- 1 -平成24年9月10日判決言渡平成23年(行ケ)第10356号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年8月27日判決 原告中川特殊鋼株式会社 原告X 原告ら訴訟代理人弁護士小林康恵木村康紀弁理士高橋徳明日比敦士 被告特許庁長官指定代理人目代博茂松本貢斉藤信人 瀬良聡機田村正明 主文 原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 - 2 -第1 原告らの求めた判決特許庁が不服2010-27987号事件について平成23年9月21日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許出願拒絶審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告らは,平成22年1月27日,名称を「鉄粉混合物,鉄粉混合物の使用方法,鉄粉混合物の製造方法」とする発明について特許出願をし(特願2010-15828号,公開公報は特開2011-153353号〔甲9〕),平成22年8月10日付けで特許請求の範囲等の変更の補正(甲10)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした(不服2010-27987号)。 その中で原告らは 号〔甲9〕),平成22年8月10日付けで特許請求の範囲等の変更の補正(甲10)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした(不服2010-27987号)。 その中で原告らは平成22年12月10日付けで特許請求の範囲等の変更の補正(甲16)をしたが,特許庁は,平成23年4月22日付けで上記補正を却下したので,原告らはさらに平成23年6月21日付けで特許請求の範囲の変更の補正(甲11)をしたが,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成23年10月4日原告らに送達された。 (以下において「原告」というときは原告らを指す。) 2 本願発明の要旨【請求項1】(本願発明1)「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉と,酸化鉄と,炭素と,2価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸と,を含有し,前記鉄粉と前記酸化鉄の含有量の合計を100重量%とした場合,前記鉄粉の含有量が25重量%以上95重量%以下であり,前記炭素の含有量が10重量%以上80重量%以下であり, - 3 -前記有機酸の含有量が7.7重量%以上55重量%以下であり,水中への鉄イオン供給用途であることを特徴とする鉄粉混合物。」 3 審決の理由の要点(1) 刊行物1(特開2006-212036号公報,甲1)には,実質的に次の発明(刊行1発明)が記載されていることが認められる。 「FeOやFe3O4などの二価鉄を含有する二価鉄含有物質と,溶出した二価の鉄イオンをキレート化するフルボ酸とフミン酸を含有する腐植含有物質と,を混合して詰め込んだ,透水性を有する袋材を,水中に設置し,生物に二価の鉄イオンを供給する水域環境保全材料。」 と,溶出した二価の鉄イオンをキレート化するフルボ酸とフミン酸を含有する腐植含有物質と,を混合して詰め込んだ,透水性を有する袋材を,水中に設置し,生物に二価の鉄イオンを供給する水域環境保全材料。」(2) 刊行物2(特開2007-268511号公報,甲2)には,実質的に次の発明(刊行2発明)が記載されていることが認められる。 「水中に没する状態にすることにより水中に二価の鉄イオンを発生させ,ヘドロ及び水を浄化するための鉄イオン溶出体であって,粉状鉄と粉状炭を水溶性バインダーと共に混合して固めた多数の小塊を,非水溶性バインダーで固めて所定の形状に成形されている鉄イオン溶出体」(3) 本願発明1と刊行1の発明との一致点と相違点は次のとおりである。 【一致点】「酸化鉄と,2価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸と,を含有し,水中への鉄イオン供給用途である混合物」【相違点1】本願発明1の有機酸は,「還元性を有する」ことが特定されているのに対し,刊行1発明の「フルボ酸とフミン酸」は,「還元性を有する」ことが特定されていない点。 【相違点2】本願発明1は,「酸化鉄」と「有機酸」の他に,「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉」と「炭素」とを含有し,「前記鉄粉と前記酸化鉄の含有量の合計 - 4 -を100重量%とした場合,前記鉄粉の含有量が25重量%以上95重量%以下であり,前記炭素の含有量が10重量%以上80重量%以下であり,前記有機酸の含有量が7.7重量%以上55重量%以下であ」る「鉄粉混合物」であるのに対し,刊行1発明は,かかる事項を特定事項とするものでない点。 (4)① フルボ酸とフミン酸が「還元性を有する」ことについては,刊行物1に記載されていないものの,例えば,特開2000-18998 し,刊行1発明は,かかる事項を特定事項とするものでない点。 (4)① フルボ酸とフミン酸が「還元性を有する」ことについては,刊行物1に記載されていないものの,例えば,特開2000-189983号公報(特に段落【0010】及び【0014】。周知例1)だけでなく,特公昭58-24375号公報(特に2頁左欄13行~右欄16行。周知例2),特開平10-8075号公報(特に段落【0013】。周知例3),特開2006-89450号公報(特に段落【0004】。周知例4)に記載されているように周知の技術事項である。してみれば,刊行1発明の「フルボ酸とフミン酸」が「還元性を有する」ことは,当業者には自明のことといえるから,相違点1は実質的なものではない。また,刊行1発明において,「フルボ酸」と「フミン酸」を「還元性を有する」ものであると特定し,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を導出することは,当業者であれば容易になし得る。 ② 刊行2発明の「鉄イオン溶出体」は,ヘドロ及び水を浄化するためのものであるから,刊行1発明と刊行2発明とは,「水域環境保全」という同一の分野に属するものということができ,さらに,水中に二価の鉄イオンを供給するという課題も共通するから,「酸化鉄」と「有機酸」との「混合物」とみることができる刊行1発明において,刊行2発明の「鉄粉」と「炭素」とを含有する「鉄粉混合物」を付加することは,当業者であれば容易に想到し得ることといえ,このことを具体化するにあたり,複数の成分を混合して水処理剤を製造する際に,各成分の含有割合を検討し,効果的な含有割合とすることは,当業者の常套手段であること(例えば,特開平4-190894号公報の2頁右上欄15行~19行。周知例6)を踏まえれば,例えば,鉄粉を50重量部,酸化鉄を50重量部として鉄粉と な含有割合とすることは,当業者の常套手段であること(例えば,特開平4-190894号公報の2頁右上欄15行~19行。周知例6)を踏まえれば,例えば,鉄粉を50重量部,酸化鉄を50重量部として鉄粉と酸化鉄の合計が100重量部となるようにした上で,炭素も50重量部,有機酸も50重量部と - 5 -して,これらの混合物とすること,さらに,「鉄粉」として普通のものである「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉」を採用することとし,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を導出することは,当業者であれば容易になし得ることと認められる。 ③ 相違点1及び2に係る本願発明1の発明特定事項を採用することにより奏される本願明細書に記載の効果について検討しても,当業者が予測し得ない格別なものは見いだせないし,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項中の各成分の数値範囲の限定に臨界的意義があるともいえない。 したがって,本願発明1は,刊行1発明及び刊行2発明並びに周知例1~6に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 原告主張の審決取消事由 取消事由1(相違点の看過)(1) 本願発明1について本願発明1の含有物は,①鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉,②酸化鉄,③炭素,④2価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸である。 各含有物の具体的な成分及び作用は次のとおりである。 ①の「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉」は,要するに,酸化鉄ではない「金属鉄」(Fe)を意味するものである。「不可避的不純物を含む」という表現を入れたのは,金属鉄に多少の不純物が入っていることを想定して入れた表現にすぎず,特段意味があるものではない。鉄 鉄ではない「金属鉄」(Fe)を意味するものである。「不可避的不純物を含む」という表現を入れたのは,金属鉄に多少の不純物が入っていることを想定して入れた表現にすぎず,特段意味があるものではない。鉄粉を入れるのは,金属鉄から二価の鉄イオン(Fe2+)を溶出させるためである。金属鉄は,刊行1発明の含有物であり産業副産物である製鋼スラグなどに代表される「二価鉄含有物質」とは異なり,有用で高価なものであり,性質も用途も全く異なる物質である。二価の鉄イオンは,藻などの育成に役立つほか,ヘドロをはじめとした水中の汚染物等に含まれる硫化 - 6 -水素及び有機ハロゲン化合物などに反応することでそれらを無害化できるという副次的な作用も期待できるものである(本願明細書〔甲9〕の段落【0031】から【0033】)。 ②の酸化鉄は,本願発明1を効果的に機能させるには,FeO,Fe3O4,Fe2O3またはFeOOHであるのが好ましい(本願明細書の段落【0019】)。酸化鉄を入れることによる機能は,(1)酸化鉄を鉄粉と接触させることで,鉄粉が局部アノード ,酸化鉄が局部カソードとして作用し,金属鉄である鉄粉が酸化されることから,この酸化反応により金属鉄から二価の鉄イオンが溶出することを促進することになること,及び(2)酸化鉄がカソードとして作用している付近ではヘドロを初めとした汚染物等に含まれる硫化水素及び有機ハロゲン化合物等が還元反応により分解されやすくなり,無害化に役立つことである(本願明細書の段落【0010】及び【0011】)。本願発明1におけるカソードとしての作用は,後記の炭素によるものが主であるが,厳密には酸化鉄にもカソード作用があること,及び汚染物等に含まれる硫化水素及び有機ハロゲン化合物等の無害化に役立つという副次的効果もあり,本願発明1の ての作用は,後記の炭素によるものが主であるが,厳密には酸化鉄にもカソード作用があること,及び汚染物等に含まれる硫化水素及び有機ハロゲン化合物等の無害化に役立つという副次的効果もあり,本願発明1の水質環境の改善という目的にも合致することから,金属鉄を使う以上,不可避的に含まれる(生成される)酸化鉄を本願発明1の含有物として挙げたものである。 ③の炭素(C)を入れたのは,鉄粉と炭素とが接触することにより,鉄粉が局部アノード,炭素が局部カソードとして作用し,金属鉄である鉄粉が酸化され,この酸化反応により鉄粉から二価の鉄イオンが溶出することからである(本願明細書の段落【0027】)。金属鉄と炭素とを水中で触れさせると二価の鉄イオンが溶出することは,一般に知られた技術である(刊行物2〔甲2〕の段落【0002】)。 ④の「2価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」とは,具体的には,「L-アスコルビン酸,イソ-アスコルビン酸(エリソルビン酸),没食子酸,タンニンなどのカルボニル基及びヒドロキシル基をもち還元作用を有する酸」のことをいう(本願明細書の段落【0023】)。通常の環境では,金属鉄が - 7 -水中において二価の鉄イオン(Fe2+)として溶出しても,その二価の鉄イオン(Fe2+)は直ちに三価の鉄イオン(Fe3+)となり,さらに沈殿してしまうため,二価の鉄イオンは長期にわたって水中に存在することができないのに対し,「二価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」が含有された状態においては,金属鉄から溶出した二価の鉄イオンは,当該有機酸とキレートを形成し,安定化する。このため,水中に溶出した二価の鉄イオンが沈殿を生じることはなく,金属鉄から「長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようにな 出した二価の鉄イオンは,当該有機酸とキレートを形成し,安定化する。このため,水中に溶出した二価の鉄イオンが沈殿を生じることはなく,金属鉄から「長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようになる。」(本願明細書の段落【0023】)。 このように,本願発明1は,それぞれの含有物が相互に作用し,①金属鉄から,②酸化反応により,③水中という有酸素下において,二価の鉄イオンを溶出させ,溶出した鉄イオンを長期に渡って水中に供給することができる発明である。 (2) 刊行1発明について刊行1発明の含有物は,①FeOやFe3O4などの二価鉄を含有する二価鉄含有物質,及び②二価の鉄イオンをキレート化するフルボ酸とフミン酸を含有する腐植含有物質である。二価鉄含有物質としては,産業副産物である製鋼スラグ,具体的には,石炭溶融灰や転炉スラグが想定されている(刊行物1〔甲1〕の段落【0027】から【0033】)。 刊行1発明は,刊行物1の段落【0033】,【0041】の記載などからすると,二価鉄含有物質中の二価鉄から二価の鉄イオンが溶出するとしていることが分かる。 また,二価鉄(FeO,Fe3O4)から二価の鉄イオンを生成するには,酸素(O)を取り除くことになるが,これは「酸化」ではないことから,刊行1発明は,酸化反応以外の反応により,二価鉄から二価の鉄イオンを溶出させているということが分かる。さらに,段落【0038】の記載からすると,刊行1発明の二価の鉄イオンは,「無酸素下で生成した」ものであることが分かる。したがって,刊行1発明は,①二価鉄含有物質中の二価鉄から,②酸化反応以外の反応により,③無酸素下において,二価の鉄イオンを溶出させることを想定しているものと考えられる。 - 8 -(3) 本願発明1と刊行1発明の二価の鉄イオンの溶 の二価鉄から,②酸化反応以外の反応により,③無酸素下において,二価の鉄イオンを溶出させることを想定しているものと考えられる。 - 8 -(3) 本願発明1と刊行1発明の二価の鉄イオンの溶出源及び作用の対比以上より,①本願発明1は,金属鉄を二価の鉄イオンの溶出源としているのに対し,刊行1発明は,二価鉄含有物質中の二価鉄を二価の鉄イオンの溶出源としていると考えられる。また,②本願発明1は,金属鉄を酸化することにより,二価の鉄イオンを溶出させるのに対し,刊行1発明は,二価鉄を酸化する以外の反応により二価の鉄イオンを溶出させるものである。さらに,③本願発明1は有酸素下で二価の鉄イオンを溶出させるものであるのに対し,刊行1発明は無酸素下で二価の鉄イオンを溶出させるものである。そうすると,本願発明1と刊行1発明は,①二価の鉄イオンの溶出源と②溶出を導く作用とが相違し,さらに③二価の鉄イオンを有酸素下で溶出するのか無酸素下で溶出するのかという点においても異なっており,その技術思想が根本的に異なる発明であるといえる。審決は,本願発明1と刊行1発明の対比にあたって,それぞれの発明において二価の鉄イオンがどの含有物から如何なる作用によりまた如何なる環境下で溶出するかにつき検討せず,相違点を看過している。そして,上記相違点からすれば,刊行1発明から本願発明1が容易に想到できないことは明らかである。 2 取消事由2(相違点の看過)審決は,「刊行1発明における二価鉄含有物質は,本願発明1における酸化鉄に相当するものといえる。」とした。 しかし,本願発明1における酸化鉄は,前記のとおり,FeO,Fe3O4,Fe2O3またはFeOOHが好ましいものである(本願明細書の段落【0019】)。このうち,Fe2O3は,二価鉄を含有しない物質であり, 本願発明1における酸化鉄は,前記のとおり,FeO,Fe3O4,Fe2O3またはFeOOHが好ましいものである(本願明細書の段落【0019】)。このうち,Fe2O3は,二価鉄を含有しない物質であり,本願発明1における酸化鉄は,FeOやFe3O4のような二価鉄を含有する物質でなくてもよい。そうすると,刊行1発明における二価鉄含有物質と本願発明1における酸化鉄は一致せず,相違点とすべきものである。したがって,刊行1発明における二価鉄含有物質が本願発明1における酸化鉄に相当するとした審決は,相違点を看過した誤りがある。 - 9 - 3 取消事由3(相違点の看過)審決は,刊行1発明の含有物である腐植含有物質は「腐植」である「フルボ酸とフミン酸」を含有するものであるとし,「フルボ酸とフミン酸」が「有機酸」であるという理由から,本願発明1における「有機酸」と刊行1発明における「フルボ酸とフミン酸」とが「二価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸」であるという点で共通すると認定した。また,本願発明1が「還元性を有する」と限定している点につき刊行1発明との相違点として認めながら,周知例1ないし周知例4からすれば「フルボ酸とフミン酸」に還元性があることは周知であることから,相違点があったとしても,刊行1発明から本願発明1の発明特定事項を導出することは当業者にとって容易になし得るとした。 しかし,原告は,本願明細書の段落【0023】において,「有機酸」を例示しているが,これは,(a)「フルボ酸,グルタミン酸,エチレンジアミン四酢酸などのカルボキシル基をもつ酸,」と(b)「L-アスコルビン酸,イソ-アスコルビン酸(エリソルビン酸),没食子酸,タンニンなどのカルボニル基及びヒドロキシル基をもち還元作用を有する酸」と,2つのグループに分けて例示してい もつ酸,」と(b)「L-アスコルビン酸,イソ-アスコルビン酸(エリソルビン酸),没食子酸,タンニンなどのカルボニル基及びヒドロキシル基をもち還元作用を有する酸」と,2つのグループに分けて例示していた。原告は,平成23年6月21日付けの補正(甲11)において,このうち,(b)の「還元性を有する」有機酸のみを請求項とし,本願発明1としている。したがって,(a)に分類されているフルボ酸は,本願発明1における「還元性を有する」有機酸から除外されている。さらに,フミン酸については,そもそも例示していないが,これはフミン酸が通常の海水や水には溶解しないからであり,原告としてはフミン酸を含有物として全く想定すらしていなかったためである。審決は,「二価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸」といっても,本願発明1の含有物と刊行1発明の含有物とでは異なることに着目し,相違点として検討すべきであったから,このような相違点を看過した審決は誤りである。 - 10 - 取消事由4(相違点の看過)前記のとおり,フルボ酸は有機酸の具体例の一つとして挙げたにすぎないものであり,フミン酸は含有物たる有機酸として想定していないものであった。それにもかかわらず,審決が前記のとおりの認定をしたのは,例示列挙した一部が重なることを理由に,その一部よりも広い範囲と重なると何らの検討なく認定した誤った認定である。審決は,この範囲の違いを相違点として着目し,検討すべきであったのであるから,相違点を看過した審決は誤りがある。 5 取消事由5(相違点1の判断における誤り)審決は,相違点1につき,周知例1ないし周知例4(甲3~6)によればフルボ酸及びフミン酸に還元性があることが周知であることから,このような相違点があったとしても,刊行1発明から本願発明1の発明 )審決は,相違点1につき,周知例1ないし周知例4(甲3~6)によればフルボ酸及びフミン酸に還元性があることが周知であることから,このような相違点があったとしても,刊行1発明から本願発明1の発明特定事項を導出することは,当業者であれば容易になし得るとした。 たしかに,審決の引用する周知例1ないし周知例4には,フルボ酸及びフミン酸が還元性を有するがごとき記載が見られる。 しかし,フルボ酸及びフミン酸は,構造,性質,機能等が定まっているものではなく,周知例の記載は,一般化できるものではない。すなわち,甲21~23によれば,フルボ酸やフミン酸とは,土壌などに含まれる有機酸を総称していうものであって,具体的物質が無数に含まれるものであると捉えるのが今日における理解であり,いくつかの文献には,具体的構造式などに言及するものも見られるが,それはフルボ酸やフミン酸と総称される無数の物質の中のほんの一部について分析されたものにすぎず,実際には,フルボ酸やフミン酸は,構造,性質,機能等が定まっていないことに加え,物質群の外延すら定まっていないものである。 したがって,フルボ酸やフミン酸と称される物質の一部に還元性がある場合があるとしても,それが常に有する性質であるとまではいえず,フルボ酸やフミン酸に還元性があることが当業者にとって周知であるはずはない。周知例1ないし周知例 - 11 -4から,フルボ酸及びフミン酸に還元性があることが周知であると認定することはできない。ましてや,本願発明1で必要となる「鉄粉の酸化が抑制でき,長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようになる」(本願明細書の段落【0023】)程度の還元性があることが当業者にとって周知であるとはいえない。 取消事由6(相違点2の判断の誤り)(1) 本願発明1が刊行 水中に供給できるようになる」(本願明細書の段落【0023】)程度の還元性があることが当業者にとって周知であるとはいえない。 取消事由6(相違点2の判断の誤り)(1) 本願発明1が刊行1発明及び刊行2発明から容易に想到し得る発明ではないことア刊行2発明は「水中に没する状態にすることにより水中に二価の鉄イオンを溶出させ,ヘドロ及び水を浄化するための鉄イオン溶出体であって,粉状鉄と粉状炭を水溶性バインダーと共に混合して固めた多数の小塊を,非水溶性バインダーで固めて所定の形状に成形されている鉄イオン溶出体」の発明である。刊行2発明の具体的作用としては,水中で炭と金属鉄を接触させることで二価の鉄イオンを溶出させ(甲2の段落【0007】及び【0008】),また,その接触状態を維持することで,鉄の表面に酸化被膜を形成させず,継続的に二価の鉄イオンを溶出させ続けるというものである(甲2の【0023】)。 イ前記のとおり,本願発明1の含有物としての「2価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」には,フルボ酸は除外されており,フミン酸は当初から含まれていない。このことからすれば,そもそも,刊行1発明と刊行2発明を組み合わせたところで,本願発明1とはならない。 ウ仮に,この点を措くとすると,たしかに,刊行1発明と刊行2発明を組み合わせると一見すると,本願発明1の含有物と一致するようにも思える。しかし,刊行1発明は二価鉄含有物質中の二価鉄から二価の鉄イオンを溶出させる技術であるのに対して,刊行2発明は金属鉄から二価の鉄イオンを溶出させる技術であって,本願発明1と刊行1発明の関係と同様に,二価の鉄イオンの溶出源を全く異にする技術であり,異なる作用を用いた発明である。 - 12 -また,審決は,刊行1発明と刊行 ンを溶出させる技術であって,本願発明1と刊行1発明の関係と同様に,二価の鉄イオンの溶出源を全く異にする技術であり,異なる作用を用いた発明である。 - 12 -また,審決は,刊行1発明と刊行2発明とは「水域環境保全」という同一の分野に属するとしたが,甲1の段落【0015】,甲2の段落【0001】の記載からすると,刊行1発明が自然界の中で鉄イオンを供給し水域環境保全をどのように図るかに係る発明であるのに対し,刊行2発明は,風呂や水の配管等も想定していることから明らかなとおり,自然界における水域に限らず,一般生活における水場も含め,水の浄化をどのように図るかの発明であるといえる。そして,ここでいう水の浄化は,風呂や水の配管に藻を成長させるはずはないことから,刊行1発明のように藻の生育によることは予定していないと考えられる。加えて,甲2には,そもそも「水域環境保全」という限定された分野の発明であることは記載されていない。 このような相違点に鑑みると,刊行1発明と刊行2発明とは,異なる分野の発明であるといえる。 さらに,審決は,刊行1発明と刊行2発明は,水中で二価の鉄イオンを供給することを課題とする点で共通するとするが,刊行1発明は,「酸化されにくい安定的なフルボ酸鉄として二価の鉄イオンを効率的に生物へ供給することを可能とする水域環境保全材料及び水域環境保全方法を提供する」(甲1の【要約】欄中の【課題】)ことが課題であるのに対し,刊行2発明は,「効率的な鉄イオンの溶出を長期に亘りコンスタントに持続させることができる安価な鉄イオン溶出体の提供」(甲2の【要約】欄中の【課題】)をすることが課題である。すなわち,刊行1発明は,溶出した二価の鉄イオンをどのように水中で二価鉄のまま維持することができるかが課題であるのに対し,刊行2発明は,溶出体か 2の【要約】欄中の【課題】)をすることが課題である。すなわち,刊行1発明は,溶出した二価の鉄イオンをどのように水中で二価鉄のまま維持することができるかが課題であるのに対し,刊行2発明は,溶出体から二価の鉄イオンが溶出するのをどのように長期間継続させるかが課題なのである。現に,刊行1発明は,二価の鉄イオンを継続的に供給するために,フルボ酸やフミン酸をキレート剤として入れているのに対し,刊行2発明は,炭と鉄の接触状態を維持することで,鉄の表面が酸化被膜で覆われることがないようにし,キレート剤を入れることもなく,長期間,二価の鉄イオンの溶出の効果が持続できるようにしているのである(甲2の段落【0023】)。 以上のとおり,刊行1発明と刊行2発明は,課題も異なる。 - 13 -加えて,双方にそれぞれを合わせることを示唆する記載はなく,かえって,前記のとおり,刊行1発明については,二価の鉄イオンの溶出源として,金属鉄を分離した後の製鋼スラグや石炭溶融灰といったコストのかからない(むしろ処分にコストがかかる)産業副産物の有効利用を目論んでおり(甲1の段落【0027】及び【0047】),それよりも高価であり,わざわざ分離したばかりの金属鉄を加えて二価の鉄イオンの溶出源とするようなことは,そもそも発想として明確に排除しているといえる。 (2) 含有割合の検討について審決が含有割合を検討することが当業者にとって常套手段であるとする根拠として挙げている刊行物1も周知例6(甲8)も,既に一定の効果を発揮している発明を自ら考案し,それを実施するに当たり,含有割合を検討しているにすぎないものである。これに対し,本願発明1が,仮に,これが刊行1発明と刊行2発明を組み合わせたものであるという審決の理解に立つとしても,組み合わせた際の効果を確かめる り,含有割合を検討しているにすぎないものである。これに対し,本願発明1が,仮に,これが刊行1発明と刊行2発明を組み合わせたものであるという審決の理解に立つとしても,組み合わせた際の効果を確かめるため,さらには,双方の環境等の矛盾点を解消するため,その実施態様の調整も合わせた含有割合の検討をするという複合的な作業を行う必要があった。すなわち,一定の効果を発揮している発明の実施にあたり,含有割合を検討するという場合に比べて,様々な事情を考慮した検討がなされるのである。したがって,刊行物1や周知例6(甲8)をもってして,2つの発明を組み合わせたうえで含有割合を検討することが,当業者にとって常套手段であるということはできない。 (3) 小括以上から,刊行1発明と刊行2発明とを組み合わせることは,容易に想到し得ることではなく,2つの発明を組み合わせた上で,含有割合を検討するのは常套手段とはいえないことは明らかである。 7 取消事由7(相違点2の判断の誤り)(1) 本願発明1の数値限定に臨界的意義が不要であること - 14 -数値限定発明において進歩性が認められる場合に臨界的意義が必要か否かについては,「一般に,明細書に発明の数値限定の下限以下及び上限以上の実験結果について記載されておらず,明細書上,数値限定の臨界的な意味が存することが判然としなくとも,このことから直ちに当該発明の数値特定の技術的意義を否定し去ることはできず,むしろ,発明がその構成要件における数値の特定ないし上限値及び下限値の設定において公知技術と相違し,当該発明と公知技術の相異なる当該数値の特定がそれぞれ別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有し,しかも,当該発明がその数値の特定に基づいて公知技術とは明らかに異なる作用効果を奏するものであ 発明と公知技術の相異なる当該数値の特定がそれぞれ別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有し,しかも,当該発明がその数値の特定に基づいて公知技術とは明らかに異なる作用効果を奏するものであることが認められるときは,当該発明の数値特定の困難性を肯認することは妨げられないというべきである。」(東京高判昭和62年7月21日,特許・実用新案審査基準第Ⅱ部第2章2.5(3)④「数値限定を伴った発明における考え方参照)。 かかる基準にしたがって比較すると,まず,刊行1発明には,数値限定がないことから,数値限定の設定において相違があるのは明らかである。 また,本願発明1の課題は,「水中に鉄イオンを良好に供給して,藻場の再生を促進し,水質環境を改善することができる鉄粉混合物を提供する」(本願明細書【要約】欄中の【課題】)点にあるのに対し,刊行1発明は,前記で引用した「酸化されにくい安定的なフルボ酸鉄として二価の鉄イオンを効率的に生物へ供給することを可能とする水域環境保全材料及び水域環境保全方法を提供する」ことに加えて,「製作から水域での使用までの簡易化とコスト低減を図り」(甲1の【要約】欄中の【課題】)それを実現することも課題としている。すなわち,本願発明1が材質等にこだわらず,単に藻場の再生を目的とする技術であるのに対し,刊行1発明は,「低コストに」水域環境保全を図ることを目的とする技術である。これは,前記のとおり,本願発明1が高価な金属鉄を用いる発明であるのに対し,刊行2発明が二価鉄含有物質,すなわち,製鋼スラグのような産業副産物を用いる技術であることに顕著に表れている。したがって,本願発明1における数値の特定は,数値の特定がなされていな - 15 -い刊行1発明とは別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有するものであ であることに顕著に表れている。したがって,本願発明1における数値の特定は,数値の特定がなされていな - 15 -い刊行1発明とは別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有するものであるといえる。 さらに,本願発明1と刊行1発明の前提とする作用が全く異なるのは前記のとおりであるが,効果については,実施例において,刊行1発明が,各実施例を数十日単位で行い,その中で効果があったことを示すに留まるのに対し(甲1の段落【0084】から【0091】),本願発明1が実験開始から4日後の鉄イオン溶出量試験を行ったり(本願明細書の段落【0038】),藻の成長実験において2週間後における効果を記載しており,数値限定内の実施例において実際に藻の成長が顕著に見られたこと(本願明細書の段落【0039】,【0060】及び【0061】)からすると,本願発明1の方がより少ない日数で,二価の鉄イオンを効率的に水中に供給し,実際にその効果のある発明であることが分かる。 以上からすると,本願発明1の数値限定に臨界的意義は不要であり,それがなくとも,進歩性が認められる要件を満たしているといい得る。 (2) 本願発明1の数値の上限について本願発明1は,含有物の比率について上限についても数値限定をしているが,審決は,「有機酸の含有量が少ないと,効果が十分に得られないことは,当業者であれば容易に予測し得る当然のことである」として,数値限定についての検討をそれ以上に行っていない。これが検討不十分な判断であるのは明らかであり,審決は誤りである。 なお,下限については,実施例6及び実施例7の比較からすると,3.1重量%の場合(実施例6)に比べ,7.7重量%の場合(実施例7)における鉄イオンの溶出量が顕著に多いことから設定した。上限については,本願発明1は加圧成型 実施例6及び実施例7の比較からすると,3.1重量%の場合(実施例6)に比べ,7.7重量%の場合(実施例7)における鉄イオンの溶出量が顕著に多いことから設定した。上限については,本願発明1は加圧成型し,定形で成形されるものであるが(本願明細書の段落【0026】),当該上限以上となると,成形時に搗き立ての柔かい餅のような状態となり,所望の形状にすることができず水中で定形を維持できないばかりか,分散をしてしまうことから,実施例としての効果を測るまでもなく排除したためである。 - 16 -さらに,上限について,実際に上限以上の実験を含めて行ったが(甲25),その結果からすると,本願発明の効果を奏する範囲は,7.7重量%以上55重量%以下である。 (3) 小括以上から,本願発明1の数値の限定に臨界的意義が不要であるにもかかわらずこれが必要であるという前提で判断をしたこと,及び上限について十分に検討しなかったことから,審決の判断は誤りである。 8 取消事由8(刊行物1に記載された発明の認定の誤り)前記のとおり,刊行物1(甲1)の段落【0014】から【0083】を総合すれば,刊行1発明は,無酸素下という条件の下,二価鉄含有物質中の二価鉄から二価の鉄イオンを溶出させることを想定していることになる。 しかし,刊行1発明に記載された各実施例は,実施例1は,沖合250mからの海水を用いた実験であり(甲1の段落【0084】),実施例2や実施例3は,現実の海域を使用した実験であり(甲1の段落【0087】及び【0089】),海水・海域には酸素が存することから,いずれも酸素がない状態での実験ではなく,無酸素下での二価の鉄イオンの溶出という前提と矛盾する。他の研究結果(甲26~28)によれば,海中に二価鉄含有物質と人工腐植物質を同時に入れた 存することから,いずれも酸素がない状態での実験ではなく,無酸素下での二価の鉄イオンの溶出という前提と矛盾する。他の研究結果(甲26~28)によれば,海中に二価鉄含有物質と人工腐植物質を同時に入れた場合,二価鉄含有物質中の二価鉄から二価の鉄イオンが若干溶出することはあるが,それよりも人工腐植物質からの溶出の方が圧倒的に多いことが認められるところ,刊行物1の実施例についてみると,実施例1ないし3のいずれにおいても顕著に植物の成長に効果を上げているのは,腐植含有物質が入っているもののみである。そうすると,刊行1発明は,二価の鉄イオンの溶出源として二価鉄含有物質中の二価鉄を想定しているにもかかわらず,実施例において効果を上げた二価の鉄イオンの溶出源は異なるものであったと推察できるが,審決は,刊行1発明について,二価の鉄イオンの溶出がどのように行われているか疑わしい点を認定せずに判断を行っており,誤 - 17 -りがある。 なお,鋼鉄スラグからは二価の鉄イオンの溶出がないとの論文も存在する(甲26~28)。 第4 被告の反論便宜上,審決の認定・判断の順にならい,取消事由8(刊行1に記載された発明の認定の誤り),取消事由1(相違点の看過),取消事由2~4(一致点の認定の誤り),取消事由5(相違点(一)の判断における誤り),取消事由6~7(相違点(二)の判断の誤り)の順に反論する。 1 取消事由8に対し(1) 刊行物1には,「フルボ酸鉄は,無酸素下で生成した二価鉄イオン(Fe2+)がキレート剤(錯体)としてフルボ酸と結合して生成されるものである。」(段落【0038】)との記載があるが,この記載をもって,刊行1発明は,無酸素下で二価の鉄イオンを溶出させることを想定しているというのは,刊行物1の記載を正解するものではない。こ れるものである。」(段落【0038】)との記載があるが,この記載をもって,刊行1発明は,無酸素下で二価の鉄イオンを溶出させることを想定しているというのは,刊行物1の記載を正解するものではない。このことは,刊行物1中の他の記載をみれば明らかである。 すなわち,刊行物1の段落【0015】,【0025】,【0093】の記載をみるだけでも,刊行1発明は,魚類が生息することができる程度に十分な酸素が存在する普通の海や河川などの水域において使用され,そこで二価の鉄イオンを溶出させるものであることは明らかである。そして,刊行物1によれば,二価の鉄イオンは水中の酸素によって酸化され易いものであるといえるから(段落【0006】),刊行物1の段落【0038】の記載における「無酸素下」というのは,水中の酸素に接し酸化される前の極めて限定的な状態をいうものと解するのが自然である。よって,刊行物1に記載の各実施例において,酸素が存在する条件下で実験がなされていても,何ら矛盾はない。刊行1発明は刊行物1の記載において矛盾する発明である旨の原告の主張は,失当である。 (2) また,原告は,刊行1発明は二価鉄含有物質中の二価鉄から二価の鉄イオ - 18 -ンを溶出させることが疑わしい発明である旨主張するが,刊行物1の段落【0041】,【0047】の記載からみて,刊行1発明において,二価の鉄イオンは二価鉄含有物質として使用する製鋼スラグから溶出するものであるのは明らかである。 (3) さらに,甲26~29は,製鋼スラグが二価鉄の溶出源であることを否定するものではない。 2 取消事由1に対し原告は,本願発明1が,①金属鉄を二価の鉄イオンの溶出源とするものであり,②金属鉄を酸化することにより二価の鉄イオンを溶出させるものであり,③有酸素下で二価の い。 2 取消事由1に対し原告は,本願発明1が,①金属鉄を二価の鉄イオンの溶出源とするものであり,②金属鉄を酸化することにより二価の鉄イオンを溶出させるものであり,③有酸素下で二価の鉄イオンを溶出させるものであるとの前提に立脚し,これら①,②,③についての相違点を看過した審決は,誤りであると主張する。 しかし,新規性や進歩性といった特許法29条所定の特許要件について審理の対象となる発明は,特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるところ,審決は,平成23年6月21日付けの手続補正(甲11)により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載に基づいて,審理の対象となる本願発明1を前記のとおり認定した。かかる認定によれば,本願発明1は,含有する成分,含有する成分の含有割合及び用途のみが特定された「鉄粉混合物」の発明であることは明らかである。すなわち,本願発明1は,①金属鉄を二価の鉄イオンの溶出源とすること,②金属鉄を酸化することにより二価の鉄イオンを溶出させること,③有酸素下で二価の鉄イオンを溶出させること,については特定されていない。このことは,本願発明1が,①何を二価の鉄イオンの溶出源とするか,②どのような反応により二価の鉄イオンを溶出させるか,③どのような環境下で二価の鉄イオンを溶出させるか,について問わない「鉄粉混合物」の発明であることを意味する。 したがって,本願発明1が,①金属鉄を二価の鉄イオンの溶出源とするものであり,②金属鉄を酸化することにより二価の鉄イオンを溶出させるものであり,③有酸素下で二価の鉄イオンを溶出させるものであることを前提とする原告の主張は, - 19 -本願発明1を,特許請求の範囲以外の本願明細書の記載に基づいて限定的に解釈するという誤った前提に立脚するものであり,失当である。 溶出させるものであることを前提とする原告の主張は, - 19 -本願発明1を,特許請求の範囲以外の本願明細書の記載に基づいて限定的に解釈するという誤った前提に立脚するものであり,失当である。 また,仮に,本願発明1に関し,上記①,②,③について限定的な解釈をしたとしても,上記①,②については,審決において「鉄粉」の有無を相違点として検討していること,及び上記③については,刊行1発明が用いられる環境も当然に「有酸素下」であり相違点とならないことを踏まえれば,原告の主張の当否は,審決の結論を左右しない。 3 取消事由2~4に対し(1) 取消事由2及び4に対し刊行1発明の「二価鉄含有物質」は,審決が認定したように「FeOやFe3O4など」である。また,本願発明1の「酸化鉄」は,本願明細書(甲9)の記載によれば,その具体的実施の態様として,「FeO,Fe3O4,Fe2O3またはFeOOH」(段落【0019】)を含むものである。さすれば,刊行1発明の「二価鉄含有物質」が,本願発明1の「酸化鉄」の具体例の一つと一致する以上,刊行1発明の「二価鉄含有物質」は,本願発明1の「酸化鉄」に相当するといえる。しかも,本願発明1は,「酸化鉄」として,「FeOやFe3O4など」を除外する旨を特定するものでもない。 同様に,刊行1発明の「フルボ酸」が,本願発明1の「有機酸」の具体例の一つと一致する以上,刊行1発明の「フルボ酸」は,本願発明1の「有機酸」に相当するといえる。 よって,原告主張の取消事由2及び4は,理由がない。 (2) 取消事由3に対しア前記のとおり,進歩性の要件について審理の対象となる発明は,特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるところ,本願発明1の「有機酸」は,「2価の鉄イオンとキレートを形成 消事由3に対しア前記のとおり,進歩性の要件について審理の対象となる発明は,特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるところ,本願発明1の「有機酸」は,「2価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」であっ - 20 -て,このこと以外にそれに含まれる具体的な物質について何ら特定されていない。 フルボ酸やフミン酸が本願発明1の「有機酸」から除外される旨の原告の主張は失当である。 そして,フルボ酸やフミン酸は,「2価の鉄イオンとキレートを形成する」有機酸であることが明らかであり(甲1の段落【0038】,段落【0052】),かつ,後記のとおり,フルボ酸やフミン酸が「還元性を有する」ことは,本件出願時における技術常識であるから,刊行1発明の「フルボ酸」や「フミン酸」は,本願発明1の「2価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」に該当する。よって,刊行1発明の「フルボ酸」や「フミン酸」が,本願発明1の「有機酸」と相違しないとした審決の判断に誤りはない。 イ原告は,平成23年6月21日付けの手続補正(甲11)において,本願明細書の段落【0023】に例示されている「L-アスコルビン酸,イソーアスコルビン酸(エリソルビン酸),没食子酸,タンニンなどのカルボニル基及びヒドロキシル基をもち還元作用を有する酸」のみを本願発明1の「還元性を有する」有機酸として特定した旨主張するが,かかる主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,同じく本願明細書の段落【0023】に例示されている「フルボ酸,グルタミン酸,エチレンジアミン四酢酸などのカルボキシル基をもつ酸」が本願発明1の「有機酸」から除外されるという主観的な後出しの解釈に基づくものという他はなく,全くの失当である。本願明細書において, グルタミン酸,エチレンジアミン四酢酸などのカルボキシル基をもつ酸」が本願発明1の「有機酸」から除外されるという主観的な後出しの解釈に基づくものという他はなく,全くの失当である。本願明細書において,「有機酸」に関し,「フルボ酸,グルタミン酸,エチレンジアミン四酢酸などのカルボキシル基をもつ酸」((a)グループ)と,「L-アスコルビン酸,イソーアスコルビン酸(エリソルビン酸),没食子酸,タンニンなどのカルボニル基及びヒドロキシル基をもち還元作用を有する酸」((b)グループ)とに分かれた例示がされているとしても,そのことは,本願発明1の「還元性を有する」有機酸が,上記手続補正により,上記(b)のグループに例示されているもののみに限定して解釈されるべき根拠にはなり得ない。ましてや,上記(a)のグループに例示されているものが,本願発明1の「還元性を - 21 -有する」有機酸から除外される根拠にもなり得ない。 また,上記手続補正により補正された特許請求の範囲には請求項が7つあるが,そのうち,請求項1を引用する請求項2には,本願発明1に係る請求項1の「有機酸」に関し,「前記有機酸は,カルボキシル基をもつ酸,またはカルボニル基及びヒドロキシル基をもつ酸であること」との記載がある。そうすると,本願発明1の「有機酸」は,少なくとも「カルボキシル基をもつ酸」と「カルボニル基及びヒドロキシル基をもつ酸」の両方を含むといえるところ,このうち,前者の「カルボキシル基をもつ酸」が上記(a)のグループに対応し,後者の「カルボニル基及びヒドロキシル基をもつ酸」が上記(b)のグループに対応していることからみれば,本願発明1の「有機酸」は,上記(a)のグループと上記(b)のグループとを区別せず,両方を含み得るものであるといえる。 さらに,そもそも上記(a)の (b)のグループに対応していることからみれば,本願発明1の「有機酸」は,上記(a)のグループと上記(b)のグループとを区別せず,両方を含み得るものであるといえる。 さらに,そもそも上記(a)のグループと上記(b)のグループは,明確に区別し得るものではない。すなわち,上記(b)のグループに例示されている「没食子酸」は,その化学構造からみると,カルボキシル基(-COOH)をもつ酸ということもでき(乙1),上記(a)のグループに分類することも可能なものである。 4 取消事由5に対し(1) フルボ酸やフミン酸に還元性があることは当業者にとって周知であることについて原告は,フルボ酸やフミン酸に還元性があることは当業者に周知でないと主張するが,フルボ酸やフミン酸に還元性があることは,審決に引用された周知例1~4(甲3~6)から裏付けられるだけでなく,乙2(6頁左欄4~6行,6頁左欄8~18行,6頁左欄下から6~4行,6頁右欄最下行~7頁左欄3行,7頁右欄7~9行)からも裏付けられる。そして,周知例1~4,乙2では,フルボ酸やフミン酸の還元性について,フルボ酸やフミン酸に属する個々の具体的な物質に特有の性質として記載されているのではなく,フルボ酸やフミン酸という物質群の一般的 - 22 -な性質として記載されているのであるから,フルボ酸やフミン酸は,これら物質群の一般的な性質として還元性を有するものであることが,本件出願時において周知であるということができる。このことは,フルボ酸やフミン酸に関し,これら物質群の外延が定まっていないということにより左右されない。よって,フルボ酸やフミン酸の性質,機能等が今日において定まっていないという原告の主張は,明らかな誤りである。 そうすると,フルボ酸及びフミン酸のすべてに還元性があ ということにより左右されない。よって,フルボ酸やフミン酸の性質,機能等が今日において定まっていないという原告の主張は,明らかな誤りである。 そうすると,フルボ酸及びフミン酸のすべてに還元性があると解するのが自然であって,刊行物1(甲1)に接した当業者であれば,刊行1発明のフルボ酸やフミン酸を還元性を有するものとして認識する。しかも,原告の主張は,フルボ酸やフミン酸の構造,性質,機能等が定まっていないので,フルボ酸及びフミン酸のすべてに還元性があるとはいえないことをいうにとどまる。そして,一件記録上,フルボ酸やフミン酸に属する個々の具体的な物質の一部に還元性を有さないものがあることを認めるに足りる証拠はない。 (2) 「鉄粉の酸化が抑制でき,長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようになる」程度の還元性について本願明細書(甲9)の記載によれば,本願発明1が奏する「鉄粉の酸化が抑制でき,長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようになる」という作用効果は,「有機酸の還元作用」によるものとされる(段落【0023】)。ところで,この作用効果の程度は,有機酸の還元作用(還元能)の強弱に左右されるものと推察されるところ,還元能を有する限り,弱いなりにも上記作用効果を発揮し得ると解される。かかる解釈は,本願明細書における「有機酸の還元作用(に)より,鉄粉の酸化が抑制でき,長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようになる。」(段落【0023】)との記載に照らしてみても,また,還元性を有するフルボ酸やフミン酸等の腐植物質が,黄鉄鉱(FeS2)の酸化を抑制するとの作用効果を発揮し得ること(乙2)に照らしてみても,自然な解釈である。 なお,原告は,審判段階における平成23年6月21日付け意見書(甲19号証) - 黄鉄鉱(FeS2)の酸化を抑制するとの作用効果を発揮し得ること(乙2)に照らしてみても,自然な解釈である。 なお,原告は,審判段階における平成23年6月21日付け意見書(甲19号証) - 23 -において,「補正後の本願の請求項1に係る発明では,有機酸を,還元性を有するものに限定しております。これにより,有機酸が還元性を有していない場合と比較して,鉄粉から溶出した2価の鉄イオンを水中で長期にわたって維持できる,という顕著な効果を得ることができます。」(2頁(3)第一段落),「本願の請求項1に係る技術のように,有機酸が還元性を有する場合,この有機酸の還元作用により,Fe2+がFe3+に酸化されることを抑制できます。」(3頁下から2つ目の段落)と主張していた経緯があり,上記解釈は原告の当該主張に沿うものである。 してみれば,前記のとおり,フルボ酸やフミン酸に還元性(還元能)があることが当業者に周知である以上,フルボ酸やフミン酸は,程度の差こそあれ,本願発明1の上記作用効果を発揮し得る程度の還元性(還元能)を有するものであるといえる。 5 取消事由6及び7に対し(1) 取消事由6に対し刊行1発明と刊行2発明とは,「水域環境保全」という同一の分野に属することに加え,水中に二価の鉄イオンを供給するという課題が共通する。両発明の間に異なる点があったとしても,上記共通点があれば,両発明を組み合わせる動機として十分である。すなわち,刊行2発明は,水中に二価の鉄イオンを供給することによりヘドロを浄化することに加え,水中微生物や植物の繁殖の場として活用し得る他,水を浄化するという作用効果を奏するものであるところ(甲2の段落【0025】~【0026】),このような作用効果は,「水域環境保全」ために利用する刊行1発明の実施をする 繁殖の場として活用し得る他,水を浄化するという作用効果を奏するものであるところ(甲2の段落【0025】~【0026】),このような作用効果は,「水域環境保全」ために利用する刊行1発明の実施をする際にも当然に所望されることであるから,刊行1発明と刊行2発明に接した当業者であれば,両発明を組み合わせることに動機を持つというべきである。 また,原告は,刊行1発明においては,二価の鉄イオンの溶出源として,金属鉄を分離した後の製鋼スラグといったコストのかからない産業副産物の有効利用を目 - 24 -論んでおり,それよりも高価な分離したばかりの金属鉄を用いるような発想が排除されている旨主張するが,刊行1発明において,二価の鉄イオンの溶出源として,製鋼スラグといった産業副産物の有効利用を目的としているとしても,そのことをもって,金属鉄を二価の鉄イオンの溶出源として用いるような発想が排除されているとはいえない。原告のかかる主張は,金属鉄としては,高価で分離したばかりのものが用いられるとの前提に立脚するものであるが,乙4によれば,金属鉄として,鉄の表面の一部が酸化されて酸化鉄になったものが,本件に係る技術分野において利用されている事実が認められ(段落【0019】),また,乙5(特開平10-46585号公報),6(特開2003-266056号公報)によれば,金属鉄として,使用済カイロ等の廃材(乙5の段落【0030】)や,使い捨てカイロの未使用品(乙6の段落【0001】)が広く利用されている事実が認められることからすると,金属鉄は,必ずしも高価で分離したばかりのものに限定されない。 さらに,原告は,2つの発明を組み合わせた上で含有割合を検討することが,当業者にとって常套手段であるということはできない旨主張するが,審決は,2つの発明を組み合わせた かりのものに限定されない。 さらに,原告は,2つの発明を組み合わせた上で含有割合を検討することが,当業者にとって常套手段であるということはできない旨主張するが,審決は,2つの発明を組み合わせた上で含有割合を検討することが,当業者にとって常套手段であるとしているのではない。審決において常套手段であるとしているのは,「複数の成分を混合して水処理剤を製造する際に,各成分の含有割合を検討し,効果的な含有割合とすること」であり,審決は,刊行1発明と刊行2発明とを組み合わせるにあたり,かかる常套手段を考慮することは,当業者であれば容易になし得ることと判断したのである。そして,複数の成分の含有割合を検討する際に,どの成分であっても含有量の不足があれば有効に機能しなくなることは,当業者が当然に予測することであるから,そのようなことがないように,各成分の含有割合を偏りのない等量比とすることは,当業者であれば真っ先に想定することである。してみれば,前記のとおり,刊行1発明と刊行2発明を組み合わせることに動機づけがあるから,鉄粉を50重量部,酸化鉄を50重量部として鉄粉と酸化鉄の合計が100重量部となるようにした上で,炭素も50重量部,有機酸も50重量部として,各成分の - 25 -含有割合を等量比とする場合を含む本願発明1の数値範囲の設定は,当業者にとって何ら困難なことでない。 これについて,原告は,両発明を組み合わせた上で含有割合を検討する場合には,一定の効果を発揮している発明の実施のために含有割合を検討するという場合に比べて,様々な事情を考慮した検討が必要となる旨主張する。しかし,かかる主張は,根拠が示されておらず,「様々な事情」の内容も明らかでない。しかも,含有割合を定める際,常に「様々な事情」を考慮しなければならない理由はない。そもそも 討が必要となる旨主張する。しかし,かかる主張は,根拠が示されておらず,「様々な事情」の内容も明らかでない。しかも,含有割合を定める際,常に「様々な事情」を考慮しなければならない理由はない。そもそも,本願発明1については,その各成分の含有割合に有意な技術的意義を認めることができないから,本願発明1の進歩性,特に含有割合を検討するにあたり,考慮されるべき特段の事情は認められない。すなわち,本願明細書(甲9)によれば,鉄粉の含有量(含有割合)については段落【0017】に,炭素については段落【0022】に,有機酸については段落【0024】にそれぞれ記載されているところ,これら記載は,特定の範囲の含有割合が定性的な意味で好ましい旨を開示するにとどまる。本願明細書からは,本願発明1の数値範囲内のすべてにおいて,範囲外のものに比し,顕著な効果を奏するとはいえず,よって,本願発明1の各成分の含有割合は,課題を解決するための手段として,意味のある特定事項ということはできない。そして,刊行物1によれば,刊行1発明は,二価の鉄イオンをフルボ酸鉄として効率的に生物へ供給することを目的としているから(段落【0007】),この目的を達成するために含有割合を定めることは当業者が容易になし得ることであるし,また,コスト低減(段落【0007】)という他の目的も考慮して含有割合を定めることも当業者が容易になし得ることである。このように,当業者が想定し得る目的の範囲内で,どの目的をどの程度重視するかは,適宜設定することである。 (2) 取消事由7に対しア原告は,本願発明1は,材質等にこだわらず,単に藻場の再生を目的とする技術であるのに対し,刊行1発明は,「低コストに」水域環境保全を図ることを目的とする技術であって,本願発明1における数値範囲の特定は,数値範 願発明1は,材質等にこだわらず,単に藻場の再生を目的とする技術であるのに対し,刊行1発明は,「低コストに」水域環境保全を図ることを目的とする技術であって,本願発明1における数値範囲の特定は,数値範囲の特定 - 26 -がなされていない刊行1発明とは別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有する旨主張する。 しかし,原告が主張する「材質等にこだわらない」という事項は,本願明細書中に記載がない。原告が当該事項の根拠としている「水中に鉄イオンを良好に供給して,藻場の再生を促進し,水質環境を改善することができる鉄粉混合物を提供する」(本願明細書の【要約】欄中の【課題】)との記載をみても,この記載は「材質等にこだわらない」ことを意味するものではない。原告の主張には,根拠がない。 そして,刊行1発明の課題である「水域環境保全」は,藻場の再生を含む概念であり(段落【0024】,段落【0093】),本願発明1の「藻場の再生」という課題と共通することは明らかである。 これらのことから,本願発明1における数値範囲の特定が,刊行1発明とは別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有するとはいえない。 イ原告は,本願発明1の方が,刊行1発明より,二価の鉄イオンを少ない日数で効率的に水中に供給し得るという効果を奏する旨主張する。しかし,原告のかかる主張は,本願明細書に記載された実施例と刊行物1に記載された実施例との比較に基づくものであるところ,同一の条件下で比較されたものであれば格別,同一の条件でないものとの比較から,本願発明1が刊行1発明よりも二価の鉄イオンを少ない日数で効率的に水中に供給するといった有意な効果を奏するとまではいえない。例えば,二価の鉄イオンの溶出速度は,少なくとも,その溶出源の表面積(水との接触面積)やそ 1発明よりも二価の鉄イオンを少ない日数で効率的に水中に供給するといった有意な効果を奏するとまではいえない。例えば,二価の鉄イオンの溶出速度は,少なくとも,その溶出源の表面積(水との接触面積)やその溶出源付近の水温等の条件に依存するといえるところ,上記比較において,そのような条件が同じであると解すべき合理的理由はない。 ウさらに,原告は,本願発明1の数値範囲の上限の技術的意義として,成形物にしたときの不具合を防止する旨主張しているが,本願発明1は,成形物に限定されていないから(成形物にする旨の特定は,請求項1を引用する請求項6においてされているにすぎない。),原告の上記主張は,本願発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものである。 - 27 -また,本願発明1の数値範囲の技術的意義については,本願明細書の段落【0017】,【0022】,【0024】にそれぞれ記載されてはいるが,本願明細書には,成形物にしたときの不具合を防止することについての記載はない。原告の上記主張は,本願明細書の記載にも基づかないものである。 エ原告は,実験報告書(甲25)による実験から,本願発明1の数値範囲は,本願発明1の効果を奏する範囲としての技術的意義を有する事実が認められる旨主張するが,上記実験報告書には,鉄粉,酸化鉄及び炭素の各含有割合について何ら記載されておらず,上記実験は,本願発明1の再現実験であるということはできない。また,上記実験では,有機酸としてL-アスコルビン酸のみが用いられているにすぎず,上記実験報告書には,本願発明1の有機酸に属する他の有機酸(イソ-アスコルビン酸,没食子酸,タンニンなど)を用いた場合についての記載はなく,また,他の有機酸を用いた場合において,L-アスコルビン酸を用いた場合と同様の 本願発明1の有機酸に属する他の有機酸(イソ-アスコルビン酸,没食子酸,タンニンなど)を用いた場合についての記載はなく,また,他の有機酸を用いた場合において,L-アスコルビン酸を用いた場合と同様の結果になると推測し得る合理的理由もないから,上記実験は,有機酸としてL-アスコルビン酸のみを用いた場合,すなわち,本願発明1に属するごく一部の発明の裏付けとなるにすぎない。 オそして,刊行1発明が,二価の鉄イオンを持続的に供給可能であり(段落【0014】),生物生産性の増大や水質の浄化に寄与する藻場材料として利用し得ること(段落【0024】)ことに照らすと,本願発明1の数値範囲の特定が,公知技術と異なる異質な効果をもたらすものでないことは,明らかである。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明について本願明細書(甲9)によれば,本願発明1につき,次のことを認めることができる。 本願発明1は,海,河川,干潟などの水域に鉄粉混合物を浸漬させることにより,鉄イオンを水中に供給し,藻場の再生と河口や運河の堆積物の有害物質を無害化し - 28 -て水質を改善する技術に関するものである。藻場が大規模に消滅する「磯焼け」と呼ばれる現象については,鉄イオンが藻などの植物の生育に欠かせないものであり,二価の鉄イオンとして吸収されることが有効であることから,鉄と炭を水溶性バインダーとともに混合して固めた塊を非水溶性バインダーで固めた鉄イオン溶出体により鉄イオンを河川や海などの水域に供給することで藻場の消滅を防ぐ技術が存在したが(刊行物2),鉄イオン溶出体を置いた場所から少し離れた場所では藻場再生の十分な効果が得られなかったり,長期にわたって効果が維持されないという課題があった。その理由としては,溶存酸素の存在する水中では溶出した鉄イオン オン溶出体を置いた場所から少し離れた場所では藻場再生の十分な効果が得られなかったり,長期にわたって効果が維持されないという課題があった。その理由としては,溶存酸素の存在する水中では溶出した鉄イオンが酸素によって酸化され三価となり二価の状態で維持できないことや,水中あるいは海中において,溶出した鉄イオンは炭素表面で酸素が還元されることによって生成するOHイオンによって水酸化鉄を形成するため,鉄が継続して鉄イオンに溶出される反応が抑制されることがあった。本願発明1は,このような課題の解決を目的とし,その手段として,鉄粉,酸化鉄,炭素及び二価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸を含有する鉄粉混合物を採用したものである。本願発明1においては,鉄粉と炭素が接触することにより電子の移動が生じ,鉄粉が局部アノード,炭素が局部カソードとして作用し,これにより鉄粉の酸化反応が進行して局部アノード側からの鉄の溶出が促進されるとともに,溶出した二価の鉄は有機酸とキレート反応して,安定して二価の鉄イオンの状態で維持することができ,鉄の溶出を抑制する水酸化鉄を形成しにくいことにより二価の鉄イオンとして安定して供給できるようになる。 2 刊行1発明について刊行物1(甲1)によれば,刊行1発明につき,次のことを認めることができる。 刊行1発明は,腐植及び二価鉄を使用した水域環境保全材料に関するものであって,二価の鉄イオンは水中の酸素によって酸化されやすく,三価の鉄イオンになって即座に粒状鉄(Fe2O3)として沈降し,生物が摂取することが不可能となるこ - 29 -とから,製作から水域までの使用の簡易化とコスト低減を図りながら,酸化されにくい安定的なフルボ酸鉄として二価の鉄イオンを効率的に生物へ供給することを可能にする水域環境保全材料を提供 - 29 -とから,製作から水域までの使用の簡易化とコスト低減を図りながら,酸化されにくい安定的なフルボ酸鉄として二価の鉄イオンを効率的に生物へ供給することを可能にする水域環境保全材料を提供することを目的とし,その解決手段として透水性を有する袋材に,二価鉄含有物質(FeO,Fe3O4)と腐植含有物質(フルボ酸等)とが詰め込まれているという構成を採用したものであることが認められる。 3 刊行物2発明について刊行物2(甲2)によれば,刊行1発明につき,次のことを認めることができる。 刊行2発明は,水槽,河川,海等の水中に没する状態にすることにより水中に鉄イオンを発生させる鉄イオン溶出体に関するものである。従来の鉄イオン溶出体としては,気泡コンクリート製魚礁本体の中空部に鉄と鉄に比べ電位の高い金属(グラファイトなど),炭との混合物を充填して海水中に沈めることにより鉄イオンを溶出させるようにした技術が存在したが,鉄と炭素が接触している部分において,最初のうちは鉄イオンが供給されるが,鉄イオンの溶出により鉄が小さくなると炭素との接触が解除され,鉄の表面に硬質の酸化被膜が形成されてそれ以後の鉄イオンの効率的な溶出が停止されるといった問題があったことから,かかる問題を解決することを目的としたものである。刊行2発明においては,鉄と炭を水溶性バインダーで共に混合して固めた多数の小塊を非水溶性バインダーで固めて所定の形状に成形されている構成としたことで,これを水中に没した状態とすると,水と接する小塊では水溶性バインダーが徐々に溶けることで鉄と炭が接触し,これにより,炭に比べて電気陰性度及び又は電位の低い方の金属である鉄が酸化され,鉄イオンを溶出し出し,鉄と炭の接触状態が維持されることで局部電池を作り,鉄の表面に酸化被膜が形成され 鉄と炭が接触し,これにより,炭に比べて電気陰性度及び又は電位の低い方の金属である鉄が酸化され,鉄イオンを溶出し出し,鉄と炭の接触状態が維持されることで局部電池を作り,鉄の表面に酸化被膜が形成されることがないため,鉄が酸化してなくなるまで鉄イオンを継続的に溶出させることができるようになったものである。 4 取消事由8(刊行物1に記載された発明の認定の誤り)について - 30 -(1) 刊行物1には,「フルボ酸鉄は,無酸素下で生成した二価鉄イオン(Fe2+)がキレート剤(錯体)としてフルボ酸と結合して生成されるものである。」(段落【0038】)との記載がある。 しかし,刊行1発明の水域環境保全材料は,海水等の水中に設置して用いるものであるから,そのような発明の実施例において,海水を用いた実験及び現実の海域を使用した実験を行うことは自然なことである。そして,海水等の水中には酸素が溶存しているが,溶出した二価の鉄イオンがそのような溶存酸素と接触すれば酸化されてしまうから(刊行物1の段落【0006】),このような事情を考慮すれば,刊行物1における無酸素下(段落【0038】)とは,溶出した二価の鉄イオンが溶存酸素と接触する前の,局所的には酸素が存在しない環境下を意味するものと考えられる。したがって,刊行物1における「無酸素下で生成した二価鉄イオン」との記載があるからといって,刊行1発明が,無酸素下で二価の鉄イオンを溶出させることを想定しているということはできないし,実施例が海水及び現実の海域で行われたものとしても矛盾があるとはいえない。 (2) 刊行物1の段落【0041】には,二価鉄イオンは二価鉄から溶出されることが記載されている。審決は,刊行物1の記載に基づいて刊行1発明を認定しており,そこに誤りはない。甲 いえない。 (2) 刊行物1の段落【0041】には,二価鉄イオンは二価鉄から溶出されることが記載されている。審決は,刊行物1の記載に基づいて刊行1発明を認定しており,そこに誤りはない。甲26~28も二価鉄イオンの溶出源について様々な見解があることを示すにすぎず,この判断を覆すものではない。 5 取消事由1(相違点の看過)について原告は,本願発明1と刊行1発明は,①二価の鉄イオンの溶出源と②溶出を導く作用とが相違し,さらに③二価の鉄イオンを有酸素下で溶出するのか無酸素下で溶出するのかという点においても異なっており,その技術思想が根本的に異なる発明であるが,審決はこれらの点について検討せず,相違点を看過していると主張する。 しかし,特許法29条所定の要件について判断するにあたって,審理の対象となる発明は,特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるところ,平成2 - 31 -3年6月21日付けの手続補正(甲11)により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明1は,含有する成分,含有する成分の含有割合及び用途は特定されているものの,原告主張の上記①~③を特定していない。したがって,審決が刊行1発明と本願発明1の一致点及び相違点を認定するに当たり,上記①~③の点を挙げていないとしても,相違点を看過したということはできない。 6 取消事由2(相違点の看過・一致点認定の誤り)について刊行1発明の「二価鉄含有物質」は,「FeOやFe3O4などの二価鉄を含有する」ものであるところ,この「FeOやFe3O4」は鉄の酸化物,すなわち酸化鉄である。また,本願発明1の「酸化鉄」は,本願明細書(甲9)の段落【0019】の記載によれば,その具体的実施の態様として,「FeO,Fe3O4」を含む FeOやFe3O4」は鉄の酸化物,すなわち酸化鉄である。また,本願発明1の「酸化鉄」は,本願明細書(甲9)の段落【0019】の記載によれば,その具体的実施の態様として,「FeO,Fe3O4」を含むものである。刊行1発明の「二価鉄含有物質」が,本願発明1の「酸化鉄」の具体例の一つと一致する以上,刊行1発明の「二価鉄含有物質」は,本願発明1の「酸化鉄」に相当するといえる。原告は,本願発明1における酸化鉄はFeO,Fe3O4のような二価鉄を含有する物質でなくてもいいから,刊行1発明における二価鉄含有物質と本願発明1における酸化鉄は一致しないと主張するが,採用することができず,この主張に基づく取消事由2は理由がない。 7 取消事由3(相違点の看過・一致点認定の誤り),取消事由4(相違点の看過・一致点認定の誤り)についてフルボ酸とフミン酸が有機酸の一種であることは明らかであるから,これらは本願発明1における「有機酸」に相当する。 原告は,本願明細書の段落【0023】において,有機酸を(a)及び(b)のグループに分けて例示していたが,平成23年6月21日付けの手続補正(甲11)により,還元性を有する(b)の有機酸のみを本願発明1としたため,(a)に分類されているフルボ酸は本願発明1から除外されていると主張する。しかし,本願発 - 32 -明1は,有機酸について,「二価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する」点を特定するのみであり,上記(b)のグループとして例示されたものに限定しているわけではないし,(a)のグループとして例示されたもの(フルボ酸を含む)が除外されてもない。原告の主張は,本願発明1における「二価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」を上記(b)のグループとして例示されたものに限 示されたもの(フルボ酸を含む)が除外されてもない。原告の主張は,本願発明1における「二価の鉄イオンとキレートを形成するとともに還元性を有する有機酸」を上記(b)のグループとして例示されたものに限定して解釈することを前提としたものであり,特許請求の範囲の記載に基づく主張ではなく,採用することができない。 また,原告は,本願明細書において,フルボ酸は有機酸の具体例の一つとして挙げたにすぎないし,フミン酸は本願明細書に例示しておらず,本願発明1における有機酸として想定していないものであったにもかかわらず,例示列挙した一部が重なることを理由に,その一部よりも広い範囲と重なるとした審決の認定は誤りであると主張する。しかし,刊行1発明におけるフルボ酸とフミン酸は有機酸の一種であるから,これらが本願発明1における「有機酸」に相当することは上記のとおりである。原告の主張は独自の見解に基づくものであり,採用することができない。 以上の主張に基づく取消事由3,4も理由がない。 8 取消事由5(相違点1の判断における誤り)について甲3~6,乙2によれば,フルボ酸及びフミン酸は,通常,還元性を有するものと認められるから,刊行1発明における「フルボ酸とフミン酸」は還元性を有するものと認めるのが相当である。 原告は,フルボ酸及びフミン酸のすべてに還元性があるといえるか定かではなく,フルボ酸及びフミン酸に還元性があることは周知とはいえず,ましてや長期にわたって二価の鉄イオンを水中に供給できるようになる程度の還元性があることが周知であるとはいえないと主張するが,フルボ酸及びフミン酸の一部に還元性を有するとはいえないものが存在するとしても,上記のとおり,通常は還元性を有することからすれば,上記の認定を覆すものではない。そして,還元性を有す ないと主張するが,フルボ酸及びフミン酸の一部に還元性を有するとはいえないものが存在するとしても,上記のとおり,通常は還元性を有することからすれば,上記の認定を覆すものではない。そして,還元性を有するものであれ - 33 -ば,その還元作用の程度に応じて鉄粉の酸化が抑制され,還元作用の程度に応じた期間にわたって二価の鉄イオンを水中に供給できるようになると認めることをできる。 取消事由5も理由がない。 9 取消事由6(相違点2の判断の誤り),取消事由7(相違点2の判断の誤り)について(1) 刊行物1(甲1)によれば,刊行1発明は,沿岸海域の岩場から海藻が消えて石灰藻に覆われる磯焼け等の事態に対応するために,二価の鉄イオンを効率的に生物へ供給することを可能にする水域環境保全材料を提供することを目的とするものである。一方,刊行物2(甲2)によれば,刊行2発明は,水中に没する状態にすることにより水中に二価の鉄イオンを発生させる鉄イオン溶出体に関する発明であって,効率的な鉄イオンの溶出を長期にわたりコンスタントに持続させることを目的とし,水中の植物プランクトンの餌となる鉄イオンを供給することによる水中生物の増殖と活性によりヘドロや水質を浄化するものであり,水槽,河川,湖,海,及び水の配水管等に使用される水で使用されるものである。これによれば,刊行1発明と刊行2発明は,いずれも海などの水域環境を改善するために用いられるものであって,水域環境保全という同一の技術分野に属するものである上,その手段として二価の鉄イオンを供給するものであり,機能が共通することが認められる。 そして,このように,同一の技術分野に属し,機能が共通する複数の発明を組み合わせて併用を試みることは,当業者が通常行うことと解される。また,刊行1発明と ものであり,機能が共通することが認められる。 そして,このように,同一の技術分野に属し,機能が共通する複数の発明を組み合わせて併用を試みることは,当業者が通常行うことと解される。また,刊行1発明と刊行2発明とを組み合わせて併用するにあたり,刊行1発明における「二価鉄含有物質」及び「フルボ酸とフミン酸を含有する腐植含有物質」と,刊行2発明における「粉状鉄」及び「粉状炭」のこれら4成分の相互作用により,両発明がそれぞれ成立しなくなる等(例えば,二価の鉄イオンが供給できなくなる等)の事情が存在するとも認められない。そうすると,刊行1発明において,それと同一の技術分 - 34 -野に属し,機能が共通する刊行2発明を組み合わせて併用し,「粉状鉄」(すなわち,鉄粉)及び「粉状炭」(すなわち,炭素)をさらに含有する4成分からなる「鉄粉」混合物とすることは,当業者が容易に想到できることというべきである。また,「粉状鉄」(鉄粉)として,通常の鉄粉と認められる「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉」を用いることは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。 上記混合物における各成分の含有量は,当業者が,各成分の機能が必要十分に発揮され,かつ阻害されることがないように,目的に応じて適宜決定しうる事項であり,各成分の含有量を,「前記鉄粉と前記酸化鉄の含有量の合計を100重量%とした場合,前記鉄粉の含有量が25重量%以上95重量%以下であり,前記炭素の含有量が10重量%以上80重量%以下であり,前記有機酸の含有量が7.7重量%以上55重量%以下」と限定することは,そこに臨界的意義があることにつき原告から特段の主張立証がない以上,当業者が適宜なし得ることというべきである。また,そのように限定することによる効果も,格別顕著なものとはいえない。 と限定することは,そこに臨界的意義があることにつき原告から特段の主張立証がない以上,当業者が適宜なし得ることというべきである。また,そのように限定することによる効果も,格別顕著なものとはいえない。 (2)ア原告は,①刊行1発明と刊行2発明とは,二価の鉄イオンの溶出源が全く異なる発明であり,また,②刊行1発明が,自然界の中で鉄イオンを供給し水域環境保全をどのように図るかに係る発明であるのに対し,刊行2発明は,自然界における水域に限らず,一般生活における水場も含め,水の浄化をどのように図るかの発明であり,両者は異なる分野の発明であり,③刊行1発明は,溶出した二価の鉄イオンをどのように水中で二価鉄のまま維持することができるかが課題であるのに対し,刊行2発明は,溶出体から二価の鉄イオンが溶出するのをどのように長期間継続させるかが課題であり,両者は課題も異なるから,刊行1発明と刊行2発明とを組み合わせることは,容易に想到しうることではないと主張する。 しかし,②については,刊行2発明が,風呂や水の配管等の一般生活における水場も対象としているとしても,前記のとおり,海や河川等も対象としているから,両発明が異なる分野の発明であるとはいえない。また,①③については,刊行1発明と刊行2発明が,二価の鉄イオンの溶出源の点で異なり,課題が異なるとしても, - 35 -前記のとおり,いずれも水域環境保全という同一の技術分野に属する上,二価の鉄イオンを供給する点でその機能が共通するものであって,機能が共通する複数の発明を組み合わせて併用を試みることは,当業者が通常行うことであることからすれば,両発明を組み合わせて併用することは,当業者が容易に想到することである。 原告の上記主張は採用することができない。 イまた,原告は,刊行1発明は,二価 は,当業者が通常行うことであることからすれば,両発明を組み合わせて併用することは,当業者が容易に想到することである。 原告の上記主張は採用することができない。 イまた,原告は,刊行1発明は,二価の鉄イオンの溶出源として,金属鉄を分離した後の製鋼スラグ等の産業副産物を用いるものであり,それより高価で,わざわざ分離したばかりの金属鉄を加えることは発想として明確に排除していると主張するが,製鋼スラグが金属鉄を分離した後の産業副産物であるとしても,製鋼スラグと金属鉄を組み合わせることを妨げるほどの事情とまではいえない。 ウ原告は,刊行1発明の鉄イオンは,二価鉄含有物質から,無酸素下で金属鉄の酸化反応以外の反応で生成するのに対して,刊行2発明の鉄イオンは,有酸素下で金属鉄が酸化されることによって生成するが,刊行1発明の酸素のない環境下では,刊行2発明の金属鉄は酸化反応で溶出できないと主張する。 しかし,前記のとおり,刊行物1に記載されているのは,溶存酸素が存在する海水等の水中であっても局所的に酸素が存在しない環境下で,二価の鉄イオンが生成されることである。原告の主張は,刊行1発明が無酸素下でのものであることを前提としたものであり,採用することができない。 エ原告は,刊行2発明は,有機酸のキレート作用を利用しなくても,継続的に二価の鉄イオンを溶出できるものであり,不要な有機酸を入れる必要性がないと主張する。 しかし,刊行2発明においても,二価の鉄イオンが溶出した後については,刊行1発明と同様,水中で二価の鉄イオンのまま維持することが望まれることは明らかであるから,刊行2発明において,溶出した二価の鉄イオンをそのまま維持するために,有機酸を含有させることが必要でないとはいえない。 オ原告は,取消事由7として,審決が,相違点2 まれることは明らかであるから,刊行2発明において,溶出した二価の鉄イオンをそのまま維持するために,有機酸を含有させることが必要でないとはいえない。 オ原告は,取消事由7として,審決が,相違点2に係る本願発明1の発明 - 36 -特定事項中の各成分の数値範囲の限定に臨界的意義があるともいえないと判断したことにつき,そもそも本願発明1における数値の限定に関しては臨界的意義が不要であり,それがなくとも,進歩性が認められる要件を満たしていると主張する。 しかし,原告の主張は,数値の特定において公知技術と相違し,その数値の特定自体が,公知技術とは別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有する事案を前提としていると解される。本願発明1は,各成分の含有量のほか,「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉」及び「炭素」の含有の有無の点でも刊行1発明と相違し,また,各成分の含有量の特定自体が,刊行1発明とは別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有するとはいえないから,原告の上記主張は前提を欠き採用できない。 また,原告は,本願発明1は,有機酸の含有量について,単に下限のみを限定したのではなく,上限も定めているのであり,上限以上になると,成形時に搗き立ての柔かい餅のような状態となり所望の形状にすることができず,水中で定形を維持できず分散してしまうため,排除したものであるなどと主張するが,原告が指摘する事項は,いずれも本願明細書に記載されたものではないから,いずれも採用することができない。 (3) 以上のとおりであり,取消事由6,7も理由がない。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 由6,7も理由がない。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官田邉
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