主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実および理由第1 請求被告は原告に対し1000万円とこれに対する平成14年4月17日から支払いずみまで年6%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,任意加入の団体定期生命保険契約の被保険者であった者の母親が,保険者に対し,自己が保険金受取人に該当するとして,死亡保険金1000万円とこれに対する保険事故発生(被保険者の死亡)の後である平成14年4月17日から支払いずみまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 1 争いのない事実(1) 保険契約ア全国町村会は,全国町村等職員任意共済保険制度を運営するため,被告を含む複数の生命保険会社との間で,全国町村等職員任意共済保険制度の加入者(町村の職員等)を被保険者とする任意加入団体定期保険契約を締結している(全国町村等職員任意共済保険規程14条の2。以下「本件団体定期保険契約」という)。保険期間は1年間であり,毎年1月1日に更新される。任意加入であるから,加入した被保険者がみずから保険料を支払い,保険金受取人を指定することができる(いわゆるBグループ保険)。 本件団体定期保険契約は,各生命保険会社が協定によって定められた引受割合に応じて保険契約上の権利義務を有する共同取扱契約であり,全国町村会を保険契約者とし各生命保険会社を保険者とする生命保険契約が別個独立に成立した形になっているが,現実の保険実務は,幹事会社が非幹事会社から委任を受け,すべての保険事務を行っている(団体定期保険共同取扱契約協定書2条,4条)。被告(当時は「○○」)は平成○年○月当時幹事会社であった。 イ Aは,B町役場に就職した後の昭和59年1月,全国町村等職員 べての保険事務を行っている(団体定期保険共同取扱契約協定書2条,4条)。被告(当時は「○○」)は平成○年○月当時幹事会社であった。 イ Aは,B町役場に就職した後の昭和59年1月,全国町村等職員任意共済保険制度に加入して本件団体定期保険契約の被保険者となり,毎年更新してきた。その保険金額は1000万円であるが,Aは死亡保険金の受取人を指定していなかった。 (2) 共済保険規程本件団体定期保険契約に適用される全国町村等職員任意共済保険規程(以下「本件規程」という)には以下の条項がある。 9条1項保険金は,加入者(注・被保険者のこと)が次の各号のいずれかに該当する場合に支払う。 (1) 加入者が保険期間中の死亡したとき。((2)以下は略)2項前項に該当する場合においても,次に掲げるときは保険金を支払わないものとする。 (3) 保険金受取人の故意によるとき。((1),(2)と(4)は略)5条1項加入者は,第9条第1項第1号(加入者が死亡したとき)による場合の保険金受取人を指定するものとする。指定しなかったとき又は指定した受取人が死亡し,再指定されていなかったとき死亡保険金の支払事由が生じた場合は,加入者の配偶者,子(子が死亡している場合はその直系卑族),父母,祖父母,兄弟姉妹の順位に従って死亡保険金受取人が指定されてあったものとする。この場合同順位の者が2人以上あるときは,死亡保険金はその人数によって等分するものとする。 (3) 保険事故の発生Aの妻のCは,Aが他の女性と交際しているなどと邪推し,平成○年○月○日,自宅において,Aに対し頸部をビニールひもで絞めるなどの暴行を加え,これによりAを窒息死させて殺害した。 Cは約2か月前の同年○月○日にAと婚姻し同居を始めたばかりであった。 Cは同年○月○日にD地方裁 おいて,Aに対し頸部をビニールひもで絞めるなどの暴行を加え,これによりAを窒息死させて殺害した。 Cは約2か月前の同年○月○日にAと婚姻し同居を始めたばかりであった。 Cは同年○月○日にD地方裁判所でこの殺人の罪により懲役10年の実刑判決を受けた。 (4) 身分関係Aに子はいない。原告はAの母である。 2 争点本件規程5条1項と9条2項3号の解釈(1)原告の主張本件規程5条1項は,Aの場合のように被保険者が配偶者の故意により死亡したときは,信義則上,配偶者を保険金受取人の順位から除外すると解釈すべきである。なぜなら,受取人の順位を定めた本件規程5条1項は,被保険者の意思を推定したものにすぎず,これが定められた理由も,支払事由が生じたときに支払いに不都合が生ずることを防ぐという便宜的なものにすぎないからである。このように解釈することによって,殺人行為のもっとも直接的な被害者である原告の気持ちを慰藉することにもなり,近時急速に高まっている被害者補償の要請にも応えることになる。被保険者であるAの意思にもそう。 被告の解釈に基づく結論は,息子を妻によって殺害された事件の直接の被害者である原告にとってはあまりにも不公正であり,またその結論が長年保険料の支払いを継続してきた息子の意思にそぐわないことも事実である。そもそも発生件数が年間数件にとどまる本件のような事例について原告の請求を認容したとしても保険約款全体を危うくすることにはならない。 よって,Aについて保険事故が発生し,原告がその保険金受取人であるから,原告は被告に対し死亡保険金を請求することができる。 (2)被告の主張本件の事実関係は,①妻が被保険者である夫を殺害した,②保険金受取人指定はされていなかった,ということにつきる。したがって,死亡保険金を支払わない場合を定め 請求することができる。 (2)被告の主張本件の事実関係は,①妻が被保険者である夫を殺害した,②保険金受取人指定はされていなかった,ということにつきる。したがって,死亡保険金を支払わない場合を定めた本件規程9条2項3号の「保険金受取人の故意によるとき」にいう「保険金受取人」に,受取人の指定がない場合に本件規程5条1項によって受取人となる者も含まれるか,という規程の解釈が問題となる。 本件規程5条1項を素直に読めば,死亡保険金の支払事由が生じた場合(被保険者が死亡した場合)に死亡保険金受取人が指定されていなかったときは,被保険者の配偶者が受取人になることが明らかである。配偶者が受取人とされた場合,免責事由の存否は配偶者について判断し,もし免責事由があれば保険金を支払わない。保険金請求権は受取人の固有財産であるから,保険金不払いの場合に次順位に保険金請求権が移ることはない。 また,本件規程9条2項3号の「保険金受取人」は,「5条1項により受取人とされた者をのぞく」などのなんらの留保もされていない。したがって,本件規程5条1項によって死亡保険金受取人とされた者が故意に被保険者を殺害した場合が本件規程9条2項3号の免責事由に該当することは明らかである。 原告の主張は,受取人指定がない場合に受取人とされる者が故意に被保険者を死亡させたときは,次順位で受取人とされる者を受取人とすべきであるというものであるが,商法や約款,さらに本件規程はそのような立場を採用しておらず,恣意的な解釈によって原告を受取人とすることはできない。 このように,本件は保険金受取人である配偶者が被保険者を殺害したのであるから,免責事由に該当し,被告は保険金を支払うことができない。 第3 争点に対する判断本件規程9条2項3号は商法680条1項2号本文と同じことを定めている 人である配偶者が被保険者を殺害したのであるから,免責事由に該当し,被告は保険金を支払うことができない。 第3 争点に対する判断本件規程9条2項3号は商法680条1項2号本文と同じことを定めている。その趣旨は,生命保険契約において,保険金受取人が殺人という犯罪行為によって故意に保険事故を招致したときにも保険金を入手できるとすることは,公益に反し,信義誠実の原則にも反するものであるから,保険金の支払いを制限すべきであるというところにある(最判平成14年10月3日民集56巻8号1706頁)。この趣旨からして,殺害当時殺害者に保険金取得の意図があったかどうかにかかわらず,保険者は免責される(最判昭和42年1月31日民集21巻1号77頁)。 したがって,本件においてCが保険金受取人であるならば,被保険者であるAはCによって殺害されたのであるから,被告は免責される。 そこで,Cが保険金受取人であるかどうかが問題となる。 本件規程5条1項は,被保険者が死亡した場合の保険金請求権の帰属を明確にすることを目的とする条項であると解される。Aは死亡保険金受取人を指定していなかったから,本件規程5条1項により,死亡保険金の支払事由が生じた場合,すなわちAが死亡した場合,妻(配偶者)であるCが保険金受取人に「指定されてあったもの」とされる。 この条項を素直に読めば,Cが保険金受取人であることは明らかである。 これに対し原告は,本件の事例では,Cは保険金受取人の地位から当然に排除され,本件規程5条1項の定める順位にしたがい原告が保険金受取人になると主張する。しかし,原告の主張を前提にすると,本件規程5条1項と本件規程9条2項3号を整合的に解釈することができなくなってしまう。すなわち,原告は,本件規程9条2項3号によりCに保険金を支払うことができないから,本件規 告の主張を前提にすると,本件規程5条1項と本件規程9条2項3号を整合的に解釈することができなくなってしまう。すなわち,原告は,本件規程9条2項3号によりCに保険金を支払うことができないから,本件規程5条1項の解釈として,Cではなく原告が保険金受取人に「指定されてあったもの」とされるというのであるが,本件規程9条2項3号が適用されるのであれば,その文言上当然にCが保険金受取人であるといわざるをえないし,逆に,原告が保険金受取人であれば,そもそも本件規程9条2項3号を適用する余地はない。本件規程9条2項3号の適用においては原告は保険金受取人ではないが,本件規程5条1項の適用においては原告が保険金受取人であるというのは矛盾である。 また,原告の解釈によれば,死亡保険金受取人が指定されていなかった場合,本件規程5条1項により第1順位の保険金受取人となる者が被保険者を殺害したときでも必ずだれかに保険金が支払われることになり,結局保険者は免責されないが,これは死亡保険金受取人が指定されていた場合に保険者が免責されるのと著しく均衡を欠き妥当でない。 したがって原告の解釈を採用することはできない。 以上の検討の結果,CはAの死亡保険金受取人であるが,免責事由があるため,被告はCに対する保険金の支払義務を免れるということになる。よって,原告はそもそも保険金受取人ではないし,被告には免責事由もあるから,原告の被告に対する保険金請求を認容することはできない。 甲府地方裁判所民事部裁判官倉地康弘
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