令和6年9月30日東京地方裁判所刑事第8部宣告令和6年特(わ)第79号政治資金規正法違反被告事件 主文 被告人を禁錮3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 【犯行に至る経緯】甲党に所属する現職の国会議員(以下「会員」という。)等で構成される政治団体であるA研究会(以下「A」ということがある。)においては、かねて、各会員に対し、毎年開催される政治資金パーティーに係るパーティー券の販売ノルマが原則と して割り当てられており、会員がそのノルマを超過して販売した額及び販売ノルマのない会員等が販売した額(以下、両者を合わせて「ノルマ超過分」という。)については、実際にノルマ超過分がAに納付された場合には、Aから会員等に対し手渡すなどして交付し(以下、この交付していた金銭を「還付金」という。)、ノルマ超過分の全部又は一部が会員等から納付されずその手元で留保されている場合には、 それをそのまま許容するという扱いをしていた(以下、このように会員等の手元に留保していた金銭を「留保金」という。)。Aにおいては、収支報告書の収入の項目のうち、政治資金パーティーによる会費収入額を記載する欄に、還付金及び留保金に相当する収入を含まない過少な金額を記載し、また、還付金や留保金はAから会員の資金管理団体等に対する寄附に当たるにもかかわらず、収支報告書の支出の項 目のうち寄附金・交付金額を記載する欄に、還付金及び留保金に相当する金額を除いた過少な金額を記載していた。 【罪となるべき事実】(以下、別表省略)被告人は、政治団体であるA研究会の代表者兼会計責任者であった者であるが、政治資金規正法12条1項により東京都選挙管理委員会を経て総務大臣に提出すべ いた。 【罪となるべき事実】(以下、別表省略)被告人は、政治団体であるA研究会の代表者兼会計責任者であった者であるが、政治資金規正法12条1項により東京都選挙管理委員会を経て総務大臣に提出すべ きA研究会の収支報告書につき、別表記載のとおり、A研究会の平成30年から令 和4年の各年の収入及び支出に関し、真実は、「政治資金パーティー開催日」欄記載の各日に開催した政治資金パーティーである「A研究会との懇親の集い」の会費収入額を含む各年の収入額及び各年の寄附金・交付金額を含む各年の支出額がそれぞれ少なくとも「実際額」欄記載のとおりであったにもかかわらず、遅くとも「提出日」欄記載の各日までに、東京都千代田区b町c丁目d番e号fビルのA研究会事 務所において、A研究会の各年分の収支報告書の「A研究会との懇親の集い」の会費収入額を含む各年の収入額及び各年の寄附金・交付金額を含む各年の支出額を記載すべき欄に、それぞれ「記載額」欄記載のとおりの虚偽の記入をし、「提出日」欄記載の各日に、「年」欄記載の各年分の収支報告書を東京都新宿区西新宿2丁目8番1号所在の前記選挙管理委員会を経て総務大臣に提出した。 【事実認定の補足説明】本件は、判示のとおり、被告人が、判示記載の各年分に係る収支報告書の収支の記載について、還付金及び留保金に相当する金額を控除した額を記載することで虚偽の記入をして提出したという事案であるところ、弁護人は、平成30年分(判示別表番号1)及び令和元年分(判示別表番号2)の各収支報告書記載の額のうち留 保金に係る収支について(収支の合計額は、平成30年分は2724万円、令和元年分は5372万円)、被告人は、その当時、留保金の存在自体を認識していなかったので、この部分については故意が認められず犯罪が成立 係る収支について(収支の合計額は、平成30年分は2724万円、令和元年分は5372万円)、被告人は、その当時、留保金の存在自体を認識していなかったので、この部分については故意が認められず犯罪が成立しない旨主張する。 しかし、政治資金規正法は、議会制民主政治の下における政治団体の機能等の重要性に鑑み、政治団体等により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に 行われるようにするため、政治団体に係る政治資金の収支の公開等の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与することを目的としている。そして、同法は、政治団体に係る政治資金の収支の公開を確保するため、まずもって、政治団体の会計責任者に対し、当該政治団体の年間の収入、支出その他法定された事項を記載した報告書を総務大臣等に提出することを義 務付けている。 このような政治資金規正法の目的や収支報告書の果たすべき役割からすれば、政治団体の会計責任者は、実態に即した真実の収入や支出等が記載された収支報告書を提出することが法律上当然に求められているというべきであり、同法は、このような観点から収支報告書の記載事項や添付書類を定めるとともに、提出懈怠や記載すべき事項の虚偽記入等について罰則を設けている。そうすると、収支報告書の虚 偽記入の罪は、その年の収支報告書に真実と異なる虚偽の記入をして提出すること自体により成立する犯罪であり、同罪の故意としても、収支報告書に真実に反した記入をすることの認識さえあれば足り、真実の収入や支出に反する記載の原因となる個別具体的な内容や金額についての認識・予見可能性までは要しないと解される。 被告人は、平成30年分及び令和元年分いずれについても、前任の会計責任者か ら引継ぎを受け、かねての慣例に 因となる個別具体的な内容や金額についての認識・予見可能性までは要しないと解される。 被告人は、平成30年分及び令和元年分いずれについても、前任の会計責任者か ら引継ぎを受け、かねての慣例に倣い、収支報告書に記載すべき政治資金パーティーの会費収入額のうち、還付金については記入しない扱いとなっていることを明確に認識した上で各収支報告書を提出しており、各年の収支報告書について真実と異なる虚偽の記入をしていることを認識していたことが明らかである。したがって、被告人の公判供述のとおり、その当時、被告人が留保金の存在自体を認識しておら ず、令和2年になってその存在を初めて認識したとしても、平成30年分及び令和元年分について判示のとおりの収支報告書に係る虚偽記入の故意に欠けることはなく、同罪が成立する。 【量刑の理由】本件は、長年国政の与党である甲党の最大派閥として、約99名 (令和5年12 月時点)もの現職国会議員を含む構成員が在籍し、毎年概ね3億円以上もの収支が取り扱われていた政治団体であるAの代表者兼会計責任者である被告人が、平成30年分から令和4年分までの各収支報告書に虚偽の記入をしたという事案である。 このような団体であるAにおいて、被告人は、従前特に発覚していなかったなどという理由から漫然と慣例に倣い、5年もの長期にわたって、会員等の利益のため に、ノルマ超過分を会員等に還付するなどして、実にAの実際の収支額の4割弱も の金額(5年分の総額にして収入につき合計約6億7500万円、支出につき合計約6億7600万円)を控除して、真実とは大きくかけ離れた虚偽の内容を記入して総務大臣に提出し続けた。しかも、被告人の公判供述によれば、令和4年分の収支報告書の作成に関しては、ノルマ超過分の還付継続についてAの幹 万円)を控除して、真実とは大きくかけ離れた虚偽の内容を記入して総務大臣に提出し続けた。しかも、被告人の公判供述によれば、令和4年分の収支報告書の作成に関しては、ノルマ超過分の還付継続についてAの幹部らで話し合われるなど、収支報告書の虚偽記入を止める契機を得たのに、結局、前年同様に収 支報告書の虚偽記入に至ったというのである。本件は、政治活動の公明・公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与するという政治資金規正法の目的をないがしろにする犯行であり、その結果、政治団体の政治活動や政治資金に対する国民の信頼を損ない、ひいては国民の政治不信を招き、大きな社会問題ともなった。本件による社会的影響の大きさは、看過できないものがある。 被告人は、Aの代表者兼会計責任者(内部的には事務局長)として、政治資金の収支の公開に資する収支報告書の記載に最終的な責任を負う重要な立場にあった。 就任当初は留保金を含め全貌を必ずしも把握していなかったといった事情があるとしても、その刑事責任は重いといわざるを得ない。 他方、被告人は、Aの代表者といえども、収支報告書の虚偽記入の前提となるノ ルマ超過分の処理についてはA会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあり、被告人自身の権限には限界があったことは否定できない。このほか、被告人が反省の態度を示していること、事件が広く報道されるなどして一定の社会的制裁を受けていること、前科前歴がないこと、訂正可能な令和2年から4年までの収支報告書について訂正がされていることなどといった被告人に有利な事情も考慮し、主文の とおりの量刑が相当であると判断した。 (求刑禁錮3年)令和6年10月2日東京地方裁判所刑事第8部 裁判長裁判官細谷泰暢 裁判官 とおりの量刑が相当であると判断した。 (求刑禁錮3年) 令和6年10月2日 東京地方裁判所刑事第8部 裁判長 裁判官細谷泰暢 裁判官菱川孝之 裁判官鍵谷蒼空
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