平成13(わ)616 殺人,有印私文書偽造,同行使,詐欺,窃盗

裁判年月日・裁判所
平成14年7月31日 和歌山地方裁判所
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判決文本文5,101 文字)

主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 押収してある払戻請求書1枚(平成14年押第9号の1)の偽造部分を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,かつては妻子らと共に大阪などに居住し,一時期は暴力団員として活動し,職を転々としていたが,平成5,6年ころから和歌山市内のホストパブで働き始め,店の客であったAと知り合い,交際を始めた。 平成6年ころ,被告人は,和歌山県内に家を借りて妻子を呼び寄せる一方で,Aと情交関係を持ち,平成7年春には仕事を辞めてAのもとで暮らし始め,また,同年6月ころ,Aが保険金等約6000万円の遺産を相続したことから,以来,仕事に就かず,Aの遺産収入に頼る生活となり,妻子の生活費をもAに負担させていた。 ところが,Aは,遺産を相続したころから被告人に妻との離婚を迫るようになり,しばしば被告人と言い争いになったほか,同年8月ころには,被告人が妻子のもとに戻っている間に自殺を図る騒ぎを起こした。また,平成8年ころから,Aの言動はさらにエスカレートしていき,酒を飲んではしつこく被告人に妻との離婚を迫り,被告人を足で蹴ったり,物を投げたり,ときには台所の包丁を投げつけるなど,ヒステリー状態になることがあった。 被告人は,このようなAに常日頃から金銭面も含めてがんじがらめにされているという意識を持っていたものの,Aと別れる意思まではなく,かといって妻と離婚する意思もなかったため,Aに対し,曖昧な返事を繰り返し,かつ,同年9月下旬ころ,その場しのぎの逃げ口上でクリスマスイブに入籍する約束をしてしまった。 そうした中,当時,被告人らがブティックの開店に向けて業者に注文していた店 対し,曖昧な返事を繰り返し,かつ,同年9月下旬ころ,その場しのぎの逃げ口上でクリスマスイブに入籍する約束をしてしまった。 そうした中,当時,被告人らがブティックの開店に向けて業者に注文していた店のロゴ入り紙袋が開店日に間に合わなくなったため,同年10月3日ころ,被告人がAにその旨打ち明けたところ,Aは怒って,「役立たず。能なし。男のくせに満足にそんなこともできやんのか」などと被告人の不手際を罵り,翌4日ころの夜にも再びAは前記紙袋の件で被告人に罵声を浴びせ,その後1人で2階の寝室に上がって寝てしまった。 被告人は,同月5日ころの深夜,目が覚めてベッドで眠っているAの横に座っているうち,前夜,ブティックの紙袋の件でAに罵られたことを思い出して再び腹が立つとともに,金銭面も含めてAにがんじがらめにされているという意識をますます強くし,さらに,クリスマスイブに入籍すると言った言葉が嘘だと分かれば,Aはヒステリーを起こし,妻にまで暴力を振るって怪我をさせるのではないかなどと思いを巡らせるうち,追いつめられた気分になり,Aの束縛から逃れるにはAを殺害するしかないと決意するに至った。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成8年10月5日ころ,和歌山市ab番地のc所在の当時の被告人らの居宅において,殺意をもって,ネクタイを持ち出してベッドで眠っているA(当時29歳)の頸部に巻き付け,その両端を左右に強く引っ張って絞め付け,よって,そのころ,同所において,Aを窒息死させて殺害し,第2 不正に入手したA名義の株式会社B銀行C支店発行の定期積金通帳(口座番号D)及びA名義の印鑑を使用して,定期積金解約名下に金員を詐取しようと企て,同年11月8日,同市de丁目f番地所在のブティックE店内において,行使の目的をもって,ほしいままに,前記B銀行C支店係員 D)及びA名義の印鑑を使用して,定期積金解約名下に金員を詐取しようと企て,同年11月8日,同市de丁目f番地所在のブティックE店内において,行使の目的をもって,ほしいままに,前記B銀行C支店係員であるF(当時27歳)が持参した払戻請求書のおなまえ欄に「A」と記載し,その名下に「A」と刻した印鑑を押捺し,もって,A作成名義の払戻請求書1通(平成14年押第9号の1)を偽造し,即時同所において,前記Fに対し,前記偽造にかかる払戻請求書1通をあたかも真正に成立したもののように装って,前記通帳とともに提出行使して,定期積金12万円の解約を請求し,Fをして,正当な権利者による解約請求と誤信させ,よって,同月11日,前記E店内において,定期積金解約名下にFから現金12万0151円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させ,第3 不正に入手したA名義のキャッシュカードを使用して, 1 平成8年11月26日午後1時48分ころ,和歌山県那賀郡g町hi番地のj所在の前記B銀行H支店I出張所において,同所に設置された現金自動預入支払機から,同支店長J管理にかかる現金30万円を窃取し, 2 平成9年1月8日午後2時11分ころ,和歌山市k町l丁目m番地所在の前記B銀行K支店L出張所において,同所に設置された現金自動預入支払機から,同支店長M管理にかかる現金50万円を窃取し, 3 同年2月6日午後4時55分ころ,同市de丁目n番地所在の株式会社N銀行O支店において,同所に設置された現金自動預入支払機から,同支店長P管理にかかる現金20万円を窃取し, 4 同年3月9日午後0時28分ころ,同市op丁目q番地所在の前記B銀行本店営業部において,同所に設置された現金自動預入支払機から,同店営業部長Q管理にかかる現金35万6000円を窃取したものである。 (証拠の標 午後0時28分ころ,同市op丁目q番地所在の前記B銀行本店営業部において,同所に設置された現金自動預入支払機から,同店営業部長Q管理にかかる現金35万6000円を窃取したものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法199条に,判示第2の所為のうち,有印私文書偽造の点は同法159条1項に,偽造有印私文書行使の点は同法161条1項,159条1項に,詐欺の点は同法246条1項に,判示第3の各所為はいずれも同法235条にそれぞれ該当するところ,判示第2の有印私文書偽造とその行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として最も重い詐欺罪の刑(ただし,短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で処断することとし,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役13年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中200日をその刑に算入し,押収してある払戻請求書1枚(平成14年押第9号の1)の偽造部分は,判示第2の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないものであるから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の事情) 1 本件は,被告人が,不倫関係にあった女性の首をネクタイで締めて殺害したという事案及び殺害後,Aの通帳やキャッシュカード等を使用して,預金解約名下に現金を詐取したり,現金自動預払機から計4回にわたって現金を窃取したという事案である。 2 不 首をネクタイで締めて殺害したという事案及び殺害後,Aの通帳やキャッシュカード等を使用して,預金解約名下に現金を詐取したり,現金自動預払機から計4回にわたって現金を窃取したという事案である。 2 不利な情状(1) 被告人は,かねてから,妻との離婚をしつこく迫るAに対し,金銭面も含めてがんじがらめにされているという束縛感を抱いていたところ,ブティックの紙袋の件でAから連日罵声を浴びせられたことがきっかけで,その束縛感をより強く意識するに至り,束縛から逃れるためにはAを殺害するほかないと決意して判示第1の犯行に及んだものである。 しかしながら,酒を飲んでは暴力を振るい,妻との離婚を迫るといった具合に被告人に対するAの態度がエスカレートしていったのは,被告人が,当初から妻と離婚する意思などなかったにもかかわらず,それを秘してAに曖昧な態度をとり続けてきたことに主たる原因があると認められるから,被告人にも責任があるというべきである。また,被告人は,Aの金銭的,精神的な束縛から逃れるにはAを殺害する以外に方法がないと考えたというが,それ以前に被告人が真剣にAと話合いを試みたり,Aから経済的に自立する努力をした形跡は窺われない。さらに,日頃のAは,被告人やその妻子の生活費を出し,被告人のために預金をしたり,車を買ってやるなど,被告人に献身的であった上,クリスマスイブに入籍するという被告人の言葉を聞いてからは,ヒステリーを起こして被告人に妻との離婚を迫ることもなくなり,被告人との結婚を楽しみにしていたものであり,これらの事情に照らせば,被告人が,ブティックの紙袋の件でAに罵声を浴びせられたという些細な事で腹を立て,Aにがんじがらめにされているなどと一方的な被害者意識を持ち,さらに,入籍すると言った自らの嘘が発覚することを恐れてAの殺害という方法を選 の紙袋の件でAに罵声を浴びせられたという些細な事で腹を立て,Aにがんじがらめにされているなどと一方的な被害者意識を持ち,さらに,入籍すると言った自らの嘘が発覚することを恐れてAの殺害という方法を選んだことは,極めて身勝手かつ短絡的というほかなく,その動機に酌量の余地はない。 (2) 被告人は,確定的殺意をもって,眠っているAの首にネクタイを巻き付け,両手でその両端を左右に引っ張ってその首を締め付け,Aが目を覚ましてネクタイを取り外そうとし,また,被告人に向かって「なんで」などと問いかけるや,すぐさまAに馬乗りとなり,ネクタイの両端を左右の手のひらに巻き付けた上,さらに強く左右に引っ張り,ネクタイを掴んでもがき苦しんでいるAの首を絞め続けて窒息死させたもので,判示第1の犯行態様は冷酷かつ残忍である。 (3) また,被告人は,Aを殺害後,犯行発覚を防ぐために遺体を借家の庭に埋めた上,Aの親族や友人に対し,Aは家出して別の男のところに行ったなどと虚言を弄し,すぐまた複数の別の女性と不倫の交際をしながら,約5年間にわたり,何食わぬ顔で社会生活を営んでいたものであり,また,その間,臆面もなく,判示第2及び第3のとおり,Aの預金を解約したり,口座から現金を引き出しては自己の生活費や遊興費の支払いに充てていたもので,殺害後の言動からは罪の意識といったものが微塵も感じられない。また,被告人は,遺族らに対し,いまだ何ら慰藉の措置を講じておらず,被害弁償もしていない。 (4) Aは,クリスマスイブに入籍するという被告人の詐言を信じ,被告人との結婚を心から楽しみにしていたものであり,信じていた者に裏切られ,29歳という若さで突如その命を奪われた無念さは察するに余りある。また,親族を殺害された遺族の悲しみや悔しさは計り知れず,遺族らの被告人に対する処罰感情には ていたものであり,信じていた者に裏切られ,29歳という若さで突如その命を奪われた無念さは察するに余りある。また,親族を殺害された遺族の悲しみや悔しさは計り知れず,遺族らの被告人に対する処罰感情には厳しいものがあり,被告人に対して厳罰を望んでいる。 (5) 以上に照らせば,被告人の刑事責任は重い。 3 有利な情状しかし他方,被告人はかねてからAに束縛感を抱いてはいたものの,殺害を計画したことはなく,本件は,ブティックの紙袋の件でAに罵声を浴びせられたことがきっかけで思い詰めた半ば偶発的犯行であること,被告人は,事実を素直に認めて反省しており,被告人の自供が死体の発見や殺人事件の立件につながっていること,拘置所で数珠の差し入れを受け,毎日手を合わせてAの冥福を祈っていること,被告人の妻が被告人の帰りを待つと述べていること,被告人には罰金前科があるのみであることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 4 以上を総合すれば,被告人に対しては主文の刑が相当である。 平成14年7月31日和歌山地方裁判所刑事部裁判長裁判官小川育央 裁判官丸山徹裁判官藤本ちあき・

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