平成13(ネ)4020 損害賠償請求控訴,同附帯控訴差戻

裁判年月日・裁判所
平成14年9月26日 大阪高等裁判所
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判決文本文24,917 文字)

主文 1 控訴人の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,120万円及びこれに対する平成3年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。 2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。 3 訴訟の総費用は,これを10分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 4 この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 申立て 1 本件控訴(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 上記取消部分にかかる被控訴人の請求を棄却する。 2 本件附帯控訴(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 控訴人は,被控訴人に対し,1191万6852円及びこれに対する平成3年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,右の乳房にしこりを発見した被控訴人が,控訴人の診察を受け,乳がんであると診断されて控訴人の執刀により胸筋温存乳房切除術を受けたところ,被控訴人の乳がんは乳房温存療法に適しており,被控訴人も乳房を残す手術を希望していたのに,控訴人は,被控訴人に対して乳房温存療法について十分に説明をしないまま,被控訴人の乳房を切除する手術をしたとして,控訴人に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。(なお,A委員会・B小委員会が平成11年6月に示した「乳癌温存療法ガイドライン(1999)」(乙55)においては,「乳房温存療法」を乳房温存手術と腋窩郭清の後に残存乳房に対し放射線照射を加えるものをいうと定義し 会・B小委員会が平成11年6月に示した「乳癌温存療法ガイドライン(1999)」(乙55)においては,「乳房温存療法」を乳房温存手術と腋窩郭清の後に残存乳房に対し放射線照射を加えるものをいうと定義し,乳房照射を加えない乳房温存手術単独のものと区別し,両者を併せて「乳房温存治療」と呼称するとしているが,本判決では,両者を区別することはせず,乳房照射を加えない乳房温存手術も「乳房温存療法」に含めることとする。)本件の訴訟経過は,およそ次のとおりである。第1審(大阪地裁平成8年5月29日判決)は,控訴人に診療契約上の義務違反があったとして,債務不履行による損害賠償請求に基づき,被控訴人の請求を一部認容したが,控訴審(大阪高裁平成9年9月19日判決)は,控訴人に義務違反は認められないとして,控訴人敗訴部分を取り消して被控訴人の請求を棄却するとともに,被控訴人の附帯控訴を棄却した。これに対し,被控訴人が上告したところ,上告審(最高裁平成13年11月27日判決)は,控訴審判決の判断には診療契約上の説明義務の解釈を誤った違法があるとして,控訴審判決を破棄し,当裁判所に事件を差し戻した。 1 争いのない事実(1) 控訴人は,肩書地において,「Cクリニック」の名称で医院(以下「控訴人医院」という。)を開設し,医業を営む医師である。診療科目は,外科,整形外科,胃腸科,内科,理学療法科であるが,控訴人医院の看板には,これらの診療科目のほか,「乳腺特殊外来」を併記し,乳がんの手術を手掛けていた。 (2) 被控訴人は,昭和23年生まれの既婚の女性であるが,平成3年1月中旬ころ,右乳房右上部分の腋の下に近いところに,小さいしこりを発見し,同月28日,「乳腺特殊外来」と看板に表示していた控訴人医院を訪れ,院長である控訴人の診察を受けた。控訴 であるが,平成3年1月中旬ころ,右乳房右上部分の腋の下に近いところに,小さいしこりを発見し,同月28日,「乳腺特殊外来」と看板に表示していた控訴人医院を訪れ,院長である控訴人の診察を受けた。控訴人は,被控訴人に対し,触診,乳房のレントゲン検査(マンモグラフィー)を実施した。 (3) 控訴人は,被控訴人に対し,同年1月30日に乳房の超音波検査(エコー)としこりに注射針を刺して細胞を吸引する吸引細胞診を,同年2月12日にメスを入れてしこりを取り出す生検(バイオプシー,試験切除)をそれぞれした結果,被控訴人のしこりは乳がんであると判断し,同月28日,右乳房を切除する手術を実施した(以下「本件手術」という。)。本件手術の術式は,胸筋温存乳房切除術(非定型的乳房切除術の一種)であり,被控訴人の右側乳房は全部切除され,右乳房の周辺部分の脂肪も広範囲に取り除かれた。 2 争点(1) 控訴人が本件手術をするに際し,被控訴人に対し,説明義務を尽くしたといえるか。 (被控訴人の主張)ア医師が患者に対し,手術のような医的侵襲を伴う治療を行う場合には,診療契約に基づき,患者が当該治療を受けるか否かを決定する前提として,患者に対し,①その症状,②治療の方法,内容,必要性,③その治療に伴い発生の予測される危険性,④代替的治療方法の有無,予後等について,当時の医療水準に照らし,相当と認められる事項をできるだけ具体的に説明する義務がある。 本件のように乳がんである場合,医師は,その手術をするに際して,患者に対し,最低限,①病名,②病気の進行程度(病期)及び悪性度(乳がんの性質),③乳がんについて考えられる治療方法,④その患者に関して選択可能な治療方法及びその利害得失,⑤手術に伴う後遺症や術後の状態について 最低限,①病名,②病気の進行程度(病期)及び悪性度(乳がんの性質),③乳がんについて考えられる治療方法,④その患者に関して選択可能な治療方法及びその利害得失,⑤手術に伴う後遺症や術後の状態について,当時の医療水準に照らし,医学的観点から正しい内容の説明をし,患者の承諾を得なければならない。乳がんの手術については,胸筋温存乳房切除術のほか,乳房温存療法があり,その二つの方法では術後の身体の外観や機能が著しく異なり,患者の精神的苦痛の程度にも大きな違いがあるのであるから,乳がんの手術に際し,各手術の内容,術後の治療方法,その差異などにつき説明すべきである。 乳房温存療法は,当時,乳がん治療に携わる外科医,放射線科医の間ではよく知られており,我が国でも既に実施されていた。乳房温存療法は,胸筋温存乳房切除術と比較して大幅な縮小手術に当たり,身体に対する外科的侵襲は格段に小さくなって危険が減少し,術後の身体及び精神への影響も良好な治療法である。 控訴人の,被控訴人の乳がんに対する本件手術前の所見は,しこりの大きさが1センチメートル×1センチメートルで,病気はⅠ期であり,腋窩リンパ節に触れないものであるとされており,被控訴人の乳がんの状態は,当時,乳房温存療法を行っていたすべての医療機関における乳房温存療法の適応基準を満たすものであった。 したがって,控訴人としては,被控訴人に対し,被控訴人の病名,病気の進行程度(病期),悪性度(乳がんの性質)について説明し,乳房温存療法の適応可能性のあること,乳房温存療法を実施している機関の名称や所在などを説明し,控訴人により胸筋温存乳房切除術を受けるか,あるいは乳房温存療法を実施している他の医療機関において同療法を受けるかを熟慮し,判断する機会を与える義務があった。 の名称や所在などを説明し,控訴人により胸筋温存乳房切除術を受けるか,あるいは乳房温存療法を実施している他の医療機関において同療法を受けるかを熟慮し,判断する機会を与える義務があった。 しかるに,控訴人は,「お乳を残すと放射線でお乳が固くなり,色も黒ずむ。」,「お乳を残すと,また切らなければならない。」という医学的に誤った説明をしたばかりでなく,単に「全部取ります。筋肉は残します。」と告げただけで,被控訴人の病名,病気の進行程度(病期),悪性度(乳がんの性質)について何ら説明しなかった。また,「パパニコロー染色法でクラスⅤ」という素人の被控訴人には理解できない説明をすることによって,被控訴人の症状が大層悪いと誤信させた。さらに,控訴人は,被控訴人にとって選択可能な治療法である乳房温存療法が存在すること及びその手術の具体的な内容,胸筋温存乳房切除術との利害得失について説明せず,被控訴人をして,乳房温存療法を受ける機会を失わせた。 イ控訴人は,本件手術当時,乳房温存療法が保険診療報酬点数表に規定されていなかったことを問題とするが,乳房温存療法は,保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「保険療養担当規則」という。)18条が禁じる「特殊な療法又は新しい療法等」ではなく,胸筋温存乳房切除術を「改善」するものであって,健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法(以下「療養費用額の算定方法」という。)の別表第一の第2章第10部「手術」の通則3にいう「最も近似する手術」の各区分の所定点数により算定することができるものである。 ウまた,控訴人は,乳房温存療法を受けた場合の通院の負担について指摘するが,手術後に通院を要することは控訴人が実施した胸筋温存乳房切除術でも同様であり,通院期間の長さは乳房が残 ある。 ウまた,控訴人は,乳房温存療法を受けた場合の通院の負担について指摘するが,手術後に通院を要することは控訴人が実施した胸筋温存乳房切除術でも同様であり,通院期間の長さは乳房が残るかどうかの問題の大きさからすれば,問題とならない。 さらに,控訴人は,被控訴人が乳房温存療法を実施していた大阪府立成人病センターへの転医を希望しても受け入れられなかった旨を主張するが,被控訴人が乳房温存療法の手術適応にあったことからすると,手術生検の後であったとしても,同センターが被控訴人の転医を拒んだとは考えられない。 エ以上からすると,控訴人に診療契約上の説明義務違反があることは明らかであり,その点に過失もある。 (控訴人の主張)以下のとおり,控訴人には説明義務違反はなく,仮に説明義務違反があったとしても,被控訴人に損害が生じているとは解されない。 ア控訴人の説明義務の範囲は,①病名とその状態,②治療法の内容,③代替可能なその他の治療法,④それらに伴う副作用や危険性,副作用からの回復の可能性,⑤予後である。 控訴人は,①について,乳がんであること,しこりの大きさが1センチメートル×1センチメートルで,充実腺管がんであること,②について,乳房を全部取ることと筋肉を残すこと,③について,乳房を温存する術式はあるが,まだ未知の段階で局所再発の危険があり,また,放射線を併用することになり,そのため局所が黒く変色すること,④について,胸筋温存乳房切除術に関して,乳房が切除されることにより外観が悪くなること,胸筋が温存されるのでリハビリテーションが容易であること,局所再発の予防は期待できること,⑤について,リハビリテーションが必要であること,をそれぞれ説明している されることにより外観が悪くなること,胸筋が温存されるのでリハビリテーションが容易であること,局所再発の予防は期待できること,⑤について,リハビリテーションが必要であること,をそれぞれ説明している。 また,③については,そもそも,当時の医学水準では,胸筋温存乳房切除術が最高の手術とされており,乳房温存療法は未だ試験的段階であって,確立された治療法ではなかったのであり,乳房温存療法を選択する余地はなく,同療法の説明をする義務があるとは解されない。 イ本件手術当時,乳房温存療法は保険診療報酬点数表に規定されていなかったところ,保険療養担当規則18条は,保険医は保険診療に組み入れられていない新しい療法を行ってはならないことを規定していた。したがって,控訴人に乳房温存療法に関する説明義務が発生すると解する余地はない。 ウ本件手術後,現在まで11年が経過しているが,乳房温存療法については,手術適応の問題,残存がんの問題,放射線照射の問題,再手術の際のクオリティオブライフの問題等が未だ解決されていない。したがって,控訴人が実施した胸筋温存乳房切除術は適切な施術であったものであり,被控訴人の被害感に法的保護を与えるほどの実質はない。 また,乳房温存療法といえども,乳房の4分の1を切除するものであるし,乳房切除による外観上の変ぼうを補うのであれば,胸にパットをすれば足り,あるいは乳房再建手術をすることも可能である。 エ仮に,被控訴人が乳房温存療法を選択することを望んだとしても,転医先としては,乳房温存療法に関して大阪府下で最も信頼できる大阪府立成人病センターということになるが,被控訴人は,同センターの名称や所在は既に知っていたのであるから,控訴人がその説明をすべき義務があるとは解 ては,乳房温存療法に関して大阪府下で最も信頼できる大阪府立成人病センターということになるが,被控訴人は,同センターの名称や所在は既に知っていたのであるから,控訴人がその説明をすべき義務があるとは解されない。また,同センターは,被控訴人の居住地から1時間30分程度かかる場所にあるが,乳房温存療法の場合に予定されている放射線照射のための通院の負担も相当なものがあり,被控訴人が同療法の実態を知ったうえで,あえて転医を選択したかは疑問である。 さらに,同センターは,手術生検を行った症例の転医を引き受けて乳房温存療法を行うことを拒んでいたので,被控訴人について平成3年2月12日に手術生検を実施した後に,同センターへ転医することは事実上不可能であった。 (2) 損害額(被控訴人の主張)被控訴人は,控訴人の上記債務不履行又は不法行為により,次のとおりの損害を被った。 ① 乳房温存療法を受けるか否かを決定する権利を侵害されたことによる慰謝料  300万円被控訴人は,控訴人の上記説明義務違反により,乳房温存療法を受けるか否かを決定する権利を奪われた。その精神的苦痛に対する慰謝料としては,少なくとも300万円が認められるべきである。 ② 本件手術によって乳房を失い,精神的,経済的被害を被ったことによる損害  752万5400円無用な乳房切除を受けたことにより,乳房を失うことによる社会生活における身体機能上の悪影響があり,これに伴う精神的苦痛が生じている。すなわち,被控訴人は,本件手術により,大胸筋が萎縮し,肋骨が一部浮き出たような外観を呈し,右胸全体が固くなって柔軟に動かず,スムーズな身のこなしができず,身体のバランスが崩れ,日常生活上,種々の不都合が生じている。 は,本件手術により,大胸筋が萎縮し,肋骨が一部浮き出たような外観を呈し,右胸全体が固くなって柔軟に動かず,スムーズな身のこなしができず,身体のバランスが崩れ,日常生活上,種々の不都合が生じている。本件手術による身体欠損とそれによる機能上の障害は,人生後半の生活の質を著しく低下せしめた。その程度は,交通事故損害賠償実務における後遺障害等級表の12級5号の「胸骨に著しい奇形を残すもの」に準じ,12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する。その逸失利益は,次のとおり552万5400円が相当であり,それに慰謝料として200万円が認められるべきである。 (計算式)2,800,300 ×14.0939 ×14/100=5,525,400(手術時42歳,就労可能年数25年,平成3年女子労働者平均賃金,ライプニッツ式)③ 無用な胸筋温存乳房切除術のための治療費  53万6852円乳房温存療法を選択していれば,胸筋温存乳房切除術に伴う医療費の支払も必要がなかった。控訴人医院での入通院治療費66万6890円から国民健康保険からの還付金13万0038円を差し引いた53万6852円につき,控訴人の説明義務違反がなければ生じなかった損害ということができる。 ④ 弁護士費用  110万円控訴人の説明義務違反による債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,110万円が相当である。 以上を合計すると,損害額は1216万2252円であるが,そのうち1191万6852円及びこれに対する不法行為の日(本件手術の日)である平成3年2月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (控訴人の主張)被 のうち1191万6852円及びこれに対する不法行為の日(本件手術の日)である平成3年2月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (控訴人の主張)被控訴人主張の損害額は,争う。 第3 当裁判所の判断 1 前記争いのない事実に,証拠(甲2,7,13,92,乙1,7,9,10,13,16,88,原審における控訴人,被控訴人各本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。 (1) 控訴人は,肩書地において,「Cクリニック」の名称で控訴人医院を開設し,医業を営む医師である。 診療科目は,外科,整形外科,胃腸科,内科,理学療法科であり,放射線科は設置していない。 控訴人は,当初,乳癌研究会(後の日本乳癌学会)の準会員となり,乳がん治療に関する実績を積んで,同研究会の正会員となったものであるが,前記診療科目に乳腺特殊外来を併記した看板を掲げて乳がんの手術を手掛けていた。 控訴人が乳房温存療法を採用した症例は平成4年に1例あり,乳がんとの確定診断には至らずに乳腺部分切除をした症例は,平成元年,平成5年,平成9年に各1例あるが,いずれも放射線照射は行っていない。 (2) 被控訴人は,昭和23年生まれの既婚の女性である。 被控訴人は,短期大学在学中に中学校教諭2級の免許を取得し,昭和43年3月に短期大学を卒業後,同年4月から昭和47年3月まで大阪府下の中学校で保健体育の教諭をしていたが,結婚を機に退職して主婦業に専念し,そのかたわら,トランポリン教室やソフトボール競技を続けていた。その後,育児が一段落した昭和57年ころから,中学校教諭の資格や育児の経験を生かし,社会体育,幼児体育の指導者として幼稚園や体育館で活動するよう ら,トランポリン教室やソフトボール競技を続けていた。その後,育児が一段落した昭和57年ころから,中学校教諭の資格や育児の経験を生かし,社会体育,幼児体育の指導者として幼稚園や体育館で活動するようになり,また平成元年ころから夫の経営する有限会社の取締役に就任し,その職務に従事していた。 (3) 被控訴人は,平成3年1月中旬ころ,右乳房の右上部分の腋の下に近いところに,小さいしこりがあることを発見した。そこで,被控訴人は,同月28日,地元にあり,乳がんの専門医と考えられる控訴人医院を訪れ,院長である控訴人の診察を受けた。 控訴人は,被控訴人を触診し,被控訴人の右乳房の右上部分外側の腋の下に近いところ(外上方四半分)に,大きさ1センチメートル×1センチメートルのしこりがあること,腋窩リンパ節は手に触れないことを確認した。 控訴人は,被控訴人のしこりが弾力性があって硬く,その表面がでこぼこしており,その部分をつまむとエクボ状に皮膚がへこむという状態(皮膚固定)にあること,レントゲン検査(マンモグラフィー)の結果,しこり部に微細石灰様の像が見られたことから,悪性であるとの疑いを持った。 (4) 平成3年1月30日,控訴人は,被控訴人に対し,乳房の超音波検査(エコー)と,注射針でエコーに現れたしこり部分を刺して細胞を吸引する吸引細胞診(針生検)を行った。 同年2月2日,針生検の結果が判明したが,結果はクラスⅠであり,悪性の細胞は出なかった。そこで,控訴人は,被控訴人のしこりを更によく調べる必要があると考え,しこりを取り出して病理学的に調べる手術生検を実施することにした。 (5) 平成3年2月4日,控訴人は,被控訴人に対し,上記結果を報告するとともに,再度触診によりしこりがあることを確認 考え,しこりを取り出して病理学的に調べる手術生検を実施することにした。 (5) 平成3年2月4日,控訴人は,被控訴人に対し,上記結果を報告するとともに,再度触診によりしこりがあることを確認したうえ,手術生検が必要である旨を伝えた。そして,控訴人は,同日,血液検査を行い,同月8日,再度診察をしたうえ,同月12日,手術生検を実施し,しこりを摘出した。控訴人は,取り出した塊を被控訴人に見せ,「よく見ておくんですよ。」「触って見なさい。」などと言った。 摘出したしこりについての控訴人の肉眼的所見は悪性であり,控訴人は,その旨を被控訴人に告知した。そして,控訴人は,摘出したしこりを押捺細胞診と病理組織検査に回した。同月14日,それらの結果が判明したが,押捺細胞診の結果は,パパニコロー染色の判定でクラスⅤ,すなわち悪性であり,病理組織検査の結果は,被控訴人の乳がんは浸潤性の充実腺管がんであった。 (6) 平成3年2月15日,被控訴人は,D新聞の朝刊で,「乳房を失うのが当たり前とされた乳ガン治療は『可能な限り残す』方向へ変わってきた」との紹介記事(甲13)に接した。同記事は,その中で乳房温存療法に触れ,その際の放射線照射や化学療法の問題も紹介し,大阪府立成人病センターにおける治療時の写真及び同センターのE医師のコメント(乳房温存手術後の放射線照射につき,「実際,どれくらい照射したらよいのか,はっきりとはわかっていないんです。」などの内容)を掲載していた。 (7) 平成3年2月16日,控訴人は,前記確定診断の下に,胸筋温存乳房切除術適応と判断し,被控訴人に対し前記検査の結果を伝えた。そして,入院して手術する必要があること,生検をしたので手術は早い方がよいこと,手術の日は同月28日が都合がよいこと,乳房を残す方法も, 房切除術適応と判断し,被控訴人に対し前記検査の結果を伝えた。そして,入院して手術する必要があること,生検をしたので手術は早い方がよいこと,手術の日は同月28日が都合がよいこと,乳房を残す方法も,今きちんと分かっていないけれども行われていること,しかし,乳房を残すと放射線で黒くなることがあること,乳房を残した場合,再手術を行わなければならないことがあることを説明した。(なお,原審における被控訴人本人の供述(甲7の陳述書を含む)中には,上記認定と異なる供述部分があるが,被控訴人は,控訴人の説明の中で,「乳房を残すと,そこが放射線で黒くなり,再度乳房を切らねばならない」との説明があったことを認める供述をしているのであり,この事実によれば,控訴人の供述どおり,乳房を残す術法があることについても,一応説明したものと認めることができる。また,被控訴人は,控訴人が「結果が悪くて4期です。」と言った旨を述べるが,控訴人がことさら虚偽の事実を告げなければならない必要性はなく,原審における控訴人本人の供述に照らしても,措信できない。)(8) 平成3年2月19日,控訴人は,被控訴人の手術生検の傷の抜糸を行い,被控訴人に対し,手術の日は同月28日とし,入院の日はその2日前(26日)か,前日(27日)とすることを伝えた。 (9) 平成3年2月20日,被控訴人は,控訴人医院において,手術に備えて,血圧,心電図の検査を受けた。そして,同日,控訴人は,被控訴人に対し,本件手術につき,「全部取ります。」「筋肉は残します。」などと説明した。 また,被控訴人が,控訴人の傍にいた看護婦に対し入院期間や自分でトイレに行けるのはいつかなどと尋ねたのを受けて,控訴人は,入院期間が1か月位であり,手術の翌日の午後から一人でトイレに行ける旨の説明をした。 控訴人が,控訴人の傍にいた看護婦に対し入院期間や自分でトイレに行けるのはいつかなどと尋ねたのを受けて,控訴人は,入院期間が1か月位であり,手術の翌日の午後から一人でトイレに行ける旨の説明をした。 (10) 平成3年2月26日,被控訴人は,控訴人医院に入院し,同日付けで,「入院申込書」(乙9)と夫を身元引受人とする「身元引受書・誓約書」(乙10)を控訴人医院に提出した。 そして,被控訴人は,同日,前記D新聞の記事に触発されて書いた手紙(以下「本件手紙」という。)を便箋に入れて回診に来た控訴人に手渡した。本件手紙の内容については,被控訴人は,最近の新聞で乳がん治療は乳房を切ることから可能な限り残す方向に変わってきたとの記事を読んだ旨,今後四十数年間生きなければならないから,可能であるなら乳房を残して欲しい旨をしたためたものであるといい(甲13,原審における被控訴人本人),控訴人は,気持ちの整理がついたので全部お任せするとの趣旨であったという(原審における控訴人本人)。本件手紙は保存されていないため,その内容は判然としないが,前記D新聞の記事に触発されて書かれたものの,本件手術を拒否する内容でもないことからすると,乳がんと診断され,生命の希求と乳房切除のはざまにあって,揺れ動く女性の心情の機微を書き綴ったものであると推認することができる。 (11) 平成3年2月28日,控訴人の執刀で,被控訴人に対し,本件手術が実施された。後記のとおり,胸筋温存乳房切除術は,乳房を切除し,乳腺を全部摘出したうえ,腋窩リンパ節を郭清するが,大小胸筋を残す方法である。 本件手術の後,摘出した組織について行われた病理組織検査の結果では,リンパ節転移はなく,しこりの湿潤も認められなかった。 (12) 被控訴人は,平成3年 小胸筋を残す方法である。 本件手術の後,摘出した組織について行われた病理組織検査の結果では,リンパ節転移はなく,しこりの湿潤も認められなかった。 (12) 被控訴人は,平成3年4月6日,控訴人医院を退院し,同年9月21日まで控訴人医院に通院した。 被控訴人の予後は順調に推移している。また,被控訴人に乳房温存療法を施した場合の予後は不明である。 2 次に,本件手術当時までの乳がん手術の状況などについてみると,証拠(甲1,4,5,6の1・2,8,9,31ないし34,36,37,40,70,76ないし87,乙32,34,37,43,48の1・2,50,原審における証人F,同G,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。 (1) 乳がんの手術は,19世紀後半に全乳房,大胸筋,腋窩リンパ節を一緒に切除することが必要であるといわれるようになり,1894年ハルステッドによって上記のような定型的乳房切除術(定型乳切あるいはハルステッド法ともいわれる。)が唱えられて以来,上記術式が標準術式となった。しかし,上記術式でも依然として再発率が高かったところ,その後,定型乳切に加えて胸骨旁リンパ節を一塊として切除をする拡大乳房切除術,さらに胸骨を縦切開して胸骨旁リンパ節のほか,鎖骨上リンパ節も一塊として郭清する超拡大乳房切除術も実施されるようになった。一方,より小さな乳がんに対しては,全乳房を切除するが,腋窩リンパ節は郭清せずに照射する方法,大胸筋を温存して小胸筋を切除する方法(パティー法),大小胸筋ともに温存する方法(オースチンクロス法・本件手術方法)も発表され,これらは非定型的乳房切除術と呼ばれた。 1970年代に入って,米国では定型的乳房切除術は減少し,非定型的乳房切除術が主流と 温存する方法(オースチンクロス法・本件手術方法)も発表され,これらは非定型的乳房切除術と呼ばれた。 1970年代に入って,米国では定型的乳房切除術は減少し,非定型的乳房切除術が主流となり,さらに,1980年に入ると欧米ではリンパ節転移陰性と考えられる乳がんに対して,乳房部分切除すなわち乳房温存療法が急速に実施されるようになった。 乳房温存療法の中で乳房の手術は,①腫瘤切除,②乳腺部分切除,③乳房4分の1切除の3種類の術式があるところ,美容的には腫瘤切除が一番優れているものの,局所再発の危険性に鑑みれば,乳房4分の1切除術が安全であり,多くは同術式が用いられている(このため,以下の考察では,同術式を柱として論を進める。)。また,乳房温存療法では,乳房に対する上記手術のほか,腋窩リンパ節の郭清や残存乳房に対する放射線照射が併せて行われることが多い。 (2) 我が国では,欧米に約15年遅れて非定型的乳房切除術が普及し始めたため,昭和61年7月に開かれた第44回乳癌研究会における日本の研究発表の主テーマが非定型的乳房切除術であったのに対し,米国のH,Iは,招待講演で乳房温存療法について講演し,世界の趨勢より我が国が取り残されていることが明らかになった。平成元年2月,第49回乳癌研究会で「乳房温存術と放射線治療」というテーマでシンポジウムが開かれ,同年4月,厚生省助成による「乳癌の乳房温存療法の検討」班(班長:J癌研究会付属病院乳腺外科部長,いわゆるK班)が設置され,同年7月に開催された第50回乳癌研究会で主題の一つとして乳房温存術式が取り上げられ,ようやく我が国においても乳房温存療法への関心が高まってきた。 K班の研究は,当初大阪府立成人病センター外科を含む9施設が,後に2施設が脱退し,新たに1施 て乳房温存術式が取り上げられ,ようやく我が国においても乳房温存療法への関心が高まってきた。 K班の研究は,当初大阪府立成人病センター外科を含む9施設が,後に2施設が脱退し,新たに1施設が加わり,延べ10施設が参加したものであるが,平成元年10月13日,「乳房温存療法実施要綱」(以下「本件要綱」という。)を原判決添付別表一のとおり暫定的に策定し,これに基づき臨床的研究を開始した。 平成4年6月にまとめられた乳癌研究会のアンケート結果によれば,乳がんの専門医で構成された乳癌研究会236施設中,乳がん手術における乳房温存療法の実施割合は,平成元年度が6.5%,平成2年度が10.2%,平成3年度が12.7%であり,非定型乳房切除術は,それぞれ52.7%,58.0%,64.2%であった(他は,拡大乳房切除術,定型的乳房切除術などである。)。また,平成3年5月に公表された乳癌HCFU研究会に所属する120施設に対するアンケート結果によれば,回答のあった103施設のうち,平成元年度に既に乳房温存療法を実施していた施設が45施設(44%),そのうち実施例4例以下が64%,5ないし9例が20%,10例以上が16%であった。さらに,平成5年1月に公表されたイデアフォーに対するアンケート結果によれば,平成3年に全国129施設で乳房温存療法が実施されていた(その中には,大阪府下では,大阪府立成人病センターのほか,国立大阪病院,L病院,大阪警察病院,千里保険医療センターM病院,市立藤井寺市民病院,N大学病院が含まれていた。)。 (3) 本件手術が実施された平成3年2月までに乳房温存療法につき発表された論文は,かなりの数にのぼるが,乳房温存療法の実施報告例を記載したものに限定すると,次のものがある。 ① 平 本件手術が実施された平成3年2月までに乳房温存療法につき発表された論文は,かなりの数にのぼるが,乳房温存療法の実施報告例を記載したものに限定すると,次のものがある。 ① 平成元年4月 G・O「乳房保存療法の経験と論理」臨床放射線34巻4号(甲81) 昭和57年から昭和63年9月までに91名(乳房数95)に実施し,最長6年の経過で局所再発,転移,死亡例はない。 ② 平成元年12月 P・Q・F「乳腺部分切除術」『特集・乳房温存療法(乳癌の臨床4巻4号)』(甲41) 昭和62年4月から平成元年10月までに乳腺部分切除術(乳房温存療法)を40名に実施し,2か月から最長2年7か月の経過で,再発例はない。 ③ 平成2年4月 Jほか「予後からみた適応 Q+Ax(4分の1切除術と腋窩リンパ節郭清)100症例の検討からLumpectomy+ Radio- therapy (腫瘤切除と放射線照射法)を考察する」『特集・乳癌の縮小手術をめぐって胸部温存から乳房温存へ』外科治療62巻4号(甲86) 昭和61年7月から平成元年12月まで乳房温存療法が実施された100例につき,断端陽性となったのは9例であり,うち2例は術中の迅速病理検査により判明したので胸筋温存乳房切除術に変更され,7例は術後3,4日ないし3,4週間後に判明したので,うち4例は再度手術により残存乳房を切除し,3例は残存乳房照射がされた。最長3年5か月経過で局所及びリンパ節の再発例はない。 ④ 平成2年4月 R・Eほか「早期乳癌に対する乳房温存術式の試み」『特集・乳癌の縮小手術をめぐって胸部温存から乳房温存へ』外科治療62巻4号(甲87) 昭和61年9月から平成元年5月まで22例に乳房温存療法を実施し,3か月から33か月経過(平均観察期間 試み」『特集・乳癌の縮小手術をめぐって胸部温存から乳房温存へ』外科治療62巻4号(甲87) 昭和61年9月から平成元年5月まで22例に乳房温存療法を実施し,3か月から33か月経過(平均観察期間18か月)で再発例はない。なお,この報告は大阪府立成人病センターのものである。 (4) 本件手術当時における乳房温存療法の評価につき,欧米においては,多数の被験者による比較試験に基づく各報告によると,乳房温存療法は,ハルステッド法,拡大乳房切除術,非定型的乳房切除術と比べて,乳がんの再発率,生存率において異ならないか,むしろ優れていることが確認されている(ただし,英国における一報告を除く。)。 欧米に遅れて我が国で実施された乳房温存療法の報告によっても,本件手術当時まで再発例はなく,その予後に特に劣位性は認められず,同療法を実施した医師の間においては同療法が積極的に評価されていた。同療法は,S大学医学部放射線科学教室のG医師らによって先駆的にされたもので,当初は同医師らによる実施報告が文献に掲載されるのみであったが,その後,厚生省助成によるK班が設置されるに伴い,これに参加した施設を中心にいくつかの実施報告がされ,全国的にも同療法が試み始められたものである。 もっとも,本件手術当時,K班によって乳房温存療法の手術適応について本件要綱が定められたとはいえ,あくまで本件要綱は暫定段階にあったこと,K班による同療法の臨床的研究の成果は未だ具体的には報告されていなかったこと,我が国における同療法の実施例の報告は,上記のとおり未だ少数であり,経過観察期間も短期間であって,再発の判断も十分にできていなかったこと,同療法は,その術式が確立していたものではなく,医師によりその方法に差異があったこと,同療法実施にもかかわらず, だ少数であり,経過観察期間も短期間であって,再発の判断も十分にできていなかったこと,同療法は,その術式が確立していたものではなく,医師によりその方法に差異があったこと,同療法実施にもかかわらず,リンパ節に転移していた場合や断端陽性の場合には他の術式を再度実施しなければならないこと,同療法実施に伴って必要とされる放射線照射の程度,放射線照射による障害の有無についてもなお研究途上にあったことなど,同療法の実施には,なお解決されなければならない問題点も多く,同療法が定着・確立するには臨床的結果の集積を待たなければならない状況にあったということができる。 一方,同療法が奏功した場合には,概ね患者の満足を得ており,同療法は外科的侵襲が少なく,美容的側面や患者の精神的側面及び家庭生活における質の向上(クオリティオブライフ)の観点から優れていると評価できるものである。 (5) 被控訴人の乳がんは,霞班の定めた本件要綱における乳房温存療法の適応基準を充足するばかりでなく,本件手術当時乳房温存療法を実施していたほとんどの医療機関の適応基準を充たすものであった。 また,控訴人は,本件手術当時,乳房温存療法について,同療法を実施している医療機関も少なくなく,相当数の実施例があり,同療法を実施した医師の間では積極的な評価もされていたこと,被控訴人の乳がんがK班の定めた本件要綱の適応基準を充たし,乳房温存療法の適応可能性があること及び乳房温存療法を実施している医療機関を知っていた。 3 さらに,本件手術後の乳房温存療法の状況についてみると,証拠(甲10の1・2,乙2,12,13,36,42の1ないし4,43ないし45,48の1・2,55,56の1ないし3,57,58,61,78ないし80,81の1ないし6,原審における証人 みると,証拠(甲10の1・2,乙2,12,13,36,42の1ないし4,43ないし45,48の1・2,55,56の1ないし3,57,58,61,78ないし80,81の1ないし6,原審における証人F)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。 (1) K班の研究は,本件手術の直後である平成3年3月に終了し,その時から平成4年にかけて報告がされている(甲10の1,2,乙13)。K班に参加した各施設の乳房温存療法に対する取組みは,各施設によってかなり差があり,大阪府立成人病センターは乳房温存療法を実施した症例数50と最も多かったが,他方,十分な安全性が確立していないとして,臨床研究には参加せず,基礎研究の参加にとどめた国立がんセンター(症例数0)のような施設もあり,全体として,原判決添付別表二に記載のとおり,平成元年4月から平成2年11月までの間に152例に乳房温存療法が実施された。 乳房温存療法の最大の課題は,胸筋温存乳房切除術では生じない温存乳房内の再発であるが,K班の研究報告では,152例中1例(後に2例)の残存乳房内再発が認められた。 その後,平成5年6月から厚生省助成による「乳癌の乳管内進展病巣の特性に基づいた乳房温存療法の適応拡大に関する研究」(班長:E,いわゆるT班)が始まり,乳房温存療法の適応範囲を拡大して更に研究が進められた。 (2) 我が国における乳房温存療法の実施率は,年々上昇し,平成12年度においては,胸筋温存乳房切除術と乳房温存療法の比率は,約52%対約41%となっており(乙61),かなり接近している。 乳房温存療法を実施する医療機関では,概ね腫瘤の大きさが径3センチメートル以下を基準として乳房温存療法の適応可能性を検討するのが一般的であるが,適応可能 乙61),かなり接近している。 乳房温存療法を実施する医療機関では,概ね腫瘤の大きさが径3センチメートル以下を基準として乳房温存療法の適応可能性を検討するのが一般的であるが,適応可能な患者につき,乳房温存療法を選択する割合は,神奈川県立がんセンター,国立病院四国がんセンターでは約6割となっている(乙81の3,6)。 また,乳房温存療法の乳房内再発の実例報告は,次のようになっている。 T班の研究に参加した18施設による昭和61年から平成6年までの間に乳房温存療法が実施された1580例について,56例に乳房内再発(乳房と遠隔の同時再発3例を含む。),60例に遠隔再発が認めれ,手術後5年での累積乳房内再発率は3.2%であり,乳房内再発56例のうち50例で再手術(乳房切除30例,乳腺部分切除20例)がされている(乙57の63頁以下)。大阪府立成人病センターでは,昭和61年6月から平成6年12月までの360例(経過観察期間平均値33か月)中,遠隔再発7例,局所再発12例(うち乳房内再発8例)である(乙52)。乳癌懇話会が同懇話会に参加している全国54施設を対象に実施したアンケート結果によると,最も観察期間の長い昭和61年の症例においては,遠隔再発率8.2%,温存乳房内再発率4.8%,領域リンパ節再発率1.2%となっている(乙50)。我が国で最も乳房温存療法に積極的に取り組んでいるO・Gによる昭和58年から平成9年末までの実例では,乳房温存療法を1530名に実施し(適応可能患者の88%),観察期間中央値50か月で,累積乳房内再発率は,5年経過で7%,8年で9%となっている(乙56の3)。 (3) K班,T班の研究を経て,A委員会は,乳房温存療法について我が国の現時点における指針を策定し,我が国の乳がん診 乳房内再発率は,5年経過で7%,8年で9%となっている(乙56の3)。 (3) K班,T班の研究を経て,A委員会は,乳房温存療法について我が国の現時点における指針を策定し,我が国の乳がん診療における標準化を図ることを理事会に提案し,それが承認されたことに基づき,学術委員会が示した作業要綱を基に,B小委員会が平成11年6月に「乳房温存療法ガイドライン(1999)」(乙55)を策定した。このガイドラインは,乳房温存療法の標準的な療法の正しい普及を目指して策定されたものであり,現時点における乳がん診療の到達点を示すものと考えられる。 ガイドラインは,乳房温存療法の適応につき,腫瘤の大きさが3.0センチメートル以内とするなどの要件を示し,乳房温存手術,放射線治療の実施方法等を定めているが,患者に対する乳房温存療法の説明については,次の内容を含む説明をすべきであるとしている。 ① 乳がんに対する手術法には,乳房切除術と乳房温存手術があり,乳房温存療法は乳房温存手術の後に放射線治療を相補的にセットして行うものであること② 乳房切除術と乳房温存療法との間には,遠隔転移率に差はないが,乳房温存療法においては,温存乳房内再発のリスクがあること③ 乳房温存手術後の病理検索により,切除断端陽性の場合には再手術により乳房切除が行われることがあること④ 手術は,乳房の部分切除と腋窩リンパ節郭清を行うが,それに伴う合併症の種類と頻度について説明すること⑤ 乳房温存療法の長所は,術後のボディ・イメージが保たれ,乳房喪失という精神的ダメージが軽減されることにあるが,温存乳房の形態は,時に変形,偏位をきたすこと⑥ 放射線照射は,原則として5~6週間の治療が必要であり,入院期 ・イメージが保たれ,乳房喪失という精神的ダメージが軽減されることにあるが,温存乳房の形態は,時に変形,偏位をきたすこと⑥ 放射線照射は,原則として5~6週間の治療が必要であり,入院期間の延長あるいは通院を要することなど(4) 乳房温存療法については,平成6年に乳房部分切除が保険診療報酬点数表に加えられ(甲69,乙14,弁論の全趣旨),実施率もかなり上がっており,現時点においては,胸筋温存乳房切除術と並ぶ標準的な術式であるということができる。 胸筋温存乳房切除術と乳房温存療法の違いは,美容的な点あるいは精神的な点で乳房温存療法が優れているが,温存乳房内再発の可能性がなく,手術後の放射線照射が不要で,治療期間が短くてすむなどの点で,胸筋温存乳房切除術が優れている。遠隔転移や術後の運動障害については特に有意差は認められない。 適応患者であっても,再発の不安から乳房切除術を選択する者もかなり存在し,乳房を温存する不安と可能ならば乳房を温存したいという気持ちの葛藤があることが窺える。また,患者の人生観,乳房に対する価値観により術式の選択が左右され,乳房温存療法の適応でありながら,不安であることを理由に乳房切除術を選択する患者がいる一方で,無理をしてまでも乳房温存を希望する患者がいることが報告されている(U「乳癌のインフォームド・コンセント」Mamma33号。乙81の2)。 なお,T班に参加した12施設で昭和60年から平成5年までに乳房温存療法を実施した1101例についての患者に対するアンケート結果によると,回収率82.7%で,非常に満足41.2%,ほぼ満足56.8%,予期していたほど良いものではない1.7%,後悔している0.2%となっている。同じ病気の人からアドバイスを求められた ート結果によると,回収率82.7%で,非常に満足41.2%,ほぼ満足56.8%,予期していたほど良いものではない1.7%,後悔している0.2%となっている。同じ病気の人からアドバイスを求められた場合,積極的に乳房温存療法を勧めるのは46.0%,積極的ではないがそれとなく勧めるのが42.6%,勧めない0.4%,アドバイスはしたくない10.8%という結果が出ている(乙57の104頁以下)。 4 以上の事実関係を前提として,以下,控訴人の被控訴人に対する説明義務違反の有無を検討する。 (1) まず,控訴人が,本件手術を実施する前に,本件手術に関し,被控訴人に対してした説明は,次のとおりである。 ① 平成3年2月12日,控訴人は,被控訴人に対し,手術生検を実施した際,取り出した塊を被控訴人に見せ,「よく見ておくんですよ。」「触って見なさい。」などと言うとともに,肉眼的所見は悪性である旨の説明をした。 ② 同月16日,控訴人は,被控訴人に対し,生検により取り出したしこりの押捺細胞診の結果として,パパニコロー染色の判定でクラスⅤ,すなわち悪性であったこと,病理組織検査の結果として,被控訴人の乳がんは,浸潤性の充実腺管がんであったことを伝え,入院して手術をする必要があること,手術生検をしたので手術は早い方がよいこと,手術の日は同月28日が都合がよいこと,乳房を残す方法も行われているが,現在まだ正確には分かっておらず,放射線で黒くなったり,再手術を行わなければならないこともあることを説明した。 ③ 同月19日,控訴人は,被控訴人に対し,手術生検の傷の抜糸をし,その際,手術の日は同月28日とし,入院の日はその2日前(26日)か,前日(27日)とすることを伝えた。 ④ 同月20日,控訴人は,被控訴人に は,被控訴人に対し,手術生検の傷の抜糸をし,その際,手術の日は同月28日とし,入院の日はその2日前(26日)か,前日(27日)とすることを伝えた。 ④ 同月20日,控訴人は,被控訴人に対し,本件手術について,「全部取ります。」「筋肉は残します。」などと言った。また,入院期間が1か月程度であり,手術翌日の午後から一人でトイレに行ける旨の説明をした。 (2) ところで,医師は,患者の疾患の治療のために手術をするに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があると解される。本件で問題となっている乳がん手術についてみれば,疾患が乳がんであること,その進行程度,乳がんの性質,実施予定の手術内容のほか,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などが説明義務の対象となる。 本件においては,疾患が乳がんであること,その進行程度,乳がんの性質,実施予定の手術内容の点につき,説明義務違反が認められないことは,原判決39頁2行目から41頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決39頁6行目の「湿潤性」を「浸潤性」と改め,40頁末行の「短いことばながら、」を削る。)。 そこで,他の術式の選択可能性についての説明義務違反につき検討するに,乳房温存療法は,当時未だ未確立であり,それについても説明義務を負うかが問題となるが,未確立の療法(術式)であっても,少なくとも,当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについ 題となるが,未確立の療法(術式)であっても,少なくとも,当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては,患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり,かつ,患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無,実施可能性について強い関心を示していることを医師が知った場合などにおいては,たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており,自らはそれを実施する意思を有していないときであっても,なお,患者に対して,医師の知っている範囲で,当該療法(術式)の内容,適応可能性やそれを受けた場合の利害得失,当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務があるというべきである。そして,乳がん手術は,体幹表面にあって女性を象徴する乳房に対する手術であり,手術により乳房を失わせることは,患者に対し,身体的障害を来すのみならず,外観上の変ぼうによる精神面・心理面への著しい影響をもたらす可能性があるものであって,患者自身の生き方が人生の根幹に関係する生活の質にもかかわるものであるから,胸筋温存乳房切除術を行う場合には,選択可能な他の療法(術式)として乳房温存療法について説明すべき要請は,このような性質を有しない他の一般の手術を行う場合と比し,一層強まるものといわなければならない。 (3) 本件については,控訴人は,開業医であるものの乳癌研究会(後の日本乳癌学会)に参加する乳がんの専門医であること,乳房温存療法について,同療法を実施している医療機関も少なくないこと,相当数の実施例があって,同療法を実施した医師の間では積極的な評価もされていたこと,被控訴人の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性があること及び本件手術当時,乳房温 ている医療機関も少なくないこと,相当数の実施例があって,同療法を実施した医師の間では積極的な評価もされていたこと,被控訴人の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性があること及び本件手術当時,乳房温存療法を実施している医療機関を知っていたことは,前記認定のとおりである。そして,被控訴人は,本件手術前に,乳房温存療法の存在を知り,控訴人に対し本件手紙を交付しているところ,本件手紙は,乳がんと診断され,生命の希求と乳房切除のはざまにあって,揺れ動く女性の心情の機微を書きつづったものであるから,本件手紙には,被控訴人が乳房を残すことに強い関心を有することが表明されていることが明らかであって,控訴人は,本件手紙を受け取ることによって,乳房温存療法が被控訴人の乳がんに適応しているのか,現実に実施可能であるかについて被控訴人が強い関心を有していることを知ったものといわざるを得ない。そうすると,控訴人は,この時点において,少なくとも,被控訴人の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性のあること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を控訴人の知る範囲で明確に説明し,控訴人により胸筋温存乳房切除術を受けるか,あるいは乳房温存療法を実施している他の医療機関において同療法を受ける可能性を探るか,そのいずれの道を選ぶかについて熟慮し判断する機会を与えるべき義務があったというべきである。もとより,この場合,控訴人は,自らは胸筋温存乳房切除術が被控訴人に対する最適応の術式であると考えている以上は,その考え方を変えて自ら乳房温存療法を実施する義務がないことはもちろんのこと,被控訴人に対して,他の医療機関において同療法を受けることを勧める義務もないことは明らかである。 (4) しかるに,控訴人の被控訴人に対する乳房温存療法についての説明は,平成3年2 んのこと,被控訴人に対して,他の医療機関において同療法を受けることを勧める義務もないことは明らかである。 (4) しかるに,控訴人の被控訴人に対する乳房温存療法についての説明は,平成3年2月16日に,乳房を残す方法も,今きちんと分かっていないけれども行われていること,しかし,乳房を残すと放射線で黒くなることがあること,乳房を残した場合,再手術を行わなければならないことがあることなど,乳房温存療法につき消極的な説明に終始しており,説明義務が生じた場合の説明として十分なものとはいえない。したがって,控訴人は,本件手紙を受けた後において,被控訴人に対して被控訴人の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性があること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を説明しなかった点で,診療契約上の説明義務を尽くしたとはいい難い。 (5) 控訴人は,被控訴人が既に乳房温存療法を実施している医療機関として大阪府立成人病センターを知っていたから,控訴人が被控訴人に対し乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を説明する義務がなかった旨を主張する。確かに,被控訴人は,前記認定のとおり,平成3年2月15日,D新聞の朝刊で,乳房温存療法の紹介記事に接しており,その中で,大阪府立成人病センターにおける手術時の写真及び同センターのE医師のコメントが掲載されていたことからすると,大阪府立成人病センターにおいて乳房温存療法が実施されていたことを知っていたということはできる。しかし,被控訴人が知っていたのはその限度であり,被控訴人の乳がんが乳房温存療法の適応可能性があるのか,同療法を実施している医療機関として,大阪府立成人病センター以外にも存在するのかなどについて,説明する義務があったというべきである。控訴人の主張によると,本件手術当時,大阪府下 応可能性があるのか,同療法を実施している医療機関として,大阪府立成人病センター以外にも存在するのかなどについて,説明する義務があったというべきである。控訴人の主張によると,本件手術当時,大阪府下において乳房温存療法を実施している医療機関は他にもあったが,最も信頼できる医療機関は大阪府立成人病センターであったというのであるから,被控訴人に対し,被控訴人の乳がんが乳房温存療法の適応可能性があり,同療法を実施している医療機関として最も信頼できるのは大阪府立成人病センターである旨の説明をすべきであったということができる。 (6) また,控訴人は,乳房温存療法といえども,乳房の4分の1を切除するものであるし,乳房切除による外観上の変ぼうを補いたいのであれば,胸にパットをすれば足り,あるいは乳房再建手術をすることも可能である旨を主張する。確かに,外観上の問題として捉えれば,控訴人の指摘することも首肯できなくはないが,乳房の切除は,外観上の変ぼうによる精神面・心理面への影響をもたらす可能性があるものであって,患者自身の生き方が人生の根幹に関係する生活の質にもかかわるものであるから,乳房再建手術等が存在することが,説明義務を軽減し,あるいは免除することにはならない。 (7) さらに,控訴人は,保険診療報酬点数表,保険療養担当規則との関係で,本件手術当時,乳房温存療法を実施することができなかった旨を主張するところ,確かに,乳房温存療法(乳房部分切除術)は平成6年に保険診療報酬点数表に加えられたものであり,本件手術当時は規定されていなかった。しかし,乳房温存療法は,保険療養担当規則18条が禁じる「特殊な療法又は新しい療法等」ではなく,療養費用額の算定方法の別表第一の第2章第10部「手術」の通則3にいう「最も近似する手術」の各区分の所定点数 ,乳房温存療法は,保険療養担当規則18条が禁じる「特殊な療法又は新しい療法等」ではなく,療養費用額の算定方法の別表第一の第2章第10部「手術」の通則3にいう「最も近似する手術」の各区分の所定点数表によって算定することができると解する余地があるし,本件手術当時においても,現に乳房温存療法を実施している医療機関も少なくなく,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされていたのであるから,本件手術当時,保険診療報酬点数表に乳房温存療法が規定されていなかったことが説明義務を否定する根拠となるものではない。 (8) また,控訴人は,被控訴人が居住地から遠方にある大阪府立成人病センターに転医することを選択したかは疑問であるし,同センターでは手術生検を受けた後の転医を受け入れていなかったから,本件手紙を受領した後に同センターに転医することは事実上不可能であった旨を主張する。しかし,同センターに転医するか否かを決めるのは被控訴人であり,転医することが不確実であることは説明義務を否定する理由とはならない。また,被控訴人から同センターへの転医の希望があった場合,同センターが手術生検が終わっているとして受入れを拒んだかは定かではなく,また同センターに転医することが無理であったとしても,他の医療機関に転医することもあり得るのであるから,やはり説明義務を否定する理由となるものではない。 (9) 以上からすると,控訴人は,本件手紙を受領した後,更に説明義務を尽くさなかった点において,診療契約上の義務の不履行があり,これにより,被控訴人は,乳房温存療法を受けるか否かについて意思決定する権利を奪われたということができ,控訴人は債務不履行及び不法行為による損害賠償責任を免れない。 5 そこで,被控訴人の損害額について検討する。 は,乳房温存療法を受けるか否かについて意思決定する権利を奪われたということができ,控訴人は債務不履行及び不法行為による損害賠償責任を免れない。 5 そこで,被控訴人の損害額について検討する。 (1) 前判示のとおり,控訴人は,本件手紙を受領した後,更に説明義務を尽くさなかった点において,診療契約上の説明義務の不履行があり,これにより,被控訴人は,乳房温存療法を受けるか否かについて意思決定する権利を奪われたということができる。 しかし,他方,①本件手紙を渡したのは,既に控訴人から乳房を全部切除する旨の説明を受け,それを承諾して控訴人医院に入院した後であり,本件手紙も本件手術を拒絶する趣旨のものでないのはもちろん,生命の希求と乳房切除のはざまにあって,揺れ動く女性の心情の機微を書きつづったものであり,大阪府立成人病センターにおいて乳房温存療法が実施されていることを知っていながら,乳房温存療法についての説明を明確に求めたものでもなかったこと,②乳房温存療法を実施した場合には放射線照射のために相当な期間通院する必要があったところ,大阪府立成人病センターは,被控訴人の住居地から約1時間30分を要する距離にあり,被控訴人は,当時,体調がすぐれず,他の病院に行くことができず,大阪府立成人病センターは住居地から遠すぎるという認識を有していたこと(原審における被控訴人本人)からすると,控訴人が説明義務を尽くしたとしても,果して被控訴人が乳房温存療法を選択したかは定かではないこと,③既に手術生検を終えた患者につき,大阪府立成人病センターあるいは乳房温存療法を実施していた他の医療機関が受け入れたのかも明らかではないことなどの事情もある。その他前記認定の事実経過,控訴人の説明義務違反の内容などを総合すると,被控訴人が控訴人の説明義務違 いは乳房温存療法を実施していた他の医療機関が受け入れたのかも明らかではないことなどの事情もある。その他前記認定の事実経過,控訴人の説明義務違反の内容などを総合すると,被控訴人が控訴人の説明義務違反により被った慰謝料としては,100万円が相当であると認める。 (2) 被控訴人は,本件手術によって乳房を失い,精神的,経済的被害を被ったことを理由として,逸失利益や慰謝料,本件手術の治療費相当額の損害賠償請求をするが,被控訴人は,前示のとおり,既に乳房温存療法を実施している医療機関があることを知っていながら,控訴人に対し,明確に乳房温存療法の説明を求めることもなく,本件手術を受けることを承諾していること,控訴人において,説明義務を尽くしたとしても,被控訴人が乳房温存療法を受けたかは定かではないことなどからすると,本件手術自体が診療契約上の義務違反に当たるとまでいうことはできず,また,控訴人の説明義務違反と被控訴人の請求する上記損害との相当因果関係を認めることもできないというべきである。 (3) 弁護士費用としては,本件事案の内容,訴訟経過,慰謝料請求の認容額などを総合すると,20万円をもって相当と認める。 (4) そうすると,被控訴人の請求は,120万円及びこれに対する本件手術の日である平成3年2月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 6 よって,控訴人の控訴に基づき,原判決を上記判示のとおり変更し,被控訴人の附帯控訴は理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第5民事部裁判長裁判官太田幸夫裁判官川谷道郎 裁判官 大阪高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 川谷道郎 裁判官 大島眞一

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