令和5(わ)60 強盗殺人未遂

裁判年月日・裁判所
令和6年10月10日 前橋地方裁判所
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判決文本文12,669 文字)

令和6年10月10日宣告令和5年(わ)第60号強盗殺人未遂被告事件主文被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中380日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和4年10月25日午前6時48分頃、群馬県太田市(住所省略)のA店において、同店オーナーB(当時74歳)管理のカフェラテ約298ミリリットルを窃取したところ、同人に発見されたことから、逮捕を免れるため、同店駐車場に駐車していた自動車の運転席に乗り込み逃走しようとしたものであるが、追跡してきた同人が運転席側サイドミラーにしがみついていることを認識しながら同車を発進させ、同所から駐車場出入口までの約31メートルにわたって走行する暴行を加え、さらに、同人が同車から離れないことから、同人を路上に転倒させるなどして死亡させてもやむを得ないと決意し、同車のワイパーにしがみつくなどしていた同人を振り落とすため、同日午前6時58分頃、同店駐車場から左折進行し、同所から同市(住所省略)先路上付近までの約222メートルにわたり、最高速度時速約54キロメートルの速度で走行して同人を路上に転倒させる暴行を加えたが、同人に入院加療約66日間を要する右肩関節部可動域制限の後遺症を伴う外傷性くも膜下出血、脳挫傷、右肩甲骨骨折、右外傷性血胸等の傷害を負わせたにとどまり、死亡させるに至らなかったものである。 (事実認定の補足説明)第1 争点本件の争点は、①被告人がカフェラテを意図的に盗むつもりであったか(窃盗の故意、不法領得の意思の有無)、②被告人が被告人車両を運転し公道に出る時点でB(以下「被害者」という。)が死亡してもやむを得ないと思っていたか (殺意の有無)、③被告人に誤想防衛が成立するか、④犯行当時の被告人が心神耗弱の状 被告人車両を運転し公道に出る時点でB(以下「被害者」という。)が死亡してもやむを得ないと思っていたか (殺意の有無)、③被告人に誤想防衛が成立するか、④犯行当時の被告人が心神耗弱の状態であったかである。 弁護人は、被告人は、①コーヒーマシンの操作を間違えただけであってカフェラテ(なお、カフェラテ約2杯という客観的事実についても争っている。)を盗むつもりはなく、②被告人車両を運転して公道を走行する際に被害者が車にしがみついていることを認識していなかったから、被害者が死亡してもやむを得ないと思っていなかったし、③被害者による急迫不正の侵害があると誤信したため誤想防衛が成立し、無罪である旨主張し、加えて、④仮に何らかの犯罪が成立するとしても、被告人は犯行当時心神耗弱の状態であった旨も主張し、被告人もこれらに沿う供述をする。 そこで、争点を判断するに当たって、まず、前提事実を確定し(第2)、各証人の証言の信用性(第3、4)及び被告人の公判廷における供述(以下「被告人の公判供述」という。)の信用性(第5)を検討して認定できる事実を確定した上で、それぞれの争点について検討する(第6)。 第2 前提事実 1 A店(以下、「本件店舗」という。)の防犯カメラ映像、被告人車両のドライブレコーダー映像等の客観的な証拠によれば、以下の事実が認定できる(以下は全て令和4年10月25日の出来事である。)。 ⑴ 午前6時25分頃、被告人は、被告人車両(スズキハスラー、緑色)を運転して自宅を出発し、交通標識等に従った運転をし続け、午前6時43分頃、本件店舗に到着した。 ⑵ 被告人は本件店舗に入店し、すぐに店員のCが対応するレジに並び、自分の順番になるまで、落ち着いた様子で待っていた。その後、被告人は、自分の順番になると、レジで精算をした上で 件店舗に到着した。 ⑵ 被告人は本件店舗に入店し、すぐに店員のCが対応するレジに並び、自分の順番になるまで、落ち着いた様子で待っていた。その後、被告人は、自分の順番になると、レジで精算をした上で、Cからカップを受け取り、そのままコーヒーマシンに向かった。 ⑶ 被告人は、コーヒーマシンにカップをセットし、そのタッチパネルを3回 操作した。すると、「ガー」という豆をひく音と、「シュー」というミルクを抽出する音とともに白い蒸気が上がった。その後、「ピー」という音が鳴り、被告人はコーヒーマシンのカバーを開け、再び閉めた。更に被告人は、コーヒーマシンのタッチパネルを3回操作し、「ガー」という豆をひく音、「シュー」というミルクを抽出する音とともに白い蒸気があがった。その後、被告人がコーヒーマシンのカバーを開けた後に、再び「ガー」という音が鳴った。 被害者は、被告人がコーヒーマシンの操作を開始する時点から、コーヒーマシンの近くにある薬の置いてある棚の付近で、被告人が操作する様子を見ていた。 ⑷ 被告人が蓋のついた状態のカップを持って退店したため、被害者はその後ろを追いかけ、駐車場で被告人を呼び止め、被告人の肩の辺りに手を添えながら、被告人とともに店内に戻った。その後、被害者が、レジにいたCに声をかけるなどした後、被害者と被告人はバックヤードに入った。 ⑸ バックヤードで被害者が電話をしていた際、被告人はバックヤードから出ようとしたが、被害者が制止をした。その後、被告人と被害者はバックヤードから出て、トイレに向かった。被害者は被告人がトイレから出てくるのを待っていた。被告人は、トイレから出てきた後、本件店舗の出入口から出ようとし、被害者が制止するなどしたが、店外に出て、被告人車両に向けて歩いた。被害者は、その後を追い掛けたが トイレから出てくるのを待っていた。被告人は、トイレから出てきた後、本件店舗の出入口から出ようとし、被害者が制止するなどしたが、店外に出て、被告人車両に向けて歩いた。被害者は、その後を追い掛けたが、被告人は被告人車両の助手席側から乗り込むと、すぐに運転席に移った。 ⑹ 被害者が被告人車両の運転席側ドアに手をかけた後、被告人車両は後退し、被害者がドアミラーとワイパーに手をかけた状態のまま被告人車両は前進し、駐車場内を時速約5キロメートルで走行した。午前6時58分22秒頃、被告人車両は、駐車場の出口から左折し、公道に進出した後加速し続け、道路の左側に寄るなどしながら直進した後、左の側道に進入した。 ⑺ 午前6時58分44秒頃、被告人車両の最高速度は時速約54キロメートルとなり、被害者が被告人車両から転落した。 ⑻ その後、被告人は交通標識等に従った運転をし続け、職場に到着した。 2 被告人が抽出した飲料の種類について前記1⑶の前提事実によれば、被告人が抽出した飲料は、ミルクとコーヒーが混ざった飲み物であり、2杯分の操作をしていることが認められる。 弁護人は、2杯目の飲料について、「ガー」という音が2回するから、2杯目に抽出した飲料はカフェラテではなく、豆をひく音が2回するダブルエスプレッソラテであった旨主張する。しかし、信用できるD証人の供述によれば、飲料が抽出されている最中はコーヒーマシンのカバーを開けることができないことが認められるのであって、被告人がコーヒーマシンのカバーを開けた後に「ガー」という音が鳴っていることに照らせば、この音は飲料の抽出が終わった後の音であって、豆をひく音ではないといえる。 そうすると、2杯目に抽出された飲料もカフェラテであると認定できる。 3 被告人が領得した飲料の量について弁護 せば、この音は飲料の抽出が終わった後の音であって、豆をひく音ではないといえる。 そうすると、2杯目に抽出された飲料もカフェラテであると認定できる。 3 被告人が領得した飲料の量について弁護人は、被告人が領得した飲料の量について、「約2杯」というのは不正確である旨主張する。証拠によれば、被告人が領得することができたカフェラテの量は、コーヒーSサイズ用のカップからあふれなかった約298ミリリットルであり、カフェラテ1杯が170ミリリットルであることに照らすと、約1.75杯分であって、「約2杯」とはいえないから、被告人が領得したカフェラテは「約298ミリリットル」であると認定した。 第3 Cの供述の信用性 1 Cの供述の概要⑴ 令和4年5月上旬頃、コーヒーのSサイズを購入して、実際にはダブルエスプレッソラテを抽出している客がいることに気付いた。さらに、その者は、同月中、週に二、三回、コーヒーのSサイズを購入してカフェラテを抽出し ていた。同月25日午前6時45分頃にも、コーヒーのSサイズを購入してダブルエスプレッソラテを抽出していたため、Cは「コーヒー⇒ダブル/25(6:45)」というメモを残し、バックヤードに貼っていた。この頃、その犯人に対し、「間違えちゃってますよね」と声をかけたが反応は無かった。また、この頃、オーナーに防犯カメラを見せて相談し、二人で犯人を捕まえようとしたが逃げられたということがあった。その後、その犯人はしばらく来店しなくなった。 ⑵ その犯人は、再び同年10月上旬に二、三回来店し、今度は、コーヒーのSサイズを購入し、カフェラテ2杯を抽出するようになった。そこで、Cは、本件当日、その犯人が来たことをオーナーに伝え、売場に出て見張ってもらった。 ⑶ 令和4年5月と10月に、注文と異なる飲 ーのSサイズを購入し、カフェラテ2杯を抽出するようになった。そこで、Cは、本件当日、その犯人が来たことをオーナーに伝え、売場に出て見張ってもらった。 ⑶ 令和4年5月と10月に、注文と異なる飲料を抽出していた者は同一人物であって、被告人である。その理由は、平日の午前6時45分から7時までの間に、緑色のハスラーに乗って来店する者で、Cが毎回レジの対応をしていたことや防犯カメラ映像で確認したことから、顔も認識していたからである。 2 C供述の信用性について⑴ Cと被告人には店員と客以上の関係性はなく、あえて嘘を述べる理由は見当たらない。Cは、覚えていないところは覚えていないと答えるなど、証言態度は真摯で、供述内容も具体的であり、注文と異なる物を抽出する人物に自ら声をかけたり、被害者に伝えてその人物を捕まえようとしたという供述内容も自然なものである。加えて、Cは、5月25日の出来事についてメモを残しており、裏付けもあるといえる。 そして、Cは、レジで毎回対応しており、近距離で犯人の顔を見ている上、注文と異なる物を抽出する犯人の様子を防犯カメラ映像を通じて確認して、犯人の顔を識別し、緑のハスラーに乗って、平日の午前6時45分から7時 の間に来店するという特徴も併せて、その犯人が被告人であると認識していたというのである。加えて、被害者と共に犯人を捕まえようとしたが逃げられたという印象に残る出来事があったことも踏まえると、被告人と犯人を誤認したとは考え難い。また、被害者は、被告人が以前から注文したものと違うものを抽出する行為を行っていたことをCから聞き、Cから聞いた情報をもとに防犯カメラ映像を何度も見て被告人の顔を覚えたり、被告人を捕まえようとしたりした旨供述しており、Cの供述と整合している。さらに、Cの述べる犯人が被告 ていたことをCから聞き、Cから聞いた情報をもとに防犯カメラ映像を何度も見て被告人の顔を覚えたり、被告人を捕まえようとしたりした旨供述しており、Cの供述と整合している。さらに、Cの述べる犯人が被告人でないとすれば、Cが目撃していた犯人と同じくらいの時間帯に同種の車で、本件当日にたまたま被告人が本件店舗を訪れ、偶然にもタッチパネルの操作を間違えてCが目撃していた犯人と同様に注文した飲料と異なる飲料を抽出したことになるが、そのような偶然が重なることも考え難い。したがって、Cの供述は信用できる。 ⑵ 弁護人は、Cは、事件当日に警察から事情聴取を受けた際は、犯人が「二、三か月前によく来ていた」旨供述していたのであって、同年5月頃によく来店していたというCの公判供述には変遷がある旨主張する。 しかし、事件当時は「こんなに大きなことになるとは思わなかった」というCの心情等からすると、事件直後にこれまでの経緯を正確に思い出せなくてもやむを得ないところである。そして、特定の人物が頻繁に来て、注文と異なる物を抽出していたことは強く印象に残っている一方で、その時期については曖昧な表現になったとしても不自然とまではいえない。 ⑶ 弁護人は、被告人が本件以前に本件店舗に立ち寄ったことや、同様の行為を行っていたことを裏付ける、本件店舗の防犯カメラ映像や被告人車両のドライブレコーダー映像などの客観的な証拠がないことを主張するが、Cの供述が信用できることは前記のとおりであるところ、店内の防犯カメラ映像については、その保存期間は16日間であり、捜査機関が防犯カメラ映像を差し押さえた時点で令和4年5月頃のデータが存在しないことはやむを得な い。また、同年10月上旬にも被告人が来店していたことについては、Cがその情報を捜査機関に伝えたのが同年11月2 を差し押さえた時点で令和4年5月頃のデータが存在しないことはやむを得な い。また、同年10月上旬にも被告人が来店していたことについては、Cがその情報を捜査機関に伝えたのが同年11月25日であったことからすると、差し押さえることができないまま保存期間が経過したこともやむを得ない。 ⑷ 以上により、弁護人の主張を踏まえてもC供述は信用でき、被告人が、令和4年5月上旬から注文したものと違う飲料を抽出するという行為を繰り返しており、同年10月上旬にもこれを行なっていたという事実が認定できる。 第4 証人E医師の供述について 1 E医師の供述の概要E医師は、捜査段階において、被告人の精神鑑定を行った者であるが、被告人は、犯行当時、エチゾラム依存症候群に罹患していたとし、その他の精神疾患は認められないと診断した。すなわち、①内因性のうつ病は自然には治らないが、鑑定の時点で被告人はうつ病の状態にはなく、犯行時の被告人の様子をみてもうつ病の症状は見られないことからうつ病は否定され、②悩み事などで発症する心因性の適応障害については、あった可能性はゼロではないが、被告人が多数の病院に通院していた理由としては、精神的な症状の治療が目的ではなく、エチゾラムを入手すること自体が主な目的であったと考えられ、主たる症状はエチゾラム依存症候群であると判断した。 そして、エチゾラム依存症候群自体は犯行に影響を与えないが、エチゾラムを多量に服用したことによる薬理作用が犯行に影響する場合が考えられ、犯行時やその前後の被告人の行動等に照らすと、その薬理作用の中でも酩酊による抑制の欠如が影響した可能性は考えられる。しかし、犯行当日の言動自体から評価すれば身体的な影響、鎮静・催眠効果は認められず、犯行前の情動も落ち着いており、犯行時のごく短時間を除け の中でも酩酊による抑制の欠如が影響した可能性は考えられる。しかし、犯行当日の言動自体から評価すれば身体的な影響、鎮静・催眠効果は認められず、犯行前の情動も落ち着いており、犯行時のごく短時間を除けば記憶もほぼ正常であるから、酩酊の程度は軽度と考えられる。エチゾラムを多量に服用した場合に生じ得る意識障 害については、短い間に覚えていることや覚えていないことが混在することはないから、被告人が犯行当時、意識障害の状態であった可能性はまず考えられない。被告人は従前からエチゾラムを多量に服用していたため、耐性ができており、効果が減弱していたものと思われる。 2 E医師の供述の信用性⑴ E医師の経歴や専門性に疑うところはない。また、E医師は、鑑定に際し、捜査機関から提供された資料だけではなく、被告人や被告人の妻と直接面談をした上で被告人の生活歴や病歴を基に鑑定をしており、鑑定資料に問題は見られない。これに加えて、E医師自身が、本件店舗の防犯カメラ映像や被告人車両のドライブレコーダー映像を直接見て、犯行時の被告人の挙動を観察し、犯行当時の被告人の挙動に異常が見られないことを基に精神状態を判断しており、その説明内容も合理的である。また、犯行当時、被告人がエチゾラム依存症候群以外の精神疾患に罹患していないことについての説明内容も、医学的な知見に基づく合理的な説明であって、説得的である。 ⑵ 弁護人は、E医師は、被告人がうつ病や対人恐怖症に罹患していたことや、その原因となるパワハラの被害を受けていたこと等の犯行直前の被告人の生活実態を把握しておらず、その供述は信用できないと主張する。 しかし、E医師は、被告人や被告人の妻から直接話を聞き、被告人の犯行直前の生活実態についても把握している。また、職場でのパワハラについては、評価には違いが らず、その供述は信用できないと主張する。 しかし、E医師は、被告人や被告人の妻から直接話を聞き、被告人の犯行直前の生活実態についても把握している。また、職場でのパワハラについては、評価には違いがあるものの、被告人と職場の人の話を踏まえ、職場でのトラブルという事実を考慮している。そして、E医師は被告人がうつ病ではない理由として、医学的な機序や犯行時の被告人の挙動から判断しているのであり、職場でのトラブル自体を否定してうつ病を否定しているわけでもない。よって、鑑定人が被告人の生活実態を把握していない旨の弁護人の主張は採用できない。 次に、弁護人は、被告人が日常生活において、呂律が回らないこと、酩酊 状態となること、物忘れと勘違いが多いことなどを、E医師が前提としていない旨主張する。しかし、E医師は、被告人が従前から多量のエチゾラムを服用しており、犯行当時も多量のエチゾラムを服用していたことを前提とした上で、朝と夜とではエチゾラムの服用による酩酊の程度に差があるところ、犯行当時の防犯カメラ映像やドライブレコーダー映像からわかる被告人の挙動を観察した上で、仮に強い酩酊状態であれば、部分的に行動ができて、部分的に行動ができないということはなく、全体的に行動ができない状態になるという医学的な知見をもとに、被告人の酩酊の程度は軽度であったと説明している。このような鑑定人の説明は、犯行当時の被告人の客観的な挙動を前提とした合理的なものであって、十分信用できるものであり、弁護人の主張は採用できない。 したがって、弁護人の主張を踏まえてもE医師の供述は信用できる。 ⑶ よって、犯行当時の被告人が罹患していた精神疾患はエチゾラム依存症候群であり、これによりエチゾラムを多量に服用していたことによって軽度の酩酊状態となり、気が大きくなってい の供述は信用できる。 ⑶ よって、犯行当時の被告人が罹患していた精神疾患はエチゾラム依存症候群であり、これによりエチゾラムを多量に服用していたことによって軽度の酩酊状態となり、気が大きくなっていた可能性はあるものの、それが犯行に与えた影響の程度は軽微であると認められる。 第5 被告人供述の信用性 1 被告人の供述の概要被告人は、公判廷において、①以前本件店舗に来店した際、コーヒーを頼んだことはあるものの、注文と違う飲料を抽出したり、店員に注意されたりしたことはない、②本件当日、コーヒーSサイズをレジで注文し、コーヒーマシンを操作したところ、黒い液体の他に白い液体が出ていて、「あれ」と思っていると同時に左後ろから怒鳴られるような声がし、左側のこめかみ辺りを殴られたような衝撃を受けた、2杯目の飲料を抽出したことやカップを持って店外に出たことは覚えていない、③その後、被害者にバックヤードに連れて行かれ、胸のところを強く握られ、椅子に押し下げるように座らされ、「ここに座って ろ」「警察に電話するから待ってろ」と言われたが、被害者にまた殴られるのではないかと思い、被害者のことが怖くて、早くこの人から離れたいと思った、④被害者が怖かったので、店外に出て助手席側から自分の車に乗って、運転席側に移動したところ、被害者がフロントガラスや窓ガラスを叩いたり、ドアノブをカシャカシャやって怒鳴ってきたので、怖くて被害者から離れたいと思い、車をバックさせてから前進して公道に出た、⑤バックをしている時、被害者が運転席側のガラスを叩いたりドアノブをカシャカシャしたりして、被告人車両と並走しているのが分かった、公道に出るときに、被害者が手を放していなければ、車に飛びついているんだろうなくらいの認識はあったが、公道を走っている時は頭が真っ白 をカシャカシャしたりして、被告人車両と並走しているのが分かった、公道に出るときに、被害者が手を放していなければ、車に飛びついているんだろうなくらいの認識はあったが、公道を走っている時は頭が真っ白だったので、被害者が被告人車両にしがみついているかどうかはわからなかった、⑥途中で影が落ちた感じがしてバックミラーをみると、道路上に被害者が仰向けに横たわっていた、死んでいなければいいなとは思ったが、自分のせいで被害者に怪我を負わせたかもと思って警察に通報しなかったなどと供述している。 2 被告人の供述の信用性⑴ 被告人の公判供述は、本件店舗の防犯カメラ映像から認定できる前記の前提事実と異なる部分が多い上、短時間の間に、記憶がある部分と欠落している部分が存在している。信用できるE医師の供述によれば、エチゾラムの薬理作用として考えられる意識障害は、部分的に覚えていたり覚えていなかったりするものではなく、被告人の酩酊の程度も軽度であったことに照らすと、記憶がないという被告人の供述はにわかに信じがたい。 ⑵ 次に、被告人は、2杯分のカフェラテの抽出のための操作をいたってスムーズに行っており、抽出する飲料を間違えて戸惑う様子や、店員に声をかけようとする様子は一切見られず、むしろ手慣れているようにさえ見える。また、被告人が、被害者が警察を呼んだ後に逃走していることからすれば、被告人が自らに非があることを認識していたというべきである。よって、コー ヒーマシンのタッチパネルを押し間違えた旨の被告人の供述は信用できない。 ⑶ また、本件店舗の防犯カメラ映像を見る限り、被害者が被告人を実際に殴ったり胸ぐらをつかんだりしていないのはもちろんのこと、店外で被告人が被害者から声をかけられた際に、物理的な衝撃を受けて驚く様子や、反射的に 店舗の防犯カメラ映像を見る限り、被害者が被告人を実際に殴ったり胸ぐらをつかんだりしていないのはもちろんのこと、店外で被告人が被害者から声をかけられた際に、物理的な衝撃を受けて驚く様子や、反射的に防御をする様子、被害者が動く際に身構える様子など、突然暴力を受けたと感じた人間がとるであろう反応は全くしていない。そうすると、被告人が被害者に声をかけられた際に殴られたと感じたり、その後も殴られるなどの危害を加えられるかもしれないと誤信していたという供述は信用できない。 ⑷ そして、被害者が被告人車両にしがみついていた位置や姿勢からすれば、被告人が公道に出る時点で左右を確認した際や公道を走行している際に、被害者がしがみついている状態が見えないはずがない。また、被告人は、本件店舗の駐車場で被害者がドアミラーをつかんだまま、被告人車両と並走していたことを認識していたというのであるが、この後被害者が手を離したと思い込むような事情も見当たらない。さらに、被告人は、被害者が転落した後は、バックミラーを見て被害者が道路に仰向けに倒れているところを見た旨供述しているが、被告人車両のドライブレコーダー映像を見ても、被告人が動揺するような様子は見受けられない上、被害者を救助することなく、むしろ平然と職場まで運転している。このような態度からすると、被告人は被害者が転落する前においても被害者が被告人車両にしがみついていることを認識していたといえる。むしろ、被告人は、公道に出た直後に急加速をしており、被害者がしがみついていることを認識していたからこそ、被害者を振り落とそうとして急加速したと考えるのが自然である。 また、被告人は、捜査段階においては、公道を走行中も被害者が車にしがみついていたことを認識していた旨の供述をしており、この点に関する被告人の供述は合理 として急加速したと考えるのが自然である。 また、被告人は、捜査段階においては、公道を走行中も被害者が車にしがみついていたことを認識していた旨の供述をしており、この点に関する被告人の供述は合理的な理由なく変遷しているといわざるを得ない。 以上によれば、公道を走行中、被害者が車両にしがみついているとは思わなかった旨の被告人の公判供述は信用できない。 第6 争点に対する判断 1 被告人にカフェラテを意図的に盗むつもりがあったか前提事実及び信用できるCの供述によれば、被告人は、令和4年5月頃や10月上旬頃に、何度か本件店舗を訪れ、コーヒーSサイズを購入したにもかかわらず、別の飲料を抽出することを繰り返し行っており、本件当日も、被告人は、コーヒーマシンの操作をスムーズに行い、ミルクが出ていることに気付いても、動揺した様子は見られず、むしろ、2回目の抽出を終えた後すぐにコーヒーマシンのカバーを開け、そのままカップを持ち出していることが認められる。 これらの事情からすると、被告人が意図的に注文と違う飲料を2回抽出したという事実が認定でき、被告人の窃盗の故意及び不法領得の意思が認められる。 2 被告人が公道に出る時点で被害者が死亡してもやむを得ないと思っていたか⑴ ドライブレコーダー映像等から認定できる事実を踏まえて、被告人の運転態様の危険性についてみると、被告人は、高齢の被害者が被告人車両の運転席側に不安定な姿勢でしがみついていた状態で、対向車など交通量のある公道を、約20秒間で時速約54キロメートルに至るまで急加速している。被告人の運転行為は被害者が道路に転落する可能性が高いものであって、被害者が転落すれば、地面に頭を強く打ち付けたり、被告人車両や後続車、対向車に轢かれたりするなどして死亡する危険性の高い行為である 被告人の運転行為は被害者が道路に転落する可能性が高いものであって、被害者が転落すれば、地面に頭を強く打ち付けたり、被告人車両や後続車、対向車に轢かれたりするなどして死亡する危険性の高い行為であることは明らかである。 したがって、被告人の運転行為は被害者が死亡する危険性の高い行為であったと認められる。 ⑵ また、前述のとおり、被告人が、本件店舗の駐車場内だけでなく、公道においても、被害者が被告人車両にしがみついていることを認識していたことを踏まえて検討すると、高齢である被害者が、車の運転席側ドアミラー等に しがみついている状態で、公道を222メートル走行し、時速約54キロメートルになるまで加速すれば、被害者が転落するなどして死亡する危険性が高いことは通常認識できるといえる。そして、本件犯行当時の被告人の精神状態については、軽度の酩酊以外に問題はなかったのであるから、被告人が危険性を認識できなかったと考えるような事情もない。そして、被告人が、公道に出た直後に急加速をして被害者を振り落とそうとしたことや、転落した被害者を見ても何らの救助活動も行わず、被害者を公道に放置した点も踏まえると、被告人は、被害者を転落させて死亡させることよりも、被害者や警察から逃げることを優先させたといえ、被告人は、公道に出る時点で被害者が死亡してもやむを得ないと思っていたと認められる。 3 誤想防衛の成否について前記第5の2⑶のとおり、被告人が被害者から殴られたと誤信した事実はなく、急迫不正の侵害があると誤信していないから、誤想防衛は成立しない。 4 責任能力前記のとおり信用できるE医師の供述によれば、犯行当時の被告人の精神状態は、服用したエチゾラムの影響で軽度の酩酊状態になっていた程度である。 したがって、被告人の精神疾患 ない。 4 責任能力前記のとおり信用できるE医師の供述によれば、犯行当時の被告人の精神状態は、服用したエチゾラムの影響で軽度の酩酊状態になっていた程度である。 したがって、被告人の精神疾患等が犯行に与えた影響は軽微なものであり、他に責任能力を減じるような事情は見当たらず、犯行当時、完全責任能力であったと認められる。 (量刑の理由) 1 犯行態様について見ると、被告人は、高齢である被害者が車にしがみついた状態で、転落すれば、頭を打ったり、対向車や後続車に轢かれたりする危険がある中、公道を約222メートル走行し、時速約54キロメートルまで加速して、被害者を公道上に転落させたのであって、被害者が死亡する危険性が高い行為であったといえる。幸いにも被害者は死亡するに至らなかったが、被告人の行為の危険性に照らせば、被害者が入院加療約66日を要する重大な傷害を負ったことも 当然の結果である。加えて、被害者は、右肩関節部可動域制限の後遺症も負い、これまで行ってきた仕事の作業ができなくなるなど生活を一変させるものであったことも踏まえると、被害結果は重大である。 犯行に至る経緯について見ると、被告人は、注文した飲料よりも高額な飲料を抽出し、被害者からそのことを指摘されるや、逮捕を逃れるために、被害者が車にしがみついた状態で公道を走行したのであり、その動機は身勝手である。 もっとも、本件は、被告人が、多量の薬の服用によって軽度の酩酊状態になっていたという当時の精神状態が相まって、被害者や警察から逃げるために突発的に行ったという事後強盗の類型であり、被告人に強盗の計画性はなく、被害者を積極的に殺そうという意思まではなかったといえる。 2 以上の犯情を前提に、被告人の行為に見合った責任の重さを考えると、同種事案(強盗殺人未遂 強盗の類型であり、被告人に強盗の計画性はなく、被害者を積極的に殺そうという意思まではなかったといえる。 2 以上の犯情を前提に、被告人の行為に見合った責任の重さを考えると、同種事案(強盗殺人未遂、単独犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数1件)の中で、酌量減軽を必要とするような最も軽い部類に位置付けられるものではない。 3 加えて、被告人がカフェラテを盗むつもりがなかった旨の不合理な弁解をするなど罪と向き合っていないという面はあるものの、被告人が被害者に500万円を支払い、被害者の処罰感情が和らいでいること、被告人に前科前歴がないことなどの酌むべき事情があることも踏まえ、被告人に対しては主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役10年)令和6年10月17日前橋地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官山下博司 裁判官黒田真紀 裁判官小川 梢

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