令和3(う)16 詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
令和3年5月18日 広島高等裁判所 棄却 山口地方裁判所 宇部支部 令和1(わ)109
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判決文本文7,344 文字)

1令和3年5月18日宣告 広島高等裁判所令和3年(う)第16号 詐欺被告事件原審 山口地方裁判所宇部支部 令和元年(わ)第109号主 文本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中50日を原判決の刑に算入する。 理 由1 本件控訴の趣意は,弁護人浦部真奈作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるからこれを引用する。控訴理由は,事実誤認である。 2 原判決が認定した「罪となるべき事実」の要旨は,被告人が,氏名不詳者らと共謀の上,架空の民事訴訟取下げ費用名目で現金をだまし取ろうと考え,平成30年10月29日頃,「消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ」などと記載したはがきを送付して被害者(以下「A」という。)に閲覧させた上,同日から同月30日までの間,氏名不詳者が電話で,Aに対して提起された民事訴訟の取下げのためには200万円が必要である旨のうそを言ってAにその旨誤信させ,Aをして,東京都新宿区内のアパートの□□□号室(以下「本件居室」という。)C宛てに現金200万円在中の宅配便荷物(以下「本件荷物」という。)を送付させ,同月31日,本件居室付近において,被告人がCに成り済まして本件荷物を受領したというもの(詐欺)である(以下,被告人による本件荷物の受領行為を「本件受取行為」ともいう。)。 3 論旨は,被告人に本件詐欺についての故意及び共謀は認められず,無罪であるのに,これらを認めて被告人を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるという。 そこで,記録を調査して検討する。 4 原判決は,要旨,次のとおり判示し,被告人に本件詐欺の故意及び共謀を認め,原判示の事実を認定した。 2⑴ 証拠によれば,被告人は,①荷物を受け取るだけで金になる仕事とし 検討する。 4 原判決は,要旨,次のとおり判示し,被告人に本件詐欺の故意及び共謀を認め,原判示の事実を認定した。 2⑴ 証拠によれば,被告人は,①荷物を受け取るだけで金になる仕事として本件荷物の受領を行っていること,②本件荷物の受領に際しては,氏名不詳者から,荷物の配達日時及び場所のほか,Cという人物宛てに送付されてくることを知らされた上で,同人に成り済まして受領していること,③受領した本件荷物を付近にいた回収役に手渡していることが認められ,これらの事実は被告人自身も認めている。 これらの事実によると,単に荷物を受領するためだけに複数の者を介在させているのであるから,被告人自身も,本件荷物の受領が組織的に行われていることは容易に把握できたといえる上,報酬支払の約束までしていることからすると,本件荷物の受領が特殊詐欺を含む犯罪行為の一端を担う行為であることは容易に認識し得たものといえる。 これに加え,この当時,被告人が,特殊詐欺の受け子という役割があることを理解していたことも併せ考えると,少なくとも,被告人は,本件荷物の中身が現金である可能性を認識しながら,それを容認して本件荷物を受領したものといえるから,未必的な故意が認められる。 そして,被告人は,本件荷物の受領が組織的に行われることを認識した上で,氏名不詳者からの指示に基づいて同受領行為に加担している以上,共謀の事実についても優に認められる。 ⑵ 以上から犯罪の成立は明らかであるが,更に進んで被告人に確定的な故意が存在したか否かについて検討する。 ア 証人Bは,公判廷において要旨,以下のとおり供述する。 Bは,被告人とともに宮崎県内で稼働していたが,被告人と東京に行くことになった際,被告人から,「東京で仕事がなければ,コインロッ ア 証人Bは,公判廷において要旨,以下のとおり供述する。 Bは,被告人とともに宮崎県内で稼働していたが,被告人と東京に行くことになった際,被告人から,「東京で仕事がなければ,コインロッカーでキャッシュカードを受け取り,ATMで現金を引き出して,コインロッカーに入れる仕事を紹介する。」旨告げられた。その後,被告人から「Dと称する人物から電話がある。」旨告げられ,同人と連絡を取るようになった。平成 330年7月11日に被告人と東京に行き,Dからの指示を受けて特殊詐欺の受け子の仕事をするようになり,同月26日に逮捕され,平成31年2月に懲役3年(5年間執行猶予)の有罪判決を受け,同判決は確定した。 イ Bが有罪判決を受けた事件と被告人は無関係であり,Bが殊更に被告人から受け子の仕事を紹介された旨供述したところで,Bの刑事責任の重さには影響しない。 加えて,Bは既に執行猶予付きの有罪判決が確定しており,偽証罪の危険を冒してまで被告人の関与を供述する必要はない。 さらに,被告人は,実際に特殊詐欺の組織と関わって本件犯行に及んでいることも併せ考えると,被告人が特殊詐欺組織の関係者に対してBを紹介したことは矛盾しない。 以上から,Bの供述には信用性がある。 ⑶ 被告人は,本件荷物の中身が現金であるとは思わなかった,Bに対して特殊詐欺の仕事を紹介したことはないと供述するが,信用できない。 ⑷ 被告人に本件詐欺に関する故意と共謀の事実を認めることができる。 5 以上の原判決の判示について見るに,原判決は,被告人に本件詐欺についての確定的故意が存在したかについて検討するとしながら,その結論を明示していないが,これを認定したものと解される。 ところで,原判決は,4⑴①~③の各事情について,「証拠 被告人に本件詐欺についての確定的故意が存在したかについて検討するとしながら,その結論を明示していないが,これを認定したものと解される。 ところで,原判決は,4⑴①~③の各事情について,「証拠によって認められ,被告人も認めている」旨を説示しているが,記録上,上記②の事情は客観的事実関係から推認し得るとしても,上記①③の各事情の証拠となり得るのは被告人供述のみである。そして,原判決は,4⑶において,被告人の原審供述のうち,本件荷物の中身についての認識やBに対する特殊詐欺の仕事の紹介に関する部分についての信用性を否定し,また,被告人が従前から特殊詐欺組織と一定の関わりを有している趣旨を述べるB供述を信用できるとしながら,なぜ,上記①③についての被告人の原審供述についてはそのまま信用できるのかについて的確な 4説明をしていない。 そして,後に見るように,被告人の供述は上記②に係る部分はともかく全体として信用できないから,上記①③の事情については,本件証拠上,認定できない。 この点で,原判決の証拠評価には誤りがある。 もっとも,結論において被告人に本件詐欺の故意及び共謀を認定した原判決に誤りはなく,当裁判所としても,正当として是認することができる。 以下,この点について補足して説明する。 ⑴ 証拠によれば,被告人は,AがC宛てに送付した本件荷物を,その宛先である本件居室のある場所まで出向いた上,同所でCに成り済まして受け取ったことが認められる。 また,本件当時,本件居室に居住者はおらず,玄関は施錠されていたことなどから,被告人が本件荷物を受け取った場所は,本件居室内でなく,その玄関前であったものと推認される。 そして,本件は,複数名が役割を分担して実行された組織的犯行であるから,被告人は,他者からの依頼を受けて本件受取 本件荷物を受け取った場所は,本件居室内でなく,その玄関前であったものと推認される。 そして,本件は,複数名が役割を分担して実行された組織的犯行であるから,被告人は,他者からの依頼を受けて本件受取行為に及んだものと推認される。 そうすると,被告人がその他者から受けた依頼の内容は,他人のアパート居室のある場所にわざわざ出向き,その居室の外で配達業者が来るまで待機し,その居室玄関前でその他人に成り済まして本件荷物を受け取るという不自然なものであり,このような内容の依頼を受けた時点で,被告人は,その依頼者が本件居室の居住者ではないにもかかわらず,その居住者とされている者に宛てて送付される荷物をその者に成り済まして受け取るよう被告人に依頼していることを認識していたものと合理的に推認することができる。このことから,被告人は,上記依頼者が本件荷物の真の受取人を偽装しようとしており,被告人の本件荷物を受け取る行為が特殊詐欺を含む犯罪行為の一端を担うものであると認識していたことも容易に推認できる。なお,被告人が本件受取行為に及ぶに当たり,第三者からの依頼を受けず,自ら被害者に対し本件居室宛てに 5本件荷物を送付するよう指示した可能性も考えられなくはないが,この場合は,被告人は,当然,自己が受け取る荷物が詐欺に基づいて送付されたものであることを認識していたものといえる。 ⑵ Bは,原審において,以下のとおり供述する。Bは,平成30年6月頃,被告人から,「コインロッカーからキャッシュカードを取り出し,これを用いて現金自動預払機で現金を引き出してコインロッカーに入れる仕事をすれば,ある程度まとまった金を上げますよ。」などと言われて引き受けたところ,Dという指示役の人物から電話が掛かってきて,同人らから指示を受け,同年7月,銀行員を名乗っ コインロッカーに入れる仕事をすれば,ある程度まとまった金を上げますよ。」などと言われて引き受けたところ,Dという指示役の人物から電話が掛かってきて,同人らから指示を受け,同年7月,銀行員を名乗って他人の家に行ってキャッシュカードを受け取り,現金を引き出してコインロッカーに入れるという犯行を七,八件はやった。仕事の内容が被告人の話と違い,キャッシュカードの受取りも含まれていたことから被告人に抗議したところ,被告人は余り驚いた様子もなく「やるしかないっしょ。」「余り言うと面倒なことになるっすよ。」「(被告人も)似たようなことをやってますよ。」「(報酬は)ある程度したら上げますよ。」などと言っていた。 別の人物から「大元は被告人のところと一緒なのでやってください。」などと依頼され,部下に成り済まして現金を受け取りに行き,失敗に終わった。 上記供述は,Bが,被告人とともに宮崎県から上京してから2週間余りで特殊詐欺への関与で検挙されるに至った経緯を合理的に説明する自然な内容といえる。加えて,その供述態度を見ても,Bは,実際に検挙,訴追された詐欺未遂の事案だけでなく,余罪である七,八件の詐欺既遂事案についても自供し,かつ,各犯行の際,それらが詐欺であることを十分に理解した上で,金欲しさに自分の意思で関与してきたことを素直に認める真摯なものである。さらに,被告人と自分との間に上下関係がなかったことや,自分が関与した全ての犯行の指示役は被告人以外の者であったことなどについても供述しており,虚偽を述べて被告人の刑事責任を誇張している様子は見られない。 以上によれば,Bの原審供述には,十分な信用性が認められる。 6そして,Bの上記供述によれば,被告人が,本件の数か月前である平成30年6月頃には,既に特殊詐欺組織と関係を持ち,現金引き出し役を勧 よれば,Bの原審供述には,十分な信用性が認められる。 6そして,Bの上記供述によれば,被告人が,本件の数か月前である平成30年6月頃には,既に特殊詐欺組織と関係を持ち,現金引き出し役を勧誘するなどしてその活動に協力していた状況が認められる。 ⑶ 上記⑴で見たとおりの本件依頼内容の不自然さに加えて,⑵で見た被告人と特殊詐欺組織との従前からの関係をも併せ考慮すれば,被告人は,本件受取行為についての依頼を受けた時点で,自己が受け取る荷物が特殊詐欺を含む詐欺行為に基づいて送付されたものである事実を十分に認識し,そのような認識の下に本件受取行為に及んだものと推認される。 以上から,被告人が,本件受取行為時,本件詐欺についての確定的故意を有し,氏名不詳者らとの共謀の上で本件受取行為に及んだ事実を認定することができる。 ⑷ よって,被告人に本件詐欺についての確定的故意及び共謀を認定した原判決の結論に誤りはない。 6 以下,所論について検討する。 ⑴ 所論は,「本件荷物の中身が現金であるとは思わなかった。」「Bに対して特殊詐欺の仕事を紹介したことはない。」との被告人の原審供述の信用性を否定した原判決の証拠評価を論難する。 そこで検討するに,被告人は,原審において,「a町で知人と飲んでいたところ先輩に偶然会い,その際に紹介された初対面の人物から携帯電話機を渡され,『1回だけ荷物を受け取る仕事を手伝ってくれないか。』などと言われ,その後上記携帯電話機で説明を受け,報酬目的で本件受取行為に及んだ。本件荷物の中身が何らかの犯罪に関係するものであるとは認識していたが,それが現金であるとも詐欺に関係するものであるとも認識していなかった。」などと供述する。 しかしながら,被告人の供述内容は,上記先輩の名前も明らかにしない曖昧 るものであるとは認識していたが,それが現金であるとも詐欺に関係するものであるとも認識していなかった。」などと供述する。 しかしながら,被告人の供述内容は,上記先輩の名前も明らかにしない曖昧なものであり,報酬目的で依頼に応じたにもかかわらず,報酬金額も依頼者の 7名前も確認しなかったという不自然なものである。特に,被告人は,本件荷物の中身が犯罪に関係するものであると認識しつつ,それが現金であるとも詐欺に関係するものであるとも考えなかったというが,その理由としては,「現金を受け取れとかカードを受け取れとか具体的な指示がなかったので。」などと供述するのみである。荷物の中身について何の説明も受けていないのに,現金である可能性や詐欺に関係する荷物である可能性の認識がなぜ排除できたのかについての納得できる理由が,被告人の供述には全く示されておらず,不合理といわざるを得ない。この点は原判決の説示するとおりである。そして,上記のとおりの本件依頼内容の不自然さや,被告人と特殊詐欺組織との従前からの関係を考慮すれば,上記の点の不合理さは顕著なものということができ,被告人の原審供述は,4⑴②に係る部分はともかく全体として信用できない。 ⑵ 所論は,被告人には,本件荷物の受領が犯罪行為の一端を担う行為であることは認識できたが,本件荷物の中身が現金であることや,本件荷物の受領が特殊詐欺に関わることについては認識し得なかったと主張し,その根拠として,①被告人は,本件荷物の中身が現金であることや,本件の荷物の受領が特殊詐欺に関わっていることについて,ほとんど情報を与えられていなかった,②被告人が他人に成り済まして荷物を受け取ったのは本件1回きりである,③本件当時,本件のような手法の特殊詐欺はいまだ社会的に周知されていたとはいえない,などと主張 とんど情報を与えられていなかった,②被告人が他人に成り済まして荷物を受け取ったのは本件1回きりである,③本件当時,本件のような手法の特殊詐欺はいまだ社会的に周知されていたとはいえない,などと主張する。 しかしながら,本件荷物の中身が現金であることまでの確定的認識については,必ずしも詐欺の故意や共謀に必須のものではない。また,所論の指摘するような指示役からの情報提供,本件類似の経験や,社会的に本件のような態様の特殊詐欺が周知されている状況があれば,被告人において,依頼を受けた際に,自己が特殊詐欺に関与するものであることをより容易に認識し得たとはいえるが,これらの事情がなければ,本件詐欺の故意や共謀を認定できないわけではない。本件においては,不自然な態様での本件荷物の受取りを求める依頼 8内容や,被告人と特殊詐欺組織との従前からの関係等の事情から,被告人に本件詐欺の故意や共謀が十分に推認できることは既に見たとおりである。 結局,所論の指摘は,上記推認を強める事情が存在しなかったというものにすぎず,上記推認の障害となるものではない。そうすると,所論の主張を,全て真実であると仮定して推認を減殺する事実として考慮してみても,上記推認が左右されるものではないことは明らかである。 ⑶ 所論は,Bが,①自己の刑事責任を軽減するために,自発的にではなく被告人の紹介によって特殊詐欺に関わったとの虚偽を述べるおそれがある,②被告人とBとは,同じ店で働いたことのある一緒に東京に出てきた者同士であり,Bは,自身が特殊詐欺で身柄を拘束された一方で,被告人がしばらく何事もなく生活していたことから,被告人に対し不満を募らせ,被告人を巻き込もうと虚偽を述べるおそれがあるなどとして,Bの原審供述の信用性を争うが,5⑵で見たとおりのBの真摯な供述態度等に がしばらく何事もなく生活していたことから,被告人に対し不満を募らせ,被告人を巻き込もうと虚偽を述べるおそれがあるなどとして,Bの原審供述の信用性を争うが,5⑵で見たとおりのBの真摯な供述態度等に照らし採用できない。 ⑷ 所論の指摘を全て検討しても,被告人に本件詐欺についての確定的故意及び共謀を認定した原判決に誤りはない。所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。 7 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことについて刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 令和3年5月19日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官 伊 名 波 宏 仁 裁判官富 張 真 紀 裁判官廣 瀬 裕 亮

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