神戸地方裁判所平成14年11月20日判決平成13年わ第1219号詐欺被告事件 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中180日を刑に算入する。 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人は,Aと共謀の上,Y神宮の灯籠建立工事を受注する権利を確保するための預かり金名下に金員を騙取しようと企て,平成13年8月21日,大阪市a区bc丁目d番e号所在の株式会社Bにおいて,真実はY神宮の灯籠建立の具体的計画がなく,かつ,被告人に業者選定権限などないのにあたかもこれがあるように装い,株式会社Cの代表取締役であるDに対し,Y神宮の灯籠を建て替える工事があり,被告人が工事の主体であるF会の会長のEという人物から灯籠建立工事を請け負う業者を選定する権限を任されている旨,また灯籠は1基につき300万円で,200基を発注する旨,受注するにあたっては被告人に1000万円を支払うことが条件である旨それぞれ虚言を申し向けて,前記Dをその旨誤信させ,よって,同人から,別表記載のとおり,同月24日から同年10月5日までの間,合計6回にわたり,前記Dをして同表『交付方法』欄記載のとおり,大分市fg丁目h番i号所在のG銀行f支店の被告人名義の普通預金口座に合計400万円を振込入金させたほか,前記Dから,郵送などの方法で,同人振出(振出名義は株式会社C)にかかる額面金額100万円の約束手形6通の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。 (証拠)(括弧内の検で始まる番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)省略(補足説明)第1 争点等(被告人及び弁護人の主張の概要) 1 ま いて財物を交付させた。 (証拠)(括弧内の検で始まる番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)省略(補足説明)第1 争点等(被告人及び弁護人の主張の概要) 1 まず,被告人は,被告人は,判示事実のうちDに判示の日時場所において判示のような文言を述べ,1000万円を受け取る内容の合意(これを以下「本件契約」という。)をし,これに基づいて判示のとおりの金銭等(以下「本件金銭等」という。)の交付を受けたことは概ね争わないが,本件契約当時Dに対しEから判示工事〔判示のようなY神宮の参道に灯籠を建立する計画(以下「本件計画」という。)に基づく灯籠建立ないし設置工事(以下「本件工事」という。)〕の請負業者選任の権限を委ねられているとは言っておらず,判示Aから委任を受けたと言ったとする。 また,被告人及び弁護人は,本件金銭等は,Dの供述するようなF会(社団法人)の者へのリベートの趣旨での証拠金などではなく,被告人がCとF会ないしその支配下の組織との本件工事の請負契約締結等のため行動するための運動資金であるとか被告人への謝礼である等と主張している。 2 次に,被告人は,自分は当時F会には本件計画が具体化していると思っており,Aから正当に本件工事の請負業者選定権限の授与を受けていると思っていた等として,詐欺の犯意ないしAとの共謀を否定する。また,弁護人も,第1回公判期日では被告人と同様のことを述べたほか,弁論(証拠調べ終了後の意見)においては,本件当時判示のような灯籠建立計画が具体的に存在し,Aや被告人にはその業者選定権限があった等とする。 3 そうすると,本件では,①被告人がDに対し述べた文言ないし本件金銭等の趣旨が問題となるほか,②本件計画がどの程度具体化していたか及びその点について被告人の認識,さら 選定権限があった等とする。 3 そうすると,本件では,①被告人がDに対し述べた文言ないし本件金銭等の趣旨が問題となるほか,②本件計画がどの程度具体化していたか及びその点について被告人の認識,さらに③被告人に本件工事の請負業者選任権限があったか,すなわち被告人がEないしAから本件工事の請負業者選任権を授与されたという契約が実際には存在しなかったか存在したとしても無効なものか,さらに,これについての被告人の認識が問題となる。なお,②は③の前提になると考えられるので,②と③についてはおおむね同様の検討が必要となる。 そこで,当裁判所がこれらの検討の結果公訴事実同様の事実を認定した理由を簡略に示す(以下,検で始まる番号は当該事実認定の中心とした証拠を証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号で示したもの。ただし,検29,34,35,37ないし40については,刑事訴訟法328条により採用した部分は被告人供述の信用性についての検討の範囲でのみ用いた。)。なお,本件計画の具体化と被告人の権限(被告人への授権)については,被告人がそのいずれかについて故意に虚偽を述べたとすれば,詐欺が成立すると解されるが,当裁判所は,被告人はその双方について故意に虚偽を述べたと認めた。 第2 前提事実 1 F会は,三重県伊勢市に主たる事務所をおき,昭和61年に設立された,Y神宮の神宮林の区域内の私有地の買い上げ及びその管理等を目的とする社団法人である(証人Eの公判供述=第3回公判調書中の同証人の尋問調書速記録1ページ,検19。なお,以下,証人の公判供述等については「証人E1ページ」などと略称し,供述した公判期日が複数である証人A及び被告人については,「被告人第○回○ページ」等と公判期日の回数をも付記する。)。 F会の法人登記については,同年5月2 「証人E1ページ」などと略称し,供述した公判期日が複数である証人A及び被告人については,「被告人第○回○ページ」等と公判期日の回数をも付記する。)。 F会の法人登記については,同年5月25日付けでHがEらとともに理事となる旨の登記(以下「本件登記」という。)がなされている(検19)。 2 被告人は,判示の日時場所でDと会って本件契約をし,その後これに基づいて本件金銭等の交付を受けた。 3 本件については,以下の書面が作成され,存在している。 (1) F会及びA作成名義の平成13年9月8日付『工事発注確約書』という書面(検46の別紙1符号41の書面,以下「本件確約書①」という。)。 本件確約書①では,本件工事の発注日は同年10月16日とされており,『但し諸条件未達成の場合は無効とする。』との記載がある。また,本件確約書①には,所在地を東京都港区内とするF会の記名印(この記名印ないしこれらの印影ないしそれに対応する印鑑(印顆)を総称して以下「本件記名印」という。),F会の会印(正方形型),会長印(丸形)が押捺されている。 (2) F会及びA作成名義の,作成日付が平成13年8月で日の記載がなく,株式会社I宛の工事発注確約書(検45の別紙符号3の書面,以下「本件確約書②」という。)。 本件確約書②では,本件工事の発注日は同年11月20日とされており,発注時期の欄に,『行政等の諸事情に依り契約の変更が有る場合事前に通知し協議する』との記載がある。また,本件確約書②にも本件記名印等が押捺されている。 (3) I及びA作成名義で,株式会社J宛の本件確約書と同様の確約書(検45の別紙符号2の書面,以下「本件確約書③」という。)。 本件確約書③では,本件工事の発注日は同年11月20日とされており,『官庁等 I及びA作成名義で,株式会社J宛の本件確約書と同様の確約書(検45の別紙符号2の書面,以下「本件確約書③」という。)。 本件確約書③では,本件工事の発注日は同年11月20日とされており,『官庁等の諸事情に依り変更あり』との記載がある。 (4) F会及びA作成名義で本件記名印等が押捺してある,平成13年10月付けの,被告人がY神宮灯籠建立工事の業者選定権限をF会及びAから委任を受けたという内容の委任状(検45の別紙符号1の書面,以下「本件委任状」という。)。 (5) 被告人(Iの肩書付き)作成名義の平成13年10月15日付『覚書き』という書面(検45の別紙符号4の書面,以下「本件覚書」という。)。 4 Iの本店は平成13年5月1日高知市内から大分市内に移転している(移転登記日は同月21日。検20)。 第3 まず,関係者の供述を概観する。 1 被害者とされるDは以下のように供述している。 (1) Dは,知人から本件計画に基づき本件工事の発注権限を持つ者として被告人を紹介され,被告人と判示の日時場所で会い,判示のような説明や,本件工事がF会の発注であり,その会長のEは自分の会社の社長でもあるので,そこから権限を任されている旨,また本件金銭等はF会の中で本件工事の発注をする権限のある者に渡すことになる旨の説明を受けた。また,Dは,被告人から,本件金銭等については本件工事代金で回収が可能であるとの話も聞いた(証人D1ないし4ページ,51,52ページ,57ページ)。 しかし,Dは,判示日時場所で被告人と会った際,被告人から,F会の会長の座を巡って争いがあるとの話を聞いたことはなかった。もしそのようなことがあれば,本件工事のような契約をするか決めるのはトップであるから,前金である本件金銭等を出すようなことは 告人から,F会の会長の座を巡って争いがあるとの話を聞いたことはなかった。もしそのようなことがあれば,本件工事のような契約をするか決めるのはトップであるから,前金である本件金銭等を出すようなことはしない(同5,6ページ)。 (2) Dは,その後,被告人に対し,本件工事が確実に受注できることを証する書面の交付を求め,平成13年9月10日前後,本件確約書①を受け取った(証人D10,11ページ,なお,被告人もこれを認めている,検36,被告人第6回22ページ)。 本件確約書①の『但し諸条件未達成の場合は無効とする。』との記載につき,Dは,場合により本件金銭等が返らなくなるという話は聞いていない(証人D54ページ)。 (3) Dは,同年10月2日に被告人と会い,本件金銭等のうちC振出の手形の支払期日の関係で本件工事の発注日が同月末日以降となり,具体的には10月19日ころ決まるとの説明を受けた(証人D13,14ページ)。 (4) その後,Dは,同年10月3日にも被告人と会い,その際さらに本件確約書のようなものが欲しいと要求し,同月15日ころ,被告人から,本件覚書を受け取った(証人D17,18ページ)。 本件覚書では,本件工事の請負契約は同年11月25日までに行うということとなっていたが,Dがその根拠について被告人に尋ねたところ,被告人は,その日はとりあえず書いたもので,実際には同月10日ころその契約ができるだろうと述べた。Dは被告人の言うことが次々と変わるとして不審を抱き,関係機関に本件工事の具体性について問い合わせたところ,そのような計画はないと聞き,被告人に騙されたと思った(同18,19ページ)。 (5) Dは,本件委任状,本件確約書②,同③は見たことがない(証人D33,34ページ)。 い合わせたところ,そのような計画はないと聞き,被告人に騙されたと思った(同18,19ページ)。 (5) Dは,本件委任状,本件確約書②,同③は見たことがない(証人D33,34ページ)。 2 次に,本件契約当時F会の中心人物であったとされるEの供述は以下のようなものである。 (1) F会内では,平成11年ころから本件計画をたて,その準備資金を集めていた。Eは,遅くともそのころからF会の本件計画に関与し,本件計画を実行したいと考えていたが,同年ころ,当時F会の会長として,灯籠の図面を作成するなど本件計画を中心となって進めていたK(理事の1名。)が前記資金を横領して行方をくらますなどしたため,本件計画は中断した。そこで,Eは,F会の会長ないし理事の地位をKから奪う手続をする一方,その後の準備として,灯籠の材料となる石を捜し求めたり,自分でも灯籠の図面を作成したり,『L会』の名称をもって本件計画を遂行することはできないか等と考え,Aと共に伊勢市役所等に行くなどしていた。ただしこれはKの問題が解決した後のための準備ではあるが,あくまで個人的にしていたことである(証人E1ないし6ページ,32ないし34ページ,43ないし46ページ)。 (2) その後,平成13年5月,KのF会での理事の地位を奪う裁判手続がなされ,同年6月9日にはF会の理事会(以下「本件理事会」という。)が行われ,EやA(ら)がF会の理事となり,Eが会長の地位を得た(証人E10ページ,28ないし31ページ)。 (3) ところが,F会の法人登記についてHが違法に本件登記をしていたため本件理事会で選任された理事の登記ができず,EらF会関係者はHは理事ではない等として同人と争うこととなった(この争いを以下「本件紛争」という。証人E2ページ,30,31ページ 本件登記をしていたため本件理事会で選任された理事の登記ができず,EらF会関係者はHは理事ではない等として同人と争うこととなった(この争いを以下「本件紛争」という。証人E2ページ,30,31ページ,38ページ)。 結局,KからF会での地位を奪う手続と本件紛争のため,F会はKの前記横領の後本件計画をその段階以上進展させられないこととなり,EがF会の会長等として本件工事を外部に発注したりそのようなことに係わる事務を外部に頼んだことはない(同2ないし6ページ,32ページ)。 (4) F会では,他人との取引等を行う場合には,理事ないし理事会の総意のもとに会長が決定する旨定款等で定まっている(証人E31,32ページ)。 また,EはAや被告人に本件計画ないし本件工事のための委任状を渡したことはなく,本件委任状はEの知らないところで勝手に作られたものである(同9ないし11ページ)。 (5) 一方,Eは,平成13年,Aから,同人が大分県内で竹炭製造事業を行うこととなり,農業協同組合等との取引のため,Eが代表取締役となっている産業廃棄物処理会社Iの名義を貸してほしいと言われ,これを了承した。ただし,Aには,同社の名義は農業協同組合等との取引のため以外には使用しないこと,同社の名で契約をする場合はE自身が行うことを条件とし,その約束のもと同社の社印と代表取締役の印鑑をAに交付した(証人E6ないし8ページ,22ないし28ページ)。 また,Iの本店所在地は,AがEに求めたとおり大分県内に移転した(同7,8ページ,なお検20)。 そして,本件確約書③や本件覚書についてもEに無断で作成されたものである(同8,9ページ)。 3 Aは,被告人と共謀して本件詐欺を行ったことを認め,以下の(1)ないし( お検20)。 そして,本件確約書③や本件覚書についてもEに無断で作成されたものである(同8,9ページ)。 3 Aは,被告人と共謀して本件詐欺を行ったことを認め,以下の(1)ないし(5)のような供述をしている。 (1) Aは平成12年6,7月ころに被告人と初めて会った。被告人は竹炭の製造をしているとのことであった(証人A第4回3ページ)。 一方,Aは,平成12年ころ,かねてからの知り合いであったEに協力して,Eが述べるような形で本件計画に関与していた(同第4回4,5ページ,第5回1,2ページ,51ページ)。 Aは,平成13年1月ころ,被告人が竹炭事業がうまくいっていないことを理由に金銭に窮しているとの相談を受け,竹炭炉の建設費用を(一部)出したり,20万円程度の単位で被告人に金を貸したことがあった(同第4回2,3ページ,14,15ページ,第5回3ページ)。 (2) その後,A自身も金銭に窮していたところ,平成13年4月ころ,大分県内の喫茶店で被告人と会った際,被告人からお金がいるんじゃないですかと問われてこれを肯定したところ,本件計画を悪用して本件工事の請負を希望する業者から金銭を詐取することを持ちかけられた(証人A第4回12ページ,第5回3ページ)。 被告人は,Aに前記金銭詐取を持ちかけた際には,本件工事について協力金を出す業者がいる,業者に対して話をするのに,委任状が必要であると言ってきた。そこで,Aは,被告人に対しY神宮の灯籠建立工事の権限を委任するという内容の委任状を作成し,これに本件記名印を押捺して被告人に交付した。この委任状の記載内容は本件委任状と同様のものである(同第4回18ないし21ページ,第5回4ないし6ページ,35ページ。なお,委任状が複数であるこ 作成し,これに本件記名印を押捺して被告人に交付した。この委任状の記載内容は本件委任状と同様のものである(同第4回18ないし21ページ,第5回4ないし6ページ,35ページ。なお,委任状が複数であることについては被告人も認めている。被告人第6回15ページ,検30参照)。 本件記名印はAが勝手に作ったものであり,F会の所在地は虚偽のものである。Aは,このような印鑑を本件理事会のころにEからいずれ作ることを依頼されてはいたものの,具体的にF会の印鑑を作成するよう依頼を受けたことはなかった(証人A第4回22,23ページ,第5回36ページ。ただし,Aは捜査段階では本件記名印をEの依頼で作ったような供述をしていた模様である。同第5回12,13ページ)。本件確約書②も独断で,被告人に求められたり相談して作成したものである。同書面に記載した,本件工事において約1000基の灯籠を発注するという内容は被告人が提案した(同第4回24ないし27ページ,第5回10ページ)。 (3) しかし,そのころ,本件計画は,本件紛争のため具体的に本件工事を行うとかその業者を選定するような段階に至ってはいなかった。また,これらの委任状や本件確約書②等の書面を作成するとき,Aは,KをF会の会長等の地位から排除する手続中であり,F会や自分がそのような委任状等を作成することができないこと,また本件紛争の存在を知った後はこのためにやはり本件計画を実行に移すことができないことを知っていた。そして,Aは,同年4,5月ころ,被告人に対しても,F会ではKを会長等から排除する手続中であり,それが終了すれば本件計画が具体化できると述べたことがあったし,遅くとも平成13年8月20日までに,被告人に対し,Hが不実の本件登記をしたことが原因でF会とHとの間で裁判闘争となっているた であり,それが終了すれば本件計画が具体化できると述べたことがあったし,遅くとも平成13年8月20日までに,被告人に対し,Hが不実の本件登記をしたことが原因でF会とHとの間で裁判闘争となっているため本件計画が進行させられないことを話した(証人A第4回7ないし10ページ,第5回25ページ,42,43ページ)。 しかしながら,Aは,金銭欲しさに,内容虚偽のこれら書面を使って本件工事に関して第三者から金銭を騙し取ることを承知して被告人にこれらを渡すこととし,被告人の依頼により前記各書面を作成するとともに,被告人に対し,これら書面を交付する際に,これらは書いてはいけない文書である旨話し,これらの書面や本件記名印をEに無断で作成したことを被告人に告げていた(同第5回10,11ページ,43ページ,)。 Aは,被告人との会話で,工事業者から受け取る金額を1000万円とする話をした。しかし,この金が運動資金であるという話は全く出ていない(同第5回55ページ)。 被告人は本件理事会以降平成13年8月中頃(盆前)までにも何度もF会の状況をAに尋ねていた(同第4回10,11ページ,42,43ページ)。 (4) Aは被告人から本件金銭等のうち約束手形3通及び現金40万円を受領しているが,これについて個人名義でもF会名義でも領収証等を被告人に交付したことはなく,これを交付するよう被告人から要求されたこともなかった(証人A第5回47ページ)。 (5) なお,本件理事会では,本件計画につき,公益法人であるF会が本件工事の請負契約をすることはできないとの理由で,中間法人として協同組合を作ってこれと請負業者との間で本件工事の請負契約をすること,その協同組合の代表者にはAが就任することが決まった。そのことを被告人に話し 請負契約をすることはできないとの理由で,中間法人として協同組合を作ってこれと請負業者との間で本件工事の請負契約をすること,その協同組合の代表者にはAが就任することが決まった。そのことを被告人に話した可能性もある(証人A第5回26ページ。ただしそのような中間法人が新たに設立されたことはない。)また,Aは,被告人から,竹炭製造事業を行うためには会社組織がしっかりしていないといけないと言われ,Eに対し,同人が代表取締役となっているIの名義を貸してほしいと頼み,竹炭事業以外には使用しないことを条件に同社の名義を借りることになった(同第4回16,17ページ,第5回20ページ)。ただし,Aは,被告人にIの名義が竹炭事業以外の目的に使用してはいけないことになっていると話したことはない(同第5回46ページ)。 (6) また,Aは,捜査段階では,F会の事後承諾を期待していたので本件当時自分の行為は問題にならないと思っていた旨述べた模様である(証人A第5回37ないし41ページ)が,Aは,当公判廷では,現実にもF会の事後承諾が得られるとみて本件犯行に及んだ旨供述する(同49ないし53ページ)一方,事後承諾の点は捜査段階での言い訳である旨供述したり(同55ページ)している。 4 これに対し,被告人は,以下のような供述をしている。 (1) 被告人は,Dの供述については第1の1に記載した以外は特にこれを否定する供述をしていない。 また,被告人は,Aとの関係についての同人の供述(前記3(1))についてはおおむねこれと同様の供述をしている(検28等)。 (2) 被告人は,自分は平成13年3,4月ころ,Aから,本件計画が具体化して本件工事の発注ができることを聞かされ,本件委任状ないしこれと同内容の委任状等の交付も受け, ている(検28等)。 (2) 被告人は,自分は平成13年3,4月ころ,Aから,本件計画が具体化して本件工事の発注ができることを聞かされ,本件委任状ないしこれと同内容の委任状等の交付も受け,Aのこの話や委任状の記載を信じて,Aが本件工事を発注する具体的権限や本件工事の請負業者を選定する具体的権限を有しており,この選定権限を自分に委任したと思ったと供述する。また,被告人は,捜査段階において,平成13年5月ころEと高知市内で食事をした際,Eから,F会で本件工事を発注することが本決まりとなり,Aに協力するよう要請された旨供述し,公判廷でも,同年6月ころのこととして同様の供述をし,またその際には本件紛争のことは話題にならなかった旨供述する(検27,被告人第7回1,3ページ)。そして,被告人は,自分はこのような経過で本件契約に至ったものであり,詐欺の犯意も共謀もなかったと弁解する。 (3) ただし,被告人は,平成12年末や同13年3月ころ,Aから,本件計画がF会の内部問題で中断していることを聞いており,同年7月末ころには本件紛争の存在も聞いていると供述している(検37,39。なお被告人第7回5ページ)。 (4) また,被告人は,本件工事の具体的な内容は知らなかったので,関係者にはとりあえず1000万円で工事確約書を発行すると話した(検27)とか,Aから本件工事について具体的な話を聞いてはおらず,Dにも具体的な話をしなかった旨供述している(検33)。 (5) 被告人は,本件確約書①や本件委任状はAが作成したとする一方,本件覚書は自分が書いたと供述している。 5 ここで被告人の供述調書の任意性について検討しておく。 弁護人は,被告人の捜査段階における供述調書は,不利益な供述を含まないから刑事訴訟法322条1項 は自分が書いたと供述している。 5 ここで被告人の供述調書の任意性について検討しておく。 弁護人は,被告人の捜査段階における供述調書は,不利益な供述を含まないから刑事訴訟法322条1項の供述調書に該当せず,また弁護人の立ち会いのない密室で作成されたものであるからその取り調べには異議があると主張する。 しかし,同条同項にいわゆる不利益供述とは,犯罪の成立を認める狭義の自白だけではなく,これを含み,犯罪事実の全部または一部の認定の基礎となりうる間接事実の存在を認める供述もすべて含まれると解するべきである。また,弁護人の立ち会いのないところで作成されたという理由でその供述の任意性が否定されることがないこともまた明らかである。 その他,前記供述調書の任意性に疑いを抱くべき事実もなく,被告人はむしろ前記各供述調書の任意性を肯定する供述をしている(被告人第7回29ページ)。 したがって,弁護人の前記主張は採用できず,被告人の捜査段階での供述調書には任意性が認められる。 第4 これら供述の信用性について 1 まず,本件契約時の被告人の発言等についてのDの供述は,具体的で特に不自然なところもなく一貫しており反対尋問にも揺らぐことがなかった。また,Dは本件金銭の趣旨について被告人のいうような運動資金とか被告人への謝礼といった説明ではなかったと明確に供述している(証人D44ページ)ところ,Dは,被告人を逮捕した際のやりとりはともかく,本件契約時被告人から言われたことについては特段嘘を述べる動機がない立場にある。本件金銭等の趣旨についても,Dにとってみれば,前記請負契約をCが締結するために必要な金であると思って本件金銭等を被告人に交付したのであるから,これが運動資金であるか謝礼等であるかという点について虚偽を述べる 趣旨についても,Dにとってみれば,前記請負契約をCが締結するために必要な金であると思って本件金銭等を被告人に交付したのであるから,これが運動資金であるか謝礼等であるかという点について虚偽を述べる理由はない。そうすると,少なくともDの供述のうち本件契約の成立及びその前後の事実に関する供述につき信用性に疑いを抱くようなところはない。 さらに,被告人がDに交付した書類をみると,本件確約書①や本件委任状には,発注者や委任者の欄にまずEを会長とする本件記名印が押なつされており,Aの名はその下に個人名で記されているにすぎない。また,被告人は,本件覚書で,Eが社長(代表取締役)であるIの社員ないしその関係者であるような記載をしている。これらのことは,Dの供述中,被告人が本件工事の発注権限につきF会のEから委任を受けていると述べたとか会長のEは自分の会社の社長でもあるのでそこから権限を任されている旨述べたという点とよく符合する。 そして,被告人において本件工事の請負業者選定をするための行動経費が必要であるとすれば,これは被告人にこれを委任したというF会ないしA側から受領するのが合理的であり,D側から金銭等を受け取る以上,その中に被告人の運動資金の趣旨が含まれているとしても,基本的にはそれは被告人またはF会側の者に対する謝礼ないしリベートといったものとなるはずであって,Dの供述はこの面から見ても合理的である。また,Aも本件金銭等が被告人の運動資金であることを否定する趣旨の供述をしている(第3の3(3))。 これらの点からみると,本件契約時における被告人の発言等についてのDの供述には十分な信用性がある。 2 次に,本件計画の具体性,被告人の権限ないしこれらについての被告人の認識に関するAとEの供述は概ね符合しており,4で 契約時における被告人の発言等についてのDの供述には十分な信用性がある。 2 次に,本件計画の具体性,被告人の権限ないしこれらについての被告人の認識に関するAとEの供述は概ね符合しており,4で検討する点にあいまいな部分があるほか,重要な部分では一貫していて,具体的でもある。 3 これに対し,被告人の供述には,不自然,不合理な点が多い一方,被告人が本件計画に具体性がないことを知っていながらこれを秘して本件契約に及んだことを裏付けるものがある。 (1) まず,被告人の供述のうち本件契約に関する部分には不合理な点がたいへん多い。 アまず,被告人の説明は,本件金銭等の趣旨についてまことにあいまいである。 イ被告人が本件工事の請負業者の選定基準について述べるところもあいまいであり(被告人第6回31ページ以下),これまた不合理である。被告人がF会ないしその理事であるAから本件工事の請負業者選任を依頼されたことが真実であるとすれば,被告人は,委任を受けた以上,いいかげんな業者を選定したりして本件工事に手違いが発生すればF会やその下部組織的に設立される中間法人等の契約当事者に不測の損害等が発生し,また被告人の責任にもなる関係があるから,被告人としては,不適切な業者との契約を避ける等の必要上,業者の経営状態や業務内容を調査したりし,安心できる者とのみ請負契約を締結するはずである。また,被告人がF会についてほとんど知らないままその委任を受けるということも考え難い。かえって,関係証拠にも照らすと,被告人の業者選定方法は,Cに限らず,まさに,とりあえず簡単に金を出す者であれば誰でもいいというものであったことを裏付けるものといえる。 ウまた,被告人は,本件金銭等の額について,Aと二人で極めていいかげんな決 限らず,まさに,とりあえず簡単に金を出す者であれば誰でもいいというものであったことを裏付けるものといえる。 ウまた,被告人は,本件金銭等の額について,Aと二人で極めていいかげんな決め方をしたことを認める趣旨の供述をしている(検32)が,これまた不合理である。 さらに,被告人は,このうち被告人の取り分について,1000万円の5パーセントの50万円である(検32)とか,全額持っていってもいいとAから言われた(被告人第6回9ページ)とか,700万円と言われた(被告人第7回6ページ)などと,あいまいで不合理に変遷する供述をしている。 エ加えて,本件契約当時Dに対しEではなくAから本件工事の請負業者選任の権限を委ねられていると言ったとする点は,Dの供述の検討(1)でみたごとく,本件確約書①,本件契約書や本件覚書の記載と矛盾し,さらに,第3の4(4)でみた被告人の捜査段階での供述も,被告人の公判廷での弁解と矛盾するというべきである。 (2)ア一方,動機についてみても,被告人が金銭に窮し,竹炭事業に関連してAから借金をするなどしていたことは被告人自身が認めることでもあり(検28等),また,被告人は,本件金銭等の決め方についても,本件当時金銭に窮していたのでどうしてもすぐに使える現金1000万円と決めた等と供述している(検32)。そうすると,被告人が本件工事に関連して早く金銭を手に入れたかったことも疑いがない。 なお,この点と(1)ウの点に関連し,弁護人は,被告人が本件契約の利益を被告人が独占することを含めどのようにしてもよいことになっていたと弁解する点(被告人第7回19,20ページ)につき,Aは中間法人の代表者となり利得を得るメリットがあったのだから,本件契約自身で利益を得られ が独占することを含めどのようにしてもよいことになっていたと弁解する点(被告人第7回19,20ページ)につき,Aは中間法人の代表者となり利得を得るメリットがあったのだから,本件契約自身で利益を得られない可能性があったとしても不自然ではないとの指摘をしている(被告人第7回37ページにおける弁護人の質問)。しかし,被告人も同様であるが,Aにおいては,本件契約当時借金の返済に苦しんでいて,これが本件に関する被告人の行動動機となったというのであるから,将来利得を得られるかどうかは本件犯行を犯す動機がないことに直ちには結びつかない。また,本件計画が本件工事の請負工事発注という具体的段階に至ればAが中間法人から利益を得られるであろうことは肯定されるとしても,本件契約当時にF会の内部に本件紛争があったことはAや被告人も認めるとおりであり,通常そのような段階で大規模な対外的契約をすることは理事としてするはずのないことであるから,Aが,本件契約が本件紛争のため前記のような段階に移れないことを知りながら,あえて内容虚偽の書面を作成するには相応の理由があるはずと考えるべきところ,被告人に頼まれてこれらを作成したというAの供述は信用性を増すことになる。さらに,いずれにせよ,弁護人の前記指摘は,かえって被告人について本件犯行を遂行する動機がより強く存したことを肯定することになる。 さらに,本件金銭等の配分や費消先をみると,被告人とAとでは被告人の取得した分が多い上,被告人自身,自己の借金の返済に充てたり,Aに交付したりしているだけで,被告人の弁解した運動資金としての使用が交通費と飲食費程度にとどまることを自認している(被告人第6回36ページ,第7回14ないし17ページ,検39)。また被告人は本件金銭等の一部をAに交付する際何ら領収証等を交付して 資金としての使用が交通費と飲食費程度にとどまることを自認している(被告人第6回36ページ,第7回14ないし17ページ,検39)。また被告人は本件金銭等の一部をAに交付する際何ら領収証等を交付していないとのAの供述についてもこれを否定していない。 イ加えて,本件工事の請負契約の当事者たる中間法人として本件委任状や本件覚書にあるIを用いることにしたとの点(被告人第6回18ページ,第7回25ページ)についても,被告人やAの判断だけでなしうることではない。被告人は,この点,Iの代表もEであるし誰も文句を言う人はないだろうとAと合意したと弁解する(被告人第6回18ページ)。しかし,その程度のことで被告人とAが勝手に中間法人を決定できるというのが不合理である上,そのような話をしたのが平成13年10月であるというのも,本件契約との関係でも,Iの目的,さらに本店移転時期との関係でも遅すぎて不合理である。 ウまた,被告人は,本件犯行日とされる平成13年8月21日の後Dに本件確約書①等の書面を見せたりしているが,そこにある本件工事の発注日がどのように決まったかについても合理的説明をしておらず,被告人が本件工事につき具体的着工の目途が立ってもいないことを知っていたことを裏付ける。 4(1) ところで,被告人は,捜査段階において,平成13年5月ころ,Eと高知市内で食事をした際,Eから,F会で本件工事を発注することが本決まりとなり,Aに協力するよう要請された旨弁解し,公判廷でも,同年6月ころのこととして同様の弁解をする(検27,被告人第7回1ページ)。 まず,Eにおいて本件工事の発注ができるようになったと第三者に話すとすれば本件理事会の後であるはずであり,被告人の捜査段階の供述は時期において不自然である。 1ページ)。 まず,Eにおいて本件工事の発注ができるようになったと第三者に話すとすれば本件理事会の後であるはずであり,被告人の捜査段階の供述は時期において不自然である。 しかし,Eは,平成13年6,7月ころ被告人と食事をしたことと供述している(証人E4ページ,35ページ)。そして,本件理事会でAが理事に選任されたことや中間法人を作る必要も話された形跡があること,本件理事会が平穏のうちに終わった(同10ページ)等というEやAの認める事実関係のもとでは,EらF会の者がHの登記を知ったのは本件理事会の後であった可能性があり,EやAらF会の理事が本件理事会のころ一時的に本件計画を具体化できると考えた可能性が全くないとは断定できない(被告人の供述が不合理であるからといってもその可能性を否定できない。また,被告人第7回49ページの供述もその意味で全く信用できないとまではいえない。)。そうすると,EやAと前記食事をした際のEの発言により被告人が本件計画につき近い将来具体的に実行されると予測した時期があった可能性も完全には否定できない。 (2) なお,F会の印鑑を作ることにつき,Eはいずれ作るときはAに頼もうとの発言をしたことはあるが具体的に印鑑作成の依頼をしていはいないとし(証人E10,11ページ,28ページ),Aも公判廷では同様の供述をしている(第3の1(2))。しかし,Aは,捜査段階において具体的な印鑑作成の依頼があったとの供述をしているとの追及を受けてややあいまいな供述をしている。そして,(1)で検討したところに照らすと,EらF会の者がHの登記を知ったのは本件理事会の後であった可能性があり,EやAらF会の理事がいったん本件計画を具体化できると考えて同会の印鑑を作るような会話をした可能性もやはり完全には否定でき すと,EらF会の者がHの登記を知ったのは本件理事会の後であった可能性があり,EやAらF会の理事がいったん本件計画を具体化できると考えて同会の印鑑を作るような会話をした可能性もやはり完全には否定できない。 第5 問題となった点についての判断 1 本件計画の具体性についてEやAの供述には第4の4で見たような面がある。しかしながら,被告人の供述によっても,Eは,被告人の言う食事の際,本件計画について,すべてAに任せた等と言ったというだけで,工事の発注や業者の選定について具体的な話をしたのではない。そして,被告人がAと本件工事の請負契約を請け負う業者から金銭を受け取る話をしたのは平成13年4,5月ころであり,そのころにはKをF会の会長ないし理事から排除する手続中であった。すなわち,本件計画は,KをF会から排除する手続中は本件工事を業者に発注できる状態でなく,ただ平成13年4月ころにはKの排除が近く実現できそうになったため具体的に進行する期待が大きくなっていたにすぎない。そしてこれが解決した直後本件紛争が発生したのであるところ,本件紛争はKの排除問題と同様であり,また理事の選任やその登記に問題がある以上大規模な取引ができなくなることは,Dも同様のことを述べるとおり,通常の経験則上明らかである。 これらのことからすると,本件計画が対外的発注の段階までには具体化していなかったことやその理由,またEの個人的準備行為についてのEやAの供述は信用でき,これら関係証拠によれば,本件計画は,本件契約当時,F会が本件工事を着工する具体的時期を決定したり,本件工事をF会ないし中間法人において外部に発注する決定がF会においてなされ,中間法人が作られるとすればこれもF会内部で決定される,という段階にはなく,本件工事を行う業者の選定やこれを誰かに したり,本件工事をF会ないし中間法人において外部に発注する決定がF会においてなされ,中間法人が作られるとすればこれもF会内部で決定される,という段階にはなく,本件工事を行う業者の選定やこれを誰かに委任することを決められる段階でもなかったこと,Eが供述する準備行為も同人が供述するとおりその個人的準備であったことが認められる。 2 1についての被告人の認識,被告人の権限について(結論)(1) 被告人が本件契約の前にAからF会内で本件紛争が発生していることを聞いた事実は被告人自身が認めるところであり(検37,39),1でみたように,被告人はそれ以前Kの問題が続いている当時その間は本件計画が本件工事の請負契約発注の具体的準備段階にまで至らないという経験をしたばかりであったと認められる。 また,被告人が,本件当時は本件工事の発注権限があると思っておりDを騙す意図がなかったのに,その後本件紛争のため本件工事が発注できない期間が予想に反して長くなり,発注が遅れることをDに納得させるためあわてて本件確約書等を交付した等の事実,すなわち本件確約書①を交付したころの被告人の内心が本件契約当時と変化していたことを示す事実を窺わせる証拠も全くなく,被告人自身もそのようなことを述べていない。 さらに,本件確約書①の発注日欄には『但し諸条件未達成の場合は無効とする。』との記載があるが,被告人自身これがF会で理事の選任登記が出来ていないため具体的な発注ができなくなる場合のことを指す等との説明をしてはいない〔検39。なお,被告人はこの文言に前記理事選任の遅れの点を含めることができると弁解している(被告人第6回22ページ)が,被告人がCと同様の立場にある他社に見せたという(検34)本件確約書①や本件確約書③の発注日欄にある前記の 言に前記理事選任の遅れの点を含めることができると弁解している(被告人第6回22ページ)が,被告人がCと同様の立場にある他社に見せたという(検34)本件確約書①や本件確約書③の発注日欄にある前記のような記載からも,本件確約書①の前記記載は,本件工事に関する行政手続の遅れ等を主眼としていたことが明らかであり,本件紛争や(真実の)理事の選任登記とは無関係であると認められる。〕。 (2) このことや1で述べた事情とAの供述等関係証拠及び通常の経験則に照らすと,被告人は本件契約当時,AなどF会の理事らが本件計画につき本件紛争のため本件工事を発注したりそのための業者選定段階に至っていないこと,すなわち本件計画が具体的になっていないことを知っていたと優に認められ,したがってまた,被告人には本件工事の発注権限がなかったこと,被告人がこの点をも認識していたことが明らかである。 なお,被告人はAから本件工事の請負業者選任権限を与えられたとの主張をするところ,本件契約が具体的になっていないにもかかわらずAが被告人に本件工事の請負業者選任権限を与えるような書面を作成したり被告人が本件契約に及ぶことを被告人と合意するのは,Aにおいて同人及び被告人の利益を図る目的でそのような外見を装ったり代表権を濫用していることを意味し,被告人も本件契約が具体的になっていないことを知っていたと認められる以上Aの仮装ないし代表権濫用を知りつつ同人からの授権を受けたとして行動していたこととなる。そうすると,被告人のいうAから被告人への授権契約も,そもそも書面などで外形を整えただけで存在しないものというべきであり,少なくとも,理事の代表権濫用の事例として民法93条ただし書により無効となる。 (3) (1)(2)でみた点,前記前提事実,本件記名印におけるF会 整えただけで存在しないものというべきであり,少なくとも,理事の代表権濫用の事例として民法93条ただし書により無効となる。 (3) (1)(2)でみた点,前記前提事実,本件記名印におけるF会の所在地が虚偽であることに加え,A,Eの供述等の関係証拠に照らせば,被告人とAが本件犯行を共謀したこと,被告人と通じて内容虚偽の本件確約書①や本件委任状同様の書面を作成したこと等,本件犯行を認めるAの供述も,基本的に信用できる。 (4) なお,本件犯行をAが持ちかけたのか被告人から持ちかけたのかについては,抽象的には,Aにおいて被告人を主犯にすることで自己の刑事責任を軽減するために虚偽を述べている可能性を考えることができる。しかし,本件で具体的行動をしたのは被告人であること,本件確約書①等本件に関して作成された書面がいずれも被告人がD等相手方と交渉する際に必要が生ずるたびに作成されたと認められ,その作成の必要が生じたかは被告人でなければ分からないことに照らすと,本件を積極的に遂行したのが被告人であることは明らかであり,被告人に(より)強い動機があったことも前述のとおりである。また,Aの供述は第4の4でみた点につき若干不自然な点があるほかは特に不自然ではなく,自己の刑事責任をむしろ積極的に認めている。さらに,Aの供述には,例えばIの名義を竹炭事業以外の目的で使用してはならないことのEとの約束を被告人に話してはいないと供述する(証人A第6回46ページ)とか,本件委任状などの書面の作成についても被告人から無理に頼まれたようなこと述べていない等,被告人に責任を押しつけることが可能と思われる場面でそうはしていない面が認められる。そして,Aは既に有罪の判決を受け,これが確定しているのであるから,当公判廷での供述が被告人の面前での供述であることにも に責任を押しつけることが可能と思われる場面でそうはしていない面が認められる。そして,Aは既に有罪の判決を受け,これが確定しているのであるから,当公判廷での供述が被告人の面前での供述であることにも照らすと,Aがそれまでの供述を簡単に変更して自分が主犯であったと供述することについての心理的抵抗を考慮しても,Aの供述には基本的に信用性があるといえ,本件犯行の発案者はAの供述どおり被告人であったと認められる。 また,Eは被告人と本件計画についてさほど話をしていない旨の供述をしているところ,これも前述した範囲で全面的には信用できない可能性がある。しかし,Eが本件犯行に加わっていたとすれば同人が本件金銭等の一部を受領してしかるべきであるし,Eはその後本件計画を具体化できれば大きな利益をあげうると考えていたであろうから,実情が発覚すれば本件計画自体が頓挫するリスクのある本件犯行に加わる動機もない。そうすると,仮にEが前述の点について虚偽を述べているとしても,それは被告人の犯行がうやむやにならないため等にした素人考え程度のものと考えるのが合理的であり,被告人の犯意認定を左右しない。 3 欺罔文言についてこれまで検討したところに照らすと,被告人の供述によっては,Dの供述の信用性は全く左右されない。また,このほか同人の供述の信用性に疑念を差し挟むような証拠もない。そうすると,被告人の欺罔文言についてもDの供述等関係証拠により判示のとおり認められる。 4 最後に,弁護人の主張にかんがみ,1ないし3の認定について念のため付言する。 (1) まず,弁護人は,本件の主犯はAないし同人及びEであるとも主張しているのでその主張自体に混乱もあるが,基本的には,そもそもAは社団法人であるF会の理事としてこれを代表する権限があり,A (1) まず,弁護人は,本件の主犯はAないし同人及びEであるとも主張しているのでその主張自体に混乱もあるが,基本的には,そもそもAは社団法人であるF会の理事としてこれを代表する権限があり,Aが本件工事を発注した場合F会と発注の相手方との間で有効に請負契約等が成立するし,また,Aはこの契約締結を被告人に委任する権限も有しているから,本件における被告人やAの行為はもともと何ら犯罪にならないとの主張をしていると解される。そして,弁護人は,捜査官等はF会の代表とかEがその暫定会長であったとの文言にとらわれるなどし,AがF会の理事として同会を代表する権限を有していることを理解していないのではないかと非難する。 この点,民法53条,54条によれば,社団法人の理事は各別に当該法人を代表して他者と契約する権限を有しており,その制限は善意の第三者に対抗できない。このこと自体は弁護人の指摘のとおりである。 (2) しかし,そもそも,被害者が民事上保護されても,すなわち契約形態をとる詐欺行為が有効と判断されても,詐欺罪の成立には影響がない。例えば,代理人が権限を濫用し,人を欺いて財物の交付を受けた場合,たとえ本人が代理人のした行為につき民事上の責任を負う場合でも詐欺罪が成立することは,多数の判例が示すところであって当然のことである。もし,詐欺罪の成否が当該契約の民事上の効果に従うとすれば,詐欺行為が犯人自身がした契約である場合詐欺による意思表示は相手方による取消の意思表示があるまで有効である(民法96条1項)から,契約が有効であれば詐欺罪が成立しないとなると取消の意思表示の有無により詐欺罪の成否が決まることになり,これは明らかに不合理である。弁護人の主張には,契約の有効性がそのまま詐欺罪の成否にかかわるかのようにいう点にまず誤りが が成立しないとなると取消の意思表示の有無により詐欺罪の成否が決まることになり,これは明らかに不合理である。弁護人の主張には,契約の有効性がそのまま詐欺罪の成否にかかわるかのようにいう点にまず誤りがある。 また,これを本件についてみると,F会において本件計画につき灯籠建立工事を誰かに発注することやF会の理事の誰がこれを発注するか等が内部的に決定されていないにもかかわらず,これがあるものとして理事(や代理人)が自己等の利益を図る等の目的で対外的行為をすれば,詐欺罪が成立すると言うべきである。 この場合,民事上は理事の代表権(ないし代理人の代理権)濫用の事例となり,民法93条ただし書の類推適用によって相手方が善意無過失の場合にはじめて有効となるが,その有効性と詐欺罪の成否とはやはり別論である。 しかも,弁護人は,本件契約の相手方であるDにも落ち度がある旨の主張をしている。そうすると,本件契約はDの落ち度の内容次第では無効となり,弁護人の主張は弁護人の主張自体からも採用できない結果となる。 (3) そうすると,やはり,本件ではF会において本件計画が具体化していたか,すなわちAに本件計画に基づき本件工事を発注する権限やこれを被告人に授与する権限を具体的に有していたか,その点を被告人がどのように認識していたかが問題となる。本件公訴事実に則していえば,本件計画の具体化とは,本件工事をF会ないし中間法人において外部に発注する決定がF会においてなされ,中間法人が作られるとすればこれもF会内部で決定されることを意味することが明らかである。この点,弁護人はこれを社団法人理事の一般的な代表権とF会内におけるこれまで認定した程度にとどまる本件計画の進行状況及び準備行為のみで足りるかのようにも主張するが,本件でいわれている『具体的 ある。この点,弁護人はこれを社団法人理事の一般的な代表権とF会内におけるこれまで認定した程度にとどまる本件計画の進行状況及び準備行為のみで足りるかのようにも主張するが,本件でいわれている『具体的』との表現をそのように理解するのは不可能であり,弁護人の主張はとうてい採用できない。 (4) さらに,前述のとおり,本件金銭等は被告人がF会の関係者に渡すためのリベート等の趣旨でDから預かった金銭等と認められ,被告人自身は公判段階に至って作成した上申書(証拠等関係カードにおける弁護人請求証拠番号1)では本件金銭等は自分への謝礼であったとしている。また,それまでの被告人の主たる弁解は,本件金銭等の趣旨は被告人が本件工事の請負業者に選定されるように働くための運動資金であるというものであった(Aへの謝礼であると述べたこともある。検38)。しかし,そのいずれにせよ,本件契約はDないしCと被告人個人との間の契約ということになり,AがF会の理事としてこれを代表する権限を有していたかとか被告人が本件契約につき相手方となる請負業者選任の権利を有していたかは,Dについて動機の錯誤があるか否かという点を除くと本件契約の効果自体には無関係ということになる。そして,本件金銭等の趣旨がリベートと認められれば,被告人がDから委任等を受けた者のようにしてA等F会代表者に渡すべきものとして本件金銭等を預かり,Dのため保管中,これを個人的使途に使い込んだという見方が可能となり,本件金銭等を運動資金としても,その趣旨は残金の精算等が残る預かり金とみる余地がある。そうすると,本件では横領罪の成立も検討すべきことになるが,被告人がDから本件金銭等を受領する段階で詐欺罪が成立すればその後の費消行為は不可罰的事後行為ということとなるから,やはりまず詐欺罪の成否を検討しなければな は横領罪の成立も検討すべきことになるが,被告人がDから本件金銭等を受領する段階で詐欺罪が成立すればその後の費消行為は不可罰的事後行為ということとなるから,やはりまず詐欺罪の成否を検討しなければならない。被告人が上申書で弁解するように本件金銭等の趣旨が謝礼というのであれば詐欺罪だけが問題となる。 なお,本件計画が具体化するなどして,Aないしその委任を受けた被告人に本件工事の請負業者選任の権限が発生したとしても,通常であれば,Aや被告人が請負業者との間でF会を代表または代理してなんらかの契約を締結した場合,その際交付を受けた金員はF会に帰属する。そして,Aに代表権があるとか被告人に代理権があるからといって,Aや被告人がF会に帰属した金銭等をどのように使っても横領罪などの犯罪とはならないということにならないのも当然であり,Aや被告人がこれをF会の了解なく個人的に費消した場合には横領罪ないしその身分なき共犯が成立することになる。 本件では,被告人は横領罪で逮捕され,取り調べを受けている。また,被告人の検察官調書によれば,検察官が被告人に本件契約の当事者が誰になるのか等の追及をしていることが明らかである(なお,被告人は当公判廷でも契約の当事者について質問を受けている)。検察官はその結果被告人を詐欺罪で起訴している。 これらは,検察官等において,前述した点を意識していたことを示している。 ところが,本件計画が本件工事の請負業者を選定する具体的段階に至っていないこと,被告人がこれを知っていたことは前記認定のとおりであった(なお,Aから被告人への本件工事の請負業者選任権授与契約が書面だけ整えた外形的なものにすぎずそもそも存在しないと認めるべきことは前述したが,この点F会ないしEから被告人への授権を装ったものとみて (なお,Aから被告人への本件工事の請負業者選任権授与契約が書面だけ整えた外形的なものにすぎずそもそも存在しないと認めるべきことは前述したが,この点F会ないしEから被告人への授権を装ったものとみても同様である。)。したがって,本件ではやはり横領罪ではなく詐欺罪の成否が問題となる。 いずれにしろ,弁護人の主張は被告人の弁解とも矛盾してしまう。 (5) 結局,弁護人の前記法的主張は採用することができない。 第6 以上のとおりであって,被告人の公判供述によっては第3でみたAらの供述等の信用性は本件犯行を認定する限度では特に揺るがず,他に同人らの供述の信用性を疑うべき証拠や事情もないというべきである。 結局,前掲関係各証拠によれば,被告人やAにおいて,本件当時,本件計画がいずれは対外的に本件工事の発注ができるまで具体化されるであろうことを予期していたところ,これを悪用し,当座の資金調達のため,その段階では本件工事を請負業者に発注する具体的計画がなく,したがってAや被告人にはその請負業者選定の具体的権限もないのに,これらがあるように装い,Dに対し,本件工事の受注のためには被告人に1000万円を預けなければならないと判示のような欺罔文言を申し向け,預かり金名下に本件金銭等を騙取したことが優に認められる。被告人の弁解やこれに基づく弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用) 1 罰条包括して刑法246条1項,60条(なお,公訴事実に『それぞれ人を欺いて財物を交付させた』とあるところからすると検察官は本件について併合罪であると考えているとも思われるが,欺罔文言からも認められるように,被告人の犯意は単一であり騙取の都度これが生じたものではなく,本件程度の時間的隔たりは包括一罪の認定を妨げないと解する。) 併合罪であると考えているとも思われるが,欺罔文言からも認められるように,被告人の犯意は単一であり騙取の都度これが生じたものではなく,本件程度の時間的隔たりは包括一罪の認定を妨げないと解する。) 2 未決勾留日数の算入刑法21条 3 刑の執行猶予刑法25条1項 4 訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は,社団法人がY神宮参道に灯籠を設置する工事を事業化する計画を有していることを知った被告人が,同法人の理事に選任された共犯者(A)とともに,同工事への参入を希望する被害者に同工事がいまだ発注できない状態にあることを秘してこれが具体化しているような嘘をつき,被害者から預かり金名下に現金などを騙取した事案である。 1 不利な事情(1) 被害額が大きい。被告人自身も大きな利得を得ている。 (2) 計画的犯行でもある。上記社団法人(F会)の信用を傷つけた面もある。 (3) 嘘が露見して犯行が失敗することのないようさまざまな内容虚偽の書面を使う等して犯行発覚を免れようとしたことも犯情が悪い。 (4) 被害回復は共犯者により結果的に一部なされた以外なく,被告人からは全くなされていない。被害感情は当然ながら厳しい。 (5) 被告人は,犯行を直接行ったものであり,共犯者と比べてもやや重い責任を負うべきである。 (6) 犯行ないしこれへの関与を否定し,あいまいな供述に終始するなど,犯行を反省する態度に欠けている。 2 有利にしん酌すべき事情(1) 被告人や共犯者が近い将来本件工事が現実に発注できるとの期待を持って行動していたことが否定できない。 (2) 前記書面の作成をはじめ,本件は共犯者の関与なしにはなしえなかった。また,本件犯行に使用された書面には犯行着手後に作成されたもの 注できるとの期待を持って行動していたことが否定できない。 (2) 前記書面の作成をはじめ,本件は共犯者の関与なしにはなしえなかった。また,本件犯行に使用された書面には犯行着手後に作成されたものが多く,その意味で犯行に幼稚な面がある。 (3) 被害者には取引通念からみて落ち度があったと認められる。また,被害者は,リベートと知りつつ本件金銭等を被告人に渡したもので,その行動は自己の利益のみを追い求めた行動として社会的非難を受けうるものである。もっとも,本件犯行はそのような落ち度や欲求をあえて作り,これにつけこむ犯行であるから,この点はさほど被告人に有利にしん酌できない。 (4) やや古い罰金前科以外に前科がない。 (5) すでに1年以上身柄を拘束されている。 3 確かに本件では被害者に1000万円もの損害が生じており,被告人自身からは弁償もなされていない。また本件の実行犯は被告人であり,また共犯者は素直に自己の責任を認めているのに対し被告人は不合理な弁解をして共犯者に本件の主犯の地位を押しつけ自己の刑事責任を回避しようとしているのであって,これらの点からすれば,検察官主張のように被告人には本来実刑をもって臨むべきと考えられる。 しかし,先に述べたように,本件では被告人や共犯者において近い将来本件工事が現実に発注でき,最終的には被害者に本件金銭等の額を大きく越える利益が生じるだろうとの期待を持って行動していたことが窺われ,1000万円の被害だけを生じさせようと全くの虚構によって本件犯行に及んだものとは認められない。この点,本件犯行は本件工事の発注段階でF会とは別に不当な利得をもくろんだものである上,F会との関係では背任的行為でもあり,かえって悪質であるとの見方もできようが,不当と違法は区別すべきであり,前記の点はやはり被告 は本件工事の発注段階でF会とは別に不当な利得をもくろんだものである上,F会との関係では背任的行為でもあり,かえって悪質であるとの見方もできようが,不当と違法は区別すべきであり,前記の点はやはり被告人らに有利に解すべきことがらである。また,被害者の供述に照らすと,本件計画の実現可能性それ自体にも疑いが生ずるが,被告人がその実現可能性がないと思っていたと認めることもできない。そして,被告人自身が本件の法律構成を持ち出して不合理な否認をしたというわけでもない。そうすると,共犯者が執行猶予付判決を受け,これが確定していること等にも照らすと,さしたる前科のない被告人を実刑に処することはやや重きに失する感がある。 平成14年11月20日神戸地方裁判所第11刑事係乙裁判官 橋本一
▼ クリックして全文を表示