平成12(ワ)9733 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年1月28日 東京地方裁判所
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判決文本文14,673 文字)

平成12年(ワ)第9733号損害賠償請求事件(以下「甲事件」という)平成12年(ワ)第19963号損害賠償請求事件(以下「乙事件」という) 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,甲,乙事件を通じ,すべて原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告ら各自に対し,連帯して金200万円及びこれに対する,原告A,同D及び同Eについては平成11年5月26日から,同H及び同Kについては平成12年10月15日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,平成11年当時A高等学校のラグビー部に所属していた原告らが,同校を設置する学校法人N及び当時の教頭兼ラグビー部部長であったPを被告として,被告らが,平成8年に発生した同校ラグビー部員間の暴行事件に関して,同11年9月29日に,東京都高等学校体育連盟に対し同校ラグビー部の公式戦の出場を1年間辞退するとの届出をしたことは,学校長及びラグビー部部長の裁量権を逸脱した不合理,不当な行為であり,これによりラグビー公式戦に出場するという法的利益を侵害されたなどとして,不法行為に基づき,損害賠償を求めている事案である。 1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する)(1) 原告らア原告D及び同Hは,平成9年4月,A高等学校(以下「A高校」という)に入学し,同12年3月に同校を卒業したものであるが,その在籍期間中,同校ラグビー部(以下「本件ラグビー部」又は「同校ラグビー部」という)に所属していた。 イ原告A,同E及び同Kは,平成11年4月,A高校に入学し,同12年3月まで同校に在籍したものであるが,その間,同校ラグビー部に所属していた。 (2) 被告らア被告学校法人N(以下「被 ていた。 イ原告A,同E及び同Kは,平成11年4月,A高校に入学し,同12年3月まで同校に在籍したものであるが,その間,同校ラグビー部に所属していた。 (2) 被告らア被告学校法人N(以下「被告財団」という)は,A高校を設置している。 イ被告P(以下「被告P」という)は,平成11年9月当時,A高校の教頭の地位にあり,同校ラグビー部の部長をしていた。 (3) 暴力行為等の発生等ア A高校において,平成8年7月から9月にかけて,同校ラグビー部の2年生Q(以下「訴外Q」という)が,同校ラグビー部1年生数名に対して,殴る蹴るの暴行を加え,あるいは嫌がらせを行った(以下「本件暴行等事件」という)(乙1,弁論の全趣旨)。 イ本件暴行等事件の被害者の一人であったR(以下「訴外R」という)は,平成10年7月,訴外Q及び被告財団に対し,不法行為ないし安全配慮義務違反に基づく損害賠償の訴えを当庁に提起した(以下「別件訴訟事件」という)(乙1,弁論の全趣旨)。 ウ当庁は,平成11年9月28日,別件訴訟事件について,訴外Q及び被告財団に対して連帯して金100万円を支払えとの判決を言い渡し,この判決は確定した(乙1,弁論の全趣旨)。 (4) 被告財団の対応等A高校の校長S(以下「S校長」という)は,平成11年9月29日,別件訴訟事件の前記判決を契機に,本件ラグビー部の1年間の公式戦出場辞退を決定し,被告Pにおいて,S校長を作成名義とする同校ラグビー部の公式戦1年間出場辞退届を東京都高等学校体育連盟へ提出し(以下「本件決定等」という),当該届出は受理された。 (5) 全国高等学校ラグビーフットボール大会の不参加東京都高体連が,上記A高校の出場辞退届を受理した当時,東京都高体連,東京都教育委員会,東京都ラグビーフットボール協会が主催する第79回全国高 (5) 全国高等学校ラグビーフットボール大会の不参加東京都高体連が,上記A高校の出場辞退届を受理した当時,東京都高体連,東京都教育委員会,東京都ラグビーフットボール協会が主催する第79回全国高等学校ラグビーフットボール大会東京都予選(いわゆる花園大会予選)が既に始まっており,A高校はシード校として平成11年10月3日の試合に出場予定であった。しかし,上記出場辞退届により,本件ラグビー部の第79回全国高等学校ラグビーフットボール大会東京都予選の欠場が確定し,原告らは同大会へ出場する機会を失った。 2 争点(1) S校長が行った本件決定等は,裁量権を逸脱した違法なものか。 【原告らの主張】S校長が行った本件決定等が,学校長の裁量権を逸脱する違法なものであることは,以下のアないしエの事情から明らかである。 なお,本件決定等の合理性に関する事情は,すべて被告財団側の事情であり,原告らの知りようがない事情であるから,当事者間の立証の公平を図るという観点からすれば,まず,被告らにおいて,これを主張,立証すべきであり,被告らにおいてその主張,立証を尽くさない場合には,本件決定等に不合理な点があることが事実上推認される(伊方原発訴訟における,最判平成4年10月29日民集46巻7号1174頁の判旨)。 ア本件決定等の目的の不存在被告らは,本件ラグビー部における根深い暴力的体質を断絶するために,本件決定等を行ったと主張しているが,その事情が具体的ではなく,本件決定等をする必要性がなかった。 (ア) 被告らは,本件ラグビー部には,本件暴行等事件が発生する平成8年7月より遥か以前から暴行が半ば恒常的に行われてきた実態があり,あるいは平成11年1月にも暴力事件が発生したと主張するが,その主張は抽象的であり具体性に欠ける。 かえって,本件ラグビ る平成8年7月より遥か以前から暴行が半ば恒常的に行われてきた実態があり,あるいは平成11年1月にも暴力事件が発生したと主張するが,その主張は抽象的であり具体性に欠ける。 かえって,本件ラグビー部の暴力的体質の改善が,公式戦出場辞退決定から辞退撤回届提出までのわずか1か月余りで果たされたとすれば,そもそも,そのような体質の存在自体疑問である。 (イ) しかも,A高校は,平成8年9月当時,既に同校ラグビー部において暴力行為が恒常的になされていた実態を把握していたというのであるから,これを改善するための措置を一刻も早く採るべきであったもかかわらず,3年以上にわたってその改善策を講じていない。本件決定等は,既に機を逸してしまった対応というほかない。 イ本件決定等の目的と原告らの関連性(ア) 本件決定等は,平成8年の7月から9月にかけて発生した本件暴行等事件及びこれについての別件訴訟事件の判決結果を理由とするものであるところ,同判決が言い渡された平成11年9月28日当時在籍していた本件ラグビー部員は,本件暴力等事件当時の部員と完全に入れ替わっており,本件暴行等事件とは何ら関連性がない。 (イ) ラグビーは,強固な団結を必要とするスポーツではあるが,ラグビーを行う上での強固な団結とそれ以外の個人的生活とは明らかに異なり,暴行等の汚染された行為はラグビーを行う上での行為ではもちろんなく,行った人間の個人的所業である。 このような,原告らに関連性のない個人的原因に基づく不利益処分は,事実上の連帯責任を強いるものであって,およそ許されるものではない。 ウ本件決定等の目的と処分の妥当性(ア) A高校は,改善措置を講じることなく本件暴行等事件を3年以上放置したにもかかわらず,テレビ等で別件訴訟事件の判決が報道されたことをもって「好機」と判断し ウ本件決定等の目的と処分の妥当性(ア) A高校は,改善措置を講じることなく本件暴行等事件を3年以上放置したにもかかわらず,テレビ等で別件訴訟事件の判決が報道されたことをもって「好機」と判断し,1年間公式戦出場辞退という非常に重い処分を下したことは不当である。 (イ) 原告らは,A高校において強化指定を受けているラグビー部に所属し,高校生活の中でも普通に受験して大学に進学するような他の同級生とは全く異なって,運動競技の技能の上達(学校案内によれば日本代表レベル以上への)をもって,ラグビー選手としての将来を切り開いていく目的を持っていた。その中で,花園大会は,その活躍の度合いにより,ラグビー人生,つまり,就職や進学先を決定する上で重要な要素であった。 (ウ) 本件決定等は,別件訴訟事件の判決結果を理由とするもので,原告らとは何ら関連性がないにもかかわらず,同人らは事実上の連帯責任を強いられ,不利益を受けるものであるから,教育的配慮からの出場辞退処分であるとしても,その当否には時間をかけた十分な検討が必要なはずであった。しかるに,A高校は,判決からわずか1日という短時間で本件決定等を出しており,慎重な教育的裁量を要する判断が可能であったとは到底考えられない。 (エ) S校長は,被告Pから,別件訴訟事件の判決に関して東京都高体連から出場辞退せよと勧告があったとの虚偽の進言を受け,本件ラグビー部の活動について理解がなく,事の重大性について深く考えなかったことから,平成11年9月29日,何の思慮のないまま,被告Pの言に従い出場辞退決定を行った。 被告Pは,平成11年9月30日,本件ラグビー部員に対し,「高体連から出場を辞退せよとの要請があったので,公式戦1年間出場辞退することに決定した。」と説明し,同年10月1日,本件ラグビー部員の父母ら 被告Pは,平成11年9月30日,本件ラグビー部員に対し,「高体連から出場を辞退せよとの要請があったので,公式戦1年間出場辞退することに決定した。」と説明し,同年10月1日,本件ラグビー部員の父母らに対し,東京都高体連から出場辞退せよとの要請があったとの虚偽の事実を告げた。また,S校長は,「出場辞退の決定は学校の名誉を守るためにラグビー部員を犠牲にしたもので自分たちの判断が誤りであった」と述べ,本件ラグビー部所属の部員の父母らに陳謝している。 (オ) 被告らは,別件訴訟事件の裁判を通じて暴力的体質が明らかになったため,平成11年8月頃には,判決の帰趨を見越して,「ショック療法」として,1年間の公式戦出場辞退を決定していたと主張するが,そうであれば,平成11年夏の間,相当の時間及び費用を費やして夏季合宿を行う必要などなかった。むしろ,このような夏季合宿を行うことは,本件ラグビー部員のみならずその父母への重大な背信行為というべきである。 エ被侵害利益について本件ラグビー部員として花園大会を目指し練習に励んでいた原告らは,本件決定等により,花園大会東京予選に参加することができるというA高校ラグビー部との在籍関係ないし在籍契約(広くは原告らとA高校との在学関係ないし在学契約)に基づく法的利益(前記在籍ないし在学関係から生ずる原告らの有する信義則上の期待権)を侵害された。 【被告らの主張】本件決定等は,本件ラグビー部の活動にとっては教育過程の実施計画の一部変更であり,当該変更はS校長の権限に属する事柄であって,同校長は,学校教育法51条,同法28条3項に基づく教育作用の一環としてこれを行った。 S校長は,別件訴訟事件の判決結果のみではなく,本件ラグビー部には,他にも部員間の暴行があり,その根源が根深いことが認められたのでこれを断絶するた 条3項に基づく教育作用の一環としてこれを行った。 S校長は,別件訴訟事件の判決結果のみではなく,本件ラグビー部には,他にも部員間の暴行があり,その根源が根深いことが認められたのでこれを断絶するために,本件決定等を行ったのであり,本件決定等に学校長の裁量権の逸脱ないし濫用はない。 このことは,以下のアないしエの事情から明らかである。 なお,本件で,原告らは,本件決定等が違法を理由に,それによって受けた精神的損害の賠償を求めるというのであるから,一般の民事訴訟の規定に従ってその事実を主張,立証すれば足り,行政処分取消訴訟制度を準用する必要性は全く存在しない。原告らが引用する最高裁判決は,飽くまで行政処分取消訴訟事件における主張立証責任に関する判断であって,本件とは関係がない。 ア本件決定等の目的(ア) 本件ラグビー部においては,平成8年7月から9月ころにかけて,2 年生(訴外Q)部員が1年生部員数名(訴外R,T他)に対して暴力を振るうなどした(本件暴行等事件)ほか,そのころ,先輩から後輩に対する暴行が繰り返し行われており,また,指導者やOB会などを含めてこれを容認する態度等が認められた。さらに,平成11年1月にも,本件ラグビー部員2年生(原告H他)が,1年生部員4名に対して暴力行為をふるう事件が発生した。 これら事実から,本件ラグビー部には,暴力的体質があるといわざるを得ず,しかもその根源は根深いものであって,改善の必要性は大きかった。 (イ) A高校では,本件暴行等事件の発生以降,実態調査を行い,本件ラグビー部員に対し,暴力行為をすることのないよう深く注意を促していた。しかし,本件ラグビー部の暴力等の実態調査においては,その被害者やその父母すら学校側に対しては口を閉ざす傾向が強く,容易にはその実態を把握できず,詳細については,むしろ いよう深く注意を促していた。しかし,本件ラグビー部の暴力等の実態調査においては,その被害者やその父母すら学校側に対しては口を閉ざす傾向が強く,容易にはその実態を把握できず,詳細については,むしろ,別件訴訟事件の裁判が進行するにつれて明らかとなってきたというのが実情である。 A高校では,別件訴訟事件の状況を踏まえて会合を重ね,採るべき措置等について検討し,平成11年8月ころには,A高校や学校長の採るべき措置は概ね決定していた。しかし,本件ラグビー部では,OBの影響力も強く,同部に半恒常的にしみ付いている体質の改善を図るためには,その時機を捉えることが肝要であるところ,別件訴訟事件がテレビ新聞等で報道された時機はその好機であった。 イ本件決定等の目的と原告らの関連性(ア) ラグビーは,集団として行為し戦うスポーツであることに意義があり,そこから「特別活動」として高等学校教育の一環として認められてきたものである。 そして,試合に出場し勝利することは部活動目的の目標の一つではあるが,最も重要な課題は,部員に,優勝を目指す正しい価値とは何かということをしっかり把握させ,精神的,道徳的に,正々堂々たる正しい習性を身に付けさせることにある。殊に,ラグビーの場合は,一つの集団として行為することにより初めて教育的価値が得られる部分が大きく,仮に暴力的行為を行った者のみを排除して試合に出場すれば教育的価値を得られるというものでもない。 本件ラグビー部内で恒常的に行われてきた暴力的体質は,学習指導要領がクラブ活動を特別活動教育とすることの目的に大きく背馳するものであり,このような体質は,現部員全員を含む被告財団全体が反省してこそその改善が得られるものである。 (イ) しかも,本件ラグビー部では,本件暴行等事件だけではなく,平成11年にも暴力行為 するものであり,このような体質は,現部員全員を含む被告財団全体が反省してこそその改善が得られるものである。 (イ) しかも,本件ラグビー部では,本件暴行等事件だけではなく,平成11年にも暴力行為が再発しているのであるから,暴力的体質等は,平成11年9月28日当時在籍していた本件ラグビー部員とも関連性があるのである。 ウ本件決定等の目的と処分の妥当性(ア) 本件ラグビー部における暴力的体質の改善は,例えばラグビー部の部員に対する口頭の説得のみで効果があると思われず,まして,暴力行為を容認するとみられる勝利至上主義等の発想は,ラグビー部員のみならず,OB会,父兄会に対しても同時にショックを与える手段をとることによって改善可能性が出てくると考えられる。その上で,本件ラグビー部における暴行的体質をなくすためにどのような教育的態度をとるべきかは,本来教育担当者の裁量の範囲内の問題であり,出場辞退期間の長短は,本来教育浸透度の判断に属する事柄である。そして,生徒,OB,父母の反省の次第等によっては1年より短くし,あるいは期間を延長するなど,教育の手段として,状況により変更し得る事柄なのである。 (イ) S校長は,学校教育法に基づき教育課程を編成し執行する権限を与えられているのであるから,既存のクラブ活動の存廃,新設等はもちろん,その具体的活動についても権限を有する。 原告らのラグビー部での活動は,要するに学校教育としての内容効果に重点を置くものであるから,本件原告らが主張するようなクラブ活動のごく一部にすぎない対外試合に固執することないしこれへの参加を重要視することは的外れである。対外試合は平素のクラブ活動を実践した成果を示す場面として考えるべきものである。 (ウ) 本件決定等に関する被告財団内の判断は,次第に形成されてきたものであって, 加を重要視することは的外れである。対外試合は平素のクラブ活動を実践した成果を示す場面として考えるべきものである。 (ウ) 本件決定等に関する被告財団内の判断は,次第に形成されてきたものであって,被告Pが,S校長をはじめ被告財団の関係者に執拗に働きかけ,あるいは虚偽の報告により決定されたものではない。 エ被侵害利益について原告らは信義則の根拠となる法律関係等について何ら説明することなく,忽然として信義則違反を主張するものであり,原告らの主張する被侵害利益が法的に保障の対象とならないことは明らかである。 (2) 被告Pは,本件決定等について不当な行為を行ったか。 【原告らの主張】被告Pは,ラグビー部の活動について十分な知識と理解がないS校長ら被告財団関係者が,被告Pの進言のままに行動することが確実な状況の下で,S校長らに執拗に働きかけ,あるいは虚偽の報告を行って,本件決定等がされることに関与した。 なお,被告Pに教育課程の編成に関する権限がなかったからとの一事をもって,被告Pが責任を免れることができるものではない。 【被告らの主張】被告Pは,平成11年5月ないし6月頃,A高校ラグビー部には伝統的に暴力体質があり,これを改善する必要があることをS校長に伝え,また,同年8月頃,O理事長,S校長ら被告財団関係者の協議の場において,本件ラグビー部の1年間公式戦出場辞退を進言したことは事実である。しかし,被告Pの前記言動は,いずれも,S校長が,本件決定等をするについての一つの参考資料にとどまるものであり,自由な意見交換の下に,参加者の合意が形成されている。 なお,被告Pは,本件決定等の当時,A高校の教頭であったにすぎず,本件決定等のような教育課程の編成に関する権限はないから,本件出場辞退の決定について責任はない。 第3 争点に対する判 れている。 なお,被告Pは,本件決定等の当時,A高校の教頭であったにすぎず,本件決定等のような教育課程の編成に関する権限はないから,本件出場辞退の決定について責任はない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件決定等が学校長の裁量を逸脱した違法なものか)について(1) 学校教育法43条,51条,28条3項,同法施行規則57条,57条の2等に照らすと,学校長は,学校教育法に基づき教育課程を編成し執行する権限ないしクラブ活動における具体的活動に対して権限を有するのであって,これらは,教育的見地からの学校長の裁量事項ということができる。そうだとすると,クラブ活動の一つである本件ラグビー部の具体的活動に対し,S校長は権限を行使することができ,本件決定等は,まさにS校長の権限行使に当たるところ,問題は,本件決定等に社会通念上合理性を欠く点があるか否かという点にある。以下この点につき検討することにする。 (2) 証拠(乙1,2,5,11,証人S,被告P)及び弁論の全趣旨によれば,本件決定等に至る経過として,次の事実が認められる。 ア本件暴力等事件の発生(乙1,2,弁論の全趣旨)(ア) 本件ラグビー部の2,3年生部員らは,平成8年7月ころから,1年生部員に対し,生意気であるとか騒いでいるなどの理由で,泣き出すまで殴る蹴るの暴行を加えるようになった。当時本件ラグビー部の監督をしていたU教諭(以下「U監督」という)は,1年生部員の顔が殴られて赤くはれているのをみても,その理由を尋ねたりすることはなかった。 (イ) 本件ラグビー部は,平成8年7月21日から同年8月1日まで,V温泉で合宿を行ったが(V合宿),その間,2年生部員の訴外Qは,訴外R他1年生部員数名に対し,毎日のように一人ずつ殴ったり蹴ったりの暴力を振るった。 U監督は,V合宿中に, 日から同年8月1日まで,V温泉で合宿を行ったが(V合宿),その間,2年生部員の訴外Qは,訴外R他1年生部員数名に対し,毎日のように一人ずつ殴ったり蹴ったりの暴力を振るった。 U監督は,V合宿中に,3年生部員が1年生部員の腹部をスパイクで蹴るのを見ても,1年生部員がボールを忘れたからという理由を聞くと,蹴った者に対し何ら注意をしなかった。 (ウ) 本件ラグビー部は,平成8年8月8日から同月15日まで,長野県Wで合宿を行ったが(W合宿),訴外Qは,合宿中の昼休憩中に,訴外R始め1年生部員数名に殴る蹴るの暴行をふるい,特に合宿終わりころには,訴外Rを呼び出し,約10回殴打した。U監督は,練習中に,訴外Qの暴行により,1年生部員のT(以下「訴外T」という)が顔をはらしていたり,訴外Rがふらついている様子をみても,何ら事情を尋ねなかった。 訴外Tの保護者は,平成8年8月21日ころ,U監督に電話をし,訴外Qに殴られ,頬骨にひびが入ったと告げた。訴外Rも,U監督に,合宿中に受けた暴力や嫌がらせについて報告をした。 (エ) 訴外Rは,平成8年9月8日,訴外Qからラグビー用のパンツを貸すよう言われて貸したが,同日の練習後も返してもらえず,12日になって,保護者を通じて訴外Qに連絡を取ったところ,翌13日,U監督から新しいラグビー用のパンツを渡され,これで水に流せといわれた。しかし,訴外Rは,納得できず,U監督に対し,これを返還し,自分のパンツを返してほしいと申し入れたところ,U監督は,訴外Rに対し,そんなやつだとは思わなかった見損なったと発言したため,訴外Rは以後U監督のことを信頼することができなくなった。 イ被告財団の対応(ア) 当時A高校の教頭であった被告Pは,平成8年9月17日,訴外Rの保護者から,「夏季V及びW合宿において上級生から1年生に 以後U監督のことを信頼することができなくなった。 イ被告財団の対応(ア) 当時A高校の教頭であった被告Pは,平成8年9月17日,訴外Rの保護者から,「夏季V及びW合宿において上級生から1年生に対し,リンチ同様の暴力行為が再三に亘りあった。息子は恐怖心から登校することに躊躇している。……(中略),ラグビー部顧問では最早,解決の期待はできない。 最終的な学校としての対応を望みたい。」との申入れを受けた(乙1,2,5,11,被告P)。 (イ) 被告財団は,その申出を受け,他の生徒に対しても暴行があったとの申出を受けていたこともあって,直ちに被告Pにおいて,暴力行為の有無等について,本件ラグビー部の各部員から事情を聴取し,作文を書かせるなどして事実関係を調査した。 その結果,訴外R及び訴外Tに対する各暴行は2年生訴外Qによるものであること,本件ラグビー部員は1年生のとき伝統的に上級生から暴行を受けていること,その他にも動作の緩慢な部員に対する暴行が半ば恒常的に行われてきたことを把握した。 被告財団は,平成8年9月18日,直ちにU監督を更迭し,ラグビー部長に被告P,監督代行にXを充ててその体質改善を図るとともに,同月25日,訴外Qを無期停学処分に付した。(乙1,2,5,10,11,証人S,被告P)(ウ) しかし,訴外Rは,本件ラグビー部の練習などにおいて,上級生や同級生から「おまえがやめればよかったのに」などと悪口を言われ,また,無視されるなどの嫌がらせを受ける一方,訴外Qの無期停学処分が従来の慣例に従って2週間後の10月6日に解かれたことから,被告財団に対し不信感を抱き,通学を拒否するようになった(乙1,2,弁論の全趣旨)。 (エ) 訴外Rは,平成10年7月30日,当庁に,訴外Qび被告財団を被告とする別件訴訟を提起した。 被告財団は, 被告財団に対し不信感を抱き,通学を拒否するようになった(乙1,2,弁論の全趣旨)。 (エ) 訴外Rは,平成10年7月30日,当庁に,訴外Qび被告財団を被告とする別件訴訟を提起した。 被告財団は,別件訴訟事件における口頭弁論や訴外Rの本人尋問等を通じて,本件ラグビー部の下級生部員が恒常的に上級生部員から暴行を受けている実態があり,その暴行が先輩から継承されており,それは勝利至上主義に毒された短絡的指導に基づくものではないかと考えるようになった(乙5,10,11,証人S,被告P)。 (オ) 被告財団は,本件暴行等事件以降,本件ラグビー部内で暴力行為が発生しないよう,所属部員に対し,機会を捉えて適宜教え諭していたが,そのような中,平成11年4月,当時の2年生部員Y,原告H外1名が,同年1月ころ,1年生部員4名に対して暴行を加えていた事実を把握した。 被告Pは,原告Hを始め加害者に対し,説諭等を行ったが,ここに至って,本件ラグビー部には伝統的な暴力体質があると見ざるを得ないと考えた。 (乙10,11,証人S,被告P)(カ) 被告Pは,S校長に対し,上記のとおり,本件ラグビー部には,暴力的体質があることを報告し,また,O理事長,S校長始め被告財団関係者に対しても,上記報告をするとともに,別件訴訟事件の経過及び見通しとともに,本件ラグビー部のこの体質を如何に改善すべきかを協議するようになった。その結果,本件ラグビー部の暴力体質を改善するには,生徒,OB,父母をもその対象として同時にショックを与える療法をとらざるを得ないであろうという結論に達した。(乙10,11,証人S,被告P)そして,平成11年8月頃に至り,本件ラグビー部の体質を刷新するには,同年9月28日に言い渡される別件訴訟事件の判決が被告財団の敗訴判決となり,その内容も報道されるであ 0,11,証人S,被告P)そして,平成11年8月頃に至り,本件ラグビー部の体質を刷新するには,同年9月28日に言い渡される別件訴訟事件の判決が被告財団の敗訴判決となり,その内容も報道されるであろうことを機会に,1年間公式戦出場辞退という教育課程の変更を行うこと,他方理事者,学校当局者も暴力行為を永年放置していた責任は免れ難いとして関係者の処分を行うことが検討された。 そして同年9月中旬頃には,理事者,学校当局者に対する処分については,処分を受ける者の同意を得て,O理事長(以下「O理事長」という)は減給30パーセント2か月,S校長は減給20パーセント2か月,被告Pは教頭から教諭へ降格,Z(以下「Z教頭」という)は減給5パーセント2か月,U教諭は専任講師へ降格,丁理事(以下「丁理事」という)は減給10パーセント2か月等の処分を決め,同年10月4日開催予定の理事会に提案することになった。(乙9ないし11,証人S,被告P)(キ) 別件訴訟事件の判決内容当庁は,平成11年9月28日,別件訴訟事件において,訴外Qの不法行為とともに,被告財団(その履行補助者であるU監督)に安全配慮義務違反があるとして,両名に対して連帯して金100万円を支払えとの判決を言い渡した(確定)。 (ク) 被告財団の対応そこで,S校長は,平成11年9月29日,当初からの方針どおり,本件暴力等事件の判決言渡しを契機として,本件ラグビー部における暴力行為を根絶するため,教育課程の編成実施権の行使として,高体連に対し,同年9月29日から平成12年度第80回全国高校ラグビーフットボール大会東京都予選出場までの1年間の公式戦の出場辞退を申し出た。 (3) 上記認定事実に照らし,本件決定等が社会通念上合理性を欠くか否かについてみてみることにする。まず,本件決定等の内容の合 ットボール大会東京都予選出場までの1年間の公式戦の出場辞退を申し出た。 (3) 上記認定事実に照らし,本件決定等が社会通念上合理性を欠くか否かについてみてみることにする。まず,本件決定等の内容の合理性について検討する。本件決定等は本件ラグビー部の暴力的体質を改善する目的でなされたものであり,その目的には合理性があるといえる。この点に関し,原告らは,別件訴訟事件の暴行事件は本件決定等の3年前の出来事であり,これを事件に関係のない原告らに不利益を強いる本件決定等の内容は不合理であると主張する。しかし,本件決定等は,別件訴訟事件の結果(判決)のみを前提としたものではなく,本件暴行等事件後の調査により発覚した本件ラグビー部員間による継続的な暴力行為の存在と,平成11年1月に発生した本件ラグビー部員間の暴力行為といった経緯を踏まえて,検討され,決定されたものであって,合理性のあるものと解するのが相当である。 さらに,本件決定等が,公式戦辞退の期間を1年間としている点についても,本決定等があくまで教育的手段の一つであり,実施の一方法であることからすれば,固定的に捉えるべきではないこと(実際には半年の出場停止に止まっている)に照らすと,長すぎて合理性を欠いているとまではいえない。 以上のとおり,本件決定等の内容は,社会通念上合理性を欠いているとはいい難く,この判断を覆すに足りる証拠はない。 次に,本件決定等の手続上の問題について検討する。 確かに,本件決定等については,本件ラグビー部員及びその父兄等に事前に説明することなく行われたことが認められる。しかし,そもそも,本件決定等は,学校長の学校教育法に基づく教育課程を編成,執行する権限の行使としてされたものであり,本来,父兄等に事前に説明する必要のない事項である。のみならず,S校長は,本件決定等 し,そもそも,本件決定等は,学校長の学校教育法に基づく教育課程を編成,執行する権限の行使としてされたものであり,本来,父兄等に事前に説明する必要のない事項である。のみならず,S校長は,本件決定等をするに当たり,前記のとおりO理事長,丁理事,被告P,Z教頭と協議し,これらの意見を聴取した上で決定したものであり,手続上何ら問題は認められない。 以上のとおり,本件決定等は,内容面,手続面,いずれの観点からも社会通念上合理性を欠いているとはいえない。 (4) 以上の判断に対し,原告らは,本件決定等が,被告Pの東京都高体連から公式戦出場辞退を迫られたとの虚偽の説明に基づきされたものであり,何ら合理的な理由はないと主張しているので,以下,この点について検討しておくことにする。 アなるほど,証拠(甲7,10,12,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,被告Pは,平成11年9月30日,本件ラグビー部員に対し,本件決定等を告げ,東京都高体連から出場を辞退せよとの要請があったと説明したこと,被告Pは,同年10月1日,本件ラグビー部員の父母らに対し,本件決定等に関連して東京都高体連から出場を辞退するようにとの要請があった旨の話をしたこと,S校長は,判断を誤った旨述べ,父母らに陳謝したことを認めることができ,これに反する証人Sの証言,被告P本人の供述は,前掲証拠に照らし採用することができない。 イしかしながら,本件決定等の判断経過は,前記(2)で認定したとおり,A高校が,本件暴行等事件の後,本件ラグビー部における実態調査,別件訴訟事件における真相解明,平成11年1月に本件ラグビー部内で発生した暴行事件,これらに関連する指導者やOB会の対応等を踏まえて,平成11年8月ころ,公式戦出場辞退をする方向で話合いをして合意をしていたのであって,A高校において,本件 月に本件ラグビー部内で発生した暴行事件,これらに関連する指導者やOB会の対応等を踏まえて,平成11年8月ころ,公式戦出場辞退をする方向で話合いをして合意をしていたのであって,A高校において,本件決定等の要因が東京都高体連から公式戦出場辞退を迫られたこと,そして出場辞退を要請されたとの被告Pの報告にあると認めることはできない。また,被告Pは,A高校のOBとして指導に当たるなど本件ラグビー部にはそれなりの思い入れもあったのであるから,あえて虚偽の報告をしてまで公式戦への出場辞退を導く理由は本件全証拠を検討するも見出すことができない。 ウそして,被告Pが,本件ラグビー部員及びその父兄に対し,本件決定等の理由を東京都高体連から公式戦出場辞退を要請されたと説明したことは,必ずしも前記(2)で認定した事実と矛盾するものではない。かえって,平成11年10月1日,2日の父母会は,1年間の出場辞退という厳しい判断に対してその明確な理由が求められる状況にあり,いずれも本件ラグビー部の活動を熱心に支えてきた父母等であるだけに,被告PやS校長に対して厳しい質問や激しい追及があることは容易に予想,推測できるところであって,このような中で,A高校における出場辞退の方針を告げるに当たり,その立場を説明するために,東京都高体連の判断を口実に持ち出したものとすれば,合理的に理解できるところである。もっとも,その説明が虚偽の内容を含んでいる点に道義上問題がないわけではないが,だからといって,このことが,本件決定等の合理性に影響を与えるものではない。なぜならば,被告Pの説明は,本件決定等の前にされたものではなく,本件決定等の後にされたものに過ぎないからである。しかし,本件全証拠を検討するも,被告Pが本件決定等の前に,S校長に対し,東京都高体連から公式戦出場辞退を要請 ,本件決定等の前にされたものではなく,本件決定等の後にされたものに過ぎないからである。しかし,本件全証拠を検討するも,被告Pが本件決定等の前に,S校長に対し,東京都高体連から公式戦出場辞退を要請されていると説明し,この説明が原因でS校長が本件決定等をしたと認めるに足りる証拠は存在しない。 よって,原告らの前記主張は採用することができない。 (5) 以上のとおり,本件決定等に関しては,社会通念上合理性を欠くと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの被告財団に対する請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がないことになる。 2 争点(2)(被告Pの本件決定等についての不当な関与の有無)について前記1で認定,判断したとおり,S校長が本件決定等を行ったことが社会通念上合理性を欠くとは認めるに足りる証拠はないことから,本件決定等が社会通念上合理性を欠くことを前提とする原告らの被告Pに対する請求は,その余の点を論じるまでもなく理由がないことになる。 なお付言するに,本件全証拠を検討するも,被告Pが本件決定等の前に,S校長に対し,東京都高体連から公式戦出場辞退を要請されていると説明し,この説明が原因でS校長が本件決定等をしたと認めるに足りる証拠がないことは前記1(4)で既に判示したとおりであり,この点からも原告らの主張は理由がないというべきである。 3 結論以上から明らかなとおり,原告らの請求はいずれも理由がないので,これを棄却することにする。 東京地方裁判所民事第36部裁判長裁判官難波孝一裁判官足立正佳 裁判官富澤賢一郎 裁判官足立正佳 裁判官富澤賢一郎

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