平成30(ワ)28604 商標移転登録抹消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年11月26日 東京地方裁判所
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判決文本文8,158 文字)

令和元年11月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成30年(ワ)第28604号商標移転登録抹消請求事件口頭弁論終結日令和元年9月24日判決 原 告一般社団法人情報機器リユース・リサイクル協会 上記訴訟代理人弁護士仲江武史同峰岸 泉 同成田周平同枝廣恭子 被告A 上記訴訟代理人弁護士小田島常芳 主文 1 被告は,原告に対し,別紙移転登録目録1「登録商標」記載の商標権について,同目録2「移転登録」記載の移転登録の抹消登録手続をせよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,「IoT機器3R協会」の文字からなる商標(登録番号第59 70463号,以下「本件商標」といい,同商標に係る権利を「本件商標権」と いう。)を原告の理事である被告に譲渡したことは,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団法人法」という。)84条1項2号所定の利益相反取引に該当し,原告の理事会の承認を得ていないから無効である等と主張して,被告に対し,本件商標権に基づき,別紙移転登録目録2「移転登録」記載の移転登録(以下「本件移転登録」という。)の抹消登録手続を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)⑴ 当事者原告は,情報 「本件移転登録」という。)の抹消登録手続を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)⑴ 当事者原告は,情報機器のリユース(再利用)・リサイクル(再資源化)の促進等を目的とする一般社団法人であり,理事会設置法人(一般社団法人法16条)で ある(甲1,2)。 被告は,平成30年3月30日まで,原告の代表権のない理事兼事務局長であった者である(甲1,2)。 ⑵ 本件商標の登録及び本件移転登録に係る経緯ア被告が代表取締役を務める株式会社オン(以下「オン社」という。)は, 平成28年11月25日,本件商標を出願した(甲10の2,乙1,2の1,2の2)。 イオン社は,平成29年7月12日頃,原告に対し,本件商標の商標登録出願により生じた権利(以下「本件登録前権利」という。)を譲渡した(乙6,7の1)。 ウ原告は,平成29年8月10日,本件商標につき商標登録を受けた(甲3)。 エ本件商標は,平成29年9月14日,原告から被告に譲渡されたことを原因として,被告への移転登録である本件移転登録がされた。この際,譲渡人を原告,譲受人を被告とする譲渡証書が作成され,譲渡人の名下には原告の代表者印が押捺された(以下,この原告から被告への譲渡を「本件譲渡」と いう。甲4,8)。 オ被告は,本件譲渡を受けるに当たり,原告に対し,本件商標の対価として何らかの給付をした事実はない。また,原告の理事会が,本件譲渡を承認した事実及び本件譲渡につき決議をした事実はない(弁論の全趣旨,争いのない事実)。 3 争点 ⑴ 本件譲渡が原告の理事会の承認又は決議を欠いて無効か否か等(争点1)⑵ 原告が,理事会の承認又は決議の欠 件譲渡につき決議をした事実はない(弁論の全趣旨,争いのない事実)。 3 争点 ⑴ 本件譲渡が原告の理事会の承認又は決議を欠いて無効か否か等(争点1)⑵ 原告が,理事会の承認又は決議の欠缺を理由に本件譲渡の無効を主張することが信義則に反して許されないか否か(争点2)⑶ 本件譲渡について原告の代表理事の指示があったか否か(争点3) 4 争点に対する当事者の主張 ⑴ 争点1(本件譲渡が原告の理事会の承認又は決議を欠いて無効か否か等)について(原告の主張)ア本件商標を原告から被告に譲渡することは,「理事が自己のために一般社団法人と取引しようとするとき」に該当し,一般社団法人法84条1項2号 及び92条1項により,利益相反取引として原告の理事会の承認が必要である。 イまた本件商標は,原告の今後の事業活動にとって極めて有益なものであり,一般社団法人法90条4項1号の「重要な財産」に該当するから,これを譲渡するには理事会の決議を要する。 ウ本件譲渡は原告に無断でされたものであり,また,仮に本件譲渡が成立したとしても,上記のとおり,原告の理事会の承認又は決議を得ていないから無効である。 (被告の主張)ア本件譲渡は,原告の代表理事であったB(以下「B」という。)の指示に 基づいてされたものであり,形式的にみれば原告と被告間の本件商標の移転 であって,オン社と原告間の本件登録前権利の移転とは異なるものの,オン社の株主が被告のみであり,代表取締役も被告であることに鑑みれば,実質的には原告からオン社への本件商標の返還である。すなわち,本件譲渡は,Bの指示によって,本件登録前権利に係る譲渡契約が解除され,原状回復義務の履行としてされたものである。 したがって,本件譲渡は一般 らオン社への本件商標の返還である。すなわち,本件譲渡は,Bの指示によって,本件登録前権利に係る譲渡契約が解除され,原状回復義務の履行としてされたものである。 したがって,本件譲渡は一般社団法人法84条1項2号所定の利益相反取引に該当しない。 イ Bを除く理事は,本件譲渡時に本件商標が原告の財産となっていることすら認識していなかったのであるから,そのような本件商標が「重要な財産」に該当するはずがない。 したがって,本件譲渡は「重要な財産の処分」(一般法人法90条4項1号)に該当しない。 ⑵ 争点2(原告が,理事会の承認又は決議の欠缺を理由に本件譲渡の無効を主張することが信義則に反して許されないか否か)について(被告の主張) 原告が,理事会の承認又は決議を欠くことを理由に本件譲渡の無効を主張することは,以下に述べるとおり,信義則に反して許されない。 ア本件商標は,被告が独自に発案して出願したものであり,原告が発案・出願に関与したことは全くないし,発案・出願に関する理事会決議がされたこともない。 イ本件商標の登録や移転に関する費用は被告が全額負担しており,原告は,これらの費用を全く負担しておらず,かつ費用負担に係る理事会決議も経ていない。 ウ原告は,本件登録前権利の譲渡を受けたことについても,理事会の承認又は決議を得ていない。 エ被告は,平成29年8月22日にBから本件商標を被告に戻すよう指示を 受け,本件譲渡を行なったが,Bは,理事会の招集権限を有していながら,理事会を招集して承認又は決議を得ることをしなかった。 オ原告がオン社から本件登録前権利の譲渡を受けてから本件譲渡までの期間は約1か月であり,Bを除く原告理事は,本件譲渡の時点において,本件商標を保 会を招集して承認又は決議を得ることをしなかった。 オ原告がオン社から本件登録前権利の譲渡を受けてから本件譲渡までの期間は約1か月であり,Bを除く原告理事は,本件譲渡の時点において,本件商標を保有していることすら認識していなかった。 (原告の主張)原告が,理事会の承認又は決議を欠くことを理由に本件譲渡の無効を主張することは,以下に述べるとおり,信義則に反しない。 ア原告によるIoT対応事業及び名称変更の推進は,本件商標の出願前である平成28年9月頃から理事の間で話題になっていた。 イ本件商標は,もともと原告が出願人となるべき権利であったのであるから,本件登録前権利の譲り受けは利益相反取引(一般社団法人法84条1項2号)に該当しない。 ウ Bは本件譲渡の指示を行っておらず,本件譲渡が行われたことを認識していなかったのであるから,理事会を招集しなかったことに責められるべき点 はない。 ⑶ 争点3(本件譲渡について原告の代表理事の指示があったか否か)について(原告の主張)Bが,被告に対し,本件譲渡を指示したことはない。 (被告の主張) 本件商標は,原告の代表理事の適格をめぐる原告内部での争いが発生していた平成28年10月頃に,当時原告の副代表理事であったBらによる新団体設立構想の検討を進める中で,被告が発案し,オン社を出願人として出願したものである。その後,被告は,平成29年7月13日,原告の代表理事に再任したBの指示に従い,本件登録前権利をオン社から原告へと移転した。ところが, Bは,平成29年5月23日に代表理事に再任したばかりであり,本件商標が 平成28年11月25日付けで出願されていることを他の理事に説明できなかったことから,収まったばかりの原告内部の争いが Bは,平成29年5月23日に代表理事に再任したばかりであり,本件商標が 平成28年11月25日付けで出願されていることを他の理事に説明できなかったことから,収まったばかりの原告内部の争いが再燃することを恐れて,平成29年8月22日の理事会後,被告に対し,本件譲渡を指示した。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件譲渡が原告の理事会の承認又は決議を欠いて無効か否か等)につ いてア一般社団法人法は,理事が自己又は第三者のために一般社団法人と取引をしようとするときは,理事会において,当該取引について重要な事実を開示し,その承認を受けなければならない旨定める(同法84条1項2号,92条)。 本件譲渡は,前記第2の2⑵のとおり,原告の理事であった被告が,原告か ら,原告の財産である本件商標権を無償で譲り受けたものであり,理事が自己のために一般社団法人と取引をした場合に当たるから,一般社団法人法84条1項2号所定の利益相反取引に該当する。 イこれに対し,被告は,オン社の唯一の株主及び代表取締役が被告であることに鑑みれば,本件譲渡は,実質的に本件登録前権利に係る譲渡契約の解除に 伴う原状回復義務の履行として,原告からオン社へ本件商標が返還されたと評価されるべきであり,利益相反取引に該当しない旨主張する。 しかしながら,オン社は被告とは独立した法人格を有する株式会社であるところ,原告はオン社に対して本件商標を譲渡したものではないから,そもそも原状回復の問題ではなく,オン社ではない理事である被告への譲渡が原告 との間で利益相反行為となることは明らかである。被告の上記主張には理由がない。 ウ以上によれば,本件譲渡は,仮にこれが成立していたとしても,一般社団法人法84条1項2号所定の利益相反取引に該当し との間で利益相反行為となることは明らかである。被告の上記主張には理由がない。 ウ以上によれば,本件譲渡は,仮にこれが成立していたとしても,一般社団法人法84条1項2号所定の利益相反取引に該当し,これについて原告の理事会の承認を受けていないから,無効というべきである(最高裁昭和43年1 2月25日大法廷判決・民集22巻13号3511頁参照)。 2 争点2(原告が,理事会の承認又は決議の欠缺を理由に本件譲渡の無効を主張することが信義則に反して許されないか否か)について⑴ 前記前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア被告は,平成18年7月4日に原告が設立された当初より,専務理事兼事 務局長として原告の事業に従事し,原告の業務の遂行等に大きな役割を果たしていた。 平成28年11月頃,原告の代表理事はC(以下「C」という。)であったところ,被告は,情報機器のリユース・リサイクルの促進等の事業を行う新たな団体を設立することを計画し,これに賛同するBら複数の原告理事 らと共に,新団体の名称を考案したり,経済産業省に提出するための書類を準備したりするなどした(甲13,乙2の1[4ないし9頁],31)。 イ被告は,上記新団体の名称の候補として「IoT機器3R協会」を考案し,平成28年11月25日,自身が代表取締役を務めるオン社を出願人として商標出願をした(甲10の2,乙1,2の1,2の2,31)。 ウ平成29年5月23日,BがCに代わり原告の代表理事に就任した。原告と別に新たな団体を設立する構想が立ち消えになったところ,被告は,オン社の代表者として,同年7月12日頃,原告に対し,本件登録前権利を譲渡した。この際に原告理事会の承認は受けなかった。(乙6,7 告と別に新たな団体を設立する構想が立ち消えになったところ,被告は,オン社の代表者として,同年7月12日頃,原告に対し,本件登録前権利を譲渡した。この際に原告理事会の承認は受けなかった。(乙6,7の1)エ被告は,平成29年7月21日頃,原告内部に向けた「今後の当協会の方 向性と取り組みについて(案)」と題する資料を作成し,Bら原告の理事に配布するなどした(乙29,弁論の全趣旨)。同資料において,被告は,IoT(InternetofThings)について「もはやはやり言葉の領域を超えていると思われ,当協会としても積極的に対応すべき時代になったと考えています。」,「IoT対応機器の普及が拡大している幅広い電子機器機械の3 Rへの新たなビジネス参入のチャンスをもっていると思われます。また, 当協会としてもこの分野への積極対応により,新たな会員様獲得のチャンスが生まれると考えます。」と記載して,原告のIoT対応機器分野への積極的進出を提案すると共に,新しい協会名として「電子機器機械3R協会」及び「IoT対応機器機械3R協会」を提案し,「なお,IoTからみの商標申請が多数発生しているため,抑えとして最もシンプルな名前の『Io T機器3R協会』の名称については申請中。」と記載した(乙29)。 オ Bは,平成29年7月25日に開催された原告の理事会において,原告の今後の課題として,原告の知名度の向上と組織内部の充実の2点を挙げ,前者の具体策としてIoTに関連した分野の取り込み及びこれに伴い協会名を変更すること等を提案し,同議案は可決された。理事会は,同日,上 記2点の課題を検討するために,副代表理事を委員長とする実行委員会を設け,同委員会が検討結果を理事会へ報告することとした。(乙9,10)カ平成29 同議案は可決された。理事会は,同日,上 記2点の課題を検討するために,副代表理事を委員長とする実行委員会を設け,同委員会が検討結果を理事会へ報告することとした。(乙9,10)カ平成29年8月22日,原告の理事会が開催され,そこで,上記オで設けられた実行委員会は,組織内部の充実の観点から早急に対応が必要な事項の一つとして,事務局長と専務理事を兼務する旨の定款の定めを削除す ることや,事務局の給与体系の制定など被告が事務局長を務める事務局の体制の改革が提案された(甲17,乙11,12,35)。 キ被告は,平成29年9月11日,本件商標を原告から被告に譲渡した旨の譲渡証書を作成した(甲4,乙31)。同時点において,被告は,本件譲渡につき原告の理事会の承認を受けていないことを認識していた(被告本人 [38頁])。 ⑵ア被告は,①原告は本件商標の発案・出願に関与していないこと,②本件商標の登録や移転に関する費用を負担していないこと,③本件登録前権利の譲り受けについても理事会の承認又は決議を得ていないこと,④Bを除く原告理事は原告が本件商標を保有していることを認識していなかったこと,⑤本 件譲渡を指示した原告の代表理事であるBが理事会を招集しなかったこと を挙げ,原告が理事会の承認の欠缺を理由として本件譲渡の無効を主張することは信義則に反して許されない旨主張する。 しかしながら,前記⑴エ及びオによれば,原告は,本件譲渡当時,IoT対応機器のリユース・リサイクル事業への進出とこれに伴う名称の変更を計画していた。そして,本件商標はIoTの文字を含み,被告によって原告の 新名称の候補の一つとして提案されたものに類似していた。また,原告が本件登録前権利を有していることは理事らにも認識されていたと認めら た。そして,本件商標はIoTの文字を含み,被告によって原告の 新名称の候補の一つとして提案されたものに類似していた。また,原告が本件登録前権利を有していることは理事らにも認識されていたと認められる。 そうすると,本件商標は,原告の今後の事業展開にとって非常に重要なものとなり得るものであった。そのことは原告の理事も理解し得たのであり,また,そのような重要なものとなり得る本件商標に係る本件登録前権利を 原告が有していたことは認識されていた。本件譲渡はそのような本件商標を無償で被告に譲渡するものであり,原告に大きな不利益をもたらす反面,被告に利益をもたらし得るものであるから,利益相反の程度は高い。 被告の主張する上記①ないし③の事情は,本件商標の登録に至る被告の寄与や本件譲渡前の事情をいうものであるが,被告自身が特段の条件を付 さずにオン社から原告に対して本件登録前権利を譲渡したことも考慮すると,これらはいずれも原告が本件譲渡の無効を主張することが信義則違反となることを基礎付けるものであるとはいえない。被告の主張する上記④の事情は,原告の代表理事であるBが本件商標を保有していることを認識している以上,原告として本件商標を保有していることを認識していたと いえるのであるし,本件商標が客観的に原告にとり非常に重要なものとなり得るものであったことや,それが出願されていることは原告の理事らにも認識されていたことに照らしても,原告が本件譲渡の無効を主張することが信義則違反となることを基礎付けるものであるとはいえない。また,上記⑤について,被告は,平成29年8月22日の理事会終了後にBから本件 商標を被告に戻すように指示された旨主張し,本人尋問においても,これに 沿う供述をするほか,商標を戻すものであるから理事 いて,被告は,平成29年8月22日の理事会終了後にBから本件 商標を被告に戻すように指示された旨主張し,本人尋問においても,これに 沿う供述をするほか,商標を戻すものであるから理事会の承認は必要ない旨Bから言われた旨供述する(被告本人〔23ないし25頁〕)。しかし,前記⑴クのとおり,被告は本件譲渡が理事会の承認を受けていないことにつき悪意であるところ,法人の代表者と取引の相手方が共謀して理事会の承認を受けることなく利益相反取引をした場合,法人は,悪意の当該相手方に 同取引の無効を主張することができるというべきであり,仮に被告が主張,供述する事実が認められたとしても,原告が信義則上本件譲渡の無効を主張することができなくなるとはいえない。 イ以上によれば,原告が本件譲渡の無効を主張することは信義則に反する旨の被告の主張には理由がない。原告は,本件譲渡の無効を被告に主張する ことができる。 第4 結論よって,原告の請求には理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 なお,原告は,本件請求につき仮執行宣言の申立てをしているが,本件請求は商 標権の移転登録の抹消登録手続を求めるものであるから,仮執行宣言を付することができないので,同申立てはこれを却下する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官安岡美香子 裁判官古川善敬 (別紙)移転登録目録 1 登録商標登録番号第5970463号 2 移転登録順位番号甲区2番 登録原因特定承継による本権の移転受付年月日平成29年9 1 登録商標登録番号第5970463号 2 移転登録順位番号甲区2番 登録原因特定承継による本権の移転受付年月日平成29年9月14日受付番号 014690登録権利者 (住所は省略)A

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