平成14(ワ)11664 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成15年11月28日 東京地方裁判所
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判決文本文34,017 文字)

平成15年11月28日判決言渡平成14年(ワ)第11664号損害賠償請求事件判決 主文 1 被告は,原告Aに対し,金1億6631万8042円及びこれに対する平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金420万円及びこれに対する平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,被告の負担とする。 5 この判決は,原告ら勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,金1億7331万8042円及びこれに対する平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金550万円及びこれに対する平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが,被告に対し,原告Aが,被告経営の美容外科医院において,被告の執刀により,全身麻酔下で豊胸手術を受けたところ,その後,麻酔から覚醒する前に異常を生じ,結果的に低酸素脳症による植物状態となったが,被告には,麻酔管理を十分行わなかった過失,麻酔専門医ないし麻酔標榜医を置かないで全身麻酔を施行した過失,局所麻酔剤過量投与の過失があり,また,術前の説明義務違反があったとして,不法行為又は債務不履行に基づき,慰謝料等の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め 前の説明義務違反があったとして,不法行為又は債務不履行に基づき,慰謝料等の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 1 争いのない事実等(1)ア原告Aは,昭和49年7月5日生まれの女性であり,平成13年4月26日(以下,特に年を記載しない限り,平成13年のことである。)当時,26歳であった。原告Bは,同日当時,原告Aの夫であった(甲C1)。 イ被告は,東京都渋谷区内において,Cクリニックの名称で,美容外科医院(以下「被告クリニック」という。)を開設する医師である(争いのない事実)。 被告クリニックは,雑誌やインターネット上に広告を掲載し,ビラをまいて「美容外科・形成外科・皮膚科・麻酔科」「技術レベルの高いクリニック」「日本で唯一,本当の意味で,無痛麻酔,無痛手術を行っているクリニック」「Cは痛みは嫌いです。高度な麻酔技術によって,麻酔の時の針を刺す痛みすら感じることなく,また手術中,手術後まで全く痛みがありません。」などと宣伝していた(争いのない事実)。 (2) 原告Aは,被告との間で,4月23日,被告クリニックにおいて,手術代金126万円で豊胸手術を受ける旨の診療契約を締結し,代金の内金42万円を支払った(争いのない事実)。 (3) 原告Aは,被告に対し,同月26日,残代金84万円を支払って,被告の執刀による全身麻酔下での豊胸手術を受けた(以下「本件手術」という。)。本件手術は,被告一人によって実施され,他に,麻酔医や看護師,助手等の立会いはなかった(争いのない事実)。 (4) 原告Aは,本件手術終了後,吸入麻酔を終了しても,意識が回復しなかった。被告は,119番通報をし によって実施され,他に,麻酔医や看護師,助手等の立会いはなかった(争いのない事実)。 (4) 原告Aは,本件手術終了後,吸入麻酔を終了しても,意識が回復しなかった。被告は,119番通報をし,救急隊は,同日午後2時45分,被告クリニックに到着し,原告を救急車で搬送して,午後3時12分,D病院に到着した(争いのない事実,甲A2の1)。 (5) 原告Aは,D病院において,心臓マッサージ等の救命治療を受け,一命をとりとめたが,低酸素脳症を生じて意識が回復せずに植物状態になり,7月31日,両上下肢機能障害及び体幹機能障害の後遺症を残したと診断され,8月7日,医療法人E病院に転院し低酸素脳症の治療を受けているが治癒の見込みが立っていない(争いない事実,甲A2の1,B1,2)。 2 争点(1) 被告クリニックの診療録等のねつ造の有無及び被告クリニックにおける診療経過(2) 麻酔管理を十分行わなかった過失の有無(3) 麻酔専門医ないし麻酔標榜医を置かないで全身麻酔を施行した過失の有無(判断の必要がなかった。)(4) 局所麻酔剤過量投与の過失の有無(判断の必要がなかった。)(5) 説明義務違反の有無(判断の必要がなかった。)(6) 因果関係及び損害 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(被告クリニックの診療録等のねつ造の有無及び被告クリニックにおける診療経過)について(原告らの主張)ア原告Aの被告クリニックにおける診療経過は,別紙診療経過一覧表「原告の主張」欄記載のとおりであり,その要旨は以下のとおりである。 (ア) 被告は,原告Aに対し,4月23日の初診時に,麻酔の危険性や悪性高熱についての説明は全く 原告の主張」欄記載のとおりであり,その要旨は以下のとおりである。 (ア) 被告は,原告Aに対し,4月23日の初診時に,麻酔の危険性や悪性高熱についての説明は全くしなかった。 (イ) 被告は,原告Aに対し,同月26日午前10時から,一人で麻酔導入を行い,全身麻酔下で,人工呼吸器を利用して人工呼吸を行いながら,豊胸手術を行った。 (ウ) 本件手術は,同日午後0時に終了し,被告が吸入麻酔を終了したところ,原告Aは,午後0時10分から自発呼吸を開始した。 (エ) 原告Aは,午後0時15分を過ぎても,意識が回復せず,悪寒による震えが始まった。その後,ETCO2 (呼気終末二酸化炭素量)が70ないし75台へ上昇し,SPO2 (酸素飽和度)が97ないし96へ下降したため,被告は,用手的に,原告Aの呼吸をアシストした。 (オ) 原告Aは,午後2時,悪寒による震えが持続的に増加し,体温が40℃に上昇した。 (カ) 被告は,午後2時41分に救急要請したところ,午後2時45分に救急車が被告クリニックに到着した。原告Aは,意識がなく,脈拍82,血圧96/54であり,午後3時4分に救急車で被告クリニックを出発し,午後3時12分にD病院に到着したが,その時の心拍数は186,血圧51/15,体温41.2℃であった。 イ被告は,同日,原告Aが搬送されたD病院において,D病院の医師から本件手術及び麻酔の経過を聴取されたが,その際,被告クリニックにおいて上記のとおりの診療経過であった旨述べていた。 ウ被告作成の診療録(以下「本件診療録」という。)及び麻酔記録(以下「本件麻酔記録」という。)には,被告が,原告Aに対し, リニックにおいて上記のとおりの診療経過であった旨述べていた。 ウ被告作成の診療録(以下「本件診療録」という。)及び麻酔記録(以下「本件麻酔記録」という。)には,被告が,原告Aに対し,同日午前55分ころ麻酔を導入し,午後0時15分に手術を開始し,本件手術は,同日午後1時56分ころ終了した旨の上記アの記載とは全く異なる記載がされているが,本件診療録及び本件麻酔記録は,被告が,事後的に,原告の立証を妨害する意図をもって,虚偽の内容を記載して作成したものであり,全く信用することができない。 被告は,7月12日,証拠保全の検証期日において,裁判官から本件についての診療録等の検証物の提示を求められたにもかかわらず,診療録等を自宅に置いているとの理由でその提出を拒んだ。また,D病院の医師が,被告に対し,5月7日,電話で診療情報等の提供を求めたところ,被告は,2,3日中に作成して提供すると回答したものの,これをしなかった。その後,D病院の救急部長は,被告に対し,同月14日,原告Aの病歴について情報提供を求める書面を郵送したが,被告は,これにも応じず,証拠保全の検証期日の翌日である7月13日になって初めてD病院に対して,本件麻酔記録及び手術経過説明書を渡した。このように,被告が再三本件に関する診療録等の提出を拒んだのは,自らの医療ミス発覚をおそれたからにほかならない。 また,本件診療録は,7丁からなるうち,2,3丁には豊胸手術の説明が,4,5丁には麻酔の説明が,一気に書き上げた筆跡で記載されており,そして,7丁には,本件についての診断として,MHすなわち悪性高熱以外は考えられないと記載している。これらの説明部分及び診断部分は,記載の内容及び筆跡等からみて,本件発生後に説明義務を問われないようにするために には,本件についての診断として,MHすなわち悪性高熱以外は考えられないと記載している。これらの説明部分及び診断部分は,記載の内容及び筆跡等からみて,本件発生後に説明義務を問われないようにするために説明部分を詳細に記載し,本件の原因が悪性高熱であることを強調して,自らの責任を回避するべく画策したものである。 さらに,本件麻酔記録は,麻酔中の血圧を5分ごとに測定したかのように記載しており,数値にほとんど乱れがなく,体温も15分ごとの測定で36℃に一定しているという驚くほどの安定した数値となっており,また,本件手術及び麻酔の終了直後からは血圧や体温の上昇を示した旨の記載となっているが,文字の乱れや書き損じが全くなく,これらの記載の体裁からして,後日,一気に書き上げたものであることは明らかである。 エ被告は,上記のとおり,医療の通常の事務処理の過程において診療録及び麻酔記録を作成せず,事後的に,原告の立証を妨害する意図をもって本件診療録及び本件麻酔記録をねつ造したものであって,かかる行為は,証明妨害に当たり,信義則に違背するものであるから,民事訴訟法232条,223条,224条を類推適用して,原告らの主張が真実と認められるべきである。 (被告の主張)ア原告Aの被告クリニックにおける診療経過は,別紙診療経過一覧表「診療経過」及び「検査・処置」欄記載のとおりであり,その要旨は以下のとおりである。 (ア) 被告は,原告Aに対し,4月23日の初診時に,原告Aから豊胸手術の打診を受け,本件手術の内容を説明したほか,麻酔の危険性について2回説明し,悪性高熱についても説明した。同時に既往歴や家族歴等についても問診した。 (イ) 原告Aは,同月26日午前1 打診を受け,本件手術の内容を説明したほか,麻酔の危険性について2回説明し,悪性高熱についても説明した。同時に既往歴や家族歴等についても問診した。 (イ) 原告Aは,同月26日午前11時ころ来院し,午前11時30分手術室に入室し,モニターを接続した。 (ウ) 被告は,原告Aに対し,午前11時55分ころ麻酔を導入し,午後0時15分,手術を開始した。 (エ) 本件手術は,午後1時56分ころ終了し,被告は,麻酔を停止して,1分当たり6リットルの純酸素で換気を開始した。 (オ) 原告Aには,午後2時10分ころ,かすかなシバリング(震え)が発生した。被告は,原告Aについて自発呼吸に切り替えた。 (カ) 原告Aは,午後2時20分ころ,けいれんが強くなり,時折筋強直状態となったため,被告は,原告Aに対し,用手的呼吸補助を実施し,酸素吸入を1分当たり10リットルとした。 (キ) 被告は,午後2時25分ころ,救急要請を行うとともに,原告Aに対し,アルコール冷却を行った。 (ク) 救急車は,被告クリニックに午後2時45分に到着し,午後3時に,原告Aを乗せて被告クリニックを出発した。そのころ,原告Aの筋強直の頻度が上昇した。 (ケ) 救急車は,午後3時12分,D病院に到着した。 イ本件診療録は,被告が原告Aの来院時,問診及び説明をした際や本件手術前に記載したものであり,本件麻酔記録は,被告が本件手術中に記載したものであって,いずれも正確である。被告は,本件診療録及び本件麻酔記録を何らねつ造していない。 ウ被告は,D病院の医師に原告Aの経過を聴取された際に,緊急時で混乱していたため,時刻等につい あって,いずれも正確である。被告は,本件診療録及び本件麻酔記録を何らねつ造していない。 ウ被告は,D病院の医師に原告Aの経過を聴取された際に,緊急時で混乱していたため,時刻等について誤った説明をした可能性がある。 また,D病院の診療録中,被告クリニックでの診療経過について触れた部分は,当初未熟な研修医が被告から十分な聞き取りをしないまま記載したもの及び他の医師がこれを鵜呑みにして記載したものであって,信用できない。 エ被告は,裁判所の証拠保全が行われた7月12日には,本件診療録等を被告の自宅に保管していたところ,当日は麻酔中の患者や被告の診療を待っていた多くの患者がいたので,本件診療録等を自宅に取りに帰ることができず,裁判官の了承を得て,同月13日に提出したものである。 (2) 争点(2)(麻酔管理を十分行わなかった注意義務違反の有無)について(原告らの主張)ア被告は,原告Aに対して全身麻酔を用いて豊胸手術を行って4月26日午後0時にこれを終えた。原告Aは,自発呼吸に戻ったものの,意識は回復せず,間もなく体温も上昇して寒さからの震えを生じ,ETCO2 も75と上昇して高炭酸ガス血症を呈し,SaO2 (酸素飽和度)も100から96へと酸素不足状態になって,換気量が減少している症状を示すに至った。このような状態にあった原告Aに対しては,酸素を十分に吸引させる一方,換気の障害が何であるかの原因をつかみ,早急にその障害を取り除かなければならない緊急事態になった。 被告には,全身麻酔下にある原告Aの麻酔管理を適切に行うべき注意義務があり,用手的方法では換気の障害を打開できないことを知ったのであるから,直ちに換気量,気道内圧,気流速度等を管理する人工呼吸器を用い 告には,全身麻酔下にある原告Aの麻酔管理を適切に行うべき注意義務があり,用手的方法では換気の障害を打開できないことを知ったのであるから,直ちに換気量,気道内圧,気流速度等を管理する人工呼吸器を用いて,O2,CO2の吸気及び呼気を有効に管理する一方,その換気に支障を及ぼしている原因をつかみ,これを是正して換気が円滑に行われるようにするなどして,原告Aに対して,低酸素,高炭酸ガスの危険な身体的状況から早急に脱出させる麻酔管理を行い,これができないときは直ちに麻酔管理医が常駐している病院に搬出するべき注意義務があったところ,被告は,これらを怠り原告Aの自発呼吸に委ね,あるいは再挿管後用手的に呼吸をアシストするにとどまり,原告Aを長時間低酸素,高炭酸ガスの状態に置いて,低酸素脳症の重大な結果を引き起こしたものであって,被告には麻酔管理を十分行わなかった注意義務違反がある。 イ被告は,原告Aの低酸素脳症の原因が悪性高熱を発症したことにあると主張するが,原告Aは,悪性高熱を発症したものではない。 原告Aは,①カリウムの上昇が軽度であった,②明らかな褐色尿がなかった,③比較的少量のダントロレンで短時間に改善がみられた,④筋生検の結果CICR(CainducedCarelease)の亢進が認められなかったのであって,悪性高熱には当たらない。搬送先のD病院も,後に筋生検を行ったF大学麻酔科の教授も,原告Aについて悪性高熱を否定している。 ウ仮に,原告Aに生じた低酸素脳症の原因が悪性高熱によるものであったとしても,被告は,全身麻酔の施行によって悪性高熱というリスクが生じることがあると認識していたのであるから,悪性高熱の症状を認めた場合には,症状をくい止め,直ちに症状を解消させる注意義務があった。 被告は,全身麻酔の施行によって悪性高熱というリスクが生じることがあると認識していたのであるから,悪性高熱の症状を認めた場合には,症状をくい止め,直ちに症状を解消させる注意義務があった。 すなわち,まず,被告は,あらかじめ悪性高熱を解消させる治療薬ダントロレンを用意し,いつでも投与できる準備をしておくべきであった。 この準備のないまま全身麻酔を施行し,その麻酔中ないし麻酔終了直後に,悪性高熱が生じたと認めた場合には,①麻酔中であれば,原因となる麻酔薬の投与を中止して,麻酔状態を解消できるようにする,②アルコールによる全身清拭や氷を用いた全身の表面冷却を行って,体温の冷却を直ちに行う,③ダントロレンを薬局又は近隣の病院から取り寄せ,あるいはその担当麻酔医に緊急応援を頼み,ダントロレンの投与によって悪性高熱の悪化を防ぐべき注意義務があった。 被告は,上記各注意義務があったにもかかわらず,ダントロレンの準備を怠り,また,悪性高熱であると認めたにもかかわらず,身体冷却並びにダントロレンの取寄せ及び投与のいずれも怠って,無為に時間を浪費し,原告Aの悪性高熱の状態を悪化させて,原告Aを改善不可能な状態に追い込んだ注意義務違反がある。 (被告の主張)ア原告Aの異常は,悪性高熱を発症したことによるのであって,低酸素血症及び高炭酸ガス血症によるものではない。低酸素血症及び高炭酸ガス血症の場合には,熱産生ができないのであって,本件のように体温が40℃以上まで上昇することはあり得ないし,CPK値ないしCK値が17000まで上昇することはない。 悪性高熱とは,全身麻酔時,特に吸入麻酔薬によって引き起こされる致命的な合併症であり,症状として,①異常高熱,②筋強直,③異常代謝 いしCK値が17000まで上昇することはない。 悪性高熱とは,全身麻酔時,特に吸入麻酔薬によって引き起こされる致命的な合併症であり,症状として,①異常高熱,②筋強直,③異常代謝亢進のほか,頻脈,不整脈,重篤なアシドーシス,高CPK(CK)血症等を呈するとされる。悪性高熱の診断基準として多く用いられているのは,クリニカル・グレイディング・スケール(以下「CGS」という。)であり,その内容は,別紙クリニカル・グレイディング・スケール記載のとおりである。 原告Aは,搬送後のD病院において筋強直を生じていた。筋崩壊についても,CK値が17000という異常高値を示していたし,被告自身が原告Aのコーラ様尿を認めており,D病院における尿検査で尿中ミオグロビン量も+3と最高値を示していた。また,原告Aは,D病院において,PaCO2 値が55.8であったし,異常な頻呼吸が認められていたので,呼吸性アシドーシスの状態にあったといえる。原告Aは,D病院搬送直後に,体温41.2℃を記録していたし,被告クリニックにおいて,体温が急激に上昇していたことは,別紙診療経過一覧表「検査・処置」欄記載のとおりである。原告Aは,D病院搬送後,心室性頻脈を生じていたし,BaseExcess(酸塩基平衡。以下「BE」という。)についても,-9.7という高い数値を記録し,phも7.202を記録した。さらに,原告Aは,D病院において,静脈注射によるダントロレンの投与を受けたところ,代謝性アシドーシスが急速に改善された。 これらをCGSに当てはめると,原告Aは,合計83点となり,悪性高熱であったことがほぼ確実である。 これに対し,原告らは,原告Aには,①カリウムの上昇が軽度であったこと これらをCGSに当てはめると,原告Aは,合計83点となり,悪性高熱であったことがほぼ確実である。 これに対し,原告らは,原告Aには,①カリウムの上昇が軽度であったこと,②明らかな褐色尿がなかったこと,③比較的少量のダントロレンで短時間に改善がみられたこと,④筋生検の結果CICRの亢進が認められなかったことを理由として,悪性高熱を否定するしかし,①については,悪性高熱を認めるための絶対的条件ではないし,原告Aのカリウム値は,D病院搬送直後には5.2を記録しているところ,4月23日の測定値は4であり,4月26日より後は3程度を維持していたのであるから,5.2との測定値は,軽度の上昇ではない。②については,被告自身がD病院において褐色尿を現認している上,D病院の尿検査では,高濃度のミオグロビンが検出されており,褐色尿が生じないことはあり得ない。③については,悪性高熱を否定する理由となる根拠が不明である。④については,悪性高熱のメカニズム自体研究段階であって,CICR検査も研究中のテストにすぎず,しかも,世界的に統一された方法や診断基準が確立しているわけではない。さらに,悪性高熱であっても同検査によって陽性反応が認められない場合もある。したがって,これらは,原告Aの悪性高熱を否定する理由とはならない。 イ被告は,原告Aに対して,全身麻酔下における麻酔管理を適切に行った。被告は,原告Aに対して,麻酔導入時から気管内挿管を実施し,その後も抜管をしていないのであって,本件手術及び麻酔中は人工呼吸器を使用し,その後麻酔を終了して自発呼吸を開始した際には,用手的に呼吸補助を行って,原告Aの呼吸状態を有効に管理していた。 ウ悪性高熱は極めてまれな疾患で,悪性高熱の発症の予見はほ 吸器を使用し,その後麻酔を終了して自発呼吸を開始した際には,用手的に呼吸補助を行って,原告Aの呼吸状態を有効に管理していた。 ウ悪性高熱は極めてまれな疾患で,悪性高熱の発症の予見はほとんど不可能であるし,被告は,原告Aにおいてけいれんが強くなり,時折筋強直状態を示したことから,悪性高熱の可能性を疑って,4月26日午後2時20分,緊急措置として用手的に呼吸補助を行って100パーセント酸素吸入を行い,アルコール冷却の措置をとり,その後早急に救急要請を行うなど,悪性高熱への対応として行うべきことをすべて行ったのであって,被告には,麻酔管理を十分に行わなかった過失がない。 なお,一般に,病院及び診療所は,ダントロレンを常備しておく義務は課されていない。 (3) 争点(3)(麻酔専門医ないし麻酔標榜医を置かないで全身麻酔を施行した義務違反の有無)について(原告らの主張)ア被告は,原告に対する本件手術の際,酸素笑気セボクレンを用いた吸収麻酔による全身麻酔を行ったが,全身麻酔は,中枢神経に作用して無痛効果を得られる一方,意識を消失させるなどの身体的侵襲を伴うものであるから,局部麻酔の場合と違って,麻酔専門医あるいは麻酔標榜医が麻酔の導入,管理等を行うべき注意義務がある。 イ被告は,被告クリニックにおいて,麻酔専門医ないし麻酔標榜医を置かず,原告Aに対しても,麻酔医はおろか看護師もいない状態で,被告一人で本件手術を行うとともに,全身麻酔をも担当したのであって,上記注意義務に違反した。 (被告の主張)ア被告クリニックには,本件当時,麻酔専門医及び麻酔標榜医はいなかったし,看護師もいなかったので,被告が,原告Aに対して,一人で本件手術を施行し,全身麻酔の導 。 (被告の主張)ア被告クリニックには,本件当時,麻酔専門医及び麻酔標榜医はいなかったし,看護師もいなかったので,被告が,原告Aに対して,一人で本件手術を施行し,全身麻酔の導入及び管理を担当した。 イしかしながら,本来,手術は,医師のみに許されたものであるし,医師は,麻酔認定医ないし麻酔標榜医であるか否かにかかわらず,麻酔を使用することが認められており,全身麻酔を行うに当たって麻酔専門医ないし麻酔標榜医を置かなければならない注意義務は存在しない。 さらに,被告は,麻酔について十分な知識経験を有しており,単独で十分な麻酔管理ができたのであって,被告が単独で本件手術と全身麻酔の導入及び管理を担当したことに過失はない。 (4) 争点(4)(局所麻酔剤過量投与の過失の有無)について(原告らの主張)ア被告は,原告Aに対して,全身麻酔を行った後,1パーセント濃度のキシロカインを合計40ミリリットルすなわちキシロカイン400ミリグラムを使用して胸部に浸潤麻酔を行った。 イ 1パーセント濃度のキシロカインの浸潤麻酔における使用量は,20ミリグラムから200ミリグラムであって,原告Aの体重は45キログラムにすぎないことを考え併せると,上記のキシロカイン投与は,最高限度量の2倍に相当するものであって,被告には,キシロカインを過量投与して原告Aに薬物中毒による急激な体温上昇,血圧変動,筋強直等の症状を生じさせた過失がある。 (被告の主張)ア被告クリニックでは,患者への感染の危険を防ぐため,術前に,滅菌されていない大瓶に入ったキシロカインを,最大限必要となり得る量だけ,注射器の中に入れて滅菌された場所に置いておき,施術に当たって,麻酔の効き方に注意 では,患者への感染の危険を防ぐため,術前に,滅菌されていない大瓶に入ったキシロカインを,最大限必要となり得る量だけ,注射器の中に入れて滅菌された場所に置いておき,施術に当たって,麻酔の効き方に注意して患者に必要な量を投与し,十分麻酔が効いたと判断した際にキシロカイン投与をやめ,施術に移ることとしている。 本件においても,被告がキシロカインを40ミリリットル使用したというのは,瓶から注射器に移したキシロカインの量が40ミリリットルだったという意味であって,現実に原告Aに対して使用したキシロカインは,20ミリリットル程度にすぎず,残余のキシロカインは廃棄した。 イ被告が使用したキシロカインは,エピネフリン含有のものであって,その基準最高容量は,50ミリリットルであるから,被告が原告Aに対して,エピネフリン入りのキシロカインを40ミリリットル投与したとしても,何の問題もない。 ウキシロカインは,投与後約1時間で半減するのであり,被告主張によれば施術後1時間で,原告主張によれば2時間以上経過してから発生した原告Aの異常は,キシロカイン中毒によるものではない。 エキシロカイン中毒によって,40℃以上の高熱が生じたり,CPKが17000まで上昇することはなく,本件事故は,キシロカイン中毒によるものではない。 (5) 争点(5)(説明義務違反の有無)について(原告らの主張)ア被告は,美容整形外科を業とし,ピンク色等を用い,芸能プロダクション提携クリニックであることを殊更に宣伝した上,無痛麻酔,無痛手術を行っていることを大々的に宣伝したビラを新聞の折り込み広告として配布し,さほどの緊張感を持たないまま美容整形に応ずる患者を呼び集めてきた。 イ原告Aも,被 伝した上,無痛麻酔,無痛手術を行っていることを大々的に宣伝したビラを新聞の折り込み広告として配布し,さほどの緊張感を持たないまま美容整形に応ずる患者を呼び集めてきた。 イ原告Aも,被告クリニックの宣伝に応じて豊胸手術をしてほしい旨の申出を行ったが,被告は,かかる原告Aに対し,麻酔や手術が気軽に行われることへの過度の期待を持たせないために,①麻酔は身体に対する侵襲であってリスクがあること,②特に,被告クリニックは,入院設備を持たず,全身麻酔による手術を行うに当たっても,看護師も麻酔医も配置されていないので,被告が一人で全身麻酔と手術の全部を行うこと,③美容整形は緊急性もないから,そのリスクを考えてから決めることなどの説明をすべき注意義務があったにもかかわらず,そのいずれについても十分な説明をせず,原告Aをして簡単に無痛麻酔のまま手術を受け豊満な胸部を形成してくれるものと信じ込ませて,本件手術を承諾させたのであって,被告には説明義務違反がある。 (被告の主張)ア被告クリニックの広告は,書籍発行会社によるものであって,被告が行ったものではない。 イ被告は,原告Aに対し,4月23日,麻酔の危険性について十分な説明を行ったが,もう一度聞きたいということであったので,同日,悪性高熱を含めて,再度説明を行った。また,家族歴,既往歴等についても十分な問診を行った。 ウ被告は,原告Aに対し,手術当日である同月26日,再び説明及び問診を行って本件手術を行った。 エしたがって,被告は,原告Aに対し,十分な説明を合計4回も行い,しかも,家族歴,既往歴等についても問診したのであるから,被告には,説明義務違反は存在しない。 (6) 争点(6)(因果関係及び損害)について Aに対し,十分な説明を合計4回も行い,しかも,家族歴,既往歴等についても問診したのであるから,被告には,説明義務違反は存在しない。 (6) 争点(6)(因果関係及び損害)について(原告らの主張)ア因果関係原告Aに意識が回復せず,両上下肢機能障害及び体幹機能障害が残るという後遺症をもたらした原因である低酸素脳症は,低酸素血症,高炭酸ガス血症によるものであって,被告の麻酔管理等における注意義務違反がなければ,原告Aの低酸素血症,高炭酸ガス血症が早期に発見され,適切な処置が行われていれば,低酸素脳症に陥ることはなかったのであるから,被告のこれらの過失と原告Aの低酸素脳症との間には因果関係がある。 原告Aの低酸素脳症の原因が悪性高熱によるものであったとしても,被告が悪性高熱であると認めた段階で,身体冷却並びにダントロレンの取寄せ及び投与等を行うなど適切な処置をとっていれば,原告Aは,かかる重篤な低酸素脳症になることはなかったのであって,被告の過失と原告Aの低酸素脳症との間には因果関係がある。 また,原告Aは,被告の十分な説明を受けて,被告クリニックにおける豊胸手術が生命に危険が及ぶものであることを認識しておれば,原告Aは,被告病院で本件手術を受けておらず,低酸素脳症となることはなかったのであって,被告の説明義務違反と原告Aの低酸素脳症との間には因果関係がある。 イ原告Aの損害額(ア) 逸失利益 5911万0187円原告Aは,本件事故によって低酸素脳症となり,神経系統の機能等に著しい傷害を残し常に介護を要する状態になり,自動車損害賠償保障法施行令別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害別等級表」という。)1級3号 原告Aは,本件事故によって低酸素脳症となり,神経系統の機能等に著しい傷害を残し常に介護を要する状態になり,自動車損害賠償保障法施行令別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害別等級表」という。)1級3号に該当し,労働能力を100パーセント喪失した。 原告Aは,本件事故当時26歳であったところ,就労の終期である67歳に達するまでの41年間の中間利息5パーセントを控除するライプニッツ係数は17.2943であり,平成10年の女子全年齢平均賃金は341万7900円である。 したがって,原告Aの逸失利益は,341万7900円に17.2943を乗じた5911万0187円である。 (イ) 後遺症慰謝料 2600万円原告Aは,本件事故によって,26歳の若さで将来の可能性を奪われたものであって,その精神的な苦痛を慰謝することはもはや不可能であるが,これを金銭に評価すれば,2600万円を下らない。 (ウ) 将来の入院雑費,介護費用等 7320万7855円a 入院雑費 451万6680円おむつ代等の衛生費は,月額2万円であり,年間24万円となる。 平成10年簡易生命表によれば,26歳女性の平均余命は,58.67年であり,58年に対応する5パーセントのライプニッツ係数は,18.8195である。 したがって,入院雑費は,24万円に18.8195を乗じた451万6680円であるb 介護費用 6869万1175円介護費用は1日当たり1万円で年間365万円となる。 平成10年簡易生命表によれば,26歳女性の平均余命は,58. 67年 費用 6869万1175円介護費用は1日当たり1万円で年間365万円となる。 平成10年簡易生命表によれば,26歳女性の平均余命は,58. 67年であり,58年に対応する5パーセントのライプニッツ係数は,18.8195である。 したがって,介護費用は,365万円に18.8195を乗じた6869万1175円である。 c 合計上記入院雑費及び介護費用の合計額は,7320万7855円である。 (エ) 弁護士費用1500万円原告Aは,被告が任意に上記損害の支払をしないため,本件訴訟手続を原告ら訴訟代理人に委任することを余儀なくされた。 上記弁護士費用のうち,本件と相当因果関係の範囲にある金額は,1500万円である。 (オ) 合計 1億7331万8042円ウ原告Bの損害額(ア) 近親者の慰謝料 500万円原告Bは,原告Aの夫であったが,長年交際してきた原告Aと結婚してわずか1年で結婚生活を奪われ,将来にわたって介護を必要とする妻を抱え,多大な負担を負うこととなった。 この精神的苦痛を金銭で評価した場合,その金額は,500万円を下らない。 (イ) 弁護士費用 50万円原告Bは,被告が任意に上記損害の支払をしないため,本件訴訟手続を原告ら訴訟代理人に委任することを余儀なくされた。 上記弁護士費用のうち,本件と相当因果関係の範囲にある金額は,50万円である。 (ウ) 合計 550万円 ら訴訟代理人に委任することを余儀なくされた。 上記弁護士費用のうち,本件と相当因果関係の範囲にある金額は,50万円である。 (ウ) 合計 550万円(被告の主張)ア因果関係原告Aの異常は,予見不可能な合併症である悪性高熱によるものであって,被告の過失と因果関係はない。 イ損害額争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(被告クリニックの診療録等のねつ造の有無)について証拠(甲A2の1)によれば,原告Aの搬送先であるD病院の診療録には,原告Aについての被告クリニックの経過として,おおむね前記第2,3(1)(原告らの主張)ア記載のとおり,4月26日午前10時に本件手術を開始し,午後0時に手術を終了し,午後0時15分から意識が回復せず震えが始まり,被告は午後2時41分に救急要請を行い,救急車は午後2時45分に被告クリニックに到着した旨の記載がある一方,証拠(乙A1,2の存在)によれば,被告クリニックの本件診療録及び本件麻酔記録には,おおむね前記第2,3(1)(被告の主張)ア記載のとおり,午後0時15分に本件手術を開始し,午後1時56分に終了し,午後2時25分に救急要請を行い,午後2時45分に救急車が到着したという記載があることが認められ,本件は,上記のとおり,搬送先のD病院の診療録と被告クリニックの本件診療録及び本件麻酔記録の間には,本件手術開始時刻,終了時刻,救急要請時刻について全く異なる記載があるという,極めて特異な事件である。 ところで,診療録は,他の補助記録と共に,医師や看護師等がその責任と専門的立場から記述し,患者の症状を把握して適切な診療を行うために必要欠くことのできないものであり,また,医師 件である。 ところで,診療録は,他の補助記録と共に,医師や看護師等がその責任と専門的立場から記述し,患者の症状を把握して適切な診療を行うために必要欠くことのできないものであり,また,医師の診療行為の適正を確保するために,法的に診療の都度医師本人による作成が義務付けられているものであるから,診療録の記載内容は,患者と医師との間に紛争が生じた後に提起される医療訴訟においても,患者の診療経過を明らかにするものとして重要な証拠となり,特段の事情がない限り診療録の記載に従って診療の経過が認められることになるので,本件における搬送先の病院の診療録と被告クリニックの本件診療録及び本件麻酔記録の間の齟齬は,重大な意味を有するといわなければならない。 そこで,本件において,搬送先のD病院の診療録と被告クリニックの本件診療録及び本件麻酔記録の各記載の信用性,さらには,本件診療録及び本件麻酔記録のねつ造の有無について,まず検討する。 (1) D病院の診療録の記載についてア証拠(甲A2の1)によれば,D病院の診療録においては,「Cクリニックでの経過」として,被告から口頭で聴取した内容を記載していること,これを基にした外来サマリーが記載されていること,救急隊の覚知時間,被告クリニック到着時刻,出発時刻,D病院到着時刻については,G救急隊から聴取した内容として,それぞれ午後2時41分,午後2時45分,午後3時9分,午後3時12分の記載がされていることが認められる。 イこの点について,被告は,搬送時には動転していたため,言い間違いをしたかも知れないなどと主張し,被告本人は,上記「Cクリニックでの経過」は,未熟な研修医が不正確に聴き取った事項を記載したもので信用できないとか,D病院救急部の医師らの技術が著しく劣っ 言い間違いをしたかも知れないなどと主張し,被告本人は,上記「Cクリニックでの経過」は,未熟な研修医が不正確に聴き取った事項を記載したもので信用できないとか,D病院救急部の医師らの技術が著しく劣っていたため,搬送後も,被告自身が原告Aの処置に当たっており,その際に,原告Aに対する処置に集中していて,手術の開始時刻について言い間違えたかもしれないとか,被告が,D病院に搬送された後の原告Aの状態について発言したことが,誤って記載されたなどと陳述(乙A12)又は供述する。 しかしながら,これらの被告の主張並びに被告本人の陳述及び供述はいずれも客観的な裏付けを欠く不合理な弁解であって,到底信用に値しないといわなければならないし,言い間違いをいう点については,被告は,被告クリニックの診療時間は午前11時からであると主張するところ,そうであれば,手術開始時刻を午前10時と言い間違えるとは考えられないし,被告本人の供述によれば,被告は,D病院への搬送直前まで本件麻酔記録を記入していたというのであるから,診療経過について,言い間違いや誤解をするとは考えられない。 ウまた,D病院の診療録における救急隊の覚知時刻,被告クリニック到着時刻,出発時刻,D病院到着時刻については,G救急隊の隊員から聴取した内容を記載してあるものであるし,原告Aの搬送を受けたD病院は,本件事故に関して何ら利害関係を有しないものであって,救急隊や被告からの聴取内容について殊更虚偽の記載を行う理由は全く存在しない一方,本件麻酔記録における午後2時25分に救急要請を行った旨の記載は,何ら裏付けのないものである。 エ以上によれば,D病院の診療録の記載は,十分信用に値するといわなければならない。 なお,被告は,D病院の診療録の外来サマ 行った旨の記載は,何ら裏付けのないものである。 エ以上によれば,D病院の診療録の記載は,十分信用に値するといわなければならない。 なお,被告は,D病院の診療録の外来サマリー等に被告が本件手術後原告Aに対し再び気管内挿管を行ったとの記載がある点をとらえて,その記載の信用性を争うが,証拠(乙A10)によれば,かかる記載は,被告が,D病院において,4月26日午後5時30分ころ,原告Bに説明した内容を記載したものであって,被告自身の説明に基づくものと認められるから,同診療録の記載の信用性を左右するものではない。 (2) 原告AのD病院入院後の被告の対応及び証拠保全の検証期日における被告の対応についてア原告AのD病院入院後の被告の対応(ア) 証拠(甲A2(枝番を含む。),乙A4,被告本人)によれば,D病院救急部のH医師は,被告に対し,5月7日に,電話で本件手術からD病院搬送までの詳細な経過について書面での情報提供を依頼したこと,被告は,これに対し,2,3日中に作成して提供する旨の返事をしたこと,その後,被告から情報提供がなかったため,D病院は,被告に対し,同月14日,救急部部長名で書面を送付し,原告Aの診断,治療上是非とも必要であるので,本件手術からD病院到着までの経緯について書面での情報提供及び麻酔記録,手術記録等のコピーの送付を依頼したこと,その後,被告は,H医師に対して,手術経過の要約を記載した書面を送付した(ただし,その書面には日付の記載がなく,送付時期は不明である。)ことが認められる。 被告本人は,D病院から情報提供の依頼が来てすぐに対応した趣旨の供述をするが採用できない。 (イ) 上記事実によれば,被告は,原告Aの搬送先であ ある。)ことが認められる。 被告本人は,D病院から情報提供の依頼が来てすぐに対応した趣旨の供述をするが採用できない。 (イ) 上記事実によれば,被告は,原告Aの搬送先であるD病院の医師からの照会に対し,被告クリニックにおける診療経過について,直ちに情報提供をしようとせず,その結果,D病院の医師から,極めて異例と考えられる書面での照会督促まで行われて,被告は,D病院に対し,ようやく手術経過の要約を記載した書面を送付したことが認められる。 被告本人は,本件麻酔記録については,原告AをD病院に搬送するまでには既に書き上げていたと供述するが,この供述を前提にすると,被告がD病院の情報提供の依頼を受けても,診療経過を直ちに明らかにしようとしなかったのは不可解というほかない。 イ証拠保全の検証期日における被告の対応及び被告本人の供述(ア) 証拠(甲B3,証拠保全の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 被告は,7月12日午後1時35分に証拠保全決定正本,検証期日呼出状等の送達を受け,証拠保全事件について,同日午後2時30分から,被告クリニックにおいて,検証期日が実施された。 裁判官は,被告に対し,検証物として,診療録,手術録,諸検査結果記録等の存否について説明を求めたが,被告は,診療記録の一部は,被告クリニックに置いてあるが,それ以外は自宅にある,当日は手術の予定が入っており,時間が詰まっているので,検証を別の日にすることを求めた。 裁判官が,被告クリニックにおいて保管されている検証物の種類について確認を求めたところ,被告は,血液検査記録くらいならあると思うと返答したので,裁判官は,被告クリニック内 めた。 裁判官が,被告クリニックにおいて保管されている検証物の種類について確認を求めたところ,被告は,血液検査記録くらいならあると思うと返答したので,裁判官は,被告クリニック内に保管されている本件検証物について検証を申し出たところ,被告は,確認した結果,被告クリニック内に保管されている検証物はない,血液検査記録は,搬送時にD病院に持っていったので,被告クリニックにはない,自宅にある検証物は,カルテ,麻酔記録,契約書及び血液検査記録である,通常,カルテは被告クリニック内で保管するが,D病院に原告Aが搬送された関係上,同病院と連絡を取る必要があったため,分かりやすいように,自宅に置いてある,本日は,すべての手術が終了するのが早くても夜8時であるため,千葉にある自宅に検証物を取りに行くことはできない,翌日か翌々日であれば,検証物を自宅から持ってくることができるので,まとめて準備できるなどと返答した。 裁判官は,翌13日午前10時30分に次回期日を指定し,当該期日を終了した。 被告は,同日午前10時30分の検証期日において,検証物として,本件診療録,本件麻酔記録その他の書面を提示し,検証が実施された。 (イ) 他方,被告本人は,本件の本人尋問において,診療録等を自宅に保管していた理由について,被告クリニック内では,紛失する可能性があったため,安全のために自宅で保管していた,基本的には紛失を心配していた旨の供述をしている。 (ウ) 以上によれば,被告は,証拠保全事件の1回目の検証期日において,本件診療録及び本件麻酔記録を自宅に保管してあるとして提示していないのであって,その後提出された本件診療録等が,ねつ造ないしねつ造されたものでないことを積極的に否定することは 目の検証期日において,本件診療録及び本件麻酔記録を自宅に保管してあるとして提示していないのであって,その後提出された本件診療録等が,ねつ造ないしねつ造されたものでないことを積極的に否定することはできない。 被告は,本件診療録等を提示できない理由として,D病院に原告Aが搬送された関係上,同病院と連絡を取る必要があったため,分かりやすいように自宅に置いてあることを述べたが,被告がD病院の情報提供の依頼に直ちに応じようとしなかったのは,前記(2)に認定したとおりであり,また,被告本人は,本件の本人尋問においては,診療録等を自宅に保管していた理由について,被告クリニックでは紛失する可能性があったためと供述を変更するに至ったが,この理由についても首肯できるものではなく,被告は,証拠保全の検証期日において,本件診療録等を提示できなかった合理的理由を明らかにできていない。 ウ以上の証拠保全における被告の対応,診療録等を提示できなかったことについて合理的な理由を明らかにできないことに加えて,D病院の情報提供の依頼に対しても,診療経過を直ちに明らかにしていないという事情を併せ考えると,被告が本件診療録及び本件麻酔記録について,ねつ造等の手を加えていたことが強く疑われるというべきである。 (3) 本件診療録及び本件麻酔記録の記載の体裁及び記載内容について前記のとおり,本件診療録及び本件麻酔記録の記載は,本件手術開始時刻,終了時刻,救急要請時刻について,搬送先のD病院の診療録と全く異なる記載となっており,D病院の診療録では,被告が本件手術終了後から救急要請を行うまで2時間41分を要した記載となっているのに対し,本件麻酔記録では,被告が本件手術終了後29分で救急要請を行ったという被告にとって極めて有利な記 の診療録では,被告が本件手術終了後から救急要請を行うまで2時間41分を要した記載となっているのに対し,本件麻酔記録では,被告が本件手術終了後29分で救急要請を行ったという被告にとって極めて有利な記載となっている。 この点について,前記(1)に判示したとおり,D病院の診療録の記載は,十分信用に値するものであり,これと異なる記載がある本件麻酔記録,ひいては本件診療録の記載は信用に値しないものといえるが,さらに,以下において,本件診療録及び本件麻酔記録の記載の体裁及び記載内容について,詳細に検討することとする。 ア(ア) 被告本人は,本件診療録(乙A1)について,乙A1の5頁までを 月23日の原告Aの初診時に,原告Aと面談し説明しながら,その場で記載し,6頁を同月26日の本件手術前に記載し,7頁を本件事故後,総括として後日記載したものであり,本件麻酔記録(乙A2)については,本件手術中に,被告自身が,5分ごとに,麻酔器のモニターを見ながら,滅菌された布に覆われた麻酔記録に,滅菌された布でくるんだボールペンを使って記載し,D病院への搬送時には,本件麻酔記録はほぼ完成していたと供述する。 (イ)a 証拠(乙A1の存在,証拠保全の結果,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件診療録は,B4判の用紙が1枚,2つ折りにされている間に,B5判の用紙が綴じられないままに4枚挟み込まれたものであるが,B4判の用紙のうち,中央上部に「診療録」と記載された表紙部分(乙A1の1頁)については,原告Aの氏名,性別,年齢,生年月日,初診日,住所,電話番号がそれぞれの記載欄に記載されているほか,処方及び処置欄には,日付の記載がないままに,既往歴,既往症,手術歴,薬物アレルギー,家族病歴等が記載され,次に,B 別,年齢,生年月日,初診日,住所,電話番号がそれぞれの記載欄に記載されているほか,処方及び処置欄には,日付の記載がないままに,既往歴,既往症,手術歴,薬物アレルギー,家族病歴等が記載され,次に,B5判の用紙の1枚目の表裏(乙A1の2,3頁)には,本件手術の説明が記載され,2枚目表(乙A1の4頁)には,麻酔についての説明及び麻酔のリスクが記載され,2枚目裏(乙A1の5頁)には,「誓約の際「ショック」の説明を再度希望」との記載の下,麻酔によって悪性高熱,アレルギーショック,アナフィラキシーショック等生命の危険も生じる重篤な状態になることが記載されていること,3枚目表(乙A1の6頁)には,日付の記載がないままに,血圧,脈拍,心音等の状況と再び既往歴,家族歴が特にないことと薬物アレルギー,悪性高熱,ケロイドがマイナスであることが記載され,4枚目表(乙A1の7頁)には,日付の記載がないままに,悪性高熱を疑い高次救急要請を行ったこと,悪性高熱の診断基準によれば,劇症悪性高熱症以外に考えにくい旨が記載されていることが認められる。 b そして,本件診療録の記載の状態をみると,日付の記載がないことと相まって,同じ筆記用具で同じ字体や状態で記載されており,全く書き損じも訂正もなく,後日一気に書き上げたという体裁になっていることが認められる。 しかも,本件診療録の本件手術についての説明の記載は,英語表記や略語をほとんど用いず,「ですます調」での記載もあることなどからして,被告本人が供述するように,原告Aと面談し,説明しながら,その場で記載したものとはにわかに信じ難い。 (ウ)a 証拠(乙A2の存在,証拠保全の結果)によれば,本件麻酔記録は,1枚の用紙であって,上部に,原告Aの氏名,年齢,血液型,リスク,術前の で記載したものとはにわかに信じ難い。 (ウ)a 証拠(乙A2の存在,証拠保全の結果)によれば,本件麻酔記録は,1枚の用紙であって,上部に,原告Aの氏名,年齢,血液型,リスク,術前の体重,血圧,脈拍,施行手術内容(豊胸術),術者(被告),日付(平成13年4月26日)が記載されていること,中央部には,午前11時30分から午後3時ころまでの麻酔記録として,酸素,麻酔剤(笑気ガス及びセボフルラン),静脈注射された麻酔剤(チオペンタール,Vb),輸液,30分ごとのSaO2(酸素飽和度)及びETCO2(呼気終末二酸化炭素量)が具体的数値で記載され,15分ごとの体温(午後2時50分まで),5分ごとの血圧(午後2時45分まで)及び脈拍(午後2時55分まで)がグラフに点又はチェックを記入する形式で記載されていること,さらに,右側中央の空欄に,特記事項として,①午後0時30分に,「局麻(1%キシロカインtotal 40ml)」,②午後2時10分に「シバリング」,③午後2時15分に「ときどき筋強直+ 体温38℃,時々ETCO2 50mHg MH疑い,アルコール冷却,O2 フラッシュ」,④午後2時25分に,「救急要請」,⑤午後3時に「筋強直強くなる」との各記載がされ,その下段「麻酔中及び麻酔終了時総括」欄には「Ope後より体温上昇,筋強直出現,MH疑い高次救急へ搬送」と記載され,右下部分には,「局麻酔Xyl 40mg」等,投与した麻酔剤等の薬剤の量及び「Ope時間1:51」との記載がされていることが認められる。 b 本件麻酔記録の記載の状態をみると,いずれも全く文字の乱れや書き損じ,誤記,修正がなく,同じ調子で記載されており,また,グラフに記入された体温,血圧,脈拍を示す点及びチェックは,何の乱れもなく,一定のリズムで同じ 載の状態をみると,いずれも全く文字の乱れや書き損じ,誤記,修正がなく,同じ調子で記載されており,また,グラフに記入された体温,血圧,脈拍を示す点及びチェックは,何の乱れもなく,一定のリズムで同じように記載されたものとなっていることが認められる。 c 被告本人は,上記のとおり,本件麻酔記録について,本件手術の最中に,原告Aに対して一人で豊胸術を実施中に,自分で,5分ごとにモニターを見ながら,滅菌された布に覆われた麻酔記録に,滅菌された布でくるんだボールペンを使って記載したと供述するが,上記ab認定の各事実によれば,本件麻酔記録が,被告本人が供述するように,本件手術をしながら5分ごとにモニターを見ながら記載されたものとは到底考えられず,後日に一気に書き上げたものであると認められる。 被告本人は,D病院への搬送時には,本件麻酔記録はほぼ完成していたとも供述するが,前記(2)アで認定したD病院に対する被告の対応,さらには,被告クリニックにおける原告Aの経緯等を明らかにするために極めて有用である本件麻酔記録を,原告AをD病院に搬送する際持参していない(甲A2の1,被告本人)ことからしても,被告本人の上記供述は信用できない。 (エ) 以上のとおり,本件診療録及び本件麻酔記録の記載の体裁を検討すると,被告がこれらを原告Aの診療の都度,あるいは,本件手術中に記載したものと認めることはできず,後日,一気に書き上げたものであると認められる。 イ(ア) 次に,本件診療録の記載内容を検討するに,証拠(乙A1の存在,被告本人)によれば,本件診療録の記載は,問診内容を除けば,ほとんどが,被告から原告Aに対する本件手術の説明内容を記載したものであり,しかも,被告 するに,証拠(乙A1の存在,被告本人)によれば,本件診療録の記載は,問診内容を除けば,ほとんどが,被告から原告Aに対する本件手術の説明内容を記載したものであり,しかも,被告本人は,4月23日の診療当初,同日誓約書を記載してもらう際,同月26日の本件手術のために手術室に入る前と入った後の合計4回にわたって,原告Aに対し,本件手術の内容や麻酔の危険性について説明を行った旨供述し,本件診療録には,診療当初の説明内容として豊胸手術の内容や麻酔の危険性について記載があり,また,誓約の際,原告Aから「ショック」の説明を再度希望されたとして,麻酔による危険性について記載されており,特に,麻酔の危険性については,声のかすれやのどの違和感,麻酔から覚めたときの気分の不快感のほかに,悪性高熱,アレルギーショック,アナフィラキシーショック等により重篤な状態になる可能性があり,時には生命の危険も生じることについて2度にわたって記載がされていること,また,悪性高熱等に関して,既往歴及び家族歴を確認した旨の記載が4月23日の初診時と4月26日の本件手術時の2度にわたってされていることが認められ,これらの記載は,本件で問題とされている説明義務違反との関係で,極めて被告に有利となる記載内容となっている。 (イ) ところで,証拠(甲A1,4)によれば,被告は,ピンク色等を用いた派手なチラシを作成し,芸能プロダクション提携クリニックであることを殊更に標榜した上で,できあがりの美しさ,モデルやタレントのように魅力的になること,無痛麻酔,無痛手術を行っていることを宣伝し,麻酔の時の針を刺す痛みすら感じることなく,また,手術中,手術後まで全く痛みがないことを強調して,被告クリニックによる美容整形の魅力を一方的に宣伝し,他方,美容整形手術に 術を行っていることを宣伝し,麻酔の時の針を刺す痛みすら感じることなく,また,手術中,手術後まで全く痛みがないことを強調して,被告クリニックによる美容整形の魅力を一方的に宣伝し,他方,美容整形手術による危険性及び麻酔による危険性については一言も触れていないことが認められ,また,証拠(被告本人)によれば,悪性高熱は極めてまれな合併症であることが認められる。 このような被告による宣伝内容,悪性高熱は極めてまれな合併症であること,さらには,前記(2)に認定したとおり,本件事故が起こった後,被告は,原告Aの搬送先であるD病院への情報提供について極めて不誠実な対応をしていることからすると,被告において,被告本人が供述し,本件診療録に記載があるように,原告Aに対し,4回にわたって本件手術の内容や麻酔の危険性について説明を行い,本件診療録にあるように,麻酔の危険性について生命の危険も生じるような重篤な状態になる可能性があることや極めてまれな合併症である悪性高熱について何度も懇切丁寧に説明したとは到底認められず,本件診療録は,後日,被告が虚偽の内容を記載したものと認められる。 (ウ) 本件麻酔記録の記載内容についても,被告が本件手術終了後29分で救急要請を行ったという被告にとって極めて有利な記載となっており,かかる記載は,D病院の診療録の記載に照らして,信用に値しないことは,前記のとおりであり,同様に,被告が原告Aの異常に気づくや,直ちに必要な諸処置をとったかのような内容となっている本件麻酔記録の記載も信用ができず,これらの記載は,被告が,後日後述の麻酔中の管理についての過失との関係で,被告に有利となるように虚偽の内容を記載したものと認められる。 (エ) 以上によれば,本件診療録及び本件麻酔記録の記載内容 は,被告が,後日後述の麻酔中の管理についての過失との関係で,被告に有利となるように虚偽の内容を記載したものと認められる。 (エ) 以上によれば,本件診療録及び本件麻酔記録の記載内容からしても,本件診療録及び本件麻酔記録の記載は,被告が後日自己に有利になるように虚偽の記載を行ったものと認められる。 (4) 以上のD病院の診療録の記載,原告AのD病院入院後の被告の対応及び証拠保全の検証期日における被告の対応並びに本件診療録及び本件麻酔記録の記載の体裁及び記載内容のいずれの検討においても,本件診療録及び本件麻酔記録は,後日,被告によってねつ造されたと認められ,その記載が真実であるとは到底認められない。 2 争点(1)(被告クリニックにおける診療経過)について(1) 前記1に検討したところによれば,本件診療録及び本件麻酔記録は,被告によって後にねつ造が行われたものであるから,その記載はほとんど信用することができず,また,これに沿った内容の被告からD病院への報告書(乙A4),被告本人の陳述(乙A12)及び供述も基本的に信用できないというべきであり,被告クリニックの診療経過を明らかにできる唯一の証拠としては,D病院の診療録のみであるところ,D病院の診療録(甲A2の1,乙A8,10)によって認定できる原告Aの被告クリニックにおける診療経過は,以下の事実にすぎない。 (ア) 被告は,原告Aに対し,4月26日午前10時から麻酔導入を行い,全身麻酔下で本件手術を行った。本件手術中のETCO2 は20台,SPO2 は100であった。 (イ) 本件手術は,午後0時に終了し,吸入麻酔を終了し,原告Aは,午後0時10分から自発呼吸を開始した。 (ウ) 原告Aは,午後0時15 CO2 は20台,SPO2 は100であった。 (イ) 本件手術は,午後0時に終了し,吸入麻酔を終了し,原告Aは,午後0時10分から自発呼吸を開始した。 (ウ) 原告Aは,午後0時15分を過ぎても,意識が回復せず,痛覚刺激に対して動くものの,払いのけるような動作はなく,震えが始まった。被告は,麻酔による一過性のものと考え,自発呼吸をフォローしていたが,その後,ETCO2が70ないし75台へ上昇し,SPO2が97ないし96へ下降して,徐々に悪化したため,被告は,用手的に,原告Aの呼吸をアシストした。 (エ) 原告Aは,午後2時,状態が改善せず,体温が40℃に上昇し,震えが増加したので,被告は,午後2時41分に救急要請し,午後2時45分に救急車が被告クリニックに到着した。原告Aは,その時点で意識がなく,脈拍82,血圧96/54であり,午後3時4分に救急車で被告クリニックを出発したが,救急車内で血圧が低下し,午後3時12分にD病院に到着した時の脈拍は186,血圧51/15,体温41.2℃であった。 (2) (1)のとおり,D病院の診療録の記載によって認められる原告Aの被告クリニックにおける診療経過は,極めて簡単なものであって,これらの事実を前提にして,被告の本件事故についての過失を判断することは極めて困難といわざるを得ない。しかしながら,原告Aについて詳細な診療の経過が明らかにならないのは,被告が本件診療録及び本件麻酔記録をねつ造したという事情によるものであり,被告は,これらを自己の責任を免れようとする意図の下で行ったものといわざるを得ないところ,かかる行為は,法の予定していないところであり,民事訴訟法上の信義則にも違反するものとして到底許されるものではないから,原告らが主張するように,民事訴訟 図の下で行ったものといわざるを得ないところ,かかる行為は,法の予定していないところであり,民事訴訟法上の信義則にも違反するものとして到底許されるものではないから,原告らが主張するように,民事訴訟法224条2項を類推適用して,被告の本件手術によって原告Aに生じた重大な障害の結果について,被告の過失をいう原告らの主張を真実と認めるということも考えられないわけではないが,当裁判所としては,いまだそのような見解をとることに躊躇せざるを得ない。しかしながら,少なくとも被告クリニックにおける診療経過が明らかではないという不利益を原告らに負担させてその事態を引き起こした被告に有利に取り扱うことができないのはいうまでもないところであり,本件事故についての被告の過失を認定するに当たっての前提事実については客観的な証拠に反しない限り,原告らに有利に認定して過失判断を行うべきであるし,被告が本件診療録及び本件麻酔記録をねつ造したという事実は,被告の過失を認定する上で,被告に不利益になる事情であると考えられる。 3 争点(2)(麻酔管理を十分行わなかった過失の有無)について(1) 原告らは,原告Aが低酸素脳症により意識が回復せず植物状態になった原因として,同原告が低酸素血症及び高炭酸ガス血症になったことを主張し,被告は,悪性高熱を主張して争っているので,まずこの点について検討する。 ア D病院における原告Aの症状証拠(甲A2(枝番も含む。),乙A5ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,D病院における原告Aの症状について以下の各事実が認められる。 (ア) 4月26日午後3時12分搬送時原告Aは,JCSⅢ-200,脈拍186,血圧51/15,体温41.2℃,瞳孔右3,左3.5,対光反 の各事実が認められる。 (ア) 4月26日午後3時12分搬送時原告Aは,JCSⅢ-200,脈拍186,血圧51/15,体温41.2℃,瞳孔右3,左3.5,対光反射なし,ETCO260であった。 (イ) 午後3時24分原告Aの血液検査の結果,K5.2,CK899であった。 (ウ) 午後3時28分原告Aの血液ガス分析検査の結果,PaO2161.2,PaCO255.8,Ph7.202,BE-5.7であった。 (エ) 午後3時31分原告AのETCO2が40に改善した。 (オ) 午後3時39分ないし41分原告Aが血行動態不良のため心室性頻拍を起こしたため,除細動が3回実施された。 (カ) 午後3時40分原告Aの体温は,41.0℃であった。 (キ) 午後4時10分原告AのSPO2が99であり,血液ガス分析検査の結果,PaO2517.3,PaCO2 23.6,ph7.397,BE-9.7であった。 (ク) 午後4時15分原告Aの意識障害の原因探索のため,頭部CTが実施されたが,結果は正常範囲内であった。 また,肺動脈塞栓症の可能性を考慮して,原告Aに対し胸部CT検査が実施されたが,これも否定的であった。 (ケ) 午後4時45分原告Aの体温は,40℃であった。原告Aの血行動態が安定したので,胃管挿入し,胃洗浄及びアルコールでの全身清拭による体温冷却が始められた。 (コ) 午後4時55分原告Aの鼓膜温は,39.4℃で 原告Aの血行動態が安定したので,胃管挿入し,胃洗浄及びアルコールでの全身清拭による体温冷却が始められた。 (コ) 午後4時55分原告Aの鼓膜温は,39.4℃であった。 (サ) 午後5時05分原告Aの鼓膜温は,39.0℃になった。他方,原告Aには,全身及び口に硬直ないし強直が認められた。 (シ) 午後5時35分原告Aに筋強直が認められ,悪性高熱の可能性を考慮して,原告Aに対し,ダントロレン2.5Vを点滴静注した。 ダントロレン投与に先立つ血液ガス分析の結果は,PaO2423. 7,PaCO2 27.6,ph7.356,BE-9.3であり,血液検査の結果,CK値が9140に上昇していることが認められた。尿検査も行われ,尿中の赤血球数を表すBLD値が+3となっていた。 (ス) 午後6時原告Aの膀胱温は,38℃まで下がり,脈拍は115,血圧84/52であった。 (セ) その後,原告AのCK値は,同月27日の検査時には17460となり,同月28日の検査時には14210となった。同日の検査の際には,原告AのCKは100パーセント骨格筋由来のものであった。 イ筋生検の結果とその医学的知見証拠(甲A2(枝番も含む。),3,B11)によれば,D病院は,7月24日,原告Aの筋生検をF大学に依頼し,F大学はこれを施行したが,その結果は,悪性高熱に特有なCICR値は正常であったこと,筋生検による診断は,悪性高熱の素因を検索するのに有効であるとされているが,悪性高熱発症例のうち,筋生検においてCICR速度の亢進が認められない例が20パーセ 熱に特有なCICR値は正常であったこと,筋生検による診断は,悪性高熱の素因を検索するのに有効であるとされているが,悪性高熱発症例のうち,筋生検においてCICR速度の亢進が認められない例が20パーセント程度存在することが認められる。 ウ悪性高熱等についての文献による医学的知見証拠(甲B11,乙A12,被告本人)によれば,悪性高熱の臨床判断基準で,世界的に通用するものはまだ制定されていないが,別紙クリニカル・グレイディング・スケール記載のとおり,臨床症状をジャンル別に分けて得点化し悪性高熱の確からしさを6ランクに分類するCGSが平成4年の国際悪性高熱症ワークショップで提案されたことが認められる。 他方,証拠(甲B7)によれば,低酸素血症,高炭酸ガス血症によって,体温上昇が生ずることがあることが認められるが,本件全証拠によっても,ここにいう体温上昇が本件におけるような40℃もの高熱を含むのか否かは明らかではないし,骨格筋由来のCK値の上昇や,ダントロレン投与後の症状の急速な改善と低酸素血症,高炭酸ガス血症の関係も不明である。 エ(ア) アの原告Aの症状からすると,CGSの基準である,①強直筋強直が認められ15点,②CK値10000を超えており,筋崩壊が認められ15点,③体温が41.2℃まで上昇し,急激な体温上昇があり10点,④BEが-9.7で-8未満であり10点,動脈血がph7.202でph7.25未満であり10点,ダントロレンの静注で代謝性アシドーシスが急速に改善したので5点をそれぞれ満たしていたと考えられ,これらの総和は,65であって,CGSによれば,かかる数値があれば,悪性高熱の可能性は,「ほとんど確実」となる。 (イ) しかしながら,証拠(甲A2(枝番を含む。)乙A いたと考えられ,これらの総和は,65であって,CGSによれば,かかる数値があれば,悪性高熱の可能性は,「ほとんど確実」となる。 (イ) しかしながら,証拠(甲A2(枝番を含む。)乙A8ないし10)によれば,D病院の医師は,原告Aの搬送直後,同原告の全身麻酔後の41℃に及ぶ体温上昇,著明な代謝性アシドーシスの症状から悪性高熱を疑い,ダントロレンの投与等の治療を行っていたが,Kの上昇が軽度であったこと,明らかな褐色尿がなかったこと,比較的少量のダントロレンで改善がみられたこと,原告Aの家族に悪性高熱を示唆する病歴はなかったこと,筋生検の結果,悪性高熱に特有なCICR値に異常はなく正常であったことなどから,悪性高熱については否定的であると考え,結局,被告クリニックにおける全身麻酔と麻酔中及び麻酔後の経過の詳細が明らかではないので,低酸素脳症の原因は不明であるとしたことが認められる。 オ以上の検討によれば,原告Aの症状をCGSの基準に当てはめると,原告Aは悪性高熱であったと認められるのであるが,上記にみたとおり,CGSの基準は,国際悪性高熱症ワークショップで提案された一つの臨床診断基準にすぎず,これが世界的に通用している基準であると必ずしもいうことができないし,現に,原告Aの症状を確認し治療に当たったD病院の医師において,原告Aが悪性高熱であったことについて否定的な見解を持ち,筋生検の結果においても,悪性高熱に特有なCICR値は正常であったというのであるから,原告Aの低酸素脳症の原因が,悪性高熱によるとはいまだ認められず,また,これが低酸素血症及び高炭酸ガス血症によるものとする根拠もなく,さらには,それ以外の原因を特定することもできないから,結局,原告Aの低酸素脳症の原因は不明であるというほかない。そして,上記エの た,これが低酸素血症及び高炭酸ガス血症によるものとする根拠もなく,さらには,それ以外の原因を特定することもできないから,結局,原告Aの低酸素脳症の原因は不明であるというほかない。そして,上記エのとおり,原告Aの低酸素脳症の原因が明らかでないのは,被告が被告クリニックにおける全身麻酔と麻酔中及び麻酔後の経過の詳細を明確にしていないことに原因があるといわなければならない。 (2) 上記(2)に判示したとおり,原告Aの低酸素脳症の原因は明らかではないが,同原告を低酸素脳症に至らせた点における被告クリニックにおける麻酔管理の過失の有無について判断する。 ア上記2(1)に認定したとおり,本件手術は,4月26日午後0時に終了し,原告Aは,午後0時10分から自発呼吸を開始したが,午後0時15分を過ぎても,意識が回復せず,震えが始まり,その後,ETCO2が70ないし75台へ上昇し,SPO2が97ないし96へ下降して徐々に悪化し,さらに,午後2時,状態が改善しないまま体温が40℃に上昇し,震えが増加したことが認められる。 ところで,被告がねつ造した本件麻酔記録において,原告Aには,震えの後にときどき筋強直がみられ,その後筋強直が強くなるとの記載があり,被告がこのような記載をしていることからすると,原告Aには,震えの後に筋強直も生じたと認めるべきである。 一方,原告Aの上記のような症状に対し,被告がとった措置は,自発呼吸のフォローとその後の用手的な呼吸のアシストにすぎず,被告は,午後2時41分になって救急要請したことが認められる。 そして,証拠(甲A2(枝番を含む。),B7)によれば,原告Aは,救急車内で血圧が低下し,午後3時12分にD病院に到着した時の脈拍は186と異常な頻拍状態になり,血圧も51/15と極 そして,証拠(甲A2(枝番を含む。),B7)によれば,原告Aは,救急車内で血圧が低下し,午後3時12分にD病院に到着した時の脈拍は186と異常な頻拍状態になり,血圧も51/15と極めて低く,体温は41.2℃と高く,著明な代謝性アシドーシスの症状を呈し,原告Aの状態が極度に悪化していたこと,午後3時39分ないし41分には血行動態不良のため心室性頻拍を起こしたこと,D病院においては,原告Aの血行動態が安定するのを待って,原告Aに対し,胃洗浄及びアルコールでの全身清拭による体温冷却を始め,その後ダントロレン2.5Vを点滴静注するなど,救急治療に当たったが,結局,低酸素脳症による植物状態にまで至ったことが認められる。 イ上記事実によれば,原告Aは,午後0時に本件手術が終了した後,意識が回復せず,震え,筋強直も生じ,ETCO2 は70ないし75台と異常値を示して,体温も40℃に上昇したのであるから,被告においては,原告Aに対し,アルコールによる全身清拭や輸液等による体温冷却の措置をとって高熱状態を改善させ,震え,筋強直,ETCO2 の異常な上昇の原因をさぐってその改善措置をとるべきであり,それができないときは直ちに高次救急医療機関に搬送すべきところ,被告は,自発呼吸のフォローとその後の用手的な呼吸のアシストを行ったにすぎず,原告Aを本件手術が終了した午後0時から救急要請を行った午後2時41分までの2時間41分間にわたってその他の措置を一切とることなく被告病院に留め置いて,原告Aの状態を悪化させ,上記アのとおり,D病院に搬送されたときには,原告Aを極度に悪化した状態にまで至らせ,D病院における,体温冷却やダントロレンの点滴静注等の救急治療にかかわらず,結局低酸素脳症による植物状態に至らせたのであるから,被告には,麻酔 れたときには,原告Aを極度に悪化した状態にまで至らせ,D病院における,体温冷却やダントロレンの点滴静注等の救急治療にかかわらず,結局低酸素脳症による植物状態に至らせたのであるから,被告には,麻酔後において,原告Aに対し適切な管理を行わなかった過失,また,直ちに高次救急医療機関に搬送しなかった過失が認められる。 ウ前記1認定のとおり,被告は,本件麻酔記録において,午後1時56分に本件手術を終了し,29分後の午後2時25分に救急要請を行ったかのように,本件麻酔記録をねつ造したのであるが,これは,被告において原告Aが全身麻酔後意識が回復せず,異常な症状を呈した状態を適切に判断して,直ちに高次医療機関に搬送する措置をとったという体裁を整えるためであったと推認されるのであり,これを翻ってみると,被告は,原告Aについて,2時間41分間もの長時間にわたって,被告クリニックに留め置き,高次救急医療機関に搬送する措置をとらなかったことについて適切な措置ではなかったと考えていたことの証左であり,このことからも被告の麻酔管理の過失が裏付けられるというべきである。 エところで,仮に,原告Aの低酸素脳症の原因が被告主張の悪性高熱によるものであったとしても,証拠(甲B6,乙A12,被告本人)によれば,悪性高熱を発症した場合には,吸入麻酔薬及び筋弛緩薬の投与を中止し,積極的に全身冷却を行う,100パーセント酸素で過換気を行う,ダントロレンの投与を行うとされていることが認められ,揮発性吸入麻酔薬を用いた全身麻酔中に,悪性高熱の兆候が現れた場合には,これらの治療を開始する必要があるとされているのであるから,被告は,原告Aに筋強直がみられ,40℃の高熱を発していることを認識した時点で,積極的に全身冷却を行い,100パーセント酸素で過換気を行うととも らの治療を開始する必要があるとされているのであるから,被告は,原告Aに筋強直がみられ,40℃の高熱を発していることを認識した時点で,積極的に全身冷却を行い,100パーセント酸素で過換気を行うとともに,ダントロレンを常備した高次救急医療機関に直ちに救急搬送するべき義務を負っていたということができ,被告には,全身冷却を行うことも,人工呼吸器で100パーセント酸素で過換気を行うこともせず,さらには,午後2時41分まで救急要請をしなかった点において,麻酔管理を十分行わなかった過失が認められる。 なお,原告Aの症状が,悪性高熱以外の原因不明のものであったとしても,悪性高熱の可能性もあるのであるから,上記の処置をとるべきであったし,被告において,原因不明の疾患による40℃への異常な体温上昇に対する対処法が不明であったのであれば,その時点で,高次救急医療機関へと転院させる義務があったというべきであり,結局,何もしないで午後2時41分まで原告Aを放置した被告には,麻酔管理を十分行わなかった過失がある。 4 争点(3)ないし(5)について前記3判示のとおり,被告に,麻酔管理を十分行わなかった過失が認められる以上,争点(3)ないし(5)の各過失については,後述の慰謝料額の判断を左右するものとは認めないから判断しないこととする。 5 争点(6)(因果関係及び損害)について(1) 原告Aの現在の状態証拠(甲A2,B1,2)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは,本件事故によって,低酸素脳症による両上下肢機能全廃及び体幹機能障害の状態(7月31日症状固定)にあるほか,意識障害があって全く意思疎通のできない状態であり,8月7日からはD病院から医療法人E病院に転院して,入院加療中であるが, る両上下肢機能全廃及び体幹機能障害の状態(7月31日症状固定)にあるほか,意識障害があって全く意思疎通のできない状態であり,8月7日からはD病院から医療法人E病院に転院して,入院加療中であるが,今後の改善は見込めない状態にあることが認められる。 したがって,原告Aは,神経系統の機能等に著しい障害を残し常に介護を要する状態であって,後遺障害別等級第1級3号に該当する。 (2) 因果関係被告が,本件手術後,原告Aの症状に応じた全身冷却,100パーセント酸素投与等の適切な処置をし,さらに,早急に救急要請をして原告Aを高次救急病院に搬送していれば,原告Aが上記(1)のような重篤な障害を持つに至らなかったと認められるから,被告が麻酔管理を怠った過失と原告Aの現在の状態との間には因果関係が認められる。 (3) 原告Aの損害額ア逸失利益原告Aは,上記認定のとおり,後遺障害別等級第1級3号に該当し,労働能力を100パーセント喪失したと認められること,原告Aの本件事故当時における年齢は26才であり,労働能力喪失期間を67才までの41年間と認められることから,ライプニッツ係数(5パーセント控除)を17.2943とし,原告A主張の平成10年の女子全年齢平均賃金341万7900円を基準に,その逸失利益を算定すると,5911万0187円(341万7900円×17.2943×100%。円未満切捨て)となる。 なお,診断書上の原告Aの症状固定日は,7月31日であるが,弁論の全趣旨によれば,原告Aは,本件事故が発生した4月26日から,上記と同様の状態にあったと認められるから,事故発生日からの逸失利益を算定するものとする。 イ後遺症慰謝料原告Aは れば,原告Aは,本件事故が発生した4月26日から,上記と同様の状態にあったと認められるから,事故発生日からの逸失利益を算定するものとする。 イ後遺症慰謝料原告Aは,本件手術の際の被告の麻酔管理上の過失によって,26歳という若さで,後遺障害別等級第1級3号に該当する後遺障害を残し,その将来を事実上奪われたものであって,その精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものがあり,他方,被告は,美容整形手術による危険性及び麻酔による危険性については一言も触れることなく,できあがりの美しさや痛みを伴わない手術であることだけを強調して,被告クリニックによる美容整形の魅力を一方的に宣伝して顧客を集め,本件事故発生後においては,原告Aの搬送先であるD病院からの照会にも協力せず,同病院における原告Aに対する適切な治療の機会を妨げ,さらには,自らの責任を逃れるために本件診療録及び本件麻酔記録をねつ造するという行為に及んだものであり,患者の健康や命を扱う医師という職業にある者としてあるまじき,極めて悪質な行為に終始したのであって,その責任は極めて重いというほかはない。その他本件における一切の事情を総合考慮すれば,本件における原告Aの慰謝料は,原告Aの主張どおり金2600万円と認められる。 ウ入院雑費,介護費用等原告Aは,生涯にわたって入院介護を要する状態にあるから,以下の費用については原告Aの損害と認められる。 (ア) 入院雑費おむつ代等の衛生費を月額2万円とし,原告A主張どおり26歳女性の平均余命を58.67年(ライプニッツ係数(5パーセント控除)は18.8195)として,衛生費を算出すると,451万6680円となる(24万円×18.8195。円未満切捨て)。 どおり26歳女性の平均余命を58.67年(ライプニッツ係数(5パーセント控除)は18.8195)として,衛生費を算出すると,451万6680円となる(24万円×18.8195。円未満切捨て)。 (イ) 介護費用介護費用を1日当たり1万円とし,26歳女性の平均余命を58.67年(ライプニッツ係数(5パーセント控除)は18.8195)として,介護費用を算出すると,6869万1175円となる(365万円×18.8195。円未満切捨て)。 (ウ) 小計以上(ア)と(イ)を合計すると,7320万7855円となる。 エ弁護士費用本件訴訟の態様,進行状況,訴訟活動等を総合考慮して,本件における弁護士費用として,800万円を被告の過失と因果関係ある損害と認める。 オ合計以上アないしエを合計すると,原告Aの損害額は,1億6631万8042円となる。 (4) 原告Bの損害額ア慰謝料証拠(甲C1)及び弁論の全趣旨によれば,原告Bは,原告Aと婚姻してわずか2年で,本件事故の発生により,原告Aとの平穏な結婚生活を奪われたものであり,その後も,被告の本件診療録及び本件麻酔記録のねつ造を始めとする極めて不誠実な対応によって,重い精神的苦痛を負ったものと認められるほか,原告Bはその後原告Aと離婚に至っている事情等本件における一切の事情を総合考慮し,本件における原告Bの慰謝料としては,400万円が相当であると認める。 イ弁護士費用本件訴訟の態様,進行状況,訴訟活動等を総合考慮して,本件における弁護士費用として,20万円を被告の過失と因果関係ある損害と 万円が相当であると認める。 イ弁護士費用本件訴訟の態様,進行状況,訴訟活動等を総合考慮して,本件における弁護士費用として,20万円を被告の過失と因果関係ある損害と認める。 ウ合計以上ア,イを合計すると,420万円となる。 5 以上によれば,原告らの本訴請求は,原告Aにおいて,被告に対し,不法行為に基づき,金1億6631万8042円及びこれに対する不法行為の日である平成13年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告Bにおいて,被告に対し,不法行為に基づき,金420万円及びこれに対する不法行為の日である平成13年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから認容し,原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから棄却する(原告らの債務不履行に基づく請求についても同様である。)こととし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言について,同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官前田順司 裁判官浅井憲 裁判官増尾崇(別紙添付省略)

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