平成16(ワ)20408 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成19年6月21日 東京地方裁判所 棄却
ファイル
hanrei-pdf-34905.txt

判決文本文34,831 文字)

平成19年6月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第20408号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年3月12日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告Aに対し,1935万5090円,原告B,原告C及び原告Dに対し,各713万7170円並びにこれらに対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,E(昭和9年○月○○日生まれ,女性。以下「E」という。)が,くも膜下出血の治療のために前交通動脈瘤に対するクリッピング手術を受けるなどした後,平成14年6月7日からリハビリテーション治療を受けるために被告の開設するF病院(以下「被告病院」という。)に入院していたところ,同年7月5日に急性呼吸不全のために死亡したことについて,Eの相続人である原告らが,被告に対し,被告病院の担当医師らには,Eの気管支喘息の治療や喘息発作の予防管理を怠った過失があり,これによりEは気管支喘息の重篤発作に基づく急性呼吸不全により死亡したものであると主張して,不法行為(使用者責任)に基づき,逸失利益等の損害賠償を求める事案である(以下,特に年を示さない場合は,すべて平成14年である。)。 前提事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者 ア原告ら原告A(以下「原告A」という。)は,Eの夫であり,原告B(以下「原告B」という。),原告C(以下「原告C」という。)及び原告D(以下「原告D」)は,原告AとEとの間の子である(なお,Eの子には,原告B,原告C及び原告Dのほかに,非嫡出子であるGがいる。)。 イ被告被告は,東京都国分寺市に被告病院を開設する財団法人であ (以下「原告D」)は,原告AとEとの間の子である(なお,Eの子には,原告B,原告C及び原告Dのほかに,非嫡出子であるGがいる。)。 イ被告被告は,東京都国分寺市に被告病院を開設する財団法人である。 (2)Eの診療経過ア被告病院入院に至る経緯Eは,2月25日午後11時30分ころ,東京都P町の自宅で倒れたことから,同月26日午後4時30分ころ,ヘリコプターで東京都武蔵野市の武蔵野赤十字病院に搬送された。Eは,武蔵野赤十字病院において,くも膜下出血と診断され,直ちに前交通動脈瘤に対するクリッピング手術を受けた。 Eは,その後も武蔵野赤十字病院に入院して治療を受けていたが,くも膜下出血に対する治療が終了したことを受けて,6月7日,武蔵野赤十字病院を退院し,リハビリテーション治療を受けるために被告病院に入院した。 イ被告病院における診療経過被告病院におけるEの診療経過は,別紙「診療経過一覧表」(略)記載のとおりであり(当事者の主張の相違する部分を除き,争いがない。),Eは,7月5日午前1時42分,急性呼吸不全により死亡した。 なお,被告病院入院中のEの精神状態については,別紙「精神状態等一覧表」(略)記載のとおりである。 (3)気管支喘息気管支喘息は,気道の慢性炎症性疾患である。気管支喘息に罹患すると, 気道過敏性が上昇するため,咳,喘鳴,呼吸困難等の喘息発作を生じるようになる。喘息発作は,通常,気道閉塞を伴うとされており,気道閉塞によって呼吸不全を生じた場合には,換気不全のために血液中の二酸化炭素濃度が上昇して,心停止に至ることもある。 争点 (1)気管支喘息に対する長期管理(喘息発作の予防管理)を尽くさなかった過失による不法行為の成否(原告らの主張)ア気管支喘息に関する医学的知見(ア)気管支喘息の重症度厚生 る。 争点 (1)気管支喘息に対する長期管理(喘息発作の予防管理)を尽くさなかった過失による不法行為の成否(原告らの主張)ア気管支喘息に関する医学的知見(ア)気管支喘息の重症度厚生省免疫・アレルギー研究班が作成した気管支喘息の治療指針である「喘息予防・管理ガイドライン」(甲B1)によれば,気管支喘息の重症度は,以下の4段階に分類される。 a軽症間欠型週に1回から2回の頻度で喘鳴・咳嗽・呼吸困難が現れるが,その症状は間欠的で短い。夜間の発作頻度は,月に1回から2回である。気道閉塞の程度の指標となるピークフロー値(最大呼気位から最大努力呼気で息を吐き出すときの最大呼気速度)は,自己最良値の80%以上であり,その日内変動率は20%以内である。 b軽症持続型週に2回以上の頻度で喘息発作が現れ,月に2回以上の頻度で日常生活や睡眠が妨げられることがある。夜間の発作頻度は,月に2回以上である。ピークフロー値は,自己最良値の70%から80%であり,日内変動率は20%から30%である。 c中等症持続型慢性的に喘息発作が現れ,ほぼ毎日の吸入β刺 激薬(気管支拡張薬)の頓用が必要とされる。週に1回以上の頻度で日常生活や睡眠が妨げられる。夜間の発作頻度は,週に1回以上である。ピークフロー値は,自己最良値の60%から70%であり,日内 変動率は30%以上である。 d重症持続型発作症状が持続し,夜間にも頻繁に喘息発作が現れるため,日常生活が制限される。治療下でも,その症状が増悪することがある。ピークフロー値は,自己最良値の60%未満であり,日内変動率は30%以上である。 (イ)気管支喘息の治療薬a気管支喘息の治療薬は,長期管理のために継続的に使用される「長期管理薬」と,喘息発作治療のために短期的に使用される「発作治療薬 あり,日内変動率は30%以上である。 (イ)気管支喘息の治療薬a気管支喘息の治療薬は,長期管理のために継続的に使用される「長期管理薬」と,喘息発作治療のために短期的に使用される「発作治療薬」とに大別される。 b長期管理薬は,その作用機序に基づいて,ステロイド薬(抗炎症薬),徐放性テオフィリン薬(気管支拡張薬),β刺激薬(気管支 拡張薬),抗アレルギー薬に分類される。 「喘息予防・管理ガイドライン」では,気管支喘息の重症度に応じた長期管理薬の投与方法として,以下のような段階的薬剤投与プランが推奨されている。 (a)軽症間欠型喘息発作の現れたときに,徐放性テオフィリン薬,吸入β刺激薬又は経口β刺激薬を頓用する。症状によって は,抗アレルギー薬又は低用量の吸入ステロイド薬の連用を検討する。 (b)軽症持続型低用量の吸入ステロイド薬,徐放性テオフィリン薬,抗アレルギー薬を単独又は併用で連用する。 (c)中等症持続型中用量の吸入ステロイド薬に加えて,徐放性テオフィリン薬,吸入β刺激薬,経口β刺激薬,抗アレルギー 薬を連用する。症状によっては,吸入抗コリン薬(発作治療薬)の併用を検討する。 (d)重症持続型高用量の吸入ステロイド薬に加えて,徐放性テ オフィリン薬,吸入β刺激薬,経口β刺激薬,抗アレルギー薬 を連用する。症状によっては,経口ステロイド薬を短期間連用する。 イ被告病院の担当医師らの注意義務違反(ア)気管支喘息に対する長期管理においては,気道の炎症を抑制することによる根本的な治療のために,抗炎症薬である吸入ステロイド薬を連用するとともに,気管支喘息の発症因子である家塵を除去するために,換気等の環境を整える必要がある。 (イ)ところが,被告病院の担当医師らは,以下のとおり, ために,抗炎症薬である吸入ステロイド薬を連用するとともに,気管支喘息の発症因子である家塵を除去するために,換気等の環境を整える必要がある。 (イ)ところが,被告病院の担当医師らは,以下のとおり,Eに対してこれらの措置を尽くさなかった。このため,Eは,7月5日に重篤な喘息発作を生じて,心停止により死亡したのである。 a6月24日の時点における注意義務違反(第1次的主張)原告らは,6月21日には,Eの喘鳴に気付いており,被告病院の診療録においても,同月22日以降,Eの喘鳴が記録されている。したがって,同月24日時点では,少なくとも3日間連続して喘鳴が生じていたのであるから,Eの気管支喘息の重症度は,重症持続型(軽くとも中等症持続型)に該当するというべきであり,被告病院の担当医師らとしては,ピークフロー値の測定等の検査を実施して,的確にEの気管支喘息の重症度を診断した上で,長期管理薬として吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべきであった。 ところが,被告病院の担当医師らは,ピークフロー値の測定等の検査を実施することすらせず,添付文書上は1日の投与量が400mgであるテオドール(徐放性テオフィリン薬)を1日に1錠(100mg)処方したのみであった。 加えて,被告病院の担当医師らは,粉塵の発生しやすい空調設備の近くにEを置いたり,喫煙者の多い部屋で過ごさせたりしていた。 b6月27日の時点における注意義務違反(第2次的主張)Eについては,6月27日午後8時30分に,重症の喘息発作が生じたことにより,Sp0(パルスオキシメーターで測定された酸素 飽和度)が84%にまで低下したことが認められ,また,午後11時15分ころには,顕著な喘鳴が認められている。同日の喘息発作は,幸いにも起座呼吸( ,Sp0(パルスオキシメーターで測定された酸素 飽和度)が84%にまで低下したことが認められ,また,午後11時15分ころには,顕著な喘鳴が認められている。同日の喘息発作は,幸いにも起座呼吸(ベッドアップ)等で治まったが,Eの気管支喘息の重症度は明らかに重症持続型に達していたというべきであるから,被告病院の担当医師らとしては,同日から吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべきであった。 ところが,被告病院の担当医師らは,同月28日からテオドールの処方量を1日に2錠とするとともに,β刺激薬であるメプチンエア ーを追加処方したのみであった。 c6月30日の時点における注意義務違反(第3次的主張)Eについては,6月30日午前10時には,喘息発作が生じたことにより,Sp0が87%にまで低下したことが認められ,午後8時 の時点でも,Sp0は93%にまでしか回復していないことが認め られている。Eの気管支喘息の症状が悪化していることは明らかであるから,被告病院の担当医師らとしては,ピークフロー値の測定等の検査を実施して,的確にEの気管支喘息の重症度を診断した上で,同日から吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべきであった。 ところが,被告病院の担当医師らは,従前どおりの長期治療薬の処方を継続するのみで,Eに対して特段の措置を講じなかった。 (ウ)なお,被告は,被告病院が購入していた吸入ステロイド薬は粉末製剤であるから,スペーサー(吸入補助器)を用いることはできず,見当 識障害の現れていたEには吸入手技の習得は不可能であったと主張するが,Eは,武蔵野赤十字病院から被告病院に転院した時点では,意識レベルは徐々に改善しており,吸入ステロイド薬の吸 とはできず,見当 識障害の現れていたEには吸入手技の習得は不可能であったと主張するが,Eは,武蔵野赤十字病院から被告病院に転院した時点では,意識レベルは徐々に改善しており,吸入ステロイド薬の吸入手技についても,根気強く教えれば,これを覚えることは可能な状態であった。 仮に,Eに対して吸入ステロイド薬の投与が困難だというのであれば,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬を投与すればよかっただけのことである。 (被告の主張)原告らの主張は争う。 アEの気管支喘息の重症度は,明らかに軽症間欠型であって,重症持続型ではなかった。 被告病院の診療録からも明らかなように,Eは,6月22日に喘鳴が確認されてからも,喘鳴がない時間の方が圧倒的に長く,とりわけ日中は何ら問題なく作業療法・理学療法を受けていたのであり,また,主として夜間に喘鳴が生じることもあったが,その多くは軽度であり,体位交換,ベッドアップ,車椅子への乗車等だけで消失ないし軽減する程度のものであった。Sp0も,基本的には90%台後半が維持されており,十分に換 気ができていることが示されている。 したがって,Eの気管支喘息の重症度が重症持続型であったことを前提とする原告らの主張には理由がない。 イなお,上記のとおり,Eの気管支喘息は軽症間欠型に過ぎず,喘鳴があった場合でも,体位変換,ベッドアップ等に加えて,テオドールやメプチンエアーを投与することにより,その症状は消失又は軽減していたのであるから,Eに対して吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用をする必要性は認められない。 のみならず,吸入ステロイド薬の連用に当たっては,適切な吸入方法を よく説明し,指導する必要がある(被告病院が購入していた吸入ステロイド薬は,粉末製剤であり,スペーサーを用 必要性は認められない。 のみならず,吸入ステロイド薬の連用に当たっては,適切な吸入方法を よく説明し,指導する必要がある(被告病院が購入していた吸入ステロイド薬は,粉末製剤であり,スペーサーを用いることができない。)ところ,Eは見当識障害が強く,これらの説明・指導を受けることは容易ではなかったから,Eに対する吸入ステロイド薬の連用は適当でなかったというべきである。 (2)喘息発作時における治療を尽くさなかった過失による不法行為の成否(原告らの主張)ア気管支喘息の重症発作に対しては,対応の遅れが致命的となることから,ボスミン皮下注射,アミノフィリンの持続点滴,経静脈ステロイド薬の投与,吸入β刺激薬の投与,酸素投与等の治療を速やかに行う必要がある。 イEは,7月4日午後10時30分の時点で,喘鳴が顕著となり,苦悶の表情を浮かべ,左側臥位でメプチンエアーを吸入されてもまったく効果を示さないという重症発作を生じていたのであるから,被告病院の担当医師としては,直ちにボスミン皮下注射,アミノフィリンの持続点滴,経静脈ステロイド薬の投与,吸入β刺激薬の投与,酸素投与等の治療を開始す べきであった。 ところが,被告病院においては,同月5日午前零時25分に当直医がコールされるまで,Eに対して何らの治療も施されなかった。Eは,当直医が到着したときには,全身チアノーゼを呈する窒息状態に陥っており,同日午前零時43分ころの採血による血液ガス検査の結果は,明かな低酸素状態を示すものであった。 Eは,7月4日午後10時30分から7月5日午前零時25分までの間に気道炎症や呼吸筋の疲労が亢進したことにより,7月5日午前1時42分,急性呼吸不全のために死亡したのである。 (被告の主張)原告らは,Eが7月4日午後10時30分から同月5日午前零時25分 での間に気道炎症や呼吸筋の疲労が亢進したことにより,7月5日午前1時42分,急性呼吸不全のために死亡したのである。 (被告の主張)原告らは,Eが7月4日午後10時30分から同月5日午前零時25分ま で放置されていたと主張するが,Eについては,同月4日午後10時30分にメプチンエアーが投与されると,その1,2分後には症状が軽減して,S p0が98%に達しており,また,同日午後11時30分にも,Sp0が93%から95%と測定されているのであって,当直医を緊急にコールする必要は認められなかった。 したがって,原告らの主張には理由がない。 (3)損害(原告らの主張)アEに生じた損害(ア)逸失利益412万8768円Eは,死亡当時,老齢基礎年金として47万3298円の支給を受けていたから,これを基礎収入とし,生活費控除率を30%,平均余命を20年(ライプニッツ係数12.462)として逸失利益を計算すると,412万8768円となる。 (イ)死亡慰謝料2400万0000円Eは,くも膜下出血からの回復の過程で,原疾患とは全く無関係の気管支喘息によって死亡に至らされたものであり,その精神的苦痛に対する慰謝料は,2400万円が相当である。 (ウ)相続原告らは,上記(ア)及び(イ)の合計2812万8768円について,原告Aが2分の1(1406万4384円),原告B,原告C及び原告Dが各7分の1(各401万8395円)の割合で,それぞれ相続した。 イ原告らに生じた損害(ア)原告ら共通に生じた損害a葬儀費用200万0000円原告らは,Eの葬儀費用として,200万円を支出した。 b証拠保全費用8万1419円原告らは,本件訴訟の準備のための証拠保全費用として,8万1419円を支出した。 c弁護士費用400万0 告らは,Eの葬儀費用として,200万円を支出した。 b証拠保全費用8万1419円原告らは,本件訴訟の準備のための証拠保全費用として,8万1419円を支出した。 c弁護士費用400万0000円原告らは,本件訴訟の追行を原告ら代理人に依頼したが,弁護士費用のうち400万円は,被告病院の担当医師らの過失と相当因果関係のある損害として,被告が負担すべきものである。 d原告らの請求原告らは,被告に対し,上記aからcまでの合計608万1419円について,原告Aが2分の1(304万0709円),原告B,原告C及び原告Dが各7分の1(各86万8774円)の割合で損害賠償請求権を行使する。 (イ)原告ら固有の慰謝料Eを失った原告らの精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ以下の金額が相当である(請求の減縮の申立書において以下の各金額に訂正されたものと解する。)。 a原告A224万9997円b原告B,原告C及び原告D各225万0001円ウよって,原告らは,不法行為(使用者責任)に基づき,被告に対し,原告Aについては1935万5090円,原告B,原告C及び原告Dについては各713万7170円並びにこれらに対するEの死亡の日である平成14年7月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告らの主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実のほか,証拠(各認定事実の後に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,Eの診療経過について,以下の事実が認められる。 (1)被告病院入院に至る経緯アEは,2月25日午後11時30分ころ,東京都P町の自宅で倒れたことから,同月26日午後4時30分ころ,ヘリコプターで東京都武蔵野市の武蔵野赤十字病院に搬送された。Eは,武蔵野赤十 院に至る経緯アEは,2月25日午後11時30分ころ,東京都P町の自宅で倒れたことから,同月26日午後4時30分ころ,ヘリコプターで東京都武蔵野市の武蔵野赤十字病院に搬送された。Eは,武蔵野赤十字病院において,くも膜下出血と診断され,直ちに前交通動脈瘤に対するクリッピング手術を受けた。3月6日,左椎骨動脈の閉塞が認められたが,同月28日,再度開通が認められた。その後,水頭症が認められ,4月17日,V-Pシャント(脳室腹腔シャント)術が施行された(乙A1の1・22頁,乙A1の3・1頁)。 イ4月25日,Eに対し,作業療法訓練が開始されたが,意識レベルはJCSⅠ-3~Ⅱ-10で見当識障害が強く,指示が入りにくい状態であった。6月5日の時点でも,繰り返しの指示が必要であり,つじつまの合わないことが多く,食事はセッティングにて自立可能であったが,移動は車椅子での介助が必要であり,更衣,排泄及び移乗も介助が必要であった(乙A1の1・32頁,乙A1の3・1頁)。 ウ6月7日,Eは,リハビリテーションの継続のために,武蔵野赤十字病院から被告病院へ転院した。 (2)被告病院における診療経過ア6月7日,Eは,被告病院リハビリテーションセンターに入院した(乙A1の1・1,2頁)。 入院時,Eは,意識障害があり,住所を尋ねる質問に答えることができず,自発語はあってもつじつまの合わないことが多く,コミュニケーションは困難な状態であった(乙A1の1・12,19頁)。看護師の声かけ に対しても違う内容の話をしたり,意味不明の言動をすることがあり,看護師が血圧測定のために仰臥位になるよう促しても,なかなか指示が入らなかった(乙A1の3・8頁)。 身体状況も,ベッドでの起きあがりや更衣,排泄等は介助を要し,立位保持,平行棒内歩行は不可能な状態であった 血圧測定のために仰臥位になるよう促しても,なかなか指示が入らなかった(乙A1の3・8頁)。 身体状況も,ベッドでの起きあがりや更衣,排泄等は介助を要し,立位保持,平行棒内歩行は不可能な状態であった(乙A1の1・12,19頁)。 イ6月10日から同月21日まで6月10日,Eに対し,理学療法によるリハビリテーションが開始されたが,質問に対して正しい返答が返ってこず,内容不明のことをつぶやいていることもあった(乙A1の1・23頁)。また,同日提出された血液検査の結果,CRPは2.48(正常値0.3未満)であり,炎症所見が認められた(乙A1の2・7頁)。 6月12日,Eは,訓練中に眠ってしまうことがあり,質問に対する反応もあいまいであった(乙A1の1・27頁)。 6月13日,Eに対し,作業療法が開始されたが,反応が遅く,質問に的確に返答できないことがあった(乙A1の1・33頁)。 6月19日,Eは,作業療法中,発語はあるものの,訓練とは無関係の意味不明な発語が多く,会話は成り立たなかった(乙A1の1・37頁)。 6月21日,Eは,理学療法中,自分の名前を言えたが,つじつまの合わない会話が著明であった(乙A1の1・27頁)。 ウ6月22日(ア)6月22日午前6時,Eから息をすると左胸が痛いとの訴えがあり,喘鳴が認められた。Sp0は95%であった(乙A1の3・5,10 頁,証人H反訳書1・4頁)。 (イ)同日午後8時,Eに喘鳴があったが,苦痛の訴えはなかった。Sp0は95%であった(乙A1の3・10頁)。 (ウ)同日午後11時,Eに喘息様の喘鳴があったが,呼吸苦の訴えはなかった。Sp0は96~99%であった(乙A1の3・10頁)。 エ6月23日(ア)6月23日午前3時,Eは,軽度の喘鳴があったが,良眠していた(乙A1の 様の喘鳴があったが,呼吸苦の訴えはなかった。Sp0は96~99%であった(乙A1の3・10頁)。 エ6月23日(ア)6月23日午前3時,Eは,軽度の喘鳴があったが,良眠していた(乙A1の3・10頁)。 (イ)同日午前6時30分,Eは軽度の喘鳴があったが,呼吸苦の訴えはなかった。Sp0は97~98%であった。午前7時,車椅子に乗車 してしばらくしたら,喘鳴は認められなくなった(乙A1の3・10頁)。 (ウ)同日午前9時30分,Eに喘鳴が認められた(乙A1の3・10頁)。 (エ)同日午後4時,Eに軽度の喘鳴が認められた。Sp0は97%で あった(乙A1の3・10頁)。 (オ)同日午後8時,Eは,仰臥位で喘鳴が認められたが,側臥位にて消失した(乙A1の3・11頁)。 オ6月24日(ア)6月24日午前2時55分,Eに強い喘鳴が認められたため,担当看護師がベッドアップをしたところ,5分くらいして喘鳴は落ち着いた。 Sp0は99%であった(乙A1の3・11頁)。 (イ)同日朝,担当医師であったI医師(以下「I医師」という。)は,担当看護師から,Eに胸部が苦しいような感じがあり,夜間喘鳴が聴取された旨の報告を受け,Eを診察したところ,両肺で軽度のパイピング音が聴取された。そこで,I医師が,Eの家族に対し,Eに喘息の既往があるかを尋ねたところ,同家族は,喘息の既往はない旨答えた。I医師は,Eの症状について,誤嚥,気管支炎,気管支喘息等の可能性を考え,気道狭窄の改善を目的に,テオドール(100mg)1日1錠7日 分を処方した(乙A1の1・15頁,乙A1の3・11頁,証人O反訳書2・2ないし4頁,反訳書6・1ないし3頁)。 (ウ)同日午後1時,Eに喘鳴及び左肺雑音が認められたが,顔色はよく,呼吸苦の訴えや呼吸異常は認め 乙A1の1・15頁,乙A1の3・11頁,証人O反訳書2・2ないし4頁,反訳書6・1ないし3頁)。 (ウ)同日午後1時,Eに喘鳴及び左肺雑音が認められたが,顔色はよく,呼吸苦の訴えや呼吸異常は認められなかった(乙A1の3・11頁)。 (エ)同日午後8時,担当看護師は,Eに対し,テオドール1錠の投与を開始した。Eは,軽度の喘鳴が認められたが,呼吸苦の訴えはなかった。 Sp0は98%であった(乙A1の3・11頁)。 カ6月25日6月25日午後5時,Eに喘鳴は認められなかった(乙A1の3・11頁)。 キ6月26日(ア)6月26日午前5時,Eに喘鳴が認められたが,Eは,看護師に対し,「苦しくない」旨を述べた。Sp0は96%であった(乙A1の 3・11頁)。 (イ)同日午前6時30分,Eに軽度の喘鳴及び左肺雑音が認められたが,呼吸苦の訴え及びチアノーゼはなかった。Sp0は97~99%であ った(乙A1の3・11頁)。 (ウ)同日午後8時,Eに軽度の喘鳴が認められたが,側臥位で消失した(乙A1の3・11頁)。 ク6月27日(ア)6月27日午前6時45分,Eに喘鳴が認められたが,苦痛の訴えはなかった(乙A1の3・11頁)。 (イ)同日午前9時30分,Eに強い喘鳴が認められたが,呼吸苦の訴え及びチアノーゼはなかった(乙A1の3・11頁,証人H反訳書1・5,6頁)。 (ウ)同日午後8時30分,Eは,臥床中,ガーガーと音を立てる強い喘 鳴が認められ,Sp0が84%まで低下した。担当看護師が,60度 くらいまでベッドアップをし,深呼吸を促したところ,Sp0は94 %まで回復した(乙A1の3・11頁)。 (エ)同日午後9時30分,Eは,喘鳴が小さくなっており,落ち着いた様子であった。Sp0は95%であった(乙A1の3・11 吸を促したところ,Sp0は94 %まで回復した(乙A1の3・11頁)。 (エ)同日午後9時30分,Eは,喘鳴が小さくなっており,落ち着いた様子であった。Sp0は95%であった(乙A1の3・11頁)。 (オ)同日午後11時,Eは,苦痛様表情がみられ,Sp0が88%ま で低下した。担当看護師が,Eの体位を右側臥位に変換して90度までベッドアップをしたところ,呼吸苦,喘鳴は落ち着き,Sp0は99 %まで回復した(乙A1の3・11頁)。 (カ)同日午後11時15分,Eに再びガーガーと音のする強い喘鳴が認められた。担当看護師がEの体位を仰臥位に変換したところ,数分後,喘鳴は小さくなった。Sp0は99%であった(乙A1の3・11 頁)。 ケ6月28日(ア)6月28日午前3時,Eに喘鳴が認められたが,担当看護師がEの体位を右側臥位に変換したところ,喘鳴は消失した(乙A1の3・11頁)。 (イ)同日午前6時30分,Eは,臥床中,著明な喘鳴が認められ,軽度の呼吸苦の訴えがあった。担当看護師がEを車椅子に乗車させたところ,1,2分くらいして喘鳴は落ち着いた。Sp0は99%であった(乙 A1の3・11頁)。 (ウ)同日午前8時,Eは,朝食後,再び喘鳴がひどくなった(乙A1の3・11頁)。 (エ)同日午前9時30分,Eは,喘鳴が認められ,軽度の呼吸苦の訴えがあった。担当看護師は,ベッドアップを行った。Sp0は96~9 7%であった(乙A1の3・11頁)。 (オ)同日午前,I医師は,担当看護師から,6月27日夜,EにSp0が正常より低下する喘鳴が認められたが,体位変換で状態は安定した 旨の報告を受け,Eを診察したところ,呼吸苦,軽度の努力呼吸,乾性ラッセル音が認められた。I医師は,Eの症状について,気管支喘息を疑った より低下する喘鳴が認められたが,体位変換で状態は安定した 旨の報告を受け,Eを診察したところ,呼吸苦,軽度の努力呼吸,乾性ラッセル音が認められた。I医師は,Eの症状について,気管支喘息を疑ったが,気管支炎等の鑑別のために,血液検査の施行を指示した。血液検査の結果,Eは,白血球数5900(正常値4000~8000),CRP2.93,好酸球0.7(正常値2~4)であった(乙A1の2・6ないし8頁)。I医師は,テオドール(100mg)1錠を追加処方するとともに,発作治療薬としてメプチンエアー(5ml)1日4回までの使用を処方した(乙A1の1・15頁,乙A1の2・24頁,乙A1の3・11頁,乙B3,証人O反訳書2・4ないし8頁,反訳書6・5ないし7頁)。 (カ)同日午前11時,Eは喘鳴が軽減しており,Sp0は93%であ った(乙A1の3・12頁)。 (キ)同日午前11時50分,Eが食堂でトイレットペーパーを食べてしまうことがあり,担当看護師はEの口腔内に入ったトイレットペーパーを指で除去した(乙A1の3・12頁)。 (ク)同日午後1時10分,Eに軽度の喘鳴が認められたが,呼吸苦の訴えはなかった。Sp0は96~99%であった。担当看護師は,Eの 家族から,「小児喘息のようなものはあったようだけど,喘息は知らなかった」旨を聞いた(乙A1の3・12頁)。 (ケ)同日午後8時,Eは,喘鳴及び体動があり,落ち着きがみられなかったため,担当看護師は,Eに対し,テオドール1錠を投与し,メプチンエアーを施行した。Sp0は99%であった(乙A1の3・12頁, 証人H反訳書5・4頁)。 (コ)同日午後9時,Eは,落ち着かず,喘鳴もあったため,担当看護師 は,Eをナースステーションへ移して様子を観察することとした。午後10時20分,Eは,喘 頁, 証人H反訳書5・4頁)。 (コ)同日午後9時,Eは,落ち着かず,喘鳴もあったため,担当看護師 は,Eをナースステーションへ移して様子を観察することとした。午後10時20分,Eは,喘鳴があり,ウトウトしていた。午後11時15分,喘鳴が軽減し,入眠した(乙A1の3・12頁,証人H反訳書6・4ないし6頁,原告D反訳書4・3頁)。 コ6月29日(ア)6月29日夜間,Eは,寝息と喘鳴を交互に発し睡眠していたところ,午前5時15分,喘鳴が認められたため,担当看護師は,Eに対し,メプチンエアーを施行した。Sp0は97%であった(乙A1の3・ 12頁,証人H反訳書6・6,7頁)。 (イ)同日午前7時,Eは,呼吸苦の訴えはなかったが喘鳴が認められた。 Sp0は98%であった(乙A1の3・12頁)。 (ウ)同日午後8時,担当看護師は,Eに対し,テオドール1錠を投与した。Eは,喘鳴が認められたが呼吸苦の訴えはなく,ベッドアップをしていたが,体動が激しく,喘鳴が増強してきた。Sp0は96%であ った。午後9時10分,担当看護師は,Eに対し,メプチンエアーを施行した。午後9時25分,Eは,喘鳴が軽減し,入眠していた。午後11時,いくらか喘鳴が軽減した。Sp0は96%であった(乙A1の 3・12頁,証人H反訳書6・7頁)。 サ6月30日(ア)6月30日午前1時,Eは,喘鳴があったが入眠していた(乙A1の3・12頁)。 (イ)同日午前10時,Eに軽度の喘鳴が認められた。Sp0は87% に低下していた(乙A1の3・12頁)。 (ウ)同日午後8時,Eに喘鳴が認められたが,呼吸苦の訴えはなかった。 Sp0は93%であった。担当看護師はベッドアップを行い,テオド ール1錠を投与した。午後8時30分,Sp0は99%であった(乙 同日午後8時,Eに喘鳴が認められたが,呼吸苦の訴えはなかった。 Sp0は93%であった。担当看護師はベッドアップを行い,テオド ール1錠を投与した。午後8時30分,Sp0は99%であった(乙 A1の3・13頁)。 (エ)同日午後11時,担当看護師がEに対し呼吸苦の有無を尋ねたところ,Eは,「苦しくない。おやすみ。」と答えた(乙A1の3・13頁)。 シ7月1日(ア)7月1日午前6時,Eは,Sp099%であった(乙A1の3・ 13頁)。 (イ)同日午前10時30分,Eに軽度の喘鳴が認められた。Sp0は 95%であった(乙A1の3・13頁)。 (ウ)同日午後零時50分,Eにごく軽度の喘鳴が認められた。Sp0は99%であった(乙A1の3・13頁)。 (エ)同日午後8時30分,Eは,喘鳴が認められず,Sp096~9 7%であった。午後11時も喘鳴はなかった(乙A1の3・13頁)。 ス7月2日(ア)7月2日午前1時,Eに喘鳴が認められたが,担当看護師がEの体位を右側臥位に変換したところ,喘鳴は軽減した(乙A1の3・13頁)。 (イ)同日午前7時25分,Eは,自覚症状を訴えなかったが,喘鳴が聴取された。担当看護師がEを車椅子に乗車させたところ,しばらくして喘鳴は落ち着いた。Sp0は93~96%であった(乙A1の3・1 3頁)。 (ウ)同日午前10時,Eは,傾眠しており,軽度の喘鳴が認められた。 Sp0は96%であった(乙A1の3・13頁)。 (エ)同日午後8時,Eに軽度の喘鳴が認められた。担当看護師はベッドアップを行った。Sp0は93~94%であった(乙A1の3・13 頁)。 セ7月3日(ア)7月3日午前5時,Eは,良眠していたが,軽度の喘鳴が認められた(乙A1の3・13頁)。 (イ) ップを行った。Sp0は93~94%であった(乙A1の3・13 頁)。 セ7月3日(ア)7月3日午前5時,Eは,良眠していたが,軽度の喘鳴が認められた(乙A1の3・13頁)。 (イ)同日午前7時,Eは,朝方,やや喘鳴が強くなっていたが,以前よりは落ち着いていて軽度であった。Sp0は95%であった(乙A1 の3・13頁)。 (ウ)同日午後6時30分,Eは,喘鳴が認められなかった。午後9時も喘鳴はなかった(乙A1の3・13,14頁)。 (エ)同日午後11時,Eは,軽度の喘鳴が認められたが,苦悶表情はみられなかった(乙A1の3・14頁)。 ソ7月4日(ア)7月4日午前1時,Eは,喘鳴が認められ,担当看護師に対して「苦しい」と訴えた。Sp0は97%であった。担当看護師は,Eに 対し,メプチンエアーを施行した。午前1時10分,EはSp0 %となった(乙A1の3・14頁)。 (イ)同日午前3時,Eは,喘鳴の有無がはっきりしない状態であった(乙A1の3・14頁)。 (ウ)同日午前4時45分,Eに軽度の喘鳴が認められたが,体位変換後,喘鳴は少し軽減した(乙A1の3・14頁)。 (エ)同日午前7時,Eに著明な喘鳴が認められた。Sp0は99%で あった。午前7時30分,担当看護師が,Eを車椅子に乗車させたところ,喘鳴は認められなくなった(乙A1の3・14頁)。 (オ)同日午前9時,Eから呼吸苦の訴えはなく,Sp099%であっ た(乙A1の3・14頁)。 (カ)同日午後8時50分,Eに喘鳴はなく,呼吸苦の訴えもなかった。 Sp0は99%であった(乙A1の3・14頁)。 (キ)同日午後10時30分,Eは,苦悶表情,著明な喘鳴があった。担当看護師は,Eの体位を左側臥位に変換し,メプチンエアーを施行したが, Sp0は99%であった(乙A1の3・14頁)。 (キ)同日午後10時30分,Eは,苦悶表情,著明な喘鳴があった。担当看護師は,Eの体位を左側臥位に変換し,メプチンエアーを施行したが,喘鳴は段々と著明になった。担当看護師は,さらにEの体位を右側臥位に変換し,ベッドアップを行い,様子をみることとした。午後10時40分,Eは,1,2分で喘鳴の軽減が認められたが,看護師がさわると再び喘鳴が強くなる傾向があった。Sp0は98%であった。湿 気があったため,担当看護師は,窓を開けた。午後11時,Eは,喘鳴が治まらず,苦悶様表情となった,担当看護師は体位変換を行った。午後11時30分,Eは,喘鳴が多少軽減し,Sp093~95%であ った。担当看護師は,様子をみることとした(乙A1の3・14頁)。 タ7月5日7月5日午前零時20分,Eと同室の他の患者からナースコールがあり,看護師がEの病室に向かったところ,病室外から喘鳴がはっきり聞こえたため,看護師は他の看護師の応援を求めた。午前零時25分,Eは,著明な喘鳴,努力様呼吸,顔面から全身にかけての発汗,顔色不良,手指末端,爪床のチアノーゼが認められ,Sp0は81~84%に低下していた。 看護師は,当直であったJ医師をコールした。午前零時30分,ベッド移動が行われ,Eは210号室に移された。Sp0は77%に低下した。 午前零時32分,Eは,努力様呼吸から下顎様呼吸の状態であり,Eに対して,マスクで酸素4リットルの投与が開始された。また,血管を確保して,ラクナック,ネオフィリンの点滴での投与が開始され,ソルコーテフ,ビソルボンの静脈注射がされた。しかし,Eの症状は改善せず,呼吸苦は増大した。午前零時40分,Eに全身チアノーゼが認められ,Sp0が 72%に低下したため,Eに対し 投与が開始され,ソルコーテフ,ビソルボンの静脈注射がされた。しかし,Eの症状は改善せず,呼吸苦は増大した。午前零時40分,Eに全身チアノーゼが認められ,Sp0が 72%に低下したため,Eに対して,ボスミンの投与が開始された。午前零時41分,Eに対し,気管内挿管が施行された。気管内から,喀痰が塊となっては吸引されず,水様性の痰のみが吸引された。午前零時42分, Eは,下顎様呼吸で,自発呼吸が10~15回あったが,間もなく心停止となった。Eに対して,心臓マッサージが開始され,酸素投与量を10リットルとした。午前零時46分,心臓マッサージを中止すると,Eは脈拍がなかった。午前1時42分,Eの死亡が確認された(乙A1の1・16頁,乙A1の3・14,15頁)。 医学的知見証拠(甲B1)によれば,平成10年7月,「平成7年度および平成8年度・厚生省長期慢性疾患総合研究事業・アレルギー総合研究:気管支喘息に関する研究班」と「平成9年度・同免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー部門)免疫・アレルギー疾患に対する効果的治療法に関する研究:喘息予防・管理ガイドラインの作成とそれに関する研究班」による「喘息予防・管理ガイドライン1998」(以下「本件ガイドライン」という。)が発表されたことが認められる。本件ガイドラインは,「喘息重症度の分類」,「喘息の長期管理における薬物療法プラン」及び「喘息症状(急性増悪)の管理(治療)」として,以下のとおり定めている。 (1)喘息重症度の分類(甲B1の2・8頁)ア軽症間欠型(ステップ1)週に1回から2回の頻度で喘鳴・咳嗽・呼吸困難が現れるが,その症状は間欠的で短い。夜間の発作頻度は,月に1回から2回である。ピークフロー値は,自己最良値の80%以上であり,その日内変動率は20%以内である。 イ 回の頻度で喘鳴・咳嗽・呼吸困難が現れるが,その症状は間欠的で短い。夜間の発作頻度は,月に1回から2回である。ピークフロー値は,自己最良値の80%以上であり,その日内変動率は20%以内である。 イ軽症持続型(ステップ2)週に2回以上の頻度で喘息発作が現れ(ただし,喘鳴,咳嗽のみの場合は週3回まででも軽症間欠型とする。),月に2回以上の頻度で日常生活や睡眠が妨げられることがある。夜間の発作頻度は,月に2回以上である。 ピークフロー値は,自己最良値の70~80%であり,日内変動率は20 ~30%である。 ウ中等症持続型(ステップ3)慢性的に喘息発作が現れ,ほぼ毎日の吸入β刺激薬(気管支拡張薬) の頓用が必要とされる。週に1回以上の頻度で日常生活や睡眠が妨げられる。夜間の発作頻度は,週に1回以上である。ピークフロー値は,自己最良値の60~70%であり,日内変動率は30%以上である。 エ重症持続型(ステップ4)発作症状が持続し,夜間にも頻繁に喘息発作が現れるため,日常生活が制限される。治療下でも,その症状が増悪することがある。ピークフロー値は,自己最良値の60%未満であり,日内変動率は30%以上である。 (2)喘息の長期管理における薬物療法プラン(甲B1の4・73ないし77頁)ア軽症間欠型喘息症状が発作の現れたときに,徐放性テオフィリン薬,吸入β刺激 薬又は経口β刺激薬を頓用する。血中又は喀痰中の好酸球が増加しEC Pが高値を示す気道炎症が示唆される場合には,抗アレルギー薬又は低用量の吸入ステロイド薬の併用も考慮する。 イ軽症持続型低用量の吸入ステロイド薬,徐放性テオフィリン薬,抗アレルギー薬を単独又は併用で連用する。吸入ステロイド薬を用いず,杭アレルギー薬,徐放性テオフィリン薬でコントロール不十分の場合は,吸 軽症持続型低用量の吸入ステロイド薬,徐放性テオフィリン薬,抗アレルギー薬を単独又は併用で連用する。吸入ステロイド薬を用いず,杭アレルギー薬,徐放性テオフィリン薬でコントロール不十分の場合は,吸入ステロイド薬を追加併用する。 ウ中等症持続型 中用量の吸入ステロイド薬に加えて,徐放性テオフィリン薬,吸入β刺激薬,経口β刺激薬,抗アレルギー薬を連用する。 エ重症持続型 高用量の吸入ステロイド薬に加えて,徐放性テオフィリン薬,吸入β刺激薬,経口β刺激薬,抗アレルギー薬を連用する。症状によっては, 経口ステロイド薬を短期間連用する。 (3)喘息症状(急性増悪)の管理(治療)(甲B1の4・87ないし92頁)ア軽度症状(小発作)症状は,軽度の呼吸困難で苦しいが横になることができる。動作は,やや困難が伴うが日常活動に制限なし。検査値は,ピークフロー予測値の70~80%(気管支拡張薬投与後の測定値,以下同じ。)。 治療は,吸入β 刺激薬,テオフィリン薬を頓用する。 イ中等度症状(中発作)及び軽度症状の持続症状は,苦しくて横になれない呼吸困難。動作は,かなり困難でかろうじて歩ける程度であり,日常生活に制限を伴う。検査値は,ピークフロー予測値の50~70%,Sp090%以上。 治療は,吸入β 刺激薬反復,β 刺激薬(ボスミン)皮下注射,アミノ フィリン点滴,ステロイド薬静注,酸素吸入を行う。 ウ高度症状(大発作)及び中等度症状の持続症状は,苦しくて動けない呼吸困難。動作は,歩行不能,会話困難。検査値は,ピークフロー予測値50%以下,Sp090%以下。 治療は,β 刺激薬(ボスミン)皮下注射,アミノフィリン持続点滴, ステロイド薬静注反復,酸素吸入,吸入β 刺激薬反復を行う。 エ重篤症状・エマ ロー予測値50%以下,Sp090%以下。 治療は,β 刺激薬(ボスミン)皮下注射,アミノフィリン持続点滴, ステロイド薬静注反復,酸素吸入,吸入β 刺激薬反復を行う。 エ重篤症状・エマージェンシー(重篤発作)症状は,チアノーゼ,錯乱,意識障害,呼吸停止等。動作は,会話不能,体動不能。検査値は,ピークフロー値測定不能,Sp090%以下。 治療は,高度症状時の治療を継続するほかと,気管内挿管,人工呼吸器装着が適応となる。 争点(1)(気管支喘息に対する長期管理(喘息発作の予防管理)を尽くさなかった過失による不法行為の成否)について(1)Eの病態について各時点における注意義務の有無を検討するのに先立ち,被告病院入院後のEの病態につき概観する。 ア前記認定のとおり,Eは,2月25日,自宅でくも膜下出血で倒れ,翌26日,武蔵野赤十字病院において前交通動脈瘤に対するクリッピング手術を受けたが,見当識障害,中枢神経系の障害が残った状況で,6月7日,被告病院リハビリテーションセンターに転院となった(前記1(1),(2)ア)。 イ6月10日から,理学療法によるリハビリテーションが開始され,同日提出された血液検査の結果では,CRPの上昇が見られ,炎症所見が認められた(前記1(2)イ)。 ウその後,Eには,6月22日から,度々喘鳴が認められるようになったが,体位変換などで改善する状態が続いていた。同月24日には両肺に軽度のパイピング音が聴取され,同月27日には,強い喘鳴と,Sp0の 84%,88%までの低下が見られたが,これらも,ベッドアップや体位変換と深呼吸などで回復した(前記1(2)ウないしク)。 エその後も,喘鳴が頻回に見られ,その間,6月30日には,Sp0の 87%への低下が認められたが,これも回復していた も,ベッドアップや体位変換と深呼吸などで回復した(前記1(2)ウないしク)。 エその後も,喘鳴が頻回に見られ,その間,6月30日には,Sp0の 87%への低下が認められたが,これも回復していたところ,7月4日午後10時30分,Eに著明な喘鳴が見られ,翌5日午前零時25分には,著明な喘鳴,努力様呼吸等が認められ,Sp0が81~84%に低下し, 午前零時30分には77%に低下して,その後,酸素投与,気管内挿管等が施行されたが,午前1時42分,Eの死亡が確認された。なお,7月5日の気管内挿管後も,痰は塊となっては吸引されず,水溶性の痰が吸引されたのみであった(前記1(2)ケないしタ)。 以上の経緯に照らせば,Eは,くも膜下出血の後遺症として,中枢神経系の障害という素因を有していたところ,その後,被告病院において,気管支喘息による喘鳴,低酸素血症が見られるようになり,7月5日に気管支喘息の重篤発作を起こして,呼吸不全により死亡したと認めるのが相当である(鑑定人L,同M)。 この点に関し,K鑑定人は,原因疾患の特定は難しいが,中枢神経障害を背景とした気道内分泌物の貯留に伴う呼吸不全が死因として考えやすい旨の意見を述べる(鑑定人K)。 そして,K鑑定人指摘のとおり,①Eにはこれまで明らかな喘息の既往が存しないのに,発症から約2週間と短期間で死亡に至っている経過は気管支喘息としては珍しいこと,②Eには中枢神経障害の素因があり,誤嚥,感染,痰の喀出障害などによる気道内分泌物の貯留が生じやすいこと,③6月22日から7月4日までのEの喘鳴,Sp0の低下は,体位変換や車椅子への 移動によって容易に軽減あるいは消失しており,分泌物の移動により症状が変化したと考え易いこと,④6月27日の喘鳴音は,「ガーガー」という痰の絡んだような特異な音と考え 下は,体位変換や車椅子への 移動によって容易に軽減あるいは消失しており,分泌物の移動により症状が変化したと考え易いこと,④6月27日の喘鳴音は,「ガーガー」という痰の絡んだような特異な音と考えられることなど,気管支喘息の病態としては,非典型的な症状が見られることが認められる(鑑定人K)。これらの事実からすれば,単純に気管支喘息だけで,Eの病態の全てを説明することには無理があり,中枢神経障害に起因する誤嚥や気道感染が,その病態に影響を与えていた可能性は十分考えられるところである(鑑定人L,同M)。 しかしながら,気管支喘息は,可逆的な気道収縮を特徴とするところ,症状が悪化と回復を繰り返しており,また,夜間に喘鳴がひどくなることが多かったという経過は気管支喘息の病態と整合しているといえる(甲B24・30頁,鑑定人L)。また,気道内分泌物の貯留等が生じていた可能性や気管支喘息としては全体の経過が短いことについては,くも膜下出血の後遺症として神経障害が背景にあったためであると考えることができ(鑑定人L, 同M),これが気管支喘息の存在を否定する事情とまではいえない。しかも,Eが死亡に至った7月4日から同月5日にかけての発作についていえば,気管内挿管を施行した際に痰が塊となっては吸引されなかったことから(前記1(2)タ),分泌物による気道閉塞が生じていた可能性が高いとはいえない(鑑定人L,同M)。そして,6月24日,Eの両肺には喘息に見られるパイピング音が聴取されていること(前記1(2)オ),現にEを診察したI医師が,レントゲン,心電図,血液検査を踏まえたうえで,気管支喘息が一番考えられると述べていること(証人O反訳書6・17頁)からすれば,Eには,気管支喘息が発症していたと見るべきであり,7月5日の呼吸不全の直接の原因は,気道内分泌 査を踏まえたうえで,気管支喘息が一番考えられると述べていること(証人O反訳書6・17頁)からすれば,Eには,気管支喘息が発症していたと見るべきであり,7月5日の呼吸不全の直接の原因は,気道内分泌物の貯留というよりは,むしろ気管支喘息であったと考えるのが相当である。 以上によれば,Eの死因は,直接には気管支喘息であるが,これに中枢神経障害に起因する誤嚥や気道感染が影響を与えていたと見るのが相当である。 (2)6月24日時点における注意義務違反の有無ア原告らは,被告病院の担当医師には,6月24日の時点で,ピークフロー値の測定等の検査を実施して,的確にEの気管支喘息の重症度を診断した上で,長期管理薬として吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべき注意義務があった旨主張する。 そして,前記1(2)ウないしオに認定した事実によれば,6月22日午前6時,被告病院において初めてEの喘鳴が確認され,以後6月24日まで3日間続けて,Eに,1日に複数回,喘鳴が生じていたことが認められる(なお,原告Dは,Eが6月21日に喉がゼーゼーしており,しゃべりにくそうにしていた旨供述するが(甲A2,原告D反訳書4・2頁),診療録等にその旨の記載がないことから,直ちに採用することはできない。)。 イこの点から,原告らは,Eの気管支喘息の重症度が,6月24日時点で,重症持続型か軽くとも中等症持続型であったと主張する。しかし,本件ガイドラインは,喘息発作として喘鳴のみが週3回ある場合の重症度を軽症間欠型としていること(前記2(1)),EのSp0は90%台後半で保た れており,著明な喘鳴はみられなかったこと(前記1(2)ウないしオ)などからすれば,6月24日の時点におけるEの症状は,これを気管支喘息によるものとした (1)),EのSp0は90%台後半で保た れており,著明な喘鳴はみられなかったこと(前記1(2)ウないしオ)などからすれば,6月24日の時点におけるEの症状は,これを気管支喘息によるものとしたとしても,せいぜい軽症間欠型と評価される程度のものであり,重症持続型又は中等症持続型に至っていたとは認められない。 ウ以上を前提に,ステロイド薬の連用を開始すべき義務の有無について検討する。 (ア)N医師(以下「N医師」という。)は,6月24日の時点で,気管支喘息の確定診断をすることができ,吸入ステロイドの使用を始めると思う旨証言する(証人N反訳書3・6頁,反訳書7・3,4頁)。 (イ)しかし,前記1(2)オ(イ)のとおり,6月24日の時点では,I医師は,Eの症状について,気管支喘息だけでなく,誤嚥,気管支炎等の可能性も考えていたことが認められるところ,前記3(1)に説示のとおり,Eの病態は,気管支喘息に中枢神経障害による誤嚥や気道感染が影響を与えていた,気管支喘息としては非典型的なものであったことが認められる。現に,6月24日までの時点においても,Eにはくも膜下出血の後遺症として意識障害が生じており(前記1(1)ア,イ,(2)ア),誤嚥を生じやすい状態にあったこと,6月10日時点で炎症所見が認められていたこと(前記1(2)イ),喘鳴が体位変換やベッドアップにより容易に消失したこと(前記1(2)エ(オ),オ(ア))などからすれば,6月24日時点でのEの症状が,誤嚥による気管支炎ないし気道狭窄,気道内分泌物の貯留等によるものであった可能性も否定できず(乙B4,鑑定人L,同M,同K),6月24日時点におけるEの症状が,気管支 喘息によるものであったとまでは断定できない状況であったと認められる(鑑定人L,同M,同K)。そうであるとすれば, ず(乙B4,鑑定人L,同M,同K),6月24日時点におけるEの症状が,気管支 喘息によるものであったとまでは断定できない状況であったと認められる(鑑定人L,同M,同K)。そうであるとすれば,同日時点で気管支喘息の確定診断ができたとはいえず,同日からステロイド薬連用による気管支喘息の長期管理を直ちに開始すべきであったともいえない。 また,仮に気管支喘息としての長期管理を考えるとしても,本件ガイドラインによれば,吸入ステロイド薬による長期管理が基本とされるのは軽症持続型以上であり,軽症間欠型の場合は,徐放性テオフィリン薬,吸入β刺激薬又は経口β刺激薬の頓用が推奨され,吸入ステロイド 薬は,あくまで症状により併用を考慮するとされているにすぎない(前記2(2))。そして,前記のとおり,Eは,6月24日の時点で,せいぜい軽症間欠型と評価される程度の症状しかなかったことに照らせば,気管支喘息の長期管理としても,テオドールの処方,投与(前記1(2)オ)で十分であったということができ(鑑定人M),それ以上にステロイド薬を併用すべきであったとは認められない(鑑定人L,同M,同K)。 エしたがって,N医師の前記証言は採用することができず,被告病院の担当医師には,6月24日の時点で,ピークフロー値の測定等の検査を実施して,的確にEの気管支喘息の重症度を診断した上で,長期管理薬として吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべき注意義務があったとは認めることができない。 (3)6月27日時点における注意義務違反の有無ア原告らは,6月27日におけるEの気管支喘息の重症度は重症持続型に達していたというべきであり,被告病院の担当医師には,同日から吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロ 反の有無ア原告らは,6月27日におけるEの気管支喘息の重症度は重症持続型に達していたというべきであり,被告病院の担当医師には,同日から吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべき注意義務があった旨主張する。 イ吸入ステロイド薬の連用について (ア)前記1(2)ウないしクのとおり,Eは,6月25日を除き,6月22日から同月27日まで継続的に喘鳴が生じていたことが認められ,殊に6月27日午後8時30分には,ガーガーと音を立てる強い喘鳴が生じて,Sp0が84%まで低下し(前記1(2)ク(ウ)),同日午後11 時,Sp0が再び88%まで低下し(前記1(2)ク(オ)),同日午後1 1時15分,再びガーガーと音のする強い喘鳴が認められた(前記1(2)ク(カ))。これらを気管支喘息の重症度(前記2(1))に当てはめて評価すれば,Eは,慢性的に喘息発作を生じる状態にあり,6月27日夜間には著明な喘鳴やSp0の著しい低下といった激しい発作も起こ っていることから,6月27日夜間の時点で,Eの重症度は,軽症持続型ないし中等症持続型に至っていたとみることが可能である(甲B25,証人N反訳書3・9頁,証人O反訳書6・6,17頁,鑑定人M)。 そして,軽症持続型以上の場合は,本件ガイドラインにおいて,吸入ステロイド薬による長期管理が推奨されており(前記2(2)),L鑑定人は,Eが6月27日夜間にSp0が80%台に低下したことを担当 医師が認識した時点で,担当医師は吸入ステロイド薬の投与を試みるべきであったとの意見を述べている。 (イ)しかしながら,吸入ステロイド薬の使用については,以下の事実を指摘できる。 aEは,武蔵野赤十字病院において,くも膜下出血,水頭症等を背景として見当識障害等の意識障害 の意見を述べている。 (イ)しかしながら,吸入ステロイド薬の使用については,以下の事実を指摘できる。 aEは,武蔵野赤十字病院において,くも膜下出血,水頭症等を背景として見当識障害等の意識障害を生じ,作業療法訓練の指示が入りにくい状態にあったところ(前記1(1)ア,イ),被告病院に転院した6月7日の時点においても,意識障害があり,医師や看護師の問いかけに対してつじつまの合わない内容を答えるなど,意思疎通を図るのが困難であり,また,起きあがりや排泄等の日常生活動作の多くについても介助を要する状態であった(前記1(2)ア)。また,6月10 日以降のリハビリテーションにおいても,Eから的確な応答が得られず,会話が成立しないことがたびたびあり(前記1(2)イ),6月28日にはトイレットペーパーを食べるといった行動もみられた(前記1(2)ケ(キ))。これらによれば,武蔵野赤十字病院入院中に生じていたEの意識障害は,被告病院入院中においても,明確な回復をせずに遷延していたものと推認することができる。 そして,ステロイド薬の吸入療法が奏功するためには,患者が吸入器を用いての吸入手技を習得する必要があるところ(甲B1の7・3頁,甲B13・64頁),高齢の患者は吸入を上手にできないことが多いと指摘されていること(甲B1の5・119頁,甲B11・1455頁,証人N反訳書3・6頁),前記のとおり,Eは,意識障害が残存しており,日常生活動作の多くについて介助が必要な状態にあったことからすれば,Eが十分な吸入を行うことができたとは考え難い(甲B25,乙B2,3,証人O反訳書2・13頁,反訳書6・16頁,鑑定人M,同K)。 なお,原告らは,被告病院の担当医師らが,Eに対し,吸入ステロイド薬の吸入手技を根気強く教えれば,Eはこれを覚えることが可能であ ,3,証人O反訳書2・13頁,反訳書6・16頁,鑑定人M,同K)。 なお,原告らは,被告病院の担当医師らが,Eに対し,吸入ステロイド薬の吸入手技を根気強く教えれば,Eはこれを覚えることが可能であったと主張する。しかし,前記のとおり,Eは,医師や看護師との意思疎通が成り立たないことがたびたびあったことに照らせば,仮に被告病院の担当医師らがEに吸入手技の指導をしていたとしても,Eがこれを理解し,習得できたと認めることはできない。 bさらに,ステロイド薬の吸入後には,口腔内の真菌感染等の副作用を防止するために,うがいを行う必要があるが(乙B1・2頁),神経障害,意識障害があったEは十分なうがいができなかった可能性があり,誤嚥による感染拡大を招く危険性もあったと認められる(鑑定人M,同K)。 以上によれば,Eについては,吸入ステロイド薬を投与することは難しく,その適応がなかったというべきであり,被告病院の担当医師に,Eに対して,吸入ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったとは認められない。 ウ経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用について(ア)原告らは,Eに対して吸入ステロイド薬の投与が困難だったのであれば,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬を投与すべきであった旨主張する。 この点について,N医師は,ステロイド薬の確実な吸入が期待できない症例については,ステロイド薬の内服又は筋肉注射を行うという選択も合理的であるとの意見を述べる(甲B25)。また,L鑑定人も,吸入ステロイド薬の有効性がないか,吸入ができない状態だったのであれば,点滴又は内服でのステロイド薬投与によるコントロールを開始すべきであったとの意見を述べている。 そして,Eに対して吸入ステロイド薬を投与するのが困難だったことは,前記イ(イ)に判示したとお あれば,点滴又は内服でのステロイド薬投与によるコントロールを開始すべきであったとの意見を述べている。 そして,Eに対して吸入ステロイド薬を投与するのが困難だったことは,前記イ(イ)に判示したとおりである。 (イ)しかし,他方で,Eの病態が,気管支喘息としては非典型的で,中枢神経障害に起因する誤嚥や気道感染が影響を与えていたと認められることは前記3(1)に述べたとおりであるところ,6月27日までにEにみられた症状についても,以下の点を指摘することができる。 aEは,6月27日午後8時30分及び午後11時,Sp0が80 %台まで低下したが,担当看護師がベッドアップや体位変換をしたことにより,Sp0は間もなく94ないし99%まで回復した(前記 1(2)ク(ウ),(オ))。Sp0が80%台まで低下するのは致死的に もなり得る重大な事態であるところ,これが気管支喘息により生じたものであるとすれば,ステロイド薬を投与することなくベッドアップ や体位変換のみにより直ちにSp0が90%台中盤から後半まで回 復するのは非常にまれなことである。むしろ,気道内分泌物による気道狭窄等の他の原因が生じていたと考える方が,Sp0の短時間で の回復を説明しやすい(鑑定人M,同K)。 bまた,Eは,前記1(2)ウないしクのとおり,6月22日以降,喘鳴が出現と消失を繰り返していたが,ベッドアップ,体位変換,車椅子への乗車により喘鳴が消失するという経過が頻回にみられた。特に,6月24日午前2時55分(前記1(2)オ(ア)),6月27日午後8時30分(前記1(2)ク(ウ)),同日午後11時(前記1(2)ク(オ))及び同日午後11時15分(前回1(2)ク(カ))には,ガーガーと音を立てるような強い喘鳴や苦悶様表情ないしSp0の著しい低下を 伴う激し (2)ク(ウ)),同日午後11時(前記1(2)ク(オ))及び同日午後11時15分(前回1(2)ク(カ))には,ガーガーと音を立てるような強い喘鳴や苦悶様表情ないしSp0の著しい低下を 伴う激しい発作が生じたが,いずれもベッドアップや側臥位への体位変換等により喘鳴,発作が消失又は軽減したことが認められる。この点も,意識障害,神経障害を背景として,分泌物等の貯留により気道狭窄が生じていたのが,ベッドアップや体位変換に伴って,分泌物が移動したか,あるいは気道が開いたことにより,狭窄が改善し,喘鳴が治まったとみる方が自然であり,気管支喘息だけによって強い喘鳴,発作が生じていたとは考え難い(乙B4,鑑定人L,同M,同K)。 cさらに,看護記録(乙A1の3・11頁)の記載では,6月27日午後8時30分及び午後11時15分に認められた強い喘鳴が「ガーガー」という音で表現されている(前記1(2)ク(ウ),(カ))。しかし,通常の喘息では,パイピング音のような高い音が聴取されるのが典型的で,「ガーガー」という音は通常の喘息で聴取されるものではなく,むしろ,分泌物等による気道狭窄を思わせる音である(鑑定人M,同K)。この点からしても,上記各時点で認められた強い喘鳴が気管支喘息のみによるものであったとは考えにくい。 以上指摘した点によれば,6月27日までに認められた顕著な喘鳴やSp0の著しい低下は,分泌物貯留による気道狭窄等,気管支喘息以 外の原因が関与していた可能性が高く,気管支喘息のみの病態としては極めて非典型的であったと認められる。 (ウ)次に,原告らは,6月27日におけるEの気管支喘息の重症度は重症持続型に達していたと主張するので,同日までにみられた症状が気管支喘息によるものであるとして,その重症度を検討する。 前記イ(ア)のとおり に,原告らは,6月27日におけるEの気管支喘息の重症度は重症持続型に達していたと主張するので,同日までにみられた症状が気管支喘息によるものであるとして,その重症度を検討する。 前記イ(ア)のとおり,Eは,慢性的に喘息発作を生じる状態にあり,6月27日夜間には著明な喘鳴やSp0の著しい低下といった激しい 発作も起こっていることからすれば,6月27日夜間の時点で,Eの重症度は,軽症持続型ないし中等症持続型に至っていたとみることはできる(甲B25,証人N反訳書3・9頁,証人O反訳書6・6,17頁,鑑定人M)。しかし,他方で,前記(イ)a及びbで言及したとおり,強い発作が生じても,ベッドアップや体位変換により,容易にSp0が 回復し,あるいは喘鳴が消失又は軽減したことからすれば,「発作症状が持続し…治療下でも,その症状が増悪する」(前記2(1)エ)状態にあったとまではいえず,重症持続型に達していたとは認められない。 以上を前提に,ステロイド薬の連用による長期管理について検討するに,本件ガイドラインによれば,軽症持続型及び中等症持続型では,吸入ステロイド薬の連用が推奨されているにすぎず,経口ステロイド薬の連用が推奨されるのは重症持続型の場合のみである(前記2(2))。 そうであるとすれば,Eに対して吸入ステロイド薬の投与が困難であったことを考慮したとしても,6月27日から,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用を開始するという選択は,本件ガイドラインの基準にそのまま合致するものとはいえない。 (エ)以上のとおり,①6月27日までに認められた症状は,気管支喘息 以外の原因により生じた可能性が高く,気管支喘息のみの病態としては極めて非典型的であったこと,②その症状が気管支喘息によるものであったとしても,重症度は軽症持続型ないし中等症 状は,気管支喘息 以外の原因により生じた可能性が高く,気管支喘息のみの病態としては極めて非典型的であったこと,②その症状が気管支喘息によるものであったとしても,重症度は軽症持続型ないし中等症持続型であり,この場合,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用は本件ガイドラインで推奨されていないことからすれば,被告病院の担当医師に,6月27日の時点で,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったと認めることはできない。 エしたがって,被告病院の担当医師には,6月27日から吸入ステロイド薬又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったとの原告らの主張を採用することはできない。 (4)6月30日時点における注意義務違反の有無ア原告らは,Eが,6月30日午前10時,喘息発作が生じたことによりSp0が87%にまで低下し,午後8時の時点でも,Sp0が93%に までしか回復していないことが認められ,気管支喘息の症状が悪化していることは明らかだったのであるから,被告病院の担当医師には,同日時点で,ピークフロー値の測定等の検査を実施して,的確にEの気管支喘息の重症度を診断した上で,同日から吸入ステロイド薬(又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬)の連用を開始すべき注意義務があったと主張する。 イ吸入ステロイド薬の連用についてEに吸入ステロイド薬を投与することは難しく,その適応がなかったことは,前記(3)イに判示したとおりであり,この点は,6月30日の時点についても同様に解することができる。 よって,6月30日の時点で吸入ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったとは認められない。 ウ経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用について (ア)N医師は 解することができる。 よって,6月30日の時点で吸入ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったとは認められない。 ウ経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用について (ア)N医師は,6月30日,Eが再びSp0が80%台に低下したこ とを受けて,長期管理の治療法を修正する必要があった,また,6月28日の時点から経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬によるステロイド全身投与が開始されているべきであったと証言する(証人N反訳書9・3頁)。 L鑑定人も,6月27日午後8時30分及び午後11時にSp0が 80%台に低下し,さらに6月30日午前10時にもSp0が80% 台に低下したことからすれば,高度喘息発作が起こっていたものとして,6月28日から,重症度に応じてステロイド薬の点滴又は経口投与が開始されるべきであったとの意見を述べている。 そして,前記1認定事実によれば,I医師は,6月28日,担当看護師から,6月27日夜,EにSp0が正常より低下する喘鳴が認めら れたことの報告を受け,テオドール(100mg)1錠を追加処方し,発作治療薬としてメプチンエアー(5ml)1日4回までの使用を処方したこと(前記1(2)ケ(オ)),6月28日午後8時,6月29日午前5時15分及び午後9時10分,Eに対して,メプチンエアーが投与されたこと(前記1(2)ケ(ケ),コ(ア),(ウ)),6月30日午前10時,EのSp0が87%に低下したこと(前記1(2)サ(イ))が認められる。 確かに,以上の経過によれば,Eは,6月28日,テオドールの処方量が200mgに増量され,さらに発作時の対処としてメプチンエアーが6月28日から翌29日の間に合計3回施行されたにもかかわらず,6月30日午前10時に,6月27日午後8時30分及び午後11時の時点と 200mgに増量され,さらに発作時の対処としてメプチンエアーが6月28日から翌29日の間に合計3回施行されたにもかかわらず,6月30日午前10時に,6月27日午後8時30分及び午後11時の時点と同じく,Sp0が80%台まで低下する中等度の発作が生じた ものであるから,6月30日の時点では,テオドールの増量及びメプチンエアーの施行によっては十分な喘息のコントロールがされていないものとして,長期管理薬の変更が考慮される余地もあったといえる。 (イ)aしかし,前記(3)ウ(イ)aのとおり,Sp0が80%台に低下し たにもかかわらず,これがステロイド薬の投与なしに容易に回復するのは気管支喘息の病態としては非常にまれであるところ,6月30日午前10時に87%まで低下したEのSp0は,やはりステロイド 薬を使用することなく,同日中に90%台まで回復しており,気管支喘息の発作によるものであったのか疑問が残るところである(鑑定人M)。しかも,被告病院の担当医師は,6月30日の時点では,6月27日におけるSp0の低下がステロイド薬を使用しないでも容易 に回復している事実を認識していることからすれば,なおさら分泌物の貯留によるものと考えやすく(鑑定人K),前回と同じように,ステロイド薬を投与しなくても,Sp0が容易に回復するものと考え たとしても不合理とは言えない。 bまた,気管支喘息に対する長期管理薬の変更を考えるにしても,点滴又は内服によるステロイド薬の連用には脳梗塞等の合併症の危険があること(鑑定人K)に照らせば,抗ロイコトリエン薬の併用といった他の長期管理薬を選択することも合理的であるといえる(鑑定人M)。よって,テオドールの増量及びメプチンエアーの施行ではコントロールが不十分であったからといって,直ちに点滴又は内服による 併用といった他の長期管理薬を選択することも合理的であるといえる(鑑定人M)。よって,テオドールの増量及びメプチンエアーの施行ではコントロールが不十分であったからといって,直ちに点滴又は内服によるステロイド薬の連用を開始すべきことにはならない。 c以上のとおり,①6月30日の時点でも,同日におけるSp0低 下等の症状が気管支喘息以外の疾患によるものと考えることもできる状況にあったこと,②長期管理薬の変更を考慮するにしても,副作用の危険を考えれば,直ちに点滴又は内服によるステロイド薬の連用を選択すべきであったとはいえないことからすれば,被告病院の担当医師に,6月30日の時点で,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったと認めることはできない。 エしたがって,被告病院の担当医師には,6月30日から吸入ステロイド薬又は経口ステロイド薬若しくは経静脈ステロイド薬の連用を開始すべき注意義務があったとの原告らの主張を採用することはできない。 争点(2)(喘息発作時における治療を尽くさなかった過失による不法行為の成否)について(1)注意義務違反の有無ア原告らは,Eが,7月4日午後10時30分の時点で,喘鳴が顕著となり,苦悶の表情を浮かべ,左側臥位でメプチンエアーを吸入されてもまったく効果を示さないという重症発作を生じていたのであるから,被告病院の担当医師には,同時点で,直ちにボスミン皮下注射,アミノフィリンの持続点滴,経静脈ステロイド薬の投与,吸入β刺激薬の投与,酸素投与 等の治療を開始すべき注意義務があった旨主張する。 イ前記1認定のとおり,Eは,6月27日午後8時30分及び午後11時,Sp0が80%台に低下する中等度の発作を生じ(前記1(2)ク(ウ), (オ)),I医師は,6月28日, があった旨主張する。 イ前記1認定のとおり,Eは,6月27日午後8時30分及び午後11時,Sp0が80%台に低下する中等度の発作を生じ(前記1(2)ク(ウ), (オ)),I医師は,6月28日,担当看護師から,6月27日夜,EにSp0が正常より低下する喘鳴が認められたことの報告を受け,テオドー ル(100mg)1錠を追加処方し,発作治療薬としてメプチンエアー(5ml)1日4回までの使用を処方し(前記1(2)ケ(オ)),6月28日午後8時,6月29日午前5時15分及び同日午後9時10分,Eに対して,メプチンエアーが施行されたが(前記1(2)ケ(ケ),コ(ア),(ウ)),6月30日午前10時,再びEのSp0が87%に低下し(前 記1(2)サ(イ)),7月4日午前1時,Eに対して,メプチンエアーが施行されたが(前記1(2)ソ(ア)),同日午前7時,著明な喘鳴が認められ(前記1(2)ソ(エ)),同日午後10時30分,苦悶表情を伴う著明な喘鳴があり,担当看護師が,Eの体位を左側臥位に変換し,メプチンエアーを施行したが,喘鳴が段々と著明になり,担当看護師は,Eの体位を右側 臥位に変換して様子をみることにした(前記1(2)ソ(キ))。 以上の経過によれば,6月27日,中等度の発作が生じたEに対し,6月28日,テオドールの増量及びメプチンエアーの施行による喘息管理が開始されたにもかかわらず,6月30日,再びSp0が80%台に低下 する中等度の発作が生じ,また,7月4日午前7時及び午後10時30分に著明な喘鳴を伴う発作が生じ,特に午後10時30分には,メプチンエアーを施行し,体位変換を行っても喘鳴が治まらなかったのであるから,7月4日午後10時30分の時点では,もはや体位変換やテオドールの増量及びメプチンエアーの施行によっては喘息発作をコ は,メプチンエアーを施行し,体位変換を行っても喘鳴が治まらなかったのであるから,7月4日午後10時30分の時点では,もはや体位変換やテオドールの増量及びメプチンエアーの施行によっては喘息発作をコントロールできないことが明らかになっていたといえる。 そして,①午後10時30分時点のSp0の記録はないものの,Eに 著明な喘鳴又は苦痛様表情が見られていた6月27日午後8時30分及び午後11時の発作時には,EのSp0が80%台に低下していたことか らすれば,著明な喘鳴及び苦悶様表情がみられた7月4日午後10時30分の時点でもSp0が有意に低下していたと推認されること,②メプチ ンエアーを施行しても喘鳴が段々と著明になったことからすれば,中等度の発作が生じていたと評価することも可能であること(鑑定人M),③本件ガイドライン上,軽症症状(小発作)に対する処置(吸入β 刺激薬, テオフィリン薬を頓用)を行っても症状が改善しない場合は中等度症状の処置(吸入β 刺激薬反復,β 刺激薬(ボスミン)皮下注射,アミノフィ リン点滴,ステロイド薬静注,酸素吸入)にステップアップするものとされていること(甲B1の4・87頁)からすれば,7月4日午後10時30分の時点では,中等度発作に対する処置に準じ,Eに対し,ステロイド薬の静注を行うべきであったということができる(鑑定人L,同M)。 ウこの点について,K鑑定人は,7月4日午後10時30分の時点でも気管支喘息が第一に疑われる状態ではなかったとの意見を述べている。そし て,確かに,それまでの経過において,体位変換やベッドアップなどにより発作が軽減又は消失するという気管支喘息としては非典型的な所見があったことは,前記判示のとおりである。しかし,7月4日午後10時30分の発作時は,担当看護師が, て,体位変換やベッドアップなどにより発作が軽減又は消失するという気管支喘息としては非典型的な所見があったことは,前記判示のとおりである。しかし,7月4日午後10時30分の発作時は,担当看護師が,Eの体位を左側臥位に変換し,メプチンエアーを施行しても,発作は軽減せず,かえって喘鳴がさらに著明になったのであるから,この時点では,体位変換によって容易に改善する一過性の気道狭窄であるとは考えにくく,加えて,夜間に著明な喘鳴が継続して起こってきたのであるから,そうであれば,気管支喘息による発作を念頭におき,それに対する対処を行う必要があったというべきである。 また,K鑑定人は,仮に気管支喘息による発作であったとしても,7月4日午後8時50分の時点では喘鳴もなく,Sp0も99%であったこ とからすれば,ステロイド薬の静注をすべきであったとまでは言い切れないとの意見も述べている。しかし,前記のとおり,7月4日午後10時30分時点でのSp0の記録はなく,Sp0が80%台に低下した6月2 7日午後8時30分及び午後11時の発作時と対比すれば,10時30分時点ではSp0が有意に低下していたと推認して不自然とは言えないこ とに鑑みれば,午後8時50分の時点で喘鳴がなく,Sp0が99%で あったからといって,午後10時30分時点でステロイド薬の静注をすべき義務の有無が左右されるものではない。 エまた,被告は,Eが,7月4日午後10時30分にメプチンエアーを投与されると,その1,2分後には症状が軽減して,Sp0が98%に達 し,また,同日午後11時30分にも,Sp0が93~95%と測定さ れていることから,午後10時30分の時点で当直医を緊急にコールする必要はなかった旨主張する。 確かに,前記1認定事実によれば,Eは,午後10時40分時 30分にも,Sp0が93~95%と測定さ れていることから,午後10時30分の時点で当直医を緊急にコールする必要はなかった旨主張する。 確かに,前記1認定事実によれば,Eは,午後10時40分時点で,1,2分で喘鳴の軽減がみられ,Sp0は98%であったこと,午後11時 30分時点のSp0は93~95%であったことが認められる(前記1 (2)ソ(キ))。 しかし,事後の経緯から午後10時30分時点での気管支喘息への対処義務が解除されるものではなく,他方で,午後10時40分時点では再び喘鳴が強くなる傾向もあったこと,午後11時には喘鳴が治まらず,再び苦悶様表情となったこと,7月5日午前零時20分には顕著な喘鳴があり,午前零時25分にはSp0が81~84%に低下し,その後,症状は急 激に悪化し,午前1時42分の死亡確認に至ったことに照らすと,Eが,7月4日午後10時40分時点で喘鳴の軽減がみられ,Sp0が98% であったこと,午後11時30分時点のSp0は93~95%であった ことをもって,喘息の症状が落ち着いていたとは認められないのであって,被告の主張は採用できない。 オ以上によれば,被告病院の担当医師には,7月4日午後10時30分時点で,経静脈ステロイド薬の投与を行うべき注意義務に違反した過失が認められる。 (2)因果関係の有無ア死亡原因について因果関係の有無を判断する前提として,Eの死亡原因について検討する。 L鑑定人及びM鑑定人が死亡原因を気管支喘息の重篤発作とするのに対し,K鑑定人は,Eの死亡原因となった疾患としては,気管支喘息よりも,中枢神経障害を背景とした気道内分泌物の貯留に伴う呼吸不全が考えやすいとの意見を述べている。 そして,確かに,Eの臨床経過においては,喘鳴やSp0の著しい低 下が体位変換 ては,気管支喘息よりも,中枢神経障害を背景とした気道内分泌物の貯留に伴う呼吸不全が考えやすいとの意見を述べている。 そして,確かに,Eの臨床経過においては,喘鳴やSp0の著しい低 下が体位変換やベッドアップのみで回復するなど,気管支喘息以外の疾患が併存していた可能性が十分にあることについては,前記3(1)に述べたとおりである。 しかしながら,Eが死亡に至った7月4日から同月5日かけての発作についていえば,気管内挿管を施行した際に痰が塊となっては吸引されなかったことから(前記1(2)タ),分泌物による気道閉塞が生じていた可能性が高いとはいえず(鑑定人L,同M),担当医師であったI医師自身が,死亡原因は気管支喘息の重篤発作による急性呼吸不全であった可能性が最も高いとしていること,K鑑定人も死亡原因を気管支喘息とすることが臨床経過に照らして矛盾するとまでは述べていないことなどを考慮すれば,Eの直接の死亡原因が,気管支喘息の重篤発作による急性呼吸不全であったと推認するのが相当であることも前記3(1)に述べたとおりである。 イ因果関係の有無についてそこで,被告病院の担当医師が,7月4日午後10時30分の時点で,Eに対し,経静脈ステロイド薬の投与を開始していれば,本件死亡結果を回避できたといえるか検討する。 文献によれば,経口ステロイド薬又は経静脈ステロイド薬の明らかな効果発現が得られるまでの時間は,一般的に約4時間程度と考えられていることが認められるが(甲B14・95頁,甲B17・30頁,甲B24・32頁,鑑定人K),2時間以内に効果が発現することが証明されたとする報告もあり(甲B14・96頁),鑑定人らも投与から2時間程度で目に見える形で効果が出てくると思う旨の意見を述べている(鑑定人L,同M,同K)。 しかし,前記1(2)タに することが証明されたとする報告もあり(甲B14・96頁),鑑定人らも投与から2時間程度で目に見える形で効果が出てくると思う旨の意見を述べている(鑑定人L,同M,同K)。 しかし,前記1(2)タに認定したとおり,Eは,7月5日午前零時20分の時点で病室外から認識できるほどの著明な喘鳴が確認されており,午前零時25分,手指末端,爪床のチアノーゼが認められ,Sp0が81 ~84%に低下し,さらに午前零時30分には,Sp0が77%まで低 下し,その後,マスクでの酸素投与,ボスミン投与等が行われたにもかかわらず,間もなく心停止に至り,蘇生措置に反応することなく,午前1時 42分に死亡が確認された。 このように,①Eは,短時間のうちに喘息発作が増悪し,急激な転機をたどったものであること,②7月4日午後10時30分の2時間後(7月5日午前零時30分)にはすでにSp0が70%台という致命的なレベ ルまで低下していたことに加え,③6月27日及び7月4日午後10時30分の2時点において,ステロイド薬を点滴で投与していたと仮定した場合についてさえ,鑑定人らの意見は,救命は難しかったとの意見で一致していること(鑑定人L,同M,同K)に鑑みると,被告病院の担当医師が,7月4日午後10時30分の時点で,Eに対し,経静脈ステロイド薬の投与を開始していれば,本件死亡結果を回避することができたとは認められないものといわざるを得ない。 よって,前記(1)に認定した注意義務違反と本件死亡結果との間に因果関係を認めることはできない。 第4 結論 以上によれば,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官渡邉隆浩 裁 求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官渡邉隆浩 裁判官佐藤哲治は,転官のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官秋吉仁美

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る