- 1 -主文被告人は無罪。 理由 第1本件公訴事実の要旨被告人は,第1法定の除外事由がないのに,平成20年7月19日ころ,大阪府(以下略)の被告人方において,麻薬である2-メチルアミノ-1-(3・4-メチレンジオキシフェニル)プロパン-1-オン(通称メチロン)若干量を飲料水とともに飲み込み,もって,麻薬を施用した。 第2みだりに,同日ころ,前記被告人方において,麻薬である2-メチルアミノ-1-(3・4-メチレンジオキシフェニル)プロパン-1-オン(通称メチロン)の粉末約1.383gを所持した。 第2争点及び論告の概要本件においては,被告人が,平成20年7月19日ころ,被告人方において,メチロンの粉末若干量を飲料水とともに飲み込み,その残量を所持していたこと,その粉末がメチロンであると認識していたことは,証拠上明らかであり,被告人も争っていない。本件の争点は,被告人において,メチロンが麻薬等の違法な薬物であるとの認識が(未必的にせよ)あったか否かである。 検察官は,上記争点に関し,論告において,①被告人が「飲んではいけない違法な薬である」と自認したというA警察官の証言,②被告人が「飲んではいけない。 薬である」と言うのを聞いたというA警察官及びB警察官の証言,③被告人がそ。 れまで違法性の認識を認めていたのに否認に転じたというB警察官の証言,④被告人が盛んに謝罪をしていたというA警察官,B警察官及びC消防士の証言,⑤被告人が採尿や物の提出の際に違法薬物であるとは知らなかった旨の弁解をしなかったというB警察官の証言,⑥被告人の不合理な弁解を指摘し,被告人に違法な薬物であるとの故意があったことは明らかである旨を主張する。 - 2 -第3当裁判所の判断 被告人が「飲んではいけない違法な薬」と発言したか(論告①),, 合理な弁解を指摘し,被告人に違法な薬物であるとの故意があったことは明らかである旨を主張する。 - 2 -第3当裁判所の判断 被告人が「飲んではいけない違法な薬」と発言したか(論告①),,,,( )A警察官は被告人方前において被告人に対しメチロンを示しながら 「これは何か」と聞いたところ,被告人は「これは飲んではいけない薬です。 。 ,違法な薬です」と答えた旨を証言した。 。 ( )しかし,A警察官の上記証言は信用することができない。その理由は,次 のとおりである。 ,。 アまずA警察官の証言ないし供述内容が変遷していることが挙げられるA警察官は,本件当日に作成した捜査報告書において「メチロンという麻薬を飲,んだとの自殺企図者から申告があった」などと,あたかも被告人が当初から麻薬。 施用の認識を自認していたかのような記載をしていた上,検察官の取調べにおいても,被告人から「麻薬」と聞いた旨を供述していたところ,本件証人尋問に先立つ証人テストの際に,実際のやり取りは上記のとおりであったと思い出したというのである。しかし,被告人が「麻薬」とまで自認したのか「薬」と述べるにとど,,まったのかというのは,被告人の認識が当初から捜査の焦点となっていた本件では重要な点であり,A警察官も,特に検察官の取調べの際には重点的に質問された上で供述したはずなのに,上記のように根幹部分で変遷をみせたことは,A警察官の上記証言部分の信用性に大きな疑問を生じさせるものである。A警察官は,本件当時,被告人に質問する前に,違法な薬物であるという疑いを少しは持ったとのことであるが,係るA警察官自身の問題意識と被告人の発言とを混同してしまっているのではないかという懸念は払拭し難い。これと同旨をいう弁護人の主張は理由がある。 イ次に,C う疑いを少しは持ったとのことであるが,係るA警察官自身の問題意識と被告人の発言とを混同してしまっているのではないかという懸念は払拭し難い。これと同旨をいう弁護人の主張は理由がある。 イ次に,C消防士は,A警察官よりも前に,被告人方に赴いて被告人と応対をしたが,被告人は,メチロンが違法であるとか麻薬であるなどとは言っていなかった旨を証言し,B警察官も,被告人が違法と言ったことはない旨を証言している。被告人がA警察官に対し「違法な薬を飲んだ」と自発的に発言していたと,。 - 3 -すれば,同様の発言をB警察官やC消防士にしていてもよいように思われる。このことも,A警察官の上記証言の信用性に疑問を差し挟む事情になる。これと同旨をいう弁護人の主張も理由がある。 ウ検察官は,A警察官は,被告人から「飲んではいけない違法な薬」と言われたために,捜査の必要性を感じ,ともに消防本部に移動してD警察署に連絡を取り,メチロンの規制の有無を確認してもらった上で被告人を任意同行した旨を指摘し,このことから,A警察官の上記証言は信用できる旨を主張する。しかし,A警察官が作成した捜査報告書によると,A警察官は,被告人方付近では,人通りがあり,救急車も通行妨害になることから,まずはE市消防本部に移動することにし,。 ,たに過ぎず捜査の必要性は同消防本部で初めて認識したものと認められる一方C消防士は,同消防本部において,同僚にインターネットで調べてもらい,メチロンが違法ドラッグであることを認識したというのである。そうすると,A警察官が被告人に対する捜査の必要性を認識したのは,被告人の発言ではなく,消防関係者から,メチロンが麻薬であると聞いたことによるという蓋然性は否定できない。検察官の上記主張は理由がない。 エその他,検察官は,A警察官の証言の信用 性を認識したのは,被告人の発言ではなく,消防関係者から,メチロンが麻薬であると聞いたことによるという蓋然性は否定できない。検察官の上記主張は理由がない。 エその他,検察官は,A警察官の証言の信用性を基礎付ける事情をるる指摘するが,いずれも,被告人が「飲んではいけない違法な薬」と発言したか否かという点とは直接の関係を有さないものである。 被告人の「飲んではいけない薬」という発言の評価(論告②)( )A警察官及びB警察官は,被告人がメチロンについて「飲んではいけない 薬である」と述べた旨を証言する。 。 ( )しかし,被告人の上記発言をもって,被告人がメチロンを違法な薬物であ ると認識していたことを基礎付ける事情とみることはできない。その理由は,次のとおりである。 アまず,被告人は,最初に被告人方に到着したC消防士らに対し,ほぼ全裸の状態で姿を現した上,その後も,興奮したり常に謝ったりしてクリアな状態で- 4 -はなかったというのである。被告人の当時の症状からすると,被告人が,心身に悪,「」影響を及ぼしてしまう薬を服用してしまったという意味で飲んではいけない薬と発言した蓋然性がある。現に,C消防士は,被告人に対し「飲んだらあかん薬,を飲むのを止めて,ちゃんと自分で謝らんとあかんのん違うの」と申し向けたも。 のの,これは,違法な薬を飲んではいけないという意味ではなく,気分を高揚させるなどの体によくない薬を飲んではいけないという意味で述べたものである。これと同旨をいう弁護人の主張は理由がある。 イ加えて,上記1のとおり,被告人が「飲んではいけない薬」とは発言,したものの「違法な薬」であるとか「麻薬」であると発言したとは認められな,,い。 被告人は違法薬物の認識について否認に転じたのか(論告③)( )B警察 が「飲んではいけない薬」とは発言,したものの「違法な薬」であるとか「麻薬」であると発言したとは認められな,,い。 被告人は違法薬物の認識について否認に転じたのか(論告③)( )B警察官は,被告人に対し,メチロンが以前から麻薬指定されているわけ ではないのに,なぜ違法であると知っていたのかという趣旨の質問をしたところ,被告人は「違法やったんですか」と逆に質問をしてきたので,否認に転じたと,。 思った旨を証言する。 ( )しかし,被告人の上記発言をもって,違法薬物の認識について自認から否 認に転じたものと断定することはできない。その理由は,次のとおりである。 アまず,上記1のとおり,被告人が,メチロンについて「違法な薬」で,あるとか「麻薬」であると発言したとは認められない。また,被告人は,メチロ,ンについて「飲んではいけない薬」とは述べたものの,上記2のとおり,その発,言をもって,メチロンを違法な薬物であると認識していたことを基礎付ける事情とみることはできない。したがって,被告人がメチロンを違法薬物であると自認していたとは,そもそも認められない。 イそして,B警察官が証言するところの同警察官と被告人とのやり取りをみても,被告人の発言は,B警察官の指摘により,メチロンが違法な薬物であると初めて認識して驚きの反応を示したものとも評価しうるものである。これと同旨を- 5 -いう弁護人の主張は理由がある。 被告人の謝罪の評価(論告④)( )C消防士,A警察官及びB警察官は,被告人が盛んに謝罪をしていた旨を 証言した。 ( )しかし,被告人は,上記の発言の趣旨について「体調を崩して救急車を ,呼び,人にたくさん来てもらい,大事になってしまい,迷惑をかけたということである」旨を供述する。上記2( )アに指摘 ( )しかし,被告人は,上記の発言の趣旨について「体調を崩して救急車を ,呼び,人にたくさん来てもらい,大事になってしまい,迷惑をかけたということである」旨を供述する。上記2( )アに指摘した被告人の当時の体調に照らして,。 被告人の上記供述は相応の合理性があるといえる。したがって,被告人が謝罪をしたことをもって,被告人がメチロンを違法な薬物であると認識していたことを基礎付ける事情とみることはできない。これと同旨をいう弁護人の主張は理由がある。 尿やメチロンの任意提出時における被告人の態度の評価(論告⑤)( )B警察官は,被告人に対し,違法な薬物が検出されれば逮捕する旨を告げ た上で,尿とメチロン粉末の任意提出を受けたが,被告人は,うなだれて落ち込んだ様子であり,違法とは分かっていなかった旨の弁解をしなかった旨を証言する。 ( )しかし,これまで説示したとおり,被告人が,尿等を任意提出するまでの 間に,メチロンが違法な薬物であると自認していたとは認められない。また,その旨の被告人の自白調書等が作成されたという証跡も全くない。一方,上記4で説示したとおり,被告人がうなだれて落ち込んでいたのは,多くの人に来てもらうという意味で迷惑をかけたことについて自省していたとみる余地も十分ある。いずれにせよ,被告人の上記の態度から,被告人が違法薬物との認識を有していたと推認することはできない。 被告人の弁解の評価(論告⑥)( )検察官は,被告人が,被告人方から消防本部,警察署,病院等への行き帰 りやその際の会話内容,尿やメチロンの任意提出状況について断片的な記憶しかないと供述するのは信用できない旨を主張する。しかし,上記2( )アに指摘した被 告人の当時の体調のほか,被告人自らが110番通報するほどの状態であったこと- 任意提出状況について断片的な記憶しかないと供述するのは信用できない旨を主張する。しかし,上記2( )アに指摘した被 告人の当時の体調のほか,被告人自らが110番通報するほどの状態であったこと- 6 -に照らすと,当時の被告人には,メチロンの薬理作用が相当強く生じていたものと推認される。そうすると,被告人の当時の記憶が,係る薬理作用により断片的なものになっていたとしても,特に不自然とまではいえない。 ( )検察官は,被告人がメチロンをインターネットで購入する際に「合法ドラ ッグ」であると認識していたというのであるから,その後に同様の薬物関連サイト,,にアクセスする過程でメチロンが麻薬指定されたことは認識していたはずであり係る認識を否定する被告人の供述は信用できない旨を主張する。 ,,,そこで検討すると被告人は本件のメチロンをインターネットで注文したのは麻薬指定される前の平成16年9月初めころである旨を供述しているところ,検察官は,被告人のインターネットの履歴に関する証拠を全く提出しておらず,被告人の上記供述を排斥することは困難である。検察官は,捜査時にインターネットでメチロンを検索したところ,メチロンが麻薬である旨を記載したホームページにアクセスすることができた旨の証拠を提出するが,被告人が係るホームページを閲覧したという証跡はないし,薬物犯罪捜査に関わっていたB警察官や救急隊員であるC消防士ですらメチロンが麻薬であることを知らなかったというのであるから,上記証拠だけで,本件当時までに被告人がインターネットによりメチロンが麻薬である旨の認識を有するに至っていたと認定することはできない。 したがって,被告人において,メチロンが「合法ドラッグ」であると認識していたことは認められるものの,そこから進んで,メチロンが麻薬指定さ である旨の認識を有するに至っていたと認定することはできない。 したがって,被告人において,メチロンが「合法ドラッグ」であると認識していたことは認められるものの,そこから進んで,メチロンが麻薬指定されたとか,違法薬物であるなどと(未必的にせよ)認識していたと認定するには,なお合理的な疑いが残るというべきである。これと同旨をいう弁護人の主張は理由がある。 ( )検察官は,被告人がメチロンをサプリメントと思っていたというのは不自 然である旨を主張する。確かに,被告人は,捜査段階では,メチロンが違法薬物であるとの認識を否定する一方で,いわゆる「合法ドラッグ」と認識していたことは,。 認めていたのに公判段階では合理的な説明をすることなく供述を変遷させているしかし,係る被告人供述の変遷は,違法薬物との認識がなかったことを少しでも理- 7 -解してもらおうとして「合法ドラッグ」と認識していたことも隠そうと考え,過,剰な防御反応を示したとみる余地はある。 ( )検察官は,証人尋問等によっては,被告人に違法薬物の認識があったとの 立証に成功しておらず,係る状況において,被告人供述の不合理性のみをもって,被告人に違法薬物の認識が(未必的にせよ)あったと認定することは相当困難であ,,,るが上記に説示したところからも明らかなとおり検察官の主張を前提としても被告人供述からそのような認定をすることはできないというべきである。 第4 結論 以上の次第で,被告人において,メチロンが麻薬等の違法な薬物であるとの認識を(未必的にせよ)有しながら,本件公訴事実の施用行為及び所持行為に及んだとするには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。したがって,本件公訴事実は,いずれも犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをする。 よ 施用行為及び所持行為に及んだとするには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。したがって,本件公訴事実は,いずれも犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 〔求刑懲役1年,メチロン没収〕平成21年3月3日大阪地方裁判所第11刑事部裁判官千賀卓郎
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