令和5年4月21日東京地方裁判所刑事第16部宣告令和4年刑第2170号贈賄被告事件 主文 被告人Aを懲役2年6月に、被告人Bを懲役1年6月に、被告人Cを懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から、被告人Aに対し4年間、被告人B及び被告人Cに対し3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人Aは、平成22年6月から令和4年6月まで株式会社D代表取締役会長であったもの、被告人Bは、平成22年6月から令和4年6月まで同社代表取締役副会長であったもの、被告人Cは、平成28年10月から令和2年6月まで同社の子会社である株式会社Eの取締役兼マーケティング・販売促進部部長、同月から令和4年7月まで同社代表取締役社長であ ったもの、Fは、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の理事として、組織委員会の理事会を構成し、その業務執行の決定等について議決権を行使するとともに、組織委員会のマーケティング業務に関し、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京2020パラリンピック競技大会(以下、 両大会を合わせて「東京2020大会」という。)への協賛企業を募るなどの職務に従事していたものであるが、被告人A、同B及び同Cは、共謀の上、平成29年1月頃から令和3年6月頃までの間、多数回にわたり、東京都港区(住所省略)所在の「G」等において、Fに対し、組織委員会において、株式会社Dを、東京2020大会における第3階層の協賛企業で あるTier3スポンサーに選定するとともに、その協賛契約である東京2020オフィシャルサポータープログラム契約の締結を迅速に行ってもらいたい 20大会における第3階層の協賛企業で あるTier3スポンサーに選定するとともに、その協賛契約である東京2020オフィシャルサポータープログラム契約の締結を迅速に行ってもらいたい旨、同契約に日本代表選手団の公式服装に係る優先供給権を含めてもらいたい旨及び同契約の延長に伴う追加協賛金の減免をしてもらいたい旨、並びに株式会社Eが東京2020大会のエンブレム等を付したライ センス商品の製造・販売を行うためのライセンス契約に関し、その締結を迅速に行ってもらいたい旨及びその履行について、ライセンス商品の承認手続を迅速に進めてもらいたい旨など、株式会社D又は株式会社Eが有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託をし、前記取り計らいを受けたことの謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに、別 表(添付省略)記載のとおり、令和元年9月25日から令和4年3月25日までの間、31回にわたり、横浜市緑区(住所省略)所在の株式会社H銀行I支店に開設された、被告人Aらの資産管理会社である株式会社J名義の普通預金口座から東京都中央区(住所省略)所在の株式会社K銀行L支店に開設された、Fが経営し、代表取締役を務める株式会社M名義の普 通預金口座に現金合計2800万円を振込入金し、もってFの職務に関し賄賂を供与した。 (量刑の理由)本件は、紳士服等の販売業等を行う会社やその持ち株会社の役員であった被告人らが、共謀の上、東京2020大会への協賛企業を募るなどのマ ーケティングの職務に従事していた同大会組織委員会理事(以下「本件理事」という。)に対し、同大会の協賛企業に選定されることなど、自社が有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託をし、その取り計らいを受けたことの謝礼や今後も同様の取り計らいを受けたい (以下「本件理事」という。)に対し、同大会の協賛企業に選定されることなど、自社が有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託をし、その取り計らいを受けたことの謝礼や今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに、現金合計2800万円を供与したという贈賄の事案である。 組織委員会においては、協賛企業の決定を同委員会会長に一任し、同会長は本件理事に対してマーケティングを任せていたことなどから、本件理事はその職務において強い権限を有する実態があったところ、被告人らは本件理事から協賛企業となることや日本代表選手団の公式服装の供給を行うことなどを提案されるとともに、組織委員会会長を交えた会食の場や組 織委員会事務担当者とのやり取り等において本件理事の影響力の強さを認識し、自社が東京2020大会の開催に伴って大きな利益をあげるため、本件理事の組織委員会における影響力を頼って、本件犯行に及んだ。この点につき、弁護人らは、被告人らは、私的な利益を得ようとする本件理事に利用され、協賛企業となること等請託の多くは本件理事の提案等が契機 となって行われたもので、被告人らに酌むべき情状があるなどと主張する。 確かに、本件の背景には前述したとおりの実態があり、本件理事の提案に従い自社の規模に照らし相当程度の額を拠出して協賛企業となることを決めた被告人らにおいて、この拠出を前提に自社の利益を最大化するため、本件理事の力に頼ることとなったという経緯は、被告人らの刑責を考える 上で一定程度考慮せざるを得ないものの、本件犯行自体は、組織委員会における本件理事の影響力を利用し、自社の利益を追求しようとする被告人らと、その見返りに利益を得ようとする本件理事との、それぞれの思惑が一致し、両者の合意の上敢行されたものというほかなく、弁護 員会における本件理事の影響力を利用し、自社の利益を追求しようとする被告人らと、その見返りに利益を得ようとする本件理事との、それぞれの思惑が一致し、両者の合意の上敢行されたものというほかなく、弁護人の主張を踏まえても、犯行の動機や経緯において、被告人らの責任を大きく低下さ せる事情があるとは言い難い。 犯行態様等をみると、被告人らが本件理事に請託をした事項は協賛企業に選定されることをはじめとする幅広い事項にわたり、賄賂は、約2年6か月の間31回にわたって入金され、合計2800万円と高額に及んでいる。 これにより、世界的に注目され、国家的に特に重要なスポーツの競技会とされた東京2020大会の運営等に携わる役員等の職務の公正とこれに対する社会の信頼、ひいては、同大会自体の公正な運営に対する社会の信頼が害されるに至っている。被告人らは、本件理事が罰則の適用について公務に従事する職員とみなされることを認識していなかったなどと述べる が、東京2020大会が上記のとおり国家的な意義を有することや、その運営のために様々な公的支援がされていることは周知の事実であり、被告人らにおいても、これらの事実や本件理事が公的な立場にあることは十分に認識していたのであるから、被告人らが述べるところをもって、被告人らに対する責任非難を低下させる事情とは言えない。本件の犯情は悪質で ある。 被告人Aは、創業者かつ持ち株会社の代表取締役会長として、自社の事業上の重要事項について方針を決定する立場にあったところ、本件理事に対して自ら請託するほか、賄賂の供与のために本件理事が経営する会社とコンサルタント契約を締結することを決め、同契約締結後は、コンサルタ ント料名目で賄賂を供与していることを理由に、被告人Cに対して、本件 託するほか、賄賂の供与のために本件理事が経営する会社とコンサルタント契約を締結することを決め、同契約締結後は、コンサルタ ント料名目で賄賂を供与していることを理由に、被告人Cに対して、本件理事に対する請託に沿った働きかけを行うよう複数回にわたり指示するなど、本件犯行を一貫して主導している。捜査を察知すると関係資料の廃棄等を被告人C等関係者に指示するなどもしており、犯行後の情状も悪い。 被告人Aの刑事責任は相当程度に重い。 被告人Bは、創業者一族の一員であり、持ち株会社の代表取締役副会長として、被告人Aが示した方針を具体化するために詰めの作業を行う役割を担っていたところ、本件でも上記コンサルタント契約の締結に賛同した上、本件理事と同契約内容を確認する場に自ら立ち会うとともに、実務担当者であった被告人Cにもその場に立ち会うよう指示するなど重要な役割 を果たしている。被告人Bの刑事責任にも重いものがある。 被告人Cは、自社における東京2020大会関係の実務担当者として、本件理事に対する請託の方法や内容等について具体的に検討して請託の場に立ち会うほか、本件理事の影響力を背景に、請託した内容の実現に向けた具体的な活動を行うなど、本件犯行に主体的に関与している。被告人C の刑事責任も軽いものとはいえないが、被告人Cについては、被告人Aや被告人Bの指示を受け、同人らに従属する立場にあったことは否定できない。 その他、被告人らはいずれも公訴事実を認めて反省の態度を示しており、被告人Aについては、古い交通前科のほか前科前歴はなく、妻が今後も被 告人に寄り添う旨述べていること、被告人Bについては前科前歴がなく、長女が今後の支援を約束していること、被告人Cについても前科前歴がなく、妻が支援を約束していること 前歴はなく、妻が今後も被 告人に寄り添う旨述べていること、被告人Bについては前科前歴がなく、長女が今後の支援を約束していること、被告人Cについても前科前歴がなく、妻が支援を約束していること等の事情が認められる。 そこで、以上の諸事情を総合考慮して、主文のとおりの刑を量定した。 (求刑被告人Aにつき懲役2年6月、被告人Bにつき懲役1年6月、被 告人Cにつき懲役1年)令和5年4月28日東京地方裁判所刑事第16部 裁判長裁判官安永健次 裁判官足立洋平 裁判官小林謙介は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官安永健次
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