平成17年(モ)第6329号保全異議申立事件(基本事件平成17年(ヨ)第20050号新株予約権発行差止仮処分命令申立事件)決定 主文 1 債権者と債務者間の東京地方裁判所平成17年(ヨ)第20050号新株予約権発行差止仮処分命令申立事件について,当裁判所が平成17年6月1日にした仮処分決定を認可する。 2 異議申立費用は債務者の負担とする。 理由 第1 異議申立ての趣旨 1 主文1項記載の仮処分決定を取り消す。 2 債権者の上記仮処分命令申立てを却下する。 3 申立費用は債権者の負担とする。 第2 事案の概要本件は,債務者の株主である債権者が,平成17年3月14日の取締役会決議に基づいて債務者が現に手続中の別紙新株予約権目録記載の新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)の発行について,①商法が定める機関権限の分配秩序違反,取締役の善管注意義務・忠実義務違反等の法令違反に当たるものであること,②著しく不公正な方法によるものであることを理由として,これを仮に差し止めることを求めた事案である。当裁判所は,平成17年6月1日,債権者の仮処分命令申立てを認容する旨の決定(以下「原決定」という。)をしたところ,債務者はこれに対して保全異議を申し立て,原決定の取消しを求めた。 債務者の異議申立ての理由の骨子は,別紙1記載のとおりであり,これに対する債権者の反論の骨子は,別紙2記載のとおりである(なお,以下,略称等については,原決定において用いられているものを本決定においてもそのまま用いるものとする。)。 第3 当 とおりであり,これに対する債権者の反論の骨子は,別紙2記載のとおりである(なお,以下,略称等については,原決定において用いられているものを本決定においてもそのまま用いるものとする。)。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,本件仮処分命令申立てには,被保全権利及び保全の必要性が存するから,これを認容した原決定は正当であると判断する。その理由は,後記2ないし5において,異議申立て理由に対する判断を付加するほかは,原決定の「理由」中の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 本件新株予約権の発行の目的について本件プランは, 債務者の発行済議決権付株式総数の20パーセント以上に相当する数の議決権付株式を保有する者が生じた場合であって,取締役会が企業価値の最大化のために必要があると認めず,新株予約権の無償消却を行わない旨の決議をするときには, 本件新株予約権の行使を予定するものであり,これが行使されたときには, 平成17年3月31日現在において株主でなかった者が,例えば発行済株式総数の20パーセントの株式を保有するときには,本件新株予約権の行使により,その保有割合は約7.2パーセントまで瞬時にして希釈されるという結果を招来する内容のものである。 このような本件新株予約権の行使の要件及び効果からすれば,本件新株予約権発行の目的を,債務者が主張するように,「買収者をその買収実施前に一時停止させて取締役会と買収条件等につき,取締役会と真摯に交渉することを動機づけるための措置(交渉機会確保措置)を講じさせること」と限定的にとらえるべき理由はなく,原決定が指摘するように,株式会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面において,将来,敵対的買収によって経営支配権を争う株主が生じることを想定して,かかる事態が 限定的にとらえるべき理由はなく,原決定が指摘するように,株式会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面において,将来,敵対的買収によって経営支配権を争う株主が生じることを想定して,かかる事態が生じた際に新株予約権の行使を可能とすることにより当該株主の持株比率を低下させることを主要な目的として発行されるものと認めるのが相当である。 3 「株主に生じる損害がない」との主張について(1) 債務者は,「原決定が既存株主の損害として認定した『債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下』という事実は認められず,また,仮に原決定の指摘する既存株主の損害が認められるとしても,それは理論上のものにすぎず,現実に発生するものではない。」旨主張する。 しかし,本件新株予約権は,平成17年3月31日時点の債務者株主に対して無償で1株につき2個割り当てられ,新株予約権の行使の要件が充たされたときには,一個当たり1円で1株の債務者株式を取得することができる権利である。 そのため,本件新株予約権の発行がされた場合は,権利落ち日(平成17年3月28日)以降に債務者株式を取得する株主は,本件新株予約権の行使の要件が充足せずに平成20年6月16日まで経過し,又は債務者取締役会の決議により本件新株予約権が消却されたときには,債務者株式の持株比率に何らの影響を受けないけれども,新株予約権の行使の要件が充足され新株が発行されたときには,当該株主が濫用的な買収者であるか,そうでない者であるかにかかわらず,債務者株式の持株比率が約3分の1まで希釈されることとなる。そして,上記の新株予約権が行使された場合には債務者株式の持株比率は約3分の1まで希釈されるという結果は,極めて重大なものであり,かつ,新株予約権の行使の要件が将来充足される事態が発生するか否か る。そして,上記の新株予約権が行使された場合には債務者株式の持株比率は約3分の1まで希釈されるという結果は,極めて重大なものであり,かつ,新株予約権の行使の要件が将来充足される事態が発生するか否か,いかなる時点において充足されることとなるのか等を正確に予測することはできないから,その影響を株価の算定に的確に反映させることも困難である。 このように,権利付け最終日に債務者会社の株式を有する既存の株主は,本件新株予約権の発行により,その保有する債務者株式が重大なリスクを含有することとなり,しかも,そのリスクを織り込んだ適正な価格での取引を行うことも困難となることによって,「債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下」という損失を現に被ることになると認められる。 そして,このような損失は,他に濫用的な買収防衛策をとる余地が存しない訳ではない本件においては,濫用的な買収者以外の既存株主にとって受忍すべきいわれのないものであり,また,本件プランの公表前から債務者株式を有する既存の株主にとっては,予測不可能なものであるといわざるを得ない。 したがって,既存株主にとって,これらの損失は,本件プランに基づく本件新株予約権の発行に伴って現実に発生する不測の損害であるというべきである。 なお,債務者は,原決定が「本件プラン導入前後の債務者株式の取引の状況」と題して「平成17年1月1日から同年5月20日までの間の債務者株式の株価の25日移動平均値をみると,同年3月28日の権利落ち日以降,顕著な下落傾向を示している。」との事実を摘示している点について,「かかる下落傾向は,本件新株予約権発行の影響によるものではない。」と主張するものの,原決定が,かかる債務者株式の下落傾向を捉えて,本件新株予約権の発行によって既存株主に現 摘示している点について,「かかる下落傾向は,本件新株予約権発行の影響によるものではない。」と主張するものの,原決定が,かかる債務者株式の下落傾向を捉えて,本件新株予約権の発行によって既存株主に現実に損害が発生していると述べるものではないことは,その説示に照らして明らかである。 また,債務者は,「本件プランによって株主に損害を与えるどころか,利益を与えている。」旨の主張するが,上記の主張は,要するに濫用的な買収防衛策を導入すること自体が株主の利益になっているという主張にすぎず,同様の目的を実現するために他に採り得べき手段がある場合においては,上記の利益が存在するとしても,これをもって,既存株主が上記の損失を被ることを受忍すべきことの根拠とはなり得ない。 (2) 債務者は,「現実に本件新株予約権が発動されることは極めて例外的であることから,原決定の指摘する株主の不測の損害は無視できるほど小さいものである。」旨主張する。 しかし,本件プランに基づいて本件新株予約権が発行される以上,将来,濫用的な買収者が現れた場合に本件新株予約権に基づいて新株が発行される可能性があることを否定することはできないから,このような不確定要素がある限り,既存株主について,上記の「債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下」による損害は現に存在するというべきであって,かかる損害を無視できるほど小さいということは到底できない。 (3) また,債務者は,「原決定が,『新株予約権に表章された価値部分について資本回収の手段が制限されている』と説示していることについて,『当選する確率はゼロではないことは明らかであるのでゼロ以上であることは間違いないですが経済的には非常にゼロに近い価値になる』(甲60)との指摘を無視している。」旨主張する。 ていることについて,『当選する確率はゼロではないことは明らかであるのでゼロ以上であることは間違いないですが経済的には非常にゼロに近い価値になる』(甲60)との指摘を無視している。」旨主張する。 しかし,原決定は,「新株予約権に表章された価値の多寡については,前記のとおり予約権が行使されるかどうかが予測困難な事象と連動していることから算定困難である」ことを前提に,既存株主にとって,新株予約権の譲渡制限に伴う新株予約権の価値部分について投下資本の回収手段が制限されるという損害が発生していると指摘しているにすぎないものであり,本件新株予約権の価値は新株予約権が行使される可能性に左右されるものであるところ,その可能性については前記のとおり予測困難であって,新株予約権の価値が非常にゼロに近い価値になるともいい切れないから,この点に関する債務者の上記主張は採用することができない。 (4) さらに,債務者は,「現実には債務者株式の株価は急騰しており,債権者についても本件プランの導入によってキャピタル・ゲインを取得しているから,損失が発生しているとはいえない。」旨主張する。 しかし,株価は様々な要因をもって変動するものであって,本件プランの導入後,たまたま債務者株式の株価が急騰することがあったとしても,かかる事実をもって,本件新株予約権の発行によって,債務者株式に重大かつ予測困難な希釈化のリスクが発生することによる価値の減少が生じることを否定することはできない。 4 「本件新株予約権の発行に株主総会の決議が不要である」との主張について(1) 債務者は,「原決定が,会社の経営支配権に現に争いが生じている場合における取締役会による新株予約権の発行の限界を,一種の緊急避難的行為として相当な対抗手段と捉え,これを,会社の経営支配権に現 (1) 債務者は,「原決定が,会社の経営支配権に現に争いが生じている場合における取締役会による新株予約権の発行の限界を,一種の緊急避難的行為として相当な対抗手段と捉え,これを,会社の経営支配権に現に争いが生じていない場合における防衛手段の相当性にも適用していることは,会社経営支配権の争奪状況が生じていない段階における取締役会の権限を不当に狭く限定するものである。」旨主張する。 確かに,新株予約権の発行権限は,取締役会にあることから,ストックオプションの付与など事業経営上の必要性や合理性が認められる事項に基づいて新株予約権を発行することは,取締役会の業務執行に含まれるものである。 しかし,本件新株予約権の発行は,前記のとおり,濫用的な敵対的な買収から企業を防衛するため,新株予約権の行使によって特定株主の持株比率を低下させることを目的とするものであるところ,商法上,取締役の選任・解任が株主総会の専決事項であり,被選任者たる取締役に選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする新株予約権の発行をすることを一般的に許容することは,商法が機関権限の分配を定めた法意に反するものというべきであることは,原決定が説示するとおりである。このことは,かかる目的を有する新株予約権の発行が,現に株式会社の経営支配権に争いが生じている時期に行われるものであるか,そうでない時期に行われるものであるかによって,別異に解すべき理由はない。 むしろ,現に株式会社の経営支配権に争いが生じている時期においては,取締役会において,株主総会の意思を問う時間的余裕がないことから,一種の緊急避難的行為として,取締役会限りでかかる目的を有する新株予約権の発行等を行うことに一定の合理性が認められるのに対し,そのような状況が発生していない時期においては,株主総会の意思 ことから,一種の緊急避難的行為として,取締役会限りでかかる目的を有する新株予約権の発行等を行うことに一定の合理性が認められるのに対し,そのような状況が発生していない時期においては,株主総会の意思を問う時間的余裕があるのが通常であるから,取締役会限りで,濫用的な買収防衛策としての新株予約権の発行をすることができる場合はより限定的に考えるのが相当である。 したがって,現に株式会社の経営支配権に争いが生じていない時期における取締役会により企業防衛策としての新株予約権の発行をするための要件は,現に株式会社の経営支配権に争いが生じている時期のそれよりも緩やかに考えるべきであるとする債務者の主張を採用することはできない。 (2) 債務者は,「株主構成の変更が現実に生じるのは,新株予約権の発行がされた段階ではなく,新株予約権に基づき新株の発行がされた段階であるから,取締役会がその権限を濫用して新株の発行を決めた場合に初めて商法が機関権限の分配を定めた法意に反することとなるというべきであって,原決定が説示する3要件も,新株予約権に基づき新株の発行がされた段階で,当該新株発行の差止めの可否という形で司法審査が行われる場合に考慮すれば足りる。」旨主張する。 しかし,本件新株予約権の発行段階では,未だ株主構成の変更が生じないことは,債務者主張のとおりであるけれども,被選任者たる取締役に選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする新株予約権の発行すること自体,原則として,商法が機関権限の分配を定めた法意に反するというべきであり,①株主総会の意思が反映される仕組みの有無,②条件の妥当性及び条件成就に関する取締役会の恣意的判断の防止の仕組みの有無,③買収者とは無関係な株主への不測の損害の有無の各点からみて,事前の対抗策として相当と認められない本件 される仕組みの有無,②条件の妥当性及び条件成就に関する取締役会の恣意的判断の防止の仕組みの有無,③買収者とは無関係な株主への不測の損害の有無の各点からみて,事前の対抗策として相当と認められない本件プランに基づく本件新株予約権の発行によって,債権者に現に不測の損害が生じていることは,前記認定のとおりである。 したがって,原決定が説示する3要件は,新株予約権に基づき新株の発行がされた段階で,当該新株発行の差止めの可否という形で司法審査が行われる場合に考慮すれば足りるとの上記債務者の主張を採用することはできない。 (3) 債務者は,「新株予約権発行時の株主総会と新株予約権の行使に基づく新株発行時の株主総会は,株主構成を異にしており,また,商法が株主総会の決議を要求することで保護しようとしている既存株主の経済的利益は,会社資産に対する持分割合としての株主の利益であるから,本件新株予約権の発行時において,株主総会の同意を要求することには理由がない。」旨主張する。 しかし, 本件新株予約権の発行について株主総会の意思を反映させたとしても,新株発行時における株主構成がこれと異なることもあり得ることから,現実に持株比率の変動の影響を受け得る株主の意思が反映されるものとは限られないことは,債務者の指摘するとおりであるが, 前記のとおり,本件新株予約権の発行が新株発行時における株主構成の変動を直接の目的としている以上,かかる新株予約権の発行は,商法が機関権限の分配を定めた法意に照らせば,原則として株主総会の意思に基づいてなされるべきであり(なお,原決定は,株主総会の決議によって新株予約権の発行をした場合であれば,新株予約権の発行後に株主総会の意思が反映される仕組みが一切不要となると断じているわけでもない。),取締役会の決議により事前の対 原決定は,株主総会の決議によって新株予約権の発行をした場合であれば,新株予約権の発行後に株主総会の意思が反映される仕組みが一切不要となると断じているわけでもない。),取締役会の決議により事前の対抗策として新株予約権の発行が許されるとしても,それが,原決定説示の3つの要素を考慮しても,事前の対抗策として相当な方法によるものであることが必要と解すべきである。 しかも,事前の対抗策として,このような濫用的な買収者以外の既存の株主に損失を与えるおそれのある新株予約権の発行を行おうとするのであれば, 商法が,既存株主に不測の損害を与えるおそれがある株式の譲渡制限を行う定款変更を行う場合には,通常の定款変更の場合と異なり,同法348条の特殊決議により,かつ,同法349条の反対株主の株式買取請求権を認めて,株式の投下資本の回収の容易性を信頼して株式を取得した既存株主に不測の損害を及ぼすことがないような仕組みを採用していることなどに照らしても,同様の株式の投下資本の回収可能性など株主の利益にも配慮した仕組みの導入の可否なども考えながら,株主総会の意思を反映する慎重な手続によって行われるべきであって,このような新株予約権の発行を取締役会の決議のみによって発行できると解することが相当であるとはいい難い(ちなみに,新株予約権の発行を株主総会の決議事項とするためには,定款をもって定める必要がある(商法280条の20第2項ただし書)ので,新株予約権の発行を株主総会の決議に基づいて行う前提として,その旨の定款変更を要することとなる。)。 したがって,これらのいずれの観点からしても,本件プランのような内容の新株予約権を発行しようとする場合に,原則として,発行時における株主総会の意思を反映したものであることが必要であるというべきであり,この点に関 これらのいずれの観点からしても,本件プランのような内容の新株予約権を発行しようとする場合に,原則として,発行時における株主総会の意思を反映したものであることが必要であるというべきであり,この点に関する債務者の上記主張は採用することができない。 5 「保全の必要性がないこと」との主張について(1) 債務者は,「仮の地位を定める仮処分を発令するためには,高度の保全の必要性が求められ,そのためには,当該仮処分が唯一無二の救済手段であることが必要であるところ,本件新株予約権については,その行使段階である新株発行の差止めの可否という形で司法審査によれば足りるから,本件新株予約権の発行自体を差し止める必要性はない。」旨主張する。 しかし,本件新株予約権の発行自体によって,債権者を含む既存株主に「債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下」という損害が現実に生じると認めるべきことは,前記のとおりであり,新株予約権の行使段階における新株発行差止めという方法によっては,このような損害を回避することができないことは明らかである。 (2) 債務者は,「最高裁判所第三小法廷平成16年8月30日決定(民集58巻6号1763頁)によれば,事後の損害賠償によっては償えないような損害が生ずる場合において,保全の必要性が肯定されるにもかかわらず,原決定の指摘する株主の損害は財産的なものであるから,事後的な損害賠償でも回復できるはずである。」旨主張する。 確かに,本件で問題となる既存株主の損害は,「債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下」であるから,財産上の損害であり,債権者には,かかる損害の回復について,事後的に債務者ないし債務者の取締役に対して損害賠償を請求する余地があるとも考えられる。 しかし,仮の地位を 価値の低下」であるから,財産上の損害であり,債権者には,かかる損害の回復について,事後的に債務者ないし債務者の取締役に対して損害賠償を請求する余地があるとも考えられる。 しかし,仮の地位を定める仮処分命令は,「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする」ことが要件とされている(民事保全法23条2項)ものであって,事後の損害賠償によっては償えないような損害が生じない限り発令の余地がないと解すべき理由はなく(債務者ら引用の上記最高裁判所決定も,仮の地位を定める仮処分命令すべてについて保全の必要性を肯定するためには,必ず事後の損害賠償によっては償えないような損害が生ずることが必要であるとの前提に立つものとは解されない。),本件のような新株予約権の発行を仮に差し止める旨の仮処分命令においては,債権者に事後の損害賠償によっては回復することが困難な損害があれば他の事情と相まって保全の必要性を肯定することができると解すべきである。 そこで,債務者が事後の損害賠償によって回復することが困難な損害あるか否かにつき検討するに,債権者が被る損害は,本件新株予約権の発行によって発生するが,本件プランが導入されなかった場合の債務者株式の価格を合理的に算定することは困難であるから,本件新株予約権の発行に伴う損害の賠償を求めることに相当な困難が伴うといわざるを得ない。 したがって,上記のように本件新株予約権の発行による損害を事後の損害賠償によって償うことは相当困難であるというべき事情にあることからすれば,事後の損害賠償が理論的に可能であるからといって,本件仮処分の保全の必要性がないということはできない。 (3) 債務者は,「本件新株予約権の発行時に現実に株式の希釈化の可能性が存在するのか,予約権の発行時にいかなる 的に可能であるからといって,本件仮処分の保全の必要性がないということはできない。 (3) 債務者は,「本件新株予約権の発行時に現実に株式の希釈化の可能性が存在するのか,予約権の発行時にいかなる不利益を株主が受けるのかは,抽象的な主張にとどまっており,損害の直接性・具体性がなく,また,『著しい』損害であるともいえない。」旨主張する。 しかし,本件新株予約権の発行によって債権者が被る損害は,前記のとおり,直接的かつ具体的に発生するものというべきであって,抽象的な損害にとどまるものとはいえない。また,株主の投下資本の回収手段は株式譲渡に限られるため,株式の自由譲渡は強行的に保障されているが,債権者は,本件新株予約権の発行により,相当長期間にわたり,債務者株式を市場において合理的な価格をもって売却することをもってその投下資本を回収することが著しく困難となる(債権者は,本件新株予約権の発行がされることを認識した上で,債務者株式を取得したものではないから,かかる損害を負担する合理的理由もない。)。 したがって,債権者の被る損害は,「著しい」損害であるというべきであり,債務者の上記主張は採用することができない。 (4) 債務者は,「原決定の『本件において,本件新株予約権の発行の差止めが認められたとしても,債務者は,…新株予約権を発行することでその目的を達することができるのであり,差止めが認められた場合に,債務者が少なからぬ損害を被ることについての疎明はないのに対し』との説示は,債務者側の事情を不当に重視しており,また,原決定の『差止めが認められた場合に債務者が少なからぬ損害を被ることについての疎明はない』との説示は,保全の必要性の疎明を債務者に負担させる点において不当である。」旨主張する。 しかし,原決定が,保全の必要性 認められた場合に債務者が少なからぬ損害を被ることについての疎明はない』との説示は,保全の必要性の疎明を債務者に負担させる点において不当である。」旨主張する。 しかし,原決定が,保全の必要性の判断に当たっては,債務者の事情をも考慮に入れて判断するべきことを前提としたうえで,本件については,差止めが認められた場合でも,債務者が少なからぬ損害を被るとは認められないと指摘しているにすぎないことは,その説示に照らし,明らかである。 したがって,この点に関する債務者の上記主張は採用することができない。 6 以上によれば,債権者の仮処分申立てを認容した原決定は相当であるから,これを認可することとし,主文のとおり,決定する。 平成17年6月9日東京地方裁判所民事第8部裁判長裁判官市村陽典裁判官河合芳光裁判官山口和宏(別紙) 新株予約権目録 (1) 新株予約権の名称株式会社ニレコ新株予約権(2) 新株予約権の引受権の付与の対象となる株主平成17年3月31日最終の債務者の株主名簿又は実質株主名簿に記載又は記録された株主(3) 割り当てられる新株予約権の個数株式(債務者の有する普通株式を除く。)1株につき2個(4) 新株予約権の目的となる株式の種類債務者の普通株式(5) 新株予約権の目的となる株式の総数平成17年3月31日最終の発行済株式数(但し,債務者の有する普通株式の数を除く。)に 4) 新株予約権の目的となる株式の種類債務者の普通株式(5) 新株予約権の目的となる株式の総数平成17年3月31日最終の発行済株式数(但し,債務者の有する普通株式の数を除く。)に2を乗じた数を上限とする。なお,下記(23)により対象株式数(下記(6)に定義する。)が調整される場合には,当該調整後の対象株式数に発行する新株予約権の総数を乗じた数に調整される。 (6) 発行される新株予約権の総数平成17年3月31日最終の発行済株式数(但し,債務者の有する普通株式の数を除く。)に2を乗じた数を上限とする。なお,新株予約権1個当たりの目的となる株式の数(以下「対象株式数」という。)は1株とする。但し,対象株式数は下記(23)により調整される。 (7) 各新株予約権の発行価額無償(8) 新株予約権の行使により発行する株式の発行価額の総額払込価額(下記(9)に定義する)に上記(6)に定める新株予約権の総数を乗じた額(9) 各新株予約権の行使に際して払込みをなすべき額(以下「払込価額」という。) 1円(10) 各新株予約権の行使に際して払込みをなすべき1株当たりの金額払込価額を対象株式数で除した額(11) 新株予約権の行使によって発行する新株の発行価額中の資本組入額新株の発行価額全額(12) 新株予約権の行使期間ア平成17年6月16日から平成20年6月16日まで。 イ上記アにかかわらず,平成20年5月18日から平成20年6月16日までの間に下記(13)に定める手続開始要件が満たされた場合は,平成17年6月16日から手続開始要件が満たされた日の翌日から起算して30日が経過した日まで。 ウ上記ア及びイにおいて,行使期間の最終日が銀行休業日にあたるときはその前銀行営業日 された場合は,平成17年6月16日から手続開始要件が満たされた日の翌日から起算して30日が経過した日まで。 ウ上記ア及びイにおいて,行使期間の最終日が銀行休業日にあたるときはその前銀行営業日を最終日とする。 (13) 新株予約権の行使の条件ア新株予約権者は,平成17年4月1日から平成20年6月16日までの間に手続開始要件が満たされた場合でなければ新株予約権を行使することができない。 なお,次の(ア)乃至(サ)に掲げる用語の意義は,別段の定めのない限り,当該(ア)乃至(サ)に定めるところによる。 (ア) 「特定株式保有者」とは,債務者の株券等の保有者,公開買付者又は当該保有者かつ公開買付者である者であって,(ⅰ)当該保有者が保有する債務者の議決権付株式の数と当該保有者の共同保有者が保有する債務者の議決権付株式の数の合計,(ⅱ)当該公開買付者が保有し若しくは保有することとなった債務者の議決権付株式の数と当該公開買付者の特別関係者が保有する債務者の議決権付株式の数の合計,又は(ⅲ)当該保有者かつ公開買付者である者が保有し若しくは保有することとなった債務者の議決権付株式の数と当該保有者かつ公開買付者である者の共同保有者及び当該保有者かつ公開買付者である者の特別関係者が保有する債務者の議決権付株式の数の合計のいずれかが,債務者の発行済議決権付株式総数(下記(イ)において議決権付株式とみなされるものを含む。)の20%以上に相当する数となる者をいう。 但し,債務者の取締役会は,企業価値の最大化の観点から特に必要があると認める場合には,取締役会の決議をもって,事前に公表した上で,上記20%の割合を適切な範囲内で引き上げることができる。 (イ) 「議決権付株式」とは,商法222条4項に規定する議決権制限株式以外の株式 合には,取締役会の決議をもって,事前に公表した上で,上記20%の割合を適切な範囲内で引き上げることができる。 (イ) 「議決権付株式」とは,商法222条4項に規定する議決権制限株式以外の株式をいう。但し,上記(ア)において,特定株式保有者に該当しうべき者,その共同保有者及び特別関係者の保有に係る潜在株式については,行使の条件・期間又は転換の条件・期間にかかわらず,次に定める方法により適宜換算した数の議決権付株式とみなす。 ① 新株予約権については,新株予約権の目的である議決権付株式の数とする方法② 新株予約権付社債については,当該新株予約権付社債に付されている新株予約権の目的である議決権付株式の数とする方法③ 議決権付株式に転換することを請求しうべき転換予約権付株式たる議決権制限株式については,転換の請求により発行すべき議決権付株式の数とする方法(ウ) 「潜在株式」とは,議決権付株式を目的とする新株予約権(但し,本新株予約権目録記載の新株予約権を除く。),議決権付株式を目的とする新株予約権が付された新株予約権付社債及び議決権付株式に転換することを請求しうべき転換予約権付株式たる議決権制限株式をいう。 (エ) 「特別関係者」とは,証券取引法27条の2第7項に規定する特別関係者をいう。 (オ) 「公開買付者」とは,証券取引法27条の3第2項に規定する公開買付者をいう。 (カ) 「株券等」とは,証券取引法27条の23第1項に規定する株券等をいう。 (キ) 「共同保有者」とは,証券取引法27条の23第5項に規定する共同保有者をいい,同条6項に基づき共同保有者とみなされる者を含むものとする。 (ク) 「保有」とは,証券取引法27条の23第4項に規定する保有をいう。 (ケ) 条の23第5項に規定する共同保有者をいい,同条6項に基づき共同保有者とみなされる者を含むものとする。 (ク) 「保有」とは,証券取引法27条の23第4項に規定する保有をいう。 (ケ) 「保有者」とは,証券取引法27条の23第1項に規定する保有者をいい,同条3項に基づき保有者とみなされる者を含むものとする。 (コ) 「保有者かつ公開買付者」とは,保有者が同時に公開買付者である場合の当該保有者をいう。 (サ) 「手続開始要件」とは,ある者が特定株式保有者に該当したことを債務者の取締役会がそのように認識し公表したことをいう。 イ新株予約権者が複数の新株予約権を保有する場合,新株予約権者はその保有する新株予約権の全部又は一部を行使することができる。但し,一部を行使する場合には,その保有する新株予約権の整数個の単位でのみ行使することができる。 ウ新株予約権は,新株予約権の割当てを受けた者が,その割当てを受けた新株予約権のみを行使できる(当初の新株予約権者から法令に従い下記(20)に定める取締役会の承認を要することなく承継された場合には,かかる承継により取得した新株予約権についてはこれを行使することができる。)。 (14) 新株予約権の消却事由及び消却の条件ア債務者は,手続開始要件が成就するまでの間,取締役会が企業価値の最大化のために必要があると認めたときは,取締役会の決議をもって新株予約権の発行日以降において取締役会の定める日に,新株予約権の全部を一斉に無償で消却することができる。 イ債務者は,手続開始要件が成就するまでの間,濫用的な買収等によって債務者の企業価値が害されることを未然に防止し,債務者に対する買収等の提案がなされた場合に,債務者の企業価値の最大化を達成するための合理的な手段として新たな制 就するまでの間,濫用的な買収等によって債務者の企業価値が害されることを未然に防止し,債務者に対する買収等の提案がなされた場合に,債務者の企業価値の最大化を達成するための合理的な手段として新たな制度を導入するに際して必要があると取締役会が認めたときは,取締役会の決議をもって新株予約権の発行日以降において取締役会の定める日に,新株予約権の全部を一斉に無償で消却することができる。 (15) 新株予約権の申込期間平成17年4月27日から平成17年5月25日まで。なお,同日までに申込みを行わない場合には,新株予約権の引受権は失権する。 (16) 新株予約権の申込取扱場所三菱信託銀行株式会社証券代行部(17) 新株予約権の発行日平成17年6月16日(18) 新株予約権の行使請求の受付場所三菱信託銀行株式会社本店(19) 新株予約権の行使に際して払込みをなすべき払込取扱場所三菱信託銀行株式会社本店(20) 新株予約権の譲渡制限新株予約権の譲渡については,債務者の取締役会の承認を要する。但し,債務者の取締役会は,新株予約権の譲渡につき,取締役会の承認の申請がなされた場合でも,かかる譲渡の承認は行わない。 (21) 新株予約権証券の発行新株予約権証券は,新株予約権者の請求があった場合に限り発行する。 (22) 新株予約権により発行した株式の第1回目の配当新株予約権の行使により発行された債務者の普通株式に対する最初の利益配当金又は中間配当金は,行使の請求が4月1日から9月30日までになされたときは4月1日に,10月1日から翌年3月31日までになされたときは10月1日に,それぞれ新株予約権の行使があったものとみなしてこれを支払う。 (23) 対象株式数の調整ア債務者 になされたときは4月1日に,10月1日から翌年3月31日までになされたときは10月1日に,それぞれ新株予約権の行使があったものとみなしてこれを支払う。 (23) 対象株式数の調整ア債務者は,新株予約権発行後,株式の分割又は併合を行う場合は,対象株式数を次に定める算式により調整する。調整後対象株式数の算出にあたっては,小数第4位まで算出し,その小数第4位を四捨五入する。 イ調整後の対象株式数の適用時期等は,次に定めるところによる。 (ア) 調整後の対象株式数は,株式の分割の場合は株主割当日の翌日以降,株式の併合の場合は商法215条1項に規定する一定の期間満了の日の翌日以降,これを適用する。但し,配当可能利益から資本に組入れられることを条件としてその部分をもって株式の分割により債務者の普通株式を発行する旨取締役会で決議する場合で,当該配当可能利益の資本組入れの決議をする株主総会の終結の日以前の日を株式分割のための株主割当日とする場合は,調整後の対象株式数は,当該配当可能利益の資本組入れの決議をした株主総会の終結の日の翌日以降,これを適用する。 (イ) 上記(ア)但書の場合で,株式の分割のための株主割当日の翌日から当該配当可能利益の資本組入れの決議をした株主総会の終結の日までに新株予約権の行使をなした者に対しては,次に定める算式により当該株主総会の終結の日の翌日以降債務者の普通株式を発行する。この場合に,1株未満の端株を生じたときは,これを切り捨て,現金による調整は行わない。 株式数 = (分割の比率-1)×(当該期間内に新株予約権を行使した結果,調整前対象株式数に基づき発行された株式数別紙1(債務者の主張)第1 本プランの導入は「機関権限の分配を定めた法意」に反しない 1 原決定は,本プランが有事において 内に新株予約権を行使した結果,調整前対象株式数に基づき発行された株式数別紙1(債務者の主張)第1 本プランの導入は「機関権限の分配を定めた法意」に反しない 1 原決定は,本プランが有事において敵対的買収者の持株比率を低下させることを主たる目的としていると認定する。その上で,平時において買収防衛手段を導入できる場合を極めて限定的に解し,本プランの導入は商法の定める「機関権限の分配を定める法意」に反すると述べる。しかし,本プランの主たる目的はそのようなものではない。本プランは,買収者に対し買収実施前に一時停止させて取締役会と真摯に交渉することを動機付けるための措置(交渉機会確保措置)を導入するものであり,言わば「抜かずの宝刀」にすぎない。米国においても,いわゆるポイズン・ピルが実際に行使されて敵対的買収者の持株比率の低下が生じた事例は1例もなく,本プランも,現実に発動されることを想定したものではない。本プランは上記のような目的で導入されるものであり,従前の裁判例におけるいわゆる「主要目的ルール」に照らしても,不公正発行に当たらない。 2 平時において交渉機会確保措置を導入することは,取締役会の一般的な経営権限の範囲内にある。公開買付が証券取引法上20日間から60日間という短い期間でされ,その間に買収者の買収条件を株主利益の観点から冷静に判断することが困難であることからすると,経営陣による自己保身の可能性がない平時に,予め交渉機会確保措置を講じておき,会社経営陣に対し,買収者との間で買収条件等について交渉する際の交渉カードを付与しておくことは,買収者に買収価格の上方修正を迫ることも可能とし,株主にとってメリットともなる。 原決定は,買収防衛策の持つメリットについて全く目を覆っている。現実の社会においては敵対的買収に会社が狙われる ,買収者に買収価格の上方修正を迫ることも可能とし,株主にとってメリットともなる。 原決定は,買収防衛策の持つメリットについて全く目を覆っている。現実の社会においては敵対的買収に会社が狙われることによって株主が損害を被った事例が報告されており,そのような損害から会社及び株主を守ることは取締役に課せられた責務である。 債務者のように,長期にわたる研究・開発を必要とし,短期的には市場における評価が得にくいことから,企業の解体を目的とする敵対的買収者の標的となり易い会社の株主にとっては,中・長期的な企業価値を高めるための手段となる買収防衛策は,株主にとってもとりわけ大きなメリットとなる。むしろ,買収者に対し何らの防衛策を採らず,事後的に買収者のいいなりになることは,経営陣の善管注意義務違反となり得る。比較法的に見ても,原決定による取締役会の権限についての考え方は,余りにも狭すぎる。敵対的買収をいかなる場合でも排除するような「JustSayNever」タイプの防衛手段でない限り,会社に対して善管注意義務と忠実義務を負う取締役会が合理的な判断に基づいて事前の対抗策を導入できないとすることは,現行商法上根拠のない不当な解釈論である。 3 ニッポン放送事件の東京高裁決定も,平時における防衛手段の導入については,有事の場合と同様の厳しい限定を課すべきとはしていない。同決定は,事前の対抗策の適法性を判断する際に,株主割当か否か,消却条項が付いているか否かを判断要素とすることとしているが,本プランは株主割当であり,かつ消却条項も付いている。ニッポン放送事件の東京高裁決定は,株主総会決議の有無にも触れているが,それは株主総会決議を必須とするものではない。 4 現行商法が株主総会の決議を要求することで保護しようとしている既存株主の経済的利益 ン放送事件の東京高裁決定は,株主総会決議の有無にも触れているが,それは株主総会決議を必須とするものではない。 4 現行商法が株主総会の決議を要求することで保護しようとしている既存株主の経済的利益は,会社資産に対する持分割合としての株主の利益であり,概念的なリスクなどで動く株価の維持に関する利益ではない。このことは,現行商法が,社債を不利な条件で発行することや会社資産を安売りすること等について,事後的な取締役に対する責任追及や取締役の違法行為に対する差止めで対処するのみで,株主総会決議を要求していないことから明らかである。 新株予約権が導入された際の議論を見ても,株主割当の形によって取締役会限りで新株予約権を発行することが想定されており,これについて株主総会の決議を必要とすることは想定されていなかった。 したがって,新株予約権を株主に割当てる本プランの導入に株主総会の決議を必要とする理由はない。 5 本プランの導入(新株予約権の発行)によっては何ら株主構成の変更が生じるものではなく,本プランの導入は「機関権限の分配を定めた法意」に反しない。 株主構成の変更が生じるのは,会社の企業価値の毀損をもたらし得る敵対的買収者が現れ,新株予約権が消却されず新株が発行される場合に限られる。仮に,取締役会による新株予約権の消却がされないという判断が誤っており,そのために新株が発行されようとしている場合には,原決定もその段階で差止めが可能と解する余地を認めているのであり,その段階で差止めが認められれば足りる。 6 原決定は,新株発行時の司法審査の可能性は,取締役の恣意的判断の仕組みの不十分さを代替するものとは言えないとし,その理由として①事前審査と事後審査の機能の違い,②新株発行段階における事実上の混乱の可能性,③新株発行時の差止請求が敵対的 は,取締役の恣意的判断の仕組みの不十分さを代替するものとは言えないとし,その理由として①事前審査と事後審査の機能の違い,②新株発行段階における事実上の混乱の可能性,③新株発行時の差止請求が敵対的買収者の意思に委ねられていることを挙げる。しかし,①は本プランでは新株発行前の事前の防止が手続的に保障されていること,②はそのような混乱はあり得ず,むしろ本プランを差し止めることによる事実上の混乱が大きいこと,③は敵対的買収者以外も新株発行時の差止めは可能であることから全く理由がない。 7 原決定は,新ガイドライン第3条第1項について,取締役会が特別委員会の勧告に従わない余地を残していることを問題とする。しかし,取締役が善管注意義務ないし忠実義務を負って会社経営の責任をとるべき立場にあること,商法が新株予約権の消却を取締役会の専決事項としていること(商法第280条ノ36第1項)からすれば,取締役会が特別委員会の決定に無条件に従う規定とすることは商法に違反する。勧告に従うことを原則としつつ,従わない場合には勧告とそれに従わない理由を公開することを要求することで,実際に適切な勧告が行われた場合にこれに従わないという事態は全く想定できない。また,原決定は,新ガイドライン第3条第4項(5)の規定が明確性を欠くとする。しかし,この規定は,ニッポン放送事件の東京高裁決定が,新株予約権の発行を正当化する事情として例示している4つの具体的事例以外にもこれを正当化する場合があり得ることを述べているために,そのような場合をおいても取締役の善管注意義務ないし忠実義務違反となることを回避するためにあえて設けられた規定にすぎず,取締役会の恣意的な判断を許容するための規定ではない。 第2 債権者には何ら損害がないこと原決定は,被保全権利の発生要件としての株主の となることを回避するためにあえて設けられた規定にすぎず,取締役会の恣意的な判断を許容するための規定ではない。 第2 債権者には何ら損害がないこと原決定は,被保全権利の発生要件としての株主の「不利益」,保全の必要性の要件としての「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険」について,将来株式の希釈化が生じるかどうかは分からないが,そのような可能性があるということだけで,現在において既存の株主に不測の損害があると認定している。しかし,そのような不測の損害は認められない。 すなわち,まず本プランの導入によって株主に損害があるとした債権者側提出の各意見書・陳述書及びこれに依拠した原決定は,買収が常に企業価値を高める方向にのみ作用すると考えている点で根本的な誤りがある。企業買収者の中には,市場で不当に安く評価されている株式を購入して企業を解体し,長期的な企業の成長を見込んで投資している一般株主の利益等を害する者が含まれており,本プランは,そのような買収者に対する必要最小限の防衛手段であり,企業価値及び株主にとってプラスに作用するものである(乙69)。また,債権者提出の各意見書・陳述書記載の理論を前提としても,想定できる株主の不利益は無視できるほど小さい。債権者提出の意見書(甲41)も,本プランにおいて本件新株予約権が発動されることは極めて例外的な状況であるとするとおり,これを考慮した本プラン導入による株主利益への影響は極めて限定されたものである(乙69)。実際に,,本プランの導入発表後2ヶ月以上経過しても債務者株式の売買高や株価が影響を受けたという事実はなく,「不測の損害」が発生するとは考えられない。原決定は,本プラン導入直後の異常な株価の上昇や債権者自身による債務者株式の買占めによる株価への影響,株式市場全体の動きについて全く無視 という事実はなく,「不測の損害」が発生するとは考えられない。原決定は,本プラン導入直後の異常な株価の上昇や債権者自身による債務者株式の買占めによる株価への影響,株式市場全体の動きについて全く無視しており,本プランの導入による売買高・株価の影響についての事実認定には誤りがある。原決定は,債務者の株式の取引高が小さいから株価の変動のみを根拠として株式の価値の低下を論ずることはできないと述べるが,株式の取引高が小さい会社においても株式分割の際には理論どおりに株価が変動しており,原決定の認定は根拠のない推測に基づく。原決定は,新株予約権に表章された価値部分について資本回収の手段が制限されているということからも株主の損害を認定しているが,原決定が依拠する意見書(甲60)自身,そのような価値は経済的に非常に小さいと述べており,原決定は,この文脈においてはこの意見書のこの箇所を無視している。なお,原決定が依拠する,債権者提出の各陳述書のうち,陳述者の主観的評価を記載しているものについては客観的な裏付けを欠き証拠価値がない。 第3 保全の必要性がないこと仮の地位を定める仮処分命令の発令に際しては,より高度の保全の必要性が必要とされ,また,債権者の「著しい損害」又は「急迫の危険」は,現実的・直接的なものでなければならない。本件で原決定が認定している債権者の損害は,上記第2で見たとおり,このような性質のものではない。しかも,仮処分が発令されるためには,当該仮処分が唯一無二の救済手段であることが必要であるが,原決定は,新株発行の段階で差止めが認められ得るとしながら新株予約権の発行の差止めを認めている点で誤りがある。また,最決平16年8月30日は,仮処分の発令の要件として,事後の損害賠償によっては償えないことを要件としているが,本件においてそのよう しながら新株予約権の発行の差止めを認めている点で誤りがある。また,最決平16年8月30日は,仮処分の発令の要件として,事後の損害賠償によっては償えないことを要件としているが,本件においてそのような事情は見られない。その他の先例(大阪地決平16年9月27日)においても,債権者の不利益についての主張が抽象的であるとして仮処分の申立てが却下されており,本件もそのような事案である。さらに,原決定は,保全の必要性を認めるに当たって債務者に生じる損害を最初に検討し債務者側にその疎明がないと述べる。しかし,これは保全の必要性に関する疎明責任の所在につき誤っているばかりか,保全の必要性の認定に当たってごく補充的な要素にとどまる債務者側の損害のみを過大に重視しており,前掲最高裁決定の立場にも反する。実際には,原決定の認定とは異なり,差し止められ買収の脅威にさらされることになる債権者に生じる損害は計り知れない。これらの事情からすれば,本件では保全の必要性は認められない。 別紙2(債権者の主張)第1 原決定における「権限分配論」について事前対抗策としての新株予約権発行について原決定が定立した基準は,いわゆる有事における新株予約権発行の不公正発行該当性に関するニッポン放送事件の一連の決定及び商法が定めた機関権限分配の基本原理に則った極めて適正かつ妥当なものである。 債務者は,債務者がいうところの「交渉機会確保措置」の権限を取締役会は有しているとして,原決定は取締役会の権限を不当に狭く解していると主張する。 しかしながら,交渉機会確保措置の権限が取締役会の権限であるとする根拠は,債務者の主張によっても何ら明らかではなく,かかる点に関する債務者の主張は歪曲に満ちたものである。また,原決定が基礎とする商法が定めた機関権限分配の基本原理は,機関権限の分 権限であるとする根拠は,債務者の主張によっても何ら明らかではなく,かかる点に関する債務者の主張は歪曲に満ちたものである。また,原決定が基礎とする商法が定めた機関権限分配の基本原理は,機関権限の分配に関する商法の大原則である以上,このような原則に取締役会が拘束されるのは当然である。買収者との交渉機会確保の要請は,このような機関権限の分配に関する商法の大原則に優越するものではない。ましてや,原決定の判示した基準に反することなく買収者との交渉機会を確保することは,信託方式又は事前警告方式によっても可能であり,ことさらに原決定が否とした本件新株予約権のごとき方式(買収等に関係のない株主に不測の損害を与えるという致命的欠陥を有する。)を採用する必要はない。債務者の主張によって,何故に,本件新株予約権発行が不公正発行に該当するとの原決定の判断が誤りとなるのかは全くもって不明である。 また,債務者は,事前の対抗策の「導入」時に株主総会の同意を得る必要はないと主張する。この点,原決定は,取締役会決議に基づく事前対抗策の導入を認めており,その際には,「新株予約権が株主総会の判断により消却が可能となっているなど,事前の対抗策としての新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組み」を要求しているにすぎない。そもそも,本件新株予約権の制度設計においては,いわゆる有事において取締役会が株主構成を決定することとなるところ,有事の局面は,取締役が自己保身のために権限を濫用する危険が最も高い場合であり,かつ,そもそも取締役会は株主構成を決定する権限を有しない機関であることからすれば,本件新株予約権の発行に株主総会の意思を何らかの形で反映すべきとする原決定の結論は,商法が定めた機関権限の分配の基本原理からは極めて素直な解釈である。 さらに,債務者は, あることからすれば,本件新株予約権の発行に株主総会の意思を何らかの形で反映すべきとする原決定の結論は,商法が定めた機関権限の分配の基本原理からは極めて素直な解釈である。 さらに,債務者は,新株発行に先立って司法救済も認められる以上,新株予約権発行の段階で差止めを認める理由はないと主張する。しかし,原決定は,新株予約権の行使に基づく新株発行の差止請求が可能であるとは結論づけていないし,仮に可能であったとしても,本件新株予約権における取締役会の恣意的判断防止の仕組みの不十分性を代替するものではないと明確に判断している。そして,かかる判断に対する債務者の批判はいずれも失当であるから,債務者の上記主張には理由がない。 その他,債務者は,本件新株予約権発行の目的,新株予約権の消却に関する取締役会の恣意的判断の防止の仕組み等に関して,原決定に対する雑駁な批判を行なっているが,いずれも理由のないものである。 本件新株予約権は,買収とは無関係の株主に不測の損害を与えるという制度的欠陥を有しており,しかも,かかる欠陥は,事前対抗策としてのポイズンピルにおいても,信託方式又は事前警告方式を採用することによって回避可能である。異議審における債務者の主張は,このような致命的な制度的欠陥,それも各関係機関から異例とも言える批判を浴びた欠陥を有する本件新株予約権について,その発行が何故に不公正発行に該当しないこととなるのか何ら明らかにはしていない。 第2 債務者を含む株主に損害が生じることは明白であること原決定において認定された「株主に対する不測の損害を与えるおそれ」に対し,債務者は種々の批判を試みているが,批判となり得ておらず,あるいは原決定の認定の正当性を減殺するものではない。 債務者は,本件新株予約権は企業価値を毀損する買収を防 損害を与えるおそれ」に対し,債務者は種々の批判を試みているが,批判となり得ておらず,あるいは原決定の認定の正当性を減殺するものではない。 債務者は,本件新株予約権は企業価値を毀損する買収を防衛するための仕組みであることなどから,債務者の企業価値にとってプラスに作用すると評価すべきであり,この点を考慮しない原決定は誤っている旨主張する。しかし,本件新株予約権は,このような効果があるか疑問であるし,合理的な買収も含んだ買収一般を抑止するから,企業価値を毀損する買収を抑止するという点だけを捉えてプラスと評価することはできない。また,債務者の主張は,債務者株式に付着する重大かつ算定不能な希釈化リスクの存在を否定するものとはなっていない。 また,債務者は,本件新株予約権が行使される可能性が高くないので株主が被る損害は小さい旨主張する。しかし,原決定の認定する「債務者株式の投資対象としての魅力の減少」は,本件新株予約権が行使されるリスクそのものに加え,株式価値が一挙に3分の1まで希釈されるというインパクトの強力さと,現実化の可能性を合理的に算出できない不透明性によって増幅される。これらは,本件新株予約権が行使される可能性がゼロでない限り,その可能性より更に強い減価圧力として債務者株式に内包される要因となり,本件新株予約権が行使される可能性の大小に関わらず株主が被る損害は甚大である。 また,債務者は,債務者株式の株価はいまだ下落しておらず,原決定が認定した「不測の損害」は現実に生じていない旨を主張する。しかし,本件新株予約権に化体された価値の譲渡性の喪失及び重大かつ算定不能な希釈化リスクによる債務者株式の価値低下という損害は現実のものであるし,そもそも,新株予約権発行差止めの仮処分においては,損害が既発生であることまで要求されない。 の譲渡性の喪失及び重大かつ算定不能な希釈化リスクによる債務者株式の価値低下という損害は現実のものであるし,そもそも,新株予約権発行差止めの仮処分においては,損害が既発生であることまで要求されない。また,原決定が,取引高の小さい債務者株式については市場における株価の変動のみを根拠とすることはできない旨述べた箇所に対し,債務者は,取引高の小さいジャスダック上場銘柄の株式分割において株価が理論どおりに下落している例を挙げた上で,取引高が小さくとも理論どおり株価は下落するはずである旨主張するが,株式分割と本件新株予約権とを同列に論じること自体が誤っている。 また,本件新株予約権に債務者株式との随伴性がなく,本件新株予約権に表象された価値部分について資本回収の手段が制限されるとする原決定の認定につき,債務者は,原決定が依拠する債権者提出に係る疎明資料においても本件新株予約権が表象する価値自体が僅少であることを認める旨の記述があるなどと主張する。しかし,当該疎明資料は,本件新株予約権には譲渡性がなく,債務者株式との随伴性を有しないことを踏まえて,その経済的価値が著しく小さいものとならざるを得ないという原決定の認定と同趣旨を述べている。 また,債務者は,本件新株予約権の発行に否定的評価を下す投資家等の意見について「『主観的』評価」などと断じている。しかし,これらの意見がいかなる意味で「主観的」であるのか不明であるし,また投資家の評価が「主観的」であってはいけない理由も不明である。これらの中にはごく客観的な立場から述べられたものもあるし,そもそも投資家による投資判断の主観性がその意見の信用性を損なう要素とはなり得ない。また,これらは多種多様な立場の主体から収集されており,総合的に眺めれば「主観的」と非難される謂れはない。 第3 保全の必要 投資家による投資判断の主観性がその意見の信用性を損なう要素とはなり得ない。また,これらは多種多様な立場の主体から収集されており,総合的に眺めれば「主観的」と非難される謂れはない。 第3 保全の必要性本件では保全の必要性が認められないとする債務者の主張は,民事保全法23条2項等の解釈を誤ったものであり,明らかに失当である。 債務者は,最高裁決定平成16年8月30日(民集58巻6号1763頁)や新株予約権発行差止仮処分が仮の地位を定める仮処分であることを理由に,本件における保全の必要性について,債権者の被るべき損害が事後の損害賠償によっては償えないこと等の極めて厳格な要件を要求する。しかしながら,このような主張は,民事保全法23条2項の文理に反するとともに,上記最高裁決定を曲解したものである。また,債務者は,新株予約権発行差止仮処分における保全の必要性に対する基本的な理解を誤っている。一般的に仮の地位を定める仮処分において高度の保全の必要性が要求されるのは,仮処分が認められた場合に債務者が大きな不利益を被るという債権者と債務者の利益衡量に求められるところ,新株予約権発行差止仮処分においては,一般の仮の地位を定める仮処分に共通に見られるような不利益は債務者には何ら発生しない(特に,本件においては,債務者が被るべき損害は何一つ存在しない。)。また,新株予約権発行差止仮処分においては,仮処分が認められなければ,もはや本案の訴えが認められる余地は存在しない点においても,通常の満足的仮処分とは全く性質を異にする。新株予約権発行差止仮処分については,保全の必要性を厳格に解することは,債権者と債務者の利益衡量上,むしろ妥当ではない。 のみならず,新株予約権発行の差止は仮処分の方法によらざるをえない以上,保全の必要性を厳格に解すると,株主が現 は,保全の必要性を厳格に解することは,債権者と債務者の利益衡量上,むしろ妥当ではない。 のみならず,新株予約権発行の差止は仮処分の方法によらざるをえない以上,保全の必要性を厳格に解すると,株主が現実に差止請求権を行使しうる場合は商法280条の10の文理及び制度趣旨と乖離して著しく限定されることとなり,商法280条の39第4項が準用する同法280条の10条の趣旨を没却する。したがって,上記のような債務者の主張には理由がない。 また,債務者は,本件においては債権者が被る損害の現実性・具体性の要件は充足されないと主張するが,債務者は,本件新株予約権発行によって債権者が被る損害に対する理解を誤っている。本件新株予約権発行によって債権者が被るべき損害は,現実的かつ具体的な財産権侵害であり,しかも,債務者が主張するような容易に回復可能なものではあり得ない。 さらに,債務者は,原決定が債務者側の事情を不当に重視していると主張するが,原決定は,仮処分が認められない場合における債権者の損害と仮処分が認められた場合における債務者の損害を総合的に考慮するという従来の判例の判断枠組みに依拠したにすぎず,これをもって不当と評価すべき理由はない。 以上の点からすれば,本件においては保全の必要性は認められないとする債務者の主張には理由はない。かかる結論は,民事訴訟法及び会社法のそれぞれの分野の学者からも等しく支持されている。
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