判決上記の者に対する業務上過失致死傷被告事件について,当裁判所は,検察官出席の上審理し,次のとおり判決する。 主文 被告人は無罪。 理由 第1章本件公訴事実の要旨及び争点第1 本件公訴事実の要旨訴因変更後の公訴事実の要旨は,次のとおりである。 1 被告人は,西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。)において,平成5年4月20日から平成8年6月20日までの間は取締役鉄道本部副本部長兼安全対策室長として,運転事故の防止及び運転保安設備の整備計画に関する業務等を担当し,同日から平成10年6月26日までの間は取締役会決議に基づき安全問題に関する業務執行権限をゆだねられた取締役鉄道本部長として,平成8年6月1日から平成10年6月26日までの間は鉄道施設及び車両並びに列車の運行の安全確保に関する技術上の事項を統括管理する任務を法令により課せられた鉄道主任技術者として,同社の鉄道事業に関する安全対策の実質的な最高責任者を務めていた上,平成9年3月に開業予定のJR東西線の開業準備総合対策本部長等として,同線開業に伴う安全対策を含めた輸送改善計画を統括指揮していた。 2 同社では,JR東西線開業に伴い,福知山線をJR東西線及び片町線と直結させてその利便性を高めるとともに,福知山線の列車本数を大幅に増加させてその輸送力を増強し,福知山線の利用客を増加させて収益拡大を図る経営方針の下,福知山線からJR東西線への列車乗り入れを円滑にするため,兵庫県尼崎市ab丁目c番付近の福知山線上り線路の右方に湾曲する曲線の半径を600mから304mにする線形変更工事を行い(以下,この曲線を「本件曲線」といい,この工事を「本件線形変更工事」という。),平成9年3月8日から,JR東西線開業に伴う 方に湾曲する曲線の半径を600mから304mにする線形変更工事を行い(以下,この曲線を「本件曲線」といい,この工事を「本件線形変更工事」という。),平成9年3月8日から,JR東西線開業に伴う ダイヤ改正(以下「本件ダイヤ改正」という。)による福知山線の列車の運行を開始した。 3 ①かねてから,運転士の居眠りやブレーキ操作の遅れなどの人為的なミスに起因する列車事故が国内で多発し,曲線における速度超過による脱線転覆事故も発生していたことから,鉄道業界では,危険性が高い曲線に対しても,列車を自動的に減速・停止させる機能を有する自動列車停止装置(以下「ATS」という。)を整備する必要があると認識され,JR西日本においても,曲線における速度超過による脱線転覆事故の発生を想定し,高輸送密度路線を対象として,半径450m未満の曲線にATSを順次整備しており,被告人も安全対策室長等としてこれを主導していたところ,曲線半径を半減させる他に類例を見ない本件線形変更工事により,本件曲線の半径がこの基準を満たすことになった上,福知山線に加速性能の高い新型車両を大量に導入し,被告人の主導の下,本件曲線手前の直線を制限速度である120km/hないしこれに近い速度で走行する快速列車の本数を従前の1日当たり34本から94本に増加させるなどの大規模な本件ダイヤ改正を行ったことにより,運転士が適切な制動措置をとらないまま列車を本件曲線に進入させた場合,列車が本件曲線で脱線転覆する危険性を格段に高めるとともに,福知山線は既に曲線へのATSが整備されている路線と同等の高輸送密度路線になった。②本件線形変更工事の完成を控えた平成8年12月4日,北海道旅客鉄道株式会社函館線の半径300mの曲線において,貨物列車が速度超過により脱線転覆する事故が発生し,JR西日本では 送密度路線になった。②本件線形変更工事の完成を控えた平成8年12月4日,北海道旅客鉄道株式会社函館線の半径300mの曲線において,貨物列車が速度超過により脱線転覆する事故が発生し,JR西日本では,同月25日に開催された被告人が出席する鉄道本部内の会議において,ATSが整備されていれば防止できた事故例として紹介された。③本件曲線に個別にATSを整備することは安価かつ容易な工事により可能であった。 4 上記①ないし③などにより,被告人は,本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性及び本件曲線にATSを整備すれば容易に同事故を回避できることを認識していたのであるから,本件線形変更工事及び本件ダイヤ改正の実施に当たり,自己が統括する安全対策室等の職員に対し,本件曲線にATSを整備す るよう指示すべき業務上の注意義務があったのにこれを怠り,本件曲線にATSを個別に整備すれば,曲線へのATS整備は路線単位で実施するとのJR西日本社内での既定方針を変更しなければならなくなる上,今後,他の危険箇所にもATSを含む安全対策の整備要請を受けた場合に,これに応じざるを得なくなって経費増大につながることを危惧するなどし,かつ,本件曲線の制限速度を従前の95km/hから70km/hに変更し,運転士に制限速度を遵守するよう指導しておけば事故防止措置としては十分であると安易に考え,線形変更後の本件曲線にATSを整備しないままこれを列車運行の用に供し,転覆限界速度を上回る速度で本件曲線手前の直線を走行する列車を運行した過失がある。 5 被告人は,上記過失により,平成17年4月25日午前9時18分ころ,福知山線宝塚駅発JR東西線経由片町線同志社前駅行き7両編成の快速列車(以下「本件列車」という。)を運転していた運転士が適切な制動措置をとらないまま 失により,平成17年4月25日午前9時18分ころ,福知山線宝塚駅発JR東西線経由片町線同志社前駅行き7両編成の快速列車(以下「本件列車」という。)を運転していた運転士が適切な制動措置をとらないまま,転覆限界速度を超える約115km/hで同列車を本件曲線に進入させた際,本件曲線にATSが整備されていなかったため,あらかじめ自動的に同列車を減速させることができず,同列車を転覆させて線路脇のマンションの外壁等に衝突させるなどし,同列車の乗客106名を死亡させるとともに,同列車の乗客493名に傷害を負わせた(以下,この事故を「本件事故」という。)。 第2 検察官による公訴事実の釈明検察官は,公判前整理手続において,次のとおり釈明した(以下,上記第1の公訴事実3①ないし③の事実を,「公訴事実①ないし③」のようにいう。)。 1 公訴事実中の「曲線」には,分岐内曲線及びその前後の曲線を含まない。 2 公訴事実①中の「被告人の主導の下,本件曲線手前の直線を制限速度である120km/hないしこれに近い速度で走行する快速列車の本数を従前の1日当たり34本から94本に増加させるなどの大規模な本件ダイヤ改正を行った」ことが,本件曲線の危険性の認識あるいは本件曲線に個別にATSを整備すべき注意義務の発生に結びつくのは,列車のスピードアップが曲線における速度超過による脱線事 故発生の可能性を高め,列車本数の急増は,それ自体が事故発生頻度を高めるものであることに加え,ダイヤの過密化を招来し,列車のスピードアップと相まって,運転士がダイヤの遅れを取り戻すため高速度で運転する状況を作出することにより人為的ミス発生の可能性を高めるものであり,脱線転覆事故が発生する可能性が増大するからである。 3 公訴事実②は,被告人が,「本件曲線で速度超過による脱 め高速度で運転する状況を作出することにより人為的ミス発生の可能性を高めるものであり,脱線転覆事故が発生する可能性が増大するからである。 3 公訴事実②は,被告人が,「本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性及び本件曲線にATSを整備すれば容易に同事故を回避できることを認識していたこと」を基礎付ける事実の一つである。 4 公訴事実③は,結果予見義務及び結果回避義務を基礎付ける事実の一つである。 5 公訴事実中の「速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性及び本件曲線にATSを整備すれば容易に同事故を回避できることを認識していた」とは,被告人が現に認識していたということであり,被告人は,遅くとも本件線形変更工事が完成した平成8年12月ころには,この認識を有していた。 6 被告人の注意義務は,自己が統括する安全対策室等の職員に対し,JR西日本管内の曲線の中から本件曲線を個別に指定し,本件曲線にATS-P形(以下「ATS-P」という。)又はATS-SW形(以下「ATS-SW」という。)を整備するよう指示すべき義務である。 7 被告人の過失行為は,本件線形変更工事が完成した平成8年12月ころから被告人が鉄道本部長等の役職を退いた平成10年6月26日までのものである。 第3 争点本件の争点は,被告人が,平成8年12月ころから平成10年6月26日までの間(以下,「検察官過失主張期間」という。),自己が統括する安全対策室等の職員に対し,JR西日本管内の曲線の中から本件曲線を個別に指定し,本件曲線にATSを整備するよう指示すべき注意義務があったのにこれを怠ったという過失があるか否かである。関係証拠上,被告人が上記の指示をしていなかったことは明らか であり,過失の成否は上記注意義務の存否に帰着する。 第2章前 べき注意義務があったのにこれを怠ったという過失があるか否かである。関係証拠上,被告人が上記の指示をしていなかったことは明らか であり,過失の成否は上記注意義務の存否に帰着する。 第2章前提となる事実本件の経緯について,関係証拠により認められる事実は,次のとおりである。 (本件における鉄道用語の意味は,別紙鉄道用語一覧表のとおりであり,国鉄の分割民営化により発足した鉄道事業者については,JR西日本のように「JR」を冠して特定する。なお,以下で「曲線」というときは,公訴事実と同様に分岐内曲線及びその前後の曲線を含まない。また,括弧内に認定事実に関する主要な証拠を示した。甲,乙に続く番号は,証拠等関係カード甲,乙における検察官請求証拠の番号,弁に続く番号は,証拠等関係カード(書)における弁護人請求証拠の番号である。)。 第1 JR西日本における被告人の職務及び組織等 1 被告人の職務被告人は,昭和41年4月に国鉄の技術系職員として採用され,運転系統を中心とした職務に就き,昭和62年4月にJR西日本が発足した際に新幹線運行本部運輸部長となり,その後,昭和63年10月に鉄道本部運行管理部長,平成3年6月にJR西日本福岡支社長,平成5年4月20日に鉄道本部副本部長兼安全対策室長となり,平成8年6月20日から鉄道本部長となるとともに,常務取締役として「安全問題に関すること」を分担することとされ,社内の安全対策委員会の委員長にも就任した。被告人は,平成9年6月27日から安全対策室長を兼務したが,平成10年6月26日,JR西日本を退職してこれらの役職を退いた。この間の平成9年3月に開業したJR東西線については,被告人は開業準備総合対策本部長等を務めていた。 鉄道事業法施行規則76条(平成18年7月14日国土交通省令第78号 してこれらの役職を退いた。この間の平成9年3月に開業したJR東西線については,被告人は開業準備総合対策本部長等を務めていた。 鉄道事業法施行規則76条(平成18年7月14日国土交通省令第78号による改正前のもの)は,「鉄道事業者は,鉄道施設及び車両並びに列車の運行の安全の確保に関する技術上の事項を統括管理させるため,鉄道主任技術者を選任しなければならない。」と定めていたところ,被告人は,平成8年6月1日から平成10年 6月26日までの間鉄道主任技術者であった。 被告人は,JR西日本を退職した後,関連会社の代表取締役副社長,社長を務め,本件事故後の平成17年5月にJR西日本の顧問となり,同年6月にはJR西日本の代表取締役副社長,平成18年2月には代表取締役社長となったが,本件起訴後,社長を退いた。 2 JR西日本における組織及び分掌事務JR西日本においては,平成5年5月以降,本社に総合企画本部(平成6年6月1日に経営企画部に名称変更),鉄道本部,建設工事部等の本部,部及び室を置き,鉄道本部には,安全対策室,営業部,運輸部,車両部,施設部及び電気部を置くものとされ,鉄道本部に置かれる本部長は,社長の指揮を受けて主管業務を統括するものとされた。 本社の地方機関として10支社が置かれたが,各支社にはいずれも安全対策室が設けられていた。福知山線中,尼崎駅・新三田駅間を所管するのは大阪支社であった。 本社安全対策室の分掌事項には「運転事故の防止に関すること」「運転保安設備の整備計画に関すること」「安全に係わる部外との調整に関すること」「その他安全に係わる事項に関すること」が含まれ,ATSに関する事項も本社安全対策室の分掌事項に含まれる。各支社安全対策室の分掌事項には「運転事故の防止及び処理に関すること」「安全に係わる部 こと」「その他安全に係わる事項に関すること」が含まれ,ATSに関する事項も本社安全対策室の分掌事項に含まれる。各支社安全対策室の分掌事項には「運転事故の防止及び処理に関すること」「安全に係わる部外との調整に関すること」「その他安全に係わる事項に関すること」が含まれていた。 第2 本件事故の発生 1 福知山線の概要福知山線は,尼崎駅を起点として福知山駅に至るJR西日本の路線であり,平成17年4月当時,福知山線では,東海道線の大阪方面並びにJR東西線(京橋駅・尼崎駅間)及び片町線(木津駅・京橋駅間)との直通運転が行われていた。東海道線の大阪駅から福知山線の篠山口駅までの間は,「JR宝塚線」との愛称が用いら れている。 2 本件事故の経緯(1) JR西日本のA運転士は,平成16年5月14日甲種電気車運転免許を取得し,同月18日大阪支社京橋電車区に着任し,福知山線を含む路線で電車を運転していた。 (2) A運転士は,平成17年4月25日午前6時56分,森ノ宮電車区はなてん放出派出所から出庫させた片町線放出駅発松井山手駅行き上り回送列車(207系電車7両編成,各車両長20m)の運転を開始して松井山手駅に到着し,引き続いて,同じ編成を使用して折り返し方向に進行する松井山手駅発京橋駅行き下り区間快速列車,京橋駅発尼崎駅行き下り普通列車(前記列車がそのまま下り方向に進行するもの),尼崎駅発宝塚駅行き下り回送列車(前記列車が回送列車となって下り方向に進行するもの)を運転し,同日午前8時56分ころ宝塚駅に到着した。 A運転士は,同日午前9時4分ころ,上記編成を使用した宝塚駅発同志社前駅行き上り快速列車(本件列車)に乗務し,定刻より約15秒遅れで宝塚駅を発車した。 本件列車は,宝塚駅を発車後,中山寺駅,川西池田駅に停車し は,同日午前9時4分ころ,上記編成を使用した宝塚駅発同志社前駅行き上り快速列車(本件列車)に乗務し,定刻より約15秒遅れで宝塚駅を発車した。 本件列車は,宝塚駅を発車後,中山寺駅,川西池田駅に停車し,北伊丹駅を通過して伊丹駅に停車した後,いなでら猪名寺駅及び塚口駅を通過して,尼崎駅に到着する予定であった。 本件列車は,伊丹駅での停車の際,所定停止位置を約72m行き過ぎて停止し,所定停止位置近くに後退した上で,同16分10秒ころ,同駅を定刻より約1分20秒遅れて出発した。本件列車は,その後りっこう力行を続け,同17分39秒ころ速度約111km/hで猪名寺駅を通過したが,同18分9秒ころ,塚口駅の手前約400mで速度123ないし124km/hに至った際,力行をやめるとともに,常用ブレーキの1ノッチ(最小1ノッチ・最大8ノッチ)が約2秒間使用されて,惰行を開始し,同22秒ころ,速度約122km/hで塚口駅を通過した。 なお,本件列車の1両目の速度計には,実際の速度より小さく表示される誤差があり,表示速度が120km/h程度にあるときは,実際の速度はそれよりも2ない し3km/h 高いものとなっていた。 (3) 本件列車は,そのまま惰行を続け,同50秒,速度約115km/hで緩和曲線(右曲線)に進入し,その後常用ブレーキ1ないし4ノッチを経て5ノッチが使用されたものの,その効果の生じないうちに,同52秒,速度約115km/hで半径304mの円曲線に進入した。本件列車の1両目と2両目は,円曲線進入後,内軌道車輪が浮きあがった状態となり(円曲線進入の直前に常用ブレーキ7ノッチが使用され,1.9秒後に同8ノッチが使用された。),その状態から横転を始め,車両の屋根側方が電柱に衝突し,ほぼ同時に外軌側に脱線して落輪し,横転しなが となり(円曲線進入の直前に常用ブレーキ7ノッチが使用され,1.9秒後に同8ノッチが使用された。),その状態から横転を始め,車両の屋根側方が電柱に衝突し,ほぼ同時に外軌側に脱線して落輪し,横転しながら軌道を逸脱し,1両目は,線路脇のマンション1階の壁に衝突し,2両目は,同マンションの柱と衝突して車体断面がひし形に変形した。3両目は,横転を免れたものの,前部が2両目と衝突し,後部には4両目が乗り上がり,列車進行方向に対して,反時計回りに回転して前後が逆になって停止し,4両目及び5両目も脱線して停止したが,6両目及び7両目は脱線せずに停止した。この間,非常ブレーキの操作はされなかった。 以上の事故により,本件列車の乗客106名が死亡し,訴因変更後の公訴事実記載の乗客493名が負傷した。 第3 本件事故の直接原因とATSによる本件事故の結果回避可能性 1 本件事故現場付近の概要本件事故現場付近は,右曲線区間であり,上り1キロk949m(尼崎駅起点の実測キロ程,以下同じ。)から上り1k889mまでの60mが緩和曲線,その前方上り1k702mまでが半径304mの円曲線(軌間1067㎜,スラック10mm,カント97㎜),その前方上り1k642mまでが60mの緩和曲線である(以下で「本件曲線」とは,上記各緩和曲線と円曲線を併せた曲線区間のことをいう。)。 本件曲線内の上り1k682mには,第一しんよこまくら新横枕踏切どう道がある。 伊丹駅(駅中心・上り6k200m)から本件曲線入口(上り1k949m)ま では,ほぼ直線で平坦な区間である。これに対し,本件曲線の前方は,東海道線上り外側線をまたぐトラス橋へ向かう上り勾配であり(上り1k731m(本件曲線内)から1.5パーミル‰,上り1k605mから8‰,上り1 坦な区間である。これに対し,本件曲線の前方は,東海道線上り外側線をまたぐトラス橋へ向かう上り勾配であり(上り1k731m(本件曲線内)から1.5パーミル‰,上り1k605mから8‰,上り1k516mから1k265mまで23.0‰の各上り勾配),トラス橋を含む上り1k190mから上り0k650mまでの区間に半径300mと同225mの連続する左曲線が存在し,曲線区間内の上り0k753mからは尼崎駅に向かう22.3‰の下り勾配であり,本件曲線前方から尼崎駅までは,曲線を含む起伏のある区間である。 2 本件曲線の制限速度(1) JR西日本の在来線については,運転取扱実施基準規程に基づく列車運転速度表により,列車の最高速度が定められたほか,曲線,分岐器の箇所,下り勾配の区間における制限速度が定められていた。これらの速度制限が複数適用される区間については,最も低い制限速度がその区間における実質的な制限速度となる。このほか信号現示による速度制限,速度制限標識による速度制限がされる場合などがある。 なお,運転作業要領において,「運転士は,列車が遅延したときは,許された速度の範囲内で,これの回復に努めること」と定められている。 (2) 列車の最高速度は,最高運転速度と車両形式別の最高許容速度のいずれか低い方であり,本件事故当時,列車運転速度表による福知山線尼崎駅・新三田駅間の電車列車(旧型電車列車を除く。)の最高運転速度は120km/hであり,207系電車の最高許容速度も120km/hであったから,本件列車の最高速度は120km/hであり,伊丹駅の出発から本件曲線入口までの区間において特別な速度制限はなかった。 曲線の制限速度については,列車運転速度表により基本の速度及び特別の速度が定められていた。基本の速度は,曲線半径に応じ ,伊丹駅の出発から本件曲線入口までの区間において特別な速度制限はなかった。 曲線の制限速度については,列車運転速度表により基本の速度及び特別の速度が定められていた。基本の速度は,曲線半径に応じて定められる速度であり,特別の速度は,線区ごと,列車ごとに定められる指定する速度を基本の速度に加えて得た速度である。曲線における制限速度は,列車の最前部が曲線区間に入る時から,列 車の最後部が曲線区間を抜ける時まで適用される。 本件曲線の基本の速度は,電車列車,気動車列車及び機関車列車につき65km/hであり,福知山線において207系電車を含む電車列車の指定する速度は5km/hであって特別の速度が70km/hとなるほか,後記のとおり,本件曲線には制限速度を70km/hとする速度制限が定められ,速度制限標識に表示された制限速度は70km/hであったから,本件曲線における本件列車の制限速度は70km/hであった。 分岐器の箇所においても,直線側を通過するときの制限速度と分岐側を通過するときの制限速度が定められていたが,曲線の制限速度は列車ごとに一定であるのに対し,分岐器の箇所の制限速度は,実際の開通方向により異なることに特徴がある。 3 A運転士の運転態様(1) 本件列車のランカーブ(列車の効率的な運転を計画するため,走行位置の変化に従い経過時間と速度を継続的に計算したグラフ)は,塚口駅(駅中心・上り2k872m)を惰行で115km/h超で通過した後,同駅中心から約340m進行した付近から一挙に減速し,曲線入口で70km/hまで減速するという内容であり,ランカーブ上の速度を前提とすると,空走時間を考慮したブレーキ操作の基準点は上り2k600m付近である。 本件事故当時の福知山線上り快速列車については,塚口駅手前から惰行し, るという内容であり,ランカーブ上の速度を前提とすると,空走時間を考慮したブレーキ操作の基準点は上り2k600m付近である。 本件事故当時の福知山線上り快速列車については,塚口駅手前から惰行し,同駅の上り出発信号機(上り2k690m)の通過後に常用ブレーキの使用を開始するのが標準的な運転手順であったと考えられる。 (なお,後記のとおり,本件曲線入口(上り1k949m)には,速度制限標識が設けられていたが,上記のような運転手順において,運転士がこの速度制限標識を視認してから常用ブレーキの操作を開始することは想定されない。)(2) それにもかかわらず,A運転士が,塚口駅の手前で惰行に転じた後,本件曲線に進入するまでの間に常用ブレーキを一切使用しなかっただけでなく,非常ブレーキも使用しないまま制限速度を約45km/h超えて本件列車を本件曲線に進入 させ,本件曲線進入後も当初5ノッチまでの常用ブレーキを使用したにとどまり,直ちに常用最大ブレーキあるいは非常ブレーキの使用をしなかったことは異常な運転操作であった。 4 本件事故の直接原因本件列車について,本件曲線内の円曲線部における先頭車両の転覆限界速度(列車が内側輪重を喪失し,外側への転覆を開始する曲線通過速度)は,おおむね105km/hから110km/h程度で,108km/h前後であった可能性が高く,本件列車がこれを上回る速度で上記円曲線に進入し転覆に至ったことが本件事故の直接原因である。 なお,列車の転覆限界速度は,曲線の諸元のみならず,車両の種類,乗客数,風速等により異なり得るものであり,曲線ごとに一定なものではない。 5 ATSによる本件事故の結果回避可能性(1) 本件事故当時,JR西日本管内の在来線に整備されていたATS-P及びATS-SWは,いず 異なり得るものであり,曲線ごとに一定なものではない。 5 ATSによる本件事故の結果回避可能性(1) 本件事故当時,JR西日本管内の在来線に整備されていたATS-P及びATS-SWは,いずれも列車の速度照査機能を有しており,本件事故当時,JR西日本管内の105か所には,曲線速度照査機能のあるATS-P又はATS-SW,あるいはその双方が設置されていた。 (2) ATS-Pの曲線速度照査機能は,速度制限地点の手前に速度制限区間入口までの距離,速度制限区間長,制限速度等から構成される速度制限情報を伝達する地上子を設置し,その上を列車(車上子)が通過すると,同装置において制限速度まで減速させるための上限速度の連続的下降変化(照査パターン)を車上装置に記憶させ,列車速度が地上子を通過後,照査パターンを超えた場合には,常用最大ブレーキを作動させ,照査パターン速度まで減速すると,同ブレーキを自動的に解除するというものである。 ATS-SWの曲線速度照査機能は,速度制限地点の手前に一定間隔を持った一対の地上子を設置し,車上子を有する列車が通過に要する時間により列車の速度を検知し,地上子に設定された速度を上回る速度で列車が通過した場合は,即時に非 常ブレーキを作動させ列車を停止させるというものである。ATS-Pにおいて列車が照査パターン速度まで減速した場合,常用ブレーキが解除されるのと異なり,ATS-SWにおいては列車の停止まで非常ブレーキが作動する。 なお,ATS-SWによる速度照査の場合は,地上子通過時に設定速度を上回らない限り非常ブレーキは作動しないため,曲線に至るまで段階的に設定速度を変えた複数の地上子の対を設定するのが通例である。 (3) 本件事故当時,本件曲線に曲線速度照査機能のあるATS-SWは整備されておら 常ブレーキは作動しないため,曲線に至るまで段階的に設定速度を変えた複数の地上子の対を設定するのが通例である。 (3) 本件事故当時,本件曲線に曲線速度照査機能のあるATS-SWは整備されておらず,後記のとおり福知山線尼崎駅・新三田駅間のATS-P整備に伴って本件曲線にも曲線速度照査機能のあるATS-Pが整備される予定であったものの,本件事故当時は工事中であり,その使用は開始されていなかった。 しかし,本件列車はATS-P及びATS-SWの車上装置を搭載しており,本件事故当時,各車上装置に異常はみられなかったから,本件事故当時,仮に本件曲線の手前の適切な位置に曲線速度照査機能のあるATS-P又はATS-SWのいずれか,あるいは双方の地上子が整備され(①ATS-Pの場合は,本件曲線入口手前411mから444m地点に地上子を設置し,②ATS-SWの場合は,同入口手前347.5mから380.9m地点に設定速度120km/hの地上子を設置し,同入口手前268.7mから299.2m地点に設定速度110km/hの地上子を設置すればよい。),当該ATSの使用が開始されていたとすれば,上記のような本件曲線手前におけるA運転士の異常な運転操作があったとしても,ATS-PあるいはATS-SWの速度照査機能により,本件曲線入口までに,制限速度近くまで本件列車を減速させることは可能であり,本件事故の発生を回避することができた。 (4) 仮に,JR西日本が本件曲線のみに上記のようなATS-PあるいはATS-SWの地上子を整備するとすれば,その工事費用は,ATS-Pの場合で80万円程度,ATS-SWの場合で80万円(2段制御)から120万円(3段制御)程度であった。 第4 JR西日本における曲線へのATS整備の状況 1 国鉄におけるATS Pの場合で80万円程度,ATS-SWの場合で80万円(2段制御)から120万円(3段制御)程度であった。 第4 JR西日本における曲線へのATS整備の状況 1 国鉄におけるATSの整備国鉄は,昭和37年5月に発生した三河島駅事故を契機として全国の一般線区に自動列車停止装置であるATS-S形(以下「ATS-S」という。),東京,大阪の国電区間にATS-B形(以下「ATS-B」という。)を導入し,昭和41年までに全国の在来線への整備を終えた。 ATS-Sの基本的な機能は,地上に設置された地上子と列車に搭載された車上子の間の変周作用を利用し,停止信号を現示する信号機の外方の地上子を車上子が通過した場合に列車の前方信号機の現示が停止現示であることを運転士に警報し,5秒以内に運転士による確認扱いのないまま進行した場合,自動的に非常ブレーキを作動させるというものであり,地上子には,信号機の500mから900m程度手前に設置されていたロング地上子と絶対信号機(場内信号機及び出発信号機)の約20m(車両長に相当する。)前に整備されていた直下地上子があった。ATS-Bは,地上子を用いず,軌道回路の電圧・電流分布を利用して,停止信号を現示する信号機の外側一定の距離に列車が接近したときに,ATS-Sと同様に車上装置に警報を与えるなどするものであった。 運転士の確認扱いに依存するこれらのATSは,確認扱い後の取扱い誤りを防止できないなどの信号冒進防止の面での問題を有していたが,停止信号を現示する信号機の手前の区間で速度照査を行えば,確認扱いを廃した信号冒進防止が可能であり,後記のとおり,運輸省(当時)は,昭和42年,民鉄に対して停止信号現示の場合に多段階の速度照査をする機能を有するATSの設置を求める通達を発し,大手民鉄を中心と いを廃した信号冒進防止が可能であり,後記のとおり,運輸省(当時)は,昭和42年,民鉄に対して停止信号現示の場合に多段階の速度照査をする機能を有するATSの設置を求める通達を発し,大手民鉄を中心としてその整備が進められ,さらに一部民鉄では曲線速度照査機能のあるATSの整備がされた。 しかし,国鉄においては,ATS-S,ATS-Bについて上記通達で求められたような速度照査機能が開発されることはなく,ループコイルとATS-Sの地上子を組み合わせて用いる地上タイマー方式の分岐器速度制限警報装置(確認扱いを 行うもの)が開発整備されたにとどまっていた。 2 ATS-Pの開発経緯(1) 国鉄は,昭和48年12月に関西線平野駅において分岐器の大幅な速度超過による脱線事故が発生したことを契機に速度照査機能のある改良形ATS(現在のATS-Pとは異なるが,当時「ATS-P」と呼ばれた。)を開発し,昭和55年11月から関西線で試行を開始したが,信号情報等の電送手段が変周式であったため伝送情報量に限界があり,本格的な採用には至らなかった。 昭和53年5月17日付けATS幹事会名義の「改良形ATSによる曲線及び分岐器における制限速度超過事故防止対策の検討結果について」と題する文書には,「速度85km/h以下の列車については半径300m以上の曲線では列車の最高速度照査機能(ATSの基本機能)のみでよい。」「速度95km/h以上の列車については半径450m以上の曲線では列車の最高速度照査機能のみでよく,それ以下の半径の曲線については速度照査の必要がある。」との記載があり,同年7月10日付けの「改良形ATSの基本方式と今後の進め方について」と題する文書には,曲線での速度制限の対象は曲線半径300mから450mとする,曲線制限速度超過防止機能 ある。」との記載があり,同年7月10日付けの「改良形ATSの基本方式と今後の進め方について」と題する文書には,曲線での速度制限の対象は曲線半径300mから450mとする,曲線制限速度超過防止機能については,現車試験の結果を踏まえてその適用方を決定するなどの記載がある。 上記の施行後である昭和57年9月6日付けATS専門委員会名義の「ATS-P形の長期試行結果と実用化システムについて」と題する文書には,事故防止の機能として,①信号冒進による事故の防止,②列車の最高運転速度超過による事故の防止,③制限速度超過による事故の防止,④勾配区間における自然退行による事故の防止が挙げられており,上記③に関しては,列車が転覆限界速度を超えないよう「制限速度45km/h以下の分岐器」「曲線半径450m以下の特に必要と思われる曲線」を適用対象とする旨整理されているが,「特に必要と思われる曲線」が具体的にどのような条件を満たす曲線であるかを記載した部分は見当たらない。昭和57年11月18日付け第119回鉄道安全会議資料「改良形ATSについて」と 題する文書にも同様の記載がある。 (2) 国鉄は,その後,昭和59年10月に山陽線西明石駅において寝台列車が分岐器の箇所の制限速度を超過して脱線する事故が発生したのを契機として,デジタル符号伝送のできるトランスポンダ式のATSの開発を行い,これがその後新たに「ATS-P」と称されることになった。このATS-Pは,信号冒進防止対策としても速度照査を行うものであり,その開発当初から,分岐器,曲線,下り勾配での速度超過防止機能を有していた。 国鉄は,昭和62年3月に寝台特急列車の脱線事故対策として,ATS-Pの分岐器速度制限機能等を東海道線・山陽線の4駅に整備し,電気機関車に車上装置を搭載した。線区単 度超過防止機能を有していた。 国鉄は,昭和62年3月に寝台特急列車の脱線事故対策として,ATS-Pの分岐器速度制限機能等を東海道線・山陽線の4駅に整備し,電気機関車に車上装置を搭載した。線区単位での整備は,昭和63年12月に京葉線(JR東日本管内)で行われたのが最初である。 3 JR西日本による本件事故前のATS-P整備の経緯(1) JR西日本が設立された昭和62年4月当時,在来線の一部区間には,ATS-Bが単独あるいはATS-Sと併せて整備されており,福知山線を含むその他の線区には,ATS-Sが整備されていたが,これらのATSは曲線速度照査機能を有していなかった。 JR西日本は,国鉄時代に開発されたATS-Pを在来線に整備する検討を進めており,その際,曲線もATS-P整備対象とすることが検討されていた。JR西日本の本社安全対策室及び運輸部が作成した昭和63年7月5日付けの「ATS-P形基本機能(安全性の向上)に対する動作概要(案)」と題する書面には,分岐器の制限速度の項目に関し,「分岐側の制限速度を60km/h以下の分岐器を目途」との記事が付されており,曲線の制限速度の項目に関し,「曲率半径が450m以下の必要と思われる曲線」との記事が付されている。 (2) JR西日本は,平成元年3月の経営会議において,高密度運転線区を対象としてATS-Pの導入方針を決定し,阪和線(天王寺駅・日根野駅間),大阪環状線,関西線(王寺駅・湊町駅(現在のJR難波駅)間),東海道線・山陽線(京 都駅・西明石駅間),片町線(片町駅・四条畷駅間)を対象と定め,まず阪和線(天王寺駅・おおとり鳳駅間)及び大阪環状線への整備を決定したが,福知山線は,ATS-P整備の対象とされなかった。なお,関西線及び東海道線・山陽線の一部区間並びに片 )を対象と定め,まず阪和線(天王寺駅・おおとり鳳駅間)及び大阪環状線への整備を決定したが,福知山線は,ATS-P整備の対象とされなかった。なお,関西線及び東海道線・山陽線の一部区間並びに片町線は,それぞれ大和路線,JR京都線・JR神戸線,学研都市線との愛称を有する。 JR西日本は,平成2年8月,阪和線の一部区間(天王寺駅・鳳駅間上り線)でATS-Pの使用を開始し,その後のATS-P整備の意思決定を受け,平成6年5月までの間に,阪和線(天王寺駅・日根野駅間),大阪環状線及び関西線(王寺駅・湊町駅間)でその使用を開始するに至った。 このATS-P整備に際しては,絶対信号機のみならず,閉そく信号機にATS-Pが整備されたほか,速度制限のある分岐器及び曲線(すべての列車が停車する駅構内の曲線等を除く半径450m未満の曲線)について速度照査機能のあるATS-Pが整備された。ATS-Pは機能的には下り勾配に整備可能であったものの,整備は行われなかった。 JR西日本は,平成5年12月の経営会議において,在来線に整備が進められていた後記のATS-SWの機能を使用しつつ,絶対信号機と特に危険度の高い閉そく信号機にATS-Pを設置する方式(従前のATS-P整備方式が「全線方式」「全線P方式」などと称されるのに対し,「拠点方式」「拠点P方式」などと称される。)を採用する方針を決定した。拠点方式では一般の閉そく信号機についてはATS-SWによる防護がされる。 JR西日本は,その後,平成6年1月に拠点方式による片町線(松井山手駅・京橋駅間)のATS-P整備を決定し,平成7年7月に片町線(松井山手駅・しぎの鴫野駅間)で使用を開始し,平成9年3月に片町線の残る区間(鴫野駅・京橋駅間)で使用を開始したが,拠点方式においても,速度制限のある曲 S-P整備を決定し,平成7年7月に片町線(松井山手駅・しぎの鴫野駅間)で使用を開始し,平成9年3月に片町線の残る区間(鴫野駅・京橋駅間)で使用を開始したが,拠点方式においても,速度制限のある曲線へのATS-Pの整備について変更はみられず,片町線においても半径450m未満の曲線にATS-Pが整備された。 さらに,JR西日本は,平成9年9月,東海道線・山陽線(当初の計画範囲より広い米原駅・あぼし網干駅間)についても拠点方式によるATS-P整備を決定した。この整備を実施した取締役会での資料では,工事費は72億3400万円,工期は平成9年9月から平成13年2月とされており,このうち曲線へのATS-P地上子設置に要する費用は合計で960万円程度であった。 JR西日本は,上記の整備決定がされた東海道線・山陽線について,平成11年3月に山科駅・神戸駅間,神戸駅・兵庫駅間でATS-Pの使用を開始し,平成14年10月の京都駅の使用開始に至るまで順次整備を進めた。さらに,片町線については,平成11年2月に京田辺駅・松井山手駅間(単線区間)にATS-Pを整備する旨を決定し,平成14年3月に使用を開始した。 拠点方式導入後も,第三セクターによりATS-P整備の意思決定がされた関西空港線(平成6年6月使用開始)及びJR東西線(平成9年3月使用開始)では全線方式による整備がされ,曲線については,JR西日本と同様に半径450m未満の曲線を対象として整備がされたほか,大阪環状線と接続する桜島線においても全線方式によるATS-Pの整備がされた(平成11年3月使用開始)。 以上の整備により,JR西日本管内において本件事故前に原則として半径450m未満の曲線を対象として88か所(うち1か所は半径800mの曲線を対象とするもの)にATS-Pが 11年3月使用開始)。 以上の整備により,JR西日本管内において本件事故前に原則として半径450m未満の曲線を対象として88か所(うち1か所は半径800mの曲線を対象とするもの)にATS-Pが整備された。ただし,桜島線には曲線の整備箇所がない。 4 JR西日本による本件事故前のATS-SW等の整備の経緯(1) JR西日本は,上記のとおり,平成元年に高密度運転線区を対象とするATS-P整備の方針を決定し,平成14年までに当初の整備予定区間におけるATS-P整備を終えたが,これと並行して,福知山線を含めた在来線へのATS-SWの整備を進めた。 ATS-SWは,ATS-Sを改良して絶対信号機の直下地上子に運転士の確認扱いを排除した即時停止機能等を追加したATSであり,JR西日本は,平成2年度から在来線のATS-SのATS-SWへの置き換え,追加配置等を進めた(全 線方式によりATS-Pの整備された一部区間を除く。)。その後,この機能を拡張して,出発信号機の直下地上子よりさらに内方の第2直下地上子や入換信号機内方に直下地上子を設けることで,誤出発した列車又は車両が信号機を冒進することを防止する誤出発防止機能が開発され,平成5年度から在来線への整備が開始された。 ATS-SWは,車両の速度照査タイマーに併せて車上速度照査用地上子を設置することで速度照査が可能であり,そのほか速度照査用地上子と列車選別及び列車検知用地上子を組み合わせることで車上速度照査機能のない車両でも速度照査を行うことが可能であった。JR西日本は,平成2年度から速度照査機能のあるATS-SWの分岐器への整備を開始し(当初整備されたのは地上側で速度照査を行い警報のみを発する機能を有するものであり,平成4年度から車上側で速度照査をして列車を停止させる機能を 速度照査機能のあるATS-SWの分岐器への整備を開始し(当初整備されたのは地上側で速度照査を行い警報のみを発する機能を有するものであり,平成4年度から車上側で速度照査をして列車を停止させる機能を有するものの整備が開始された。),平成4年度からは行き止まり線にも速度照査機能のあるATS-SW整備を開始し,平成9年度からは,当時,一部線区においてATS-Pと併用されていたATS-BについてATS-SWとの置き換えを開始した。 (2) ATS-SWの速度照査機能を用いれば,曲線で速度照査をすることは技術的に可能であったが,JR西日本は,上記のとおり路線単位でのATS-Pの整備が決定され,路線単位の整備に伴って曲線にATS-Pを整備することが見込まれていた曲線も含めて,曲線速度照査機能のあるATS-SWを整備することはなかった。 しかし,JR西日本は,平成13年度に曲線へのATS-SWへの整備を検討し,線区最高速度が130km/hの区間の半径600m未満の曲線にATSを整備することとし,平成14年3月にATS-P整備対象線区である山陽線の曲線3か所についてATS-SWを設置し,平成15年2月から3月にかけて同一曲線にATS-Pを設置するとともに,同年3月に同様にATS-P整備対象線区である東海道線の曲線3か所にATS-P及びATS-SWを設置し,北陸線の曲線11か所に ついてATS-SWを設置した。ATS-SW等の整備がされたのは北陸線では半径400m以上,東海道線・山陽線では半径500m以上の曲線であり,東海道線・山陽線においてATS-Pの整備された半径450m未満の曲線にATS-SWが整備されることはなかった。 5 福知山線へのATS-P整備の決定(1) 東海道線・山陽線(米原駅・網干駅間)へのATS-P整備は平成 S-Pの整備された半径450m未満の曲線にATS-SWが整備されることはなかった。 5 福知山線へのATS-P整備の決定(1) 東海道線・山陽線(米原駅・網干駅間)へのATS-P整備は平成14年度に完了し,JR西日本は,平成15年9月29日の経営会議において,福知山線(尼崎駅・新三田駅間)に拠点方式によりATS-Pを整備する決定をした。福知山線においては,これまで路線単位でATS-Pが整備された路線とは異なり,半径600m未満の曲線にATS-Pを整備することが計画されており,本件曲線についても曲線速度照査機能を有するATS-Pが整備されることになっていたが,本件事故当時,その使用は開始されていなかった。 (2) ATS-P及びATS-SWの各車上装置に互換性はなく,上記のとおり,福知山線や東海道線にはATS-SWの整備がされたが,JR東西線は全線方式によるATS-Pの整備はされたものの,ATS-SWの整備はされていなかったため,本件事故当時,本件列車のように福知山線とJR東西線を走行する列車にはATS-P及びATS-SWの各車上装置が必要であったが,福知山線と東海道線を走行する列車にはATS-P車上装置は必ずしも必要ではなかった。 福知山線を走行する電車列車のうちATS-P車上装置を搭載していたものの割合は,①平成8年4月1日時点で16.8%(総運転本数に占めるATS-P搭載車両割合28.7%)であったが,JR東西線の開業に伴い平成9年3月8日に行われた本件ダイヤ改正に際して207系電車が福知山線に多数配置されるとその割合が上昇し,②平成9年4月1日時点で59.4%(同59.3%),③平成10年4月1日時点で59.3%(同51.1%),④平成11年4月1日時点で64. 3%(同57.7%)となり,⑤上記ATS-P整備を決定 し,②平成9年4月1日時点で59.4%(同59.3%),③平成10年4月1日時点で59.3%(同51.1%),④平成11年4月1日時点で64. 3%(同57.7%)となり,⑤上記ATS-P整備を決定する前の平成15年4月1日時点では84.0%(同87.9%),⑥本件事故前の平成17年4月1日 時点では93.2%(同83.3%)に達していた。 なお,JR西日本は,上記のようなATS-SWの地上設備の整備開始に伴い,ATS-SW車上装置の整備を進めており,少なくとも平成8年4月1日以降,福知山線を走行する電車列車は,すべてATS-SW車上装置を有していた。 6 JR西日本による曲線へのATS整備状況の整理本件事故当時,JR西日本管内において速度制限のある曲線は7749か所存在したが,以上のATS整備の結果,①ATS-Pが設置されたのは88か所(1か所を除き半径450m未満の曲線),②ATS-SWが設置されたのが11か所(北陸線の半径400mから500mの曲線),③両方が設置されたのが6か所(東海道線・山陽線の半径500mから580mの曲線)であり,合計105か所に曲線速度照査機能を有するATSが整備された。このうち検察官過失主張期間までにATSが整備されたのは,①のうち65か所である(平成9年3月開業のJR東西線の13か所についても平成8年11月に設置は完了していた。)。 第5 他の鉄道事業者のATS整備の状況 1 JR他社による曲線へのATS整備の状況(1) JR各社中,本件事故前に在来線に曲線速度照査機能のあるATSを整備していたのはJR西日本のほか,JR東日本及びJR東海であり,それぞれの設置箇所は,JR東日本が速度制限のある曲線1万7237か所中591か所,JR東海が同様の曲線1680か所中8か所であった 整備していたのはJR西日本のほか,JR東日本及びJR東海であり,それぞれの設置箇所は,JR東日本が速度制限のある曲線1万7237か所中591か所,JR東海が同様の曲線1680か所中8か所であった。 (2) JR東日本は,京葉線においてATS-Pの整備を開始し(昭和63年12月使用開始),京葉線では曲線にATS-Pの設置はされなかったものの,その後,在来線の線区単位でのATS-P整備に付随して,原則として曲線において特別の制限速度が定められ,列車を問わず速度制限が同一となる曲線にATS-Pの設置をしていた。速度制限が同一となる曲線が対象とされたのは,JR東日本においては制限速度が異なる曲線にATS-Pを整備した場合,性能の低い列車に合わせた速度照査をせざるを得ず,性能の高い列車の曲線走行性が阻害されるためであ った。 さらにJR東日本は,ATS-Ps形(以下「ATS-Ps」という。)を開発し,仙山線(仙台駅・あやし愛子駅間)において整備を開始し(平成13年12月使用開始),順次,仙台・新潟近郊の線区にATS-Psを整備し,これに付随して上記のような曲線にATS-Psを整備した。 なお,JR東日本及びJR北海道で用いられていたATS-S改良形のATS-SN形(以下「ATS-SN」という。)によっても速度照査は可能であるが,JR東日本は,本件事故に至るまで曲線にATS-SNを整備することはなかった。 (3) JR東海は,JR西日本やJR東日本と異なり,本件事故前にATS-Pを導入しておらず,速度照査機能のあるATS整備の開始は,JR東日本やJR西日本より遅れたが,平成5年ころから,ATS-Sの改良形であり,ATS-SWとほぼ同様の機能を有するATS-ST形(以下「ATS-ST」という。)を信号機,続いて行き止まり 始は,JR東日本やJR西日本より遅れたが,平成5年ころから,ATS-Sの改良形であり,ATS-SWとほぼ同様の機能を有するATS-ST形(以下「ATS-ST」という。)を信号機,続いて行き止まり線について整備し,その後,分岐器及び曲線への整備を開始した。 JR東日本及びJR西日本が路線単位のATS-P整備に際して路線内の一定の曲線にATS-Pを整備していたのに対し,JR東海は,従前の分岐器の箇所や曲線での脱線事故を分析し,曲線についてランカーブにおける曲線手前のブレーキ初速と曲線制限速度の差が40km/hという設置基準を定め,JR東海管内の5か所の曲線(半径300mから同500m)にATS-STを整備するとともに,運転士らからの聴き取り結果に基づいて,下り勾配の先等の曲線3か所(半径300mから同540m)にATS-STを整備し,平成10年2月から平成11年2月にかけて使用開始した。JR各社において,ATS-S改良形のATSを曲線に整備したのは,JR東海が最初であった。 (4) JR北海道,JR四国及びJR九州は,いずれも速度照査機能のあるATS-S改良形のATS(-SN,SS,SK)を導入していたが,本件事故前には曲線にこれらのATSを整備していなかった。 2 民鉄による曲線へのATS整備の状況(1) 運輸省(当時)は,昭和42年に民鉄向けに信号機での停止点に対して多段階の速度照査をしながら信号機手前で停止させる機能を有するATSの整備を求めた通達(「自動列車停止装置の設置について」)を発出し,これを受けて大手民鉄を中心に信号機での速度照査機能のあるATSの設置が進められており,一部民鉄は,曲線速度照査機能のあるATS整備を行っていた。 本件事故後の国土交通省からの調査依頼に対して回答をした民鉄113社中 を中心に信号機での速度照査機能のあるATSの設置が進められており,一部民鉄は,曲線速度照査機能のあるATS整備を行っていた。 本件事故後の国土交通省からの調査依頼に対して回答をした民鉄113社中,速度制限のある曲線にATSを整備していたのは,黒部峡谷鉄道(125か所),北越急行(9か所),京浜急行電鉄(5か所),上信電鉄(11か所),名古屋鉄道(61か所),伊豆箱根鉄道(1か所),中部国際空港連絡鉄道(1か所),さんぎ三岐鉄道(ほくせい北勢線の4か所),京阪電気鉄道(14か所,後記のとおり実際には17か所),阪神電気鉄道(10か所),近畿日本鉄道(45か所),近江鉄道(2か所)及び山陽電気鉄道(2か所)の13社であった。 このうち京浜急行電鉄,名古屋鉄道,京阪電気鉄道,阪神電気鉄道及び近畿日本鉄道の5社が大手民鉄に分類される。なお,検察官過失主張期間当時,三岐鉄道北勢線は近畿日本鉄道の路線であり,中部国際空港連絡鉄道は開業していない。 (2) 京浜急行電鉄は,昭和40年代に軌道回路の瞬断により停止地点の手前での段階的な速度照査を行う機能を有するATS(1号型ATS)の導入整備をしており,本件事故後,上記のとおり5か所の曲線にATSを整備していた旨の報告をしたが,これは曲線先に設置された信号機の冒進対策として速度照査を行うに際して,停止現示の信号機までに列車が停止できる速度まで減速させるため曲線内方等に速度照査地点を設けたものであり,照査速度は曲線の制限速度に対応させておらず,大幅な制限速度超過による曲線への列車の進入を防止することはできないものであった。 名古屋鉄道は,昭和40年代から速度照査機能のあるATSを整備しており,中部国際空港連絡鉄道のATSも名古屋鉄道により整備されたものであったが,名古 屋鉄道 とはできないものであった。 名古屋鉄道は,昭和40年代から速度照査機能のあるATSを整備しており,中部国際空港連絡鉄道のATSも名古屋鉄道により整備されたものであったが,名古 屋鉄道及び中部国際空港連絡鉄道は,上記のとおり,本件事故後の国土交通省の調査に対して併せて62か所の曲線にATSを整備していたと報告したものの,これも曲線区間の先に設置された信号機の冒進対策として段階的な速度照査を行う区間内に曲線が含まれる場合において,曲線の内方や入口付近に曲線の速度制限に応じたATS地上子が設置されていたことを報告したものであり,曲線区間の手前に曲線速度照査をするATS地上子は設置されておらず,大幅な制限速度超過による曲線への列車の進入を防止することはできないものであった。 (3) その他の大手民鉄についてみると,①近畿日本鉄道は,明確な設置基準はないが,運転上重要である箇所に整備したとし,②京阪電気鉄道は,設置基準はないが,駅間距離の長さや下り勾配であることに注目して京阪本線の曲線1か所についてATSを設置し(ただし,地上子は曲線の始端に設置されており,大幅な制限速度超過による列車の曲線への進入を防止できないものであった。),そのほか30‰以上の下り急勾配や半径100m未満などの条件の大津線(けいしん京津線)の曲線16か所に設置していたとし,③阪神電気鉄道は,設置基準はないが,線路の条件等を勘案して決めていたとしていた。 (4) 大手民鉄以外で曲線にATSを整備していた民鉄8社中,①北越急行は,我が国で在来線の線区最高速度が130km/hであったところ,在来線としては初めて線区最高速度を160km/hとするほくほく線を平成9年3月に開業するに際して未知の高速度運転を実施するに当たり,ATC類似の防護を施すものとしてA 130km/hであったところ,在来線としては初めて線区最高速度を160km/hとするほくほく線を平成9年3月に開業するに際して未知の高速度運転を実施するに当たり,ATC類似の防護を施すものとしてATS-Pを導入し,ほくほく線内の制限速度130km/h以下の曲線でランカーブ上で速度制限される曲線の走行速度と前後の走行速度が著しく異なる箇所(具体的にはブレーキ初速との差がおおむね20km/h以上の箇所)の曲線にATS-Pを整備し,②山陽電気鉄道は,半径160m以下の急曲線で速度差のある曲線にATSを整備していた。 (5) 民鉄についてATSが整備されていた路線の軌間は,JR各社と同様の1067mmのほか,762mm(黒部峡谷鉄道,三岐鉄道北勢線等)あるいは143 5mm(京浜急行電鉄等)の路線などがあり,線区最高速度についても25km/h(黒部峡谷鉄道)から160km/h(北越急行ほくほく線)までの差があった。 第6 ATSに関する法令上の規定と転覆危険率 1 普通鉄道構造規則(1) 国鉄の分割民営化に際し,鉄道営業法1条の規定に基づき定められた普通鉄道構造規則(昭和62年3月2日運輸省令第14号,同年4月1日施行)159条は,「鉄道には,自動列車停止装置を設けなければならない。ただし,自動列車制御装置を設けた場合並びに列車の運行状況及び線区の状況により列車の運転の安全に支障を及ぼすおそれのない場合は,この限りでない。」(1項),「自動列車停止装置は,次の基準のいずれかに適合するものでなければならない。一主信号機が停止信号を現示している場合において,所要の位置において列車のブレーキ操作が行われないときに自動的に当該信号機の外方に当該列車を停止させるものであること。二主信号機が停止信号を現示している場合において,所 を現示している場合において,所要の位置において列車のブレーキ操作が行われないときに自動的に当該信号機の外方に当該列車を停止させるものであること。二主信号機が停止信号を現示している場合において,所要の位置において一定の速度を超える速度で列車が走行しているときに,自動的に当該信号機(信号の制御方式が重複式である場合は,重複区間の終端)の外方に列車を停止させるものであること。」(2項)と定めており,同条により自動列車停止装置に要求されていたのは信号冒進防止の機能であった。 (2) 上記普通鉄道構造規則は,平成14年3月31日に廃止され,旧鉄道運転規則等と統合し,性能規定化した鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)が施行された。平成18年3月24日国土交通省令第13号による改正前の省令57条は,「閉そくによる方法により列車を運転する場合は,信号の現示に応じ,自動的に列車を減速させ,又は停止させることができる装置を設けなければならない。ただし,列車の運行状況及び線区の状況により列車の安全な運転に支障を及ぼすおそれのない場合は,この限りでない。」と自動列車停止装置に信号冒進防止の機能を要求するのみであり,省令によって求められるべき性能を満たすための一例を示した「鉄道に関する技術上の基準 を定める省令等の解釈基準」(以下「解釈基準」という。)の関係規定に係る部分においては,曲線速度制限用等の機能は,信号機の信号と連動しない機能として付加機能に位置づけられていた。 2 転覆危険率(1) 車両の車体に何らかの原因により横方向の力が働き,車両の片側の輪重が0となる状態(輪重減少率が1)になれば,車両は安定限界を超して横転(転覆)を開始し,必然的に脱線をもたらす。 上記横方向力としては の車体に何らかの原因により横方向の力が働き,車両の片側の輪重が0となる状態(輪重減少率が1)になれば,車両は安定限界を超して横転(転覆)を開始し,必然的に脱線をもたらす。 上記横方向力としては,振動による慣性力や横風による風圧力が存在し,曲線を走行する列車については,さらに曲線外側方向へカントで打ち消されない遠心力(超過遠心力)が働く。風上側の輪重が0となる風速が転覆限界風速であり,曲線通過時の内側輪重が0となる曲線通過速度が転覆限界速度である。 昭和47年に発表された国枝正春「鉄道車両の転ぷくに関する力学的理論解析」は,上記の輪重減少率を転覆危険率と定義し,超過遠心力,列車の動揺による振動慣性力,横風による風圧力の3つの外力により,この危険率を算出する計算式を提示し,台車のばね装置によるたわみを考慮した場合の車両重心及び風圧中心の有効高さが,当時の現車走行試験や風洞実験の結果から安全側に見て車両重心及び風圧中心の高さの25%増しとして問題ないなどの仮定を示し,これが国枝の式として呼ばれるようになった。転覆危険率が1となる曲線通過速度が国枝の式により得られる転覆限界速度であり,転覆危険率が1以上であれば,いずれも曲線通過時の内側輪重を喪失した状態を意味することは同様である。 国枝の式において,超過遠心力の算定には,曲線の車両接触点間隔,カント及び曲線半径並びに車両の走行速度及びばね装置によるたわみを考慮した車両重心の有効高さが用いられる。車両重心の有効高さは,車両の種類によって異なるほか,空車である場合とそうでない場合とでも異なる。なお,車両の質量は,風圧力に影響するものの(車両質量が大であるほど横風の影響を受けにくい。),超過遠心力及び振動慣性力には影響しない(台車・車体質量比は振動慣性力に影響する。)。 (2 お,車両の質量は,風圧力に影響するものの(車両質量が大であるほど横風の影響を受けにくい。),超過遠心力及び振動慣性力には影響しない(台車・車体質量比は振動慣性力に影響する。)。 (2) 国枝の式の発表以前から,1を曲線内側輪重減少率で除した安全率との概念は用いられており,横方向外力のうち超過遠心力を考慮し,安全率を3以上などと安全側に余裕を持たせて曲線通過許容速度を求める考え方も存在した。 なお,JR西日本は,本件事故当日,本件列車の転覆限界速度を133km/hとする試算結果を公表しており,実際の転覆限界速度との乖離は大きかったが,これは横方向外力として超過遠心力のみを考慮して振動慣性力を考慮せず(風圧力も考慮されていないが,実際に本件事故当時は風の影響を無視できる状況であった。),さらにその算定に当たって,空車状態の車両重心の高さを用い,ばね装置によるたわみも考慮しなかったためである。 3 本件事故後の通達と省令の改正(1) 国土交通省鉄道局は,本件事故後,鉄道事業者に対し,速度超過防止用ATSの設置状況に関する調査を始め,平成17年5月27日,鉄道局長名義で「急曲線に進入する際の速度制限に関する対策について(速度超過防止用ATS等の緊急整備)」と題する運輸局長あての通達(以下「本件緊急整備通達」という。)を発した。 同通達は,曲線手前の運転速度で曲線部に進入した場合に転覆脱線に至るおそれのある箇所に,速度超過防止用ATS等を整備完了する緊急整備計画の策定・報告を鉄道事業者にさせるよう求めるものであり,同時に発された通知文書では,対象車両を当該曲線を走行するすべての列車の先頭車,曲線の走行速度については曲線手前の運転速度(曲線の速度制限がかかる手前での運転速度(ブレーキ操作開始時の速度)でランカーブ上許容 た通知文書では,対象車両を当該曲線を走行するすべての列車の先頭車,曲線の走行速度については曲線手前の運転速度(曲線の速度制限がかかる手前での運転速度(ブレーキ操作開始時の速度)でランカーブ上許容される速度(回復運転を考慮)),定員乗車(一人当たりの乗客質量55㎏),風圧の影響を無視するなど一定の条件を仮定し,国枝の式による転覆危険率(風圧の影響が無視されるため,超過遠心力及び振動慣性力のみが考慮される。)を算定することを求め,その転覆危険率が0.9以上となる箇所を曲線手前の運転速度で曲線部に進入した場合に転覆脱線に至るおそれのある場所として把握しようとしたものであった。 (2) 国土交通省は,本件事故を踏まえた技術水準の見直しのために「技術基準検討委員会」を設置し,同委員会は,平成17年11月29日,「技術基準検討委員会中間とりまとめ」を発表した。 上記とりまとめは,技術基準において緊急に対応すべき項目として,運転士のブレーキ操作の遅れや失念による速度超過に起因して発生する転覆や線路終端部への衝突等の重大事故を防止するために,本線の曲線及び分岐器,速度超過により脱線等の可能性のある構造物,線路終端部,停車すべき列車が駅を通過してしまった場合に踏切等を通過するおそれのある箇所に対して,運転可能速度(原則として駅間最高速度。ただし,その手前において速度を制限する装置が設置されている場合や,線路終端等の列車が必ず停止している場所から出発する場合には,そうした条件の下に通常の運転で到達しうる速度)で当該箇所に進入した場合でも適切な減速が可能な速度制限装置の設置を求めるとともに,長い下り急勾配区間で前記各箇所の速度制限装置や信号に対するATS等で下り勾配の加速に十分対処できない場所へ速度制限装置等の設置を求めるものであった。 が可能な速度制限装置の設置を求めるとともに,長い下り急勾配区間で前記各箇所の速度制限装置や信号に対するATS等で下り勾配の加速に十分対処できない場所へ速度制限装置等の設置を求めるものであった。 (3) 平成18年3月24日国土交通省令第13号により,鉄道に関する技術上の基準を定める省令57条は,「閉そくによる方法により列車を運転する場合は,信号の現示及び線路の条件に応じ,自動的に列車を減速させ,又は停止させることができる装置を設けなければならない。ただし,列車の運行状況及び線区の状況により列車の安全な運転に支障を及ぼすおそれのない場合は,この限りでない。」と改正された(平成18年7月1日施行,以下「本件改正後省令」という。)。 本件改正後省令の解釈基準においては,曲線区間に進入しようとする列車が,運転可能速度で当該区間に進入したときに曲線外側への転覆のおそれのある場合にATS等の設置をするものとされ,その転覆の判定は,運転可能速度による転覆危険率が0.9以上のものとする考え方が示されており,転覆危険率算定に当たっての曲線通過速度は,本件緊急整備通達より高くなり得るものを採用している。このほか解釈基準においては,分岐器,下り勾配区間等へのATS等の整備の条件が定め られた。 (検察官の請求証拠中の曲線の転覆危険率は,本件緊急整備通達による転覆危険率であり,以下で特に断りなく転覆危険率という場合は,本件緊急整備通達によるものを意味する。)第7 転覆危険率と本件事故後のATS整備の状況 1 JR西日本管内の曲線の転覆危険率と本件事故後のATS整備の状況(1) JR西日本管内において平成14年度までに路線単位のATS-P整備に際して原則として半径450m未満の曲線を対象として曲線速度照査機能のあるATS-Pが整備 本件事故後のATS整備の状況(1) JR西日本管内において平成14年度までに路線単位のATS-P整備に際して原則として半径450m未満の曲線を対象として曲線速度照査機能のあるATS-Pが整備された88か所についてみると,本件緊急整備通達による転覆危険率が0.9以上であるのは7か所(片町線(単線区間)1か所,東海道線・山陽線6か所)であり(ただし,ランカーブが保存されていなかった曲線2か所については線区最高速度を用いて算出されたもの),本件改正後省令の転覆危険率が0.9以上であるのは,さらに7か所(片町線1か所,関西線2か所,関西空港線1か所,東海道線・山陽線3か所)を加えた14か所であり,整備済み曲線の大半は,本件緊急整備通達あるいは本件改正後省令のいずれによっても転覆のおそれの認められない箇所であった(転覆危険率の最低は,本件緊急整備通達及び本件改正後省令のいずれによっても0.040)。このうち検察官過失主張期間までにATS-Pが設置された65か所については本件緊急整備通達による転覆危険率が0.9以上の箇所はなく,本件改正後省令による転覆危険率が0.9以上となったのは4か所(関西線2か所,関西空港線1か所,片町線1か所)であった。 前記88か所のうち,本件曲線の半径である304m以下の半径の曲線は24か所存在したが,このうち本件緊急整備通達による転覆危険率が0.9以上であるのは3か所(東海道線・山陽線2か所,片町線1か所)であり,本件改正後省令による転覆危険率が0.9以上であるのは,さらに1か所(関西空港線1か所)を加えた4か所であった。 なお,福知山線尼崎駅・新三田駅間を所管するJR西日本大阪支社管内において, 半径304m以下の曲線は,本件曲線も含めて191か所(うち本線かつ駅間の曲線80か所)存在し,本件事 った。 なお,福知山線尼崎駅・新三田駅間を所管するJR西日本大阪支社管内において, 半径304m以下の曲線は,本件曲線も含めて191か所(うち本線かつ駅間の曲線80か所)存在し,本件事故前には,22か所(片町線の単線区間において同一曲線に上下線の双方から整備された箇所を含む。)にATS-Pが整備されていた。 平成13年度以降,本件事故前までの間に線区最高速度が130km/hの線区において半径600m未満の曲線を対象としてATS-SW,あるいはこれに加えてATS-Pが整備された17か所についてみると,本件緊急整備通達による転覆危険率が0.9以上であるのは1か所(北陸線の半径500mの曲線)であり,本件改正後省令による転覆危険率が0.9以上であるのは前記1か所を含めて3か所(前記曲線のほか北陸線の半径400mの曲線2か所)であった。 (2) JR西日本は,本件事故後,本件曲線を含む1292か所の曲線にATSを整備したが,その内訳は,①本件事故後,福知山線(尼崎駅・新三田駅間)の運転再開日までに福知山線においてATSを整備した曲線が35か所(本件曲線を含む。),②転覆危険率が0.9以上であり転覆のおそれがあるとされて新たにATS-SWを整備した曲線が24か所(このうち7か所は既にATS-Pの整備を終えていた東海道線・山陽線の米原駅・網干駅間の曲線である。),③これ以外にATSを整備した曲線が1210か所(うち本件改正後省令による転覆危険率が0. 9以上になるもの41か所),④さらに本件改正後省令による転覆危険率が0.9以上であることが判明してATSを追加整備した曲線が23か所である。②の曲線には,本件曲線のほかにJR西日本管内に存在した曲線手前の区間と曲線の制限速度の差が50km/h以上のATS未整備曲線3か所のうち2か所が含 判明してATSを追加整備した曲線が23か所である。②の曲線には,本件曲線のほかにJR西日本管内に存在した曲線手前の区間と曲線の制限速度の差が50km/h以上のATS未整備曲線3か所のうち2か所が含まれていた。 本件曲線の転覆危険率(207系電車につき曲線通過速度を120km/hとするもの)は1.330であり(甲67による転覆危険率の内訳は,超過遠心力1.002,振動慣性力0.329,風圧力0),この転覆危険率を上回る曲線は,本件事故前にATSが整備された105か所の中では東海道線下り外側線京都駅構内(半径300m,転覆危険率1.516)の1か所であり,上記②の24曲線の中では,山陽線下り姫路駅構内(半径300m,転覆危険率1.617)の1か所で あった(その他本件事故後にATSが整備された①③④の曲線について本件緊急整備通達による転覆危険率を認めるに足りる証拠はない。)。 検察官過失主張期間当時,上記各曲線にATSはいずれも整備されていなかったが,平成13年に上記山陽線下り姫路駅構内の曲線手前に位置する第1場内信号機に速度照査機能を有するATS-Pが整備され,通過用線路である5番線を除いては常に停止又は注意現示となるため,5番線を除いて第1場内信号機から出発信号機まで常にこの信号機のATS-Pによる速度制限が及ぶ状態となり,平成14年9月に上記東海道線下り京都駅構内の曲線にATS-Pが整備された。 2 JR他社管内の曲線の転覆危険率と本件事故後のATS整備の状況(1) 本件事故前に曲線速度照査機能のあるATSを整備したJR東日本及びJR東海について,本件事故後,転覆危険率が0.9以上であり新たにATSの整備をする旨報告した曲線は,JR東日本について63か所(ATS-P整備予定29か所,ATS-Ps整備予定7か所,A 日本及びJR東海について,本件事故後,転覆危険率が0.9以上であり新たにATSの整備をする旨報告した曲線は,JR東日本について63か所(ATS-P整備予定29か所,ATS-Ps整備予定7か所,ATS-SN整備予定27か所,転覆危険率の最高1.386)であり,JR東海については6か所(9か所と報告されたが,一部は分岐器の箇所であった。転覆危険率の最高1.048)であった。 その他のJR各社について転覆危険率が0.9以上であるとしてATS整備をするとされた曲線は,JR北海道について9か所(転覆危険率の最高1.110),JR四国については33か所(転覆危険率の最高1.451),JR九州について39か所(転覆危険率の最高1.296)であった。 (2) JR東日本についてATS要整備箇所とされた上記63か所のうち転覆危険率が1.3を超えたのは,せんせき仙石線(たがじよう多賀城駅構内,ATS-Ps整備予定),中央本線(塩尻駅構内,ATS-P整備予定)及びしののい篠ノ井線(篠ノ井駅構内,ATS-SN整備予定)の3か所であり,上記の仙石線多賀城駅構内の曲線と中央本線塩尻駅構内の曲線は,既にATS-PsあるいはATS-Pの整備がされた区間内にあったものの,当該曲線にATSは整備されていなかった。 他方,検察庁に対する捜査関係事項照会回答書においてJR東日本が,本件事故前の曲線へのATS-P整備の代表例として挙げた常磐線(日暮里駅・取手駅間)14か所,山手貨物線39か所の曲線についてみると,常磐線内の曲線はすべて転覆危険率が0.9未満であり(転覆危険率の最低0.500),山手貨物線内では転覆危険率が0.9以上の曲線は5か所であった(転覆危険率の最高1.670,最低0.404)。他方,常磐線及び山手貨物線には,合計7か所 .9未満であり(転覆危険率の最低0.500),山手貨物線内では転覆危険率が0.9以上の曲線は5か所であった(転覆危険率の最高1.670,最低0.404)。他方,常磐線及び山手貨物線には,合計7か所の転覆危険率が0.9以上の曲線(転覆危険率の最高1.198)がATS-P未整備のままであった。 (3) JR東海においてATS要整備箇所とされた6か所のうち1か所は,既にATS-STが整備済みの曲線であり,その他の5か所のATS未整備曲線の転覆危険率の最高は1.048(御殿場線ながいずみ長泉なめり駅・すその裾野駅間)であった。 他方,JR東海において曲線手前の運転速度(ランカーブ上のブレーキ初速)と曲線の制限速度との差が40km/h以上との整備基準に該当してATS-STが整備された半径300mから半径500mの曲線5か所(速度差は40km/hから56km/h)の転覆危険率はいずれも0.9未満であり(最低0.585),曲線手前の運転速度のまま曲線に進入しても列車が転覆するおそれが認められない箇所であったが,同整備基準に適合しない整備箇所3か所のうち1か所の転覆危険率は0. 9を超えていた。 3 民鉄管内の曲線の転覆危険率と本件事故後のATS整備の状況(1) 本件緊急整備通達前に曲線にATSを整備していた民鉄13社のうち,本件緊急整備通達後,転覆危険率が0.9以上で転覆のおそれのある曲線にATSを追加整備する旨報告したのは以下の9社であり,その曲線数は京浜急行電鉄について2か所(転覆危険率の最高1.116),上信電鉄について3か所(同1.025),名古屋鉄道に関して29か所(同1.496(国土交通省への報告時の数値は1.737)。このほか独自整備箇所として24か所の報告がある。),中部国際空港連絡鉄道について1か所(同0.9 1.025),名古屋鉄道に関して29か所(同1.496(国土交通省への報告時の数値は1.737)。このほか独自整備箇所として24か所の報告がある。),中部国際空港連絡鉄道について1か所(同0.973),京阪電気鉄道について1か所 (同1.103),阪神電気鉄道について2か所(同1.573),近畿日本鉄道について1か所(同1.312),近江鉄道について1か所(同1.218),山陽電気鉄道について5か所(同1.370(実際には0.9未満))であった。 このうち,阪神電気鉄道の整備箇所及び山陽電気鉄道の5か所中4か所は,既にATSが整備されていた曲線に新たにATSを付け直したものである。 (2) 本件事故前に曲線にATSを整備していた鉄道事業者について,転覆危険率が判明しているものをみると,次のとおりである。 京浜急行電鉄,名古屋鉄道及び中部国際空港連絡鉄道のATSの速度照査地点は,曲線区間への大幅な制限速度超過による進入を防止できる位置になかったが,設置されていた曲線について転覆危険率が0.9未満であったのは,京浜急行電鉄について5か所中4か所(最低0.312),名古屋鉄道及び中部国際空港連絡鉄道について転覆危険率の判明した54か所中32か所(最低0.45)であった。 近畿日本鉄道については,本件事故までにATSが整備されていた曲線44か所のうち41か所は転覆危険率が0.9未満であったが(最低0.189),他方,転覆危険率が1.3を超える転覆の危険度の高い曲線1か所がATS未整備のまま残されていた。 阪神電気鉄道は,本件事故までに曲線6か所にATSを整備していたが,うち2か所は,曲線手前の運転速度と曲線の制限速度が同一であり,転覆危険率が0.9未満であることは明らかである。 三岐鉄道北勢線には曲線4か所にATSが までに曲線6か所にATSを整備していたが,うち2か所は,曲線手前の運転速度と曲線の制限速度が同一であり,転覆危険率が0.9未満であることは明らかである。 三岐鉄道北勢線には曲線4か所にATSが整備されていたが,いずれも転覆危険率は0.1未満と非常に低かった。北越急行は,ランカーブ上のブレーキ初速との差がおおむね20km/h以上の曲線10か所(ATS設置箇所は9か所)にATSを整備したが,うち8か所(最大速度差38km/h)が転覆危険率が0.9未満の曲線(最低0.561)であった。 (3) 本件緊急整備通達前に曲線にATSを整備していなかった大手民鉄10社のうち,転覆危険率が0.9以上で転覆のおそれのある曲線にATSを整備する旨 報告したのは,東武鉄道(19か所,転覆危険率の最高1.22),西武鉄道(6か所,同1.204),京成電鉄(2か所,同1.027),小田急電鉄(7か所,同1.496),南海電気鉄道(4か所,同0.989)の5社であった。 第8 本件事故前の曲線での脱線事故例 1 国鉄及びJR他社での曲線での脱線事故例昭和36年以降,本件事故に至るまで,国鉄あるいはJR各社において発生した速度超過が理由とされる曲線での脱線転覆事故は6件あり,その概要は,次のとおりである。 (1) 紀勢本線すさみ周参見駅・紀伊ひき日置駅間の事故(発生日時) 昭和44年1月24日午前0時50分ころ(事故内容) 機関車を先頭とする旅客列車が,周参見駅を出発し,通過駅である紀伊日置駅手前の下り勾配(14‰)の半径200mの曲線(制限速度50km/h)を制限速度を超える約80km/hで進行し,機関車が曲線外側に脱線して築堤下に転落し,客車7両は機関車から分離して進行し,紀伊日置駅構内に停止した。これにより乗 00mの曲線(制限速度50km/h)を制限速度を超える約80km/hで進行し,機関車が曲線外側に脱線して築堤下に転落し,客車7両は機関車から分離して進行し,紀伊日置駅構内に停止した。これにより乗務員2名が負傷した。 (2) 鹿児島本線西鹿児島駅・上伊集院駅間の事故(発生日時) 昭和49年4月21日午後1時50分ころ(事故内容) 西鹿児島駅を出発した特急電車が,上り勾配内の半径300mの曲線(制限速度65km/h)を制限速度を超えた速度で進行し,1両目電車の内軌側の車輪の輪重抜けにより,1両目及び2両目電車の前台車2軸が曲線の内軌側に脱線した。運転士は,脱線に気がつかないまま運転したものの,約130m進行して異音と動揺を感知し,列車を急停止させた。これにより,旅客7名が負傷した。脱線始点付近を含む閉そく区間の列車の平均速度は約93km/hである。 (3) 信越本線熊ノたいら平駅・横川駅間の事故(発生日時) 昭和50年10月28日午前6時7分ころ (事故内容) 軽井沢駅を出発した単行列車(電気機関車4両編成)が,下り急勾配(66.7‰)に入ってから,急速に速度を上げ,熊ノ平駅を通過し,碓氷第1トンネルの出口手前の半径350mの曲線で,電気機関車が進行方向左側(曲線外側)に傾き,トンネル側壁に接触しながら進行し,出口をでた直後,進行方向左側に脱線し,電気機関車4両が線路下の杉林に横転した。これにより,機関士3名が負傷した。なお,総括制御をしていた電気機関車には,急勾配区間での過速に対する防護として過速度検知装置が整備されていたが,同装置は作動しなかった。 (4) 函館本線駒ヶ岳駅・姫川駅間の事故(発生日時) 昭和51年10月2日午前4時48分ころ(事故内容) ディーゼル機関車を先頭とする貨物列車(下り列 れていたが,同装置は作動しなかった。 (4) 函館本線駒ヶ岳駅・姫川駅間の事故(発生日時) 昭和51年10月2日午前4時48分ころ(事故内容) ディーゼル機関車を先頭とする貨物列車(下り列車)の運転士が仮眠状態に陥り,列車を駒ヶ岳駅通過後の単線区間内にある連続下り勾配(16.7ないし20‰)区間で加速するにまかせ,半径300mの曲線(制限速度60km/h)の制限速度を超過し,40両編成の貨車のうち,機関車と貨車39両が2か所にわかれて脱線し,機関士及び列車掛の2名が負傷した。 (5) 函館本線東山駅・姫川駅間の事故(発生日時) 昭和63年12月13日午後5時ころ(事故内容) ディーゼル機関車を先頭とする貨物列車(下り列車)の運転士が半睡状態に陥り,列車を駒ヶ岳駅を通過後の単線区間内にある連続下り勾配(16.7ないし20‰)区間で加速するにまかせ,半径300mの曲線(制限速度60km/h)に速度約129km/hで差し掛かり,機関車から貨車20両が離脱し,うち19両が脱線転覆した。運転士は,貨車の分離に気付かず,そのまま約15km列車を走行させた。脱線の生じた曲線区間の手前区間における同列車の制限速度は60km/hであり,この事故現場を含む区間における同列車の最高速度は95km/hである。上記貨車の転覆限界速度を国枝の式(風圧力を考慮しないもの)より算出すると,最大積載量の貨物を積載した状態で 約95km/h,空車状態で約156km/h となる。 (6) 函館線大沼駅・にやま仁山駅間の事故(以下「函館線仁山事故」という。)(発生日時) 平成8年12月4日午前5時50分ころ(事故内容) ディーゼル機関車を先頭とする貨物列車(上り列車)の運転士が眠気を催して意識もうろう状態に陥り,列車を大沼駅通過後の単線区間内 )(発生日時) 平成8年12月4日午前5時50分ころ(事故内容) ディーゼル機関車を先頭とする貨物列車(上り列車)の運転士が眠気を催して意識もうろう状態に陥り,列車を大沼駅通過後の単線区間内にある連続下り勾配(16ないし20.8‰)で加速するにまかせ,半径300mの曲線(制限速度60km/h)に速度約118km/hで差し掛かり,機関車から貨車20両が離脱し曲線外側に転覆,脱線した。脱線の生じた曲線区間の手前区間における同列車の制限速度は70km/hであり,この事故現場を含む区間における同列車の最高速度は95km/hである。上記貨車の転覆限界速度を国枝の式(風圧力を考慮しないもの)より算出すると,最大積載量の貨物を積載した状態で約97km/h,空車状態で約157km/h となる。 なお,脱線までにEB装置は少なくとも1度は動作したが,運転士により解除されたものとみられる。 2 本件事故前に生じた曲線箇所での脱線転覆事故の特徴上記のとおり,速度超過が理由とされる曲線での脱線等に係る事故は,本件事故前に6件存在したが,前記1(2)の鹿児島本線の事故を除く5件は,閑散区間の下り勾配区間内の半径200mから350mの曲線で機関車ないし貨車について曲線外側への転覆が生じた事故であった。中でも函館線の事故3件(前記1(4)(5)(6))は,貨物列車が曲線手前の長い下り勾配で加速を続けて曲線に進入した事故であり,信越本線の事故(前記1(3))は,下り超急勾配の碓氷峠のトンネル内で列車の加速が生じて起きた事故であった。 そして,上記鹿児島本線の事故(前記1(2))は,唯一下り勾配箇所以外の曲線(上り勾配)で生じた事故であるものの,列車の輪重抜け(輪重バランスが崩れること)による曲線内側への脱線が生じており,転覆限界速度を超えて曲 島本線の事故(前記1(2))は,唯一下り勾配箇所以外の曲線(上り勾配)で生じた事故であるものの,列車の輪重抜け(輪重バランスが崩れること)による曲線内側への脱線が生じており,転覆限界速度を超えて曲線に進入して転覆した,すなわち曲線内側の輪重を喪失して転覆した事故とは認められない。 本件事故が発生するまで,曲線で列車が転覆限界速度を超えて走行したことにより脱線転覆が生じたと認められる事故は,閑散区間の下り勾配区間内の半径350m以下の曲線に限られており,しかも,転覆が生じた車両の種類も,一般には重心位置が旅客電車より高く,転覆しやすいとみられる機関車及び貨車であった。 3 鉄道事業者の函館線仁山事故に対する対応(1) 近畿運輸局鉄道部運転保安課長は,平成8年12月10日,JR西日本の安全対策室長にあてて,「列車脱線事故について(事故情報)」と題する書面を送付し,事故の概要を知らせるとともに,運転取扱いの厳正な実施について年末年始総点検を含めて注意喚起を求めた。その後,平成9年3月21日に運輸省にJR各社の安全対策担当者を集めて開催された第32回鉄道保安連絡会議において,函館線仁山事故が最近発生した特異な事故・阻害についてのひとつとしてJR貨物により報告された。この際示されたJR貨物の対策は,深夜の上り列車のうち2本を大沼駅に臨時停車させ,運転士がリフレッシュする時間をもうけるなどのソフト対策のほか,北海道で使用しているDD51機関車について,EB装置の警報音を増量する,設定した速度以上になると非常ブレーキが作用する装置を開発,整備するという対策であった。この会議において,曲線速度照査機能のあるATSの整備が議論となることはなかった。 (2) JR貨物は,その後,函館本線急勾配線区過速度検知システムを開発し,函館線 整備するという対策であった。この会議において,曲線速度照査機能のあるATSの整備が議論となることはなかった。 (2) JR貨物は,その後,函館本線急勾配線区過速度検知システムを開発し,函館線仁山事故を含めて3度の脱線事故が生じていた函館線の下り勾配区間(大沼駅・ななえ七飯駅間,駒ヶ岳駅・森駅間)に同システムの地上装置を整備するとともに,JR貨物の機関車(DD51及びDF200形式機関車)への過速度検知装置(ATS-SF受信機)の搭載を行った。同システムは,JR北海道が使用していなかったATS-SNの速度照査用の周波数を利用し,下り急勾配区間内の速度制限区間の開始地点及び終了地点にATS地上子の対を設置し,設定速度(85km/h)以上になると上記の機関車において非常ブレーキをかけて列車を停止させるものであり,同区間内に存在する曲線に対応する速度照査を行うものではなく,同じ区間 を走行するJR北海道の列車を対象とするものでもなかった。JR北海道は,速度照査機能を有するATS-SNを導入しており,函館線仁山事故以前から同機能を利用して行き止まり線にATS-SNを整備することを開始しており,平成8年度には同機能を利用して分岐器へのATS-SNを整備したが,本件事故に至るまで曲線にATS-SNを整備することはなかった。 JR西日本及びJR東日本は同事故以前から曲線へのATS-P整備を進めていたが,同事故によりその整備基準は変更されておらず,JR東海が平成10年以降に曲線にATS-STの整備を開始したことも同事故を契機とするものではなかった。そのほかJR貨物も含めて,同事故を契機として曲線速度照査機能のあるATSを整備した鉄道事業者が存在するとは認められない。 第9 本件事故に至るまでの鉄道事故例 1 国鉄における事故 かった。そのほかJR貨物も含めて,同事故を契機として曲線速度照査機能のあるATSを整備した鉄道事業者が存在するとは認められない。 第9 本件事故に至るまでの鉄道事故例 1 国鉄における事故例上記のとおり,国鉄においては速度超過を理由とする曲線の脱線転覆事故が4件存在したところ,昭和33年から昭和60年までの間に国鉄において発生した列車衝突,列車脱線等による事故の一覧表には2000件を超える事故(大半は列車脱線事故)の記載がある。なお,同一覧表のうち,運転士等列車を運転する者が責任者と記載されたものは301件である。 2 JR西日本の鉄道運転事故等鉄道事故等報告規則(昭和62年2月20日運輸省令第8号)3条1項に定められた鉄道運転事故は,JR西日本が発足した昭和62年4月1日から平成17年3月31日までの事故は3058件存在した。このうち列車脱線事故は55件であり,曲線で生じたものはなく,分岐器で生じたのが2件,その他の箇所で生じたのが53件であった。 JR西日本において停止位置不良等を含めた運転事故・運転阻害事故は多数生じており,平成元年度から平成20年度までの間に,証拠上,居眠りを原因とするものについて65件,雑念・漫然を原因とするものについて333件の報告が存在し たが,これらの報告の中で曲線を発生場所と記載されたのはなかった。 第10 福知山線及び本件曲線の沿革 1 本件線形変更工事の概要福知山線では,国鉄時代から東海道線の大阪方面との直通運転が行われており,福知山線の上り線は,現在の本件曲線入口付近で下り線と分離し,半径600mの右曲線を通過した後,半径300mと同280mの左曲線を経て尼崎駅に向かっており,尼崎駅において,福知山線上り線の南側(内側)には,東海道線上りの外側線,内側 口付近で下り線と分離し,半径600mの右曲線を通過した後,半径300mと同280mの左曲線を経て尼崎駅に向かっており,尼崎駅において,福知山線上り線の南側(内側)には,東海道線上りの外側線,内側線が存在した。 JR西日本においては,地下路線として建設される片福連絡線(現在のJR東西線)に福知山線を乗り入れさせ,尼崎駅から片福連絡線を経由して片町線へ直通運転をすることを計画しており,これに付随して尼崎駅改良工事が予定されていた。 片福連絡線の上り線は,尼崎駅から東海道線の外側線と内側線の間を走行し,地下区間へ向かうため,当初は,福知山線からの列車を東海道線上り外側線と平面交差させて片福連絡線の上り線を走行させることが計画されたが,相互の運転に運行上の制約が生じることなどから,JR西日本は,尼崎駅の手前で福知山線上り線と東海道線上り外側線をトラス橋により立体交差させるように計画を変更し,平成3年3月,その旨の尼崎駅改良工事についての意思決定を行い,尼崎駅構内配線変更について,同年11月18日,近畿運輸局長による工事計画変更の認可がされた。 この尼崎駅改良工事により,福知山線の上り線については,線路を既存の同線下り線路に沿わせて半径304mの本件曲線(右曲線)の通過後,半径300mと同225mの左曲線を経て尼崎駅に向かう現在の線形に変更されることになり,本件線形変更工事が行われ,JR東西線の開業に先行する平成8年12月21日に本件曲線の使用が開始された。 2 本件曲線における速度制限と曲線手前の区間の制限速度(1) 上記のとおり,本件曲線について207系電車を含む電車列車の特別の速度は70km/hであるが,特別の速度が75km/hとなる183系電車等(特急形電 車)も存在し,本件線形変更工事によりもうけられた本件曲線 件曲線について207系電車を含む電車列車の特別の速度は70km/hであるが,特別の速度が75km/hとなる183系電車等(特急形電 車)も存在し,本件線形変更工事によりもうけられた本件曲線及びその前方にある半径300m及び同225mの曲線については,カント不足を理由として本件曲線及び上記半径300mの曲線に70km/h,上記半径225mの曲線に60km/hの速度制限が定められ,平成8年12月17日付けの運転報で告示され,各曲線の入口には,その制限速度を表示する速度制限標識が設置された。 この場合のカント不足とは,曲線半径に応じた基本の速度又は特別の速度で走行したときのカント不足量が許容カント不足量を超えることを意味するが,上記各曲線のうち,実際に,この意味でのカント不足が生じていたのは半径225mの曲線のみであった。 (2) 上記のとおり,207系電車の本件曲線入口の手前のほぼ直線の区間における制限速度は120km/hであり,本件曲線における制限速度は70km/hであるから,207系電車について,本件曲線手前の制限速度と曲線の制限速度の差は50km/hとなる。 3 曲線半径に関する法令上の規定(1) 検察官過失主張期間当時の普通鉄道構造規則は,①本線における曲線の最小曲線半径は,設計最高速度が110km/hを超える速度である場合は600mとする旨定め(10条1項),②地形上等のためやむを得ない場合は,本線における曲線の最小曲線半径は,160mとすることができる旨定めていた(10条2項)。 (2) 鉄道に関する技術上の基準を定める省令は,上記普通鉄道構造規則の規定を性能規定化し,①「本線の曲線半径及びこう配は,設計最高速度,設計牽引重量等を考慮し,鉄道輸送の高速性及び大量性を確保することができるものでなければな 準を定める省令は,上記普通鉄道構造規則の規定を性能規定化し,①「本線の曲線半径及びこう配は,設計最高速度,設計牽引重量等を考慮し,鉄道輸送の高速性及び大量性を確保することができるものでなければならない」(13条),②「曲線半径は,車両の曲線通過性能,運転速度等を考慮し,車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないものでなければならない」(14条1項)と定め,解釈基準においては,①同省令13条に関し,本線の曲線半径は,車両の性能等を考慮し,地形上等の理由のためやむを得ない場合を除き,それぞれ当該線区の設計最高速度のおおむね80%以上を達成できるものとされ,②同 省令14条に関し,本線における車両の安全な走行に支障しない曲線半径は,カント量,運転速度等を考慮し,普通鉄道(新幹線及び軌間0.762mの鉄道を除く。)の曲線半径は,160m以上とするものとされていた。 第11 福知山線の列車の走行状況 1 本件ダイヤ改正の概要(1) JR西日本は,列車運行計画(列車ダイヤ)の作成に運転時間の下限として基準運転時間(基準運転時分)を使用し,これを決定するためにランカーブを用いていた。基準運転時間は,停車時間を含まず,ランカーブは,線路・設備の状況や車両性能等を考慮して作成される。 (2) JR西日本は,福知山線について,JR東西線の開業に伴い,新型車両を投入するとともに編成の増強,ラッシュタイム及びデータイムの快速列車の増発を計画しており,供給する輸送力が事業基本計画における計画供給輸送力の許容範囲を超えるため,福知山線尼崎駅・新三田駅間の計画供給輸送力を1日当たり14万7000人から27万1000人とする事業基本計画の認可申請を行った。JR東西線開業前の平成8年3月の列車ダイヤ改正時点では,平日の福知山線上り列車本数(拠点 駅間の計画供給輸送力を1日当たり14万7000人から27万1000人とする事業基本計画の認可申請を行った。JR東西線開業前の平成8年3月の列車ダイヤ改正時点では,平日の福知山線上り列車本数(拠点尼崎駅)は,快速列車34本,普通列車72本,特急列車11本,回送列車1本,急行列車1本の合計119本であったが,JR東西線開業に伴う本件ダイヤ改正により,快速列車を中心とした増発がされ,同様の列車本数は,快速列車94本,普通列車90本,特急列車11本,回送列車5本,急行列車1本の合計201本となった。なお,本件事故当時の平日の福知山線上り列車本数(拠点尼崎駅)は217本であった。 (3) 本件ダイヤ改正の前後を通じて,福知山線上りの快速列車及び普通列車はすべて電車列車であり,特急列車は,3本が気動車列車であるほかは電車列車であり,急行列車は客車列車であった。 本件列車に用いられた207系電車は,地下区間対応の通勤形電車であり,平成7年4月から福知山線に導入されていた。本件ダイヤ改正前の平日ダイヤにおいて, 福知山線上り快速列車の速度種別としては,207系電車の通電A11a(2M2T)及び通電B6a(2M4T)のほか,117系電車の通電A7及び通電B9a,113系電車の通電A12及び通電B8が存在していた。本件ダイヤ改正により,通電A11aが7両編成(3M4T)となり,通電B6aがみられなくなったほか同様の速度種別の列車が運行された。このほか,本件ダイヤ改正の前後を通じて,朝方に特急形電車で運行される通電A29の上り快速列車が1本存在したが,他の快速列車とは停車駅が異なっていた。 本件ダイヤ改正前の平日ダイヤにおいて,福知山線上り快速列車は,すべて東海道線直通であったが,本件ダイヤ改正後の平日ダイヤでは,福知山線上り快速列車の ,他の快速列車とは停車駅が異なっていた。 本件ダイヤ改正前の平日ダイヤにおいて,福知山線上り快速列車は,すべて東海道線直通であったが,本件ダイヤ改正後の平日ダイヤでは,福知山線上り快速列車のうち通電A11aは,午後11時台尼崎駅着の1本を除いてJR東西線直通となった。 車両形式別の最高許容速度は,113系電車が100km/h,117系電車が115km/h,207系電車は120km/hであり,本件ダイヤ改正により快速列車中の通電A11aの快速列車の割合が高まり,列車ダイヤの作成に用いられる福知山線上り快速列車のランカーブ上の最高速度の全列車平均をみると,本件ダイヤ改正前が111.47km/hであったのに対し,本件ダイヤ改正により116.22km/hとなった(福知山線の特急,急行及び快速列車はすべての速度種別において車両形式別の最高許容速度が上記ランカーブ上の最高速度であった。)。 (4) 他方,ランカーブに基づいて定められた福知山線上り快速列車(通電A29を除く。)の宝塚駅・尼崎駅間の平日ダイヤ上の最速列車の運転時間(途中停車2駅での停車時間合計40秒を含む。)は,①本件曲線使用開始前の平成8年3月のダイヤ改正時点で15分20秒(通電A11a)であったところ,②平成8年12月のダイヤ改正で15分50秒(同)となり,③さらに本件ダイヤ改正で17分10秒(同)となり,伊丹駅・尼崎駅間の平日ダイヤ上の最速運転時分も,上記①により4分50秒(通電A11a),上記②により5分20秒(同),上記③(本件ダイヤ改正)により6分(同)となるなど,本件ダイヤ改正は,通電A11aの みならず,福知山線上り快速列車全般のダイヤに余裕を持たせるものであり,本件ダイヤ改正により,列車ダイヤ上の福知山線上り快速電車の平均速度は低下した。 ダイヤ改正は,通電A11aの みならず,福知山線上り快速列車全般のダイヤに余裕を持たせるものであり,本件ダイヤ改正により,列車ダイヤ上の福知山線上り快速電車の平均速度は低下した。 2 本件ダイヤ改正後の福知山線上り快速列車の基準運転時間等の変遷本件ダイヤ改正から本件事故まで,福知山線上り快速列車(停車駅の異なる通電A29を除く。)の宝塚駅・尼崎駅間の平日ダイヤ上の最速列車の速度種別は,一部のダイヤ改正の際を除いて通電A11aであった。 本件列車と同様の通電A11a(7両編成,宝塚駅2番線発,尼崎駅6番線着)の宝塚駅・尼崎駅間の基準運転時間は,本件ダイヤ改正後は15分40秒であったが,平成15年3月までの改正で40秒短縮されて15分となり,同年12月のダイヤ改正で快速列車がこれまでの川西池田駅及び伊丹駅に加え,中山寺駅に新たに停車することになったことにより45秒延長されて15分45秒となったものの,平成16年10月の改正でさらに10秒短縮されて15分35秒となり,ダイヤ上の宝塚駅・尼崎駅間の運転時間も短縮されていった。この間の列車の基準運転時間に影響する施設の改良は,平成11年3月に東海道線の一部でATS-Pの使用が開始された際,福知山線上り列車が6番線に到着する際の進路の開通状態を示す上り第1,第2場内信号機について,出発信号機が停止現示の際に前記各場内信号機が現示する速度制限を,先頭車両にATS-P車上装置がある車両に対して引き上げる信号現示制御(現示アップ)機能が設けられたのみである。 本件列車は,本件事故当時の平日ダイヤで宝塚駅・尼崎駅間の最速列車であったところ,その列車ダイヤ上の運転時間は16分25秒(途中3駅での停車時間合計50秒を含む。)であり,停車時間を含まない運転時間は基準運転時間と同一で余裕時間 イヤで宝塚駅・尼崎駅間の最速列車であったところ,その列車ダイヤ上の運転時間は16分25秒(途中3駅での停車時間合計50秒を含む。)であり,停車時間を含まない運転時間は基準運転時間と同一で余裕時間を含まないものであった。 宝塚駅・尼崎駅間について,本件列車のダイヤを本件ダイヤ改正後の最速列車のダイヤと比べると,停車駅が一つ増えたにもかかわらず,停車時間を含まない運転時間が1分5秒短縮され,停車時間の増加も10秒にとどまっていた。 3 検察官過失主張期間当時の福知山線上り快速列車の走行状況 (1) 本件列車のランカーブは,塚口駅(駅中心・上り2k872m)を惰行で115km/h超で通過した後,同駅中心から約340m進行した付近から一挙に減速し,曲線入口で70km/hまで減速するというものであり,207系電車による福知山線上り快速列車のランカーブは,本件曲線の使用開始からほぼ同様の内容であったが,ランカーブはダイヤ作成のために用いられており,運転士は,ブレーキ開始地点等を把握するため基準運転表を用いていた。基準運転表は電車区において作成されたり,運転士により作成されたものが出回ることもあった。 (2) 本件線形変更工事後,本件ダイヤ改正前の基準運転表にみられる207系電車を用いた福知山線上り快速列車の運転方法は,伊丹駅を出発後,90km/hで惰行し,その後,本件曲線手前で減速をするというものであり,さらに,上記のとおり,本件ダイヤ改正は福知山線の上り快速列車のダイヤに大幅な余裕を与えるものであり,検察官過失主張期間当時,福知山線の上り快速列車は,曲線手前の区間において早くてもせいぜい100km/h程度まで力行してから惰行すれば足り,このような状況は,検察官過失主張期間が経過するまで大きく変わらず,当時の列車ダイヤは,福 の上り快速列車は,曲線手前の区間において早くてもせいぜい100km/h程度まで力行してから惰行すれば足り,このような状況は,検察官過失主張期間が経過するまで大きく変わらず,当時の列車ダイヤは,福知山線の上り快速列車が本件曲線の手前において120km/hないしこれに近い速度で走行することを要するものではなかった。 また,検察官過失主張期間当時の福知山線での回復運転の状況は明らかでなく,快速列車を含めた福知山線の上り列車について本件曲線手前の区間において当該列車の転覆限界速度を上回るような速度で走行した列車がどの程度存在していたのかも明らかではない。 (3) しかし,その後の数次のダイヤ改正に際して基準運転時間が短縮されたのみならず,駅の停車時間も短縮され,特に福知山線の快速列車が中山寺駅に停車するようになった平成15年12月以降はダイヤに余裕は乏しくなっており,福知山線の上り快速列車が,本件曲線の手前の区間で120km/h近くまで力行するようになることは珍しくなく,本件事故当時の宝塚駅・尼崎駅間の最速列車であった本件列車(5418M)については,ダイヤ上の運転時間のとおり,16分25秒で 運転することは容易ではない状況にあった。 4 本件ダイヤ改正時における他線区の状況本件ダイヤ改正による他の線区の平日列車本数をみると,阪和線上り(拠点天王寺駅)は304本,大阪環状線内回り(拠点大阪駅)は290本,東海道線(JR神戸線)(拠点大阪駅)の上り外側線は255本,同内側線は218本,片町線下り(拠点京橋駅)は215本であった。 第3章 JR西日本の曲線の安全対策の評価第1 転覆のリスクに対する安全対策の在り方 1 曲線の転覆のリスクに対する安全対策曲線における列車の転覆は,仮に生じたとすれば重大な人への危害 第3章 JR西日本の曲線の安全対策の評価第1 転覆のリスクに対する安全対策の在り方 1 曲線の転覆のリスクに対する安全対策曲線における列車の転覆は,仮に生じたとすれば重大な人への危害が生じる事象であり,その発生確率が低いとしても,転覆のリスク(以下で「リスク」とは,危害の発生確率とその危害の程度の組合せを意味するものとする。)は,リスクの分析評価の過程で無視できるものではない。 上記のような転覆の危険度を踏まえた安全対策を考えると,その危険性を取り除くためには,ATSの整備を考える以前に曲線手前での列車の運転速度等のまま曲線を通過しても転覆のおそれのないような曲線を設計して,転覆のリスクを軽減することが最も本質的である。 2 本件曲線に対する安全対策上記のとおり,平成3年11月に本件線形変更工事に関係する尼崎駅構内配線変更認可が行われたが,これに先立つ同年3月には,福知山線の線区最高速度を100km/hから120km/hとする速度向上策がとられ,車両形式別の最高許容速度が120km/hの特急電車が走行し,快速列車の過半は同速度が115km/hの117系電車で運行されていたにもかかわらず,JR西日本において,福知山線での速度向上策の採用について,当時,本件曲線の設計が参照されたり,速度向上策を考慮して本件曲線の設計を見直すなどの検討が行われたことを認めるに足りる証拠はなく,曲線手前の列車の速度を参照した曲線設計の安全規格が存在したことを認める に足りる証拠もない。 本件曲線の設計時に転覆リスクからみた本質的な安全対策の検討が行われたとは認められず,さらに,本件事故に至るまで設計で軽減されていなかった転覆のリスクに関する防護となるATSの整備もされていなかったことは上記のとおりである。 第2 JR西 安全対策の検討が行われたとは認められず,さらに,本件事故に至るまで設計で軽減されていなかった転覆のリスクに関する防護となるATSの整備もされていなかったことは上記のとおりである。 第2 JR西日本の転覆リスクの解析とATS整備の在り方の問題点 1 転覆危険率からみたJR西日本のATS整備の状況(1) JR西日本は,①平成元年度のATS-P導入の意思決定以降,高密度運転線区に対して路線単位でATS-Pを整備するに際して原則として半径450m未満の曲線に曲線速度照査機能のあるATS-Pを整備し,②平成13年度以降,線区最高速度が130km/hの路線の半径600m未満の曲線(実際には半径400m以上の曲線)に曲線速度照査機能のあるATS-SWあるいはATS-Pを整備していたが,上記①②の整備が行われた105か所の曲線の大半は,本件緊急整備通達あるいは本件改正後省令による転覆危険率が0.9未満であり,転覆のおそれの認められない箇所であった一方で,検察官過失主張期間当時,上記①の整備が一定程度進められていたにもかかわらず,JR西日本管内には本件曲線を含む転覆の危険度の高い曲線がATSの整備のないまま残されており,本件曲線については,本件事故に至るまで上記①②の整備によるATSの整備はされなかった。 (2) 関係証拠によれば,JR西日本においては,東海道線・山陽線のATS-Pの整備を終えるまで,ATS-P導入当初に採用されたATS整備基準を踏襲する形で曲線へのATS-Pの整備が続けられていたものと認められ,東海道線・山陽線のATS整備に際して作成された書面でも,東海道線・山陽線のATS整備の際に「曲線制限の設置に関する明らかな標準はないが,これまでのP整備ではR400以下としている。」との記載がある(「R400」とは半径400mから4 作成された書面でも,東海道線・山陽線のATS整備の際に「曲線制限の設置に関する明らかな標準はないが,これまでのP整備ではR400以下としている。」との記載がある(「R400」とは半径400mから449mの曲線であると認められる。)。 しかし,曲線半径は,転覆の危険度に影響を与えるが,半径450m未満の曲線とはいっても,転覆の危険度は,カントなどのその他の曲線自体の諸元のみならず, 走行する列車の種別等を含めた曲線ごとの諸条件により様々であることが認められ,そのような諸条件は,ATS-Pを整備するものとされた高密度路線であるか否かと関係があると認められない。 本件事故後に判明した曲線の転覆危険率を踏まえると,その整備の在り方は,転覆のリスクに応じた優先度を伴っておらず,JR西日本の曲線へのATS整備基準は,転覆のリスクを十分に解析したものであったとはいえなかったといわざるを得ない。 2 JR西日本の転覆のリスクの解析とATS整備の在り方の問題点曲線の制限速度を定めるなどして運転士が遵守しなければならない運転取扱いを規則化し,高度に訓練された運転士により列車の運行をはかるなど,実際に曲線を走行する運転士の側での方策も転覆のリスクに対する安全対策となるが,曲線とはいっても,その転覆の危険度は様々であるという事実にかんがみると,個別の曲線について,そのような安全対策で足りるかどうかについては,曲線の安全設計やATSなどによる安全対策でのリスク軽減の要否を考えた上であるべきであるのに,JR西日本においては,そのような検討は適切に行われていたものとは認められないといわざるを得ない。 本件事故後の視点からすれば,JR西日本の曲線に対する転覆のリスクに対する分析評価と安全対策は,我が国を代表する鉄道事業者として期待されるよう われていたものとは認められないといわざるを得ない。 本件事故後の視点からすれば,JR西日本の曲線に対する転覆のリスクに対する分析評価と安全対策は,我が国を代表する鉄道事業者として期待されるような水準には及んでいなかったというべきである。 3 被告人の刑事責任との関係しかしながら,本件で問われているのは,このようなJR西日本における曲線での転覆リスクの解析やATS整備の在り方の事後的な評価ではなく,検察官過失主張期間当時において,被告人がJR西日本管内の曲線の中から個別に本件曲線を選び出してATSを整備するよう指示しなかったことが,刑事法上の注意義務違反となるかであり,視点を異にするものである。 第4章被告人の刑事責任 第1 刑事法上の注意義務 1 本件曲線での速度超過による脱線転覆の危険性本件曲線に限らず,列車が何らかの理由により当該列車の転覆限界速度を超えて曲線に進入するに至れば,外側転覆が生じ脱線に至るが,検察官過失主張期間までにJR西日本管内においてATS-Pが設置された半径450m未満の曲線の転覆危険率はいずれも0.9未満であり,列車がランカーブ上の曲線手前の運転速度から何ら減速しないまま曲線に進入したとしても転覆するおそれの認められない,すなわち同速度からの減速操作の誤りに起因する速度超過が生じたとしても当該速度が転覆限界速度に達するおそれの認められない箇所であった。これと異なり,本件曲線の転覆危険率は高く,ランカーブ上の曲線手前の区間の運転速度が転覆限界速度を超える列車が存在し,本件曲線は,曲線手前の区間での許容速度からの減速操作の誤りに起因する速度超過が生じた場合,列車の脱線転覆が生じる危険性を有していた。他方,曲線手前の区間は平坦であったから,これまで函館線で生じた3件の事故や碓氷 手前の区間での許容速度からの減速操作の誤りに起因する速度超過が生じた場合,列車の脱線転覆が生じる危険性を有していた。他方,曲線手前の区間は平坦であったから,これまで函館線で生じた3件の事故や碓氷峠で生じた事故のように,曲線手前の下り勾配での加速に起因する速度超過により脱線転覆が生じる危険性は有していなかったといえる。 なお,列車が曲線において転覆限界速度に至らない速度で走行した場合においても転覆に至らないで脱線する場合のあることは認められるが,そのような状況が生じる条件についての立証はなく,証拠上認められる曲線の速度超過による客観的な脱線転覆の危険性の尺度は,本件緊急整備通達あるいは本件改正後省令による転覆危険率のみである。 2 注意義務における予見可能性と結果回避義務(1) 検察官は,被告人について自己が統括する安全対策室等の職員に対し,JR西日本管内の曲線の中から本件曲線を個別に指定し,本件曲線にATSを整備するよう指示すべき注意義務があったのにもかかわらずこれを怠った過失があると主張する。 被告人は,検察官過失主張期間当時,JR西日本の鉄道事業に関する安全対策の 実質的な最高責任者であったものと認められるから,JR西日本の鉄道事故によって乗客らに死傷結果が発生することを防止すべき立場にあったことは明らかであり,本件で問題となるのは,被告人が負うべき注意義務の内容である。 そして,刑事法上の過失における注意義務は,当該注意義務を負担すべき行為者の属性によって類型化される一般通常人,本件においていえば,大規模な鉄道事業者の安全対策の責任者の立場にあった者の注意能力が基準となるべきものであり,検察官主張の注意義務違反を肯定するためには,本件の死傷結果の発生について予見可能性が認められるとともに,そのような予見 業者の安全対策の責任者の立場にあった者の注意能力が基準となるべきものであり,検察官主張の注意義務違反を肯定するためには,本件の死傷結果の発生について予見可能性が認められるとともに,そのような予見可能性を前提として,本件曲線にATSを整備するよう指示する結果回避の措置をとらなかったことが,上記のような立場に置かれた者について要求される行動基準を逸脱し,結果回避義務違反といえることが必要である。予見可能性は,無前提にその有無が問題になるのではなく,一定の結果回避義務を課すことの前提としてどの程度の予見可能性がなければならないかを問題とすべきものである。 被告人の注意義務は被告人の予見可能性と結果回避義務により定められるものであり,被告人がJR西日本においてどのような地位あるいは立場にあったかによって直ちに定まるものではない。 (2) 結果回避義務との関係で,検察官過失主張期間における我が国の鉄道事業者に関する曲線へのATS整備の状況をみると,次の点が指摘できる。 ア鉄道事業者に曲線へのATS整備は法令上義務づけられておらず,鉄道事業者において曲線にATSを整備していた事業者は一部にとどまり,JR各社及び大手民鉄をみても曲線にATSを整備していない鉄道事業者が過半であった。 イ曲線にATSを整備していた一部の鉄道事業者についてもその整備基準は様々であったところ,本件事故に至るまで,新たに開業した鉄道事業者を含めた我が国の鉄道事業者において,個別の曲線ごとに国枝の式を用いるなどして列車の転覆限界速度を算出する曲線管理が行われていたとは認められず,個別の曲線について曲線手前の列車の速度と計算上の転覆限界速度を比較することにより転覆の危険 性を把握してATS整備の要否を検討することが行われていたとは認められない。 JR西日 認められず,個別の曲線について曲線手前の列車の速度と計算上の転覆限界速度を比較することにより転覆の危険 性を把握してATS整備の要否を検討することが行われていたとは認められない。 JR西日本のみならず,他の鉄道事業者において本件事故前にATSが整備された曲線のうち転覆危険率が証拠上判明した曲線の大半は,転覆危険率が0.9未満であり,列車が曲線手前の運転速度のまま進入しても転覆するおそれの認められない曲線であった。 その一方,本件事故に至るまで,JR東日本,JR東海,近畿日本鉄道,名古屋鉄道,京浜急行電鉄など曲線へのATSの整備を開始していた大規模な鉄道事業者において転覆の危険度の高いあるいは転覆のおそれがある曲線が曲線区間への大幅な制限速度超過による進入を防止できるATS整備がされないまま残されており,本件事故に至るまで,JR西日本のみならず,その他の鉄道事業者においても,客観的にみて,管内の曲線の中から転覆の危険度の高いあるいは転覆のおそれのある曲線を個別に判別して,速度超過による脱線転覆を防止できるATSを整備することが行なわれていたとは認められない。 (3) ところで,公訴事実には,注意義務の根拠となる事実として,被告人が,「本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性及び本件曲線にATSを整備すれば容易に同事故を回避できることを認識していた」と記載されており(検察官は,公判前整理手続において現に認識していることである旨釈明した。),被告人が,単なる曲線一般の脱線転覆の抽象的危険性に対する認識にとどまらず,本件曲線について個別具体的に脱線転覆の危険性を認識していたというのであれば,上記(2)の事情を踏まえ,その認識を前提に結果回避義務を考えるべきであり,その認識は本件曲線でのATSの不備による死傷結果発生の について個別具体的に脱線転覆の危険性を認識していたというのであれば,上記(2)の事情を踏まえ,その認識を前提に結果回避義務を考えるべきであり,その認識は本件曲線でのATSの不備による死傷結果発生の予見の容易さをもたらすものであるから,予見可能性の程度に影響を与えることも明らかである。 したがって,本件曲線についての脱線転覆の危険性の認識の有無は,注意義務の判断に際して重要な事実関係であるが,被告人は,捜査段階から一貫して本件曲線の脱線転覆の危険性認識を否定していた。 第2 被告人の本件曲線に対する脱線転覆の危険性の認識 1 本件曲線の脱線転覆の危険性認識に関する状況関係証拠によれば,被告人がJR西日本を退任するまでの間,本件曲線の脱線転覆の危険性や問題点,あるいは本件曲線へのATS整備の必要性について周囲から進言等を受けることがなかったと認められ,検察官も,論告において,JR西日本においてはだれ一人として本件曲線へのATS整備の必要性を検討していなかったと主張するところである。 そうすると,被告人が本件曲線について脱線転覆の危険性を認識していたかについては,被告人が周囲から進言等を受けることなく,自らJR西日本管内に多数存在する曲線の中から本件曲線についてその認識を抱くに至ったかを検討すべきことになるところ,公訴事実には,「本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性」の認識をしていたことを基礎付ける事実として,公訴事実①②の事実の記載がされていた。 2 公訴事実①の事実について(1) 「運転士の居眠りやブレーキ操作の遅れなどの人為的なミスに起因する列車事故が国内で多発し,曲線における速度超過による脱線転覆事故も発生していたことから,鉄道業界では,危険性が高い曲線に対しても,ATSを整備する必 りやブレーキ操作の遅れなどの人為的なミスに起因する列車事故が国内で多発し,曲線における速度超過による脱線転覆事故も発生していたことから,鉄道業界では,危険性が高い曲線に対しても,ATSを整備する必要があると認識され」との事実についてア関係証拠によれば,曲線に限らないのであれば本件事故以前から運転士の取扱い誤りによる事故は,脱線事故も含めて相当多数発生していることが認められ,他方,曲線については,上記のとおり,閑散区間の下り勾配区間内の曲線(半径200mから350m)を中心として脱線転覆事故は過去に6件発生したことが認められる。 しかしながら,これらの事故が起きた曲線と本件曲線の間には,曲線半径の類似点以外があるとは認められず,上記のとおり,実際に半径304m程度の曲線とはいっても,転覆の危険度は様々であり,さらに,下り勾配区間内の曲線には,自然加速という本件曲線にはない危険要因が考えられるのであり,上記のような取扱い 誤りによる事故の発生と曲線での過去の事故例が,JR西日本管内に多数存在する半径が同程度の曲線の中から,本件曲線の脱線転覆の危険性の認識を抱かせるものとは考え難い。 イなお,「鉄道業界では,危険性が高い曲線に対してもATSを整備する必要があると認識され」との点について,本件事故前にATSが整備されていた転覆の危険度は様々であり,我が国の鉄道事業者において,転覆の危険度の高いあるいは転覆のおそれのある曲線を判別して,ATSを整備することは行われていたとは認められないところ,ATSを整備する必要があると認識される「危険性が高い曲線」というのが客観的にどのような曲線であるかは,検察官の主張上も証拠上も判然としない。 (2) 「JR西日本においても,曲線における速度超過による脱線転覆事故の発生を想定し る「危険性が高い曲線」というのが客観的にどのような曲線であるかは,検察官の主張上も証拠上も判然としない。 (2) 「JR西日本においても,曲線における速度超過による脱線転覆事故の発生を想定し,高輸送密度路線を対象として,半径450m未満の曲線にATSを順次整備しており,被告人も安全対策室長等としてこれを主導していたところ,曲線半径を半減させる他に類例を見ない本件線形変更工事により,本件曲線の半径がこの基準を満たすことになった」との事実についてア上記のとおり,JR西日本が高密度路線を対象とする路線単位のATS-P整備に際して,半径450m未満の曲線にATSを整備しており,被告人が室長を務めていた本社安全対策室の分掌事項にはATS整備が含まれることが認められる。 そして,関係証拠によれば,ATS-Pの速度照査パターンは,列車の転覆限界速度ではなく,曲線の制限速度を参照したものであることが認められるから,曲線へのATS-P整備は,直接には曲線の制限速度超過防止を目的としているものと認められるが(信号機に設置されたATSが信号冒進防止を目的とするのというのと同様である。),曲線の制限速度は,走行安全性に乗り心地を考慮し安全側に余裕を持って定められており,曲線半径が十分大きく走行安全性が阻害されず乗り心地の悪化の考えられないような曲線については,そもそも曲線としての制限速度は定められないことも認められるから,制限速度超過を防止することの目的には,乗 り心地の維持のみならず,検察官が論告において強調するように大幅な制限速度超過による脱線転覆防止が含まれるものと認められる。事故発生の理由とその発生する確率を問わないのであれば,ATS-P整備の前提として曲線での脱線転覆事故の発生があり得ることは否定されていないというべきである。 脱線転覆防止が含まれるものと認められる。事故発生の理由とその発生する確率を問わないのであれば,ATS-P整備の前提として曲線での脱線転覆事故の発生があり得ることは否定されていないというべきである。 しかし,このような一般的な整備の目的と,JR西日本においてATS-Pが整備され,あるいは整備が見込まれる個別の曲線が客観的に速度超過による脱線転覆の危険性を有するかは別の問題であり,上記に認定判示したところによれば,検察官過失主張期間当時のJR西日本のATS-P整備基準は,転覆の危険度の高いあるいは転覆のおそれのある曲線の判別に資するものとは認められない。 関係証拠によれば,JR西日本においては,検察官過失主張期間当時,東海道線・山陽線のATS-P整備に引き続いて福知山線でのATS-P整備が考えられており,本件曲線についても,将来的にはATS-Pの整備がされることが見込まれていたものと認められるが(実際に福知山線への整備が決定されたのは半径600m未満の曲線),検察官が論告において強調する脱線転覆防止というATSの整備の目的を考慮しても,このことが同様にATS-P整備の見込まれる曲線の中から本件曲線について脱線転覆の危険性を認識することに結びつくものとは認め難い。 検察官は,論告において,公訴事実において言及していないJR西日本におけるATS整備の目的について詳細に論じ,さらに,JR西日本は,転覆危険率を計算してATSを整備したわけではないから,JR西日本においてATSが転覆危険率の低い曲線に整備されたことは結果論であって,ATS整備の目的を左右するものではないと主張するが,このような主張自体,検察官が論告において強調するJR西日本におけるATS整備の目的が転覆の危険度の高い本件曲線の有する脱線転覆の危険性を認識させるものでないこと 左右するものではないと主張するが,このような主張自体,検察官が論告において強調するJR西日本におけるATS整備の目的が転覆の危険度の高い本件曲線の有する脱線転覆の危険性を認識させるものでないことを意味するものというほかない。 ウまた,関係証拠上,本件線形変更工事のように駅間で半径600mの曲線に代えて新たに半径304mの曲線を設けることが珍しいことは認められるが(検察官は「他に類例を見ない」というが,具体的に立証されているのは,検察官が照会 をした規模の様々な鉄道事業者数社において同様の線形変更工事の存在が確認されず,検察官から同様の線形変更工事の例を問われた一部の証人と被告人が同様の例を知らなかったということである。),JR西日本の大阪支社管内だけでも,本件曲線のように本線かつ駅間の半径304m以下の曲線は80か所存在し,線形変更後の曲線半径自体は特に珍しいものではなく,また,本件線形変更工事の珍しさそのものが曲線における脱線転覆の危険性に影響を与えるものでもない。 したがって,半径の削減比率に着目した本件線形変更工事の珍しさそのものが本件曲線の脱線転覆の危険性の認識につながるものとは認められない。 (3) 「福知山線に加速性能の高い新型車両を大量に導入し,被告人の主導の下,本件曲線手前の直線を制限速度である120km/hないしこれに近い速度で走行する快速列車の本数を従前の1日当たり34本から94本に増加させるなどの本件ダイヤ改正を行ったことにより,運転士が適切な制動措置をとらないまま列車を本件曲線に進入させた場合,列車が本件曲線で脱線転覆する危険性を格段に高めるとともに,福知山線は既に曲線へのATSが整備されている路線と同等の高輸送密度路線になった」との事実についてア上記のとおり,本件ダイヤ改正に際して, 本件曲線で脱線転覆する危険性を格段に高めるとともに,福知山線は既に曲線へのATSが整備されている路線と同等の高輸送密度路線になった」との事実についてア上記のとおり,本件ダイヤ改正に際して,車両形式別の最高許容速度が120km/hの207系電車が追加導入され,平日ダイヤにおいて福知山線上り快速列車の本数1日当たり34本から94本に増加し,平日ダイヤの1日当たり列車本数が201本となり,ATS-Pが整備されていた片町線に次ぐ列車本数となったことが認められるが,当時,この列車本数を大幅に上回るダイヤの東海道線には,ATS-Pは整備されていなかったことが認められる。 イしかし,本件ダイヤ改正は,上記のとおり,福知山線上り快速列車のダイヤに大幅な余裕を持たせるものであって,ダイヤ上の平均速度は低下しており,検察官過失主張期間当時のダイヤは,福知山線の上り快速列車が本件曲線の手前において120km/hないしこれに近い速度で走行することを必要とするものではなく,その速度は,せいぜい100km/hであった。 そして,上記のような快速列車の本数増加や路線における輸送密度の上昇が,本件曲線手前の区間での上り列車が回復運転を行う確率を高めたり,制動措置の誤りの程度を大きくする要因となることを認めるに足りる証拠はない。 本件ダイヤ改正が,運転士が適切な制動措置をとらないまま列車を本件曲線に進入させた場合の脱線転覆の危険性を高めたとは認められず,本件ダイヤ改正後の福知山線の輸送密度が本件曲線を通過する各列車の脱線転覆の危険性に影響するとも認められない。 したがって,証拠上認められる前記アの事情が本件曲線の脱線転覆の危険性を認識させるものとは認められない。 3 公訴事実②の事実について「平成8年12月4日,JR北海道函館線 められない。 したがって,証拠上認められる前記アの事情が本件曲線の脱線転覆の危険性を認識させるものとは認められない。 3 公訴事実②の事実について「平成8年12月4日,JR北海道函館線の半径300mの曲線において,貨物列車が速度超過により脱線転覆する事故が発生し,JR西日本では,同月25日に開催された被告人が出席する鉄道本部内の会議において,ATSが整備されていれば防止できた事故例として紹介された。」との事実について(1) 上記のとおり,函館線仁山事故は平成8年12月4日に発生したものであり,関係証拠によれば,JR西日本で同月25日に開催され,被告人が出席した鉄道本部ミーティングにおいて用いられた「JR京都・神戸線へのATS-P形早期整備について」と題する文書の付属資料2枚目のATS-SWの速度照査機能に対するATS-Pの速度照査機能(曲線速度照査に限らない。)の優位性を記載した部分には,「※ATS-Pなら防げた事故例」「H8.12.4(函館線) 貨物列車が連続下り勾配で速度超過のため,貨車全車脱線した。」「JR北海道」と記載があるが,同資料には,どのような場所にATS-Pを整備すべきかの記載は存在しないことが認められる。なお,実際には,函館線仁山事故はATS-SWのようなATS-S改良形のATSの有する速度照査機能によっても防止できる態様の事故であったと認められ,ATS-Pの速度照査機能の優位性を示すような事故であったとは認められない。 (2) 函館線仁山事故は,ディーゼル機関車を先頭とする貨物列車が,連続下り勾配で加速し,曲線手前の区間における同列車の制限速度のみならず,この曲線を含む区間における同列車の最高速度を大幅に超えて,半径300mの曲線(制限速度60km/h)に差し掛かり,貨車を脱線させた事 勾配で加速し,曲線手前の区間における同列車の制限速度のみならず,この曲線を含む区間における同列車の最高速度を大幅に超えて,半径300mの曲線(制限速度60km/h)に差し掛かり,貨車を脱線させた事故であり,電車列車が平坦な区間において曲線手前の区間の制限速度はほぼ遵守しながら,曲線手前での速度調節がされないまま曲線に進入して生じた本件事故とは事故の様相が大きく異なるものである。 そして,函館線仁山事故後,JR貨物は,自社の貨物列車を対象として,ATS-SNの周波数を用いた函館本線急勾配線区過速度検知システムを整備したが,これは下り勾配区間の速度照査を行うものであり,曲線速度照査を行うものではなく,事故現場の路線を保有するJR北海道は,速度照査機能のあるATS-SNの整備を開始していながら,事故現場の曲線を含め,同事故を契機として曲線にATSを整備することはなかったのであり,JR西日本も含めた我が国の鉄道事業者において,同事故を契機として新たな曲線速度照査機能のあるATSの整備を行った鉄道事業者が存在するとは認められず,同事故を契機として曲線の危険性を把握したとする鉄道事業者が存在することを認めるに足りる証拠もない。 (3) そうすると,検察官過失主張期間当時,函館線仁山事故がJR西日本管内に多数存在する曲線の中から本件曲線について脱線転覆の危険性を認識させる事故であったとも認められず,鉄道本部会議の資料に函館線仁山事故について上記の記載があることが,本件曲線の脱線転覆の危険性の認識につながるものでもない。 4 検察官が論告において主張するその他の事実について検察官は,論告において,「本件曲線において,脱線転覆事故が発生する危険性が極めて高かったこと」を,被告人の本件曲線の脱線転覆の危険性認識等の根拠としても主張しており, するその他の事実について検察官は,論告において,「本件曲線において,脱線転覆事故が発生する危険性が極めて高かったこと」を,被告人の本件曲線の脱線転覆の危険性認識等の根拠としても主張しており,この点について検討する。 (1) 曲線の転覆の危険度を把握するための転覆危険率算定の条件は本件事故後に定められたものであり,被告人が,本件曲線についてこのような転覆危険率その ものを認識していなかったことは明らかであるが,検察官は,本件曲線の手前の制限速度は本件曲線の転覆限界速度を上回っており,被告人は,列車が本件曲線の制限速度を超える速度で本件曲線に進入し,脱線転覆事故が発生する危険性を認識していたと主張する。 列車の転覆限界速度は,曲線の諸元のみで定まるわけではなく,車両の種類,乗客数,曲線通過時の風速等の影響を受けるものであるところ,上記のとおり,本件事故に至るまで我が国の鉄道事業者において,管内の個別の曲線ごとに列車の転覆限界速度を算出する曲線管理がされていたとは認められず,被告人も本件曲線について計算上の転覆限界速度は認識していなかったのであり(本件事故当日,JR西日本が本件列車の転覆限界速度について133km/hと現実の値とは相当異なる試算結果を発表したことは上記のとおりである。),被告人が本件曲線手前の制限速度が本件曲線の転覆限界速度を上回っていると認識していたとは認められない。 (2) 上記のとおり,福知山線の線区最高速度は120km/hであり,本件曲線手前の4km超のほぼ直線の区間において特別な速度制限はなく,本件曲線の制限速度は列車の種類を問わず70km/hであり,制限速度の差が50km/hとなるところ,検察官は,転覆限界速度という視点がなくとも,上記の制限速度差により,本件曲線が「脱線転覆事故が発生する危 の制限速度は列車の種類を問わず70km/hであり,制限速度の差が50km/hとなるところ,検察官は,転覆限界速度という視点がなくとも,上記の制限速度差により,本件曲線が「脱線転覆事故が発生する危険性が極めて高い曲線であること」を認識できたと主張する。 上記のとおり,本件曲線の使用開始後,曲線手前の区間の制限速度ではなく,曲線手前の運転速度(ランカーブ上の曲線手前のブレーキ初速)と曲線の制限速度の差を基準として北越急行(20km/h差)及びJR東海(40km/h差)がATSの整備を開始したが,その整備に際して列車の転覆限界速度は考慮されていたとは認められず,北越急行の整備基準に該当した10か所のうち8か所(最大速度差38km/h)とJR東海の整備基準に該当した曲線5か所のすべて(最大速度差56km/h)は,曲線手前の運転速度のまま曲線を走行しても転覆のおそれがあるとは認められない箇所であった。 そして,検察官過失主張期間当時の鉄道業界において,JR東海や北越急行のような速度差に着目した整備基準を他の鉄道事業者の整備基準に置き換えて採用すべきとの提言がされていたことを認めるに足りる証拠もなく,関係証拠によれば,JR東海の整備基準は,先行して曲線にATSを整備していたJR東日本やJR西日本の整備基準の問題点を把握して定められたものではないことも認められる。 また,被告人は,JR東海等の曲線へのATS整備基準の内容を知らず,本件曲線付近でのランカーブの内容も知らなかったことが認められ(ランカーブの内容自体は,実際に福知山線を走行する列車の運転士が知らないで差し支えのないものであることも認められる。),上記のとおり,検察官過失主張期間当時の福知山線の列車ダイヤは,上り快速列車が本件曲線の手前の区間で120km/hないしこれに る列車の運転士が知らないで差し支えのないものであることも認められる。),上記のとおり,検察官過失主張期間当時の福知山線の列車ダイヤは,上り快速列車が本件曲線の手前の区間で120km/hないしこれに近い速度で走行することを必要とするものではなく,本件曲線手前での福知山線上り快速列車の標準的な運転速度はせいぜい100km/h程度であった。 エそうすると,被告人が,本件事故後の転覆危険率の考え方のように,列車がランカーブ上の運転速度あるいは駅間最高速度など曲線手前に至る区間の許容速度のまま曲線に進入することを想定し,当該列車の計算上の転覆限界速度と比較して曲線の危険性を把握すべきであるとの視点を与えられないまま,前記の制限速度差を認識したとしても,本件曲線の脱線転覆の危険性の認識につながるものとは考え難い。 検察官は,普通鉄道構造規則10条に線区最高速度に対応する曲線半径が定められていたことも指摘するが,同条は,高速性,大量性の確保の観点から求められる曲線半径を規定した規定であり,検察官過失主張期間当時において,直ちに上記のような視点の根拠となるものとも認められない。 なお,福知山線を走行するJR西日本の列車の運転士が,検察官の主張する制限速度差を認識していたことは明らかであるが,検察官過失主張期間に福知山線を運転した経験のある運転士は,検察官請求証人も含め,当公判廷において,検察官過失主張期間当時に本件曲線について脱線転覆のおそれを感じたなどとは証言してい ないところである。 5 被告人の本件曲線の脱線転覆の危険性認識について(1) 以上のとおり,検察官が危険性認識の根拠として公訴事実に記載し,あるいは論告で主張する事項に関し,被告人の認識が考えられる事実として,(a)曲線に限らなければ運転士の居眠りやブレーキ て(1) 以上のとおり,検察官が危険性認識の根拠として公訴事実に記載し,あるいは論告で主張する事項に関し,被告人の認識が考えられる事実として,(a)曲線に限らなければ運転士の居眠りやブレーキ操作の遅れなどの人為的なミスに起因する列車事故はこれまで国内で多発しており,一方,曲線における速度超過による脱線転覆事故は,昭和44年から平成8年までの間に閑散区間の下り勾配内の曲線での事故を中心に6件発生したこと,(b)ATS-Pにより曲線での制限速度超過を防止することの目的には脱線転覆の防止も含まれ,ATS-P整備の前提として事故発生の理由と確率を問わないのであれば,曲線において速度超過による脱線転覆事故の発生があり得ること自体は否定されていないこと,(c)JR西日本においては,ATS-Pの整備が決定された路線のATS整備に際して半径450m未満の曲線にATS-Pを整備しており,福知山線についてATS-P整備の決定がされれば本件曲線はATS-P整備の対象となることが見込まれており,ATSに関する事項も本社安全対策室の分掌事項に含まれること,(d)本件線形変更工事により曲線半径が600mから304mに変更されたがこのような工事自体は珍しいものであること,(e)本件ダイヤ改正に際して福知山線に車両形式別の制限速度が120km/hの207系電車が追加して導入され,平日ダイヤにおける1日当たりの快速列車の本数は34本から94本,1日当たりの列車本数は201本となり既にATS-Pが整備されていた片町線に次ぐ列車本数となったこと,(f)平成8年12月4日に半径300mの曲線での速度超過による脱線転覆事故である函館線仁山事故が発生し,JR西日本で同月25日に開催され,被告人が出席した鉄道本部ミーティングにおける「JR京都・神戸線へのATS-P形早期整備 径300mの曲線での速度超過による脱線転覆事故である函館線仁山事故が発生し,JR西日本で同月25日に開催され,被告人が出席した鉄道本部ミーティングにおける「JR京都・神戸線へのATS-P形早期整備について」と題する資料中,ATS-SWとATS-Pの各速度照査機能を比較した場合のATS-Pの速度照査機能の優位性を記載した部分に,「※ATS-Pなら防げた事故例」「H8.12.4(函館線) 貨物列車が連続下り勾配で速度超過のため,貨車全 車脱線した。」「JR北海道」と記載があること,(g)福知山線の線区最高速度が120km/hであり,本件曲線手前の4km超のほぼ直線の区間において特別の速度制限がなく,本件曲線の制限速度が70km/hであること,以上の事実が認められる。 (2) 被告人は,当公判廷において,これらの事実の一部の認識を否定しているが,以上判示したところによれば,検察官過失主張期間当時,これらの事実は,被告人が周囲から本件曲線について進言等を受けないまま,JR西日本管内に多数ある曲線の中から本件曲線について脱線転覆の危険性の認識を抱かせるような事実であったとは認められず,被告人が,これらの事実をすべて認識していたと仮定しても,被告人が本件曲線の脱線転覆の危険性について現に認識していたとは認められず,その危険性を容易に認識し得たとも認められないというべきである。被告人の検察官調書における供述もこの判断を左右せず,他に上記危険性を認識していたと認めるに足りる証拠はない。 被告人が,本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性を現に認識していたとの検察官の主張は,危険性の認識を否定する方向の事実関係に目を向けようとせず,事実関係の一部を取り上げ,これに一方的な意味づけをして被告人の認識を論ずるものにすぎないといわ 険性を現に認識していたとの検察官の主張は,危険性の認識を否定する方向の事実関係に目を向けようとせず,事実関係の一部を取り上げ,これに一方的な意味づけをして被告人の認識を論ずるものにすぎないといわざるを得ない。 第3 注意義務についての判断 1 検察官の主張する予見可能性の対象及び程度(1) 以上のとおり,検察官が公訴事実に注意義務を根拠付ける事実として記載した被告人が「本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性」を認識していたとの事実は認められないというべきであるが,検察官は,論告に至って,同事実は訴因としての拘束力を有するものではなく,同事実が認められないとしても注意義務は認められる旨を主張するとともに(なお,検察官は,論告において危険性を認識すべきだったとも主張するが,これは検察官の意見であって注意義務の根拠となる具体的事実ではなく,被告人の注意義務の判断とは別に判断することを 要するものではない。),従前言及していなかった予見可能性の対象及び程度について,「運転士が,何らかの理由により,転覆限界速度を超える速度で本件曲線に列車を進入させること」について予見可能性があれば足り,そのような事象が起こる客観的確率が低いことは直ちに予見可能性を否定する理由にならず,「いつかは起こり得るという程度に予見し得るもの」であれば足りると主張した。 (2) 我が国において,本件事故が生じるまで,列車が転覆限界速度を超えて曲線に進入して生じたと認められる事故は,本件事故とは路線状況の異なる閑散区間の下り勾配区間内の曲線において,機関車あるいは貨車について生じたものであり,これらの事故について運転士が転覆限界速度を超える速度で列車を曲線に進入させた経緯や理由が本件事故と同様のものであったとは認められない。 そして, て,機関車あるいは貨車について生じたものであり,これらの事故について運転士が転覆限界速度を超える速度で列車を曲線に進入させた経緯や理由が本件事故と同様のものであったとは認められない。 そして,転覆限界速度は,列車が内側車輪の輪重を喪失し,転覆を開始する速度であり,その具体的な速度は,曲線の諸元のみならず,車両の種類,乗客数,風速などにより異なるものであるところ,上記のとおり,本件事故に至るまで,新たに開業した鉄道事業者を含め個別の曲線ごとに走行する列車について転覆限界速度を算出する曲線管理を行っていた鉄道事業者があったとは認められず,被告人も本件曲線について計算上の転覆限界速度の認識はなかったものである。被告人が,本件曲線について脱線転覆の危険性の認識を抱かず,周囲から本件曲線の危険性等に関する進言も受けないまま,JR西日本内に多数存在する曲線の中から,本件曲線について転覆限界速度を算定することに思い至ることは容易でなく,被告人が本件曲線について走行する列車の計算上の転覆限界速度を認識することは容易ではなかったものと認められる。 (3) 他方,転覆限界速度が特定されなくとも,曲線一般について,何らかの理由により列車が当該列車の転覆限界速度を超えて曲線に進入すれば外側転覆が生じ,脱線に至ることは自明のことであり,列車が物理的に走行可能な速度は走行する区間内に存在する曲線での転覆限界速度に対応して定められているわけではないから,前記第2に認定判示したところを考え合わせれば,被告人が本件曲線について脱線 転覆の危険性や,本件曲線での計算上の転覆限界速度の認識を欠き,また容易に認識し得たといえないとしても,①運転士が転覆限界速度を超えて本件曲線に列車を進入させる理由を問わず,②そのような事態の発生する客観的確率の低さは問題とし 算上の転覆限界速度の認識を欠き,また容易に認識し得たといえないとしても,①運転士が転覆限界速度を超えて本件曲線に列車を進入させる理由を問わず,②そのような事態の発生する客観的確率の低さは問題としないという検察官主張の前提を入れれば,運転士が転覆限界速度を超える速度で本件曲線に列車を進入させ列車が転覆して脱線に至り,乗客らに死傷結果が発生することは,「何らかの理由により」「いつかは起こり得るもの」として予見可能の範囲内にあることは否定し難い。 しかしながら,予見の対象とされる転覆限界速度を超えた進入に至る経緯は漠然としたものであり,結果発生の可能性も具体的ではない。このような意味で結果発生が予見可能の範囲内にあることを予見可能性というのであれば,その内実は危惧感をいうものと大差はなく,結果発生の予見は容易ではなく,予見可能性の程度は相当低いものといわざるを得ない。これは,被告人が前記第2・5(1)の事実をすべて認識していたとしても同様と認められる。 2 予見可能性と結果回避義務(1) 上記の予見可能性の下での結果回避義務を考えると,検察官過失主張期間当時の事情として,次のような点を指摘することができる。 上記のとおり,①新たに開業した鉄道事業者も含め,我が国の鉄道事業者において個別の曲線について曲線手前の列車の速度と計算上の転覆限界速度を比較することにより転覆の危険性を把握してATS整備の要否を検討することは行われておらず,管内の曲線の中から本件曲線のように転覆の危険度の高い,あるいは転覆のおそれのある曲線を個別に判別して,曲線速度照査機能のあるATSを整備していた鉄道事業者が存在したとは認められず,②鉄道事業者に曲線へのATS整備は法令上義務づけられておらず,鉄道事業者において曲線にATSを整備していた事業者は一部にと 度照査機能のあるATSを整備していた鉄道事業者が存在したとは認められず,②鉄道事業者に曲線へのATS整備は法令上義務づけられておらず,鉄道事業者において曲線にATSを整備していた事業者は一部にとどまり,JR各社及び大手民鉄をみても曲線にATSを整備していない鉄道事業者が過半であった。 そして,③福知山線への路線単位のATS-P整備の決定が被告人の判断のみに よってできるわけではなく,被告人が本件曲線にATSを整備するよう指示しなかったことが検察官過失主張期間当時のJR西日本のATS整備基準に反するものではなく,④本件ダイヤ改正は,福知山線上り快速列車の列車ダイヤに大幅な余裕を持たせる内容であり,当時のダイヤは,福知山線の上り快速列車が本件曲線の手前において120km/hないしこれに近い速度で走行することを要するものではなくせいぜい100km/hで走行すれば足りており,本件事故当時のダイヤとは大きく異なっていた。 これらの事情を考慮すると,検察官が結果回避義務の根拠として主張するところについて証拠上認められる,⑤被告人が鉄道本部長当時に行われた本件線形変更工事により,転覆の危険度の高い本件曲線が新たに使用開始されたものであること(なお,検察官は本件曲線の危険性が本件線形変更工事により人為的に高められたと主張するが,脱線転覆の危険性は元来人為的なものである。),⑥仮に本件曲線へATSを整備すべきことが決まれば,本件曲線へのATS地上子の整備そのものは容易であったことなどの事情を考慮しても,上記の予見可能性の下で,被告人が,本件曲線を個別に指定し,ATSを整備するよう指示しなかったことが,大規模な鉄道事業者の安全対策の責任者としての立場に置かれた者について要求される行動基準を逸脱し,結果回避義務違反となるものとはいえない。 を個別に指定し,ATSを整備するよう指示しなかったことが,大規模な鉄道事業者の安全対策の責任者としての立場に置かれた者について要求される行動基準を逸脱し,結果回避義務違反となるものとはいえない。 本件全証拠を総合しても,被告人に対して,将来的に見込まれていた福知山線の路線単位でのATS-P整備に際して本件曲線にATS-Pを整備させるのではなく,本件曲線を個別に指定してATS-P又はATS-SW整備を指示すべき結果回避義務を課すに足りる程度の予見可能性は認められず,被告人に注意義務違反は認められない。 (2) 検察官は,自らの予見可能性に関する主張は,本件と同様に管理過失責任が問題となったホテル火災事故の判例の結論とも整合すると主張し,ホテルニュージャパン火災事件(最高裁平成5年11月25日第2小法廷決定・刑集47巻9号242頁)を援用する。 しかし,同事件は,当該ホテルを営む事業者において消防法令により定められた防災設備の不備等の防火管理上の問題点が多数存在し,消防当局から繰り返し改善等を指導され,ホテルの代表取締役であった当該事件の被告人も建物に防火管理上の問題点が数多く存在することを十分に認識していた事案において,「防火管理体制の不備を解消しない限り,いったん火災が起これば,発見の遅れや従業員らによる初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し,従業員らにおいて適切な通報や避難誘導を行うことができないまま,建物の構造,避難経路等に不案内の宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることを容易に予見できた」とされ,このような予見の容易性を前提に,当該事件の被告人について「宿泊客らの死傷の結果を回避するため、消防法令上の基準に従って」「スプリンクラー設備又は代替防火区画を設置する」などして防火管理体制を確立しておくべき義務 の容易性を前提に,当該事件の被告人について「宿泊客らの死傷の結果を回避するため、消防法令上の基準に従って」「スプリンクラー設備又は代替防火区画を設置する」などして防火管理体制を確立しておくべき義務を負っていたとされたのである。 これと異なり,本件において,検察官過失主張期間当時に本件曲線へのATS整備を義務づける法令等の定めはなく,鉄道業界においてもATSの整備対象となる曲線の基準は様々であった。そして,被告人は,周囲から本件曲線の危険性あるいはATS整備の必要性等について何らの進言を受けることもなく,本件曲線の脱線転覆の危険性も認識しておらず,本件曲線に直ちにATSを整備すべきとの認識もなかったと認められるのであり,結果回避義務の内容を確定させる事実関係のみならず,予見の容易さに関する事実関係が本件とは大きく異なることは明らかである。 ホテルニュージャパン火災事件は,むしろ本件との事案の違いを浮き彫りにさせるものであって,被告人の過失の根拠となるものではなく,検察官による同事件の援用は,自己に都合の良い結論のみを援用する表層的なものといわざるを得ない。 (3) 検察官は,論告において,鉄道事業者は,常に鉄道事故や鉄道交通の安全性等に関する情報収集や調査・研究を怠らず,あらかじめ発生し得るあらゆる事態を想定し,事故の発生を未然に防止し得るよう,万全の安全対策を講じるべき高度の責務を負っていると主張する。 上記のとおり,組織としての鉄道事業者に要求される安全対策という点からみれば,本件曲線の設計やJR西日本の転覆のリスクの解析及びATS整備の在り方に問題が存在し,大規模鉄道事業者としてのJR西日本に期待される水準に及ばないところがあったといわざるを得ない。 そして,検察官が,被告人質問において被告人に指摘していた 析及びATS整備の在り方に問題が存在し,大規模鉄道事業者としてのJR西日本に期待される水準に及ばないところがあったといわざるを得ない。 そして,検察官が,被告人質問において被告人に指摘していた先見の明の有無という観点からすれば,安全対策の責任者であった被告人について,当時のJR西日本のATS整備基準では,本件曲線が直ちにATS整備の対象とはなるものではないが,自ら新たに使用開始される本件曲線についてATS整備が必要であることを見抜き,ATS整備をするよう指示しなかったことについて先見の明がなかったとの非難は可能であろう。 しかしながら,過失犯は,個人に刑事法上課せられる注意義務を怠ったことを処罰の対象とするものであり,その注意義務は,当該個人の予見可能性と結果回避義務により定まるものである。上記のようなJR西日本の組織としての責務の存在が,JR西日本の鉄道事故によって乗客らに死傷結果の生じることを防止すべき立場にあった個人としての被告人について注意義務違反を肯定するための予見可能性の程度を緩和する理由になるものではなく,検察官が鉄道事業者としてのJR西日本の責務として主張するところは,被告人の注意義務違反を肯定するに足りる予見可能性は認められないとの判断を左右するものではない。 また,検察官は,論告において,検察官過失主張期間当時のJR西日本においては,だれ一人として本件曲線におけるATS整備の必要性を検討していなかったところ,各部門にまたがる情報を集約し,必要な指示を出せるのは「扇の要」の被告人だけであったと主張する。 実際にJR西日本において被告人以外に必要な指示を出せる者がいなかったかについては立証はないと言わざるを得ないが,検察官において,そのような人物を被告人以外に把握し得なかったとしても,これが被告人について JR西日本において被告人以外に必要な指示を出せる者がいなかったかについては立証はないと言わざるを得ないが,検察官において,そのような人物を被告人以外に把握し得なかったとしても,これが被告人について注意義務違反を肯定するための予見可能性の程度を緩和する理由になるものではない。 その他,検察官が論告において主張する点を検討しても,被告人の注意義務違反を肯定するに足りる予見可能性は認められないとの結論は左右されない。 第4 検察官調書の信用性判断について 1 検察官調書採用の経緯本件の審理において,検察官は,JR西日本に勤務し,あるいはかつて勤務していた7名の証人(検察官及び弁護人双方の請求証人)の公判廷での供述が検察官調書中の供述と相反するとして合計11通の検察官調書を刑訴法321条1項2号後段により請求したが(範囲はいずれも当該調書の全部),これに先立つ尋問において,検察官が当該証人の供述と検察官調書中の供述の相反を指摘して追及を行ったのは,上記請求に係る検察官調書の断片的な部分にすぎず,一部の証人が弁護人からの質問において当該検察官調書の供述内容を否定したその他の部分(検察官調書の内容が客観的証拠と整合しないことを指摘する部分を含む。)について追及を行わないこともみられた。 当裁判所は,公判中心主義の観点から,刑訴法321条1項2号後段の書面として採用するためには,検察官が検察官調書との相反を具体的に指摘して当該証人を追及することが必要だとの見解に立った上,そのような追及が行われた部分で同号後段の要件と証拠としての必要性を有するものと認めた検察官調書7通(各証人につき1通)の一部(各調書について合計12ないし36行)を採用したものである。 2 検察官調書の信用性判断についての当裁判所の見解検察官は,論 要性を有するものと認めた検察官調書7通(各証人につき1通)の一部(各調書について合計12ないし36行)を採用したものである。 2 検察官調書の信用性判断についての当裁判所の見解検察官は,論告において,以上のような経緯で採用された検察官調書7通の採用部分等についてその供述内容が信用できること自体を詳細に論ずるが(信用性に関する部分が独立に論告書の別紙とされている。),自らの積極的な主張として当該供述が信用できることにより被告人の過失が肯定される理由を明示する部分はわずかであり,①JR西日本におけるATSの曲線への整備目的,②JR西日本において路線単位のATS-P整備に際しての整備対象曲線が半径450m未満の曲線であることを被告人が知っていたかについて,合計4通の検察官調書の採用部分の存 在を指摘し,上記のとおりの供述自体の信用性を論じた論告書の部分を指摘するにとどまる。 しかしながら,これまで判示したところによれば,検察官の指摘する上記2点は被告人の過失の成否を左右するものとは認められないから,当裁判所は,検察官調書の採用部分及びこれと相反する証人の証言について,信用性の判断は示さないこととする。 第5 結論以上のとおりであり,本件公訴事実については犯罪の証明がないから,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 (求刑禁錮3年)平成24年1月20日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官岡田 信 裁判官奥山 豪 裁判官藪田貴史 (鉄道用語一覧表)(英字先頭・記号)ATS AutomaticTrainStopdevice(自動列車停止装置)の頭字語EB装置運転士が力 貴史 (鉄道用語一覧表)(英字先頭・記号)ATS AutomaticTrainStopdevice(自動列車停止装置)の頭字語EB装置運転士が力行ハンドル操作,ブレーキハンドル操作,気笛吹鳴等の運転操作又はEB装置のリセットスイッチを押し込むという操作を60秒間全く行わない場合に,運転士に対して警報ブザーを鳴動させ,その後,さらに5秒間運転操作等が行われないときに,運転士に異常があったものとみなして,安全が確保されるよう,非常ブレーキを作動させる装置パーミル‰千分率であり,勾配について水平距離1000m当たりの高低を示す。 (か行)確認扱い ATSからの確認要求情報を受信してベル音とチャイム音が鳴動したときに,運転士が,ブレーキハンドルにより常用ブレーキを作動させた状態で,確認ボタンを押す操作のことをいう。 カント曲線を走行する際の遠心力が走行安全性及び乗り心地に悪影響を及ぼさないよう,曲線外側のレールは内側のレールよりも高く設置されるが,この場合の曲線外側のレールと内側のレールとの高低差の設定値のことをいう。 カント不足量均衡カント(車両の受ける遠心力と重力の合力の方向が軌道面と直交し,遠心力が見かけ上なくなるカント)に対する実際のカントの不足量のことをいう。 緩和曲線直線と円曲線との間等に車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないよう挿入される曲線基準運転表列車を運転する際における力行開始地点,惰行開始地点,ブレ ーキ開始地点を表にしたもの軌道回路レールをその一部とする電気回路であり,軌道回路が設けられた区間の左右のレールが列車の輪軸で短絡されることを利用して,その区間における列 レ ーキ開始地点を表にしたもの軌道回路レールをその一部とする電気回路であり,軌道回路が設けられた区間の左右のレールが列車の輪軸で短絡されることを利用して,その区間における列車等の有無を検知する。 曲線区間円曲線の前後に緩和曲線が設けられている曲線の場合,円曲線と前後の緩和曲線とを合わせた区間をいう。 許容カント不足量走行安全性及び乗り心地の観点から許容されるカント不足量の上限(さ行)出発信号機停車場(駅,信号場及び操車場)から進出しようとする列車に対して,その可否等を現示する信号機場内信号機停車場内に進入しようとする列車に対して,その可否等を現示する信号機スラック曲線区間において台車が円滑に走行できるようにするための軌間拡大量の設定値(た行)惰行動力装置の駆動力,ブレーキ装置のブレーキ力のいずれをも使用せずに走行すること脱線レール上を転動している車輪がレールから逸脱すること地上子 ATSの制御情報を特定地点で車上に伝送することを目的にレール間に設けられる情報機器転覆車体に著しい横方向力が加わり,一方の車輪にのみ荷重がかかる状態になり,安定限界を超して車両が横転すること転覆限界速度列車が曲線を通過する際,内側の輪重を喪失し,遠心力により転覆を開始する速度(な行) ノッチ電気指令式ブレーキハンドルの刻み(は行)分岐器の箇所分岐器前端から分岐器後端までの区間閉そく一定の区間に同時に二以上の列車を運転させないために,その区間を一列車の運転に占有させること閉そく信号機停車場間等に設置されている信号機であり,列車に対して前方の区間( 閉そく一定の区間に同時に二以上の列車を運転させないために,その区間を一列車の運転に占有させること閉そく信号機停車場間等に設置されている信号機であり,列車に対して前方の区間(閉そく区間)への進入の可否等を現示するもの(ま行)民鉄国鉄あるいは国鉄の分割・民営化により発足したJR以外の鉄道,軌道,索道事業者(ら行)ランカーブ鉄道において列車の効率的な運転を計画するため,走行位置の変化に従い経過時間と速度を継続的に計算したグラフりっこう力行動力装置の駆動力を使用して走行すること列車運行計画列車の発着時刻,発着番線等に係る計画であり,列車ダイヤとも呼ばれ,列車運行計画の変更が「ダイヤ改正」と呼ばれる。
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