令和7(う)1477 住居侵入幇助、強盗致傷幇助、強盗未遂幇助、窃盗、詐欺

裁判年月日・裁判所
令和7年12月19日 東京高等裁判所
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判決文本文5,606 文字)

令和7年12月19日宣告東京高等裁判所第11刑事部判決令和7年(う)第1477号住居侵入幇助、強盗致傷幇助、強盗未遂幇助、窃盗、詐欺被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中80日を原判決の刑に算入する。 理由 1 本件事案と控訴の趣意⑴ 本件は、被告人が、次の各犯罪行為をした事案である。 ① 多数の者と共謀の上、平成31年4月(原判示第1~第3)と令和元年11月(同第4~第8)、㋐警察官や金融庁職員等を名のって高齢者10名に電話をかけ、キャッシュカードが不正に使用されているなどのうそを言った上で、別の共犯者が金融庁職員や警察官等に成り済まして各高齢者宅を訪問し、うち9名からキャッシュカード及びキャッシュローンカード合計30枚をすり替えて窃取する(原判示第1-1、第2-1、第3-1、第4-1⑴、第5-1、第6-1、第7-1、第8-1⑴・2⑴)とともに、1名から現金約3870万円を詐取し(原判示第4-2)、㋑9名から窃取した㋐のキャッシュカードを使用して、現金自動預払機から現金合計約1543万円を引き出して窃取した(原判示第1-2、第2-2、第3-2、第4-1⑵、第5-2、第6-2、第7-2、第8-1⑵・2⑵)(以下「本件特殊詐欺事件」という。)。 ② 多数の者が共謀して、㋐令和4年10月、民家に侵入し、家人3名に暴行や脅迫を加えて、現金約3541万円、外国通貨、商品券及び金塊等在中の金庫2個(時価合計約864万円)を奪い、うち1名に加療約10日間を要する左下腿打撲傷等の傷害を負わせた強盗致傷、㋑同年11月、民家に侵入し、家人3名に脅迫や暴行を加えて、金品を奪おうとした強盗未遂、㋒同年12月、民家に侵入し、家人1名に暴行を加えて、現金約3200万円を奪い、同人に全治まで約 わせた強盗致傷、㋑同年11月、民家に侵入し、家人3名に脅迫や暴行を加えて、金品を奪おうとした強盗未遂、㋒同年12月、民家に侵入し、家人1名に暴行を加えて、現金約3200万円を奪い、同人に全治まで約14日 間を要する前額部挫創等の傷害を負わせた強盗致傷(㋐~㋒を以下「本件強盗事件」という。)について、それぞれ実行役を紹介するなどして犯行を容易にした(強盗致傷幇助2件(原判示第9-1・3)、強盗未遂幇助(同第9-2))。 ⑵ 本件控訴の趣意は、主任弁護人磯野清華及び弁護人瀨野泰崇共同作成の控訴趣意書(訂正後のもの)記載のとおりであり、論旨は、訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張(主任弁護人は、その旨釈明した。)である。 2 原判決の量刑判断の要旨原判決は、2件の強盗致傷幇助について、いずれも無期懲役刑を選択した上で、従犯に係る法律上の減軽及び併合罪の処理をし、被告人を懲役20年に処したものであるところ、その量刑の理由について、要旨以下のとおり説示している。 ⑴ 本件特殊詐欺事件は、フィリピンに拠点を置く犯罪組織による事件で、そのトップにある共犯者Aの下、実行役をリクルートした上、指示役の指示により、フィリピンの拠点でかけ子役が被害者ら宅に電話し、日本にいる受け子役が同宅に赴いてキャッシュカードを盗み出し、それを用いて引き出した現金を回収役に渡し、運搬役が現金をフィリピンに運んで、分け前を分配するという手口でなされた(1件は現金を直接詐取した。)。これらは、匿名化された多数の共犯者が、システム化された組織の中で細分化された役割を分担し、いわばビジネスとして行われたものであり、同種事件の中でも、拠点が日本の捜査機関の手が及びにくい海外にある点、高度なシステム化などの点において非常に悪質である。 被告人は、原判示第1から第3までの いわばビジネスとして行われたものであり、同種事件の中でも、拠点が日本の捜査機関の手が及びにくい海外にある点、高度なシステム化などの点において非常に悪質である。 被告人は、原判示第1から第3までの各犯行では、組織のリクルート部門のリーダーとして、受け子らを手配するとともに、被害金の分配について「箱」(当審注記:指示役やかけ子らの活動拠点)のオーナーと連絡を取り合うなどした。 その約7か月後の原判示第4から第8までの各犯行では、犯行の利得を現実化する上で重要な回収役のトップとして関与し、原判示第8の犯行に及んだ「箱」については、その立ち上げにも関わって、同「箱」による事件の被害の2%の分け前を得ていた。加えて、Aから現金を預かってフィリピンの拠点にいる共犯者に 分配したり、相当額の資金を託されて備品の購入等に関する清算をしたりするなど、組織の金を取り扱う役割も任され、それに見合う高額の分け前も得ていた。 このように、被告人が、Aの側近のような立場で、組織を円滑に運営し、その活動を継続、拡大するために重要な役割を果たしていたことを踏まえると、本件特殊詐欺事件における被告人の刑事責任は非常に重い。 ⑵ 本件強盗事件は、被告人がフィリピンの入国管理施設に収容された後、同じ施設にいた本件特殊詐欺事件の一部共犯者らが携帯電話機を用いて実行役に指示するなどして行った事件で、被告人はこれらを幇助したものである。被告人は、その供述によれば、Aらから強盗の実行役の調達を依頼されると、旧知の闇バイト業者を通じるなどして実行役を募り、応募してきた者に「たたき案件」であるなどと伝えた上で、その者らを実行役として複数回紹介したというのである。指示役の者が強盗事件を連続的に行うためには、実行役の継続的な確保が必要であり、被告人の果たした役割は、幇助犯の中では非常 あるなどと伝えた上で、その者らを実行役として複数回紹介したというのである。指示役の者が強盗事件を連続的に行うためには、実行役の継続的な確保が必要であり、被告人の果たした役割は、幇助犯の中では非常に重要である。そうすると、被告人が強盗に関する情報を事前に詳しくは知らされていなかったことや、犯行への積極性が高いとまではいえず、それらの被害金から直接的な分け前を得ていたとは認められないことを踏まえても、被告人の刑事責任は相当重い。 ⑶ このように、被告人は、日本の捜査機関の手が及びにくい海外で、自らの手を直接汚さず、常習的、職業的に本件特殊詐欺事件に関与し、共犯者らが逮捕され、入国管理施設に収容された後も、犯罪と縁を切ろうとせず、本件強盗事件に連続的に関与し、被害者だけでなく、多くの犯罪者をも生み続けたもので、強い非難に値する。本件は、主犯格が、海外にいながら、秘匿性の高い通信アプリを悪用するなどして、多くの若者らを引き込み、リスクの高い役割を担当させ、実行役らを使い捨てにしながら、我が国の市民の住居、財産、身体の安全を脅かすという新しいタイプの重大犯罪であり、同種の犯罪を抑止する観点からも、本件強盗事件については幇助犯にとどまる被告人も含めて、厳しい処罰が必要である。 他方、被告人は、上位者の関与を具体的に供述するなどして捜査に協力し、特 に詐欺組織の運営の実態解明に相当貢献した。本件特殊詐欺事件のような組織的で匿名性の高い犯行において、組織の実態を把握している上位者である被告人が捜査に協力し、今後も共犯者らの裁判において証言することを約束していることは、量刑上、被告人に有利に十分考慮されるべきである。 その他、被告人が、被害者だけでなく、自分が犯罪に引き込んだ実行役らに対しても謝罪の言葉を述べていることなど、酌むべき事情を踏まえ していることは、量刑上、被告人に有利に十分考慮されるべきである。 その他、被告人が、被害者だけでなく、自分が犯罪に引き込んだ実行役らに対しても謝罪の言葉を述べていることなど、酌むべき事情を踏まえても、併合罪全体の被告人の刑事責任の重さからすると、懲役15年では到底不十分である。 ⑷ 弁護人は、強盗致傷幇助の各罪は、刑種の選択において無期懲役刑を選択すべき事案ではなく、有期懲役刑を選択し、法律上の減刑等をして得られる懲役3年から15年までの幅で刑を決めるべきであると主張する。しかし、併合罪全体の被告人の刑事責任の重さを考慮して、懲役3年から15年までの幅では不十分であると判断される場合には、強盗致傷幇助の各罪について無期懲役刑を選択した上で、懲役7年から30年までの幅の中で刑を決めることも法律上許される。 3 訴訟手続の法令違反の主張について⑴ 論旨は、原判決は、①被告人が、「強盗事件にまでも連続的に関与し、(中略)多くの犯罪者を生み続けた」、「多くの若者らを特殊詐欺や強盗に引き込み」と説示し、②無期懲役刑を選択して懲役20年という重い量刑をしていることからすると、いわゆる「ルフィ事件」として社会を震撼させた被害者死亡事案を含む広域連続強盗事件のうち本件強盗事件以外の数件の事件や、Aを頂点とするグループによる一連の特殊詐欺事件のうち本件特殊詐欺事件以外の事件をも、被告人を実質上処罰する趣旨で量刑判断において考慮したものであるから、適正手続を定めた憲法31条及び刑訴法317条に違反する、というのである。 ⑵ しかし、原判決は、所論が指摘するような起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定してなどおらず、所論①引用の説示が原判示の各事実を前提とするものであることも、2の説示の内容から明らかである。所論②の点も原判決が起訴されて ような起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定してなどおらず、所論①引用の説示が原判示の各事実を前提とするものであることも、2の説示の内容から明らかである。所論②の点も原判決が起訴されていない余罪を実質上処罰しているとの疑いにつながるものではなく、 原判決が所論指摘の起訴されていない犯罪事実を実質上処罰する趣旨で量刑の資料として考慮しているとは、何らうかがわれない。 4 量刑不当の主張について⑴ 論旨は、被告人を懲役20年に処した原判決の量刑は重すぎて不当である、というのである。 ⑵ 原判決は、2で示したとおりの量刑判断をしているところ、その考慮した事情及び評価ともに、不合理なものではない。 ⑶ これに対し、所論は次の趣旨の主張をする。 併合罪関係にある個々の罪について刑種を選択する際は、個々の罪に対する評価に基づくことが原則である。強盗致傷のように無期懲役刑が選択刑として規定されている犯罪類型は、同種の犯罪が相当回数反復して行われる類型的傾向があることに鑑み選択刑として同刑が規定されていると解されることから、例外的に、特定の罪についての刑種の選択において他の犯罪事実を考慮することが許容されるものの、それは、犯罪類型が同一又は同種のものに限られなければならず、罪刑法定主義の観点からも、本件で強盗致傷幇助罪の刑種の選択をするに際し、本件特殊詐欺の犯罪事実を考慮することは、許されない。以上を前提として、本件強盗事件の各幇助についてみるに、3件を合わせても、被害者数、犯行態様、傷害の程度、被害金額の合計からして、無期懲役刑を選択しなければならないほどに犯情が悪質かつ重大な事案とはいえない。また、被告人について無期懲役刑を選択することは、本件強盗事件の一部の実行犯らの量刑と比べて明白に著しく不合理であるから、平等原則を定 しなければならないほどに犯情が悪質かつ重大な事案とはいえない。また、被告人について無期懲役刑を選択することは、本件強盗事件の一部の実行犯らの量刑と比べて明白に著しく不合理であるから、平等原則を定めた憲法14条にも違反する。以上から、本件の各強盗致傷幇助について無期懲役刑を選択した上で量定された原判決の量刑は重すぎて不当である。 ⑷ しかし、刑罰が罪を犯したことに対する罰として科されるものである以上、併合罪関係にある複数の罪の処罰について併科主義を採らず、そのうち1個の罪について無期の懲役に処するときは他の刑を科さず、有期の懲役に処するときは加 重した範囲内で単一の刑に処することとされている制度(本件各事件当時の刑法46条2項、47条)の下では、刑種の選択を含む量刑に際しては、当然に、併合罪関係にある各罪を総合して刑事責任の重さを評価し、それに見合う刑を量定すべきものである。所論のように個別評価が原則であるとか、考慮できる他の犯罪事実の類型が限定されると解すべき根拠はない。また、そのような評価の結果として被告人が本件強盗事件の一部の実行犯らより重く処罰されることが憲法14条に違反するものでもない。 その余の所論を踏まえても、被告人について、本件強盗事件の幇助のみならず、本件特殊詐欺事件の犯行態様、被害内容、被告人の役割等も併せ考慮し、懲役15年では不十分であるとして、各強盗致傷幇助罪につき無期懲役刑を選択した上で、法律上の減軽及び併合罪の処理を経て導かれた処断刑の範囲内で被告人を懲役20年に処した原判決の量刑判断は、その刑責に見合う範囲を逸脱するものでなく、重すぎて不当であるとはいえない。 5 結論論旨はいずれも理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の本 範囲を逸脱するものでなく、重すぎて不当であるとはいえない。 結論論旨はいずれも理由がない。よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の本刑算入につき刑法21条を適用して、主文のとおり判決する。 (検察官瓜生めぐみ出席)令和7年12月19日東京高等裁判所第11刑事部 裁判長裁判官辻川靖夫 裁判官結城剛行 裁判官蛭田円香

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