平成29年11月8日判決言渡平成29年(行ウ)第34号裁決取消請求事件主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求環境大臣が原告に対し平成28年7月22日付けでした,原告の審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,環境大臣の権限の委任を受けた中部地方環境事務所長が平成26年5月1日付けで公益財団法人A美術館(以下「本件法人」という。)に対し,B国立公園(旧C国立公園)内の第2種特別地域内における美術館の新築に伴う付帯駐車場及び取付車路の新築につき自然公園法20条3項に基づく許可処分(以下「本件許可処分」という。)をしたところ,同美術館の付近に別荘を所有する原告が,環境大臣に対して本件許可処分を不服として行政不服審査法(平成26年法律第68号による全部改正前のもの)に基づく審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが,環境大臣から原告には不服申立適格がないとの理由で本件審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受けたことから,原告には本件審査請求につき不服申立適格があるとして,本件裁決の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により認められる。)(1) 本件法人は,平成26年2月26日,長野県○地方事務所長に対し,B国立公園(旧C国立公園)内の第2種特別地域内における美術館の新築につき自然公園法20条3項の許可を申請したところ,同所長は,同年3月24日付けで,当該許可をした(乙2。なお,許可の権限については,自然公園法 附則9項,自然公園法施行令附則3項等参照)。 (2) 本 法20条3項の許可を申請したところ,同所長は,同年3月24日付けで,当該許可をした(乙2。なお,許可の権限については,自然公園法 附則9項,自然公園法施行令附則3項等参照)。 (2) 本件法人は,平成26年2月26日,中部地方環境事務所長に対し,上記特別地域内における上記美術館に付帯する駐車場及び取付車路の新築につき自然公園法20条3項の許可を申請したところ,同所長は,同年5月1日付けで,当該許可をした(乙1。本件許可処分。なお,許可の権限については,自然公園法69条,自然公園法施行規則20条参照)。 (3) 原告は,上記美術館の付近に別荘を所有する者であるところ,平成26年7月22日付けで,環境大臣に対し,本件許可処分の取消しを求める審査請求をした(甲47。本件審査請求)。 (4) 本件法人は,平成27年4月15日,本件許可処分に係る駐車場及び車路の新築工事を完了した(乙3)。 (5) 環境大臣は,平成28年7月22日付けで,原告は不服申立適格を欠くとして,本件審査請求を却下する旨の裁決(本件裁決)をし,当該裁決書謄本は同月26日に原告に送達された。 (6) 原告は,平成29年1月18日,本件裁決の取消しを求める本件訴えを提起した(顕著な事実)。 2 争点(1) 本件訴えについての訴えの利益の有無(本案前の争点)(2) 本件審査請求についての不服申立適格の有無(本案の争点) 3 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件訴えについての訴えの利益の有無)について(被告の主張)一般に,それを受けなければ一定の工事を行うことができないという法的効果が付与された処分について,当該工事が完了した後もなお当該処分の取消しを求める法律上の利益が肯定されるためには,①当該処分の 一般に,それを受けなければ一定の工事を行うことができないという法的効果が付与された処分について,当該工事が完了した後もなお当該処分の取消しを求める法律上の利益が肯定されるためには,①当該処分の存在が監督処分としてされる違反是正命令の法的障害となっているなど,当該処分に工 事の結果を適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されているか,②当該処分が取り消された場合には原状回復義務が生じ又は違反是正命令を発することが法的に義務付けられるなど,当該処分の取消しに国民の権利利益を救済するための法的効果が付与されていることを要する。 本件では,本件許可処分に係る駐車場及び車路の新築工事は完了しているところ,①自然公園法20条3項の許可がされた後にその許可が取り消され遡及的にその法的効果が消滅したとしても,許可が有効であることを前提としてされた工事が遡って無許可工事となり,当該行為者が同法34条1項の原状回復命令等の対象となるものではないから,当該許可の存在が監督処分の法的障害となっているとはいえず,当該許可に工事の結果を適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されているとはいえない。また,②当該許可が取り消された場合に,行為者に原状回復を義務付け,あるいは行政庁に原状回復命令等を義務付けるといった法的効果が付与されていることをうかがわせる規定もなく,その許可の取消しに国民の権利利益を救済するための法的効果が付与されているともいえない。 したがって,本件許可処分については,その許可に係る工事の完了によってその取消しを求める法律上の利益は失われたというべきである。 そして,審査請求を棄却又は却下した裁決の取消しを求める訴えの目的も,究極的には原処分の取消しを求めることにあるから,原処分を取り消すことにつ 消しを求める法律上の利益は失われたというべきである。 そして,審査請求を棄却又は却下した裁決の取消しを求める訴えの目的も,究極的には原処分の取消しを求めることにあるから,原処分を取り消すことについて法律上の利益が消滅した場合には,その処分に係る審査請求を棄却又は却下した裁決の取消しを求める訴えの利益も消滅するため,本件訴えは,訴えの利益を欠き不適法である。 (原告の主張)自然公園法20条3項の許可は,特別地域内で行うことが全面的に禁止されている風致の維持に影響を及ぼすおそれのある行為について,法令で定める基準に適合する場合に限ってその禁止を解除する行政処分であり,許可さ れた行為の動作をすることだけではなく,許可に従った動作の完了後の状態を保持することについても,それを許容する法的効果を有する。同項1号の工作物の新築についての許可であれば,新築工事をすることだけではなく,許可どおりに完成した工作物をその状態で保持することについても,それを許容する法的効果を有するものである。また,同項の許可に付される条件(同法32条)には工事完了後の工作物の状態を想定したものもあるところ,このことは,工作物の新築の許可が,新築工事を完了した後も効力を有することを裏付けるものである。 そして,同法20条3項の許可に係る行為の完了後に当該許可が取り消された場合には,その法的効果は遡って消失するから,同法34条1項が定める原状回復命令の要件である同法20条3項の規定に違反した場合に該当することとなり,その行為者に対して原状回復命令を発し得ることとなるため,当該許可の存在は原状回復命令を発する上での法的障害になっているといえる。 よって,本件許可処分の取消しを求める法律上の利益は消滅しておらず,本件裁決の取消し 令を発し得ることとなるため,当該許可の存在は原状回復命令を発する上での法的障害になっているといえる。 よって,本件許可処分の取消しを求める法律上の利益は消滅しておらず,本件裁決の取消しを求める訴えの利益はあるから,本件訴えは適法である。 (2) 争点(2)(本件審査請求についての不服申立適格の有無)について(原告の主張)本件法人が美術館の営業を開始することによって,原告の所有する別荘の目前の道路部分を多くの車や人が通行するようになり,原告においては,人の目が気になってバーベキューを楽しむことができず,騒音のために音楽の演奏などにも集中することができなくなり,別荘生活を享受する権利利益が侵害されることとなる。このような別荘生活を享受する権利利益は,原告が別荘の敷地及び建物に対して有する所有権に由来するものであるところ,原告は当該別荘の新築を自然保護法20条3項により許可されており,その所有権は当該許可により特に保護されたものであるから,法律上保護すべき権 利利益である。 また,同法4条は,同法の適用に当たっては,関係者の所有権,鉱業権その他の財産権を尊重すると定めており,同法20条3項に規定する許可制度は,景観利益等の一般公益と共に,それと調和を図って特別地域内の地権者個々人の権利利益をも保護するものであって,違法な許可によって所有権を侵害される周辺住民の当該許可の取消しを求める不服申立適格の判断においても同法4条の趣旨が尊重されるべきである。 さらに,風景地保護協定の締結等に係る同法43条や,損失の補償に係る同法64条等によれば,同法は公益ばかりでなく個々人の権利利益をも保護しようとするものであるといえる。 よって,原告には,本件許可処分に対して審査請求をする不服 法43条や,損失の補償に係る同法64条等によれば,同法は公益ばかりでなく個々人の権利利益をも保護しようとするものであるといえる。 よって,原告には,本件許可処分に対して審査請求をする不服申立適格がある。 (被告の主張)原告が不服申立適格を基礎付けるものとして主張するのは風致景観の恵沢を享受する利益であり,これは当該地域の居住者や来訪者等の不特定多数の者が享受できるものであって帰属主体の特定性に欠け,保護の対象となる地域的限定性も乏しい上,当該利益が害されることによって直ちに住民の生命,身体,健康が脅かされ,財産に著しい被害が生じるものでもないから,基本的には公益に属するものである。そして,自然公園法20条3項の許可の実体的要件やその許可基準につき,特定の個々人の利益を保護する趣旨を含むと解し得る規定はなく,当該許可の過程においても周辺住民の意見聴取といった具体的な個人を関与させる手続規定はない。 また,同法4条にいう関係者の所有権は,自然公園の風致景観を維持するために法に基づく制約を課されることとなる所有権を意味するが,原告は,本件許可処分によってその所有する別荘の敷地及び建物に係る所有権に法的制約が課されるわけではないから,原告が別荘の所有権を有することは不服 申立適格を認める根拠とならない。また,同法20条3項の許可は,特定の行為を許容する法的効果を有するにとどまるから,別荘建物について同項の許可を受けた原告に対し他の所有者が同項の許可に基づいてした行為による風致景観の変化によって不利益を受けない権利や利益を保護するものではない。 さらに,同法43条や64条は,財産権の行使を直接制約されることになる者に対する規定であり,同法20条3項の許可に係る対象地の周辺住民等の個別的 けない権利や利益を保護するものではない。 さらに,同法43条や64条は,財産権の行使を直接制約されることになる者に対する規定であり,同法20条3項の許可に係る対象地の周辺住民等の個別的利益を保護する趣旨を含むものではない。 よって,原告には,本件許可処分に対して審査請求をする不服申立適格がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件訴えについての訴えの利益の有無)について(1) 本件訴えは本件裁決の取消しを求めるものであるところ,原処分の取消しを求める審査請求を棄却又は却下した裁決の取消しを求める訴えは,最終的に原処分が取り消されることを目的とするものであるから,原処分が取り消されることについての法律上の利益が欠ける場合には,当該裁決の取消しを求める訴えの利益も欠けるものと解するのが相当である。 (2) そこで,本件裁決の原処分である本件許可処分が取り消されることについての法律上の利益の有無について検討する。 ア自然公園法20条3項本文は,国立公園の特別地域内における同項各号に掲げる行為は環境大臣の許可を受けなければしてはならない旨を定める。この定めによれば,同項に基づく許可は,これを受けることにより適法に同項各号に掲げる行為を行うことができるようになるという法的効果を有する処分として規定されているものと解され,同項1号の工作物の新築についての許可にあっては,これを受けることにより適法に当該工作物の新築工事を行うことができるようになるという法的効果を有する処 分として規定されているものであると解される。 そうすると,当該許可に係る同項1号の工作物の新築工事が完了した場合には,当該許可はその本来の目的を達成し,その法的効果が消滅するというべきである。 イこの点につき のであると解される。 そうすると,当該許可に係る同項1号の工作物の新築工事が完了した場合には,当該許可はその本来の目的を達成し,その法的効果が消滅するというべきである。 イこの点につき原告は,自然公園法20条3項の許可は,特別地域内での一般的な禁止行為についてその禁止を個別に解除する処分であり,それに従った動作完了後の状態を保持することを許容する法的効果をも有し,このことは工事完了後の工作物の状態を想定した条件が付されることがあることによっても裏付けられており,また,当該許可が取り消されればその行為者に対して原状回復命令を発し得ることになるという点で,当該許可の存在が原状回復命令を発する上での法的障害になっているから,当該許可はその許可に係る行為の完了後においてもその取消しによって除去される法的効果を有している旨の主張をする。 しかしながら,自然公園法20条3項1号の工作物の新築についての許可に関していえば,その文言上許可を受けなければしてはならない行為として定められているのは工作物を新築することであり,その許可が対象とするのは工作物を新築するという動作それ自体であると解するのが自然な文理解釈である。また,同項の許可が一般的な禁止を個別に解除する処分としての性質を有するものであるとしても,そのような処分の性質から直ちに当該許可に係る動作の結果をも適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されていると解することはできない。 また,自然公園法32条は,同法20条3項の許可に条件を付することができる旨を定め,この条件には,許可に係る工事完了後の工作物の状態に関するものも含まれ得ると解されるものの,このことが直ちに当該許可にその許可に係る行為の結果を適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されていることの裏付けとな 係る工事完了後の工作物の状態に関するものも含まれ得ると解されるものの,このことが直ちに当該許可にその許可に係る行為の結果を適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されていることの裏付けとなるということはできない。なお, 同法34条1項は,同法32条の規定により許可に付された条件に違反した者に対して,環境大臣等が原状回復等を命ずることができる旨を定めるが,これは,許可そのものの効果とは別の条件自体の効果としてこれに違反した者に対して原状回復等の命令がされ得ることを定めたものであり,当該許可にその許可に係る行為の結果を適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されていることの根拠となるものではない。 さらに,自然公園法34条1項は,同法20条3項の規定に違反した者に対して,環境大臣等が原状回復等を命ずることができる旨を定めており,これは,違反行為の是正を図ることによって国立公園等の風致景観等を保護する趣旨によるものであると解されるが,他方で,同法4条は,同法の適用に当たっては関係者の所有権,鉱業権その他の財産権を尊重しなければならない旨を定めており,同法20条3項の許可を受けた者がその許可に係る行為を完了した後にその許可が取り消されることにより同項の規定に違反した者として同法34条1項の原状回復等の命令の対象となるかについては,風致景観等の保護の要請のみならず,当該許可に基づいて行為を行った者の財産権の尊重の要請にも配慮して解釈すべきものといえる。そして,同法34条1項により原状回復等が命ぜられた場合には,その費用はこれを命ぜられた者の負担となり(同条2項参照),かつ,当該原状回復等に関しては損失の補償に関する規定も適用されない(同法64条1項参照)と解されるから,原状回復等が命ぜられた者の財産的な負担は重大なも 命ぜられた者の負担となり(同条2項参照),かつ,当該原状回復等に関しては損失の補償に関する規定も適用されない(同法64条1項参照)と解されるから,原状回復等が命ぜられた者の財産的な負担は重大なものとなり得ることや,その反面,当初から同法20条3項の許可を受けずに行為をした者と異なり同項の許可を受けてその行為を行った者は,仮に同項による許可をすべきでない場合であったとしても,一般に帰責性がないか小さいというべきであること,同法20条1項により環境大臣等が特別地域を指定した時に既に着手していた行為は引き続き行うことができる(同条6項前段)など,同条3項による行為規制は,特 別地域内における財産権の行使に対して絶対的に優越されるものとまではされていないことなどを考慮すると,同法34条1項が,当該行為を行った時点において同法20条3項の許可を受けていた者について,当該許可が取り消された場合に,その許可が有効であることを前提としてされた当該行為が事後的に無許可行為となるとして,原状回復等の命令の対象とする趣旨であると解することはできない。そうすると,同法34条1項の原状回復等の命令を発する上で,同法20条3項の許可の存在が法的障害となっているものとはいえない。 以上のとおり,原告の指摘する諸点を検討しても,自然公園法20条3項の許可は,その許可に係る行為の完了後においてもその取消しによって除去される法的効果を有しているとは認められず,当該許可にそのような法的効果が付与されていることをうかがわせる他の事情も見当たらない。 ウさらに,自然公園法20条3項の許可が取り消された場合に行為者が当然に原状回復義務を負うこととなり,あるいは行政庁等において原状回復等を命ずることが法的に義務付けられることとなるなど,当該許可の取消しに国民の権 園法20条3項の許可が取り消された場合に行為者が当然に原状回復義務を負うこととなり,あるいは行政庁等において原状回復等を命ずることが法的に義務付けられることとなるなど,当該許可の取消しに国民の権利利益を救済するための法的効果が付与されていることをうかがわせる法令上の根拠その他の事情も存しない。 エしたがって,自然公園法20条3項の許可に係る同項1号の工作物の新築工事が完了した場合には,当該許可の取消しを求める法律上の利益は失われるものというべきである。 オ以上によれば,本件許可処分については,その許可に係る駐車場及び車路の新築工事が完了している以上,原告においてその取消しを求める法律上の利益は失われたものというべきである。 (3) よって,本件においては,原処分である本件許可処分が取り消されることについての法律上の利益は失われているから,本件裁決の取消しを求める本件訴えは訴えの利益を欠くものといわざるを得ず,不適法な訴えというべき である。 2 以上の次第で,本件訴えは不適法であるから却下することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官古田孝夫 裁判官大畠崇史 裁判官古屋勇児
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