【DRY-RUN】○ 主文 当審新訴原告の新訴請求を棄却する。 訴訟費用は当審新訴原告の負担とする。 ○ 事実 一 当審新訴原告(旧訴控訴人。以下「原告」という。)代理人は、旧訴被控訴人 関東信越国税局長に対する差押処
○ 主文当審新訴原告の新訴請求を棄却する。 訴訟費用は当審新訴原告の負担とする。 ○ 事実一当審新訴原告(旧訴控訴人。以下「原告」という。)代理人は、旧訴被控訴人関東信越国税局長に対する差押処分取消請求を右処分に係る事務の帰属する国(当審新訴被告。以下「被告」という。)に対する損害賠償請求に変更して、「被告は、原告に対し、金一一四二万二〇一五円及び右金員に対する昭和五七年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告代理人は、「原告の新訴請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。 二原告代理人は、請求原因として次のように述べた。 1 (一)原告は、昭和四三年七月一二日原告所有の別紙物件目録一の(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)上に鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階七階建の建物(床面積は、一階一八一・五二平方メートル、二階ないし六階一七一・二八平方メートル、七階三四・五九平方メートル、地下一階一七一・二八平方メートル。以下この建物を「本件ビル」という。)を建築して所有権保存登記をした。 (二) その後昭和四九年四月一日本件土地及び本件ビルについて、原告から訴外久保建設株式会社(以下「久保建設」という。)に対して所有権移転登記が経由され、更に本件土地から別紙物件目録一の(二)記載の土地(以下「本件敷地」という。)が分筆され、本件ビルについては建物区分の登記が経由され、昭和五一年七月一三日には久保建設から訴外和光基礎工業株式会社(以下「和光基礎」という。)に対し、本件ビルのうち一階、二階及び地下一階部分について代物弁済を原因とする所有権移転登記並びに本件敷地の共有持分一一二〇分の五〇九について売買を原因とする持分一部移転登記が経由さ 礎」という。)に対し、本件ビルのうち一階、二階及び地下一階部分について代物弁済を原因とする所有権移転登記並びに本件敷地の共有持分一一二〇分の五〇九について売買を原因とする持分一部移転登記が経由された。 2 右1の(二)の各登記のうち、原告から久保建設に対する各所有権移転登記及び久保建設から和光基礎に対する各所有権(又は持分)移転登記はいずれも真実の所有権(持分)移転を伴わない仮装のものであつて無効であり、右建物部分の所有権及び本件敷地の持分権は原告に帰属するものであつた。すなわち、原告は、ビル等建築の基礎工事の施工及び請負を主たる業務とする会社であるところ、昭和四九年三月二五日ころ不渡手形を出して支払を停止した。 そこで原告は、一部の債権者からの追及を免れるため、その主要な財産である本件ビル及び本件土地について久保建設に対して所有権移転の意思がないのに、便宜的に所有権移転登記をしたのである。そして、原告は、右の各所有権移転登記後債権者集会を開催し、建物区分の登記がなされた本件ビルの各建物部分を本件敷地の持分とともに順次売却し、売却代金をもつて債務の弁済をしてきた。ところが、昭和五一年七月ころ久保建設の経営状態が悪化したため(同年九月一六日ころ支払停止)、同年七月一三日同社の所有名義のまま残つていた本件ビルのうち一階、二階及び地下一階の各建物部分の所有権及び本件敷地の持分一一二〇分の五〇九について、前同様に便宜的に和光基礎に対して移転登記をしたのである。 3 (一)被告の公務員である関東信越国税局長は、昭和五三年二月二七日和光基礎に係る滞納国税(延滞税等を含む。以下同じ。)を徴収するため、本件ビルのうち別紙物件目録二の(一)及び(二)の各建物(以下「本件建物」と総称し、個別的には「本件(一)の建物」、「本件(二)の建物」という。)に対し、 延滞税等を含む。以下同じ。)を徴収するため、本件ビルのうち別紙物件目録二の(一)及び(二)の各建物(以下「本件建物」と総称し、個別的には「本件(一)の建物」、「本件(二)の建物」という。)に対し、国税徴収法に基づく差押え(以下「本件処分」という。)をした。 原告は、昭和五三年四月二五日同国税局長に対し本件処分について異議申立てをしたが、右申立ては同年八月三一日棄却された。原告は、同年九月三〇日国税不服審判所長に対し右棄却決定について審査請求をしたが、右請求は昭和五四年七月三一日棄却された。 そこで、原告は、本件処分の取消を求めて出訴したが、右訴訟係属中の昭和五七年一月八日に訴外岡建不動産株式会社(以下「岡建不動産」という。)が滞納国税一一四二万二〇一五円を納付(第三者納付)したため、同国税局長は、同日本件建物に対する差押えを解除した。 (二) 和光基礎の滞納国税が岡建不動産によつて第三者納付された事情は次のとおりである。すなわち、原告は、昭和五七年一月八日本件(一)の建物及び本件敷地の持分一一二〇分の一六〇を代金合計三〇〇〇万円で岡建不動産、訴外A及び同Bの三名に、本件(二)の建物及び本件敷地の持分一一二〇分の三四九を他の宅地二筆及び建物一棟とともに代金合計四八三四万円で岡建不動産にそれぞれ売り渡した。その際、本件建物及び本件敷地の持分についての登記簿上の処理としては、和光基礎の経由している前記の所有権(又は持分)移転登記を錯誤を理由として抹消した上、便宜的に久保建設から右各買主に対する所有権(又は持分)移転登記をすることとなつたが、本件建物には本件処分の登記がなされているため、右売買契約成立と同時に原告と岡建不動産との間で、同社が和光基礎の滞納国税を納付(第三者納付)して本件建物に対する差押えの解除を受けるものとし、右第三者納付した は本件処分の登記がなされているため、右売買契約成立と同時に原告と岡建不動産との間で、同社が和光基礎の滞納国税を納付(第三者納付)して本件建物に対する差押えの解除を受けるものとし、右第三者納付した金員は売買代金から差し引いて決済するとの合意が成立した。しかして、岡建不動産は、昭和五七年一月八日右約定に従い、和光基礎の滞納国税一一四二万二〇一五円を被告に納付した。そのため、右同日差押えが解除されたので、本件建物及び本件敷地につき和光基礎の経由していた所有権(持分)移転登記は錯誤を理由として抹消され、久保建設から岡建不動産等の買主のため売買を原因とする所有権(持分)移転登記がなされた。 4 (本件処分の違法性)(一) 本件処分時において、本件建物につき和光基礎のため所有権移転登記が経由されていたが、その真実の所有者が原告であつたことは前記のとおりであるから、本件処分はこれを看過してなされた違法な処分である。 (二) 被告は、本件については、民法九四条二項の類推適用により、原告において本件建物の所有権が和光基礎に帰属してなかつたことを主張することができず、したがつて、本件処分に違法な点は存しない旨主張するが、右主張は、次に述べる理由により失当である。 (1) 民法九四条二項は、本来、私人間の意思表示についての規定であるから、本件のような登記に関する行為であつて、しかも私人と行政庁との間の法律関係についてこれを類推適用することはできない。 (2) 原告と和光基礎との間に通謀の事実はなく、同社は、本件建物につき所有権移転登記を受けることをあらかじめ知らず、後になつてその事実を知らされたにすぎないのである。また、同社が本件処分時には右事実を知つていたとしても、特に追認とみるべき行為は存しないのであるから、通謀虚偽表示に関する民法九四条二項の規定を類 後になつてその事実を知らされたにすぎないのである。また、同社が本件処分時には右事実を知つていたとしても、特に追認とみるべき行為は存しないのであるから、通謀虚偽表示に関する民法九四条二項の規定を類推適用することは許されない。 (3) 原告及び久保建設は、昭和五〇年六月江東西税務署長に対し、原告が久保建設に本件建物の所有権移転登記をした理由及び真の所有者が原告である旨を明記した申立書及び念書各一通を提出したところ、同署長は原告と久保建設との間で所有権移転の事実がなかつたことを了解した。同署長と関東信越国税局長はいずれも国税庁管下の組織であるから、同署長の悪意は同国税局長の悪意と同視すべきものであり、同国税局長が真実の権利者でない久保建設から和光基礎への所有権移転登記について善意の第三者として保護されるには、それが原告から和光基礎への真実の所有権移転行為に基づくものであると信ずべき特段の事由が必要である。 (4) 同国税局長は、和光基礎が本件建物につき所有権移転登記を受けた昭和五一年七月一三日の約二年前である同四九年七月ころに倒産し、不動産等の資産はなく、かつ、近い将来新たな不動産を取得することなど到底不可能であることを熟知していた上、昭和五一、二年ころ、本件建物の所有権移転登記について調査をした際に、右登記は和光基礎の全く関知しないものであり本件建物は同社の所有に属するものではないとの説明を受け、同社が本件建物の真実の所有者でないことを熟知していたものである。 (5) 仮に、同国税局長が和光基礎に対して所有権移転登記がされた事情を知らなかつたとしても、右所有権移転登記が同社の倒産の約二年後になされており、同社にはめぼしい資産がなく、国税の徴収も不可能であつたのに対し、本件建物は資産価値の大きな不動産であり、所有権移転登記後に二代前の所有者で も、右所有権移転登記が同社の倒産の約二年後になされており、同社にはめぼしい資産がなく、国税の徴収も不可能であつたのに対し、本件建物は資産価値の大きな不動産であり、所有権移転登記後に二代前の所有者である原告の代表者を債務者として極度額二二〇〇万円の根抵当権が設定されていること、本件ビルのうち本件建物以外の部分の登記関係も複雑であつたことなどからすれば、本件建物の所有関係について十分な調査をつくしたならばその所有関係の実態は明確に認識されたはずである。しかるに同国税局長はこれを怠つたものであるから、悪意と同一視すべきものである。 5 関東信越国税局長がした本件処分は、4において述べたように取り消されるべき違法な処分であり、原告は、昭和五七年一月八日その所有する本件建物を含む不動産を売却するに際し、右のように違法な本件処分が存在していたことにより、その取得すべき売買代金から前記滞納国税相当額の金一一四二万二〇一五円を差し引いた金員しか受領することができず、右同額の損害を被つたものであり、被告は法律上の原因なくして右同額の利得を得たものである。したがつて、被告は、原告に対し国家賠償法一条一項に基づく損害賠償又は不当利得の返還として、金一一四二万二〇一五円を支払う義務がある。 よつて、原告は、被告に対し右金一一四二万二〇一五円及びこれに対する原告が右損害を被り、かつ被告が利得を得た日の翌日である昭和五七年一月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 三被告代理人は、請求原因に対する答弁として次のように述べた。 1 請求原因1の(一)、(二)の事実は認める。 2 同2の事実のうち原告主張のような所有権(持分)移転登記がされていることは認めるが、その余は不知ないし争う。 3 同3の(一)の事実は認める。 同3の(二)の 因1の(一)、(二)の事実は認める。 2 同2の事実のうち原告主張のような所有権(持分)移転登記がされていることは認めるが、その余は不知ないし争う。 3 同3の(一)の事実は認める。 同3の(二)の事実のうち、本件(一)の建物につき、和光基礎への昭和五一年七月一三日付け所有権移転登記が錯誤を原因として抹消されたこと、本件(二)の建物につき和光基礎への昭和五一年七月一三日付け所有権移転登記が錯誤を原因として抹消された後、売買を原因とする岡建不動産への所有権移転登記がなされたこと及び岡建不動産が昭和五七年一月八日滞納国税金一一四二万二〇一五円を第三者納付したので、関東信越国税局長が差押えを解除したことは認めるが、その余は不知。 4 同4の(一)の主張は争う。 5 同4の(二)の(1)の主張は争う。 6 同4の(二)の(2)は争う。 7 同4の(二)の(3)のうち原告及び久保建設が江東西税務署長に対しその主張の申立書及び念書を提出したことは認めるが、その余は争う。原告が久保建設及び和光基礎に本件建物の所有権を移転する意思がなかつたとしても、原告の虚偽の外形作出行為は二個存在するところ、右申立書等は久保建設との虐偽表示に関するもので、その後右虚偽表示は撤回されているから、本件処分とは何ら関係がない。 また、本件において民法九四条二項の善意は関東信越国税局長について判断されるべきであり、本件処分と関係がなく同国税局長の管下にない江東西税務署長について判断されるべきものでない。 8 同4の(二)の(4)の事実は否認する。 9 同4の(二)の(5)の主張は争う。徴収職員は差押えに際し原告主張の調査義務を負担するものではないし、民法九四条二項は善意について無過失を要件としていない。 10 本件処分は、適法になされたものであつて、これが違法な行政処分であるとす 職員は差押えに際し原告主張の調査義務を負担するものではないし、民法九四条二項は善意について無過失を要件としていない。 10 本件処分は、適法になされたものであつて、これが違法な行政処分であるとする原告の主張は理由がない。 (一) 関東信越国税局長は、昭和五〇年二月七日、同局管内の浦和税務署長から国税通則法四三条三項の規定により和光基礎に対する滞納処分事案について徴収の引継を受けていたが、昭和五三年二月一四日、本件建物の競売開始決定に伴う東京地方裁判所の浦和税務署長あての和光基礎に対する債権の申出に関する催告書が同局長あてに回送されてきたことから、和光基礎が本件各建物を所有している事実及び本件各建物につき競売開始決定がなされていることを知つた。 (二) その結果、右催告書は右滞納処分事案に関する同局の担当職員であるCに配付され、Cは直ちに本件建物の登記簿を閲覧して、本件建物は和光基礎の所有名義に登記がなされていること及び和光基礎の所有を前提とする任意競売申立ての登記等がなされている事実を確認し、本件建物は和光基礎の所有に係るものと信じて、同月二七日直ちに差押調書を作成した上、差押登記嘱託書を所轄法務局出張所へ提出して差押手続を了したのである。 したがつて、本件建物を和光基礎の所有建物としてしたCの右差押手続は、すべて適法になされており、何ら違法なものではないので、損害発生の有無を論ずるまでもなく、原告の主張は、明らかに失当である。 (三) 仮に、原告から久保建設、久保建設から和光基礎への所有権移転登記が、原告の主張するような事情に基づくものであるとしても、原告は民法九四条二項の類推適用により和光基礎に本件建物の所有権が移転していないことを主張できないのであるから、本件差押えを違法とすることはできないものといわねばならない。 すなわち、原告と しても、原告は民法九四条二項の類推適用により和光基礎に本件建物の所有権が移転していないことを主張できないのであるから、本件差押えを違法とすることはできないものといわねばならない。 すなわち、原告と久保建設は、原告の資産の保全を図るため、本件建物につき、その所有権の移転をする意思がないにもかかわらず両者相通じてその所有権移転登記をしたが、久保建設の社運が傾いた昭和五一年七月ころ、当該登記をそのままにしておいては原告の資産を保全する目的が達せられなくなることをおそれ、久保建設の発意によつて右虚偽表示行為の解消について両者が合意した。そして、そのことにより再度名義変更の必要に迫られた原告はたまたま原告と和光基礎の双方の知人である訴外芝機産業株式会社代表取締役Dが保管していた和光基礎の代表取締役印を使つて本件建物につき和光基礎に所有権移転登記をしたものである。 したがつて、和光基礎に対する所有権移転登記は原告の意思に基づくものであり、原告は真実所有権を移転する意思がないのに和光基礎に対し所有権を移転したかの如き虚偽の外観を作出したものであるから、かかる場合、原告は、民法九四条二項の類進適用により善意の第三者に対し、本件建物の所有権が和光基礎に移転していないことを主張し得ないものというべきである。 しかるところ、関東信越国税局長の所部の職員であるCは、この間の事情をまつたく知らず、登記簿上の記載に基づき、和光基礎が本件建物を所有するものと信じて本件処分に及んだものであるから、同国税局長が善意の第三者に該当することは明らかである。したがつて、原告は、同国税局長に対し和光基礎に対する所有権移転がないことを主張できないのであるから、これを前提として本件処分が違法であるとすることもできないのである。 三 1 原告代理人は、甲第一ないし第一四号証、第一五号証 長に対し和光基礎に対する所有権移転がないことを主張できないのであるから、これを前提として本件処分が違法であるとすることもできないのである。 三 1 原告代理人は、甲第一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし六を提出し、原審証人E及び当審証人Fの各証言、原審及び当審における原告代表者尋問の各結果を援用し、乙第二号証の原本の存在及び成立並びに第七号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立(第一号証、第三号証及び第六号証については原本の存在及び成立)は認めると述べた。 2 被告代理人は、乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし一九、第五ないし第七号証(第一ないし第三号証、第六号証はいずれも写)を提出し、原審証人Cの証言を援用し、甲第一ないし第三号証、第五号証、第九ないし第一二号証、第一五号証の一ないし六の成立は認め、第八号証については「7/2日打合せ完了」との記載部分の成立は不知、その余の部分の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。 ○ 理由一関東信越国税局長が昭和五三年二月二七日和光基礎に係る滞納国税を徴収するため本件処分をしたことは、当事者間に争いがない。 二そこで先ず、本件処分は取り消されるべき違法な処分である旨の原告の主張について判断する。 1 原告は、本件処分時における本件建物の所有者は原告であつたと主張するところ、原告がかつて本件建物を所有していたこと並びに本件処分がなされた当時本件建物について原告から久保建設に対する代物弁済を原因とする所有権移転登記及び久保建設から和光基礎に対する売買を原因とする所有権移転登記が経由されていたことは当事者間に争いがなく、右の事実に原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、第三号証、成立に争いのない乙第四号証の一ないし一八、原審証人Eの証言により原本の存在及び成立の認められる乙第二 いたことは当事者間に争いがなく、右の事実に原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、第三号証、成立に争いのない乙第四号証の一ないし一八、原審証人Eの証言により原本の存在及び成立の認められる乙第二号証、原審及び当審における原告代表者尋問の各結果により成立の認められる甲第六、第七号証、並びに原審証人E、当審証人Fの各証言、原審及び当審における原告代表者尋問の各結果によると、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。 原告は昭和四九年三月二五日ころ支払を停止して倒産したが、同年四月一日ころ原告代表者Gは、従兄弟であり久保建設の代表者であるFとあい図つて、本件建物を含む本件ビルの所有権を久保建設に移転する意思がないのに、原告の債権者からの追及を免れるため、これを久保建設名義に移転することを企て、同日、同日付け代物弁済を原因とする久保建設名義への所有権移転登記手続を了した。しかしその後も原告が本件建物を含む本件ビルを管理し、登記済証も自ら保管していた。ところが、久保建設も同五一年七月頃業績が悪化し同会社の債権者が債権保全策に動き出したため、原告は今度は久保建設の債権者からの追及をも免れるため本件建物の登記名義を他に移転する必要にせまられた。Gは友人の芝機産業株式会社代表者Dと協議した結果、芝機産業が大口債権者の立場にあり、代表者印等を保管している和光基礎名義に本件建物の登記を移転することとし、原告は同年七月一三日、本件建物の所有権を和光基礎に移転する意思がないのに、同月七日付け売買を原因とする久保建設から和光基礎名義への所有権移転登記手続を了し、その後遅くとも昭和五二年中に和光基礎の代表者Eの事後承諾を得た。一方、久保建設の所有名義のままであつた本件ビルのうちの三階ないし六階の専有部分は同年三月から翌年にかけて原告が他に売却し 続を了し、その後遅くとも昭和五二年中に和光基礎の代表者Eの事後承諾を得た。一方、久保建設の所有名義のままであつた本件ビルのうちの三階ないし六階の専有部分は同年三月から翌年にかけて原告が他に売却し(所有権移転登記は、久保建設から各買主に対してなされた。)、売却代金をもつて債務の弁済等にあてた。 右認定の事実によると、原告は、本件建物の所有権を他に移転する意思がないのに、債権者の追及を免れるため、久保建設次いで和光基礎に対する所有権移転登記を経由したにすぎないものと認めるのが相当である。したがつて、右各登記は不実の登記であり、本件処分当時本件建物の所有者は原告であつて、和光基礎ではなかつたというべきである。 2 被告は、仮に和光基礎の登記が不実の登記であるとしても、原告の意思に基づきされている以上、民法九四条二項の類推適用により善意の第三者にあたる関東信越国税局長に対しては対抗しえないと主張する。この点に関し原告は、本件のような登記に関する行為であつて、しかも私人と行政庁との間の法律関係については、民法九四条二項の規定を類推適用することはできないし、また、原告と和光基礎との間に通謀の事実はなく、同社は本件建物につき所有権移転登記を受けることを知つていなかつたから、右の規定は類推適用されないという。しかし、不動産の所有者が他人にその所有権を移転する意思がないのに、自己の意思に基づき当該不動産につき他人の所有名義の登記を経由したときは、登記名義人の承諾の有無を問わず、所有者は、民法九四条二項の類推適用により、登記名義人に右不動産の所有権が移転していないことをもつて善意の第三者に対抗することができないと解すべきである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第二〇四号、同四五年七月二四日第二小法廷判決、民集二四巻七号一一一六頁)。のみならず本件においては、本 いことをもつて善意の第三者に対抗することができないと解すべきである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第二〇四号、同四五年七月二四日第二小法廷判決、民集二四巻七号一一一六頁)。のみならず本件においては、本件処分当時和光基礎が本件建物の登記につき事後的に承諾していたことは既に認定したとおりである。そして、右にいう第三者とは、不実の登記をした当事者又はその一般承継人以外の者であつて、右登記に係る目的につき法律上利害関係を有するに至つた者をいい、必ずしも私人のみに限定されるものではなく、登記名義人に対して確定した租税債権を有する国又は地方公共団体の租税徴収権能を有する行政庁が右登記に係る目的について国税徴収法又は同法の例による差押えをした場合の当該行政庁も、ここにいう第三者に当たると解するのが相当である。したがつて、原告の右主張は理由がない。 3 そこで、本件処分がされるに至つた経緯について判断するに、前記各所有権移転登記が原告の意思に基づいて経由されたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第四号証の一及び一八、成立に争いのない甲第五号証、乙第五号証、原審証人C、同E(一部)の各証言を総合すると、和光基礎はすでに昭和四九年ころ国税を滞納したまま倒産し、同社の滞納国税の徴収事務は当初浦和税務署長が、次いで同五〇年二月七日関東信越国税局長が徴収の引継ぎを受け担当したのであるが、同署長も同国税局長も和光基礎が倒産した事実を承知していたこと、しかし、同国税局長は、和光基礎が本件建物の所有権移転登記を受けたこと及びその事情をなんら知つておらず、同五三年一月一七日東京地方裁判所における本件建物の競売開始決定に伴い、同裁判所から同年二月三日付け催告書により和光基礎に対する債権に関する申出についての催告を受けたことにより、はじめて和光基礎名義に所有権移転登記のされて 裁判所における本件建物の競売開始決定に伴い、同裁判所から同年二月三日付け催告書により和光基礎に対する債権に関する申出についての催告を受けたことにより、はじめて和光基礎名義に所有権移転登記のされている本件建物の存在を知つたこと、同国税局長の所部の職員は直ちに本件建物の登記簿を閲覧して右所有権移転登記がされている事実及び和光基礎の所有を前提とする任意競売申立ての登記等がされている事実から本件建物は和光基礎の所有する建物と考え本件処分をしたこと、そして、本件処分前に同国税局長の所部の職員が和光基礎から本件建物の所有権の帰属につき説明を受けた事実はないことが認められる。 原審証人Eの証言中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、同国税局長は本件処分当時本件建物が所有権登記名義人である和光基礎の所有に属さないという事実を知らなかつたものと認めるのが相当である。 この点に関して原告は、原告及び久保建設は昭和五〇年六月江東西税務署長に対し本件建物の真の所有者が原告である旨を記載した申立書及び念書を提出したから、同署長及び同国税局長は悪意とみるべきであり、同国税局長を善意の第三者として保護するには本件建物が原告から和光基礎へ真実の所有権移転が行われたと信ずべき特段の事由を必要とする旨主張する。 原告及び久保建設が原告主張の申立書及び念書を江東西税務署長に提出したことは、当事者間に争いがない。そして「7/2日打合せ完了」との記載部分については当審証人Fの証言により真正に成立したものと認められ、その余の部分の成立については当事者間に争いのない甲第八号証及び当審証人Fの証言(一部)によると、久保建設の代表者Fは、昭和五〇年六月一一日ころ、江東西税務署の職員から、昭和四九年分の源泉所得及び支払調書等合計表には ついては当事者間に争いのない甲第八号証及び当審証人Fの証言(一部)によると、久保建設の代表者Fは、昭和五〇年六月一一日ころ、江東西税務署の職員から、昭和四九年分の源泉所得及び支払調書等合計表には本件建物の譲受けの対価の支払調書について該当の有無の表示がないので、その提出又はその件に関する連絡を求める旨の書面を受け取つたので、同年七月二日右税務署に赴き、右の職員に対し、本件建物については代金を支払つていないし、所有権も原告にある旨説明したことが認められる。しかし、右申立書(甲第六号証)及び(甲第七号証)の記載を検討すると、その記載内容から直ちに本件建物の所有者が原告であると認めるのは困難であるし、代金を支払つていない旨の説明も登記原因が代物弁済と表示されている登記簿上の記載からすれば首肯できないわけではなく、同税務署長が本件建物の所有者を原告であるとの認識を抱くに至つたものと認めるのは困難であつて、原審における原告代表者尋問の結果及び当審証人Fの証言中、同税務署の職員において、本件建物が原告の所有であることを了解した旨の供述部分は採用し難い。他に同税務署長が本件建物の所有者を原告であると認識していたことを裏付けるに足りる証拠はない。のみならず、仮に同署長が本件建物の所有者は原告であつて久保建設ではないことを知つていたとしても、その後に久保建設から所有権移転登記を受けた者が真実の所有者でないとは限らず、むしろ真実の所有者と認めるのを相当とするような情況にあつた(原審における原告代表者尋問の結果、前掲乙第四号証の三ないし一七によると、原告が他に売却した本件ビルのうち三階から六階までの各専有部分については、本件建物についての久保建設から和光基礎への所有権移転登記と時期を接して久保建設から各買主への所有権移転登記が経由されていることが認めら 却した本件ビルのうち三階から六階までの各専有部分については、本件建物についての久保建設から和光基礎への所有権移転登記と時期を接して久保建設から各買主への所有権移転登記が経由されていることが認められ、久保建設から右登記を受けた各買主が当該専有部分の真正な所有者であることはいうまでもないところであり、しかも、本件建物と右各専有部分とは一棟の建物の表示を同じくするものであつて、Cが本件建物の登記簿を閲覧した際に右各専有部分の登記簿を閲覧したことも推認するに難くない。)のであるから、和光基礎が本件建物の所有者でなかつたことを同国税局長が当然に知つていたといえないことも明らかである。また、同国税局長が善意の第三者に該当すればさらに原告が主張するような特段の事由を必要とするものではない。したがつて、原告の右主張は理由がない。 原告は、同国税局長は和光基礎が昭和四九年七月倒産したことを知つていたこと、同五一、二年頃の調査の際同国税局長の所部の職員は本件建物が同社の所有に属するものでない旨の説明を受けていたから、同社が本件建物の所有者でないことを知つていたと主張する。 しかし、和光基礎が昭和四九年七月倒産したことを同国税局長が知つているからといつて、同五一年七月にされた同社への本件建物の所有権移転登記が直ちに不実の登記ということはできないから、本件処分当時同国税局長が本件建物が同社の所有に属していなかつたことを知らなかつたとの前記認定と矛盾するものではない。また後者の主張事実が認められないことは前説示のとおりである。 次に原告は、同国税局長が和光基礎に対する所有権移転登記に関する事情を知らなかつたとしても、右登記が同社倒産の二年後にされていることなどの事情によれば、同国税局長は本件建物の所有関係について十分な調査をつくすべきであつたのにこれを怠つたも 有権移転登記に関する事情を知らなかつたとしても、右登記が同社倒産の二年後にされていることなどの事情によれば、同国税局長は本件建物の所有関係について十分な調査をつくすべきであつたのにこれを怠つたものであるから、悪意と同視すべきであると主張する。 しかし、前認定の本件の事実関係のもとにおいても、徴収職員は、滞納処分による差押えをするに際し、滞納者が当該不動産の登記名義を有するに至つた事情まで調査すべき義務を負担するとはいえない。また、民法九四条二項が類推適用される場合は、同項の善意について無過失を必要としない。けだし、虚偽の外観が全面的に真実の権利者の意思に基づき作り出されるのであるから、たとえ過失があつてもこの外観を信頼した第三者の利益を保護すべきであるからである。したがつて、原告の右主張も理由がない。 以上によれば、原告は、民法九四条二項の類推適用により和光基礎に本件建物の所有権が移転しなかつたことをもつて善意の第三者に当たる同国税局長に対抗することはできないというべきであり、本件処分が違法であるとの原告の主張は、採用することができない。 三当裁判所の右の認定及び判断の結果によると、本件処分が違法であることを前提とする本訴請求(国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求)は、その余の点について判断を加えるまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官近藤浩武川上正俊渡邉等)物件目録一、二、(省略)
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