主文 1 原判決中,平成元年11月分,同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分の源泉徴収による所得税の納税の告知並びに同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分の源泉徴収による所得税の不納付加算税の賦課決定の各取消請求に係る部分を破棄し,同部分に関する第1審判決を取り消す。 2 前項の部分に係る被上告人の請求を棄却する。 3 訴訟の総費用はこれを5分し,その3を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。 理由 上告代理人細川清ほかの上告理由について 1 本件は,被上告人が上告人に対し,上告人から受けた平成元年10月から同3年9月までの期間に係る源泉徴収による所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税の告知(以下「本件納税告知」という。)並びにこれらの納税の告知に係る源泉所得税の不納付加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)の各取消しを求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 甲(以下「甲」という。)は,昭和62年11月10日,株式会社乙から2億6250万円を借り入れ(以下,この借入れを「本件借入れ」といい,本件借入れに係る金員を「本件借入金」という。),これを資金として丙株式会社の株式100株(以下「本件株式」という。)を購入した。甲は同族会社である被上告人の代表者であり,被上告人は,株式会社乙に対し,甲に代わって本件借入金の利息を支払った(以下,このようにして支払われた利息を「本件支払利息」という。)。 被上告人は,株式会社乙に対し,平成元年10月1日から同2年9月30日までの事業年度及び同年10月1日から同3年9月30日までの事業年度中に本件支払利- 1 -息として,同元年11月10日に353万4040円を,同2 乙に対し,平成元年10月1日から同2年9月30日までの事業年度及び同年10月1日から同3年9月30日までの事業年度中に本件支払利- 1 -息として,同元年11月10日に353万4040円を,同2年2月19日に453万0821円を,同年5月14日に489万6164円を,同年8月10日に484万2945円を,同3年9月30日に1536万5786円をそれぞれ支払った。本件支払利息につき,甲と被上告人との間で返済が合意された事実は認められない。 (2) 東京国税局査察部は,平成元年4月に被上告人に対し強制調査を行った際,昭和62年10月1日から同63年9月30日までの事業年度中に支払われた本件支払利息1271万0424円は被上告人から甲に対する同支払相当額の経済的利益の供与であって,甲に対する法人税法35条4項にいう臨時的な給与の支給であり,同条1項所定の賞与の支給に該当すると考えていたが,被上告人がこれを甲に対する貸付金として処理してほしい旨要請したことから,この要請を了解し,被上告人に対し,上記金員を甲に対する貸付金として修正申告するよう促した。 (3) ところが,被上告人は,昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの事業年度,同年10月1日から同2年9月30日までの事業年度及び同年10月1日から同3年9月30日までの事業年度の各法人税の確定申告において,本件株式及び本件借入金が被上告人に帰属するものであるとして,本件支払利息を損金に算入して申告した。 (4) 上告人は,本件株式及び本件借入金が甲個人に帰属するものであり,本件支払利息と被上告人が負担した租税公課(本件借入れに係る印紙税及び本件株式に対する配当金に係る源泉税)の合計額から被上告人が受領した本件株式に対する配当金を控除した金額を甲に対し無利息で貸し付けたもの(以下 と被上告人が負担した租税公課(本件借入れに係る印紙税及び本件株式に対する配当金に係る源泉税)の合計額から被上告人が受領した本件株式に対する配当金を控除した金額を甲に対し無利息で貸し付けたもの(以下,この貸付けを「本件貸付け」といい,これに係る金員を「本件貸付金」という。)と判断し,被上告人に対し,平成4年11月27日付けで,① 本件支払利息を損金に算入することを否認して,上記各事業年度の法人税につき更正処分をするとともに,② 本件貸- 2 -付金に対する利息相当額(各事業年度末における本件貸付金残額合計を翌事業年度における元本として,年5.5%の利率で算定したもの。各事業年度において被上告人が負担した印紙税及び本件株式に対する配当金に係る源泉税の合計額は,被上告人が同事業年度に受領した本件株式に対する配当金の合計額より少ない。)は甲に対する役員報酬に当たるにもかかわらず,被上告人がこれに対する所得税を源泉徴収していないとして,第1審判決別表二1及び2のとおり,本件納税告知及び本件賦課決定をした。 (5) 国税通則法36条2項は,「納税の告知は,税務署長が,政令で定めるところにより,納付すべき税額,納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う」と規定し,これを受けた国税通則法施行令43条(平成12年政令307号による改正前のもの)及び国税通則法施行規則(平成14年財務省令第20号による改正前のもの)5条1項により定められた納税告知書の書式である同施行規則別紙第2号書式には,納付すべき税額に加え,「納付の目的」,「納期限」,「納付場所」等の記載欄があるが,支払事実の発生時ごとに成立,確定する個々の源泉所得税の納税義務を識別するに足りる事項の記載欄はない。 3 原審は,上記事実関係等の下で次のとおり判断し,本件納税告知及び本件賦 」等の記載欄があるが,支払事実の発生時ごとに成立,確定する個々の源泉所得税の納税義務を識別するに足りる事項の記載欄はない。 3 原審は,上記事実関係等の下で次のとおり判断し,本件納税告知及び本件賦課決定の取消しを求めた被上告人の請求を認容した第1審判決を是認し,これに対する上告人の控訴を棄却した。 源泉所得税の納税義務は,源泉所得税発生の原因である給与等の支払事実ごとに発生し,納税の告知は,その額が自動的に確定した源泉所得税の納税義務及びその額を示すものである。したがって,納税の告知は,源泉所得税発生の原因である給与等の支払事実が存在しない場合には違法となるものと解すべきである。そして,所得の種類及び法定納期限を同じくする他の源泉所得税の存在が認められるからといって,その支払事実が当該納税の告知の前提とされた支払事実と基本的事実関係- 3 -を同じくするものでない限り,金額が重なり合う限度で当該納税の告知が適法となるものではない。 上告人は,前記2(4)のとおり甲に対する無利息の貸付けがあったものととらえ,これに対する利息相当額を甲に対する役員報酬であるとして本件納税告知を行ったものであるが,本件支払利息の性質は,同金員につき返済の合意が認められないことから被上告人の甲に対する貸付金ではなく,被上告人から甲に対する同支払相当額の経済的利益の供与であって,甲に対する法人税法35条4項にいう臨時的な給与の支給であり,同条1項所定の賞与の支給に該当する。このように本件貸付けの存在は認められず,その利息相当額の役員報酬も存在しない。また,上記のとおり本件支払利息は甲に対する賞与であり,上告人の認定した役員報酬と同じ給与所得に属するものではあるが,基本的事実関係は全く異なる。 したがって,本件納税告知及びこれを前提とする本件賦課決定は違法 おり本件支払利息は甲に対する賞与であり,上告人の認定した役員報酬と同じ給与所得に属するものではあるが,基本的事実関係は全く異なる。 したがって,本件納税告知及びこれを前提とする本件賦課決定は違法である。 4 しかしながら,原審の上記判断のうち,平成元年11月分,同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分に係る本件納税告知並びに同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分に係る本件賦課決定が違法であるとした部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。 【要旨】前記事実関係等によれば,上告人は,前記の経緯から,被上告人が甲に対して本件貸付金に対する利息相当額の経済的利益を供与したものとし,これが被上告人の甲に対する給与等(役員報酬)の支払に当たるものとして本件納税告知及び本件賦課決定をしたというのであり,その実質は,被上告人が甲に代わって本件支払利息を支払ったことにより甲が被上告人から受けた同額の給与等(賞与)に当たる経済的利益のうち本件貸付金に対する利息相当額の限度で被上告人に対し源泉徴収税の納税義務の履行を請求するにとどめたものというべきである。本件納税告知の前提となる源泉所得税の納税義務は被上告人が甲に代わって本件支払利息を支- 4 -払った時点で成立し,同時に納付すべき税額も自動的に確定していたのであり,その内容は,原審が判断したとおりであって,被上告人には自明のことであったというべきところ,納税の告知は前記のとおり書式が定められた納税告知書をもってされるのであり,平成元年11月分,同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分に係る本件納税告知については,上告人が本件納税告知により被上告人に対して納税義務の履行として実際に請求した金額は,上記のとおり納税義務が客観的に成立し税額が自 年5月分,同年8月分及び同3年9月分に係る本件納税告知については,上告人が本件納税告知により被上告人に対して納税義務の履行として実際に請求した金額は,上記のとおり納税義務が客観的に成立し税額が自動的に確定していた源泉所得税の金額に包含されるものである上,納税告知書に記載された所得の種類にも食い違いはみられない。以上の事実関係の下においては,本件納税告知及び本件賦課決定は,被上告人が本件支払利息を支払った年月及びその額が一致する限度で適法であるというべきである。 以上によれば,平成元年11月分,同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分に係る本件納税告知は適法であり,同2年2月分,同年5月分,同年8月分及び同3年9月分に係る本件賦課決定も適法であるということになる。 5 以上と異なる見解の下に,上記各処分が違法であるとして被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上記部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分に関する第1審判決を取り消し,同請求を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官金谷利廣裁判官濱田邦夫裁判官上田豊三)- 5 -
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