平成25年7月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第955号建物建築工事差止請求事件口頭弁論終結日平成25年4月24日 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 被告は,別紙物件目録記載1の建物の地上7階以上を撤去せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,大分県別府市内で温泉旅館を経営する原告が,被告に対して,被告が新築した別紙物件目録記載1の9階建ての建物(以下「本件被告建物」という。)によって,原告所有の別紙物件目録記載2及び3の旅館用建物が永年享受してきた眺望利益が違法に侵害されたとして,同建物の所有権に基づく妨害排除請求権により,本件被告建物の7階以上を撤去することを求めた事案である。 1 争いのない事実等以下の事実は,当事者間で争いがないか,括弧内掲記の証拠(証拠の枝番号については,括弧を付して標記する。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 (1) 当事者等ア原告は,本件被告建物から西方山手側において,別紙物件目録記載2の建物(以下「A」という。)及び同目録記載3の建物(以下「B」という。)を所有し,「C」の屋号で温泉旅館を経営している有限会社である(甲1(1)(2))。 原告は,昭和元年に「D」の屋号で民宿を始め,以来,温泉旅館を経営し,平成9年頃に建物全部を改築して2階建てで各階に客室を有するAを新築し,同建物の1階に半露天風呂である「E」を設け,また,平成20年12月頃にAの南西側に5階建てで2階以上の各階に客室を有するBを新築した(甲14,15,原告代表者)。 イ被告は,不動産の賃貸及び管理を主た 階に半露天風呂である「E」を設け,また,平成20年12月頃にAの南西側に5階建てで2階以上の各階に客室を有するBを新築した(甲14,15,原告代表者)。 イ被告は,不動産の賃貸及び管理を主たる目的として,F株式会社(以下「F」という。)から新設分割により,平成22年11月22日に設立された株式会社である。 被告は,平成22年11月22日の会社分割の際に本件被告建物所在地の土地(以下「本件土地」という。)の所有権をFから取得し,平成24年12月19日に新築された本件被告建物の所有者である(甲2(1)(2),34(1)(2)及び弁論の全趣旨)。 ウ社会福祉法人G(以下「G」という。)は,大分県内において,特別養護老人ホームH,高齢者総合福祉施設I等を運営しており,被告から本件被告建物の賃貸を受け,高齢者向け優良賃貸住宅建築事業(以下「高優賃事業」という。)に基づく高齢者向け優良賃貸住宅として,賃貸,福祉事業を運営することが予定されているものである(甲34(1)(2),乙9,12(2)(3),13(1)及び弁論の全趣旨)。 (2) 大分県別府市J地区についてア大分県別府市(以下「別府市」という。)は,温泉観光地として発展を遂げてきた都市であり,その地形は,西側の鶴見岳から東の別府湾に向けてなだらかに広がる扇状地を形成し,標高1000mを超える山々から別府湾に向かって標高が急激に低下しているという地理的特徴が別府市特有の海と山とのパノラマ的な眺望・景観を形成している(甲4)。 イ原告が温泉旅館を経営するJ地区は,別府市街南部を流れる朝見川上流の山の斜面に所在する温泉場であり,その名の由来は,海抜150mから 別府湾を見下ろす景色が壮観な点にあって,別府八湯の一つに数えられている(甲14,原告代表者)。 街南部を流れる朝見川上流の山の斜面に所在する温泉場であり,その名の由来は,海抜150mから 別府湾を見下ろす景色が壮観な点にあって,別府八湯の一つに数えられている(甲14,原告代表者)。 (3) 本件被告建物の概要ア本件被告建物は,J地区を南東方向に流れる朝見川の西側斜面に位置しており,本件土地の北側及び東側境界が急激な崖となっているため,本件土地は都市計画法上の用途地域としては商業地域ではあるが,本件土地の一部は急傾斜地崩壊危険区域の指定がなされている(甲5,9,被告代表者)。 イ本件土地は,道路に面した三角形上の約25.7㎡の土地と高低差が約6.7mある平地部分と急傾斜の法面から構成され,平地部分の面積は約500㎡である(乙1)。 ウ本件被告建物は,平成23年4月5日から同建物の建築工事が着工され,平成24年12月19日に新築,平成25年1月28日付けで被告による所有権保存登記がなされた(甲34(1)(2)及び弁論の全趣旨)。 エ本件被告建物の所在,家屋番号,構造,床面積などは,別紙物件目録記載1のとおりであるが,同建物の当初の概要は,以下のとおりである(甲3,34(1)(2),乙1及び弁論の全趣旨)。 (ア) 敷地面積 975.66㎡(イ) 建築面積 541.09㎡(ウ) 延べ床面積 3920.65㎡(エ) 建ぺい率 55.46%(オ) 構造・規模鉄筋コンクリート造9階建(道路面より7階)(カ) 高さ 28.512m(道路面より22.3m)(キ) 用途デイサービス診療所付き共同住宅(62戸)オ本件被告建物は,その建築に際し,建築確認を取得し,別府市から本件土地が急傾斜崩壊危険地域であることから条件を付された上で同地域に 用途デイサービス診療所付き共同住宅(62戸)オ本件被告建物は,その建築に際し,建築確認を取得し,別府市から本件土地が急傾斜崩壊危険地域であることから条件を付された上で同地域に おける工事の許可を得ており,また,建築基準法,別府市環境保全条例,別府市が作成した景観形成ガイドラインの建築物の色彩基準,形状,配置に関する基準,外構・緑化に関する基準などを満たすなど明確な法令違背は存しない(甲4,8,9,10及び弁論の全趣旨)。 (4) 高齢者向け優良賃貸住宅制度(以下「高優賃制度」という。)について(乙2,3,11,43)ア少子・高齢化の急速な進行などの事情により,高齢者の賃貸住宅のニーズが増加しているにもかかわらず,高齢者の円滑な入居を阻害する事象がみられ,また単身高齢者への緊急対応等の支援態勢が不十分であるという現状に鑑みて,高齢者がより良い環境のもとで安心・安全に居住できるように民間賃貸住宅を安定的に確保することを重要視して,高齢者の居住の安定確保に関する法律及びこれに係る基本方針として平成13年国土交通省告示第1299号(最終改正:平成16年国土交通省告示第775号)が制定され,これを実効性あるものとするために高齢者円滑入居賃貸住宅登録制度や高齢者専用賃貸住宅登録制度などと共に,高齢者が安全に安心して居住できるよう,床のバリアフリー化を始めとした種々の整備要件を義務化すると共に入居者への緊急時対応サービスの利用が可能な民間賃貸住宅を高齢者向け優良賃貸住宅として登録できる制度として,高優賃制度が設けられた。 イ高優賃制度は,徹底したバリアフリー化,緊急対応サービス,社会福祉施設・高齢者生活支援施設・診療所の併設など,国などの定めた整備基準をクリアしたものにつき,国が高齢者向け優良賃貸住宅と認定した イ高優賃制度は,徹底したバリアフリー化,緊急対応サービス,社会福祉施設・高齢者生活支援施設・診療所の併設など,国などの定めた整備基準をクリアしたものにつき,国が高齢者向け優良賃貸住宅と認定した上で,国及び地方公共団体が民間事業者に対して上限を定めて助成金を交付することなどを中心とした制度である。 (5) F及び被告の行った諸手続についてア平成22年7月20日,Fは,大分県知事から本件被告建物の高齢者向 け優良賃貸住宅建築事業(以下「本件高優賃事業」という。)についての住宅供給計画の認可を受けた(乙8(1)(2))。 本件高優賃事業は,大分県下第1号の高優賃事業であった(甲35(2),乙5,8(1))。 イ平成22年7月24日,F及びGは,国土交通大臣に対し,高齢者等居住安定化推進事業の一環として,別府市J地域共生型高齢者向け優良賃貸住宅事業の認定を受けるために共同申請し,同年8月13日,国土交通省住宅局住宅総合整備課住環境整備室長から,高齢者等居住安定化推進事業として選定を受け,助成金(平成22年度分助成金交付決定額は5498万円,平成23年度分は8247万1000円)の交付を受けることとなった(乙9ないし11)。 ウ平成22年10月24日,Fは,本件被告建物周辺住民らに対して,地区説明会を開催した(乙20,43)。 エ平成22年11月22日,Fは,本件高優賃事業の認定事業者であったものの,取引銀行からの要請や本店所在地が東京であって別府市から遠隔地にあったことなどから,被告を新設分割し,被告は本件土地を取得した(甲2(1)(2),12(1),乙14,43,被告代表者)。 オ平成23年3月1日,被告は,大分県知事から高齢者向け優良賃貸住宅地位の承継を受けた(甲12(2))。 もっとも, 得した(甲2(1)(2),12(1),乙14,43,被告代表者)。 オ平成23年3月1日,被告は,大分県知事から高齢者向け優良賃貸住宅地位の承継を受けた(甲12(2))。 もっとも,Fが事業主体となって,上記の他にも必要な届出を行ったり,許可を得たりしていたことから,被告は,建築主等変更届,工事施工者の変更届,急傾斜地崩壊危険区域内にて工事を行うことに対する許可の地位移転届,別府市環境保全条例40条6項に基づく建築主及び工事施工者の変更届を提出するなどの手続を行った(甲18ないし21)。 カ平成24年3月11日,本件土地西側にある崖上の市道が長さ約10m,幅約3m,深さ約70㎝にわたって陥没した(甲25,乙42及び弁論の 全趣旨。以下,当該陥没を「本件陥没」という。)。 2 主要な争点原告が所有するA,Bからの眺望の法益性及び本件被告建物による眺望阻害の違法性第3 主要な争点に対する当事者の主張争点について【原告の主張】1(1) 一般に,特定の場所がその場所からの周囲の景色,遠方の自然風物や人工物に対する眺望が視覚上の美的満足や心理的な開放感などをもたらす作用を有するなど格別の価値を持ち,眺望の利益の享受を一つの重要な目的として,その場所に建物が建設された場合のように,当該建物所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社会通念上からも独自の利益として承認されるべき重要性を有すると認められる限り,法的保護に値し,観光旅館等の眺望利益についても,営業利益や財産的利益の側面が重視され,これに対する違法な侵害に対しては物権的請求権による救済がなじむ。 (2) 原告が温泉旅館を経営するJ地区から別府湾を見下ろす眺望は,古来より眺望が良好であるとされ,基本的な観光資源であり,別府八 これに対する違法な侵害に対しては物権的請求権による救済がなじむ。 (2) 原告が温泉旅館を経営するJ地区から別府湾を見下ろす眺望は,古来より眺望が良好であるとされ,基本的な観光資源であり,別府八湯の他の温泉場との差別化を図って欠くことのできない営業的価値を有している。 原告も,客室や露天風呂から別府湾方向の眺望を重要なセールスポイントとしてAを建築して温泉旅館を営業し,またAの眺望が高層マンションによって阻害された後は,その眺望阻害を解消するためにBを新築し,これらの結果,顧客から高い評価を得てきた。 以上に照らせば,原告の享受してきた眺望は,J地区の歴史に鑑みて社会通念上客観的な利益として承認されており,かつ,原告はこのような眺望を重要な営業の一内容として旅館業を営んできた。 (3) 原告がA及びBにおいて享受してきた眺望は,両側に高層建築物が存在し ながらも別府湾方向の市街地及びその中心にそびえるグローバルタワーや,背後にひかえる別府湾という全体の構図として成り立っており,グローバルタワー越しに遠く水平線が遠望できるという奥行き感があることも重要な構成要素となっている。また,日中以上に客室及びEからの別府市街地の夜景も重要な要素である。 (4) 別府市は,景観条例,景観契約及び景観形成ガイドラインを定め,同ガイドラインでは,景観のみならず,道路,公園・広場等の公共施設の眺望点からの眺望を損なわないような建築物の配置・形状とするように定め,別府八湯を中心とした良好な景観の形成に関する方針の下,温泉湯けむり景観を観光資産とし,既に保護されていた私的な眺望利益を前提として,公的施設からの眺望も同様に保護している。これらに照らせば,温泉旅館として原告が享受する眺望利益は高度に保護されているというべきである。 (5) 以上 既に保護されていた私的な眺望利益を前提として,公的施設からの眺望も同様に保護している。これらに照らせば,温泉旅館として原告が享受する眺望利益は高度に保護されているというべきである。 (5) 以上によれば,原告がB及びAにおいて温泉旅館を経営するに際して享受してきた眺望の利益は,法的保護に値するというべきである。 2(1) 前述のとおり,法的保護に値する原告の眺望の利益に対する阻害が違法であるというためには,眺望阻害が受忍限度を超えていることが必要であって,その判断にあたっては,被侵害利益である眺望利益の性質と内容,侵害行為の態様,程度,侵害の経過,当該眺望を成立させる地理的条件などが総合的に勘案され,利益衡量の上,決せられるべきである。 さらに,眺望阻害の程度の評価は,眺望利益の性質と内容に応じて検討されるべきで,営業利益としての眺望の阻害が問題となっている場合には,その眺望阻害が営業上の利益としての眺望の価値をどの程度毀損することになるのか(阻害された眺望は営業上のセールスポイントとするに耐えられるか否か),その場合営業継続が可能かといった観点から評価されなければならない。 (2) 本件被告建物による眺望阻害の程度は,原告の別府湾方向に対する眺望の 中心部分の約3分の1を阻害し,奥行きのある別府湾の遠望が完全に失われる。とりわけ,AのEからの眺望は全面的に阻害される。さらに,眺望の利益は,視覚上の美的満足等の精神作用に関わるものであり,部分的に視覚がコンクリート建物によって遮断された場合,全体としての眺望の価値も著しく減殺される。 原告においては,老舗の温泉旅館として,良好な眺望を重要なセールスポイントとして営業活動を行っており,本件被告建物の完成前にはAの一部客室を除き,別府湾及び遠方の水平線を遠望できた。しかし る。 原告においては,老舗の温泉旅館として,良好な眺望を重要なセールスポイントとして営業活動を行っており,本件被告建物の完成前にはAの一部客室を除き,別府湾及び遠方の水平線を遠望できた。しかし,本件被告建物の眺望阻害は,このような眺望をセールスポイントとすることを完全に不可能とするものである。とりわけ,原告の露天風呂については,夜間の眺望の重要性が高いものの,本件被告建物によって別府市街方面の夜景が阻害され,露天風呂の長所は失われる。また,利用客に本件被告建物側から覗かれる不安を与える。 その結果,本件被告建物の眺望阻害は,原告が享受してきた良好な眺望を完全に喪失させる程度のものである。 (3) J地区の眺望が別府市内の他の温泉場との差別化を図る重要な営業的価値であることに加えて,2棟の高層マンションが建築された平成14年以降,原告の売上げが減少したため,原告が多額の資金をかけてBを新築し,年間多額の返済をしている経緯に鑑みれば,前記のような本件被告建物の眺望阻害は,原告の経営が早期に破綻の危機に瀕するほどに甚大である。 (4) 本件被告建物は,幹線道路から急傾斜である上に道路も狭小で離合困難な箇所が多いところに所在し,道路に面した三角形状の僅かな部分と高低差があり,面積が土地全体の約2分の1にすぎない平地部分と急傾斜のために急傾斜地崩壊危険区域に指定されている法面の土地に高層建築物として建築されたものであり,敷地内に駐車スペースは全く設けられていない。このような立地条件のため,本件土地は長年低層住宅用地として利用されたり,空 地となっていたりしたものであり,また,本件被告建物建築中に本件陥没が生じている。このような性格を有する本件土地上にある本件被告建物で本件高優賃事業を運用することは,甚だ不合理である。 加え 地となっていたりしたものであり,また,本件被告建物建築中に本件陥没が生じている。このような性格を有する本件土地上にある本件被告建物で本件高優賃事業を運用することは,甚だ不合理である。 加えて,被告が本件高優賃事業の公益性を述べるも,一般に公益性が重視されるのは不特定多数人の便益に係る施設・事業であり,本件高優賃事業はこれに当たらない上,本件土地での事業展開が不可欠であるとの合理的な理由はない。また,被告は,東京の不動産業者であるFの現地法人にすぎず,被告も営利目的の下に本件高優賃事業を展開するにすぎず,さらに,本件被告建物の入居予約者の半数は県外在住者である。これらからすると,被告及びGが実施する本件高優賃事業は,原告が享受してきた眺望の利益を利用して,県外を含む各地から入居者を募って運用していく目的で実施されていることは明らかで,本件高優賃事業は,被告及びGの私益の追求を主たる目的としているものといわざるを得ない。 また,本件被告建物が9階建の高層建築物であるとする根拠はなく,この点においても本件土地の合理的利用方法を逸脱している。 したがって,本件被告建物の建築は,本件土地の合理的利用方法を逸脱しているというべきである。 (5) 本件被告建物で運用される予定の本件高優賃事業は,Gが発案し,財産的基盤が薄弱で実体のない被告がGから財産的拠出を受けて実施されるものであり,当該事業の運営方法はその事業責任を不明確なものとするものであり,原告の損害について損害賠償請求訴訟の実効性を著しく困難にするものであり,相当な事業との評価はできない。 (6) 本件被告建物の建築にあたって,被告の各種届出はずさんであり,別府市環境保全条例では集合住宅に駐車場の確保を要請しているのに対して,被告は形式的に駐車場を整えているのみで同条例の きない。 (6) 本件被告建物の建築にあたって,被告の各種届出はずさんであり,別府市環境保全条例では集合住宅に駐車場の確保を要請しているのに対して,被告は形式的に駐車場を整えているのみで同条例の趣旨の実現に対する意識が希薄であることは明白である。 (7) 本件被告建物の建設についての近隣住民への説明会は,当初からFが実施しており,事業主体が被告に変わった後も,そのことを告知することなく,Fの名前で継続して住民対応を行ってきたものであり,被告の態度は近隣住民に対する誠実性を欠いている。 加えて,被告が実施した近隣住民に対する説明会の内容は,近隣住民らの理解を得ることができず,そのような状態のままで各種申請等を行い,近隣の家屋調査を実施せずに工事に着工した。 被告代表者は,平成22年8月頃にも現地の調査を実施したことや地元の反対の声を受けてシミュレーションをしたと述べるも,これらが何ら近隣住民の納得を得させるものとなっていない。 さらに,本件陥没によって,本件被告建物建築工事の許可にあたり,被告が事前に十分な安全確認を行っておらず,さらに,本件陥没の原因が別府市役所の説明によっても明らかになっておらず,このことは被告においても認識しているにもかかわらず,行政の許可を得たとして原因究明を尽くさず,本件被告建物の工事を再開している。 これらから明らかなとおり,被告は,本件土地に本件被告建物を建設することについて,原告その他の近隣住民に対する配慮を十分に尽くしたとはいえない。 (8) 以上の諸事情に鑑みれば,本件被告建物による眺望利益侵害は,社会的に容認された行為としての相当性を著しく欠き,少なくとも,物理的に視界を遮断している本件建物7階部分以上については,原告の受忍限度を超えた違法な侵害である。 【被告の主張】 望利益侵害は,社会的に容認された行為としての相当性を著しく欠き,少なくとも,物理的に視界を遮断している本件建物7階部分以上については,原告の受忍限度を超えた違法な侵害である。 【被告の主張】1(1) 原告が主張するように,眺望の利益が当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社会通念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合に法的保護に値する 場合があることは認める。 (2) しかしながら,本件被告建物が所在するJ地区には,巨大な高層マンションを筆頭に,その他巨大宿泊複合施設など大規模建物が建設されており,これらの建物によって,A及びBからの眺望は現時点であっても既に大きく阻害されている。 また,大分県及び別府市もJ地区からの眺望を他の地域に比して特別に法的に保護することを趣旨とした条例を制定している事実はない。 これらの事情に鑑みるならば,原告の享受する眺望が社会通念上独自の利益として承認されるほどの重要性を有していると評価することはできない。 2(1) 原告が主張するように,法益性が認められた眺望について,その侵害が違法であるためには,その眺望阻害が受忍限度を超えていることが必要であることは認める。 しかしながら,その際には眺望阻害の程度のみが考慮されるべきで,これを評価するにあたり眺望利益の性質と内容に応じた判断として,営業利益を考慮すべきではない。また,本件被告建物は,既に完成しており,これを撤去することとなると社会的資産の浪費であって,本件被告建物の所有権の制約として極めて強度というべきで,眺望の利益の侵害に対しては事後的な金銭賠償が原則であり,建物の撤去を認めるには,金銭賠償によっては回復不能なほど損害を被る緊急性・相当性が認められる場合など強 の制約として極めて強度というべきで,眺望の利益の侵害に対しては事後的な金銭賠償が原則であり,建物の撤去を認めるには,金銭賠償によっては回復不能なほど損害を被る緊急性・相当性が認められる場合など強度の違法性が必要である。 (2) J地区の地域環境原告はJ地区の眺望の利益が重要な営業的要素であると主張する。しかしながら,J地区には眺望に関する歴史があるとしても,別府市によって景観法に基づいて別府市景観条例が制定され,別府市景観計画を公表すると共に別府市景観形成ガイドラインが作成されているに留まり,同地区の眺望を特別に保護する条例はない。また,同ガイドラインは,町自体の景観を調整し ていくために公共施設の眺望点からの眺望を損なわないような配慮を求めているにすぎず,民間施設からの眺望まで保護するものではなく,建築物の高さ制限についても届出のみで足りるとしている。その上,同ガイドラインは,良好な眺望そのものを維持することを明確な目的とする直接的な規制を設けているものではない。 (3) 被告は,本件高優賃事業を行うに際し,良好な眺望と泉源の恩恵を享受し,高齢者等が豊かな余生を送ることができ,また,高齢者・要介護認定者と健常者が共生し,地域と社会的つながりを有することができる場所としてコミュニティの規模を考慮して本件土地を選定した。その上で,被告は,本件土地の所有権を適切な売買契約に基づいて穏当に取得し,その権利行使の一環として本件被告建物を建築したものにすぎない。さらに,本件被告建物は,小規模な建物である上,外観は一般的な高齢者向け入居施設にみられる配色及び形状を有するに留まる。 本件被告建物は高優賃制度に基づく施設であり,とりわけ別府市内の高齢化率は高く,別府市内における本件被告建物において運用される事業の公的意義は重要 施設にみられる配色及び形状を有するに留まる。 本件被告建物は高優賃制度に基づく施設であり,とりわけ別府市内の高齢化率は高く,別府市内における本件被告建物において運用される事業の公的意義は重要視されるべきであって,原告が主張するように受忍限度の検討において重視される公益性は不特定多数の便益を著しく損ねる等の社会的影響を必要とすると限定的に解されるものではない。 (4) 被告は,本件被告建物の建築に際し,建築基準法上の各種規制を満たし,建築確認を取得し,急傾斜崩壊危険地域における建築工事の許可を取得し,別府市環境保全条例にて義務づけられる周辺住民に対する説明会を実施し,別府市環境保全条例にて定められる同施行規則に基づく指定建築物の建築に関する技術水準にも適合し,別府市景観ガイドラインが定める高さ10mを超える建築物の建築に要する届出行為についても実施している。 以上のとおり,被告は,本件被告建物の建築に際し,綿密な準備を重ねた上で,明確な刑罰法規はもとより行政法規にも何ら違反していない。にもか かわらず,本件被告建物の撤去が認められれば,被告の本件土地の所有権に対する制約の程度は甚大である。 なお,被告は,本件陥没に対しても,迅速かつ適切に対応して,別府市の監督の下で株式会社K(以下「K」という。)と共に道路復旧工事を行い,別府市の許可を得た上で本件被告建物の建築工事を再開したものであって,その対応には何ら非難されるべき点はなく,また,当該陥没の直接の原因は,本件被告建物の建築と関係がない。 (5) 被告は,本件被告建物の建築にあたって,住民説明会を13回も開き,本件土地周辺の住民の理解を得ようと努力しており,大規模な反対活動は行われていない。 また,原告との関係においても,原告がA及びBにおいて旅館業を営んでい にあたって,住民説明会を13回も開き,本件土地周辺の住民の理解を得ようと努力しており,大規模な反対活動は行われていない。 また,原告との関係においても,原告がA及びBにおいて旅館業を営んでいることから,本件被告建物の建築の影響を最小限に抑えるために,本件被告建物西側に居住用スペースを設けないなどの構造上の配慮を加えており,原告に対する害意は全く存しない。 (6) 仮に,原告が求める本件被告建物の7階以上の撤去が認められた場合,被告は,これまで莫大な建築費用をかけて本件被告建物を完成させたにもかかわらず,さらに撤去費用を要する。また,撤去が完了するまでの間,本件被告建物は稼働できないことから賃料収入を得ることもできず,金融機関に対する返済が滞り,返済計画が大幅に狂う。さらに,本件被告建物を8階建てとした場合ですら採算が合わないことから,地上7階以上の撤去である場合には収支が反転し,被告が経営破綻を引き起こすことは必至である。 以上より,被告が被る経済的不利益は極めて甚大である。 (7) 原告が主張する眺望の利益は,前記のとおり,既に多くの複数の建物によって大きく阻害されており,既に阻害された眺望の責任を,本件被告建物を建築した被告のみに負わせることとなれば,先に高層建物を建築した者が有利となり,後に建築した者が不利に扱われることとなり,著しく不当である。 (8) 本件被告建物の眺望阻害の程度の評価では,精神的,視覚的満足は考慮すべきではなく,客観的に判断されるべきであり,A及びBの眺望につき,本件被告建物の眺望阻害は,3分の1程度の約16度に留まる。 (9) Aの東側側壁と本件被告建物の西側側壁との距離は約70mであり,原告が投下資本の関係上,重きを置くBの2階床下と本件被告建物の9階最上階とがほぼ同一の高さに並ぶ 1程度の約16度に留まる。 (9) Aの東側側壁と本件被告建物の西側側壁との距離は約70mであり,原告が投下資本の関係上,重きを置くBの2階床下と本件被告建物の9階最上階とがほぼ同一の高さに並ぶ程度であり,Bの最高級客室はこれよりも上層階に位置しているから,これらの各関係建物の位置及び高さからすると,本件被告建物による眺望阻害の程度は僅かである。 (10) A,Bを訪れる顧客は,眺望のみを目的としておらず,本件被告建物による眺望阻害よって原告の経営が早期に破綻の危機に瀕するほど甚大であるとするのは原告の抽象的危惧感にすぎない。仮に,原告が営業利益を失われても僅かであり,J地区付近には他にも多数の名勝が存在し,観光客も頻繁に訪れるから,これら観光客を取り込むその他の営業努力によって賄われるべきである。 第4 当裁判所の判断 1 争いのない事実等に加え,証拠(各事実末尾記載)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用できない。 (1) 別府市景観形成ガイドライン(甲4)ア別府市景観形成ガイドラインは,別府市が平成20年3月27日に景観法に基づき「別府市景観条例」を制定し,さらに,別府八湯を中心とした良好な景観の形成に関する方針を定め,別府市特有の温泉湯けむり景観を観光資産として活かし,観光再生,市民生活の向上,交流人口の増加など新たな活力を創出することを目的として「別府市景観計画」を公表し,この計画を進めていくために作成された。 イ同ガイドラインでは,「高さ10mを超えるもの,又は建築面積500㎡以上」の建築物の建築等を届出対象行為と定めている。 ウ景観形成基準(ア) 本件土地を含む温泉市街地景観地域の建築物の配置・形状及び意匠につき,「(1)湯けむりや遠景の山 0㎡以上」の建築物の建築等を届出対象行為と定めている。 ウ景観形成基準(ア) 本件土地を含む温泉市街地景観地域の建築物の配置・形状及び意匠につき,「(1)湯けむりや遠景の山々・海の景観に対して道路や公園・広場等の公共施設の眺望点からの眺望を損なわないような建築物の配置及び形状とする。」,「(3)大規模な連続した壁面は避け,分節化を図るなど周囲の景観に配慮を行う。」との景観形成基準が設けられている。 (イ) 特定照明につき,「(1)地域の夜間景観を損なう,過度の明るさや色彩の照明を用いないこと。」,「(2)照らす範囲を効率よく照射して上方へ漏れる光を抑え,光害の防止に努める。」との景観形成基準を設けている。 エ上記景観形成基準のガイドライン(ア) 建築物の建築等につき,「高層建築物の出現により,湯けむりや背景の山々・海などの自然景観がさえぎられます。」,「山への視線,海への視線を妨げないよう配置・形状に配慮します。」,「長大な建築物で水平線を分断せず,眺望を確保します。」との説明がなされている。 (イ) 特定照明につき,「地域の夜間景観を損なう過度の明るさや色彩の照明を用いないこと。」「屋外における住宅地などへの影響を防止するため,屋外の照明や壁面へのライトアップなどは,障害光の数値基準に準じた適度の明るさとし,点滅や発光部分の移動,投光照明の原色の多用などは基本的に行わないように配慮します。」との説明がなされている。 オ届出の流れ届出手続きの事前相談を行い,別府市景観条例及び別府市景観計画に適合しているか否かについて助言・指導を受けた後,工事着手30日前には届出を行い,その後,景観形成基準等について審査が行われ,適合との判断がなされば行為の着手,完了届の提出との流れとな 市景観計画に適合しているか否かについて助言・指導を受けた後,工事着手30日前には届出を行い,その後,景観形成基準等について審査が行われ,適合との判断がなされば行為の着手,完了届の提出との流れとなる。 (2) 平成9年頃,原告は,建物全部を改築して,Aを新築し,「別府湾を望め得る小さな旅館」をセールスポイントとした(甲14,31)。 (3) 平成12年頃,Aの北東で,別府湾との間に2棟の高層マンション(L,M)が建築され,その結果,Aの各客室及びEから別府湾方向への眺望の一部が遮られた(甲14,15,16,31,33,原告代表者)。 (4) 平成11年6月1日から平成20年5月31日までの原告の売上高は,年間約1000万円減少している(甲14,17(1)ないし(9),原告代表者)。 (5) 平成20年12月,原告は,約3億7000万円を投じて,Aの南西側隣接地を購入し,Bを新築した(甲14,原告代表者)。 原告は,これらの費用について,月に300万円から400万円を返済している(原告代表者)。 (6) 平成23年3月26日,被告は,Kとの間で,本件被告建物建築に関し,請負代金6億3000万円として請負契約を締結した(乙15)。 この頃,被告は,本件土地周辺住民に対して,「着工御案内」と題する書面において,建築主が被告であることを表記した(甲13)。 (7) 平成24年3月11日,本件陥没が発生した。 ア Kは,別府市役所の関係部署に対して事情説明を行い,同月16日,別府市から道路復旧工事について承認を受けて道路復旧工事に着手し,同月19日及び22日,Kは,道路復旧工事について,住民説明会を開催し,本件陥没の原因調査や道路復旧工事の工程・内容を説明した(乙35,36,39,40)。 認を受けて道路復旧工事に着手し,同月19日及び22日,Kは,道路復旧工事について,住民説明会を開催し,本件陥没の原因調査や道路復旧工事の工程・内容を説明した(乙35,36,39,40)。 イ Kが実施した道路復旧工事は,路面55.80㎡,側溝16.30㎡について,掘削,配水管の設置,砕石の敷き詰め,盛り土,地盤の強化を行った(乙35,36,42)。 ウ平成24年3月15日及び16日,別府市は,Kに対して,本件陥没を受けて,近隣住民の不安を解消するために,本件陥没原因の特定を早急に行うことに加えて,関係機関との協議連携に遺漏がないようにすること,関係法令を遵守し,工事現場の安全点検を行うこと,安全管理については 近隣住民に十分配慮すること,本件陥没箇所の復旧が完了後,道路河川課の確認を受け,地元の理解を得た上で建築工事に着手することなどの指導を受けた(乙37(1)(2))。 エ Kは,平成24年3月31日に道路復旧工事を終了し,同年4月3日に別府市道路河川課による現地完了検査が終了した後,住民説明会を開催した。その際,別府市から本件陥没の原因の説明と工事完了の報告がなされた(乙38,41)。 オ別府市の本件陥没についての見解(甲28)(ア) 本件陥没箇所には古い水道管が埋設され,本件被告建物建築工事現場で仮設利用されていたところ,水道管が老朽化し,土被りも40㎝程度であったため,破裂して大量の水が排出され,多量の水を含んだ土砂が流出したことにより周辺地盤が陥没したものである。 当該水道管の漏水箇所も確認され,時期の特定はできないものの,漏水による地盤の圧密沈下が発生していたとも考えられる。 本件陥没箇所の地下5.5m付近には地下水も確認され,建築工事基礎掘削時より湧出していたもの 確認され,時期の特定はできないものの,漏水による地盤の圧密沈下が発生していたとも考えられる。 本件陥没箇所の地下5.5m付近には地下水も確認され,建築工事基礎掘削時より湧出していたもので,周辺の土砂の流出が若干あった。 (イ) 本件陥没箇所の復旧にあたり,湧水箇所に集水管の布設,掘削地盤底盤部分は50㎝厚のコンクリート打設,一層30㎝厚の埋戻し転圧(路面下1mから20㎝圧)等,より安全性を考慮した施工を行っており,安全性は確保されたものと思われる。 (ウ) 防火水槽内に貯水されていた防火用水が,本件陥没前後で約50トン近く減少しているものの,本件陥没とは因果関係がない。 (エ) 本件被告建物建築工事による振動は,平成23年10月25日の測定の際に特定建設作業の振動の規制基準を下回る値を得ており,周辺地域に及ぼす影響は少ない。工事用車両については道路占用許可において防火水槽に乗らないで施工するよう占用範囲を規制して安全管理の指導を 行っている。防火水槽は毎週月曜に貯水量の調査を継続して行っており,異常はない。 (8) 平成24年4月4日,本件被告建物建築工事の再開が許可され,同月5日,本件被告建物建築工事が再開され,同年12月19日,本件被告建物建築工事が完了した(乙41及び弁論の全趣旨)。 (9) 被告の本件土地周辺住民に対する説明会ア平成22年10月24日,同年11月23日,同年12月12日,平成23年3月27日,同年7月23日,同年8月3日,同月29日,平成24年3月19日,同月22日,同年4月3日,同年6月7日,同年10月2日に,F又は被告は,本件土地周辺住民に対して,説明会を設けた。説明会の際,被告が分社化された後も行政上の手続が終了するまでFの名前で行っていた。また,被告 同年4月3日,同年6月7日,同年10月2日に,F又は被告は,本件土地周辺住民に対して,説明会を設けた。説明会の際,被告が分社化された後も行政上の手続が終了するまでFの名前で行っていた。また,被告代表者は,平成23年7月23日まで説明会には出席しておらず,同日以降の説明会には全て参加しており,他方,G関係者が本件被告建物建築工事着工前の説明会に出席したことはない。説明会には,本件土地付近の住民が当初20ないし30人くらい参加していたが,最終的には参加者は10人超となった(甲3,5,6,24(1)(2)(3),乙20,43,原告代表者,被告代表者)。 イ平成22年11月23日の説明会において,Fは,「J地区住民の皆様へ」と題する資料を配布した(甲5)。 同資料には,本件被告建物が高齢者向け優良賃貸住宅であることに加え,入居者と周辺住民が共に助け合って生活できるように運営されることを特徴とする「地域共生型高齢者向け優良賃貸住宅」であり,入居者のみならず周辺住民においても本件被告建物の施設を自由に利用できることに加え,本件被告建物の建築主がFであることの説明がなされている(甲5)。 同日の説明会では,工事車両の現地への乗り入れ時においてNに隣接の橋が大丈夫か,急傾斜地の安全について,事業性についてなどの質問がな されたため,被告は,平成22年12月8日付け「J説明会の質疑の回答」と題する書面において,これらにつき,別府市役所の該当する部署と相談していること,ボーリング調査を行った上で安全な工法を検討していることや採算性の検討も行っていることが説明された(甲6)。 ウ平成22年12月12日の説明会において,本件土地付近の住民から,本件土地の安全性や温泉への影響などの懸念が述べられた(乙19)。 とや採算性の検討も行っていることが説明された(甲6)。 ウ平成22年12月12日の説明会において,本件土地付近の住民から,本件土地の安全性や温泉への影響などの懸念が述べられた(乙19)。 エ平成23年3月27日の説明会において,同年4月から,本件被告建物の工事に着工する旨の説明がなされた(甲11)。 オ平成23年7月23日の説明会において,本件土地周辺の住民から,本件被告建物建築について,家屋調査をしていないこと,工事の安全面や騒音から否定的な意見を述べる者がおり,同年8月3日,これらの意見について,検討結果を伝えられた(甲24(1)(2))。 カ平成23年8月8日,本件土地周辺の一部の自治会長から,「工事説明会はもうしなくて良い。」との連絡があった(甲24(3))。 キ平成23年8月29日の説明会において,本件土地周辺の住民から,本件被告建物の施設についての要望が述べられ,また,工事状況の報告や問題点の相談の場を設けることを望み,建築することは賛成ではないが建てる方針が変わらないのであれば,安全性と地域への配慮を怠らず,一日も早い完成を目指して欲しいとの意見が述べられた(甲24(3))。 (10) 原告に係る事情についてア Aの2階南端に位置する客室「O」から別府湾方向の眺望は,本件被告建物建築以前の眺望可能角度は38度であり,本件被告建物によって北側14度,南側8度となった(甲15,16,33)。 イ本件被告建物建築以前の眺望について,Aの2階各客室及びBの客室からは,2棟の高層マンションの南北に分かれて別府湾を望むことができ,北側は別府湾の対岸にある国東半島が眺望でき,南側は水平線を眺望でき, 本件被告建物は,2棟の高層マンションより南側部分の眺望を遮る(甲1 層マンションの南北に分かれて別府湾を望むことができ,北側は別府湾の対岸にある国東半島が眺望でき,南側は水平線を眺望でき, 本件被告建物は,2棟の高層マンションより南側部分の眺望を遮る(甲15,33,進行協議期日調書)。 ウ Eから別府湾方向への本件被告建物建築以前の眺望は,目の前が多数の草木に覆われており,その北側はAの屋根や近隣にあるPに遮られ,真正面にグローバルタワーが建っており,その左右から別府市街,別府湾及び水平線が望める(甲15,16,30,原告代表者,進行協議期日調書)。 Eでは,全面的に間接照明を照射しており,本件被告建物の建築が進んだ後は,Eから別府湾方向への眺望の中心部分に本件被告建物が位置しており,御簾を立てかけて本件被告建物が見えないようにされた(甲16,30,33,原告代表者)。 エ原告の宿泊客のアンケートの結果として,平成24年4月及び8月頃に,「朝,夕影色の良い浴場,日の出を見て全てに感謝です。」,「E,広々としてながめが最高でした。客室からのながめが良く,日の出も見る事が出来,気持ち良い朝でした。」「露天風呂からの眺めが良かったと口こみ情報をみて決めました。」「お風呂も部屋からも眺めが良かったです。水平線からの日の出を部屋からみることができて感激でした。」「少し気になるのが風呂の前方にマンションが目に入ること。男性はいいが女性が嫌がっていた。」「部屋から湾が見わたせた良好(マンションも見えたが(笑))」との意見が寄せられた(甲29(1)ないし(5),原告代表者)。 オ A及びB周辺には,幾つかの住宅などの建物とその余の森林があるのみである(乙17,34,被告代表者)。 (11) 本件被告建物に係る事情ア本件被告建物は,1階がデイサービス,2階が高齢者専用賃貸住宅(要介護者用 住宅などの建物とその余の森林があるのみである(乙17,34,被告代表者)。 (11) 本件被告建物に係る事情ア本件被告建物は,1階がデイサービス,2階が高齢者専用賃貸住宅(要介護者用3戸),3階が厨房,総合受付,クリニック,4階がケアステーション,高齢者専用賃貸住宅(11戸),5階から8階までがそれぞれ高齢者専用賃貸住宅(12戸),9階が倉庫,屋上広場(浴室)となっている(甲 5,乙1)。 イ被告は,平成24年1月20日までに,本件被告建物について,2億9890万円を支出した(乙21)。 ウ被告は,本件被告建物の3階入り口付近に計5台の駐車場を備え,デイサービス利用者や入居者親族等が乗り付けた自家用車の駐車場として利用することを予定していた。また,本件被告建物から徒歩約14分のところに35台分の駐車場を賃借した(甲22,23,乙1及び弁論の全趣旨)。 (12) 本件被告建物,A及びBの位置及び高さについて ア本件被告建物の西側壁面からAの東側壁面までの距離は約70mであり,同じくBまでの距離は約100mである(乙1,原告代表者)。 イ本件被告建物の3階床下地盤面(海抜約167m)から本件被告建物の最上部まで約22mの高さにあり,また,同建物の7階床下までは,約12.3mの高さにあり,Aの1階床下は本件被告建物の7階床下より若干高いところにある(乙1及び弁論の全趣旨)。 ウ Bの1階床下は,Aの最上部よりも上方に位置する(乙1,進行期日調書)。 エ Bの最上部は,同建物の1階床下から約18.5mの高さにある(乙16)。 オ Bの2階床下と本件建物の最上部がほぼ同一の高さである(乙16)。 (13) 本件高優賃事業に係る事情についてア別府市の高齢者に関 1階床下から約18.5mの高さにある(乙16)。 オ Bの2階床下と本件建物の最上部がほぼ同一の高さである(乙16)。 (13) 本件高優賃事業に係る事情についてア別府市の高齢者に関わる状況(乙4)別府市内の高齢化率は全国平均や大分県下の平均を上回り,全世帯中の高齢者がいる世帯の割合や単身高齢者世帯が急増しており,その増加率は大分県内の他の地域に比較しても高く,要支援者を除く要介護認定者の率も高水準を維持しており,高齢化が進んでいる。 平成20年4月1日時点における別府市内の主たる福祉施設としては, 介護老人福祉施設(特養)が7施設,介護老人保険施設(老健)が5施設,介護療養型医療施設が20施設である。 イ平成23年頃,被告は,本件被告建物を利用した高優賃事業を発案したGとの間で,被告はGに本件被告建物を賃借し,Gは被告に対して建設協力金として2億円を預け,年間4812万円の賃料を支払う旨の賃貸借予約契約が締結された(乙13(1),20,被告代表者)。 ウ Gが本件土地上に本件被告建物を建築することとして調査した理由は,高齢者にとっても別府市の温泉や眺望を提供できることが望ましいと考えたことによる(被告代表者)。 エ本件被告建物への入居予約者は,県外者と大分県在住者が半々である(被告代表者)。 オ本件高優賃事業は,入居数が60戸に達した際に採算が採れる予定である(被告代表者)。 (14) 被告の従業員は,被告代表者1名であり,本件土地及び本件被告建物の他に資産はない(甲2(1)(2),34(1)(2),被告代表者)。 2 争点について(1)ア本件原告の主張は,温泉旅館であるA及びBの所有権に基づき,営業上欠かせない要素としての眺望の利益の法益性を前提として,本件 ),34(1)(2),被告代表者)。 2 争点について(1)ア本件原告の主張は,温泉旅館であるA及びBの所有権に基づき,営業上欠かせない要素としての眺望の利益の法益性を前提として,本件被告建物の7階以上部分の撤去を求めるものである。 イ眺望の利益は,風物がこれを見る者に美的満足感や精神的安らぎなどを与える点において,少なからぬ価値を有するものといえるが,土地や建物の所有又は占有と密接に結びついた利益であり,同土地や建物の所有者又は占有者がその土地や建物自体について有する排他的,独占的な支配と同じように享受し得るものではなく,その土地や建物の対象との間に遮るものが存在しないという周囲の客観的状況や,原則として他人が排他的,独占的に利用し得る空間の利用態様によって事実上享受し得る利益にすぎな い。そのため,眺望の利益の内容は,周囲の客観的状況や空間の利用態様の変化等によって変容ないし制約を受けざるを得ない。 したがって,眺望の利益は常に法的保護の対象となるものではなく,特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち,眺望の利益の享受が社会通念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有する場合に初めて法的保護の対象となるべきである。 ウそして,当該眺望の利益が法的保護に値する場合であっても,眺望の利益に対して,その侵害の排除又は侵害による被害の回復等の形で法的保護を与えうるのは,上記眺望の性質を考えると,具体的状況の下において,社会通念上受忍するのを相当と認められる程度を越える場合に限られるものと解される。 エ以下,本件原告の主張について,上記認定事実から検討する。 (2)ア A及びBが存在する別府市J地区は,温泉観光地として発展を遂げ,海と山の眺望を特徴とする られるものと解される。 エ以下,本件原告の主張について,上記認定事実から検討する。 (2)ア A及びBが存在する別府市J地区は,温泉観光地として発展を遂げ,海と山の眺望を特徴とする別府市において,別府湾を見下ろす景色を名の由来としている。これに加えて,別府市景観形成ガイドラインは,公共施設の眺望点からとはいえ,本件被告建物が該当する高さ10m又は建築面積500㎡の建築物については届出制を採用して,別府市の海への視線を妨げず,長大な建築物で水平線を分断しないよう,また,夜間の地域の景観を害しないように建物に過度の明るさや色彩の照明を用いないよう景観形成基準を定めており,これらを審査することにより,厳格ではないとしても,別府市の別府湾への眺望や別府市街地の夜景を保護しようとしている。 これらによれば,A及びBが所在する場所から別府湾方向への眺望は,温泉観光地として眺望に恵まれた地域として一定の客観的価値が見出されるものと認められる。 イ Aからの眺望について原告は,昭和元年から温泉旅館を経営し,平成9年頃にはEを有するA を建築している。温泉旅館の営業の際には,眺望が一つの営業的要素とされていることに加え,本件被告建物の建築以前では,2棟の高層マンションによって,南北に分断され,双方から別府湾を相当程度望むことができる。 ウ Bからの眺望についてBそのものは平成20年頃に建築され,必ずしも長年その眺望の利益を享受してきたものとはいえない。しかしながら,BはAの南西側隣接地というAと場所的に密着する場所に位置している。これに加え,その設立経緯は,Aの売上げが減少している中で,長年Aにおいて眺望の利益を享受していた原告が,J地区の別府湾への眺望の利益を享受しようとして多額の資金を投じてBを建築し に位置している。これに加え,その設立経緯は,Aの売上げが減少している中で,長年Aにおいて眺望の利益を享受していた原告が,J地区の別府湾への眺望の利益を享受しようとして多額の資金を投じてBを建築したものであり,Bが建築されて本件被告建物の建築着工まで2年以上が経過していることが認められる。これらから,原告のBにおける眺望の利益をAの眺望の利益と別個に扱う理由はない。 そして,Bにおいても,本件被告建物建築以前では,2棟の高層マンションによって,別府湾方向の眺望は南北に分断されたものの,双方から別府湾を相当程度望むことができた。 エそのため,原告は,本件被告建物建築直前においても,A及びBの眺望の利益を一つの重要な営業的要素として温泉旅館を経営している。A及びBからの眺望は,従前から2棟の高層マンションによって南北に分断され,一部遮られており,これを前提にしても,A及びBから別府湾を相当程度望めることにかんがみれば,なお,その眺望には一定の価値を見出すことができるものと認められる。このことは原告の宿泊客からのアンケート結果からも裏付けられる。 オ以上からすると,原告の温泉旅館であるA及びBからの眺望の利益は,単なる主観的な感情を超えて,社会通念上も財産的価値を有する独自の利益として重要性が認められ,法的保護に値するものであると認められる余 地もないとはいえない。 (3)ア仮に,原告が法的保護に値する眺望の利益を有していたとしても,本件被告建物の建築は既に完了しており,原告の請求する完成された本件被告建物の除去については,その範囲が一部の除去を求めるものであっても,その社会的損失は大きく,社会通念上受忍するのを相当と認められる程度として被侵害者である原告に求められる範囲はより大きくなる。 イ本 については,その範囲が一部の除去を求めるものであっても,その社会的損失は大きく,社会通念上受忍するのを相当と認められる程度として被侵害者である原告に求められる範囲はより大きくなる。 イ本件土地は,その一部が急傾斜地崩壊地区の指定がなされているとはいえ,都市計画法上の用途地域は商業地域とされており,別府市景観形成ガイドラインによる建築物の景観形成基準を満たしておきさえすれば,それ以上に建築物の眺望阻害について行政上の規制はないことなどに照らすと,その用途として商業施設などの中高層建物の建築が許容されている地域に位置するものと認められる。 本件土地の一部は急傾斜地崩壊地区の指定がなされ,平地部分が限られており,その形状から,長い間,本件土地には何も建築物がなかったことは認められる。しかし,そうであっても,平成12年頃に建築された2棟の高層マンションのようにそれまで建築されていなかった高層マンションが建築されることもあり,長い間,高層建築物が建築されていないことをもって高層建築物の建築が制限されるなど本件土地の利用用途が限られることとなったとはいえない。 しかも,本件被告建物は,建築基準法等の明確な法令には違反していない建物である上,別府市景観形成ガイドラインの景観形成基準を満たしている。また,同ガイドラインは公共施設の眺望点からの眺望を損なわないことを目的とする景観形成基準とはいえ,これを満たすことで,原告のA,Bからの眺望についても,別府市が保護すべきと考える程度の眺望,ひいては社会通念上保護されるべきと考えられる眺望を損なわない程度の配慮がなされた建物といえなくもない。 また,本件被告建物は,その建築に至るまで多額の資金が支出されており,仮に営利目的を有していたとしても,それ自体に問題はない。さらに,本件 い程度の配慮がなされた建物といえなくもない。 また,本件被告建物は,その建築に至るまで多額の資金が支出されており,仮に営利目的を有していたとしても,それ自体に問題はない。さらに,本件被告建物は,高齢者の居住の安定確保を目的とする事業運営を予定しており,高齢化が進んでいる別府市内にこれまで限られた福祉施設のみが存在し,高優賃事業に基づく高齢者向け優良賃貸住宅が存在しなかったことを考えれば,そのこと自体に社会的意義がないとはいえない。その上,本件高優賃事業を運営する予定のGが本件土地を事業地に選定した理由は,別府市J地区の眺望と温泉を入居者に提供することを目的としているものであるから,本件土地の形状等に照らしても,不合理ともいえない。加えて,本件被告建物の入居者の半分が県外者であっても,本件被告建物の利用目的が不相当とはいえない(なお,A,Bについても,温泉旅館であることから,その宿泊客自体は,県外在住者が多く含まれるものと推認され,その施設利用者が,県外在住者が多く含まれることによって,その目的が不相当となるとはいえないことと同様である。)。 以上の点は,原告が指摘する本件土地に多数の駐車場が備えられていないこと,被告が東京の不動産業者であるFから分社化され,従業員が被告代表者1名で,被告の資産は本件土地及び本件被告建物に限られることを加味しても変わることはなく,これらを考慮しても,本件被告建物が本件土地において利用するにあたり,甚だ不合理であるということはいえない。 また,本件高優賃事業は60戸の建物によって採算が合うものとして予定されているから,本件被告建物をその構造上9階まで建築する必要性があったものと認められる。 ウ加えて,本件被告建物の建築によるA及びBの眺望阻害は,2棟の高層マンションか うものとして予定されているから,本件被告建物をその構造上9階まで建築する必要性があったものと認められる。 ウ加えて,本件被告建物の建築によるA及びBの眺望阻害は,2棟の高層マンションから南側の水平線が望める方向について,眺望可能角度の3分の1を阻害し,眺望可能角度を二つに分断するものではあるものの,なおA及びBからの水平線が望める方向の眺望も残されている。さらに,本件 被告建物の最上部は,Bの2階床下とほぼ同一の高さであり,同階より上層階にも客室を構えており,これらの客室からの眺望に対する本件被告建物の影響は限られるものと推認される。 本件においては,A及びBも温泉旅館であるから,所有権における財産的側面も受忍限度の検討の際に考慮されるべきものと解されるが,残されたA,Bの眺望について,上記のとおりであるから,そこに営業的価値が全く見出せなくなったとは言い難い。もとより温泉旅館であることから温泉という大きな営業的要素を有していることに加え,2棟の高層マンションの北側の眺望は従前と変わりはないことを併せ考えると,なお原告が主張する営業継続が困難となる程の眺望阻害があったものと認めることはできない。 エさらに,被告は,Fの名前で住民説明会を行っており,工事着工前に事業主が被告となったことを表記するなど本件土地付近の住民の不信感や誤解を招く対応があったことは否めない。しかし,住民説明会での質疑は,工事や建物の安全面から本件被告建物建築に反対するものであり,特段眺望の点には言及されておらず,また,被告又はFは,これらの質疑に対して返答を繰り返して住民説明会を重ねるなどして,付近住民への配慮を全く欠くことはしていない。 また,本件陥没など付近住民の不安を招くといえる事態が生じたものの,本件陥没につい ,これらの質疑に対して返答を繰り返して住民説明会を重ねるなどして,付近住民への配慮を全く欠くことはしていない。 また,本件陥没など付近住民の不安を招くといえる事態が生じたものの,本件陥没について,被告はKと道路復旧工事を行った上,住民説明会を開催して付近住民に配慮すると共に,本件陥没の原因について別府市の見解を確認して,本件被告建物建築工事と関係ないことを確認の上で工事再開の許可を得て工事を再開しており,被告には何ら責められるべき事情はないことが認められるから,その責を本件土地所有者たる被告に負わせる理由にはならない。 オ以上を考慮すると,確かに,Aの1階床下が本件被告建物の7階床下よ り若干高く,原告が求める除去部分は本件被告建物の7階以上部分に限られる。また,本件被告建物がB,Aから100m弱程度と遠くないところにある。その上,本件被告建物によってEからは別府湾への眺望が困難となる面があり,温泉旅館を経営する原告にとって,本件被告建物の旅館経営への影響を懸念することは察することはできるものではある。しかしながら,原告の眺望の利益について,本件建物の一部除去によって法的保護を与えうる程度に社会通念上受忍するのを相当と認められる程度を越える場合にまで侵害されたものとまでは認められない。 3 よって,原告の請求は理由が認められないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第1部 裁判官一藤哲志 (別紙物件目録省略) 藤哲志 (別紙物件目録省略)
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