昭和47(行コ)86 神原汽船遺族一時金請求

裁判年月日・裁判所
昭和48年12月20日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主   文 原判決を取り消す。 被控訴人が控訴人らに対し昭和四三年九月二〇日付でした被保険者Aの死亡に対す る船員保険法四二条ノ三第一項に基づく遺族一時金の不支給決定処分はこれを取り 消す。 訴訟費用

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判決文本文6,044 文字)

主   文 原判決を取り消す。 被控訴人が控訴人らに対し昭和四三年九月二〇日付でした被保険者Aの死亡に対す る船員保険法四二条ノ三第一項に基づく遺族一時金の不支給決定処分はこれを取り 消す。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。        事   実 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め た。 当事者双方の主張、立証関係は、左記に付加するほか、原判決事実摘示のとおりで あるから、ここにこれを引用する。 一 控訴人の主張 1 Aは、本件転落事故当時機関室の火災当直を割り当てられていた。そしてかか る当直者は夜食をとるために離船上陸することを認められていた。従つてAが夜食 をとるため離船上陸し、夜食をとつた後帰船のため本件タラツプを昇り上船する一 連の行為はまさに従属労働関係によつて拘束された結果の限定された行動形式ない し状態に当たる。Aが本件タラツプを昇り帰船上船する行為にはAの私的行為と評 価されるような事情はなにもない。従つてAの右行為は「職務」に当たることは明 らかである。 2 しかして、夜食をとるために下船した行為の中に恣意・逸脱の行為があつたと しても、当該労働者(本件ではA)が全体としてなお従属労働関係に拘束されてい る場合は右恣意・逸脱行為の介在にかかわらず右下船行為は「職務」と解すべく、 仮にそうでないとしても当該恣意・逸脱行為のみが職務に付随的な行為からの離 脱、すなわち私的行為と評価されるだけであつて、前記のごとく夜食をとるため下 船する行為自体が職務に付随する行為とみられる以上、右私的行為を除いたその余 の行為は付随的な行為として船員保険法四二条の三第一項にいう「職務」に該当す るものと解すべきであり、右私的行為の介在することをもつて下船行為全体を職務 離脱行為とみるべきではない。 3 また、職務に付随 行為は付随的な行為として船員保険法四二条の三第一項にいう「職務」に該当す るものと解すべきであり、右私的行為の介在することをもつて下船行為全体を職務 離脱行為とみるべきではない。 3 また、職務に付随する行為は、本来の担当職務を論理的に前提として成立する ことはいうまでもないところであるが、時間的にこれを前提とするものではないと 解すべきである。このことは、本来の担当職務につく前の準備行為が本来の担当職 務に付随する行為に当ること一つをみても明らかなところである。しかして職務か ら逸脱ないし離脱した私的行為が介在した場合、なにをもつて「職務」に復帰した とみるべきかは、従属労働関係によつて規定された行動形式ないし状態に復帰した かどうかによつて判断されるべきものである。本件についていえば、Aが「夜間当 直業務」それ自体に復帰しなければ「職務」復帰が認められないというのではな く、それ以前の「本来の担当職務に付随する行為」に復帰すれば、その時点で「職 務」復帰が認められると解すべきである。 4 要するに、本件については、Aが本件タラツプを昇つていた行為は職務遂行性 が認められるとしなければならない。すなわち本来担当する機関室の火災当直業務 それ自体ではないけれども、右職務に付随する行為として職務に当たるからであ る。夜食をとることは、本来担当する職務に付随する行為であつた。夜食をとりに 離船上陸した以上は、本件タラツプを昇つて上船帰船することは当然に必要な行為 であるし、上船帰船するためには本件タラツプを昇る方法以外にないのであるか ら、夜食をとる行為に不可欠な行為である。  一方本件タラツプは第一二天社丸から岸壁にかけられていたもので、第一二天社 丸の乗組員および同船の点検修理に従事する業者だけが上船、離船するために使用 していたものであつて、右以外の第三者の利用に供されて 方本件タラツプは第一二天社丸から岸壁にかけられていたもので、第一二天社 丸の乗組員および同船の点検修理に従事する業者だけが上船、離船するために使用 していたものであつて、右以外の第三者の利用に供されていたものではなかつた。 なお同船は常石造船株式会社第六号ドツクに入渠していたのであるから、第三者が 右ドツク周辺に近づくということすらあり得ないことであつた。第一二天社丸の乗 組員は、上船し勤務につくためには、本件タラツプを昇らなければならず、勤務終 了後も本件タラツプを降りなければ、自由な私的生活の領域に戻ることはできない 関係にあつた。すなわち船員は船内において従属労働関係の拘束から完全に解放さ れるということはあり得ないからである(たとえば船員法二一条等参照)。従つて 本件タラツプは第一二天社丸と一体をなすもので、同船の乗組員にとつては、職場 施設ないしそれに準ずるものであつた。  かくて第一二天社丸の乗組員が船内勤務につく目的で本件タラツプを昇りはじめ ればその行為は従属労働関係によつて拘束された行動形式ないし状態に該当するこ とは明らかである。いいかえれば、本件タラツプを昇る行為はそれが完全な私的行 為でない限り、乗組員が本来担当する職務につく前の「準備行為」、「必要行為」 であるばかりか、「避けられない行為」であり、「担当職務に当然付随する行為」 に該当する。まして、Aの場合は、夜食をとる行為自体が付随行為として「職務」 に該当するわけであるし、本来の職務につくため帰船する手段として本件タラツプ を昇る行為には私的行為と評価される事情は一切ないことは明らかなので、「本来 担当する職務に付随する行為」として「職務」に当たることは当然である。 5 なお、Aが必要最少限の時間で夜食をとつて帰船のため本件タラツプを昇る行 為と比較した場合、相違する点はただ時間が遅れていると 担当する職務に付随する行為」として「職務」に当たることは当然である。 5 なお、Aが必要最少限の時間で夜食をとつて帰船のため本件タラツプを昇る行 為と比較した場合、相違する点はただ時間が遅れているというだけであつて、他に 異なる点はない。要するに、差異は遅刻したということにあるが、しかし本件タラ ツプを昇る行為が遅刻したということで職務遂行性を失ういわれはない。すなわち 所定の時間に本件タラツプを昇ろうが、遅刻して昇ろうが、その行為自体は従属労 働関係に拘束された行為であることに変わりはないからである。 6 また、Aの本件転落事故による死亡は、本件タラツプの不備すなわち職場施設 に起因するものである。そして職場施設に起因するということは、職場施設におけ る危険要因の具体化であればよく、ちよつとした気の緩みや身体の均衡を失うこと が、直ちに転落死を招くという程度の瑕疵でもよいのである。従つて身体が吹きと ばされる程度に風が吹いていたかどうかというがごときことは問題外であるし、安 全衛生規則に適合していたかという点は、事業主の責任を追求する場合はとにか く、職場施設に起因するかどうかの判定に当つては職務起因性を否定する事由とは なり得ないのである。  Aは、本件タラツプから第一二天社丸に上船するには、ブルワークにあがつて、 それから、船内におりる小さなタラツプに移らなければならなかつた。まさに、ち よつとした気の緩みや身体の均衡を失えば転落する危険が包蔵されていたのであ る。しかもロープは固定されていないから、これに身体をもたせかければ、たわむ ことは物理的に明らかであつて防護の役をなさなかつた。  そうであつてみれば、Aの本件転落事故に因る死亡は職場施設に起因するもので 「職務上の事由」によることは明らかである。 7 これを要するに、本来、職務と災害との関連は、労働者が従属 役をなさなかつた。  そうであつてみれば、Aの本件転落事故に因る死亡は職場施設に起因するもので 「職務上の事由」によることは明らかである。 7 これを要するに、本来、職務と災害との関連は、労働者が従属労働関係に規定 され、限定された行動形式ないし状態にたたざるを得ないということが災害の一因 となり条件として作用したという事実があれば足りるのであつて、その場合作用し た災害の原因が職務に内在的か、随伴的か、偶然的かは関係がないのである。  労働者が職場施設にいるということは、それが私的目的ないし私的行為による場 合を除けば、従属労働関係によつて拘束されている状態にほかならない。しかして そこで災害が発生した場合は、それが積極的に私的行為によるものと認められない 限り職務上の災害に当る。現に職務遂行中であろうと休憩中であろうと、始業準備 前であろうと後始末終了後であろうと、従属労働関係に規定され拘束されているこ とに変わりがないからである。  かくてAは、本件転落事故当時火災当直を命じられており、本件タラツプは職場 施設に当たるから、Aの本件転落事故が私的行為によるものとの反証がない本件に おいては、右は「職務上の事由」によるものであることは明らかである。 二 被控訴人の主張 1 控訴人の前項主張は全部争う。 2 仮にAの本件転落事故につき職務遂行性が認められるとしても、本件において は職務起因性が認められないので、本件不支給処分には違法な点はない。  Aの本件転落事故は、本件タラツプおよび当時の気象状況のもとで、これが発生 する危険性というものは一般的にみてまずなかつたとみるのが相当であり、また本 件においては犯罪の疑いは全くない。  しかりとすれば、考えられることは、A自身に本件転落事故を招く原因があつた のではないかということであり、たとえば突然身体の具合が悪くなつたとか 相当であり、また本 件においては犯罪の疑いは全くない。  しかりとすれば、考えられることは、A自身に本件転落事故を招く原因があつた のではないかということであり、たとえば突然身体の具合が悪くなつたとか、正常 な歩行状態を保てない程度に酒に酔つていたとかがそれである。  その点について本件全証拠を検討してみると、Aは本件転落事故発生の当夜かな り飲酒しており、酩酊していた事実が十分推認される。突然身体の具合が悪くなつ たというようなことは、健康体であつたAについてはまず考えられないことであ り、また仮にそのようなことがあつたとしても、本件タラツプの巾は約一メートル もあり、またタラツプの両側には約一メートルの間隔で鉄の支柱が立てられ、高さ 約八〇センチメートルのマニラロープの手すりが張つてあつたのであるから意識不 明となつて倒れても直ちに海中に落下するというがごときことは普通はあり得な い。酒に酔つていれば足もとがふらつき、タラツプから足を踏みはずすということ は十分あり得ることである。しかしてAは前記のごとく本件転落事故発生の当夜か なり飲酒し酩酊していたものであり、右事故はその飲酒、酩酊の結果発生したもの といわざるを得ず、結局本件転落事故とその職務との間に職務起因性を認めること はできない。以上の次第で本件不支給処分には違法な廉はないというべきである。        理   由 一 Aの本件転落事故当夜における職務、Aが夜食をとるために下船した後におけ る同人の行動、本件転落事故の態様、右事故発生当時における本件タラツプや天候 の状態等並びにAが夜食をとるために離船上陸し町の食堂で夜食をとり、帰船する 行為はすべてAの夜間当直業務に付随する行為であるとの点については、当裁判所 の判断も原判決のこの点に関する理由説示(原判決書第一〇枚表第二行目より同第 一六枚表第二行目の の食堂で夜食をとり、帰船する 行為はすべてAの夜間当直業務に付随する行為であるとの点については、当裁判所 の判断も原判決のこの点に関する理由説示(原判決書第一〇枚表第二行目より同第 一六枚表第二行目の「当直業務に付随する行為である。」とある部分までの記載部 分)と同一であるから、ここにこれを引用する。 二 ところで、前記認定のごとくAは、当日午後六時ごろから午後七時ごろまでの 間に夜食をとるために離船上陸し、午後一一時ごろ帰船するに際し本件転落事故に 遭つたものであるから、その離船時間は四時間ないし五時間に及ぶものである。そ して通常夜食をとるため離船上陸する場合には、第一二天社丸の入渠していた第六 号船渠から食堂までは僅々五分ぐらいで行ける関係上、一時間前後で帰船するのが 通例であつたから、Aの夜食のための当該離船時間は一般のそれに比して著しく長 きに失し、この間Aが前記のごとく飲酒等をしていた事実に徴すれば、Aの右時間 中における行動には本来の夜間当直業務に付随する行為(夜食をとる行為)から逸 脱し、これを中断したものがあつたとみるほかはない。しかしながら、Aはその後 帰船の途につき、本件タラツプを昇つたものであるから、少なくとも本件タラツプ を昇り始めた時点においてはAは右の夜間当直業務に付随する行為に復帰したもの とみるを相当とする。 三 しかして本件タラツプは前記認定のごとく入渠中の第一二天社丸に出入するた めの唯一の通路として附属せしめられた施設である以上、右船舶とともにこれと一 体をなした職場の一部として使用者の管理下にあるものとみられ、Aはかような使 用者の施設管理下において前記夜間当直業務ないしこれに付随する行為をなしてい たとき本件タラツプから転落したのであるから、右転落事故によるAの死亡は、反 証のない限り右職務に起因して生じたもの、すなわち船員保険法 管理下において前記夜間当直業務ないしこれに付随する行為をなしてい たとき本件タラツプから転落したのであるから、右転落事故によるAの死亡は、反 証のない限り右職務に起因して生じたもの、すなわち船員保険法四二条ノ三第一項 にいう「職務上の事由」に因つて生じたものと推定すべきである。そしてAは前記 のごとく夜食のための離船時間中に飲酒したことを窺い得るが、これが本件転落事 故の起因となつたと認めるに足りる証拠のないことは前記のとおりであり、他に右 推定を揺がすに足りる反証はない。 四 以上の次第であるから、被控訴人のなした本件不支給処分は違法であつて取消 しを免れないところである。よつて本訴請求は正当としてこれを認容すべく、当裁 判所の右判断と結論を異にする原判決は不当であり本件控訴は理由があるから、民 事訴訟法三八六条に則り原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八 九条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判官 久利馨 井口源一郎 舘忠彦)

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