昭和22(れ)166 有毒飲食物等取締令違反、過失致死

裁判年月日・裁判所
昭和23年3月13日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 広島高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      本件上告を棄却する。          理    由  被告人の弁護人井上市郎同平尾賢治上告趣意書 第一点は「本件は昭和二十一年八月のことで其頃農村には清酒が払底し都会には多

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判決文本文7,493 文字)

主    文      本件上告を棄却する。          理    由  被告人の弁護人井上市郎同平尾賢治上告趣意書 第一点は「本件は昭和二十一年八月のことで其頃農村には清酒が払底し都会には多 少あつても非常に高価であり酒に親しむ者は窮策としてアルコールに水分を増して 一時の酔を貪ぼつた事が流行し次第に夫れが農村にも流行し此処彼処でアルコール を飲むと云ふことでした、被告は其の頃自分の住む家を親族や同部落の人が新築し て呉れて居つて落成も近か付き新築祝には職人や手伝人を客として清酒を振る舞い たいが其の入手は出来ないで幸ひ今流行のアルコールを増し水して清酒に代用すれ ば客も喜んで呉れるであろうと考へたのでした。以前兵庫県に居る親戚Aがアルコ ールを持参して飲ました時は大変によかつた経験があつたのを思い出し右Aを訪ね てアルコールを探して貰いAに分譲して呉れたことのあるBが飲み料に持つて居つ たものを必要な事情を打明し懇請して譲つて貰い其の晩Aと被告二人は少量ではあ つたが飲んで喜んで岡山県の居村に持ち帰つたのでしたが山間のことで隣人の知る 所となり其の分譲方を懇請され之を拒む訳にも行かず入手の訳を話し少量宛で我慢 して貰い分譲したが何時となしに中毒した者があつたとの評判に驚ろき元売つたB 方に使を出して其の訳をも伝へて残品全部を返却し被告の手許には一滴も残さずに なつたが売つたBは自信あつての事か一升壜三本にあつたもの全部を徐々に飲み尽 しても何等の中毒症状はなかつたと云ふ事案であります。元来日本の裁判官は法理 を究め学識に富み品性も備はり人情に適した立派な人ばかりが任官されて居るので 国民は裁判官を尊敬しよき国民生活の指針を裁判官に期待することが大きいのでし て原審裁判官も亦然りであつたのでした故に斯様な裁判官が右様な本件を裁かるゝ には其の裁判官は - 1 -   されて居るので 国民は裁判官を尊敬しよき国民生活の指針を裁判官に期待することが大きいのでし て原審裁判官も亦然りであつたのでした故に斯様な裁判官が右様な本件を裁かるゝ には其の裁判官は - 1 -  (イ)法の沿革からすれば斯様な犯罪は懲役三ケ月以下又は罰金百円以下であつ た台湾も亦然り朝鮮でも懲役六月以下と云う罰則であつたが国情の為め一時に本法 で大変重くなつたし初めは過失の場合のことは明文なく昭和二十一年六月十八日に なつて過失の場合亦同じとのことが発布施行せられた其の頃は新法令発布せられて も新聞には詳細報導せられず官報が地方官公署に配達せられるのが日附より二三ケ 月も遅れた例も乏しからず法に携る者さえ新法発布を究むるに苦しんだ時であつた こと法律の知不知の法理は別として国民之を知らざりしことの多かりしこと。  (ロ) 斯様な時であつたから此の田舎者被告は恐らく右様な法令は知らなかつ たであろう。  (ハ) 被告は有毒物であろうとは思はなかつたであろう自分や親族二人で飲ん で持ちて帰つたのが何よりの証拠。  (ニ) 新築の祝酒に馳走する考えはうまくなかつたり危険だと思うたら居村に 持ち帰る筈もなし。  (ホ) 評判に驚ろいて売主に残品を返しに行つたのは何処迄も正直者であろう。  (ヘ) 自ら飲んで持つて帰つた以上自ら試験したことにもなり未悉の故意があ るのでもなし結果から見て試験済普通人としての注意義務は之れより以上期待が出 来るかどうか。  (ト) 本有毒飲食物は其の生産者に於て厳重な標示をしなければならぬ規定で もあり其の標示のなかつたことは生産者が中間の人の故意か過失を此被告が責に任 ぜねばならぬ結局被告を人間として観た時気の毒な立場にある。と云うことは裁判 官の心裡に映つたであろうと思ひます之が事の内容を知る普通人の推察する良心で あります処ですから前叙の様な 失を此被告が責に任 ぜねばならぬ結局被告を人間として観た時気の毒な立場にある。と云うことは裁判 官の心裡に映つたであろうと思ひます之が事の内容を知る普通人の推察する良心で あります処ですから前叙の様な裁判官は右(イ)乃至(ト)項記載の様に良心的心 理の動きがあつたと思い又期待するものであります。右様に思いを致しまする時此 裁判官の良心的心理は原判決には表現せられませねばなりませんのに被告を懲役三 - 2 - 年に処せられましたのは有毒飲食物等取締令の罰則に問擬せられたのは適法としま しても裁判官が良心に従ひ独立してその職権を行ひと云う鉄則には違つて居ると思 います法律条文に拘泥されて至公至平人徳高い裁判官の心裡に映つた良心を発露表 現されることを忘れられた原判決になりは致しますまいかと信じて結局法違背の判 決だと申すのであります、又裁判は事実を究明して其のあつたであろうと云う事実 ありのまゝに法を擬せられるのでして本取締令があるから夫れに冒頭記載の事実を 適用さるべきものでないのでしようから原判決が此法令に此処が牴触すると判断さ れた様に思はれますことも裁判法令に違背されて居らるゝ様にも存じます」と云ふ に在つて其の所論明確を欠くけれども右は結局原判決の量刑は不当であると云ふに 帰する、しかし日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十 三条第二項により原判決の量刑を不当とする主張は上告の理由とすることを許され ない、又原判決の判示した事実は其の挙示する証拠を綜合すれば之を説め得るとこ ろであつて且つ右判示事実は方に有毒飲食物等取締令第一条第一項第四条並に刑法 第二百十条に該当し、記録を精査するも原判決が法令に合致させる為、ことさらに 事実を曲げて認定したと為すべきものは存しない。然らば原判決には何等所論の如 き違法はなく論旨は理由がない。 第二点は「原判決 第二百十条に該当し、記録を精査するも原判決が法令に合致させる為、ことさらに 事実を曲げて認定したと為すべきものは存しない。然らば原判決には何等所論の如 き違法はなく論旨は理由がない。 第二点は「原判決は被告が有毒飲食物たるメタノール含有物を飲料に供する為めに 過まつて入手所持分譲したとの事実を認定されましたが其所に其の証拠がありませ ん、被告がアルコールを入手分譲したとの事は充分に判りますけれども夫れが有毒 飲料であつたとのことは疑もあれば又疑いを解くだけの証拠が揃つて居りませんの は  (イ) 買つた側の証人等は被告から買つたアルコールに茶やサイダーを増して 飲んだら中毒した人もあつたと申して居りますが其の中毒したと云う人が飲んだア ルコールは被告が分譲した物であつたとする証拠はありませんのみならず又夫れが - 3 - 有毒物であつたかどうかは少しも明かになつて居りません記録中の鑑定書には検液 中にはメチールアルコールを含有し且つメチール含有量は四六%なりとされました が其の鑑定の当時は無色透明の液体で壜には勝田郡a村bCと書いてあつたものを 鑑定されたとのことですが其の鑑定資料は被告が持つて居つたものでなく証人Dの 証言によりますると二合計り残つて居つたものは被告に返し其の残りを出したと云 うのです有毒物であろうと恐れた人が夫れを元の人に返した証人として返さぬ物を 残したでしようか之を鑑定したら有毒物でしたとしても之れだけで被告が分譲した ものに相違ないと判断されることは大きな疑が生れまするし最初に売つたB証人は 鑑定資料残りとして示された物を見て此の様に濁つては居りませんでした又此様な 臭気もありませんでしたと云つて居り証第一号や同第三号を有毒物であつたとして も被告が売つた物の一部でないことは濁つて居つたのと無色透明のものとの相違が あり鑑定された物がメチールを含ん でした又此様な 臭気もありませんでしたと云つて居り証第一号や同第三号を有毒物であつたとして も被告が売つた物の一部でないことは濁つて居つたのと無色透明のものとの相違が あり鑑定された物がメチールを含んで居つても被告との関係が証明されて居りませ ん又無色透明の物でも時の経過によつて濁つたり臭気が出る物でしたら其の点の証 明がなければなりませんのに之れも証明される何物もありません疑ひますれば本件 は何処迄も疑いが増します仮りに統計して見れば予審調書を根拠とし本件アルコー ルを飲んだと云ふ人は延べ人員にして三十八人で一度飲んだ人中三十三人は何んと もなし五人は多少中毒した、二度飲んだ人は十一人中六人は何んともなし二人は死 され一人は三日間酔い一人は下痢嘔吐した一人は多少中毒したらし、又三度飲んだ 人は三人中一人は眼を患い二人は何ともなし。右様になりまして仮りに全部が被告 の取扱い品としても多くは中毒しなかつたことになり鑑定証人E氏のメチール含有 物の中毒症状とは違いまして結局被告取扱いのアルコールが有毒メチールを含有し て居つたか否かは判然せぬのみならず証人Bの証言では人が死んだとのことだから と話されて返された一升壜三本のものを自家用に飲み尽したが何んともなかつたと の趣旨の証言があるに於いておやと存じます。之を要しますに原判決は被告が取扱 - 4 - つたアルコール其の物が有毒メタノールを含有して居つたとの確証のないのに漫然 と一部の証言、鑑定証拠品が有罪の証拠だとして有罪判決を与へられました事は疑 はしきを罰せぬとの法則又証拠法則に違背した欠点ある判決でしようと存じます」 といふに在る。仍つて按ずるに、原判決摘録の各証人に対する予審訊問調書中の供 述記載によれば之等証人の多くは何れも被告人から譲受けたアルコールを飲用し夫 々軽重の差こそあれ中毒症状を呈した事実を認めるに十分 ふに在る。仍つて按ずるに、原判決摘録の各証人に対する予審訊問調書中の供 述記載によれば之等証人の多くは何れも被告人から譲受けたアルコールを飲用し夫 々軽重の差こそあれ中毒症状を呈した事実を認めるに十分であるし又原判決は証拠 として証人Dに対する予審訊問調書中から同証人は被告人から買受けたアルコール を飲み其の残り約五勺を警察に提出した旨の供述記載のみを摘録して居り而て警察 が押収したアルコール液(証第一号)は警察の領置目録には被告人から差出したと なつているが之を本件記録に存する同証人に対する予審訊問調書に照らすと同証人 が警察に提出したアルコールといふのは本件押収に係る証第一号であること合理的 な疑を容れる余地がない、又之を提出した警察といふのは本件の捜査に当つた勝間 田警察署を指すものであることも亦一件記録に徴し明である、而して又原判決には 証拠として「地方技官F作成の鑑定書中昭和二十一年八月十三日勝間田署長から鑑 定依頼を受けた液体(木栓にて密封しある化粧壜入約二十立方糎)は試験の結果四 六%のメチールアルコールを含有するものと認める旨の記載」と摘録されて居り、 本件記録に存する右F作成の鑑定書に徴するときは、右鑑定の資料に供したアルコ ールは勝間田警察署長から岡山県警察部長を介し鑑定人Fに交付された押収に係る 化粧壜入(木栓にて密封してある)の約二十立方糎の液体であることが明かである、 そして本件では押収品は右証第一号だけで他には存しないから、原判決の此の点に 関する証拠説示の仕方には至らない所が多々あるけれども、原判決が証人Dに対す る予審訊問調書中より摘録した部分並に右F作成の鑑定書中から摘録した部分だけ によつても之を綜合すればDが被告人から買受けたアルコールの残りを所轄警察署 に提出し其の警察署から此のアルコールの交付を受けた右鑑定人が之を試験したと - 5 に右F作成の鑑定書中から摘録した部分だけ によつても之を綜合すればDが被告人から買受けたアルコールの残りを所轄警察署 に提出し其の警察署から此のアルコールの交付を受けた右鑑定人が之を試験したと - 5 - ころ其のアルコールには四六%のメタノールを含有して居たといふ事実を認めるに 足りる果してそうだとすれば原判決には所論のように、証拠に基かないで被告人が 取扱つたアルコール中にはメタノールを含有して居るといふ事実を認定したといふ 違法は存しないので論旨は理由がない。  第三点は「罰則は故意を重く過失は軽く罰せらるゝと云う立法理由であり俗に過 ちは改むることを憚るなとさへ云はれ人は多く過ちを宥恕する位で罰則も亦普通人 には注意を惹起せしむるを目的とし大なる結果には稍々重く罰することはあれども 其の場合は特則されて居り結果よりかも人の注意義務喚起することを目的とする為 め故意犯よりか其の科刑甚だしく軽いのを普通とされて居ります、従つて本件に適 用された有毒飲食物等取締令にしても其の立法趣旨は同じく故意ある場合は故意な い過失の時とは重く過失の時は軽くとの立法理由でありまして自然三年以上の懲役 の場合又二千円以上の罰金の場合も懲役と罰金を併科されることはありますとして も同項に過失の場合も、亦同じく罰するとの其の量定は原審の自由裁量に任かされ た如く観えましても根本法令発布よりか約半歳に近い間は過失の場合罰するにも値 せぬ位でしたのが時代の潮流は過失の場合も罰せねば秩序維持上不安ありとの観点 から同じ年の六月十八日(本件は八月一日のこと)から発布即日より施行されたと は云え其の立法理由とする処は故意を重く過失を軽くとの趣旨に変りなく有毒飲食 物等取締令第四条の罰則も亦同じく解釈して適用されるのが正しい解釈と信じます 裁判実務には文理解釈は精神解釈に一歩を譲るべきだと信ずるものです 由とする処は故意を重く過失を軽くとの趣旨に変りなく有毒飲食 物等取締令第四条の罰則も亦同じく解釈して適用されるのが正しい解釈と信じます 裁判実務には文理解釈は精神解釈に一歩を譲るべきだと信ずるものです本件は事過 失ありとした処で自ら身を以て飲んで居る以前飲んだことのある試験済のものを持 つて居つた人を訪ねて以前の様なものを探して貰い漸く買ひ求め得たし隣人の渇望 拒むに忍びず分譲したのであり怪しと気付き驚ろき元通り返却し一滴も残さざりし に返された元の売主は一升壜三本もの物を徐々飲み尽したのに中毒しなかつたとな つて居るのには罰金刑に相当すると判断さるべきは其の沿革と法理の示す処で解釈 - 6 - すべきを其のことのなかつたのは文理解釈に急にして過失の場合亦同じとの精神解 釈を誤まられた結局法令違背の判決だつたと信じますものです」といふに在る。  然し乍ら、有毒飲食物等取締令第四条後段に「過失により違反したる者亦同じ」 と規定したのは、過失に基く場合も亦故意に基く場合と同一の法定刑を以つて処断 するとの意であつて、其の法定刑の中懲役刑を以つて処断するか罰金刑を以つて処 断するかは原審裁判所の自由裁量に委かされたところである、所論は畢竟原判決の 量刑を不当であると主張するもので其の採用し得ないことは第一点に付説明した通 りであるから論旨は理由がない。 第四点は「普通の人に対して罰則を適用される時は過失と不知とは違はなければな りません不知とは何にも知らぬこと過失とは注意すれば判ることを注意の義務を怠 つた時にとのことですが元来本件有毒飲食物等取締令は第二条に於て製造又は業務 上使用する者は其の容器に混合の文字を明記し貯蔵陳列の場合は鎖鑰を施し保管す るものにして所謂正当ルート以外には一滴たりとも門外不出の出でありますから夫 れ等の品たることの明記もなければ、設備もなかつた物品で する者は其の容器に混合の文字を明記し貯蔵陳列の場合は鎖鑰を施し保管す るものにして所謂正当ルート以外には一滴たりとも門外不出の出でありますから夫 れ等の品たることの明記もなければ、設備もなかつた物品でした以上夫れと察知し なければならぬとする注意義務は無い筈です又被告が之れを求めるのに売主が自分 の飲料なりとて手放すことを惜しみたり現に飲料に供して居つたり又被告は入手し て飲んだりした物を他からの懇請否むに由なく分譲したことゝ単に風評に驚ろき被 告が残品全部を返却し一滴も被告の手許に残さず有毒物らしいとの評判があるから 返却するとの伝言迄して返却したことは全く知らなかつたと云うに止まり何処にも より以上の注意義務が認められませうかより以上の注意義務を普通人に要求するこ とは期待の可能がありません原判決は此処に思いを致されませずして本法第一条第 四条を適用処断されましたことは法違背の原判決だと信じます」と云ふに在る。  然しながら近頃アルコール中メタノールを含有するものがあり之を飲用して生命 身体に不測の危害を被むる者往々に存するといふ事実を知つて居る者が製造元も明 - 7 - かでなく又其の性質も判らないアルコールを他に飲用として販売するに付いては、 信頼するに足る確実な方法によつて其の成分を検査し飲用して差支ないものである ことを確かめ飲用者に不測の身体障害を起させることのないよう注意すべき義務あ ることは論を俟たないところで、原判決が被告人に此の注意義務があると判示し被 告人に対し判示事実に付いて有毒飲食物等取締令第一条第一項第四条を適用したの は相当であつて何等所論のような違法はない、仍つて論旨は理由がない。  以上の理由により、本件上告は理由ないものとして刑事訴訟法第四百四十六条に 則り主文の如く判決する。  本判決は裁判官全員一致の意見に基くものである。  検察官 な違法はない、仍つて論旨は理由がない。  以上の理由により、本件上告は理由ないものとして刑事訴訟法第四百四十六条に 則り主文の如く判決する。  本判決は裁判官全員一致の意見に基くものである。  検察官福尾彌太郎関与   昭和二十三年三月十三日      最高裁判所第二小法廷          裁判長裁判官    霜   山   精   一             裁判官    栗   山       茂             裁判官    小   谷   勝   重             裁判官    藤   田   八   郎 - 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