主文 一本件控訴をいずれも棄却する。 二控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨一原判決を取り消す。 二被控訴人は、三重県に対し、四二九〇万円及びこれに対する平成八年三月一九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。 三訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。 四仮執行宣言第二事案の概要一本件は、三重県が指名競争入札により発注した工事に関し、被控訴人が談合により落札をして請負契約を締結した行為が違法であるとして、地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づき、三重県に代位して、被控訴人に対し、損害賠償を請求した事案であるが、その概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二事案の概要」に摘示されたところと同一であるから、これを引用するほか、後記「二当審における控訴人の主張」のとおりである。 二当審における当事者の主張(控訴人) 1 原判決は、怠る事実の是正を求める監査請求であっても、当該監査請求が、当該地方公共団体の長・職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産管理を怠るものであるとき(以下「不真正怠る事実」という。)は、当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法二四二条二項の期間制限の適用があるとした昭和六二年二月二〇日最高裁判決を引用し、本件監査請求は、不真正怠る事実に該当するから、同条二項の期間制限の適用があると判断した。しかしながら、同判決は、町長が不当に低廉な価格で町有地を売却した事案に関するもので、町長と買い手の双方に責任が発生している事例であって、本件にそのまま妥当するものではない。 そもそも、同条一項の「当該行為」は長・職員が違法な財務会計上の行 格で町有地を売却した事案に関するもので、町長と買い手の双方に責任が発生している事例であって、本件にそのまま妥当するものではない。 そもそも、同条一項の「当該行為」は長・職員が違法な財務会計上の行為をした場合に限られ、本件のように長・職員が談合であることを知らずに請負契約を締結した場合は、長・職員は違法行為をしていないのであるから、「当該行為」に当たらず、不真正怠る事実とはいえず、同条一項の「怠る事実(真正怠る事実)」にのみ該当するから、同条二項の期間制限の適用はないと解すべきである。 また、原判決は、右違法は客観的違法であり、長・職員の故意過失を問わないとしているが、地方自治法二四二条一項の文理上「財務会計上の違法」は、長・職員の積極的な違法行為と解すべきであるし、学説においても長・職員以外の違法で足りるとしているものはないから、同条の解釈を誤ったものである。 2 昭和六三年四月二二日最高裁判決の「正当な理由の有無は、特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求したかどうかによって判断すべき」ことを前提とするとしても、談合に関する監査請求の場合の「相当な期間」は、次の理由から少なくとも六か月と解すべきである。 (一) 本件工事の特定に調査を要すること。 平成七年八月九日の前記新聞記事はいずれも抽象的である。中日新聞(乙五号証)は平成三年三月から同六年三月までの間に「東京都、愛知、三重、長野県など全国の自治体や企業団計一八団体が発注した二七件の工事が対象になった。」と報道しているにとどまり、伊勢新聞(乙六号証)は「三重県や名張市をはじめ、全国の自治体などが発注する上水道施設の計装 野県など全国の自治体や企業団計一八団体が発注した二七件の工事が対象になった。」と報道しているにとどまり、伊勢新聞(乙六号証)は「三重県や名張市をはじめ、全国の自治体などが発注する上水道施設の計装設備工事をめぐり」と報じているが、本件工事が特定されて報道されているわけではなく、他の新聞は三重県の工事が対象とされたかどうかさえ報じていない。この点で前記昭和六三年四月二二日最高裁判決とは事案を異にするのである。 控訴人らは、同年九月三〇日に本件課徴金納付命令についての文書(甲一号証)を入手して初めて本件工事において談合がなされたことを知ったのであるが、同年一〇月八日に三重県企業庁に対し、本件入札結果調書(甲四号証)、工事請負契約書(甲五号証)等の公文書公開を請求し、同月二六日にこれらが公開されて初めて本件工事の特定ができたのである。 (二) 本件入札が談合の結果によることの調査を要すること。 本件入札結果調書(甲四号証)の公開により、入札参加者は本件課徴金納付命令を受けた四社以外に、同命令を受けていない四社が参加していることが判明し、これらの者が談合に加わっていたか否かを認定する必要があり、同年一二月に控訴人代理人らが公正取引委員会等に出向いて調査した結果ようやく積極の心証を得ることができたのである。 (三) 損害立証の調査を要すること。 談合が摘発されても、住民訴訟をする場合、損害の立証が不可欠である。 しかし、「談合なかりせば形成されたであろう価格」は現実には存しない価格であるから、その立証は容易ではない。そこで、この点について法的な検討をする必要があった。 (四) 地方自治体が談合による損害賠償請求をするについては、通常九か月から一三か月を要しており、本件でも三重県の動向を見極める必要があった。 (被控訴人)控訴人の右主張はいず する必要があった。 (四) 地方自治体が談合による損害賠償請求をするについては、通常九か月から一三か月を要しており、本件でも三重県の動向を見極める必要があった。 (被控訴人)控訴人の右主張はいずれも争う。 第三当裁判所の判断一当裁判所も、控訴人らの本訴請求は適法な監査請求を経ない訴えであるから不適法であり、これを却下すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり削除・訂正のうえ、原判決の「事実及び理由」の「第三本案前の抗弁に対する当裁判所の判断」の「一」の説示を引用するほか、後記「二付加する判断」のとおりである。当審における証拠調べの結果も右の認定判断を左右するには足りない。 1 原判決二九頁五行目の「本件訴えも違法」を「本件訴えは不適法」と改める。 2 同四五頁三行目から同四行目にかけての「中日新聞又は伊勢新聞若しくは」を削る。 二付加する判断 1 控訴人らは、地方自治法二四二条一項の違法な財務会計行為(当該行為)は長・職員が違法な財務会計上の行為をした場合に限られ、本件のように長・職員が談合であることを知らずに請負契約を締結した場合は、職員は違法行為をしていないのであるから、「当該行為」に当たらず、不真正怠る事実ではなく、同条一項の文理上も「財務会計上の違法」は、長・職員の積極的な違法行為と解すべきであるし、学説においても長・職員以外の違法で足りるとしているものはないから、同条一項の「怠る事実(真正怠る事実)」にのみ該当するのであって、本件監査請求には同条二項の期間制限の適用はない旨主張する。 控訴人らの右主張は、長や職員等の主観的事情(知不知、あるいは、故意過失)によって怠る事実と不真正怠る事実とを区別しようとする見解であるが、前記認定のとおり(原判決引用)、控訴人らの請求原因を前提とすれば、談合に基づく入札は違法であ 的事情(知不知、あるいは、故意過失)によって怠る事実と不真正怠る事実とを区別しようとする見解であるが、前記認定のとおり(原判決引用)、控訴人らの請求原因を前提とすれば、談合に基づく入札は違法であり、違法な入札を前提とする本件請負契約も違法であるというべきところ、このように財務会計上の行為が法規に反し、これに基づき実体法上の請求権が発生している場合において、その有無の判断に困難を伴うことの多い長や職員等の主観的事情によって住民監査請求の請求期間が左右されると解するのは、法的安定性を損なうものであって、相当ではない。地方自治法は、同条一項において、住民主導による地方財政の健全化を目的として住民監査請求の制度を設ける一方、同条二項において、財務会計上の行為につき住民がいつまでもその行為の効力を問題にし得る状態にしておくことが法律関係の早期安定の見地から好ましくないとの趣旨で住民監査請求を期間的に制限したのであるが、そのことは十分合理性を有し、首肯できるところである。そして、住民監査請求が右期間を徒過した場合には、同項ただし書の正当な理由の有無によりその適法性が判断できるように配慮されているのである。 以上からすると、同項の「違法」は客観的に判断さるべきものであり、法規に反する財務会計上の行為により実体法上の請求権が発生した場合、その請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求については、地方自治体の長・職員が自ら違法行為を行ったか否かにかかわらず、あるいは、長・職員の主観的事情にかかわらず、右法規に反する財務会計上の行為の時を基準として同項の期間制限が課されると解すべきである。 したがって、右と異なる見解に立つ控訴人らの主張は採用できない。 2 「正当な理由」判断における「相当な期間」について(一) 控訴人らは、本件工事 として同項の期間制限が課されると解すべきである。 したがって、右と異なる見解に立つ控訴人らの主張は採用できない。 2 「正当な理由」判断における「相当な期間」について(一) 控訴人らは、本件工事の特定、本件入札が談合の結果によること及び損害立証に調査を要することを理由として、談合に関する監査請求の場合の「相当な期間」は少なくとも六か月と解すべきであると主張する。たしかに、工事の特定、入札が談合の結果によること及び損害立証を調査したうえで監査請求するのが望ましい一つのあり方であることは控訴人らの主張するとおりである。しかしながら、監査請求においては、その対象を客観的に特定する必要があるとはいえ、控訴人らの主張するような調査が常に請求の要件とされているわけではないから、正当な理由の有無は、特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求したかどうかによって判断すべきものである。そうすると、本件における「相当な期間」は、次の理由から四か月を要することはないと判断される。 平成七年八月九日の前記新聞記事はいずれも本件工事が特定されて報道されているわけではないが、中日新聞(乙五号証)は「東京都、愛知、三重、長野県など全国の自治体や企業団計一八団体が発注した二七件の工事が対象になった。」と報道し、伊勢新聞(乙六号証)は「三重県や名張市をはじめ、全国の自治体などが発注する上水道施設の計装設備工事をめぐり」と報じており、他の新聞は三重県の工事が対象とされたかどうかを報じていないとはいえ、中日新聞や伊勢新聞を購読している住民は勿論、そうでない住民も相当な注意力をもってすれば、三重県が発注する上水道施 」と報じており、他の新聞は三重県の工事が対象とされたかどうかを報じていないとはいえ、中日新聞や伊勢新聞を購読している住民は勿論、そうでない住民も相当な注意力をもってすれば、三重県が発注する上水道施設工事が対象となっているかどうかについて疑いをもつことができ、新聞社や公正取引委員会に問い合わせることにより三重県が発注する上水道施設工事が対象となっていたことを知ることができたといわなければならない。 しかも、甲五五号証、六一号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、前記新聞報道に先立つ平成七年七月二九日ころ、「『下水道談合』に関する住民訴訟の提案」と題する書面に添付されていた課徴金納付命令の課徴金算定の基礎となった工事の一覧表を受領していたことが認められるところ、同一覧表はファクシミリ文書であり、送信元として公正取引委員会審査部の記載があったのであるから、控訴人らは、そのころには、課徴金納付命令がなされた後に公正取引委員会に問い合わせれば、課徴金算定の基礎となった工事の一覧表を入手することができることを知っていたものと認められ、控訴人らは、平成七年八月九日に、本件課徴金納付命令がなされたとの新聞報道に接すれば、公正取引委員会に問い合わせ、同委員会が一般に公表・配布していた本件課徴金納付命令の課徴金算定の基礎となった工事の一覧表を入手することにより、本件工事が、談合により不当に高い契約金額となっていたとの合理的疑いを持つことができたものと認められる。 控訴人らは、同年九月三〇日に本件課徴金納付命令についての文書(甲一号証)を入手して初めて本件工事において談合がなされたことを知ったと主張するのであるが、前記のとおり「正当な理由」は、知ることができたかどうかで判断すべきものであり、現実に知ったことを要するものではない。 次に、本件入札が談合 において談合がなされたことを知ったと主張するのであるが、前記のとおり「正当な理由」は、知ることができたかどうかで判断すべきものであり、現実に知ったことを要するものではない。 次に、本件入札が談合の結果によることの調査であるが、甲四号証、五号証、六一号証及び弁論の全趣旨によれば、前記報道から日をおかずして本件入札結果調書(甲四号証)、工事請負契約書(甲五号証)等の公文書公開を請求することができたこと、しかも本件では、右請求後二週間程度でこれらが公開されたことが認められることからすると、右調査に一か月以上の期間を要するとは認められない。なお、控訴人らは、本件入札結果調書(甲四号証)の公開により、入札参加者は本件課徴金納付命令を受けた四社以外に、同命令を受けていない四社が参加していることが判明し、これらの者が談合に加わっていたか否かを認定する必要があったところ、同年一二月に公正取引委員会等に出向いて調査した結果ようやく積極の心証を得ることができたと主張するが、公正取引委員会等に出向いて調査するについて三か月近くの右期間を要することを認めるに足りる証拠はない。 また、本件において、「談合なかりせば形成されたであろう価格」について法的な検討をすることはよいとしても、これを終えなければ監査請求ができないというものではないはずである。 したがって、この点に関する控訴人らの主張は採用できない。 (二) 控訴人らは、地方自治体も談合による損害賠償請求をするについては、九か月から一三か月を要しており、本件でも三重県の動向を見極める必要があることを理由として、談合に関する監査請求の場合の「相当な期間」は少なくとも六か月と解すべきであると主張する。 しかしながら、住民が監査請求の手続をとるのに相当と認められる期間は、地方自治体がする損害賠償請求権行使のた 合に関する監査請求の場合の「相当な期間」は少なくとも六か月と解すべきであると主張する。 しかしながら、住民が監査請求の手続をとるのに相当と認められる期間は、地方自治体がする損害賠償請求権行使のための準備とは自ずから別であり、また、控訴人らは三重県のどのような動向により監査請求が遅れたのかについて具体的な主張・立証をしていないし、三重県の対応が控訴人らの監査請求に影響したことを窺わせる証拠はないのであって、控訴人らの右主張も採用できない。 三よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第四部裁判長裁判官宮本増裁判官野田弘明裁判官永野圧彦
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