的行政行為を取り消す基準としては,公益上の必要があるか否かという抽象的基準は適当ではなく,法律による行政の要請と,相手方及び関係者の法的安全の保護の要請との比較衡量によって判断される べきである。そして,法律による行政の原則からすると,行政処分の違法性が明らかとなった場合には,処分庁には,原則として,当該処分を取り消す義務が生じる。法律による行政の原理を否定するに足りるような公益上の必要がある場合に限って,例外的に,違法な行政処分を取り消すことができなくなると解するべきである。 また,授益的行政行為の取消しにおいて,相手方の保護が必要とされるのは,保護の対象が財産的価値に関係する場合であり,資格等の地位の付与に関する場合には,公益上必要な要件が欠けた処分である以上,取消権の制限は及ばないというべきである。 b 成績主義・能力実証主義を定めた地方公務員法15条には,罰則が定められているところ,この趣旨は,成績主義に基づいた有能な人材を得るという採用制度 上,取消権の制限は及ばないというべきである。 b 成績主義・能力実証主義を定めた地方公務員法15条には,罰則が定められているところ,この趣旨は,成績主義に基づいた有能な人材を得るという採用制度によって公務能率を最大限に発揮すること,また,厳正中立である公務全体に対する住民の信用を保持すること,人事の公平を確保して職員の士気の低下などの公務能率の低下等の弊害を防止することにあって,職員の採用における競争試験における成績主義・能力実証主義の実現には,高度の公益性がある。特に教員は,多数の児童や生徒の心身の発達に日常的に関わる専門的職業であるから,なおさら成績主義・能力実証主義の実現の必要性が高い。 原告は,平成20年度試験において,本来採用されるはずのない者であったところ,このような者を採用した本件採用決定は,根幹的な要件事実が存在しないのにこれが存在するものとして行われた,無効に匹敵する重大な瑕疵を帯びており,これを取り消す公益は大きい。そして,本件採用決定の瑕疵の重大性を検討するに当たっては,原告及び親族等の関係者が,平成20年度試験における加点操作に関与していたかどうかは,考慮すべき要素ではない。 さらに,原告は,本件採用決定後実際に教員として勤務しているから, 本件取消処分により,既に支給された給料及び諸手当を返還する必要はない上,被告は,本件取消処分の後,原告を臨時講師として採用している。また,被告は,本件取消処分の前に,原告と面談して,事前に原告の本件採用決定を取り消すことを予告し,希望すれば自主退職を認めることも伝えた。そして,本件取消処分は,身分保障もなく解雇予告制度も適用がない条件附採用期間中にされたものである上,本件採用決定から5か月ほどの比較的短期間で行われたものである。このように,本件取消処分によ た。そして,本件取消処分は,身分保障もなく解雇予告制度も適用がない条件附採用期間中にされたものである上,本件採用決定から5か月ほどの比較的短期間で行われたものである。このように,本件取消処分により原告の被る不利益は緩和されている。 c 以上によれば,本件採用決定を取り消す重大な公益上の必要性があるというべきである。 (イ) 原告は,原告に対してされた本件取消処分が憲法14条の平等原則に違反し,違法であると主張する。 しかし,平成20年度試験において,中学校保健体育教諭を志望した者のうち,上位3名が合格,採用されているところ,当初採用された3名のうち,平成20年度試験の結果に基づかない加点により合格し,採用された者は,原告を含む2名であった。残りの1名は,本来の順位が4位であったが,原告とは異なり,平成20年度試験の結果に基づかない加点がなされていなかったため,採用取消しの対象とはならなかった。原告と,本来の順位が4位であった者とは,このように事情が異なるから,原告について,不合理な取扱いはされておらず,平等原則違反があるとはいえない。 また,原告は,成績主義・能力実証主義に基づかずに採用された者であるところ,本件取消処分を,平等原則違反を理由に取り消すことは,原告の違法な採用を維持することとなり,法律による行政の原則に照らし許されない。 したがって,本件取消処分が平等原則違反により違法となることはない。 (3) 本件取消処分等について国家賠償法上の違法性があるかア原告の主張(ア) (2)ア項のとおり,本件取消処分は違法である。 また,本件取消処分自体は仮に適法であったとしても,平成20年度試験における原告の得点が,平成20年度試験の結果に基づかずに加点されたことについて,原告の責任は全くない上,原告 分は違法である。 また,本件取消処分自体は仮に適法であったとしても,平成20年度試験における原告の得点が,平成20年度試験の結果に基づかずに加点されたことについて,原告の責任は全くない上,原告が,平成20年4月1日から本件取消処分がされる同年9月8日までの間,教員として勤務していたことからすると,原告と被告との間には,原告が今後も大分県公立学校教員として勤務し続けることができるとの信頼が形成されていた。そうであるにもかかわらず,県教委は,本件取消処分がされた後に,大分県公立学校教員として採用するための再試験による選考を実施したり,補償の措置を講じることもなく,本件取消処分を行った。 よって,本件取消処分は,それ自体,信義則に反し,国家賠償法上も違法と評価され,県教委には,本件取消処分を行うべきではなかったにもかかわらず,これを違法に行った過失がある。 (イ) また,県教委は,平成20年3月頃,平成20年度試験の解答用紙を廃棄している。これは,大分県教育委員会文書管理規程が定める10年の保存期間経過前にされたものであって,同規程に反するものである。この解答用紙の廃棄によって,平成20年度試験においてされたとされる原告の点数操作の有無,ひいては本件取消処分の適法性を,事後的に検証することができなくなった。このように,県教委によって事後的な検証を不可能としながら,本件取消処分を行うことは,手続の適正に反し,国家賠償法上,違法である。そして,県教委には,保存期間が経過するまでは原告の解答用紙を保存して,原告が必要とするときに提供するという職務上の義務に違反した過失がある。 (ウ) さらに,県教委は,教員採用試験を実施するに当たり,採点業務,集 計業務において不正が介入しないように受験者を匿名化する等の不正防止体制を構築する義 上の義務に違反した過失がある。 (ウ) さらに,県教委は,教員採用試験を実施するに当たり,採点業務,集 計業務において不正が介入しないように受験者を匿名化する等の不正防止体制を構築する義務があるにもかかわらず,これを怠った過失がある。 被告は,不正を防止する相応な体制が構築されていたと主張するが,被告が全受験者の点数を入力している表には,受験者の受験番号,氏名,性別,出身大学,学部・学科等,卒業年度,出身高校,主免許,年齢,勤務先,職歴(臨時講師であるか否か等)が記載されており,集計業務を行う者において受験者を特定した上で,成績を改ざんすることは容易であった。したがって,不正防止体制が構築されていたとはいえない。 (エ) また,県教委は,平成20年度試験の受験者の点数を集計するに当たり不正行為が行われないように,集計業務を担当する県教委職員に対して指導監督すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠った過失がある。 イ被告の主張(ア) (2)イ項のとおり,本件取消処分は適法である。 本件取消処分は,地方公務員法15条が規定する成績主義・能力実証主義に基づいてされた適法なものであるから,これが信義則に反し国家賠償法上違法と評価されることは,法治主義と強く対立することになるので,容易に認めることはできない。 被告は,原告に対して支給した給与や諸手当の返還を求めていないこと,本件取消処分を行う前に,原告に対して,本件取消処分を行うこと及び代償措置について説明した上で,本件採用決定からわずか約5か月後に本件取消処分を行っていること,本件取消処分後も,原告が,それまで勤務していた大分市内の中学校において臨時講師として勤務し続けたことなどに照らせば,被告が,被告と原告間で形成されていた信頼に反して本件取消処分を行った いること,本件取消処分後も,原告が,それまで勤務していた大分市内の中学校において臨時講師として勤務し続けたことなどに照らせば,被告が,被告と原告間で形成されていた信頼に反して本件取消処分を行ったことにはならない。 原告は,本件取消処分の後に,大分県公立学校教員として採用するため の再試験による選考を実施すべきであったと主張するが,原告は,そもそも平成20年度試験第1次試験にすら合格していない上,平成22年度試験ないし平成24年度試験においても,いずれも第1次試験にすら合格していない。このように,本件取消処分を行うことが国家賠償法上違法と評価されることもない。 したがって,県教委が本件取消処分を行うべきではなかったとはいえず,県教委に過失はない。 (イ) 県教委は,平成20年度試験における原告の解答用紙を,平成20年3月に廃棄した。これが,大分県教育委員会文書管理規程に違反しているとしても,大分県教育委員会文書管理規程は,職員による事務の適正かつ効率的な運営を図るために,文書の保存期間等を内部的に定めたものである。解答用紙は,教員採用試験の合格者を決定するために作成・保管されるものであり,民事訴訟における当事者の便宜に配慮して作成・保管されるものではないから,直接私人の権利利益の保護を図る趣旨の規程ではない。そして,教員採用試験の第1次試験及び第2次試験の解答用紙の保存期間は,11月と定められている上,原告の解答用紙の廃棄は,意図的に保存期間前にされたものではなく,また,特定の民事訴訟事件の立証活動を妨害する意図や特定の者に対する情報公開の回避を目的としてされたものでもない。 加えて,被告が提出した証拠から,事後的な検証は十分可能であるから,原告が主張する点に関し,事後的な検証が不可能になってはいない。 したがって, る情報公開の回避を目的としてされたものでもない。 加えて,被告が提出した証拠から,事後的な検証は十分可能であるから,原告が主張する点に関し,事後的な検証が不可能になってはいない。 したがって,大分県教育委員会文書管理規程に違反したことが,直ちに,原告の法的利益を侵害し,国家賠償法上違法と評価されるものではない。 (ウ) 教員採用選考試験の実施方法については,法令上の規定はなく,一般に,適正な試験の実施が求められてはいるものの,原告が主張するような採点業務,集計業務において不正が介入しないように受験者を匿名化する 等の不正防止体制を構築する義務を負うものではない。 県教委は,平成20年度試験における第1次試験及び第2次試験のいずれにおいても,各試験科目の実施,試験終了後の解答用紙,採点表等の回収及び保管,更に採点,評価という各過程で,適正な事務処理を行っていた。そして,教養,作文及び専門の試験科目については,採点に当たり,受験者の特定ができないような措置が講じられていた。したがって,不正を防止する相応な体制が構築されていたということができ,何ら職務上の注意義務に反したところはない。 (4) 損害額ア原告の主張(ア) 慰謝料 500万円原告が,長年の勉強や現場経験を経て,教員としての身分を取得したこと,被告が平成20年度試験の解答用紙を廃棄したことにより,原告は自身の試験結果に対してされたとされる点数操作の事後的な検証ができなくなったことに照らせば,原告が本件取消処分によって一旦取得した教員としての身分を失ったことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,500万円が相当である。 (イ) 弁護士費用相当損害額 100万円(ウ) (ア)と(イ)の合計 600万円イ 分を失ったことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,500万円が相当である。 (イ) 弁護士費用相当損害額 100万円(ウ) (ア)と(イ)の合計 600万円イ被告の主張争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実第2の2項の事実に加え,証拠(甲1,7,17,40,51,59の1~6,乙1~5,8の1・2,乙10~17,18の1・2,乙19,21,22の1・2,乙23の1・2,乙26~32,35の1・2,乙36~39, 46,55,57,69,75の1,証人丙,原告本人,鑑定嘱託の結果(以下,証拠として引用する場合には,鑑定書の頁数を記載することがある。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,昭和5●年生まれの男性であり,平成13年3月,B体育大学体育学部体育学科を卒業して,中学校及び高等学校の教諭1種免許(保健体育)を取得した。(甲40,乙4)(2) 原告は,大分県の公立学校で,中学校保健体育科の教諭になることを希望し,平成13年度採用試験を受験したが,不合格となった。その後も,平成19年度採用試験まで毎年受験したが,合格しなかった。(甲40)(3) 原告は,平成13年4月1日から平成20年3月30日まで,次のとおり,大分県内の公立学校に,臨時講師,臨時事務員又は非常勤講師として勤務した。この間,原告は,体育科の授業を担当するだけでなく,部活動の顧問や,クラス担任を任されるなどしていた。(甲40,乙4,原告本人)ア平成13年4月1日から平成14年3月31日まで大分県立C高等学校非常勤講師及び大分県立D高等学校非常勤講師イ平成14年4月4日から平成15年3月31日まで大分県別府市立E小学校臨時講師ウ平成15年7月1 14年3月31日まで大分県立C高等学校非常勤講師及び大分県立D高等学校非常勤講師イ平成14年4月4日から平成15年3月31日まで大分県別府市立E小学校臨時講師ウ平成15年7月10日から平成16年3月30日まで大分県大分市立F中学校臨時講師エ平成16年4月1日から平成18年3月30日まで(ただし,平成17年3月31日を除く。)大分県大分市立G中学校臨時事務員オ平成18年4月1日から平成19年3月30日まで大分県大分市立G中学校臨時講師カ平成19年4月1日から平成20年3月30日まで大分県杵築市立H中学校臨時講師 (4) 県教委の大分県公立学校教員採用試験についての対応県教委は,平成13年頃まで,大分県公立学校教員の採用につき,第1次試験及び第2次試験を実施し,その試験結果の点数及び総合点を公開せず,第2次試験の受験者宛てに,A(名簿に登載し,翌年度4月1日に本採用となることが確定した者),B(試験の翌年度中に欠員が生じた場合には,本採用をすることがある者として,名簿に登載する者),C(名簿に登載しない者)の判定を付けた文書を通知していた。また,成績を判定する際に,ボーダーライン付近の受験者については,第1次試験又は第2次試験の総合得点に加えて,受験者の居住地による地域バランス,男女比や年齢構成及び臨時講師の経験による実践的指導力の評価といった要素を加味していた。 しかし,県教委は,平成14年度試験(平成13年度に実施されたもの)から,ABC判定をやめて,合格(翌年度4月1日に本採用を予定している者として採用候補者名簿に登載する者),不合格(名簿に登載しない者)の通知をする制度に改め,さらに,平成13年8月17日に,大分県公立学校教員採用選考試験結果の開示事務取扱要綱を 採用を予定している者として採用候補者名簿に登載する者),不合格(名簿に登載しない者)の通知をする制度に改め,さらに,平成13年8月17日に,大分県公立学校教員採用選考試験結果の開示事務取扱要綱を制定し,平成14年5月29日,これを廃止して,「大分県公立学校教員採用選考試験結果の口頭による開示請求に係る事務取扱要綱」(乙14)を制定し,教員採用試験の受験者が口頭で請求した場合に開示する教員採用試験の結果は,①第1次試験における筆記試験(教養,専門),作文,実技・実験及び面接の各得点並びにその合計得点,②第2次試験における面接,模擬授業,パソコン実技試験及び音楽・体育実技(小学校教諭及び盲・聾・養護学校教諭に限る。)の各得点並びにその合計得点とすることを明示した。また,県教委は,平成15年度試験(平成14年度に実施されたもの)からは,地域バランス等の要素を加味することをやめ,教員採用試験の得点のみを選考の資料とする方針を採ることとしていた。 (以上について,甲7,乙11,14,弁論の全趣旨) (5) 平成20年度試験の概要ア平成20年度試験は,次のとおり実施された。(甲17,乙1,11~13,弁論の全趣旨)(ア) 受験資格a 地方公務員法(昭和25年法律第261号)16条及び学校教育法(昭和22年法律第26号)9条の欠格条項に該当しない者b 志望種別に応ずる教諭普通免許状を現に有している者又は平成20年3月31日までに取得見込みの者c 昭和42年4月2日以降に生まれた者。ただし,大分県公立学校教職員(臨時的任用の者を除く。)又は他都道府県の国公立学校教諭若しくは養護教諭として現に身分を有する者は,昭和37年4月2日以降に生まれた者d 県内のどこにでも赴任できる者(イ) 第1次試験a 期日平成1 を除く。)又は他都道府県の国公立学校教諭若しくは養護教諭として現に身分を有する者は,昭和37年4月2日以降に生まれた者d 県内のどこにでも赴任できる者(イ) 第1次試験a 期日平成19年7月21日及び同月22日b 試験内容⒜ 教養(一般及び教職)(内容:教育公務員として必要な一般教養及び教職に関する教養) 作文(内容:800字以内) 専門(教科)(内容:自己の有する免許教科のうち,志望の1教科) 実技(内容:共通種目及び選択種目の実技)⒠ 面接(内容:集団討論)(ウ) 第2次試験a 対象者第1次試験の結果「第2次試験を実施します。」と通知した者全員b 期日平成19年9月上旬から中旬 c 試験内容 面接 模擬授業(内容:直前に示されたテーマについて,面接官を生徒に見立てて15分間の授業を行う。) 適性検査(エ) 平成20年度の中学校の保健体育の教諭志望者についての第1次試験,第2次試験の配点は,第1次試験の教養80点満点,作文100点満点,専門160点満点,実技60点満点,面接100点満点,第2次試験の面接320点満点,模擬授業180点満点として採用試験を実施した。 イ県教委が,平成20年4月に,中学保健体育教諭たる大分県公立学校教員として採用する予定の人数は,3名であった。(弁論の全趣旨)(6) 平成20年度試験の受験状況及び結果ア平成20年度試験を受験した者のうち,中学保健体育を志望した出願者は60名であった。 このうち,56名が第1次試験を受験し,県教委は11名を合格とした。 そして,県教委が,第2次試験を合格とし,最終合格とした者は,3名であった。(乙2の2頁,弁論の全趣旨)イ採点・集計作業の過程県教委は,平成20年度試験におい ,県教委は11名を合格とした。 そして,県教委が,第2次試験を合格とし,最終合格とした者は,3名であった。(乙2の2頁,弁論の全趣旨)イ採点・集計作業の過程県教委は,平成20年度試験において,次の(ア)ないし(キ)のとおり,第1次試験及び第2次試験の採点・集計作業を実施した。(乙1,11,15,16,18の1・2,乙19,26,29,32,35の1,乙36,55,鑑定嘱託の結果,弁論の全趣旨)(ア) 当時,県教委義務教育課人事・免許班の副主幹であった乙(以下「乙副主幹」という。)は,義務教育課人事班の4人で手分けして,受け付けた願書を基に,随時,氏名,志望職種,性別,年齢,現住所,出身地, 高等学校以降の学歴,所有免許等の基礎データを入力し,これが完了した後,教員採用試験担当の職員が,志望職種別に,各受験生に受験番号を付した。 (イ) 解答用紙の回収及び保管並びに得点集計作業試験監督員は,平成19年7月21日,平成20年度試験第1次試験の教養試験及び作文の終了後,教養試験の解答用紙及び作文用紙を,封筒に入れた状態で監督員控室に持ち帰り,机上に実施報告書と共に置いた。また,問題用紙及び作文下書きは,机の下に置いた。 教養試験の解答用紙及び作文用紙は,義務教育課担当係員が封筒から取り出し,部数を確認した後,各教室ごとに,表紙に受験番号が記入された。そして,係員は,全ての教養試験の解答用紙と作文用紙の左上に,受験番号欄を覆うように,封筒の角を三角形に切り取った紙片(県教委職員の間では「アブラゲ」と呼称されていたもの)を付け,再度部数を確認してから,各教室ごとに,教養試験の解答用紙と作文用紙の左上をステープラで留め,所定の段ボール箱に収納し,これに封をした上で,義務教育課の職員が常駐する本部室で保管した。専門試験の解 再度部数を確認してから,各教室ごとに,教養試験の解答用紙と作文用紙の左上をステープラで留め,所定の段ボール箱に収納し,これに封をした上で,義務教育課の職員が常駐する本部室で保管した。専門試験の解答用紙についても,教養試験と同様に処理された。なお,教養試験及び専門試験の解答用紙並びに作文用紙には,受験生の氏名は記入されていない。 体育実技試験については,試験終了後,各試験委員が作成した採点表を体育保健課振興監に提出し,体育保健課に持ち帰られ,体育保健課職員が,採点表から集計表に得点を転記,確認後,集計表は,高校教育課(義務教育課)人事班に交付され,所定の段ボール箱へ収納された。段ボール箱は封緘され,大分県庁63会議室に搬入され,同会議室を施錠して保管された。同会議室の鍵は,義務教育課人事班の職員が保管していた。 面接(集団討論)については,平成19年7月22日の試験終了後, 試験委員が袋に入れた採点表を本部まで持ち帰り,義務教育課人事班職員が,受領,確認した後,所定の段ボール箱に収納して封緘し,大分県庁に持ち帰った。 (ウ) 採点作業平成20年度試験第1次試験の採点は,平成19年7月24日から同月27日までの間に行われた。 採点作業は,まず,大分県庁62会議室において,各解答用紙が収納された段ボールが開封され,教養試験及び専門試験の解答用紙は,大分県庁84会議室に持ち込まれ,作文用紙は,義務教育課及び高等教育課において仕分けて採点された。 受付担当者は,教養試験及び専門試験の解答用紙並びに作文用紙の左上に紙片がステープラで留められ,受験番号が隠れた状態で,解答用紙又は作文用紙の分冊番号を確認して,採点責任者に渡すこととされていた。そして,採点担当者2名が,紙片で受験番号が隠れた状態のままで,それぞれ1回ずつ採点を 留められ,受験番号が隠れた状態で,解答用紙又は作文用紙の分冊番号を確認して,採点責任者に渡すこととされていた。そして,採点担当者2名が,紙片で受験番号が隠れた状態のままで,それぞれ1回ずつ採点を行い,解答用紙の分冊ごとに,表紙に総合計,人数,平均点を記載し,入力担当者に引き継いだ。 (エ) 得点の入力及び一覧表の作成得点の入力作業及び一覧表の作成作業は,乙副主幹によって,平成19年7月24日から同月30日にかけて行われた。乙副主幹は,得点の入力作業を行うに当たって,受験番号を隠すために解答用紙及び作文用紙に付けられていた紙片を外して,受験番号と得点を確認した上で,それを一覧表に入力した。乙副主幹は,甲から,入力ミスがないように何度も確認するよう注意を受けていたため,入力に誤りが発見された場合に作業状況を遡ることができるよう,作業確認での修正や項目の付け加え等,試験集計結果表を変更した都度,ファイル名を変えて保存していた。この時点で,乙副主幹が作成していた一覧表には,受験生の受験番号,氏名,性別,年 齢,主免許,大学等,学部,学科,専門,卒業年度,出身高校,現在の勤務先,現在の職が記載されていた。 (オ) 甲による点数操作の指示甲は,平成19年7月30日頃,乙副主幹に対し,第1次試験の結果のファイルを交付するよう指示し,その内容を確認した。甲は,乙副主幹に対し,かねて甲自身が合格の請託を受けていた受験者と,県教委幹部から交付されたリストに記載されていた受験者を合格させるため,(エ)項で乙副主幹が作成していた一覧表の受験生の得点を一部書き換えるよう指示し,乙副主幹は,甲の指示に従って,複数名の受験者の得点に,加点ないし減点の操作をした。 (カ) 第1次試験合格者の決定県教委担当者は,(オ)項で甲の指示により操作され を一部書き換えるよう指示し,乙副主幹は,甲の指示に従って,複数名の受験者の得点に,加点ないし減点の操作をした。 (カ) 第1次試験合格者の決定県教委担当者は,(オ)項で甲の指示により操作された後の得点を基に,第1次試験の結果を集計し,審議監及び教育長に順次説明を行った後,合格者の受験番号及び氏名を記載した資料により,第1次試験合格者決定の決裁を受け,受験者に通知した。 (キ) 第2次試験の実施及び集計作業県教委は,平成19年9月4日から同月7日にかけて,平成20年度試験第2次試験を実施した。第2次試験では,受験者が面接委員の前で模擬授業を行った後,面接試験が行われた。面接試験の終了後,面接委員が採点表を確認した上で封筒に収納し,面接委員の1名が,これを評価表にまとめた。同評価表は,本部の高校教育課職員に提出され,同課によって保管された。 乙副主幹は,平成19年9月10日から同月12日にかけて,得点の入力作業及び一覧表の作成作業を行った。この時点で,乙副主幹が作成していた一覧表には,受験生の受験番号,氏名,性別,年齢,勤務先,職歴が記載されていた。 甲は,第2次試験についても,乙副主幹に対し,乙副主幹が作成していた第2次試験の一覧表の受験生の得点を一部書き換えるよう指示し,乙副主幹は,指示に従って,複数名の受験者の得点に,加点ないし減点の操作をした。 ウ(ア) 県教委は,甲による点数操作後の得点のみに基づき,選考の成績判定を行った。点数操作前の第1次試験及び第2次試験の結果と,点数操作後の第1次試験及び第2次試験の結果は異なっていたが,これが看過されたまま,教員採用決定がなされた。 (イ) 中学校保健体育の志望職種を選択した受験生の得点操作をみると,第1次試験及び第2次試験の合計点が832点で順位1位であった は異なっていたが,これが看過されたまま,教員採用決定がなされた。 (イ) 中学校保健体育の志望職種を選択した受験生の得点操作をみると,第1次試験及び第2次試験の合計点が832点で順位1位であった受験者が,74点減点されて4位となり,合計点が808点で順位2位であった受験者が,52点減点されて6位となり,合計点が780点で順位3位であった受験者が,23点減点されて5位となり,いずれも不合格となった。他方,順位4位であった受験者は,得点に加減点の操作をされなかったが,順位1位から3位であった者の得点が減点されたため,1位となり,合格とされた。(乙31,32,46,弁論の全趣旨)(ウ) 原告は,第1次試験の得点に25点の加点操作が行われたことによって第1次試験8位になり,第1次試験合格とされ,第2次試験の得点に49点の加点操作が行われたことによって第1次試験と第2次試験を合わせて2位になり,第2次試験合格とされ,教員として採用されることになった(以下,第1次試験において25点の,第2次試験において49点の加点操作がされる前の原告の得点を「加点操作前の得点」,加点操作がされた後の原告の得点を「加点操作後の得点」ともいう。)。(乙46,鑑定嘱託の結果)(7) 原告は,平成20年4月1日,本件採用決定を受け,大分市立A中学校で,1年生の担任と,学年生徒指導(学年の生活全般に関する担当者をいう。)を 任された。なお,原告は,教育公務員特例法12条1項により,1年間の条件付き採用とされた。(甲1,甲40,59の1~59の6,原告本人)(8) 平成20年6月14日,公立学校の教員採用試験に関し,甲を含む県教委幹部や教職員4名が,贈賄又は収賄の事実により逮捕され,平成20年7月5日,このうち甲を含む3名が起訴された。(乙8の1・2,弁 ) 平成20年6月14日,公立学校の教員採用試験に関し,甲を含む県教委幹部や教職員4名が,贈賄又は収賄の事実により逮捕され,平成20年7月5日,このうち甲を含む3名が起訴された。(乙8の1・2,弁論の全趣旨)(9)ア県教委は,県教委幹部や教職員が,教員採用試験に関する贈賄又は収賄の事実により逮捕されたことを受けて,平成20年7月16日,「教育行政の抜本的な改革について」と題する書面(乙10)を発した。同文書において,県教委は,調査及び具体的改善策については,同年8月中にとりまとめるものとするとしていたが,不正な方法により教員に採用された者に対する対応としては,「不正な方法により,採用されたことが確認できた者については採用を取り消す。」という方針を採ることとしていた。(乙10)イ県教委によるデータの分析(ア) 大分県警察は,平成20年度試験の受験者の得点集計作業のため甲及び乙副主幹が使用していたパソコンを,(8)項の贈賄及び収賄の事実に関する捜査のため押収していた。県教委職員は,平成20年7月29日,大分県警察より,同パソコンのデータ全てを別のハードディスクにコピーする方法により,得点集計作業に関するデータの提供を受け,このデータを分析した。その結果,県教委は,次のとおり,ファイルを特定した。(乙22の1,22の2,乙23の1,23の2,乙26~32)a ファイル名「一次試験結果集計(素点1).xls」(乙26)平成20年度試験第1次試験の解答用紙又は得点集計表に記載された各受験生の得点が,そのまま入力されたファイル(以下「本件ファイル①」という。)。 b ファイル名「★★一次試験結果集計教育長説明(その4 8.16 端数変更).xls」(乙28) 県教委が,平成20年試験第1次試験の合否の判定に用いたフ 件ファイル①」という。)。 b ファイル名「★★一次試験結果集計教育長説明(その4 8.16 端数変更).xls」(乙28) 県教委が,平成20年試験第1次試験の合否の判定に用いたファイル(以下「本件ファイル②」という。)。 c ファイル名「2次試験結果全体素点入力(その1 9.12).xls」(乙29)平成20年度試験第2次試験の解答用紙又は得点集計表に記載された各受験生の得点が,そのまま入力されたファイル(以下「本件ファイル③」という。)。 d ファイル名「☆★総合結果教育長(10.4)理科・家庭増1.2 次順位入り.xls」(乙30)県教委が,平成20年度試験第2次試験の合否の判定に用いたファイル(以下「本件ファイル④」という。)。 (イ) 県教委は,(ア)項のとおり分析,特定したファイルを次のとおり検討し,原告の第1次試験の作文に25点が加点され,第2次試験の個人面接で15点,模擬授業で34点が加点されていたと判断した。(乙22の1,26~31,36,弁論の全趣旨)a 本件ファイル①(乙26)には,原告(受験番号●●●●)の平成20年度試験第1次試験の得点として,教養47点,専門94点,実技35点,作文60点,集団討論80点,合計316点と記載されている。 しかし,このうち,教養については,60点満点で採点したものを80点満点に換算する作業を行っていたところ,得点集計表に換算後の得点データを貼り付ける際に,1行ずつずれた状態で貼り付けたため,違う受験生の得点が入力されてしまっており,原告の教養の得点は,換算後の得点が正しく入力されていれば41点であった。 そして,教養の得点を41点とした場合,原告の第1次試験の合計点は311点となり,56人中16位の成績であった。 b 本件ファイル②(乙28 換算後の得点が正しく入力されていれば41点であった。 そして,教養の得点を41点とした場合,原告の第1次試験の合計点は311点となり,56人中16位の成績であった。 b 本件ファイル②(乙28)には,原告の平成20年度試験第1次試験 の得点として,教養47点,専門94点,実技35点,作文85点,集団討論80点,合計341点と記載されており,原告の順位は8位であった。 c ファイル③(乙29)には,原告の平成20年度試験第2次試験の得点として,個人面接250点,模擬授業122点,合計372点と記載されており,第1次試験の得点(341点)と合わせて713点とされ,原告の順位は5位であった。 d ファイル④(乙30)には,原告の平成20年度試験第2次試験の得点として,個人面接265点,模擬授業156点,合計421点と記載されており,第1次試験の得点(341点)と合わせて,762点とされ,原告の順位は2位であった。 e なお,第1次試験の教養の得点につき誤記がなかった場合の原告の第1次試験の得点は311点で,第2次試験の得点を合わせると,683点となる。その場合の第1次試験と第2次試験を合わせた原告の順位は7位であった。 ウ県教委職員は,平成20年8月15日及び同月27日,勾留中の甲に対し,平成19年度試験及び平成20年度試験において点数操作を行った方法等について,事情聴取を行った。県教委職員は,甲に対し,試験の得点を改ざんした理由を尋ねたところ,甲は,請託を受けて賄賂を贈られたことと,上司の指示であったことが理由であると答えた。ただし,県教委職員は,甲に対し,イ項の分析の結果,得点が操作された結果合格した者であると判断した者について,得点を加算した経緯や理由等を,個別具体的に聴取することはなかった。(乙35の1・2) ただし,県教委職員は,甲に対し,イ項の分析の結果,得点が操作された結果合格した者であると判断した者について,得点を加算した経緯や理由等を,個別具体的に聴取することはなかった。(乙35の1・2)エ県教委及び教育行政改革プロジェクトチームは,平成20年8月29日,「聴き取り調査及び文書調査等の結果」(甲51)を作成し,過去の教員採用試験の実態やその原因,再発防止策等の調査結果を発表したが,その中で も,原告の得点が加算された経緯や理由等は,検討されていなかった。 (10) 県教委は,(9)ア項のとおり,不正な方法により教員に採用されたことが確認できた者については,採用を取り消す方針を採っていたことから,採用取消予定者に対して,点数データの操作という不正な行為によって職員の採用制度の公正さが著しく損なわれたため,これによって行われた採用は地方公務員法15条に違反するものであって,重大な瑕疵を有しているから,採用時に遡って取り消す必要がある旨説明を行うこととし,平成20年8月30日,原告を含む採用取消対象者に対して,点数データを分析した結果を示して,採用を取り消す方針であることを告げるとともに,下記のような説明を行った(乙38,原告本人〔14頁〕,弁論の全趣旨)。 記ア採用の取消処分を行う時期は,9月上旬である。 イ採用を取り消された際の給料や諸手当は,返還の必要はない。退職手当の支給はされない。もっとも,労働基準法所定の解雇予告手当に相当する額を退職手当として支給する。 ウ共済組合掛金のうち,長期給付のための掛金は,公立学校共済組合から返還されるが,短期給付のための掛金は,病院等で診察を受けた際の医療保険の性質を有するものであるため,返還されない。 エ採用取消しは,職員の義務違反の責任を追及するために行われる懲 校共済組合から返還されるが,短期給付のための掛金は,病院等で診察を受けた際の医療保険の性質を有するものであるため,返還されない。 エ採用取消しは,職員の義務違反の責任を追及するために行われる懲戒処分とは異なり,受験者本人には責任がないと考えられることから,自ら退職を希望する場合には,自主退職を認めることとする。自主退職を希望する場合には,平成20年9月3日までに退職届を学校長に提出すること。 オ採用取消し又は自主退職の後,平成21年3月末までの間,引き続き臨時講師として勤務することを希望する場合には,採用することを考慮する。臨時講師としての勤務を希望する際には,現任校で継続勤務することや他の学校で勤務することを希望することも可能である。ただし,他の学校での勤務 を希望する場合には,通常,産休又は育休を取得した職員の代替として採用されることとなるので,採用の時期及び勤務校は未定である。臨時講師としての勤務を希望する場合には,平成20年9月3日までに臨時講師の勤務希望を学校長に申し出ること。 カ平成21年度試験以降の教員採用試験の欠格要件に,「採用取消処分を受けた者」を加える予定はない。そのため,年齢や教員免許などの受験資格に掲げられた要件を充たせば受験可能である。 (11) 原告は,(10)項のとおり説明を受けたが,自主退職する理由がないと考え,採用取消しを選択することとし,平成20年9月3日までに退職届は提出しなかった。また,平成20年9月3日までに,学校長に,採用が取り消されたときは臨時講師として勤務することを希望すると伝えた。(甲40)(12) 県教委は,平成20年9月7日,原告を含む6名の大分県公立学校教員の採用決定を取り消すこととし,翌8日,原告に対し,本件取消処分を行った。 (甲1,乙39,乙75の1,弁 えた。(甲40)(12) 県教委は,平成20年9月7日,原告を含む6名の大分県公立学校教員の採用決定を取り消すこととし,翌8日,原告に対し,本件取消処分を行った。 (甲1,乙39,乙75の1,弁論の全趣旨)(13) 県教委は,平成20年9月9日,原告に対し,平成21年3月8日までの期限付きで,大分県大分市立A中学校臨時講師を命じた。 原告は,大分市立A中学校において,平成23年3月まで,大分市立A中学校において担任としての勤務を継続し,平成22年度においては,学校全体の体育大会を担当した。(乙5,証人丙,原告本人)原告は,平成23年4月から平成25年3月までの間,大分市立I中学校において臨時講師として勤務し,担任を務めるとともに,学年生徒指導や部活動の顧問を担当した。平成25年4月からは,大分市立J中学校で,臨時講師として勤務しながら担任を務めた。(乙69,証人丙,原告本人〔29頁〕) 2 原告の合否は,合理的理由なく操作された得点に基づいて判定されたかについて(事実認定の補足説明)(1)ア原告は,①被告が,平成20年度試験の結果の集計業務に当たっていた 県教委職員のパソコンのハードディスクを物理コピーしたハードディスクのうち,本来被告による解析に用いることが予定されていない予備のハードディスクにアクセスしたこと,②被告が,平成20年度試験の点数操作を特定する過程で独自に復元したファイルと,鑑定嘱託で復元されたファイルが一致しないこと,③同一名称のファイルでありながらハッシュ値(元になるデータから一定の計算手順により求められた規則性のない固定長の値をいう。同じデータからは必ず同じハッシュ値が得られる一方,少しでも異なるデータからは全く異なるハッシュ値が得られる。)が異なるファイルがあることから,被告が特定したフ られた規則性のない固定長の値をいう。同じデータからは必ず同じハッシュ値が得られる一方,少しでも異なるデータからは全く異なるハッシュ値が得られる。)が異なるファイルがあることから,被告が特定したファイル(乙26,28~30)は,加点操作前のもの又は加点操作後のものとして信用できないと主張する。 イ県教委職員のパソコンのハードディスクのデータを解析する鑑定嘱託の結果によれば,鑑定した株式会社丁(以下「鑑定人」という。)が考える原告の本来の点数と合否を決する際に用いたファイルに記載されている点数は,次のとおりである。 (ア) 鑑定人が,平成20年度試験第1次試験における原告の本来の点数が入力されたと考えるファイルに記載されている原告の得点は,教養47点,専門94点,実技35点,作文60点,集団討論80点,合計316点である。(鑑定書56~60頁)(イ) 鑑定人が,平成20年度試験第2次試験における原告の本来の点数が入力されたと考えるファイルに記載されている原告の得点は,個人面接250点,模擬授業122点,合計372点である。(鑑定書61~64頁)(ウ) 鑑定人が,平成20年度試験の合否を決する際に用いられたと考えるファイルに記載されている原告の得点は,第1次試験教養47点,専門94点,実技35点,作文85点,集団討論80点であり第1次試験の得点の小計は341点,また,第2次試験の得点は,個人面接265点,模擬授業156点であり第2次試験の得点の小計は421点である。(鑑定書 65~68頁)ウイ項及び1(9)イ項のとおり,被告が第1次試験及び第2次試験の加点操作前及び加点操作後の得点が記載されたファイルとして特定した,本件ファイル①ないし④にそれぞれ記載されている原告の得点と,鑑定人が,原告の本来の点数が入力されてい が第1次試験及び第2次試験の加点操作前及び加点操作後の得点が記載されたファイルとして特定した,本件ファイル①ないし④にそれぞれ記載されている原告の得点と,鑑定人が,原告の本来の点数が入力されているファイル又は合否決定の際に用いられたファイルであると考えられると特定したファイルに記載されている原告の得点は,全て一致していることからすると,被告の特定作業と,それに基づき特定されたファイルは,信用できるものと推認でき,加点操作前後の原告の得点は,1(6)ウ,(9)イ(イ)項のとおりであったと認めるのが相当である。 ファイルの最終アクセス日時の変動から,被告が,平成21年7月22日,本来解析に用いることが予定されていない保存等用の予備のハードディスクの物理コピーにアクセスした事実は認められる(鑑定書38頁)ものの,各ファイルの最終アクセス日時に関するデータ部分は,ハードディスクを接続しているパソコンの電源を入れたり,USBケーブル等によってパソコンに接続した際にハードディスクに通電したりすることにより,ウィンドウズOS,ウィルススキャンソフト等を含むアプリケーションソフトが,使用者の意図にかかわらず,自動的にファイルにアクセスする等により更新される可能性があるデータ部分である(乙71・4頁)から,各ファイルの最終アクセス日時に関する部分のデータの更新は,ハードディスクを接続しているパソコンの電源を入れたり,USBケーブル等によってパソコンに接続した際にハードディスクに通電したりするだけで生じ得るものである。したがって,本来被告による解析に用いることが予定されていない予備のハードディスクへのアクセスがあり,ファイルの最終アクセス日時が変動しているからといって,被告がハードディスク内に保存されていたデータを改変した事実をにわかに推認すること とが予定されていない予備のハードディスクへのアクセスがあり,ファイルの最終アクセス日時が変動しているからといって,被告がハードディスク内に保存されていたデータを改変した事実をにわかに推認することはできない。 また,被告が復元したファイルと鑑定人が復元したファイルとの間に過不 足があることや,同一名称のファイルでありながらハッシュ値が異なるとしても,鑑定嘱託の結果は,被告が特定したファイルの内容と一致しており,被告の特定したファイルの信用性を左右するものではない。なおファイルのハッシュ値は,ファイルのバイナリデータの僅か1ビットの変動でも異なってくるものであるから,ハッシュ値の違いのみから,被告の解析結果の信用性を判断するのは全く相当でないと思慮する。 (2) 原告は,原告の平成20年度試験第1次試験の作文の成績が,60点から85点に書き換えられたのは,もともと原告の作文の得点が85点であったのに,誤って60点と入力されたため,その修正のためになされた可能性が高いと主張する。 しかし,1(6)イ項の事実及び証拠(甲24,乙35の1・2,乙36,55)によれば,乙副主幹は,第1次試験の採点終了後,全ての受験者の得点を採点表に入力しており,乙副主幹が,入力の過程で加点ないし減点の処理をしたことは認められないこと,受験者の解答用紙又は集計表に記載されていた得点をそのまま移記した最初のファイル名には,「素点」という言葉が用いられ(本件ファイル①),このデータ自体を改変して点数操作が行われたことはなく,本件ファイル②は,原告の作文の得点だけでなく,他の受験生の得点も加算されていることが認められることからすれば,原告の作文が加算された理由が,入力ミスを訂正するためであったとは認められない。 (3) また,原告は,「◎総合結果最終作業 なく,他の受験生の得点も加算されていることが認められることからすれば,原告の作文が加算された理由が,入力ミスを訂正するためであったとは認められない。 (3) また,原告は,「◎総合結果最終作業(講師等経験).xls」という名称のファイル(以下「本件ファイル⑤」という。)が作成されていることを挙げて,原告の平成20年度試験における点数が加点されたのは,原告の臨時講師としての経験が考慮された可能性があると主張する。 ファイル名に「講師等経験」という言葉が使用されていることからすると,県教委において,講師等経験者と,それ以外の受験者を区別していたことがうかがえるものの,本件ファイル⑤が作成される直前(平成19年10月4日午 後4時08分,平成19年10月5日午前10時04分)に作成されたファイル(鑑定書69~74,284,296頁)の原告の得点と,本件ファイル⑤の原告の得点は同じであるから,原告の非常勤講師及び臨時講師としての経験を考慮して,第2次試験の得点が加算されたとはおよそ認められない。 (4) 原告は,原告の点数が加点されたのは,個人面接や模擬授業の試験科目の得点調整や入力ミスが修正された可能性があると主張するが,これをうかがわせる的確な証拠はない。 (5) なお,原告は,平成20年度試験の結果の集計業務に当たっていた県教委職員のパソコンのハードディスクの物理コピーを作成し,これに保存されていた平成20年度試験の得点の集計過程で作成されたデータの解析及びこれに付随する調査に基づき作成された証拠(乙21,乙22の1・2,乙24~34,37,38〔3枚目に限る。〕)の証拠能力は否定されるべきであると主張するが,自由心証主義(民訴法247条)の下では証拠能力の制限はないのが原則であり,原告が証拠能力を否定すべき事情として主張 4,37,38〔3枚目に限る。〕)の証拠能力は否定されるべきであると主張するが,自由心証主義(民訴法247条)の下では証拠能力の制限はないのが原則であり,原告が証拠能力を否定すべき事情として主張する諸点は,いずれも信用性を判断する際に考慮すれば足りる。そして,(1)項及び(2)項で説示したとおり,原告の主張する諸点を踏まえても,被告の特定したファイルは信用できるものである。 3 本件取消処分の違法性について(争点(1),(2))(1) 本件採用決定は適法かについて(争点(1))ア公立学校の教員の採用は,教育公務員特例法11条に基づき,選考により行われることとされている。そして,この選考においては,地方公務員法15条が,職員の任用は,地方公務員法の定めるところにより,受験成績,勤務成績その他能力の実証に基づいて行わなければならないと規定し,職員の任用について,能力実証主義(メリット・システム)を採用していることから,同条の趣旨が適用されるものと解される。 地方公務員法が,能力実証主義の原則を,特に任用について定めている趣 旨は,優秀な人材を確保し,育成することで,地方公共団体の能率を向上させ,ひいては住民福祉を増進するという目的に加え,一般の職員の任用に関し,猟官主義(スポイルズ・システム)のもたらす弊害に鑑み,人事の公正をはかり,情実に基づく人事を禁じることにある。そして,地方公務員法15条に違反して任用を行った者には,罰則が適用される(同法61条2号)ことを考慮すると,地方公務員法15条に反し,違法と評価されるのは,能力の実証を行わず,情実に基づき,不公正な人事を行うことであると解するのが相当である。 イ 1(6)ウ(ウ)項,(9)項,(12)項のとおり,原告は,平成20年度試験を受験し,合格とされたが,県教 力の実証を行わず,情実に基づき,不公正な人事を行うことであると解するのが相当である。 イ 1(6)ウ(ウ)項,(9)項,(12)項のとおり,原告は,平成20年度試験を受験し,合格とされたが,県教委は,同試験の合否判定の基礎となった原告の得点が,原告の平成20年度試験の客観的な得点に加点された後の得点であったことから,不正な加点が行われたことを理由に,本件取消処分を行った。 特定の受験者の得点に,試験を実施した機関の関知しない大幅な加点が行われたことにより,当該受験者が合格した事実は,それ自体,当該受験者を試験の結果にかかわらず合格させる意図,すなわち,情実に基づく採用を行おうとする意図が介在していることをうかがわせるものとはいえる。 しかしながら,本件において,原告やその親族等の関係者が,県教委職員に対して,原告を平成20年度試験に合格させるために,平成20年度試験第1次試験及び第2次試験において,原告の得点が合格点に満たない場合には原告の得点を加点するように依頼したことをうかがわせる証拠はない。被告も,本件取消処分から6年が経過した本件口頭弁論終結時まで,不正な加点が行われて合格した以上,原告側が情実に基づく人事に関与したことが強く疑われるから採用を取り消したという説明はしておらず,むしろ,本件取消処分は,原告やその関係者の関与の有無を問わず行った旨主張している。 そして,県教委は,平成20年度試験において原告の得点が加点された経緯及び理由について全く解明しておらず,本件訴訟に提出された全証拠によ っても,全く明らかになっていない。 そうすると,原告の採用が情実に基づいて行われたとはいえない以上,本件採用決定が,地方公務員法15条に違反し違法なものであると評価することはできないというべきである。 ウまた,そもそも高等 。 そうすると,原告の採用が情実に基づいて行われたとはいえない以上,本件採用決定が,地方公務員法15条に違反し違法なものであると評価することはできないというべきである。 ウまた,そもそも高等学校以下の学校の教員になるには,教育職員免許法所定の免許状を有していることが必須の資格要件とされており,免許状を有していることで,その者が,教員となるための素養及び技能を備えていることは証明されているということができる。1(1)項のとおり,原告は,中学校及び高等学校の教諭1種免許(保健体育)を有しているのであるから,公立学校の教員となるべき能力は,実証されているということができ,この点からも,本件採用決定が能力実証主義に反するとはいえない。 エ被告は,大分県の教員採用試験においては,志望種ごとに教養,専門等の筆記試験や,実技,面接,模擬授業等の各試験を実施し,これらの試験結果をすべて数値化して受験者の得点とし,この得点のみに基づいて合否を決定しており,これは,成績主義・能力実証主義を具体化した裁量基準であるから,合理的な理由なく,この裁量基準と異なる判断がされた本件採用決定は,違法であると主張する。 しかし,行政庁は,地方公務員法15条に基づき,その範囲内で,採用試験における裁量基準を定めることができ,かつ,これに拘束されるものであるが,裁量基準は,行政庁が定めた行政規則ではあっても,法規たる性質を有するものではないから,裁量基準に適合しない採用決定が,直ちに地方公務員法15条に反するとはいえない。 よって,被告の主張は採用できない。 オ以上によれば,本件採用決定が,地方公務員法15条に反する違法な行政行為であると評価することはできない。 (2) 当裁判所は,(1)項のとおり,本件採用決定は,被告の主張する事情のみで は,地 上によれば,本件採用決定が,地方公務員法15条に反する違法な行政行為であると評価することはできない。 (2) 当裁判所は,(1)項のとおり,本件採用決定は,被告の主張する事情のみで は,地方公務員法15条に違反するとは認められないことから,違法な行政行為ではないと判断するものである。しかし,1(6)イ項のとおり,平成20年度試験においては,特定の受験者の得点に,合理的な理由のない操作が行われており,このような操作された試験結果によって,公務員が採用されたことについて,仮に違法と評価することができるとした場合,本件採用決定を取り消すことができるかについて,念のため検討する。 ア特定の行政行為が違法である場合には,当該行政行為は原始的に瑕疵を帯びていることになるから,処分庁は,原則として職権で当該行政行為を取り消すことができるものと解される。 したがって,本件採用決定が違法であるとすれば,県教委は,原則として本件採用決定を職権で取り消すことができる。 イもっとも,本件採用決定は,原告に対して,大分県公立学校教員という地位を与える授益的行政行為であるから,県教委による取消権の行使は,無制限に許されるものではなく,おのずから制約があるものというべきである。 そして,本件採用決定の帯びる違法性の程度と,法律による行政を回復するという目的に照らし,本件採用決定を取り消すことによって,原告が被る不利益が大きく,そのような処分をすることが,社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合には,違法となるものと解される。 ウ(ア) そこで検討するに,まず,(1)イ項のとおり,本件では,原告やその親族等の関係者が,県教委幹部に対して,原告を平成20年度試験に合格させるために加点するよう働きかけた事実を と解される。 ウ(ア) そこで検討するに,まず,(1)イ項のとおり,本件では,原告やその親族等の関係者が,県教委幹部に対して,原告を平成20年度試験に合格させるために加点するよう働きかけた事実を認める証拠はないから,本件採用決定が,情実に基づいて行われたとはいえない。その意味で,本件採用決定が,直ちに取り消すべき重大な違法性を帯びたものとはいえない。 (イ) 次に,地方公務員法15条が,能力実証主義を採用し,情実を排して,できる限り優秀な人材を公務員として確保することを目的としているこ とは,(1)項で説示したとおりである。 しかし,高等学校以下の学校の教員になるには,教育職員免許法所定の免許状を有していることが必須の資格要件とされており,教育公務員特例法11条は,これを受けて,公立学校の教員の採用は,競争試験ではなく,選考によるものと規定している(地方公務員法17条3項,4項参照)。 一般に,教育者として必要な人格的要素は,競争試験によっては判定しがたいものと考えられる上,免許状を有している者に対し,更に競争試験を行うことは,受験者に不必要な負担を強いることになり,不適当であることから,教員の採用を,競争試験ではなく選考によることとしたという立法趣旨(甲10)に照らせば,厳密な点数化と順位制による合否の判定は,明確で合理的な基準ではあるが,地方公務員法及び教育公務員特例法から必然的に導かれるものとはいえないものと解される。現に,県教委は,平成13年頃までは,合格者を決定するに当たり,第1次試験及び第2次試験の総合得点に加えて,受験者の居住地による地域バランス,男女比や年齢構成及び臨時講師の経験による実践的指導力の評価といった要素を加味しており,そのような取扱いも,地方公務員法15条及び教育公務員特例法11条に反しないと解 者の居住地による地域バランス,男女比や年齢構成及び臨時講師の経験による実践的指導力の評価といった要素を加味しており,そのような取扱いも,地方公務員法15条及び教育公務員特例法11条に反しないと解して運用していたのであるから,県教委が,厳密な点数化と順位制による合格判定でなければ地方公務員法15条に違反するものと認識していたとは考えられない。また,県教委は,平成20年度試験において4位であった受験者について,不正な加点がないという理由のみで,採用決定を維持しているほか,平成26年度試験においては,第1次試験の採点に不備があったことを理由に,再採点の結果,合格点を下回った受験者についても合格させている(甲74)。仮に,地方公務員法15条が,選考において優秀な成績を収めた者を,最上位から採用することを徹底する趣旨であると解するのであれば,かかる措置を取ることも許されないことになるはずであり,県教委も,個別の事案において,具体 的事情に応じた利益考量を行っていることは明らかである。 そして,原告は,1(1)項,(3)項のとおり,中学校及び高等学校の教諭1種免許(保健体育)を取得しており,正規の職員としての採用ではないけれども,平成13年4月から平成20年3月まで,臨時講師等として,県内の小,中,高等学校において勤務している。また,本件採用取消処分後も臨時講師として勤務している。この間の原告の勤務状況については,好意的に評価する生徒及び保護者並びに同僚も,少なからずいることがうかがえる。少なくとも,教員として問題があったとか,公務が停滞し地方公共団体の行財政の運営に影響を及ぼしたなどといった事情は全くうかがえない。また,1(9)イ(イ)項のとおり,原告の得点の加算,あるいは誤記がなかったとしても,原告の第1次試験の順位は56人中16 公共団体の行財政の運営に影響を及ぼしたなどといった事情は全くうかがえない。また,1(9)イ(イ)項のとおり,原告の得点の加算,あるいは誤記がなかったとしても,原告の第1次試験の順位は56人中16位,第1次試験と第2試験を合わせた順位は7位であることからすると,教員として勤務すること自体が公益を害するような低い得点ともいえない。 (ウ) さらに,県の職員採用試験の透明性と,これを保持することによる県政への信頼を回復することも,本件採用決定を取り消すことで回復される公益として挙げられるが,これらは,極めて抽象的なものである。また,本件採用決定を取り消すことによって,上記の公益が大幅に回復されるとも考えにくい。 (エ) 以上によれば,本件採用決定の違法性は重大なものとはいえず,違法な本件採用決定がされたことにより公務が停滞したなどの問題も生じていないから,本件採用取消処分によって回復される公益は極めて抽象的なものにとどまり,本件採用決定を取り消すことによって,回復される程度も大きいものとは言いがたい。 エ他方で,原告は,本件取消処分によって,大分県公立学校教員としての身分を失った。原告は,その後も,臨時講師として引き続き勤務しているとはいえ,その勤務形態は,正規の教員と比較して,極めて不安定なものとなっ たものと認められる。よって,原告が大分県公立学校教員としての身分を失ったことによる社会的,経済的不利益が,具体的で重大なものであることは明白である。 オ加えて,平成20年度試験の各受験者に対する不正な加点は,採点・集計を担当した県教委の内部で行われたものと認められるところ,これに原告側の関与が認められない以上,その非は,もっぱら県教委側にあるといえる。 そして,県教委側は,不正な加点が行われた原因,理由を何ら検討,解明を 県教委の内部で行われたものと認められるところ,これに原告側の関与が認められない以上,その非は,もっぱら県教委側にあるといえる。 そして,県教委側は,不正な加点が行われた原因,理由を何ら検討,解明をしていない。このような県教委側の対応にもかかわらず,本件採用決定により失われた,法律による行政を回復するため,原告に一方的な不利益を課すことは,あまりにも原告に酷である。 カ以上によれば,本件採用決定を取り消すことにより原告が被る不利益の程度に比して,これを取り消すことによって回復される公益が大きいとは認めがたく,不正な加点が,専ら県教委内部で行われたという本件の個別的な事情も併せ考慮すれば,県教委は,本件採用決定を取り消すことはできないというべきであり,これを取り消した本件取消処分は違法である。 以上のとおり,仮に本件採用決定が違法であるとして,本件採用決定を取り消すことができるかにつき検討したが,本件採用決定を取り消すことは違法であると判断できる。さらに,本件採用決定が不当であるとして,本件採用決定を取り消すことができるかが問題となり得るが,本件採用決定が違法であるとしても,これを取り消し得ないのに,本件採用決定が不当にとどまる場合に,この本件採用決定を取り消すことができないのはいうまでもない。 キ(ア) 被告は,授益的行政行為の取消しにおいて,処分の相手方に財産的価値に関する不利益が生じていない限り,処分の相手方の保護は必要なく,違法な行政行為の取消しに制限はないと主張する。しかし,処分の相手方に財産的価値に関する不利益が生じていない限り,保護の必要性がないと 解する合理的な理由はない。 また,被告は,資格等の地位付与に関する場合は,公益上必要な要件が欠けているから,違法な行政行為の取消しに制限はないと主張する。しかし, ,保護の必要性がないと 解する合理的な理由はない。 また,被告は,資格等の地位付与に関する場合は,公益上必要な要件が欠けているから,違法な行政行為の取消しに制限はないと主張する。しかし,1(5)ア(ア),3(1)ウ項のとおり,教員の採用は,教員免許法所定の免許状を有している者の中から選考によって行われており,その者の教員としての能力は,免許状を有していることによって,客観的に公証されているというべきである。したがって,公益上必要な要件が欠けているとはいえない。 (イ) 被告は,本件取消処分当時,原告は,条件附採用の期間中であったため,身分保障に欠けるから,本件取消処分によって被る不利益は小さいと主張する。 しかし,条件附採用は,正式採用されることを前提とした身分であるから,条件附採用であったとしても,本件取消処分によって将来的な正式採用の機会が失われるという意味で,大きな不利益があるというべきである。 (ウ) 被告は,①本件取消処分を行うことを,原告に対し,事前に予告をしたこと,②本件取消処分の効果は,実質的に遡及しておらず,原告に対して支給された大分県公立学校教員としての給料及び諸手当の返還を求めていないこと,③原告が本件取消処分後も臨時講師として継続勤務していることを挙げて,原告の不利益は緩和されていると主張する。 しかし,上記①については,本件取消処分を行うことを事前に予告したからといって,教員としての身分を失うという原告の不利益が緩和されるものではない。上記②については,確かに,行政行為の取消しには,本来遡及効があるものの,原告は,平成20年4月から同年8月まで,実際に大分県公立学校教員として勤務し,その対価として,給料及び諸手当が支給されたのであり,雇用契約の解除の効力が遡及しないこと(民法630 ものの,原告は,平成20年4月から同年8月まで,実際に大分県公立学校教員として勤務し,その対価として,給料及び諸手当が支給されたのであり,雇用契約の解除の効力が遡及しないこと(民法630 条,620条)も考慮すれば,上記②は,被告が,この措置をとることは,原告の不利益緩和のため必要最低限の措置とはいえても,これだけでは本件取消処分を適法とするだけの十分な緩和措置とはいえない。そして,上記③については,原告を臨時講師とする措置は,原告を失職させることと比較すれば,不利益を緩和するものともいえるが,臨時講師の地位は,期限付きかつ継続の保障のない不安定なものであることや,正規の教員と比較して,給与面でも劣ることからすれば,臨時講師として採用する措置を取ったことで,原告の不利益が大幅に緩和されたとは評価できない。 (3) したがって,本件取消処分は違法である。 4 本件取消処分等について国家賠償法上の違法性があるかについて(争点(3))(1) 県教委が本件取消処分を行ったことに関する違法性についてア本件取消処分が違法でありその取消しを免れないとしても,そのことから直ちに本件取消処分が国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件取消処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,本件取消処分は国家賠償法1条1項にいう違法の評価を受けるものと解される(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁,最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・集民220号165頁参照)。 イ本件取消処分は,授益的行政行為の取消しの事案であり,かつ,原告やその関係者が働きかけをしたことにより加点が行われたかどうかは解明されなかったのであるから,受験 ・集民220号165頁参照)。 イ本件取消処分は,授益的行政行為の取消しの事案であり,かつ,原告やその関係者が働きかけをしたことにより加点が行われたかどうかは解明されなかったのであるから,受験者やその関係者からの働きかけによる加点の結果採用されたという類似事案(特に,瀆職が行われたもの)と事情を異にすることは,県教委も認識し,あるいは容易に認識することができた。 そうすると,本件取消処分を行おうとする行政庁としては,事実関係及びそれに適用される法律上の見解について,慎重に調査・検討すべき義務があったというべきである。 ウ被告は,本件取消処分を行う際に,職員採用試験における成績が水増しされた結果,当該受験生が採用された事例を検討したという。しかし,被告が検討した事例は,いずれも,受験者の親による贈賄行為が介在している。このような類似事案を参考に,本件取消処分を行うのであれば,被告は,原告の得点が加点された経緯に関し,贈賄行為の有無等の具体的な事実関係を解明する必要があるものと考えられるが,県教委は,原告の得点が加点された個別具体的な経緯を調査していない。 また,仮に,原告の得点が加点された経緯が解明できないのであれば,本件取消処分を行う際に,類似事案と異なる事情をいかに解すべきか,慎重に検討する必要があったといえるが,県教委が,そのような検討を加えたこともうかがえない。 エ県教委は,競争試験の結果,成績が下位であったにもかかわらず採用された職員に対する採用取消しが可能であるかに関する問題を取り扱った文献(乙40の1)を検討したようであるが,同文献においても,採用行為のような授益的行政処分の側面を有し,かつ,継続的関係を生じさせる行政行為を取り消す場合には,被処分者の不利益を考慮するに当たっては慎重でなければならな したようであるが,同文献においても,採用行為のような授益的行政処分の側面を有し,かつ,継続的関係を生じさせる行政行為を取り消す場合には,被処分者の不利益を考慮するに当たっては慎重でなければならないと記載されている。しかし,被告は,1(8)項,(9)項のとおり,平成20年6月14日に,県教委幹部が贈収賄の事実により逮捕されるや,その1か月後である同年7月16日には,不正な方法により採用されたことが確認できた者については採用を取り消すとの方針を採ることを決定しており,この前後に,法的な問題点を抽出し,詳細な検討を加えたり,個別具体的な事実関係の調査をしたりしたことはうかがえない。 よって,県教委は,事実関係及び法律の解釈について,慎重に調査・検討すべき義務がありながら,これを怠ったというべきである。 オそうすると,県教委が本件取消処分を行ったことには,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかった過失があり,本件取消処分を行ったこと自 体,国家賠償法上違法の評価を受けるというべきである。 (2) 解答用紙の廃棄に関する違法性等についてア第2の2項の事実,証拠(甲7,乙50,51)及び弁論の全趣旨によれば,大分県教育委員会文書管理規程は,教員採用試験第1次試験における受験者の答案等の保存期間及び第2次試験における受験者の答案等の保存期間を,それぞれ11月と定めており,保存期間の起算日は,文書が完結した日の属する月の翌月(大分県教育委員会文書管理規程10条4項)とされていること,平成20年度試験の第1次試験の結果は,平成19年8月17日午前9時に,第2次試験の結果は平成19年10月9日午前9時に,それぞれ発表されたこと,平成20年度試験の解答用紙は,平成20年3月頃に廃棄されたことが認められる。 イア項のとおり,被告は,平 午前9時に,第2次試験の結果は平成19年10月9日午前9時に,それぞれ発表されたこと,平成20年度試験の解答用紙は,平成20年3月頃に廃棄されたことが認められる。 イア項のとおり,被告は,平成20年度試験第1次試験及び第2次試験において,採点の対象となった解答用紙を,保存期間の経過までに廃棄している。 本件では,原告の得点が,試験結果にかかわらず加点されたか否かが争点になっており,平成20年度の教員採用試験における解答用紙は,本件採用決定や本件取消処分の最も重要な根拠となる資料の一つであるといえる。 そうすると,採用を取り消す処分を受ける者には,これらの資料を基に当該処分を争う利益があると解され,平成20年度試験の解答用紙を保管する公務員は,採用を取り消す処分を受ける者のかかる利益を保護するために,平成20年度試験の解答用紙を所定の保存年限まで廃棄しない職務上の注意義務を負っているというべきである。にもかかわらず,県教委職員は,原告の平成20年度試験の解答用紙を,保存期間経過前に廃棄したのであるから,かかる注意義務に違反したと認められる。 もっとも,1(9)項のとおり,平成20年度試験における原告の加点操作前の得点及び加点操作後の得点は,被告が保管していた平成20年度試験に関する電子データ等から明らかになり,得点操作の過程は,解明することが できたのであるから,平成20年度試験の原告の答案が廃棄されたことによって,平成20年度試験における原告の得点の操作の有無が検証できなくなったとはいえない。 したがって,解答用紙の廃棄により,原告の本件取消処分を争う利益が侵害されたとは認められないから,解答用紙の廃棄を理由に損害賠償を請求できるとする原告の主張は採用できない。 (3) 不正防止体制構築義務違反についてア 1(6 ,原告の本件取消処分を争う利益が侵害されたとは認められないから,解答用紙の廃棄を理由に損害賠償を請求できるとする原告の主張は採用できない。 (3) 不正防止体制構築義務違反についてア 1(6)項で認定したとおり,県教委は,解答用紙及び作文用紙(以下「解答用紙等」という。)の回収,採点の際に,解答用紙等に記載されている受験番号を紙片で隠し,解答用紙等を回収する者や採点者が,解答用紙等に記載されている受験番号を確認することができないようにしていた。これにより,解答用紙等の回収段階及び採点段階では,特定の受験者に有利な採点をするなどの不正行為は防止できるものと考えられる。 これに対し,得点の集計作業の際には,各受験者の受験番号と得点とを照らし合わせる必要があるから,このときは,解答用紙等にステープラで留められた紙片を外し,受験番号を露出させる必要がある。さらに,受験生の得点を集計し,合格者を決定するためには,最終的には,受験生の受験番号と氏名とを照合する作業が必要となる。 そして,合格者を決定するまでのどの段階で,受験生の受験番号と氏名とを照合するかは,採用権者の合理的な裁量に任せられているというべきであり,得点集計段階で,受験番号のみならず,氏名等の情報についても照合可能な状態に置かれていたとしても,このことが直ちに,採用権者の裁量を逸脱した不合理なものであるとはいえず,県教委職員に,平成20年度試験の採点,集計及び合格者を決定する全過程において,受験者を匿名化する等の不正防止体制構築義務違反があったとは認められない。 イまた,原告は,県教委には,甲を含む平成20年度試験の得点集計業務を 担当した県教委職員の監督を怠り,これらの者の不正を防止できなかった指導監督上の過失があると主張する。 しかし,県教委が指導監督上の注 ,県教委には,甲を含む平成20年度試験の得点集計業務を 担当した県教委職員の監督を怠り,これらの者の不正を防止できなかった指導監督上の過失があると主張する。 しかし,県教委が指導監督上の注意義務を尽くしていれば,得点集計業務を担当した県教委職員が原告の得点を加点できなかったことを認めるに足りる的確な証拠はない。 そうすると,県教委に,得点集計業務を担当した県教委職員の監督を怠り,これらの者の不正を防止できなかった指導監督上の過失があるとは認められない。 ウしたがって,不正防止体制構築義務違反があったとする原告の主張は,いずれも採用できない。 5 損害額について(争点(4))(1) 慰謝料本件取消処分によって,原告は,大分県公立学校教員の地位を失い,臨時講師として勤務することを余儀なくされた。本件取消処分が取り消されれば,原告の大分県公立学校教員としての地位や,経済的損害の回復が見込まれるとはいえ,本件取消処分は,原告やその家族の生活設計や将来設計に大きな影響を与えたこと,原告が,2学期の開始を数日後に控えた時期に,突然,採用試験における点数操作の事実を知らされ,数日間で自主退職するか否かの決断を迫られたことなど,原告の精神的苦痛は,経済的損害の回復によるのみでは慰謝されないものであると認められる。そして,本件で現れた一切の事情を考慮すると,原告が本件取消処分によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円とするのが相当である。 (2) 弁護士費用相当損害額本件事案の内容に鑑み,3万円を,本件取消処分と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額として認めるのが相当である。 (3) 以上によれば,原告に生じた損害額の合計は,33万円と認められる。 6 結論よって,原告の請求は,本件取消処分の取消し並 ある弁護士費用相当損害額として認めるのが相当である。 (3) 以上によれば,原告に生じた損害額の合計は,33万円と認められる。 6 結論よって,原告の請求は,本件取消処分の取消し並びに国家賠償法に基づき33万円及びこれに対する本件取消処分がされた日(不法行為の日)である平成20年9月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。 大分地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官宮武康 裁判官能宗美和 裁判官五味亮一

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