主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1円及びこれに対する平成24年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,被告代表者市長(以下「被告市長」という。)及び福岡市教育委員会教育長(以下「被告教育長」という。)が,それぞれ,職員につき,平成24年5月21日付けで発出した,公私を問わず自宅外での飲酒を原則として行わないものとする旨の各通知(以下「本件各通知」という。)について,当時福岡市教育委員会(以下「市教委」という。)で勤務していた原告が,本件各通知は,強制力を有する命令であり,不当に私生活上の自由を制約するものであるから,これらを発出する行為は違法であって,これにより精神的損害を被ったと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,慰謝料1円及びこれに対する本件各通知が発出された日である平成24年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(なお,原告は,被告市長の行為と被告教育長の行為が共同不法行為に当たると主張する。)。 2 関連法令 地方公務員法(以下「地公法」という。)(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)32条職員は,その職務を遂行するに当つて,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,上司の職 務上の命令に忠実に従わなければならない。 (信用失墜行為の禁止)33条職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならな 従い,且つ,上司の職 務上の命令に忠実に従わなければならない。 (信用失墜行為の禁止)33条職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(平成24年法律第67号,平成26年法律第76号による改正前のもの。以下「地教行法」という。)(教育長の職務)17条1項教育長は,教育委員会の指揮監督の下に,教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどる。 (略)(指導主事その他の職員)19条1項都道府県に置かれる教育委員会(略)の事務局に,指導主事,事務職員及び技術職員を置くほか,所要の職員を置く。 2項市町村に置かれる教育委員会(略)の事務局に,前項の規定に準じて指導主事その他の職員を置く。 (略)(教育長の事務局の統括等)20条1項教育長は,第17条に規定するもののほか,事務局の事務を統括し,所属の職員を指揮監督する。 (略)(教育長及び事務局職員の身分取扱)22条教育長及び第19条第1項及び第2項に規定する事務局の職員の任免,給与,懲戒,服務その他の身分取扱に関する事項は,この法律及び教育公務員特例法に特別の定があるものを除き,地方公務員法の定めるところによる。 (教育委員会の職務権限) 23条教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,次に掲げるものを管理し,及び執行する。 (略)3号教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。 務で,次に掲げるものを管理し,及び執行する。 (略)3号教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。 (略) 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(書証は特記しない限り枝番を省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者等ア被告(以下「福岡市」あるいは「市」ということがある。)は,普通地方公共団体であり,被告市長は被告の公務員である。 被告は,地教行法に基づき,市教委を設置しており,被告教育長は被告の公務員である。 イ原告は,昭和63年4月に,福岡市の職員となった者であり,平成24年5月21日当時,市教委に所属し,主査として勤務していた者である。 なお,市教委の事務局は,市役所本庁舎内に所在しており,被告市長や市事務局からの各種の公文通知は,市教委の職員に対しても伝えられる。 (甲24,原告本人) 本件各通知が発出された経過ア福岡市においては,平成18年8月25日,市保健福祉局職員が飲酒運転による幼児3名の死亡事故を起こして以降,市及び市教委の職員による飲酒の上での不祥事が続いていた。 平成24年5月17日,市土地開発公社職員が収賄容疑で逮捕され,翌18日,警察が市役所において同事件に係る捜索を実施したところ,同日の夜には,市職員2名が酒に酔って暴行事件及び傷害事件を起こし,それぞれ逮捕されるという事態が発生した。 被告はこれを受け,同月19日,緊急幹部会議を開催した。 (甲8,19,22,23,乙5,16) 被告市長は,平成24年5月21日付けで,以下のとおり「自宅外での飲酒について」と題する通知(以下「市長通知」と ,緊急幹部会議を開催した。 (甲8,19,22,23,乙5,16) 被告市長は,平成24年5月21日付けで,以下のとおり「自宅外での飲酒について」と題する通知(以下「市長通知」という。)を発出した。 「 5月17日に,市から派遣されている土地開発公社職員が収賄の容疑で逮捕された。そして翌日に,警察による強制捜査が行われ,市民の市役所に対する不信が募っている最中の同日夜,港湾局の職員が飲酒のうえタクシー運転手に暴行を加え逮捕され,さらに,こども未来局の職員が飲酒のうえ同僚職員に傷害を負わせ逮捕されるという2つの事件が発生した。 2月と4月にも2件の飲酒運転事案が発生し,さまざまな再発防止策を実施しているにも関わらず,未だに飲酒に絡んだ逮捕事案などの不祥事が続発するこの事態は,明らかに異常であり,非常事態における措置として,職員の飲酒自体について踏み込まざるを得ない。 ついては,本日より1ヶ月の間,すべての職員(正規職員)は,公私を問わず,自宅外での飲酒を原則行わないものとする。」(甲1) 被告は,市長通知に合わせ,職員に対し,「『自宅外での飲酒について』に関するQ&A」(以下「本件Q&A」という。)を通知した。(甲2)ウ被告教育長は,被告市長の方針を受け,市教委の職員に対し,各所属長を通じて,以下のとおり「自宅外での飲酒について(通知)」と題する通知(以下「教育長通知」という。)を発出した。 「 教育委員会においては,A小学校教頭が酒気帯び運転で検挙されるという事案を受け,さまざまな再発防止策を実施しているところですが, 本市職員による今回の一連の不祥事を踏まえ,市長より別添のとおり通知が出されました。 つきましては,教育委員会においても,これまでの取り組みに加え,全 防止策を実施しているところですが, 本市職員による今回の一連の不祥事を踏まえ,市長より別添のとおり通知が出されました。 つきましては,教育委員会においても,これまでの取り組みに加え,全市的な取り組みとして,本日から1か月の間は,公私を問わず,自宅外での飲酒を原則行わないものとする取り扱いとしますので,所属職員への周知および不祥事の再発防止と服務指導の徹底をお願いいたします。 なお,各所属において,既に取り組まれている飲酒の自粛につきましても,引き続き取り組みをお願いいたします。」(甲15,16,18,乙16)エ福岡市では,平成24年5月21日から同月31日までの間に,市役所本庁舎,各区役所,消防局,水道局及び交通局において,不祥事再発防止を内容とする被告市長による講話(以下「市長講話」という。)が実施された。市長講話の際には,参加者数の把握のために受付で出欠確認がされ,また,市総務企画局長は,同年6月8日付けで,市の各局,区,室の長に対し,市長講話への参加者を把握するための報告を依頼した。 (甲4,20,21,乙10,11) 4 争点及びこれに関する当事者の主張 被告市長の行為の違法性及び故意又は過失の有無(争点1)(原告の主張)ア市長通知が強制力,法効果性を伴う命令に当たること ①本件Q&Aでは,市長通知に違反した職員に対して,必要な教育及び指導を行い,市長通知に違反した上で不祥事などを起こした職員については,処分の量定が通常より過重されるとされていること,②被告市長及び市人事課が,違反者については処遇も含めて厳しく指導すると述べたこと,③被告市長が,テレビ番組において,市長通知について「事実上『命令』と受けとってほしい。」と述べたこと,④市長通知に違反 長及び市人事課が,違反者については処遇も含めて厳しく指導すると述べたこと,③被告市長が,テレビ番組において,市長通知について「事実上『命令』と受けとってほしい。」と述べたこと,④市長通知に違反 して飲酒した職員に対して,実際に所属長を通じて注意が行われたこと,⑤被告市長が,勤務時間中に市長講話を実施し,全ての職員の参加を呼びかけた上で出席の有無を確認していることなどからすれば,市長通知は,それに違反した場合に人事異動や昇任において不利益を受けることを暗示するものであり,実質的に強制力を伴う命令であったということができ,市長通知の発出は違法である。 市長通知が発出された当時,原告は市教委へ出向中であったが,市職員としての身分を喪失したものではなく,市から市教委への出向期間は多くは三,四年程度であったことからすれば,かかる状況下で発出された市長通知は,原告に対しても大きな影響力を有するものであった。さらに,市長通知は,市教委の職員にも閲覧可能であったこと,市長講話の対象職員に市教委職員も含まれていたことからすれば,市長通知は原告に対して大きな影響力を有していたということができ,実質上,直接的な強制力を有するものであった。 イ市長通知を発出する行為は被告市長の権限の逸脱,濫用に当たること市長通知は,不祥事を続発させた職員全体にペナルティーを科すことを目的として発出されたものである。仮に不祥事を防止するという目的があったとしても,職員の私生活にまで干渉する必要性はないから,職員の自宅外での飲酒を一律に禁ずることは,必要最小限度の手段とはいえないし,市長通知に,飲酒による不祥事の再発防止効果があったともいえない。 したがって,仮に市長通知が訓示規定の域にとどまるとしても,市長通知を発出することは市 必要最小限度の手段とはいえないし,市長通知に,飲酒による不祥事の再発防止効果があったともいえない。 したがって,仮に市長通知が訓示規定の域にとどまるとしても,市長通知を発出することは市長としての権限を逸脱,濫用するものであって,違法である。 ウ被告市長に故意があること被告市長は,市長通知が,原告ら被告職員の自宅外での飲酒という権利の行使を侵害することを認識しており,故意がある。 (被告の主張)ア市長通知は命令に当たらないこと市長通知は訓示規定にすぎず,違反したことをもって直ちに処分の対象とならないことが明らかにされており,原告の主張するような強制力や法効果性はない。 また,処分の量定については,非違行為の動機や態様等のほか,勤務態度等も総合的に勘案して決定されるものであるところ,被告はこれまでも,市職員に対し,アルコールについての知識習得や飲酒習慣の把握など,適正飲酒の指導を繰り返し行ってきたが,飲酒に関連した不祥事が後を絶たない状況にあったため,これらの経緯を踏まえてもなお,飲酒の上での非違行為を行うことは,非違行為の動機や態様が特に悪質であるとして,処分の量定が通常より加重されるというのが一般的な考え方である。本件Q&Aはそのことを述べたものにすぎない。 そもそも,原告は市長通知が発出された当時,市教委に所属していたのであり,被告市長には原告に対する人事権及び指揮監督権はなかったのであるから,市長通知は原告に対する強制力,法的効果を生じさせるものではない。 イ市長通知を発出する行為は被告市長の権限の逸脱,濫用には当たらないこと地方公務員は,地公法33条に基づき,職務の遂行とは関係なく守るべき身分上の義務を負っており,被告市長は,特別権力関係に基づき 長通知を発出する行為は被告市長の権限の逸脱,濫用には当たらないこと地方公務員は,地公法33条に基づき,職務の遂行とは関係なく守るべき身分上の義務を負っており,被告市長は,特別権力関係に基づき,市職員に対し,適正な公務を確保するために必要とされる範囲内で,職務と直接関係しない身分上の命令を発出することができる。 そして,市長通知は,職員に法的な義務を課すものではないから,身分上の命令ではなく,訓示規定にとどまるものであるが,飲酒による不祥事を防止することによって適正な公務を確保するという目的のために, 被告市長が市職員を指導,教育することも許容される。 そして,被告は,平成18年8月25日,市職員が飲酒運転による幼児3名の死亡事故を起こすという重大事件が発生して以来,様々な取組を実施してきたにもかかわらず,職員による飲酒の上での不祥事が後を絶たず,それにより市民の被告に対する信頼は大きく毀損されていたところ,市長通知は,市職員の意識改革を図って飲酒による不祥事の再発を防止し,市民の信頼を回復するために発出されたものであり,その目的の正当性,必要性が認められる。また,市長通知の内容も,1か月間という期間を定めた上で,自宅外での飲酒を自粛するよう要請したものであり,これに違反した場合も,それ自体によって人事上の処分が予定されているものではないなど,制約の程度も小さいことからすれば,市長通知を発出したことについて,被告市長に裁量権の逸脱,濫用があったとはいえない。 ウ被告市長に故意又は過失がないこと国家賠償法1条1項にいう故意又は過失とは,違法性の認識があること又はその予見可能性があることをいうところ,被告市長は,飲酒による不祥事が後を絶たず,市民からの信頼が大きく損なわれているという危機的状況を背景に,職員 いう故意又は過失とは,違法性の認識があること又はその予見可能性があることをいうところ,被告市長は,飲酒による不祥事が後を絶たず,市民からの信頼が大きく損なわれているという危機的状況を背景に,職員全員が自宅外での飲酒を自粛して職員全員で意識改革を行うことが,被告の社会的評価の毀損を防止し,これを回復するために必須であるという認識の下,職員に対する指導,教育の一環として飲酒の自粛を要請したものであって,違法性の認識もその予見可能性もなかった。 被告教育長の行為の違法性及び故意又は過失の有無(争点2)(原告の主張)被告市長の発言等は,市長通知についての被告市長の解釈を示したものであるところ,教育長通知の解釈もこれと同様である。したがって,教育長通知は,実質的に強制力を伴う命令であり,仮に訓示規定の域にとどまるとし ても,被告教育長が教育長通知を発出した行為は,その権限を逸脱,濫用したものであり,違法である。 被告教育長は,被告市長による市長通知を受け,市教委の職員も市長通知の対象となることを明確にするために,所属職員の権利を違法に侵害するものであることを知りながら,教育長通知を発出するとともに各部署の責任者に電子メールで通知し,上司を通じて原告に通知したものであり,この行為は被告市長の行為と共同不法行為を構成する。 (被告の主張)ア教育長通知が命令に当たらないこと市教委は,市長通知を受けて,一連の不祥事の一端が,平成24年4月20日に発生した市立小学校教頭による飲酒運転事案にあることを踏まえ,それまで行ってきた飲酒自粛等の取組に加えて,市教委として主体的に,1か月間は自宅外での飲酒を原則として行わないものとする取組を行うこととしたものである。 また,教育長通知の文 あることを踏まえ,それまで行ってきた飲酒自粛等の取組に加えて,市教委として主体的に,1か月間は自宅外での飲酒を原則として行わないものとする取組を行うこととしたものである。 また,教育長通知の文面には何ら強制力があることをうかがわせる文言はなく,従前の取組と同様,飲酒の自粛を求めるものになっている上,教育長通知に違反した場合に何らかの人事上の措置をとる可能性があるなどとも表明されていない。また,被告教育長が,教育長通知以外に,市教委職員に対して,口頭,電子メールその他の文書を問わず,教育長通知に関して指示をしたり,教育長通知に違反した場合にそのことを理由として昇任等に関する不利益があるなどと発言したりした事実もないし,教育長通知に違反した場合の人事上の処分の種類や量定を定めていたという事実や,教育長通知に違反した者に対して何らかの措置をとったという実例も存在しない。 したがって,教育長通知には職員の権利を侵害する強制力や法的効果が認められるものではなく,実質的な命令と評価することはできない。 イ教育長通知を発出する行為は被告教育長の権限の逸脱,濫用に当たらないこと被告教育長は,度重なる職員による飲酒に伴う不祥事の発生という事態を踏まえ,職員に対して有している指導監督権限に基づき,飲酒の自粛を要請する指導(訓示)を行ったものである。 ウ被告教育長に故意又は過失がないこと教育長通知は,職員の飲酒に絡む不祥事の再発を防止し,市民の信頼を回復するために,職員に対して公務員としての自覚と誇りを再確認してもらいたいという合理的な趣旨,目的から発出されたものであり,被告教育長に,違法性の認識もその予見可能性もなかった。 被告教育長の行為と被告市長の行為が共同不法行為を構成するとの原告の主張は争う。 という合理的な趣旨,目的から発出されたものであり,被告教育長に,違法性の認識もその予見可能性もなかった。 被告教育長の行為と被告市長の行為が共同不法行為を構成するとの原告の主張は争う。 損害の有無及び額(争点3)(原告の主張)原告は,本来勤務時間外に自由に飲酒できたはずであるにもかかわらず,本件各通知によって飲酒ができなかったことにより,自己決定権及び個人の尊厳を著しく害され,多大な精神的苦痛を被った。 原告の損害を金銭的に評価することは困難であるが,1円を下ることはない。 (被告の主張)争う。 勤務時間外に飲酒することが自己決定権や個人の尊厳に含まれるかについては重大な疑問があるし,その点をおいても,原告は,自らの意思で,1か月間自宅外での飲酒を控えたのであって,自己決定権を侵害されたとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各通知が発出された経過について,以下のとおり認められる。 福岡市においては,平成18年8月25日,市保健福祉局職員が飲酒運転を行い,前方の車に追突して海に転落させ,乗車していた幼児3名を死亡させるという重大な事故が発生した。 これを受けて,市及び市教委は,綱紀の粛正を図るために通達を発出するなどの対応を行ったが,その後も,平成18年度には3件,平成19年度には2件(ただし,1件は学校給食公社調理職職員によるもの),平成20年度には1件,平成21年度には4件,平成22年度には2件,平成23年度には4件,それぞれ飲酒に関連した市職員又は市教委職員等の不祥事が発生した。 市及び市教委は,その都度,綱紀の粛正を図るための通達を発出するとともに,コンプライアンス向 年度には2件,平成23年度には4件,それぞれ飲酒に関連した市職員又は市教委職員等の不祥事が発生した。 市及び市教委は,その都度,綱紀の粛正を図るための通達を発出するとともに,コンプライアンス向上検討委員会やコンプライアンス推進委員会の設置,研修内容の改革,定期健康診断等の結果に基づくアルコール保健指導の実施,セミナーの開催等の取組を行った。 (乙5,16) 平成24年2月25日,市消防局職員による車両窃盗及び飲酒運転が発覚したため,被告は,緊急幹部会議を開催し,不祥事の再発防止の方策等について協議が行われた。 被告は,同年3月6日,全職員を対象に,「飲酒運転等不祥事再発防止策に向けた職員検討会」の開催を呼びかけ,職員有志ワーキンググループによる不祥事再発防止アクションプランの素案検討,作成が開始された。 しかし,同年4月11日には,市民局係長による飲酒の上での傷害事件が発生し,同月20日には,市立小学校教頭が飲酒運転で検挙された。被告は,同年5月8日,飲酒運転等不祥事再発防止アクションプランを策定したが,同月18日,市の港湾局職員が飲酒の上タクシー運転手に暴行を加え,こど も未来局係長が飲酒の上同僚に傷害を負わせて逮捕された。 (甲3,8,19,乙5,16) が実施され,より一層の綱紀の粛正が求められていたところで発生したものであったため,被告市長は深刻な事態であると受け止め,被告は,平成24年5月19日,緊急幹部会議を実施した。被告市長は,同会議において,「月曜から1か月間酒を飲むなと,公私ともに,外出した時は酒飲むなと。それぐらいの気持ちである。」,「アクションプラン前倒しはもちろんだが,それプラスアルファが必要な非常事態だと思っている。」などと述べた。(甲22) と,公私ともに,外出した時は酒飲むなと。それぐらいの気持ちである。」,「アクションプラン前倒しはもちろんだが,それプラスアルファが必要な非常事態だと思っている。」などと述べた。(甲22)また,被告市長は,同月21日に実施された臨時幹部会議において,「意識を改革するためには,一つのショック療法も必要」,「どのように自分が無意識のうちにお酒と関わっているかということも是非考え直す1か月にしたい。」との趣旨の発言をし,同日付けで,市長通知及び本件Q&Aが発出された。(甲1,2,22,乙13の2)さらに,被告市長は,全職員に対し,「私はすべての職員の皆さんに,特に3つのことを約束して欲しいと思います。一点目は,本日から1か月間,公私を問わず,自宅外でのお酒を控えていただきたいということです。」,「1か月間の自宅外禁酒が根本治療でないことは百も承知です。しかし,市役所の長年の飲酒風土を見直し,相次ぐお酒絡みの不祥事の流れを断ち切るには,コンプライアンス意識を高める研修などの基本的な対策に加えて,今回のようなショック療法も必要と考えました。この際,自分とお酒との関係や職場の飲酒風土を見つめ直す機会にしてください。」などと記載された電子メールを送付した。(甲18,乙12)また,市長通知を受け,被告教育長は,教育長通知を発出した。(甲15,16,乙16) 被告は,平成24年5月21日から同月31日にかけて,市役所本庁舎,各区役所,消防局,水道局及び交通局において,外郭団体等への派遣職員を含む全職員を対象に,市長講話を実施した。(甲4,20,21,乙10,11)市長通知の実施期間中,市長通知に違反した事案が1件確認されたため,被告は,市長通知に違反した職員に対し,所属長を通じて注意を行った。 象に,市長講話を実施した。(甲4,20,21,乙10,11)市長通知の実施期間中,市長通知に違反した事案が1件確認されたため,被告は,市長通知に違反した職員に対し,所属長を通じて注意を行った。(甲7,9) 2 争点2(被告教育長の行為の違法性及び故意又は過失の有無)について 属していたことが認められるため,まず,被告教育長の行為について検討する。 前提事実市長通知を受けて,市教委においても同様の取組を行うため,市長通知と同一の内容を有するものとして教育長通知を発出したものと認められるから,本件Q&Aに記載された内容は,市長通知と同様に,教育長通知にも妥当するものと解される。 これによれば,教育長通知は訓示規定(業務上の指導)として位置づけられ,それに違反した場合でも,直ちに処分の対象とはならないものとされている。 他方,本件Q&Aには,教育長通知に違反した場合には違反者に必要な教育及び指導が行われる旨記載されているが,それに先立ち,同通知が訓示規定であることが明記されている上,この教育及び指導についても,職員の法的地位に何らかの影響を及ぼすものとは認められない。また,教育長通知に違反して不祥事を起こした場合の処分の量定について,通常より加重される旨記載されている点についても,処分の量定については,非違行為の動機,態様等を考慮することも許されるというべきで あるから,処分に際して,教育長通知を発出せざるを得ないような深刻な事態であることを顧みずに非違行為を犯したことを考慮することも許されないものではなく,本件Q&Aはその趣旨にとどまると理解することができるのであって,上記各記載をもって直ちに同通知が法効果性,強制力を有するものということはできない。 イ次に,原告は,被告市長や市人事課が はなく,本件Q&Aはその趣旨にとどまると理解することができるのであって,上記各記載をもって直ちに同通知が法効果性,強制力を有するものということはできない。 イ次に,原告は,被告市長や市人事課が述べた内容は,市長通知は強制力を有する命令であると解釈されるというものであるところ,これは教育長通知についても同様であると主張するから,この点について検討する。 証拠(甲8,19)によれば,被告市長が,市長通知について「ペナルティー」であると述べたとか,市人事課が市長通知に違反したものについて「処遇も含めて,厳しく指導する。」と述べたといった内容の新聞報道等が存在することが認められる。 しかし,仮に被告市長及び市人事課がこのように述べていたとしても,これらの言動が報じられたのは,いずれも,市長通知が発出された平成24年5月21日より前であることからすると,これらの言動が市長通知の性質を決定するものとはいえないし,上記の新聞報道等によっても,市長通知が強制力を有すると解することはできない。 そのほか,原告は市長講話等における被告市長の発言の一部を取り上げて論難するが,市長講話においても,被告市長は「法的な拘束力はない」,「あくまで私からの強い要請」などと述べていることが認められるから(乙11),市長講話における被告市長の発言の全体をみれば,市長通知が強制力を有しないものであることは明らかであり,原告の指摘する発言の一部のみをもって,市長通知が強制力を有することの根拠とすることはできない。 以上によれば,教育長通知についても,同様に,被告市長や市人事課の言動をもって,強制力を有するものと解することはできない。原告は,本 件各通知に違反した場合,人事異動や昇任において不利益を受けることを暗示するものであり,事実上強 ,被告市長や市人事課の言動をもって,強制力を有するものと解することはできない。原告は,本 件各通知に違反した場合,人事異動や昇任において不利益を受けることを暗示するものであり,事実上強制力を有すると主張するが,本件各通知には原告の指摘する不利益については何ら記載されておらず,不利益を暗示するような事情も認められないことに加えて,実際にそのような不利益を被った職員の存在を認めることもできず,被告が市長講話を開催したことや被告市長のテレビ番組での発言等,原告の種々述べる点を考慮しても,その主張を採用することはできない 。 次に,教育長通知の発出が権限を逸脱,濫用してなされたものとして違法となるかについて検討する。 地方公務員の上司は,職員に対し,適正な公務を確保するために必要とされる範囲内で,職務と直接関係しない,身分上の命令を発することができると解される(地公法32条参照)ところ,地方公務員は,信用失墜行為を行わない義務を負っているから(同法33条),上司は,飲酒による不祥事を防止することによって適正な公務を確保するという目的のために,上記のような命令に至らない指導,教育を行うことも当然に許容されると解される。 そして,教育委員会の職員は,その身分について,原則として地公法の定めるところによるとされており(地教行法22条),教育長は,所属の職員を指揮監督するものとされている(同法20条1項)から,教育長は,市教委所属職員に対し,上記のような命令に至らない指導,教育を行うことができるものと解される。しかし,指導,教育の趣旨目的,経緯,制約される利益の程度,手段としての相当性等を考慮し,当該指導,教育が不合理である場合には,権限を逸脱,濫用したものとして違法になると解すべきである。 上記認定事実によれば,教育長通 目的,経緯,制約される利益の程度,手段としての相当性等を考慮し,当該指導,教育が不合理である場合には,権限を逸脱,濫用したものとして違法になると解すべきである。 上記認定事実によれば,教育長通知の目的は,所属職員の飲酒に対する意識を改善することによって,職員による飲酒の上での不祥事を未然に防止し,市民からの信頼を回復することにあると認められるが,前記のとおり,福岡市においては,再三の取組にもかかわらず,市教委所属の者を含む 職員による飲酒の上での不祥事が続いていたこと,飲酒による不祥事は,飲酒の習慣があれば誰についても起こり得ることからすれば,職員全体が一体となって意識改革を図る必要があったということができ,教育長通知には目的の正当性,必要性が認められる。 原告は,本件各通知の目的について,不祥事を続発させた職員全体に対するペナルティーである旨主張する。確かに,前記のとおり,被告市長が市長通知についてペナルティーである旨述べたとの新聞報道等が存在するが,仮に被告市長が事態の深刻さを受けて一時的にこのような発言をしたとしても,本件各通知が発出されたのはこれらの新聞報道の後であり,市長講話における被告市長の発言内容からしても,本件各通知の目的が職員全体への制裁であったと認めることはできない。 そして,上記のとおり,教育長通知に違反したこと自体によって処分がなされることは予定されていないし,教育長通知は,1か月という期間に限定して自宅外での飲酒の自粛を要請するものであり,制約される利益の程度からして,手段としての相当性を欠くとはいえない(なお,本件各通知の発出後,市職員が意見交換会を開催するなど,職員が自主的な行動を開始していることが認められ(乙9),再発防止効果がなかったともいえない。)。 したがって,前記の経緯により えない(なお,本件各通知の発出後,市職員が意見交換会を開催するなど,職員が自主的な行動を開始していることが認められ(乙9),再発防止効果がなかったともいえない。)。 したがって,前記の経緯により教育長が教育長通知を発出した行為が,不合理なものとはいえず,権限の逸脱,濫用があるとはいえない。 以上のとおり,被告教育長の行為について違法性は認められない。 3 争点1(被告市長の行為の違法性及び故意又は過失の有無)について上記判示するところは,市長通知の内容についても同様であるが,加えて,原告は市長通知が発出された当時,市教委に所属していたから,原告に対する人事権,指揮監督権は市教委及び被告教育長が有しており(地教行法20条,23条),被告市長の人事権,指揮監督権は原告に及んでいなかったことからすれば,なおさら市長通知が何らかの法効果性や強制力を有する ということはできない(原告は,市教委から市役所に戻った際に不利益に扱われる可能性がある旨主張するが,原告がそのような不安感,不快感を抱いたことは否定できないとしても,それは原告の主観的な認識にとどまり,客観的に市長通知に強制力があることの理由にはならない。)。 また,市長通知を発出する行為が被告市長の権限を逸脱,濫用したものとはいのと同様である。 したがって,被告市長の行為についても違法性は認められない。 第4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官青木亮 裁判官宮 﨑 純一郎 裁判官玉 主文 のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官青木亮 裁判官宮崎純一郎 裁判官玉岡伸也
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