- 1 -令和3年9月9日判決言渡令和2年(行ウ)第99号文書非公開決定取消等請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,11万円及びこれに対する令和2年10月20日 から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する令和2年10月20日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,A市の住民である原告が,A市情報公開条例(平成12年A市条例第 26号。以下「本件条例」という。)に基づき,平成31年4月22日及び令和2年7月9日にそれぞれ情報公開請求をしたところ,A市長から,それぞれ令和元年5月16日付け及び令和2年7月13日付けで,情報が記載された文書の一部を非公開としその余を公開する旨の情報部分公開決定(以下,それぞれ「本件処分1」,「本件処分2」といい,これらを併せて「本件各処分」という。)を受け たため,本件各処分について,公開すべき部分を非公開とした違法があり,これにより原告の知る権利が侵害されたなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等合計100万円及びこれに対する訴え変更申立書の送達の日の翌日である令和2年10月20日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 本件条例の定め(甲2)- 2 -⑴ 1条本件条例1条は,本件条例は,市の保有する情報を公開することにより,市民の知る権利の保障と市政への参加の促進を図るとともに,市の行政活動を市民に説明する責任を果たすこ 2)- 2 -⑴ 1条本件条例1条は,本件条例は,市の保有する情報を公開することにより,市民の知る権利の保障と市政への参加の促進を図るとともに,市の行政活動を市民に説明する責任を果たすことにより,市政に対する理解と信頼を深め,もって公正で民主的な市政を推進することを目的とする旨定める。 ⑵ 5条1項本件条例5条1項は,次の各号に掲げるものは,実施機関(市長,教育委員会,選挙管理委員会,公平委員会,監査委員,農業委員会,固定資産評価審査委員会及び議会をいう〔本件条例2条1号〕。以下同じ。)に対し,情報の公開を請求することができる旨定める。 1号市の区域内に住所を有する者⑶ 6条本件条例6条は,実施機関は,情報の公開請求に係る情報が同条各号のいずれかに該当する場合を除き,当該情報を公開しなければならない旨定める(以下,本件条例6条各号に定める情報を「非公開情報」という。)。 ア 2号法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公開することにより,当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(以下「法人等利益侵害情報」という。)(ただし書は 省略)イ 7号公開することにより,人の生命,身体,健康,財産等の保護又はその他公共の安全の確保に支障が生ずるおそれのあるもの(以下「公共安全情報」という。) ⑷ 7条- 3 -本件条例7条は,実施機関は,公開が請求された情報に本件条例6条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分がある場合において,その部分を容易に分離することができ,かつ,当該分離によって請求の趣旨を損なわないと認められるときは,当該部分 情報に本件条例6条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分がある場合において,その部分を容易に分離することができ,かつ,当該分離によって請求の趣旨を損なわないと認められるときは,当該部分を除いて,情報の公開を行わなければならない旨定める。 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者原告は,A市に住所を有する者である。 ⑵ 本件各処分 ア本件処分1原告は,平成31年4月22日,実施機関であるA市長に対し,本件条例に基づき,「株式会社BがA市に対して提出した納税証明書(発行番号524,平成31年2月27日付)の納税証明書・課税(所得)証明書等交付申請書の写し」に該当する文書(以下「本件文書」という。)の公開を求 める旨の情報公開請求をした(甲5)。 A市長は,令和元年5月16日付けで,原告に対し,上記情報公開請求に関し,本件文書のうち一部を公開し,その余を非公開とする旨の情報部分公開決定(令和元年阪行第66-2号。本件処分1)をした。本件処分1の通知書には,情報の公開をしない部分の概要として,「法人に関する 情報(営業,販売活動に関する情報),公共の安全等に関する情報(印影等)」と記載され,その理由として,「A市情報公開条例第6条第2号及び7号」,「該当」,「法人に関する情報,公共の安全等に関する情報」と記載されていた(甲6)。 イ本件処分2 原告は,令和2年7月9日,実施機関であるA市長に対し,再び,本件- 4 -文書の公開を求める旨の情報公開請求をした。 A市長は,令和2年7月13日付けで,原告に対し,上記情報公開請求に関し,本件文書のうち一部を公開し,その余を非公開とする旨の情報部分公開決定 -文書の公開を求める旨の情報公開請求をした。 A市長は,令和2年7月13日付けで,原告に対し,上記情報公開請求に関し,本件文書のうち一部を公開し,その余を非公開とする旨の情報部分公開決定(令和2年阪行第232号。本件処分2)をした。本件処分2の通知書に記載された情報の公開をしない部分の概要及びその理由は,本 件処分1と同様であった(甲1)。 ⑶ 本件文書の内容等(甲3,7)ア本件文書本件文書は,株式会社B(以下「本件会社」という。)が,未納の市町村税がないことの納税証明書の交付を受けるために,平成31年2月27日 付けでA市長に対して提出した納税証明書・課税(所得)証明書等交付申請書である。 イ本件文書の体裁本件文書には,次の①~⑤の各欄が設けられている。 ①申請者(申請時に窓口を訪れた者)を記載する欄(以下「申請者欄」と いう。)②証明書の発行を求める者を記載する欄(以下「請求者欄」という。)③証明書の発行を求める者が法人である場合に代表者印を押印する欄(以下「代表者印欄」という。代表者印欄には法人の代表者印を押印するよう求める旨の不動文字による記載がある。) ④交付を求める証明書の種類を記載する欄(以下「証明書種類欄」という。証明書種類欄においては,納税証明書,課税(所得)証明書又は法人の営業証明書を選択するようになっており,納税証明書を請求する場合には,市税を納付したことの証明書又は市税及びその附帯徴収金に未納の徴収金がないことの証明書を選択するようになっている。) ⑤請求した証明書の使用目的を記載する欄(以下「使用目的欄」という。 - 5 -使用目的欄においては,融資申請,保証人,指名願い〔入札〕,公営住宅,扶養申請,児童手 うになっている。) ⑤請求した証明書の使用目的を記載する欄(以下「使用目的欄」という。 - 5 -使用目的欄においては,融資申請,保証人,指名願い〔入札〕,公営住宅,扶養申請,児童手当,医療・福祉制度,奨学金・授業料減免,年金又はその他のいずれかを選択するようになっている。)ウ本件非公開部分前記(2)のとおり,本件各処分においては,本件文書のうち一部が公開さ れ,その余が非公開とされたが,本件処分1及び本件処分2のいずれにおいても,非公開とされた部分は,①申請者欄,②請求者欄のうち請求者の代表者の生年月日欄,③代表者印欄,④証明書種類欄及び⑤使用目的欄の記載内容であった(以下,本件各処分において非公開とされたこれらの部分のうち,④証明書種類欄,⑤使用目的欄及び③代表者印欄の記載内容部 分を併せて「本件非公開部分」という。)。 ⑷ 本件文書のその後の一部公開等原告は,令和2年7月15日,A市長に対し,本件処分2を不服として,審査請求をした。 A市長は,令和2年9月18日付けで,本件処分2を取り消し,本件文書 のうち一部を公開し,その余を非公開とする情報部分公開決定(令和2年阪行第232号の1。以下「本件事後処分」という。)をした(甲4)。 本件事後処分においては,本件非公開部分のうち,証明書種類欄及び使用目的欄が公開され,本件会社が本件文書により交付を求めた証明書が「市税及びその附帯徴収金に未納の徴収金がないこと」の証明書であること及び交 付を受ける証明書の使用目的として「指名願い(入札)」が選択されていることがそれぞれ明らかになった。なお,本件事後処分の通知書には,情報の公開をしない部分の概要として「個人の住所,氏名,フリガナ,生年月日,電話番号,続柄,法人の印影」 願い(入札)」が選択されていることがそれぞれ明らかになった。なお,本件事後処分の通知書には,情報の公開をしない部分の概要として「個人の住所,氏名,フリガナ,生年月日,電話番号,続柄,法人の印影」と記載され,その理由として「A市情報公開条例第6条第1号及び第2号」,「該当」,「個人に関する情報及び法人に関 する情報のため」と記載されていた(甲4,7)。 - 6 -⑸ 被告が所有していた建物の売却に係る経緯等ア本件会社本件会社は,昭和60年10月に設立された,和菓子及び洋菓子の製造,販売等を目的とする株式会社であり,令和2年7月に本店をA市に移転するまでは,大阪府泉南郡(住所省略)に本店を置いていた(甲16)。 イ被告における本件建物の購入及び売却(ア) 被告における本件建物の購入から売却検討までの経緯被告は,平成28年3月,A市(住所省略)に所在する鉄骨造合金メッキ鋼板ぶき2階建ての建物(平成25年新築。以下「本件建物」という。)を借地権付きで購入した。本件建物は家電量販店として使用され ていた店舗・倉庫であり,床面積は1階が1131.88㎡,2階が3233.73㎡であって,屋上には太陽光発電設備が設置されている。 本件建物の敷地の賃借期間は10年であり,賃借人は契約期間終了時に建物を収去しなければならないとされている。被告は,本件建物の購入後,借地権設定者に対し,賃料として毎月265万9640円を支払っ ていた。 被告は,本件建物の購入当時,A市に設置されていた幼稚園及び保育所が老朽化していたことから,本件建物を子育てに関する施設として整備する施策を検討していた。 しかし,上記施策に反対する市民運動が起き,平成28年10月に行 われたA市長選挙においてCが 育所が老朽化していたことから,本件建物を子育てに関する施設として整備する施策を検討していた。 しかし,上記施策に反対する市民運動が起き,平成28年10月に行 われたA市長選挙においてCが初めて当選するなどした後,被告は,遅くとも平成29年7月頃には,本件建物を子育てに関する施設として活用することを断念し,売却を検討するようになっていた(以上につき,甲15,乙1~3)。 (イ) 一般競争入札・随意契約の方法による本件建物の売却の不奏効 被告は,本件建物を売却するため,平成30年1月に一般競争入札(期- 7 -間入札。なお,最低売却価格は4億3574万7600円とされた。)を,同年4月に先着順での随意契約による購入希望者の公募を,それぞれ実施したが,いずれも入札者又は購入希望者はいなかった。 被告は,本件建物の売却条件を見直した上で,再度,平成30年11月から同年12月にかけて一般競争入札(期間入札。なお,最低売却価 格は1億8310万8405円とされた。)を,同月17日から平成31年3月1日まで先着順での随意契約による購入希望者の公募を,それぞれ実施したが,いずれも入札者又は購入希望者はおらず,いずれも不売となった(以上につき,甲15,乙1~4)。 (ウ) 本件プロポーザル そこで,被告は,売却条件を再度見直した上で,公募型プロポーザル方式による売却(本件建物の購入を検討している者において本件建物の使用方法等の提案〔プロポーザル〕をさせ,被告が上記提案を踏まえて売却先を検討・選定し,随意契約により売買契約を締結すること)を目指すこととし,平成31年3月4日,最低売却価格を8831万883 6円として上記プロポーザルの手続(以下「本件プロポーザル」という。)を実施するこ 随意契約により売買契約を締結すること)を目指すこととし,平成31年3月4日,最低売却価格を8831万883 6円として上記プロポーザルの手続(以下「本件プロポーザル」という。)を実施すること及びその募集要項を公表した。なお,本件建物の購入に当たり,一般競争入札に参加したり,随意契約により売買契約を締結したり,本件プロポーザルに参加したりするためには,未納の市町村税がないことが要件とされていた(甲15,乙1,4,弁論の全趣旨)。 平成31年3月11日に行われた本件プロポーザルには,本件会社のみが参加した。その後,被告と本件会社は,同月19日,本件建物に関し,売買契約の効力の発生を議会の議決にかからせる旨の停止条件付売買契約を締結し,同契約は同月26日にA市議会の議決を経た(甲8,9,10,15)。 A市長は,平成31年3月に開催されたA市議会定例会において,上- 8 -記議決に先立ち,本件建物の売却に関して,そのスケジュール等も含めて説明した(乙4)。 ウ本件プロポーザルに関する公表被告は,遅くとも平成31年3月11日までに,本件会社が本件建物の購入候補者に決定したこと及び本件会社が本件プロポーザルにおいて本店 をA市に移転させる意向を示していたことを公表した(なお,本件会社は,本件プロポーザルにおいて,本店をA市に移転させる意向を示していた。)。 また,被告は,平成31年3月19日,同日に被告と本件会社が本件建物の停止条件付売買契約を締結したことを公表した。 さらに,被告は,平成31年3月25日,翌日に同契約について議会の 議決を経る予定であることを公表した(以上につき,甲8~10)。 エ本件会社の移転登記本件会社は,令和2年7月1日,本店を本 は,平成31年3月25日,翌日に同契約について議会の 議決を経る予定であることを公表した(以上につき,甲8~10)。 エ本件会社の移転登記本件会社は,令和2年7月1日,本店を本件建物所在地に移転し,同日,その旨の登記をした(甲16)。 ⑹ 原告がした住民監査請求 原告は,令和元年6月10日付けで,A市監査委員に対し,本件プロポーザルを実施した上で本件建物を売却したことに関し,A市長と本件会社の役員らが通謀し,故意に著しく廉価な売買契約を締結したなどと主張して,同契約を取り消すこと等を求める住民監査請求をした。原告は,上記住民監査請求において,本件会社が,本件プロポーザルを実施して購入希望者を公募 することが公表される以前から,その旨の情報を得ていたなどと主張していた(甲14)。 これに対し,A市監査委員は,令和元年8月5日付けで,原告に対し,上記住民監査請求を棄却する旨の監査結果を通知した。上記監査結果の通知書には,本件プロポーザルにおいて本件会社が提出した納税証明書の発行日が, 本件プロポーザルに関する公募が開始された日以前のものであったことにつ- 9 -いて,「公表の日付前に取得していたからといって事前に秘匿情報の漏洩があったとは認められない。また,株式会社Bの証明書の取得目的が,本プロポーザルへの応募のためであったとは認められず,請求人の主張には理由がない。」などと記載されていた(甲15)。 ⑺ 本件訴えの提起等 原告は,令和2年7月27日,A市長が同月13日付けでした本件処分2の取消し及び本件文書を公開することの義務付けを求めて本件訴えを提起した。原告は,その後,同年10月15日付け訴え変更申立書により損害賠償請求に訴えを変更する旨の申立てをした。当裁判所は,同 処分2の取消し及び本件文書を公開することの義務付けを求めて本件訴えを提起した。原告は,その後,同年10月15日付け訴え変更申立書により損害賠償請求に訴えを変更する旨の申立てをした。当裁判所は,同月29日,行政事件訴訟法21条1項に基づき,これを許可する旨の決定をした。 3 争点⑴ 本件各処分において本件非公開部分を非公開としたことの国家賠償法上の違法性⑵ 損害の発生及び数額 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴(本件各処分において本件非公開部分を非公開としたことの国家賠償法上の違法性)について(原告の主張)本件非公開部分に記載された情報は,次のとおり,本件条例6条各号に定める情報(非公開情報)に当たらないから,本件各処分のうち,本件非公開 部分を非公開とした部分は違法である。そして,本件非公開部分を公開すべきことは,本件条例や,本件建物の売却に関する公表状況に照らして明らかであるから,本件各処分には国家賠償法上の違法があり,また,本件各処分をした被告の職員には職務に関する故意又は過失があったというべきである。 ア証明書種類欄及び使用目的欄について 本件文書のうち証明書種類欄及び使用目的欄を公開することにより,本- 10 -件会社の正当な利益が害されるおそれはないから,これらの欄に記載された情報は,本件条例6条2号の法人等利益侵害情報に該当しない。その理由は,次のとおりである。 (ア) 本件条例6条2号の法人等利益侵害情報とは,当該情報が公開されることにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益が害されること が客観的に明らかなものをいうと解すべきである。 (イ) これを本件についてみると,原告が本件文書に関する情報公開請求をした平成31年4 り当該法人の競争上の地位その他正当な利益が害されること が客観的に明らかなものをいうと解すべきである。 (イ) これを本件についてみると,原告が本件文書に関する情報公開請求をした平成31年4月22日の時点においては,既に被告と本件会社との間で本件建物の売買契約が締結され,そのことが公表されており,随意契約による本件建物の購入を目指す会社間の競争は終了しているので あるから,証明書種類欄及び使用目的欄の公開により,本件会社が指名願い(入札)の目的で納税証明書を取得したことや,本件会社が随意契約により本件建物の購入を目指す意向を有していたことが明らかになったとしても,本件会社の事業活動に影響を及ぼすとはいえないし,また,本件会社の従業員や金融機関等との関係に影響を及ぼすともいえない。 これに対し,被告は,本件建物の売買契約締結後も,証明書種類欄及び使用目的欄を公開することにより,本件会社の事業活動に重大な影響を及ぼすおそれがあった旨主張する。しかし,被告は,具体的なおそれを主張しているわけではなく,一般的な営業活動によって常に生ずる可能性のある事情を主張しているにすぎない。また,令和2年7月1日に は本件会社が本店を本件建物所在地に移転させた旨の登記がされていたのである。したがって,証明書種類欄及び使用目的欄を公開することにより,本件会社の正当な利益を害する具体的なおそれがあったとはいえない。 イ代表者印欄について 本件文書のうち,代表者印欄については,これが公開されたとしても,- 11 -犯罪をしようとする者が不法な意図をもって公開された印影等を用いて印章の偽造をする場合等,限定的な場合にのみ,犯罪に利用されるおそれが生じ得るものにすぎないから,代表者印欄に記載された印影を公開することに ようとする者が不法な意図をもって公開された印影等を用いて印章の偽造をする場合等,限定的な場合にのみ,犯罪に利用されるおそれが生じ得るものにすぎないから,代表者印欄に記載された印影を公開することにより,直接的に偽造等の犯罪に利用されるおそれがあるということはできない。したがって,代表者印欄に記載された情報が,本件条例6条7 号の公共安全情報に該当するとはいえない。 (被告の主張)本件非公開部分に記載された情報は,次のとおり,いずれも本件条例6条2号又は7号に定める非公開情報に該当する。したがって,本件非公開部分を非公開とした本件各処分に違法はなく,被告の職員が職務上尽くすべき注 意義務を怠ったとはいえないから,本件各処分には国家賠償法上の違法はなく,また,本件各処分をした被告の職員には職務に関する故意又は過失もなかった。 ア証明書種類欄及び使用目的欄について本件文書のうち証明書種類欄及び使用目的欄に記載された情報は,これ が公開されることにより,本件会社の営業活動等に支障を及ぼすおそれがあるから,本件条例6条2号の法人等利益侵害情報に当たり,非公開情報に該当する。 本件会社は,平成31年当時,大阪府泉南郡(住所省略)に本店を置き,同郡(住所省略)やA市内に製造工場を有する会社であったところ,証明 書種類欄及び使用目的欄を公開すれば,本件会社が本件文書を提出した平成31年2月27日時点で随意契約による本件建物の購入を目指す意向を有していたことが明らかとなるが,本件会社が本件建物を購入すれば,本店所在地や工場の移転,従業員の異動・退職等が生ずる可能性があり,本件会社と金融機関との関係に何らかの影響が生ずる可能性があるほか,仮 に本件会社が本件建物とは別の物件の購入も検討して ば,本店所在地や工場の移転,従業員の異動・退職等が生ずる可能性があり,本件会社と金融機関との関係に何らかの影響が生ずる可能性があるほか,仮 に本件会社が本件建物とは別の物件の購入も検討していたとすれば,当該- 12 -物件に関する法律関係等に影響を与える可能性があるなど,本件会社の事業活動に上記のような重大な影響を及ぼす具体的な可能性があった。このような重大な影響を及ぼす可能性は,たとえ本件会社が本件建物を購入した後であっても,少なくとも本件建物で営業が開始されるなどするまでは認められるというべきである(なお,本件建物の一般競争入札や随意契約 に至る経緯等に照らせば,被告の職員においては,本件会社が本件建物以外にも購入を検討していた物件があると想定したり,本件会社が本件プロポーザルに参加する以前から具体的な資金計画の検討を進めていたと想定したりするのが合理的であったところ,証明書種類欄及び使用目的欄を公開することで,本件建物以外の購入が検討されていた物件に関する関係者 や金融機関の関係者との間で本件会社がしていたやり取りの真意に関し,問題が生ずる可能性があることも想定されたものである。)。 イ代表者印欄について本件文書のうち,代表者印欄に記載された情報が公開された場合,印影の偽造等の犯罪に利用されるおそれがあるから,同情報は,本件条例6条 7号の公共安全情報に該当する。 また,代表者印欄に記載された情報が公開された場合,本件会社の正当な利益を害するおそれがあるから,本件条例6条2号の法人等利益侵害情報にも該当する。 ⑵ 争点⑵(損害の発生及び数額)について (原告の主張)原告は,違法な本件各処分により,審査請求や訴訟提起を余儀なくされたほか,初めて本件文書に関 報にも該当する。 ⑵ 争点⑵(損害の発生及び数額)について (原告の主張)原告は,違法な本件各処分により,審査請求や訴訟提起を余儀なくされたほか,初めて本件文書に関する情報公開請求をした平成31年4月22日から本件事後処分により本件非公開部分の大部分が公開された令和2年9月18日までの約1年5か月にわたり,知る権利を妨げられた。原告は,A市の 住民であり,被告の業務の適正性を監視する市民オンブズマンとして活動し,- 13 -本件建物の売却について令和元年6月10日付けで住民監査請求をした者であるから,同住民監査請求に関し,本件建物の売却に関する様々な資料を集めて,不正がないか確認することは極めて重要であったところ,公開されるべき資料が公開されなかったことにより,同住民監査請求は理由がないとして棄却され,その理由において,本件会社が証明書を取得した目的が本件プ ロポーザルに参加するためであったとは認められないなどとされた。以上を踏まえれば,知る権利を妨げられたことによって原告が被った精神的苦痛は甚大である。したがって,その精神的苦痛に対する金銭的賠償として50万円が相当である。 また,本件のような行政訴訟においては,対応可能な弁護士も少ないから, 弁護士費用相当額として50万円が相当である。 なお,被告は,本件事後処分により,本件非公開部分の一部が公開されている旨主張するが,少なくとも代表者印欄については本件事後処分においても公開されておらず,原告の精神的苦痛が既に慰謝されているとの被告の主張は理由がない。 (被告の主張)本件非公開部分のうち証明書種類欄及び使用目的欄については,本件事後処分において公開されているから,原告の知る権利が侵害され るとの被告の主張は理由がない。 (被告の主張)本件非公開部分のうち証明書種類欄及び使用目的欄については,本件事後処分において公開されているから,原告の知る権利が侵害されたとはいえず,原告に損害は生じていない。また,仮に原告に何らかの精神的損害が生じていたとしても,本件事後処分で本件非公開部分の一部が公開されたことによ り,既に慰謝されているというべきであるから,原告に損害があるとはいえない。 なお,情報の公開を適時に受けられなかったことによって損害が発生しているということもできない。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件各処分において本件非公開部分を非公開としたことの国家賠償- 14 -法上の違法性)について⑴ 本件非公開部分に記載された情報が,本件条例6条各号に定める非公開情報に該当するかア証明書種類欄及び使用目的欄について(ア) 判断枠組み 本件条例6条2号本文は,法人等に関する情報のうち,公開することにより,当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものを非公開情報とする旨定めているところ,同号の非公開情報に該当するというためには,単に当該情報が通常他人に知られたくないというだけでは足りず,当該情報が公開されることにより,当該法人等の 競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性があると客観的に認められることが必要であると解するのが相当である。 (イ) 本件における検討本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄には,本件会社が「指名願い(入札)」に使用する目的で「市税及びその附帯徴収金に未納の徴収金 がないこと」の納税証明書の交付を申請した旨の記載がある(前記前提事実⑷) 明書種類欄及び使用目的欄には,本件会社が「指名願い(入札)」に使用する目的で「市税及びその附帯徴収金に未納の徴収金 がないこと」の納税証明書の交付を申請した旨の記載がある(前記前提事実⑷)。そして,本件建物について一般競争入札に参加したり随意契約による売買契約を締結したりするためには未納の市町村税がないことが要件とされていたこと(前記前提事実⑸イ(ウ))等の事情をも併せ考慮すると,仮に,本件各処分において,本件文書の証明書種類欄及び使用 目的欄が公開されていたならば,本件会社が,A市長に対して本件文書を提出した平成31年2月27日の時点で本件建物を購入する意向を有していた可能性があることが明らかになったものと認められる。 しかし,本件処分1がされた令和元年5月16日の時点において,既に,本件会社は本件プロポーザルを経て本件建物の売買契約を締結して おり,かつ,この事実は被告によって公表されていた(前記前提事実⑸- 15 -イ,ウ)というのであるから,仮に,本件各処分において,本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄が公開されていたとしても,公開されることにより,本件建物の売買契約に関し,本件会社の競争上の地位に何らかの影響を及ぼしたような事態は想定し難いところである。また,本件会社が本件プロポーザルにおいてA市に本店を移転させる意向を示してい たことも,本件処分1の時点において既に公表されており(前記前提事実⑸ウ),本件会社と取引のある金融機関等の関係者において,本件会社の本店や工場の移転,これに伴う従業員の異動・退職の可能性があること等を容易に知り得る状況であったことからすれば,仮に,本件各処分において,本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄が公開されていた としても,公開されることにより, の異動・退職の可能性があること等を容易に知り得る状況であったことからすれば,仮に,本件各処分において,本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄が公開されていた としても,公開されることにより,本件会社の事業活動に重大な影響を及ぼす蓋然性があったとも認められない。 (ウ) したがって,本件非公開部分のうち証明書種類欄及び使用目的欄に記載された情報は,それが公開されることにより,本件会社の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性があると客観的に認められるも のとはいえず,本件条例6条2号にいう法人等利益侵害情報には該当しない。 イ代表者印欄について(ア) 本件における検討本件文書の代表者印欄には,法人の代表者印を押印するよう求める旨 の不動文字による記載がある(前記前提事実⑶イ)。そして,本件文書が法人が証明書の交付を受けるために官公庁に対して提出する申請書であることからすれば,本件文書の代表者印欄に押捺された印影は,印鑑登録がされた代表者印(会社の代表者が管轄の法務局にその印影を届け出た印章)によるものであることがうかがわれる。また,仮に印鑑登録 がされた代表者印による印影でないとしても,本件文書の代表者印欄に- 16 -押捺された印影は,少なくとも,本件会社が当該文書を真正に作成したことを公的に示す際に用いる印章によるものであることが認められる。 そして,本件文書に押捺された印影に係る印章の重要性に加え,本件文書の性質(法人の作成する文書のうち不特定多数の者に広く開示することを予定していないものであること),科学技術の発達に伴う印影の読 み取り技術及び複製技術の向上等を併せ考慮すれば,代表者印欄に押捺された本件会社の印影を公開することにより,これを用いた文書 ことを予定していないものであること),科学技術の発達に伴う印影の読 み取り技術及び複製技術の向上等を併せ考慮すれば,代表者印欄に押捺された本件会社の印影を公開することにより,これを用いた文書の偽造等の犯罪に利用されるおそれがあると認められる。 したがって,代表者印欄に記載された情報は,その公開により,人の財産等の保護又はその他公共の安全の確保に支障が生ずるおそれがある ものであり,本件条例6条7号の公共安全情報に該当するから,本件条例6条2号の法人等利益侵害情報に該当するか否かを検討するまでもなく,非公開情報に該当する。 (イ) 原告の主張についてこれに対し,原告は,犯罪を行おうとする者が不法な意図を有して実 施機関により公開された印影等を用いて印章の偽造を行うということが,異例な事態に属するものである旨主張する。しかし,仮に印章の偽造等を利用した犯罪が行われる頻度が一般的には高いものではないとしても,そのような一般的な発生頻度の低さをもって本件条例6条7号に定める公共安全情報に該当しないということはできず,上記複製技術の 向上等に伴い印章の偽造等が比較的容易になりつつあることや,上記印章の重要性等を踏まえれば,本件文書の代表者印欄を公開することにより,人の財産等の保護又はその他公共の安全の確保に支障が生ずるおそれはなお相当程度存在するというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ小括- 17 -以上のとおり,本件非公開部分のうち代表者印欄に記載された情報は本件条例に定める非公開情報に該当するが,証明書種類欄及び使用目的欄に記載された情報が,本件条例に定める非公開情報に該当するとはいえない。 ⑵ 国家賠償法上の違法 ち代表者印欄に記載された情報は本件条例に定める非公開情報に該当するが,証明書種類欄及び使用目的欄に記載された情報が,本件条例に定める非公開情報に該当するとはいえない。 ⑵ 国家賠償法上の違法の有無についてア判断枠組み 本件条例に基づく本件各処分に取り消し得べき瑕疵があるとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記決定をしたと認め得るような事情がある場合に限り,上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成17年(受)第53 0号同18年4月20日第一小法廷判決・裁判集民事220号165頁参照)。 イ本件における検討この見地に立って本件をみると,本件各処分をした実施機関であるA市長は,平成29年頃以降,本件建物の売却を推進していたほか,平成31 年3月に開催されたA市議会定例会においても,本件建物の売却に関して,そのスケジュール等も含めて説明するなど,本件建物の売却に至る経緯について十分に把握していたと認められる(前記前提事実⑸イ)。また,本件建物の売却に関する被告から住民への情報の公表状況等については,被告において資料が作成されており(前記前提事実⑸ウ),A市長が本件各 処分をした時点において,上記情報の公表状況を資料等に基づいて確認することが困難であったことをうかがわせる事情は認められない。 上記各事実に照らせば,本件各処分時点において,本件文書のうち証明書種類欄及び使用目的欄を公開することにより,被告が主張するような本件会社の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性があるとはいえ ず,本件条例6条2号の非公開情報に該 本件文書のうち証明書種類欄及び使用目的欄を公開することにより,被告が主張するような本件会社の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性があるとはいえ ず,本件条例6条2号の非公開情報に該当しないことは明らかな状況にあ- 18 -り,しかも,実施機関であるA市長は,そのような状況にあることを十分に認識していたと優に肯認することができる。それにもかかわらず,A市長は,本件各処分において,本件文書のうち証明書種類欄及び使用目的欄を公開しなかったものであって,このようなA市長の判断は,合理的根拠を欠くものであったといわざるを得ない(なお,被告は,本件各処分当時, 本件建物の売却が被告にとって重要な課題であり,同売却に関する情報が特に慎重な取扱いを要するものであった旨主張するが,そのことが本件条例6条2号の法人等利益侵害情報に該当するか否かの判断を左右するものではないことは明らかであるから,これをもってA市長の判断が合理的根拠を伴うものであったということはできない。)。 したがって,本件各処分のうち本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄を公開しなかった部分については,A市長において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分がされたというべきであり,国家賠償法1条1項にいう違法があり,また,本件各処分をした被告の職員には職務に関する過失があったというべきである。 2 争点⑵(損害の発生及び数額)について⑴ 精神的損害についてア本件における検討以上に認定・説示したとおり,原告は,本件処分1及び本件処分2の2回にわたり,証明書種類欄及び使用目的欄が違法に非公開とされたことに より,本件訴訟を提起することを余儀なくされたのであり,また,本件処分1がされた日( ,原告は,本件処分1及び本件処分2の2回にわたり,証明書種類欄及び使用目的欄が違法に非公開とされたことに より,本件訴訟を提起することを余儀なくされたのであり,また,本件処分1がされた日(令和元年5月16日)から本件事後処分により上記各欄が公開された日(令和2年9月18日)までの約1年4か月にわたり,証明書種類欄及び使用目的欄に記載された情報を知る権利が侵害されたものである。したがって,原告は,本件各処分において,証明書種類欄及び使 用目的欄が違法に非公開とされたこと等により,精神的損害を被ったもの- 19 -と認められる。 そして,本件文書の内容及び性質,原告が本件文書について情報公開請求をした動機,本件各処分及び本件事後処分に至った経緯,本件訴訟の審理経過のほか,実施機関であるA市長において本件各処分時に原告の知る権利を殊更に侵害する意図があったとまでは認め難いこと等,本件に現れ た一切の事情を総合考慮すれば,原告が本件各処分において証明書種類欄及び使用目的欄が違法に非公開とされたことによって被った精神的損害に対する慰謝料としては,10万円が相当である。 イ被告の主張についてこれに対し,被告は,本件事後処分において証明書種類欄及び使用目的 欄が公開されていることから,原告に金銭によって慰謝すべき損害が生じたものとは認められない旨主張する。 しかし,本来公開されるべき情報が約1年4か月にわたって公開されなかったことによる精神的苦痛が,後の情報公開によって完全に慰謝されたとは認められない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 ウ原告の主張についてなお,原告は,本件処分1において本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄が非公開とされたことによって,住 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 ウ原告の主張についてなお,原告は,本件処分1において本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄が非公開とされたことによって,住民監査請求のための十分な資料を集めることができず,その結果,住民監査請求が棄却された旨主張する。 しかし,上記住民監査請求が棄却された主たる理由は,原告が主張する,A市長と本件会社役員らが通謀し,本件建物について故意に著しく廉価な売買契約を締結したとの事実は認められないというものであるところ(前記前提事実⑹),仮に,本件処分1において,本件文書の証明書種類欄及び使用目的欄(本件会社が「指名願い(入札)」に使用する目的で「市税 及びその附帯徴収金に未納の徴収金がないこと」の納税証明書の交付を申- 20 -請した旨の記載がある〔前記前提事実⑷〕。)が公開されていたとしても,これにより同事実を直ちに証明することができたものとは認め難い。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ⑵ 弁護士費用について原告は,被告の職員の不法行為により,弁護士に委任して訴訟提起・追行 をしているところ(弁論の全趣旨),事案の難易,請求額,認容額その他諸般の事情を総合考慮すると,被告の職員の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,1万円であると認められる。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対して11万円及びこれに対する令和2 年10月20日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官 主文 払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 理由 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官山地修 裁判官太田章子 裁判官関尭熙
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