令和5(わ)250 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月17日 甲府地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93418.txt

判決文本文3,423 文字)

- 1 -令和6年7月17日宣告令和5年(わ)第250号殺人被告事件 主文 被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中250日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和5年7月20日午前3時18分頃から同日午前4時36分頃までの間に、山梨県山梨市(住所省略)所在のA方において、同人(当時49歳)に対 し、殺意をもって、その頸部をロープで締め付け、よって、その頃、同所において、同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人が実母を殺害した事案である。 2 被告人は、後述するような経緯で、本件犯行日の半年以上前に被害者の殺害を 考え始め、本件犯行日の約2日前には被害者殺害の道具としてロープと包丁を購入して準備し、本件犯行当日には、被害者が寝ているため抵抗されないことや、他者からの妨害が入らないことを理由に、夜中の時間帯を狙って本件犯行に及んでいる。そして、被告人は、うつぶせの状態で寝ていた被害者に馬乗りになり、同人の首にロープを掛け、ロープを両手で引いて同人の首を絞め始め、被害者の 体が途中で仰向けになった後も、徐々に上がってきた被害者の腕が止まるまでの時間、同人の首を絞め続けた。被害者の甲状軟骨が骨折していたことに照らせば、被告人がロープを強い力で引いていたことがうかがわれる。 本件犯行態様が被害者を死亡させる危険性が相当高いものだったことは明らかである。また、本件犯行は、緻密なものとまではいえないにせよ、一定の計画性 を備え、強い殺害の意思に基づいたものというべきである(被告人が前記の首絞- 2 -め行為の後、被害者の死を確実なものにしようなどと考え 行は、緻密なものとまではいえないにせよ、一定の計画性 を備え、強い殺害の意思に基づいたものというべきである(被告人が前記の首絞- 2 -め行為の後、被害者の死を確実なものにしようなどと考えて、包丁で被害者の胸部、腹部等を複数回突き刺していることにも、被告人の被害者殺害に向けた意思の強さや被害者に対する感情の強さが現れているといえる。)。 3 本件犯行により、被害者の尊い命が奪われたという結果が重大であることはいうまでもない。被害者は、本件当時、個人で農業を営むなどして生活していた中 で、前触れもなく突然、理由もわからない状況で、息子から殺害されたのである。 被害者が感じたであろう無念さ、悔しさは相当のものであったと思われる。 4⑴ 被告人が本件犯行に至った経緯は概ね以下のとおりである。 被告人の実父は平成8年に被害者と離婚しており、その後、被害者と被告人は二人で生活していた。被告人は、幼少期から、被害者が飲み会をしている横 で自分が夕食を食べることが頻繁にあったことや、被害者の交友関係や交際相手との交際状況、被害者からの激しい叱責があったことなどから、被害者のことを尊敬できない大人と捉え、また、逆らってはいけない人とも捉えていた。 被告人は、短大卒業後、就職して県外へ出ることに被害者から反対され、その後はアルバイトをするなどしながら生活していた。また、被告人は、従前から、 生きる理由はなく、長生きをする必要もなく、好きなことだけして、死にたくなったら死ねばいいなどと考えていた。 被告人が被害者方で同居していた令和4年12月31日の朝、被告人がアルバイト先に出勤しようとしたところ、被害者から猫の世話等が終わっていないなどとして怒鳴られた(ただし、この際被告人は被害者から暴力は振るわれて いない。)。被告人が 月31日の朝、被告人がアルバイト先に出勤しようとしたところ、被害者から猫の世話等が終わっていないなどとして怒鳴られた(ただし、この際被告人は被害者から暴力は振るわれて いない。)。被告人が同日、出勤後にスマートフォンを確認したところ、被害者から「二度と家に近づくな」、「家に近づけば警察を呼ぶ」、「野垂れ死んでも知らない」などという旨のLINEのメッセージを送付されていたことに気付いた。同日夜、被告人がアルバイト先での勤務を終えて被害者方に帰宅した際、家の中に全く明かりがついていないことを外から確認した。被告人は、 家の鍵を持っていたものの、幼少期から同様に家を閉め出された経験を有して- 3 -いたため、被害者がこのような態度をとるときは、一晩自分を閉め出しておいて、翌朝自分が謝罪をするまで話さないつもりだと捉えた。被告人は、公衆トイレで一晩を過ごす中で、寒さ等で自分が凍死する可能性が頭に浮かび、被害者が自分の死を願っていると考え、自分が死ぬ原因が被害者であることに憤りや強い反発を覚えた。また、被告人は、自分が生きないのであれば、自分が生 きるための手段としての被害者も生きている必要はないなどと思い、被害者を殺してから自分も死ぬということを考えるに至った。その後、被告人は被害者方から出て、アルバイトを続けながらネットカフェで生活するようになった。 令和5年5月、被害者が被告人の勤務先に電話をかけてきたことなどをきっかけとして、被告人はアルバイト先も辞めてしまった。その後、被告人は、消費 者金融から借入れをするなどしながら生活してきたが、手持ちの現金が乏しくなってきたことなどから、本件犯行を実行する決意を固めた。 ⑵ このような本件犯行に至った経緯に照らし、被告人の意思決定を非難し得る程度等について検討する。 生活してきたが、手持ちの現金が乏しくなってきたことなどから、本件犯行を実行する決意を固めた。 ⑵ このような本件犯行に至った経緯に照らし、被告人の意思決定を非難し得る程度等について検討する。 前記のような被告人の幼少期からの養育環境に照らして、本件犯行に至るま での被告人の思考等にその影響が及んでいたことを否定することはできない。 しかし、被害者は、被告人に短大を卒業させるなど一定の養育環境を提供しているといえる。また、令和4年12月31日の閉め出し等の出来事をきっかけとして、被害者の殺害を考えるに至ったという被告人の思考過程にも飛躍が多いというほかない。そもそも、被告人は本件犯行当時29歳であり、一定の 社会生活を営む能力を有し、大人としての分別を求められる年齢であったにもかかわらず、令和4年12月31日以降、本件犯行までの半年以上もの期間、被害者の下から離れて生活し、落ち着いて考えることや、周囲に相談をすることなどの他の手段を検討することなく、被害者に対する混然一体とした感情にとらわれ、被害者の殺害に固執し続けた結果、本件犯行に及んでいるといえる。 そうすると、本件犯行に至るまでの経緯をみる中で被告人の過去の養育環境- 4 -を考慮し得るとしても、それには限度があり、被告人の意思決定は、基本的には自分本位で身勝手なものとして、相応の非難を免れない。 5 これらの事情を踏まえると、本件は、同種事案(親を被害者とする、凶器等を用いた殺人の単独犯であり、同種の罪の件数が1件で、量刑上考慮した前科がなく、処断罪名と異なる主要な罪もなく、減軽事由なし)の量刑傾向に照らして重 い部類に属するといえる。 6 被告人の更生等に関係する事情についても検討する。 被告人は、公判廷において、被害者を殺害したことについて罪 主要な罪もなく、減軽事由なし)の量刑傾向に照らして重 い部類に属するといえる。 6 被告人の更生等に関係する事情についても検討する。 被告人は、公判廷において、被害者を殺害したことについて罪悪感はないと述べており、反省の態度は見受けられない。また、被告人の友人やアルバイト先関係者らが情状証人として出廷するなどして今後の援助を申し出るなどしてい るものの、被告人自身が周囲の人からの支援を受ける意思を示しているとはいえない。 7 以上の事情を踏まえると、被告人に対しては、主文のとおりの刑に処し、自分の犯した罪の重さと向き合い、自分を見つめ直す期間を与えるのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑・懲役16年、弁護人の科刑意見・懲役8年)令和6年7月17日甲府地方裁判所刑事部 裁判長裁判官三上潤 - 5 -裁判官松本恭平 裁判官髙橋自

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る