主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は, 1 原告Aに対し,金2350万円及びこれに対する平成14年8月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を, 2 原告Bに対し,金350万円及びこれに対する平成14年8月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を, 3 原告Cに対し,金350万円及びこれに対する平成14年8月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を,それぞれ支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の元市長等であった原告ら3名が,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づく請求(以下「4号請求」という。)を受けた住民訴訟において勝訴したので,訴訟代理人である弁護士に支払った報酬金等について,同条8項に基づいて被告による公費負担を求めたところ,その後に就任した前市長及び現市長が,その公費負担を拒否し,その承認に関する議案を市議会に提出しなかったことから,違法な職務執行によって損害を被ったと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,弁護士報酬相当額の損害賠償を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実等)(1) 当事者ア原告ら(ア) 原告Aは,昭和50年5月から同62年4月まで及び平成3年5月から同11年4月までの間,被告の市長の地位にあった。 (イ) 原告Bは,被告の職員として勤務していたところ,平成3年5月から同11年5月までの間,被告の助役の地位にあった。 (ウ) 原告Cは,被告の職員として勤務していたところ,平成3年7月から同6年3月までの間,被告の企画部長の地位にあった。 たところ,平成3年5月から同11年5月までの間,被告の助役の地位にあった。 (ウ) 原告Cは,被告の職員として勤務していたところ,平成3年7月から同6年3月までの間,被告の企画部長の地位にあった。 イ被告被告は,愛知県知多半島所在の人口11万人を擁する市であり,平成11年4月,原告Aが市長を辞めた後,Dが市長に就任した(以下「D市長」という。)が,同市長は,収賄事件によって逮捕,起訴されたことを契機に,平成13年5月15日付けで辞職し,その助役を務めていたEが現在の市長に就任している(以下「E市長」という。)。 (2) 住民訴訟の提起と結果被告の住民であるFは,平成7年11月10日,名古屋地方裁判所に対し,原告らを被告として(下記ア事件については,G社も共同被告とされた。),法242条の2第1項4号に基づいて,下記アないしウの住民訴訟3件を提起した(以下,総称して「本件住民訴訟」という。甲20ないし22の各1)。 そこで,原告らは,平成7年12月4日,名古屋弁護士会所属のH弁護士ほかを訴訟代理人に選任した上,応訴することになった。 ア名古屋地方裁判所平成7年(行ウ)第41号損害賠償請求事件(以下「41号事件」という。)被告が,平成6年以降,住宅宅地関連公共施設整備促進事業の名目で,G社及びI社から道路用地を買収した上,G社に道路工事を請け負わせて工事費用等を支出したことにつき,道路建設は,本来G社及びI社が自らの負担において行われるべきものであるから,工事費用等の支出は違法であるなどと主張して,原告ら及びG社に対し,被告が支出した4億1600万円(後日,7億2200万円に請求が拡張された。甲20の15)及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。 イ名古屋地方裁判所平成7年(行ウ)第42号損害賠償請求事件(以下「42号 00万円(後日,7億2200万円に請求が拡張された。甲20の15)及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。 イ名古屋地方裁判所平成7年(行ウ)第42号損害賠償請求事件(以下「42号事件」という。)被告が,平成6年,誘致しようとした日本福祉大学情報社会科学部の用地に供する目的でG社及びI社から用地買収を行った際,原価積上方式によって9億4127万0502円で買収すべきところ,鑑定評価方式に従って28億3000万円で買収したなどと主張して,原告らに対し,被告が支出したその差額18億8872万9498円(後日,15億1866万7699円に請求が減縮された。甲21の9)及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。 ウ名古屋地方裁判所平成7年(行ウ)第43号損害賠償請求事件(以下「43号事件」という。)被告が,平成6年及び平成7年,日本福祉大学情報社会科学部の校舎建設費に対する補助金として7億円を支出したところ,これは公益上の必要性を欠く支出であるなどと主張して,原告らに対し,同金額及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。 (3) 本件住民訴訟に対する行政庁参加半田市長は,平成8年2月22日,本件住民訴訟につき,行政庁として訴訟参加することとし,同26日,顧問弁護士であったH弁護士に訴訟代理を委任した。 (4) 本件住民訴訟の経緯本件住民訴訟は,別紙事件経過表記載のとおり,一審,控訴審及び上告審(上告及び上告受理申立事件)のいずれにおいても原告らが勝訴し,平成12年1月27日までにすべて確定した(甲11ないし19,20の1ないし34,21の1ないし33,22の1ないし34)。 (5) 本件住民訴訟の弁護士報酬契約とその支払ア弁護士報酬契約の締結(ア) 原告らは,平成7年12月4日,H弁護士に対して 19,20の1ないし34,21の1ないし33,22の1ないし34)。 (5) 本件住民訴訟の弁護士報酬契約とその支払ア弁護士報酬契約の締結(ア) 原告らは,平成7年12月4日,H弁護士に対して,本件住民訴訟の訴訟委任をした際,同弁護士との間で,弁護士報酬(着手金及び報酬金。以下同じ)に関する合意をした(なお,原告らがH弁護士に訴訟委任したのは,一審及び控訴審である。)。 (イ) 原告らは,平成11年12月,H弁護士との間で,別紙報酬契約等一覧表記載の「報酬契約(円)」欄記載のとおり,報酬契約を締結した(甲2)。 イ原告らによる弁護士報酬の支払原告らは,H弁護士に対し,別紙弁護士報酬支払明細(1)記載のとおり,弁護士報酬の内入れとして,合計1050万円を支払い(甲1),同金員は,それぞれ350万円ずつ41ないし43号事件の各弁護士報酬として充当された。 また,原告Aは,平成11年12月13日,2000万円をH弁護士に支払い,同金員は,それぞれ1000万円ずつ41号事件及び43号事件の弁護士報酬として充当された(甲2)。 ウ H弁護士による債権放棄H弁護士は,平成12年12月27日ころ,原告らに対し,弁護士報酬の残額1950万円(41号事件及び43号事件につき150万円,42号事件につき1650万円)につき債権放棄した(甲3の1,2)。 エ被告による弁護士報酬の支払H弁護士は,本件住民訴訟の控訴審判決に至るまで,参加人半田市長の訴訟代理人としても訴訟を追行したところ,被告は,訴訟参加にかかる弁護士報酬として,半田市議会の議決を経た上で,別紙弁護士報酬支払明細(2)記載のとおり,合計495万円を支払った。 (6) 費用公費負担の要請と回答ア原告らは,平成12年3月23日,当時のD市長に対し,「損害賠償事件弁護費用について(お願い) 弁護士報酬支払明細(2)記載のとおり,合計495万円を支払った。 (6) 費用公費負担の要請と回答ア原告らは,平成12年3月23日,当時のD市長に対し,「損害賠償事件弁護費用について(お願い)」と題する文書を提出し,本件住民訴訟において勝訴が確定したため,法242条の2第8項に基づき,弁護士報酬5000万円を,半田市議会の議決を経て公費にて負担されたい旨要請した(甲4の1,2。その後,上記(5)ウの債権放棄を受けて,要請額は3050万円に減額された。甲5)。 これに対し,D市長は,平成12年11月20日,原告らに対し,本件住民訴訟にかかる弁護士報酬に対する半田市の公費負担額を0円と決定する旨回答した(以下「拒否回答」という。甲6,7)。 イその後,原告らは,平成13年11月12日,E市長に対し,再度,弁護士報酬3050万円の公費負担の要請をした(以下,前記要請と併せて「本件要請」という。)が,E市長も,現在に至るまで,公費負担に関する議案を半田市議会に提出していない。 もっとも,E市長は,本件訴訟が提起された時点において,「有額回答」を前提に検討中である旨のコメントを出している(甲25の1ないし4)。 2 本件の争点及び争点についての当事者の主張D,E両市長が,原告らからの本件要請に対して拒否回答をし,あるいはこれを維持する態度をとり,弁護士報酬3050万円を公費負担すべき旨の議案を半田市議会に提出しなかったことにより,被告が原告らに対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償義務を負うか。 (原告の主張)(1) 国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務(作為義務)に違背することをいう。 ところで,法242条の2第8項は,「……普通地方公共団体は,……額を負担することができる。」という体裁 」とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務(作為義務)に違背することをいう。 ところで,法242条の2第8項は,「……普通地方公共団体は,……額を負担することができる。」という体裁になっているものの,下記ア,イに加え,弁護士報酬の敗訴者負担制度が制度化されておらず,理由のない住民訴訟の提起が不当訴訟とされていない現在の法制度,判例の運用を前提とすると,普通地方公共団体の長は,4号請求に係る住民訴訟において勝訴した当該職員が支払った弁護士報酬相当額を公費負担する旨の議案を議会に提出する作為義務を負い,議案提出権限の不行使についての裁量権を有しないと解すべきである。したがって,これを行使しなかったD,E両市長の行為は,国家賠償法1条1項に規定する違法な行為に当たるというべきである。 ア法242条の2第8項の立法経緯平成6年法律第48号によって法242条の2第8項が追加される前は,4号請求訴訟において被告とされた当該職員個人が,事案のいかんを問わず,応訴に要する弁護士報酬をすべて負担すべきこととされていた(最高裁判所第三小法廷昭和59年4月24日判決・集民141号643頁参照)ところ,これに対しては,①事案のいかんを問わず応訴費用をすべて個人負担とすることは,職務執行行為に関連して住民訴訟の大多数が提訴されていることから,公務員としての志気を損なうおそれがある,②政争の具や訴訟マニアの自己満足の手段として利用されている例も少なくない状況下で応訴費用を個人に負担させることは酷に過ぎるなどの理由で,判決で職務執行の適法性が明らかになれば弁護士報酬を公費で負担する制度が必要であるとの議論や要望が出されていた。そこで,法改正までの応急措置として,当該職員個人の応訴費用を,(ア)幹部職員の親睦会による積立金のカンパで賄う,(イ)全 ば弁護士報酬を公費で負担する制度が必要であるとの議論や要望が出されていた。そこで,法改正までの応急措置として,当該職員個人の応訴費用を,(ア)幹部職員の親睦会による積立金のカンパで賄う,(イ)全国知事会,市長会,町村会長会などの組織が「住民訴訟保険」を発足させてそこで賄う,(ウ)一定の要件の下に補助金として支出する,などの案が考えられていた。法242条の2第8項は,かかる経緯を踏まえて追加されたものである。 イ法242条の2第8項の特殊性法242条の2第8項は,弁護士報酬の公費負担について,「長」の判断のみならず「議会」の判断も必要としている。これは,いわゆる4号請求訴訟が政争の具として利用されてきた実態にかんがみ,政争の勝者による恣意的な運用を回避し,4号請求訴訟に勝訴した当該職員個人が「長」の政敵であろうとなかろうと,弁護士報酬が公平・適正に支払われることを目指したことによるものである。 また,平成14年法律第4号による法改正により,4号請求がいわゆる「代位請求」から「義務付け請求」へ変更された結果,4号請求訴訟に勝訴した当該職員個人の弁護士報酬の負担の問題が発生しない構造となったが,これは,適法な職務を行った当該職員個人を弁護士報酬の自己負担から救済するという法242条の2第8項と同じ趣旨に基づくものであるから,同項の解釈も,弁護士報酬の個人負担がなくなった上記改正後の状況と同様にされるべきである。 (2) 仮に法242条の2第8項が,普通地方公共団体の長に弁護士報酬の公費負担の議案を提出すべき法的義務(作為義務)を明文で負わせるものではなく,かかる議案の提出について長が裁量権を有すると解したとしても,上記立法の経緯等にかんがみれば,議案不提出は,弁護士報酬の公費負担をすべきでない特段の事情がない限り,著しく合理性を欠き,権利 はなく,かかる議案の提出について長が裁量権を有すると解したとしても,上記立法の経緯等にかんがみれば,議案不提出は,弁護士報酬の公費負担をすべきでない特段の事情がない限り,著しく合理性を欠き,権利の濫用となり違法というべきところ,本件住民訴訟の対象とされた原告らの行為は,いずれも正当な職務行為と判断されているから,かかる特段の事情は存せず,公費負担の議案を提出しなかったD,E両市長の行為は違法というべきである。 また,公務員による作為義務が法令上の明文をもって規定されておらず,職務権限の行使が公務員の裁量に委ねられている場合であっても,判例上,①被害に関わる被侵害法益の重大性(法益条件),②法益侵害の予見ないし予見可能性(予見条件),③権限行使による法益侵害の回避可能性(回避条件),④社会通念上,被害者たる私人が,行政権限の行使を期待し,信頼することが相当と思われる事情の存在(期待条件)の4条件が満たされた場合には,公務員の不作為の違法を認めるべきものとされているところ,本件における原告らの財産的損害は合計3050万円と多額であり(①),原告らは,上記金員の公費負担をD,E両市長に求めていたから,両市長は,議案提出を行わなければ,原告らに上記損害が及ぶことを熟知し(②),本件事案の内容からして,上記損害は,D,E両市長が公費負担の議案提出権を行使しさえすれば,議会の議決によって回避されたはずのものであり(③),公費負担以外に弁護士報酬の負担を転嫁することができない原告らにとっては,両市長が法242の2第8項に基づき弁護士報酬の公費負担の議案を提出することを期待することはもっともな状態にある(④)から,判例の基準によってもD,E両市長の行為は違法と評価されるというべきである。 (3) そして,法242条の2第8項にいう「相当と認められる 提出することを期待することはもっともな状態にある(④)から,判例の基準によってもD,E両市長の行為は違法と評価されるというべきである。 (3) そして,法242条の2第8項にいう「相当と認められる額」とは,弁護士又は弁護士法人の活動の対価として必要かつ十分な程度として社会通念上も適当な額をいい,その具体的判断に際しては日本弁護士連合会会規が定める報酬等基準が参考とされるべきところ,本件住民訴訟の弁護士報酬額の標準額を,当時の名古屋弁護士会の報酬等基準(会規14号。以下「会規」という。)に従って算定すると,下記のとおり,第1審着手金と報酬金を合わせても合計1億7713万6400円となり,会規21条2項に基いて30パーセントを減額しても1億2399万5480円となる。H弁護士は,会規4条1項(特別の事情があるときは,第2章ないし第6章の規定に関わらず,弁護士報酬を減額又は免除することができる。)を適用して,本件住民訴訟の報酬額を5000万円とし,さらに原告らの経済的な負担能力を考慮し,一部を放棄して3050万円に減額したが,かかる金額は,本件住民訴訟の事案,訴訟経過にかんがみると,労力と結果に見合った適正かつ妥当な金額であり,「相当と認められる額」というべきである。 ア 41号事件(ア) 経済的利益 7億2200万円(イ) 第1審着手金 2350万5000円(ウ) 第2審着手金 2350万5000円(エ) 報酬金 2350万5000円イ 42号事件(ア) 経済的利益 15億1866万円(イ) 第1審着手金 4221万8200円(ウ) 第2審着手金 4221万8200円(エ) 報酬金 4221万8200円ウ 43号事件(ア) 経済的利益 7億円(イ) 第1審着手金 2284万5000円(ウ) 第2審着手金 228 ) 第2審着手金 4221万8200円(エ) 報酬金 4221万8200円ウ 43号事件(ア) 経済的利益 7億円(イ) 第1審着手金 2284万5000円(ウ) 第2審着手金 2284万5000円(エ) 報酬金 2284万5000円(4) 被告は,本件住民訴訟には,半田市長がH弁護士を訴訟代理人として行政庁参加し,訴訟活動は参加人によって行われていたから,原告らが独自に公費負担を伴うような弁護士委任をすることは不要であった旨主張するが,これは訴訟上の主体がだれであるか,訴訟行為がだれのために追行されているのかという重大な事実を看過するものであるのみならず,行政庁による495万円の支払をもって,本件住民訴訟に対する十分な弁護士報酬額であると独自の見地から判断するものであって失当である。「相当と認められる」弁護士報酬は,結果の重大性,手続の繁簡,経済的利益の大きさ,法的調査等の労力等を総合的に勘案して決定されるもので,行政の内部的なガイドラインによって決定されるものではなく,支払われた495万円のみで到底「相当と認められる金額」に達するものではない。 また,被告は,仮にD,E両市長が弁護士報酬の公費負担の議案を提出していたとしても,公費負担すべき報酬額を議会が議決していない以上,原告らの損害額を確定することは不可能である旨主張するが,そもそもD,E両市長が「相当と認められる金額」である3050万円の公費支出を行う旨の議案を提出し,議会において,法242条の2第8項の趣旨,本件住民訴訟における弁護士の手間の煩雑さ,事実関係が裁判上確定されるための努力等を説明すれば,法242条の2第8項にいう「相当と認められる金額」として議会により承認されていたはずであるから,被告の主張は失当である。 (被告の主張)(1) 法242条 判上確定されるための努力等を説明すれば,法242条の2第8項にいう「相当と認められる金額」として議会により承認されていたはずであるから,被告の主張は失当である。 (被告の主張)(1) 法242条の2第8項は,民主主義のコストと考えられる住民訴訟において,被告とされた当該職員が勝訴した場合にあっては,その応訴費用は適正な職務行為に関して生じた費用と位置づけることができるので,その費用を地方公共団体において負担することができる旨を規定したものである。ただし,訴訟に要した費用のすべてを,その公益性を検証することなく地方公共団体が負担することは適当でないので,当該団体の長及び議会の一致した判断により公益性を認定し,弁護士報酬の相当額を負担することとしている。そして,同項は,同条7項と異なり,規定の体裁が「報酬額の範囲内で相当と認められる額を負担することができる。」とされていることからも明らかなとおり,公費による弁護士報酬の負担は任意的であり,義務的でないとされているから,当然,長に専属するとされる公費負担に関する議案の提出については,長に広範な裁量が認められるというべきである。 したがって,長は,当該住民訴訟の内容,経過,当該職員の訴訟代理人弁護士の訴訟追行状況,他の普通地方公共団体の状況等を勘案し,当該職員が負担した弁護士報酬を公費負担することが公益性の見地からやむを得ないか否かという観点から,法242条の2第8項所定の議案をどのような内容にするか,提出するかしないかの政策的判断を委ねられているというべきであり,地方公共団体が関与することが制度的に予定されていない当該職員とその訴訟代理人弁護士との間で締結された弁護士報酬契約に拘束されるものではない。 この点,本件住民訴訟は,3件とも平成7年12月22日に第1回口頭弁論が開かれた後,半田市 に予定されていない当該職員とその訴訟代理人弁護士との間で締結された弁護士報酬契約に拘束されるものではない。 この点,本件住民訴訟は,3件とも平成7年12月22日に第1回口頭弁論が開かれた後,半田市長が,当時,原告らの訴訟代理人であると共に被告の顧問弁護士でもあったH弁護士を訴訟代理人に選任して行政庁参加し(平成8年2月22日に行政庁参加の決定がされ,同月26日にH弁護士に委任状が交付された。),同弁護士は,遅くとも第2回口頭弁論以降,原告ら及び参加人の連名の訴訟代理人として,本件住民訴訟の控訴審判決まで訴訟追行し,被告は,行政庁参加に係る弁護士報酬として,同弁護士に対し,市議会の議決を経た上で,別紙弁護士報酬支払明細(2)記載のとおり,合計495万円を支払ったものであるが,同弁護士の主張立証は,主に被告(の職員)が準備した証拠資料を基にしたものであり,原告らの応訴はそれらを援用したものに過ぎず,原告らの訴訟活動と半田市長のそれとは完全に重なっていたから,原告ら(及びその訴訟代理人としてのH弁護士)が独自に本件住民訴訟で問題とされた各財務会計行為の適法性,適正性を主張立証したと評価できる部分を見出すのは困難である。したがって,少なくとも半田市長による行政庁参加以降は,本件住民訴訟において,原告らが個人的応訴のために,参加行政庁の訴訟代理人以外に,独立して弁護士に訴訟委任する必要はなかったというべきであるから,法242条の2第8項に基づいて弁護士報酬を公費負担することの公益性を見出すことはできない。 また,行政庁参加以前の段階においても,本件住民訴訟参加当時,原告Aは半田市長の地位にあり,H弁護士は被告の顧問弁護士であったから,原告らは,H弁護士と容易に連絡し,相談できる態勢にあり,実際,本件住民訴訟の答弁書は被告庁舎内からファックス送 訴訟参加当時,原告Aは半田市長の地位にあり,H弁護士は被告の顧問弁護士であったから,原告らは,H弁護士と容易に連絡し,相談できる態勢にあり,実際,本件住民訴訟の答弁書は被告庁舎内からファックス送信されていることからすれば,H弁護士は,この段階から被告の顧問弁護士として,被告の正当性を主張するため,被告職員の助力を得て,半田市長としての原告Aと本件住民訴訟の準備をしていたと評価することができる。したがって,この段階においても,原告らが独自の訴訟活動を行ったとはいえず,また,H弁護士の活動の対価は,被告が従前から支払っていた顧問料で賄えるというべきである。 なお,法242条の2第8項の追加前は,4号請求訴訟の被告となった当該職員側に当該地方公共団体が補助参加したり,あるいは当該職員の訴訟代理を当該地方公共団体の顧問弁護士に実費程度で請け負ってもらうという実務慣行があったところ,本件住民訴訟においてもこうした実務的対応がなされたにもかかわらず,同項の存在を根拠として,一転して行政庁参加部分の弁護士報酬とは別に当該職員個人の弁護士報酬を公費で負担することは衡平性に欠けるというべきであり,多大な違和感を感じるものである。 なお,主な地方公共団体が弁護士に訴訟代理等を委任する場合の弁護士報酬の基準は,別紙「着手金・完成謝金の基準」記載のとおりであり,また,他の公共団体が法242条の2第8項に基づいて公費負担した弁護士報酬等の実例は,別紙「損害賠償額に対する弁護士報酬」記載のとおりであって,これらに照らせば,D,E両市長が本件公費負担要請に対して拒否回答し,あるいはこれを維持したことに特別不自然,不合理な点は認められず,そこに裁量権の逸脱,濫用はないから,適法というべきである。 (2) 原告らは,D,E両市長が拒否回答を行い,あるいはこれを維持し, ,あるいはこれを維持したことに特別不自然,不合理な点は認められず,そこに裁量権の逸脱,濫用はないから,適法というべきである。 (2) 原告らは,D,E両市長が拒否回答を行い,あるいはこれを維持し,原告らが支払った弁護士報酬の公費負担についての議案を議会に提出しなかったことが国家賠償法1条1項の違反行為となる旨主張する。 しかしながら,同条同項の成立要件のうち,まず,①違法性の要件については,議案不提出という不作為に違法性が認められるためには作為義務の存在が一義的に明確でなければならないところ,前述のとおり拒否回答にも一応の合理性が認められ,かかる作為義務の存在が一義的に明確であるとは到底いえないから,本件において同要件が充足されているとはいえない。次に,②故意又は過失の要件については,4号請求訴訟に勝訴した当該職員の弁護士報酬につき,全国ですべての案件について議案が提出されている訳ではないこと,いかなる場合に議案を提出すべきかについて一義的な基準がなく,地方公共団体の長の裁量権に属する問題と考えられるところ,本件においては,半田市長による行政庁参加のために被告が支出した弁護士報酬には,原告らが支出した弁護士報酬のうち被告が負担すべきものが含まれているという判断には,過去の実務等にかんがみても,一応の合理性が認められることから,上記要件が充足されているとはいえない。さらに,③損害の発生の要件については,市長の議案不提出によって議決が得られなかったことを違法行為として構成する以上,損害額は,議会が議決する金額というべきところ,本件では,議会が確実に議決する金額は不明であり,損害の発生の立証は不可能であるから,充足されているとはいえない。最後に,④加害行為と損害との間の因果関係の要件についても,仮に議案が提出されたとしても議会がこれを否決 に議決する金額は不明であり,損害の発生の立証は不可能であるから,充足されているとはいえない。最後に,④加害行為と損害との間の因果関係の要件についても,仮に議案が提出されたとしても議会がこれを否決すれば公費負担は認められないこと,また,議会が議案を可決するか否かは明らかでないことからすると,D,E両市長の議案不提出と弁護士報酬の未払との間には相当因果関係が存しないというべきである。 よって,D,E両市長の行為は,国家賠償法1条1項の要件を満たさないから,原告らの主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 D,E両市長が,原告らからの2度にわたる本件要請に対して拒否回答し,あるいはこれを維持する態度をとり,半田市議会に公費負担の議案を提出していないことは前記前提事実(6)記載のとおりであるところ,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを定めている(最高裁判所第一小法廷昭和60年11月21日判決・民集39巻7号1512頁参照)から,D,E両市長の上記行為が同項の適用上違法と評価されるか否かは,その前提として,原告らが支払った弁護士報酬の公費負担についての議案を議会に提出する職務上の法的義務を負っているか否か,換言すれば,原告らが,本件住民訴訟において勝訴したことにより,その支払った弁護士報酬につき,公費による負担を求める法的権利ないし利益を取得したか否かの判断にかかるというべきである。 そこで,検討するに,法242条の2第8項は,原告らの主張するとおり,その追加前においては,4号請求訴訟の被告とされた当該職員個人は,事案のいかんを問わず,応訴に要する弁護士報酬をすべて個人で負担すべき で,検討するに,法242条の2第8項は,原告らの主張するとおり,その追加前においては,4号請求訴訟の被告とされた当該職員個人は,事案のいかんを問わず,応訴に要する弁護士報酬をすべて個人で負担すべきこととされていた(前掲最高裁判所第三小法廷昭和59年4月24日判決)ところ,これに対しては,①当該職員の個人責任を問う形式をとるものの,実際は当該地方公共団体自身の政策判断や意思決定の当否を争うものが多いこと,したがって,当該職員による応訴は,その所属する地方公共団体のためになされているとの側面を有すること,②にもかかわらず,応訴費用をすべて個人負担とすることは,公務員としての意欲をそぐおそれがあり,特に政争の具や訴訟マニアの自己満足の手段として住民訴訟が利用されている場合に,個人負担を強いることは酷に過ぎることなどの理由で,判決で職務執行の適法性が明らかになれば弁護士報酬を公費で負担する制度が必要であるとの議論や要望が強く打ち出されるようになり,これに応えるべく,平成6年法律第48号によって追加されたものである。 同項は,「……当該職員が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において,弁護士に報酬を支払うべきときは,普通地方公共団体は,議会の議決によりその報酬額の範囲内で相当と認められる額を負担することができる。」と規定されているとおり,勝訴した当該職員が弁護士に対する報酬支払義務を負担したことを前提に,議会による議決を条件として,当該地方公共団体がその報酬額の範囲内の相当額を公費負担することを認めたものであるが,上記制定の趣旨,経緯に照らせば,公費負担の可否及びその額についての判断は,必ずしも当該職員と訴訟代理人との間の訴訟委任契約にとらわれることなく,住民訴訟の内容が当該地方公共団体自身の政策判断や意思決定の当否を争うものといえるか否か,委 の可否及びその額についての判断は,必ずしも当該職員と訴訟代理人との間の訴訟委任契約にとらわれることなく,住民訴訟の内容が当該地方公共団体自身の政策判断や意思決定の当否を争うものといえるか否か,委任を受けた弁護士の訴訟行為が,かかる政策判断や意思決定を擁護するために必要と考えられるか否か,公費による負担の見地から,弁護士に対する報酬額が相当なものといえるか否かといった諸要素を総合して行われる必要があるというべきである。そして,かかる判断は,第1次的には当該地方公共団体の事務を統括する立場にあり,当該住民訴訟が地方公共団体にとっていかなる意味を有するものであったかについて熟知しているはずの長によって行われるべきであると考えられるから,公費負担の可否及びその額は,長による判断を経ずして決定されるべきものではない。そうすると,議会に対する公費負担の議案提案権は,その性質上,当該地方公共団体の長に専属し,その上で,議会が,住民の代表者としての立場から,その判断の適否を公正に審査すべきものと解される。 したがって,原告らの主張するとおり,当該地方公共団体の長が,弁護士報酬の公費負担に関する議案を議会に提出しない以上,当該職員は,弁護士報酬を地方公共団体に負担させることができないことにならざるを得ない。 しかしながら,同条7項が「第1項第4号の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において,弁護士報酬を支払うべきときは,普通地方公共団体に対し,その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。」と規定し,明文をもって,4号請求に勝訴した住民に相当と認められる弁護士報酬額の請求権を認めているのに対し,同条8項は,前記のとおり,「……普通地方公共団体は,……相当と認められる額を負担することができる。」と規定し, ,4号請求に勝訴した住民に相当と認められる弁護士報酬額の請求権を認めているのに対し,同条8項は,前記のとおり,「……普通地方公共団体は,……相当と認められる額を負担することができる。」と規定し,前掲最高裁判所判決によって違法とされた弁護士報酬の公費負担が許されることを定めながらも,文言上,4号請求訴訟に勝訴した当該職員に普通地方公共団体に対する弁護士報酬額の請求権を認める形式とされていないこと,また,地方公共団体が負担することのできる額は,「……その報酬額の範囲内で相当と認められる額……」に過ぎず,かつその相当性を,「……議会の議決」を要求するという手続面における規制によって担保しようとしていることからうかがわれるように,司法機関が公費負担すべき弁護士報酬額の相当性についての判断権を有するものではないと考えられることに照らすと,当該職員は,長による議案の提出と議会の議決を経て初めて弁護士報酬を地方公共団体によって負担してもらう具体的な権利を取得し,それ以前においては,法的な保護に値する何らの権利ないし利益(具体的な請求権としてはもちろんのこと,期待権としても)を有しないといわざるを得ない。 2 この点につき,原告らは,法242条の2第8項の立法経緯,特殊性等を挙げて,同項によって,長は,裁量の余地なく弁護士報酬の公費負担の議案を議会に提出すべき法的義務を負う旨主張する。なるほど,4号請求訴訟には,当該地方公共団体自体の政策判断や意思決定の当否を争うものが多いこと,にもかかわらず,応訴費用をすべて個人負担とすることは,公務員としての意欲をそぐおそれがあるなどの諸点を考慮した結果,同項が追加されるに至ったことは,既述のとおりであるところ,前記前提事実(2)に,証拠(甲11ないし19,20の1ないし34,21の1ないし33,22の1ないし それがあるなどの諸点を考慮した結果,同項が追加されるに至ったことは,既述のとおりであるところ,前記前提事実(2)に,証拠(甲11ないし19,20の1ないし34,21の1ないし33,22の1ないし34)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件住民訴訟は,被告が市の政策として採用した日本福祉大学情報社会科学部の誘致事業に関連して行われた財務会計行為を対象とするものであって,その請求は,直接的には原告ら個人を被告(41号事件については,G社も共同被告とされている。)とするものであるが,実態は被告自身の政策判断や意思決定の当否を問う性格のものであったと認められること,さらに,証拠(甲22の34)によれば,本件住民訴訟の原告であったFは,自身では否定するものの,原告Aと政治的に対立していたグループと連携していたことが十分にうかがわれることなどに照らすと,本件住民訴訟においても,まさに,同項が追加される契機となった事態が生じていたと評価できるから,原告らがそのために支出した弁護士報酬の公費負担を2度にわたって要請したにもかかわらず,D,E両市長が拒否回答に終始し,公費負担に関する議案を議会に提出しないことは,同項の趣旨や立法経緯を正解しない不当なものと評価し得ないものではない(本件に関する愛知県総務部の意見(甲9)もこれに沿うものである。なお,被告は,原告らは行政庁参加した半田市長の訴訟行為を援用すれば足りたことなどを理由に,独自に代理人を選任する必要がなかったなどと主張するが,法242条の2第8項の追加以前から地方公共団体の長が4号請求訴訟に参加することが少なくなかったことに照らすと,単に参加行政庁の訴訟行為を援用すれば足りたことを理由として拒否回答を行うことは,同項の立法趣旨,経緯を軽視するものとの批判を免れ難いし,前掲各証拠に照らしても,原 が少なくなかったことに照らすと,単に参加行政庁の訴訟行為を援用すれば足りたことを理由として拒否回答を行うことは,同項の立法趣旨,経緯を軽視するものとの批判を免れ難いし,前掲各証拠に照らしても,原告らが独自にH弁護士ほかを代理人として選任して本件住民訴訟を追行し,弁護士報酬の支払を約したことが被告にとっておよそ無駄な行為であったと認めることもできない。)。 しかしながら,前記のとおり,原告らは,半田市長による弁護士報酬の公費負担の議案の提出と半田市議会の議決を経ない限り,弁護士報酬を公費によって負担してもらうことについて,法的な保護を受け得る何らの権利ないし利益を有せず,したがって半田市長もかかる議案を議会に提案すべき法的義務を負うものではないと解される以上,D,E両市長が本件要請に対して拒否回答をし,あるいはこれを維持する態度をとり,半田市議会に議案を提出しないからといって,直ちに原告らが被告に対して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得するものといえないことは明らかである。 3 以上の次第で,原告らの本訴各請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について,民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官舟橋恭子裁判官小嶋宏幸(別紙添付省略) 小嶋宏幸(別紙添付省略)
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