平成14(わ)410 窃盗

裁判年月日・裁判所
平成14年9月25日 神戸地方裁判所
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判決文本文7,157 文字)

判決平成14年9月25日神戸地方裁判所平成14年(わ)第410号窃盗被告事件 主文 被告人を懲役1年8月に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成14年3月29日午後4時55分ころ,神戸市灘区A町a丁目b番c-d号所在のドラッグストアBにおいて,同店店長Cが管理する医薬品等3点(価格合計1万1860円相当)を窃取した。 (証拠の標目)(括弧内の数字は検察官の証拠請求番号を示す。)省略(補足説明) 1 被告人は,本件被害品とされるタケダハイシーBメイト,ヒメロス及び金蛇精の3点(以下,「本件医薬品等3点」という。)について,「店内で本件被害品である医薬品等3点を手に持っていたときに,以前の内妻であるDが車を運転して店の前を通り過ぎたのが見えたので,医薬品等を手にしたまま,思わずその車を追いかけて店外に出たもので,盗むつもりはなかった。」などと供述をし,窃盗の故意を否認するので,この点について,裁判所の判断を補足して説明する。 2 関係各証拠によれば,客観的事実として,以下の事実が認められ,これらの事実については,おおむね被告人も争わないと思われる。 (1) 被告人は,本件当日午後4時36分ころ,本件被害店舗に入り,同4時46分ころ,アミノファン等4点をレジに持参し,代金3334円を支払って購入し,これらをBの文字の入った約30センチメートル四方の黒色ビニール袋に入れて受け取った。 (2) 被告人は,同4時55分ころ,再度同店レジに行き,アルコールタオル及びティッシュペーパー5箱組1個を代 これらをBの文字の入った約30センチメートル四方の黒色ビニール袋に入れて受け取った。 (2) 被告人は,同4時55分ころ,再度同店レジに行き,アルコールタオル及びティッシュペーパー5箱組1個を代金615円で購入し,アルコールタオルは約20センチメートル四方の黒色ビニール袋に入れてもらい,ティッシュペーパーはそのまま手に持ち,同店南側出入口から店外に出た。その後,被告人は,東に向かって走り,本件現場から約33メートル東方にある飲食店Eに入り,同店地下駐車場に走り込んだ。 (3) 被告人が被害店舗の南側出入口を出た際,同出入口に設置された万引防止装置が作動して防犯アラームが鳴り,これに気付いた同店店長Cが,被告人を追いかけ,前記E駐車場で被告人に追いつき,被告人に被害店舗に戻るよう説得し,被告人は,これに応じた。 (4) 被告人が被害店舗に戻り,南側出入口を通った際,また防犯アラームが鳴り,Cが,被告人の所持していたビニール袋を上からのぞいたところ,本件被害品がはだかの状態で入っていることを確認した。 (5) Cは,被告人を,被害店舗北側にある倉庫に連れていき,レジからジャーナルを持ってこさせて,被告人の所持品と照らし合わせたところ,大きなビニール袋の中に,ジャーナルに記録のある前記(1)に記載したアミノファン等4点とともに,ジャーナルに記録のない防犯タグの付いた本件医薬品等3点のほか同様にジャーナルに記録されていない美容液等3点の在中が確認された。また,被害店舗南側出入口から東方5ないし6メートルのところに,前記(2)に記載したアルコールタオルが入った黒色ビニール袋が落ちていた。 3 そして,本件当時,被害店舗でレジを担当していたFは,被告人が,2回目の精算をした際,1回目に精算したとき渡されたビニール袋を肘に提げ,もう片方の手に オルが入った黒色ビニール袋が落ちていた。 3 そして,本件当時,被害店舗でレジを担当していたFは,被告人が,2回目の精算をした際,1回目に精算したとき渡されたビニール袋を肘に提げ,もう片方の手に買い物かごを持ち,その他には何も持っておらず,2回目の精算を終えると,店の出入口の方に向かって歩いていき,また,被告人が,レジの西側にある棚に商品を置いたり,そこから何かを取り出すこともなかったと述べている(甲5)ところ,Fは,同店店員として勤務中のもので,被告人が入店してきたときから,店内をきょろきょろしながら歩いたり,1回目の精算が終わった後も,店内をうろうろしていたことから,その男の様子を注意してみていたというのであり,その供述の信用性を疑うべき事情はない。 前記2の事実にFの上記供述を総合すると,被告人はレジで2回目の精算を済ませる前に既に本件医薬品等3点を手に取り,これを大きい方のビニール袋に入れていた疑いが強く,それにもかかわらず被告人は未精算のまま同店を出たことからすると,そのような被告人の行為自体から,優に窃盗の故意を推認できる。 4 これに対し,被告人は,公判廷において,おおむね以下のような弁解をしている。すなわち,被告人は,1回目の精算をした後,ティッシュペーパー等とともに本件医薬品等3点を購入するつもりでかごに入れたが,レジに行ったところ,3,4人が並んでいて,その間に,本件医薬品等を買うことをやめ,レジの前にあった商品の上に置いた。レジで購入したアルコールタオルは,ビニール袋に入れてもらい,ティッシュペーパーはそのまま左手に持ち,買うのをやめた本件医薬品等3点を左手に持って返品しようとしたところ,外を,Dの自動車が通ったので,思わず,商品を手にしたまま外に出てしまった。その際,防犯アラームが鳴ったことには気付かなかっ ち,買うのをやめた本件医薬品等3点を左手に持って返品しようとしたところ,外を,Dの自動車が通ったので,思わず,商品を手にしたまま外に出てしまった。その際,防犯アラームが鳴ったことには気付かなかった。Dの後を追って約10メートル東へ走ったところ,店長が追いかけてきたが,Dが,Eに入ったのではないかと思い,Eの駐車場に行った,というのである。 5 しかし,被告人の弁解は以下のように客観的証拠と矛盾する上,変遷を重ねており,その合理的な説明もなされていないから,信用することができない。 (1) 弁解の客観的証拠との不一致① 2回目の精算をしたときの状況について,被告人の弁解は,前記Fの供述と明らかに相反している上,取調済みのビデオテープ(平成14年押第95号の1)及びそれをプリントアウトした写真撮影報告書(甲10)によれば,被告人が2回目の精算のためにレジに行った際,3,4人が並んでいたという状況はなかったこと,被告人は,レジに近づいて直ちに精算を受け,そのまま南側出入口に向けて歩き出したことが認められ,被告人が,本件医薬品等3点を他の商品の上に置いたり,またそれを手にしたような状況は全くうかがうことができないことと明らかに矛盾している。また,被告人は,本件医薬品等3点は,左手に持っていたというのであるが,大小二つのビニール袋を持った上,右手(被告人は,公判廷では,左手と言っているが,実際には,右手に持ちかえている。)にティッシュペーパー5個組の箱を抱え,その上に,ある程度の大きさのある本件医薬品等3点をばらばらに左手に持って移動するなどということは,それ自体極めて不自然であり(甲50実況見分調書・写真54),前記ビデオテープ(49分37秒の表示のある画面)の映像には被告人の左手の状況そのものは映っていないものの,そこに撮影されてい うことは,それ自体極めて不自然であり(甲50実況見分調書・写真54),前記ビデオテープ(49分37秒の表示のある画面)の映像には被告人の左手の状況そのものは映っていないものの,そこに撮影されている被告人の姿勢からは,そのような不自然な状況がうかがえないことにも矛盾する。 ② 被告人は,店外へ出ようとしたときに防犯アラームが鳴ったのには気付かなかったと供述しているが,同アラームの音は一般の客も驚いて店内を見回すほどの音量と音質である(甲5,51)こと,現実に,店内北西角の調剤室にいた同店店長のCはアラームの音を聞いて原因を確かめようとレジの宮本のところへ駆け寄ったこと(Cの証言,甲7)からすると,アラームが聞こえなかったという被告人の弁解は極めて不自然であるといわざるを得ない。 ③ また,前記Cの証言及びEの副店長Gの供述(甲6)によれば,Cが被告人に対し,地下駐車場で袋の中を確かめさせてほしいと言うと,被告人はこれを拒否し,「全部買ったものや,間違っていたら責任とるんか。」と同人に食ってかかり,その場から離れようとしたというのであるが,このような行動は,商品を手にしたまま,ついうっかり店外に出てしまった者の態度としては,まことにそぐわないものである。 ④ さらに,前記のとおり,被告人が手にしていたビニール袋の中には,本件医薬品等3点のほかにも,ジャーナルに記録されていない美容液等3点が在中していたが,これについて被告人は,公判廷では,記憶にないと述べるのみで,何ら合理的な説明をしない。 (2) 被告人の供述の変遷① 本件3点の商品を手に取った時期について,被告人は,当初,2回目の精算が終わった後,本件医薬品等3点の購入を思い立ち,それぞれの商品が陳列されている棚へ行って手に取り精算しようとレジへ向かったと供述し(乙4 の商品を手に取った時期について,被告人は,当初,2回目の精算が終わった後,本件医薬品等3点の購入を思い立ち,それぞれの商品が陳列されている棚へ行って手に取り精算しようとレジへ向かったと供述し(乙4),その後,2回目の精算の時には本件医薬品等3点を購入しようと思って買い物かごに入れて並んでいたが,途中で購入意思を失ってレジ南側の棚の商品の上に置き,ティッシュペーパーほか1点の精算を済ませてから,本件医薬品等3点を戻そうと思って手に取ったところでDの車を見たと供述を変えている(乙6及び第4回公判)。 しかし,本件医薬品等3点を手に取った時期の変遷について,合理的な説明はない。 ② 被告人が未精算の本件医薬品等3点を持ったまま店を飛び出した理由についても,被告人は,当初,Dの電話番号が聞きたかったと説明し(乙6),その後,同女と話がしたかったと供述内容を変えている(乙7,8)。そして,どのような話をしたかったのかとの問いに対しては「具体的にはわからない。」としか答えず,合理的な説明はなされていない。 ③ 被告人は,当初,E地下駐車場へDの車が入っていったような気がしたから地下駐車場へ向かったと供述していた(乙2)が,その後,同車を追いかけるのをやめてから,未精算の本件医薬品等3点を手に持ったままであり,B店店員が追いかけてくるのに気付いたため,窃盗罪で罰せられるのを嫌って同所へ逃げ込んだと供述を変え(乙4,6),公判廷で再びDの車が地下駐車場へ入っていった気がしたからと,再度,供述を変遷させている(第4回公判)。しかし,この犯行後の行動の理由の変遷についても合理的な説明はない。 (3) 以上のとおり,被告人の弁解供述は,他の関係証拠に矛盾する部分が多くある上,弁解の重要な部分につき,その内容を変遷させているところ,これについて,何ら の変遷についても合理的な説明はない。 (3) 以上のとおり,被告人の弁解供述は,他の関係証拠に矛盾する部分が多くある上,弁解の重要な部分につき,その内容を変遷させているところ,これについて,何ら合理的な説明をしておらず,信用することができない。 6 Dが本件店舗前を車で通過した時刻について関係各証拠によれば,被告人が2回目の精算を終わった時刻は午後4時55分であると認められる(前記ビデオテープ等)。 ところで,Dは,捜査段階では,本件被害店舗前を車で通過したのは,本件当日の午後4時14分ころであると供述していた(甲42)が,当公判廷では,同日午後4時50分ないし55分ころであると考えられるという供述をしている。同人の供述は,捜査段階では,被告人から息子のHの携帯電話に同日午後4時9分ころメールが入ったことを知らせる電話があったことを基準に考えていたが,その後,Hから指摘され,Hからは,被告人からメールがあったことを伝える電話と,アルバイト先へ送ってほしいという電話の2回あったことを思い出したというものであり,その変遷の経過は自然なものであり,Hの公判供述とも符合すること,Dは,以前被告人と内縁関係にあった時期があったとはいえ,約7年前に別れ,最近3年間は,電話もなかったというのであり,Dが,ことさら被告人の弁解にそって虚偽の供述までする理由は見当たらないことに照らし,その公判供述には,それなりの信用性が認められる。もっとも,Hの公判廷供述によれば,同人がアルバイト先へ着いたのは午後4時57分であり,これはレジのバーコードで客観的に確認されているのであるから,Dが,本件被害店舗前を通過したのが午後4時55分であるとすると,Hは,Dに車で迎えに来てもらい,自宅前に着いた後,忘れ物をとりに室内に入ってからアルバイト先へ行き,着替えを れているのであるから,Dが,本件被害店舗前を通過したのが午後4時55分であるとすると,Hは,Dに車で迎えに来てもらい,自宅前に着いた後,忘れ物をとりに室内に入ってからアルバイト先へ行き,着替えをした後に,バーコードに時間を読み込ませるまで,2分しかかからなかったことになり,Hも,午後4時55分に本件被害店舗前を通過して午後4時57分に入店時刻が記録されることはあり得ないとも供述している。 他方,本件犯行時刻の認定は,被害店舗のジャーナルの記載に約6分の誤差があることを前提としているが,その誤差には幅があること,Hのアルバイト先のレジも,ほぼ正確とされているものの,数十秒程度の誤差はあり得るとされていること(甲62),同レジに記録された4時57分という時刻自体が,幅のあるものであることなどからすると,Dが,車で本件被害店舗前を通りかかってからHがアルバイト先に着くまでの時間が正確に2分であったとも断言できず,また,Hが飲食していたEからアルバイト先まで約540メートルというのであるから(甲59),交通状況によっては,さほど時間を要さずに走行できる距離であるとも考えられる。 以上の諸事情に照らすと,被告人が,本件被害店舗で2回目の精算をした時刻に近接する時間帯に,Dが同店舗前を車で通過するのを見たという可能性は,あながち排斥することができず,被告人が,Dの車が通過したのを契機として店舗外に出た可能性自体は,否定し去ることはできない。 しかし,被告人が,店舗外に出た理由は何であれ,前記のとおり,被告人の弁解は,2回目の精算が終わった後,返品するつもりでレジの横に置いておいた本件医薬品等3点を左手に持ち,そのまま店外に出たとする点ですでに不自然で他の関係証拠に矛盾しており,前記3で説示したとおり,被告人の本件犯行は,優に認定でき 返品するつもりでレジの横に置いておいた本件医薬品等3点を左手に持ち,そのまま店外に出たとする点ですでに不自然で他の関係証拠に矛盾しており,前記3で説示したとおり,被告人の本件犯行は,優に認定できるのであり,上記の事実は,その認定を左右するものとはいえない。 (累犯前科)被告人は,(1)平成8年12月26日神戸地方裁判所で窃盗罪等により懲役3年に処せられ,平成11年8月6日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した覚せい剤取締法違反の罪により平成12年12月1日東京地方裁判所で懲役1年8月に処せられ,平成13年12月25日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書及び(2)の前科にかかる判決書謄本によって認める。 (法令の適用)罰条刑法235条累犯加重刑法59条,56条1項,57条(3犯の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は金に困っての犯行というわけではなく,単に商品の代金を払いたくないという自己中心的な動機によるものであって酌量すべきものはない。また,被告人は,1回目の買い物では正規の買い物客と同様に商品を精算をし,万引きした商品を入れるための袋を入手し,いったん店を出た上で,再び入店し,再度買い物をして精算しながら,本件医薬品等3点だけは袋に入れて未精算のまま店外に出たものであり,犯行態様は計画的で狡猾な面も見られ,悪質であり,被害金額も1万1860円と少なくない。さらに,被告人には前記累犯前科を含め懲役前科が6犯あり,そのうち5犯には窃盗の罪が含まれていることからすると,被告人のこの種犯罪における常習性,規範意識の薄さは否定できず,捜査段階から窃盗の故意を否認し,公判廷においても不合理な弁解に終始しており,反省 そのうち5犯には窃盗の罪が含まれていることからすると,被告人のこの種犯罪における常習性,規範意識の薄さは否定できず,捜査段階から窃盗の故意を否認し,公判廷においても不合理な弁解に終始しており,反省の様子もうかがえないことなどに照らすと,その犯情は良くなく,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 他方,本件では店員が窃盗の事実に気付き被告人を逮捕したため,商品は返還されており,実質的な被害は生じていないことなどの事情をも考慮し,主文の刑を定めた。 (検察官大野雅祥出席)平成14年9月25日神戸地方裁判所第4刑事部裁判官笹野明義

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