主文 1 1審原告らの本件控訴及び1審被告市の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 1審被告市は,1審原告生徒に対し,3601万2200円及びこれに対する平成24年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審被告市は,1審原告母に対し,175万円及びこれに対する平成24年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審被告市は,1審原告兄に対し,84万円及びこれに対する平成24年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審原告らの1審被告市に対するその余の請求及び1審原告母の1審被告センターに対する請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて,1審原告らに生じた費用の5分の4と1審被告市に生じた費用の5分の4を1審原告らの負担とし,1審原告らに生じたその余の費用と1審被告市に生じたその余の費用を1審被告市の負担とし,1審被告センターに生じた費用全部を1審原告母の負担とする。 事実 及び理由第1 当事者の求めた裁判【平成30年(ワネ)第13号】(1審原告らの控訴事件) 原判決中1審原告ら敗訴部分を取り消す。 1審被告市は,1審原告生徒に対し,1億4878万7627円及びこれに対する平成24年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審被告市は,1審原告母に対し,300万円及びこれに対する平成24年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審被告市は,1審原告兄に対し,150万円及びこれに対する平成24年 9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審被告センターは,1審原告母に対し,3 1審被告市は,1審原告兄に対し,150万円及びこれに対する平成24年 9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 1審被告センターは,1審原告母に対し,3770万円及びこれに対する平成25年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告らの負担とする。 仮執行宣言【平成30年(ワネ)第14号】(1審被告市の控訴事件) 原判決中1審被告市敗訴部分を取り消す。 上記の部分につき,1審原告生徒の請求を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告らの負担とする。 第2 事案の概要(略称等は,特に断らない限り,原判決の表記による。) 1 請求の概要本件は,脳性麻痺の障害を有し,1審被告市が設置するA市立A特別支援学校(本件特別支援学校)に通学する中学生であった1審原告生徒が,給食介助中の誤嚥により窒息状態に陥って心肺停止となり,低酸素性脳症に由来する重篤な脳障害を後遺した事故(本件事故)について,1審原告らが1審被告らに対して次のような金員の支払を求めた事案である。 1審被告市に対する請求ア主位的請求1審原告らが,1審被告市に対し,本件特別支援学校が1審原告生徒に対し負っていた①給食介助時の安全配慮義務,②誤嚥窒息時の救護義務,③医療的ケアの必要性等に関する説明義務に違反したことから,本件事故を招来し,1審原告生徒が重篤な脳障害を後遺したと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,1審原告生徒につき将来介護費等の損害賠償金合計1億4878万7627円,親族固有の慰謝料として1審原告母につき300万円,1審原告兄につき150万円並びにこれらに対する不法行為後の日である 基づき,1審原告生徒につき将来介護費等の損害賠償金合計1億4878万7627円,親族固有の慰謝料として1審原告母につき300万円,1審原告兄につき150万円並びにこれらに対する不法行為後の日である平成24年9月27日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅 延損害金の支払を求めるもの。 イ予備的請求1審原告生徒が,1審被告市に対し,仮に,主位的請求にかかる1審被告市の各義務違反と1審原告生徒の重篤な脳障害との間の因果関係が認められないとしても,1審原告生徒が重篤な脳障害を後遺しなかった相当程度の可能性が侵害されたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,相当額の慰謝料及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの。 1審被告センターに対する請求ア主位的請求1審原告母が,本件事故により1審原告生徒に生じた後遺障害が本件省令別表第1級に該当するとして,本件施行令4条2項に基づき,1審被告センターに対し,1審被告市が1審被告センターと締結した災害共済給付契約に基づく障害見舞金3770万円及びこれに対する障害見舞金不支給決定の日の翌日である平成25年5月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの。 イ予備的請求1審原告母が,1審被告センターに対し,仮に,1審原告生徒に既存障害があることが障害見舞金の額に影響するとしても,1審原告生徒の既存障害は本件省令別表第1級から第3級に評価替えすべき状況にあったと主張して,本件施行令4条2項に基づき,1審原告生徒の既存障害である第3級と本件事故による後遺障害である第1級との障害見舞金の差額である840万円及びこれに対する平成25年 替えすべき状況にあったと主張して,本件施行令4条2項に基づき,1審原告生徒の既存障害である第3級と本件事故による後遺障害である第1級との障害見舞金の差額である840万円及びこれに対する平成25年5月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの。 2 原審の判断原審は,1審被告市に対する1審原告生徒の請求については,誤嚥窒息時にお ける救護義務違反及び医療的ケアの必要性等に関する説明義務違反を認定したものの,いずれも後遺障害との間に因果関係が認められないとして主位的請求を棄却する一方,相当程度の可能性が侵害されたことを認めて,予備的請求につき慰謝料500万円の限度で認容した。他方,1審原告母及び1審原告兄の1審被告市に対する請求はいずれも棄却した。 また,1審被告センターに対する請求については,後遺障害と既存障害が「同一部位についての障害」に当たり,かつ,いずれも第1級であることから,後遺障害について支給すべき障害見舞金はないとして,主位的請求・予備的請求をいずれも棄却した。 そのため,1審原告らと1審被告市が,自己の敗訴部分を不服として,それぞれ控訴した。 第3 前提事実以下の事実は当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。なお,書証は枝番号のあるものはそれも含む。 1 当事者等 1審原告らア 1審原告生徒(平成▲年▲月▲日生)は,脳性麻痺の身体障害を持ち,本件事故当時,本件特別支援学校の中学部重複学級(重度の知的障害と肢体不自由を併せ有する生徒の学級のこと)に通う中学3年生であった。 イ 1審原告母は1審原告生徒の母であり,1審原告兄は1審原告生徒の兄である。 1審被告市1審被告市は 体不自由を併せ有する生徒の学級のこと)に通う中学3年生であった。 イ 1審原告母は1審原告生徒の母であり,1審原告兄は1審原告生徒の兄である。 1審被告市1審被告市は,本件特別支援学校の設置者である。 特別支援学校は,視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)に対して,幼稚園,小学校,中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに,障害による学習上又は生活上の困難を克服し自 立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする学校である(学校教育法72条)。 1審被告センター1審被告センターは,スポーツの振興及び児童生徒等の健康の保持増進を図るため,学校の管理下における児童生徒等の災害に関する必要な給付その他スポーツ及び児童生徒等の健康の保持増進に関する調査研究等を行い,もって国民の心身の健全な発達に寄与することを目的とする独立行政法人である(独立行政法人日本スポーツ振興センター法〔平成25年法律第11号による改正前のもの。以下「センター法」という。〕3条参照)。 2 医療的ケア制度の概要 介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律による社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正に伴い,平成24年4月以降,一定の研修を受けた介護職員等は一定の条件の下にたんの吸引等の医行為(医療的ケア)ができるようになり,特別支援学校の教員においても,制度上医療的ケアを実施することが可能となった。 医療的ケアとして実施可能となった行為は,特定行為(登録研修機関で研修を修了したことを都道府県知事に認定された認定特定行為業務従事者のみが行うことができる行為)としての,①口腔内の喀痰吸引,②鼻腔内の喀痰吸引,③気管カニ となった行為は,特定行為(登録研修機関で研修を修了したことを都道府県知事に認定された認定特定行為業務従事者のみが行うことができる行為)としての,①口腔内の喀痰吸引,②鼻腔内の喀痰吸引,③気管カニューレ内部の喀痰吸引,④胃ろう又は腸ろうによる経管栄養,⑤経鼻経管栄養であるが,看護師等が行うべき特定行為以外の医行為(ネブライザーによる気管支拡張剤の吸入等もこれに該当する。)についても,教育委員会の指導の下に,基本的に個々の学校において,個々の児童生徒等の状態に照らしてその安全性を考慮しながら,対応可能性を検討することが重要であり,その際には主治医又は指導医,学校医や学校配置の看護師等を含む学校関係者において慎重に判断するものとされた。(甲10)本件特別支援学校では,その前身であるA養護学校において,平成18年度 から,A市教育委員会が作成した「A市立A養護学校における医療的ケア実施要項」に基づき,看護師による医療的ケアを実施していた。 (甲86,乙ロ26,27) 3 本件事故当時における1審原告生徒の状態 1審原告生徒は,先天性の脳原性疾患(原因不明)を有し,それに伴う四肢体幹の著明な筋緊張亢進,不随運動を伴う運動障害のほか,摂食機能障害(嚥下障害)等の障害があり,身体障害者福祉法別表に掲げる第1級相当の障害に該当する旨の診断を受け,その認定を受けていた(甲5,甲83)。 1審原告生徒は,平成19年9月(小学4年の2学期)に本件特別支援学校に転入しており,医療的ケアの対象者となり得る生徒であったが,本件事故に至るまでの間,医療的ケアを実施するための手続が取られていなかった。(争いがない) 4 本件事故の概要 本件事故当日(平成24年9月26日),本件教室には3名の生徒が在室しており,教諭2 るまでの間,医療的ケアを実施するための手続が取られていなかった。(争いがない) 4 本件事故の概要 本件事故当日(平成24年9月26日),本件教室には3名の生徒が在室しており,教諭2名と給食介助員1名の計3名が給食介助に当たっていた(甲31)。 1審原告生徒は,担任のB教諭による給食介助中,誤嚥により窒息状態に陥り,心肺停止となった。 本件事故に関する救急対応について,A消防署には次のような記録が残されている(甲12の2)。 ア入電午後0時33分イ覚知(指令) 午後0時35分35秒ウ現場到着午後0時41分06秒エ搬送開始午後0時48分43秒オ病院到着午後0時51分32秒 1審原告生徒は,本件事故により,低酸素性脳症,気管切開術後,咽頭気管 分離術後,胃瘻造設術後,副腎機能低下症,甲状腺機能低下症,両側難聴の傷病を負い,低酸素性脳症に由来する重篤な脳障害を後遺した。 1審原告生徒は,本件事故日から平成25年1月15日まで112日間入院し,同日,症状固定となり,回復の見込みはないと診断された。(甲1,2) 5 1審被告センターの災害共済給付制度の概要 災害共済給付制度は,1審被告センターと学校の設置者との契約(災害共済給付契約)により,学校の管理下における児童生徒等の災害(負傷,疾病,障害又は死亡)に対して災害共済給付(医療費,障害見舞金又は死亡見舞金の支給)を行うものである(センター法15条7号,16条1項)。なお,その給付金は,学校の設置者及び保護者(同意確認後)による共済掛金のほか,国の補助金で賄われている(センター法17条3項,4項,29条。乙イ4)。 センター法は,災害共済給付の給 )。なお,その給付金は,学校の設置者及び保護者(同意確認後)による共済掛金のほか,国の補助金で賄われている(センター法17条3項,4項,29条。乙イ4)。 センター法は,災害共済給付の給付基準等を定めることを政令に委任し(16条2項),それを受けた本件施行令は,障害見舞金の額について「障害の程度に応じ3770万円から82万円までの範囲(中略)内で文部科学省令で定める額」と定めて(3条1項2号),具体的な金額の定めを文部科学省令に委任し,それを受けた本件省令は,原判決別紙5のとおり(なお,第5級以下の記載は省略),障害見舞金の額を,別表上欄に定める障害の程度に応じた等級に対応する同表中欄に定める額としている(21条1項。以下,同項の別表を「本件省令別表」という。)。 1審被告センターは,障害見舞金の支給に関し,「独立行政法人日本スポーツ振興センター障害等級認定の基準に関する規程」(本件障害等級認定基準。 原判決別紙6はその抜粋)を定め,運用している(乙イ6)。 なお,本件省令21条5項は,「既に障害のある児童生徒等が(中略)同一部位についての障害の程度を加重した場合の障害見舞金の額は,加重後の障害の等級に応ずる障害見舞金の額から加重前の障害の等級に応ずる障害見舞金の額を差し引いた額とする。」と定めている。 6 本件に関する1審被告センターの対応 1審原告母は,平成25年3月5日,1審被告センターに対し,センター法15条1項6号,本件施行令4条2項に基づき,1審原告生徒の保護者として障害見舞金の支給を請求した(甲26)。 1審被告センターは,同年5月23日付けで,「本件は,省令第23条別表に規定する障害のうち,第1級の3『脳の器質性障害のため,生命維持に必要な身のまわりの処理の動作 を請求した(甲26)。 1審被告センターは,同年5月23日付けで,「本件は,省令第23条別表に規定する障害のうち,第1級の3『脳の器質性障害のため,生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について,常に他人の介護を要するもの』に該当します。ただし,災害発生よりも前に既にADLは全介助の状態で第1級の障害が存していたことが認められるので,障害の程度が加重したとはいえず,障害見舞金の支給は行うことができません。」として,上記請求に対して障害見舞金の給付をしない決定(以下「本件不支給決定」という。)をした(甲26)。 本件不支給決定は,同月28日,1審原告母及び本件特別支援学校に通知された(甲26)。 1審原告母は,本件不支給決定について,同年6月19日,1審被告センターに対し,不服審査請求を申し立てたが,1審被告センターは,同年9月4日付けで,本件不支給決定と同旨の回答をした(甲27,28)。 第4 争点及び当事者の主張 1 1審被告市関係 給食介助における安全配慮義務違反の有無(1審原告らの主張)ア 1審原告生徒については,重度重複障害に加えて嚥下障害を持ち,C指導医やDST(言語聴覚士の略称)から,給食前の吸引を含む医療的ケアの必要性があるとの指導を受けていたのであるから,本件特別支援学校においては,1審原告生徒に対する医療的ケアを実施するため,主治医,指導医,言語聴覚士,看護師,保護者等が連携し,情報を共有した上で,看護師等による給食前後及び給食中の状態観察を行い,吸入・吸引の要否を判断した上で, これらが必要な場合は実施し,さらに誤嚥窒息の危険があるのであれば給食を中止すべき義務があった。なお,1審原告生徒は医療的ケアの対象者ではなかったが,後述のとおり,それは本件特 した上で, これらが必要な場合は実施し,さらに誤嚥窒息の危険があるのであれば給食を中止すべき義務があった。なお,1審原告生徒は医療的ケアの対象者ではなかったが,後述のとおり,それは本件特別支援学校がなすべき説明義務を怠ったからである。したがって,1審原告生徒については,医療的ケアの申請がなくても,食前に聴診器による呼吸音の聴診など,看護師による観察を通して唾液,痰等の貯留物の性質及び量,その他体調全般を看護観察するとともに,口中及び咽頭から咽頭蓋にかけて貯留している唾液及び痰等の貯留物を,自然排痰あるいは吸入・吸引により除去し,咽頭などに貯留物のないことを確認した上で給食を実施するという,医療的ケア対象者と同等の安全配慮をなすべき義務があった。 しかし,本件特別支援学校においては,担当教諭に医療的ケアの必要性等を周知することもなく,1審原告生徒への給食介助を実施するに当たり,その体調,投薬状況,むせの状態などを看護師等が正しく観察・評価する体制を整えないまま,担当教諭に給食介助をさせており,上記安全配慮義務を怠った。 イまた,B教諭は,E養護教諭から,1審原告生徒の飲み込みが悪いときは無理に食べさせずに給食をやめ,保健室に連絡するよう指導を受けていたのであるから,給食介助中,1審原告生徒に飲み込みが悪い状態が認められた場合は,給食を中断して看護師等に相談すべき義務があったが,本件事故当日,同教諭は,1審原告生徒に飲み込みが悪い状態が認められたにもかかわらず,給食を中断することも,看護師等に相談することもなかった。 したがって,本件事故当日のB教諭による給食介助の態様にも,安全配慮義務違反がある。 (1審被告市の主張)ア本件特別支援学校においては,保護者である1審原告母の申請書及び医師 。 したがって,本件事故当日のB教諭による給食介助の態様にも,安全配慮義務違反がある。 (1審被告市の主張)ア本件特別支援学校においては,保護者である1審原告母の申請書及び医師の指示書が提出されない限り,1審原告生徒に対する医療的ケアを実施する ことはできないから,本件事故当時も,1審原告生徒に対し,医療的ケアないしこれと同等の措置を講じる義務は負っていない。 イまた,本件事故当日の1審原告生徒の状態からは,B教諭が誤嚥窒息の危険を予見することはできないから,看護師等に相談するなどの義務も生じず,1審原告らの主張は前提を欠く。なお,本件特別支援学校では,1審原告母の指示に従い,ペースト食の提供や介助時の姿勢維持など,給食時の介助を適切に行っており,安全配慮義務違反はない。 誤嚥窒息時における救護義務違反の有無(1審原告らの主張)本件事故当日午後0時20分頃,1審原告生徒は急に苦しい表情をし,少なく食べさせている1回の量をもどし,苦しい表情を続けたのであるから,B教諭は,これを認めた段階で,直ちに他の教員の応援を要請すべき注意義務を負っていた。それにもかかわらず,B教諭は,かかる義務を怠り,午後0時20分頃から午後0時31分頃までの間,他の教員の応援を要請しなかった。 なお,1審被告市は,B教諭は,1審原告生徒がむせた後苦しみ出した時,すぐに緊急放送を依頼したと主張するが,一般に,呼吸原性心停止の場合,呼吸が停止しても,体内の酸素を消費するまで各臓器は動くことから,呼吸停止から心停止まで数分から10分以上かかるとされるのに,養護教諭・看護師らが1審原告生徒に救命処置を始めた時には,既に1審原告生徒には呼吸も心拍もなく,意識も喪失しており,チアノーゼがあると 呼吸停止から心停止まで数分から10分以上かかるとされるのに,養護教諭・看護師らが1審原告生徒に救命処置を始めた時には,既に1審原告生徒には呼吸も心拍もなく,意識も喪失しており,チアノーゼがあるという状態に陥っていたのであるから,1審被告市主張の事実は認められない。 (1審被告市の主張)本件事故において,1審原告生徒がむせて苦しみ出したのは午後0時30分頃である。1審原告らが主張する午後0時20分頃というのは,B教諭が給食介助の進行状況を確認するためにたまたま時計を見た時の時刻であり,本件事故の発生時刻ではない。 また,原判決は,F教頭が救急車を要請した時刻が午後0時35分であることを前提として,B教諭が直ちにG教諭に緊急放送を依頼しなかったと認定しているが,救急活動報告書によると,午後0時35分は「覚知日時」であり,「入電」時刻は午後0時33分との記載があるから,原判決には大きな事実誤認がある。 そして,救急車の要請時刻が午後0時33分であるとすると,本件事故が発生したのは午後0時30分頃であり,B教諭は,1審原告生徒が苦しみ出したのを認めてすぐにその口の中を確認し,背部叩打法を行いながらG教諭に対して緊急放送を依頼したといえるのであり,救護義務違反はない。 医療的ケアの必要性等に関する説明義務違反の有無(1審原告らの主張)本件特別支援学校は,DST及びC指導医からの指摘・助言を受けた時から本件事故時までの間に,1審原告生徒について,①本件特別支援学校が認識していた給食時の誤嚥窒息の危険性,②これを回避するための医療的ケアの必要性,③その申請手続について,1審原告母に伝えるべき説明義務を負っており,より具体的には,1審原告母に対して,次の内容を説明すべきであった。 ㋐言語聴覚 性,②これを回避するための医療的ケアの必要性,③その申請手続について,1審原告母に伝えるべき説明義務を負っており,より具体的には,1審原告母に対して,次の内容を説明すべきであった。 ㋐言語聴覚士及び学校指導医が,担任による1審原告生徒の給食介助中に,「喉のゴロゴロ」や「ムセ」を認めたこと。 ㋑言語聴覚士及び学校指導医が,1審原告生徒に認められた「喉のゴロゴロ」は,痰等の粘凋性のある分泌物が口腔から咽頭において貯留残留していること,また,「ムセ」はそれを現に誤嚥していることを意味し,このような状態で給食介助を遂行すれば,1審原告生徒に誤嚥窒息をもたらす具体的な危険性があることが予見できること。 ㋒言語聴覚士及び学校指導医が,1審原告生徒の担任による給食介助中に認めた誤嚥窒息の具体的な危険を解消し,これを防止し回避するためには,給食前には必ず,場合によっては給食後も,吸引を行って口腔から咽頭に かけて貯留残留する痰等の分泌物を除去した上で,給食介助業務を行う必要があると指摘したこと。 ㋓上記㋐ないし㋒の情報は,嚥下障害を持つ重複障害者の安全な食物嚥下を保つための専門職である言語聴覚士及び小児専門学校指導医が,担任による1審原告生徒の給食介助を観察した上で指摘したものであること。 1審原告母は,1審原告生徒の給食時に誤嚥窒息の具体的な危険があることも,申請をしなければ本件特別支援学校において必要な医療的ケアを受けられないことも知らず,そのことを本件特別支援学校から教えられたこともなかったのであるから,上記㋐ないし㋓について,本件特別支援学校は,1審原告母が理解可能な表現方法で,正確に伝える義務があり,かつ,その機会は十分にあったにもかかわらず,これを怠った。 なお,1審被告市は,1審原告母が吸引を望んでいなかったた 本件特別支援学校は,1審原告母が理解可能な表現方法で,正確に伝える義務があり,かつ,その機会は十分にあったにもかかわらず,これを怠った。 なお,1審被告市は,1審原告母が吸引を望んでいなかったため,医療的ケアの必要性等について説明する意味はなかったと主張するが,1審原告母は,吸引を行うのは他に手段がない場合の最終手段とするよう求めていたにすぎず,1審原告生徒に必要な医療的ケアを拒否するものではなかった。 (1審被告市の主張)本件特別支援学校は医療機関ではなく,医学的な判断や介護的な判断を行う役割や能力を有していないから,本来的には医行為である医療的ケアとしての痰の吸引について,医療機関と同程度の説明義務を負うことはない。そのような説明義務を本件特別支援学校に課すことは,明らかに過大であって不当である。 そもそも1審原告母は,本件特別支援学校における医療的ケアの存在とその実施に保護者の申請が必要であることを認識し,かつ,1審原告生徒の摂食状態が悪く,誤嚥窒息の可能性があることも認識しており,その上で,従前から,1審原告生徒に対する医療的ケアとしての吸引を希望していなかった。 なお,1審原告らは,DST及びC指導医からの指摘に基づいて主張するが, そこで指摘された1審原告生徒の状態は,言語聴覚士や指導医でなければ認識できないものではなく,むしろ,1審原告母の方が,よく把握している情報である。そして,DST及びC指導医は,1審原告生徒の主治医のように1審原告生徒の病状を詳細に理解した上で意見を述べたのではなく,その場で認識している状態のみを指摘したにすぎず,専門家から得られる情報の質も,本件特別支援学校より1審原告母の方が勝っている。また,医療的ケア推進委員会において,1審原告生徒のことを議題に上げたのは,1審原告母 ている状態のみを指摘したにすぎず,専門家から得られる情報の質も,本件特別支援学校より1審原告母の方が勝っている。また,医療的ケア推進委員会において,1審原告生徒のことを議題に上げたのは,1審原告母の指示する方法でこのまま給食介助を実施し続けることについて抱いていた不安感を共有したというにすぎず,その前後で1審原告生徒の摂食状態に何らかの変化が生じたわけではない。 したがって,1審原告らの主張するような説明を本件特別支援学校がしなければ,1審原告母が医療的ケアの必要性を的確に判断できないというものではないのであるから,本件特別支援学校は,1審原告らが主張する説明義務を負っていなかったというべきである。 各義務違反と後遺障害との間の因果関係の有無(主位的請求)(1審原告らの主張)本件特別支援学校において前記安全配慮義務を尽くしていれば,1審原告生徒が誤嚥窒息を生じさせることはなく,本件事故を回避することができた。すなわち,誤嚥から窒息に至るには,口内貯留物と食物とが粘凋性の高い痰と絡んで一体化し,咽頭,喉頭蓋,喉頭を塞ぐに足りる有形物となっていることが必要となる。給食介助前に,口腔内貯留物である粘凋性の痰や唾液等の混じった食物残滓を除去する意味は,このような誤嚥から窒息に至る機序のうちのいずれかの段階においてその進行を回避することにあるから,1審原告生徒については,給食介助に際して,適切な医療的ケア(又はこれと同様の措置)を実施すれば,誤嚥窒息を回避できる高度の蓋然性が存在したというべきである。 また,B教諭において前記救護義務を尽くしてれば,1審原告生徒が心肺停 止に至ることはなく,低酸素脳症に由来する重篤な脳障害を後遺することもなかった。 さらに,本件特別支援学校が前記説明 教諭において前記救護義務を尽くしてれば,1審原告生徒が心肺停 止に至ることはなく,低酸素脳症に由来する重篤な脳障害を後遺することもなかった。 さらに,本件特別支援学校が前記説明義務を尽くしていれば,1審原告母は,本件事故以前に医療的ケアを申請しており,本件事故当日も,看護師によって医療的ケアが実施されるか,給食が中止されていたはずであるから,本件事故を回避することができた。 したがって,前記各義務違反と1審原告生徒の後遺障害との間には因果関係が認められる。 (1審被告市の主張)誤嚥窒息は,気道を閉じて食道に嚥下するタイミングがずれ,食物等が気道に入ってしまうことにより生じるのであり,事前の吸引により痰を除去したからといって,これを回避し得るものではない。したがって,1審原告生徒について,本件事故当時,医療的ケアないしそれと同等の措置を講じていたとしても,本件事故を防止できたとはいえず,安全配慮義務違反と1審原告生徒の後遺障害との間に因果関係は認められない。 また,B教諭は可及的速やかに他の教員の応援要請をしており,より早く1審原告生徒の救命活動ができたとはいえない。 さらに,1審原告母は,1審原告生徒が小学5年時,吸引により胃の再手術が必要となったこと,医療的ケアの申請をするとスクールバスを利用できなくなること,1審原告生徒が自分で排痰できること等を理由に,医療的ケアを申請しなかったはずであるから,説明義務違反と後遺障害との間に因果関係は認められない。 重篤な脳障害が後遺しなかった相当程度の可能性の侵害の有無(予備的請求)(1審原告らの主張)仮に,前記各注意義務違反と1審原告生徒の後遺障害との間の因果関係が認められないとしても,これらの義務違反 遺しなかった相当程度の可能性の侵害の有無(予備的請求)(1審原告らの主張)仮に,前記各注意義務違反と1審原告生徒の後遺障害との間の因果関係が認められないとしても,これらの義務違反がなかったならば,1審原告生徒が重 篤な脳障害を後遺しない相当程度の可能性があった。 (1審被告市の主張)否認ないし争う。 なお,仮に,B教諭が直ちに緊急放送を依頼しなかったとして救護義務違反が認められたとしても,本件事故当時の道路交通状況等が明らかでない状況で,救急車の到着が分単位で早まったと認定できる根拠はなく,重篤な脳障害が生じなかった相当程度の可能性があるとはいえない。 損害額(1審原告らの主張)ア主位的請求に関する損害額入院雑費1審原告生徒は,平成24年9月26日から平成25年1月15日まで,112日間入院した。1審原告生徒が請求することのできる入院雑費は,日額1500円が相当である。 したがって,1審原告生徒は,入院雑費として,16万8000円(=1500円/日×112日)の損害を被った。 入院付添費1審原告生徒は,112日間の入院期間中,1審原告母に付き添ってもらった。1審原告生徒が請求することのできる入院付添費は,日額6500円が相当である。 したがって,1審原告生徒は,入院付添費として,72万8000円(=6500円/日×112日)の損害を被った。 入院慰謝料1審原告生徒が112日間の入院により被った精神的苦痛を慰謝するためには,178万円が必要である。 後遺障害慰謝料 1審原告生徒は,本件事故により,聴力・視力を失い,意思疎通も一切できなくなり,咀嚼機能を失い,排尿・排便機能,呼吸循環等の生命維持 万円が必要である。 後遺障害慰謝料 1審原告生徒は,本件事故により,聴力・視力を失い,意思疎通も一切できなくなり,咀嚼機能を失い,排尿・排便機能,呼吸循環等の生命維持機能の喪失により常に介護を必要とし,24時間の医療観察が必要となった。 1審原告生徒がこの後遺障害により被った精神的苦痛を慰謝するためには,2800万円が必要である。 将来介護費1審原告生徒は症状固定時14歳であり,平均余命は66年である。1審原告母は1審原告生徒の症状固定時47歳であり,1審原告母の就労可能年数は19年である。1審原告生徒が請求することのできる症状固定後の介護費は,1審原告母が就労可能な19年間は1審原告母によるものとして日額1万5000円が相当であり,その後の47年間は職業介護人によるものとして日額2万円が相当である。 したがって,1審原告生徒は,将来介護費として,1億1811万1627円(=1万5000円/日×365日×12.853(19年のライプニッツ係数)+2万円/日×365日×(19.201(66年のライプニッツ係数)-12.853(19年のライプニッツ係数))の損害を被った。 合計額 1億4878万7627円イ予備的請求に関する損害額重篤な脳障害が後遺しなかった相当程度の可能性の侵害による精神的苦痛を慰謝するためには,相当額(ただし,1億4878万7627円を超えない額)の慰謝料が必要である。 ウ 1審原告母及び1審原告兄の慰謝料額1審原告母及び1審原告兄は,本件事故により,1審原告生徒との情緒的な交流の機会を奪われ,1審原告生徒が死亡したと同様の精神的苦痛を被っ た。その慰謝料額は,少なくとも,1審原告母については300万円,1審原 兄は,本件事故により,1審原告生徒との情緒的な交流の機会を奪われ,1審原告生徒が死亡したと同様の精神的苦痛を被っ た。その慰謝料額は,少なくとも,1審原告母については300万円,1審原告兄については150万円が必要である。 (1審被告市の主張)ア主位的請求に関する損害額についていずれも否認ないし争う。 なお,1審原告生徒の後遺障害は,既存障害と同じく脳に起因するものであり,かつ,既存障害として第1級の障害を有するものであるから,法的な損害評価においては,後遺障害慰謝料を損害として認めることはできない。 イ予備的請求に関する損害額について否認ないし争う。 なお,原判決が認定した損害額(500万円)は,そもそも根拠がなく,医療過誤訴訟においても,その種の慰謝料額はせいぜい300万円程度である。 ウ 1審原告母及び1審原告兄の慰謝料額について否認ないし争う。 過失相殺(1審被告市の主張)仮に,1審被告市に一定の損害賠償義務が認められるとしても,その損害額の算定に当たっては,1審原告生徒は,既存障害のため嚥下障害や全般的な身体障害を負っており,経管栄養も検討する必要があったにもかかわらず,1審原告母が本件特別支援学校への就学継続と1審原告生徒の経口摂取の継続を希望する一方,医療的ケアを申請しなかったという点を,1審原告ら側の過失として考慮すべきである。 (1審原告らの主張)否認ないし争う。 2 1審被告センター関係 本件省令21条5項が憲法14条に違反し,あるいは,センター法の委任の範囲を逸脱するか。 (1審原告母の主張)ア本件省令別表には,第1級より上の 告センター関係 本件省令21条5項が憲法14条に違反し,あるいは,センター法の委任の範囲を逸脱するか。 (1審原告母の主張)ア本件省令別表には,第1級より上の等級が存在しないことから,本件省令21条5項の適用を受ける場合,事故前に障害がなかった者や第2級以下の障害があったとされる者であれば障害見舞金を受けることができる一方,事故前に第1級の障害があったとされる者は,たとえ新たに被害を受けたとしても,障害見舞金を受けることができないことになる。このような本件省令21条5項の定め及びこれに基づく取扱いは,第1級の障害を持つ者とそうでない者を合理的な理由なく差別し,第1級の障害を持つ者に対して不利益を強いるものであり,憲法14条1項に違反する。そして,その救済は,憲法13条及び29条により図られるべきである。 なお,仮に二重の給付が生じるのであれば,本件省令21条1項(一定の場合に給付額の2分の1にするもの)のような規定を置けば足りるし,これによって迅速な給付の実現が阻害されることもない。 イ H名城大学法学部教授作成の意見書(甲118。以下「H意見書」という。)によれば,センター法が給付を定める障害見舞金は,学校生活能力を中心とする全人間的な能力の喪失に対する,主として精神的な慰謝を目的とした補償であって,労働能力の喪失に限定して填補することを目的とするものではない。とすれば,障害の程度を専ら労働能力喪失の程度によって定める労災補償制度の障害等級表に準拠することに合理的な根拠はなく,また,これに基づいて給付額調整を行う本件省令21条5項は,不合理な取扱いを容認することになる。したがって,本件省令別表及び本件省令21条5項は,憲法14条1項に違反しており,センター法が定める障害見舞金の支給目的と て給付額調整を行う本件省令21条5項は,不合理な取扱いを容認することになる。したがって,本件省令別表及び本件省令21条5項は,憲法14条1項に違反しており,センター法が定める障害見舞金の支給目的とも整合せず,センター法の委任の範囲を逸脱するもので違法である。 ウ I広島大学教授作成の意見書(甲119。以下「I意見書」という。)によ れば,給付を迅速に行うことを可能にするために採用された枠組みの結果として,新たに脳を損傷し笑顔までも失うという重大な障害を負ってもなお障害の程度が増したとはいえないとして障害見舞金が一切支給されないという事態は,明らかに障害者の固有の尊厳を侵すものであり,合理性を欠き平等原則に違反する。 この点,原判決は,脳という上位の神経には,目の神経,聴覚の神経,排尿・排便の神経という下位の神経が全て含まれているという形式的な面だけを見ており,従前障害を認めなかった神経支配領域が新たに障害された実質を直視していないものであり,不当である。 (1審被告センターの主張)災害共済給付制度は,保険制度や民法の不法行為に基づく損害賠償制度等とは趣旨目的の異なる独特の制度であり,1審被告センターがこうした仕組みを採用した目的は,互助共済の精神の下,限られた財源の中で,学校管理下における児童生徒の災害に関し,必要な給付を公平かつ迅速に行うことにあるから,その目的は合理的である。そして,当該目的達成のための手段として採用した上記仕組みにより,公平かつ迅速な給付が可能となるのであるから,上記目的との関連において合理的な手段ということができる。 したがって,1審被告センターの災害共済給付制度の仕組みは,憲法14条1項に違反するとはいえない。 本件事故による後遺障害と既存障害は「同一部 いて合理的な手段ということができる。 したがって,1審被告センターの災害共済給付制度の仕組みは,憲法14条1項に違反するとはいえない。 本件事故による後遺障害と既存障害は「同一部位についての障害」に当たるか。 (1審被告センターの主張)本件省令21条5項の「同一部位」とは,労災補償における障害等級認定基準に従い,「精神・神経系統」であれば,中枢神経・末梢神経全体が「同一系列」である。脳の損傷による障害が複数認められる場合には,抹消神経による障害も含めて総合的に評価し,一体的に障害等級を認定すべきものである。そして, 1審原告生徒は,既存障害により精神・神経系統の障害第1級の認定を受けていたから,本件事故によって,他の中枢神経又は末梢神経の障害を後遺したとしても,加重には当たらない。したがって,1審原告生徒についても,「視力の障害」,「聴力の障害」,「嚥下咀嚼機能・言語機能脳障害」を個別に評価して別々に障害等級を認定することは適切でなく,脳の損傷による複数の障害を総合的に評価し,全体病像として,本件省令別表第1級の3に該当すると判断すべきである。 なお,1審原告母が指摘する東京高裁平成28年1月20日判決(以下「平成28年高裁判決」という。)を受けて,1審被告センターが,災害共済給付制度にかかる従前の基準や解釈を変更した事実はない。また,仮に,同判決の考え方を前提としたとしても,本件では,既存障害部位と新たな障害の部位とが「異なる神経の支配領域を有する」とはいえないから,「同一部位」に該当すると判断せざるを得ない。 (1審原告母の主張)ア本件省令21条5項は,障害見舞金の支給目的に沿って,合憲的・合理的に解釈・適用すべきであるから,既に障害のある児童生徒が精神的 当すると判断せざるを得ない。 (1審原告母の主張)ア本件省令21条5項は,障害見舞金の支給目的に沿って,合憲的・合理的に解釈・適用すべきであるから,既に障害のある児童生徒が精神的損害あるいは学校生活能力の喪失という意味で既存障害と質的・量的に異なる程度の障害の加重を受けている場合には,「同一部位についての障害の程度を加重した場合」に該当しないと判断し,同項による調整をせずに障害見舞金の支給を認めるべきである。そして,1審原告生徒は,本件事故前,笑顔等による非言語コミュニケーションが取れており,学校生活において,学び,遊び,交流することを享受する能力を有していたが,本件事故によりそれらを全て喪失したものである。したがって,本件については,本件省令21条5項による調整をせずに障害見舞金の支給が認められるべきである。 イ平成28年高裁判決は,胸髄損傷による両下肢麻痺第1級1号の既存障害を有する被害者が新たな交通事故によって頸椎捻挫後両上肢痛を残遺した 事案について,「『同一の部位』とは,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきである。」とした上で,「胸椎と頚椎とは異なる神経の支配領域を有し,それぞれ独自の運動機能,知覚機能に影響を与えるものであるから,本件既存障害と本件症状とは,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たると解することはできず,『同一部位』であるということはできない。」とした。これは,自賠責施行令2条2項の「同一の部位」の解釈に関するものであるが,公的な災害補償に関する行政の公正・公平な運用の観点からは,本件省令21条5項の「同一の部位」も,「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」と解釈すべきである。 そして,本件事故によって に関する行政の公正・公平な運用の観点からは,本件省令21条5項の「同一の部位」も,「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」と解釈すべきである。 そして,本件事故によって1審原告生徒は,既存障害にはなかった「視覚野」という視神経の支配領域,及び「ヘッシェル回」という聴神経の支配領域を新たに障害され,さらに,意識を障害されたことにより,意識があることを前提とする咀嚼及び嚥下ができなくなり,言語機能(喃語)も障害されたものであり,いずれも既存障害と対照して,神経の支配領域を異にする部位であるから,「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」に当たらず,「同一の部位」とはいえない。 したがって,本件省令21条5項の規定を前提としても,1審原告生徒については障害見舞金が支給されなければならない。 既存障害を本件省令別表第3級の3と評価することができるか(予備的請求)。 (1審原告母の主張)1審原告生徒の既存障害の程度は,身体障害者福祉法別表第1級相当であった。身体障害者福祉法は,「身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため,身体障害者を援助し,及び必要に応じて保護し,もって身体障害者の福祉の増進を図ることを目的する」ものであり,そこでの等級は,社会参加 のためのハードルの有無,ハードルの大きさを評価するためのものである。他方,本件省令が参考にしている労働保険法に基づく後遺障害等級は,障害による労働能力の喪失に対する損失填補を目的とするものであり,1審原告生徒のように,事故前から労働能力を有していない場合を評価する指標はそもそも有していない。したがって,後遺障害等級の認定に当たって,身体障害者福祉法上の等級をそのまま用いることは不適切である。 生徒のように,事故前から労働能力を有していない場合を評価する指標はそもそも有していない。したがって,後遺障害等級の認定に当たって,身体障害者福祉法上の等級をそのまま用いることは不適切である。 そして,1審原告生徒は,本件事故前には,精神発達遅滞,四肢体幹の運動機能障害,嚥下障害,発語障害はあったが,意思疎通は可能であったし,生命維持機能,咀嚼機能,言語機能自体は残っていた。両眼・両耳とも見聞きすることができ,食欲を表現し,問いかけに答え,気持ちいいとか悪いとか,美味しいとか不味いとかを感じて表現することができた。加えて,完全自発呼吸ができ,咀嚼機能は残存し,経口摂取は可能であった。何よりも,コミュニケーション能力があり,自発自力行動によって他者との情緒的交流をすることができた。これらの点からすれば,本件事故前における1審原告生徒の既存障害の程度は,24時間の医療的ケア・看護・介護は必要なく,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し終身労務に服することができない」(本件省令別表第3級の3)程度であった。 (1審被告センターの主張)1審原告生徒は,既存障害により高次脳機能障害(本件障害等級認定基準Ⅱ学校生活に対する持続力・持久力,社会行動能力)の全てについて「全部喪失」痺の範囲(四肢麻痺,片麻痺,単麻痺)及びその程度(高度,中等度,軽度)が「両上下肢(四肢)完全麻痺」の状態にあり,食事,入浴,用便及び更衣について「常に介護が必要」な状態にあったのであるから,生命維持に必要な身のまわり処理の動作について,常に他人の介護を要するもの(同基準Ⅱ5⑷ア したがって,1審原告生徒の既存障害は,本件省令別表第1級の3(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」。)に当たると評価すべきであ るもの(同基準Ⅱ5⑷ア したがって,1審原告生徒の既存障害は,本件省令別表第1級の3(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」。)に当たると評価すべきである。 遅延損害金の起算点(1審原告母の主張)センター法に基づく災害共済契約の給付金の支給請求権は,当該災害がセンター法及び関係諸法規に所定の要件を客観的に充足すれば当然に発生し,その履行期は,支払請求を受けてから,当該請求の審査(本件施行令4条4項)をするための相当の期間を経過した日と解すべきであるところ,本件では,平成25年5月27日に1審被告センターが不支給決定をしたことから,遅くとも同日には本件請求の審査を行うための相当期間が経過し,履行期が到来していたため,遅延損害金の起算点は,平成25年5月28日である。 (1審被告センターの主張)不支給決定をした場合や決定を保留した場合において,判決になったときの遅延損害金の起算点は,所定の要件を充足することが一見して明らかな事案にもかかわらず不支給決定や決定の留保をした極めて特殊なケースでない限り,判決確定の日の翌日とされるべきである。 第5 当裁判所の判断 1 認定事実 1審原告生徒の既存障害の内容及び程度等ア 1審原告生徒は,平成10年3月に出生後,1歳頃に医師から脳性まひを指摘され,聖マリア病院に入通院しながら,平成10年9月30日から,肢体不自由児通園施設こぐま学園(以下「こぐま学園」という。)に通園し,理学療法,作業療法,言語療法等を受けていた。なお,当初の傷病名は,運動発達遅滞,精神発達遅滞,末梢性肺動脈狭窄症,口腔機能障害であり,その 後,摂食機能障害,構音障害,脳性麻痺が加えられた。平成12年1月26 療法等を受けていた。なお,当初の傷病名は,運動発達遅滞,精神発達遅滞,末梢性肺動脈狭窄症,口腔機能障害であり,その 後,摂食機能障害,構音障害,脳性麻痺が加えられた。平成12年1月26日付け診断書の症状欄には,「四肢麻痺のため頚定,座位未獲得。日常生活では全介助を要す。有意語なし。今後長期にわたる療育・訓練を必要とすると思われます。」と記載されており,その後の診断内容も同様であった。そして,平成11年12月20日には,身体障害者福祉法別表に掲げる第1級の認定を受け,身体障害者手帳を交付された。(甲82,83・1頁,35頁,72頁,97頁,110頁,118頁)イ平成15年5月にこぐま学園において1審原告生徒の療育実施計画の作成に関与した理学療法士のJは,1審原告生徒の身体の状況について,「筋緊張は,体幹が低緊張であり,四肢(上肢>下肢;上肢屈筋優位,下肢伸筋優位)に亢進を認めます。胸部体幹の伸展・回旋に制限があり,脊柱の後彎著明です。背臥位姿勢が安定せず,また,呼吸も苦しくなることから,体幹の屈曲位を強めて側臥位になることが多いです。また,背臥位で四肢の対称性を保ったまま,頭部を回旋することは困難で,両手を正中位で合わせることは困難です。」と記載している。他方,その社会性・対人面やコミュニケーションについては「ほほえみ」と「喃語」が可能であり,「声かけによる反応が良いことから,若干頭部を回旋して,視線にて注視・追視することができます。」と評価し,運動能力については,実用的ではないがSRC-W(重度障害児用歩行器)の利用や介助歩行により前進可能であると評価していた。 (甲98)ウ 1審原告生徒は,胃食道逆流症のために嘔吐しやすく,平成14年11月に熊本赤十字病院において,噴門形成術(胃の噴門 介助歩行により前進可能であると評価していた。 (甲98)ウ 1審原告生徒は,胃食道逆流症のために嘔吐しやすく,平成14年11月に熊本赤十字病院において,噴門形成術(胃の噴門部を縫合する手術)を受けていたが,平成18年頃,吸引による刺激によって噴門部を縫合していたカフが外れ,胃食道逆流症を再発し,同年7月に再度噴門部形成術を受けた。 このことがあって以来,1審原告母は,医療関係者や学校関係者に対して,吸引はできるだけ避けて自然排痰を促してほしいと頼むようになった。(甲 47,59,63の3)エ平成12年から1審原告生徒の主治医をしているA大学病院小児科のK医師は,平成22年11月22日,同日を障害固定日とする身体障害者診断書・意見書を作成した。同意見書には,障害名として「四肢体幹の著明な筋緊張亢進,不随意運動を伴う運動障害」,原因となった疾病として「原因不明の脳原性疾患」,総合所見として「上記障害により著しい日常生活の支障を来している。」という記載がある。また,神経学的所見等として,感覚障害は「なし」,運動障害は「不随意運動」,起因部位は「脳」,排尿・排便機能障害は「なし」,形態異常は「なし」とされ,「動作・活動」については,寝返りする,足をなげ出して座る,椅子に腰かける,横座り,あぐら,正座,洋式便所にすわる,排せつの後始末をする,ズボンをはいて脱ぐ,シャツを着て脱ぐ,顔を洗いタオルで拭く,タオルを絞る,背中を洗う,ブラシで歯をみがく,コップで水を飲む,箸で食事をする,スプーンで食事をする,字を書く,立つ,家の中を移動する等の項目全てについて,全介助又は不能と評価された。(甲5・606頁,607頁) 医療的ケア制度の創設と本件特別支援学校における運用状況等ア を書く,立つ,家の中を移動する等の項目全てについて,全介助又は不能と評価された。(甲5・606頁,607頁) 医療的ケア制度の創設と本件特別支援学校における運用状況等ア文部科学省(以下「文科省」という。)は,平成10年度から,当時の盲・聾・養護学校の教員が看護師の関与の下で,医療ニーズの高い児童生徒等に対して,たんの吸引や経管栄養などの医行為を行うための調査研究及びモデル事業を実施し,厚生労働省は,平成16年10月20日,その成果を踏まえ,「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて」と題して,たんの吸引,経管栄養及び導尿の標準的手順と,教員が行うことが許容される行為の標準的な範囲をまとめた文書を発出した(甲10,126,乙ロ15)。 イこれを受けて,本件特別支援学校の前身であるA養護学校は,平成18年度から,A市教育委員会が作成した「A市立A養護学校における医療的ケア 実施要項」に基づき,看護師による医療的ケアを開始した。(前提事実2)ウ学校教育法の改正により,平成19年4月から,盲学校・聾学校・養護学校が特別支援学校に一本化された。そして,A市教育委員会は,平成21年4月,本件特別支援学校における医療的ケア対応事業に関し,「A市特別支援学校における医療的ケア対応事業要綱」(本件事業要綱。原判決別紙2)を定め,A市教育委員会教育長は,本件事業要綱7条の委任を受け,本件特別支援学校における医療的ケア対応事業の実施に関し必要な事項について,「A市立A特別支援学校における医療的ケア実施要項」(本件実施要項。原判決別紙3)を定め,本件特別支援学校は,本件実施要項に基づき実施する医療的ケアに関し,学校における必要事項について,「A市立A特別支援学校における医療的ケア実施細 ケア実施要項」(本件実施要項。原判決別紙3)を定め,本件特別支援学校は,本件実施要項に基づき実施する医療的ケアに関し,学校における必要事項について,「A市立A特別支援学校における医療的ケア実施細目」(本件実施細目。原判決別紙4)を定めた。 エ本件事業要綱等によると,本件特別支援学校における医療的ケアの内容は,「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の医学的・法律学的整理に関するとりまとめ」に示された,たんの吸引,経管栄養及び導尿の標準的手順と,教員が行うことが許容される行為の標準的な範囲についてのみ実施するものであり,その実施者は原則として看護師に限定されている。また,医療的ケア実施までの手続として,保護者が所定の医療的ケア実施申請書に必要事項を記入し,所定の様式の主治医の指示書を添えて校長に提出し,A市教育委員会の実施決定を経ることが定められている。そして,同実施決定がされれば,医療的ケアを受ける児童生徒毎に,主治医の了解を得た個別マニュアルが作成され(本件特別支援学校においては,「朝の健康観察シート」,「個人カルテ」,「個別緊急対応マニュアル」,「医療的ケアの個別実施マニュアル」が作成される〔甲88〕。),看護師がその個別マニュアルに基づき,当該児童生徒に対し,適宜,主治医作成の指示書に基づく医療的ケアを実施することとなる。 オ本件実施細目の「2、実施細目保護者への説明」によると,学 校は,年度当初に保護者に対して医療的ケアの実施に関する理解を得るための説明会を実施することとされ,説明に当たっては,医療的ケア実施の目的,内容,実施に係る手順等について理解を図ることとされており,本件特別支援学校では,新年度の開始時に,医療的ケアの実施を希望する保護者を対象に,説明会を開催していた。(乙ロ29~32)カ ,内容,実施に係る手順等について理解を図ることとされており,本件特別支援学校では,新年度の開始時に,医療的ケアの実施を希望する保護者を対象に,説明会を開催していた。(乙ロ29~32)カ平成23年12月9日に文科省に設置された特別支援学校等における医療的ケアの実施に関する検討会議がとりまとめた「特別支援学校等における医療的ケアへの今後の態様について」と題する書面(甲10,乙ロ13)によると,平成10年度から実施してきた調査研究及びモデル事業の結果,看護師が常駐し,看護師の具体的な指示の下に教員が一部行為を行う方式においては,医療安全が確保されるほか,授業の継続性の確保,登校日数の増加,児童生徒等と教員の信頼関係の向上等の意義が観察されたほか,保護者が安心して児童生徒等を学校に通わせることができるようになるなど,保護者の負担の軽減効果も観察されたという。 そして,上記とりまとめに基づく平成23年12月20日付け文科省初等中等教育局長通知(23文科初第1344号・乙ロ17)により,平成24年4月以降,一定の研修を受けた介護職員等は一定の条件の下に医療的ケアができるようになり,特別支援学校の教員においても,制度上医療的ケアを実施することが可能となった。 キもっとも,本件特別支援学校においては,教員による実施体制が整っていないとして,上記の制度改正後も,従前と同様,本件事業要綱等に基づく体制(看護師による医療的ケアの実施)を維持していた。(甲10,84)また,平成24年当時,本件特別支援学校における医療的ケアとして想定されていた医行為は,特定行為としての経管栄養,吸引,導尿のほか,特定行為以外のものとしての吸入及びその他の医療的ケアであった(甲84・16頁)。 ク本件特別支援学校では,医療的ケ ていた医行為は,特定行為としての経管栄養,吸引,導尿のほか,特定行為以外のものとしての吸入及びその他の医療的ケアであった(甲84・16頁)。 ク本件特別支援学校では,医療的ケアの実施に関して指導医を選定し,各学期に1回ずつ,指導医に医療的ケアの実施状況等を観察してもらい,指導助言を受けていた。平成22年度から指導医の立場にあったのがC医師であった。 また,本件特別支援学校では,平成23年4月から,月に1回,言語聴覚士(ST)に学校を訪問してもらい,児童生徒の行動や摂食状況を観察してもらって,助言を受けることとしていた(この助言は医療的ケアに関することに限らない。)。最初にこの依頼を受けた言語聴覚士がDSTであった。 (乙ロ18,19)ケさらに,本件特別支援学校では,教職員を対象として,月1回程度,給食介助の研修があり,年に1回は救急救命訓練が実施され,緊急対応マニュアルも備えられていた。このマニュアルにおいて,給食介助中に生徒が食物を詰まらせた時などは,まず担任が背部叩打法などで応急措置を取り,それが功を奏しない場合に緊急放送(応援)を依頼するという手順が定められており,訓練もそうした手順に基づいて行われていた。(甲31,証人G9頁,同E22頁) 1審原告生徒の本件特別支援学校転入後の状況ア 1審原告生徒は,平成16年4月に小郡小学校に入学し,特別支援学級に在籍していたが,平成19年9月(小学4年の2学期)から,本件特別支援学校に転入した。 当時,本件特別支援学校には,医療的ケア制度の立上げに携わったL看護師(以下「L看護師」という。)が在籍しており,同看護師は,平成18年まで聖マリア病院の小児科等に勤務していたことから,1審原告生徒や1審原告母とは顔見知りであり,また,1 の立上げに携わったL看護師(以下「L看護師」という。)が在籍しており,同看護師は,平成18年まで聖マリア病院の小児科等に勤務していたことから,1審原告生徒や1審原告母とは顔見知りであり,また,1審原告生徒が噴門部形成術を受けたことや,1審原告母が吸引に消極的であることも知っていた。(甲65,82)イ 1審原告母は,自宅で1審原告生徒に食事を与える際,水分を摂らせ,前 かがみにしたり,笑わせたりして自然排痰させており,それでも痰が取れない時は食事を控えていたため,吸引の必要性を感じたことはなかった(自宅に吸引器は備えていた。)。そして,本件特別支援学校で給食介助を担当する教諭に対しても,こうした排痰の方法や介助時の姿勢,方法などを伝えており,教諭同士の間でもそれは引き継がれていた。 また,1審原告母は,1審原告生徒に対し,毎日,自宅で,喘息発作の予防のために,起床時と就寝前にネブライザーによる吸入を行っており,ゼコゼコいう時などにも,必要に応じて吸入を行っていた。そして,1審原告母は,1審原告生徒の登校時には,必ずネブライザーをリュックに入れて持参させていた。 他方,1審原告母は,小学部の教諭から,吸引(医療的ケア)を勧められたことが幾度かあったが,噴門部形成術の不安があることや,実際にも必要がないことを理由に断っていた。しかし,L看護師は,1審原告生徒の調子が悪いときや,季節の変わり目などでゼコゼコいうときなど,吸引の必要性を感じた場合,1審原告母に電話をして,その了解を得て吸引を実施することがあった。(甲65,82,106,1審原告母6,8頁,証人B速記16頁)ウ 1審原告生徒は,平成22年度から本件特別支援学校の中学部に進級し,中学1年,2年次は,M教諭が担任,B教諭が副担任となり,中学3 ,82,106,1審原告母6,8頁,証人B速記16頁)ウ 1審原告生徒は,平成22年度から本件特別支援学校の中学部に進級し,中学1年,2年次は,M教諭が担任,B教諭が副担任となり,中学3年次からB教諭が担任となった。中学3年次の1審原告生徒のクラス(3年2組)は,1審原告生徒も含めて男子3名で,1名が重複障害を有する生徒,もう1名が軽度の障害を有する生徒であったが,2年及び3年1組の生徒2名と合同で教室を使用しており,これら5名の生徒(ただし,1名は重度障害のため入院していた。)を,B教諭のほか,3年1組担任のN教諭及び両組兼任の副担任であるG教諭の3人の教諭で担当していた。また,給食介助の際には,給食介助員が1名加わっていた。 なお,B教諭は,平成20年度から中学部の重複学級を担当しており,1審原告生徒を担当するまでに,6人の生徒の給食介助を実施した経験があった。(甲31,乙ロ4)エ B教諭の給食介助の方法は,教室の床にあぐらをかき,膝の上に1審原告生徒を抱え,その上体をまっすぐに起こし,食道と胃が一直線になるような姿勢を確保して,専用のスプーン(中さじ=10cc 程度)にペースト食(主食,主菜,副菜をすべてミキサーにかけて液体様にしたものにトロミ剤を加えて飲み込みやすくしたもの)をついで,1審原告生徒の舌の奥の方にそれを置き,1審原告生徒が舌を前後に動かして飲み込んだことを確認して,また1さじ分を舌の上に置くということを繰り返すものであった。B教諭のこうした介助方法は,前任から引き継いだ1審原告母の方法に,教諭同士の話合いなどで改良を加えたものであった。 また,食事の時間は,30分程度で食べ終わることもあったが,むせがあるなどして時間がかかることも頻繁にあったことから,B教諭 母の方法に,教諭同士の話合いなどで改良を加えたものであった。 また,食事の時間は,30分程度で食べ終わることもあったが,むせがあるなどして時間がかかることも頻繁にあったことから,B教諭は概ね45分を目途とし,長くても1時間程度で切り上げており,完食できるのは1週間(5日)のうち3日程度であった。なお,B教諭は,1審原告生徒がむせたときなどでも,誤嚥窒息の危険を感じたことはなかった。(乙ロ4,証人B速記16頁,同録反13頁) 本件特別支援学校における1審原告生徒についての医療的ケアの検討状況ア本件特別支援学校の教員の間では,1審原告生徒が小学部に在籍した頃から,日常生活を楽にするために吸引をした方がいいという認識が共有されていたが,前記のように,1審原告母がそれに対して消極的であったことから,中学部ではあえて勧めることまではしていなかった。 また,1審原告生徒については,中学2年次(平成23年度)の終わり頃,O町に転居する話が出ており,1審原告母が本件特別支援学校への通学継続を希望していたことから,その場合にはスクールバスを利用した通学に切り 替える可能性が高かったが(それまでは,1審原告母が車で送迎していた。),本件特別支援学校においては,医療的ケアの対象児は,安全確保の観点から,スクールバスを利用できない決まりがあった。そのこともあって,教員側も1審原告母に対して医療的ケアを勧めることを躊躇していた。(甲47,48,乙ロ23,証人B速記13頁)イ一方,DSTは,平成23年4月に初めて本件特別支援学校を訪問して1審原告生徒の摂食状況を観察した際,偶々その場に居合わせたC指導医に対し,摂食しやすくするために食事前に蒸気の吸入をさせることを提案した。 また,DSTは,1審原告 初めて本件特別支援学校を訪問して1審原告生徒の摂食状況を観察した際,偶々その場に居合わせたC指導医に対し,摂食しやすくするために食事前に蒸気の吸入をさせることを提案した。 また,DSTは,1審原告生徒が給食介助をしていたB教諭に対して笑みを浮かべていたことや,1審原告生徒にむせやゴロゴロがあることを観察した。 そして,観察後に,P教頭から,1審原告生徒に吸引を実施する必要性について尋ねられると,「した方がいいでしょうね。」と答えていた。 さらに,DSTは,同年10月27日の2度目の学校訪問の際,再度,1審原告生徒の摂食状況を観察し,ゴロゴロがあり,食事中にむせが何度もあったことから,M教諭が作成していた事前アンケートの欄外に,「咽頭残留(+)」「むせ(++)」と記入した。(甲45,乙ロ19,証人D8頁,9頁)ウ同年11月24日に学校訪問したC指導医は,P教頭から,1審原告生徒の摂食状況を見てほしいと依頼され,20分程度観察した。その際,1審原告生徒には,ゴロゴロやむせが認められた。観察後,C指導医は,随行したE養護教諭から,給食の前後に吸引をした方がよいでしょうねと尋ねられ,そうでしょうねと返事をした。なお,同日のC指導医の巡回予定については,E養護教諭が事前にメモを作成しており,1審原告生徒の観察予定もそこに記載されていた。(甲46,乙ロ18,証人C11頁,同E4頁,5頁)エ同年12月12日に開催された,本件特別支援学校の医療的ケア推進委員会(本件実施要項3条に定める校内委員会。同日の構成員は,管理職のほか,学部主事2名(B教諭,Q教諭),M教諭,E養護教諭,看護師らである。) において,最初に,1審原告生徒に対する医療的ケアの必要性が議題として挙げられ,DSTやC指導医の観察時に,給食前の吸 部主事2名(B教諭,Q教諭),M教諭,E養護教諭,看護師らである。) において,最初に,1審原告生徒に対する医療的ケアの必要性が議題として挙げられ,DSTやC指導医の観察時に,給食前の吸引が必要という所見があったことが報告された。そして,これまでの経緯として,1審原告生徒が小学5年生の頃,Q教諭が1審原告母に医療的ケアの利用を打診したが,1審原告母の反応は消極的であったことや,胃の噴門部の不安から吸引には拒否的であること,中学部ではそうした事前情報があったことからあえて勧めていないことなどが確認され,今後の方針として,主治医であるK医師と情報交換した上で1審原告母と話をすることや,STや指導医から吸引を勧められていることを伝えること,管理職において対応すること,こうした話は1審原告兄の進路が決まる平成24年2月以降にすることなどが話し合われた(甲47,48)。 オ平成24年3月19日に開催された医療的ケア推進委員会では,補足的に,1審原告生徒が同年4月以降も本件特別支援学校に通学する場合には,STや指導医から吸引の話が出ている旨を伝える必要があることが確認された(甲49)。 カ E養護教諭は,平成24年度の1回目となるC指導医の学校訪問(6月28日)に合わせて行動予定のメモを作成し,その中で,1審原告生徒について給食前後の吸引の必要性を確認することを挙げており,当日,C指導医に随行した学校関係者がそのことを確認した。(甲50,証人E18頁)。 キ 1審原告生徒は,同年4月以降も本件特別支援学校への通学を継続していたが,医療的ケア推進委員会において,前記オ及びカのように検討・確認していた内容について,本件特別支援学校の関係者から1審原告母に伝えられたことはなかった。 本件事故前頃の1審 継続していたが,医療的ケア推進委員会において,前記オ及びカのように検討・確認していた内容について,本件特別支援学校の関係者から1審原告母に伝えられたことはなかった。 本件事故前頃の1審原告生徒の状況ア 1審原告母は,O町に転居した後,同町が実施する地域支援事業(日中一時支援)を利用して,小規模多機能型居宅介護施設である「みなみの家」に, 1審原告生徒の送迎を依頼していた。これにより,平成24年9月4日から同月24日までの間,1審原告生徒は,放課後の午後3時頃,みなみの家の車両で本件特別支援学校からみなみの家に移動し,そこでおやつを食べるなどして,午後6時頃に自宅まで送られていた。(甲59)イ 1審原告母は,みなみの家を利用するに当たり,その管理者から,吸引や吸入の必要が生じた場合のことを尋ねられ,噴門部形成術のことを説明し,吸引はできるだけ回避して自然排痰させてほしいと答えた。そこで,みなみの家では,自然排痰が困難な場合には吸入で対応することとして,K医師にその旨の指示書を作成してもらうことを依頼した。 平成24年9月5日付けのK医師作成に係る指示書には,医療的ケアの内容と範囲について,「吸引はしない」と記載され,「吸入」と「その他の医療的ケア」の欄にチェックがされ,吸入については,ベネトリンとインタールを用いること,その他の医療的ケアについては,食物アレルギーがあることが記載されている。 また,K医師は,同日,1審原告生徒を診察した際,強い筋緊張の亢進が認められたことから,それを緩和させるためのホリゾンの量を,従前の6mgから15mg に増加した。(甲5・612,616頁,甲59)ウ本件特別支援学校において毎日確認していた1審原告生徒の体温は,同月18日に37.0℃,同 ためのホリゾンの量を,従前の6mgから15mg に増加した。(甲5・612,616頁,甲59)ウ本件特別支援学校において毎日確認していた1審原告生徒の体温は,同月18日に37.0℃,同月19日に37.1℃,同月20日に36.2℃であり,三連休をはさんで,同月24日に37.1℃であり,同月25日は体調不良のため欠席であった。 担任教諭からの情報提供で養護教諭が作成している保健日誌には,同月24日の特記事項欄に,1審原告生徒について「先週から薬の量がかわり飲み込みが悪くなった。南の家で嘔吐する。」との記載があり,同月25日の特記事項欄には,1審原告生徒が欠席者として記載され,「体調不良」「(食事の時にむせる)」との記載がある。また,担任教諭が記載する日誌には,同月24 日の欄に,「食事が1時間以上かかった」との記載がある(甲36,37,39)。 本件事故の発生状況と関係者の対応ア 1審原告母は,本件事故当日(同月26日)の朝,1審原告生徒が通常どおり朝食を摂ることができたため,登校させることとした。なお,同日の体温は,37.4℃であった。(甲39,82)イ当日の給食時は,2年・3年1組の生徒は本件教室におらず,3年2組の3人の生徒に対し,B教諭,G教諭及び給食介助員の3人が,それぞれ給食介助を行っていた。 当日の給食の内容は,おかゆ,麻婆なす,中華コーンスープ,牛乳,すりおろしりんごゼリーであり,牛乳とゼリー以外はミキサーにかけてペースト食になっていた(甲16)。 ウ B教諭は,同日午後0時頃から,通常どおり1審原告生徒に対する給食介助を開始した。介助を開始して20分程度経過した頃,B教諭は時刻を確認し,1審原告生徒が眠そうにしており,食べるのにいつもより時 ウ B教諭は,同日午後0時頃から,通常どおり1審原告生徒に対する給食介助を開始した。介助を開始して20分程度経過した頃,B教諭は時刻を確認し,1審原告生徒が眠そうにしており,食べるのにいつもより時間がかかっていたことから,午後1時までかかるかなと思った。 その後,B教諭は,1審原告生徒が急に苦しい表情をしてスプーン1回量を戻し,それでも苦しい表情を続けるのを認めた。そのため,B教諭は,「つまったな。」と思い,直ちに1審原告生徒に対して背部叩打法を施したが,吐き出されないことから,背部叩打法を続けながら,G教諭に対して「詰まったみたいだ。」と伝えて緊急放送を依頼した。なお,B教諭は,これ以前にも,1審原告生徒や他の生徒に対して背部叩打法を施した経験があった。(乙ロ4,6,証人B録反19頁,同G6頁)エ他の生徒の給食介助をしていたG教諭は,速やかに教室内の電話から事務室に電話をかけ,生徒が食物を詰まらせたことを伝えて緊急放送を依頼し,これを受けた事務室職員が,校内放送で「緊急です。緊急です。場所は第5 棟3年2組です。3番(誤嚥のこと)です。」と放送した。(甲81,乙ロ6,証人G8頁)オ保健室でR養護助教諭と食事をしていたE養護教諭は,緊急放送を聞いて直ちに救護用のセットと個人ファイルを取り出して本件教室に駆け付けた。 緊急放送からE養護教諭が本件教室に到着するまでの時間は,1分程度であり,管理職(S校長,T教頭,F教頭),U看護師が,ほぼ同じ時に到着した。 E養護教諭は,本件教室に到着した時点で,B教諭が背部叩打法を施しているのを認めたが,1審原告生徒の顔色から既にチアノーゼが窺われたため,そばにいたF教頭に119番通報を依頼した。そして,F教頭は,自らの携帯電話を使用して119番通 で,B教諭が背部叩打法を施しているのを認めたが,1審原告生徒の顔色から既にチアノーゼが窺われたため,そばにいたF教頭に119番通報を依頼した。そして,F教頭は,自らの携帯電話を使用して119番通報をした。このときのA消防署の入電時刻が午後0時33分である。 なお,少なくとも,G教諭が緊急放送の依頼を受けてからの流れは,全て本件特別支援学校の緊急対応マニュアルのとおりであり,また,訓練のとおりであった。(甲12の2,証人G9頁,同E7~9頁・22頁)カ救急車が到着する午後0時41分までの間,E養護教諭とU看護師は,1審原告生徒に呼吸がないことを確認し,心臓マッサージ及び人工呼吸を数サイクル行うなどした。また,吸引器を用いて1審原告生徒に対する吸引も行われたが,食物などは取れず,分泌物が少し取れるに留まった。心臓マッサージの合間にU看護師が聴診器で聴いても,1審原告生徒の心音は取れなかった。 1審原告生徒のこの時の心静止は,不整脈等の心原性のものではなく,呼吸原性のものであり,AED装着時も,電気ショックではなく心マッサージが指示された。原告生徒の誤嚥窒息は,食べ物の一部が気管に入る食物誤嚥窒息であった。(甲12の2,甲15,17,53,81,乙ロ7,証人E12頁~14頁,証人V6頁,7頁)キ本件教室に到着した救急隊員は,1審原告生徒が既に呼吸停止及び心静止 の状態であること,口腔内に食物残滓があることを確認し,人工呼吸を試みるも気道閉塞により実施できず,同日午後0時43分,挿管により換気改善するも,漏れが発生し換気不良となったため,心肺蘇生法,口腔内吸引等を実施しながら,同日午後0時48分,搬送を開始し,同日午後0時51分,聖マリア病院に到着した。1審原告生徒は,同病院への搬入時には既に低酸素の状 生し換気不良となったため,心肺蘇生法,口腔内吸引等を実施しながら,同日午後0時48分,搬送を開始し,同日午後0時51分,聖マリア病院に到着した。1審原告生徒は,同病院への搬入時には既に低酸素の状態であり,同病院において初めて十分な換気ができるようになった。 そして,1審原告生徒は,心肺蘇生により,午後1時8分に心拍が再開し,小児集中治療室において脳低温療法等の高度医療が施され,一命を取りとめた。(甲6・15頁,甲12の2,19,53) 1審原告生徒の本件事故後の後遺障害の状況ア聖マリア病院での入院中,1審原告生徒は,低酸素性脳症による脳浮腫の増悪と脳血流の低下が認められ,平成24年10月30日の時点で,脳浮腫は改善したものの,全体に脳萎縮が現れ,亜急性期から慢性期の低酸素性脳症の所見が認められた。(甲6・97頁~108頁)イその後,1審原告母が在宅療養を希望したことから,同年11月15日,1審原告生徒は熊本赤十字病院に転院し,同月16日に咽頭気管分離術及び胃瘻造設術が実施され,同月27日,在宅療養に向けた調整目的で聖マリア病院に再入院した。 聖マリア病院と1審原告母との間で話し合った調整項目は,自宅療養のための物品調達とサービス調整,注入や吸引等の1審原告母の手技獲得などであったが,具体的には,物品として,在宅酸素,アンビューバック,吸引器・吸入器,聴診器,人工鼻,カテーテル,点滴台,その他衛生用品などがあり,これらの調達に当たっては,自治体の助成が得られるものと自費購入するものがあった。また,サービスとして,訪問看護,訪問リハビリ,訪問介護について,1審原告母において,施設との間で調整した。これらの調整の目途が立った時点で,関係者の間でケース会議が数回開かれ,最終的な調整や確 た,サービスとして,訪問看護,訪問リハビリ,訪問介護について,1審原告母において,施設との間で調整した。これらの調整の目途が立った時点で,関係者の間でケース会議が数回開かれ,最終的な調整や確 認が行われた。(甲6・176頁,208頁,214頁,215頁,221頁~225頁)ウ 1審原告生徒は,こうした調整が終了した平成25年1月15日,聖マリア病院を退院した。退院時の病名は,①低酸素性脳症,②気管切開術後,喉頭気管分離術後,③胃食道逆流症,噴門形成術後,胃瘻造設術後,④脳性麻痺,精神発達遅滞,運動発達遅滞,筋緊張亢進,⑤甲状腺機能低下症,副腎機能低下症,⑥魚鱗癬,ステロイドサルファターゼ欠損症,⑦食物アレルギー(甲殻類,イカ,青魚,麺類),⑧気管支喘息,⑨両側難聴である。(甲6・208頁)エ K医師によると,1審原告生徒の障害の状態は,本件事故以前は,主として脳の基底核,小脳,三半規管等の錐体外路を中心とした障害であり,四肢の運動のぎこちなさや,強剛を主とした筋緊張亢進を伴う不随意運動にそれが現れていたが,本件事故による後遺障害は,低酸素性脳症による錐体路(身体を動かすこと自体を司る部分)の障害であり,呼吸や食欲,睡眠のリズムなど脳幹が司る機能まで損なわれ,意識,情緒,味覚,触覚,痛覚,聴覚,視覚等の感覚も全て障害され,かろうじて小脳が保たれた状態であるという(甲2,証人K2頁,3頁)。 オ佐賀大学医学部付属病院のW医師は,本件事故前後の1審原告生徒の脳のMRI画像を比較し,大脳皮質の表面が全体にわたって層状壊死の状態(大脳の神経細胞のほとんどすべてが廃絶している状態)にあり,極めて重度の低酸素性脳症によってもたらされる特徴的な所見であるとする。こうした所見は,事故前は大脳の神経細胞から命令自 て層状壊死の状態(大脳の神経細胞のほとんどすべてが廃絶している状態)にあり,極めて重度の低酸素性脳症によってもたらされる特徴的な所見であるとする。こうした所見は,事故前は大脳の神経細胞から命令自体は発せられていたのに,事故後は命令そのものがなくなったことを示すものであるという。そして,視覚については,画像上視力を失っている可能性が高く,聴覚についても,検査の結果,脳が音に反応していない状態であり,咀嚼嚥下機能と言語機能も意識がないため働かないとしている。(甲116) 2 1審 医療的ケアと同等の措置を講じる義務について1審原告らは,本件特別支援学校が,1審原告生徒について,C指導医やDSTから吸引等の必要性に関する指導を受けていたことを踏まえ,医療的ケアの申請がない状況でも,その情報を関係者間で共有した上で,看護師による給食前後及び給食中の状態観察や,吸引・吸入の判断・実施,あるいは給食の中止など,医療的ケア対象者と同等の安全配慮をなすべき義務があったと主張する。 そこで検討するに,教育基本法は,障害者の教育の機会均等を実質的に保障するため,教育上必要な支援を講じることを国及び地方公共団体に対して義務付けるとともに,学校教育が,教育を受ける者の心身の発達に応じて,体系的かつ組織的に行われるべきことを要請しており(同法4条2項,6条2項),また,学校教育法は,特別支援学校の目的を,障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることと定める(同法72条)。そして,特別支援学校に通う児童生徒に対してこうした目的に沿った教育を施すためには,まず,学校が児童生徒の障害の内容や特性を把握し,それに応じて安全を確保する措置を講じることが必要と解される。そうすると,特別支援 学校に通う児童生徒に対してこうした目的に沿った教育を施すためには,まず,学校が児童生徒の障害の内容や特性を把握し,それに応じて安全を確保する措置を講じることが必要と解される。そうすると,特別支援学校においては,その教育目的を達成するため,保護者や医療関係者との間で,児童生徒が有する障害の内容や特性に関する情報を共有し,教育機関として,その安全確保のためになし得る措置を講じる一般的な注意義務を負っていると解するのが相当である。 もっとも,具体的な安全確保の措置がいわゆる医行為にわたるときは,学校に配置された看護師であっても,臨時応急の手当を除き,主治医の指示がなければそれを行うことができない(保健師助産師看護師法37条参照)。そして,医療的ケア制度は,対象者の安全を確保しながら学校や介護施設における実務上の要請に応えるために,こうした法律上の制約を緩和する仕組みとして創設 されたものであるから,その運用は厳格に行われなければならず,医療的ケアの実施者として配置された看護師に対し,その目的外の医行為を行わせることは,臨時応急の手当をする場合を除いて許容されていないというべきである。 そうすると,本件事故当時,医療的ケアの対象者ではなかった1審原告生徒に対し,本件特別支援学校独自の判断で,看護師による医行為(吸入・吸引)を施すことはできないのであるから,それが可能であることを前提とする1審原告らの主張は失当といわざるを得ない。また,前記認定事実によれば,本件事故当日の1審原告生徒の体調は,前日来の体調不良や,発熱,ホリゾンの増量の影響等により芳しいものではなかったが,朝食は通常どおり摂取することができ,1審原告母も登校可能と判断する程度に状態は回復していたのであり,登校から給食開始までの間に体調が急激に悪化 リゾンの増量の影響等により芳しいものではなかったが,朝食は通常どおり摂取することができ,1審原告母も登校可能と判断する程度に状態は回復していたのであり,登校から給食開始までの間に体調が急激に悪化したことも窺われないから,少なくとも,給食介助を開始するまでの間に,看護師が臨時応急の手当として吸入や吸引を実施すべき状況は発生していなかったというべきである。なお,給食前の聴診や,口腔内の観察,摂食状況の観察などは直ちに医行為に当たるものではないが,それらは吸入や吸引などの医療的ケアを実施するための前提ないし準備行為として行われるものであるから,非対象者に対してこれらの行為を行うことのみを目的として,日常的に看護師を利用することも,医療的ケアの制度上想定されていないというべきであり,上記の状況に照らせば,本件事故当日のみ,例外的に看護師による観察等を要する状況にあったということも認められない。 したがって,特別支援学校設置者が児童生徒に対して負う安全配慮義務の内容として,上記のようにその安全確保のために必要な措置を講じる一般的な義務が認められるとしても,1審原告らの主張は採用できない。 この点に関する1審原告らの主張は,要するに,1審原告母に対する情報提供を怠っていた本件特別支援学校(1審被告市)は,それによって生じるリス クを負うべきであるということに尽きるから,その内容は,説明義務違反に関考えられる。 給食の中断,看護師等に相談する義務について1審原告らは,1審被告市が負う安全配慮義務の一環として,その履行補助者であるB教諭において,本件事故当日の1審原告生徒の摂食状況から見て,給食を中止したり,看護師等へ相談したりすべきであったのに,これを怠ったと主張する。 しかしながら,前記認定事実によれ 者であるB教諭において,本件事故当日の1審原告生徒の摂食状況から見て,給食を中止したり,看護師等へ相談したりすべきであったのに,これを怠ったと主張する。 しかしながら,前記認定事実によれば,1審原告生徒は,もともと摂食機能障害(嚥下障害)を有しており,ゴロゴロ音や食事中のむせは日常的に発生していたことが認められるところ,1審原告生徒の摂食状況を観察したC指導医やDSTは,そのような状況下においても給食の経口摂取自体に否定的な意見を述べていない(こうした意見は両名の職責外ともいえるが,専門家から見て明らかに危険性の高いものであれば,当然指摘があったと考えられる。)。また,本件特別支援学校において,医療的ケアの非対象者について,給食を中止する場合,あるいはその可否を看護師等に相談すべき場合の基準等は設けられておらず,B教諭の1審原告生徒に対する従前の給食介助の態様(給食実施の可否や中途終了の判断を含む。)に関して,不適切な点があったとは認められない(1審原告らは,B教諭の給食介助の態様〔甲72〕が不適切であるかのような主張をするが,当該写真を撮影した1審原告母は,その撮影時も,本件事故に至るまでの間にも,そのような指摘をしていない。)。さらに,1審原告母も,本件事故当日までの1審原告生徒の体調不良については,B教諭に対して情報提供しているものの,本件事故当日,給食実施の可否を慎重に判断してほしいとか,給食前に一定の措置を講じてほしいといった要請まではしていない。 これらの事情に照らすと,本件事故当日,B教諭において,1審原告生徒の飲み込みが普段より悪いことなどを認識していたとしても,そのことを考慮して給食を途中終了するか,いったん中断して看護師等の助言を求めるか,様子 を見ながらそのまま給食を続けるかは,同教 の飲み込みが普段より悪いことなどを認識していたとしても,そのことを考慮して給食を途中終了するか,いったん中断して看護師等の助言を求めるか,様子 を見ながらそのまま給食を続けるかは,同教諭の裁量の範囲内にあったというべきであり,給食を継続した結果,本件事故が発生したからといって,遡って注意義務違反の問題が生じるものではない。 したがって,本件事故当日のB教諭の給食介助の態様ないし判断について,安全配慮義務違反があったとは認められず,1審原告らの主張は採用できない。 3 1審 1審原告らは,1審原告生徒の誤嚥窒息が午後0時20分頃に発生したことを前提として,B教諭が午前0時31分頃まで応援要請をしなかったことが注意義務(救護義務)違反に当たると主張する。 しかしながら,B教諭は,午後0時20分という時刻は,給食介助中に確認した時刻にすぎず,誤嚥窒息が生じたのはその後であると述べていることに加え,当時本件教室内で他の生徒の給食介助をしていたG教諭は,B教諭から緊急放送の依頼を受けるまで,全く異変に気づいていない(証人G6~8頁)。仮に,B教諭が誤嚥窒息発生から10分間も背部叩打法を継続していたとすれば,G教諭が気づかないはずはなく,それが数分間であったとしても,常識的に見て,気づかないことは考え難い。そして,本件特別支援学校では,緊急時のマニュアルに沿った訓練が実施されており,少なくとも,緊急放送依頼を受けたG教諭の行動や,放送後の職員の対応は,訓練どおり迅速に行われていたのであるから,独りB教諭のみが,こうしたマニュアルや訓練を無視した行動を取っていたということも,同教諭の経験に照らして考え難い。また,B教諭は,1審原告生徒やその他の生徒に対して背部叩打法を実施したこともあり,G教諭に対して ,こうしたマニュアルや訓練を無視した行動を取っていたということも,同教諭の経験に照らして考え難い。また,B教諭は,1審原告生徒やその他の生徒に対して背部叩打法を実施したこともあり,G教諭に対して,緊急放送を依頼すると同時に,担当する生徒をしっかり見守ることを指示していたこと(証人G8頁)などからすると,完全に冷静さを失っていたとも思えない。 そうすると,B教諭がG教諭に対して緊急放送を依頼した時期は,つまったと思ったのと同時とまでは認められないものの(B教諭自身,「つまったなと 思って背部叩打法を続けているんで,そのときです。」と証言している〔証人B速記23頁〕。),マニュアルどおり,いったん背部叩打を実施してつまった物が吐き出されないと見て直ちに依頼したものと認めるのが相当であり,この点のB教諭の証言の信用性は否定されない。 なお,B教諭が上記のようなタイミングで応援要請をしたとすると,E養護教諭らが到着した時点で,1審原告生徒にチアノーゼが見られたことや,その直後頃に心停止が生じたことと整合しないようにも思える。 しかしながら,E養護教諭らの到着時間が,緊急放送から約1分後であったとしても,B教諭から緊急放送の依頼を受けたG教諭は,その時点で他の生徒の給食介助をしていたのであるから,同生徒の安全を確保しながら教室内の電話機まで移動し,事務室に電話をかけて状況を伝えるのに,数十秒から1分程度の時間は必要と考えられ,事務室職員がそれを緊急放送する時間も必要である。また,上記のとおり,B教諭は,つまったと思って直ちに背部叩打法を実施しているところ,食事介助の姿勢から背部叩打の姿勢に転換し,その効果を確認するまでに,数十秒は要すると考えられる(この程度の時間であれば,G教諭が異変を認識しなかったとし って直ちに背部叩打法を実施しているところ,食事介助の姿勢から背部叩打の姿勢に転換し,その効果を確認するまでに,数十秒は要すると考えられる(この程度の時間であれば,G教諭が異変を認識しなかったとしても不自然ではない。)。 そうすると,B教諭がつまったと思った時点から上記のように行動したとしても,E養護教諭らが到着するまでに二,三分の時間は経過していたと考えられるから,誤嚥窒息から呼吸停止までに数分かかる(証人V8頁)とか,呼吸停止から心停止まで数分から10分程度かかる(甲79)という一般的な知見を前提としても,1審原告生徒の年齢や体格等も踏まえれば,同教諭らの到着時にチアノーゼが発生していたことや,その後の措置の間に心停止に至ったことは,経過として特段不自然ではない。そして,F教頭による消防への通報が午後0時33分であることから逆算すると,誤嚥窒息が発生した時刻(B教諭がつまったと思った時刻)は,午後0時30分頃と考えられる。 したがって,誤嚥窒息発生当時,B教諭が背部叩打法に固執して徒に時間を 費やしたという状況は認められず,少なくとも,同教諭はマニュアルや訓練のとおりに行動したものと認められるから,同教諭に救護義務違反があったとは認められず,1審原告らの主張は採用できない(なお,誤嚥窒息が発生した際,直ちに応援要請をせずにいったんは担当者において応急処置を試みるという本件特別支援学校の方針自体が,一般的な救急対応としての注意義務に反しているとはいえない。)。 4 1審 1審原告らは,本件特別支援学校において,1審原告母に対し,C指導医やDSTが1審原告生徒を観察した際の状況や,その際の吸引の必要性に関する指摘などを伝える義務(説明義務)があったのに,これを怠ったと主張する。 また,1審原告母は, いて,1審原告母に対し,C指導医やDSTが1審原告生徒を観察した際の状況や,その際の吸引の必要性に関する指摘などを伝える義務(説明義務)があったのに,これを怠ったと主張する。 また,1審原告母は,本件特別支援学校から,医療的ケアに関する説明を受けていなかったと述べる。 の障害の内容や特性に関し,保護者や医療関係者と情報を共有して,その安全を確保する措置を講じる一般的義務を負っていると解されるところ,前記認定に係る医療的ケア制度の意義(前記は,その安全配慮義務に付随して,保護者に対し,医療的ケアの内容と実施のための手続を説明し,その理解を得るとともに,保護者において,適時適切に医療的ケアの申請やその内容の変更等の必要性を判断し得るよう,具体的な医療的ケアの必要性に関して学校が有する情報を提供する義務を負うと解するのが相当である。 これを本件について見ると,平成23年12月に開催された医療的ケア推進委員会におけるやり取りからすると,1審原告母は,1審原告生徒の小学部時代に医療的ケアの利用を打診されていたことが認められるから(前記認定事実エ),少なくとも,1審原告母は,その時点で医療的ケア制度の存在自体は,保護者による申請が必要であることも含め,認識していたものと推認される。 もっとも,1審原告生徒が本件特別支援学校に転入したのは小学4年次の2学期からであるから,転入時に,年度初めに行われていた医療的ケアの説明がされたかどうかは定かでなく,当時在籍したL看護師は,1審原告生徒の噴門形成術や,1審原告母の吸引に対する意向を知っていたことから,緊急時に吸引を実施することについてのみ1審原告母の了解を取っていた可能性がある。加えて,医療的ケア制度の下では,ネブライザーによる吸入も,特定行為以外の医療的ケアとして, 向を知っていたことから,緊急時に吸引を実施することについてのみ1審原告母の了解を取っていた可能性がある。加えて,医療的ケア制度の下では,ネブライザーによる吸入も,特定行為以外の医療的ケアとして,保護者の申請と教育委員会の実施決定が必要となるにもかかわらず,1審原告母は,登校時に必ずネブライザーを持参させていた一方で,吸入に関する医療的ケアの申請をしておらず,吸入も本件支援学校における医療的ケアとして保護者の申請等が必要となることを認識していなかったと考えられる(もっとも,みなみの家では,平成24年9月4日頃,1審原告生徒に吸入を実施するためにK医師に指示書の作成を依頼しており,それについて1審原告母は承諾している〔前記。)。 これらの事情に照らすと,本件特別支援学校の職員が1審原告母に対して医療的ケアの説明をしていたといっても,その内容は,職員間で関心が高かった吸引に関する点に限られており(証人B録反23頁の発言内容からも,こうした対応が窺われる。),吸入も医療的ケアに当たることなど,吸引以外の制度の全体的な枠組みについての説明が必ずしも十分ではなかったものと推認される。なお,喘息発作がある1審原告生徒について,吸入に関する説明や確認は,教育機関である本件特別支援学校においても必須であったと考えられるし,嚥下障害との関係でも,文科省が作成した「特別支援学校における介護職員等によるたんの吸引等(特定の者対象)研修テキスト」(甲103)の中には,たんなどの分泌物への対応として,吸引しなくてもすむ状況をつくるのが基本方針であること,具体的には,水分補給や空気の加湿,吸入ネブライザー,去痰剤を使用することなどが挙げられており,やはり説明や確認が必要であったといえる。 そして,C指導医とDSTの吸引に関する意見は, ,水分補給や空気の加湿,吸入ネブライザー,去痰剤を使用することなどが挙げられており,やはり説明や確認が必要であったといえる。 そして,C指導医とDSTの吸引に関する意見は,医療的ケアの必要性について自発的に述べられたものではなかったが,そもそも,E養護教諭ら本件特別支援学校の教員は,従前から,1審原告生徒にゼコゼコやむせが頻繁に生じていることを認識し,給食前の吸引実施の必要性を強く感じており,専門家の賛同意見をてこにして,1審原告母に対する働きかけを強めるつもりでいたのであるから,こうした教員らが認識していた1審原告生徒の摂食状況や,それについての専門家の意見は,医療的ケアの必要性に関する情報として,適時に1審原告母に提供する義務があったというべきである。また,そのような情報提供をしたときに,1審原告母が吸引に否定的な回答をしたとしても,1審原告生徒の摂食状況に鑑みれば,代替手段としての吸入について医療的ケアの申請をすることを説明する義務もあったというべきであり(実際にみなみの家ではそのような対応をしている。),本件特別支援学校が,合理的な理由もなくこれらの情報提供ないし説明を怠ったことは,その義務に違反するものと評価せざるを得ない。そして,かかる情報提供は,遅くとも,平成24年度に入り,一審原告生徒が本件特別支援学校への通学を継続することが判明した時点(平成24年4月)までに行う必要があったと解するのが相当である。 この点,1審被告市は,本件特別支援学校が,吸引等について医療機関と同程度の説明義務を負うことはないと主張するが,上記のとおり,本件特別支援学校が提供すべき情報は,医学的な専門知識ではなく,本件特別支援学校の教員らが認識していた事情であるから,かかる主張は失当である。 また,1審被告市は はないと主張するが,上記のとおり,本件特別支援学校が提供すべき情報は,医学的な専門知識ではなく,本件特別支援学校の教員らが認識していた事情であるから,かかる主張は失当である。 また,1審被告市は,1審原告母が,医療的ケア制度のことや1審原告生徒の状態をよく認識しており,本件特別支援学校からの情報提供がなくても,医療的ケアの必要性について判断し得たとか,そのような認識がありながら医療的ケアを希望していなかったのであるから,本件特別支援学校が更に説明義務を負うことはないと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件特別支援学校が,1審原告母に対して医療的ケア制度の全体的な枠組みを十分に説明して いたとは認められないし,1審原告母に対する働きかけの方法まで具体的に検討していた本件特別支援学校が,今更その情報提供の必要性がなかったとするのは不合理というほかない。それを措くとしても,1審原告生徒の摂食状況は,自宅において1審原告母が介助する場合と,本件特別支援学校で教諭が介助する場合とでは,当然異なるものであったと考えられる上,吸引の必要性について新たに専門家の意見も確認していたのであるから,本件特別支援学校としては,1審原告母の認識や従前の対応に関わりなく,情報提供しなければならなかったというべきである。 したがって,説明義務の存在を否定する1審被告市の主張は採用できない。 5 1審 前記のとおり,1審被告市には,医療的ケアの必要性判断に関わる情報について,説明義務違反が認められるところ,1審原告らは,本件特別支援学校がかかる義務を尽くしていれば,1審原告母において医療的ケアを申請し,本件事故当日も,看護師による医療的ケアの実施により,本件事故を回避し得たから,その義務違反と本件事故によって生じた1審 支援学校がかかる義務を尽くしていれば,1審原告母において医療的ケアを申請し,本件事故当日も,看護師による医療的ケアの実施により,本件事故を回避し得たから,その義務違反と本件事故によって生じた1審原告生徒の後遺障害との間には,相当因果関係があると主張する。 そこで検討するに,医療的ケア研修テキスト(甲113)には,誤嚥防止のための配慮として,①摂食介助時の姿勢の配慮,②食形態や味の配慮,③呼吸を整えること(食事の前に呼吸が早くて苦しそうだったりゼロゼロしているときは,吸引をしたり筋緊張をゆるめたりして,呼吸を整えてから食事を開始したほうがよい。)が挙げられているところ,前記認定事実によれば,B教諭の給食介助時の姿勢に問題があったことは窺われず(①),1審原告生徒についてはペースト食が採用され,B教諭においてトロミ剤を添加して嚥下しやすくした食形態であったから(②),少なくとも,これらの点は配慮されていたといえる。他方で,給食開始前の1審原告生徒の呼吸状態や痰の貯留状況(③)について,B教諭は,通常どおり口腔内を確認し,痰や分泌物が多いという状況は なかったと述べるものの(同証人速記21頁),上記のような配慮がされ,ペースト食を1さじずつ与える形態であったにもかかわらず,結果として誤嚥窒息が生じ,しかも背部叩打法による吐出しができなかった原因としては,給食開始前から貯留していた痰や分泌物とペースト食が混じって粘凋性の強い塊が形成され,それを誤嚥して気道が閉塞されたためと考えるのが最も合理的である(なお,痰等の貯留が給食開始前からあったという状況は,1審原告生徒の飲み込みが給食開始当初から悪かったことから推測される。)。 そうすると,一般論としては,誤嚥の主たる要因は,嚥下機能が低いこと自体にあり,痰等の貯留 からあったという状況は,1審原告生徒の飲み込みが給食開始当初から悪かったことから推測される。)。 そうすると,一般論としては,誤嚥の主たる要因は,嚥下機能が低いこと自体にあり,痰等の貯留物の存在は,食事前に呼吸を整えることを阻害し,誤嚥窒息のリスクを高める要因の1つにすぎないから,痰等を除去したとしても誤嚥窒息のリスクは解消されないことになるが(証人K14頁,15頁),上記の事情の下では,1審原告生徒の誤嚥窒息の発生には,痰等の存在がより密接に関与していることが推測され,給食介助前に看護師による医療的ケア(口腔内の観察を前提とした吸入又は吸引が考えられる。吸入が排痰のための有効な手段であることは前記のとおりである。)が実施されていれば,貯留していた痰等が除去され,粘凋性の強い塊が形成されることはなく,仮にペースト食を誤嚥したとしても,直ちに気道閉塞(窒息)には至らなかったと考えられる。また,口腔内の観察によって痰等の貯留が認められたが吸入によって排痰ができなかった場合,医療的ケアの申請及び主治医の指示書に基づいて作成された個別マニュアルにより給食を中止する判断をすることも可能となる。したがって,本件事故当時,看護師による医療的ケアが実施されていれば,本件事故を回避し得た高度の蓋然性が認められるというべきである。 なお,ペースト食は,誤嚥の可能性はあっても,窒息の危険性は低い食形態であるが(乙ロ19),痰や分泌物とペースト食が混じって粘凋性の強い塊が形成されて窒息が生じるという機序自体何ら不自然なものではなく,E養護教諭もそのような機序で誤嚥窒息が起こることがある旨述べていること(甲81) に照らせば,上記のようなペースト食の特性が,相当因果関係の存在を否定するほどの事情であるとはいえない。 次に のような機序で誤嚥窒息が起こることがある旨述べていること(甲81) に照らせば,上記のようなペースト食の特性が,相当因果関係の存在を否定するほどの事情であるとはいえない。 次に,本件特別支援学校の説明義務が履行されていれば,1審原告母から医療的ケアの申請がされ,本件事故当日,上記のような看護師による医療的ケアが実施されていたといえるかどうかについて検討する。 前記認定事実によれば,1審原告母は,本件事故発生と近い時期においても,みなみの家の管理者に対して,自然排痰を促すことを求め,吸引の実施は基本的に承諾していなかったことが認められる。このように,1審原告母は,介護に関する専門家から,吸入や吸引が必要となる場合がありうることを伝えられても,吸引に関しては消極的であったのであるから,仮に,本件特別支援学校から,指導医や言語聴覚士の意見として,吸引実施に賛成であることが伝えられたとしても,それだけでは1審原告母の吸引に関する考え方は変わらなかった可能性が高いというべきである。 もっとも,みなみの家と同じ内容(吸入)で医療的ケアの申請をすることについて,1審原告母が拒絶していたとは考えられないから,仮に,本件特別支援学校からの情報提供によって,吸引に関する1審原告母の考え方が変わらなかったとしても,吸入を含む排痰のための医療的ケア実施の必要性について説明がされていれば,その時点で,医療的ケアの申請がされていた高度の蓋然性が認められる。 これに対し,1審被告市は,平成24年度以降,1審原告生徒がスクールバスを利用する必要があったから,仮に,本件特別支援学校が上記のような説明をしていたとしても,1審原告母は医療的ケアを拒否したであろうとして,その間の因果関係がないと主張する。しかしながら,1審原告母が実際にスクー 要があったから,仮に,本件特別支援学校が上記のような説明をしていたとしても,1審原告母は医療的ケアを拒否したであろうとして,その間の因果関係がないと主張する。しかしながら,1審原告母が実際にスクールバスの利用を理由として医療的ケアを断っていたという事実は認められず,そのことを理由に医療的ケアをあえて勧めなかったのはB教諭の考えにすぎない(同証人速記12頁)。そして,1審原告母は,1審原告生徒に対する吸入 の必要性は認識していたのであるから,スクールバスの利用ができなくなるとしても,上記のとおり,医療的ケアの申請をしていた蓋然性が高いというべきである。 以上の検討によれば,1審原告生徒の誤嚥窒息は,看護師による医療的ケアにより回避し得た蓋然性が高く,本件特別支援学校が,1審原告母に対し,吸入を含む医療的ケアの必要性について説明と情報提供をしていれば,1審原告母において医療的ケアの申請をしていた蓋然性も高いと認められるから,本件特別支援学校の説明義務違反と1審原告生徒に生じた誤嚥窒息ないしその後の低酸素性脳症に由来する重篤な後遺障害との間には,相当因果関係があると認められる。 6 1審 1審原告生徒の損害ア入院雑費 16万8000円1審原告生徒は,心肺停止に対する蘇生措置と低酸素性脳症等の治療のために,平成24年9月26日から平成25年1月15日までの112日間入院した。かかる入院期間に生じた入院雑費としては,日額1500円を認めるのが相当であるから,その合計額は16万8000円である。 イ入院付添費 72万8000円1審原告母は,1審原告生徒の入院期間中付き添っており(弁論の全趣旨),当時の重篤な状態に照らせば,ICUにおける治療期間も含めて付添看護の イ入院付添費 72万8000円1審原告母は,1審原告生徒の入院期間中付き添っており(弁論の全趣旨),当時の重篤な状態に照らせば,ICUにおける治療期間も含めて付添看護の必要性があったと認められる。そして,その入院付添費としては,日額6500円を認めるのが相当であるから,その合計額は72万8000円である。 ウ入院慰謝料 175万円1審原告生徒は,本件事故により心肺停止に陥り,蘇生後も重篤な低酸素性脳症を発症して112日間の入院治療を余儀なくされたのであり,かかる1審原告生徒に対する入院慰謝料としては,175万円を認めるのが相当で ある。 エ後遺障害慰謝料 2000万円1審原告生徒は,本件事故により重篤な低酸素性脳症を後遺し,大脳皮質の表面全体が層状壊死の状態となるなどの影響により,本件事故前までは可能であった一定の意思活動とその表現がすべて不可能となったものと認められ,こうした後遺障害は,1審原告生徒が従来から脳性麻痺,精神発達遅滞,運動発達遅滞等の重度の障害を有していたことを考慮しても,1審原告生徒の日常生活の在りようを一変させるほど重大なものといわざるを得ないから,後遺障害慰謝料としては,2000万円を認めるのが相当である。 オ将来介護費 2880万円1審原告生徒の症状固定時(平成25年1月15日)において,1審原告生徒は14歳でその平均余命は66年(ライプニッツ係数19.2010),1審原告母は47歳で就労可能年数は19年(ライプニッツ係数12.0853)である。そして,1審原告生徒には,呼吸管理や経管栄養等,24時間態勢での看護・介護が必要であるから,1審原告母の就労可能期間については,主に近親者による付添介護費として ニッツ係数12.0853)である。そして,1審原告生徒には,呼吸管理や経管栄養等,24時間態勢での看護・介護が必要であるから,1審原告母の就労可能期間については,主に近親者による付添介護費として日額1万円,その後は主に職業付添人による介護費として日額2万円を認めるのが相当である。 (計算式)1万円×365日×12.0853+2万円×365日×(19.2010-12.0853)=9605万5955円もっとも,1審原告生徒は,既存障害である脳性麻痺等により,身体障害者福祉法別表第1級の認定を受け,日常生活動作の全てについて介助を要する状態であったのであるから,仮に本件事故による後遺障害がなかったとしても,生涯にわたり,日常生活全般にわたって看護・介護を要したであろうと推測される。そうすると,本件事故による重篤な低酸素性脳症のために,看護・介護に要する負担が相当増したとしても,従前から,近親者又は職業 付添人による将来の付添介護費用が必要な状態であったことに変わりはない。 したがって,上記の計算による付添介護費のうち,本件事故と相当因果関係のある損害としては,その約3割に当たる2880万円を認めるのが相当である。 カ損害合計上記アないしオの損害額の合計は,5144万6000円である。 1審原告母及び1審原告兄の損害本件事故以前,1審原告生徒は,理学療法士から見ても,声かけに対する反応が良く,ほほえみや喃語によって,一定の意思活動を行っていることを外部に表現できており(前記を見守っていた家族にとって精神的な支えになっていたことは想像に難くない。そして,1審原告母及び1審原告兄は,本件事故によって1審原告生徒に生じた後遺障害により,介護の物理的・時間的な負担が (前記を見守っていた家族にとって精神的な支えになっていたことは想像に難くない。そして,1審原告母及び1審原告兄は,本件事故によって1審原告生徒に生じた後遺障害により,介護の物理的・時間的な負担が増したほか,上記のような支えを失ったことによる喪失感や将来に向けての不安感の増大など,甚大な精神的苦痛を被ったものと認められる。 こうした事情を考慮すると,本件事故によって生じた近親者の精神的苦痛に対する慰謝料として,1審原告母については250万円,1審原告兄については120万円を認めるのが相当である。 7 1審 1審被告市は,仮に1審被告市に損害賠償義務が認められたとしても,医療的ケアの申請をしていなかった1審原告母には過失があり,それを1審原告ら側の過失として,損害賠償額の算定に当たって考慮すべきであると主張する。 そこで検討するに,1審原告母は,1審原告生徒を本件特別支援学校に通学させるに当たり,その生命・健康を守るために本件特別支援学校がどのような人員・設備・体制を備えているのかについて重大な関心を持っていたはずであり,かつ, それらについての情報は,本件特別支援学校や市役所等から比較的容易に収集できたといえるから,医療的ケア制度の概要についても,本件特別支援学校からの説明を待つまでもなく,その知識を得ることは可能だったといえ,重度の障害を持つ児童生徒の保護者に対して,その程度の認識や情報収集活動を期待することは不相当とはいえない。また,特別支援学校に通う児童生徒の安全を確保するためには,その健康状態等に関して,保護者と学校との間で双方向の情報提供が必要であるところ,1審原告母は,遅くとも平成24年9月初旬には,介護施設(みなみの家)でさえ,1審原告生徒の様子から,吸入又は吸引の必要性を認めて 等に関して,保護者と学校との間で双方向の情報提供が必要であるところ,1審原告母は,遅くとも平成24年9月初旬には,介護施設(みなみの家)でさえ,1審原告生徒の様子から,吸入又は吸引の必要性を認めていること,及び,吸入も医療的ケアに含まれることを認識したのであるから,本件特別支援学校との関係で同様の措置(吸入に関する医療的ケアの申請)を講じることの是非について,学校関係者に確認するのが相当であったといえ,そのように1審原告母の方から問合せがあれば,本件特別支援学校がそれを拒否する理由もないのであるから,前記の因果関係の認定において説示したとおり,本件事故の発生を回避し得る医療的ケアが実施されていた可能性が高い。 そうすると,1審原告母には,本件事故の発生に関し,一定の過失があったと評価せざるを得ず,上記の事情から,その過失の程度は必ずしも軽微なものとはいえない。 したがって,かかる過失を1審原告ら側の過失として,1審原告らに生じた各損害につき,3割の過失相殺を認めるのが相当である。 8 1審被告市関係のまとめ以上によれば,1審被告市との関係では,国家賠償法1条1項に基づき,1審原告生徒につき3601万2200円(5144万6000円×0.7),1審原告母につき175万円(250万円×0.7),1審原告兄につき84万円(120万円×0.7)の各損害賠償請求権が認められ,その限度で1審原告らの主位的請求には理由がある。 他方,本件特別支援学校の説明義務違反と1審原告生徒に生じた誤嚥窒息ない しその後の低酸素性脳症に由来する重篤な後遺障害との間に相当因果関係がある以上,これがないことを前提とする1審原告生徒の1審被告市に対する予備的請求は理由がない。 9 1審憲法14条違反等)について 脳症に由来する重篤な後遺障害との間に相当因果関係がある以上,これがないことを前提とする1審原告生徒の1審被告市に対する予備的請求は理由がない。 9 1審憲法14条違反等)について 1審原告母は,本件省令別表及び本件省令21条5項は憲法14条に違反し,センター法の委任の趣旨も逸脱するとした上で,1審原告生徒に同条項を適用することを否定し,本件省令別表第1級の障害見舞金相当額である3770万円を給付すべきであると主張する。 そこで検討するに,1審被告センターが行う災害共済給付の目的は,センター法の規定からは明らかでないが,同制度は,偶発的な災害が多く,危険責任や報償責任の原理が必ずしも妥当しない学校災害の領域について,国と学校設置者と保護者の分担協力関係(互助共済)により,学校設置者側の過失の有無を問わず,教育的配慮に基づいて一定の給付を行うために創設されたものである(乙イ3,4)。こうした制度創設の趣旨からすると,その給付目的は,被災児童生徒に対する迅速な救済にあると解され,また,センター法16条3項は,その給付額の限度で学校設置者の損害賠償責任を免れさせる旨の特約を付すことができると定めているから,その給付が具体的に生じた損害の全部又は一部を填補する趣旨を含むものであることは明らかである。もっとも,災害によって生じた損害のうち,どの項目をいかなる範囲で填補するものであるかは明らかでなく,センター法は,具体的な給付基準の策定を政令(本件施行令)に委任している(センター法16条2項)。 このように,そもそも災害共済給付制度は,被災児童生徒の迅速な救済を図るために,互助共済の理念に基づいて創設された,保険や損害賠償とは異なる特殊な制度であり,その給付基準等を給付目的に従って演繹的に定めることが困難な性 害共済給付制度は,被災児童生徒の迅速な救済を図るために,互助共済の理念に基づいて創設された,保険や損害賠償とは異なる特殊な制度であり,その給付基準等を給付目的に従って演繹的に定めることが困難な性質を有するものであるから,その具体的な内容は,上記の目的及び理念を踏まえながら,学校災害の傾向や状況,給付財源,他の社会保障制度との 関係等をも考慮した上で,最終的には立法者による政策的な判断によって定めざるを得ない。 そうすると,センター法の委任を受けた本件施行令や,本件施行令の委任を受けた本件省令が,委任の趣旨を逸脱して違法となり得るのは,その内容が著しく合理性を欠き,およそ被災児童生徒の迅速な救済に資するものでないと認められる場合に限られるというべきであり,憲法違反の問題も,基本的にはその限度で生じるにすぎないというべきである。 そこで,まず本件施行令について見ると,本件施行令は,障害見舞金について,障害の程度に応じて3770万円から82万円を給付するという大枠のみを定めて省令に委任しているところ,3770万円という上限金額は,制度創設当初の400万円から,社会的要請を受けて逐次増額された結果であり,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令別表第1が定める行為障害等級1級の保険金額(4000万円)とほぼ同等であることから見ても,著しく合理性を欠くものとは認められず,かかる給付のみでは,第1級に相当する障害内容から想定される損害の全てを賄うことが困難であるとしても,被害児童生徒の迅速な救済に資するものといえる(なお,かかる給付額から,それが主として精神的な慰謝を目的とするものであると解することはできない。)。 年金方式を採用していないことをもって,著しく合理性を欠くとは認められないことも同様である。 る(なお,かかる給付額から,それが主として精神的な慰謝を目的とするものであると解することはできない。)。 年金方式を採用していないことをもって,著しく合理性を欠くとは認められないことも同様である。 次に,本件省令が定める本件省令別表について見ると,多数の学校災害に対して迅速かつ公平な給付を実現するためには,障害の内容及び程度を類型化(序列化)し,その類型ごとに予め給付額を定めておくこと(障害等級表の策定)が合理的といえる。そして,本件省令は,こうした障害等級表を策定する上で,労働能力の喪失の程度を基準とする労働基準法施行規則(以下「労基規則」という。)別表第2及び労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災規則」という。)別表第1(以下,まとめて「労災別表」という。)の内容を借用しているところ, 障害見舞金の額を定める基準は,「学校生活能力の喪失の程度」とされていることから,必ずしも労災別表の基準とは一致しない。もっとも,「学校生活能力の喪失」とは,児童生徒が学校における諸活動をするのに必要な身体的・知的能力が障害によって妨げられた状態をいうものと解され,こうした学校における諸活動に必要な能力は,家庭や就業場所など他の環境において必要とされる能力と根本的な差異はなく,日常生活における基礎的な行動能力が基盤となるものと考えられる。そうすると,学校生活能力の喪失の程度が,労働能力の喪失の程度と内容的に完全に一致するものではないとしても,本件省令において障害等級表を策定するに当たり,労働能力の喪失の程度を基準として定められた労災別表を借用したことについては,一定の合理性が認められるというべきであるから,本件省令が,学校生活能力の喪失の程度に応じた障害見舞金の給付額を定めるに当たり,労災別表を借用して本件省令別表を策定したこと を借用したことについては,一定の合理性が認められるというべきであるから,本件省令が,学校生活能力の喪失の程度に応じた障害見舞金の給付額を定めるに当たり,労災別表を借用して本件省令別表を策定したことは,著しく合理性を欠くものとは認められない。 さらに,被災児童生徒が既存障害を有する場合の給付額を調整する本件省令21条5項について見ると,同項の策定に当たり参照したと考えられる労基規則40条5項及び労災規則14条5項は,障害補償(給付)の額が何ら障害のない者に障害が残存した場合に想定される労働能力の喪失の程度に応じて定められていることに鑑み,新たな障害が既存の障害と同一の部位に生じた場合には,生じた全体としての労働能力の喪失の程度と既存の身体障害による労働能力の喪失の程度との差を障害等級表に従って評価することにより,現在の身体障害のうち新たな障害によって生じた部分に対する給付額を定めるものである。すなわち,労基規則及び労災規則の上記規定は,実際の給付額を労働災害と因果関係のある障害の範囲に限定することで,障害のない状態から一定の障害を残存した場合と,既存障害が加重されて現在の障害に至った場合との均衡ないし公平を確保する趣旨と解される。そして,学校災害においても,既存障害を有する児童生徒が,同一部位について新たに障害を負い,学校生活能力 が更に低下するという事態は生じ得るから,障害見舞金が学校災害と因果関係のある障害の範囲に対する給付となるよう,給付額を調整する必要性が認められ,その調整方法として,上記労基規則及び労災規則と同様の方法を採用することは,上記のとおり,学校生活能力と労働能力とはその基盤が共通していることから見て,一定の合理性があるといえる。 したがって,本件省令21条5項が,同一部位に既存障害がある児童生徒につい 用することは,上記のとおり,学校生活能力と労働能力とはその基盤が共通していることから見て,一定の合理性があるといえる。 したがって,本件省令21条5項が,同一部位に既存障害がある児童生徒について給付額を調整することは,学校災害に対する給付を行うという災害共済給付の目的に合致する正当なものであり,そのための手段として,学校生活能力喪失の程度の差を本件省令別表に従って評価し,等級間の差額を給付額とすることは,上記目的を達する上で合理性を有しているといえるから,憲法14条1項に違反するものではないし,センター法や本件施行令の委任の趣旨を逸脱するものでもない。 なお,本件省令別表及び本件省令21条5項によれば,既存障害の等級が最上位の第1級である場合には上記差額が生じる余地がないことになるが,そのような事態は,障害を類型化してこれに対する給付額を予め定め,既存障害に対しては等級間の差額を給付するという制度を採用する以上,労災別表や労基規則40条5項及び労災規則14条5項の場合にも同様に生じるものであるから,本件省令に上記のような事態に対応するための調整規定がないとしても,これをもって著しく合理性を欠くということはできない。 以上の検討によれば,本件省令別表及び本件省令21条5項について,センター法の委任の趣旨を逸脱した違法や,憲法14条違反の問題があるとは認められない。 10 1審被告センター関係の争点(「同一部位についての障害」)について 1審原告母は,本件省令21条5項の「同一部位」について,「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」と解釈すべきであるとした上で,本件事故により1審原告生徒に生じた後遺障害は,既存障害にない視神経や聴 神経の支配領域等が障害されているから,損害として一体的に れるべき身体の類型的な部位」と解釈すべきであるとした上で,本件事故により1審原告生徒に生じた後遺障害は,既存障害にない視神経や聴 神経の支配領域等が障害されているから,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位を異にするものであり,1審原告生徒に同項の適用はないと主張する。 しかしながら,本件省令別表は,身体をまず解剖学的観点から部位に分け,次にそれぞれの部位における障害を機能の面に重点を置いた生理学的観点から,一種又は数種の障害群(障害の系列)に分け,さらに,各障害を,その学校生活能力の喪失の程度に応じて序列化したものであり(本件障害等級認定基準),本件省令21条5項が,こうした本件省令別表の定めを前提として給付額を調整する趣旨であることに照らせば,同条項は,既存障害と新たな障害が本件省令別表上の障害の系列を同じくする場合には,新たな障害が既存障害と同一部位に生じたものとして,同項に定められた算定方法により障害見舞金の額を定めることを規定したものと解するほかない。 したがって,既存障害と新たな障害が本件省令別表上同一の障害の系列に属する場合には,これらは本件省令21条5項の「同一部位」にあるものというべきであるところ,前記認定事実と新たな障害は,いずれも本件省令別表上「精神・神経系統」として同一の障害の系列に属するものであるから,本件省令21条5項の「同一部位についての障害」に当たると認められる。 この点,1審原告母の上記主張(「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」)は,平成28年高裁判決を参考としたものであるところ,同判決の事案は,本件省令21条5項と同様の規定である自賠法施行令2条2項の「同一の部位」の解釈が争いとなったものである。そして,同判決は,自賠法16条1 8年高裁判決を参考としたものであるところ,同判決の事案は,本件省令21条5項と同様の規定である自賠法施行令2条2項の「同一の部位」の解釈が争いとなったものである。そして,同判決は,自賠法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する直接請求が,交通事故による身体障害から生じた損害賠償請求権全体を対象としたものであることを踏まえ,損害としての一体性を基準に部位の同一性を判断したものと解されるから(同判決の原審判決:さいたま地判平成27年3月20日・判例時報2255 号96頁参照),自賠法固有の解釈と理解するのが相当であり,損害賠償とは異なる制度である障害見舞金に直ちに妥当するものでない。 したがって,1審原告母の主張は採用できない。 1審被告センター関係の争点(既存障害の等級評価)について ば,1審原告生徒の既存障害が,本件省令別表上,第1級の3(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの)に相当することは明らかである。 これに対し,1審原告母は,仮に,本件省令21条5項の適用を受けるとしても,1審原告生徒の既存障害は,本件省令別表第3級の3(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの)相当であったから,第1級と第3級の差額が支給されるべきであると主張する。 しかしながら,本件障害等級認定基準によれば,高次脳機能障害については,意思疎通能力(記銘・記憶力,認知力,言語力等),問題解決能力(理解力,判断力等),学校生活に対する持続力・持久力及び社会行動能力(協調性等)の4つの能力の各々の喪失の程度の程度に着目し,「とくに問題ない」,「困難はあるが概ね自力でできる」,「困難はあるが援助があればできる」,「困難が著しく大きい」,「できない」 能力(協調性等)の4つの能力の各々の喪失の程度の程度に着目し,「とくに問題ない」,「困難はあるが概ね自力でできる」,「困難はあるが援助があればできる」,「困難が著しく大きい」,「できない」の5段階で評価を行うこととされており(ただし,第3級以上に該当する場合は,介護の要否及び程度も踏まえて認定する。),これを1審原告生徒について見れば,唯一,意思疎通能力に関して,音や呼びかけに反応したり,笑顔や喃語によって一定の意思を表したりすることができていたにとどまり,それ以外は明らかに「できない」と評価される状態にあり,介護の要否及び程度については,食事,入浴,用便,更衣の全てについて常に介護が必要な状態にあったと認められる。 したがって,上記のとおり,1審原告生徒の既存障害の程度は,本件省令別表第1級の3に相当するものであり,1審原告母の主張は採用できない。 1審被告センター関係のまとめ以上によれば,本件省令別表及び本件省令21条5項についてセンター法の委任の趣旨を逸脱した違法や憲法14条違反はなく,1審原告生徒に係る障害見舞金の支給は,本件省令別表及び本件省令21条5項に基づいてなされることになるところ,1審原告生徒の既存障害及び本件事故による低酸素性脳症に由来する後遺障害は,「精神・神経系統」の障害という同一の部位についての障害であり,かつ,いずれも本件省令別表第1級の3に相当するから,本件省令21条5項が定める算定方法による差額は生じない。 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,1審原告母の1審被告センターに対する請求はいずれも理由がない。 第6 結論よって,1審原告らの請求は,1審被告市に対する関係で,主位的請求として,1審原告生徒につき3601万2200円,1審 告母の1審被告センターに対する請求はいずれも理由がない。 第6 結論よって,1審原告らの請求は,1審被告市に対する関係で,主位的請求として,1審原告生徒につき3601万2200円,1審原告母につき175万円,1審原告兄につき84万円の支払を求める限度(いずれ附帯請求を含む。)で理由があるからその限度において認容し,1 審原告らの1審被告市に対するその余の主位的請求及び1 審原告生徒の1 審被告市に対する予備的請求並びに1 審原告母の1審被告センターに対する請求にはいずれも理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,1審被告市に対する関係で,1審原告らの1審被告市に対する主位的請求をいずれも棄却し,1 審原告生徒の1 審被告市に対する予備的請求を500万円の限度で認容してその余を棄却した原判決は一部失当であるから,1審原告らの本件控訴及び1審被告市の控訴に基づき,原判決主文1ないし3項を上記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。 仮執行免脱宣言は相当でないから付さない(原判決主文5項は,本判決が原判決を変更して1 審原告生徒の1 審被告市に対する予備的請求を棄却したことにより当然に失効する。)。 福岡高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官山之内 紀 行 裁判官川 﨑 聡子 裁判官矢 﨑 豊
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