主文 一原判決を次のとおり変更する。 第一審被告らは、静岡県に対し、連帯して金三七万二五六八円及びこれに対する平成六年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 二第一審被告Aの本件控訴を棄却する。 三訴訟費用は、第一、第二審を通じて、第一審被告らの負担とする。 事実及び理由 第一当事者の求めた裁判一控訴の趣旨(静岡地方裁判所平成一〇年(行ヌ)第三号事件)主文同旨。 (静岡地方裁判所平成一〇年(行ヌ)第四号事件) 1 原判決中第一審被告A敗訴部分を取り消す。 2 第一審原告の第一審被告Aに対する請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第一、第二審とも第一審原告の負担とする。 二控訴の趣旨に対する答弁(静岡地方裁判所平成一〇年(行ヌ)第三号及び同第四事件とも)本件控訴を棄却する。 第二当事者の主張次のとおり付加するほか、原判決「第二当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。 一第一審原告の当審における主張 1 平成六年一〇月二七日(以下「本件当日」という。)にクラブ「しれとこ」における飲食の事実を否定する第一審被告らの供述内容には重大な疑問があるから、同店の責任者であるBを証人として尋問しないまま、同店での飲食を認定しないのは十分な審理を尽くしたとは言い難く、著しく正義に反するものである。 2 第一審被告Cは、公金管理に最も厳正に責任を負うべき監査委員であり、私的飲食に公金支出が許されないこと、そして自らの飲食代金が公金で賄われていることを知りながら、本件当日飲食したものであって、その責任は大きく、静岡県に対し、料亭「吉祥」(以下「吉祥」と表示する。)及びクラブ「しれとこ」における飲食代金相当額の損害を賠償すべきものである。 二第一審被告らの当審における主張 1 原判決は、料 責任は大きく、静岡県に対し、料亭「吉祥」(以下「吉祥」と表示する。)及びクラブ「しれとこ」における飲食代金相当額の損害を賠償すべきものである。 二第一審被告らの当審における主張 1 原判決は、料亭「吉祥」において飲食したのは、第一審被告らであると推認しているが、以下のとおり、合理性に乏しく、事実誤認の違法がある。 (一) 第一審被告Aは、本件当日、省庁との懇談の席に出席していないが、各省庁との懇談の席に静岡県東京事務所(以下「東京事務所」という。)の各省庁担当者だけが出席することもあり、予約可能な店は比較的料金の高い店に限られるから、このように、比較的料金の高い店における各省庁との懇談に第一審被告Aが席を空けることは日常的にあったことである。また、本件当日、第一審被告Aが省庁との懇談の席に出席しないで私的な会食をしたことも不自然ではない。 (二) 第一審被告Aは、料亭「吉祥」近くの料亭での私的な飲食が終わったため、料亭「吉祥」に行ったものであって、同人が私的な会食終了後に、省庁との懇談の行われた料亭に行くこと自体は東京事務所の次長として不自然ではない。また、その際に、料亭側から求められてサインをすることも当然である。 (三) 料亭「壷中の天」での私的な飲食について、店側が見知った常連の私的な飲食について便宜を図ってくれることは当然考えられるし、地方公務員が出張の際に普段と異なる水準の飲食をすることもあり得ることであり、私的な飲食をするのに親密な人間関係を必要とするものではない。 (四) 料亭「壷中の天」における飲食代金について領収書がないことは、むしろ私的飲食の間接的な証拠であって、不自然でない。 2 料亭「吉祥」での省庁との懇談は、八人で三〇万三六六八円であり、一人当たり約三万七九五八円となり、食事代としては高いといえるにしても、場所代や しろ私的飲食の間接的な証拠であって、不自然でない。 2 料亭「吉祥」での省庁との懇談は、八人で三〇万三六六八円であり、一人当たり約三万七九五八円となり、食事代としては高いといえるにしても、場所代や諸経費が含まれていること等からすると、東京において一定水準の店としての社会的評価を受けている飲食店における通常の飲食代としては、未だ社会通念上懇談に伴うものとして、許容される額を超えているものとはいえず、違法な公金支出ということはできない。 理由 一原判決請求原因1ないし3及び6の各事実は、当事者間に争いがない。 二同請求原因4について判断する。 1 甲第二号証の一、二、第三ないし第五号証、第八、第一二、第二四号証の一、二、第二六号証、証人D及び同Eの各証言、第一審被告A及び同Cの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。 (一) 平成六年一〇月当時、東京事務所には、所長、次長のほかに、総務担当職員として主幹一名が置かれ、その下に、主任、副主任、主事各一名が置かれ、行政連絡スタッフとして主幹一名(総務主幹が兼ねる。)の下に主査四名、主事一名を置かれ、また東京都千代田区<以下略>所在の国際観光会館四階を事務所とする産業振興部には、部長、主幹各一名が置かれ、その下に主査三名が置かれていた。そのほかに国などへの派遣職員が形式的に所属していた。 (二) 東京事務所は、平成六年一〇月二四日には、同月二七日に、「吉祥」で一人四万円の予算で八人が会食し、「しれとこ」で一人一万円の予算で七人が会食する計画を立て、第一審被告Aは、各支出負担行為伺を決裁した。そして、同日ころ、「吉祥」に、予約がされた。 (三) 静岡県の監査委員である第一審被告Cは、平成六年一〇月二七日、監査委員会事務局の事務局長F、同事務局課 一審被告Aは、各支出負担行為伺を決裁した。そして、同日ころ、「吉祥」に、予約がされた。 (三) 静岡県の監査委員である第一審被告Cは、平成六年一〇月二七日、監査委員会事務局の事務局長F、同事務局課長E及び同事務局員Dとともに、東京事務所の監査のために静岡から上京し、東京都千代田区<以下略>所在の都道府県会館本館四階の東京事務所において、同日午後三時から同日午後五時ころまでの間、監査を実施した。この監査には、東京事務所から、次長である第一審被告A、総務及び行政連絡スタッフ主幹のG、産業振興部部長のH及び同部主幹のIが説明者として立ち会った。合計八名である。所長であるJは海外出張中のため不在であった。 (四) 「吉祥」における会食の売上伝票のサインは、第一審被告Aがした。 (五) クラブ「しれとこ」で飲食した者は、当初の予定どおり七名である。 (六) 第一審被告らは、後記のとおり、「本件当日に料亭「吉祥」や「しれとこ」で飲食したのは、他の東京事務所職員と国の複数の機関の職員である。」旨主張し、その旨供述しているが、同供述には不自然な点が多く信用できない。 以上の事実を総合すると、東京事務所側の第一審被告A、G、H及びIは、右監査終了後、監査委員会側の第一審被告C、F、E及びDを慰労するため、一緒に、右東京事務所から近くの料亭「吉祥」において、同日午後九時ころまで、会食をし、その後、近くのクラブ「しれとこ」に赴いて飲食したと推認するのが相当である(「しれとこ」に行ったのが七名となったのは、Fが子供に会うため、途中で帰ったためとみられる。)。 2 第一審被告らは、「本件当日、監査終了後、第一審被告らのほか、監査委員会側二名及び東京事務所側一名、合計五名で、旧交を温めるために、料亭「壷中の天」で私的に飲食し、その代金は飲食した者らで出し合って支払った 告らは、「本件当日、監査終了後、第一審被告らのほか、監査委員会側二名及び東京事務所側一名、合計五名で、旧交を温めるために、料亭「壷中の天」で私的に飲食し、その代金は飲食した者らで出し合って支払った。本件当日に料亭「吉祥」及び「しれとこ」で飲食したのは、他の東京事務所の職員と、国の複数の機関の職員である。」旨主張し、その旨供述している。しかしながら、同供述には、以下の不自然な点があり、信用できない。 (一) 第一審被告らの言うところによると、東京事務所は、本件当日の夜、三か所において、監査委員会側との会食(合計五名)及び国の複数の機関の職員と会食(八名と七名)を予定し、かつ実行したことになる。東京事務所の職員は前記のとおり、一五名程度の人数で、産業振興部の職員五名は、国の機関と接触したり、懇談することはなく(甲第二六号証)、本件当日所長は不在であったから、残った職員は僅かである。しかも、高級料亭に国の機関の職員を呼びながら、本件当日の東京事務所の最高責任者である第一審被告Aは欠席し、他の下部職員の大部分に懇談させたというのは理解しがたい。しかも、第一審被告Aは、国の機関の職員と会食した東京事務所の職員の名前を明らかにしない。 (二) 第一審被告Aは、「壷中の天」で会食後、「吉祥」に行ったら、丁度食事が終わったところだったので、自分が売上伝票にサインしたと述べている。 飲食店での売上伝票へのサインは、飲食代金の請求額を確認する趣旨からなされるものであるから、飲食をした者がするのが普通であり、かつ、それで足りるものであって、これに参加しなかった者がわざわざ飲食店に赴いてサインすることは、考えにくいものであるし、第一審被告Aの言うように、「壷中の天」で飲食後、「吉祥」に赴いたところ、ここでもたまたま飲食を終了し、サインをするタイミングであった ざわざ飲食店に赴いてサインすることは、考えにくいものであるし、第一審被告Aの言うように、「壷中の天」で飲食後、「吉祥」に赴いたところ、ここでもたまたま飲食を終了し、サインをするタイミングであったという偶然の重なりも考えにくいところである。 (三) 第一審被告らは、「壷中の天」における会食について、前記のように主張している。 しかしながら、第一審被告らによれば、その会食を誘ったのは、第一審被告Aであり、監査委員会側は、その客であるから、かなり高額の費用のかかることが明らかな会食の費用を負担させるつもりであったとは信じがたい。また、同店における会食を証明する客観的は証拠は提出されていない。 更に、「旧交を温めるため」の会食と言うが、証人Eは、第一審被告Aのほかに東京事務所側から出席した一名について、多分監査委員の昔の部下であったと思うとしか供述しておらず、名前も憶えていないし、その地位も分からないというのである。また証人Dは、東京事務所の監査に立ち会った者について知らない旨供述している。そして、監査委員である第一審被告Cの供述によっても、同人が第一審被告Aとは同じ課になったこともなく、もう一名の会食参加者とされるIも、高校の後輩で、第一審被告Cが県庁退職後に就職した職場の窓口担当であったにすぎないというのである。第一審被告Aも「C委員は偉い方だったもんですから、県庁のOBでもありますし、存じ上げておりました。」と供述している程度である。このような付き合い程度の者らが、旧交を温める趣旨で、会費を個人的に一万円ないし三万円を支出して、東京赤坂の料亭で私的に会食する等ということは考え難い。 右のとおりであって、第一審被告らの供述は信用しがたい。 3 第一審被告らは、料亭「吉祥」及びクラブ「しれとこ」での飲食が国の機関の職員との懇談のためであった で私的に会食する等ということは考え難い。 右のとおりであって、第一審被告らの供述は信用しがたい。 3 第一審被告らは、料亭「吉祥」及びクラブ「しれとこ」での飲食が国の機関の職員との懇談のためであった事実を証するために、乙第五号証を提出している。同号証は、第一審被告ら代理人作成にかかる「公文書の写しの交付のお願い」と題する文書に対して、東京事務所長が作成した文書であり、これには「支出負担行為伺」と題する書面の写し二通が添付されている。これらの写しは、甲第二号証の一、二とほぼ同一であるが、その「件名」欄に「 省課」との記載が加わっている点が異なっている。 本件訴訟の原審である静岡地方裁判所は、平成九年五月二三日に、改正前の民事訴訟法三一九条、三二二条に則り、東京事務所長に対し、「支出負担行為伺」の文書の送付嘱託を行ったところ、同所長は「送付の嘱託に係る文書から『静岡県公文書の開示に関する条例』(平成元年静岡県条例第一五号)第九条第三号及び第八号により非開示とする部分を除いたものとします。」と回答して、「件名」欄から懇談の相手方を除いた文書写しを送付した。このため、同裁判所は、送付の必要性やその根拠を説いたうえ、再度送付嘱託したにもかかわらず、同所長は、交際的な懇談の相手方は非開示とする方針である等の理由から、これを拒否した。しかるに、原判決において、第一審被告らが「吉祥」で会食したと認定された後においては、第一審被告らの訴訟代理人の要請にたやすく応じて、条例に定めたとする非開示部分を開示しているのである。 このような経緯や、前記認定事実に照らすと、乙第五号証の「支出負担行為伺」と題する書面の写しに記載されている「件名」欄の「 省課」との記載は、当初から真実そのように記載されていたか疑問があり、仮にそう記載されていたとしても信用し難く と、乙第五号証の「支出負担行為伺」と題する書面の写しに記載されている「件名」欄の「 省課」との記載は、当初から真実そのように記載されていたか疑問があり、仮にそう記載されていたとしても信用し難く、これをもって、国の機関の職員との会食が行われたことの証拠となり得ない。 4 本件の公金支出の違法性について判断する。 普通地方公共団体の長又はその執行機関が、その事務を遂行し対外的折衝を行う過程において、社会的通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、その事務に随伴するものとして許容されるものであって、その接遇が社会的通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、その費用を公金から支出することは違法となると考えられる。 本件において、第一審被告Aらが同Cらに対して行った接遇は、代金が一人当たり三万七九五八円に及ぶ東京赤坂に所在する料亭における飲食及び二次会として、代金が一人当たり九八四〇円のクラブにおける飲食であって、いかなる意味でも社交的儀礼の範囲とは考えられないものである。したがって、いずれも公金により支出することが許されるものでないことは明らかである。 三原判決請求原因5について、判断する。 1 第一審被告Aの責任について第一審被告Aは、本来公金からの支出が許されないにもかかわらず、その権限を利用して、本件当日の料亭「吉祥」及びクラブ「しれとこ」での飲食代金合計三七万二五六八円を公金から支出して、静岡県に対しこれと同額の損害を与えたのであるから、静岡県に対して、地方自治法二四三条の二第一項後段によりこれを賠償する責任がある。 2 第一審被告Cの責任について第一審被告Cは静岡県の監査委員であるところ、監査委員は、普通地方公共団体の長が、議会の同意を得て、 方自治法二四三条の二第一項後段によりこれを賠償する責任がある。 2 第一審被告Cの責任について第一審被告Cは静岡県の監査委員であるところ、監査委員は、普通地方公共団体の長が、議会の同意を得て、人格が高潔で、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者及び議員のうちから選任し(地方自治法一九六条一項)、その職務は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び普通地方公共団体の経営に係る事項の管理を監査することにあり(同法一九九条一項)、その職務を遂行するに当たっては常に公正不偏の態度を保持しなければならないのであり(一九八条の三第一項)、監査の過程において、公正な地方公共団体の行政を確保する必要から、任命権者である地方公共団体の長と利害が対立することもあり得ることから、その地位も保護され、罷免事由が限定されるとともに、その手続も公聴会を開いたうえ議会の同意を得る等の慎重な手続を要求されている(一九七条の二)。そして右にいう「財務に関する事務の執行」の中には、予算の執行、収入、支出、現金の出納保管等の事務の執行が全て包含されている。 第一審被告Cは、本件当日、右のような監査委員として、静岡県の東京事務所において、予算の執行、収入、支出、現金の出納保管等の財務に関する事務の執行が法令の定めるところに従って適正に行われているかどうかを監査する職務に当たっていたものであるから、接遇を受ける場合には、接遇場所、接遇に要する費用、その費用負担者等に十分に配慮し、社会的通念上儀礼の範囲を逸脱する接遇費用が公金から支出されることのないようにすべき注意義務があったことは明らかである。 ところが、第一審被告Cは、本件当日、接遇を受ける側の中心にあって、同人が監査委員の公正不偏保持義務を理由に接遇を断れば容易に接遇 出されることのないようにすべき注意義務があったことは明らかである。 ところが、第一審被告Cは、本件当日、接遇を受ける側の中心にあって、同人が監査委員の公正不偏保持義務を理由に接遇を断れば容易に接遇自体を止めることができたのに、むしろこれを容認し、その飲食代金は、相当の高額となり、公金により支払われるものであることを知りながら、あるいは右注意義務を尽くさない過失によりこれを知らずして、東京赤坂の料亭及びその付近のクラブで接遇を受けたものであって、同人は、違法な公金支出につき故意又は過失により加担した不法行為責任があるというべきである。 そして、静岡県は、第一審被告Cの右不法行為により、本件当日の料亭「吉祥」及びクラブ「しれとこ」での飲食代金合計三七万二五六八円の損害を被ったと認められ、第一審被告Cは、同Aと連帯して、これを賠償すべき責任がある。 四以上のとおりであり、第一審原告の本件控訴は理由があるから、原判決を主文記載のとおり変更することとし、第一審被告らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用し、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第二民事部裁判長裁判官谷澤忠弘裁判官小林登美子裁判官一宮和夫
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