平成14年12月16日宣告奈良地方裁判所平成14年(わ)第403号,第424号,第295号,第313号,第329号判決被告人に対する有印公文書偽造,同行使,公務員職権濫用,建造物侵入,窃盗,有印私文書偽造,同行使被告事件について,当裁判所は,検察官本多重夫,弁護人鈴木聡(私選・主任)出席の上審理し,次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。 押収してある送付依頼書7通(平成14年押第59号の1,3,6,9,11,13,16)の各偽造部分を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 A地方検察庁検察事務官として,平成9年6月13日から平成13年3月31日までの間,同検察庁検務第2課採証犯歴係(平成10年4月9日,犯歴採証係に名称変更)に配属され,犯歴の調査に関する事項等について事務を行っていたものであるが,同検察庁では,上記事務処理に必要な場合,戸籍法10条1項,12条の2第1項の規定等に基づき,市区町村長に対し判決確定者の戸籍謄本等の交付を請求してそれらを入手しており,一方,その請求に当たっては,被告人ら採証犯歴係所属の検察事務官が上司の決裁を得ることなく同検察庁次席検事名義で戸籍謄本等の送付依頼書を作成,送付する実務慣行があったところ,自己の個人的な用途に充てる目的であるのにその事情を秘し,上記事務処理上の必要があるように装って他人の戸籍謄本等を入手しようと企て,別紙一覧表(1)記載のとおり,平成10年6月23日ころから平 ろ,自己の個人的な用途に充てる目的であるのにその事情を秘し,上記事務処理上の必要があるように装って他人の戸籍謄本等を入手しようと企て,別紙一覧表(1)記載のとおり,平成10年6月23日ころから平成11年11月26日ころまでの間,前後7回にわたり,いずれも,a市b町c番地のd所在のA地方法務合同庁舎内A地方検察庁の当時の検務第2課事務室等において,行使の目的をもって,ほしいままに,戸籍謄本等送付依頼書用紙の本籍欄,氏名欄,生年月日欄等に,ボールペンで,あらかじめ知っていたBほか6名の本籍,氏名,生年月日等を記入するとともに,同用紙に不動文字として印刷された「戸籍」,「戸籍附票」,「除籍」等の文字を削除あるいは丸で囲むなどして,送付を依頼する謄本の内容を特定した上,いずれも,同用紙に不動文字として印刷された「A地方検察庁検察官検事」の記載の右側に「C」と刻した記名印を,その名下に「A地方検察庁検事印」と刻した角印を各冒捺するなどして,A地方検察庁検察官検事C作成名義の公文書である戸籍謄本等送付依頼書合計7通(平成14年押第59号の1,3,6,9,11,13,16)を順次偽造し,いずれも,その都度,情を知らないA地方検察庁総務課庶務係員をして,偽造にかかる上記各依頼書を岡山県玉野市ef丁目g番h号所在の玉野市役所ほか4市区役所及び1町役場に宛て郵送させ,平成10年6月25日ころから平成11年11月30日ころまでの間に,上記玉野市役所ほか4市区役所及び1町役場において,各市区町長から委任を受け戸籍謄本等の交付手続等を担当していた玉野市市民生活部市民課記録調査係Dほか5名に対し,上記偽造にかかる戸籍謄本等送付依頼書を真正に成立したもののように装って閲覧させて行使するとともに,いずれも,そのころ,上記Dほか5名をして,上記戸籍謄本等送付依頼書に 課記録調査係Dほか5名に対し,上記偽造にかかる戸籍謄本等送付依頼書を真正に成立したもののように装って閲覧させて行使するとともに,いずれも,そのころ,上記Dほか5名をして,上記戸籍謄本等送付依頼書による送付依頼がA地方検察庁における公務の処理に必要な送付依頼であると信用させて,その回答として,Bほか6名に対する改製原戸籍謄本等合計11通をA地方検察庁に郵送させて入手し,もって,職権を濫用して人に義務のないことを行わせ,第2 別紙一覧表(2)記載のとおり,平成14年5月31日ころから同年7月12日ころまでの間,前後6回にわたり,いずれも,a市ij丁目k番地のl所在のEが看守する株式会社F宅地造成工事事務所内に,同出入口横の窓を鉄パイプで叩き割ってクレセント錠を解錠して同所から侵入し,同事務所において,同人が管理するデジタルカメラ1台等22点(時価合計約24万9000円相当)を順次窃取し,第3 G名義の住民票の交付を受けようと企て,同年6月12日午後2時3分ころ,a市mn丁目o番p号所在のa市役所西部出張所において,行使の目的をもって,ほしいままに,同出張所備え付けの住民票(写)等交付申請書の申請の日欄に「14 6 12」,住所欄に「qr丁目sのt」,世帯主氏名欄に「G」,生年月日欄に「S38810」,提出先欄に「A地方法務局」,とりに来た人欄に「G」などと冒書し,もって,事実証明に関するG作成名義の住民票(写)等交付申請書1通を偽造し,即時同所において,同出張所係員Hに対し,上記偽造にかかる住民票(写)等交付申請書を真正に成立したもののように装って提出して行使したものである。 (窃盗罪の成立を一部認めなかった理由)平成14年8月30日付け起訴状記載の公訴事実第4は,「被告人は,平成14年7月12日午前2時30分ころ,Eが看守する前記 って提出して行使したものである。 (窃盗罪の成立を一部認めなかった理由)平成14年8月30日付け起訴状記載の公訴事実第4は,「被告人は,平成14年7月12日午前2時30分ころ,Eが看守する前記株式会社F宅地造成工事事務所出入口横の窓のクレセント錠を解錠して同所から同事務所に侵入し,同所において,同人が管理する日本酒2本等約8点(時価合計約3000円相当)を,同宅地工事現場倉庫において,ビデオテープ1本(時価約250円相当)を窃取した。」というものであるが,当裁判所は,同事実のうち,ビデオテープ1本を窃取したとの点については窃盗罪の成立を認めなかったので,以下,その理由を説明する。 まず,本件の事実関係をみると,(証拠略)等の関係証拠によれば,被告人は,平成14年7月12日午前2時30分ころ,前記株式会社F宅地造成工事事務所内に侵入し,自分が飲むため,あるいは,何かに利用しようと思って日本酒2本とCDロム6枚位を盗み出し,同事務所を出たものの,同工事現場正面出入口に防犯カメラ設置のシールが貼り付けられていたので,防犯カメラがあるかどうか気になり,その有無を確認するため,同事務所に隣接する倉庫内を探すことにしたこと,そして,倉庫内に入ってしばらく探すうち,冷蔵庫上の段ボール箱の中からテレビやビデオデッキ等を発見し,そのテレビ画面を見ると防犯カメラの映像が映っていたこと,そのため,被告人は,こんなまねしやがってと立腹するとともに,自分も映っているに違いないと思い,取り敢えず証拠を隠そうと考え,自分が実際に映っているかを確認したいという気持ちもあって,ビデオデッキ内からビデオテープ1本を取り出した後,腹立ち紛れにビデオデッキを窓の外に放り投げ,そのビデオテープを自宅に持ち帰ったこと,後日,自宅で上記ビデオテープを再生して自分の姿が映って って,ビデオデッキ内からビデオテープ1本を取り出した後,腹立ち紛れにビデオデッキを窓の外に放り投げ,そのビデオテープを自宅に持ち帰ったこと,後日,自宅で上記ビデオテープを再生して自分の姿が映っていることを確認し,その後,重ね録りができたので,録画用のビデオテープとして使おうと思い,自宅応接間のテレビ台の下に保管していたこと,以上の事実がそれぞれ認められる。 ところで,窃盗罪が成立するためには,他人の占有を奪取する時点において,行為者に不法領得の意思が存在することが必要であり,不法領得の意思とは,権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思と解すべきである(最判昭和26年7月13日刑集5巻8号1437頁参照)。 これを本件についてみるに,被告人が上記ビデオテープを持ち出したのは,それを経済的用法に従って利用あるいは処分するためではなく,証拠を隠滅する目的であったのであるから,被告人には不法領得の意思の存在は認められない。なお,犯行当時,被告人は,犯行状況が映っているのかを確認するためビデオテープを再生する意思をも有していたものの,これをもって,不法領得の意思と解することはできない。また,被告人は,帰宅後,後日重ね録りに利用しようと思い立ちビデオテープを保管するに至っており,ビデオテープの占有を取得した以後にその経済的用法に従って利用する意思が生じたと認められるが,そもそも不法領得の意思は,占有奪取の時点において必要とされるものであるから,上記の事情は窃盗罪の成否に何ら影響を与えるものではない。 以上によれば,被告人がビデオテープを持ち出した行為は不法領得の意思を欠くので窃盗罪を構成しないと解するのが相当である。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為のうち,各有印公文書偽造の点はいず 以上によれば,被告人がビデオテープを持ち出した行為は不法領得の意思を欠くので窃盗罪を構成しないと解するのが相当である。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為のうち,各有印公文書偽造の点はいずれも刑法155条1項,その各行使の点はいずれも同法158条1項,155条1項に,各公務員職権濫用の点はいずれも同法193条に,判示第2の所為のうち,各建造物侵入の点はいずれも同法130条前段に,各窃盗の点はいずれも同法235条に,判示第3の所為のうち,有印私文書偽造の点は同法159条1項前段に,その行使の点は同法161条1項,159条1項前段にそれぞれ該当するが,判示第1の各有印公文書偽造とその各行使と各公務員職権濫用との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として刑及び犯情の最も重い各偽造有印公文書行使罪の刑で,判示第2の各建造物侵入と各窃盗との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い各窃盗罪の刑で,判示第3の有印私文書偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として犯情の重い偽造有印私文書行使罪の刑でそれぞれ処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の別紙一覧表(1)番号3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予し,押収してある送付依頼書7通(平成14年押第59号の1,3,6,9,11,13,16)の各偽造部分は,判示第1の各偽造有印公文書行使の犯罪行為を組成した物で, 定の日から5年間その刑の執行を猶予し,押収してある送付依頼書7通(平成14年押第59号の1,3,6,9,11,13,16)の各偽造部分は,判示第1の各偽造有印公文書行使の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないものであるから,いずれも同法19条1項1号,2項本文を適用してこれらを没収することとする。 なお,本件公訴事実中,被告人が平成14年7月12日午前2時30分ころ,a市ij丁目k番地のl所在の株式会社F宅地造成工事現場倉庫においてビデオテープ1本を窃取したとの点については,犯罪の証明がないが,この点は,判示罪となるべき事実第2の別紙一覧表(2)番号6の窃盗罪と包括一罪の関係にあるとして起訴されたものと認められるから,主文において特に無罪の言渡しをしない。 (量刑の理由)本件は,検察事務官の職にあった当時,自己の個人的な用途に充てるため,検察官名義で他人の戸籍謄本等の送付依頼書を作成し行使して戸籍謄本等を交付させたという有印公文書偽造,同行使及び公務員職権濫用各7件,被告人方に近接する宅地造成工事現場内の事務所内に侵入し,物品を窃取したという建造物侵入及び窃盗各6件,そして,他人の住民票を入手する目的で,同人になりすまして住民票(写)等交付申請書を作成し提出したという有印私文書偽造及び同行使各1件からなる事案である。 まず,有印公文書偽造,同行使及び公務員職権濫用の事案についてみると,近隣住民とのトラブルや購入不動産に関する交渉を自己に有利に進めるべく他人の弱みを探し出す目的で,あるいは,興味本位な気持ちから,他人の戸籍等謄本を入手したものであり,動機は誠に自己中心的で,公務員としての自覚に全く欠けている。 当時所属していた検察庁内部における実務慣行を悪用し,庁舎内で勝手に送付依頼書に記入した上,総務課長が保管していた検察 手したものであり,動機は誠に自己中心的で,公務員としての自覚に全く欠けている。 当時所属していた検察庁内部における実務慣行を悪用し,庁舎内で勝手に送付依頼書に記入した上,総務課長が保管していた検察官の職印を同課長に声をかけ,あるいは黙ったまま使用するなどして送付依頼書を偽造,行使しており,大胆な犯行で犯情悪質である。その結果,送付依頼書の送付を受けた戸籍事務担当者らに検察庁における職務上の必要に基づく依頼であると誤信させて合計11通もの戸籍謄本等を交付させており,本件犯行によって,公文書に対する社会の信用を害したことはもとより,守られるべき一般市民のプライバシーを侵害したほか,国民の検察に対する信頼を大きく失墜させてもいるのであって,被告人の犯行は強い非難に値する。 次に,建造物侵入及び窃盗の事案については,上記工事現場や工事用車両がやかましく,同工事担当者から挨拶ひとつ無いなどとして腹を立て,工事の進ちょく状況を確認するために同工事現場へ侵入したところ,事務所等を設置し機械類を備え付けているのを見て一層立腹し,工事を妨害するとともに,物品を盗み出し,自ら使用したり換金したりしようなどと思い立ち,工事事務所への侵入や同所での窃盗を繰り返すうち,次第に捕まえられるものなら捕まえてみろという一種のゲーム感覚も加わって,犯行を重ねていったもので,動機は身勝手といわざるを得ず,酌量の余地は乏しい。また,犯行態様をみても,予め懐中電灯やタオル等を準備し,タオルで覆面をして現場に赴き,窓格子を引き抜き,出入口ガラス窓を鉄パイプで叩き割るなどして繰り返し侵入し,その都度,事務に必要な電話機やカメラ等の物品を盗み出し,その間,被害会社が被告人の犯行を防止するため,現場に投光器を設置したり,警察官が巡回するようになったりしても,それらを全く意に介さず 侵入し,その都度,事務に必要な電話機やカメラ等の物品を盗み出し,その間,被害会社が被告人の犯行を防止するため,現場に投光器を設置したり,警察官が巡回するようになったりしても,それらを全く意に介さず犯行に及んでいるもので,大胆かつ手荒でこれまた犯情悪質といわねばならない。被害物品は合計22点,時価合計24万円余りに及び決して少額とはいえない上,被害会社や本件現場で働く従業員らは,本件犯行の後始末に時間を割かれ,投光器や防犯ビデオの設置,警備会社への依頼などの対応に追われたほか,繰り返し被害を受けたことなどにより,相当の精神的苦痛を被ったと推察され,生じた結果も軽視できない。 さらに,有印私文書偽造及び同行使の事案は,上記盗品の一部をリサイクルショップに売却しようとした際,その売却には身分確認の書類が必要であったことから他人の住民票を用いようと思い立ち,以前に不正に入手して保管していた近隣住民の戸籍謄本を利用して,その筆頭者の二男の住民票を手に入れようと考え,仮に警察に発覚した場合同人が嫌疑を受けて困ればおもしろいなどという気持ちもあって,自ら市役所の出張所に赴き同人になりすまして本件犯行に及んだものであり,動機,経緯に酌量の余地は全くなく,態様も大胆で悪質である。しかも,入手した住民票を実際に利用して盗品を売却するなど,犯行後の情状も悪い。 このような事情に照らすと,被告人の刑事責任には重いものがあり,実刑に処することも考えられるところである。 しかしながら,他方,被告人は,事実を素直に認め,反省していること,判示第2の被害会社に対して金137万8000円を支払い被害回復に向けて努力しているとともに,法律扶助協会に対して金10万円を贖罪寄付していること,幸いにも,入手した戸籍謄本等はそのまま被告人方で保管され,それが悪用されたり公に 37万8000円を支払い被害回復に向けて努力しているとともに,法律扶助協会に対して金10万円を贖罪寄付していること,幸いにも,入手した戸籍謄本等はそのまま被告人方で保管され,それが悪用されたり公にされるなどの事態には至っていないこと,本件が新聞等により広く報道されるなど,相当の社会的制裁を受けていること,母親が公判廷において今後の監督を誓っていること,前科前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 以上の諸事情を総合考慮すると,被告人を直ちに実刑に処するのはいささか躊躇を覚えるところであって,社会内での贖罪の機会を与えるのが相当であると考え,主文の刑に処した上,その執行を猶予することとした。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役3年6月,送付依頼書7通の各偽造部分の没収)平成14年12月16日奈良地方裁判所刑事部裁判長裁判官東尾龍一裁判官品川しのぶ裁判官鵜飼万貴子
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