- 1 -主文本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人に対し,145万5396円及びこれに対する平 成13年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人は,被控訴人に対し,68万4636円及びこれに対する平成 11年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求及び被控訴人のその余の請求をいずれも棄却す る。 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その4を控訴人の, その余を被控訴人の,各負担とする。 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴の趣旨原判決を次のとおり変更する。 (1)被控訴人は,控訴人に対し,296万4596円及びこれに対する平成13(2)年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 附帯控訴の趣旨主文第3項につき仮執行宣言第2事案の概要など 事案の概要控訴人は,タクシー運送事業を主な営業目的とする被控訴人に雇用され,タクシー乗務員としての業務に従事中,交通事故に遭って傷害を負った。 本件は(1)控訴人が,被控訴人に対し,①雇用契約,労働協約又は労働基準,法に基づき,タクシー乗務に復帰するまでの間の賃金,休業手当又は休業補償金1- 2 -45万5396円,②不法行為による損害賠償請求権に基づき,年次有給休暇(年休)の権利を消滅させたことによる損害金50万9200円,③雇用契約又は委任契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,控訴人の交通事故の相手方に対する示談交渉をせずに放置し,相手方に対する損害賠償請求権を時効消滅させたことによる慰謝料100万円の以上合 用契約又は委任契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,控訴人の交通事故の相手方に対する示談交渉をせずに放置し,相手方に対する損害賠償請求権を時効消滅させたことによる慰謝料100万円の以上合計296万4596円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年2月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(①事件(2)被控訴人が,控訴人に対し,),不当利得返還請求権に基づき,休業補償給付相当額の過払い立替金68万4636円及びこれに対する請求日である平成11年11月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(②事件)事案である。 原審の判断,当事者の控訴及び附帯控訴の提起及び当裁判所の判断概要 原審は,控訴人の請求をすべて棄却し,被控訴人の請求をすべて認容した。 そこで,控訴人は,原判決の全部の取消しを求めて控訴を提起し,被控訴人は,被控訴人の請求に仮執行の宣言を付することを求めて附帯控訴を提起した。 当裁判所は(1)控訴人の①の請求のうち,労働基準法76条1項に基づき,,休業補償145万5396円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年2月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があり,これを認容すべきであり,①のその余の請求並びに②及び③の各請求は理由がなく,これをいずれも棄却すべきであり(2)被控訴人の請,求のうち,不当利得返還請求権に基づき,休業補償給付相当額の過払い立替金68万4636円及びこれに対する請求日の翌日である平成11年11月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,これを認容すべきであり,その余は理由がなく,これを棄却すべきものと判断した。 翌日である平成11年11月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,これを認容すべきであり,その余は理由がなく,これを棄却すべきものと判断した。 前提事実当事者及び雇用契約(1)- 3 -控訴人は,昭和61年1月,タクシー運送事業を主な営業目的とする株式会社である被控訴人に雇用され,タクシー乗務員として勤務していた。 事故の発生(2)控訴人は,平成7年9月27日午前7時20分ころ,川崎市<以下略>において,タクシーに乗務中,A運転の普通乗用自動車によって控訴人運転のタクシーの側面に衝突される事故(本件事故)に遭い,頚椎捻挫,右肩・左下腿挫傷の傷害を負った(甲1,甲5,弁論の全趣旨。 )休職命令,休業及び休業補償給付(3)控訴人は,本件事故後,業務上の負傷による疾病を理由として,被控訴人から,疾病休職を命じられ(本件休職命令,労働者災害補償保険法(労災保険法)に基)づき休業補償給付を受けていた。 症状固定を理由とする保険給付不支給決定(4)控訴人は,平成11年11月4日,川崎南労働基準監督署長より,同月2日付で,「控訴人の傷害は,平成11年8月31日,症状固定したと認める。同年9月1日以降の療養,休業補償給付は,全部不支給とする。同年7月16日から同年8月31日までの休業補償給付は,実際に通院した日のみを療養のため休業する日と認め,その余は不支給とする」旨の決定(本件不支給決定)を受け,控訴人及び被控訴。 人は,同決定書を受領した(甲2,乙9,弁論の全趣旨。 )復職命令(5)被控訴人は,平成11年11月25日又は同月27日,控訴人に対し,同月4日付けをもって「復職を命ずる。川崎第2営業所勤務を命ずる」旨の辞令(甲4,,。 本件復職辞令)を交付し,もって,復職を 5)被控訴人は,平成11年11月25日又は同月27日,控訴人に対し,同月4日付けをもって「復職を命ずる。川崎第2営業所勤務を命ずる」旨の辞令(甲4,,。 本件復職辞令)を交付し,もって,復職を命じた(本件復職命令。 )控訴人の復職までの経過(6)控訴人は,上記命令を受け,平成11年11月5日から同年12月13日まで,年休を取得し,同月14日から同月26日までの間は就業せず,同月27日から平成12年4月4日まで自動車修理工場などでの勤務(内勤,同月5日から15日)- 4 -までタクシー乗務の復帰のための試乗勤務(試乗勤務。内勤及び試乗勤務を併せて「内勤等」という)に就き,上記内勤等勤務の給与として,計61万0224円。 の支払を受け,同月16日から,タクシー乗務に復帰した。 被控訴人の就業規則の定め(7)58条(転勤.転職.出向)会社は,業務上必要あるときは,従業員に対し転勤,転職又は出向を命ずることがある。 59条(休職基準)会社は,従業員(試雇,嘱託,臨時雇を除く)が下記の各号の一に該当するときは,休職を命じる。 1.疾病休職業務上の傷病又は業務外の傷病による欠勤が引続き6ケ月以上に及んだとき60条(休職期間)休職期間は下記の通りとする。 1.疾病休職発令の日より1年間。ただし,業務上の傷病の場合治癒と診断された時まで(以下,略)61条(復職)会社は,休職を命ぜられた者がそれぞれ下記の各号の一に該当するに至ったときは,復職を命じる。 1.疾病休職の場合休職期間満了前に治癒したことが会社の指定した医師により診断されたとき(以下,略)労働組合及び労働協約(8)被控訴人には,従業員を組合員とする神奈川都市交通労働組合(一組,新都市)交通労働組合(二組)及び都市交通労働組合(三組。控訴人が所属する)の3つ。 とき(以下,略)労働組合及び労働協約(8)被控訴人には,従業員を組合員とする神奈川都市交通労働組合(一組,新都市)交通労働組合(二組)及び都市交通労働組合(三組。控訴人が所属する)の3つ。 の労働組合があり,被控訴人は,一組との間で下記内容の労働協約(本件協約)を締結しているが,三組との間では労働協約を締結していない。 記96条(災害,療養,休業,傷害,打切り,遺族各補償及び葬祭料)会社は従業員の業務上の負傷,疾病,廃疾又は死亡に対し,労働者災害補償保険法により補償する。 - 5 -前項の場合会社は速かに補償金額の立替支払を行い,本人が保険給付を受けたとき会社に返還するものとする。 97条(業務上の疾病範囲及び判定)前条に定める業務上の疾病の範囲は,労働基準法第75条による業務上の負傷,疾病,廃疾,死亡及び重大な過失の判定並びにこの章に定める規定の適用について疑義又は異議のあるときは行政官庁の判定による。 98条(身体障害の取扱い)会社は前条の身体に障害を生じた従業員を元の職に復帰させることを原則とし,若し復帰させることができないときは組合と協議し適当な業務に配置転換させる。 前項の場合,爾後の昇給,昇格,昇進等についても一般基準に比較して不利益な取扱いをしない。 争点 控訴人の賃金,休業手当,休業補償請求(争点1)(1)控訴人の年休消滅を理由とする損害賠償請求(争点2)(2)控訴人の損害賠償請求権の時効消滅による慰謝料請求(争点3)(3)被控訴人の不当利得返還請求(争点4)(4) 争点1(控訴人の賃金,休業手当,休業補償請求)について(1)控訴人の主張休職ア控訴人は,本件事故後,本件休職命令を受け,平成12年4月16日,タクシー乗務員として復職するまでの間,平成11年11月5日から同年12月13日まで年 償請求)について(1)控訴人の主張休職ア控訴人は,本件事故後,本件休職命令を受け,平成12年4月16日,タクシー乗務員として復職するまでの間,平成11年11月5日から同年12月13日まで年休を取得したほかは,休職した。 被控訴人は,平成11年8月31日(控訴人の治癒した日)又は同年11月4日若しくは同月25日(本件復職命令の日,休職期間が満了した旨主張するが,控)訴人の本件事故による傷害は,同年8月31日に治癒してはいないし,疾病休職については,被控訴人の指定した医師により治癒したことが診断されなければ,復職- 6 -を命ずることができない(就業規則。 )賃金,休業手当の請求の根拠イ雇用契約(賃金)(ア)被控訴人は,控訴人を事務職に配置転換する義務を負っており(就業規則58条又は本件協約98条1項,控訴人から,タクシー乗務員から事務職への配置転換)の申入れ及び債務の本旨に従った履行の提供である事務職についての労務の提供を受けながら,これを拒絶したのであるから,民法536条2項(債権者の責めに帰すべき場合の危険負担)により,賃金支払義務を負う。 本件協約(賃金)(イ)被控訴人は,労働協約を締結していなかった二組の組合員に対し,本件協約98条2項により,業務上の疾病による休職の場合に賃金を100%支払っていた。控訴人が勤務していた川崎営業所において,一組の組織率は4分の3に満たないが,二組を合わせると,98%(200人中196人)を占め,結局,常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が本件協約の適用を受けており,本件協約は,労働組合法17条により,三組の組合員である控訴人にも適用される。 労働基準法26条(休業手当)(ウ)控訴人は,被控訴人から,本件休職命令を受け,平成11年12月27日の内勤開始まで就 件協約は,労働組合法17条により,三組の組合員である控訴人にも適用される。 労働基準法26条(休業手当)(ウ)控訴人は,被控訴人から,本件休職命令を受け,平成11年12月27日の内勤開始まで就労を許可されなかったところ,使用者は,その責に帰すべき事由による休業につき,休業期間中,労働者に,その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない(労働基準法26条。 )労働基準法76条1項(休業補償)(エ)控訴人は,タクシー乗務中,本件事故に遭って負傷し,療養のために就労することができなかったところ,労働者が業務上負傷し,療養のため,労働することができないために賃金を受けない場合,使用者は,労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない(労働基準法76条1項。 )請求額(賃金。休業手当等は,賃金についての所定の割合となる)ウ。 - 7 -平成11年7月16日から同12年4月15日までの間のうち,同11年11月5日から同年12月13日まで(年休を取得した期間)を除く244日間の控訴人の賃金は,その1日当たり平均賃金1万2105円を基礎とすると,下記算式のとおり,295万3620円である。 (計算式)244日×1万2105円=295万3620円(2)被控訴人の主張休職ア控訴人は,平成11年8月31日,業務上の疾病が治癒し,休職期間が満了した。 被控訴人は,同年11月4日付けで復職命令をしようとしたが,控訴人が同月25日まで出社せず,同日,控訴人に対し,本件復職辞令を交付し,これにより,同月4日又は同月25日をもって控訴人の休職期間は満了した。 賃金,休業手当の請求の根拠イ雇用契約(賃金)(ア)控訴人は,タクシー乗務員として職種指定合意をして,被控訴人に雇用された。 被控訴人は,控訴人をタクシー 日をもって控訴人の休職期間は満了した。 賃金,休業手当の請求の根拠イ雇用契約(賃金)(ア)控訴人は,タクシー乗務員として職種指定合意をして,被控訴人に雇用された。 被控訴人は,控訴人をタクシー乗務員から事務職へ配置転換をする義務を負わない。 本件協約(賃金)(イ)本件協約は,被控訴人と一組との間で締結されたもので,三組に所属する控訴人には,適用されないし,労働組合法17条の規定する要件を充足するものでもない。 本件協約98条2項は,業務上の疾病によって障害が生じた従業員を復職させた後の取扱いを定めた規定であり,休職中の従業員の取扱いを定めた規定ではない。 労働基準法26条(休業手当)(ウ)控訴人の休職は,使用者の責に帰すべき事由による休業ではないから,労働基準法26条は適用されない。 労働基準法76条1項(休業補償)(エ)労災保険法による給付が行われるべきものである場合,使用者は,補償の責めを- 8 -免れる(労働基準法84条1項)のであり,被控訴人が労働基準法76条1項に基づく休業補償義務を負うことはない。 争点2(控訴人の年休消滅を理由とする損害賠償請求)について(1)控訴人の主張控訴人の年休取得と被控訴人の不法行為ア被控訴人は,控訴人の就労申入れを拒否し,タクシー乗務員としても事務職員としても就労させようとせず,かつ,無断欠勤を理由に解雇しようとした。 控訴人は,無断欠勤とされることを防ぐため,被控訴人に対し,平成11年11月5日から同年12月13日までの年休を取得することを余儀なくされた。 損害額イ控訴人は,取得しなくてもよい年休を取得して40日分の年休権を消滅させ,これにより,下記計算式のとおり,50万9200円の損害を被った。 (計算式)1万2730円(健保日額+1400円)×40日=50万9200円(2 くてもよい年休を取得して40日分の年休権を消滅させ,これにより,下記計算式のとおり,50万9200円の損害を被った。 (計算式)1万2730円(健保日額+1400円)×40日=50万9200円(2)被控訴人の主張被控訴人は,控訴人の申請のとおり,年休を認め,賃金を支払っており,控訴人に損害は発生していない。 争点3(控訴人の損害賠償請求権の時効消滅による慰謝料請求)について(1)控訴人の主張雇用契約又は委任契約ア被控訴人は,業務中の交通事故について,従業員本人による示談交渉を禁じ,当該従業員の委任を受け,事故の相手方あるいは保険会社との交渉を行うこととしている。従業員による示談交渉禁止及び被控訴人への交渉委任は,被控訴人において制度となっており,被控訴人と従業員との雇用契約の内容となっている。 被控訴人の債務不履行イ本件事故は,Aの過失によるもので,控訴人は被害者であったところ,被控訴人は,控訴人のためにA又は保険会社(B保険株式会社(当時)と交渉して,控訴)- 9 -人のために損害賠償金を獲得する義務があった。 しかるに,被控訴人は,本件事故の処理を放置し,平成11年12月3日,Bの担当者から控訴人の損害賠償請求権が時効消滅したとの告知を受けながら,これを控訴人に連絡することもしなかった。 控訴人の別件訴訟の提起ウこのため,控訴人は,平成13年2月24日,東京地方裁判所に対し,A及びBに対して損害賠償請求訴訟(別件訴訟)を提起せざるを得なくなったが,当該訴訟においても消滅時効を主張されるという無用な負担を被っている。 損害エ控訴人は,被控訴人の債務不履行により,上記のとおり,本件事故につき,消滅時効を理由に損害賠償を拒否され,別件訴訟を提起することを余儀なくされ,精神的な苦痛を被ったが,これを慰謝するには,100万 控訴人は,被控訴人の債務不履行により,上記のとおり,本件事故につき,消滅時効を理由に損害賠償を拒否され,別件訴訟を提起することを余儀なくされ,精神的な苦痛を被ったが,これを慰謝するには,100万円をもって相当とする。 (2)被控訴人の主張被控訴人は,控訴人から本件事故に関する示談交渉の委任を受けたことはなく,また,本件事故によって控訴人が受けた人損について被控訴人が示談交渉をすることが雇用契約の内容となっているものではない。 被控訴人は,従業員に対し,交通事故が発生した場合,事故現場において独断で示談交渉をしないよう,また所属する営業所に連絡するよう指導している。 営業所では,事故の連絡を受けると,運転手等から事故状況を確認する。このとき,相手が過失を認めている場合には,営業所の担当者において保険会社に連絡し,被控訴人の被った物損について請求する旨伝える。また,被控訴人の乗務員が受傷している場合は,保険会社から,被控訴人に問い合わせがあるので,適宜必要な情報を提供したり,必要書類の記入に協力したりするが,乗務員が被った人損の処理については,乗務員自身が判断することであり,被控訴人は関知しない。ただし,乗務員から依頼があれば示談交渉の席に立ち会ったり,必要書類を整えたりするし,被控訴人担当者の好意からそのような対応をすることもあるが,あくまでも示談交- 10 -渉の当事者は乗務員本人である。 他方,乗務員に過失があり,使用者責任が発生する可能性のあるものについては,営業所ではなく被控訴人本社の事故係が扱うが,この場合でも,被控訴人は,被控訴人が被った物損及び被控訴人が負担する可能性のある使用者責任についてであり,乗務員が被った人損について交渉をすることはない。 なお,被控訴人は「事故発生時の措置」と題する小冊子を乗務員に配布してい,る 被った物損及び被控訴人が負担する可能性のある使用者責任についてであり,乗務員が被った人損について交渉をすることはない。 なお,被控訴人は「事故発生時の措置」と題する小冊子を乗務員に配布してい,るが,これは,事故発生時に,乗務員が動転し,事故の相手方の要求に対し,乗務員の過失の有無にかかわらず修理代を負担する等安易な約束をし,その結果被控訴人が損害賠償責任を負担しかねない事態が発生していたこと,また,乗務員に対して行った安全講習会の席上,乗務員から,事故の際何をすればいいのか分からないという声があったことから作成したものであり,被控訴人が加害者として使用者責任を負担するような場合を想定して作ったものであって,乗務員が被害者として自身の示談交渉を行うことを禁じたものではない。また,同冊子で注意を喚起しているのは,事故現場における示談交渉のみである。 争点4(被控訴人の不当利得返還請求)について(1)被控訴人の主張被控訴人の立替払いア被控訴人は,本件事故後,控訴人に対し,労災保険法により受給する休業補償給付の相当額を事前に立替払いし,控訴人が同給付を受けたときに返還を受けることとしており,平成11年7月16日から同年10月15日までの分として,88万8000円支払い,その後,控訴人が同年7月16日から同年8月31日までの同給付20万3364円を受けたとき,同額につき,立替金の返還を受けた。 返還請求イ被控訴人は,平成11年11月25日,控訴人に対し,書面をもって上記差額68万4636円の返還を求めた。 (2)控訴人の主張- 11 -控訴人が支払を受けた上記88万8000円は,立替金ではなく,争点1記載のとおり,賃金,休業手当又は休業補償であり,返還義務はない。 第3当裁判所の判断 本件事故後の控訴人の復職までの経緯控訴人 訴人が支払を受けた上記88万8000円は,立替金ではなく,争点1記載のとおり,賃金,休業手当又は休業補償であり,返還義務はない。 第3当裁判所の判断 本件事故後の控訴人の復職までの経緯控訴人は,前提事実記載のとおり,本件事故後,業務上の負傷による疾病を(1)理由として,被控訴人から,本件休職命令により疾病休職(就業規則59条)を命じられて休職し,その後,平成12年4月16日,タクシー乗務員として復職した。 控訴人は,平成12年3月28日,被控訴人の指定医であるα病院のC医師により,当時の状態につき「①自覚症状長時間同じ姿勢をとっていると頭痛,頸肩痛がある。雨降りの前に左膝,左足関節痛がある,両手のしびれが続いている,両手の握力減弱がある,握力右手27kg,左手28kg。②他覚症状頸の運動前屈0~60,後屈0~45,回転左旋0~60,右旋0~65,側屈左屈0~45,右屈0~50。左側にやや運動制限あり。③エックス線所見第5,6頸椎変形あり。現在の状態でタクシー運転業務ができるかどうかの問題は正直のところ分からない。よく話合いの上,試乗等を続けた上でできるかできないかを決定すべきだと思う」と診断を受け(乙5)た上,上記のとおり,復職した。 。 被控訴人において,休職期間は業務上の疾病については治癒と診断されたと(2)きまで(就業規則60条)とされ,疾病休職を命じられた者は,治癒したことが被控訴人の指定した医師により診断されたとき,復職を命じられる(同61条。こ)れによれば,控訴人は,前記のとおり,業務上の疾病により疾病休職を命じられたのであり,前記就業規則の定めに従って,被控訴人の指定医であるC医師により治癒の診断を受けた上,平成12年4月16日,復職を命じられたと認められ,本件休職命令後,同月15日までの間,休職を命じら たのであり,前記就業規則の定めに従って,被控訴人の指定医であるC医師により治癒の診断を受けた上,平成12年4月16日,復職を命じられたと認められ,本件休職命令後,同月15日までの間,休職を命じられていたと認められる。 被控訴人は,平成11年8月31日,業務上の疾病の治癒により,又は同年(3)11月4日若しくは同月25日,本件復職命令により,控訴人の休職期間が満了した旨主張する。しかしながら,控訴人につき,労災保険法上,同年8月31日をも- 12 -って疾病が治癒したとされても,休業補償給付の支給を受ける事由が消滅したとされるのにとどまり,雇用者である被控訴人との間においては,就業規則上,同日限り,休職期間が満了し,控訴人が復職することとなると解することはできないし,就業規則に定める医師の診断を経ることもないまま,本件復職命令を発したからといって,休職期間が満了し,復職の効果を生じるものでもない。殊に,控訴人が公共交通機関ともいうべきタクシーの乗務員であることを考慮すると,疾病休職を経て復職させるについて,上記のような手続を経ることを要する旨を定めた被控訴人の就業規則は,十分な合理性を有するのであり,これを無視して控訴人に復職を迫るような運用が是認される余地はない。 控訴人は,前提事実のとおり,平成11年11月5日から同年12月13日(4)まで年休を取得したが,後記のとおり,休職期間についての上記判断を左右しない。 争点1(賃金,休業手当,休業補償請求)について(1)雇用契約に基づく賃金請求権「会社は,業務上必要あるときは,従業員に対し転勤,転職又は出向を命ずることがある(就業規則58条)という定め(前提事実)は,その文言上,被控訴。」の配置転換義務を定めたものと解することはできず,また,本件協約が控訴人に適用されないこ し転勤,転職又は出向を命ずることがある(就業規則58条)という定め(前提事実)は,その文言上,被控訴。」の配置転換義務を定めたものと解することはできず,また,本件協約が控訴人に適用されないことは,後記説示のとおりである。また,労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても,その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができると解されるが(最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決・裁判所時報1217号1頁参照,控訴人は,職種をタクシー乗務員として被控)訴人に採用されたことが証拠上明らかであるし(乙1,控訴人が主張する事務職)が上記諸条件に照らして控訴人が配置されることにつき現実的可能性があることにつき,具体的主張立証がされているとはいい難く,控訴人が事務職についての労務- 13 -提供をしたとしても,これをもって,直ちには,債務の本旨に従った履行の提供ということはできない。よって,これらについての控訴人の主張は採用できない。 (2)本件協約に基づく賃金請求権被控訴人が二組に所属する組合員に対して本件協約を適用していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の主張は,採用することができない。 なお,控訴人は,本件協約98条2項は,業務上の疾病による休職の場合,賃金を100%支払う趣旨であると解される旨主張するが,同項は,その文言(前提事実)から,休職期間中の処遇について定めたものではなく,休職期間が満了した後の処遇について定めたものであることが明らか 賃金を100%支払う趣旨であると解される旨主張するが,同項は,その文言(前提事実)から,休職期間中の処遇について定めたものではなく,休職期間が満了した後の処遇について定めたものであることが明らかで,この主張も,採用することができない。 (3)労働基準法26条に基づく休業手当控訴人は,本件事故による疾病に基づき休職したのであり,使用者の責に帰すべき事由による休業をしたのではないから,この主張は,採用することができない。 (4)労働基準法76条1項に基づく休業補償請求権労働基準法76条1項は「労働者が業務上負傷し,療養のため,労働すること,ができないために賃金を受けない場合においては,使用者は,労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない」旨を定めている。 。 控訴人は,本件事故により,業務上負傷し,療養のため労働をすることができず,本件休職命令を受けて休職していた(前提事実。このような場合,被控訴人は,)労災保険法による給付が行われる限度においては,補償の責めを免れる(労働基準法84条1項)と解せられるものの,休職期間中は,控訴人に対し,平均賃金の60%の休業補償として支払うべき義務を負うと解するのが相当である。 本件において,控訴人は,平成11年7月15日までは労災保険法に基づく全額の休業補償給付を受けたが,本件不支給決定により,その翌日から同年8月31日までの間は,通院日のみを休業日と認められ,20万3364円の休業補償給付を- 14 -受けたにとどまり,同年9月1日以降,休業補償給付を受けることができなくなっ),た(前提事実,甲2。この事情の下においては,被控訴人は,就業規則に基づき本件休職命令により控訴人に休職を命じた以上,平成11年7月16日以降,復職を命じるか,又は控訴人が従業員でなくなるま ),た(前提事実,甲2。この事情の下においては,被控訴人は,就業規則に基づき本件休職命令により控訴人に休職を命じた以上,平成11年7月16日以降,復職を命じるか,又は控訴人が従業員でなくなるまでの間,控訴人に対し,上記20万3364円を控除した額の休業補償をすべき義務を負う。 (5)休業補償の額控訴人は,本件休職命令後平成12年4月15日まで休職し,この間,同1ア1年7月15日まで,労災保険法による全額の休業補償給付を受け,同月16日から同年8月31日までの間は,20万3364円の休業補償給付を受け,同年9月1日以降,同給付を受けていない。 これによれば,控訴人は,被控訴人に対し,平成11年7月16日から平成イ12年4月15日までのうち,平成11年11月5日から同年12月13日までの期間(請求対象外)を除く235日間,1日当たり平均賃金1万2105円(控訴人の1日当たり平均賃金が同額であることは,被控訴人において明らかに争わない)を基礎とし,次の計算式により算定される金額のうち,控訴人の請求する1。 45万5396円につき,休業補償(平成11年7月16日から同年8月31日までの間の休業補償給付として支払済みの20万3364円を控除した残額)を請求することができる。 (計算式)235日×1万2105円×0.6-20万3364円=150万3441円控訴人は,前提事実のとおり,上記休職期間中の平成11年12月27日かウら同12年4月15日までの間,内勤等給与として61万0224円(休業補償額よりもやや低額)の支払を受けているが,これは,控訴人が事実上提供した労務の対価であり,前記額からこれを控除すべき理由はない。 また,控訴人は,平成11年7月16日から同年10月15日までの労災保険法に基づく休業補償給付との清算を予定して被控訴 控訴人が事実上提供した労務の対価であり,前記額からこれを控除すべき理由はない。 また,控訴人は,平成11年7月16日から同年10月15日までの労災保険法に基づく休業補償給付との清算を予定して被控訴人から88万8000円の支払を- 15 -受けたが,これについて,被控訴人から,同保険給付により補填された額を除き,返還請求を受けており,控訴人の請求額から控除すべき理由はない。 (6)まとめ以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,労働基準法76条1項に基づく休業補償額145万5396円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年2月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 争点2(控訴人の年休消滅を理由とする損害賠償請求)について前記1によれば,控訴人が年休を取得したと称する平成11年11月5日から同年12月13日までの間は,本件休職命令に基づく休職期間中であり,年休(有給休暇)を取得する必要も,年休権が消滅することもないことが明らかである。 よって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は,理由がない。 争点3(控訴人の損害賠償請求権の時効消滅による慰謝料請求)について被控訴人が,業務中の交通事故について,従業員本人による示談交渉を禁じ,(1)当該従業員から委任を受け,相手方あるいは保険会社との交渉を行うこととし,これを被控訴人の制度とし,従業員との雇用契約の内容としているという控訴人の主張については,これに沿う甲10(控訴人作成の陳述書,甲46(同,甲48))(D作成の陳述書)中の各陳述記載,原審における控訴人の供述がある。 しかし,上記陳述記載及び供述は,甲39(E弁護士などとF課長との会(2)話)中の記載,乙20(G作成の陳述書)中の陳述記載,原審における証 陳述書)中の各陳述記載,原審における控訴人の供述がある。 しかし,上記陳述記載及び供述は,甲39(E弁護士などとF課長との会(2)話)中の記載,乙20(G作成の陳述書)中の陳述記載,原審における証人Gの証言に照らしてにかわに信用することができない。 とりわけ,甲39によれば,本件事故に関してAが保険契約を締結しているBと具体的な交渉をした被控訴人のF課長は,控訴人の代理人E弁護士に対し「被控,訴人の物損については,相手方と交渉した。しかし,控訴人の人損に関しては,委任を受けていない。本件事故の過失割合を決定することもできないし,控訴人の傷害の内容・程度及び診療状況などが把握できないので,通院交通費,治療費,慰謝- 16 -料,逸失利益などを決定することができない。ちなみに,被控訴人が,過失割合を例えば双方5割と決定すれば,控訴人は,後で,被控訴人が勝手に決めたから,被控訴人において5割分の損害金を支払えという要求をする可能性がある。そのような事態を招く可能性のある交渉をすることはできない」などと述べて,被控訴人。 がその従業員の人損に関して相手方又は保険会社と交渉を行うことが現実的でないことを具体的に説明したとしており,その説明は,相手方が弁護士であることなども勘案すると,十分に信用できる。 また,証拠(甲48,甲49)及び弁論の全趣旨によれば,Dがタクシー乗務中に,H運転車両に追突し,Hを負傷させた件に関し,被控訴人がHとの間で,示談書(甲49)を作成しているところ,同示談書は,被控訴人のHに対する自賠法3条又は民法715条に基づく損害賠償義務について,示談をしたことを証する文書であって,被控訴人がDの人損について示談をしたものではないものと認められる。 他に,控訴人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はなく,その余の点に(3) 償義務について,示談をしたことを証する文書であって,被控訴人がDの人損について示談をしたものではないものと認められる。 他に,控訴人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はなく,その余の点に(3)ついて判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。 争点4(被控訴人の不当利得返還請求)について被控訴人は,控訴人に対し,労災保険法による休業補償給付金の立替払いを(1)行い,控訴人の承諾を得た上,被控訴人が控訴人に支給される当該給付金を直接受領する方法で清算していた(乙16,20,23。 )被控訴人は,控訴人に対し,平成11年7月16日から同年10月15日までの労災保険法による休業補償給付金の立替金として,88万8000円を支払い,控訴人の同年7月16日から同年8月31日までの労災保険法に基づく休業補償給付20万3364円を受領した(甲2,乙10,弁論の全趣旨)。 被控訴人は,平成11年11月25日,控訴人に対し,書面をもって上記差(2)額68万4636円の返還を求めた(乙10,乙20。 )以上によれば,被控訴人は,控訴人に対し,不当利得の返還として,立替金68万4636円及びこれに対する請求日の翌日である平成11年11月26日から支- 17 -払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 まとめ以上のとおり(1)控訴人の請求は,労働基準法76条1項に基づき,休業補,償145万5396円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年2月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき,理由があるからこれを認容すべきで,その余は理由がないからこれをいずれも棄却すべきであり(2)被控訴人の請求のうち,不当利得返還請求権に基,づき,前記休業補償給付相当額の立 払を求める部分につき,理由があるからこれを認容すべきで,その余は理由がないからこれをいずれも棄却すべきであり(2)被控訴人の請求のうち,不当利得返還請求権に基,づき,前記休業補償給付相当額の立替金68万4636円及びこれに対する請求日の翌日である平成11年11月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。 第4 結論 よって,本件控訴は一部理由があるから,原判決をその旨変更し,本件附帯控訴に基づき,被控訴人の請求について仮執行の宣言を付することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第1民事部裁判長裁判官江見弘武裁判官植垣勝裕裁判官市川多美子
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